説明

距離センサ

【課題】位相方式の距離センサにおける適切な距離レンジへの切り替えを実現すること。また、適切な距離レンジの検出を可能とすること。更に、送信波と反射波との位相差の正確な検出を可能とすること。
【解決手段】距離センサ100は、送信信号Vを「参照信号」とし、受信信号Vを「計測信号」とする2位相ロックインアンプ20を有して構成され、この2位相ロックインアンプ20によって、送信信号Vと受信信号Vとの位相差φが算出される。そして、距離計測を行う際には、先ず、分周器4の分周比Nを最大値Nmaxに設定し、このときに算出した測定距離Lxに応じて分周器4の分周比Nを最適な分周比Nに変更した後、再度、測定距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信波と反射波との位相差に基づいて測定対象物までの計測距離を算出する距離センサに関する。
【背景技術】
【0002】
位相方式の距離センサでは、送信波と、この送信波が測定対象物で反射された反射波との位相差から、測定対象物までの距離を算出する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−86872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
位相方式の距離センサでは、送信波の周波数によって計測可能な最大距離(いわゆる「距離レンジ」)が決まる。具体的には、低周波数であるほど、波長が長いため、距離レンジが大きくなる。その一方、高精度に距離を計測するためには、送信波の周波数を高周波とする必要がある。つまり、測定対象物までの実際の距離によって、当該距離を測定可能であるとともに、測定精度が最も良いと思われる距離レンジは異なる。そこで、如何にして距離レンジを切り替えるか、また、如何にして適切な距離レンジを検出するかが問題である。
【0005】
また、位相方式の距離センサでは、高精度の距離測定のためには、送信波と反射波との位相差の検出を、より高精度に行う必要がある。しかし、空間を伝播する反射波には雑音(ノイズ)が重畳されている場合が多く、雑音除去が必要である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、位相方式の距離センサにおける適切な距離レンジへの切り替えを実現することである。また、第2の目的は、適切な距離レンジの検出を可能とすることである。更に、第3の目的は、送信波と反射波との位相差の正確な検出を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の形態は、
所定の基準周波数のクロック信号を分周する分周比を変更可能な分周器(例えば、図3の分周器4)を有し、前記分周器で分周された分周信号から送信波を生成して送信する送信部(例えば、図3の発光部6)と、
前記送信波の反射波を受信する受信部(例えば、図3の受光部8)と、
前記受信部で受信された前記反射波を、前記分周信号を用いて同期検波する同期検波部(例えば、図3の遅延回路22、及び、ミキサ24,26)と、
前記同期検波部により同期検波された信号から直流成分を抽出する直流成分抽出部(例えば、図3のLPF28,30)と、
前記直流成分抽出部により抽出された直流成分に基づいて、前記送信波と前記反射波との位相差を検出する位相差検出部(例えば、図3の制御部40)と、
前記分周器の分周比を変更制御することで、前記送信波の波長を変化させる分周比制御部(例えば、図3の制御部40)と、
前記位相差検出部により検出された位相差に基づいて、測定対象物までの計測距離を算出する距離算出部(例えば、図3の制御部40)と、
を備えた距離センサ(例えば、図3の距離センサ100)である。
【0008】
この第1の形態によれば、送信波と反射波との位相差に基づいて、測定対象物までの計測距離を算出する距離センサにおいて、所定の基準周波数のクロック信号を分周した分周信号から送信波が生成されるが、このクロック信号を分周する分周器の分周比が変更制御される。これにより、分周器の分周比を変更するだけで、送信波の周波数、すなわち距離レンジを簡単に変更できる。また、分周器の分周比のみを変更制御すれば良いため、送信波を生成するための発振器として、発振周波数が固定である1つの発振器のみで済む。
【0009】
また、第2の形態として、第1の形態の距離センサであって、
前記同期検波部と前記直流成分抽出部とで2位相ロックインアンプ回路(例えば、図3の2位相ロックインアンプ20)を構成し、
