説明

車両のカウル部構造

【課題】補強体で開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制し、かつ、振動減衰部材により効果的に振動減衰を図って、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策、騒音対策を図る車両のカウル部構造を提供する。
【解決手段】カウル上部部材9とカウル下部部材7とをつなぐ補強体30を備え、補強体30が、カウル上部部材9に結合されてカウル下部部材7方向に延びる第1補強部31と、カウル下部部材7に結合されてカウル上部部材9方向に延びる第2補強部32と、を備え、第1補強部31と第2補強部32とは重ね合せ部33を有し、第1補強部31と第2補強部32とが重ね合せ部33の少なくとも一部において振動減衰部材34を介して結合されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の車幅方向に延在し、カウルパネルなどのカウル上部部材とダッシュアッパパネルなどのカウル下部部材とで車両前方に開口する開断面が形成されたような車両のカウル部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歩行者などの衝突体が車両前部に衝突した時、その衝撃を緩和するために、カウルパネルを含むカウルボックス構造を、その上部が開放された所謂オープンカウル構造と成すことが知られている。
【0003】
しかしながら、上述したオープンカウル構造を採用した場合、ダッシュロアパネル上側のダッシュアッパパネルと、カウルパネルとで形成される開口部が揺動変形し、カウルパネルに接着等の手段にて接合されたフロントウインド部材(フロントウインドガラス)の振動が増大し、こもり音(20〜300H帯域のフィーリングとしては耳を圧迫するような音)となって車室内の乗員に不快感を与えるという問題点があった。
【0004】
このような問題を解決する従来技術としては、特許文献1に開示された構造が知られている。
すなわち、特許文献1に開示されたものは、車両の車幅方向に延びるカウルパネルの車幅方向中間部を、ダッシュアッパパネルの対応部に支持する支持ブラケットを設け、この支持ブラケットで上述のカウルパネルの揺動変形を抑制しつつ、該カウルパネルの振動を抑制するものである。
この特許文献1に開示された従来構造においては、フロントウインド部材の振動をある程度低減することができるが、まだ充分ではなかった。
この特許文献1に開示された構造において、振動の低減をさらに向上させるためには、支持ブラケットの板厚を大きくすることが考えられるが、この場合には、車体の重量増加を招くのみならず、歩行者保護性能が低下する問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−37288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、カウル上部部材とカウル下部部材とをつなぐ補強体を設け、この補強体がカウル上部部材からカウル下部部材側に延びる第1補強部と、カウル下部部材からカウル上部部材側に延びる第2補強部とを備え、第1および第2の補強部の重ね合せ部の少なくとも一部に振動減衰部材を介設することにより、補強体で開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制すると共に、振動減衰部材により効果的に振動減衰を図ることができ、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる車両のカウル部構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による車両のカウル部構造は、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材とカウル下部部材とで車両前方に開口する開断面が形成された車両のカウル部構造であって、上記カウル上部部材と上記カウル下部部材とをつなぐ補強体を備え、上記補強体が、上記カウル上部部材に結合されて上記カウル下部部材方向に延びる第1補強部と、上記カウル下部部材に結合されて上記カウル上部部材方向に延びる第2補強部と、を備え、上記第1補強部と上記第2補強部とは重ね合せ部を有し、上記第1補強部と上記第2補強部とが上記重ね合せ部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合されたものである。
上述のカウル上部部材は、カウルパネルに設定してもよい。また、上述のカウル下部部材は、ダッシュアッパパネル、カウルフロントパネルもしくはカウルクロスメンバに設定してもよい。
さらに、上述の振動減衰部材としては、損失係数(20℃,30H)が0.2以上の粘弾性部材が望ましい。
【0008】
上記構成によれば、カウル上部部材とカウル下部部材とをつなぐ補強体により、開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
また、補強体の板厚を増加することなく、第1補強部と第2補強部との重ね合せ部の少なくとも一部に介設した振動減衰部材により、効果的に振動減衰を図ることができる。よって、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる。
さらに、第1補強部はカウル上部部材に結合され、第2補強部はカウル下部部材に結合されるものであるから、カウル部構造に対して、これら第1、第2の各補強部の取付けが容易となる。
【0009】
この発明による車両のカウル部構造は、また、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材とカウル下部部材とで車両前方に開口する開断面が形成された車両のカウル部構造であって、上記カウル上部部材と上記カウル下部部材とをつなぐ補強体を備え、上記補強体が、上記カウル上部部材の前端部の少なくとも一部を上記カウル下部部材方向へ屈曲して形成された第1補強部と、上記カウル下部部材に結合されて上記カウル上部部材方向に延びる第2補強部と、を備え、上記第1補強部と上記第2補強部とは重ね合せ部を有し、上記第1補強部と上記第2補強部とが上記重ね合せ部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合されたものである。
【0010】
上記構成によれば、カウル上部部材とカウル下部部材とをつなぐ補強体により、開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
また、補強体の板厚を増加することなく、第1補強部と第2補強部との重ね合せ部の少なくとも一部に介設した振動減衰部材により、効果的に振動減衰を図ることができる。よって、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる。
さらに、上記第1補強部は、カウル上部部材に一体に屈曲形成されたものであるから、部品点数の削減を図ることができる。
【0011】
この発明による車両のカウル部構造は、さらに、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材とカウル下部部材とで車両前方に開口する開断面が形成された車両のカウル部構造であって、上記カウル上部部材と上記カウル下部部材とをつなぐ補強体を備え、上記補強体が、上記カウル上部部材に結合されて上記カウル下部部材方向に延びる第1補強部と、上記カウル下部部材の少なくとも一部を上記カウル上部部材方向へ屈曲して形成された第2補強部と、を備え、上記第1補強部と上記第2補強部とは重ね合せ部を有し、上記第1補強部と上記第2補強部とが上記重ね合せ部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合されたものである。
