説明

躯体構造

【課題】座屈補剛材として採用可能な材料の自由度を高めることが可能な躯体構造を提案する。
【解決手段】軸材12と、この軸材12との間に隙間をあけて当該軸材12に沿って配設される座屈補剛材20と、軸材12と座屈補剛材20とをつなぐ接合手段30と、を備えてなる躯体構造であって、接合手段30が軸材12の変形を制御することで、軸材12が所定値以上の圧縮力を受けた際に当該軸材12に所定の座屈モードを発生させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等における躯体構造は、建築物等の構造体として十分な耐久性や耐震性を備えているとともに、建築物の意匠的な設計の自由度を妨げることのないような構成であることが望ましい。
【0003】
このような躯体構造として、例えば特許文献1には、梁柱架構の内周面に沿って形成された矩形状の周辺枠組み鉄骨と、この周辺枠組み鉄骨内においてフラットバーを組み合わせることにより形成された格子と、格子の開口部に組み込まれて座屈補剛材として機能するガラスブロックと、を備えてなる耐震壁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−257654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の耐震壁は、座屈補剛材たるガラスブロックの全周を格子に取り付けているため、格子に変位が生じた際に、ガラスブロックに対して圧縮力以外の力が大きく作用するおそれがあった。そのため、圧縮力以外の力によりガラスブロックが破損することのないように、十分な耐力を備えたガラス素材を採用する必要があり、材料費が嵩む場合があった。
【0006】
本発明は、前記の問題点を解決するものであり、座屈補剛材として採用可能な材料の自由度を高めることが可能な躯体構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る躯体構造は、軸材と、前記軸材との間に隙間をあけて当該軸材に沿って配設される座屈補剛材と、前記軸材と前記座屈補剛材とをつなぐ接合手段とを備えてなる躯体構造であって、前記接合手段が前記軸材の変形を制御することで、前記軸材が所定値以上の圧縮力を受けた際に当該軸材に所定の座屈モードを発生させることを特徴としている。
【0008】
かかる躯体構造によれば、接合手段の配置により、低次の座屈モードが発生することを防止し、所定の座屈モードが発生するまで軸材の座屈変形を拘束して耐震壁としての耐力を維持させることができる。
また、座屈補剛材には、軸材の座屈変形を拘束する際の反力(圧縮力または引張力)が作用するが、座屈補剛材と軸材との間に隙間が形成されているため、反力以外の荷重が座屈補剛材に作用することが防止され、座屈補剛材として採用可能な材料の自由度が高まる。
【0009】
前記接合手段は、前記座屈補剛材に形成された貫通孔を貫通する引張圧縮伝達部材と、前記軸材に立設されて前記引張圧縮伝達部材を支持する支持部材と、を有し、前記支持部材は、前記軸材の前記座屈モードの節となる箇所の近傍に配置されているのが望ましい。
【0010】
前記躯体構造において、座屈補剛材が板状部材で構成されていてもよい。
また、躯体構造は、傾斜した状態で配された複数本の前記軸材を組み合わせることにより形成された格子状の耐震壁であってもよい。
さらに、前記軸材は、鉛直方向に立設される柱や水平方向に横設された梁であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、座屈補剛材として採用可能な材料の自由度を高めることが可能な躯体構造を構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る耐震壁を示す正断面図である。
【図2】(a)は図1に示す耐震壁の一部分を示す拡大断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】接合手段を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図4】接合手段の変形例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)のC−C断面図である。
【図5】(a)および(b)は、接合手段の配置の変形例を示す正面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る躯体構造を示す模式図である。
