車両のアンチスキッド制御装置
【課題】 ABS制御中におけるマスタシリンダ圧(M/C圧)とホイールシリンダ圧(W/C圧)の差圧を適切に推定できる車両のアンチスキッド制御装置を提供すること。
【解決手段】 この装置は、増圧弁として常開リニア電磁弁を採用し、減圧制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行する。この装置は、W/C圧推定値Pwの初期値Pw0を、1回目のABS制御開始時の車体減速度(即ち、ロック圧)と、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpとを考慮して決定し、値Pw0と減圧弁の減圧特性等に基づいてABS制御中のW/C圧推定値Pwを推定していく。この装置は、「Pdiff=(Pw0−Pw)+Pup1+Pup2」なる式により推定されるM/C圧とW/C圧との差圧の推定値Pdiffを用いてリニア増圧制御中の増圧弁への指令電流値を決定する。差圧加算値Pup1,Pup2は、時間Tstp、及びABS制御中でのブレーキの増し踏みに応じてそれぞれ設定される。
【解決手段】 この装置は、増圧弁として常開リニア電磁弁を採用し、減圧制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行する。この装置は、W/C圧推定値Pwの初期値Pw0を、1回目のABS制御開始時の車体減速度(即ち、ロック圧)と、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpとを考慮して決定し、値Pw0と減圧弁の減圧特性等に基づいてABS制御中のW/C圧推定値Pwを推定していく。この装置は、「Pdiff=(Pw0−Pw)+Pup1+Pup2」なる式により推定されるM/C圧とW/C圧との差圧の推定値Pdiffを用いてリニア増圧制御中の増圧弁への指令電流値を決定する。差圧加算値Pup1,Pup2は、時間Tstp、及びABS制御中でのブレーキの増し踏みに応じてそれぞれ設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の過度のスリップを防止するためのアンチスキッド制御(以下、「ABS制御」と称呼する。)を実行する車両のアンチスキッド制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧(以下、「ホイールシリンダ圧」と称呼する。)を制御してABS制御を実行するアンチスキッド制御装置が広く車両に搭載されるようになってきている。一般に、アンチスキッド制御装置は、運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧(以下、「マスタシリンダ圧」と称呼する。)を発生するマスタシリンダとホイールシリンダとの間の液圧回路に介装された常開電磁弁(増圧弁)と、ホイールシリンダとリザーバとの間の液圧回路に介装された常閉電磁弁(減圧弁)を備えていて、係る増圧弁、及び減圧弁を制御することでホイールシリンダ圧の減圧制御・保持制御・増圧制御を実行できるようになっている。
【0003】
ABS制御は、一般に、所定のABS制御開始条件が成立することに応答して開始され、少なくとも減圧制御が実行された後に増圧制御を行うことで達成される。そして、今回のABS制御中における増圧制御中にて上記ABS制御開始条件が再び成立すると、実行中の増圧制御を終了するとともに次回のABS制御(の減圧制御)が連続的に開始される。即ち、ABS制御開始条件が成立する時点から次にABS制御開始条件が成立する時点までの期間を一制御サイクルと呼ぶことにすると、一般に、ABS制御は、複数回の制御サイクルに亘って連続的に複数回実行されるようになっている。
【0004】
ところで、近年、上記増圧制御中においてホイールシリンダ圧を滑らかに(無段階に)増大する制御(以下、「リニア増圧制御」と称呼する。)を実行する要求がなされてきている。このため、アンチスキッド制御装置においては、上記増圧弁として、通電電流値をリニアに制御することでマスタシリンダ圧からホイールシリンダ圧を減じた値(以下、「実差圧」と称呼する。)を無段階に調整可能なリニア電磁弁(特に、常開リニア電磁弁)が採用されるようになってきている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2003−19952号公報
【0005】
常開リニア電磁弁では、一般に、通電電流値(指令電流)と、吸引力に相当する差圧(以下、「指令差圧」と称呼する。)が比例関係にある。従って、増圧弁としての常開リニア電磁弁は、通電電流値に応じて決定される指令差圧が実差圧よりも大きいときに閉弁してマスタシリンダとホイールシリンダとの連通を遮断する一方、指令差圧が実差圧よりも小さいときに開弁してマスタシリンダとホイールシリンダとを連通するようになっている。
【0006】
換言すれば、減圧弁が閉状態に維持されている場合において、指令差圧が実差圧よりも大きいときホイールシリンダ圧が保持される。一方、指令差圧が実差圧よりも小さいとき、マスタシリンダ側からブレーキ液がホイールシリンダ内に流入することでホイールシリンダ圧が上昇するとともに実差圧が減少していき、実差圧が指令差圧と等しくなると、実差圧は指令差圧とつりあうようになっている。
【0007】
即ち、増圧弁として常開リニア電磁弁を使用してリニア増圧制御の開始時点から直ちにホイールシリンダ圧を滑らかに増大させるためには、減圧弁を閉状態に維持した状態で、リニア増圧制御開始時点にて常開リニア電磁弁(増圧弁)への通電電流値を実差圧に相当する電流値(即ち、指令差圧を実差圧と一致させるための通電電流値。以下、「実差圧相当電流値」と称呼する。)に直ちに設定し、以降、通電電流値を一定の勾配でリニアに減少させていく必要がある。これにより、実差圧がリニア増圧制御開始時点から滑らかに減少していき、この結果、リニア増圧制御中に亘ってホイールシリンダ圧を滑らかに増大させていくことができる。
【0008】
これに対し、リニア増圧制御中に亘って減少していく通電電流値のリニア増圧制御開始時点での値が実差圧相当電流値よりも大きい値に設定される場合、リニア増圧制御開始時点から、減少していく指令差圧が実差圧と等しくなるまでの間、常開リニア電磁弁が閉状態に維持されてホイールシリンダ圧が保持される。即ち、ホイールシリンダ圧の増圧開始が遅れるという問題が発生する。以下、この現象を「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」と呼ぶことにする。
【0009】
他方、リニア増圧制御中に亘って減少していく通電電流値のリニア増圧制御開始時点での値が実差圧相当電流値よりも小さい値に設定される場合、ブレーキ液のマスタシリンダ側からホイールシリンダ内への流入により減少していく実差圧が指令差圧と等しくなるまでの間、常開リニア電磁弁が開状態に維持されてホイールシリンダ圧が急上昇するという問題が発生する。以下、この現象を「ホイールシリンダ圧の急上昇」と呼ぶことにする。
【0010】
従って、リニア増圧制御開始時点から直ちにホイールシリンダ圧を滑らかに増大させていくためには、リニア増圧制御開始時点での実差圧相当電流値(従って、同時点での実差圧)を正確に取得する必要がある。ここで、実差圧は、マスタシリンダ圧を検出するセンサ、及びホイールシリンダ圧を検出するセンサを共に利用することにより容易に検出することができる。しかしながら、係る2つのセンサを利用する構成は、製造コストが増大すること、センサの信頼性の確保が困難であること等の観点から一般に採用され難い。
【0011】
以上のことから、係るセンサを利用することなくリニア増圧制御開始時点における実差圧を取得する必要がある。このため、リニア増圧制御を実行する上記文献に記載のブレーキ液圧制御装置は、1回目の制御サイクル(1回目のABS制御)において、リニア増圧制御開始時点での通電電流値を最大値に設定するようになっている。
【0012】
これにより、1回目の制御サイクルにおけるリニア増圧制御開始時点での指令差圧は実差圧よりも必ず大きくなる。従って、上述したように、減少していく指令差圧が実差圧と等しくなるまでの間、ホイールシリンダ圧が保持される。そして、指令差圧が実差圧に達した時点から、指令差圧の減少に伴って実差圧が指令差圧と同じ値を採りながら減少していき、この結果、ホイールシリンダ圧が増大していく。
【0013】
この結果、指令差圧が実差圧に達した時点以降のリニア増圧制御中における実差圧(=指令差圧)を取得することができる。上記文献に記載の装置は、このように取得した実差圧の値に基づいて2回目以降の制御サイクル中における実差圧を取得していくようになっている。換言すれば、1回目の制御サイクルにおけるリニア増圧制御を2回目以降の制御サイクル中における実差圧の取得のために実行するようになっている。
【0014】
しかしながら、この場合、1回目の制御サイクルにおけるリニア増圧制御において、上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」が必ず発生するという問題がある。従って、ABS制御中における実差圧を適切に推定できる他の手法の到来が望まれているところである。
【発明の開示】
【0015】
本発明は上記問題に対処するためになされたものであって、その目的は、ABS制御を実行する車両のアンチスキッド制御装置において、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の差圧を適切に推定できるものを提供することにある。
【0016】
本発明に係るアンチスキッド制御装置は、増圧弁と減圧弁とを備えた制御ユニットに適用される。ここで、増圧弁及び減圧弁は、通電電流値に応じて開状態と閉状態とに選択的に制御可能な電磁開閉弁であっても、通電電流値に応じて差圧を無段階に調整可能なリニア電磁弁であってもよい。また、増圧弁及び減圧弁は、常開電磁弁(通電電流値が「0」のときに開状態となる電磁弁)であっても常閉電磁弁(通電電流値が「0」のときに閉状態となる電磁弁)であってもよいが、通常において増圧弁は開状態に維持され減圧弁は閉状態に維持されることを鑑みれば、増圧弁は常開電磁弁で減圧弁は常閉電磁弁であることが消費エネルギーの低減、耐久性の向上等を達成する上で好ましい。
【0017】
本発明に係るアンチスキッド制御装置は、所定のABS制御開始条件が成立することに応答して開始されるABS制御を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御手段を備えている。このABS制御では、前記増圧弁を閉状態に維持したまま前記減圧弁を制御することで前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁を閉状態に維持したまま前記増圧弁を制御することで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめる増圧制御が次に前記ABS制御開始条件が成立するまで実行される。
【0018】
このABS制御においては、減圧制御と増圧制御の間に保持制御が実行されてもよい。また、ABS制御開始条件が成立することに応答して、初めに減圧制御が実行されてもよいし、初めに保持制御が実行されてもよい。また、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合、増圧制御として上記リニア増圧制御を実行することが好ましい。更には、ABS制御開始条件は、毎回同じ条件であってもよいし、制御サイクル毎に異ならせてもよい。
【0019】
本発明に係るアンチスキッド制御装置の特徴は、前記アンチスキッド制御手段が、ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段と、ホイールシリンダ圧推定値取得手段と、差圧推定値取得手段と、増圧弁制御手段とを備えたことにある。以下、これらの手段について順に説明していく。
【0020】
ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段は、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値を取得する手段である。このホイールシリンダ圧推定初期値は、一定値であってもよいが、後述するように、車両の走行状態に応じた値に設定されることが好ましい。
【0021】
ホイールシリンダ圧推定値取得手段は、少なくともホイールシリンダ圧推定初期値を利用してABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧の推定値を取得する手段である。例えば、減圧弁として電磁開閉弁が使用される場合、減圧弁の作動によるホイールシリンダ圧の減圧量は、ホイールシリンダ圧そのものと、減圧弁を開状態に維持する時間とに依存して決定される。このような減圧弁による減圧特性は、所定の実験・シミュレーション等を通して予め取得できる。
【0022】
従って、例えば、減圧弁として電磁開閉弁が使用され、減圧制御として減圧弁を開状態に維持する制御が実行される場合、1回目のABS制御における減圧制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値を上記ホイールシリンダ圧推定初期値と等しい値に設定すれば、その減圧制御中に亘って変化(減少)するホイールシリンダ圧推定値を、上述した減圧弁による減圧特性に基づいて推定していくことができる。
【0023】
同様に、例えば、増圧弁として電磁開閉弁が使用される場合、増圧弁の作動によるホイールシリンダ圧の増圧量は、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧と、増圧弁を開状態に維持する時間とに依存して決定される。このような増圧弁による増圧特性も、所定の実験・シミュレーション等を通して予め取得できる。
【0024】
従って、例えば、増圧弁として電磁開閉弁が使用され、増圧制御として増圧弁の開閉を交互に繰り返す制御(以下、「開閉増圧制御」と称呼する。)が実行される場合、1回目のABS制御における増圧制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値を上述のように推定され得る1回目のABS制御における減圧制御終了時点でのホイールシリンダ圧推定値と等しい値に設定すれば、その増圧制御中に亘って変化(増大)するホイールシリンダ圧推定値を、開閉増圧制御における増圧弁の開閉パターンと、上述した増圧弁による増圧特性とに基づいて推定していくことができる。
【0025】
他方、増圧弁としてリニア電磁弁が使用され、増圧制御として上述したリニア増圧制御が実行される場合も、1回目のABS制御における増圧制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値を上述した増圧弁として電磁開閉弁が使用される場合と同じ手法により設定すれば、その増圧制御中に亘って変化(増大)するホイールシリンダ圧推定値を、予め設定されているリニア増圧制御中のホイールシリンダ圧の上昇勾配に基づいて推定していくことができる。
【0026】
このようにして、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値(=ホイールシリンダ圧推定初期値)を設定すれば、1回目のABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値を逐次取得していくことができる。従って、2回目のABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値を1回目のABS制御における増圧制御の終了時点でのホイールシリンダ圧推定値と等しい値に設定すれば、2回目のABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値も、1回目のABS制御の場合と同様に逐次取得していくことができる。
【0027】
このような手順を繰り返すことで、3回目以降のABS制御中におけるホイールシリンダ圧推定値も順次取得していくことができる。以上のように、ホイールシリンダ圧推定値取得手段は、少なくともホイールシリンダ圧推定初期値を利用して、連続的に複数回実行されるABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値を取得していくことができる。
【0028】
差圧推定値取得手段は、前記ホイールシリンダ圧推定初期値と前記ホイールシリンダ圧推定値との差に基づいて前記マスタシリンダ圧と前記ホイールシリンダ圧との差圧の推定値(差圧推定値)を取得する手段である。
【0029】
一般に、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧は、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧に近い範囲内で推移すると考えられる。換言すれば、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧は、上述したホイールシリンダ圧推定初期値に近い範囲内で推移する。
【0030】
従って、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の差圧(上記実差圧)は、上述したホイールシリンダ圧推定初期値と上述したホイールシリンダ圧推定値との差に近い範囲内で推移する。差圧推定値取得手段は、係る知見に基づいて構成されたものである。これによれば、ABS制御中における上記差圧推定値(従って、実差圧)を適切、且つ精度良く推定・取得することができる。
【0031】
増圧弁制御手段は、前記差圧推定値に基づいて前記増圧制御中において前記増圧弁を制御する手段である。具体的には、例えば、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合、前記差圧推定値に基づいて増圧制御中における増圧弁への通電電流値を決定するように構成される。これによれば、上述したように精度良く推定され得る差圧推定値に基づいて、増圧制御開始時点での通電電流値を上述した実差圧相当電流値に近い値に設定することができる。この結果、リニア増圧制御を実行する場合、リニア増圧制御開始時点からホイールシリンダ圧を滑らかに増大させていくことができる。
【0032】
他方、増圧弁として電磁開閉弁が使用される場合、増圧弁制御手段は、前記差圧推定値に基づいて(開閉)増圧制御中における増圧弁の開閉パターンを決定するように構成される。開閉増圧制御を実行する場合、上述したように精度良く推定され得る差圧推定値に基づいて増圧弁が開状態にある場合におけるホイールシリンダ圧の増圧量を精度良く取得できる。従って、上記構成により増圧弁の開閉パターンを決定すれば、開閉増圧制御中に亘って増圧・保持が繰り返されるホイールシリンダ圧の平均的な上昇勾配を、リニア電磁弁により上記リニア増圧制御が実行される場合のホイールシリンダ圧の上昇勾配と一致させることが容易となる。
【0033】
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置においては、前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段は、前記車両の車体減速度に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(以下、「ロック圧」とも称呼する。)を考慮して前記ホイールシリンダ圧推定初期値を取得するように構成されることが好適である。
【0034】
車両走行中においてホイールシリンダ圧を徐々に増大させていくと、ホイールシリンダ圧が上記ロック圧に達した時点で車輪にロックが発生する。このロック圧は、路面摩擦係数が大きいほど(即ち、ロック発生時点での車体減速度が大きいほど)大きくなる。換言すれば、ロック圧は、車体減速度(例えば、1回目のABS制御の開始時点での車体減速度)に基づいて取得できる。
【0035】
他方、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧(即ち、その推定値である上記ホイールシリンダ圧推定初期値)は、ロック圧に近い値となる。従って、上記構成によれば、例えば、ホイールシリンダ圧推定初期値をロック圧と等しい値に設定できるから、路面摩擦係数にかかわらず、ホイールシリンダ圧推定初期値を精度良く取得することができる。換言すれば、路面摩擦係数にかかわらず、1回目のABS制御中から差圧推定値を直ちに精度良く推定・取得することができる。
【0036】
この場合、前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段は、運転者によるブレーキ操作の開始から前記1回目のABS制御の開始までに要する時間をも更に考慮して前記ホイールシリンダ圧推定初期値を取得するように構成されることが好適である。より具体的には、前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段は、前記車体減速度に基づく車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧を考慮して取得されるホイールシリンダ圧推定初期値を、前記運転者によるブレーキ操作の開始から前記1回目のABS制御の開始までに要する時間に基づいて補正することで前記ホイールシリンダ圧推定初期値を取得することが好ましい。
【0037】
一般に、ABS制御等の車両運動制御に使用される車体減速度としては、ノイズ等の除去のため、ローパスフィルタ処理した後の値が使用される。従って、急激なブレーキ操作がなされることで実際の車体減速度が急激に増大する場合、ABS制御に使用される車体減速度は或る遅れをもって緩やかに増大していき、実際の車体減速度よりも小さめの値となる。
【0038】
このことは、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるほど、車体減速度に基づいて取得されるロック圧、ひいては、ロック圧を考慮して取得される上記ホイールシリンダ圧推定初期値が小さめに取得されることを意味する。従って、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるほど、ロック圧を考慮して取得されるホイールシリンダ圧推定初期値をより大きい値に補正する必要がある。
【0039】
一方、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるほど、ブレーキ操作の開始から1回目のABS制御の開始までに要する時間(以下、「ABS制御開始前ブレーキ操作時間」と称呼する。)が短くなる傾向がある。
【0040】
以上のことから、ABS制御開始前ブレーキ操作時間が短いほど、ロック圧を考慮して取得されるホイールシリンダ圧推定初期値をより大きい値に補正すればよい。上記構成は係る知見に基づくものである。これによれば、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激である場合であってもホイールシリンダ圧推定初期値を精度良く推定・取得することができる。換言すれば、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激である場合であっても、1回目のABS制御中から差圧推定値を直ちに精度良く推定・取得することができる。
【0041】
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置においては、前記差圧推定値取得手段は、1回目のABS制御中における前記増圧制御の開始時点から、前記運転者によるブレーキ操作の開始から前記アンチスキッド制御の開始までに要する時間に応じた分だけ前記差圧推定値を大きめに設定するように構成されることが好適である。
【0042】
先に、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧は、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧に近い範囲内で推移すると述べた。実際には、マスタシリンダ圧は、1回目のABS制御の開始時点から短期間に亘って、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧から更に増大していく場合が多い。
【0043】
従って、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧は、上述したホイールシリンダ圧推定初期値に、上述した1回目のABS制御開始直後の増大分を加えた値近傍で推移する場合が多い。よって、上述した差圧推定値をより一層精度良く取得するためには、差圧推定値も、1回目のABS制御開始直後のマスタシリンダ圧の増大分だけ大きめに設定することが好ましい。一方、このマスタシリンダ圧の増大分は、上記ABS制御開始前ブレーキ操作時間が短いほど大きくなる傾向がある。
【0044】
以上のことから、ABS制御開始前ブレーキ操作時間が短いほど、差圧推定値をより大きめに設定すればよい。上記構成は係る知見に基づくものである。これによれば、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激である場合であっても差圧推定値(従って、実差圧)を精度良く推定・取得することができる。なお、差圧推定値を大きめに設定するためには、例えば、計算された差圧推定値を更に大きめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定初期値を大きめに補正してもよい。
【0045】
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置において、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合(従って、増圧制御としてリニア増圧制御が実行される場合)、前記差圧推定値取得手段は、前記車両の車体減速度に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(ロック圧)を考慮して前記ホイールシリンダ圧の上限値を設定し、2回目以降のABS制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧推定値が前記上限値を超えた場合、前記差圧推定値を小さくするように構成されることが好適である。
【0046】
上述したように、ABS制御の開始時点におけるホイールシリンダ圧は、ロック圧に近い値となる。従って、例えば、ロック圧よりも十分に大きい或る値をホイールシリンダ圧の上限値と設定した場合、2回目以降のABS制御の開始時点での上記ホイールシリンダ圧推定値もこの上限値を超えないはずである。
【0047】
一方、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値が上限値を超える現象が発生する場合がある。これは、上記差圧推定値が実差圧よりも大きいことに起因する。即ち、上記差圧推定値が実差圧よりも大きいと、リニア増圧制御において上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期が遅くなる。これにより、ホイールシリンダ圧推定値が増大し続ける期間であるリニア増圧制御の期間が長くなる。この結果、次のABS制御開始時点において、実際のホイールシリンダ圧が上限値を超えないにもかかわらずホイールシリンダ圧推定値が上限値を超える場合が発生する。
【0048】
以上のことから、2回目以降のABS制御の開始時点での上記ホイールシリンダ圧推定値が上限値を超える場合、差圧推定値を小さくする必要がある。上記構成は、係る知見に基づくものである。これによれば、何らかの原因により差圧推定値が実差圧よりも大きくなる場合が発生しても、差圧推定値を実差圧に近づく方向に適切に補正することができる。なお、差圧推定値を小さくするためには、例えば、計算された差圧推定値を更に小さめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定初期値を小さめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定値が大きめに計算される処理を施してもよい。
【0049】
また、上記本発明に係るアンチスキッド制御装置において、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合(従って、増圧制御としてリニア増圧制御が実行される場合)、前記差圧推定値取得手段は、前記ロック圧を考慮して前記ホイールシリンダ圧の下限値を設定し、2回目以降のABS制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧推定値が前記下限値を下回った場合、前記差圧推定値を大きくするように構成されることが好適である。
【0050】
上述したように、ABS制御の開始時点におけるホイールシリンダ圧は、ロック圧に近い値となる。従って、例えば、ロック圧よりも十分に小さい或る値をホイールシリンダ圧の下限値と設定した場合、2回目以降のABS制御の開始時点での上記ホイールシリンダ圧推定値もこの下限値を下回らないはずである。
【0051】
一方、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値が下限値を下回る現象が発生する場合がある。これは、上記差圧推定値が実差圧よりも小さいことに起因する。即ち、上記差圧推定値が実差圧よりも小さいと、リニア増圧制御において上述した「ホイールシリンダ圧の急上昇」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期が早くなる。これにより、ホイールシリンダ圧推定値が増大し続ける期間であるリニア増圧制御の期間が短くなる。この結果、次のABS制御開始時点において、実際のホイールシリンダ圧が下限値を下回っていないにもかかわらずホイールシリンダ圧推定値が下限値を下回る場合が発生する。
【0052】
以上のことから、2回目以降のABS制御の開始時点での上記ホイールシリンダ圧推定値が下限値を下回る場合、差圧推定値を大きくする必要がある。上記構成は、係る知見に基づくものである。これによれば、何らかの原因により差圧推定値が実差圧よりも小さくなる場合が発生しても、差圧推定値を実差圧に近づく方向に適切に補正することができる。なお、差圧推定値を大きくするためには、例えば、計算された差圧推定値を更に大きめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定初期値を大きめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定値が小さめに計算される処理を施してもよい。
【0053】
また、上記本発明に係るアンチスキッド制御装置において、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合(従って、増圧制御としてリニア増圧制御が実行される場合)、前記差圧推定値取得手段は、前記車輪の回転速度における所定のハンチング現象が発生しているか否かを判定するハンチング現象判定手段を備え、前記ハンチング現象が発生していると判定された場合、前記差圧推定値を所定値だけ大きめに設定するように構成されることが好適である。
【0054】
ABS制御中において運転者がブレーキ操作量を更に増大させた場合(例えば、ブレーキペダルを増し踏みした場合)、マスタシリンダ圧(従って、実差圧)もブレーキ操作量の増大分だけ増大する。よって、この場合、それまでに実差圧に近い値に設定されていた差圧推定値が実差圧よりも小さくなり、上述した「ホイールシリンダ圧推定値が下限値を下回る場合」と同様、リニア増圧制御中において「ホイールシリンダ圧の急上昇」が発生し得る。この結果、リニア増圧制御が短期間で終了した後、直ちに次の減圧制御が開始されることになるから、車輪速度が短期間で急激に増減する現象(ハンチング現象)が発生し得る。
【0055】
このような車輪速度におけるハンチング現象を止めるためには、差圧推定値を大きめに設定する必要がある。上記構成は、係る知見に基づくものである。これによれば、ABS制御中において運転者がブレーキ操作量を更に増大させることで車輪速度におけるハンチング現象が発生した場合であっても、差圧推定値を実差圧に近づく方向に適切に補正することができ、この結果、車輪速度におけるハンチング現象を止めることができる。
【0056】
なお、差圧推定値を所定値だけ大きめに設定するためには、例えば、計算された差圧推定値を更に所定値だけ大きくなるように補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定初期値を所定値だけ大きくなるように補正してもよい。また、ハンチング現象判定手段は、例えば、ABS制御開始時点において、車輪の回転速度の時間微分値(車輪加速度)が所定値(負の値)未満であって、且つ、それまでに実行されていたリニア増圧制御の期間が所定時間未満である場合に前記ハンチング現象が発生していると判定するように構成される。
【0057】
この場合、前記ハンチング現象判定手段は、ABS制御が繰り返し開始される毎に前記車輪の回転速度における前記所定のハンチング現象が発生しているか否かを判定するように構成され、前記差圧推定値取得手段は、前記ハンチング現象が発生していると判定される毎に、前記差圧推定値を大きめに設定する量を前記所定値だけ大きくするように構成されることが好ましい。
【0058】
ABS制御中における運転者によるブレーキ操作量の増大量が大きいと、差圧推定値を上記所定値だけ大きめに設定してもなお差圧推定値が実差圧よりも小さくてその後において上記ハンチング現象が止まらない場合が発生する。この場合、差圧推定値を大きめに設定する量を更に大きくする必要がある。上記構成は係る知見に基づくものである。これによれば、上記ハンチング現象が止まるまで、ABS制御が繰り返し開始される毎に差圧推定値を大きめに設定する量を所定値ずつ大きくすることができるから、最終的には確実に上記ハンチング現象を止めることができる。
【0059】
この場合、前記差圧推定値取得手段は、前記差圧推定値を大きめに設定する量を、前記増圧制御中の所定の時点から同増圧制御の終了時点までの間において減少させていき、前記車輪の回転速度における前記所定のハンチング現象が発生していないと判定された時点以降、前記差圧推定値を大きめに設定する量を、同時点での値に維持するように構成されることが好適である。
【0060】
これによれば、上記ハンチング現象が発生していないと判定された時点での差圧推定値(従って、実差圧)を精度良く推定・取得することができ、且つ、その後においても差圧推定値を精度良い値に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下、本発明による車両のアンチスキッド制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ液圧制御装置を含む車両の運動制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、非駆動輪(従動輪)である前2輪(左前輪FL及び右前輪FR)と、駆動輪である後2輪(左後輪RL及び右後輪RR)を備えた後輪駆動(FR)方式の4輪車両である。
