説明

車両のフロント構造

【課題】軽衝突の場合に、冷却系部品の損傷を防止することができる車両のフロント構造を提供する。
【解決手段】車両のフロント構造10は、冷却系部品17の上部が左右の上部支持ブラケット41を介してアッパ梁部27に支えられるとともに、アッパ梁部27が車体後方に向けてスライド可能に支持され、冷却系部品17の下部が左右の下部支持ブラケット42を介してロア梁部26に支えられるとともに、左右の下部支持ブラケット42が車体後方に向けてスライド可能に支持され、軽衝突時に、アッパ梁部27および左右の下部支持ブラケット42を車体後方に向けてそれぞれスライド移動させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントサイドフレームにバルクヘッドを設け、このバルクヘッドに冷却系部品を設けた車両のフロント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロント構造のなかには、左右のフロントサイドフレームの前端部にバルクヘッドが設けられ、バルクヘッドに冷却系部品が設けられたものがある。
この冷却系部品は、バルクヘッドのアッパ梁部およびロア梁部にそれぞれ支えられている。そして、冷却系部品の上部が、バルクヘッドのアッパ梁部に車体後方に向けて移動可能に取り付けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−187588号明細書
【0003】
特許文献1の車両のフロント構造によれば、例えば、軽衝突によって車体前部に衝撃荷重が作用した場合に、冷却系部品の下部を支点にして冷却系部品の上部を車体後方に向けて移動させることができる。
冷却系部品の上部を車体後方に向けて移動させることで、冷却系部品が衝撃荷重で損傷することを防ぐことが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の車両のフロント構造は、冷却系部品の下部を支点にして冷却系部品の上部のみを車体後方に向けて移動させている。
このため、冷却系部品の下部は固定状態に保たれ、冷却系部品の下部が衝撃荷重で損傷することが考えられる。
【0005】
ところで、冷却系部品の車体後方側には駆動源(エンジン)が備えられている。
このため、冷却系部品の上部が車体後方に向けて移動した場合に、冷却系部品の上部が駆動源(エンジン)に干渉して損傷することが考えられる。
【0006】
本発明は、軽衝突の場合に、冷却系部品の損傷を防止することができる車両のフロント構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、フロントサイドフレームにバルクヘッドが設けられ、前記バルクヘッドに冷却系部品が設けられた車両のフロント構造において、前記冷却系部品の上部が上部支持ブラケットを介して前記バルクヘッドのアッパ梁部に支えられるとともに、前記アッパ梁部が車体後方に向けてスライド可能または変形可能に支持され、前記冷却系部品の下部が下部支持ブラケットを介して前記バルクヘッドのロア梁部に支えられるとともに、前記下部支持ブラケットが車体後方に向けてスライド可能または変形可能に支持され、軽衝突時に、前記アッパ梁部および前記下部支持ブラケットを車体後方に向けてそれぞれ移動させることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明において、前記上下の支持ブラケットは、車体前方に向けて突出する荷重受部をそれぞれ備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記アッパ梁部および前記下部支持ブラケットを共に車体後方に向けて前記スライドまたは前記変形させる後方移動荷重を、前記左右のフロントサイドフレームの座屈荷重より小さくしたことを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記アッパ梁部および前記下部支持ブラケットを車体後方に向けてスライド可能に支持するばね部材をそれぞれ備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、軽衝突時に、アッパ梁部および下部支持ブラケットを車体後方に向けてそれぞれ移動させることができる。
これにより、冷却系部品の全体を車体後方に向けて略水平に移動させて、冷却系部品の全体が衝撃荷重で損傷しないように保護することができる。
【0012】
ここで、アッパ梁部は冷却系部品の上部の上方に配置されている。このアッパ梁部を冷却系部品の上部と一体的に車体後方に向けて移動させることができる。
これにより、冷却系部品の上部が駆動源(エンジン)に直接干渉することをアッパ梁部で防いで、冷却系部品の上部が損傷しないように保護できる。
【0013】
このように、冷却系部品の全体を車体後方に向けて移動させ、かつ、アッパ梁部を冷却系部品の上部と一体的に車体後方に向けて移動させることで、軽衝突の場合に、冷却系部品の損傷を一層良好に防止することができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、上下の支持ブラケットに車体前方に向けて突出する荷重受部を備えることで、軽衝突時の衝撃荷重を荷重受部で早期に受けることができる。