【図7】(a)は本発明の第3の実施の形態に係る躯体構造を示す模式図、(b)は(a)のD−D断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1の実施の形態>
以下、第1の実施の形態について図面を参照して説明する。
第1の実施の形態の耐震壁(躯体構造)1は、図1に示すように、左右に立設された柱2,2と、これらの柱2,2に横設されている上下の梁3,3とにより形成された梁柱架構4の内側空間に配設されている。
なお、耐震壁1の設置箇所は、梁柱架構4内に限定されるものではなく、例えば仕切り壁として形成するなど、適宜形成することが可能である。
【0014】
耐震壁1は、複数の開口部11,11,…を形成する格子10と、一部の開口部11,11,…を閉塞するように配設された座屈補剛材20,20,…と、格子10と座屈補剛材20とを接続する接合手段30と、梁柱架構4の内周面に沿って形成された枠材40と、を備えている。
【0015】
格子10は、傾斜した状態で配された複数の軸材12,12,…を組み合わせることにより構成されている。
【0016】
本実施形態では、軸材12としてフラットバーを採用している。
なお、本実施形態では、軸材12を傾斜させてなる斜材を組み合わせることにより格子10を形成したが、格子10は、縦材と横材とを組み合わせることにより形成してもよい。
【0017】
軸材12は、その板面が梁柱架構4の内周面に向くように配設されているとともに、両端が枠材40に固定されている。
【0018】
軸材12には、梁3に対して135°の角度で配設された第一斜材12aと、梁3に対して45°の角度で配設され、第一斜材12aと直交する第二斜材12bが存在している。なお、第一斜材12aおよび第二斜材12bの傾斜角は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0019】
複数の第一斜材12a,12a,…および複数の第二斜材12b,12b,…は、それぞれ等間隔で配設されている。なお、第一斜材12aおよび第二斜材12bは、必ずしも等間隔で配設する必要はない。
【0020】
第一斜材12aおよび第二斜材12bは、互いのスリット(図示せず)同士を噛み合わせることにより格子10を構成している。
スリットは、斜材12同士の交差部に形成された切込みであって、斜材12の板厚と同じ幅で、かつ、斜材12の幅(耐震壁1の壁厚方向の長さ)の半分程度の深さに形成されている。
【0021】
格子10は、第一斜材12aと第二斜材12bとに形成されたスリット同士を噛み合わせることにより形成される。軸材12同士は、その噛み合わせ部分(交差部分)において溶接接合されている。
また、格子10は、軸材12の両端を、枠材40の内面に溶接接合することにより、枠材40に一体に固定されている。
【0022】
なお、格子10の形成方法は限定されるものではなく、例えば、第一斜材12a同士の間に分割された第二斜材12bを配置することにより形成してもよいし、分割された第一斜材12aおよび第二斜材12bを接合することにより形成してもよい。また、格子10を構成する軸材12の本数は限定されるものではなく、耐震壁1に要求される耐力や軸材12の断面寸法等に応じて適宜設定すればよい。
【0023】
第一斜材12aと第二斜材12bとを交差するように組み合わせることで、同一寸法の正方形の開口部11が複数形成される。また、格子10の周縁部には、直角二等辺三角形の開口部11’が形成されている。開口部11’は、第一斜材12aと第二斜材12bと枠材40とにより囲まれることで形成される。
【0024】
なお、開口部11の形状は、正方形に限定されるものではなく、例えば長方形やひし形等に形成されていてもよいし、位置に応じて異なる寸法に形成されていてもよい。また、開口部11の数は限定されるものではない。
【0025】
軸材12の板面には、図2(a)に示すように、所定の座屈モードの節となる位置の近傍に後記する接合手段30の支持部材31が固定されている。
なお、座屈モードは、軸材12の耐力、断面積、長さ(開口部11の辺の長さ)等に応じて設計上想定する。
接合手段30は、座屈補剛材20が配設される開口部11(11’)に面する板面に固定されている。
【0026】
座屈補剛材20は、図1に示すように、矩形状のガラス板(板状部材)からなり、接合手段30を介して開口部11(11’)に配設されている。本実施形態では、いわゆる強化ガラスを採用している。