【0012】
上記構成によれば、カウル上部部材とカウル下部部材とをつなぐ補強体により、開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
また、補強体の板厚を増加することなく、第1補強部と第2補強部との重ね合せ部の少なくとも一部に介設した振動減衰部材により、効果的に振動減衰を図ることができる。よって、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる。
さらに、上記第2補強部は、カウル下部部材に一体に屈曲形成されたものであるから、部品点数の削減を図ることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記重ね合せ部が車両の前後方向に重ね合せられるように構成されたものである。
上記構成によれば、車両の前後方向に重ね合せられる重ね合せ部の少なくとも一部に介設した振動減衰部材により、効果的に振動減衰を図ることができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記重ね合せ部が車両の前後方向に重ね合せられるように構成され、上記開口の前端近傍に上記カウル上部部材と上記第1補強部との結合部が設けられたものである。
上記構成によれば、カウル上部部材とカウル下部部材との開口においては、開口の前端近傍が開口の後方部に対して相対変位がより大きくなり、この相対変位がより大きい部位(開口の前端近傍)に、カウル上部部材と第1補強部との結合部を設け、この第1補強部と第2補強部とが重ね合せられる重ね合せ部の少なくとも一部に振動減衰部材を介設するものであるから、振動減衰効果をより一層高めることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記重ね合せ部が車幅方向に重ね合せられるように構成されたものである。
上記構成によれば、車幅方向に重ね合せられる重ね合せ部の少なくとも一部に介設した振動減衰部材により、効果的に振動減衰を図ることができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、上記カウル上部部材が、ダッシュアッパパネルの上部から前方に延設されてフロントウインド部材下端部を支持するカウルパネルであることを特徴とする。
上記構成によれば、カウル上部部材をカウルパネルに設定したので、カウルパネルとカウル下部部材とをつなぐ補強体により、開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記重ね合せ部が車両の上下方向に重ね合せられるように構成されたものである。
上記構成によれば、車両の上下方向に重ね合せられる重ね合せ部の少なくとも一部に介設した振動減衰部材により、効果的に振動減衰を図ることができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、上記カウル下部部材が、ダッシュアッパパネル、または、ダッシュアッパパネルの下部から前方に延設されたカウルフロントパネル、または、カウルフロントパネルとの間に車幅方向に延びる閉断面を形成するカウルクロスメンバであることを特徴とする。
上記構成によれば、カウル下部部材を、ダッシュアッパパネル、カウルフロントパネルまたはカウルクロスメンバに設定したので、カウル上部部材と、ダッシュアッパパネル、カウルフロントパネルまたはカウルクロスメンバとをつなぐ補強体により、開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、カウル上部部材とカウル下部部材とをつなぐ補強体を設け、この補強体がカウル上部部材からカウル下部部材側に延びる第1補強部と、カウル下部部材からカウル上部部材側に延びる第2補強部とを備え、第1および第2の補強部の重ね合せ部の少なくとも一部に振動減衰部材を介設したので、補強体で開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制すると共に、振動減衰部材により効果的に振動減衰を図ることができ、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の車両のカウル部構造を示す斜視図
【図2】図1の要部の側面図
【図3】補強体の拡大斜視図
【図4】周波数に対するパネル加速度の特性を示す特性図
【図5】車両のカウル部構造の他の実施例を示す斜視図
【図6】図5の要部の側面図
【図7】補強体の拡大斜視図
【図8】周波数に対するパネル加速度の特性を示す特性図
【図9】車両のカウル部構造のさらに他の実施例を示す斜視図
【図10】図9の要部の側面図
【図11】補強体の拡大斜視図
【図12】周波数に対するパネル加速度の特性を示す特性図
【図13】補強体の開口に対する複数の結合位置を示す説明図
【図14】図13の複数の結合位置でのそれぞれのポイントイナータンスを示す特性図
【図15】車両のカウル部構造のさらに他の実施例を示す斜視図
【図16】車両のカウル部構造のさらに他の実施例を示す斜視図
【図17】補強体の他の実施例を示し、(a)は振動減衰部材介設前の側面図、(b)は振動減衰部材介設後の側面図
【図18】補強体のさらに他の実施例を示し、(a)は振動減衰部材介設前の側面図、(b)は振動減衰部材介設後の側面図
【図19】車両のカウル部構造のさらに他の実施例を示す側面図
【図20】車両のカウル部構造のさらに他の実施例を示す側面図
【図21】車両のカウル部構造のさらに他の実施例を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
補強体で開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制すると共に、振動減衰部材により効果的に振動減衰を図り、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図るという目的を、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材とカウル下部部材とで車両前方に開口する開断面が形成された車両のカウル部構造において、上記カウル上部部材と上記カウル下部部材とをつなぐ補強体を備え、上記補強体が、上記カウル上部部材に結合されて上記カウル下部部材方向に延びる第1補強部と、上記カウル下部部材に結合されて上記カウル上部部材方向に延びる第2補強部と、を備え、上記第1補強部と上記第2補強部とは重ね合せ部を有し、上記第1補強部と上記第2補強部とが上記重ね合せ部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合されるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0022】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図1は車両のカウル部構造を示す斜視図、図2は図1の要部の側面図、図3は補強体の拡大斜視図である。なお、図中、矢印Fは車両の前方を示す。