【0062】
この車両の運動制御装置10は、各車輪にブレーキ液圧によるブレーキ力を発生させるためのブレーキ液圧制御部30を含んでいて、ブレーキ液圧制御部30は、その概略構成を表す図2に示すように、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、各車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36と、還流ブレーキ液供給部37とを含んで構成されている。
【0063】
ブレーキ液圧発生部32は、ブレーキペダルBPの作動により応動するバキュームブースタVBと、同バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。バキュームブースタVBは、図示しないエンジンの吸気管内の空気圧力(負圧)を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し同助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
【0064】
マスタシリンダMCは、第1ポート、及び第2ポートからなる2系統の出力ポートを有していて、リザーバRSからのブレーキ液の供給を受けて、前記助勢された操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧を第1ポートから発生するようになっているとともに、同第1マスタシリンダ圧と略同一の液圧である前記助勢された操作力に応じた第2マスタシリンダ圧を第2ポートから発生するようになっている。これらマスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びバキュームブースタVB(ブレーキ液圧発生手段)は、ブレーキペダルBPの操作力に応じた第1マスタシリンダ圧及び第2マスタシリンダ圧をそれぞれ発生するようになっている。
【0065】
マスタシリンダMCの第1ポートは、FRブレーキ液圧調整部33の上流側及びFLブレーキ液圧調整部34の上流側の各々と接続されている。同様に、マスタシリンダMCの第2ポートは、RRブレーキ液圧調整部35の上流側及びRLブレーキ液圧調整部36の上流側の各々と接続されている。これにより、FRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々には、第1マスタシリンダ圧が供給されるとともに、RRブレーキ液圧調整部35の上流部及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々には、第2マスタシリンダ圧が供給されるようになっている。
【0066】
FRブレーキ液圧調整部33は、常開リニア電磁弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されている。減圧弁PDfrは、図2に示す閉状態(非励磁(OFF)に対応する状態)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSfとの連通を遮断するとともに、開状態(励磁(ON)に対応する状態)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSfとを連通するようになっている。
【0067】
増圧弁PUfrの弁体には、図示しないコイルスプリングからの付勢力に基づく開方向の力が常時作用しているとともに、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の間の差圧(上記実差圧)に基づく開方向の力と、増圧弁PUfrへの通電電流値(従って、指令電流値Id)に応じて比例的に増加する吸引力に基づく閉方向の力が作用するようになっている。
【0068】
この結果、図3に示したように、吸引力に相当する差圧(指令差圧ΔPd)が指令電流値Idに応じて比例的に増加するように決定される。ここで、I0はコイルスプリングの付勢力に相当する電流値である。増圧弁PUfrは、指令差圧ΔPdが実差圧よりも大きいとき(即ち、指令電流値Idが前記実差圧相当電流値よりも大きいとき)に閉弁してFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断する。一方、増圧弁PUfrは、指令差圧ΔPdが実差圧よりも小さいとき(即ち、指令電流値Idが実差圧相当電流値よりも小さいとき)に開弁してFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとを連通する。この結果、FRブレーキ液圧調整部33の上流部のブレーキ液がホイールシリンダWfr内に流入することで実差圧が減少して指令差圧ΔPdとつりあうようになっている。
【0069】
換言すれば、増圧弁PUfrへの指令電流値Idに応じて実差圧(の許容最大値)が制御され得るようになっている。また、増圧弁PUfrを非励磁状態にすると(即ち、指令電流値Idを「0」に設定すると)、増圧弁PUfrはコイルスプリングの付勢力により開状態を維持するようになっている。更には、指令電流値Idを実差圧として発生し得る差圧の最大値より十分に大きい指令差圧ΔPdholdに相当する値(例えば、閉弁維持電流値Ihold(図3を参照))に設定することにより、増圧弁PUfrは閉状態を維持するようになっている。
【0070】
これにより、減圧弁PDfrを閉状態に維持した状態で増圧弁PUfrへの指令電流値Idを現時点での実差圧相当電流値から徐々に小さくしていくと、実差圧が徐々に減少していき、この結果、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)は滑らかに増大していく。このようにホイールシリンダ圧をリニアに増圧する制御を「リニア増圧制御」と称呼する。
【0071】
また、増圧弁PUfrを閉状態に維持するとともに減圧弁PDfrを閉状態とすると、ホイールシリンダ圧はFRブレーキ液圧調整部33の上流部の液圧に拘わらず現時点での液圧に保持される。このようにホイールシリンダ圧を保持する制御を「保持制御」と称呼する。
【0072】
更には、増圧弁PUfrを閉状態に維持するとともに減圧弁PDfrを開状態とすると、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRSfに還流されることによりホイールシリンダ圧は減圧される。このようにホイールシリンダ圧を減圧する制御を「減圧制御」と称呼する。このように、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)には、リニア増圧制御、保持制御、及び減圧制御が実行され得るようになっている。
【0073】
加えて、増圧弁PUfrにはブレーキ液のホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部33の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されていて、これにより、操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧が迅速に減圧されるようになっている。
【0074】
同様に、FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35、RLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUrr及び減圧弁PDrr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されている。これにより、ホイールシリンダWfl,ホイールシリンダWrr及びホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧にも、リニア増圧制御、保持制御、及び減圧制御が実行され得るようになっている。また、増圧弁PUfl,PUrr及びPUrlの各々にも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3及びCV4がそれぞれ並列に配設されている。
【0075】
還流ブレーキ液供給部37は、直流モータMTと、同モータMTにより同時に駆動される2つの液圧ポンプHPf,HPrを含んでいる。液圧ポンプHPfは、減圧弁PDfr,PDflから還流されてきたリザーバRSf内のブレーキ液をチェック弁CV7を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV8,CV9を介してFRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給するようになっている。
【0076】
同様に、液圧ポンプHPrは、減圧弁PDrr,PDrlから還流されてきたリザーバRSr内のブレーキ液をチェック弁CV10を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV11,CV12を介してRRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部に供給するようになっている。なお、液圧ポンプHPf,HPrの吐出圧の脈動を低減するため、チェック弁CV8及びCV9の間の液圧回路、及びチェック弁CV11及びCV12の間の液圧回路には、それぞれ、ダンパDMf,DMrが配設されている。
【0077】
モータMT(従って、液圧ポンプHPf,HPr)は、原則的に、減圧弁PDfr,PDfl,PDrr,PDrlの少なくとも1つが開状態となっている間(従って、少なくとも1つの車輪について減圧制御が実行されている間)のみ、所定の回転速度で駆動せしめられるようになっている。
【0078】
以上、説明した構成により、ブレーキ液圧制御部30は、全ての電磁弁が非励磁状態にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ圧)を各ホイールシリンダに供給できるようになっている。また、この状態において、或る特定の増圧弁PU及び減圧弁PDをそれぞれ制御することにより、或る特定のホイールシリンダ内のブレーキ液圧のみをマスタシリンダ圧から所定量だけ減圧することができるようになっている。即ち、ブレーキ液圧制御部30は、各車輪のホイールシリンダ圧をそれぞれ独立してマスタシリンダ圧から減圧できるようになっている。
【0079】
再び、図1を参照すると、この車両の運動制御装置10は、対応する車輪が所定角度回転する毎にパルスを有する信号を出力する車輪速度センサ41fl,41fr,41rl,41rrと、ブレーキペダルBPの操作の有無に応じてオン信号(High信号)又はオフ信号(Low信号)を選択的に出力するブレーキスイッチ42と、電子制御装置50とを備えている。
【0080】
電子制御装置50は、互いにバスで接続された、CPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。
【0081】
インターフェース55は、前記車輪速度センサ41**、及びブレーキスイッチ42と接続され、CPU51に車輪速度センサ41**、及びブレーキスイッチ42からの信号を供給するとともに、同CPU51の指示に応じて、ブレーキ液圧制御部30の電磁弁(増圧弁PU**、及び減圧弁PD**)、及びモータMTに駆動信号を送出するようになっている。
【0082】
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、増圧弁PU**は、左前輪用増圧弁PUfl,
右前輪用増圧弁PUfr, 左後輪用増圧弁PUrl, 右後輪用増圧弁PUrrを包括的に示している。
【0083】
増圧弁PUへの指令電流値Id(通電電流値)は、CPU51により制御される。具体的には、CPU51は、図4に示すように、一サイクル時間Tcycleに対する増圧弁PUへの通電時間Tonの割合(即ち、デューティ比Ratioduty=(Ton/Tcycle))を調整することで平均(実効)電流(=指令電流値Id)を調整するようになっている。この結果、デューティ比Ratiodutyを車輪毎に個別に調整すること(即ち、デューティ制御)により指令電流値Idが車輪毎に個別にリニアに可変制御され得るようになっている。
【0084】
以上説明したブレーキ液圧制御部30(CPU51)は、運転者によるブレーキペダルBPの操作により発生する車輪のスリップが過度にならないように後述するアンチスキッド制御(ABS制御)を実行するようになっている。
【0085】
(ABS制御の概要)
次に、上記本発明の実施形態に係るアンチスキッド制御装置を含む車両の運動制御装置10(以下、「本装置」と云うこともある。)による、ABS制御の概要について説明する。本装置は、所定のABS制御開始条件が成立することに応答してABS制御を開始する。このABS制御では、ABS制御開始条件の成立と同時に減圧制御が開始・実行され、減圧制御中において所定の増圧制御開始条件が成立すると同減圧制御に続けてリニア増圧制御が実行される。
【0086】
そして、今回のABS制御中におけるリニア増圧制御中にて上記ABS制御開始条件が再び成立すると、実行中のリニア増圧制御を終了するとともに次回のABS制御が連続的に開始される。即ち、ABS制御開始条件が成立する時点から次にABS制御開始条件が成立する時点までの期間を一制御サイクルとすると、本装置は、上記ABS制御開始条件が成立した後、所定のABS制御終了条件が成立するまでの間、減圧制御及びリニア増圧制御を一組とするABS制御を、複数回の制御サイクルに亘って連続的に複数回実行する。以下、図5を参照しながら本装置によるABS制御についてより具体的に説明していく。
【0087】
図5は、運転者がブレーキペダルBPの操作を行ったことで時刻t1から本装置によりABS制御が開始・実行された場合における、車体速度Vso、車輪速度Vw、マスタシリンダ圧Pm、実際のホイールシリンダ圧(実ホイールシリンダ圧Pwact)、後述するホイールシリンダ圧推定値Pw、後述する差圧推定値Pdiff、及びリニア電磁弁である増圧弁PUへの指令電流値Idの変化の一例を示したタイムチャートである。
【0088】
この場合、図5に示したように、時刻t1以前ではABS制御が実行されていないから実ホイールシリンダ圧Pwactはマスタシリンダ圧Pmと等しい値となる。時刻t1になると、ABS制御開始条件が成立するから、本装置は、減圧制御(増圧弁PU:閉(指令電流値Id:Ihold)、減圧弁PD:開)を開始する。この結果、1回目の制御サイクル(1回目のABS制御)が開始されるとともに、実ホイールシリンダ圧Pwactは減少を開始する。ABS制御開始条件は、本例では、「SLIP**>SLIP1、且つ、DVw**<−DVw1」である。
【0089】
ここで、SLIP**は車輪**についてのスリップ量であって、スリップ量SLIP**は下記(1)式により表される。(1)式において、Vsoは車体速度であって、本例では車輪速度Vw**のうちの最大値である。DVw**は車輪**についての車輪加速度(即ち、車輪速度Vw**の時間微分値)である。SLIP1、DVw1はそれぞれ所定の定数である。
【0090】
SLIP**=Vso−Vw** ・・・(1)
【0091】
続いて、時刻t1’になると増圧制御開始条件が成立するから、本装置は減圧制御に続いてリニア増圧制御を開始する。増圧制御開始条件は、本例では、「SLIP**<SLIP2」である。SLIP2(<SLIP1)は所定の定数である。リニア増圧制御では、減圧弁PDは閉状態に維持される。また、リニア増圧制御では、後述するように1回目のABS制御開始時点から実差圧と一致するように逐次推定・更新されている差圧推定値Pdiffが指令差圧ΔPdとして使用され、図3に示したテーブルと、差圧推定値Pdiffとから増圧弁PUへの指令電流値Idが逐次決定・変更されていく。
【0092】
これにより、図5に示すように、リニア増圧制御中に亘ってリニアに減少していく差圧推定値Pdiffに応じて指令電流値Idもリニアに減少していく。この結果、実ホイールシリンダ圧Pwactは増大していく。
【0093】
本装置は、このリニア増圧制御を、上述したABS制御開始条件が再び成立するまで(従って、2回目のABS制御が開始されるまで)継続する。そして、時刻t2になると、再び上記ABS制御開始条件が成立するから、本装置は、実行中であるリニア増圧制御を中止して1回目のABS制御を終了するとともに、減圧制御及びリニア増圧制御を一組とする2回目のABS制御を1回目のABS制御と同じ手順で開始・実行する。
【0094】
以降、本装置は、上記ABS制御終了条件が成立しない限りにおいて、ABS制御開始条件が成立する毎に(図5では、時刻t3,t4,t5,t6,t7)、減圧制御及びリニア増圧制御を一組とする次のABS制御を1回目のABS制御と同じ手順で開始・実行していく。以上がABS制御の概要である。
【0095】
(差圧推定値Pdiff)
以下、上述したように、リニア増圧制御中における増圧弁PUへの指令電流値Idを決定するために使用される差圧推定値Pdiffについて説明する。この差圧推定値Pdiffは、マスタシリンダ圧Pmとホイールシリンダ圧との差圧(=実差圧)の推定値であり、本例では、下記(2)式に従って、1回目のABS制御開始時点(図5では、時刻t1)から上記ABS制御終了条件が成立するまでの間、算出・更新されていく。
【0096】
Pdiff=(Pw0−Pw)+Pup1+Pup2 ・・・(2)
【0097】
上記(2)式において、Pw0は、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値である。Pwは、Pw0を初期値とするABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧の推定値である。Pup1,Pup2は差圧加算値であり、これらについては後述する。
【0098】
一般に、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧Pmは、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧に近い範囲内で推移すると考えられる。従って、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧Pmとホイールシリンダ圧の差圧(上記実差圧)は、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0とホイールシリンダ圧推定値Pwとの差(Pw0−Pw)に近い範囲内で推移するであろうと考えることができる。上記(2)式(Pup1,Pup2を除く部分)は係る知見に基づくものである。以下、先ず、上記(2)式におけるホイールシリンダ圧推定初期値Pw0の設定方法について説明する。
【0099】
<ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0>
車両走行中においてホイールシリンダ圧を徐々に増大させていくと、ホイールシリンダ圧が或る圧力に達したとき車輪にロックが発生する。以下、この圧力を「ロック圧Pg」と称呼するものとすると、このロック圧Pgは、路面摩擦係数μに略比例する。
【0100】
他方、ロック発生時点での車体減速度DVsoは路面摩擦係数μに略比例する。この車体減速度DVsoは車体速度Vsoの時間微分値の符号を逆にすることで取得される。なお、この車体減速度DVsoとしては、ノイズ等の除去のため、ローパスフィルタ処理した後の値が使用される。以上のことから、ロック圧Pgは、車体減速度DVsoに略比例することになるから、下記(3)式に従って取得できる。ここで、Kgは比例定数(一定値)である。
【0101】
Pg=Kg・DVso ・・・(3)
【0102】
ところで、図6、及び図7に示すように、ブレーキペダルBPの操作開始(ブレーキスイッチ42:ON)から(1回目の)ABS制御開始までの時間(即ち、上記ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstp)が比較的長い場合(以下、「緩制動の場合」と称呼する。)、路面摩擦係数μが小さい場合(「低μ」の場合)であっても大きい場合(「高μ」の場合)であっても、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpの間に亘って、マスタシリンダ圧Pm(=実ホイールシリンダ圧Pwact)が上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgに略一致する傾向がある。従って、緩制動の場合、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を、1回目のABS制御開始時点での車体減速度DVsoに基づいて上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しい値に設定すれば、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を精度良く推定できる。
【0103】
一方、図8、及び図9に示すように、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが比較的短い場合(以下、「急制動の場合」と称呼する。)、即ち、実際の車体減速度が急激に増大する場合、上述したローパスフィルタ処理の影響により、車体減速度DVsoは、或る遅れをもって実際の車体減速度に追従していくから実際の車体減速度よりも小さめの値となる。この結果、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgが小さめの値となるから、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpの間に亘って、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgがマスタシリンダ圧Pm(=実ホイールシリンダ圧Pwact)よりも小さくなる傾向がある。
【0104】
従って、急制動の場合も緩制動の場合と同様、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を、1回目のABS制御開始時点での車体減速度DVsoに基づいて上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しい値に設定すると、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が小さめに取得されることになる。従って、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるほど、即ち、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが短いほど、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しいとして取得されるホイールシリンダ圧推定初期値Pw0をより大きい値に補正する必要がある。
【0105】
以上のことから、本装置は、図10に示した車体減速度DVsoと値PG1との関係を規定したテーブルと、図11に示したABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpと値PG2との関係を規定したテーブルを導入する。
【0106】
図10に示したテーブルによれば、値PG1は、所定の上限値及び下限値の範囲内で上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しい値(車体減速度DVsoに比例する値)となる。ここで、上限値及び下限値はそれぞれ、高μの場合及び低μの場合のロック圧Pgに相当する。
【0107】
一方、図11に示したテーブルによれば、値PG2は、所定の上限値及び下限値の範囲内でABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが短いほどより大きい値となる。ここで、この上限値及び下限値は、図10に示したものとそれぞれ同じ値である。
【0108】
本装置は、1回目のABS制御開始時点において取得される上述した値PG1と値PG2のうち大きい方をホイールシリンダ圧推定初期値Pw0として使用する。これにより、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが長い場合(即ち、緩制動の場合)、値PG1>値PG2となるから、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しい値に設定される。
【0109】
一方、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが短い場合(即ち、急制動の場合)、値PG1<値PG2となるから、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgよりも大きい値に設定される。なお、これにより、急制動の場合、低μの場合であっても、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が高μの場合のロック圧Pg相当の値に設定されることになる。これは、低μの急制動の場合、1回目のABS制御開始時点からの比較的長い期間に亘ってマスタシリンダPmが増大し続けることから(図8を参照)、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を大きめに設定しておくと差圧推定値Pdiffがより精度良く推定され得るという事実に基づく。
【0110】
このようにして、本装置によれば、差圧推定値Pdiffを精度良く推定するために必要なホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるか否かにかかわらず、且つ、路面摩擦係数μにもかかわらず、精度良く推定・取得することができる。
【0111】
<ホイールシリンダ圧推定値Pw>
次に、上記(2)式におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの算出方法について説明する。上述したように、1回目のABS制御が開始されると、ホイールシリンダ圧推定値Pwの算出が開始され(図5を参照)、1回目のABS制御開始時点でホイールシリンダ圧推定値Pwが上述したホイールシリンダ圧推定初期値Pw0に設定される。
【0112】
1回目のABS制御が開始されると、先ず、減圧制御が実行される。ここで、図12、及び図13に示すように、減圧制御中における減圧弁PDの作動によるホイールシリンダ圧(以下、「W/C圧」とも称呼する。)の減圧量ΔPdownは、ホイールシリンダ圧そのものと、減圧弁PDを開状態に維持する時間Tdownとに依存して決定される。時間Tdownを一定とすると、減圧量ΔPdownはホイールシリンダ圧そのものと比例関係にある。このような減圧弁PDによる減圧特性は、所定の実験・シミュレーション等を通して予め取得できる。
【0113】
本装置は、図13に示したテーブルから得られる減圧量ΔPdownを利用して、上記減圧制御中に亘ってホイールシリンダ圧推定初期値Pw0から減少していくホイールシリンダ圧推定値Pwを推定する(図5の時刻t1〜t1’を参照)。これにより、上記(2)式に従って算出される差圧推定値Pdiffは「0」から増大していく。
【0114】
上記減圧制御が終了すると、続いてリニア増圧制御が実行される。リニア増圧制御では、その間のホイールシリンダ圧の上昇勾配が予め適切な値に設定(設計)されている。従って、本装置は、リニア増圧制御中に亘って減圧制御終了時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwから一定の勾配で増大していくホイールシリンダ圧推定値Pwを推定する(図5の時刻t1’〜t2を参照)。これにより、上記(2)式に従って算出される差圧推定値Pdiffは減圧制御終了時点での値から減少していく。
【0115】
このようにして、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pw(=ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0)を設定すれば、1回目のABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値Pwを逐次取得していくことができる。従って、2回目のABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値Pwも、2回目のABS制御開始時点(従って、減圧制御開始時点)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを1回目のABS制御におけるリニア増圧制御の終了時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwと等しい値に設定すれば、1回目のABS制御の場合と同様に逐次取得していくことができる(図5の時刻t2〜t3を参照)。
【0116】
このような手順を繰り返すことで、3回目以降のABS制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pwも順次取得していくことができる。本装置は、このような手順により、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を利用して、連続的に複数回実行されるABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値Pwを逐次取得していくことができる。この結果、上記(2)式に従って算出される差圧推定値Pdiffも、係るホイールシリンダ圧推定値Pwに基づいて逐次推定・取得していくことができる(図5を参照)。
【0117】
ところで、ホイールシリンダ圧推定値Pwを上述した手法により推定すれば、図5に示すように、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が1回目のABS制御開始時点での実ホイールシリンダ圧Pwactから或る程度ずれた値に設定されても、その後の時間経過に従って、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactに徐々に近づいていく。これは、以下の理由に基づく。
【0118】
即ち、上述したように、減圧制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pwは、図13に示したテーブルから得られる減圧量ΔPdownを利用して推定される。この減圧量ΔPdownは、ホイールシリンダ圧が大きいほど大きくなる。従って、例えば、図5に示すように、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactよりも大きい場合、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量が同減圧制御中に亘る実ホイールシリンダ圧Pwactの総減少量よりも大きくなる。この結果、ABS制御が繰り返し実行されて減圧制御が繰り返し実行される毎に、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactに徐々に近づいていく。
【0119】
一方、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactよりも小さい場合、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量が同減圧制御中に亘る実ホイールシリンダ圧Pwactの総減少量よりも小さくなる。従って、この場合も、ABS制御が繰り返し実行されて減圧制御が繰り返し実行される毎に、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactに徐々に近づいていく。
【0120】
このように、上述した手法によりホイールシリンダ圧推定値Pwを推定すれば、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が1回目のABS制御開始時点での実ホイールシリンダ圧Pwactから或る程度ずれた値に設定されても、その後において、ホイールシリンダ圧推定値Pwを精度良く推定することができる。
【0121】
<差圧加算値Pup1>
次に、上記(2)式における差圧加算値Pup1について図14を参照しながら説明する。図14は、運転者がブレーキペダルBPの操作を行ったことで時刻t11から本装置によりABS制御が開始・実行された場合における、車体速度Vso、車輪速度Vw、マスタシリンダ圧Pm、実ホイールシリンダ圧Pwact、ホイールシリンダ圧推定値Pw、差圧推定値Pdiff、及び差圧加算値Pup2,Pup1の変化の一例を示したタイムチャートである。
【0122】
先に、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧Pmは、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧(=マスタシリンダ圧Pm)に近い範囲内で推移すると述べた。図14に示すように、実際には、マスタシリンダ圧Pmは、1回目のABS制御の開始時点からの短期間(時刻t11〜t12)に亘って、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧から更に増大していく場合も多い。このマスタシリンダPmの増圧分を差圧加算値Pup1とする。
【0123】
即ち、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧Pmは、上述したホイールシリンダ圧推定初期値Pw0に差圧加算値Pup1を加えた値近傍で推移する場合が多い。よって、差圧推定値Pdiffをより一層精度良く取得するためには、上記(2)式に示すように差圧推定値Pdiffを、値(Pw0−Pw)に更に差圧加算値Pup1を加えた値に設定することが好ましい。一方、この差圧加算値Pup1は、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが短いほど大きくなる傾向があり、図15に示すABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpと差圧加算値Pup1との関係を規定したテーブルと、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpとから取得することができる。
【0124】
以上のことから、本装置は、1回目のABS制御が開始された時点(図14では、時刻t11)にて差圧加算値Pup1を「0」に初期化し、増圧弁PUへの指令電流値Idを決定するために差圧推定値Pdiffが使用開始される時点である1回目のABS制御中におけるリニア増圧制御が開始された時点(図14では、時刻t12)から、差圧加算値Pup1(≧0)を図15のテーブルから決定される値に変更する。
【0125】
