説明

距離測定装置及び距離測定方法

【課題】高い分解能を有し、正確な測定を実施できる距離測定装置を提供する。
【解決手段】距離測定装置は、時間遅延回路を利用した粗距離測定回路18と、搬送波のベクトルの向きを測定して距離を計測する精密距離測定回路31とを有し、これらの和が最終出力となる。粗距離測定装置18は、測定スパンが長いが精度が低い。精密距離測定装置18は、測定スパンが短いが精度が高い。これらの組み合わせにより、測定スパンが長く、高い分解能を有し、正確な測定を実施できる距離測定装置とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物までの距離を、正確に求めることができる距離測定装置及び距離測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測定対象物までの距離を正確に測定する技術として、例えば、特公平6−16080号公報に記載されたような技術がある。
【特許文献1】特公平6−16080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載される距離測定装置の分解能は、
(1)擬似ランダム信号のクロック周波数
(2)2つの擬似ランダム信号発生器を駆動するクロック周波数の差Δf
(3)基準信号から検出信号までの時間を計測するためのカウンタの周波数
で決まってしまい、限界があるという問題点がある。
【0004】
(1)及び(2)に付いては、擬似ランダム信号のクロック周波数を上げれば分解能が向上し、又、Δfを小さくすれば分解能が向上するが、擬似ランダム信号のクロック周波数を上げること、Δfを小さくすることにも限界がある。
【0005】
(3)については、相関波形の歪が影響し、実際にはカウンタ周波数が2MHzを超えると、それ以上の分解能の向上が望めないことが実験結果から分かっている。すなわち、相関波形は理想的には三角波となるが、実際には波形のピークが鋭角とならず、かつ、波形に歪を生じてしまう。この原因は
(a)帯域制限を行うローパスフィルタで波形が鈍ってしまい、相関波形のピークが鋭角とならない。
【0006】
(b)スペクトラム拡散により周波数が広帯域に拡散しているため、使用する部品の周波数特性や群遅延特性の影響を受け、歪を発生させてしまう。
【0007】
こと等である。相関波形の鈍りを改善するためには、ローパスフィルタのカットオフ周波数を波形が鈍らない程度に高くすればよいが、そうすると、信号に重畳されているノイズを除去することが難しくなり、その結果、S/N比の悪化につながる。又、スペクトラム拡散帯域の全てにおいて周波数特性が均一で且つ遅延のない高周波部品を作ることは非常に難しい。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、測定スパンが長くて高い分解能を有し、正確な測定を実施できる距離測定装置、及び距離測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための第1の手段は、クロック周波数をfとする第1の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1の擬似ランダム信号と同一パターンで、前記クロック周波数fより、わずかな周波数だけ低いfをクロック周波数とする第2の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1の擬似ランダム信号と前記第2の擬似ランダム信号とを乗算する第1の乗算器と、マイクロ波の搬送波を発生する手段と、前記第1の擬似ランダム信号により前記搬送波を位相変調する手段と、前記位相変調された搬送波を電磁波として対象物に向けて送信する手段と、前記対象物から反射された電磁波を受信して受信信号を取得する手段と、前記取得した受信信号と前記第2の擬似ランダムとを乗算する第2の乗算器と、前記搬送波の一部を入力し、互いに位相が直交する2成分であるI信号とQ信号とを出力するハイブリッド結合器と、前記第2の乗算器の出力信号から2つに分配された一方の信号Rと前記I信号とを乗算する第3の乗算器と、前記第2の乗算器の出力信号から2つに分配された他方の信号Rと前記Q信号とを乗算する第4の乗算器と、前記第1の乗算器の出力信号を低域濾波処理する第1のローパスフィルタと、前記第3の乗算器の出力信号を低域濾波処理する第2のローパスフィルタと、前記第4の乗算器の出力信号を低域濾波処理する第3のローパスフィルタと、前記第2及び第3のローパスフィルタの出力信号をそれぞれ個別に2乗演算する第1及び第2の2乗器と、前記第1及び第2の2乗器の出力信号を加算する加算器と、前記第1のローパスフィルタの出力信号の最大振幅値を検出した時に第1のパルスを発生