説明

車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造

【課題】サイドボディアウタパネルの変形を防いで操作性や商品性の向上を図るとともに、部品点数の増加やコストアップを招くことなく車室内空間へのガス燃料の漏れを防ぐことができる車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造を提供すること。
【解決手段】ホイールハウス3近傍のサイドボディアウタパネル5にガス燃料充填用バルブ4を取り付けた車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造として、前記サイドボディアウタパネル5の裏側において前記ホイールハウスインナパネル3Aと前記ホイールハウスアウタパネル3Bを上方に延設し、前記ホイールハウスアウタパネル3Bの延設部に配管用孔3aを形成し、前記ガス燃料充填用バルブ4とこれに接続される燃料配管6の周囲を取り囲む筒状のインレットリンフォース7を前記サイドボディアウタパネル5と前記ホイールハウスアウタパネル3Bとの間に架設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばLPG(液化ガス)等を燃料として走行する車両のガス燃料充填用バルブ取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス燃料によって駆動されるガスエンジンを搭載するガス燃料車両においては、ガス燃料を例えばLPG等の液化ガスとして燃料タンクに高圧で貯留しておく必要がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、常態では液体であるガソリンを燃料として走行する一般のガソリン車両における給油は、給油口に給油ガンを挿入してガソリンを流し込むだけでなされるために大きな力が作用することはないが、ガス燃料車両での燃料の補給においては、液化された高圧のガス燃料を燃料タンクに充填する必要があるために、ガス燃料充填用バルブと燃料充填ガンとの接続時に大きな力が作用する。
【0004】
ガス燃料車両においては、図4の断面図に示すように、ガス燃料充填用バルブ104は一般にはホイールハウス103近傍のサイドボディアウタパネル105に配置されているが、該ガス燃料充填用バルブ104と燃料充填ガンとの着脱操作を容易に行うためには、ガス燃料充填用バルブ104を奥まった箇所ではなく、できるだけサイドボディアウタパネル105の外表面(意匠面)近くに設置する必要がある。尚、不図示の後輪が収容されるホイールハウス103は、ホイールハウスインナパネル103Aとその外側方に配されたホイールハウスアウタパネル103Bとを接合一体化して構成されている。
【0005】
而して、前述のようにガス燃料車両における燃料の補給に際してガス燃料充填用バルブに燃料充填ガンが接続されるときに大きな力が作用するが、図4に示すようにガス燃料充填用バルブ104は薄板から成るサイドボディアウタパネル105のみに取り付けられているため、サイドボディアウタパネル105が車両内側に変形する可能性がある。
【0006】
ところで、特許文献2には、ガソリン車両における燃料供給入部位近傍の各パネルの結合強度を高めるための車体構造が提案され、特許文献3にはサイドボディアウタパネル(外側パネル)の開口部近傍部分に固定されたインレットボックスと車体の剛体部とを連結部材(ステー)によって連結する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平2−125421号公報
【特許文献2】実公平3−038022号公報
【特許文献3】特開平11−189051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2,3において提案された構成は何れもガソリン車両に対する補強構造であり、高圧の液化ガスを燃料とするガス燃料車両に対しても有効であるとは限らない可能性がある。
【0009】
又、ガス燃料車両においては、図4に示すガス燃料充填用バルブ104から延びる燃料配管106は車室内空間にレイアウトされているため、この燃料配管106からのガス燃料の車室内空間への漏れを防ぐために該燃料配管106の車室内空間に臨む部分をチューブで覆う必要があり、部品点数と組立工数が増えてコストアップを招くという問題がある。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とする処は、サイドボディアウタパネルの変形を防いで操作性や商品性の向上を図るとともに、部品点数の増加やコストアップを招くことなく車室内空間へのガス燃料の侵入を防ぐことができる車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、ホイールハウスインナパネルとホイールハウスアウタパネルとを接合一体化して成るホイールハウス近傍のサイドボディアウタパネルにガス燃料充填用バルブを取り付けた車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造であって、
