説明

超高強度セメント硬化体とその製造方法

【課題】有機繊維や鋼繊維を加えることなく曲げ強度の発現性に優れる低水結合材比の高強度水硬性硬化体、及び従来に比べて工程数の少ない高強度水硬性硬化体の製造方法を提供すること。
【解決手段】高強度水硬性硬化体及びその製造方法であって、アルミナセメント、及びシリカフュームをアルミナセメント100質量部に対して0〜67質量部の割合を含有する結合材、骨材、及び水を含有し、水結合材比が20%以下であるセメント組成物を、自転・公転方式のミキサーを用いて混練し、成形後に加熱養生してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野において使用される水硬性硬化体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐酸性、耐化学抵抗性に優れるセメントとして、アルミナセメントが使用されている。アルミナセメントは普通ポルトランドセメントに比べて初期強度の発現性に優れるが、水和物の相転移(コンバージョン)によって長期強度が低下するといった問題があった。相転移による強度低下は、水結合材比を低減することで抑制することができ、このような水硬性硬化体の製造方法としては、従来、材料を混練後に真空脱泡処理を行ない、成形後に100℃以上の温度で乾燥養生する方法が知られていた(例えば非特許文献1、特許文献1を参照)。
【0003】
【非特許文献1】坂井悦郎、大門正機、化学結合セラミックス:セメントコンクリートの新たな可能性、セラミックス、第23号、第11巻、pp.1069−1072(1988)
【特許文献1】特開平1−176260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の製造方法では、水結合材比が16重量%未満である材料の混練が困難であり、混練工程とは別に真空脱泡工程を設ける必要があった。また、曲げ強度の向上を図るため、有機繊維や鋼繊維を加える必要があった。
本発明の課題は、有機繊維や鋼繊維を加えることなく曲げ強度の発現性に優れる低水結合材比の高強度水硬性硬化体、及び従来に比べて工程数の少ない高強度水硬性硬化体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(1)アルミナセメントを含有する結合材、骨材、及び水を含有し、水結合材比が20%以下であるセメント組成物を、自転・公転方式のミキサーを用いて混練し、成形後に加熱養生してなることを特徴とする高強度水硬性硬化体であり、(2)前記結合材が、シリカフュームをアルミナセメント100質量部に対して0〜67質量部の割合で含有することを特徴とする前記(1)に記載の高強度水硬性硬化体であり、(3)前記加熱養生の温度が35℃以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の高強度水硬性硬化体であり、前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の高強度水硬性硬化体の製造方法を提供することである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、有機繊維や鋼繊維を加えることなく曲げ強度の発現性に優れる低水結合材比の高強度水硬性硬化体、及び従来に比べて工程数の少ない高強度水硬性硬化体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で使用する部や%は、特に規定のない限り質量基準である。
また、本発明でいうセメント組成物とは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。
【0008】
本発明で使用するアルミナセメントとは、主要成分としてCaO・Al2O3やCaO・2Al2O3、そして12CaO・Al2O3などのカルシウムアルミネートを含むセメントを指す。市販品では、例えば電気化学工業株式会社製の商品名「アルミナセメント1号」、「アルミナセメント2号」、及び「ハイアルミナセメント」、「アルミナセメントスーパー」、ケルネオス社製の商品名「セカール71」や「セカール80」、旭硝子株式会社製の商品名「アサヒフォンデュ」などを用いることができる。
【0009】
本発明で使用する結合材は、アルミナセメントのみの使用も可能であるが、流動性の改善を目的にシリカフュームを混和することが好ましい。
シリカフュームの混和量は、アルミナセメント100質量部に対して0〜67質量部であることが好ましく、より好ましくはアルミナセメント100質量部に対して3〜55質量部である。この範囲外では、結合材粒子の充填性が不良となり、曲げ強度や圧縮強度の向上が認められなくなるので好ましくない。
【0010】
本発明で使用する骨材は特に限定されるものではなく、川砂、砕砂、海砂、珪砂、石灰砂、砕石、石灰石等の通常、硬化体の製造に使用される材料のほか、シリカ、アルミナ、ムライト、炭化ケイ素等の酸化物、非酸化物系セラミックス、もしくは鉄粉、ステンレス粉等の金属骨材の使用も可能である。骨材の使用量は特に限定されるものではなく、結合材100質量部に対して50〜1,000質量部が好ましい。
【0011】
また、本発明の水硬性硬化体には、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、流動化剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、凝結調整剤、アルミナ微粉、石灰石微粉、酸化鉄微粉、ベントナイト等の粘土鉱物及びハイドロタルサイト等のアニオン交換体のうち、一種または二種以上を本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。また、本発明である高強度水硬性硬化体は、有機繊維や鋼繊維を加えることなくして曲げ強度を向上することができるが、さらに曲げ強度を向上するためにビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維、鋼繊維等の繊維状物質のうち一種又は二種以上を本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0012】
本発明の高強度水硬性硬化体を製造するには、自転・公転式ミキサーを用いて材料を混練してセメント組成物を製造することが必須である。本発明で使用する自転・公転式ミキサーとは、材料を挿入した容器に自転運動を加え、かつ容器を固定する支持体には自転運動の方向とは反対方向に公転運動を加えて混合するものである。このような自転と公転運動の組み合わせにより混合することで、セメント組成物にせん断応力が加わり、短時間で均一混合が可能になるほか、脱泡処理も同時に可能となる。市販品では、例えば株式会社シンキー社製の商品名「あわとり練太郎」などを用いることができる。また、練り混ぜ材料の分散性をよくするため、セメント組成物へ分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、低い水結合材比での作業性を確保するために、ポリカルボン酸系高性能減水剤を用いることが好ましい。
【0013】