なお、開口部11’に配設される座屈補剛材20は、開口部11’の形状に応じて直角二等辺三角形のガラス板(板状部材)で構成されている。
【0027】
座屈補剛材20は、一部の開口部11(11’)に配設されることで、格子10に対して市松状に配置されている。
つまり、軸材12を挟んで形成された二つの開口部11,11のうち、一方の開口部11(11’)に座屈補剛材20が配設されており、他方の開口部11(11’)は解放あるいは他の部材が配設されている。なお、座屈補剛材20は、必ずしも市松状に配置されている必要はなく、軸材12を挟んで形成された二つの開口部11,11の両方に配設されていてもよい。
【0028】
座屈補剛材20は、図2(b)に示すように、軸材12の幅方向中央(耐震壁1の前後方向中央)に配設された接合手段30によって配置される。
【0029】
座屈補剛材20には、周縁部に貫通孔21,21,…が形成されている。貫通孔21には、図3(a)に示すように、接合手段30の引張圧縮伝達部材32が配設されている。
【0030】
貫通孔21は、接合手段30の配置に応じて形成されており、本実施形態では、座屈補剛材20の各辺に対して2箇所ずつ(計8箇所)形成されている。なお、貫通孔21の数および配置は限定されるものではなく、設計上想定する軸材12の座屈モードの節に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
なお、座屈補剛材20は、接合手段30を介して軸材12に沿って配設されており、軸材12との間には、隙間22が形成されている。ここで、隙間22の幅は限定されるものではない。
本実施形態では、隙間22にシリコーンゴム等からなる充填材23を配設して気密性を持たせるものとする。なお、充填材23は、座屈補剛材20への力の伝達が不能な軟質材料であれば限定されるものではない。また、充填材23は必要に応じて配設すればよく、省略してもよい。
【0032】
接合手段30は、図3(a)および(b)に示すように、座屈補剛材20の貫通孔21を貫通する引張圧縮伝達部材32と、軸材12に立設されて引張圧縮伝達部材32を支持する支持部材31とを備えて構成されている。
【0033】
支持部材31は、設計上想定する軸材12の座屈モードの節となる箇所の近傍において、軸材12の板面に固定されている。本実施形態では、図2(a)に示すように、座屈補剛材20の一辺に対して伝達部材30を二つ配設するものとし、一箇所の開口部11に対して八つの伝達部材30,30,…を配設している。
なお、格子10の周縁部に形成された開口部11’に対しては、図1に示すように、計四つの伝達部材30,30,…を配設している。
【0034】
本実施形態の支持部材31は、図3(b)に示すように、軸材12へ固定される脚部31aと、引張圧縮伝達部材32を固定する頭部31bとを備えて構成されている。
【0035】
脚部31aは、鋼製の板状部材であって、一端が軸材12に溶接接合されており、他端に頭部31bが一体に形成されている。なお、脚部31aの軸材12への固定方法は限定されるものではない。例えば、ボルト、ビス類で固定してもよい。また、補剛が不必要な方向は移動可能にする機構を備えてもよい。
【0036】
頭部31bは、中心部にネジ孔31cが形成された筒状部分である。なお、頭部31bの構成は、引張圧縮伝達部材32の構成に応じて適宜設定すればよい。本実施形態では、ネジ孔31cとして、貫通孔を形成しているが、ネジ孔31cは有底であってもよい。また、ネジ孔31cをねじのない丸孔、長丸孔、四角孔等とし、引張圧縮伝達部材32をナット止めとしてもよい。
【0037】
引張圧縮伝達部材32は、貫通孔21を貫通するように配設された柱状部材である。引張圧縮伝達部材32は、基端部32aにネジ加工が施されていて、支持部材31のネジ孔31cに当該基端部32aを螺着することで支持部材31に固定されている。
【0038】
本実施形態では、引張圧縮伝達部材32を、貫通孔21の内径よりも小さい外径の円形断面に形成する。なお、引張圧縮伝達部材32の断面形状は限定されるものではなく、例えば、貫通孔21の断面形状よりも小さい多角形断面であってもよい。
【0039】
引張圧縮伝達部材32は、調整部材33を介して座屈補剛材20と固定されている。
調整部材33は、貫通孔21との間に形成された隙間に挿入される円筒状の部材であるが、孔の位置は偏芯している。
本実施形態では、調整部材33として、第一調整部材33aと第二調整部材33bとを組み合わせて使用する。
