説明

車両のステアリング装置

【課題】チルト機構の螺子軸とナット部材との間のガタの防止を、少ない部品点数で安価に実現し得ると共に、これらを容易に組み付け得るステアリング装置を提供する。
【解決手段】メインハウジングに車体後方側端部を揺動可能に支持しモータ駆動によって回転する螺子軸62と、この螺子軸の回転に応じて軸方向移動するナット部材50を備える。ナット部材は、螺子軸に螺合する雌螺子部51を有し、この雌螺子部に形成された開口部53を介して押圧部材70が収容され、螺子軸の外周面に当接するように配置される。押圧部材は螺子軸の軸心方向に付勢されるように付勢部材80に支持され、付勢部材はナット部材に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリング装置に関し、特に、車体に対しステアリングコラムを揺動可能に支持しステアリングホイールの操作位置を調整し得るステアリング装置に係る。
【背景技術】
【0002】
上記ステアリング装置において、ステアリングホイールの操作位置を調整し得る機構として、車体前後方向の操作位置を調整し得るテレスコピック機構と、車体上下方向の操作位置を調整し得るチルト機構が用いられているが、特にチルト機構においては、螺子軸とナット部材との間のガタを防止し、円滑な摺動性を確保することが肝要である。例えば下記の特許文献1には、シャフト(螺子軸)とスライダ(ナット部材)で構成されるスライダ機構に関し、「駆動源の出力軸に連動して回転する雄ネジ部を有するシャフトと、前記シャフトの回転方向に回転規制されつつ前記雄ネジ部のまわりに配設され前記雄ネジ部と噛み合うとともに駆動対象と連動する略円筒状の雌ネジ部材と、前記雌ネジ部材を径方向へ付勢する付勢部材と、前記雄ネジ部に当接する当接部を有するとともに前記付勢部材の付勢力の反力を受け前記反力が前記雄ネジ部と前記当接部との当接力として作用する押し付け部材とを有することを特徴とするスライダ機構」が提案され、「略円筒状の雌ネジ部材は付勢部材の付勢力により径方向へ付勢されシャフトの雄ネジ部に確実に当接し、かつ、その付勢力の反力は押し付け部材が受け、押し付け部材の当接部が確実にシャフトの雄ネジ部に当接することで、ネジの噛み合い部のバックラッシュは、強制的に除去されるものである。」と記載されると共に、「また、バックラッシュの除去に、樹脂製のナットの変形を利用していないので、従来技術のようなナットのヤング率の変化によるネジ機構部のすべり摩擦トルクの変動が生じない。さらには、本発明においてナットに樹脂材料を、シャフトに金属材料を使用した場合においても、従来技術のようなナットの変形を利用していないので、低温時のしまりばめぎみの状態は生じにくい。」と記載されている。
【0003】
また、下記の特許文献2には、「ステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムを、チルト方向又はテレスコ方向に対して位置調整可能に駆動する電動式ステアリングコラム装置において、モータと、前記モータにより回転駆動される回転体と、前記回転体の回転に応じて軸線方向に変位することにより、前記ステアリングコラムをチルト方向又はテレスコ方向に駆動する軸線方向変位体と、を有し、前記回転体の熱膨張係数と前記軸線方向変位体の熱膨張係数とは略等しく、更に前記回転体と前記軸線方向変位体の一方の周面には、樹脂材が接合されており、前記樹脂材は、金属製である他方の周面に形成されたねじ部に螺合するねじ部を有する」装置が提案されている。そして、この装置によれば、「前記回転体の熱膨張係数と前記軸線方向変位体の熱膨張係数とは略等しいので、前記電動式ステアリングコラム装置を配置する車室内の環境温度が大きく変化した場合にも、両者間での膨張量又は収縮量を略等しくすることができ、ガタの発生や競り合いなどを抑制することができる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−280916号公報