する手段と、前記加算器の出力信号の最大振幅値を検出した時に第2のパルスを発生する手段と、前記第1のパルスの発生時刻から前記第2のパルスの発生時刻までの時間を測定する手段と、前記測定した時間の1/2と、前記電磁波の伝播速度とを乗算してその積を第1の演算値とし、前記クロック周波数fからクロック周波数fを減算した差の周波数を、前記クロック周波数fで除算してその商を第2の演算値とし、前記第1の演算値と前記第2の演算値とを乗算してその積である第3の演算値を、前記対象物までの距離として得る粗距離測定部分と、前記第2のローパスフィルタの出力をI’、前記第3のローパスフィルタの出力をQ’とするとき、位相差θ=tan(Q’/I’)を求める位相差演算器と、前記搬送波の波長をλとするとき、精密距離=θλ/2πとして求める精密距離測定部を有することを特徴とする距離測定装置である。
【0010】
前記課題を解決するための第2の手段は、前記第1の手段である距離測定装置の、前記祖距離測定部で測定された距離を粗初期値とし、前記精密距離測定部で測定された距離を精密初期値とし、それらの和を初期値とするとき、前記粗初期値と、前記精密距離測定部で測定された距離と前記精密初期値の差分の和を出力測定値とすることを特徴とする距離測定方法である。
【0011】
前記課題を解決するための第3の手段は、前記第1の手段の距離測定装置の、前記粗距離測定部で測定された距離を粗初期値とし、前記精密距離測定部で測定された距離を精密初期値とし、それらの和を初期値とするとき、第1回目の測定においては、前記粗初期値と、前記精密距離測定部で測定された距離と前記精密初期値の差分の和を出力測定値とし、第2回目の測定においては、そのとき測定された精密距離測定部の出力と、前回測定された精密距離測定部の出力との差分を取り、この差分を前回測定値に加算することにより、今回の測定値を求めることを特徴とする距離測定方法である。
【0012】
前記課題を解決するための第4の手段は、前記第1の手段である距離測定装置の精密距離測定部に代えて、前記第2のローパスフィルタの出力をI’、前記第3のローパスフィルタの出力をQ’とするとき、位相差θ=tan(Q’/I’)を求める位相差演算器と、前記搬送波の波長をλとするとき、精密距離=(θλ+2nπ)/2π(nは整数)として求める精密距離測定部を用いた距離測定装置を使用し、複数の精密距離測定値を得るようにし、前記祖距離測定部で測定された距離を粗初期値とするとき、前記粗初期値と前記複数の精密距離測定値の和のうち、そのときの前記粗距離測定装置の出力に一番近い値を最終測定値とすることを特徴とする距離測定方法である。
【0013】
前記課題を解決するための第5の手段は、予め距離Lの分かった標準測定板までの距離を前記第2の手段から第4の手段のいずれかの距離測定方法で測定し、その値を標準初期値L’とし、その後、測定対象物まで距離を前記標準初期値を測定した距離測定方法で測定してその値をLとするとき、
(L+L−L’)
の値を出力測定値とすることを特徴とする距離測定方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、測定スパンが長くて高い分解能を有し、正確な測定を実施できる距離測定装置、及び距離測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明するが、それに先立ち、本発明の実施の形態の1例である距離測定装置に使用される粗距離測定部の原理の説明を行う。
【0016】
第1の擬似ランダム信号の繰り返し周波数をf、第2の擬似ランダム信号の繰り返し周波数をfとし、各々擬似ランダム信号のパターンは同一とする。ここでf>fとする。
【0017】
送信される第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号との相関をとって得られる基準信号が最大値となる周期をTとすると、このT間に含まれる第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号の波数の差がちょうど1周期の波数Nになる。
即ち、T・f=T・f+N上記を整理するとTは次の(1)式で与えられる。
=N/(f−f)……(1)
即ち2つのクロック周波数の差が小さいほど、基準信号が最大値となる周期Tは大きくなる。
【0018】
次に、第1の擬似ランダム信号で位相変調された搬送波が送信され、対象物で反射し、再び受信されるまでの伝播時間をτとし、この受信信号を第2の擬似ランダム信号で復調し、コヒーレント検波して得られる対象物検出信号のパルス状信号が発生する時刻を、基準信号のパルス状信号発生時刻から計測した時間差をTとすると、T間に発生する第2の擬似ランダム信号の波数は、T間に発生する第1の擬似ランダム信号の波数より、τ時間に発生する第1の擬似ランダム信号の波数だけ少ないので、次式が成立する。