図1,図2において、左右のヒンジピラー1,1(但し、図面では車両右側のヒンジピラーのみを示す)間にはダッシュロアパネル2を接合固定し、このダッシュロアパネル2でエンジンルーム3とその後方の車室4とを前後方向に仕切っている。
また、上述のヒンジピラー1の上部には、前部が低く、後部が高くなるようにフロントピラー5を接合固定している。
さらに、上述のダッシュロアパネル2の下部後端部には、フロアパネル6を接合固定している。このフロアパネル6は後方に向けて略水平に延び、車室4の底面を構成するパネルであって、このフロアパネル6の車幅方向中央部には、車室4内に突出し、かつ車両の前後方向に延びるトンネル部が一体形成される。
【0023】
図1,図2に示すように、上述のダッシュロアパネル2の上端折曲部2aには、ダッシュアッパパネル7を接合固定している。そして、このダッシュアッパパネル7の上部にはフロントウインド部材としてのフロントウインドガラス8の傾斜下端部を支持するカウルパネル9の後端部を接合固定している。
つまり、この実施例の車両のカウル部構造は、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材としてのカウルパネル9と、カウル下部部材としてのダッシュアッパパネル7とで、車両前方に開口する開断面10(以下、カウル開口部と称する)が形成されたものである。
上述のダッシュアッパパネル7の前端部7aに、その後端部11aが接合されて前方に延びるカウルフロントパネル11を設け、このカウルフロントパネル11の前側縦壁部11bとの間に、車幅方向に延びる閉断面12を形成すべく、該カウルフロントパネル11の前部上側にはカウルクロスメンバ13を取付けている。
そして、上述のダッシュアッパパネル7と、カウルパネル9と、カウルフロントパネル11と、カウルクロスメンバ13とにより、車幅方向に延びる所謂オープンカウル構造のカウルボックス14を形成している。
【0024】
ところで、図1に示すように、上述のダッシュロアパネル2から前方に離間した位置にはサスペンションタワー15を配設している。このサスペンションタワー15の上部車幅方向外側には、ヒンジピラー1の上部から前方に延びるエプロンレインフォースメント16が設けられている。
このエプロンレインフォースメント16は、エプロンレインアウタとエプロンレインインナとを備えた車体剛性部材である。また、上述のサスペンションタワー15の下部車幅方向内側には、フロントサイドフレーム17が接続されており、このフロントサイドフレーム17は、上述のエプロンレインフォースメント16と略平行に設けられている。
また、上述のフロントサイドフレーム17はエンジンルーム3の両サイド部において車両の前後方向に延びる車体剛性部材であって、このフロントサイドフレーム17はサスペンションタワー15の下部に接続されると共に、後端部が下方に湾曲してフロアフレーム18の前部に接続されたものである。
なお、図2において、19はエンジンルーム3の上方を開閉可能に覆うボンネット、20は該ボンネット19の下面に一体的に設けられたボンネットレインフォースメントである。
【0025】
図1,図2に示すように、上述のカウル開口部10を形成するダッシュアッパパネル7と、このダッシュアッパパネル7の上部から前方に延設されてフロントウインドガラス8下端部を支持するカウルパネル9は、ダッシュアッパパネル7の後端部7bと、カウルパネル9の後端部9bとを接合固定して形成したもので、カウル上部部材としてのカウルパネル9と、カウル下部部材としてのダッシュアッパパネル7とを、略上下方向につなぐ補強体30(いわゆるV字ガセット)を設けている。
【0026】
図2,図3に示すように、この補強体30は、鉄板で形成されると共に、カウルパネル9に結合されてダッシュアッパパネル7方向(つまり下方)に延びる第1補強部31と、ダッシュアッパパネル7に結合されてカウルパネル9方向(つまり上方)に延びる第2補強部32と、を備え、第1補強部31と第2補強部32とは重ね合せ部としてのオーバラップ部33を有しており、第1補強部31と第2補強部32とがオーバラップ部33の少なくとも一部(但し、この実施例では略全部)において振動減衰部材34を介して結合されている。
【0027】
図2,図3に示すように、この実施例では補強体30は側面視で略逆三角形状に形成されており、上側に位置する第1補強部31は、その上部に前後方向に離間した2つの折曲げ片31a,31bが一体形成されており、下側に位置する第2補強部32は、その下部に1つの折曲げ片32aが一体形成されていて、第1補強部31の2つの折曲げ片31a,31bはカウルパネル9の上部下面(自由端側下面)にスポット溶接手段にて接合固定され、第2補強部32の1つの折曲げ片32aは、ダッシュアッパパネル7の前低後高形状のスラント部前面にスポット溶接手段にて接合固定されている。
また、上述の折曲げ片32aは、ダッシュロアパネル2よりも後方側に位置するように上記スラント部前面に結合されたものである。
さらに、上述の補強体30は図1に示すように、フロントウインドガラス8の車幅方向の長さを略2等分する位置、つまり、カウル開口部10の車幅方向中間部、詳しくは、車幅方向中央部において、第1補強部31と第2補強部32とが車幅方向に重なり合うように設けられている。
上述の振動減衰部材34としては、損失係数(20℃,30H)が1.0以上の粘弾性部材を用い、この粘弾性部材をオーバラップ部33に接着固定したものである。
【0028】
図4は2分割構造の補強体30のオーバラップ部33に振動減衰部材34を介設した本実施例品と、非分割構造の補強体を備え、振動減衰部材を一切用いていない比較例品と、補強体それ自体を有さない従来品とのそれぞれのカウル部構造に対し、シュミレーション解析を行なった結果を特性図で示したものである。
【0029】
解析評価方法としては、加振位置としてのフロントサスペンション取付け部を加振し、フロントウインドガラス8のうち、車室4内の空洞と接している部位の各点の振動加速度を集計したもので、図4では、解析モデルの節点の加速度を二乗和した値で示している。
【0030】
図4は横軸に47.5〜82.5Hの周波数帯域をとり、縦軸にパネル加速度をとったもので、同図においてaで示す特性が本実施例品のものであり、bで示す特性が比較例品のものであり、cで示す特性が従来品のものであって、これら特性a,b,cにおいて、47.5〜82.5Hの間で最大ピーク値P1,P2,P3の大小により評価を行なう。
補強体それ自体を有さない従来品の特性cにおけるピーク値P3に対し、補強体を備えた比較例品の特性bではピーク値P2が低下していることが認められ、この比較例品に対し、本実施例品の特性aではピーク値P1がさらに低下していることが認められ、本実施例品ではパネル加速度のレベル(振動レベル)が充分下がっていて、振動減衰効果が最も高くなることが明らかとなった。
【0031】
このように、図1〜図3で示した実施例1の車両のカウル部構造は、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材(カウルパネル9参照)とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7参照)とで車両前方に開口する開断面(カウル開口部10参照)が形成された車両のカウル部構造であって、上記カウル上部部材(カウルパネル9)と上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とをつなぐ補強体30を備え、上記補強体30が、上記カウル上部部材(カウルパネル9)に結合されて上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)方向に延びる第1補強部31と、上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)に結合されて上記カウル上部部材(カウルパネル9)方向に延びる第2補強部32と、を備え、上記第1補強部31と上記第2補強部32とは重ね合せ部(オーバラップ部33)を有し、上記第1補強部31と上記第2補強部32とが上記重ね合せ部(オーバラップ部33)の少なくとも一部(この実施例では、略全部)において振動減衰部材34を介して結合されたものである(図2参照)。
