車両のフロント構造
【課題】衝撃を吸収することができ、さらに、修理を容易におこなうことができ、加えて、自動車の全長を所望長さに抑えることができる車両のフロント構造を提供する。
【解決手段】車両のフロント構造10は、上メンバー31に設けられた左右の上マウントブラケット51と、下メンバー32に設けられた左右の下マウントブラケット52と、左右のサイドメンバー33,34に設けられるとともに、マウントブラケット51,52に連結され、冷却系部品17を保護する左右の冷却系保護プレート53とを備える。フロントバンパービーム21が左右の冷却系保護プレート53に当接した場合に、左右の冷却系保護プレート53が車体後方に水平移動可能である。また、左右の冷却系保護プレート53の水平移動に追従してマウントブラケット51,52が車体後方に水平移動可能である。
【解決手段】車両のフロント構造10は、上メンバー31に設けられた左右の上マウントブラケット51と、下メンバー32に設けられた左右の下マウントブラケット52と、左右のサイドメンバー33,34に設けられるとともに、マウントブラケット51,52に連結され、冷却系部品17を保護する左右の冷却系保護プレート53とを備える。フロントバンパービーム21が左右の冷却系保護プレート53に当接した場合に、左右の冷却系保護プレート53が車体後方に水平移動可能である。また、左右の冷却系保護プレート53の水平移動に追従してマウントブラケット51,52が車体後方に水平移動可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルクヘッドで冷却系部品が支えられ、冷却系部品の前方にバンパービームを備えた車両のフロント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロント構造のなかには、左右のフロントサイドメンバーの前端部にそれぞれ左右のクラッシュボックスが設けられ、左右のクラッシュボックスの前端部にフロントバンパリインフォースメントが架け渡されたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−219869公報
【0003】
特許文献1の車両のフロント構造によれば、フロントバンパリインフォースメントに軽衝突が作用した場合に、左右のクラッシュボックスを潰して衝撃エネルギーを吸収することが可能である。
この場合、フロントバンパリインフォースメントは、ラジエータに干渉しないように、ラジエータに当接する手前で静止させる。
【0004】
フロントバンパリインフォースメントはラジエータに干渉しないので、ラジエータが損傷する虞はない。
よって、軽衝突の後は、潰れたクラッシュボックスを、新たなクラッシュボックスに交換するのみで、修理を容易におこなうことが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の車両のフロント構造では、軽衝突の場合に、フロントバンパリインフォースメントをラジエータに干渉させないように、左右のクラッシュボックスの長さ寸法を比較的大きく確保する必要がある。
このため、自動車の全長が必要以上に長くなってしまい、この観点から改良の余地が残されていた。
【0006】
本発明は、衝撃を吸収することができ、さらに、修理を容易におこなうことができ、加えて、自動車の全長を所望長さに抑えることができる車両のフロント構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、左右のフロントサイドフレームにバルクヘッドが支持され、前記バルクヘッドで冷却系部品が支えられ、前記冷却系部品の前方にバンパービームを備えた車両のフロント構造において、前記バルクヘッドの上下のメンバーにそれぞれ設けられ、冷却系部品を支える上下のマウントブラケットと、前記バルクヘッドのサイドメンバーに設けられるとともに、前記上下のマウントブラケットに連結され、前記冷却系部品を保護する冷却系保護プレートと、を備え、前記バンパービームが軽衝突により前記冷却系保護プレートに当接した場合に、前記当接により作用した衝撃で前記冷却系保護プレートが車体後方に移動可能で、かつ、前記冷却系保護プレートの移動に追従して、前記上下のマウントブラケットが車体後方に移動可能であることを特徴とする。
【0008】
請求項2は、前記冷却系保護プレートが前記サイドメンバーに設けられることで、前記冷却系保護プレートおよび前記サイドメンバーで閉断面部が形成され、前記閉断面部のうち、前記フロントサイドフレームから最も離れた部位を前記冷却系保護プレートで構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項3は、前記上下のマウントブラケットのうち、少なくとも前記下マウントブラケットに鉛直方向の段差が形成された段付き部を有し、前記段付き部は、前記衝撃が作用した場合に、略Z字状に変形可能であることを特徴とする。
【0010】
請求項4は、前記上下のマウントブラケットのうち、少なくとも前記上マウントブラケットが前記衝撃で変形不能に形成され、前記上下のメンバーのうち、前記変形不能なマウントブラケットが設けられたメンバーが前記衝撃で変形可能に形成され、前記衝撃で変形可能に形成されたメンバーが着脱自在に取り付けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、冷却系部品が設けられた上下のマウントブラケットと、冷却系部品を保護する冷却系保護プレートとを備える。冷却系保護プレートは上下のマウントブラケットに連結されている。
バンパービームが軽衝突により車体後方に移動して冷却系保護プレートに当接した場合に、当接により作用した衝撃で冷却系保護プレートが車体後方に移動する。
【0012】
そして、冷却系保護プレートの移動に追従して、上下のマウントブラケットが車体後方に移動する。
このように、冷却系保護プレートおよび上下のマウントブラケットを車体後方にそれぞれ移動させることで、バンパービームの移動量を十分に確保して、軽衝突により作用した衝撃を良好に吸収することができるという利点がある。
【0013】
さらに、衝撃を吸収する場合に、冷却系保護プレートおよび上下のマウントブラケットを車体後方に移動させることで、冷却系部品を車体後方に移動(退避)させることができる。よって、バンパービームが冷却系部品に当接することを防ぐことができる。
バンパービームが冷却系部品に干渉しないので、冷却系部品が損傷する虞はない。
これにより、修理の際に、冷却系部品を新たな冷却系部品と交換する必要がないので、修理の容易化を図ることができるという利点がある。
【0014】
加えて、冷却系部品を車体後方に移動(退避)させることで、冷却系部品からバンパービームまでの距離を比較的小さく抑えることができ、かつ、バンパービームの移動距離を大きく確保することができる。
この際、冷却系部品は車体後方に移動(退避)しているので、冷却系部品にバンパービームが当接することを防ぐことができる。
このように、冷却系部品からバンパービームまでの距離を比較的小さく抑えることで、自動車の全長を所望長さに抑えることができるという利点がある。
【0015】
請求項2に係る発明では、冷却系保護プレートをサイドメンバーに設けることで、冷却系保護プレートおよびサイドメンバーで閉断面部を形成した。そして、閉断面部のうち、フロントサイドフレームから最も離れた部位を冷却系保護プレートで構成した。
軽衝突による衝撃は、冷却系保護プレート、すなわちフロントサイドフレームから最も離れた部位に作用する。
これにより、衝撃で閉断面部を円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができるという利点がある。
【0016】
請求項3に係る発明では、上下のマウントブラケットのうち、少なくとも下マウントブラケットに段付き部を設けた。この段付き部は、衝撃が作用した場合に、略Z字状に変形可能な鉛直方向の段差が形成されている。
これにより、衝撃で段付き部を円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができるという利点がある。
【0017】
請求項4に係る発明では、上下のマウントブラケットのうち、少なくとも上マウントブラケットを衝撃で変形不能に形成し、変形不能なマウントブラケットを設けたメンバーを衝撃で変形可能に形成した。
そして、変形可能に形成されたメンバーをバルクヘッドに着脱自在に取り付けた。
【0018】
メンバーを変形可能に形成することで、メンバーを衝撃で円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができるという利点がある。
加えて、メンバーをバルクヘッドに着脱自在に取り付けることで、修理の際に、メンバーのみの交換が可能となり、修理の容易化を図ることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は作業者から見た方向に従い、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【0020】
図1は本発明に係る車両のフロント構造(第1実施の形態)を示す斜視図である。
車両のフロント構造10は、車体前部の左右側にそれぞれ設けられた左右のフロントサイドフレーム11,12と、左右のフロントサイドフレーム11,12の上方にそれぞれ設けられた左右のアッパーメンバー13,14と、左右のフロントサイドフレーム11,12および左右のアッパーメンバー13,14に設けられたバルクヘッド15と、バルクヘッド15に設けられて冷却系部品17を支える冷却系支持部20と、冷却系部品17の前方に配置されたフロントバンパービーム(バンパービーム)21とを備える。
【0021】
冷却系部品17は、エンジンルーム23に臨む部位に設けられたラジエータ24と、ラジエータ24の前方に設けられたコンデンサ25とを備える。
コンデンサ25は、例えば、エアコン用の冷媒ガスを冷却して液化するものである。