・f=T・f−τ・f
上式を整理するとTは次の(2)式で与えられる。
=τ・f/(f−f)……(2)
【0019】
即ち、伝播時間τは、f/(f−f)倍だけ時間的に拡大され、あるいは低速化されたTとして計測される。この計測時間の拡大されることにより、本発明は本質的に短距離測定に適した距離測定装置であるといえる。
【0020】
ここで伝播時間τは、伝播速度をv、対象物までの距離をxとするとτ=2x/vであるから(2) 式により次の(3) 式を得る。
x=(f−f)・v・T/(2f)……(3)
(3)式により時間差Tを計測することにより、距離xを計測することができる。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態の1例である距離測定装置の概要を示す図である。図1において、1,2はクロック発生器、3,4は擬次ランダム信号(PN符号)発生器、5〜9はそれぞれ乗算器(ミキサ)で例えばダブルバランスドミキサにより構成される。ここで乗算器6は搬送波の位相変調手段として使用され、乗算器5及び7はそれぞれ第1及び第2の相関演算手段の前半の処理器として使用され、乗算器8及び9は直交検波手段の前半の処理器として使用される。
【0022】
10〜12はそれぞれローパスフィルタであり、ローパスフィルタ10は第1の相関演算の後半に必要な積分要素として使用され、ローパスフィルタ11及び12は第2の相関演算の後半に必要な積分要素として使用される。従って第1の相関演算手段は乗算器5及びローパスフィルタ10により構成され、第2の相関演算手段は乗算器7並びにローパスフィルタ11及び12により構成される。13,14は分配器、15,16は2乗器、17は加算器であり、前記2乗器15及び16と加算器17は直交検波手段の後半の処理器として使用される。従って直交検波手段は乗算器8及び9、2乗算器15及び16、並びに加算器17により構成される。
【0023】
18は時間計測器であり、内部に2つの最大値検出部と時間計測部を含む。前記2つの最大値検出部は、それぞれ入力信号の最大振幅値を検出した時に出力パルスを発生し、時間計測部は前記2つの出力パルス間の時間を計測する。19は搬送波発振器、20はハイブリッド結合器、21は送信器、22は受信器、23は送信アンテナ、24は受信アンテナ、25はターゲット、26は距離演算手段(粗距離演算手段)であり、例えばマイクロプロセッサ等により構成される。
【0024】
図2は図1の動作を説明するための波形図である。図3は7ビットのM系列信号発生器の構成図であり、33は7段構成のシフトレジスタ、34は排他的論理和回路である。
【0025】
図2及び図3を参照しながら図1の動作を説明する。擬似ランダム信号発生器3,4は例えばM系列信号発生器が使用できる。図3は7ビットのM系列信号発生器の構成を示しており、例えばECL(エミッタ・カップル・ロジック)素子による7段構成のシフトレジスタと排他的論理和回路33により構成される。M系列信号は符号の"1"(正電圧の+Eが対応する)と"0"(負電圧の−Eが対応する)の組み合せによる周期性循環信号であり、本例の7ビットの場合2−1=127個(127チップともいう)の信号を発生すると1周期が完了し、この周期を繰り返した循環信号を発生する。
【0026】
擬似ランダム信号発生器3,4は同一回路で構成されるため、両者の出力信号は全く同一パターンの信号となる。周波数はそれぞれf、fである。但し供給されるクロック周波数がわずかに異なるためその1周期もわずかに異っている。また擬似ランダム信号としてはM系列信号以外にも、ゴールド系列信号、JPL系列信号を使用することができる。
【0027】
クロック発生器1,2は共に水晶発振子を内蔵し、十分周波数の安定したクロック信号を発生するが、本発明においては、クロック発生器1の発生する周波数fに対して、クロック発生器2の発生する周波数fは、前記周波数fより、fの1/1000〜1/10000程度以下のわずかな周波数だけ低くなるように設定されている。
【0028】
本実施の形態ではクロック発生器1の発生周波数fは100.004 MHz、クロック発生器2の発生周波数fは99.996MHz とし、その周波数差はf−f=8kHzをfの約1/12500としている。クロック発生器1及び2からそれぞれ出力されるクロック信号f及びfは、それぞれ擬似ランダム信号発生器3及び4に供給される。擬似ランダム信号発生器3及び4は、駆動用クロック信号の周波数差によりそれぞれの1周期がわずかに異なるが同一パターンのM系列信号M及びMを出力する。
【0029】