前記位相差検出部は、前記直流成分抽出部で抽出された2つの直流成分の正負の組合せと、当該直流成分とを用いて前記位相差を検出する、
距離センサを構成しても良い。
【0010】
この第2の形態によれば、分周信号を用いた反射波の同期検波、及び、同期検波された信号からの直流成分の抽出は、2位相ロックインアンプ回路を用いて実現される。これにより、雑音に強い、正確な位相差の検出が実現される。
【0011】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の距離センサであって、
前記受信部で受信された前記反射波の位相を補正する移相部(例えば、図5の移相回路12)を備えるとともに、
前記同期検波部は、前記移相部により移相された前記反射波を同期検波し、
所定の校正処理を実行する際に、前記位相差検出部により検出された位相差が所定の校正用位相差条件を満たすように、前記移相部の移相量を調整して距離計測を校正する構成制御部、
を備えた、
距離センサを構成しても良い。
【0012】
この第3の形態によれば、校正処理の実行によって距離計測の校正がなされることにより、より正確な距離計測が実現される。
【0013】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の距離センサであって、
分周比毎に当該分周比とした場合の計測に好適な好適距離範囲が予め定められており(例えば、図7の分周比切替テーブル44)、
前記分周比制御部は、前記分周比が、前記計測距離を含む前記好適距離範囲に対応する分周比となるように、前記分周比の変更制御と前記距離の算出とを繰り返し行う、
距離センサを構成しても良い。
【0014】
この第4の形態によれば、分周器の分周比毎に、当該分周比とした場合の計測に好適な好適距離範囲が予め定められており、分周比が計測距離を含む好適距離範囲に対応する分周比となるように、分周比の変更制御と距離の算出とが繰り返し行われる。つまり、算出された計測距離に応じて、好適と思われる距離レンジに変更される。
【0015】
また、第5の形態として、第4の形態の距離センサであって、
前記制御部は、前記分周比を変更可能な最大値に変更して前記計測距離を仮算出し、当該仮算出した計測距離を含む前記好適距離範囲に対応する分周比に変更して前記計測距離を算出する、
距離センサを構成しても良い。
【0016】
この第5の形態によれば、分周器の分周比を変更可能な最大値に変更して計測距離を仮算出し、この仮算出した計測距離を含む好適距離範囲に対応する分周比に変更して、再度、計測距離が算出される。すなわち、先ず、最大の距離レンジで仮計測を行った後、この仮計測での計測距離から、最適な距離レンジに変更して本計測を行う。これにより、効率よく適切な距離レンジを検出して計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】距離センサによる距離計測の概要図。
【図2】送信周波数による測定精度の違いの説明図。
【図3】距離センサの原理構成図。
【図4】算出される位相差と実際の位相差との対応関係。
【図5】距離センサの構成図。
【図6】位相差補正テーブルのデータ構成例。
【図7】分周比切替テーブルのデータ構成例。
【図8】分周比と好適距離範囲との対応関係の一例。
【図9】距離計測処理のフローチャート。
【図10】他の距離計測処理のフローチャート。
【図11】送信信号の半波長を超える距離の測定の説明図。
【図12】実際の距離が送信信号の半波長を超える場合の計測距離の補正の説明図。
【図13】他の距離計測処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、以下では、本発明を適用した光波距離センサについて説明するが、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0019】
[概要]
図1は、本実施形態における距離センサ100による距離計測の概要図である。この距離センサ100は、赤外線やレーザ光等の光波を用いた光波距離センサであり、位相方式によって測定対象物200までの距離Lを計測する。
【0020】
すなわち、図1(a)に示すように、光波である送信波を測定対象物200に向けて射出し、測定対象物200で反射された反射波を受信する。そして、図1(b)に示すように、この送信波と受信した反射波との位相差φから、測定対象物200までの距離Lを算出する。測定対象物200までの距離Lは、L=(C・φ/2πf)/2、と算出される。ここで、「C」は光速であり、C≒3×10m/s、である。