【0032】
この構成によれば、カウル上部部材(カウルパネル9)とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とをつなぐ補強体30により、開断面部(カウル開口部10)の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
また、補強体30の板厚を増加することなく、第1補強部31と第2補強部32との重ね合せ部(オーバラップ部33)の少なくとも一部に介設した振動減衰部材34により、効果的に振動減衰を図ることができる。よって、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる。
さらに、第1補強部31はカウル上部部材(カウルパネル9)に結合され、第2補強部32はカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)に結合されるものであるから、カウル部構造に対して、これら第1、第2の各補強部31,32の取付けが容易となる。
また、上記重ね合せ部(オーバラップ部33)が車幅方向に重ね合せられるように構成されたものである(図3参照)。
【0033】
この構成によれば、車幅方向に重ね合せられる重ね合せ部(オーバラップ部33)の少なくとも一部に介設した振動減衰部材34により、効果的に振動減衰を図ることができる。
さらに、上記カウル上部部材が、ダッシュアッパパネル7の上部から前方に延設されてフロントウインド部材(フロントウインドガラス8)下端部を支持するカウルパネル9である。
【0034】
この構成によれば、カウル上部部材をカウルパネル9に設定したので、カウルパネル9とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7参照)とをつなぐ補強体30により、開断面部(カウル開口部10)の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
加えて、上記カウル下部部材が、ダッシュアッパパネル7、または、ダッシュアッパパネル7の下部から前方に延設されたカウルフロントパネル11、または、カウルフロントパネル11との間に車幅方向に延びる閉断面12を形成するカウルクロスメンバ13である(実施例1ではダッシュアッパパネル7)。
【0035】
この構成によれば、カウル下部部材を、ダッシュアッパパネル7、カウルフロントパネル11またはカウルクロスメンバ13に設定したので、カウル上部部材(カウルパネル9)と、ダッシュアッパパネル7、カウルフロントパネル11またはカウルクロスメンバ13とをつなぐ補強体30により、開断面部(カウル開口部10)の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
図示実施例においては、第1補強部31が車幅方向の左側に位置し、第2補強部32が車幅方向の右側に位置しているが(図3参照)、これらの位置関係を左右逆にしてもよいことは勿論である。
【実施例2】
【0036】
図5〜図7は車両のカウル部構造の実施例2を示し、図5はカウル部構造を示す斜視図、図6は図5の要部の側面図、図7は補強体の拡大斜視図である。なお、図5〜図7において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
【0037】
この実施例2においては、第2補強部として既存のワイパブラケット42(詳しくは、ワイパ取付けブラケット)を用いたものである。
すなわち、カウル上部部材としてのカウルパネル9と、カウル下部部材としてのカウルフロントパネル11と、をつなぐ補強体40を設けている。
この補強体40は、カウルパネル9の前端部にスポット溶接手段などにより結合されてカウルフロントパネル11方向に延びる、詳しくはワイパブラケット42の方向に向けて前方かつ下方に延びる第1補強部41と、カウルフロントパネル11に結合されてカウルパネル9方向に延びるワイパブラケット42(第2補強部)と、を備えている。
上述の第1補強部41の配設位置は、既存のワイパブラケット42と対応させる関係上、カウル開口部10の車幅方向の中間位置に設定されている。
【0038】
第2補強部となるワイパブラケット42は、図7に拡大斜視図で示すように、左右の側壁42a,42aと、これら側壁42a,42aの上部相互間を車幅方向に連結する連結壁42bと、この連結壁42bの上側後部からカウルパネル9前端側へ向けて延びる延長部42cと、左右の側壁42a,42aの下部に折曲げ形成された折曲げ片42d,42eと、を一体形成したものである。
そして、ワイパブラケット42の下部に位置する複数の折曲げ片42d,42eは、図6に示すように、スポット溶接などによりカウルフロントパネル11に結合されている。
【0039】
図6,図7に示すように、第1補強部41の前部と、ワイパブラケット42の延長部42cにおける後部とは、重ね合わされてオーバラップ部43が形成されており、第1補強部41とワイパブラケット42の延長部42cとが該オーバラップ部43の少なくとも一部(この実施例では、略全部)において振動減衰部材44を介して結合されている。
この振動減衰部材44としては、損失係数(20℃,30H)が1.0以上の粘弾性部材を用い、該粘弾性部材をオーバラップ部43に接着固定したものである。
【0040】
図8は2分割構造の補強体40のオーバラップ部43に振動減衰部材44を介設した本実施例品と、非分割構造の補強体を備え、振動減衰部材を一切用いていない比較例品と、補強体それ自体を有さない従来品とのそれぞれのカウル部構造に対し、シュミレーション解析を行なった結果を特性図で示したものである。
【0041】
解析評価方法としては、実施例1と同様に、加振位置としてのフロントサスペンション取付け部を加振し、フロントウインドガラス8のうち、車室4内の空洞と接している部位の各点の振動加速度を集計したもので、図8では、解析モデルの節点の加速度を二乗和した値で示している。
【0042】
図8は横軸に47.5〜82.5Hの周波数帯域をとり、縦軸にパネル加速度をとったもので、同図においてaが示す特性が本実施例品のものであり、bで示す特性が比較例品のものであり、cで示す特性が従来品のものであって、これら特性a,b,cにおいて、47.5〜82.5Hの間で最大ピーク値P11,P12,P13の大小により評価を行なう。
補強体それ自体を有さない従来品の特性cにおけるピーク値P13に対し、補強体を備えた比較例品の特性bではピーク値P12が低下していることが認められ、この比較例品に対し、本実施例品の特性aではピーク値P11がさらに低下していることが認められ、本実施例品ではパネル加速度のレベルが充分下がっていて、振動減衰効果が最も高くなることが明らかとなった。
【0043】