【0022】
左フロントサイドフレーム11は、車体前部の左側に配置され、車体前後方向に延びる部材である。
右フロントサイドフレーム12は、車体前部の右側に配置され、車体前後方向に延びる部材である。
【0023】
左アッパーメンバー13は、左フロントサイドフレーム11の上方に配置され、後端部が左フロントピラー(図示せず)に連結された部材である。
右アッパーメンバー14は、右フロントサイドフレーム12の上方に配置され、後端部が右フロントピラー(図示せず)に連結された部材である。
【0024】
バルクヘッド15は、冷却系部品17を支える略矩形状の枠体26と、枠体26の上左端部26aから左アッパーメンバー13まで延出された上左側メンバー27と、枠体26の上右端部26bから右アッパーメンバー14まで延出された上右側メンバー28とを備える。
【0025】
枠体26は、車体幅方向に延出された上メンバー31と、上メンバー31の下方において車幅方向に延出された下メンバー32と、上下のメンバー31,32の左端部26a,26cに連結された左サイドメンバー(サイドメンバー)33と、上下のメンバー31,32の右端部26b,26dに連結された右サイドメンバー(サイドメンバー)34とを備える。
【0026】
上メンバー31は、図4に示すように断面略コ字状に形成され、左端部26aが上左側メンバー27に載置された状態でボルト36(図3、図4参照)で取り付けられるとともに、右端部26bが上右側メンバー28に載置された状態でボルト(図示せず)で取り付けられている。
【0027】
図2は第1実施の形態に係るフロント構造の左側部を示す斜視図である。
枠体26の左サイドメンバー33は、上下方向に延出されたサイド脚部41と、サイド脚部41の上半分に設けられた上サイドプレート43と、サイド脚部41の下半分に設けられた下サイドプレート44とを備える。
【0028】
下サイドプレート44の上端部44aおよび上サイドプレート43の下端部43aが、左フロントサイドフレーム11の前端部11aに接合されている。
上サイドプレート43の上端部43bが、上左側メンバー27の内側端部27aに接合されている。
サイド脚部41の下端部41a(図3参照)が、下メンバー32の左端部26cに接合されている。
【0029】
図3は第1実施の形態に係るフロント構造の左側部を示す分解斜視図、図4は図2の4−4線断面図である。
サイド脚部41は、上サイドプレート43の前辺43cおよび下サイドプレート44の前辺44b(図2参照)に沿って接合された前接合部46と、前接合部46の後端から車体幅方向内側に向けて張り出したサイド張出部47と、サイド張出部47の内側端部から車体後方に向けて張り出したサイド折曲部48とを備える。
前接合部46、サイド張出部47およびサイド折曲部48で、断面略クランク形状に形成されている(図5も参照)。
【0030】
冷却系支持部20は、バルクヘッド15の上メンバー31に設けられた左右の上マウントブラケット(上マウントブラケット)51,51(右上マウントブラケット51は図1参照)と、バルクヘッド15の下メンバー32に設けられた左右の下マウントブラケット(下マウントブラケット)52,52(右下マウントブラケット52は図示せず)と、バルクヘッド15の左サイドメンバー33に設けられた左冷却系保護プレート(冷却系保護プレート)53と、バルクヘッド15の右サイドメンバー34に設けられた右冷却系保護プレート(冷却系保護プレート)53(図1参照)とを備える。
【0031】
なお、左右の上マウントブラケット51,51は、左右対称の部材なので、以下、左上マウントブラケット51について説明して、右上マウントブラケット51の説明を省略する。
また、左右の下マウントブラケット52,52は、左右対称の部材なので、以下、左下マウントブラケット52について説明して、右下マウントブラケット52の説明を省略する。
さらに、左右の冷却系保護プレート53,53は、左右対称の部材なので、以下、左冷却系保護プレート53について説明して、右冷却系保護プレート53の説明を省略する。
【0032】
左上マウントブラケット51は、上メンバー31の左端部26aに取り付けられている。
具体的には、左上マウントブラケット51は、上メンバー31の左前壁38に一対のボルト56で取り付けられた取付片57と、取付片57から車体前方に向けて略水平に張り出された上マウント上段部58と、上マウント上段部58の前端部から下方に垂下された鉛直垂下部61と、鉛直垂下部61の下端部から車体前方に向けて略水平に張り出された上マウント下段部62と、上マウント下段部62の前端部から下方に張り出した前上接合部63と、上マウント上段部58の内側に設けられたサイドリブ64と、鉛直垂下部61および上マウント下段部62に渡って設けられたリブ65…と、前上接合部63の外端部に連結された外側リブ66と、前上接合部63の内端部に連通された内側リブ66(図示せず)とを備える。
【0033】
上マウント上段部58は、上ラジエータ支持孔68が形成されている。上ラジエータ支持孔68には、上ラジエータ用ラバー取付部69が差し込まれている。上ラジエータ用ラバー取付部69には、ラジエータ24の左上部24aから突出した上取付ロッド71が差し込まれている。
よって、ラジエータ24の左上部24aが、上取付ロッド71および上ラジエータ用ラバー取付部69を介して左上マウントブラケット51に支えられている。
【0034】
上マウント下段部62は、上コンデンサ支持孔73が形成されている。上コンデンサ支持孔73には、上コンデンサ用ラバー取付部74が差し込まれている。上コンデンサ用ラバー取付部74には、コンデンサ25の左上部25aから突出した上取付ロッド75が差し込まれている。
よって、コンデンサ25の左上部が、上取付ロッド75および上コンデンサ用ラバー取付部74を介して左上マウントブラケット51に支えられている。
【0035】
ここで、左上マウントブラケット51は、サイドリブ64、リブ65…、および内外側のリブ66を備えることで剛性が高められている。よって、左上マウントブラケット51に車体前方側から衝撃が作用した場合に、作用した衝撃で左上マウントブラケット51が変形不能に保たれる。
【0036】
左上マウントブラケット51に作用した衝撃は、左上マウントブラケット51を経て上メンバー31の左前壁38に伝えられる。
上メンバー31の左前壁38が衝撃で車体後方に変形することにより、左上マウントブラケット51が車体後方に水平移動(移動)する。
さらに、上メンバー31を衝撃で変形させることで、衝撃を良好に吸収することができる。
【0037】
上メンバー31は、上左端部26aが、サイド脚部41の上端部にボルト56で着脱自在に取り付けられるとともに、上左側メンバー27の内側端部27aおよびサイド脚部41の上端部41bにボルト36で着脱自在に取り付けられている。
よって、上メンバー31の左前壁38が衝撃で変形した場合に、ボルト36,56を外すことで上メンバー31を取り外すことができる。
修理の際に、変形した上メンバー31のみの交換が可能となり、修理の容易化を図ることができる。
【0038】
左下マウントブラケット52は、下メンバー32の左端部26cに設けられている。具体的には、左下マウントブラケット52は、下メンバー32の左端部26cに接合された下マウント下段部81と、下マウント下段部81の前端部に設けられた下段付き部(段付き部)82と、下段付き部82の前端部に設けられた前下接合部83とを備える。
【0039】
下段付き部82は、下マウント下段部81の前端部から上方に立ち上げられた鉛直立上部84と、鉛直立上部84の前端部から車体前方に張り出された下マウント上段部85とを備える。
すなわち、下段付き部82は、鉛直立上部84および下マウント上段部85で、下マウント下段部81に対する鉛直方向の段差を形成する。
【0040】
下マウント下段部81は、下ラジエータ支持孔87が形成されている。下ラジエータ支持孔87には、下ラジエータ用ラバー取付部88が差し込まれている。下ラジエータ用ラバー取付部88には、ラジエータ24の左下部24bから突出した下取付ロッド89が差し込まれている。
よって、ラジエータ24の左下部24bが、下取付ロッド89および下ラジエータ用ラバー取付部88を介して左下マウントブラケット52に支えられている。
【0041】
下マウント上段部85は、下コンデンサ支持孔91が形成されている。下コンデンサ支持孔91には、下コンデンサ用ラバー取付部92が差し込まれている。下コンデンサ用ラバー取付部92には、コンデンサ25の左下部から突出した下取付ロッド93が差し込まれている。
よって、コンデンサ25の左下部25bが、下取付ロッド93および下コンデンサ用ラバー取付部92を介して左下マウントブラケット52に支えられている。
【0042】
ここで、左下マウントブラケット52に下段付き部82が備えられている。下段付き部82に車体前方から衝撃が作用した場合に、下段付き部82は略Z字状に変形可能に形成されている。
下段付き部82が衝撃で略Z字状に変形することで、下マウント上段部85が車体後方に水平移動(移動)する。
【0043】
加えて、下段付き部82は、衝撃が作用した場合に、略Z字状に変形可能な鉛直方向の段差が形成されている。
これにより、衝撃で下段付き部82を円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができる。
【0044】
また、左上マウントブラケット51でラジエータ24およびコンデンサ25の左上部24a,25aが支えられるとともに、左下マウントブラケット52でラジエータ24およびコンデンサ25の左下部24b,25bが支えられている。
同様に、右上マウントブラケット51でラジエータ24およびコンデンサ25の右上部が支えられるとともに、右下マウントブラケット52でラジエータ24およびコンデンサ25の右下部が支えられている。
これにより、左右の上マウントブラケット51および左右の下マウントブラケット52で冷却系部品17(コンデンサ25およびラジエータ24)が支えられている。