【0021】
また、送信波と反射波との位相差φから距離Lを算出するため、1つの送信周波数のみで距離Lを算出する場合には、位相差φは、送信周波数の1周期以内となる。このため、測定可能な最大距離Lm(いわゆる「距離レンジ」)は、理論的には、送信波の周波数fによって決まり、Lm=λ/2=C/(2・f)、となる。例えば、送信波の周波数を「50MHz」とすると、波長λは「6m」であり、測定可能な最大距離Lmは「3m」となる。
【0022】
また、位相方式の距離センサによる測定距離Lの算出精度は、送信波の周波数によって異なり、具体的には、送信波の周波数が高いほど、算出精度が良い。
【0023】
図2は、送信波の周波数の違いによる測定距離Lの算出精度の違いを説明するための図である。図中、上側は、周波数faの送信波及び受信波を示し、下側は、周波数faより高い周波数fb(=3・fa)の送信波及び受信波を示している。
【0024】
同じ距離Lを測定する場合、周波数fが異なると波長λが異なることにより、送信波と反射波との位相差φは異なる。具体的には、高周波であるほど、位相差φが大きくなる。図2では、周波数fbの場合の位相差φbのほうが、周波数faの場合の位相差φaよりも大きく、φb=3・φa、となっている。
【0025】
二つの信号の位相差φを検出する場合、その位相差φが小さいほど、その検出誤差が発生し易い。つまり、送信波の周波数fが低周波であるほど、位相差φの検出誤差が発生し易く、測定距離Lの算出精度が低下する。逆に言えば、送信波の周波数fが高周波であるほど、位相差φの検出誤差が発生しにくく、測定距離Lの算出精度が向上する。
【0026】
[原理]
図3は、本実施形態における距離センサ100の原理構成図である。図3に示すように、本実施形態の距離センサ100は、2位相ロックインアンプを用いて送信波と受信波との位相差φを検出するものであり、原理的には、発振器2と、分周器4と、発光部6と、受光部8と、BPF10と、2位相ロックインアンプ20と、制御部40とを備えて構成される。
【0027】
発振器2は、例えば、水晶振動子を有して構成され、基準周波数fの基準信号F1を生成する。
【0028】
分周器4は、発振器2から出力された基準信号F1の周波数fを1/Nに分周し、送信信号Vとして出力する。この分周器4の分周比Nは、「N=2(nは正数)」であり、制御部40によって変更制御される。
【0029】
発光部6は、例えば、レーザダイオード等の発光素子を有して構成され、分周器4から出力された送信信号Vの周波数で強度変調された光信号を、送信波として射出する。つまり、周波数が「f/N」の送信波が射出される。
【0030】
受光部8は、例えば、フォトダイオード等の受光素子を有して構成され、受光した光波を電気信号に変換し、受信信号Vとして出力する。
【0031】
BPF10は、受信信号Vに対して、所定帯域の信号を通過させ、帯域外の周波数成分を遮断する。このBPF10の中心周波数foは、受信信号Vから、送信波と同じ周波数である反射波の信号のみを抽出するため、制御部40によって、fo=f/N、に設定される。
【0032】
2位相ロックインアンプ20は、分周器4から出力される送信信号Vを「参照信号」とし、受信信号Vを「計測信号」として、受信信号Vを送信信号Vで同期検波(位相検波)し、直交する二つの直流信号X,Yを出力する。この2位相ロックインアンプ20は、原理的には、遅延回路22と、ミキサ24,26と、LPF28,30とを有して構成される。
【0033】
遅延回路22は、送信信号V(参照信号)の位相を「π/2(90°)」だけ遅らせる。
【0034】
ミキサ24は、BPF10から出力された信号と、送信信号V(参照信号)とを乗算(合成)して出力する。ミキサ26は、BPF10から出力された信号と、遅延回路22から出力された信号とを乗算する。
【0035】
LPF28は、ミキサ24の出力信号に対して、所定の低帯域の信号を通過させ、帯域外の周波数成分を遮断する。このLPF28のカットオフ周波数fcは、制御部40によって、fc=f/2N、に設定される。
【0036】
LPF30は、ミキサ26の出力信号に対して、所定の低帯域の信号を通過させ、帯域外の周波数成分を遮断する。このLPF30のカットオフ周波数fcは、制御部40によって、fc=f/2N、に設定される。
【0037】
この距離センサ100において、発振器2が生成する基準信号F1を、F1=sin(ωt)、とすると、分周器4の出力信号、すなわち送信信号V(参照信号)は、V=sin(ωt/N)、となる。そして、遅延回路22の出力信号Dは、D=sin(ωt/N−π/2)=cos(ωt/N)、となる。