【特許文献2】特開2009−248703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のチルト機構においては、付勢部材(ばね)や押し付け部材等が必要となり、部品点数や組付工数が多い。一方、上記特許文献2に記載の装置においては、回転体(螺子軸)と軸線方向変位体(ナット部材)の製造バラツキにより、螺子寸法はある範囲内でばらつくが、その初期バラツキを吸収することができないため、初期バラツキに起因するガタ及び締まりを防止することはできない。また、回転体と軸線方向変位体のねじ部の一方が樹脂製で他方が金属製であるので、螺合する両者間で線膨張係数差が生じ(線膨張係数差をゼロにはできない)、環境温度の変化によるガタや締まりの発生が懸念される。
【0006】
そこで、本発明は、少なくとも車体上下方向のステアリングホイール操作位置を調整し得る車両のステアリング装置において、その駆動機構を構成する螺子軸とナット部材との間のガタの防止を、少ない部品点数で安価に実現し得ると共に、これらを容易に組み付け得るステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するため、本発明は、車体に対し前方側端部を揺動中心として揺動可能に支持するメインハウジングと、該メインハウジングに収容し軸方向移動可能に支持する可動コラム部材と、前記メインハウジングの車体後方側端部を前記車体に対して上下方向に移動可能に支持した状態で前記車体に固定する固定ブラケットと、該固定ブラケットに一端を支持するリンク機構と、該リンク機構の他端に連結する駆動機構を備え、該駆動機構によって前記リンク機構を介して前記メインハウジングを揺動し、前記可動コラム部材に連結するステアリングホイールの少なくとも上下方向の操作位置を調整し得る車両のステアリング装置において、前記駆動機構が、前記メインハウジングに車体後方側端部を揺動可能に支持しモータ駆動によって回転する螺子軸と、該螺子軸に螺合し当該螺子軸の回転に応じて軸方向移動する雌螺子部を有し、前記リンク機構に連結するナット部材と、前記雌螺子部に形成した開口部を介して収容し前記螺子軸の外周面に当接するように配置する押圧部材と、該押圧部材を前記螺子軸の軸心方向に付勢するように支持すると共に、前記ナット部材に保持する付勢部材とを備えることとしたものである。
【0008】
上記のステアリング装置において、前記雌螺子部は、前記螺子軸から相互に所定距離を隔てて対向する位置で前記螺子軸に平行な二つの平面部を有するものとし、前記付勢部材は、本体部と、該本体部から延出し前記二つの平面部を挟持するように配置する四つの脚部を有するものとし、該四つの脚部の先端部を前記雌螺子部に係止させて保持するように構成するとよい。
【0009】
あるいは、前記ナット部材は、更に、前記雌螺子部の軸に直交する回転軸を有するピボット軸部を有するものとし、該ピボット軸部と前記雌螺子部が交差する部分の一方の面に前記開口部を形成して成り、前記押圧部材を前記螺子軸の軸心方向に付勢するように前記雌螺子部及び前記ピボット軸部の一方に、前記付勢部材を保持する構成としてもよい。また、前記雌螺子部は、前記螺子軸から相互に所定距離を隔てて対向する位置で前記螺子軸に平行な二つの平面部を有するものとし、前記付勢部材は、本体部と、該本体部から延出し前記ピボット軸部を介した両側で前記二つの平面部を挟持するように配置する四つの脚部を有するものとし、該四つの脚部の先端部を前記雌螺子部に係止させて保持する構成としてもよい。
【0010】
更に、上記のステアリング装置において、前記付勢部材は、前記本体部の中央に開口部を有するものとし、前記押圧部材は、前記螺子軸の外周面に当接する当接部と、該当接部から延出し前記付勢部材の開口部に嵌合され先端部で係止される一対の腕部を有するものとし、該一対の腕部によって前記押圧部材が前記付勢部材に係止された状態で、前記付勢部材が前記ナット部材に保持されるように構成してもよい。ここで、前記付勢部材が前記ナット部材に保持され前記押圧部材の前記当接部下面が前記螺子軸の外周面に当接した状態での、前記付勢部材の前記本体部下面と前記押圧部材の前記当接部下面との間の距離を、前記付勢部材が前記ナット部材に保持される前の前記付勢部材の前記本体部下面と前記押圧部材の前記当接部下面との間の距離より小に設定するとよい。