【0045】
左冷却系保護プレート53は、左サイドメンバー33に設けられるとともに、上下のマウントブラケット51,52に連結され、冷却系部品17(ラジエータ24、コンデンサ25)を保護する部材である。
【0046】
具体的には、左冷却系保護プレート53は、上サイドプレート43の後辺43dおよび下サイドプレート44の後辺44d(図2参照)に沿って接合された後接合部96と、後接合部96の前端から車体幅方向内側に向けて張り出された保護後張出部97と、保護後張出部97の内側端部から車体前方に向けて張り出された保護折曲部98と、保護折曲部98の前端部から車体幅方向内側に向けて張り出された保護当接部99とを備える。
【0047】
後接合部96、保護後張出部97および保護折曲部98で断面略クランク形状に形成されている(図5も参照)。
また、保護折曲部98および保護当接部99で断面略L字形状に形成されている(図5も参照)。
【0048】
保護折曲部98のうち、前端部寄りの部位および保護当接部99には補強のリブ101…が形成されている。
保護当接部99は、上端部99aが前上接合部63に接合されるとともに、下端部99bが前下接合部83に接合されている。
【0049】
この状態において、図4に示すように、左冷却系保護プレート53の保護当接部99に対して車体前方側に距離L1だけ離れた位置(正規の位置)P1にフロントバンパービーム21が配置されている。
フロントバンパービーム21を正規の位置P1に配置した状態において、保護当接部99に対する距離L1を短くすることで、自動車の全長を短く抑えることができる。
【0050】
図5は図2の5−5線断面図である。
後接合部96が下サイドプレート44の後辺44dに沿って接合されている。さらに、保護折曲部98のうち、略中央部がサイド折曲部48に接合されている。
これにより、左冷却系保護プレート53が左サイドメンバー33に設けられている。
さらに、後接合部96を下サイドプレート44の後辺44dに沿って接合するとともに、保護折曲部98をサイド折曲部48に接合することで、左冷却系保護プレート53および左サイドメンバー33で閉断面部60が形成されている。
【0051】
この状態において、左冷却系保護プレート53の保護折曲部98は、閉断面部60のうち、左フロントサイドフレーム11から最も離れた部位を構成している。
軽衝突により、左冷却系保護プレート53の保護当接部99にフロントバンパービーム21が当接した場合に、保護当接部99に車体前方から衝撃が作用する。
【0052】
保護当接部99に衝撃が作用することで、閉断面部60が略平行四辺形状に変形する(想像線で示した状態)。
閉断面部60が略平行四辺形状に変形することで、左冷却系保護プレート53の保護当接部99が車体後方に水平移動(移動)する。
【0053】
閉断面部60のうち、左フロントサイドフレーム11から最も離れた部位を左冷却系保護プレート53の保護折曲部98で構成した。
軽衝突による衝撃は、保護折曲部98、すなわち左フロントサイドフレーム11から最も離れた部位に作用する。
これにより、衝撃で閉断面部60を円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができる。
【0054】
ここで、保護当接部99は、図4に示すように、上端部99aが左上マウントブラケット51の前上接合部63に接合され、下端部99bが左下マウントブラケット52の前下接合部83に接合されている。
よって、保護当接部99が車体後方に水平移動することで、左上マウントブラケット51および左下マウントブラケット52に衝撃が作用する。
【0055】
左上マウントブラケット51に作用した衝撃で、上メンバー31の左前壁38が車体後方に変形することにより、左上マウントブラケット51が車体後方に水平移動する。
左下マウントブラケット52に作用した衝撃で、下段付き部82が衝撃で略Z字状に変形することにより、下マウント上段部85が車体後方に水平移動する。
【0056】
これにより、左冷却系保護プレート53の水平移動に追従して、左上マウントブラケット51および左下マウントブラケット52が車体後方に水平移動する。
このように、左冷却系保護プレート53および左上マウントブラケット51および左下マウントブラケット52を車体後方にそれぞれ水平移動させることで、軽衝突により作用した衝撃を良好に吸収することができる。
【0057】
図1に戻って、フロントバンパービーム21は、車幅方向を向いて配置され、左右のクラッシュボックス102に架け渡されている。
すなわち、フロントバンパービーム21の左端部21aが左クラッシュボックス102に連結されている。
また、フロントバンパービーム21の右端部21bが左クラッシュボックス102に連結されている。
【0058】
左クラッシュボックス102は、左フロントサイドフレーム11の前端部11aから車体前方に向けて突出された部材である。
右クラッシュボックス102は、右フロントサイドフレーム12の前端部12aから車体前方に向けて突出された部材である。
左右のクラッシュボックス102は、フロントバンパービーム21に車体前方側から衝撃が作用した場合に、潰れる(変形する)ことにより衝撃を吸収する部材である。
【0059】
つぎに、車両のフロント構造10の作用を図6〜図9に基づいて説明する。なお、図6〜図9においては、理解を容易にするために左側部位について説明し、右側部位の説明を省略する。
図6(a),(b)は第1実施の形態に係るフロント構造のフロントバンパービームに衝撃が作用した状態を説明する図である。
軽衝突によりフロントバンパービーム21に衝撃F1が矢印の如く作用する。衝撃F1はフロントバンパービーム21の左右の端部21a,21b(21bは図示せず)に分散され、左クラッシュボックス102に荷重F2が矢印の如く作用する。
フロントバンパービーム21は、左冷却系保護プレート53の保護当接部99に対して距離L1だけ離れた位置に配置されている。
【0060】
図7(a),(b)は第1実施の形態に係るフロント構造の左冷却系保護プレートに衝撃が作用した状態を説明する図である。
(a)において、左クラッシュボックス102に荷重F2が伝わることで、左クラッシュボックス102が潰れる(変形する)。
【0061】
フロントバンパービーム21が車体後方に向けて移動する。フロントバンパービーム21の移動距離がL1になると、フロントバンパービーム21は左冷却系保護プレート53の保護当接部99に当接する。
保護当接部99に荷重F3が矢印の如く作用する。
荷重F3は、左冷却系保護プレート53の保護折曲部98に荷重F4として作用する。
【0062】
(b)において、荷重F4が作用することで、閉断面部60が略平行四辺形状に変形を開始し、保護折曲部98(左冷却系保護プレート53)が車体後方に向けて水平移動する。
保護折曲部98が車体後方に向けて水平移動することで、左冷却系保護プレート53の保護当接部99が車体後方に向けて水平移動する。
【0063】
図8(a),(b)は第1実施の形態に係るフロント構造の冷却系支持部で衝撃を吸収した状態を説明する図である。
(a)において、左冷却系保護プレート53の上端部99aが、左上マウントブラケット51を車体後方に向けて押圧する。よって、左上マウントブラケット51が上メンバー31の左前壁38を荷重F5で車体後方に向けて押圧する。
同時に、左冷却系保護プレート53の下端部99bが、左下マウントブラケット52の下段付き部82を荷重F6で車体後方に向けて押圧する。
【0064】
(b)において、上メンバー31の左前壁38が荷重F5で車体後方に変形して、左上マウントブラケット51が車体後方に向けて距離L2だけ水平移動する。
下段付き部82の鉛直立上部84が荷重F6で車体後方に変形して、左下マウントブラケット52の下マウント上段部85が車体後方に向けて距離L2だけ水平移動する。
これにより、冷却系部品17を車体方向に向けて水平移動(退避)させることができる。
【0065】
図9は第1実施の形態に係るフロント構造で衝撃を吸収した状態を説明する図である。
左上マウントブラケット51および下マウント上段部85をそれぞれ車体後方に向けて距離L2だけ水平移動することで、フロントバンパービーム21が正規の位置P1から静止位置P2まで車体後方に向けて距離(L1+L2)移動する。
【0066】
すなわち、フロントバンパービーム21の移動距離を(L1+L2)と大きく確保することができる。
これにより、左クラッシュボックス102を十分に潰す(変形させる)ことが可能になり、左クラッシュボックス102で衝撃F1(図6参照)を良好に吸収することができる。
この状態で、閉断面部60が略平行四辺形状に変形した状態になる。
【0067】
このように、左クラッシュボックス102が潰れるとともに、閉断面部60が略平行四辺形状に変形し、さらに、図8に示すように、上メンバー31の左前壁38や左下マウントブラケット52の鉛直立上部84が変形することで、衝撃F1を一層良好に吸収することができる。
【0068】
さらに、衝撃F1を吸収する場合に、左冷却系保護プレート53、左上マウントブラケット51および左下マウントブラケット52を車体後方に水平移動させることで、冷却系部品17を車体後方に水平移動(退避)させることができる。
よって、フロントバンパービーム21が冷却系部品17に当接することを防ぐことができる。
【0069】
フロントバンパービーム21が冷却系部品17に干渉しないので、冷却系部品17が損傷する虞はない。
これにより、修理の際に、冷却系部品17を新たな冷却系部品17と交換する必要がないので、修理の容易化を図ることができる。
【0070】
加えて、冷却系部品17を車体後方に水平移動(退避)させることで、冷却系部品17からフロントバンパービーム21までの距離を比較的小さく抑えて、フロントバンパービーム21の移動距離を大きく確保することができる。
この際、フロントバンパービーム21が冷却系部品17に当接することを防ぐことができる。