【0038】
また、送信信号Vと受信信号Vとの位相差を「φ」とすると、受信信号Vは、V=sin(ωt/N−φ)、となる。この受信信号Vは、そのまま、BPF10を通過する。
【0039】
そして、ミキサ24の出力信号MIX1は、次式(1)となる。
MIX1=sin(ωt/N)×sin(ωt/N−φ)
=−(cos(2ωt−φ)−cosφ)/2 ・・(1)
この信号MIX1は、LPF28を通過することで高周波成分が遮断される。そして、LPF28の出力信号Xは、X=(cosφ)/2、となる。
【0040】
また、ミキサ26の出力信号MIX2は、次式(2)となる。
MIX2=cos(ωt/N)×sin(ωt/N−φ)
=(sin(2ωt−φ)+sinφ)/2 ・・(2)
この信号MIX2は、LPF30を通過することで高周波成分が遮断される。そして、LPF30の出力信号Yは、Y=(sinφ)/2、となる。
【0041】
従って、これらの信号X,Yから、送信信号Vと受信信号Vとの位相差φは、式(3)となる。
φ=tan−1(Y/X) ・・(3)
【0042】
ところで、送信信号Vと受信信号Vとの実際の位相差φrは、「0≦φr<2π(360°)」である。しかし、上式(3)によって算出される位相差φは、「−π/2(−90°)≦φ≦π/2(90°)」の値である。このため、算出した位相差φを、実際の位相差φrとなるように補正する必要がある。具体的には、信号X,Yの正負の組み合わせによって、算出した位相差φを補正する。
【0043】
図4は、実際の位相差φrと信号X,Yの正負との関係を示す図である。図4では、横軸を送信信号Vと受信信号Vとの実際の位相差φrとして、信号X,Yそれぞれと、この信号X,Yから算出される位相差φと、実際の位相差φrとを示している。
【0044】
図4に示すように、「0≦φr<π/2(90°)」では、φ=φr、であるが、「π/2(90°)≦φr<2π(360°)」では、φ≠φr、となっている。具体的には、「π/2(90°)≦φr<3π/2(270°)」では、φ=φr−π(180°)、であり、「3π/2≦φr<2π」では、φ=φr−2π、となっている。このため、実際の位相差φrとなるよう、算出した位相差φを補正する必要がある。信号X,Yそれぞれの値の正負の組合せは象限毎に異なるので、この信号X,Yの値の正負の組合せから、必要な補正量Δφを判断する。
【0045】
[構成]
図5は、上述の原理構成を実現する距離センサ100の構成図である。図5によれば、距離センサ100は、発振器2と、分周器4と、発光部6と、受光部8と、BPF10と、移相回路12と、2位相ロックインアンプ20と、A/D変換部14と、制御部40とを備えて構成される。
【0046】
発振器2は、基準信号F1として、周波数fの方形波を発生する。
【0047】
移相回路12は、BPF10から出力された信号(受信信号V)の位相を変更する。この移相回路12による移相量θは変更可能であり、送信信号Vと受信信号Vとの位相ずれを調整する距離計測の校正処理によって決定される。
【0048】
校正処理は、例えば、距離Lが明らかな測定対象物に対する距離計測を行いながら、制御部40が移相回路12の移相量θを徐々に変化させ、算出される距離Lが実際の距離Lに一致するときの移相量θを探す処理である。この校正処理は、製品出荷前にメーカ側で実施することにしても良いし、販売後、校正を行う施設で定期/不定期に実施することにしても良いし、或いは、ユーザ側が実施することにしても良い。何れの場合も、制御部40が、算出される距離Lが正しい距離となるよう、移相回路12の移相量θを変更設定する。
【0049】
また、校正処理は、光波の発信/受信にかかる両者の遅延時間が補償されているのであれば、次のようにしてもよい。すなわち、発光部6に入力される送信信号Vを、受光部8の出力の直後に短絡可能な短絡回路を設ける。そして、制御部40が、校正処理の実行の際に、この短絡回路によって送信信号Vと受信信号Vとを短絡し、算出される計測距離Lがゼロになるよう、移相回路12の移相量θを調整・設定する。
【0050】
2位相ロックインアンプ20は、遅延回路22と、反転増幅器32と、PSD(Phase Sensitive Detecter)34,36と、LPF28,30とを有して構成される。
【0051】
反転増幅器32は、移相回路12から出力される信号の極性(正負のレベル)を反転する。
【0052】