【0011】
また、上記のステアリング装置において、前記押圧部材の前記当接部が前記雌螺子部に当接した状態で少なくとも前記螺子軸挿入側に位置する端部、及び前記螺子軸の前記雌螺子部への挿入側の先端部の少なくとも一方をテーパ形状に形成するとよい。そして、前記押圧部材は、前記一対の腕部の先端に夫々爪部を有するものとし、該爪部を前記付勢部材の前記開口部に係止させて吊下状態とするとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明のステアリング装置においては、駆動機構が、メインハウジングに車体後方側端部を揺動可能に支持しモータ駆動によって回転する螺子軸と、該螺子軸に螺合し当該螺子軸の回転に応じて軸方向移動する雌螺子部を有し、リンク機構に連結するナット部材と、雌螺子部に形成した開口部を介して収容し螺子軸の外周面に当接するように配置する押圧部材と、該押圧部材を螺子軸の軸心方向に付勢するように支持すると共に、ナット部材に保持する付勢部材とを備えたものであるので、簡単且つ組み付け容易な構成となり、従来に比し少ない部品点数で螺子軸とナット部材との間のガタを防止することができ、安価な装置を提供することができる。
【0013】
例えば、雌螺子部は、螺子軸から相互に所定距離を隔てて対向する位置で螺子軸に平行な二つの平面部を有するものとし、付勢部材は、本体部と、該本体部から延出し二つの平面部を挟持するように配置する四つの脚部を有するものとし、該四つの脚部の先端部を雌螺子部に係止させて保持するように構成すれば、付勢部材を容易にナット部材に保持させることができる。
【0014】
あるいは、ナット部材を、更に、雌螺子部の軸に直交する回転軸を有するピボット軸部を有するものとすれば、別途ピボット軸を設けることなく、簡単な構成でナット部材をリンク機構に連結することができる。この場合には、雌螺子部及びピボット軸部の一方に、付勢部材を保持する構成とし、また、付勢部材の四つの脚部は、ピボット軸部を介した両側で二つの平面部を挟持するように配置する構成とすることができる。
【0015】
更に、上記のステアリング装置において、押圧部材が一対の腕部によって付勢部材に係止された状態で、付勢部材がナット部材に保持されるように構成すれば、押圧部材と付勢部材のサブアッセンブリを構成することができ、組付けが一層容易となる。例えば、付勢部材がナット部材に保持され押圧部材の当接部下面が螺子軸の外周面に当接した状態での、付勢部材の本体部下面と押圧部材の当接部下面との間の距離を、付勢部材がナット部材に保持される前の付勢部材の本体部下面と押圧部材の当接部下面との間の距離より小に設定すれば、適切な荷重で押圧部材を螺子軸に押接することができる。
【0016】
また、押圧部材の少なくとも螺子軸挿入側に位置する端部、及び螺子軸の雌螺子部への挿入側の先端部の少なくとも一方をテーパ形状に形成すれば、上記のように押圧部材と付勢部材で構成されたサブアッセンブリをナット部材の雌螺子部に装着した状態でも、螺子軸を回転させながら雌螺子部内に容易に挿入することができるので、一層良好な組付性を確保することができる。しかも、螺子軸の挿入時に回転トルクを測定することにより、付勢部材による付勢力が適切な範囲にあるか否かを確認することができ、組付けと測定を同時に行うことができるので、工数低減が可能となる。そして、押圧部材の腕部に形成された爪部を付勢部材の開口部に係止させて吊下状態とすれば、容易にサブアッセンブリを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に供される螺子軸に装着するナット部材に対し、付勢部材及び押圧部材の組み付け状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に供される螺子軸にナット部材を装着した状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に供されるナット部材に付勢部材及び押圧部材を装着した状態を示す正面図である。