いま2つのM系列信号M及びMの周期を求めるとMの周期=127×1/100.004MHz1269.9492ns、Mの周期=127×1/99.996MHz1270.0508nsとなる。即ち2つのM系列信号M及びMは約1270ns(10−9秒)の周期を有すが、両者の周期には約0.1nsの時間差がある。それ故この2つのM系列信号M及びMを循環して発生させ、ある時刻tで2つのM系列信号のパターンが一致したとすると、1周期の時間経過毎に0.1nsのずれが両信号間に生じ、100周期後には10nsのずれが両信号間に生ずる。
【0030】
ここでM系列信号は1周期1270nsに127個の信号を発生するので、1信号の発生時間は10nsである。従って2つのM系列信号M及びM間に10nsのずれが生ずるということは、M系列信号が1個分ずれたことに相当する。擬似ランダム信号発生器3の出力Mは乗算器5及び6に、また擬似ランダム信号発生器4の出力Mは乗算器5及び7にそれぞれ供給される。
【0031】
搬送波発生器19は例えば周波数約10GHz のマイクロ波を発振し、その出力信号は分配器13により分配され、乗算器6及びハイブリッド結合器20に供給される。乗算器6は例えばダブルバランスドミキサにより構成され、分配器13より入力される周波数約10GHz の搬送波と擬似ランダム信号発生器3より入力されるM系列信号M1 との乗算を行い、搬送波を位相変調したスペクトル拡散信号を出力し送信器21へ供給する。送信器21は入力されたスペクトル拡散信号を電力増幅し、送信アンテナ23を介して電磁波に変換しターゲット25に向けて放射する。ここで周波数10GHz の電磁波の空中での波長は3cmであり、例えば製鉄用炉内の粉塵の大きさ(直径)に比べて十分に大きいので、粉塵等の影響を受けにくい。また送信アンテナ23及び受信アンテナ24は例えばホーンアンテナを用い、指向性を鋭く絞ることにより測定対象物以外からの反射電力を可及的に小さくしている。またアンテナゲインは例えばいずれも約20dB程度である。送信アンテナ23からターゲット25に向けて放射された電磁波は、ターゲット25で反射され受信アンテナ24を介して電気信号に変換され受信器22へ入力される。受信器22へ入力信号が供給されるタイミングは、当然送信アンテナ23から電磁波が放射されたタイミングから電磁波がターゲット25までの距離を往復し受信アンテナ24に到達するまでの電磁波の伝播時間だけ遅延している。受信器22は入力信号を増幅し乗算器7へ供給する。
【0032】
一方第1の相関演算手段の前半の処理器である乗算器5に擬似ランダム信号発生器3及び4からそれぞれ入力されたM系列信号M及びMは乗算され、その乗算器の時系列信号は、第1の相関演算手段の後半の処理器であるローパスフィルタ10へ供給される。図2の(ア)はこのローパスフィルタ10への入力信号、即ち乗算器5の乗算値である時系列信号を示した波形であり、乗算器5へ入力される2つの擬似ランダム信号の位相が一致している場合は+Eの出力電圧が継続するが、両信号の位相が一致していない場合は+Eと−Eの出力電圧がランダムに発生する。
【0033】
ローパスフィルタ10〜12は周波数の帯域制限を行うことにより、相関演算処理の後半の積分処理を行い、2つの時系列信号を逐次乗算した乗算値を積分した信号として、両信号の位相が一致している場合には、図2の(イ)に示されるような三角状信号を出力する。また両信号の位相が不一致の場合には出力は零となる。従ってローパスフィルタ10の出力には周期的に三角状信号が発生する。このパルス状信号は時刻の基準信号として時間計測器18へ供給される。この基準信号の周期Tは前述の(1) 式により演算すると、本例の場合は擬似ランダム信号を7ビットのM系列信号M及びMとしたので、1周期の波数Nは2−1=127であり、f=100.004MHZ 、f=99.996MHZ であるので、T=15.875msとなる。この基準信号とその周期Tは、図2の(エ)に示される。
【0034】
また第2の相関演算手段の前半の処理器である乗算器7へは受信器22からの受信信号と擬似ランダム信号発生器4からのM系列信号Mが入力され、両信号の乗算が行なわれる。この乗算器7の乗算結果は、第1のM系列信号Mにより送信用搬送波が位相変調される受信信号の被変調位相と、第2のM系列信号Mの位相が一致している場合は位相の揃った搬送波信号とし出力され、受信信号の被変調位相とM系列信号Mの位相が異なるときには位相のランダムな搬送波として出力される分配器14へ供給される。分配器14は入力信号を2つに分配し、その分配出力R及びRをそれぞれ直交検波手段の前半の処理器である乗算器8及び9へ供給する。分配器13より送信用搬送波の一部が供給されたハイブリッド結合器20は、入力信号に対して同相成分の(位相0度の)信号Iと直角成分の(位相90度の)信号Qとを出力し、それぞれ乗算器8及び9へ供給する。乗算器8はハイブリッド結合器20より入力する信号I(即ち搬送波発振器19の出力と同相の信号)と分配器14より入力する前記信号Rとの乗算を行い、同様に乗算器9は入力する信号Q(即ち搬送波発振器19の出力と90度位相の異なる信号)と前記信号Rとの乗算を行い、それぞれ受信信号中の位相0度成分(I・R)と位相90度成分(Q・R)とを抽出し、該抽出信号I・R及びQ・Rをそれぞれ直交検波手段の前半の処理済み信号として、ローパスフィルタ11及び12へ供給する。