このように、冷却系部品17からフロントバンパービーム21までの距離を比較的小さく抑えることで、自動車の全長を所望長さに抑えることができる。
【0071】
つぎに、第2実施の形態の車両のフロント構造110を図10〜図11に基づいて説明する。なお、第2実施の形態において、第1実施の形態のフロント構造10の構成部材と同一・類似の部材については同じ符号を付して説明を省略する。
図10は本発明に係る車両のフロント構造(第2実施の形態)を示す断面図である。
車両のフロント構造110は、上メンバー112の左右の端部112a,112a(右端部112aは図示せず)にそれぞれ上段付き部(段付き部)113が設けられ、左右の上段付き部113にそれぞれ上マウントブラケット114が設けられたもので、その他の構成は第1実施の形態と同じである。
【0072】
なお、左右の上段付き部113は左右対称の部材であり、以下、左上段付き部113について説明して右上段付き部113の説明を省略する。
また、左右の上マウントブラケット114も左右対称の部材であり、以下、左上マウントブラケット114について説明して右上マウントブラケット114の説明を省略する。
【0073】
上メンバー112は、閉断面形状に形成された部材である。上メンバー112の左端部112aのうち、底部116に左上段付き部113が設けられている。
左上段付き部113は、底部116に接合された上段部117と、上段部117の前端部から鉛直に垂下された鉛直部118と、鉛直部118の下端部から車体前方に向けて張り出された下段部119とを備える。
下段部119に上ラジエータ支持孔119aが形成されている。
上段部117、鉛直部118および下段部119で、断面略クランク形状に形成されている。
下段部119に左上マウントブラケット114が接合されている。
【0074】
左上マウントブラケット114は、第1実施の形態の左上マウントブラケット51から取付片57を除去したもので、その他の構成は左上マウントブラケット51と同じである。
左上マウントブラケット114は、上マウント上段部58が下段部119に接合され、上マウント上段部58の上ラジエータ支持孔68および下段部119の上ラジエータ支持孔119aが同軸上に配置されている。
上ラジエータ支持孔68および上ラジエータ支持孔119aに、上ラジエータ用ラバー取付部69が差し込まれている。
上ラジエータ用ラバー取付部69には、ラジエータ24の左上部24aから突出した上取付ロッド71が差し込まれている。
【0075】
つぎに、車両のフロント構造110の作用を図11に基づいて説明する。なお、図11においては、理解を容易にするために左側部位について説明し、右側部位の説明を省略する。
図11(a),(b)は第2実施の形態に係るフロント構造で衝撃を吸収する例を説明する図である。
(a)において、フロントバンパービーム21に衝撃F1が矢印の如く作用する。フロントバンパービーム21を支える左クラッシュボックス102(図1参照)が潰れ、フロントバンパービーム21が車体後方に向けて矢印Aの如く移動する。
【0076】
フロントバンパービーム21が、車体後方に向けて距離L1(図4、図5参照)移動したとき左冷却系保護プレート53の保護当接部99に当接する。
図5に示す閉断面部60が略平行四辺形状に変形を開始し、左冷却系保護プレート53の保護当接部99が車体後方に向けて矢印Bの如く移動する。
【0077】
左冷却系保護プレート53の上端部99aが、左上マウントブラケット114を車体後方に向けて押圧する。よって、左上マウントブラケット114が上段付き部113を車体後方に向けて押圧する。
同時に、左冷却系保護プレート53の下端部99bが、左下マウントブラケット52の下段付き部82を車体後方に向けて押圧する。
【0078】
(b)において、上段付き部113の鉛直部118が車体後方に変形して、左上マウントブラケット51が矢印Bの如く車体後方に向けて距離L2(図8(b)参照)だけ移動する。
下段付き部82の鉛直立上部84が車体後方に変形して、左下マウントブラケット52の下マウント上段部85が矢印Bの如く車体後方に向けて距離L2だけ移動する。
【0079】
フロントバンパービーム21が正規の位置P1から静止位置P2まで車体後方に向けて距離(L1+L2)だけ移動する。
この状態で、図5に示す閉断面部60が略平行四辺形状に変形するとともに、左クラッシュボックス102(図1参照)が十分に潰れた(変形した)状態になる。
【0080】
このように、図1に示す左クラッシュボックス102が潰れるとともに、図5に示す閉断面部60が略平行四辺形状に変形し、さらに、上段付き部113の鉛直部118や左下マウントブラケット52の鉛直立上部84が変形することで、衝撃F1を良好に吸収することができる。
【0081】
すなわち、第2実施の形態の車両のフロント構造110によれば、第1実施の形態の左前壁38(図4参照)に代えて上段付き部113を変形させることで、第1実施の形態の車両のフロント構造10と同様の効果を得ることができる。
さらに、第2実施の形態の車両のフロント構造110によれば、衝撃を吸収した後、上メンバー112を交換しないで左上段付き部113のみを交換することが可能である。
これにより、第1実施の形態と比較して一層修理の容易化を図ることができる。
【0082】
なお、前記第1、第2の実施の形態では、上メンバー31をボルト36,56を用いて着脱自在に取り付けた例について説明したが、これに限らないで、クリップなどの他の締結部材を用いて上メンバー31を着脱自在に取り付けることも可能である。
【0083】
また、前記第1、第2の実施の形態では、バルクヘッド15の下メンバー32に左右の下マウントブラケット52,52を接合した例について説明したが、これに限らないで、下メンバー32に左右の下マウントブラケット52,52をボルトなどの締結部材を用いて取り付けることも可能である。
左右の下マウントブラケット52,52をボルト止めの構成にすることで、修理の際の部品交換を一層容易におこなうことができる。
【0084】
さらに、前記実施の形態で例示した上メンバー31、下メンバー32、左サイドメンバー33、右サイドメンバー34、左右の上マウントブラケット51、左右の下マウントブラケット52、左右の冷却系保護プレート53、閉断面部60、下段付き部82および上段付き部113の形状は適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の車両のフロント構造は、バルクヘッドで冷却系部品が支えられ、冷却系部品の前方にバンパービームを備えた自動車への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る車両のフロント構造(第1実施の形態)を示す斜視図である。
【図2】第1実施の形態に係るフロント構造の左側部を示す斜視図である。
【図3】第1実施の形態に係るフロント構造の左側部を示す分解斜視図である。
【図4】図2の4−4線断面図である。
【図5】図2の5−5線断面図である。
【図6】第1実施の形態に係るフロント構造のフロントバンパービームに衝撃が作用した状態を説明する図である。
【図7】第1実施の形態に係るフロント構造の左冷却系保護プレートに衝撃が作用した状態を説明する図である。
【図8】第1実施の形態に係るフロント構造の冷却系支持部で衝撃を吸収した状態を説明する図である。
【図9】第1実施の形態に係るフロント構造で衝撃を吸収した状態を説明する図である。
【図10】本発明に係る車両のフロント構造(第2実施の形態)を示す断面図である。
【図11】第2実施の形態に係るフロント構造で衝撃を吸収する例を説明する図である。
【符号の説明】
【0087】
10,110…車両のフロント構造、11…左フロントサイドフレーム、12…左フロントサイドフレーム、15…バルクヘッド、17…冷却系部品、20…冷却系支持部、21…フロントバンパービーム(バンパービーム)、24…ラジエータ、25…コンデンサ、31…上メンバー、32…下メンバー、33…左サイドメンバー(サイドメンバー)、34…右サイドメンバー(サイドメンバー)、51…左右の上マウントブラケット(上マウントブラケット)、52…左右の下マウントブラケット(下マウントブラケット)、53…左右の冷却系保護プレート(冷却系保護プレート)、60…閉断面部、82…下段付き部(段付き部)、113…上段付き部(段付き部)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルクヘッドで冷却系部品が支えられ、冷却系部品の前方にバンパービームを備えた車両のフロント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロント構造のなかには、左右のフロントサイドメンバーの前端部にそれぞれ左右のクラッシュボックスが設けられ、左右のクラッシュボックスの前端部にフロントバンパリインフォースメントが架け渡されたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−219869公報
【0003】
特許文献1の車両のフロント構造によれば、フロントバンパリインフォースメントに軽衝突が作用した場合に、左右のクラッシュボックスを潰して衝撃エネルギーを吸収することが可能である。
この場合、フロントバンパリインフォースメントは、ラジエータに干渉しないように、ラジエータに当接する手前で静止させる。
【0004】
フロントバンパリインフォースメントはラジエータに干渉しないので、ラジエータが損傷する虞はない。
よって、軽衝突の後は、潰れたクラッシュボックスを、新たなクラッシュボックスに交換するのみで、修理を容易におこなうことが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の車両のフロント構造では、軽衝突の場合に、フロントバンパリインフォースメントをラジエータに干渉させないように、左右のクラッシュボックスの長さ寸法を比較的大きく確保する必要がある。