【図5】本発明の一実施形態に供されるナット部材に付勢部材及び押圧部材を装着した状態を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に供される押圧部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係るステアリング装置の全体構成を示すもので、本実施形態においては、ステアリングシャフト1は、後端部にステアリングホイール(図示せず)が接続される筒状のアッパシャフト1aと、このアッパシャフト1aの前端部とスプライン結合されるロアシャフト1bから成る。即ち、アッパシャフト1aとロアシャフト1bが軸方向に相対移動可能に連結されており、ロアシャフト1bの前端部が転舵機構(図示せず)に接続されている。この転舵機構はステアリングホイールの操作に応じて駆動されて車輪操舵機構(図示せず)を介して操舵輪(図示せず)を転舵するように構成されている。
【0019】
そして、ステアリングシャフト1と同軸にメインハウジング10が配置され、車体(図示せず)に対する揺動中心C回りに揺動可能に支持されると共に、固定ブラケット30に保持される。この固定ブラケット30は、車両の下方に延出して対向する一対の保持部(代表して31で表す)を有し、これらの間にメインハウジング10が保持され、図1の上方で車体に固定される。更に、固定ブラケット30の一対の保持部31とメインハウジング10との間に、夫々押圧機構(図示せず)が介装され、これによってメインハウジング10が摺動自在に押圧支持される。
【0020】
メインハウジング10内には、可動コラム部材20が軸方向に移動可能、即ち、車体前後方向に移動可能に支持されている。この可動コラム部材20として、ステアリングシャフト1を収容し軸を中心に回転可能に支持する金属製のインナチューブ21と、このインナチューブ21を収容し常時はインナチューブ21を所定位置に保持する金属製のアウタチューブ22が設けられており、インナチューブ21はアッパチューブとも呼ばれ、アウタチューブ22はテレスコピックチューブとも呼ばれる。アッパシャフト1aは、インナチューブ21の後端部に軸受(図示せず)を介して回転可能に支持されるが、アッパシャフト1aとインナチューブ21との間の軸方向相対移動は規制され、アッパシャフト1aとインナチューブ21は一体となって軸方向移動し得るように構成されている。
【0021】
而して、メインハウジング10に対し、アウタチューブ22、インナチューブ21、ステアリングシャフト1及びステアリングホイール(図示せず)が一体となって軸方向に移動可能とされてテレスコピック機構2が構成され、これにより、ステアリングホイールを所望の車体前後方向位置に調整することができる。更に、ステアリングシャフト1に対し所定値以上の荷重が印加されたときには、アウタチューブ22に対するインナチューブ21の軸方向相対移動(ひいてはアッパシャフト1aの軸方向移動)を許容するように構成されており、本実施形態のインナチューブ21及びアウタチューブ22は、両者間に介装される環状の摩擦材(例えば、金属製弾性ブッシュ)等と共に、エネルギー吸収手段として機能する。
【0022】
一方、固定ブラケット30には、リンク機構4の一端が支持され、その他端が駆動機構5に連結されており、駆動機構5は可動コラム部材20に揺動可能に支持されている。この駆動機構5によって、リンク機構4を介して可動コラム部材20が車体に対して揺動可能とされてチルト機構3が構成され、これにより、ステアリングホイールを所望の車体上下方向位置に調整することができる。本実施形態のリンク機構4は、図1に示すように、固定ブラケット30の下方に、第1のリンク(一対のリンク部材41で構成される)の上端部がピボット軸P1を中心に回転可能に支持され、その下端部が、第2のリンク(リンク部材42で構成される)の後方上端部にピボット軸P2を中心に回転可能に支持されている。
【0023】