PSD34は、送信信号V(参照信号)の極性に応じて接点を切り替えるスイッチ素子を有し、移相回路12の出力信号の非反転信号/反転信号を切り替えて出力する。LPF28は、PSD34の出力信号に対して、所定の低帯域の周波数成分を通過させ、帯域外の周波数成分を遮断する。
【0053】
PSD36は、遅延回路22の出力信号の極性に応じて接点を切り替えるスイッチ素子を有し、移相回路12の出力信号の非反転信号/反転信号を切り替えて出力する。LPF30は、PSD36の出力信号に対して、所定の低帯域の周波数成分を通過させ、帯域外の周波数成分を遮断する。
【0054】
A/D変換部14は、LPF28,30それぞれから出力される信号X,Yを、デジタル信号に変換する。
【0055】
制御部40は、CPU等の演算装置を有して構成され、測定対象物までの距離Lを計測する距離計測処理を実行する。この距離測定処理では、先ず、分周器4の分周比Nを、最大値Nmaxに設定する。また、設定した分周比Nに合わせて、BPF10の中心周波数foを設定するとともに、LPF28,30のカットオフ周波数fcを設定する。中心周波数foは、fo=f/N、で与えられ、カットオフ周波数fcは、fc=f/2N、で与えられる。
【0056】
次いで、測定対象物までの距離Lを測定する。すなわち、A/D変換部14から出力された信号X,Yをもとに、上式(3)に従って、送信信号Vと受信信号Vとの位相差φを算出する。続いて、信号X,Yの正負の組合せをもとに、位相差補正テーブル42に従って、算出した位相差φを補正する。
【0057】
図6は、位相差補正テーブル42のデータ構成の一例を示す図である。図6によれば、位相差補正テーブル42は、信号Xの値の正負42aと、信号Yの値の正負42bとの組合せそれぞれに、位相差φの補正量42cを対応付けて格納している。この位相差補正テーブル42は、制御部40内に記憶されている。
【0058】
そして、この位相差φから計測距離Lを算出し、初回測定距離Lxとする。計測距離Lは、L=(C・φ・N)/(2・ω)、で与えられる。初回計測距離Lxを算出すると、続いて、分周比切替テーブル44に従って、この初回測定距離Lxに対応する最適な分周比Nを判断する。
【0059】
図7は、分周比切替テーブル44のデータ構成の一例を示す図である。図7に示すように、分周比切替テーブル44は、距離センサ100に設定可能な分周比44aと、好適距離範囲44bとを対応付けて格納している。好適距離範囲44bを定める「e」は、測定距離Lに対して見込む誤差を表す誤差マージンであり、「0.0<e≦1.0」の値で、例えば距離センサ100の利用者によって任意に与えられる。例えば、誤差マージンe=0.9とは、測定距離Lに対して「10%(=0.1=1.0−0.9)」の誤差が含まれることを表す。この分周比切替テーブル44は、制御部40内に記憶されている。
【0060】
制御部40は、初回測定距離Lxが含まれる好適距離範囲に対応する分周比Nを、最適な分周比Nと判断する。そして、最適と判断した分周比Nに、分周器4の分周比Nを変更するとともに、変更後の分周比Nに合わせて、LPF28,30のカットオフ周波数fcを変更する。その後、測定対象物までの距離Lを再算出して、計測結果として出力する。
【0061】
ここで、分周比切替テーブル44で定められる「分周比N」と「好適距離範囲」の対応関係は、次のように決められる。図8は、分周比Nと好適距離範囲との対応関係の一例を示す図である。図8では、上から順に、誤差マージンe=1.0、誤差マージンe=0.9、誤差マージンe=0.5、のそれぞれの場合を示している。但し、設定可能な分周比Nは「N=1,2,4,8,16」であり、基準周波数fは「f1=50MHz」であるとする。
【0062】
図8に示すように、設定可能な分周比Nそれぞれに、互いに重ならない好適距離範囲が対応付けられる。この好適距離範囲は、分周比Nの距離レンジと、距離センサ100による測定距離に対して見込む誤差とに応じて定められる。
【0063】
すなわち、誤差を見込まない場合(誤差マージンe=1.0)、ある分周比Nに対応する好適距離範囲は、この分周比Nでの距離レンジを最大値とし、その一段階下の分周比N(=N/2)での距離レンジを最小値とする範囲として定められる。
【0064】
例えば、分周比N=16の距離レンジは「48m」であり、分周比N=8の距離レンジは「24m」である。従って、分周比N=16には「24〜48m」が好適距離範囲として対応付けられる。
【0065】
同様に、分周比N=8には、「12〜24m」が好適距離範囲として対応付けられ、分周比N=4には、「6〜12m」が好適距離範囲として対応付けられ、分周比N=2には、「3〜6m」が好適距離範囲として対応付けられ、分周比N=1には、「0〜3m」が好適距離範囲として対応付けられる。