【0040】
第一調整部材33aは、図3(a)に示すように、外径が貫通孔21の内径と同一に形成されているとともに、内径(偏芯孔の直径)は第二調整部材33bの外径と同一に形成されている。
【0041】
第二調整部材33bは、外径が第一調整部材33aの内径と同一に形成されているとともに、内径(偏芯孔の直径)は引張圧縮伝達部材32の外径と同一に形成されている。
【0042】
調整部材33は、貫通孔21内において、第一調整部材33aの偏芯孔に第二調整部材33bを配設した状態で、引張圧縮伝達部材32に外装されている。
このようにすることで、調整部材33は、貫通孔21に形成された引張圧縮伝達部材32と貫通孔21との隙間を遮蔽し、引張圧縮伝達部材32と座屈補剛材20との間の力を伝達する。また、調整部材33は、偏芯孔を有した第一調整部材33aと第二調整部材33bとを組み合わせて使用することで、座屈補剛材20の固定時における、貫通孔21と引張圧縮伝達部材32との位置のずれ(製作誤差)を調節している。
【0043】
支持部材31の頭部31bには、図3(b)に示すように、座屈補剛材20側の表面にベースリング34が配設されている。なお、ベースリング34は、必要に応じて配設すればよく、省略してもよい。
【0044】
ベースリング34は、中央に貫通孔が形成された鋼製の板材であって、調整ネジ34a,34aを介して頭部31bに固定されている。
ベースリング34は、貫通孔に引張圧縮伝達部材32を挿通させた状態で、配設されている。
【0045】
ベースリング34と頭部31bとの間には、調整板35が介設されている。引張圧縮伝達部材32は、調整板35の枚数や厚みにより、ベースリング34の頭部31bからの離れを調整し、座屈補剛材20の位置決めを行う。
なお、隙間の幅調整は、ベースリング34と頭部31bとの間に開設された調整板35により行う。
【0046】
ベースリング34と座屈補剛材20との間には、保護リング36が介設されていて、ベースリング34と座屈補剛材20とが接触することにより座屈補剛材20が損傷することを防止している。なお、保護リング36を構成する材料は限定されるものではないが、本実施形態ではゴム等の樹脂により構成する。また、保護リング36は必要に応じて配設すればよく、省略してもよい。
【0047】
接合手段30の構成は前記のものに限定されるものではない。
例えば、図4(a)および(b)に示すように、調整部材33の代わりに、引張圧縮伝達部材32と貫通孔21との間に形成された隙間に充填材37を充填することにより、隙間を遮蔽してもよい。このとき、充填材37は、引張圧縮伝達部材32と座屈補剛材20との間の力を伝達することが可能な強度を発現する材料により構成する。
【0048】
また、充填材37の形状を変えることにより、引張圧縮伝達部材32と座屈補剛材20との間における力(引張圧縮)の伝達の方向性を限定する仕組みとしてもよい。例えば、図4(a)に示すように、軸材12に沿って長い長穴(ルーズホール)21’を充填材37に形成することで、支持部材31の軸方向(図面において上下方向)に対しては力を伝達するが、支持部材31の軸方向と直交する方向(図面において横方向)に対しては力を吸収する構成としてもよい。なお、座屈補剛材20に貫通孔21として長穴21’を形成してもよい。
【0049】
また、引張圧縮伝達部材32は、図4(b)に示すように、一部が球状に拡径(拡径部32b)されていてもよい。かかる引張圧縮伝達部材32は、拡径部32bが貫通孔21の内部において、座屈補剛材20の厚さ方向中心部に一致するように配置されている。なお、拡径部32bの形状は球状に限定されるものではない。
【0050】
また、本実施形態では、引張圧縮伝達部材32の一端を支持部材31により固定しているが、引張圧縮伝達部材32の固定方法はこれに限定されるものではない。例えば、一対の支持部材31を、座屈補剛材12を挟んで両側に配設して、引張圧縮伝達部材32の両端を固定してもよい。
【0051】
また、本実施形態では、軸材12同士を組み合わせることにより構成された格子10の開口部に座屈補剛材20を配設するものとし、接合手段30を座屈補剛材20の四辺に対して配置するが、接合手段30の配置はこれに限定されるものではない。
例えば、図5(a)および(b)に示すように、躯体構造1’に対して、圧縮力が1方向(例えば上下方向)のみから作用する場合等、圧縮力の作用方向に沿って配設された鋼材(軸材12,12)にのみ、接合手段30を配設し、座屈補剛材20と接続すればよい。つまり、座屈補剛材20の二辺に対して、接合手段30を配設する。