これにより、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffは、1回目のABS制御中におけるリニア増圧制御が開始された時点から、図15のテーブルから決定された差圧加算値Pup1分だけ大きめに設定される。この結果、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激である場合であっても、差圧推定値Pdiffを精度良く推定・取得することができる。
【0126】
<差圧加算値Pup2>
次に、上記(2)式における差圧加算値Pup2について図14を参照しながら説明する。図14では、4回目のABS制御実行中(時刻t13〜t15)の或る時点にて運転者がブレーキペダルBPを増し踏みした場合が示されている。ここで、この増し踏みによるマスタシリンダ圧Pmの増大量をHとする。
【0127】
この場合、増し踏みが行われた時点以降、それまでに実差圧に近い値に設定されていた差圧推定値Pdiffが実差圧よりも小さくなる。この結果、4回目のABS制御中におけるリニア増圧制御(時刻t14〜t15)において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の急上昇」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期(時刻t15)が早くなる。
【0128】
これにより、リニア増圧制御が短期間で終了した後、直ちに5回目のABS制御の減圧制御が開始されることになる。この結果、図14に示すように、車輪速度Vwが短期間で急激に増減する現象(以下、「ハンチング現象」と呼ぶ。)が発生する。このようなハンチング現象を止めるためには、差圧推定値Pdiffを大きめに設定する必要がある。このような目的で差圧推定値Pdiffに加算される値が差圧加算値Pup2(≧0)である。
【0129】
以上のことから、本装置は、2回目以降のABS制御の開始時点毎に(図14では、例えば、時刻t13、t15、t17、t18、t19等)、係るハンチング現象が発生しているか否かを判定する。本例では、「DVw<−DVw2、且つ、Tup<T1」が成立している場合にハンチング現象が発生していると判定される。ここで、Tupは、それまでに実行されていた前回のリニア増圧制御の継続時間である。DVw2、T1はそれぞれ所定の定数である。
【0130】
本装置は、ハンチング現象が発生していると判定する毎に、差圧加算値Pup2を初期値「0」から値A(定数)ずつ大きくしていく(図14では、時刻t15、t17、t18を参照)。加えて、本装置は、差圧加算値Pup2が「0」より大きい値になっている場合、差圧加算値Pup2を、リニア増圧制御の途中の所定の時点から同リニア増圧制御の終了時点までの間において徐々に減少させていく(例えば、5回目のABS制御におけるリニア増圧制御では、時刻t16〜t17を参照)。
【0131】
そして、本装置は、ハンチング現象が発生していないと判定された時点以降(図14では、時刻t19以降)、差圧加算値Pup2をその時点での値に維持する。差圧加算値Pup2をこのように設定・変更していくことで、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffは、差圧加算値Pup2が「0」より大きい期間において差圧加算値Pup2分だけ大きめに設定される(図14では、時刻t15以降を参照)。
【0132】
これにより、ハンチング現象を確実に止めることができる。加えて、ハンチング現象が発生していないと判定された時点以降(図14では、時刻t19以降)において維持される差圧加算値Pup2は、運転者によるブレーキペダルBPの増し踏みによる上述したマスタシリンダ圧Pmの増大量Hに近い値となる。従って、ハンチング現象が発生していないと判定された時点での差圧推定値Pdiffを精度良く推定・取得することができ、且つ、その後においても差圧推定値Pdiffを精度良い値に維持することができる。
【0133】
<ホイールシリンダ圧推定値の上限値・下限値の設定>
上述したように、ABS制御の開始時点におけるホイールシリンダ圧は、ロック圧Pg(=Kg・DVso)に近い値となる。従って、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwは、ロック圧Pgを含む所定の範囲内に入るはずである。ここで、図16に示すように、例えば、この範囲の上限値Pwmaxはロック圧Pgに所定値α(1<α、例えば、α=1.2)を乗じた値に設定され、この範囲の下限値Pwminはロック圧Pgに所定値β(0<β<1、例えば、β=0.8)を乗じた値に設定され得る。なお、上限値Pwmaxと下限値Pwminは、積載荷重のばらつき、ブレーキの効き(具体的には、ブレーキパッドとディスクロータの間の摩擦係数等)のばらつき等を考慮して設定されることが好ましい。
【0134】
一方、図17に示すように、2回目以降の或るABS制御の開始時点TAでのホイールシリンダ圧推定値Pwが下限値Pwminを下回る現象が発生する場合がある。これは、差圧推定値Pdiffが実差圧よりも小さいことに起因する。即ち、差圧推定値Pdiffが実差圧よりも小さいと、リニア増圧制御において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の急上昇」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期(図17では、時刻TA)が早くなる。これにより、ホイールシリンダ圧推定値Pwが増大し続ける期間であるリニア増圧制御の期間が短くなる。この結果、次のABS制御開始時点において、実ホイールシリンダ圧Pwactが下限値Pwminを下回っていないにもかかわらずホイールシリンダ圧推定値Pwが下限値Pwminを下回る場合が発生する。
【0135】
以上のことから、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwが下限値Pwminを下回る場合、差圧推定値Pdiffを大きくする必要がある。ここで、差圧推定値Pdiffを大きくする一手法として、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffの算出に使用されるホイールシリンダ圧推定値Pwが小さめに計算される処理を施すことが考えられる。
【0136】
具体的には、図17に示すように、ABS制御開始時点(時刻TA)から実行される減圧制御中(時刻TA〜TB)に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものと図13に示したテーブルとから求めることに代えて、減圧制御中(時刻TA〜TB)において下限値Pwminから減少していく(架空の)制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとから求める手法が考えられる。
【0137】
即ち、上述したように、図13に示したテーブルから得られる減圧量ΔPdownは、ホイールシリンダ圧が大きいほど大きくなる。減圧制御中(時刻TA〜TB)におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものと図13に示したテーブルとから求めた場合、ホイールシリンダ圧推定値Pwは破線に沿って減少していき、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量はΔP1となる。
【0138】
これに対し、減圧制御中(時刻TA〜TB)におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwよりも大きい制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとから求めた場合、ホイールシリンダ圧推定値Pwは実線に沿って大きく減少していき、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量はΔP2(>ΔP1)となる。
【0139】
このように、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものに代えて制御用ホイールシリンダ圧Pwsを利用して減圧制御中のホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を求めれば、減圧制御終了時点(即ち、次のリニア増圧制御開始時点、図17では、時刻TB)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを小さくすることができ、この結果、上記次のリニア増圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwも小さめに計算することができる。
【0140】
これにより、図17に示すように、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffは、ホイールシリンダ圧推定値Pwが小さくなった分だけ大きめに計算される。よって、何らかの原因により差圧推定値Pdiffが実差圧よりも小さくなる場合が発生しても、差圧推定値Pdiffを実差圧に近づく方向に適切に補正することができ、上記次のリニア増圧制御(時刻TB以降)において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の急上昇」の発生が抑制される。この結果、次のABS制御開始時点(或いは、その後の或るABS制御開始時点)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを確実に下限値Pwmin以上とすることができる。
【0141】
一方、図18に示すように、2回目以降の或るABS制御の開始時点TAでのホイールシリンダ圧推定値Pwが上限値Pwmaxを超える現象が発生する場合がある。これは、差圧推定値Pdiffが実差圧よりも大きいことに起因する。即ち、差圧推定値Pdiffが実差圧よりも大きいと、リニア増圧制御において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の増圧開始の遅れ」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期(図18では、時刻TA)が遅くなる。これにより、ホイールシリンダ圧推定値Pwが増大し続ける期間であるリニア増圧制御の期間が長くなる。この結果、次のABS制御開始時点において、実ホイールシリンダ圧Pwactが上限値Pwmaxを超えていないにもかかわらずホイールシリンダ圧推定値Pwが上限値Pwmaxを超える場合が発生する。
【0142】
以上のことから、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwが上限値Pwmaxを超える場合、差圧推定値Pdiffを小さくする必要がある。ここで、差圧推定値Pdiffを小さくする一手法として、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffの算出に使用されるホイールシリンダ圧推定値Pwが大きめに計算される処理を施すことが考えられる。
【0143】
具体的には、図18に示すように、ABS制御開始時点(時刻TA)から実行される減圧制御中(時刻TA〜TB)に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものと図13に示したテーブルとから求めることに代えて、減圧制御中(時刻TA〜TB)において上限値Pwmaxから減少していく(架空の)制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとから求める手法が考えられる。
【0144】
即ち、上述したように、図13に示したテーブルから得られる減圧量ΔPdownは、ホイールシリンダ圧が大きいほど大きくなる。減圧制御中(時刻TA〜TB)におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものと図13に示したテーブルとから求めた場合、ホイールシリンダ圧推定値Pwは破線に沿って大きく減少していき、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量はΔP1となる。
【0145】
これに対し、減圧制御中(時刻TA〜TB)におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwよりも小さい制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとから求めた場合、ホイールシリンダ圧推定値Pwは実線に沿って減少していき、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量はΔP2(<ΔP1)となる。
【0146】
このように、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものに代えて制御用ホイールシリンダ圧Pwsを利用して減圧制御中のホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を求めれば、減圧制御終了時点(即ち、次のリニア増圧制御開始時点、図18では、時刻TB)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを大きくすることができ、この結果、上記次のリニア増圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwも大きめに計算することができる。
【0147】
これにより、図18に示すように、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffは、ホイールシリンダ圧推定値Pwが大きくなった分だけ小さめに計算される。よって、何らかの原因により差圧推定値Pdiffが実差圧よりも大きくなる場合が発生しても、差圧推定値Pdiffを実差圧に近づく方向に適切に補正することができ、上記次のリニア増圧制御(時刻TB以降)において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の増圧開始の遅れ」の発生が抑制される。この結果、次のABS制御開始時点(或いは、その後の或るABS制御開始時点)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを確実に上限値Pwmax以下とすることができる。以上が、差圧推定値Pdiffの算出の概要である。
【0148】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明の実施形態に係るアンチスキッド制御装置を含む車両の運動制御装置10の実際の作動について、電子制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図19〜図25を参照しながら説明する。図19〜図25に示したルーチンは、車輪毎に実行される。
【0149】
CPU51は、図19に示した車輪速度等の算出を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1900から処理を開始し、ステップ1905に進んで、車輪**の車輪速度(車輪**の外周の速度)Vw**を算出する。具体的には、CPU51は車輪速度センサ41**が出力する信号が有するパルスの時間間隔に基づいて車輪速度Vw**を算出する。
【0150】
次いで、CPU51はステップ1910に進み、前記車輪速度Vw**のうちの最大値を車体速度Vsoとして算出する。なお、車輪速度Vw**の平均値を車体速度Vsoとして算出してもよい。次に、CPU51はステップ1915に進み、ステップ1910にて算出した車体速度Vsoの値と、ステップ1905にて算出した車輪速度Vw**の値と、上記(1)式とに基づいて車輪**のスリップ量SLIP**を算出する。
【0151】
次いで、CPU51はステップ1920に進み、下記(4)式に従って前記車輪速度**の時間微分値としての車輪**の車輪加速度DVw**を算出する。下記(4)式において、Vw1**は前回の本ルーチン実行時におけるステップ1905にて算出された車輪速度Vw**であり、Δtは前記所定時間(CPU51の本ルーチンについての実行周期)である。
【0152】
DVw**=(Vw**-Vw1**)/Δt ・・・(4)
【0153】
そして、CPU51はステップ1925に進んで、下記(5)式に従って前記車体速度Vsoの時間微分値の符号を逆にした値としての車体減速度DVsoを算出した後、ステップ1995に進んで本ルーチンを一旦終了する。下記(5)式において、Vso1は前回の本ルーチン実行時におけるステップ1910にて算出された車体速度Vsoである。
【0154】
DVso=−(Vso-Vso1)/Δt ・・・(5)
【0155】
また、CPU51は、図20に示したASB制御の開始・終了判定を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ2000から処理を開始し、ステップ2005に進んで、変数CYCLE**の値が「0」であるか否かを判定する。ここで、変数CYCLE**は、車輪**について、その値が「0」のときABS制御が実行されていないことを示し、その値が「N」のときN回目のABS制御が実行されていることを示す(N:自然数)。
【0156】
いま、車輪**について、ABS制御が実行されておらず、且つ、ABS制御開始条件が成立していないものとすると、変数CYCLE**の値は「0」になっているから、CPU51はステップ2005にて「Yes」と判定してステップ2010に進み、ブレーキスイッチ42がオン信号を出力しているか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ2015に進んでカウンタTstp**を「0」に初期化する。
【0157】
一方、ステップ2010にて「Yes」と判定する場合、CPU51はステップ2020に進んで、カウンタTstp**を「1」だけインクリメントする。即ち、カウンタTstp**は、運転者によるブレーキペダルBP操作の継続時間を表す。
【0158】
次に、CPU51はステップ2025に進み、車輪**について上記ABS制御開始条件が成立しているか否かを判定する。ここにおいて、SLIP**としては先のステップ1915にて算出されている最新値が使用され、DVw**としては先のステップ1920にて算出されている最新値が使用される。
【0159】
現時点では、車輪**についてABS制御開始条件は成立していないから、CPU51はステップ2025にて「No」と判定してステップ2095に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような処理は、車輪**についてABS制御開始条件が成立するまで繰り返し実行される。
【0160】
次に、この状態にて、運転者がブレーキペダルBPを操作することにより、車輪**についてABS制御開始条件が成立したものとすると(図5の時刻t1、図14の時刻t11を参照。)、CPU51はステップ2025に進んだとき「Yes」と判定してステップ2030に進み、変数CYCLE**の値を「0」から「1」に変更し、続くステップ2035にて変数Mode**の値を「1」に設定する。ここで、変数Mode**は、車輪**について、その値が「1」のとき減圧制御が実行されていることを示し、その値が「2」のときリニア増圧制御が実行されていることを示す。
【0161】
続いて、CPU51はステップ2040に進んで、車輪**についてのABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstps**を先のステップ2020にて更新されている現時点でのカウンタTstp**と等しい値に設定する。これにより、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstps**は、ブレーキペダルBPの操作開始から車輪**についての1回目のABS制御開始までの時間に相当する値となる。
【0162】
次に、CPU51はステップ2045に進んで、先のステップ1925にて算出されている車体減速度DVsoの最新値(即ち、1回目のABS制御開始時点での値)と、図10に示したテーブルとから値PG1**を決定し、続くステップ2050にて、先のステップ2040にて設定されているABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstps**と、図11に示したテーブルとから値PG2**を決定する。
【0163】
次いで、CPU51はステップ2055に進んで、車輪**についてのホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**を、値PG1**と値PG2**のうち大きい方の値に設定し、続くステップ2060にて、車輪**についての差圧加算値Pup1**、差圧加算値Pup2**、及び差圧推定値Pdiff**を「0」に初期化し、続くステップ2065にて、車輪**についてのホイールシリンダ圧推定値Pw**、及び制御用ホイールシリンダ圧Pws**を、上記ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**と等しい値に設定した後、ステップ2095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0164】
以降、CPU51はステップ2005に進んだとき「No」と判定してステップ2070に進むようになり、同ステップ2070にて車輪**についてABS制御終了条件が成立しているか否かをモニタする。ABS制御終了条件は、ブレーキスイッチ42がオフ信号を出力しているとき(即ち、運転者がブレーキペダルBPの操作を終了したとき)、或いは、「Mode**=2」となっている状態(即ち、リニア増圧制御の実行)が所定時間Tref以上継続しているときに成立する。
【0165】
現時点はABS制御開始条件が成立した直後であるから、CPU51はステップ2070にて「No」と判定する。以降、ステップ2070のABS制御終了条件が成立しない限りにおいて、CPU51はステップ2005、2070の処理を繰り返し実行する。この処理を繰り返している間、CPU51は後述する図21〜図25のルーチンの実行により車輪**について減圧制御及びリニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行する。
【0166】
CPU51は、図21に示したABS制御の実行を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ2100から処理を開始し、ステップ2102に進んで、変数CYCLE**の値が「0」以外(即ち、車輪**についてABS制御実行中)であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ2195に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0167】
いま、車輪**についてABS制御開始条件が成立した直後であって、先のステップ2030の実行により変数CYCLE**の値が「0」から「1」に変更された直後であるものとすると(図5の時刻t1、図14の時刻t11を参照。)、CPU51はステップ2102にて「Yes」と判定してステップ2104に進み、変数Mode**の値が「1」になっているか否かを判定する。
【0168】
現時点では、先のステップ2035の処理により変数Mode**の値は「1」になっているから、CPU51はステップ2104にて「Yes」と判定してステップ2106に進んで、車輪**についての減圧弁PD**を開状態とするとともに、増圧弁PU**への通電電流値が値Ihold(図3を参照)となるように通電電流値をデューティ制御する。これにより、車輪**について1回目のABS制御の減圧制御が開始・実行される。
【0169】
次いで、CPU51はステップ2108に進んで、変数CYCLE**の値が「2」以上となっているか否か(即ち、2回目以降のABS制御実行中であるか否か)を判定する。現時点では、変数CYCLE**の値は「1」であるから、CPU51はステップ2108にて「No」と判定してステップ2110に進み、制御用ホイールシリンダ圧Pws**(現時点では、先のステップ2065の処理により、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**と等しい)と、CPU51の本ルーチンについての実行周期Δtと、図13に示したテーブルとに基づいて、減圧制御中における実行周期Δtの間のホイールシリンダ圧推定値Pw**(及び、制御用ホイールシリンダ圧Pws**)の減圧量DP**(<0)を求める。
【0170】
続いて、CPU51はステップ2112を経由して図22に示したPws,Pw,Pdiffの更新を行うルーチンの処理をステップ2200から開始する。即ち、CPU51はステップ2200からステップ2205に進むと、制御用ホイールシリンダ圧Pws**を、その時点での値(現時点では、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**と等しい)に先のステップ2110にて求めた減圧量DP**を加えた値に更新し、続くステップ2210にて、ホイールシリンダ圧推定値Pw**を、その時点での値(現時点では、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**と等しい)に同減圧量DP**を加えた値に更新する。
【0171】
続いて、CPU51はステップ2215を経由して図23に示した差圧加算値Pup1を設定するルーチンの処理をステップ2300から開始する。即ち、CPU51はステップ2300からステップ2305に進むと、変数CYCLE**の値が「1」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合(即ち、2回目以降のABS制御が実行されている場合)、ステップ2395に直ちに進む。
【0172】
現時点では、1回目のABS制御中であって変数CYCLE**の値は「1」であるから、CPU51はステップ2305にて「Yes」と判定してステップ2310に進み、変数Mode**の値が「1」から「2」に変化(即ち、減圧制御からリニア増圧制御に移行)したか否かを判定する。
【0173】
現時点は、減圧制御が開始された直後であって変数Mode**の値が「1」に維持されている。従って、CPU51はステップ2310に「No」と判定してステップ2395に進む。これにより、差圧加算値Pup1**は変更されることなく先のステップ2060にて設定された初期値「0」に維持される。そして、CPU51はステップ2395を経由して図22のステップ2220に戻り、ステップ2220を経由して図24に示した差圧加算値Pup2を設定するルーチンの処理をステップ2400から開始する。
【0174】
即ち、CPU51はステップ2400からステップ2405に進むと、変数CYCLE**の値が「2」以上であるか否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ2410以降の処理を実行する。現時点では、変数CYCLE**の値は「1」であるから、CPU51はステップ2405にて「No」と判定してステップ2495に直ちに進む。これにより、差圧加算値Pup2**も変更されることなく先のステップ2060にて設定された初期値「0」に維持される。
【0175】
そして、CPU51はステップ2495を経由して図22のステップ2225に戻り、現時点でのPw0**,Pw**,Pup1**,Pup2**と、上記(2)式とに基づいて車輪**についての差圧推定値Pdiff**を更新し(求め)、ステップ2295に進む。これにより、制御用ホイールシリンダ圧Pws**、ホイールシリンダ圧推定値Pw**、及び差圧推定値Pdiff**が更新される。なお、1回目のABS制御中においては、制御用ホイールシリンダ圧Pws**とホイールシリンダ圧推定値Pw**とは常に同じ値となる。
【0176】
次に、CPU51は、ステップ2295を経由して図21のステップ2114に戻り、上記増圧制御開始条件が成立したか否かを判定する。現時点は減圧制御が開始された直後であるからSLIP**の値は値SLIP2よりも大きい。従って、CPU51はステップ2114にて「No」と判定してステップ2195に直ちに進む。
【0177】
このような処理は、車輪**について増圧制御開始条件が成立するまで繰り返し実行される。この結果、車輪**について1回目のABS制御の減圧制御が継続され、制御用ホイールシリンダ圧Pws**、及びホイールシリンダ圧推定値Pw**が同じ値を採りながら減少していき、差圧推定値Pdiff**が増大していく(図5の時刻t1〜t1’、図14の時刻t11〜t12を参照)。
【0178】
そして、所定時間が経過して車輪**について上記増圧制御開始条件が成立すると(図5の時刻t1’、図14の時刻t12を参照。)、CPU51は図21のステップ2114に進んだとき「Yes」と判定してステップ2116に進み、変数Mode**の値を「1」から「2」に変更し、続くステップ2118にてカウンタTup**の値を「0」に初期化する。このカウンタTup**は、車輪**についてのリニア増圧制御の継続時間を表す。
【0179】
以降、変数Mode**の値が「2」になっているから、CPU51はステップ2104に進んだとき「No」と判定してステップ2120に進むようになる。CPU51はステップ2120に進むと、先のステップ2025の条件と同じABS制御開始条件が再び成立しているか否か(即ち、2回目の制御サイクルが開始されるか否か)を判定する。
【0180】
現時点では、1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が開始された直後であるからABS制御開始条件は成立していない。従って、CPU51はステップ2120にて「No」と判定してステップ2122に進み、その時点(現時点ではリニア増圧制御開始時点、図5の時刻t1’、図14の時刻t12を参照)での差圧推定値Pdiffと、図3に示したテーブルとから車輪**についての増圧弁PU**への指令電流値Id**を決定する。
【0181】
続いて、CPU51はステップ2124に進んで、車輪**についての減圧弁PD**を閉状態とするとともに、増圧弁PU**への通電電流値が上記決定された指令電流値Id**となるように通電電流値をデューティ制御する。これにより、車輪**について1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が開始・実行される。
【0182】
次に、CPU51はステップ2126に進んで、リニア増圧制御中における実行周期Δtの間のホイールシリンダ圧推定値Pw**(及び、制御用ホイールシリンダ圧Pws**)の増圧量DP**(>0)を求める。ここで、Kupは、リニア増圧制御中におけるホイールシリンダ圧の上昇勾配に相当する値(正の値)である。
【0183】
続いて、CPU51はステップ2128を経由して上述した図22のルーチンの処理を開始し、ステップ2205、2210の処理を実行した後、ステップ2215を経由して図23のルーチンの処理を開始する。現時点は1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が開始された直後であるから、変数CYCLE**の値は「1」であり、変数Mode**の値は「1」から「2」に変更された直後である。
【0184】
従って、CPU51はステップ2305、2310にて「Yes」と判定してステップ2315に進み、差圧加算値Pup1を、それまでの値「0」から、先のステップ2040にて設定されたABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstps**と図15に示したテーブルとに基づいて得られる値に変更する。なお、これ以降、ステップ2310にて「No」と判定されるようになるから、差圧加算値Pup1は、ABS制御終了条件(図20のステップ2070の条件)が成立するまでの間、この値に維持される。
【0185】
そして、CPU51はステップ2395を経由して、図22のステップ2220(即ち、図24のルーチン)、及び、ステップ2225の処理を実行した後、ステップ2295を経由して図21のステップ2130に戻り、カウンタTup**の値を「1」だけインクリメントした後、ステップ2195に進む。このような処理は、ABS開始条件が再び成立するまで繰り返し実行される。
【0186】
これにより、車輪**について1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が継続され、制御用ホイールシリンダ圧Pws**、及びホイールシリンダ圧推定値Pw**が同じ値を採りながら増大していき、差圧推定値Pdiff**が減少していく(図5の時刻t1’〜t2を参照)。加えて、1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が開始された時点以降、図22のステップ2225にて算出・更新されていく差圧推定値Pdiff**がステップ2315にて計算された差圧加算値Pup1**分だけ大きめに計算されていく(図14の時刻t12以降を参照)。
【0187】
そして、所定時間が経過して車輪**について上記ABS制御開始条件が再び成立すると(図5の時刻t2を参照)、CPU51は図21のステップ2120に進んだとき「Yes」と判定してステップ2132に進み、変数CYCLE**の値を「1」だけインクリメントし、続くステップ2134にて変数Mode**の値を「2」から「1」に変更し、続くステップ2136にて車輪**についてのリニア増圧制御継続時間Tups**を先のステップ2130にて更新されている現時点でのカウンタTup**と等しい値に設定する。これにより、リニア増圧制御継続時間Tups**は、それまでに実行されていたリニア増圧制御の継続時間に相当する値となる。以上により、1回目のABS制御が終了し、2回目のABS制御が開始される。
【0188】
即ち、変数CYCLE**の値が「2」、変数Mode**の値が「1」になっている。従って、CPU51はステップ2102、及びステップ2104にて「Yes」と判定し、ステップ2106の処理を実行した後(即ち、2回目のABS制御における減圧制御を開始した後)、ステップ2108にて「Yes」と判定してステップ2138に進み、変数CYCLE**の値が変化したか否か(即ち、ABS制御開始条件が成立した直後(減圧制御が開始された直後)であるか否か)を判定するようになる。
【0189】
現時点では、変数CYCLE**の値が「1」から「2」に変化した直後であるから、CPU51はステップ2138にて「Yes」と判定し、ステップ2140を経由して図25に示した制御用ホイールシリンダ圧Pwsの設定を行うルーチンの処理をステップ2500から開始する。このように、図25に示したルーチンの処理は、2回目以降のABS制御が開始される毎に実行される。
【0190】