【0035】
ローパスフィルタ11及び12は、第2の相関演算手段の後半の積分処理機能を有し、前記信号I・R1 及びQ・R2 をそれぞれ低域濾波処理をすることにより積分動作を行う。
【0036】
ここで乗算器8及び9へ分配器14を介して入力される信号RとRは、乗算器7による相関演算の前半の処理済み信号、即ち受信した搬送波から第2の擬似ランダム信号とのコヒーレント性が検出された信号であり、この信号RとRに対して、さらに基準搬送波とのコヒーレント性を検出するため、乗算器8及び9において、基準搬送波の同相成分の信号Iと直角成分の信号Qとの乗算をそれぞれ行なうものである。
【0037】
次に乗算器8及び9の出力波形及びローパスフィルタ11及び12の出力波形について説明する。即ち乗算器7の出力より分配器14を介して乗算器8に入力される前記信号Rとハイブリッド結合器20より乗算器8に入力される前記信号Iの位相器20より乗算器8に入力される前記信号Iの位相が一致したとき、同様に乗算器9に入力される前記信号Rと信号Qの位相が一致したとき、乗算器8及び9の出力信号はそれぞれ一定極性のパルス信号(電圧+Eのパルス信号)となり、この信号を積分したローパスフィルタ11及び12の出力には大きな正電圧が得られる。
【0038】
また前記信号Rと信号Iの位相の不一致のとき、及び前記信号Rと信号Qの位相の不一致のとき、乗算器8及び9の出力信号は、それぞれランダムに変化する正負両極性のパルス信号(即ち電圧+Eと−Eのパルス信号)となり、この信号を積分したローパスフィルタ11及び12の出力は零となる。ローパスフィルタ11及び12により上記の如く積分処理された位相0度成分と位相90度成分の信号は、それぞれ直交検波手段の後半の最初の演算器である、2乗器15及び16に供給される。2乗器15及び16はそれぞれ入力信号の振巾を2乗演算し、その演算結果の出力信号を加算器17に供給する。加算器17は両入力信号を加算して図2の(ウ)に示されるようなパルス状検出力信号を出力し、時間計測器18に供給する。いまこの検出信号の最大値発生時刻をtとする。
【0039】
このように相関演算手段である乗算器7及びローパスフィルタ11,12 と、直交検波手段である乗算器8,9、2乗器15,16及び加算器17とが入り組んだ方式は、構成が多少複雑であるが、高感度の対象物検出信号を得ることができる。またM系列信号のような疑似ランダム信号の相関出力を得るようにしているので雑音の影響を低減し信号を強調するため、信号対雑音比(S/N)の高い計測システムを実現することができる。勿論搬送波の検波方式としては、クリスタルを用いた検波方式があり、感度は低下するが、構成が単純化されるので、仕様及びコストによりこの方式を採用することもできる。
【0040】
時間計測器18に内蔵される2つの最大値検出部27、28は、それぞれローパスフィルタ10から入力される基準信号の最大振幅値を検出した時刻tに第1 パルスを発生し、加算器17から入力される検出信号の最大振幅値を検出した時刻tに第2のパルスを発生する。そして時間計測器18内の時間計測部は前記第1のパルスの発生時刻tと第2のパルスの発生時刻tとの間の時間Tを測定する。
【0041】
前記最大値検出部27、28は、例えば入力電圧値をクロック信号により逐次サンプルホールドして、現在のクロック信号によるサンプル値とクロック信号の1つ前のサンプル値とを電圧比度器により逐次比較して、入力信号の時間に対する増加状態から減少状態に反転する時刻を検出することにより、入力信号の最大値発生時刻を検出することができる。前記時間Tは図2(エ)に示される基準信号の最大値発生時刻tと(ウ)に示される検出信号の最大値発生時刻tとの間の時間として示される。その時間Tは前述の(2) 式に示されるように実際に電破波が送信及び送信アンテナ23及び24とターゲット25の間の距離を往復する伝播時間τのf/(f−f)倍だけ時間的に拡大されて得られる。本例の場合f=100,004MHz,f=99,996MHzであるので、12,500倍に時間が拡大され(4)式が得られる。
=12,500・τ (4)
また(4) 式の時間Tは前記基準信号の周期Tごとに得られる。
【0042】
この時間計測器18により測定された時間Tは距離演算手段32へ供給される。距離演算手段32は、例えばマイクロプロセッサ等により構成され、前記(3) 式による演算を行い、対象物までの距離xを算出する。