本発明の高強度水硬性硬化体は、自転・公転式ミキサーを用いて混練した後、加熱養生(蒸気養生およびオートクレーブ養生)することにより、緻密でありかつ長期的な強度低下が生じない硬化体を短時間、かつ効率的に製造することができる。これは、本発明で使用するアルミナセメントの主成分であるCaO・AlやCaO・2Alの水和反応により生成する水和生成物として、高温安定型であるCAHが生成することに起因する。蒸気養生およびオートクレーブ養生の温度は特に限定されるものではないが、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。35℃より低い温度では、低温安定型であるCAH10やCAHが生成して相転移が生じ、製造した水硬性硬化体の強度安定性が確保できなくなるため好ましくない。また、オートクレーブ養生時の槽内圧力は5〜15atmが好ましい。さらに、最高温度での保持時間は特に限定されるものではないが、通常1〜6時間程度が好ましい。養生温度が前記範囲を下回ると、短時間で効率的に高強度水硬性硬化体を製造することができなくなる場合があり、前記範囲を上回ると不経済になる場合がある。また、供試体を20℃環境下で製造して1日間養生後、供試体を水中に沈めた状態で蒸気養生やオートクレーブ養生を実施することによって、硬化体の水和がより一層進行し、緻密で耐久性に優れる高強度水硬性硬化体を製造することが可能となる。
【0014】
本発明の高強度水硬性硬化体を製造する場合、水結合材比が20重量%以下であることが好ましい。より好ましくは18重量%以下であり、更に好ましくは15重量%以下である。水結合材比が20重量%より大きくなると、本発明の特徴である曲げ強度の向上が認められなくなるため好ましくない。
【0015】
以下の実施例に示されるように、本発明においては、曲げ強度に優れる高強度水硬性硬化体、及びその製造方法が提供される。使用される材料の種類、量等は、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で適宜変更し得るものである。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
結合材にアルミナセメント100質量部に対してシリカフュームを11質量部混和した結合材を使用し、表1に示す配合でセメント組成物を自転・公転式ミキサー(株式会社シンキー社製、商品名「あわとり練太郎」、AR−100型)を用いて調製した。調製後、ただちに20℃環境下で型枠に流し込み成形し、40℃環境下で7日間、湿空養生して供試体を作製した。結果を表1に示す。
【0017】
(使用材料)
アルミナセメント:電気化学工業株式会社製、商品名「アルミナセメント1号」、密度3.00g/cm、ブレーン値4,700cm/g
シリカフューム:ノルウェー産、密度2.29g/cm、BET比表面積19m/g
減水剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤、市販品
砂:セメント協会製、商品名「セメント強さ試験用標準砂」
水:水道水
【0018】
(測定方法)
圧縮強度:40℃環境下で7日間養生後、JIS R5201に準じて測定した。
曲げ強度:40℃環境下で7日間養生後、JIS R5201に準じて測定した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1より、水結合材比が20%以下であるセメント組成物を、自転・公転方式のミキサーを用いて混練して得た実験No.1−2〜1−4の実施例の水硬性硬化体は、圧縮強度及び曲げ強度が共に高いに対し、水結合材比が30%であるセメント組成物を用いた実験No.1−1の比較例の硬化体は、圧縮強度及び曲げ強度が低く、特に曲げ強度の発現性が十分でないことが分かる。したがって、水結合材比は20%以下とすることが好ましい。また、水結合材比が低くなる程、硬化体の曲げ強度の発現性に優れるから、水結合材比は15%以下とすることがより好ましい。
【0021】
(実施例2)
シリカフュームの置換率を変えたこと以外は、実施例1と同様に行なった。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2より、シリカフュームをアルミナセメント100質量部に対して0〜67質量部の割合で含有する結合材を用いた実験No.2−1、2−3、2−5、No.1−2〜1−4の実施例の硬化体は、圧縮強度及び曲げ強度が共に高いに対し、シリカフュームをアルミナセメント100質量部に対して67質量部を超える割合で含有する結合材を用いた実験2−2、2−4、2−6の比較例の硬化体は、圧縮強度及び曲げ強度が低く、特に曲げ強度の発現性が十分でないことが分かる。したがって、シリカフュームの含有量は、アルミナセメント100質量部に対して0〜67質量部とすることが好ましい。
【0024】
(実施例3)
養生温度を変えて養生91日後の圧縮強度と曲げ強度を加えて測定した以外は、実施例1と同様にして行なった。結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
表3より、養生温度が高い方が、硬化体の圧縮強度及び曲げ強度が高いことが分かるから、養生温度は、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。また、養生温度が40℃以上の場合、水結合材比が低くなる程、硬化体の曲げ強度の発現性に優れるから、水結合材比は15%以下とすることがより好ましい。
【0027】
以上の実施例に示されるように、アルミナセメントを含有する結合材、骨材、及び水を含有し、水結合材比が20%以下であるセメント組成物を、自転・公転方式のミキサーを用いて混練し、成形後に加熱養生してなる硬化体は、圧縮強度及び曲げ強度が共に高く、有機繊維や鋼繊維を加えなくても曲げ強度の発現性に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の高強度水硬性硬化体及びその製造方法は、主に土木・建築分野において使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメントを含有する結合材、骨材、及び水を含有し、水結合材比が20%以下であるセメント組成物を、自転・公転方式のミキサーを用いて混練し、成形後に加熱養生してなることを特徴とする高強度水硬性硬化体。
【請求項2】
前記結合材が、シリカフュームをアルミナセメント100質量部に対して0〜67質量部の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度水硬性硬化体。
【請求項3】
前記加熱養生の温度が35℃以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高強度水硬性硬化体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の高強度水硬性硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2009−62254(P2009−62254A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233953(P2007−233953)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月21日 社団法人 日本セラミックス協会発行の「2007年年会 講演予稿集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】