即ち、CPU51はステップ2500からステップ2505に進むと、先のステップ1925にて更新されている車体減速度DVsoの最新値(即ち、減圧制御開始時点での値)と、上記(3)式とに基づいてロック圧Pg**を求め、続くステップ2510にて前記ロック圧Pg**に値α(1<α)を乗じることで上限値Pwmax**を求め、続くステップ2515にて前記ロック圧Pg**に値β(0<β<1)を乗じることで下限値Pwmin**を求める。
【0191】
そして、CPU51はステップ2520に進んで、車輪**についての制御用ホイールシリンダ圧Pws**を、上記下限値Pwmin**と、ステップ2210にて更新されているその時点(即ち、2回目以降のABS制御開始時点)での制御用ホイールシリンダ圧Pws**と、上記上限値Pwmax**のうち真ん中の値に設定した後、ステップ2595を経由して図21のステップ2110以降の処理を実行する。
【0192】
これにより、2回目以降のABS制御開始時点での制御用ホイールシリンダ圧Pws**は、その時点での値が上限値Pwmax**と下限値Pwmin**の間の値であれば、その時点での値に維持される。
【0193】
一方、2回目以降のABS制御開始時点での制御用ホイールシリンダ圧Pws**は、その時点での値が上限値Pwmax**を超えていれば、上限値Pwmax**となり、その時点での値が下限値Pwmin**を下回っていれば、下限値Pwmax**となる。
【0194】
即ち、この場合、図17、及び図18を参照しながら説明した制御用ホイールシリンダ圧Pws**が設定されることになる。従って、この場合、図21のステップ2110にて計算される2回目以降のABS制御における減圧制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pw**の減圧量DP**(<0)が大きめ、或いは小さめに計算されていく(図17、及び図18の実線を参照)。
【0195】
加えて、2回目以降のABS制御実行中の場合(即ち、変数CYCLE**の値が「2」以上の場合)、CPU51は、図21のステップ2112を経由して実行される図22のルーチンのステップ2220を経由して図24のルーチンを実行する場合、ステップ2405にて「Yes」と判定するようになる。即ち、CPU51はステップ2405に進むと「Yes」と判定してステップ2410に進み、変数CYCLE**の値が変化したか否かを判定する。
【0196】
いま、変数CYCLE**の値が変化した直後であるものとすると(2回目以降のABS制御開始直後であるものとすると)、CPU51はステップ2410にて「Yes」と判定してステップ2415に進み、先のステップ2136にて設定されている前回のリニア増圧制御継続時間Tups**が所定時間T1未満であり、且つ、ステップ1920にて算出されている車輪加速度DVw**が所定値−DVw2未満であるか否か(即ち、上述したハンチング現象が発生しているか否か)を判定する。
【0197】
いま、CPU51はステップ2415にて「Yes」と判定するものとすると、ステップ2420に進み、差圧加算値Pup2**を、その時点での値(初期値は、先のステップ2060にて設定された「0」)に値A(一定値)を加えた値に更新する(例えば、図14の時刻t15を参照)。
【0198】
続いて、CPU51はステップ2425に進み、変数Mode**の値が「2」であり、且つ、ステップ2130にて更新されているカウンタTup**の値が所定値T4より大きいか否か(即ち、リニア増圧制御中であって、リニア増圧制御開始から所定値T4に相当する時間が経過したか否か)を判定する。現時点では、2回目以降のABS制御における減圧制御が実行されているから、CPU51はステップ2425にて「No」と判定してステップ2495に進む。
【0199】
なお、以降、ステップ2410に進んだCPU51はステップ2410にて「No」と判定してステップ2425に直ちに進み、ステップ2425でも「No」と判定する。図24のルーチンにおけるこのような処理は、ステップ2425の条件が成立するまで繰り返し実行される。
【0200】
そして、2回目以降のABS制御において減圧制御が終了し、その後に続けて実行されるリニア増圧制御の開始から前記所定値T4に相当する時間が経過したものとする(例えば、図14の時刻t16を参照)。この場合、ステップ2116の処理により変数Mode**の値が「2」となっていて、且つ、ステップ2130にて更新されているカウンタTup**が所定値T4より大きい値となっている。
【0201】
従って、図21のステップ2128を経由して実行される図22のルーチンのステップ2220を経由して図24のルーチンを実行するCPU51は、ステップ2425に進んだとき「Yes」と判定してステップ2430に進み、差圧加算値Pup2を、「0」以上の範囲内で、その時点での値から「1」だけ小さくするようになる。このような処理は、変数CYCLE**の値が変更されて(即ち、次のABS制御が開始されて)ステップ2410にて「Yes」と判定されるまで繰り返し実行される(例えば、図14の時刻t16〜t17を参照)。
【0202】
次のABS制御が開始されると、図24のステップ2410にて再び「Yes」と判定されてステップ2415の判定が行われる。ここで、「Yes」と判定される場合、ステップ2420にて差圧加算値Pup2**が、その時点での値に値Aを加えた値に再び更新される(例えば、図14の時刻t17、t18を参照)。
【0203】
一方、ステップ2415にて「No」と判定されると(即ち、ハンチング現象が止まったと判定されると)、CPU51はステップ2435に進み、前回のリニア増圧制御継続時間Tups**が正常な範囲内(T2≦Tups**≦T3:T2,T3は定数)であるか否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ2425に直ちに進み、変数Mode**の値が「1」になっているから「No」と判定してステップ2495に進む。これにより、以降、差圧加算値Pup2**がステップ2415にて「No」と判定された時点での値に維持される(図14の時刻t19以降を参照)。
【0204】
一方、ステップ2435にて「No」と判定される場合、前回のリニア増圧制御継続時間Tups**に異常が発生している。即ち、上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」、或いは「ホイールシリンダ圧の急上昇」が発生している可能性が高く、差圧推定値Pdiff**が実差圧と乖離している可能性が高い。この場合、CPU51はステップ2440に進んで信頼性の低い値となっている差圧加算値Pup2**を「0」にクリアする。
【0205】
このように、2回目のABS制御が開始された時点以降、図22のステップ2225にて算出・更新されていく差圧推定値Pdiff**が図24のルーチンの処理にて逐次変更され得る差圧加算値Pup2**分だけ大きめに計算されていく。
【0206】
以上説明したCPU51による作動は、ステップ2005、2070の処理が繰り返し実行されている先の図20のルーチンにおけるステップ2070のABS制御終了条件が成立しない限りにおいて実行され得るものである。従って、上述した作動の途中において運転者がブレーキペダルBPの操作を終了する場合等、ステップ2070の条件が成立すると、CPU51はステップ2070にて「Yes」と判定してステップ2075に進んで変数CYCLE**の値を「0」以外の値から「0」に変更し、続くステップ2080にて総ての電磁弁(具体的には増圧弁PU**、減圧弁PD**)を非励磁状態にする。これにより、実行されていた一連のABS制御が終了する。
【0207】
以降、CPU51は図21のステップ2102に進んだとき、「No」と判定してステップ2195に直ちに進むようになる。この結果、ABS制御が実行されない。また、CPU51は図20のステップ2005に進んだとき「Yes」と判定して再びステップ2025に進むようになり、ステップ2025にて再びABS制御開始条件が成立しているか否かをモニタするようになる。
【0208】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る車両のアンチスキッド制御装置によれば、増圧弁PUとして通電電流値がデューティ制御によりリニアに制御される常開リニア電磁弁を採用するとともに、減圧弁PDとして常閉電磁開閉弁を採用する。そして、この装置は、ABS制御開始条件成立後、ABS制御終了条件成立までの間、減圧制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行していく。
【0209】
この装置は、ABS制御開始条件が成立すると、ホイールシリンダ圧推定値Pwの初期値Pw0を、ABS制御開始条件成立時点での車体減速度DVso(即ち、ロック圧Pg)と、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpとに基づいて決定し、このホイールシリンダ圧推定初期値Pw0と減圧弁PDの減圧特性等に基づいてABS制御中のホイールシリンダ圧推定値Pwを推定していく。
【0210】
そして、この装置は、ABS制御中において、上記(2)式(Pdiff=(Pw0−Pw)+Pup1+Pup2)に従って、マスタシリンダ圧Pmとホイールシリンダ圧との差圧の推定値Pdiffを推定し、この差圧推定値Pdiffを用いてリニア増圧制御中における増圧弁PUへの指令電流値Idを決定する。差圧加算値Pup1は、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpに応じて設定され、差圧加算値Pup2は、ABS制御中におけるブレーキペダルBPの増し踏みに応じて設定される。
【0211】
これにより、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるか否かにかかわらず、且つ、路面摩擦係数μにもかかわらず、差圧推定値Pdiffを、1回目のABS制御中から精度良く推定・取得することができる。また、ABS制御の途中でブレーキペダルBPの増し踏みが発生した場合も、増し踏みにより増大させるべき差圧推定値Pdiffを精度良く推定・取得していくことができる。
【0212】
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、減圧制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行しているが、減圧制御・保持制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行するように構成してもよい。
【0213】
また、上記実施形態においては、1回目のABS制御におけるリニア増圧制御開始時点以降、差圧加算値Pup1を、「0」から、図15に示したテーブルに基づいて得られる値に常に変更するように構成されているが(ステップ2310、2315を参照)、値PG1>値PG2が成立する場合にのみ、差圧加算値Pup1を、「0」から、図15に示したテーブルに基づいて得られる値に変更するように構成してもよい。
【0214】
また、上記実施形態においては、値PG1と値PG2の最大値を同じ値としているが(図10、及び図11を参照)、値PG1と値PG2の最大値を異ならせてもよい。
【0215】
また、上記実施形態においては、減圧制御中において、ホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を図13に示したテーブルを利用してプログラムの実行周期Δt毎に求めているが、減圧制御の継続期間に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量(総減圧量)を図13に示したテーブルを利用して一時に求めてもよい。
【0216】
また、上記実施形態においては、上記(2)式において、差圧加算値Pup1,Pup2を、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0とは独立して差圧推定値Pdiffに加算しているが、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0そのものを差圧加算値Pup1,Pup2だけ大きくなるように補正することで差圧加算値Pup1,Pup2を差圧推定値Pdiffに加算してもよい。
【0217】
また、上記実施形態においては、ABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwが下限値Pwminを下回った場合、減圧制御中において下限値Pwminから減少していく架空の制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとに基づいて減圧制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を大きめに計算していくことで差圧推定値Pdiffを大きめに計算するように構成されているが、ABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwの下限値Pwminに対する不足分だけホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を大きくなるように補正することで差圧推定値Pdiffを大きめに計算してもよい。
【0218】
また、上記実施形態においては、ABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwが上限値Pwmaxを超えた場合、減圧制御中において上限値Pwmaxから減少していく架空の制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとに基づいて減圧制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を小さめに計算していくことで差圧推定値Pdiffを小さめに計算するように構成されているが、ABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwの上限値Pwmaxに対する過剰分だけホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を小さくなるように補正することで差圧推定値Pdiffを小さめに計算してもよい。
【0219】
また、上記実施形態においては、ロック圧Pgに所定値α(1<α)、所定値β(0<β<1)を乗じることで上限値Pwmax、下限値Pwminをそれぞれ求めているが、ロック圧Pgに所定値α’(α>0)、所定値β’(β<0)を加えることで上限値Pwmax、下限値Pwminをそれぞれ求めてもよい。
【0220】
また、上記実施形態においては、差圧加算値Pup2に値Aを加えるタイミングをABS制御開始時点(即ち、減圧制御開始時点)としているが、差圧加算値Pup2に値Aを加えるタイミングをリニア増圧制御開始時点としてもよい。
【0221】
加えて、上記実施形態においては、増圧弁として(常開)リニア電磁弁PUが使用されているが、増圧弁として(常開)電磁開閉弁が使用されてもよい。この場合、図26に示すように、リニア増圧制御に代えて増圧弁の開閉を交互に繰り返す(従って、増圧期間・保持期間を交互に繰り返す)開閉増圧制御が実行される。この開閉増圧制御における増圧弁の開閉パターンは、差圧推定値Pdiffに基づいて決定される。
【0222】
即ち、図27に示すように、開閉増圧制御中における電磁開閉弁である増圧弁の開作動によるホイールシリンダ圧の増圧量ΔPupは、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧と、増圧弁を開状態に維持する時間Tupとに依存して決定される。このような増圧弁による増圧特性は、所定の実験・シミュレーション等を通して予め取得できる。
【0223】
従って、例えば、開閉増圧制御中における各増圧期間の長さを時間Y(一定)とすれば、時間Yと、開閉増圧制御の開始時点(従って、それまでに実行されていた減圧制御の終了時点)での差圧推定値Pdiffと、図27に示すテーブルとを利用して、各増圧期間中におけるホイールシリンダ圧の増圧量をそれぞれ取得することができる。なお、これにより、開閉増圧制御の開始時点(従って、それまでに実行されていた減圧制御の終了時点)でのホイールシリンダ圧推定値Pwと、各増圧期間中におけるホイールシリンダ圧の増圧量とから、開閉増圧制御中に亘ってステップ状に増大していくホイールシリンダ圧Pwを推定することができる。
【0224】
この結果、1回の保持期間とその保持期間に続く1回の増圧期間の和に対するその1回の増圧期間中におけるホイールシリンダ圧の増圧量の割合(即ち、ホイールシリンダ圧の平均的な上昇勾配)が、リニア電磁弁によりリニア増圧制御が実行される場合のホイールシリンダ圧の上昇勾配(ステップ2126における値Kupに相当する値)と一致するように、各保持期間の長さ(図26では、時間X1〜時間X5)をそれぞれ設定することができる。これにより、開閉増圧制御中において、リニア電磁弁によりリニア増圧制御が実行される場合と略同一のホイールシリンダ圧の増圧特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】本発明の実施形態に係る車両のアンチスキッド制御装置を含む車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したブレーキ液圧制御部の概略構成図である。
【図3】図2に示した増圧弁についての指令電流と指令差圧との関係を示したグラフである。
【図4】図3に示した指令電流をデューティ制御にて制御する際の通電パターンを示した図である。
【図5】図1に示したアンチスキッド制御装置によりABS制御が開始・実行された場合における、車体速度、車輪速度、マスタシリンダ圧、実ホイールシリンダ圧、ホイールシリンダ圧推定値、差圧推定値、及びリニア電磁弁である増圧弁への指令電流値の変化の一例を示したタイムチャートである。
【図6】低μ路面で緩制動がなされた場合におけるホイールシリンダ圧推定初期値の設定についての理解を容易にするための図である。
【図7】高μ路面で緩制動がなされた場合におけるホイールシリンダ圧推定初期値の設定についての理解を容易にするための図である。
【図8】低μ路面で急制動がなされた場合におけるホイールシリンダ圧推定初期値の設定についての理解を容易にするための図である。
【図9】高μ路面で急制動がなされた場合におけるホイールシリンダ圧推定初期値の設定についての理解を容易にするための図である。
【図10】ホイールシリンダ圧推定初期値を設定する際に考慮される値PG1と、車体減速度との関係を示したグラフである。
【図11】ホイールシリンダ圧推定初期値を設定する際に考慮される値PG2と、ABS制御開始前ブレーキ操作時間との関係を示したグラフである。
【図12】減圧弁が開状態に維持されている場合における、時間に対するホイールシリンダ圧の減圧特性を示したグラフである。
【図13】減圧弁が開状態に維持されている場合における、開弁維持時間と、ホイールシリンダ圧と、ホイールシリンダ圧の減圧量との関係を示したグラフである。
【図14】図1に示したアンチスキッド制御装置によりABS制御が開始・実行された場合における、車体速度、車輪速度、マスタシリンダ圧、実ホイールシリンダ圧、ホイールシリンダ圧推定値、差圧推定値、及び差圧加算値の変化の一例を示したタイムチャートである。
【図15】差圧加算値と、ABS制御開始前ブレーキ操作時間との関係を示したグラフである。
【図16】ロック圧と、ホイールシリンダ圧の上限値と、ホイールシリンダ圧の下限値との関係を示したグラフである。
【図17】ホイールシリンダ圧推定値がホイールシリンダ圧の下限値を下回った場合において、差圧推定値を大きめに計算するための手法を説明するための図である。
【図18】ホイールシリンダ圧推定値がホイールシリンダ圧の上限値を超えた場合において、差圧推定値を小さめに計算するための手法を説明するための図である。
【図19】図1に示したCPUが実行する車輪速度等を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図20】図1に示したCPUが実行するABS制御の開始・終了判定を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図21】図1に示したCPUが実行するABS制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図22】図1に示したCPUが実行する、制御用ホイールシリンダ圧、ホイールシリンダ圧推定値、差圧推定値の更新を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図23】図1に示したCPUが実行する差圧加算値を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図24】図1に示したCPUが実行する差圧加算値を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図25】図1に示したCPUが実行する制御用ホイールシリンダ圧を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図26】増圧弁として電磁開閉弁が使用された場合において開閉増圧制御が実行された場合における増圧弁の開閉パターンの一例を示したグラフである。
【図27】電磁開閉弁である増圧弁が開状態に維持されている場合における、開弁維持時間と、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の差圧と、ホイールシリンダ圧の増圧量との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0226】
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧制御部、41**…車輪速度センサ、42…ブレーキスイッチ、50…電子制御装置、51…CPU、52…ROM、PU**…増圧弁、PD**…減圧弁、MT…モータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の過度のスリップを防止するためのアンチスキッド制御(以下、「ABS制御」と称呼する。)を実行する車両のアンチスキッド制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧(以下、「ホイールシリンダ圧」と称呼する。)を制御してABS制御を実行するアンチスキッド制御装置が広く車両に搭載されるようになってきている。一般に、アンチスキッド制御装置は、運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧(以下、「マスタシリンダ圧」と称呼する。)を発生するマスタシリンダとホイールシリンダとの間の液圧回路に介装された常開電磁弁(増圧弁)と、ホイールシリンダとリザーバとの間の液圧回路に介装された常閉電磁弁(減圧弁)を備えていて、係る増圧弁、及び減圧弁を制御することでホイールシリンダ圧の減圧制御・保持制御・増圧制御を実行できるようになっている。
【0003】
ABS制御は、一般に、所定のABS制御開始条件が成立することに応答して開始され、少なくとも減圧制御が実行された後に増圧制御を行うことで達成される。そして、今回のABS制御中における増圧制御中にて上記ABS制御開始条件が再び成立すると、実行中の増圧制御を終了するとともに次回のABS制御(の減圧制御)が連続的に開始される。即ち、ABS制御開始条件が成立する時点から次にABS制御開始条件が成立する時点までの期間を一制御サイクルと呼ぶことにすると、一般に、ABS制御は、複数回の制御サイクルに亘って連続的に複数回実行されるようになっている。
【0004】
ところで、近年、上記増圧制御中においてホイールシリンダ圧を滑らかに(無段階に)増大する制御(以下、「リニア増圧制御」と称呼する。)を実行する要求がなされてきている。このため、アンチスキッド制御装置においては、上記増圧弁として、通電電流値をリニアに制御することでマスタシリンダ圧からホイールシリンダ圧を減じた値(以下、「実差圧」と称呼する。)を無段階に調整可能なリニア電磁弁(特に、常開リニア電磁弁)が採用されるようになってきている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2003−19952号公報
【0005】
常開リニア電磁弁では、一般に、通電電流値(指令電流)と、吸引力に相当する差圧(以下、「指令差圧」と称呼する。)が比例関係にある。従って、増圧弁としての常開リニア電磁弁は、通電電流値に応じて決定される指令差圧が実差圧よりも大きいときに閉弁してマスタシリンダとホイールシリンダとの連通を遮断する一方、指令差圧が実差圧よりも小さいときに開弁してマスタシリンダとホイールシリンダとを連通するようになっている。
【0006】
換言すれば、減圧弁が閉状態に維持されている場合において、指令差圧が実差圧よりも大きいときホイールシリンダ圧が保持される。一方、指令差圧が実差圧よりも小さいとき、マスタシリンダ側からブレーキ液がホイールシリンダ内に流入することでホイールシリンダ圧が上昇するとともに実差圧が減少していき、実差圧が指令差圧と等しくなると、実差圧は指令差圧とつりあうようになっている。
【0007】
即ち、増圧弁として常開リニア電磁弁を使用してリニア増圧制御の開始時点から直ちにホイールシリンダ圧を滑らかに増大させるためには、減圧弁を閉状態に維持した状態で、リニア増圧制御開始時点にて常開リニア電磁弁(増圧弁)への通電電流値を実差圧に相当する電流値(即ち、指令差圧を実差圧と一致させるための通電電流値。以下、「実差圧相当電流値」と称呼する。)に直ちに設定し、以降、通電電流値を一定の勾配でリニアに減少させていく必要がある。これにより、実差圧がリニア増圧制御開始時点から滑らかに減少していき、この結果、リニア増圧制御中に亘ってホイールシリンダ圧を滑らかに増大させていくことができる。
【0008】
これに対し、リニア増圧制御中に亘って減少していく通電電流値のリニア増圧制御開始時点での値が実差圧相当電流値よりも大きい値に設定される場合、リニア増圧制御開始時点から、減少していく指令差圧が実差圧と等しくなるまでの間、常開リニア電磁弁が閉状態に維持されてホイールシリンダ圧が保持される。即ち、ホイールシリンダ圧の増圧開始が遅れるという問題が発生する。以下、この現象を「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」と呼ぶことにする。
【0009】
他方、リニア増圧制御中に亘って減少していく通電電流値のリニア増圧制御開始時点での値が実差圧相当電流値よりも小さい値に設定される場合、ブレーキ液のマスタシリンダ側からホイールシリンダ内への流入により減少していく実差圧が指令差圧と等しくなるまでの間、常開リニア電磁弁が開状態に維持されてホイールシリンダ圧が急上昇するという問題が発生する。以下、この現象を「ホイールシリンダ圧の急上昇」と呼ぶことにする。
【0010】
従って、リニア増圧制御開始時点から直ちにホイールシリンダ圧を滑らかに増大させていくためには、リニア増圧制御開始時点での実差圧相当電流値(従って、同時点での実差圧)を正確に取得する必要がある。ここで、実差圧は、マスタシリンダ圧を検出するセンサ、及びホイールシリンダ圧を検出するセンサを共に利用することにより容易に検出することができる。しかしながら、係る2つのセンサを利用する構成は、製造コストが増大すること、センサの信頼性の確保が困難であること等の観点から一般に採用され難い。
【0011】
以上のことから、係るセンサを利用することなくリニア増圧制御開始時点における実差圧を取得する必要がある。このため、リニア増圧制御を実行する上記文献に記載のブレーキ液圧制御装置は、1回目の制御サイクル(1回目のABS制御)において、リニア増圧制御開始時点での通電電流値を最大値に設定するようになっている。
【0012】
これにより、1回目の制御サイクルにおけるリニア増圧制御開始時点での指令差圧は実差圧よりも必ず大きくなる。従って、上述したように、減少していく指令差圧が実差圧と等しくなるまでの間、ホイールシリンダ圧が保持される。そして、指令差圧が実差圧に達した時点から、指令差圧の減少に伴って実差圧が指令差圧と同じ値を採りながら減少していき、この結果、ホイールシリンダ圧が増大していく。
【0013】
この結果、指令差圧が実差圧に達した時点以降のリニア増圧制御中における実差圧(=指令差圧)を取得することができる。上記文献に記載の装置は、このように取得した実差圧の値に基づいて2回目以降の制御サイクル中における実差圧を取得していくようになっている。換言すれば、1回目の制御サイクルにおけるリニア増圧制御を2回目以降の制御サイクル中における実差圧の取得のために実行するようになっている。
【0014】
しかしながら、この場合、1回目の制御サイクルにおけるリニア増圧制御において、上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」が必ず発生するという問題がある。従って、ABS制御中における実差圧を適切に推定できる他の手法の到来が望まれているところである。
【発明の開示】
【0015】
本発明は上記問題に対処するためになされたものであって、その目的は、ABS制御を実行する車両のアンチスキッド制御装置において、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の差圧を適切に推定できるものを提供することにある。
【0016】
本発明に係るアンチスキッド制御装置は、増圧弁と減圧弁とを備えた制御ユニットに適用される。ここで、増圧弁及び減圧弁は、通電電流値に応じて開状態と閉状態とに選択的に制御可能な電磁開閉弁であっても、通電電流値に応じて差圧を無段階に調整可能なリニア電磁弁であってもよい。また、増圧弁及び減圧弁は、常開電磁弁(通電電流値が「0」のときに開状態となる電磁弁)であっても常閉電磁弁(通電電流値が「0」のときに閉状態となる電磁弁)であってもよいが、通常において増圧弁は開状態に維持され減圧弁は閉状態に維持されることを鑑みれば、増圧弁は常開電磁弁で減圧弁は常閉電磁弁であることが消費エネルギーの低減、耐久性の向上等を達成する上で好ましい。
【0017】
本発明に係るアンチスキッド制御装置は、所定のABS制御開始条件が成立することに応答して開始されるABS制御を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御手段を備えている。このABS制御では、前記増圧弁を閉状態に維持したまま前記減圧弁を制御することで前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁を閉状態に維持したまま前記増圧弁を制御することで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめる増圧制御が次に前記ABS制御開始条件が成立するまで実行される。
【0018】
このABS制御においては、減圧制御と増圧制御の間に保持制御が実行されてもよい。また、ABS制御開始条件が成立することに応答して、初めに減圧制御が実行されてもよいし、初めに保持制御が実行されてもよい。また、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合、増圧制御として上記リニア増圧制御を実行することが好ましい。更には、ABS制御開始条件は、毎回同じ条件であってもよいし、制御サイクル毎に異ならせてもよい。
【0019】
本発明に係るアンチスキッド制御装置の特徴は、前記アンチスキッド制御手段が、ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段と、ホイールシリンダ圧推定値取得手段と、差圧推定値取得手段と、増圧弁制御手段とを備えたことにある。以下、これらの手段について順に説明していく。
【0020】
ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段は、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値を取得する手段である。このホイールシリンダ圧推定初期値は、一定値であってもよいが、後述するように、車両の走行状態に応じた値に設定されることが好ましい。
【0021】
ホイールシリンダ圧推定値取得手段は、少なくともホイールシリンダ圧推定初期値を利用してABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧の推定値を取得する手段である。例えば、減圧弁として電磁開閉弁が使用される場合、減圧弁の作動によるホイールシリンダ圧の減圧量は、ホイールシリンダ圧そのものと、減圧弁を開状態に維持する時間とに依存して決定される。このような減圧弁による減圧特性は、所定の実験・シミュレーション等を通して予め取得できる。
【0022】
従って、例えば、減圧弁として電磁開閉弁が使用され、減圧制御として減圧弁を開状態に維持する制御が実行される場合、1回目のABS制御における減圧制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値を上記ホイールシリンダ圧推定初期値と等しい値に設定すれば、その減圧制御中に亘って変化(減少)するホイールシリンダ圧推定値を、上述した減圧弁による減圧特性に基づいて推定していくことができる。
【0023】
同様に、例えば、増圧弁として電磁開閉弁が使用される場合、増圧弁の作動によるホイールシリンダ圧の増圧量は、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧と、増圧弁を開状態に維持する時間とに依存して決定される。このような増圧弁による増圧特性も、所定の実験・シミュレーション等を通して予め取得できる。
【0024】
従って、例えば、増圧弁として電磁開閉弁が使用され、増圧制御として増圧弁の開閉を交互に繰り返す制御(以下、「開閉増圧制御」と称呼する。)が実行される場合、1回目のABS制御における増圧制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値を上述のように推定され得る1回目のABS制御における減圧制御終了時点でのホイールシリンダ圧推定値と等しい値に設定すれば、その増圧制御中に亘って変化(増大)するホイールシリンダ圧推定値を、開閉増圧制御における増圧弁の開閉パターンと、上述した増圧弁による増圧特性とに基づいて推定していくことができる。
【0025】
他方、増圧弁としてリニア電磁弁が使用され、増圧制御として上述したリニア増圧制御が実行される場合も、1回目のABS制御における増圧制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値を上述した増圧弁として電磁開閉弁が使用される場合と同じ手法により設定すれば、その増圧制御中に亘って変化(増大)するホイールシリンダ圧推定値を、予め設定されているリニア増圧制御中のホイールシリンダ圧の上昇勾配に基づいて推定していくことができる。
【0026】