第2のリンクを構成するリンク部材42はベルクランク状に形成されており、一対の腕部(図示せず)の間にメインハウジング10が挟持される形で、メインハウジング10の下方にピボット軸P3を中心に回転可能に支持され、第2のリンク(リンク部材42)の一対の脚部(図示せず)の間にナット部材50が挟持される形で、リンク部材42がピボット軸P4を中心に回転可能に支持されている。このナット部材50は螺子軸62等と共に駆動機構5を構成し、チルト機構3の駆動源に供されるもので、チルトナットあるいはチルトスライダとも呼ばれる。尚、リンク部材41、42、駆動機構5、可動コラム部材20及びメインハウジング10はピボットピン(符号省略)の圧入又はピボット螺子(符号省略)の螺合によって連結されており、ピボット軸P1及びP5はピボットピンで構成され、ピボット軸P2及びP3はピボット螺子で構成されているが、本実施形態のピボット軸P4はナット部材50で構成されている。
【0024】
而して、電動モータ60による螺子軸62の回転駆動に応じて、ナット部材50が螺子軸62の軸方向に移動すると、第2のリンク(リンク部材42)がピボット軸P3を中心に揺動すると共に、第1のリンク(リンク部材41)がピボット軸P1を中心に揺動し、メインハウジング10(並びに、アウタチューブ22、インナチューブ21、アッパシャフト1a及びステアリングホイール)が車体上下方向に移動するように構成されている。尚、本実施形態においては、電動モータ60の出力軸と螺子軸62との間に減速機構(図示せず)が介装されており、電動モータ60の出力が適切に減速されて螺子軸62に伝達される。
【0025】
本実施形態のナット部材50は、図2に示すように、台形螺子で構成された螺子軸62に螺合する雌螺子部51と、上記のピボット軸P4として機能するピボット軸部52を有し、合成樹脂にて平面視十字形状に形成されている。雌螺子部51は、螺子軸62から相互に所定距離を隔てて対向する位置で螺子軸62に平行な二つの平面部51a、51bを有する。また、ピボット軸部52は雌螺子部51の軸に直交する回転軸(ピボット軸P4に供される)を有し、この回転軸に平行で所定距離を隔てて対向する二つの平面部52a、52bを有する。尚、図示は省略するが、ナット部材の別の実施形態として、図2示すナット部材50に代えて、ピボット軸部52を設けることなく、例えば、雌螺子部51の中央部の両側に軸受用の穴を形成したナット部材を用い、このナット部材の穴に別部材のピボット軸を嵌合させてリンク部材42に軸支するように構成してもよい。
【0026】
更に、ナット部材50の雌螺子部51と螺子軸62との間の螺合に起因するガタを防止するため、本実施形態では雌螺子部51とピボット軸部52が交差する部分の一方の面(図2の上方)に開口部53が形成されており、この開口部53に押圧部材70が収容され、その円板状の当接部73が螺子軸62の外周面に当接するように配置され、付勢部材80によってナット部材50に保持される。即ち、図3に示す状態となり、押圧部材70は付勢部材80によって螺子軸62の軸心方向に付勢される。
【0027】
押圧部材70は、図2に示すように、螺子軸62の外周面に当接する当接部73と、この当接部73から延出する一対の腕部71、72を有し、付勢部材80の本体部85の中央に形成された開口部86に嵌合され、腕部71、72の先端部に形成された爪部71c、72cで開口部86の周縁に係止される。而して、押圧部材70が付勢部材80に吊下された状態でサブアッセンブリが構成される。更に、本実施形態の押圧部材70は、図6に示すように、外周部73tの下面が全周に亘ってテーパ形状に形成されており、従って、当接部73が雌螺子部51に当接した状態で少なくとも螺子軸62の挿入側に位置する端部がテーパ形状に形成されている。また、本実施形態では、螺子軸62の先端部62tも、図2に示すようにテーパ形状に形成されている。
【0028】
一方、付勢部材80は、図2に示すように、矩形板状の本体部85と、この本体部85から延出する四つの脚部81乃至84を有し、ばね材料によって側面視コ字状に形成されている。これらの脚部81乃至84の各先端部には屈曲部81c乃至84cが形成されており、付勢部材80はピボット軸部52を介した両側で、脚部81乃至84によって二つの平面部51a、51bを挟持するように配置される。そして、図4に示すように屈曲部81c乃至84cが雌螺子部51に係止されると、押圧部材70が螺子軸62の軸心方向に付勢された状態で保持される。