【0066】
そして、誤差を見込む場合には、誤差を見込まない場合(誤差マージンe=1.0)での好適距離範囲の最小値及び最大値を、誤差を見込んだ値に変更した範囲となっている。
【0067】
例えば、測定距離Lに対して「50%」の誤差を見込む場合には(誤差マージンe=0.5)、分周比N=16(最大値Nmax)については、誤差を見込まない場合の好適距離範囲の最小値である「24m」に対して「50%」の誤差を見込んだ「12m(=24−24×0.5)」を最小値とする。すなわち、分周比N=16には、好適距離範囲として「12〜48m」が対応付けられている。
【0068】
その次に大きい分周比N=8(=16/2)については、分周比N=16の好適距離範囲と重ならないよう、好適距離範囲の最大値については、分周比N=16の最小値「12m」とし、最小値については、誤差を見込まない場合の最小値「12m」に対して、「50%」の誤差を見込んだ「6m(=12−12×0.5)」とする。すなわち、分周比N=8には、好適距離範囲として「6〜12m」が対応付けられている。
【0069】
同様に、分周比N=4には、好適距離範囲として「3〜6m」が対応付けられ、分周比N=2には、好適距離範囲として「1.5〜3m」が対応付けられ、分周比N=1には、好適距離範囲として「0〜1.5m」が対応付けられている。
【0070】
なおここで、誤差を見込んだ分周比Nと好適距離範囲との対応付けに、分周比Nの最大値Nmaxの好適距離範囲を優先させるのは、本実施形態における処理手順として、先ず、分周器4の分周比Nを最大値Nmaxに設定した後、最適な分周比Nを判断して変更するからである。
【0071】
[処理の流れ]
図9は、制御部40が実行する距離測定処理の流れを説明するフローチャートである。図9によれば、制御部40は、先ず、分周器4の分周比Nを、最大値Nmaxに設定する(ステップA1)。また、設定した分周比Nに合わせて、BPF10の中心周波数foを設定するとともに、LPF28,30それぞれのカットオフ周波数fcを設定する(ステップA3)。
【0072】
次いで、信号X,Yをもとに、送信信号Vと受信信号Vとの位相差φを算出し(ステップA5)、位相差補正テーブル42を参照して、信号X,Yの値の正負の組合せに応じて、この算出した位相差φを補正する(ステップA7)。そして、この位相差φをもとに、初回測定距離Lxを算出(仮算出)する(ステップA9)。
【0073】
続いて、分周比切替テーブル44を参照して、算出した初回測定距離Lxに対応する最適な分周比Nを判断する(ステップA11)。そして、最適と判断した分周比Nに、分周器4の分周比Nを更新するとともに(ステップA13)、変更後の分周比Nに合わせて、BPF10の中心周波数fo、及び、LPF28,30それぞれのカットオフ周波数fcを更新する(ステップA15)。
【0074】
その後、同様に、信号X,Yから送信信号Vと受信信号Vとの位相差φを再算出し(ステップA17)、算出した位相差φを補正し(ステップA19)、補正した位相差φをもとに、測定距離Lを再算出する(ステップA21)。
【0075】
[作用・効果]
このように、本実施形態の距離センサ100は、送信信号Vを「参照信号」とし、受信信号Vを「計測信号」とする2位相ロックインアンプ20を有して構成され、この2位相ロックインアンプ20によって、送信信号Vと受信信号Vとの位相差φが算出される。そして、距離計測を行う際には、先ず、分周器4の分周比Nを最大値Nmaxに設定し、このときに算出した測定距離Lxに応じて分周器4の分周比Nを最適な分周比Nに変更した後、再度、測定距離を算出する。これにより、測定対象物200までの実際の距離に応じた、適切な距離レンジの自動的な切り替えが実現される。また、2位相ロックインアンプ20によって位相差φが正確に検出され、高精度の距離計測が実現される。
【0076】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0077】
(A)分周比の切り替え
例えば、距離センサ100における分周器4それぞれの分周比Nの切り替えを、距離レンジを一段階ずつ下げるように変更することにしても良い。
【0078】
図10は、距離レンジを一段階ずつ下げるように分周比Nを変更する場合の距離計測処理のフローチャートである。図10に示すように、先ず、分周器4の分周比Nを、最大値Nmaxに設定するとともに(ステップB1)、この分周比Nに合わせて、BPF10の中心周波数fo、及び、LPF28,30それぞれのカットオフ周波数fcを設定する(ステップB3)。