このように、図5〜図7で示した実施例2の車両のカウル部構造は、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材(カウルパネル9参照)とカウル下部部材(カウルフロントパネル11参照)とで車両前方に開口する開断面(カウル開口部10参照)が形成された車両のカウル部構造であって、上記カウル上部部材(カウルパネル9)と上記カウル下部部材(カウルフロントパネル11)とをつなぐ補強体40を備え、上記補強体40が、上記カウル上部部材(カウルパネル9)に結合されて上記カウル下部部材(カウルフロントパネル11)方向に延びる第1補強部41と、上記カウル下部部材(カウルフロントパネル11)に結合されて上記カウル上部部材(カウルパネル9)方向に延びる第2補強部(ワイパブラケット42参照)と、を備え、上記第1補強部41と上記第2補強部(ワイパブラケット42)とは重ね合せ部(オーバラップ部43)を有し、上記第1補強部41と上記第2補強部(ワイパブラケット42)とが上記重ね合せ部(オーバラップ部43)の少なくとも一部において振動減衰部材44を介して結合されたものである(図6参照)。
【0044】
この構成によれば、カウル上部部材(カウルパネル9)とカウル下部部材(カウルフロントパネル11)とをつなぐ補強体40により、開断面部(カウル開口部10)の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
また、補強体40の板厚を増加することなく、第1補強部41と第2補強部(ワイパブラケット42)との重ね合せ部(オーバラップ部43)の少なくとも一部に介設した振動減衰部材44により、効果的に振動減衰を図ることができる。よって、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる。
さらに、第1補強部41はカウル上部部材(カウルパネル9)に結合され、第2補強部としては既存のワイパブラケット42を用いるので、カウル部構造に対する取付けが容易となる。
【実施例3】
【0045】
図9〜図11は車両のカウル部構造の実施例3を示し、図9はカウル部構造を示す斜視図、図10は図9の要部の側面図、図11は補強体の拡大斜視図である。なお、図9〜図11において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
図10に示すように、この実施例3においても、カウル上部部材としてのカウルパネル9と、カウル下部部材としてのダッシュアッパパネル7とを略上下方向につなぐ前傾姿勢の補強体50(いわゆるI字ガセット)を設けている。
この補強体50は、カウルパネル9の前端部下面にスポット溶接手段などにより結合されてダッシュアッパパネル7方向に延びる第1補強部51と、ダッシュアッパパネル7における前端部7aと後端部7bとの間のスラント部前面にスポット溶接手段などにより結合されてカウルパネル9の前部方向に延びる第2補強部52と、を備えている。ここで、上述の第1および第2の各補強部51,52は板厚が0.55mmの鉄板で形成されるが、板厚および材質はこれに限定されるものではない。
【0046】
図9に示すように、上述の補強体50はフロントウインドガラス8の車幅方向の長さを略2等分するように、カウルパネル9の車幅方向中間部、詳しくは、カウルパネル9の車幅方向中央部に対応して設けられたものである。
補強体50は、図11に拡大斜視図で示すように、上端部に折曲げ片51aが一体形成されて上下方向に延びる第1補強部51と、下端部に折曲げ片52aが一体形成されて上下方向に延びる第2補強部52とを備え、第1補強部51の下部と、第2補強部52の上部とを車両の前後方向に重ね合せて重ね合せ部としてのオーバラップ部53を形成し、かつ、第1補強部51と第2補強部52とがオーバラップ部53の少なくとも一部(この実施例では、略全部)において振動減衰部材54を介して結合されたものである。
【0047】
ここで、第1補強部51の折曲げ片51aは、カウル開口部10の前端近傍としてのカウルパネル9の前端部下面に結合されて、カウルパネル9と第1補強部51との結合部55が設けられている。
また、第2補強部52の折曲げ片52aは、上述の結合部55に対して下方かつ後方のダッシュアッパパネル7のスラント部前面に結合されて、ダッシュアッパパネル7と第2補強部52との結合部56が設けられている。
さらに、上述の振動減衰部材54としては、損失係数(20℃,30H)が1.0の粘弾性部材を用い、該粘弾性部材をオーバラップ部53に接着固定したものである。なお、第1、第2の補強部51,52は鉄板で形成されており、その板厚は0.55mmに設定されている。
【0048】
図12は2分割構造の補強体50のオーバラップ部53に振動減衰部材54を介設した本実施例品と、非分割構造の補強体を備え、振動減衰部材を一切用いていない比較例品と、補強体それ自体を有さない従来品とのそれぞれのカウル部構造に対し、シュミレーション解析を行なった結果を特性図で示したものである。
【0049】
解析評価方法としては、実施例1,2と同様に、加振位置としてのフロントサスペンション取付け部を加振し、フロントウインドガラス8のうち、車室4内の空洞と接している部位の各点の振動加速度を集計したもので、図12では、解析モデルの節点の加速度を二乗和した値で示している。
【0050】
図12は横軸に47.5〜82.5Hの周波数帯域をとり、縦軸にパネル加速度をとったもので、同図においてaが示す特性が本実施例品のものであり、bで示す特性が比較例品のものであり、cで示す特性が従来品のものであって、これら特性a,b,cにおいて、47.5〜82.5Hの間で最大ピーク値P21,P22,P23の大小により評価を行なう。
補強体それ自体を有さない従来品の特性cにおけるピーク値P23に対し、補強体を備えた比較例品の特性bではピーク値P22が低下していることが認められ、この比較例品に対し、本実施例品の特性aではピーク値P21がさらに低下していることが認められ、本実施例品ではパネル加速度のレベルが充分下がっていて、振動減衰効果が最も高くなることが明らかとなった。
【0051】
このように、図9〜図11で示した実施例3の車両のカウル部構造は、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材(カウルパネル9)とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とで車両前方に開口する開断面(カウル開口部10)が形成された車両のカウル部構造であって、上記カウル上部部材(カウルパネル9)と上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とをつなぐ補強体50を備え、上記補強体50が、上記カウル上部部材(カウルパネル9)に結合されて上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)方向に延びる第1補強部51と、上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)に結合されて上記カウル上部部材(カウルパネル9)方向に延びる第2補強部52と、を備え、上記第1補強部51と上記第2補強部52とは重ね合せ部(オーバラップ部53)を有し、上記第1補強部51と上記第2補強部52とが上記重ね合せ部(オーバラップ部53)の少なくとも一部において振動減衰部材54を介して結合されたものである(図10参照)。
【0052】
この構成によれば、カウル上部部材(カウルパネル9)とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とをつなぐ補強体50により、開断面部(カウル開口部10)の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