このようにして、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値(=ホイールシリンダ圧推定初期値)を設定すれば、1回目のABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値を逐次取得していくことができる。従って、2回目のABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値を1回目のABS制御における増圧制御の終了時点でのホイールシリンダ圧推定値と等しい値に設定すれば、2回目のABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値も、1回目のABS制御の場合と同様に逐次取得していくことができる。
【0027】
このような手順を繰り返すことで、3回目以降のABS制御中におけるホイールシリンダ圧推定値も順次取得していくことができる。以上のように、ホイールシリンダ圧推定値取得手段は、少なくともホイールシリンダ圧推定初期値を利用して、連続的に複数回実行されるABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値を取得していくことができる。
【0028】
差圧推定値取得手段は、前記ホイールシリンダ圧推定初期値と前記ホイールシリンダ圧推定値との差に基づいて前記マスタシリンダ圧と前記ホイールシリンダ圧との差圧の推定値(差圧推定値)を取得する手段である。
【0029】
一般に、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧は、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧に近い範囲内で推移すると考えられる。換言すれば、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧は、上述したホイールシリンダ圧推定初期値に近い範囲内で推移する。
【0030】
従って、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の差圧(上記実差圧)は、上述したホイールシリンダ圧推定初期値と上述したホイールシリンダ圧推定値との差に近い範囲内で推移する。差圧推定値取得手段は、係る知見に基づいて構成されたものである。これによれば、ABS制御中における上記差圧推定値(従って、実差圧)を適切、且つ精度良く推定・取得することができる。
【0031】
増圧弁制御手段は、前記差圧推定値に基づいて前記増圧制御中において前記増圧弁を制御する手段である。具体的には、例えば、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合、前記差圧推定値に基づいて増圧制御中における増圧弁への通電電流値を決定するように構成される。これによれば、上述したように精度良く推定され得る差圧推定値に基づいて、増圧制御開始時点での通電電流値を上述した実差圧相当電流値に近い値に設定することができる。この結果、リニア増圧制御を実行する場合、リニア増圧制御開始時点からホイールシリンダ圧を滑らかに増大させていくことができる。
【0032】
他方、増圧弁として電磁開閉弁が使用される場合、増圧弁制御手段は、前記差圧推定値に基づいて(開閉)増圧制御中における増圧弁の開閉パターンを決定するように構成される。開閉増圧制御を実行する場合、上述したように精度良く推定され得る差圧推定値に基づいて増圧弁が開状態にある場合におけるホイールシリンダ圧の増圧量を精度良く取得できる。従って、上記構成により増圧弁の開閉パターンを決定すれば、開閉増圧制御中に亘って増圧・保持が繰り返されるホイールシリンダ圧の平均的な上昇勾配を、リニア電磁弁により上記リニア増圧制御が実行される場合のホイールシリンダ圧の上昇勾配と一致させることが容易となる。
【0033】
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置においては、前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段は、前記車両の車体減速度に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(以下、「ロック圧」とも称呼する。)を考慮して前記ホイールシリンダ圧推定初期値を取得するように構成されることが好適である。
【0034】
車両走行中においてホイールシリンダ圧を徐々に増大させていくと、ホイールシリンダ圧が上記ロック圧に達した時点で車輪にロックが発生する。このロック圧は、路面摩擦係数が大きいほど(即ち、ロック発生時点での車体減速度が大きいほど)大きくなる。換言すれば、ロック圧は、車体減速度(例えば、1回目のABS制御の開始時点での車体減速度)に基づいて取得できる。
【0035】
他方、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧(即ち、その推定値である上記ホイールシリンダ圧推定初期値)は、ロック圧に近い値となる。従って、上記構成によれば、例えば、ホイールシリンダ圧推定初期値をロック圧と等しい値に設定できるから、路面摩擦係数にかかわらず、ホイールシリンダ圧推定初期値を精度良く取得することができる。換言すれば、路面摩擦係数にかかわらず、1回目のABS制御中から差圧推定値を直ちに精度良く推定・取得することができる。
【0036】
この場合、前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段は、運転者によるブレーキ操作の開始から前記1回目のABS制御の開始までに要する時間をも更に考慮して前記ホイールシリンダ圧推定初期値を取得するように構成されることが好適である。より具体的には、前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段は、前記車体減速度に基づく車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧を考慮して取得されるホイールシリンダ圧推定初期値を、前記運転者によるブレーキ操作の開始から前記1回目のABS制御の開始までに要する時間に基づいて補正することで前記ホイールシリンダ圧推定初期値を取得することが好ましい。
【0037】
一般に、ABS制御等の車両運動制御に使用される車体減速度としては、ノイズ等の除去のため、ローパスフィルタ処理した後の値が使用される。従って、急激なブレーキ操作がなされることで実際の車体減速度が急激に増大する場合、ABS制御に使用される車体減速度は或る遅れをもって緩やかに増大していき、実際の車体減速度よりも小さめの値となる。
【0038】
このことは、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるほど、車体減速度に基づいて取得されるロック圧、ひいては、ロック圧を考慮して取得される上記ホイールシリンダ圧推定初期値が小さめに取得されることを意味する。従って、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるほど、ロック圧を考慮して取得されるホイールシリンダ圧推定初期値をより大きい値に補正する必要がある。
【0039】
一方、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるほど、ブレーキ操作の開始から1回目のABS制御の開始までに要する時間(以下、「ABS制御開始前ブレーキ操作時間」と称呼する。)が短くなる傾向がある。
【0040】
以上のことから、ABS制御開始前ブレーキ操作時間が短いほど、ロック圧を考慮して取得されるホイールシリンダ圧推定初期値をより大きい値に補正すればよい。上記構成は係る知見に基づくものである。これによれば、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激である場合であってもホイールシリンダ圧推定初期値を精度良く推定・取得することができる。換言すれば、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激である場合であっても、1回目のABS制御中から差圧推定値を直ちに精度良く推定・取得することができる。
【0041】
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置においては、前記差圧推定値取得手段は、1回目のABS制御中における前記増圧制御の開始時点から、前記運転者によるブレーキ操作の開始から前記アンチスキッド制御の開始までに要する時間に応じた分だけ前記差圧推定値を大きめに設定するように構成されることが好適である。
【0042】
先に、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧は、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧に近い範囲内で推移すると述べた。実際には、マスタシリンダ圧は、1回目のABS制御の開始時点から短期間に亘って、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧から更に増大していく場合が多い。
【0043】
従って、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧は、上述したホイールシリンダ圧推定初期値に、上述した1回目のABS制御開始直後の増大分を加えた値近傍で推移する場合が多い。よって、上述した差圧推定値をより一層精度良く取得するためには、差圧推定値も、1回目のABS制御開始直後のマスタシリンダ圧の増大分だけ大きめに設定することが好ましい。一方、このマスタシリンダ圧の増大分は、上記ABS制御開始前ブレーキ操作時間が短いほど大きくなる傾向がある。
【0044】
以上のことから、ABS制御開始前ブレーキ操作時間が短いほど、差圧推定値をより大きめに設定すればよい。上記構成は係る知見に基づくものである。これによれば、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激である場合であっても差圧推定値(従って、実差圧)を精度良く推定・取得することができる。なお、差圧推定値を大きめに設定するためには、例えば、計算された差圧推定値を更に大きめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定初期値を大きめに補正してもよい。
【0045】
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置において、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合(従って、増圧制御としてリニア増圧制御が実行される場合)、前記差圧推定値取得手段は、前記車両の車体減速度に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(ロック圧)を考慮して前記ホイールシリンダ圧の上限値を設定し、2回目以降のABS制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧推定値が前記上限値を超えた場合、前記差圧推定値を小さくするように構成されることが好適である。
【0046】
上述したように、ABS制御の開始時点におけるホイールシリンダ圧は、ロック圧に近い値となる。従って、例えば、ロック圧よりも十分に大きい或る値をホイールシリンダ圧の上限値と設定した場合、2回目以降のABS制御の開始時点での上記ホイールシリンダ圧推定値もこの上限値を超えないはずである。
【0047】
一方、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値が上限値を超える現象が発生する場合がある。これは、上記差圧推定値が実差圧よりも大きいことに起因する。即ち、上記差圧推定値が実差圧よりも大きいと、リニア増圧制御において上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期が遅くなる。これにより、ホイールシリンダ圧推定値が増大し続ける期間であるリニア増圧制御の期間が長くなる。この結果、次のABS制御開始時点において、実際のホイールシリンダ圧が上限値を超えないにもかかわらずホイールシリンダ圧推定値が上限値を超える場合が発生する。
【0048】
以上のことから、2回目以降のABS制御の開始時点での上記ホイールシリンダ圧推定値が上限値を超える場合、差圧推定値を小さくする必要がある。上記構成は、係る知見に基づくものである。これによれば、何らかの原因により差圧推定値が実差圧よりも大きくなる場合が発生しても、差圧推定値を実差圧に近づく方向に適切に補正することができる。なお、差圧推定値を小さくするためには、例えば、計算された差圧推定値を更に小さめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定初期値を小さめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定値が大きめに計算される処理を施してもよい。
【0049】
また、上記本発明に係るアンチスキッド制御装置において、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合(従って、増圧制御としてリニア増圧制御が実行される場合)、前記差圧推定値取得手段は、前記ロック圧を考慮して前記ホイールシリンダ圧の下限値を設定し、2回目以降のABS制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧推定値が前記下限値を下回った場合、前記差圧推定値を大きくするように構成されることが好適である。
【0050】
上述したように、ABS制御の開始時点におけるホイールシリンダ圧は、ロック圧に近い値となる。従って、例えば、ロック圧よりも十分に小さい或る値をホイールシリンダ圧の下限値と設定した場合、2回目以降のABS制御の開始時点での上記ホイールシリンダ圧推定値もこの下限値を下回らないはずである。
【0051】
一方、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値が下限値を下回る現象が発生する場合がある。これは、上記差圧推定値が実差圧よりも小さいことに起因する。即ち、上記差圧推定値が実差圧よりも小さいと、リニア増圧制御において上述した「ホイールシリンダ圧の急上昇」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期が早くなる。これにより、ホイールシリンダ圧推定値が増大し続ける期間であるリニア増圧制御の期間が短くなる。この結果、次のABS制御開始時点において、実際のホイールシリンダ圧が下限値を下回っていないにもかかわらずホイールシリンダ圧推定値が下限値を下回る場合が発生する。
【0052】
以上のことから、2回目以降のABS制御の開始時点での上記ホイールシリンダ圧推定値が下限値を下回る場合、差圧推定値を大きくする必要がある。上記構成は、係る知見に基づくものである。これによれば、何らかの原因により差圧推定値が実差圧よりも小さくなる場合が発生しても、差圧推定値を実差圧に近づく方向に適切に補正することができる。なお、差圧推定値を大きくするためには、例えば、計算された差圧推定値を更に大きめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定初期値を大きめに補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定値が小さめに計算される処理を施してもよい。
【0053】
また、上記本発明に係るアンチスキッド制御装置において、増圧弁としてリニア電磁弁が使用される場合(従って、増圧制御としてリニア増圧制御が実行される場合)、前記差圧推定値取得手段は、前記車輪の回転速度における所定のハンチング現象が発生しているか否かを判定するハンチング現象判定手段を備え、前記ハンチング現象が発生していると判定された場合、前記差圧推定値を所定値だけ大きめに設定するように構成されることが好適である。
【0054】
ABS制御中において運転者がブレーキ操作量を更に増大させた場合(例えば、ブレーキペダルを増し踏みした場合)、マスタシリンダ圧(従って、実差圧)もブレーキ操作量の増大分だけ増大する。よって、この場合、それまでに実差圧に近い値に設定されていた差圧推定値が実差圧よりも小さくなり、上述した「ホイールシリンダ圧推定値が下限値を下回る場合」と同様、リニア増圧制御中において「ホイールシリンダ圧の急上昇」が発生し得る。この結果、リニア増圧制御が短期間で終了した後、直ちに次の減圧制御が開始されることになるから、車輪速度が短期間で急激に増減する現象(ハンチング現象)が発生し得る。
【0055】
このような車輪速度におけるハンチング現象を止めるためには、差圧推定値を大きめに設定する必要がある。上記構成は、係る知見に基づくものである。これによれば、ABS制御中において運転者がブレーキ操作量を更に増大させることで車輪速度におけるハンチング現象が発生した場合であっても、差圧推定値を実差圧に近づく方向に適切に補正することができ、この結果、車輪速度におけるハンチング現象を止めることができる。
【0056】
なお、差圧推定値を所定値だけ大きめに設定するためには、例えば、計算された差圧推定値を更に所定値だけ大きくなるように補正してもよいし、差圧推定値の算出に使用されるホイールシリンダ圧推定初期値を所定値だけ大きくなるように補正してもよい。また、ハンチング現象判定手段は、例えば、ABS制御開始時点において、車輪の回転速度の時間微分値(車輪加速度)が所定値(負の値)未満であって、且つ、それまでに実行されていたリニア増圧制御の期間が所定時間未満である場合に前記ハンチング現象が発生していると判定するように構成される。
【0057】
この場合、前記ハンチング現象判定手段は、ABS制御が繰り返し開始される毎に前記車輪の回転速度における前記所定のハンチング現象が発生しているか否かを判定するように構成され、前記差圧推定値取得手段は、前記ハンチング現象が発生していると判定される毎に、前記差圧推定値を大きめに設定する量を前記所定値だけ大きくするように構成されることが好ましい。
【0058】
ABS制御中における運転者によるブレーキ操作量の増大量が大きいと、差圧推定値を上記所定値だけ大きめに設定してもなお差圧推定値が実差圧よりも小さくてその後において上記ハンチング現象が止まらない場合が発生する。この場合、差圧推定値を大きめに設定する量を更に大きくする必要がある。上記構成は係る知見に基づくものである。これによれば、上記ハンチング現象が止まるまで、ABS制御が繰り返し開始される毎に差圧推定値を大きめに設定する量を所定値ずつ大きくすることができるから、最終的には確実に上記ハンチング現象を止めることができる。
【0059】
この場合、前記差圧推定値取得手段は、前記差圧推定値を大きめに設定する量を、前記増圧制御中の所定の時点から同増圧制御の終了時点までの間において減少させていき、前記車輪の回転速度における前記所定のハンチング現象が発生していないと判定された時点以降、前記差圧推定値を大きめに設定する量を、同時点での値に維持するように構成されることが好適である。
【0060】
これによれば、上記ハンチング現象が発生していないと判定された時点での差圧推定値(従って、実差圧)を精度良く推定・取得することができ、且つ、その後においても差圧推定値を精度良い値に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下、本発明による車両のアンチスキッド制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ液圧制御装置を含む車両の運動制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、非駆動輪(従動輪)である前2輪(左前輪FL及び右前輪FR)と、駆動輪である後2輪(左後輪RL及び右後輪RR)を備えた後輪駆動(FR)方式の4輪車両である。
【0062】
この車両の運動制御装置10は、各車輪にブレーキ液圧によるブレーキ力を発生させるためのブレーキ液圧制御部30を含んでいて、ブレーキ液圧制御部30は、その概略構成を表す図2に示すように、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、各車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36と、還流ブレーキ液供給部37とを含んで構成されている。
【0063】
ブレーキ液圧発生部32は、ブレーキペダルBPの作動により応動するバキュームブースタVBと、同バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。バキュームブースタVBは、図示しないエンジンの吸気管内の空気圧力(負圧)を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し同助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
【0064】
マスタシリンダMCは、第1ポート、及び第2ポートからなる2系統の出力ポートを有していて、リザーバRSからのブレーキ液の供給を受けて、前記助勢された操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧を第1ポートから発生するようになっているとともに、同第1マスタシリンダ圧と略同一の液圧である前記助勢された操作力に応じた第2マスタシリンダ圧を第2ポートから発生するようになっている。これらマスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びバキュームブースタVB(ブレーキ液圧発生手段)は、ブレーキペダルBPの操作力に応じた第1マスタシリンダ圧及び第2マスタシリンダ圧をそれぞれ発生するようになっている。
【0065】
マスタシリンダMCの第1ポートは、FRブレーキ液圧調整部33の上流側及びFLブレーキ液圧調整部34の上流側の各々と接続されている。同様に、マスタシリンダMCの第2ポートは、RRブレーキ液圧調整部35の上流側及びRLブレーキ液圧調整部36の上流側の各々と接続されている。これにより、FRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々には、第1マスタシリンダ圧が供給されるとともに、RRブレーキ液圧調整部35の上流部及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々には、第2マスタシリンダ圧が供給されるようになっている。
【0066】
FRブレーキ液圧調整部33は、常開リニア電磁弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されている。減圧弁PDfrは、図2に示す閉状態(非励磁(OFF)に対応する状態)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSfとの連通を遮断するとともに、開状態(励磁(ON)に対応する状態)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSfとを連通するようになっている。
【0067】
増圧弁PUfrの弁体には、図示しないコイルスプリングからの付勢力に基づく開方向の力が常時作用しているとともに、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の間の差圧(上記実差圧)に基づく開方向の力と、増圧弁PUfrへの通電電流値(従って、指令電流値Id)に応じて比例的に増加する吸引力に基づく閉方向の力が作用するようになっている。
【0068】
この結果、図3に示したように、吸引力に相当する差圧(指令差圧ΔPd)が指令電流値Idに応じて比例的に増加するように決定される。ここで、I0はコイルスプリングの付勢力に相当する電流値である。増圧弁PUfrは、指令差圧ΔPdが実差圧よりも大きいとき(即ち、指令電流値Idが前記実差圧相当電流値よりも大きいとき)に閉弁してFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断する。一方、増圧弁PUfrは、指令差圧ΔPdが実差圧よりも小さいとき(即ち、指令電流値Idが実差圧相当電流値よりも小さいとき)に開弁してFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとを連通する。この結果、FRブレーキ液圧調整部33の上流部のブレーキ液がホイールシリンダWfr内に流入することで実差圧が減少して指令差圧ΔPdとつりあうようになっている。
【0069】
換言すれば、増圧弁PUfrへの指令電流値Idに応じて実差圧(の許容最大値)が制御され得るようになっている。また、増圧弁PUfrを非励磁状態にすると(即ち、指令電流値Idを「0」に設定すると)、増圧弁PUfrはコイルスプリングの付勢力により開状態を維持するようになっている。更には、指令電流値Idを実差圧として発生し得る差圧の最大値より十分に大きい指令差圧ΔPdholdに相当する値(例えば、閉弁維持電流値Ihold(図3を参照))に設定することにより、増圧弁PUfrは閉状態を維持するようになっている。
【0070】
これにより、減圧弁PDfrを閉状態に維持した状態で増圧弁PUfrへの指令電流値Idを現時点での実差圧相当電流値から徐々に小さくしていくと、実差圧が徐々に減少していき、この結果、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)は滑らかに増大していく。このようにホイールシリンダ圧をリニアに増圧する制御を「リニア増圧制御」と称呼する。
【0071】
また、増圧弁PUfrを閉状態に維持するとともに減圧弁PDfrを閉状態とすると、ホイールシリンダ圧はFRブレーキ液圧調整部33の上流部の液圧に拘わらず現時点での液圧に保持される。このようにホイールシリンダ圧を保持する制御を「保持制御」と称呼する。
【0072】
更には、増圧弁PUfrを閉状態に維持するとともに減圧弁PDfrを開状態とすると、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRSfに還流されることによりホイールシリンダ圧は減圧される。このようにホイールシリンダ圧を減圧する制御を「減圧制御」と称呼する。このように、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)には、リニア増圧制御、保持制御、及び減圧制御が実行され得るようになっている。
【0073】
加えて、増圧弁PUfrにはブレーキ液のホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部33の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されていて、これにより、操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧が迅速に減圧されるようになっている。
【0074】
同様に、FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35、RLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUrr及び減圧弁PDrr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されている。これにより、ホイールシリンダWfl,ホイールシリンダWrr及びホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧にも、リニア増圧制御、保持制御、及び減圧制御が実行され得るようになっている。また、増圧弁PUfl,PUrr及びPUrlの各々にも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3及びCV4がそれぞれ並列に配設されている。
【0075】
還流ブレーキ液供給部37は、直流モータMTと、同モータMTにより同時に駆動される2つの液圧ポンプHPf,HPrを含んでいる。液圧ポンプHPfは、減圧弁PDfr,PDflから還流されてきたリザーバRSf内のブレーキ液をチェック弁CV7を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV8,CV9を介してFRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給するようになっている。
【0076】
同様に、液圧ポンプHPrは、減圧弁PDrr,PDrlから還流されてきたリザーバRSr内のブレーキ液をチェック弁CV10を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV11,CV12を介してRRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部に供給するようになっている。なお、液圧ポンプHPf,HPrの吐出圧の脈動を低減するため、チェック弁CV8及びCV9の間の液圧回路、及びチェック弁CV11及びCV12の間の液圧回路には、それぞれ、ダンパDMf,DMrが配設されている。
【0077】
モータMT(従って、液圧ポンプHPf,HPr)は、原則的に、減圧弁PDfr,PDfl,PDrr,PDrlの少なくとも1つが開状態となっている間(従って、少なくとも1つの車輪について減圧制御が実行されている間)のみ、所定の回転速度で駆動せしめられるようになっている。
【0078】
以上、説明した構成により、ブレーキ液圧制御部30は、全ての電磁弁が非励磁状態にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ圧)を各ホイールシリンダに供給できるようになっている。また、この状態において、或る特定の増圧弁PU及び減圧弁PDをそれぞれ制御することにより、或る特定のホイールシリンダ内のブレーキ液圧のみをマスタシリンダ圧から所定量だけ減圧することができるようになっている。即ち、ブレーキ液圧制御部30は、各車輪のホイールシリンダ圧をそれぞれ独立してマスタシリンダ圧から減圧できるようになっている。
【0079】
再び、図1を参照すると、この車両の運動制御装置10は、対応する車輪が所定角度回転する毎にパルスを有する信号を出力する車輪速度センサ41fl,41fr,41rl,41rrと、ブレーキペダルBPの操作の有無に応じてオン信号(High信号)又はオフ信号(Low信号)を選択的に出力するブレーキスイッチ42と、電子制御装置50とを備えている。
【0080】
電子制御装置50は、互いにバスで接続された、CPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。
【0081】
インターフェース55は、前記車輪速度センサ41**、及びブレーキスイッチ42と接続され、CPU51に車輪速度センサ41**、及びブレーキスイッチ42からの信号を供給するとともに、同CPU51の指示に応じて、ブレーキ液圧制御部30の電磁弁(増圧弁PU**、及び減圧弁PD**)、及びモータMTに駆動信号を送出するようになっている。
【0082】
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、増圧弁PU**は、左前輪用増圧弁PUfl,
右前輪用増圧弁PUfr, 左後輪用増圧弁PUrl, 右後輪用増圧弁PUrrを包括的に示している。
【0083】
増圧弁PUへの指令電流値Id(通電電流値)は、CPU51により制御される。具体的には、CPU51は、図4に示すように、一サイクル時間Tcycleに対する増圧弁PUへの通電時間Tonの割合(即ち、デューティ比Ratioduty=(Ton/Tcycle))を調整することで平均(実効)電流(=指令電流値Id)を調整するようになっている。この結果、デューティ比Ratiodutyを車輪毎に個別に調整すること(即ち、デューティ制御)により指令電流値Idが車輪毎に個別にリニアに可変制御され得るようになっている。
【0084】
以上説明したブレーキ液圧制御部30(CPU51)は、運転者によるブレーキペダルBPの操作により発生する車輪のスリップが過度にならないように後述するアンチスキッド制御(ABS制御)を実行するようになっている。
【0085】
(ABS制御の概要)
次に、上記本発明の実施形態に係るアンチスキッド制御装置を含む車両の運動制御装置10(以下、「本装置」と云うこともある。)による、ABS制御の概要について説明する。本装置は、所定のABS制御開始条件が成立することに応答してABS制御を開始する。このABS制御では、ABS制御開始条件の成立と同時に減圧制御が開始・実行され、減圧制御中において所定の増圧制御開始条件が成立すると同減圧制御に続けてリニア増圧制御が実行される。
【0086】
そして、今回のABS制御中におけるリニア増圧制御中にて上記ABS制御開始条件が再び成立すると、実行中のリニア増圧制御を終了するとともに次回のABS制御が連続的に開始される。即ち、ABS制御開始条件が成立する時点から次にABS制御開始条件が成立する時点までの期間を一制御サイクルとすると、本装置は、上記ABS制御開始条件が成立した後、所定のABS制御終了条件が成立するまでの間、減圧制御及びリニア増圧制御を一組とするABS制御を、複数回の制御サイクルに亘って連続的に複数回実行する。以下、図5を参照しながら本装置によるABS制御についてより具体的に説明していく。
【0087】
図5は、運転者がブレーキペダルBPの操作を行ったことで時刻t1から本装置によりABS制御が開始・実行された場合における、車体速度Vso、車輪速度Vw、マスタシリンダ圧Pm、実際のホイールシリンダ圧(実ホイールシリンダ圧Pwact)、後述するホイールシリンダ圧推定値Pw、後述する差圧推定値Pdiff、及びリニア電磁弁である増圧弁PUへの指令電流値Idの変化の一例を示したタイムチャートである。
【0088】
この場合、図5に示したように、時刻t1以前ではABS制御が実行されていないから実ホイールシリンダ圧Pwactはマスタシリンダ圧Pmと等しい値となる。時刻t1になると、ABS制御開始条件が成立するから、本装置は、減圧制御(増圧弁PU:閉(指令電流値Id:Ihold)、減圧弁PD:開)を開始する。この結果、1回目の制御サイクル(1回目のABS制御)が開始されるとともに、実ホイールシリンダ圧Pwactは減少を開始する。ABS制御開始条件は、本例では、「SLIP**>SLIP1、且つ、DVw**<−DVw1」である。
【0089】
ここで、SLIP**は車輪**についてのスリップ量であって、スリップ量SLIP**は下記(1)式により表される。(1)式において、Vsoは車体速度であって、本例では車輪速度Vw**のうちの最大値である。DVw**は車輪**についての車輪加速度(即ち、車輪速度Vw**の時間微分値)である。SLIP1、DVw1はそれぞれ所定の定数である。
【0090】
SLIP**=Vso−Vw** ・・・(1)
【0091】