このため、自動車の全長が必要以上に長くなってしまい、この観点から改良の余地が残されていた。
【0006】
本発明は、衝撃を吸収することができ、さらに、修理を容易におこなうことができ、加えて、自動車の全長を所望長さに抑えることができる車両のフロント構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、左右のフロントサイドフレームにバルクヘッドが支持され、前記バルクヘッドで冷却系部品が支えられ、前記冷却系部品の前方にバンパービームを備えた車両のフロント構造において、前記バルクヘッドの上下のメンバーにそれぞれ設けられ、冷却系部品を支える上下のマウントブラケットと、前記バルクヘッドのサイドメンバーに設けられるとともに、前記上下のマウントブラケットに連結され、前記冷却系部品を保護する冷却系保護プレートと、を備え、前記バンパービームが軽衝突により前記冷却系保護プレートに当接した場合に、前記当接により作用した衝撃で前記冷却系保護プレートが車体後方に移動可能で、かつ、前記冷却系保護プレートの移動に追従して、前記上下のマウントブラケットが車体後方に移動可能であることを特徴とする。
【0008】
請求項2は、前記冷却系保護プレートが前記サイドメンバーに設けられることで、前記冷却系保護プレートおよび前記サイドメンバーで閉断面部が形成され、前記閉断面部のうち、前記フロントサイドフレームから最も離れた部位を前記冷却系保護プレートで構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項3は、前記上下のマウントブラケットのうち、少なくとも前記下マウントブラケットに鉛直方向の段差が形成された段付き部を有し、前記段付き部は、前記衝撃が作用した場合に、略Z字状に変形可能であることを特徴とする。
【0010】
請求項4は、前記上下のマウントブラケットのうち、少なくとも前記上マウントブラケットが前記衝撃で変形不能に形成され、前記上下のメンバーのうち、前記変形不能なマウントブラケットが設けられたメンバーが前記衝撃で変形可能に形成され、前記衝撃で変形可能に形成されたメンバーが着脱自在に取り付けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、冷却系部品が設けられた上下のマウントブラケットと、冷却系部品を保護する冷却系保護プレートとを備える。冷却系保護プレートは上下のマウントブラケットに連結されている。
バンパービームが軽衝突により車体後方に移動して冷却系保護プレートに当接した場合に、当接により作用した衝撃で冷却系保護プレートが車体後方に移動する。
【0012】
そして、冷却系保護プレートの移動に追従して、上下のマウントブラケットが車体後方に移動する。
このように、冷却系保護プレートおよび上下のマウントブラケットを車体後方にそれぞれ移動させることで、バンパービームの移動量を十分に確保して、軽衝突により作用した衝撃を良好に吸収することができるという利点がある。
【0013】
さらに、衝撃を吸収する場合に、冷却系保護プレートおよび上下のマウントブラケットを車体後方に移動させることで、冷却系部品を車体後方に移動(退避)させることができる。よって、バンパービームが冷却系部品に当接することを防ぐことができる。
バンパービームが冷却系部品に干渉しないので、冷却系部品が損傷する虞はない。
これにより、修理の際に、冷却系部品を新たな冷却系部品と交換する必要がないので、修理の容易化を図ることができるという利点がある。
【0014】
加えて、冷却系部品を車体後方に移動(退避)させることで、冷却系部品からバンパービームまでの距離を比較的小さく抑えることができ、かつ、バンパービームの移動距離を大きく確保することができる。
この際、冷却系部品は車体後方に移動(退避)しているので、冷却系部品にバンパービームが当接することを防ぐことができる。
このように、冷却系部品からバンパービームまでの距離を比較的小さく抑えることで、自動車の全長を所望長さに抑えることができるという利点がある。
【0015】
請求項2に係る発明では、冷却系保護プレートをサイドメンバーに設けることで、冷却系保護プレートおよびサイドメンバーで閉断面部を形成した。そして、閉断面部のうち、フロントサイドフレームから最も離れた部位を冷却系保護プレートで構成した。
軽衝突による衝撃は、冷却系保護プレート、すなわちフロントサイドフレームから最も離れた部位に作用する。
これにより、衝撃で閉断面部を円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができるという利点がある。
【0016】
請求項3に係る発明では、上下のマウントブラケットのうち、少なくとも下マウントブラケットに段付き部を設けた。この段付き部は、衝撃が作用した場合に、略Z字状に変形可能な鉛直方向の段差が形成されている。
これにより、衝撃で段付き部を円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができるという利点がある。
【0017】
請求項4に係る発明では、上下のマウントブラケットのうち、少なくとも上マウントブラケットを衝撃で変形不能に形成し、変形不能なマウントブラケットを設けたメンバーを衝撃で変形可能に形成した。
そして、変形可能に形成されたメンバーをバルクヘッドに着脱自在に取り付けた。
【0018】
メンバーを変形可能に形成することで、メンバーを衝撃で円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができるという利点がある。
加えて、メンバーをバルクヘッドに着脱自在に取り付けることで、修理の際に、メンバーのみの交換が可能となり、修理の容易化を図ることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は作業者から見た方向に従い、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【0020】
図1は本発明に係る車両のフロント構造(第1実施の形態)を示す斜視図である。
車両のフロント構造10は、車体前部の左右側にそれぞれ設けられた左右のフロントサイドフレーム11,12と、左右のフロントサイドフレーム11,12の上方にそれぞれ設けられた左右のアッパーメンバー13,14と、左右のフロントサイドフレーム11,12および左右のアッパーメンバー13,14に設けられたバルクヘッド15と、バルクヘッド15に設けられて冷却系部品17を支える冷却系支持部20と、冷却系部品17の前方に配置されたフロントバンパービーム(バンパービーム)21とを備える。
【0021】
冷却系部品17は、エンジンルーム23に臨む部位に設けられたラジエータ24と、ラジエータ24の前方に設けられたコンデンサ25とを備える。
コンデンサ25は、例えば、エアコン用の冷媒ガスを冷却して液化するものである。
【0022】
左フロントサイドフレーム11は、車体前部の左側に配置され、車体前後方向に延びる部材である。
右フロントサイドフレーム12は、車体前部の右側に配置され、車体前後方向に延びる部材である。
【0023】
左アッパーメンバー13は、左フロントサイドフレーム11の上方に配置され、後端部が左フロントピラー(図示せず)に連結された部材である。
右アッパーメンバー14は、右フロントサイドフレーム12の上方に配置され、後端部が右フロントピラー(図示せず)に連結された部材である。
【0024】
バルクヘッド15は、冷却系部品17を支える略矩形状の枠体26と、枠体26の上左端部26aから左アッパーメンバー13まで延出された上左側メンバー27と、枠体26の上右端部26bから右アッパーメンバー14まで延出された上右側メンバー28とを備える。
【0025】
枠体26は、車体幅方向に延出された上メンバー31と、上メンバー31の下方において車幅方向に延出された下メンバー32と、上下のメンバー31,32の左端部26a,26cに連結された左サイドメンバー(サイドメンバー)33と、上下のメンバー31,32の右端部26b,26dに連結された右サイドメンバー(サイドメンバー)34とを備える。
【0026】
上メンバー31は、図4に示すように断面略コ字状に形成され、左端部26aが上左側メンバー27に載置された状態でボルト36(図3、図4参照)で取り付けられるとともに、右端部26bが上右側メンバー28に載置された状態でボルト(図示せず)で取り付けられている。
【0027】
図2は第1実施の形態に係るフロント構造の左側部を示す斜視図である。
枠体26の左サイドメンバー33は、上下方向に延出されたサイド脚部41と、サイド脚部41の上半分に設けられた上サイドプレート43と、サイド脚部41の下半分に設けられた下サイドプレート44とを備える。
【0028】
下サイドプレート44の上端部44aおよび上サイドプレート43の下端部43aが、左フロントサイドフレーム11の前端部11aに接合されている。
上サイドプレート43の上端部43bが、上左側メンバー27の内側端部27aに接合されている。
サイド脚部41の下端部41a(図3参照)が、下メンバー32の左端部26cに接合されている。
【0029】
図3は第1実施の形態に係るフロント構造の左側部を示す分解斜視図、図4は図2の4−4線断面図である。
サイド脚部41は、上サイドプレート43の前辺43cおよび下サイドプレート44の前辺44b(図2参照)に沿って接合された前接合部46と、前接合部46の後端から車体幅方向内側に向けて張り出したサイド張出部47と、サイド張出部47の内側端部から車体後方に向けて張り出したサイド折曲部48とを備える。
前接合部46、サイド張出部47およびサイド折曲部48で、断面略クランク形状に形成されている(図5も参照)。
【0030】