【0029】
図5に示すように、付勢部材80がナット部材50に保持され押圧部材70の当接部73下面が螺子軸62の外周面に当接した状態(図5の位置A)での、付勢部材80の本体部85下面と押圧部材70の当接部73下面との間の距離が、付勢部材80がナット部材50に保持される前(図5の位置B)の付勢部材80の本体部85下面と押圧部材70の当接部73下面との間の距離より小に設定され、図5に示すように組付けられたときに、付勢部材80が発生する弾性反発力が適切な荷重となるように設定される。
【0030】
上記の構成になる押圧部材70及び付勢部材80をナット部材50に装着すると共に、ナット部材50の雌螺子部51に螺子軸62を螺合して図3に示す構成とするときの組付手順について説明する。先ず、(1)押圧部材70の腕部71、72を付勢部材80の開口部86に嵌合し、爪部71c、72cを開口部86の周縁に係止して、サブアッセンブリを構成する。次に、(2)押圧部材70をナット部材50の開口部53に挿入し、付勢部材80の屈曲部81c乃至84cを雌螺子部51に係止させて、押圧部材70及び付勢部材80のサブアッセンブリをナット部材50に装着する。そして、(3)螺子軸62をナット部材50の雌螺子部51に螺合させ、螺子軸62を回転させながら雌螺子部51内に挿入する。本実施形態においては、押圧部材70の外周部73tが図6に示すようにテーパ形状とされると共に、螺子軸62の先端部62tも図2に示すようにテーパ形状とされており、螺子軸62の雌螺子部51内の軸方向移動に伴い、押圧部材70に対しこれを押し上げる方向の力が付与されるので、円滑に移動し、容易に組付けることができる。尚、押圧部材70の外周部73t及び螺子軸62の先端部62tの何れか一方のみをテーパ形状としてもよい。
【0031】
上記(1)の組付工程においては、押圧部材70は、その爪部71c、72cによって付勢部材80に係止されているだけであり、付勢部材80は付勢力を発生していない。このときの押圧部材70の摺動面(図5の下面)は螺子軸62の外径より低い図5の位置B(螺子軸62の軸心側の位置)となるように寸法設定されている。上記(3)の組付工程において、螺子軸62をナット部材50の雌螺子部51に螺合させると、螺子軸62の外周面に当接する押圧部材70が(図5の上方に)押し上げられて図5の位置Aとなるので、付勢部材80が弾性変形し付勢力を発生する。
【0032】
ところで、上記の付勢部材80が発生すべき付勢力には適切な荷重範囲があり、付勢力がその範囲により小さい場合には螺子軸62のガタを完全に防止することができず、これに起因するガタにより運転者に不快感を与えるおそれがある。一方、付勢部材80による付勢力が大きい場合には、螺子軸62の面圧が高くなるので、螺子の異常摩耗や異音の発生が懸念される。また、付勢部材80による付勢力と螺子軸62挿入時の回転トルクとの間には、付勢力が大きいほど回転トルクが大きくなるという関係がある。そこで、上記(3)の組付工程において、螺子軸62挿入時に回転トルクを測定することにより、付勢部材80による付勢力が適切な範囲にあるか否かを確認することができる。このように、組付けと同時に測定を行うことができるため、組付け後に回転トルクを測定する場合と比較し、測定工数を低減することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ステアリングシャフト
2 テレスコピック機構
3 チルト機構
4 リンク機構
5 駆動機構
10 メインハウジング
20 可動コラム部材
30 固定ブラケット
50 ナット部材
51 雌螺子部
52 ピボット軸部
60 電動モータ
62 螺子軸
70 押圧部材