【0043】
即ち前記測定された時間Tの1/2と前記電磁波の伝播速度vとを乗算してその積T・v/2を第1の演算値とし、クロック周波数fからクロック周波数fを減算した差の周波数を前記クロック周波数fで除算してその商(f−f)/fを第2の演算値とし、前記第1の演算値と前記第2の演算値とを乗算してその積である第3の演算値を前記対象物までの距離x(粗測定距離)として得る。
【0044】
前記距離演算手段32により、例えば測定された時間Tが254 μsの場合には、距離xは3メートル、Tが2540μsの場合には、距離xは30メートルを算出することができる。
【0045】
このように本発明は計測時間がきわめて大きく拡大されているので、対象物の距離を短距離から精度良く計測することが可能である。
【0046】
以上が、本発明における粗距離測定の原理の概要であるが、ほとんどが特許文献1からの引用であり、且つ、引用されていない部分も、特許文献1に記載されて公知となっているので、これ以上の説明を省略する。
【0047】
粗距離測定器の測定レンジは長いが、その精度は、前述のような理由により±5mm程度に制限されてしまう。この問題を解決するために、本実施の形態においては、精密距離測定部が設けられている。
【0048】
すなわち、搬送波の周波数をf、速度をvとするとき、ターゲット25の位置までの距離をxとすると、
マイクロ波のベクトルの位相θは、
θ=x・f/wπ ……(5)
となる。よって、θを測定すれば、xを測定することができる。
【0049】
θの測定は、以下のようにして行う。すなわち、ローパスフィルタ11の出力は、搬送波と同相信号であるIと同じ位相の信号であり、ローパスフィルタ12の出力は、搬送波と直交する成分の信号Qと同じ位相の信号である。
【0050】
ローパスフィルタ11の出力を監視し、f/{(f−f)・f}時間中で最大となる信号をI’とする。同様、同じ時間帯でローパスフィルタ12の出力を監視し、最大となる信号をQ’とする。すると、反射波の位相θは、
θ=tan−1(Q’/I’)で得られる。なお、単にQ’/I’の逆正接を計算するだけでは、0〜180°の信号しか得られないが、Q’とI’の符号をも考慮することにより、0〜360°の信号を得ることができることは周知の事実である。図1に示す逆正接演算装置30においてtan−1(Q’/I’)の計算を行っている。そして、位相検出器31で、Q’とI’の符号をも考慮して位相θの算出を行っている。このような、θ=tan−1(Q’/I’)の演算は、マイクロプロセッサにより行うことができる。
【0051】
このようにして算出された距離xは絶対的距離でなく、相対的距離である。よって、ターゲット25の位置が変化した場合においては、それぞれθを求めることにより、Δθを得て、
Δθ=Δx・f/wπ ……(6)
に代入することにより、ターゲット25の位置変化を知ることができる。なお、(6)式におけるΔθの符号の付け方については問題があり、後に詳説する。
【0052】
この方法は、1つの搬送ベクトルの角度を測っているので、
(a)帯域制限を行うローパスフィルタで波形が鈍ってしまい、相関波形のピークが鋭角とならない。
【0053】
(b)スペクトラム拡散により周波数が広帯域に拡散しているため、使用する部品の周波数特性や群遅延特性の影響を受け、歪を発生させてしまう。
【0054】
等の影響を受けにくいという長所を有する。しかしながら、測定スパンが搬送波の波長に限定されてしまうという短所を有するので、粗距離測定器と組み合わせて使用される。この計算を距離演算手段32で行う。
【0055】
測定方法としては、例えば以下のようなものがある。
【0056】
第1の方法は、
(1) 前述の方法で、ターゲット25までの距離を粗距離測定器で求める。又、同時に、精密距離測定器により、θを測っておく。このときの粗距離測定器、又は、粗距離測定器と精密距離測定器により測定された相対距離θの和を基準距離とする。このとき測定されたθを基準角度として0°にとり、以下のθの測定においては、この基準角度との差をθとするようにしてもよい。この場合は、基準距離は、粗距離測定器で測定された値となる。このような方式も、請求項2の発明において、精密初期値を0としたものに相当し、本発明の範囲に含まれるものである、
(2) 以後は、θのみの測定を行い、(θ−θ)によりΔθを求める。そして、(6)式により、Δxを求め、これを前述の基準距離に加算することにより、ターゲット25までの距離とする。
【0057】
このようにしてθを基準にして±180度のθの測定を行うことができ、結局搬送波の波長と同じ測定レンジを得ることができる。なお、(θ−θ)を求めて、それからΔxを求める代わりに、(5) 式を使用し、θからxを、θからxを求め、その差分をΔxとしても、以上の方法と等価である。