また、補強体50の板厚を増加することなく、第1補強部51と第2補強部52との重ね合せ部(オーバラップ部53)の少なくとも一部に介設した振動減衰部材54により、効果的に振動減衰を図ることができる。よって、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる。
さらに、第1補強部51はカウル上部部材(カウルパネル9)に結合され、第2補強部52はカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)に結合されるものであるから、カウル部構造に対して、これら第1、第2の各補強部51,52の取付けが容易となる。
【0053】
図10においては、第1補強部51が車両前後方向の前側に位置し、第2補強部52が車両前後方向の後側に位置しているが、これらの位置関係を前後逆にしてもよいことは勿論である。
加えて、上記重ね合せ部(オーバラップ部53)が車両の前後方向に重ね合せられるように構成されたものである(図10,図11参照)。
【0054】
この構成によれば、車両の前後方向に重ね合せられる重ね合せ部(オーバラップ部53)の少なくとも一部に介設した振動減衰部材54により、効果的に振動減衰を図ることができる。
また、上記重ね合せ部(オーバラップ部53)が車両の前後方向に重ね合せられるように構成され、上記開口(カウル開口部10)の前端近傍に上記カウル上部部材(カウルパネル9)と上記第1補強部51との結合部55が設けられたものである(図10参照)。
【0055】
この構成によれば、カウル上部部材(カウルパネル9)とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)との開口(カウル開口部10)においては、開口の前端近傍が開口の後方部に対して相対変位がより大きくなり、この相対変位がより大きい部位(開口の前端近傍)に、カウル上部部材(カウルパネル9)と第1補強部51との結合部55を設け、この第1補強部51と第2補強部52とが重ね合せられる重ね合せ部(オーバラップ部53)の少なくとも一部に振動減衰部材54を介設するものであるから、振動減衰効果をより一層高めることができる。
【0056】
この点について、図13,図14を参照して、さらに詳述する。
図13は、カウルパネル9とダッシュアッパパネル7との間に前傾姿勢の補強体50の位置をそれぞれ変えて配置したもので、位置Aはカウル開口部10の開放端位置、位置Bはカウル開口部10の開放側位置、位置Cはカウル開口部10の前後方向中間の前寄り位置、位置Dはカウル開口部10の前後方向中間の後寄り位置、位置Eはカウル開口部10の最奥位置であり、これらの各位置A〜Eに択一的に補強体50を取付け、シュミレーション解析を行なった結果を図14に示す。
【0057】
図14は横軸に周波数をとり、縦軸にポイントイナータンスをとった特性図で、位置Aの特性aと、位置Bの特性bと、位置Cの特性cと、位置Dの特性dと、位置Eの特性eと、を併記して示している。
解析評価方法としては、フロントウインドガラス8の中央下部を上下方向に加振し、同じ部位の加速度を計測し、この計測値をポイントイナータンスとして図14に示している。
【0058】
図14から明らかなように、特性e,d,c,b,aの順にポイントイナータンスが小さくなり、カウル開口部10の開放端に相当する位置Aの特性aが最も振動減衰効果が高く、振動レベルの低減量が最も大きいことが認められた。
よって、補強体50をカウル開口部10の前端開放側に設ける程、振動減衰効果が大きくなることが立証できた。
【0059】
図9で示した実施例においては、フロントウインドガラス8の下部中央が面直方向に最も大きく振動するモード(1次モード)に対応して、単一の補強体50を車幅方向の中央に設けたが、この補強体50は振動モードに対応して複数設けてもよい。
すなわち、フロントウインドガラス8の下部左側と下部右側とが逆相に振動するモード(2次モード)に対応して、図15に示すように、振動モードが大きい部位としてのカウルボックス14の左右2箇所(車幅方向をほぼ3等分する位置)に補強体50をそれぞれ設けてもよく、図16に示すように、振動の1次モードと2次モードとに対応すべく、車幅方向の中央と、車幅方向左右との合計3箇所に補強体50をそれぞれ設けてもよい。
【実施例4】
【0060】
図17は補強体50の組付け性向上を図る実施例で、図17の(a)は振動減衰部材介設前の側面図、図17の(b)は振動減衰部材介設後の側面図である。なお、図17において実施例3(特に、図10)と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
図17に示すように、側面視U字状の樹脂クリップ35と、側面視逆U字状の樹脂クリップ36との間に、振動減衰部材54を挟持一体化したクリップユニット37を設け、このクリップユニット37を図17の(a)に示す第1補強部51および第2補強部52に対してその車幅方向横方向から挿入して、図17の(b)に示すように、樹脂クリップ35を第1補強部51の下部に取付けると同時に、樹脂クリップ36を第2補強部52の上部に取付けるものである。
このように構成すると、クリップユニット37を各補強部51,52に対して横方向から挿入すると、オーバラップ部53に振動減衰部材54が介設された構造と成るので、補強体50なかんずく振動減衰部材54の組付け性向上を図ることができると共に、振動減衰部材54介設部位における錆の発生を防止することができる。
【実施例5】
【0061】
図18は補強体50の組付け性向上を図るさらに他の実施例で、図18の(a)は振動減衰部材介設前の側面図、図18の(b)は振動減衰部材介設後の側面図である。なお、図18においても実施例3(特に、図10)と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
【0062】
図18の(a)に示すように、第2補強部52のオーバラップ部対応部位には樹脂製またはゴム製のフロントグロメット45を取付け、このグロメット45に振動減衰部材54を介して、樹脂製またはゴム製のリヤグロメット46を取付け、これらの各要素52,45,46,54を一体ユニット化したアセンブリ(assembly、組立て部分品)47を設けている。
また、第2補強部52の折曲げ片52aには樹脂クリップ48を取付け、第2補強部52の折曲げ片52aが結合されるダッシュアッパパネル7の所定部(スラント部)には、樹脂クリップ48を係止する係止孔7cを開口形成している。
さらに、第1補強部51の下部には、リヤグロメット46を係止する係止孔51bを開口形成している。
そして、図18の(a)に示す状態から、まずアセンブリ47のリヤグロメット46を第1補強部51の係止孔51bに係入し、次に、アセンブリ47の樹脂クリップ48をダッシュアッパパネル7の係止孔7cに係入すると、図18の(b)に示すように、カウルパネル9とダッシュアッパパネル7との間に、補強体50が設けられ、オーバラップ部53に振動減衰部材54が介設された構造と成る。
このように構成しても、補強体50の組付け性向上を図ることができると共に、振動減衰部材54の介設部位における錆の発生を防止することができる。
【実施例6】
【0063】