80 付勢部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対し前方側端部を揺動中心として揺動可能に支持するメインハウジングと、該メインハウジングに収容し軸方向移動可能に支持する可動コラム部材と、前記メインハウジングの車体後方側端部を前記車体に対して上下方向に移動可能に支持した状態で前記車体に固定する固定ブラケットと、該固定ブラケットに一端を支持するリンク機構と、該リンク機構の他端に連結する駆動機構を備え、該駆動機構によって前記リンク機構を介して前記メインハウジングを揺動し、前記可動コラム部材に連結するステアリングホイールの少なくとも上下方向の操作位置を調整し得る車両のステアリング装置において、前記駆動機構が、前記メインハウジングに車体後方側端部を揺動可能に支持しモータ駆動によって回転する螺子軸と、該螺子軸に螺合し当該螺子軸の回転に応じて軸方向移動する雌螺子部を有し、前記リンク機構に連結するナット部材と、前記雌螺子部に形成した開口部を介して収容し前記螺子軸の外周面に当接するように配置する押圧部材と、該押圧部材を前記螺子軸の軸心方向に付勢するように支持すると共に、前記ナット部材に保持する付勢部材とを備えたことを特徴とする車両のステアリング装置。
【請求項2】
前記雌螺子部は、前記螺子軸から相互に所定距離を隔てて対向する位置で前記螺子軸に平行な二つの平面部を有し、前記付勢部材は、本体部と、該本体部から延出し前記二つの平面部を挟持するように配置する四つの脚部を有し、該四つの脚部の先端部を前記雌螺子部に係止させて保持するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のステアリング装置。
【請求項3】
前記ナット部材は、前記雌螺子部の軸に直交する回転軸を有するピボット軸部を有し、該ピボット軸部と前記雌螺子部が交差する部分の一方の面に前記開口部を形成して成り、前記押圧部材を前記螺子軸の軸心方向に付勢するように前記雌螺子部及び前記ピボット軸部の一方に、前記付勢部材を保持することを特徴とする請求項1記載の車両のステアリング装置。
【請求項4】
前記雌螺子部は、前記螺子軸から相互に所定距離を隔てて対向する位置で前記螺子軸に平行な二つの平面部を有し、前記付勢部材は、本体部と、該本体部から延出し前記ピボット軸部を介した両側で前記二つの平面部を挟持するように配置する四つの脚部を有し、該四つの脚部の先端部を前記雌螺子部に係止させて保持するように構成したことを特徴とする請求項3記載の車両のステアリング装置。
【請求項5】
前記付勢部材は、前記本体部の中央に開口部を有し、前記押圧部材は、前記螺子軸の外周面に当接する当接部と、該当接部から延出し前記付勢部材の開口部に嵌合され先端部で係止される一対の腕部を有し、該一対の腕部によって前記押圧部材が前記付勢部材に係止された状態で、前記付勢部材が前記ナット部材に保持されることを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項に記載の車両のステアリング装置。
【請求項6】
前記付勢部材が前記ナット部材に保持され前記押圧部材の前記当接部下面が前記螺子軸の外周面に当接した状態での、前記付勢部材の前記本体部下面と前記押圧部材の前記当接部下面との間の距離が、前記付勢部材が前記ナット部材に保持される前の前記付勢部材の前記本体部下面と前記押圧部材の前記当接部下面との間の距離より小に設定されていることを特徴とする請求項5記載の車両のステアリング装置。
【請求項7】
前記押圧部材の前記当接部が前記雌螺子部に当接した状態で少なくとも前記螺子軸挿入側に位置する端部、及び前記螺子軸の前記雌螺子部への挿入側の先端部の少なくとも一方がテーパ形状に形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の車両のステアリング装置。
【請求項8】
前記押圧部材は、前記一対の腕部の先端に夫々爪部を有し、該爪部を前記付勢部材の前記開口部に係止させて吊下状態とすることを特徴とする請求項5乃至7の何れか一項に記載の車両のステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86732(P2013−86732A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231213(P2011−231213)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】