続いて、時刻t1’になると増圧制御開始条件が成立するから、本装置は減圧制御に続いてリニア増圧制御を開始する。増圧制御開始条件は、本例では、「SLIP**<SLIP2」である。SLIP2(<SLIP1)は所定の定数である。リニア増圧制御では、減圧弁PDは閉状態に維持される。また、リニア増圧制御では、後述するように1回目のABS制御開始時点から実差圧と一致するように逐次推定・更新されている差圧推定値Pdiffが指令差圧ΔPdとして使用され、図3に示したテーブルと、差圧推定値Pdiffとから増圧弁PUへの指令電流値Idが逐次決定・変更されていく。
【0092】
これにより、図5に示すように、リニア増圧制御中に亘ってリニアに減少していく差圧推定値Pdiffに応じて指令電流値Idもリニアに減少していく。この結果、実ホイールシリンダ圧Pwactは増大していく。
【0093】
本装置は、このリニア増圧制御を、上述したABS制御開始条件が再び成立するまで(従って、2回目のABS制御が開始されるまで)継続する。そして、時刻t2になると、再び上記ABS制御開始条件が成立するから、本装置は、実行中であるリニア増圧制御を中止して1回目のABS制御を終了するとともに、減圧制御及びリニア増圧制御を一組とする2回目のABS制御を1回目のABS制御と同じ手順で開始・実行する。
【0094】
以降、本装置は、上記ABS制御終了条件が成立しない限りにおいて、ABS制御開始条件が成立する毎に(図5では、時刻t3,t4,t5,t6,t7)、減圧制御及びリニア増圧制御を一組とする次のABS制御を1回目のABS制御と同じ手順で開始・実行していく。以上がABS制御の概要である。
【0095】
(差圧推定値Pdiff)
以下、上述したように、リニア増圧制御中における増圧弁PUへの指令電流値Idを決定するために使用される差圧推定値Pdiffについて説明する。この差圧推定値Pdiffは、マスタシリンダ圧Pmとホイールシリンダ圧との差圧(=実差圧)の推定値であり、本例では、下記(2)式に従って、1回目のABS制御開始時点(図5では、時刻t1)から上記ABS制御終了条件が成立するまでの間、算出・更新されていく。
【0096】
Pdiff=(Pw0−Pw)+Pup1+Pup2 ・・・(2)
【0097】
上記(2)式において、Pw0は、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値である。Pwは、Pw0を初期値とするABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧の推定値である。Pup1,Pup2は差圧加算値であり、これらについては後述する。
【0098】
一般に、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧Pmは、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧に近い範囲内で推移すると考えられる。従って、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧Pmとホイールシリンダ圧の差圧(上記実差圧)は、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0とホイールシリンダ圧推定値Pwとの差(Pw0−Pw)に近い範囲内で推移するであろうと考えることができる。上記(2)式(Pup1,Pup2を除く部分)は係る知見に基づくものである。以下、先ず、上記(2)式におけるホイールシリンダ圧推定初期値Pw0の設定方法について説明する。
【0099】
<ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0>
車両走行中においてホイールシリンダ圧を徐々に増大させていくと、ホイールシリンダ圧が或る圧力に達したとき車輪にロックが発生する。以下、この圧力を「ロック圧Pg」と称呼するものとすると、このロック圧Pgは、路面摩擦係数μに略比例する。
【0100】
他方、ロック発生時点での車体減速度DVsoは路面摩擦係数μに略比例する。この車体減速度DVsoは車体速度Vsoの時間微分値の符号を逆にすることで取得される。なお、この車体減速度DVsoとしては、ノイズ等の除去のため、ローパスフィルタ処理した後の値が使用される。以上のことから、ロック圧Pgは、車体減速度DVsoに略比例することになるから、下記(3)式に従って取得できる。ここで、Kgは比例定数(一定値)である。
【0101】
Pg=Kg・DVso ・・・(3)
【0102】
ところで、図6、及び図7に示すように、ブレーキペダルBPの操作開始(ブレーキスイッチ42:ON)から(1回目の)ABS制御開始までの時間(即ち、上記ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstp)が比較的長い場合(以下、「緩制動の場合」と称呼する。)、路面摩擦係数μが小さい場合(「低μ」の場合)であっても大きい場合(「高μ」の場合)であっても、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpの間に亘って、マスタシリンダ圧Pm(=実ホイールシリンダ圧Pwact)が上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgに略一致する傾向がある。従って、緩制動の場合、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を、1回目のABS制御開始時点での車体減速度DVsoに基づいて上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しい値に設定すれば、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を精度良く推定できる。
【0103】
一方、図8、及び図9に示すように、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが比較的短い場合(以下、「急制動の場合」と称呼する。)、即ち、実際の車体減速度が急激に増大する場合、上述したローパスフィルタ処理の影響により、車体減速度DVsoは、或る遅れをもって実際の車体減速度に追従していくから実際の車体減速度よりも小さめの値となる。この結果、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgが小さめの値となるから、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpの間に亘って、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgがマスタシリンダ圧Pm(=実ホイールシリンダ圧Pwact)よりも小さくなる傾向がある。
【0104】
従って、急制動の場合も緩制動の場合と同様、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を、1回目のABS制御開始時点での車体減速度DVsoに基づいて上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しい値に設定すると、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が小さめに取得されることになる。従って、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるほど、即ち、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが短いほど、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しいとして取得されるホイールシリンダ圧推定初期値Pw0をより大きい値に補正する必要がある。
【0105】
以上のことから、本装置は、図10に示した車体減速度DVsoと値PG1との関係を規定したテーブルと、図11に示したABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpと値PG2との関係を規定したテーブルを導入する。
【0106】
図10に示したテーブルによれば、値PG1は、所定の上限値及び下限値の範囲内で上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しい値(車体減速度DVsoに比例する値)となる。ここで、上限値及び下限値はそれぞれ、高μの場合及び低μの場合のロック圧Pgに相当する。
【0107】
一方、図11に示したテーブルによれば、値PG2は、所定の上限値及び下限値の範囲内でABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが短いほどより大きい値となる。ここで、この上限値及び下限値は、図10に示したものとそれぞれ同じ値である。
【0108】
本装置は、1回目のABS制御開始時点において取得される上述した値PG1と値PG2のうち大きい方をホイールシリンダ圧推定初期値Pw0として使用する。これにより、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが長い場合(即ち、緩制動の場合)、値PG1>値PG2となるから、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgと等しい値に設定される。
【0109】
一方、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが短い場合(即ち、急制動の場合)、値PG1<値PG2となるから、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が、上記(3)式に従って計算されるロック圧Pgよりも大きい値に設定される。なお、これにより、急制動の場合、低μの場合であっても、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が高μの場合のロック圧Pg相当の値に設定されることになる。これは、低μの急制動の場合、1回目のABS制御開始時点からの比較的長い期間に亘ってマスタシリンダPmが増大し続けることから(図8を参照)、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を大きめに設定しておくと差圧推定値Pdiffがより精度良く推定され得るという事実に基づく。
【0110】
このようにして、本装置によれば、差圧推定値Pdiffを精度良く推定するために必要なホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるか否かにかかわらず、且つ、路面摩擦係数μにもかかわらず、精度良く推定・取得することができる。
【0111】
<ホイールシリンダ圧推定値Pw>
次に、上記(2)式におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの算出方法について説明する。上述したように、1回目のABS制御が開始されると、ホイールシリンダ圧推定値Pwの算出が開始され(図5を参照)、1回目のABS制御開始時点でホイールシリンダ圧推定値Pwが上述したホイールシリンダ圧推定初期値Pw0に設定される。
【0112】
1回目のABS制御が開始されると、先ず、減圧制御が実行される。ここで、図12、及び図13に示すように、減圧制御中における減圧弁PDの作動によるホイールシリンダ圧(以下、「W/C圧」とも称呼する。)の減圧量ΔPdownは、ホイールシリンダ圧そのものと、減圧弁PDを開状態に維持する時間Tdownとに依存して決定される。時間Tdownを一定とすると、減圧量ΔPdownはホイールシリンダ圧そのものと比例関係にある。このような減圧弁PDによる減圧特性は、所定の実験・シミュレーション等を通して予め取得できる。
【0113】
本装置は、図13に示したテーブルから得られる減圧量ΔPdownを利用して、上記減圧制御中に亘ってホイールシリンダ圧推定初期値Pw0から減少していくホイールシリンダ圧推定値Pwを推定する(図5の時刻t1〜t1’を参照)。これにより、上記(2)式に従って算出される差圧推定値Pdiffは「0」から増大していく。
【0114】
上記減圧制御が終了すると、続いてリニア増圧制御が実行される。リニア増圧制御では、その間のホイールシリンダ圧の上昇勾配が予め適切な値に設定(設計)されている。従って、本装置は、リニア増圧制御中に亘って減圧制御終了時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwから一定の勾配で増大していくホイールシリンダ圧推定値Pwを推定する(図5の時刻t1’〜t2を参照)。これにより、上記(2)式に従って算出される差圧推定値Pdiffは減圧制御終了時点での値から減少していく。
【0115】
このようにして、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pw(=ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0)を設定すれば、1回目のABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値Pwを逐次取得していくことができる。従って、2回目のABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値Pwも、2回目のABS制御開始時点(従って、減圧制御開始時点)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを1回目のABS制御におけるリニア増圧制御の終了時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwと等しい値に設定すれば、1回目のABS制御の場合と同様に逐次取得していくことができる(図5の時刻t2〜t3を参照)。
【0116】
このような手順を繰り返すことで、3回目以降のABS制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pwも順次取得していくことができる。本装置は、このような手順により、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を利用して、連続的に複数回実行されるABS制御中に亘って変化するホイールシリンダ圧推定値Pwを逐次取得していくことができる。この結果、上記(2)式に従って算出される差圧推定値Pdiffも、係るホイールシリンダ圧推定値Pwに基づいて逐次推定・取得していくことができる(図5を参照)。
【0117】
ところで、ホイールシリンダ圧推定値Pwを上述した手法により推定すれば、図5に示すように、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が1回目のABS制御開始時点での実ホイールシリンダ圧Pwactから或る程度ずれた値に設定されても、その後の時間経過に従って、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactに徐々に近づいていく。これは、以下の理由に基づく。
【0118】
即ち、上述したように、減圧制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pwは、図13に示したテーブルから得られる減圧量ΔPdownを利用して推定される。この減圧量ΔPdownは、ホイールシリンダ圧が大きいほど大きくなる。従って、例えば、図5に示すように、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactよりも大きい場合、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量が同減圧制御中に亘る実ホイールシリンダ圧Pwactの総減少量よりも大きくなる。この結果、ABS制御が繰り返し実行されて減圧制御が繰り返し実行される毎に、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactに徐々に近づいていく。
【0119】
一方、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactよりも小さい場合、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量が同減圧制御中に亘る実ホイールシリンダ圧Pwactの総減少量よりも小さくなる。従って、この場合も、ABS制御が繰り返し実行されて減圧制御が繰り返し実行される毎に、ホイールシリンダ圧推定値Pwが実ホイールシリンダ圧Pwactに徐々に近づいていく。
【0120】
このように、上述した手法によりホイールシリンダ圧推定値Pwを推定すれば、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0が1回目のABS制御開始時点での実ホイールシリンダ圧Pwactから或る程度ずれた値に設定されても、その後において、ホイールシリンダ圧推定値Pwを精度良く推定することができる。
【0121】
<差圧加算値Pup1>
次に、上記(2)式における差圧加算値Pup1について図14を参照しながら説明する。図14は、運転者がブレーキペダルBPの操作を行ったことで時刻t11から本装置によりABS制御が開始・実行された場合における、車体速度Vso、車輪速度Vw、マスタシリンダ圧Pm、実ホイールシリンダ圧Pwact、ホイールシリンダ圧推定値Pw、差圧推定値Pdiff、及び差圧加算値Pup2,Pup1の変化の一例を示したタイムチャートである。
【0122】
先に、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧Pmは、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧(=マスタシリンダ圧Pm)に近い範囲内で推移すると述べた。図14に示すように、実際には、マスタシリンダ圧Pmは、1回目のABS制御の開始時点からの短期間(時刻t11〜t12)に亘って、1回目のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧から更に増大していく場合も多い。このマスタシリンダPmの増圧分を差圧加算値Pup1とする。
【0123】
即ち、ABS制御中におけるマスタシリンダ圧Pmは、上述したホイールシリンダ圧推定初期値Pw0に差圧加算値Pup1を加えた値近傍で推移する場合が多い。よって、差圧推定値Pdiffをより一層精度良く取得するためには、上記(2)式に示すように差圧推定値Pdiffを、値(Pw0−Pw)に更に差圧加算値Pup1を加えた値に設定することが好ましい。一方、この差圧加算値Pup1は、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpが短いほど大きくなる傾向があり、図15に示すABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpと差圧加算値Pup1との関係を規定したテーブルと、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpとから取得することができる。
【0124】
以上のことから、本装置は、1回目のABS制御が開始された時点(図14では、時刻t11)にて差圧加算値Pup1を「0」に初期化し、増圧弁PUへの指令電流値Idを決定するために差圧推定値Pdiffが使用開始される時点である1回目のABS制御中におけるリニア増圧制御が開始された時点(図14では、時刻t12)から、差圧加算値Pup1(≧0)を図15のテーブルから決定される値に変更する。
【0125】
これにより、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffは、1回目のABS制御中におけるリニア増圧制御が開始された時点から、図15のテーブルから決定された差圧加算値Pup1分だけ大きめに設定される。この結果、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激である場合であっても、差圧推定値Pdiffを精度良く推定・取得することができる。
【0126】
<差圧加算値Pup2>
次に、上記(2)式における差圧加算値Pup2について図14を参照しながら説明する。図14では、4回目のABS制御実行中(時刻t13〜t15)の或る時点にて運転者がブレーキペダルBPを増し踏みした場合が示されている。ここで、この増し踏みによるマスタシリンダ圧Pmの増大量をHとする。
【0127】
この場合、増し踏みが行われた時点以降、それまでに実差圧に近い値に設定されていた差圧推定値Pdiffが実差圧よりも小さくなる。この結果、4回目のABS制御中におけるリニア増圧制御(時刻t14〜t15)において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の急上昇」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期(時刻t15)が早くなる。
【0128】
これにより、リニア増圧制御が短期間で終了した後、直ちに5回目のABS制御の減圧制御が開始されることになる。この結果、図14に示すように、車輪速度Vwが短期間で急激に増減する現象(以下、「ハンチング現象」と呼ぶ。)が発生する。このようなハンチング現象を止めるためには、差圧推定値Pdiffを大きめに設定する必要がある。このような目的で差圧推定値Pdiffに加算される値が差圧加算値Pup2(≧0)である。
【0129】
以上のことから、本装置は、2回目以降のABS制御の開始時点毎に(図14では、例えば、時刻t13、t15、t17、t18、t19等)、係るハンチング現象が発生しているか否かを判定する。本例では、「DVw<−DVw2、且つ、Tup<T1」が成立している場合にハンチング現象が発生していると判定される。ここで、Tupは、それまでに実行されていた前回のリニア増圧制御の継続時間である。DVw2、T1はそれぞれ所定の定数である。
【0130】
本装置は、ハンチング現象が発生していると判定する毎に、差圧加算値Pup2を初期値「0」から値A(定数)ずつ大きくしていく(図14では、時刻t15、t17、t18を参照)。加えて、本装置は、差圧加算値Pup2が「0」より大きい値になっている場合、差圧加算値Pup2を、リニア増圧制御の途中の所定の時点から同リニア増圧制御の終了時点までの間において徐々に減少させていく(例えば、5回目のABS制御におけるリニア増圧制御では、時刻t16〜t17を参照)。
【0131】
そして、本装置は、ハンチング現象が発生していないと判定された時点以降(図14では、時刻t19以降)、差圧加算値Pup2をその時点での値に維持する。差圧加算値Pup2をこのように設定・変更していくことで、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffは、差圧加算値Pup2が「0」より大きい期間において差圧加算値Pup2分だけ大きめに設定される(図14では、時刻t15以降を参照)。
【0132】
これにより、ハンチング現象を確実に止めることができる。加えて、ハンチング現象が発生していないと判定された時点以降(図14では、時刻t19以降)において維持される差圧加算値Pup2は、運転者によるブレーキペダルBPの増し踏みによる上述したマスタシリンダ圧Pmの増大量Hに近い値となる。従って、ハンチング現象が発生していないと判定された時点での差圧推定値Pdiffを精度良く推定・取得することができ、且つ、その後においても差圧推定値Pdiffを精度良い値に維持することができる。
【0133】
<ホイールシリンダ圧推定値の上限値・下限値の設定>
上述したように、ABS制御の開始時点におけるホイールシリンダ圧は、ロック圧Pg(=Kg・DVso)に近い値となる。従って、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwは、ロック圧Pgを含む所定の範囲内に入るはずである。ここで、図16に示すように、例えば、この範囲の上限値Pwmaxはロック圧Pgに所定値α(1<α、例えば、α=1.2)を乗じた値に設定され、この範囲の下限値Pwminはロック圧Pgに所定値β(0<β<1、例えば、β=0.8)を乗じた値に設定され得る。なお、上限値Pwmaxと下限値Pwminは、積載荷重のばらつき、ブレーキの効き(具体的には、ブレーキパッドとディスクロータの間の摩擦係数等)のばらつき等を考慮して設定されることが好ましい。
【0134】
一方、図17に示すように、2回目以降の或るABS制御の開始時点TAでのホイールシリンダ圧推定値Pwが下限値Pwminを下回る現象が発生する場合がある。これは、差圧推定値Pdiffが実差圧よりも小さいことに起因する。即ち、差圧推定値Pdiffが実差圧よりも小さいと、リニア増圧制御において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の急上昇」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期(図17では、時刻TA)が早くなる。これにより、ホイールシリンダ圧推定値Pwが増大し続ける期間であるリニア増圧制御の期間が短くなる。この結果、次のABS制御開始時点において、実ホイールシリンダ圧Pwactが下限値Pwminを下回っていないにもかかわらずホイールシリンダ圧推定値Pwが下限値Pwminを下回る場合が発生する。
【0135】
以上のことから、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwが下限値Pwminを下回る場合、差圧推定値Pdiffを大きくする必要がある。ここで、差圧推定値Pdiffを大きくする一手法として、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffの算出に使用されるホイールシリンダ圧推定値Pwが小さめに計算される処理を施すことが考えられる。
【0136】
具体的には、図17に示すように、ABS制御開始時点(時刻TA)から実行される減圧制御中(時刻TA〜TB)に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものと図13に示したテーブルとから求めることに代えて、減圧制御中(時刻TA〜TB)において下限値Pwminから減少していく(架空の)制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとから求める手法が考えられる。
【0137】
即ち、上述したように、図13に示したテーブルから得られる減圧量ΔPdownは、ホイールシリンダ圧が大きいほど大きくなる。減圧制御中(時刻TA〜TB)におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものと図13に示したテーブルとから求めた場合、ホイールシリンダ圧推定値Pwは破線に沿って減少していき、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量はΔP1となる。
【0138】
これに対し、減圧制御中(時刻TA〜TB)におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwよりも大きい制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとから求めた場合、ホイールシリンダ圧推定値Pwは実線に沿って大きく減少していき、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量はΔP2(>ΔP1)となる。
【0139】
このように、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものに代えて制御用ホイールシリンダ圧Pwsを利用して減圧制御中のホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を求めれば、減圧制御終了時点(即ち、次のリニア増圧制御開始時点、図17では、時刻TB)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを小さくすることができ、この結果、上記次のリニア増圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwも小さめに計算することができる。
【0140】
これにより、図17に示すように、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffは、ホイールシリンダ圧推定値Pwが小さくなった分だけ大きめに計算される。よって、何らかの原因により差圧推定値Pdiffが実差圧よりも小さくなる場合が発生しても、差圧推定値Pdiffを実差圧に近づく方向に適切に補正することができ、上記次のリニア増圧制御(時刻TB以降)において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の急上昇」の発生が抑制される。この結果、次のABS制御開始時点(或いは、その後の或るABS制御開始時点)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを確実に下限値Pwmin以上とすることができる。
【0141】
一方、図18に示すように、2回目以降の或るABS制御の開始時点TAでのホイールシリンダ圧推定値Pwが上限値Pwmaxを超える現象が発生する場合がある。これは、差圧推定値Pdiffが実差圧よりも大きいことに起因する。即ち、差圧推定値Pdiffが実差圧よりも大きいと、リニア増圧制御において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の増圧開始の遅れ」が発生し、次にABS制御開始条件が成立する時期(図18では、時刻TA)が遅くなる。これにより、ホイールシリンダ圧推定値Pwが増大し続ける期間であるリニア増圧制御の期間が長くなる。この結果、次のABS制御開始時点において、実ホイールシリンダ圧Pwactが上限値Pwmaxを超えていないにもかかわらずホイールシリンダ圧推定値Pwが上限値Pwmaxを超える場合が発生する。
【0142】
以上のことから、2回目以降のABS制御の開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwが上限値Pwmaxを超える場合、差圧推定値Pdiffを小さくする必要がある。ここで、差圧推定値Pdiffを小さくする一手法として、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffの算出に使用されるホイールシリンダ圧推定値Pwが大きめに計算される処理を施すことが考えられる。
【0143】
具体的には、図18に示すように、ABS制御開始時点(時刻TA)から実行される減圧制御中(時刻TA〜TB)に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものと図13に示したテーブルとから求めることに代えて、減圧制御中(時刻TA〜TB)において上限値Pwmaxから減少していく(架空の)制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとから求める手法が考えられる。
【0144】
即ち、上述したように、図13に示したテーブルから得られる減圧量ΔPdownは、ホイールシリンダ圧が大きいほど大きくなる。減圧制御中(時刻TA〜TB)におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものと図13に示したテーブルとから求めた場合、ホイールシリンダ圧推定値Pwは破線に沿って大きく減少していき、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量はΔP1となる。
【0145】
これに対し、減圧制御中(時刻TA〜TB)におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を、ホイールシリンダ圧推定値Pwよりも小さい制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとから求めた場合、ホイールシリンダ圧推定値Pwは実線に沿って減少していき、減圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量はΔP2(<ΔP1)となる。
【0146】
このように、ホイールシリンダ圧推定値Pwそのものに代えて制御用ホイールシリンダ圧Pwsを利用して減圧制御中のホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を求めれば、減圧制御終了時点(即ち、次のリニア増圧制御開始時点、図18では、時刻TB)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを大きくすることができ、この結果、上記次のリニア増圧制御中に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwも大きめに計算することができる。
【0147】
これにより、図18に示すように、上記(2)式に従って計算される差圧推定値Pdiffは、ホイールシリンダ圧推定値Pwが大きくなった分だけ小さめに計算される。よって、何らかの原因により差圧推定値Pdiffが実差圧よりも大きくなる場合が発生しても、差圧推定値Pdiffを実差圧に近づく方向に適切に補正することができ、上記次のリニア増圧制御(時刻TB以降)において上述した「ホイールシリンダ圧(Pwact)の増圧開始の遅れ」の発生が抑制される。この結果、次のABS制御開始時点(或いは、その後の或るABS制御開始時点)でのホイールシリンダ圧推定値Pwを確実に上限値Pwmax以下とすることができる。以上が、差圧推定値Pdiffの算出の概要である。
【0148】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明の実施形態に係るアンチスキッド制御装置を含む車両の運動制御装置10の実際の作動について、電子制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図19〜図25を参照しながら説明する。図19〜図25に示したルーチンは、車輪毎に実行される。
【0149】
CPU51は、図19に示した車輪速度等の算出を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1900から処理を開始し、ステップ1905に進んで、車輪**の車輪速度(車輪**の外周の速度)Vw**を算出する。具体的には、CPU51は車輪速度センサ41**が出力する信号が有するパルスの時間間隔に基づいて車輪速度Vw**を算出する。
【0150】
次いで、CPU51はステップ1910に進み、前記車輪速度Vw**のうちの最大値を車体速度Vsoとして算出する。なお、車輪速度Vw**の平均値を車体速度Vsoとして算出してもよい。次に、CPU51はステップ1915に進み、ステップ1910にて算出した車体速度Vsoの値と、ステップ1905にて算出した車輪速度Vw**の値と、上記(1)式とに基づいて車輪**のスリップ量SLIP**を算出する。