【0058】
第2の方法は、
(1)基準距離の決定は第1の方法と同じとし、続く第1回目の測定も第1の方法と同じとする。
【0059】
(2) 第2回目の測定以降は、今回測定されたθであるθと、前回測定されたθn−1との差分を取り、この差分をΔθとして(6) 式に代入して今回の値と前回の値の距離の差分を求め、この差分を前回測定値に加算することにより、今回の測定値を求める。
【0060】
方法である。なお、θとθn−1との差分から、距離の差分を求める代わりに、θから精密距離x、θn−1から精密距離xn−1を求め、xとxn−1との差分から今回の値と前回の値の距離の差分を求めるようにしても、以上の方法と等価である。この方法によれば、測定レンジが搬送波の波長に限定されなくなる。
【0061】
しかしながら、Δθの値が検出されたとき、これが、角度が増加してΔθとなったのが、角度が(2πーΔθ)だけ減少して−180°を通過するとき+180度に代わり、その結果、Δθとなったのかが分からないことである。これを避けるためには、サンプリング間隔中で、θの変化が180°を超えないようなもののみの距離を測定するようにし、観察されたΔθがθ≦180°のとき、ターゲット25がアンテナに近づく方向に移動しているとし、観察されたΔθがθ≧180°のとき、ターゲット25がアンテナから遠ざかる方向に移動しているとして、(6)式のΔXの符号を計算するようにすればよい。
【0062】
また、θとθn−1の差分を求める場合に、例えばθn−1が+170°であり、θがさらに20°増加すると、+180°を超え、θ=−170°と判定されてしまう。このような不都合を避けるためには、θn−1が+170°であっても、それを0°として読み、それを基準にしてθの値を求めるようにすればよい。このようにすると、上記の場合、(θ−θn−1)の値は、20°と正しく計算される。すなわち、θとθn−1の差分を求める場合には、θn−1=0°としてこれを基準点とし、これを基準としてθの値を求める。
【0063】
第3の方法は、
(1) 第1の方法の(1)と同様の方法で、基準距離を求める。
【0064】
(2) 精密距離測定装置で、θ=x・f/wπ±2nπ(nは整数)として、(5)式に代入して複数の距離を求める。
【0065】
(3) 基準距離を求めたときの粗距離測定装置の出力と、(2)で求めた複数の距離を、それぞれ加算し、複数の距離を求める。
【0066】
(4) (3)で求められた複数の距離のうち、そのときの粗距離測定装置の値に最も近いものを採用し、求める距離とする。
【0067】
このようにすると、測定間隔の間に、反射波の位相が360°以上回転した場合でも、25までの距離を求めることができ、且つ、測定範囲が搬送波の波長範囲に限定されないというメリットがある。
【0068】
以上のような測定方法は、そもそも粗距離測定装置の測定値が絶対値でなく相対値であるために、絶対距離を求めることができない。この対策として、予め距離Lの分かった標準測定板までの距離を本発明の実施の形態である距離測定方法で測定し、その値を標準初期値L’とし、その後、同じ距離測定方法で測定してその値をLとするとき、
(L+L−L’)
の値を出力測定値とするようじすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態の1例である距離測定装置の概要を示す図である。
【図2】図1に示す回路の動作を説明するための波形図である。
【図3】7ビットのM系列信号発生器の構成図である。
【符号の説明】
【0070】
1,2…クロック発生器、3,4…擬似ランダム信号(PN符号)発生器、5〜9…乗算器(ミキサ)、10〜12…ローパスフィルタ、13,14…分配器、15,16…2乗器、17…加算器、18…時間計測器、19…搬送波発振器、20…ハイブリッド結合器、21…送信器、22…受信器、23…送信アンテナ、24…受信アンテナ、25…ターゲット、27,28…最大値検出部、29…時間計測部、30…逆正接演算装置、31…位相検出器、32…距離演算手段、33…シフトレジスタ、34…排他的論理和回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック周波数をfとする第1の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1の擬似ランダム信号と同一パターンで、前記クロック周波数fより、わずかな周波数だけ低いfをクロック周波数とする第2の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1の擬似ランダム信号と前記第2の擬似ランダム信号とを乗算