【0079】
次いで、このときの信号X,Yから位相差φを算出し(ステップB5)、算出したφを、信号X,Yそれぞれの値の正負の組合せをもとに、位相差補正テーブル42に従って補正する(ステップB7)。そして、補正後の位相差φをもとに、測定対象物までの測定距離Lxを算出する(ステップB9)。
【0080】
そして、現在の分周比Nが「2」以上であり(ステップB11:YES)、且つ、算出した測定距離Lxが、現在の分周比Nに対応する好適距離範囲の最小値「(N/2)・Lmin・e」以下ならば(ステップB13:YES)、分周比Nを、一段階小さくするように変更する(ステップB15)。その後、ステップB3に戻り、同様に、測定対象物までの測定距離を再算出する。
【0081】
一方、現在の分周比Nが「1」となった場合(ステップB11:NO)、或いは、算出した測定距離Lxが、現在の分周比Nに対応する好適距離範囲の最小値「(N/2)・Lmin・e」より大きいならば(ステップB13:NO)、現在の分周比Nが好適な分周比Nであると判断して(ステップB17)、最後に算出した測定距離Lxを、測定結果として出力する。
【0082】
例えば、短い距離Lを計測する場合には、最大分周比Nmaxでの測定距離Lの算出誤差が大きいことが予想され、最適な分周比Nを誤って検出する可能性が生じ得る。そこで、このように距離レンジを一段階ずつ下げるように分周比Nを変更することで、最適な分周比Nの検出をより正確に行い、測定距離Lの算出誤差を軽減することができる。
【0083】
また更に、この場合、距離レンジを一段階ずつ下げるように分周比Nを変更しながら全ての距離レンジにおいて測定距離Lを算出することで、送信信号Vの半波長λ/2を超える距離Lについても測定することができ、より高精度な距離計測が実現される。
【0084】
図11は、送信信号Vの半波長λ/2を超える距離Lの測定を説明するための図である。図中、上側は、送信信号Vの周波数f1/Nを「周波数fa(波長λa)」とした場合を示し、下側は、送信信号Vの周波数f1/Nを、周波数faより高い「周波数fb(波長λb)」とした場合を示している。
【0085】
上述のように、送信信号と受信信号との位相差φから測定対象物までの距離Lを測定するため、算出される距離Lは、L<λ/2、となる。つまり、実際の距離Lsを測定する場合、上側に示すように、Ls<(λa/2)、のとき、算出される距離Lは「Ls」であるが、下側に示すように、Ls>(λb/2)、のときに算出される距離Lは「Ls−λb/2」となって正しくない。
【0086】
しかし、実際の距離Lsが送信信号Vtの半波長λ/2を超えない分周比Nの下限(送信信号Vの周期が反転しない限界分周比N)を判定することができるならば、この下限を下回る分周比Nでの測定距離Lについては、そのときの送信信号Vの波長λ/2分の距離を加算して補正することで、より正確な測定距離Lを算出することが可能となる。
【0087】
図12は、実際の距離Lsが送信信号Vtの半波長λ/2を超える場合の、測定距離Lの補正を説明する図である。図中、上側は、送信信号Vが周波数fbの場合を示し、下側は、送信信号Vが周波数fc(>fb)の場合を示しており、ともに、送信信号Vの半波長λ/2が、実際の距離Lsより短い。上側に示すように、周波数fbの場合には、算出される距離Lは「Ls−λb/2」であり、半波長「λb/2」を加算して補正する。また、下側に示すように、周波数fcの場合には、算出される距離Lは「Ls−3・λc/2」であり、半波長λc/2の3倍の長さ「3・λc/2」を加算して補正する。
【0088】
このとき、算出した距離Lに補正が必要か否かは、距離レンジを一段階ずつ下げるように分周比Nを変更してゆく過程で、ある分周比Nでの測定距離Lxが、該分周比Nに対応する好適距離範囲内であるか否かによって判断可能である。すなわち、実際の距離Lsが送信信号Vの半波長λ/2を超えない分周比Nの下限(限界分周比N)を判断することで実現可能である。そして、分周比Nがこの限界分周比Nを下回る場合、すなわち算出した計測距離Lに補正が必要な場合に、送信信号Vの半波長λ/2の何倍の距離を加算するかは、ここまでに算出された大凡の距離から判断することができる。
【0089】
図13は、全ての距離レンジにおいて計測距離を算出する計測処理を説明するフローチャートである。同図に示すように、先ず、分周器4の分周比Nを最大値Nmaxに設定するとともに(ステップC1)、この分周比Nに合わせて、BPF10の中心周波数fo、及び、LPF28,30それぞれのカットオフ周波数fcを設定する(ステップC3)。