冷却系支持部20は、バルクヘッド15の上メンバー31に設けられた左右の上マウントブラケット(上マウントブラケット)51,51(右上マウントブラケット51は図1参照)と、バルクヘッド15の下メンバー32に設けられた左右の下マウントブラケット(下マウントブラケット)52,52(右下マウントブラケット52は図示せず)と、バルクヘッド15の左サイドメンバー33に設けられた左冷却系保護プレート(冷却系保護プレート)53と、バルクヘッド15の右サイドメンバー34に設けられた右冷却系保護プレート(冷却系保護プレート)53(図1参照)とを備える。
【0031】
なお、左右の上マウントブラケット51,51は、左右対称の部材なので、以下、左上マウントブラケット51について説明して、右上マウントブラケット51の説明を省略する。
また、左右の下マウントブラケット52,52は、左右対称の部材なので、以下、左下マウントブラケット52について説明して、右下マウントブラケット52の説明を省略する。
さらに、左右の冷却系保護プレート53,53は、左右対称の部材なので、以下、左冷却系保護プレート53について説明して、右冷却系保護プレート53の説明を省略する。
【0032】
左上マウントブラケット51は、上メンバー31の左端部26aに取り付けられている。
具体的には、左上マウントブラケット51は、上メンバー31の左前壁38に一対のボルト56で取り付けられた取付片57と、取付片57から車体前方に向けて略水平に張り出された上マウント上段部58と、上マウント上段部58の前端部から下方に垂下された鉛直垂下部61と、鉛直垂下部61の下端部から車体前方に向けて略水平に張り出された上マウント下段部62と、上マウント下段部62の前端部から下方に張り出した前上接合部63と、上マウント上段部58の内側に設けられたサイドリブ64と、鉛直垂下部61および上マウント下段部62に渡って設けられたリブ65…と、前上接合部63の外端部に連結された外側リブ66と、前上接合部63の内端部に連通された内側リブ66(図示せず)とを備える。
【0033】
上マウント上段部58は、上ラジエータ支持孔68が形成されている。上ラジエータ支持孔68には、上ラジエータ用ラバー取付部69が差し込まれている。上ラジエータ用ラバー取付部69には、ラジエータ24の左上部24aから突出した上取付ロッド71が差し込まれている。
よって、ラジエータ24の左上部24aが、上取付ロッド71および上ラジエータ用ラバー取付部69を介して左上マウントブラケット51に支えられている。
【0034】
上マウント下段部62は、上コンデンサ支持孔73が形成されている。上コンデンサ支持孔73には、上コンデンサ用ラバー取付部74が差し込まれている。上コンデンサ用ラバー取付部74には、コンデンサ25の左上部25aから突出した上取付ロッド75が差し込まれている。
よって、コンデンサ25の左上部が、上取付ロッド75および上コンデンサ用ラバー取付部74を介して左上マウントブラケット51に支えられている。
【0035】
ここで、左上マウントブラケット51は、サイドリブ64、リブ65…、および内外側のリブ66を備えることで剛性が高められている。よって、左上マウントブラケット51に車体前方側から衝撃が作用した場合に、作用した衝撃で左上マウントブラケット51が変形不能に保たれる。
【0036】
左上マウントブラケット51に作用した衝撃は、左上マウントブラケット51を経て上メンバー31の左前壁38に伝えられる。
上メンバー31の左前壁38が衝撃で車体後方に変形することにより、左上マウントブラケット51が車体後方に水平移動(移動)する。
さらに、上メンバー31を衝撃で変形させることで、衝撃を良好に吸収することができる。
【0037】
上メンバー31は、上左端部26aが、サイド脚部41の上端部にボルト56で着脱自在に取り付けられるとともに、上左側メンバー27の内側端部27aおよびサイド脚部41の上端部41bにボルト36で着脱自在に取り付けられている。
よって、上メンバー31の左前壁38が衝撃で変形した場合に、ボルト36,56を外すことで上メンバー31を取り外すことができる。
修理の際に、変形した上メンバー31のみの交換が可能となり、修理の容易化を図ることができる。
【0038】
左下マウントブラケット52は、下メンバー32の左端部26cに設けられている。具体的には、左下マウントブラケット52は、下メンバー32の左端部26cに接合された下マウント下段部81と、下マウント下段部81の前端部に設けられた下段付き部(段付き部)82と、下段付き部82の前端部に設けられた前下接合部83とを備える。
【0039】
下段付き部82は、下マウント下段部81の前端部から上方に立ち上げられた鉛直立上部84と、鉛直立上部84の前端部から車体前方に張り出された下マウント上段部85とを備える。
すなわち、下段付き部82は、鉛直立上部84および下マウント上段部85で、下マウント下段部81に対する鉛直方向の段差を形成する。
【0040】
下マウント下段部81は、下ラジエータ支持孔87が形成されている。下ラジエータ支持孔87には、下ラジエータ用ラバー取付部88が差し込まれている。下ラジエータ用ラバー取付部88には、ラジエータ24の左下部24bから突出した下取付ロッド89が差し込まれている。
よって、ラジエータ24の左下部24bが、下取付ロッド89および下ラジエータ用ラバー取付部88を介して左下マウントブラケット52に支えられている。
【0041】
下マウント上段部85は、下コンデンサ支持孔91が形成されている。下コンデンサ支持孔91には、下コンデンサ用ラバー取付部92が差し込まれている。下コンデンサ用ラバー取付部92には、コンデンサ25の左下部から突出した下取付ロッド93が差し込まれている。
よって、コンデンサ25の左下部25bが、下取付ロッド93および下コンデンサ用ラバー取付部92を介して左下マウントブラケット52に支えられている。
【0042】
ここで、左下マウントブラケット52に下段付き部82が備えられている。下段付き部82に車体前方から衝撃が作用した場合に、下段付き部82は略Z字状に変形可能に形成されている。
下段付き部82が衝撃で略Z字状に変形することで、下マウント上段部85が車体後方に水平移動(移動)する。
【0043】
加えて、下段付き部82は、衝撃が作用した場合に、略Z字状に変形可能な鉛直方向の段差が形成されている。
これにより、衝撃で下段付き部82を円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができる。
【0044】
また、左上マウントブラケット51でラジエータ24およびコンデンサ25の左上部24a,25aが支えられるとともに、左下マウントブラケット52でラジエータ24およびコンデンサ25の左下部24b,25bが支えられている。
同様に、右上マウントブラケット51でラジエータ24およびコンデンサ25の右上部が支えられるとともに、右下マウントブラケット52でラジエータ24およびコンデンサ25の右下部が支えられている。
これにより、左右の上マウントブラケット51および左右の下マウントブラケット52で冷却系部品17(コンデンサ25およびラジエータ24)が支えられている。
【0045】
左冷却系保護プレート53は、左サイドメンバー33に設けられるとともに、上下のマウントブラケット51,52に連結され、冷却系部品17(ラジエータ24、コンデンサ25)を保護する部材である。
【0046】
具体的には、左冷却系保護プレート53は、上サイドプレート43の後辺43dおよび下サイドプレート44の後辺44d(図2参照)に沿って接合された後接合部96と、後接合部96の前端から車体幅方向内側に向けて張り出された保護後張出部97と、保護後張出部97の内側端部から車体前方に向けて張り出された保護折曲部98と、保護折曲部98の前端部から車体幅方向内側に向けて張り出された保護当接部99とを備える。
【0047】
後接合部96、保護後張出部97および保護折曲部98で断面略クランク形状に形成されている(図5も参照)。
また、保護折曲部98および保護当接部99で断面略L字形状に形成されている(図5も参照)。
【0048】
保護折曲部98のうち、前端部寄りの部位および保護当接部99には補強のリブ101…が形成されている。
保護当接部99は、上端部99aが前上接合部63に接合されるとともに、下端部99bが前下接合部83に接合されている。
【0049】
この状態において、図4に示すように、左冷却系保護プレート53の保護当接部99に対して車体前方側に距離L1だけ離れた位置(正規の位置)P1にフロントバンパービーム21が配置されている。
フロントバンパービーム21を正規の位置P1に配置した状態において、保護当接部99に対する距離L1を短くすることで、自動車の全長を短く抑えることができる。
【0050】
図5は図2の5−5線断面図である。
後接合部96が下サイドプレート44の後辺44dに沿って接合されている。さらに、保護折曲部98のうち、略中央部がサイド折曲部48に接合されている。
これにより、左冷却系保護プレート53が左サイドメンバー33に設けられている。
さらに、後接合部96を下サイドプレート44の後辺44dに沿って接合するとともに、保護折曲部98をサイド折曲部48に接合することで、左冷却系保護プレート53および左サイドメンバー33で閉断面部60が形成されている。
【0051】
この状態において、左冷却系保護プレート53の保護折曲部98は、閉断面部60のうち、左フロントサイドフレーム11から最も離れた部位を構成している。
軽衝突により、左冷却系保護プレート53の保護当接部99にフロントバンパービーム21が当接した場合に、保護当接部99に車体前方から衝撃が作用する。
【0052】
保護当接部99に衝撃が作用することで、閉断面部60が略平行四辺形状に変形する(想像線で示した状態)。
閉断面部60が略平行四辺形状に変形することで、左冷却系保護プレート53の保護当接部99が車体後方に水平移動(移動)する。
【0053】
閉断面部60のうち、左フロントサイドフレーム11から最も離れた部位を左冷却系保護プレート53の保護折曲部98で構成した。
軽衝突による衝撃は、保護折曲部98、すなわち左フロントサイドフレーム11から最も離れた部位に作用する。