する第1の乗算器と、マイクロ波の搬送波を発生する手段と、前記第1の擬似ランダム信号により前記搬送波を位相変調する手段と、前記位相変調された搬送波を電磁波として対象物に向けて送信する手段と、前記対象物から反射された電磁波を受信して受信信号を取得する手段と、前記取得した受信信号と前記第2の擬似ランダムとを乗算する第2の乗算器と、前記搬送波の一部を入力し、互いに位相が直交する2成分であるI信号とQ信号とを出力するハイブリッド結合器と、前記第2の乗算器の出力信号から2つに分配された一方の信号Rと前記I信号とを乗算する第3の乗算器と、前記第2の乗算器の出力信号から2つに分配された他方の信号Rと前記Q信号とを乗算する第4の乗算器と、前記第1の乗算器の出力信号を低域濾波処理する第1のローパスフィルタと、前記第3の乗算器の出力信号を低域濾波処理する第2のローパスフィルタと、前記第4の乗算器の出力信号を低域濾波処理する第3のローパスフィルタと、前記第2及び第3のローパスフィルタの出力信号をそれぞれ個別に2乗演算する第1及び第2の2乗器と、前記第1及び第2の2乗器の出力信号を加算する加算器と、前記第1のローパスフィルタの出力信号の最大振幅値を検出した時に第1のパルスを発生する手段と、前記加算器の出力信号の最大振幅値を検出した時に第2のパルスを発生する手段と、前記第1のパルスの発生時刻から前記第2のパルスの発生時刻までの時間を測定する手段と、前記測定した時間の1/2と、前記電磁波の伝播速度とを乗算してその積を第1の演算値とし、前記クロック周波数fからクロック周波数fを減算した差の周波数を、前記クロック周波数fで除算してその商を第2の演算値とし、前記第1の演算値と前記第2の演算値とを乗算してその積である第3の演算値を、前記対象物までの距離として得る粗距離測定部と、
前記第2のローパスフィルタの出力をI’、前記第3のローパスフィルタの出力をQ’とするとき、位相差θ=tan(Q’/I’)を求める位相差演算器と、前記搬送波の波長をλとするとき、精密距離=θλ/2πとして求める精密距離測定部を有することを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の距離測定装置の、前記祖距離測定部で測定された距離を粗初期値とし、前記精密距離測定部で測定された距離を精密初期値とし、それらの和を初期値とするとき、前記粗初期値と、前記精密距離測定部で測定された距離と前記精密初期値の差分の和を出力測定値とすることを特徴とする距離測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の距離測定装置の、前記祖距離測定部で測定された距離を粗初期値とし、前記精密距離測定部で測定された距離を精密初期値とし、それらの和を初期値とするとき、第1回目の測定においては、前記粗初期値と、前記精密距離測定部で測定された距離と前記精密初期値の差分の和を出力測定値とし、第2回目の測定においては、そのとき測定された精密距離測定部の出力と、前回測定された精密距離測定部の出力との差分を取り、この差分を前回測定値に加算することにより、今回の測定値を求めることを特徴とする距離測定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の距離測定装置の精密距離測定部に代えて、前記第2のローパスフィルタの出力をI’、前記第3のローパスフィルタの出力をQ’とするとき、位相差θ=tan(Q’/I’)を求める位相差演算器と、前記搬送波の波長をλとするとき、精密距離=(θλ+2nπ)/2π(nは整数)として求める精密距離測定部を用いた距離測定装置を使用し、複数の精密距離測定値を得るようにし、前記祖距離測定部で測定された距離を粗初期値とするとき、前記粗初期値と前記複数の精密距離測定値の和のうち、そのときの前記粗距離測定装置の出力に一番近い値を最終測定値とすることを特徴とする距離測定方法。
【請求項5】
予め距離Lの分かった標準測定板までの距離を請求項2から請求項4のうちいずれか1項に記載の距離測定方法で測定し、その値を標準初期値L’とし、その後、測定対象物まで距離を前記標準初期値を測定した距離測定方法で測定してその値をLとするとき、
(L+L−L’)の値を出力測定値とすることを特徴とする距離測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−98097(P2009−98097A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272373(P2007−272373)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000135254)株式会社ニレコ (41)
【Fターム(参考)】