【0052】
また、接合手段30の配置や数は限定されるものではなく、設計上想定する軸材12の座屈モードに応じて適宜設定すればよい。例えば、図5(a)に示すように、座屈補剛材20の一辺に対して接合手段30を一つずつ配置してもよいし、図5(b)に示すように二つ以上(図面では四つ)配置してもよい。例えば、想定する座屈モードが二次モードの場合には辺の中間部に1箇所、三次モードの場合は等間隔で2箇所に配置すればよい。
【0053】
枠材40は、図1に示すように、梁柱架構4の内面に隙間を有して形成された正面視矩形状の部材である。
【0054】
枠材40は、左右の柱2,2の内面に沿って配設された左右の縦材41,41と、上下の梁3,3の内面に沿って配設された上下の横材42,42と、により形成されている。
【0055】
縦材41および横材42は、いわゆるフラットバーをその板面が梁柱架構4の内周面に向くように配設する。なお、縦材41および横材42を構成する材料はフラットバーに限定されるものではなく、例えばH形鋼や溝型鋼等を使用するなど、適宜材料を選定して使用すればよい。
枠材40は、格子10の外周囲を覆うように形成されており、斜材12,12と枠材40との間に三角形状の開口部11’が形成されている。
【0056】
枠材40の外周囲には、アンカー43,43,…が突設されている(アンカー43は、柱2または梁3と枠材40との間の隙間に配設される)。また、柱2および梁3にも、アンカー5,5,…が植設されている。
【0057】
耐震壁1は、枠材40の外周囲と梁柱架構4との隙間に充填されたモルタル等の充填材6にアンカー43,43,…が定着することで、梁柱架構4に固定される。
ここで、取り付けに使用する充填材6は、格子10と梁柱架構4の一体化が可能であれば、モルタルに限定されるものではない。また、格子10の梁柱架構4への取り付け方法は限定されるものではなく、例えば摩擦工法等を採用してもよい。
【0058】
このように、耐震壁1は、梁柱架構4の内側空間において、軸材12が斜めに連続するように配設されているため、建物に作用する外力に対して梁柱架構4の耐力や剛性が増強する。
【0059】
耐震壁1の主材として、フラットバーからなる軸材12と、ガラス板からなる座屈補剛材20を採用することで、鋼材量を大幅に削減することが可能となるため、経済的に耐震壁1を構築することができる。
【0060】
フラットバーからなる軸材12,12,…を組み合わせてなる格子10に対して、市松状に座屈補剛材20を配置しているため、軸材12の座屈が制御されて、耐震壁1としての耐力を維持することができる。
【0061】
座屈補剛材20は、所定の座屈モードの節となる位置の近傍に配設された接合手段30により固定されているため、軸材12が所定の座屈モードよりも低次の座屈モードにより座屈することを防止し、所定の座屈モードまで変形を抑止することで、耐震壁1としての耐力を維持することが可能である。
つまり、耐震壁1は、接合手段30が軸材12の変形を制御することで、軸材12が所定値以上の圧縮力を受けた際に軸材12が所定の座屈モードにより座屈させることで耐震壁1としての耐力を維持している。
【0062】
また、座屈補剛材20と格子10との間には、隙間が形成されているため、座屈補剛材20に対して引張圧縮力以外に力が作用することが防止されている。そのため、比較的曲げ耐力の弱い座屈補剛材20(ガラス板)による座屈補剛が可能となる。また、座屈補剛材20に対して補強を行う必要もない。つまり、耐震壁1によれば、座屈補剛材20として採用可能な材料の自由度が高まる。
【0063】
座屈補剛材20としてガラス板を使用しているため、景観性に優れ、また、採光も可能である。
また、斜材12として、比較的肉厚の薄いフラットバーを採用しているため、景観性に優れている。
【0064】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態に係る躯体構造1Aは、図6に示すように、建物Bの柱(軸材)50と、柱50に沿って配設された座屈補剛材20と、柱50と座屈補剛材20とを接続する接合手段30と、を備えて構成されている。
【0065】
本実施形態では、建物Bの最下層部分の構造体として本発明の躯体構造1Aを採用したが、躯体構造1Aの設置箇所は限定されるものではない。
【0066】
柱50は、鉛直方向に立設されたフラットバーにより構成されている。