これにより、衝撃で閉断面部60を円滑に変形させて、衝撃を良好に吸収することができる。
【0054】
ここで、保護当接部99は、図4に示すように、上端部99aが左上マウントブラケット51の前上接合部63に接合され、下端部99bが左下マウントブラケット52の前下接合部83に接合されている。
よって、保護当接部99が車体後方に水平移動することで、左上マウントブラケット51および左下マウントブラケット52に衝撃が作用する。
【0055】
左上マウントブラケット51に作用した衝撃で、上メンバー31の左前壁38が車体後方に変形することにより、左上マウントブラケット51が車体後方に水平移動する。
左下マウントブラケット52に作用した衝撃で、下段付き部82が衝撃で略Z字状に変形することにより、下マウント上段部85が車体後方に水平移動する。
【0056】
これにより、左冷却系保護プレート53の水平移動に追従して、左上マウントブラケット51および左下マウントブラケット52が車体後方に水平移動する。
このように、左冷却系保護プレート53および左上マウントブラケット51および左下マウントブラケット52を車体後方にそれぞれ水平移動させることで、軽衝突により作用した衝撃を良好に吸収することができる。
【0057】
図1に戻って、フロントバンパービーム21は、車幅方向を向いて配置され、左右のクラッシュボックス102に架け渡されている。
すなわち、フロントバンパービーム21の左端部21aが左クラッシュボックス102に連結されている。
また、フロントバンパービーム21の右端部21bが左クラッシュボックス102に連結されている。
【0058】
左クラッシュボックス102は、左フロントサイドフレーム11の前端部11aから車体前方に向けて突出された部材である。
右クラッシュボックス102は、右フロントサイドフレーム12の前端部12aから車体前方に向けて突出された部材である。
左右のクラッシュボックス102は、フロントバンパービーム21に車体前方側から衝撃が作用した場合に、潰れる(変形する)ことにより衝撃を吸収する部材である。
【0059】
つぎに、車両のフロント構造10の作用を図6〜図9に基づいて説明する。なお、図6〜図9においては、理解を容易にするために左側部位について説明し、右側部位の説明を省略する。
図6(a),(b)は第1実施の形態に係るフロント構造のフロントバンパービームに衝撃が作用した状態を説明する図である。
軽衝突によりフロントバンパービーム21に衝撃F1が矢印の如く作用する。衝撃F1はフロントバンパービーム21の左右の端部21a,21b(21bは図示せず)に分散され、左クラッシュボックス102に荷重F2が矢印の如く作用する。
フロントバンパービーム21は、左冷却系保護プレート53の保護当接部99に対して距離L1だけ離れた位置に配置されている。
【0060】
図7(a),(b)は第1実施の形態に係るフロント構造の左冷却系保護プレートに衝撃が作用した状態を説明する図である。
(a)において、左クラッシュボックス102に荷重F2が伝わることで、左クラッシュボックス102が潰れる(変形する)。
【0061】
フロントバンパービーム21が車体後方に向けて移動する。フロントバンパービーム21の移動距離がL1になると、フロントバンパービーム21は左冷却系保護プレート53の保護当接部99に当接する。
保護当接部99に荷重F3が矢印の如く作用する。
荷重F3は、左冷却系保護プレート53の保護折曲部98に荷重F4として作用する。
【0062】
(b)において、荷重F4が作用することで、閉断面部60が略平行四辺形状に変形を開始し、保護折曲部98(左冷却系保護プレート53)が車体後方に向けて水平移動する。
保護折曲部98が車体後方に向けて水平移動することで、左冷却系保護プレート53の保護当接部99が車体後方に向けて水平移動する。
【0063】
図8(a),(b)は第1実施の形態に係るフロント構造の冷却系支持部で衝撃を吸収した状態を説明する図である。
(a)において、左冷却系保護プレート53の上端部99aが、左上マウントブラケット51を車体後方に向けて押圧する。よって、左上マウントブラケット51が上メンバー31の左前壁38を荷重F5で車体後方に向けて押圧する。
同時に、左冷却系保護プレート53の下端部99bが、左下マウントブラケット52の下段付き部82を荷重F6で車体後方に向けて押圧する。
【0064】
(b)において、上メンバー31の左前壁38が荷重F5で車体後方に変形して、左上マウントブラケット51が車体後方に向けて距離L2だけ水平移動する。
下段付き部82の鉛直立上部84が荷重F6で車体後方に変形して、左下マウントブラケット52の下マウント上段部85が車体後方に向けて距離L2だけ水平移動する。
これにより、冷却系部品17を車体方向に向けて水平移動(退避)させることができる。
【0065】
図9は第1実施の形態に係るフロント構造で衝撃を吸収した状態を説明する図である。
左上マウントブラケット51および下マウント上段部85をそれぞれ車体後方に向けて距離L2だけ水平移動することで、フロントバンパービーム21が正規の位置P1から静止位置P2まで車体後方に向けて距離(L1+L2)移動する。
【0066】
すなわち、フロントバンパービーム21の移動距離を(L1+L2)と大きく確保することができる。
これにより、左クラッシュボックス102を十分に潰す(変形させる)ことが可能になり、左クラッシュボックス102で衝撃F1(図6参照)を良好に吸収することができる。
この状態で、閉断面部60が略平行四辺形状に変形した状態になる。
【0067】
このように、左クラッシュボックス102が潰れるとともに、閉断面部60が略平行四辺形状に変形し、さらに、図8に示すように、上メンバー31の左前壁38や左下マウントブラケット52の鉛直立上部84が変形することで、衝撃F1を一層良好に吸収することができる。
【0068】
さらに、衝撃F1を吸収する場合に、左冷却系保護プレート53、左上マウントブラケット51および左下マウントブラケット52を車体後方に水平移動させることで、冷却系部品17を車体後方に水平移動(退避)させることができる。
よって、フロントバンパービーム21が冷却系部品17に当接することを防ぐことができる。
【0069】
フロントバンパービーム21が冷却系部品17に干渉しないので、冷却系部品17が損傷する虞はない。
これにより、修理の際に、冷却系部品17を新たな冷却系部品17と交換する必要がないので、修理の容易化を図ることができる。
【0070】
加えて、冷却系部品17を車体後方に水平移動(退避)させることで、冷却系部品17からフロントバンパービーム21までの距離を比較的小さく抑えて、フロントバンパービーム21の移動距離を大きく確保することができる。
この際、フロントバンパービーム21が冷却系部品17に当接することを防ぐことができる。
このように、冷却系部品17からフロントバンパービーム21までの距離を比較的小さく抑えることで、自動車の全長を所望長さに抑えることができる。
【0071】
つぎに、第2実施の形態の車両のフロント構造110を図10〜図11に基づいて説明する。なお、第2実施の形態において、第1実施の形態のフロント構造10の構成部材と同一・類似の部材については同じ符号を付して説明を省略する。
図10は本発明に係る車両のフロント構造(第2実施の形態)を示す断面図である。
車両のフロント構造110は、上メンバー112の左右の端部112a,112a(右端部112aは図示せず)にそれぞれ上段付き部(段付き部)113が設けられ、左右の上段付き部113にそれぞれ上マウントブラケット114が設けられたもので、その他の構成は第1実施の形態と同じである。
【0072】
なお、左右の上段付き部113は左右対称の部材であり、以下、左上段付き部113について説明して右上段付き部113の説明を省略する。
また、左右の上マウントブラケット114も左右対称の部材であり、以下、左上マウントブラケット114について説明して右上マウントブラケット114の説明を省略する。
【0073】
上メンバー112は、閉断面形状に形成された部材である。上メンバー112の左端部112aのうち、底部116に左上段付き部113が設けられている。
左上段付き部113は、底部116に接合された上段部117と、上段部117の前端部から鉛直に垂下された鉛直部118と、鉛直部118の下端部から車体前方に向けて張り出された下段部119とを備える。
下段部119に上ラジエータ支持孔119aが形成されている。
上段部117、鉛直部118および下段部119で、断面略クランク形状に形成されている。
下段部119に左上マウントブラケット114が接合されている。
【0074】
左上マウントブラケット114は、第1実施の形態の左上マウントブラケット51から取付片57を除去したもので、その他の構成は左上マウントブラケット51と同じである。
左上マウントブラケット114は、上マウント上段部58が下段部119に接合され、上マウント上段部58の上ラジエータ支持孔68および下段部119の上ラジエータ支持孔119aが同軸上に配置されている。
上ラジエータ支持孔68および上ラジエータ支持孔119aに、上ラジエータ用ラバー取付部69が差し込まれている。
上ラジエータ用ラバー取付部69には、ラジエータ24の左上部24aから突出した上取付ロッド71が差し込まれている。
【0075】
つぎに、車両のフロント構造110の作用を図11に基づいて説明する。なお、図11においては、理解を容易にするために左側部位について説明し、右側部位の説明を省略する。
図11(a),(b)は第2実施の形態に係るフロント構造で衝撃を吸収する例を説明する図である。
(a)において、フロントバンパービーム21に衝撃F1が矢印の如く作用する。フロントバンパービーム21を支える左クラッシュボックス102(図1参照)が潰れ、フロントバンパービーム21が車体後方に向けて矢印Aの如く移動する。
【0076】
フロントバンパービーム21が、車体後方に向けて距離L1(図4、図5参照)移動したとき左冷却系保護プレート53の保護当接部99に当接する。