【0151】
次いで、CPU51はステップ1920に進み、下記(4)式に従って前記車輪速度**の時間微分値としての車輪**の車輪加速度DVw**を算出する。下記(4)式において、Vw1**は前回の本ルーチン実行時におけるステップ1905にて算出された車輪速度Vw**であり、Δtは前記所定時間(CPU51の本ルーチンについての実行周期)である。
【0152】
DVw**=(Vw**-Vw1**)/Δt ・・・(4)
【0153】
そして、CPU51はステップ1925に進んで、下記(5)式に従って前記車体速度Vsoの時間微分値の符号を逆にした値としての車体減速度DVsoを算出した後、ステップ1995に進んで本ルーチンを一旦終了する。下記(5)式において、Vso1は前回の本ルーチン実行時におけるステップ1910にて算出された車体速度Vsoである。
【0154】
DVso=−(Vso-Vso1)/Δt ・・・(5)
【0155】
また、CPU51は、図20に示したASB制御の開始・終了判定を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ2000から処理を開始し、ステップ2005に進んで、変数CYCLE**の値が「0」であるか否かを判定する。ここで、変数CYCLE**は、車輪**について、その値が「0」のときABS制御が実行されていないことを示し、その値が「N」のときN回目のABS制御が実行されていることを示す(N:自然数)。
【0156】
いま、車輪**について、ABS制御が実行されておらず、且つ、ABS制御開始条件が成立していないものとすると、変数CYCLE**の値は「0」になっているから、CPU51はステップ2005にて「Yes」と判定してステップ2010に進み、ブレーキスイッチ42がオン信号を出力しているか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ2015に進んでカウンタTstp**を「0」に初期化する。
【0157】
一方、ステップ2010にて「Yes」と判定する場合、CPU51はステップ2020に進んで、カウンタTstp**を「1」だけインクリメントする。即ち、カウンタTstp**は、運転者によるブレーキペダルBP操作の継続時間を表す。
【0158】
次に、CPU51はステップ2025に進み、車輪**について上記ABS制御開始条件が成立しているか否かを判定する。ここにおいて、SLIP**としては先のステップ1915にて算出されている最新値が使用され、DVw**としては先のステップ1920にて算出されている最新値が使用される。
【0159】
現時点では、車輪**についてABS制御開始条件は成立していないから、CPU51はステップ2025にて「No」と判定してステップ2095に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような処理は、車輪**についてABS制御開始条件が成立するまで繰り返し実行される。
【0160】
次に、この状態にて、運転者がブレーキペダルBPを操作することにより、車輪**についてABS制御開始条件が成立したものとすると(図5の時刻t1、図14の時刻t11を参照。)、CPU51はステップ2025に進んだとき「Yes」と判定してステップ2030に進み、変数CYCLE**の値を「0」から「1」に変更し、続くステップ2035にて変数Mode**の値を「1」に設定する。ここで、変数Mode**は、車輪**について、その値が「1」のとき減圧制御が実行されていることを示し、その値が「2」のときリニア増圧制御が実行されていることを示す。
【0161】
続いて、CPU51はステップ2040に進んで、車輪**についてのABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstps**を先のステップ2020にて更新されている現時点でのカウンタTstp**と等しい値に設定する。これにより、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstps**は、ブレーキペダルBPの操作開始から車輪**についての1回目のABS制御開始までの時間に相当する値となる。
【0162】
次に、CPU51はステップ2045に進んで、先のステップ1925にて算出されている車体減速度DVsoの最新値(即ち、1回目のABS制御開始時点での値)と、図10に示したテーブルとから値PG1**を決定し、続くステップ2050にて、先のステップ2040にて設定されているABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstps**と、図11に示したテーブルとから値PG2**を決定する。
【0163】
次いで、CPU51はステップ2055に進んで、車輪**についてのホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**を、値PG1**と値PG2**のうち大きい方の値に設定し、続くステップ2060にて、車輪**についての差圧加算値Pup1**、差圧加算値Pup2**、及び差圧推定値Pdiff**を「0」に初期化し、続くステップ2065にて、車輪**についてのホイールシリンダ圧推定値Pw**、及び制御用ホイールシリンダ圧Pws**を、上記ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**と等しい値に設定した後、ステップ2095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0164】
以降、CPU51はステップ2005に進んだとき「No」と判定してステップ2070に進むようになり、同ステップ2070にて車輪**についてABS制御終了条件が成立しているか否かをモニタする。ABS制御終了条件は、ブレーキスイッチ42がオフ信号を出力しているとき(即ち、運転者がブレーキペダルBPの操作を終了したとき)、或いは、「Mode**=2」となっている状態(即ち、リニア増圧制御の実行)が所定時間Tref以上継続しているときに成立する。
【0165】
現時点はABS制御開始条件が成立した直後であるから、CPU51はステップ2070にて「No」と判定する。以降、ステップ2070のABS制御終了条件が成立しない限りにおいて、CPU51はステップ2005、2070の処理を繰り返し実行する。この処理を繰り返している間、CPU51は後述する図21〜図25のルーチンの実行により車輪**について減圧制御及びリニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行する。
【0166】
CPU51は、図21に示したABS制御の実行を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ2100から処理を開始し、ステップ2102に進んで、変数CYCLE**の値が「0」以外(即ち、車輪**についてABS制御実行中)であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ2195に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0167】
いま、車輪**についてABS制御開始条件が成立した直後であって、先のステップ2030の実行により変数CYCLE**の値が「0」から「1」に変更された直後であるものとすると(図5の時刻t1、図14の時刻t11を参照。)、CPU51はステップ2102にて「Yes」と判定してステップ2104に進み、変数Mode**の値が「1」になっているか否かを判定する。
【0168】
現時点では、先のステップ2035の処理により変数Mode**の値は「1」になっているから、CPU51はステップ2104にて「Yes」と判定してステップ2106に進んで、車輪**についての減圧弁PD**を開状態とするとともに、増圧弁PU**への通電電流値が値Ihold(図3を参照)となるように通電電流値をデューティ制御する。これにより、車輪**について1回目のABS制御の減圧制御が開始・実行される。
【0169】
次いで、CPU51はステップ2108に進んで、変数CYCLE**の値が「2」以上となっているか否か(即ち、2回目以降のABS制御実行中であるか否か)を判定する。現時点では、変数CYCLE**の値は「1」であるから、CPU51はステップ2108にて「No」と判定してステップ2110に進み、制御用ホイールシリンダ圧Pws**(現時点では、先のステップ2065の処理により、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**と等しい)と、CPU51の本ルーチンについての実行周期Δtと、図13に示したテーブルとに基づいて、減圧制御中における実行周期Δtの間のホイールシリンダ圧推定値Pw**(及び、制御用ホイールシリンダ圧Pws**)の減圧量DP**(<0)を求める。
【0170】
続いて、CPU51はステップ2112を経由して図22に示したPws,Pw,Pdiffの更新を行うルーチンの処理をステップ2200から開始する。即ち、CPU51はステップ2200からステップ2205に進むと、制御用ホイールシリンダ圧Pws**を、その時点での値(現時点では、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**と等しい)に先のステップ2110にて求めた減圧量DP**を加えた値に更新し、続くステップ2210にて、ホイールシリンダ圧推定値Pw**を、その時点での値(現時点では、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0**と等しい)に同減圧量DP**を加えた値に更新する。
【0171】
続いて、CPU51はステップ2215を経由して図23に示した差圧加算値Pup1を設定するルーチンの処理をステップ2300から開始する。即ち、CPU51はステップ2300からステップ2305に進むと、変数CYCLE**の値が「1」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合(即ち、2回目以降のABS制御が実行されている場合)、ステップ2395に直ちに進む。
【0172】
現時点では、1回目のABS制御中であって変数CYCLE**の値は「1」であるから、CPU51はステップ2305にて「Yes」と判定してステップ2310に進み、変数Mode**の値が「1」から「2」に変化(即ち、減圧制御からリニア増圧制御に移行)したか否かを判定する。
【0173】
現時点は、減圧制御が開始された直後であって変数Mode**の値が「1」に維持されている。従って、CPU51はステップ2310に「No」と判定してステップ2395に進む。これにより、差圧加算値Pup1**は変更されることなく先のステップ2060にて設定された初期値「0」に維持される。そして、CPU51はステップ2395を経由して図22のステップ2220に戻り、ステップ2220を経由して図24に示した差圧加算値Pup2を設定するルーチンの処理をステップ2400から開始する。
【0174】
即ち、CPU51はステップ2400からステップ2405に進むと、変数CYCLE**の値が「2」以上であるか否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ2410以降の処理を実行する。現時点では、変数CYCLE**の値は「1」であるから、CPU51はステップ2405にて「No」と判定してステップ2495に直ちに進む。これにより、差圧加算値Pup2**も変更されることなく先のステップ2060にて設定された初期値「0」に維持される。
【0175】
そして、CPU51はステップ2495を経由して図22のステップ2225に戻り、現時点でのPw0**,Pw**,Pup1**,Pup2**と、上記(2)式とに基づいて車輪**についての差圧推定値Pdiff**を更新し(求め)、ステップ2295に進む。これにより、制御用ホイールシリンダ圧Pws**、ホイールシリンダ圧推定値Pw**、及び差圧推定値Pdiff**が更新される。なお、1回目のABS制御中においては、制御用ホイールシリンダ圧Pws**とホイールシリンダ圧推定値Pw**とは常に同じ値となる。
【0176】
次に、CPU51は、ステップ2295を経由して図21のステップ2114に戻り、上記増圧制御開始条件が成立したか否かを判定する。現時点は減圧制御が開始された直後であるからSLIP**の値は値SLIP2よりも大きい。従って、CPU51はステップ2114にて「No」と判定してステップ2195に直ちに進む。
【0177】
このような処理は、車輪**について増圧制御開始条件が成立するまで繰り返し実行される。この結果、車輪**について1回目のABS制御の減圧制御が継続され、制御用ホイールシリンダ圧Pws**、及びホイールシリンダ圧推定値Pw**が同じ値を採りながら減少していき、差圧推定値Pdiff**が増大していく(図5の時刻t1〜t1’、図14の時刻t11〜t12を参照)。
【0178】
そして、所定時間が経過して車輪**について上記増圧制御開始条件が成立すると(図5の時刻t1’、図14の時刻t12を参照。)、CPU51は図21のステップ2114に進んだとき「Yes」と判定してステップ2116に進み、変数Mode**の値を「1」から「2」に変更し、続くステップ2118にてカウンタTup**の値を「0」に初期化する。このカウンタTup**は、車輪**についてのリニア増圧制御の継続時間を表す。
【0179】
以降、変数Mode**の値が「2」になっているから、CPU51はステップ2104に進んだとき「No」と判定してステップ2120に進むようになる。CPU51はステップ2120に進むと、先のステップ2025の条件と同じABS制御開始条件が再び成立しているか否か(即ち、2回目の制御サイクルが開始されるか否か)を判定する。
【0180】
現時点では、1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が開始された直後であるからABS制御開始条件は成立していない。従って、CPU51はステップ2120にて「No」と判定してステップ2122に進み、その時点(現時点ではリニア増圧制御開始時点、図5の時刻t1’、図14の時刻t12を参照)での差圧推定値Pdiffと、図3に示したテーブルとから車輪**についての増圧弁PU**への指令電流値Id**を決定する。
【0181】
続いて、CPU51はステップ2124に進んで、車輪**についての減圧弁PD**を閉状態とするとともに、増圧弁PU**への通電電流値が上記決定された指令電流値Id**となるように通電電流値をデューティ制御する。これにより、車輪**について1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が開始・実行される。
【0182】
次に、CPU51はステップ2126に進んで、リニア増圧制御中における実行周期Δtの間のホイールシリンダ圧推定値Pw**(及び、制御用ホイールシリンダ圧Pws**)の増圧量DP**(>0)を求める。ここで、Kupは、リニア増圧制御中におけるホイールシリンダ圧の上昇勾配に相当する値(正の値)である。
【0183】
続いて、CPU51はステップ2128を経由して上述した図22のルーチンの処理を開始し、ステップ2205、2210の処理を実行した後、ステップ2215を経由して図23のルーチンの処理を開始する。現時点は1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が開始された直後であるから、変数CYCLE**の値は「1」であり、変数Mode**の値は「1」から「2」に変更された直後である。
【0184】
従って、CPU51はステップ2305、2310にて「Yes」と判定してステップ2315に進み、差圧加算値Pup1を、それまでの値「0」から、先のステップ2040にて設定されたABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstps**と図15に示したテーブルとに基づいて得られる値に変更する。なお、これ以降、ステップ2310にて「No」と判定されるようになるから、差圧加算値Pup1は、ABS制御終了条件(図20のステップ2070の条件)が成立するまでの間、この値に維持される。
【0185】
そして、CPU51はステップ2395を経由して、図22のステップ2220(即ち、図24のルーチン)、及び、ステップ2225の処理を実行した後、ステップ2295を経由して図21のステップ2130に戻り、カウンタTup**の値を「1」だけインクリメントした後、ステップ2195に進む。このような処理は、ABS開始条件が再び成立するまで繰り返し実行される。
【0186】
これにより、車輪**について1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が継続され、制御用ホイールシリンダ圧Pws**、及びホイールシリンダ圧推定値Pw**が同じ値を採りながら増大していき、差圧推定値Pdiff**が減少していく(図5の時刻t1’〜t2を参照)。加えて、1回目のABS制御におけるリニア増圧制御が開始された時点以降、図22のステップ2225にて算出・更新されていく差圧推定値Pdiff**がステップ2315にて計算された差圧加算値Pup1**分だけ大きめに計算されていく(図14の時刻t12以降を参照)。
【0187】
そして、所定時間が経過して車輪**について上記ABS制御開始条件が再び成立すると(図5の時刻t2を参照)、CPU51は図21のステップ2120に進んだとき「Yes」と判定してステップ2132に進み、変数CYCLE**の値を「1」だけインクリメントし、続くステップ2134にて変数Mode**の値を「2」から「1」に変更し、続くステップ2136にて車輪**についてのリニア増圧制御継続時間Tups**を先のステップ2130にて更新されている現時点でのカウンタTup**と等しい値に設定する。これにより、リニア増圧制御継続時間Tups**は、それまでに実行されていたリニア増圧制御の継続時間に相当する値となる。以上により、1回目のABS制御が終了し、2回目のABS制御が開始される。
【0188】
即ち、変数CYCLE**の値が「2」、変数Mode**の値が「1」になっている。従って、CPU51はステップ2102、及びステップ2104にて「Yes」と判定し、ステップ2106の処理を実行した後(即ち、2回目のABS制御における減圧制御を開始した後)、ステップ2108にて「Yes」と判定してステップ2138に進み、変数CYCLE**の値が変化したか否か(即ち、ABS制御開始条件が成立した直後(減圧制御が開始された直後)であるか否か)を判定するようになる。
【0189】
現時点では、変数CYCLE**の値が「1」から「2」に変化した直後であるから、CPU51はステップ2138にて「Yes」と判定し、ステップ2140を経由して図25に示した制御用ホイールシリンダ圧Pwsの設定を行うルーチンの処理をステップ2500から開始する。このように、図25に示したルーチンの処理は、2回目以降のABS制御が開始される毎に実行される。
【0190】
即ち、CPU51はステップ2500からステップ2505に進むと、先のステップ1925にて更新されている車体減速度DVsoの最新値(即ち、減圧制御開始時点での値)と、上記(3)式とに基づいてロック圧Pg**を求め、続くステップ2510にて前記ロック圧Pg**に値α(1<α)を乗じることで上限値Pwmax**を求め、続くステップ2515にて前記ロック圧Pg**に値β(0<β<1)を乗じることで下限値Pwmin**を求める。
【0191】
そして、CPU51はステップ2520に進んで、車輪**についての制御用ホイールシリンダ圧Pws**を、上記下限値Pwmin**と、ステップ2210にて更新されているその時点(即ち、2回目以降のABS制御開始時点)での制御用ホイールシリンダ圧Pws**と、上記上限値Pwmax**のうち真ん中の値に設定した後、ステップ2595を経由して図21のステップ2110以降の処理を実行する。
【0192】
これにより、2回目以降のABS制御開始時点での制御用ホイールシリンダ圧Pws**は、その時点での値が上限値Pwmax**と下限値Pwmin**の間の値であれば、その時点での値に維持される。
【0193】
一方、2回目以降のABS制御開始時点での制御用ホイールシリンダ圧Pws**は、その時点での値が上限値Pwmax**を超えていれば、上限値Pwmax**となり、その時点での値が下限値Pwmin**を下回っていれば、下限値Pwmax**となる。
【0194】
即ち、この場合、図17、及び図18を参照しながら説明した制御用ホイールシリンダ圧Pws**が設定されることになる。従って、この場合、図21のステップ2110にて計算される2回目以降のABS制御における減圧制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pw**の減圧量DP**(<0)が大きめ、或いは小さめに計算されていく(図17、及び図18の実線を参照)。
【0195】
加えて、2回目以降のABS制御実行中の場合(即ち、変数CYCLE**の値が「2」以上の場合)、CPU51は、図21のステップ2112を経由して実行される図22のルーチンのステップ2220を経由して図24のルーチンを実行する場合、ステップ2405にて「Yes」と判定するようになる。即ち、CPU51はステップ2405に進むと「Yes」と判定してステップ2410に進み、変数CYCLE**の値が変化したか否かを判定する。
【0196】
いま、変数CYCLE**の値が変化した直後であるものとすると(2回目以降のABS制御開始直後であるものとすると)、CPU51はステップ2410にて「Yes」と判定してステップ2415に進み、先のステップ2136にて設定されている前回のリニア増圧制御継続時間Tups**が所定時間T1未満であり、且つ、ステップ1920にて算出されている車輪加速度DVw**が所定値−DVw2未満であるか否か(即ち、上述したハンチング現象が発生しているか否か)を判定する。
【0197】
いま、CPU51はステップ2415にて「Yes」と判定するものとすると、ステップ2420に進み、差圧加算値Pup2**を、その時点での値(初期値は、先のステップ2060にて設定された「0」)に値A(一定値)を加えた値に更新する(例えば、図14の時刻t15を参照)。
【0198】
続いて、CPU51はステップ2425に進み、変数Mode**の値が「2」であり、且つ、ステップ2130にて更新されているカウンタTup**の値が所定値T4より大きいか否か(即ち、リニア増圧制御中であって、リニア増圧制御開始から所定値T4に相当する時間が経過したか否か)を判定する。現時点では、2回目以降のABS制御における減圧制御が実行されているから、CPU51はステップ2425にて「No」と判定してステップ2495に進む。
【0199】
なお、以降、ステップ2410に進んだCPU51はステップ2410にて「No」と判定してステップ2425に直ちに進み、ステップ2425でも「No」と判定する。図24のルーチンにおけるこのような処理は、ステップ2425の条件が成立するまで繰り返し実行される。
【0200】
そして、2回目以降のABS制御において減圧制御が終了し、その後に続けて実行されるリニア増圧制御の開始から前記所定値T4に相当する時間が経過したものとする(例えば、図14の時刻t16を参照)。この場合、ステップ2116の処理により変数Mode**の値が「2」となっていて、且つ、ステップ2130にて更新されているカウンタTup**が所定値T4より大きい値となっている。
【0201】
従って、図21のステップ2128を経由して実行される図22のルーチンのステップ2220を経由して図24のルーチンを実行するCPU51は、ステップ2425に進んだとき「Yes」と判定してステップ2430に進み、差圧加算値Pup2を、「0」以上の範囲内で、その時点での値から「1」だけ小さくするようになる。このような処理は、変数CYCLE**の値が変更されて(即ち、次のABS制御が開始されて)ステップ2410にて「Yes」と判定されるまで繰り返し実行される(例えば、図14の時刻t16〜t17を参照)。
【0202】
次のABS制御が開始されると、図24のステップ2410にて再び「Yes」と判定されてステップ2415の判定が行われる。ここで、「Yes」と判定される場合、ステップ2420にて差圧加算値Pup2**が、その時点での値に値Aを加えた値に再び更新される(例えば、図14の時刻t17、t18を参照)。
【0203】
一方、ステップ2415にて「No」と判定されると(即ち、ハンチング現象が止まったと判定されると)、CPU51はステップ2435に進み、前回のリニア増圧制御継続時間Tups**が正常な範囲内(T2≦Tups**≦T3:T2,T3は定数)であるか否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ2425に直ちに進み、変数Mode**の値が「1」になっているから「No」と判定してステップ2495に進む。これにより、以降、差圧加算値Pup2**がステップ2415にて「No」と判定された時点での値に維持される(図14の時刻t19以降を参照)。
【0204】
一方、ステップ2435にて「No」と判定される場合、前回のリニア増圧制御継続時間Tups**に異常が発生している。即ち、上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」、或いは「ホイールシリンダ圧の急上昇」が発生している可能性が高く、差圧推定値Pdiff**が実差圧と乖離している可能性が高い。この場合、CPU51はステップ2440に進んで信頼性の低い値となっている差圧加算値Pup2**を「0」にクリアする。
【0205】
このように、2回目のABS制御が開始された時点以降、図22のステップ2225にて算出・更新されていく差圧推定値Pdiff**が図24のルーチンの処理にて逐次変更され得る差圧加算値Pup2**分だけ大きめに計算されていく。
【0206】
以上説明したCPU51による作動は、ステップ2005、2070の処理が繰り返し実行されている先の図20のルーチンにおけるステップ2070のABS制御終了条件が成立しない限りにおいて実行され得るものである。従って、上述した作動の途中において運転者がブレーキペダルBPの操作を終了する場合等、ステップ2070の条件が成立すると、CPU51はステップ2070にて「Yes」と判定してステップ2075に進んで変数CYCLE**の値を「0」以外の値から「0」に変更し、続くステップ2080にて総ての電磁弁(具体的には増圧弁PU**、減圧弁PD**)を非励磁状態にする。これにより、実行されていた一連のABS制御が終了する。
【0207】
以降、CPU51は図21のステップ2102に進んだとき、「No」と判定してステップ2195に直ちに進むようになる。この結果、ABS制御が実行されない。また、CPU51は図20のステップ2005に進んだとき「Yes」と判定して再びステップ2025に進むようになり、ステップ2025にて再びABS制御開始条件が成立しているか否かをモニタするようになる。
【0208】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る車両のアンチスキッド制御装置によれば、増圧弁PUとして通電電流値がデューティ制御によりリニアに制御される常開リニア電磁弁を採用するとともに、減圧弁PDとして常閉電磁開閉弁を採用する。そして、この装置は、ABS制御開始条件成立後、ABS制御終了条件成立までの間、減圧制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行していく。
【0209】
この装置は、ABS制御開始条件が成立すると、ホイールシリンダ圧推定値Pwの初期値Pw0を、ABS制御開始条件成立時点での車体減速度DVso(即ち、ロック圧Pg)と、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpとに基づいて決定し、このホイールシリンダ圧推定初期値Pw0と減圧弁PDの減圧特性等に基づいてABS制御中のホイールシリンダ圧推定値Pwを推定していく。
【0210】
そして、この装置は、ABS制御中において、上記(2)式(Pdiff=(Pw0−Pw)+Pup1+Pup2)に従って、マスタシリンダ圧Pmとホイールシリンダ圧との差圧の推定値Pdiffを推定し、この差圧推定値Pdiffを用いてリニア増圧制御中における増圧弁PUへの指令電流値Idを決定する。差圧加算値Pup1は、ABS制御開始前ブレーキ操作時間Tstpに応じて設定され、差圧加算値Pup2は、ABS制御中におけるブレーキペダルBPの増し踏みに応じて設定される。
【0211】
これにより、ABS制御の開始に繋がるブレーキ操作が急激であるか否かにかかわらず、且つ、路面摩擦係数μにもかかわらず、差圧推定値Pdiffを、1回目のABS制御中から精度良く推定・取得することができる。また、ABS制御の途中でブレーキペダルBPの増し踏みが発生した場合も、増し踏みにより増大させるべき差圧推定値Pdiffを精度良く推定・取得していくことができる。
【0212】
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、減圧制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行しているが、減圧制御・保持制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行するように構成してもよい。
【0213】
また、上記実施形態においては、1回目のABS制御におけるリニア増圧制御開始時点以降、差圧加算値Pup1を、「0」から、図15に示したテーブルに基づいて得られる値に常に変更するように構成されているが(ステップ2310、2315を参照)、値PG1>値PG2が成立する場合にのみ、差圧加算値Pup1を、「0」から、図15に示したテーブルに基づいて得られる値に変更するように構成してもよい。
【0214】
また、上記実施形態においては、値PG1と値PG2の最大値を同じ値としているが(図10、及び図11を参照)、値PG1と値PG2の最大値を異ならせてもよい。
【0215】
また、上記実施形態においては、減圧制御中において、ホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を図13に示したテーブルを利用してプログラムの実行周期Δt毎に求めているが、減圧制御の継続期間に亘るホイールシリンダ圧推定値Pwの総減少量(総減圧量)を図13に示したテーブルを利用して一時に求めてもよい。
【0216】
また、上記実施形態においては、上記(2)式において、差圧加算値Pup1,Pup2を、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0とは独立して差圧推定値Pdiffに加算しているが、ホイールシリンダ圧推定初期値Pw0そのものを差圧加算値Pup1,Pup2だけ大きくなるように補正することで差圧加算値Pup1,Pup2を差圧推定値Pdiffに加算してもよい。
【0217】
また、上記実施形態においては、ABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwが下限値Pwminを下回った場合、減圧制御中において下限値Pwminから減少していく架空の制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとに基づいて減圧制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を大きめに計算していくことで差圧推定値Pdiffを大きめに計算するように構成されているが、ABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwの下限値Pwminに対する不足分だけホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を大きくなるように補正することで差圧推定値Pdiffを大きめに計算してもよい。
【0218】
また、上記実施形態においては、ABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwが上限値Pwmaxを超えた場合、減圧制御中において上限値Pwmaxから減少していく架空の制御用ホイールシリンダ圧Pwsと図13に示したテーブルとに基づいて減圧制御中におけるホイールシリンダ圧推定値Pwの減圧量を小さめに計算していくことで差圧推定値Pdiffを小さめに計算するように構成されているが、ABS制御開始時点でのホイールシリンダ圧推定値Pwの上限値Pwmaxに対する過剰分だけホイールシリンダ圧推定初期値Pw0を小さくなるように補正することで差圧推定値Pdiffを小さめに計算してもよい。
【0219】
また、上記実施形態においては、ロック圧Pgに所定値α(1<α)、所定値β(0<β<1)を乗じることで上限値Pwmax、下限値Pwminをそれぞれ求めているが、ロック圧Pgに所定値α’(α>0)、所定値β’(β<0)を加えることで上限値Pwmax、下限値Pwminをそれぞれ求めてもよい。
【0220】
また、上記実施形態においては、差圧加算値Pup2に値Aを加えるタイミングをABS制御開始時点(即ち、減圧制御開始時点)としているが、差圧加算値Pup2に値Aを加えるタイミングをリニア増圧制御開始時点としてもよい。
【0221】
加えて、上記実施形態においては、増圧弁として(常開)リニア電磁弁PUが使用されているが、増圧弁として(常開)電磁開閉弁が使用されてもよい。この場合、図26に示すように、リニア増圧制御に代えて増圧弁の開閉を交互に繰り返す(従って、増圧期間・保持期間を交互に繰り返す)開閉増圧制御が実行される。この開閉増圧制御における増圧弁の開閉パターンは、差圧推定値Pdiffに基づいて決定される。
【0222】
即ち、図27に示すように、開閉増圧制御中における電磁開閉弁である増圧弁の開作動によるホイールシリンダ圧の増圧量ΔPupは、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧と、増圧弁を開状態に維持する時間Tupとに依存して決定される。このような増圧弁による増圧特性は、所定の実験・シミュレーション等を通して予め取得できる。
【0223】
従って、例えば、開閉増圧制御中における各増圧期間の長さを時間Y(一定)とすれば、時間Yと、開閉増圧制御の開始時点(従って、それまでに実行されていた減圧制御の終了時点)での差圧推定値Pdiffと、図27に示すテーブルとを利用して、各増圧期間中におけるホイールシリンダ圧の増圧量をそれぞれ取得することができる。なお、これにより、開閉増圧制御の開始時点(従って、それまでに実行されていた減圧制御の終了時点)でのホイールシリンダ圧推定値Pwと、各増圧期間中におけるホイールシリンダ圧の増圧量とから、開閉増圧制御中に亘ってステップ状に増大していくホイールシリンダ圧Pwを推定することができる。
【0224】