柱50は、隣接する他の柱50と、互いの板面が対向するように立設されている。
【0067】
柱50の板面には、柱50に発生する所定の座屈モードの節となる位置の近傍に、接合手段30,30,…が固定されている。なお、座屈モードは、柱50の耐力、断面積、長さ等に応じて設計上想定する。
【0068】
座屈補剛材20は、ガラス板(板状部材)により構成されており、左右の柱50、50の間に隙間をあけた状態で柱50,50に沿って配設されている。
この他の座屈補剛材20の構成は、第1の実施の形態で示した構成と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0069】
接合手段30は、柱50の座屈モードの節となる箇所の近傍に配置されており、本実施形態では、柱50に対して上下3箇所に配置されている。
接合手段30は、座屈補剛材20に形成された貫通孔を貫通する引張圧縮伝達部材32と、伝達部材を支持する支持部材31とを有している(図3参照)。
なお、この他の接合手段30の構成は、第1の実施の形態で示した構成と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0070】
以上、第2の実施の形態の躯体構造1Aによれば、意匠性に優れた建物Bを構築することが可能となる。
【0071】
柱50は、所定の座屈モードの節となる位置の近傍に配設された接合手段30により変形が制御されるため、所定値以上の圧縮力を受けた際に低次の座屈モードにより座屈することが防止され、所定の座屈モードを発生させることができる。そのため、柱50としての耐力を維持したまま、小断面化が可能となる。
このように柱50の断面寸法を小さくすることが可能となるため、材料費の低減化が可能になるとともに、意匠設計の自由度が広がる。
【0072】
また、座屈補剛材20に対して引張圧縮力以外に力が作用することが防止されているため、比較的曲げ耐力の弱い座屈補剛材20(ガラス板)による座屈補剛が可能となる。また、座屈補剛材20に対して補強を行う必要もない。つまり、躯体構造1Aによれば、座屈補剛材20として採用可能な材料の自由度が高まる。
【0073】
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態では、図7(a)に示すように、屋根構造1Bとして、本発明の躯体構造を採用する場合について説明する。
【0074】
屋根構造(躯体構造)1Bは、図7(b)に示すように、支持梁(軸材)60と、支持梁60に沿って配設された座屈補剛材20であるガラス板と、支持梁60と座屈補剛材20とを接続する接合手段30と、を備えて構成されている。
【0075】
本実施形態では、屋根構造1Bを、建物B同士の間の通路部分に形成する場合について説明しているが、屋根構造1Bを形成する箇所は限定されるものではなく、例えば、建物Bの屋根として採用してもよい。
【0076】
屋根構造1Bは、複数枚の座屈補剛材20,20,…を並設することにより構成されている。隣り合う座屈補剛材20同士は、所定の隙間を有して、互いの端面同士をつき合わせるように並設されている。なお、座屈補剛材20同士の隙間には、図示しない充填材が充填されている。なお、充填材は、座屈補剛材20への力の伝達が不能な軟質材料であれば限定されるものではない。
【0077】
座屈補剛材20には、周縁部に貫通孔21が形成されており、接合手段30の引張圧縮伝達部材32がこの貫通孔21に配設されている。
【0078】
貫通孔21は、接合手段30の配置に応じて形成されている。なお、貫通孔21の数および配置は限定されるものではなく、許容する支持梁60の座屈モードに応じて適宜設定すればよい。
【0079】
接合手段30は、座屈補剛材20に形成された貫通孔21を貫通する引張圧縮伝達部材32と、支持梁60に立設されて引張圧縮伝達部材32を支持する支持部材31とを備えて構成されている。
【0080】
支持部材31は、L字状に形成された鋼材により構成されており、一片が支持梁60の板面に立設された状態で固定されており、他片が座屈補剛材20の板面に直交する向きに配設されている。
支持部材31の他片には、引張圧縮伝達部材32が固定されている。
【0081】
支持部材31の支持梁60への固定方法は限定されるものではなく、例えば、溶接接合や、ボルト等の治具による固定等により行えばよい。
【0082】
支持部材31は、支持梁60の断面内に圧縮力が作用した際に、座屈補剛材20に圧縮力や引張力を伝達して低次の座屈モードによる座屈を抑止することが可能な程度の強度を備えている。