図5に示す閉断面部60が略平行四辺形状に変形を開始し、左冷却系保護プレート53の保護当接部99が車体後方に向けて矢印Bの如く移動する。
【0077】
左冷却系保護プレート53の上端部99aが、左上マウントブラケット114を車体後方に向けて押圧する。よって、左上マウントブラケット114が上段付き部113を車体後方に向けて押圧する。
同時に、左冷却系保護プレート53の下端部99bが、左下マウントブラケット52の下段付き部82を車体後方に向けて押圧する。
【0078】
(b)において、上段付き部113の鉛直部118が車体後方に変形して、左上マウントブラケット51が矢印Bの如く車体後方に向けて距離L2(図8(b)参照)だけ移動する。
下段付き部82の鉛直立上部84が車体後方に変形して、左下マウントブラケット52の下マウント上段部85が矢印Bの如く車体後方に向けて距離L2だけ移動する。
【0079】
フロントバンパービーム21が正規の位置P1から静止位置P2まで車体後方に向けて距離(L1+L2)だけ移動する。
この状態で、図5に示す閉断面部60が略平行四辺形状に変形するとともに、左クラッシュボックス102(図1参照)が十分に潰れた(変形した)状態になる。
【0080】
このように、図1に示す左クラッシュボックス102が潰れるとともに、図5に示す閉断面部60が略平行四辺形状に変形し、さらに、上段付き部113の鉛直部118や左下マウントブラケット52の鉛直立上部84が変形することで、衝撃F1を良好に吸収することができる。
【0081】
すなわち、第2実施の形態の車両のフロント構造110によれば、第1実施の形態の左前壁38(図4参照)に代えて上段付き部113を変形させることで、第1実施の形態の車両のフロント構造10と同様の効果を得ることができる。
さらに、第2実施の形態の車両のフロント構造110によれば、衝撃を吸収した後、上メンバー112を交換しないで左上段付き部113のみを交換することが可能である。
これにより、第1実施の形態と比較して一層修理の容易化を図ることができる。
【0082】
なお、前記第1、第2の実施の形態では、上メンバー31をボルト36,56を用いて着脱自在に取り付けた例について説明したが、これに限らないで、クリップなどの他の締結部材を用いて上メンバー31を着脱自在に取り付けることも可能である。
【0083】
また、前記第1、第2の実施の形態では、バルクヘッド15の下メンバー32に左右の下マウントブラケット52,52を接合した例について説明したが、これに限らないで、下メンバー32に左右の下マウントブラケット52,52をボルトなどの締結部材を用いて取り付けることも可能である。
左右の下マウントブラケット52,52をボルト止めの構成にすることで、修理の際の部品交換を一層容易におこなうことができる。
【0084】
さらに、前記実施の形態で例示した上メンバー31、下メンバー32、左サイドメンバー33、右サイドメンバー34、左右の上マウントブラケット51、左右の下マウントブラケット52、左右の冷却系保護プレート53、閉断面部60、下段付き部82および上段付き部113の形状は適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の車両のフロント構造は、バルクヘッドで冷却系部品が支えられ、冷却系部品の前方にバンパービームを備えた自動車への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る車両のフロント構造(第1実施の形態)を示す斜視図である。
【図2】第1実施の形態に係るフロント構造の左側部を示す斜視図である。
【図3】第1実施の形態に係るフロント構造の左側部を示す分解斜視図である。
【図4】図2の4−4線断面図である。
【図5】図2の5−5線断面図である。
【図6】第1実施の形態に係るフロント構造のフロントバンパービームに衝撃が作用した状態を説明する図である。
【図7】第1実施の形態に係るフロント構造の左冷却系保護プレートに衝撃が作用した状態を説明する図である。
【図8】第1実施の形態に係るフロント構造の冷却系支持部で衝撃を吸収した状態を説明する図である。
【図9】第1実施の形態に係るフロント構造で衝撃を吸収した状態を説明する図である。
【図10】本発明に係る車両のフロント構造(第2実施の形態)を示す断面図である。
【図11】第2実施の形態に係るフロント構造で衝撃を吸収する例を説明する図である。
【符号の説明】
【0087】
10,110…車両のフロント構造、11…左フロントサイドフレーム、12…左フロントサイドフレーム、15…バルクヘッド、17…冷却系部品、20…冷却系支持部、21…フロントバンパービーム(バンパービーム)、24…ラジエータ、25…コンデンサ、31…上メンバー、32…下メンバー、33…左サイドメンバー(サイドメンバー)、34…右サイドメンバー(サイドメンバー)、51…左右の上マウントブラケット(上マウントブラケット)、52…左右の下マウントブラケット(下マウントブラケット)、53…左右の冷却系保護プレート(冷却系保護プレート)、60…閉断面部、82…下段付き部(段付き部)、113…上段付き部(段付き部)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のフロントサイドフレームにバルクヘッドが支持され、前記バルクヘッドで冷却系部品が支えられ、前記冷却系部品の前方にバンパービームを備えた車両のフロント構造において、
前記バルクヘッドの上下のメンバーにそれぞれ設けられ、冷却系部品を支える上下のマウントブラケットと、
前記バルクヘッドのサイドメンバーに設けられるとともに、前記上下のマウントブラケットに連結され、前記冷却系部品を保護する冷却系保護プレートと、を備え、
前記バンパービームが軽衝突により前記冷却系保護プレートに当接した場合に、前記当接により作用した衝撃で前記冷却系保護プレートが車体後方に移動可能で、
かつ、前記冷却系保護プレートの移動に追従して、前記上下のマウントブラケットが車体後方に移動可能であることを特徴とする車両のフロント構造。
【請求項2】
前記冷却系保護プレートが前記サイドメンバーに設けられることで、前記冷却系保護プレートおよび前記サイドメンバーで閉断面部が形成され、
前記閉断面部のうち、前記フロントサイドフレームから最も離れた部位を前記冷却系保護プレートで構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のフロント構造。
【請求項3】
前記上下のマウントブラケットのうち、少なくとも前記下マウントブラケットに鉛直方向の段差が形成された段付き部を有し、
前記段付き部は、前記衝撃が作用した場合に、略Z字状に変形可能であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両のフロント構造。
【請求項4】
前記上下のマウントブラケットのうち、少なくとも前記上マウントブラケットが前記衝撃で変形不能に形成され、
前記上下のメンバーのうち、前記変形不能なマウントブラケットが設けられたメンバーが前記衝撃で変形可能に形成され、
前記衝撃で変形可能に形成されたメンバーが着脱自在に取り付けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両のフロント構造。
【請求項1】
左右のフロントサイドフレームにバルクヘッドが支持され、前記バルクヘッドで冷却系部品が支えられ、前記冷却系部品の前方にバンパービームを備えた車両のフロント構造において、
前記バルクヘッドの上下のメンバーにそれぞれ設けられ、冷却系部品を支える上下のマウントブラケットと、
前記バルクヘッドのサイドメンバーに設けられるとともに、前記上下のマウントブラケットに連結され、前記冷却系部品を保護する冷却系保護プレートと、を備え、
前記バンパービームが軽衝突により前記冷却系保護プレートに当接した場合に、前記当接により作用した衝撃で前記冷却系保護プレートが車体後方に移動可能で、
かつ、前記冷却系保護プレートの移動に追従して、前記上下のマウントブラケットが車体後方に移動可能であることを特徴とする車両のフロント構造。
【請求項2】
前記冷却系保護プレートが前記サイドメンバーに設けられることで、前記冷却系保護プレートおよび前記サイドメンバーで閉断面部が形成され、
前記閉断面部のうち、前記フロントサイドフレームから最も離れた部位を前記冷却系保護プレートで構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のフロント構造。
【請求項3】
前記上下のマウントブラケットのうち、少なくとも前記下マウントブラケットに鉛直方向の段差が形成された段付き部を有し、
前記段付き部は、前記衝撃が作用した場合に、略Z字状に変形可能であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両のフロント構造。
【請求項4】
前記上下のマウントブラケットのうち、少なくとも前記上マウントブラケットが前記衝撃で変形不能に形成され、
前記上下のメンバーのうち、前記変形不能なマウントブラケットが設けられたメンバーが前記衝撃で変形可能に形成され、
前記衝撃で変形可能に形成されたメンバーが着脱自在に取り付けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両のフロント構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−279812(P2008−279812A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123748(P2007−123748)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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