図19は車両のカウル部構造のさらに他の実施例を示し、この実施例6においては、カウル上部部材としてのカウルパネル9と、カウル下部部材としてのダッシュアッパパネル7とを略上下方向につなぐ補強体60を設け、この補強体60が、カウルパネル9の前端部の一部をダッシュアッパパネル7方向へ屈曲してカウルパネル9と一体形成された第1補強部61と、ダッシュアッパパネル7に結合されてカウルパネル9の前端部方向に延びる第2補強部62とを備えたものである。また、補強体60は前高後低状にスラント配置されている。なお、補強体60の車幅方向の長さは図9のものと同等である。
しかも、この実施例6においても、第1補強部61と第2補強部62とが重ね合せ部としてのオーバラップ部63を有し、各要素61,62がオーバラップ部63の少なくとも一部(この実施例では、略全部)において振動減衰部材64を介して結合されたものである。
ここで、上述の振動減衰部材64としては、損失係数(20℃,30H)が1.0以上の粘弾性部材を用い、該粘弾性部材をオーバラップ部63に接着固定したものである。
【0064】
このように、図19で示した実施例6の車両のカウル部構造は、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材(カウルパネル9)とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とで車両前方に開口する開断面(カウル開口部10)が形成された車両のカウル部構造であって、上記カウル上部部材(カウルパネル9)と上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とをつなぐ補強体60を備え、上記補強体60が、上記カウル上部部材(カウルパネル9)の前端部の少なくとも一部を上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)方向へ屈曲して形成された第1補強部61と、上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)に結合されて上記カウル上部部材(カウルパネル9)方向に延びる第2補強部62と、を備え、上記第1補強部61と上記第2補強部62とは重ね合せ部(オーバラップ部63)を有し、上記第1補強部61と上記第2補強部62とが上記重ね合せ部(オーバラップ部63)の少なくとも一部において振動減衰部材64を介して結合されたものである(図19参照)。
【0065】
この構成によれば、カウル上部部材(カウルパネル9)とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とをつなぐ補強体60により、開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
また、補強体60の板厚を増加することなく、第1補強部61と第2補強部62との重ね合せ部(オーバラップ部63)の少なくとも一部に介設した振動減衰部材64により、効果的に振動減衰を図ることができる。よって、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる。
さらに、上記第1補強部61はカウル上部部材(カウルパネル9)に一体に屈曲形成されたものであるから、部品点数の削減を図ることができる。
図19で示したこの実施例6においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図19において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例7】
【0066】
図20は車両のカウル部構造のさらに他の実施例を示し、この実施例7においては、カウル上部部材としてのカウルパネル9と、カウル下部部材としてのダッシュアッパパネル7とを略上下方向につなぐ補強体70を設け、この補強体70
は、カウルパネル9の前端部下面に結合されてダッシュアッパパネル7方向に延びる第1補強部71と、ダッシュアッパパネル7の一部をカウルパネル9の前端部方向へ屈曲して該ダッシュアッパパネル7と一体形成された第2補強部72とを備えたものである。また、補強体70は前高後低状にスラント配置されている。なお、補強体70の車幅方向の長さは図9のものと同等である。
しかも、この実施例7においても、第1補強部71と第2補強部72とが重ね合せ部としてのオーバラップ部73を有し、各要素71,72がオーバラップ部73の少なくとも一部(この実施例では、略全部)において振動減衰部材74を介して結合されたものである。
ここで、上述の振動減衰部材74としては、損失係数(20℃,30H)が1.0以上の粘弾性部材を用い、該粘弾性部材をオーバラップ部73に接着固定したものである。
【0067】
このように、図20で示した実施例7の車両のカウル部構造は、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材(カウルパネル9)とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とで車両前方に開口する開断面(カウル開口部10)が形成された車両のカウル部構造であって、上記カウル上部部材(カウルパネル9)と上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とをつなぐ補強体70を備え、上記補強体70が、上記カウル上部部材(カウルパネル9)に結合されて上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)方向に延びる第1補強部71と、上記カウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)の少なくとも一部を上記カウル上部部材(カウルパネル9)方向へ屈曲して形成された第2補強部72と、を備え、上記第1補強部71と上記第2補強部72とは重ね合せ部(オーバラップ部73)を有し、上記第1補強部71と上記第2補強部72とが上記重ね合せ部(オーバラップ部73)の少なくとも一部において振動減衰部材74を介して結合されたものである(図20参照)。
【0068】
この構成によれば、カウル上部部材(カウルパネル9)とカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)とをつなぐ補強体70により、開断面部の断面崩れによる揺動変形を抑制することができる。
また、補強体70の板厚を増加することなく、第1補強部71と第2補強部72との重ね合せ部(オーバラップ部73)の少なくとも一部に介設した振動減衰部材74により、効果的に振動減衰を図ることができる。よって、車体の重量増加を招くことなく、また、歩行者保護性能を確保しつつ、乗り心地性能の改善、車体の振動対策および騒音対策を図ることができる。
さらに、上記第2補強部72はカウル下部部材(ダッシュアッパパネル7)に一体に屈曲形成されたものであるから、部品点数の削減を図ることができる。
図20で示したこの実施例7においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例とほぼ同様であるから、図20において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例8】
【0069】
図21は車両のカウル部構造のさらに他の実施例を示し、この実施例8においては、カウル上部部材としてのカウルパネル9と、カウル下部部材としてのダッシュアッパパネル7とを略上下方向につなぐ補強体80を設け、この補強体80
は、カウルパネル9の前端部下面に結合されてダッシュアッパパネル7方向に延びる第1補強部81と、ダッシュアッパパネル7に結合されてカウルパネル9の前端部方向に延びる第2補強部82とを備えている。また、補強体80は次に述べるオーバラップ部83以外の主要部分が前高後低状にスラント配置されたものである。なお、補強体80の車幅方向の長さは図9のものと同等である。