この結果、1回の保持期間とその保持期間に続く1回の増圧期間の和に対するその1回の増圧期間中におけるホイールシリンダ圧の増圧量の割合(即ち、ホイールシリンダ圧の平均的な上昇勾配)が、リニア電磁弁によりリニア増圧制御が実行される場合のホイールシリンダ圧の上昇勾配(ステップ2126における値Kupに相当する値)と一致するように、各保持期間の長さ(図26では、時間X1〜時間X5)をそれぞれ設定することができる。これにより、開閉増圧制御中において、リニア電磁弁によりリニア増圧制御が実行される場合と略同一のホイールシリンダ圧の増圧特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】本発明の実施形態に係る車両のアンチスキッド制御装置を含む車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したブレーキ液圧制御部の概略構成図である。
【図3】図2に示した増圧弁についての指令電流と指令差圧との関係を示したグラフである。
【図4】図3に示した指令電流をデューティ制御にて制御する際の通電パターンを示した図である。
【図5】図1に示したアンチスキッド制御装置によりABS制御が開始・実行された場合における、車体速度、車輪速度、マスタシリンダ圧、実ホイールシリンダ圧、ホイールシリンダ圧推定値、差圧推定値、及びリニア電磁弁である増圧弁への指令電流値の変化の一例を示したタイムチャートである。
【図6】低μ路面で緩制動がなされた場合におけるホイールシリンダ圧推定初期値の設定についての理解を容易にするための図である。
【図7】高μ路面で緩制動がなされた場合におけるホイールシリンダ圧推定初期値の設定についての理解を容易にするための図である。
【図8】低μ路面で急制動がなされた場合におけるホイールシリンダ圧推定初期値の設定についての理解を容易にするための図である。
【図9】高μ路面で急制動がなされた場合におけるホイールシリンダ圧推定初期値の設定についての理解を容易にするための図である。
【図10】ホイールシリンダ圧推定初期値を設定する際に考慮される値PG1と、車体減速度との関係を示したグラフである。
【図11】ホイールシリンダ圧推定初期値を設定する際に考慮される値PG2と、ABS制御開始前ブレーキ操作時間との関係を示したグラフである。
【図12】減圧弁が開状態に維持されている場合における、時間に対するホイールシリンダ圧の減圧特性を示したグラフである。
【図13】減圧弁が開状態に維持されている場合における、開弁維持時間と、ホイールシリンダ圧と、ホイールシリンダ圧の減圧量との関係を示したグラフである。
【図14】図1に示したアンチスキッド制御装置によりABS制御が開始・実行された場合における、車体速度、車輪速度、マスタシリンダ圧、実ホイールシリンダ圧、ホイールシリンダ圧推定値、差圧推定値、及び差圧加算値の変化の一例を示したタイムチャートである。
【図15】差圧加算値と、ABS制御開始前ブレーキ操作時間との関係を示したグラフである。
【図16】ロック圧と、ホイールシリンダ圧の上限値と、ホイールシリンダ圧の下限値との関係を示したグラフである。
【図17】ホイールシリンダ圧推定値がホイールシリンダ圧の下限値を下回った場合において、差圧推定値を大きめに計算するための手法を説明するための図である。
【図18】ホイールシリンダ圧推定値がホイールシリンダ圧の上限値を超えた場合において、差圧推定値を小さめに計算するための手法を説明するための図である。
【図19】図1に示したCPUが実行する車輪速度等を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図20】図1に示したCPUが実行するABS制御の開始・終了判定を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図21】図1に示したCPUが実行するABS制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図22】図1に示したCPUが実行する、制御用ホイールシリンダ圧、ホイールシリンダ圧推定値、差圧推定値の更新を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図23】図1に示したCPUが実行する差圧加算値を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図24】図1に示したCPUが実行する差圧加算値を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図25】図1に示したCPUが実行する制御用ホイールシリンダ圧を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図26】増圧弁として電磁開閉弁が使用された場合において開閉増圧制御が実行された場合における増圧弁の開閉パターンの一例を示したグラフである。
【図27】電磁開閉弁である増圧弁が開状態に維持されている場合における、開弁維持時間と、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の差圧と、ホイールシリンダ圧の増圧量との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0226】
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧制御部、41**…車輪速度センサ、42…ブレーキスイッチ、50…電子制御装置、51…CPU、52…ROM、PU**…増圧弁、PD**…減圧弁、MT…モータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧(Pm)を発生するマスタシリンダ(MC)とホイールシリンダ(Wfr等)との間の液圧回路に介装された電磁弁である増圧弁(PUfr等)と、
前記ホイールシリンダ(Wfr等)とリザーバ(RS)との間の液圧回路に介装された電磁弁である減圧弁(PDfr等)と、
を備えた制御ユニットに適用され、
所定のアンチスキッド制御開始条件が成立することに応答して開始されるアンチスキッド制御であって、前記増圧弁(PUfr等)を閉状態に維持したまま前記減圧弁(PDfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ(Wfr等)内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁(PDfr等)を閉状態に維持したまま前記増圧弁(PUfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめる増圧制御が次に前記アンチスキッド制御開始条件が成立するまで実行されるアンチスキッド制御、を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御手段(51、図20〜図25のルーチン)を備えた車両のアンチスキッド制御装置であって、
前記アンチスキッド制御手段(51、図20〜図25のルーチン)は、
1回目の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得するホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51,2045,2050,2055)と、
少なくとも前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を利用して前記アンチスキッド制御中に亘って変化する前記ホイールシリンダ圧の推定値(Pw)を取得するホイールシリンダ圧推定値取得手段(51,2110,2210)と、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)と前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)との差に基づいて前記マスタシリンダ圧と前記ホイールシリンダ圧との差圧の推定値(Pdiff)を取得する差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23のルーチン、図24のルーチン)と、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中において前記増圧弁(PUfr等)を制御する増圧弁制御手段(51,2122,2124)と、
を備えた車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51,2045,2050,2055)は、
前記車両の車体減速度(DVso)に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(Pg)を考慮して前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得する(2045,2055)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51,2045,2050,2055)は、
運転者によるブレーキ操作の開始から前記1回目のアンチスキッド制御の開始までに要する時間(Tstp)をも更に考慮して前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得する(2050,2055)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51、2045,2050,2055)は、
前記車体減速度に基づく車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(Pg)を考慮して取得される前記ホイールシリンダ圧推定初期値(PG1)を、前記運転者によるブレーキ操作の開始から前記1回目のアンチスキッド制御の開始までに要する時間(Tstp)に基づいて補正することで、前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得する(2055)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
1回目の前記アンチスキッド制御中における前記増圧制御の開始時点から、前記運転者によるブレーキ操作の開始から前記アンチスキッド制御の開始までに要する時間(Tstp)に応じた分(Pup1)だけ前記差圧推定値(Pdiff)を大きめに設定する(2315)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記増圧弁(PUfr等)は、開状態と閉状態とに選択的に制御可能な電磁開閉弁であって、
前記増圧弁制御手段(51,2122,2124)は、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中における前記増圧弁(PUfr等)の開閉パターンを決定するように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記増圧弁(PUfr等)は、同増圧弁(PUfr等)への通電電流値(Id)に応じて前記差圧を調整可能なリニア電磁弁であって、
前記増圧弁制御手段(51,2122,2124)は、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中における前記増圧弁(PUfr等)への通電電流値(Id)を決定する(2122)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記車両の車体減速度(DVso)に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(Pg)を考慮して前記ホイールシリンダ圧の上限値(Pwmax)を設定し、2回目以降の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)が前記上限値(Pwmax)を超えた場合、前記差圧推定値(Pdiff)を小さくする(2140,2110,2210、図25のルーチン)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記車両の車体減速度(DVso)に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(Pg)を考慮して前記ホイールシリンダ圧の下限値(Pwmin)を設定し、2回目以降の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)が前記下限値(Pwmin)を下回った場合、前記差圧推定値(Pdiff)を大きくする(2140,2110,2210、図25のルーチン)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9の何れか一項に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記車輪の回転速度(Vw)における所定のハンチング現象が発生しているか否かを判定するハンチング現象判定手段(51,2415)を備え、
前記ハンチング現象が発生していると判定された場合、前記差圧推定値(Pdiff)を所定値(Pup2=A)だけ大きめに設定する(2415,2420)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記ハンチング現象判定手段(51,2415)は、
前記アンチスキッド制御が繰り返し開始される毎に前記車輪の回転速度(Vw)における前記所定のハンチング現象が発生しているか否かを判定する(2410,2415)ように構成され、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記ハンチング現象が発生していると判定される毎に、前記差圧推定値(Pdiff)を大きめに設定する量(Pup2)を前記所定値(A)だけ大きくする(2410,2415,2420)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記差圧推定値(Pdiff)を大きめに設定する量(Pup2)を、前記増圧制御中の所定の時点から同増圧制御の終了時点までの間において減少させていき(2425,2430)、前記車輪の回転速度(Vw)における前記所定のハンチング現象が発生していないと判定された時点以降、前記差圧推定値(Pdiff)を大きめに設定する量(Pup2)を、同時点での値に維持する(2415,2435)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項13】
運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧(Pm)を発生するマスタシリンダ(MC)とホイールシリンダ(Wfr等)との間の液圧回路に介装された電磁弁である増圧弁(PUfr等)と、
前記ホイールシリンダ(Wfr等)とリザーバ(RS)との間の液圧回路に介装された電磁弁である減圧弁(PDfr等)と、
所定のアンチスキッド制御開始条件が成立することに応答して開始されるアンチスキッド制御であって、前記増圧弁(PUfr等)を閉状態に維持したまま前記減圧弁(PDfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ(Wfr等)内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁(PDfr等)を閉状態に維持したまま前記増圧弁(PUfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめる増圧制御が次に前記アンチスキッド制御開始条件が成立するまで実行されるアンチスキッド制御、を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御手段(51、図20〜図25のルーチン)と、
を備えた車両のアンチスキッド装置であって、
前記アンチスキッド制御手段(51、図20〜図25のルーチン)は、
1回目の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得するホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51,2045,2050,2055)と、
少なくとも前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を利用して前記アンチスキッド制御中に亘って変化する前記ホイールシリンダ圧の推定値(Pw)を取得するホイールシリンダ圧推定値取得手段(51,2110,2210)と、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)と前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)との差に基づいて前記マスタシリンダ圧と前記ホイールシリンダ圧との差圧の推定値(Pdiff)を取得する差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23のルーチン、図24のルーチン)と、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中において前記増圧弁(PUfr等)を制御する増圧弁制御手段(51,2122,2124)と、
を備えた車両のアンチスキッド装置。
【請求項14】
運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧(Pm)を発生するマスタシリンダ(MC)とホイールシリンダ(Wfr等)との間の液圧回路に介装された電磁弁である増圧弁(PUfr等)と、
前記ホイールシリンダ(Wfr等)とリザーバ(RS)との間の液圧回路に介装された電磁弁である減圧弁(PDfr等)と、
を備えた制御ユニットに適用され、
所定のアンチスキッド制御開始条件が成立することに応答して開始されるアンチスキッド制御であって、前記増圧弁(PUfr等)を閉状態に維持したまま前記減圧弁(PDfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ(Wfr等)内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁(PDfr等)を閉状態に維持したまま前記増圧弁(PUfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめる増圧制御が次に前記アンチスキッド制御開始条件が成立するまで実行されるアンチスキッド制御、を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御ステップ(図20〜図25のルーチン)を備えた車両のアンチスキッド制御用のプログラムであって、
前記アンチスキッド制御ステップ(図20〜図25のルーチン)は、
1回目の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得するホイールシリンダ圧推定初期値取得ステップ(2045,2050,2055)と、
少なくとも前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を利用して前記アンチスキッド制御中に亘って変化する前記ホイールシリンダ圧の推定値(Pw)を取得するホイールシリンダ圧推定値取得ステップ(2110,2210)と、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)と前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)との差に基づいて前記マスタシリンダ圧と前記ホイールシリンダ圧との差圧の推定値(Pdiff)を取得する差圧推定値取得ステップ(2055,2210,2215,2220,2225、図23のルーチン、図24のルーチン)と、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中において前記増圧弁(PUfr等)を制御する増圧弁制御ステップ(2122,2124)と、
を備えた車両のアンチスキッド制御用のプログラム。
【請求項1】
運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧(Pm)を発生するマスタシリンダ(MC)とホイールシリンダ(Wfr等)との間の液圧回路に介装された電磁弁である増圧弁(PUfr等)と、
前記ホイールシリンダ(Wfr等)とリザーバ(RS)との間の液圧回路に介装された電磁弁である減圧弁(PDfr等)と、
を備えた制御ユニットに適用され、
所定のアンチスキッド制御開始条件が成立することに応答して開始されるアンチスキッド制御であって、前記増圧弁(PUfr等)を閉状態に維持したまま前記減圧弁(PDfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ(Wfr等)内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁(PDfr等)を閉状態に維持したまま前記増圧弁(PUfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめる増圧制御が次に前記アンチスキッド制御開始条件が成立するまで実行されるアンチスキッド制御、を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御手段(51、図20〜図25のルーチン)を備えた車両のアンチスキッド制御装置であって、
前記アンチスキッド制御手段(51、図20〜図25のルーチン)は、
1回目の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得するホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51,2045,2050,2055)と、
少なくとも前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を利用して前記アンチスキッド制御中に亘って変化する前記ホイールシリンダ圧の推定値(Pw)を取得するホイールシリンダ圧推定値取得手段(51,2110,2210)と、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)と前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)との差に基づいて前記マスタシリンダ圧と前記ホイールシリンダ圧との差圧の推定値(Pdiff)を取得する差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23のルーチン、図24のルーチン)と、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中において前記増圧弁(PUfr等)を制御する増圧弁制御手段(51,2122,2124)と、
を備えた車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51,2045,2050,2055)は、
前記車両の車体減速度(DVso)に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(Pg)を考慮して前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得する(2045,2055)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51,2045,2050,2055)は、
運転者によるブレーキ操作の開始から前記1回目のアンチスキッド制御の開始までに要する時間(Tstp)をも更に考慮して前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得する(2050,2055)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51、2045,2050,2055)は、
前記車体減速度に基づく車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(Pg)を考慮して取得される前記ホイールシリンダ圧推定初期値(PG1)を、前記運転者によるブレーキ操作の開始から前記1回目のアンチスキッド制御の開始までに要する時間(Tstp)に基づいて補正することで、前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得する(2055)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
1回目の前記アンチスキッド制御中における前記増圧制御の開始時点から、前記運転者によるブレーキ操作の開始から前記アンチスキッド制御の開始までに要する時間(Tstp)に応じた分(Pup1)だけ前記差圧推定値(Pdiff)を大きめに設定する(2315)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記増圧弁(PUfr等)は、開状態と閉状態とに選択的に制御可能な電磁開閉弁であって、
前記増圧弁制御手段(51,2122,2124)は、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中における前記増圧弁(PUfr等)の開閉パターンを決定するように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記増圧弁(PUfr等)は、同増圧弁(PUfr等)への通電電流値(Id)に応じて前記差圧を調整可能なリニア電磁弁であって、
前記増圧弁制御手段(51,2122,2124)は、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中における前記増圧弁(PUfr等)への通電電流値(Id)を決定する(2122)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記車両の車体減速度(DVso)に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(Pg)を考慮して前記ホイールシリンダ圧の上限値(Pwmax)を設定し、2回目以降の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)が前記上限値(Pwmax)を超えた場合、前記差圧推定値(Pdiff)を小さくする(2140,2110,2210、図25のルーチン)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記車両の車体減速度(DVso)に基づいて得られる車輪のロックが発生するホイールシリンダ圧(Pg)を考慮して前記ホイールシリンダ圧の下限値(Pwmin)を設定し、2回目以降の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)が前記下限値(Pwmin)を下回った場合、前記差圧推定値(Pdiff)を大きくする(2140,2110,2210、図25のルーチン)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9の何れか一項に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記車輪の回転速度(Vw)における所定のハンチング現象が発生しているか否かを判定するハンチング現象判定手段(51,2415)を備え、
前記ハンチング現象が発生していると判定された場合、前記差圧推定値(Pdiff)を所定値(Pup2=A)だけ大きめに設定する(2415,2420)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記ハンチング現象判定手段(51,2415)は、
前記アンチスキッド制御が繰り返し開始される毎に前記車輪の回転速度(Vw)における前記所定のハンチング現象が発生しているか否かを判定する(2410,2415)ように構成され、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記ハンチング現象が発生していると判定される毎に、前記差圧推定値(Pdiff)を大きめに設定する量(Pup2)を前記所定値(A)だけ大きくする(2410,2415,2420)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の車両のアンチスキッド制御装置において、
前記差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23及び図24のルーチン)は、
前記差圧推定値(Pdiff)を大きめに設定する量(Pup2)を、前記増圧制御中の所定の時点から同増圧制御の終了時点までの間において減少させていき(2425,2430)、前記車輪の回転速度(Vw)における前記所定のハンチング現象が発生していないと判定された時点以降、前記差圧推定値(Pdiff)を大きめに設定する量(Pup2)を、同時点での値に維持する(2415,2435)ように構成された車両のアンチスキッド制御装置。
【請求項13】
運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧(Pm)を発生するマスタシリンダ(MC)とホイールシリンダ(Wfr等)との間の液圧回路に介装された電磁弁である増圧弁(PUfr等)と、
前記ホイールシリンダ(Wfr等)とリザーバ(RS)との間の液圧回路に介装された電磁弁である減圧弁(PDfr等)と、
所定のアンチスキッド制御開始条件が成立することに応答して開始されるアンチスキッド制御であって、前記増圧弁(PUfr等)を閉状態に維持したまま前記減圧弁(PDfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ(Wfr等)内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁(PDfr等)を閉状態に維持したまま前記増圧弁(PUfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめる増圧制御が次に前記アンチスキッド制御開始条件が成立するまで実行されるアンチスキッド制御、を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御手段(51、図20〜図25のルーチン)と、
を備えた車両のアンチスキッド装置であって、
前記アンチスキッド制御手段(51、図20〜図25のルーチン)は、
1回目の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得するホイールシリンダ圧推定初期値取得手段(51,2045,2050,2055)と、
少なくとも前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を利用して前記アンチスキッド制御中に亘って変化する前記ホイールシリンダ圧の推定値(Pw)を取得するホイールシリンダ圧推定値取得手段(51,2110,2210)と、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)と前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)との差に基づいて前記マスタシリンダ圧と前記ホイールシリンダ圧との差圧の推定値(Pdiff)を取得する差圧推定値取得手段(51,2055,2210,2215,2220,2225、図23のルーチン、図24のルーチン)と、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中において前記増圧弁(PUfr等)を制御する増圧弁制御手段(51,2122,2124)と、
を備えた車両のアンチスキッド装置。
【請求項14】
運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧(Pm)を発生するマスタシリンダ(MC)とホイールシリンダ(Wfr等)との間の液圧回路に介装された電磁弁である増圧弁(PUfr等)と、
前記ホイールシリンダ(Wfr等)とリザーバ(RS)との間の液圧回路に介装された電磁弁である減圧弁(PDfr等)と、
を備えた制御ユニットに適用され、
所定のアンチスキッド制御開始条件が成立することに応答して開始されるアンチスキッド制御であって、前記増圧弁(PUfr等)を閉状態に維持したまま前記減圧弁(PDfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ(Wfr等)内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁(PDfr等)を閉状態に維持したまま前記増圧弁(PUfr等)を制御することで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめる増圧制御が次に前記アンチスキッド制御開始条件が成立するまで実行されるアンチスキッド制御、を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御ステップ(図20〜図25のルーチン)を備えた車両のアンチスキッド制御用のプログラムであって、
前記アンチスキッド制御ステップ(図20〜図25のルーチン)は、
1回目の前記アンチスキッド制御の開始時点での前記ホイールシリンダ圧の推定値であるホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を取得するホイールシリンダ圧推定初期値取得ステップ(2045,2050,2055)と、
少なくとも前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)を利用して前記アンチスキッド制御中に亘って変化する前記ホイールシリンダ圧の推定値(Pw)を取得するホイールシリンダ圧推定値取得ステップ(2110,2210)と、
前記ホイールシリンダ圧推定初期値(Pw0)と前記ホイールシリンダ圧推定値(Pw)との差に基づいて前記マスタシリンダ圧と前記ホイールシリンダ圧との差圧の推定値(Pdiff)を取得する差圧推定値取得ステップ(2055,2210,2215,2220,2225、図23のルーチン、図24のルーチン)と、
前記差圧推定値(Pdiff)に基づいて前記増圧制御中において前記増圧弁(PUfr等)を制御する増圧弁制御ステップ(2122,2124)と、
を備えた車両のアンチスキッド制御用のプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2007−91051(P2007−91051A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283470(P2005−283470)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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