前記サイドボディアウタパネルの裏側において前記ホイールハウスインナパネルと前記ホイールハウスアウタパネルを上方に延設し、前記ホイールハウスアウタパネルの延設部に配管用孔を形成し、前記ガス燃料充填用バルブとこれに接続される燃料配管の周囲を取り囲む筒状のインレットリンフォースを前記サイドボディアウタパネルと前記ホイールハウスアウタパネルとの間に架設したことを特徴とする車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記インレットリンフォースの外側端に前記サイドボディアウタパネルの内面に沿うフランジを形成し、該フランジをシーラーによって前記サイドボディアウタパネルの内面に接着してサイドボディアウタパネルをインレットリンフォースで支持したことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記ホイールハウスアウタパネルの前記配管用孔を通過してホイールハウス内に延びる前記燃料配管の下方であって、且つ、前記ホイールハウスインナパネルと前記ホイールハウスアウタパネルとの間に隔壁パネルを架設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、サイドボディアウタパネルとホイールハウスアウタパネルとの間に架設された筒状のインレットリンフォースによってサイドボディアウタパネルのガス燃料充填用バルブ取付部の剛性が高められるため、該サイドボディアウタパネルの変形が防がれて燃料補給の作業性と商品性が高められるとともに、サイドボディアウタパネルの塗料の剥がれ等の不具合の発生が防がれる。又、ガス燃料充填用バルブとこれに接続される燃料配管の周囲が筒状のインレットリンフォースによって取り囲まれ、ガス燃料充填用バルブと燃料配管の配設用空間が車室内空間とは隔離されるため、燃料配管を覆うためのチューブ等を要することなく車室内空間への燃料ガスの侵入を防ぐことができ、部品点数や組付工数の増大とそれらに伴うコストアップを防ぐことができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、インレットリンフォースの外側端に形成されたフランジをシーラーによってサイドボディアウタパネルの内面に接着したため、その接着部に応力集中が発生することがなく、外観に影響を及ぼすことなくガス燃料充填用バルブの取付部を補強することができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、ホイールハウスアウタパネルの配管用孔を通過してホイールハウス内に延びる燃料配管の下方であって、且つ、ホイールハウスインナパネルとホイールハウスアウタパネルとの間に隔壁パネルを架設したため、サイドボディアウタパネルからインレットリンフォースに伝わる力をホイールハウスアウタパネルから隔壁パネルを経てホイールハウスインナパネルへと伝達することができ、ガス燃料充填用バルブの取付部の剛性が隔壁パネルによって更に高められる。又、燃料配管は隔壁パネルによって下方から覆われるため、車輪が跳ね上げた小石等による燃料配管の損傷を防いで該燃料配管を有効に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るガス燃料充填用バルブ取付部構造を備える車両後部の右側面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の別形態を示す図2と同様の図である。
【図4】従来のガス燃料充填用バルブ取付部構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明に係るガス燃料充填用バルブ取付部構造を備える車両後部の右側面図、図2は図1のA−A線断面図である。
【0020】
図1に示す車両1は、ガス燃料によって駆動される不図示のガスエンジンを搭載するガス燃料車両であって、車体後部には液化したガス燃料を貯留するための不図示の燃料タンクが設置されている。そして、車両1の後部右側のリヤドア2よりも後方(図1の左方)であって、側面視半円形のホイールハウス3の上方にはガス燃料充填用バルブ4が取り付けられている。
【0021】
具体的には、図2に示すように、車両1の右側部の意匠面を構成する薄板のプレス成形品であるサイドボディアウタパネル5のホイールハウス3の上方には開口部5aが形成されており、この開口部5aに前記ガス燃料充填用バルブ4が嵌め込まれて取り付けられており、このガス燃料充填用バルブ4からは不図示の燃料タンクに連なる燃料配管6が延びている。
【0022】
ここで、ホイールハウス3は不図示の後輪を収容するものであって、板金のプレス成形品であるホイールハウスインナパネル3Aとその外側方に配されたホイールハウスアウタパネル3Bとを接合一体化して構成されるが、本実施の形態では、図4に示した従来のホイールハウス103と比較して明らかなように、サイドボディアウタパネル5の裏側においてホイールハウスインナパネル3Aとホイールハウスアウタパネル3Bをガス燃料充填用バルブ4よりも上方に延設し、ホイールハウスアウタパネル3Bの延設部に配管用孔3aを形成している。
【0023】
而して、本実施の形態では、サイドボディアウタパネル5とホイールハウスアウタパネル3Bとの間には、ガス燃料充填用バルブ4と燃料配管6の周囲を取り囲む筒状のインレットリンフォース7が架設されている。具体的には、インレットリンフォース7の外側端にはサイドボディアウタパネル5の開口部5aの周縁内面に沿うフランジ7aが形成され、同インレットリンフォース7の内側端にはホイールハウスアウタパネル3Bの配管用孔3aの周縁内面に沿うフランジ7bが形成されている。そして、インレットリンフォース7は、その外側端に形成されたフランジ7aをシーラーによってサイドボディアウタパネル5の開口部5aの周縁内面に接着し、内側端に形成されたフランジ7bをシーラーによってホイールハウスアウタパネル3Bの配管用孔3aの周縁内面に接着することによってサイドボディアウタパネル5とホイールハウスアウタパネル3Bとの間に架設されており、このインレットリンフォース7によってサイドボディアウタパネル5のガス燃料充填用バルブ4の取付部が支持されて補強され、インレットリンフォース7によって囲まれた燃料配管6はホイールハウスアウタパネル3Bに形成された配管用孔3aを通過して不図示の燃料タンクに接続されている。
【0024】