【0090】
次いで、このときの信号X,Yから位相差φを算出し(ステップC5)、算出したφを、信号X,Yそれぞれの値の正負の組合せをもとに、位相差補正テーブル42に従って補正する(ステップC7)。続いて、補正後の位相差φをもとに、測定対象物までの測定距離Lxを算出する(ステップC9)。そして、算出した測定距離Lxを、現在の分周比Nと対応付けて記憶しておく(ステップC11)。
【0091】
そして、現在の分周比Nが「2」以上であり(ステップC13:YES)、且つ、算出した測定距離Lxが、現在の分周比Nに対応する好適距離範囲の最小値「(N/2)・Lmin・e」以上ならば(ステップC15:YES)、現在の分周比Nを、周期反転の限界分周比Nとして更新する(ステップC17)。そして、距離レンジが一段階小さくなるよう、分周比Nを変更する(ステップC19)。その後、ステップC3に戻り、同様に、測定対象物までの測定距離Lxを算出する。
【0092】
そして、現在の分周比Nが「1」となったならば(ステップC13:NO)、記憶しておいた各分周比Nでの測定距離Lと限界分周比NLとをもとに、最終的な測定距離Lを決定・出力する(ステップC21)。
【0093】
(B)距離センサ
また、上述の実施形態では、距離センサ100を光波距離センサとしたが、例えば、電磁波や超音波を用いた距離センサ等、位相方式の距離センサであれば、同様に本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0094】
100 距離センサ
2 発振器、4 分周器、6 発光部
8 受光部、10 BPF、12 移相回路
20 2位相ロックインアンプ
22 遅延回路、24,26 ミキサ、28,30 LPF
32 反転増幅器、34,36 PSD
14 A/D変換器、40 制御部
200 測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基準周波数のクロック信号を分周する分周比を変更可能な分周器を有し、前記分周器で分周された分周信号から送信波を生成して送信する送信部と、
前記送信波の反射波を受信する受信部と、
前記受信部で受信された前記反射波を、前記分周信号を用いて同期検波する同期検波部と、
前記同期検波部により同期検波された信号から直流成分を抽出する直流成分抽出部と、
前記直流成分抽出部により抽出された直流成分に基づいて、前記送信波と前記反射波との位相差を検出する位相差検出部と、
前記分周器の分周比を変更制御することで、前記送信波の波長を変化させる分周比制御部と、
前記位相差検出部により検出された位相差に基づいて、測定対象物までの計測距離を算出する距離算出部と、
を備えた距離センサ。
【請求項2】
前記同期検波部と前記直流成分抽出部とで2位相ロックインアンプ回路を構成し、
前記位相差検出部は、前記直流成分抽出部で抽出された2つの直流成分の正負の組合せと、当該直流成分とを用いて前記位相差を検出する、
請求項1に記載の距離センサ。
【請求項3】
前記受信部で受信された前記反射波の位相を補正する移相部を備えるとともに、
前記同期検波部は、前記移相部により移相された前記反射波を同期検波し、
所定の校正処理を実行する際に、前記位相差検出部により検出された位相差が所定の校正用位相差条件を満たすように、前記移相部の移相量を調整して距離計測を校正する構成制御部、
を備えた、
請求項1又は2に記載の距離センサ。
【請求項4】
分周比毎に当該分周比とした場合の計測に好適な好適距離範囲が予め定められており、
前記分周比制御部は、前記分周比が、前記計測距離を含む前記好適距離範囲に対応する分周比となるように、前記分周比の変更制御と前記距離の算出とを繰り返し行う、
請求項1〜3の何れか一項に記載の距離センサ。
【請求項5】
前記制御部は、前記分周比を変更可能な最大値に変更して前記計測距離を仮算出し、当該仮算出した計測距離を含む前記好適距離範囲に対応する分周比に変更して前記計測距離を算出する、
請求項4に記載の距離センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−2559(P2012−2559A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135796(P2010−135796)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】