【0083】
引張圧縮伝達部材32と座屈補剛材20との固定方法は第1の実施の形態で示した方法と同様に行えばよい。
【0084】
支持梁60は、フラットバーにより構成されており、座屈補剛材20同士の突合せ部の下面に沿って配設されている。本実施形態では、支持梁60が水平方向に横設されている場合について説明するが、支持梁60は傾斜していてもよい。
支持梁60は、フラットバーの板面が座屈補剛材20の板面(下面)と直交するように配設されている。
【0085】
支持梁60には、接合手段30の支持部材31が、支持梁60に許容される所定の座屈モードの節となる位置の近傍に固定されている。なお、座屈モードは、支持梁60の耐力、断面積、長さ等に応じて設計上想定する。
【0086】
以上、第3の実施の形態の屋根構造1Bによれば、所定の座屈モードの節となる位置の近傍に配設された接合手段30により変形が制御されるため、座屈が生じやすいフラットバーに対して、座屈補剛材20と接合手段30とにより所定の座屈モードよりも低次の座屈モードが発生することを抑制することができる。
そのため、横補剛材としての小梁や孫梁を省略し、安価に屋根構造1Bを構成することができる。また、部材点数を省略することで、施工時の手間も省略することができる。
【0087】
また、座屈補剛材20に対して引張圧縮力以外に力が作用することが防止されているため、比較的曲げ耐力の弱い座屈補剛材20(ガラス板)による座屈補剛が可能となる。また、座屈補剛材20に対して補強を行う必要もない。つまり、躯体構造1Bによれば、座屈補剛材20として採用可能な材料の自由度が高まる。
【0088】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、耐震壁および躯体構造は、新築の建物に採用してもよいし、既存の建物に採用してもよい。
【0089】
また、前記実施形態では、座屈補剛材としてガラス板を採用した場合について説明したが、座屈補剛材を構成する材料は限定されるものではない。例えば、鋼板や木板またはアクリルやポリカーボネート等の樹脂性の板材等を使用してもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 耐震壁
1A 躯体構造
1B 屋根構造(躯体構造)
10 格子
11 開口部
12 軸材
20 座屈補剛材
30 接合手段
31 支持部材
32 引張圧縮伝達部材
33 調整部材
34 ベースリング
50 柱(軸材)
60 支持梁(軸材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸材と、
前記軸材との間に隙間をあけて当該軸材に沿って配設される座屈補剛材と、
前記軸材と前記座屈補剛材とをつなぐ接合手段と、を備えてなる躯体構造であって、
前記接合手段が前記軸材の変形を制御することで、前記軸材が所定値以上の圧縮力を受けた際に当該軸材に所定の座屈モードを発生させることを特徴とする、躯体構造。
【請求項2】
前記接合手段は、前記座屈補剛材に形成された貫通孔を貫通する引張圧縮伝達部材と、前記軸材に立設されて前記引張圧縮伝達部材を支持する支持部材と、を有し、
前記支持部材は、前記軸材の前記座屈モードの節となる箇所の近傍に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の躯体構造。
【請求項3】
前記座屈補剛材は、板状部材で構成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の躯体構造。
【請求項4】
傾斜した状態で配された複数本の前記軸材を組み合わせることにより格子状の耐震壁が形成されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の躯体構造。
【請求項5】
前記軸材は、鉛直方向に立設される柱であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の躯体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−92581(P2012−92581A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241218(P2010−241218)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】