上述の第1補強部81の下部を後方に向けて略水平に折曲げて折曲げ片81aを一体形成すると共に、第2補強部82の上部も後方に向けて略水平に折曲げて折曲げ片82aを一体形成し、第1補強部81と第2補強部82とが上下方向に重ね合わされるオーバラップ部83を形成し、各折曲げ片81a,82aがオーバラップ部83の少なくとも一部(この実施例では、略全部)において振動減衰部材84を介して結合されている。
この振動減衰部材84としては、損失係数(20℃,30H)が1.0以上の粘弾性部材を用い、該粘弾性部材をオーバラップ部83に接着固定している。
【0070】
このように、図21で示した実施例8の車両のカウル部構造は、上記重ね合せ部(オーバラップ部83)が車両の上下方向に重ね合せられるように構成されたものである(図21参照)。
この構成によれば、車両の上下方向に重ね合せられる重ね合せ部(オーバラップ部83)の少なくとも一部に介設した振動減衰部材84により、効果的に振動減衰を図ることができる。
図21で示したこの実施例8においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例とほぼ同様であるから、図21において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0071】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のカウル上部部材は、実施例のカウルパネル9に対応し、
以下同様に、
カウル下部部材は、ダッシュアッパパネル7またはカウルフロントパネル11に対応し、
車両前方に開口する開断面は、カウル開口部10に対応し、
重ね合せ部は、オーバラップ部33,43,53,63,73,83に対応し、
フロントウインド部材は、フロントウインドガラス8に対応し、
実施例2において第2補強部は、ワイパブラケット42に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、重ね合せ部としてのオーバラップ部33,43,53,63,73,83において、第1補強部と第2補強部とをスポット溶接接合、接着接合または締結結合により部分的に剛結合してもよい。
また、上述の重ね合せ部の周囲を、組付け時の位置ずれ防止を図る目的で、ゴム部材などにより覆ってもよい。
さらに、補強体を構成する第1補強部、第2補強部の材質は、鉄板に代えて、ステンレスや剛性が高い硬質樹脂とし、錆の発生や電食防止を図るように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明は、車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材とカウル下部部材とで車両前方に開口する開断面が形成された車両のカウル部構造について有用である。
【符号の説明】
【0073】
7…ダッシュアッパパネル(カウル下部部材)
8…フロントウインドガラス(フロントウインド部材)
9…カウルパネル(カウル上部部材)
10…カウル開口部(開断面)
11…カウルフロントパネル(カウル下部部材)
30,40,50,60,70,80…補強体
31,41,51,61,71,81…第1補強部
32,52,62,72,82…第2補強部
33,43,53,63,73,83…オーバラップ部
34,44,54,64,74,84…振動減衰部材
42…ワイパブラケット(第2補強部)
55…結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材とカウル下部部材とで車両前方に開口する開断面が形成された車両のカウル部構造であって、
上記カウル上部部材と上記カウル下部部材とをつなぐ補強体を備え、
上記補強体が、上記カウル上部部材に結合されて上記カウル下部部材方向に延びる第1補強部と、
上記カウル下部部材に結合されて上記カウル上部部材方向に延びる第2補強部と、を備え、
上記第1補強部と上記第2補強部とは重ね合せ部を有し、
上記第1補強部と上記第2補強部とが上記重ね合せ部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合された
車両のカウル部構造。
【請求項2】
車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材とカウル下部部材とで車両前方に開口する開断面が形成された車両のカウル部構造であって、
上記カウル上部部材と上記カウル下部部材とをつなぐ補強体を備え、
上記補強体が、上記カウル上部部材の前端部の少なくとも一部を上記カウル下部部材方向へ屈曲して形成された第1補強部と、
上記カウル下部部材に結合されて上記カウル上部部材方向に延びる第2補強部と、を備え、
上記第1補強部と上記第2補強部とは重ね合せ部を有し、
上記第1補強部と上記第2補強部とが上記重ね合せ部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合された
車両のカウル部構造。
【請求項3】
車両の車幅方向に延在し、カウル上部部材とカウル下部部材とで車両前方に開口する開断面が形成された車両のカウル部構造であって、
上記カウル上部部材と上記カウル下部部材とをつなぐ補強体を備え、
上記補強体が、上記カウル上部部材に結合されて上記カウル下部部材方向に延びる第1補強部と、
上記カウル下部部材の少なくとも一部を上記カウル上部部材方向へ屈曲して形成された第2補強部と、を備え、
上記第1補強部と上記第2補強部とは重ね合せ部を有し、
上記第1補強部と上記第2補強部とが上記重ね合せ部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合された
車両のカウル部構造。
【請求項4】
上記重ね合せ部が車両の前後方向に重ね合せられるように構成された
請求項1または請求項3に記載の車両のカウル部構造。
【請求項5】
上記重ね合せ部が車両の前後方向に重ね合せられるように構成され、
上記開口の前端近傍に上記カウル上部部材と上記第1補強部との結合部が設けられた
請求項1または2に記載の車両のカウル部構造。
【請求項6】
上記重ね合せ部が車幅方向に重ね合せられるように構成された
請求項1記載の車両のカウル部構造。
【請求項7】
上記カウル上部部材が、ダッシュアッパパネルの上部から前方に延設されてフロントウインド部材下端部を支持するカウルパネルである
請求項1〜6の何れか1項に記載の車両のカウル部構造。
【請求項8】
上記重ね合せ部が車両の上下方向に重ね合せられるように構成された
請求項1〜3の何れか1項に記載の車両のカウル部構造。
【請求項9】
上記カウル下部部材が、ダッシュアッパパネル、または、ダッシュアッパパネルの下部から前方に延設されたカウルフロントパネル、または、カウルフロントパネルとの間に車幅方向に延びる閉断面を形成するカウルクロスメンバである
請求項1〜8の何れか1項に記載の車両のカウル部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−82245(P2013−82245A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221796(P2011−221796)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】