ところで、車両1の走行によるガス燃料の消費によって燃料タンク内の液化ガスの残量が少なくなると、ガス燃料充填用バルブ4に不図示の燃料充填ガンが接続されて液化ガスが燃料配管6を通って燃料タンクへと補給されるが、補給される液化ガスは高圧であるために強固な接続が必要となり、燃料充填ガンをガス燃料充填用バルブ4に接続する際に大きな力がサイドボディアウタパネル5のガス燃料充填用バルブ4の周辺に作用する。
【0025】
然るに、本実施の形態では、サイドボディアウタパネル5とホイールハウスアウタパネル3Bとの間に架設された筒状のインレットリンフォース7によってサイドボディアウタパネル5のガス燃料充填用バルブ4の取付部周辺の剛性が高められるため、該サイドボディアウタパネル5の変形が防がれて燃料補給の作業性と商品性が高められるとともに、サイドボディアウタパネル5の塗料の剥がれ等の不具合の発生が防がれる。
【0026】
又、本実施の形態では、ガス燃料充填用バルブ4とこれから延びる燃料配管6の周囲が筒状のインレットリンフォース7によって取り囲まれ、ガス燃料充填用バルブ4と燃料配管6の配設用空間が車室内空間とは隔離されるため、燃料配管6を覆うためのチューブ等を要することなく車室内空間へのガス燃料の侵入を防ぐことができ、部品点数や組付工数の増大とそれらに伴うコストアップを防ぐことができる。
【0027】
更に、本実施の形態では、インレットリンフォース7の外側端と内側端にそれぞれ形成されたフランジ7a,7bをシーラーによってサイドボディアウタパネル5とホイールハウスアウタパネル3Bの各内面にそれぞれ接着したため、それらの接着部に応力集中が発生することがなく、外観に影響を及ぼすことなくガス燃料充填用バルブ4の取付部を補強することができる。
【0028】
次に、本発明の別形態を図3に示す。尚、図3は本発明の別形態を示す図2と同様の図であり、図3においては図2に示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについてのサイドの説明は省略する。
【0029】
本実施の形態は、ホイールハウスアウタパネル3Bの配管用孔3aを通過してホイールハウス3内に延びる燃料配管6の下方であって、且つ、ホイールハウスインナパネル3Aとホイールハウスアウタパネル3Bとの間に隔壁パネル8を架設したことを特徴としており、他の構成は図2に示す構成と同じである。
【0030】
而して、本実施の形態では、燃料配管6の下方のホイールハウスインナパネル3Aとホイールハウスアウタパネル3Bとの間に隔壁パネル8を架設したため、サイドボディアウタパネル5からインレットリンフォース7に伝わる力をホイールハウスアウタパネル3Bから隔壁パネル8を経てホイールハウスインナパネル3Aへと伝達することができ、ガス燃料充填用バルブ4の取付部の剛性が隔壁パネル8によって更に高められる。
【0031】
又、本実施の形態では、燃料配管6は隔壁パネル8によって下方から覆われるため、後輪が跳ね上げた小石等による燃料配管6の損傷が防がれ、該燃料配管6を隔壁パネル8によって有効に保護することができるという効果が得られる他、図1及び図2に示した前記実施の形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0032】
1 車両
2 リヤドア
3 ホイールハウス
3A ホイールハウスインナパネル
3B ホイールハウスアウタパネル
3a ホイールハウスアウタパネルの配管用孔
4 ガス燃料充填用バルブ
5 サイドボディアウタパネル
5a サイドボディアウタパネルの開口部
6 燃料配管
7 インレットリンフォース
7a,7b インレットリンフォースのフランジ
8 隔壁パネル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールハウスインナパネルとホイールハウスアウタパネルとを接合一体化して成るホイールハウス近傍のサイドボディアウタパネルにガス燃料充填用バルブを取り付けた車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造であって、
前記サイドボディアウタパネルの裏側において前記ホイールハウスインナパネルと前記ホイールハウスアウタパネルを上方に延設し、前記ホイールハウスアウタパネルの延設部に配管用孔を形成し、前記ガス燃料充填用バルブとこれに接続される燃料配管の周囲を取り囲む筒状のインレットリンフォースを前記サイドボディアウタパネルと前記ホイールハウスアウタパネルとの間に架設したことを特徴とする車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造。
【請求項2】
前記インレットリンフォースの外側端に前記サイドボディアウタパネルの内面に沿うフランジを形成し、該フランジをシーラーによって前記サイドボディアウタパネルの内面に接着してサイドボディアウタパネルをインレットリンフォースで支持したことを特徴とする車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造。
【請求項3】
前記ホイールハウスアウタパネルの前記配管用孔を通過してホイールハウス内に延びる前記燃料配管の下方であって、且つ、前記ホイールハウスインナパネルと前記ホイールハウスアウタパネルとの間に隔壁パネルを架設したことを特徴とする請求項1又は2記載の車両のガス燃料充填用バルブ取付部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−81851(P2012−81851A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229259(P2010−229259)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】