これにより、冷却系部品の全体を車体後方に向けて早期に移動させて冷却系部品の損傷を一層良好に防止することができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、アッパ梁部および下部支持ブラケットを共に車体後方に向けてスライドまたは変形させる後方移動荷重を、左右のフロントサイドフレームの座屈荷重より小さくした。
よって、左右のフロントサイドフレームが座屈変形する前に、冷却系部品の全体を車体後方に向けて確実に移動させることができる。
これにより、冷却系部品の全体を車体後方に向けて良好に移動させて冷却系部品の損傷を一層良好に防止することができる。
【0016】
請求項4に係る発明では、アッパ梁部および下部支持ブラケットをばね力で支持することで、アッパ梁部および下部支持ブラケットの支持力を適正に保つことができる。
このように、アッパ梁部および下部支持ブラケットの支持力を適正に保つことで、冷却系部品の全体を車体後方に向けて円滑に移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
なお、車両のフロント構造10の骨格部を構成するフロントサイドフレーム、アッパメンバー、アッパサイドフレームおよびサブフレームブラケットは左右対称の部材なので左側部材について説明して右側部材の説明を省略する。
【0018】
図1は本発明に係る車両のフロント構造(第1実施の形態)を前方から見た状態を示す斜視図である。
車両のフロント構造10は、車体前部の左右側にそれぞれ設けられた左右のフロントサイドフレーム(フロントサイドフレーム)11と、左右のフロントサイドフレーム11の外側上方にそれぞれ設けられた左右のアッパメンバー12と、左右のアッパメンバー12に設けられた左右のアッパサイドフレーム13と、左右のフロントサイドフレーム11の前端部に設けられた左右のサブフレームブラケット14と、左右のサブフレームブラケット14および左右のアッパサイドフレーム13に設けられたバルクヘッド15と、バルクヘッド15に設けられて冷却系部品17を支える冷却系支持手段18とを備える。
【0019】
冷却系部品17は、エンジンルーム21に臨む部位に設けられたラジエータ22と、ラジエータ22の前方に設けられたコンデンサ23とを備える。
コンデンサ23は、例えば、エアコン用の冷媒ガスを冷却して液化するものである。
【0020】
左フロントサイドフレーム11は、車体前部の左側に配置され、車体前後方向に延びる部材である。
左アッパメンバー12は、左フロントサイドフレーム11の上方外側に配置され、後端部が左フロントピラー(図示せず)に連結され、前端部12aが左フロントサイドフレーム11の前端部11aに溶接(例えば、スポット溶接)で接合された部材である。
【0021】
左アッパサイドフレーム13は、左アッパメンバー12の略中央部12bから車体前方で、かつ車体中心側に向けてバルクヘッド15の左上端部15aまで湾曲状に延出されている。
左サブフレームブラケット14は、図3に示すように、左フロントサイドフレーム11の前端部11a下側に一体に設けられている。
【0022】
バルクヘッド15は、左右のサブフレームブラケット14に設けられた左右のサイド脚部25(右のサイド脚部は図示せず)と、左右のサイド脚部25の下端部に設けられたロア梁部26(図2参照)と、左右のサイド脚部25の上端部に設けられたアッパ梁部27とで略矩形状に形成された枠体である。
【0023】
図2は図1のフロント構造から冷却系部品を外した状態を示す斜視図、図3は第1実施の形態に係る車両のフロント構造を後方から見た状態を示す斜視図である。
バルクヘッド15の左サイド脚部25は、下脚部31および上脚部32に2分割されている。
下脚部31は、左サイド脚部25の基部を構成する部位で、左サブフレームブラケット14の内壁14a(図3参照)に溶接(例えば、スポット溶接)で着脱困難に強固に設けられている(接合されている)。
上脚部32は、左サイド脚部25のうち、下脚部31の上部を構成する部位で、下脚部31の上端部31aに下端部32aが複数の中間ボルト34で着脱容易に結合(締結)されている。
【0024】
さらに、上脚部32には、左アッパサイドフレーム13の前端部13aが第1〜第2の上ボルト35〜36で着脱容易に結合(締結)され、かつ、アッパ梁部27の左端部27aが第1〜第2の上ボルト35〜36および横ボルト37で着脱容易に結合(締結)されている。
なお、左サイド脚部25を下脚部31および上脚部32に2分割した理由について後述する。
【0025】
ロア梁部26は、左右の下脚部31の下端部31bに架け渡されている。
具体的には、ロア梁部26は、左下脚部31の下端部31bに左端部26aが溶接(例えば、スポット溶接)で接合され、右下脚部の下端部に右端部が溶接(例えば、スポット溶接)で接合されている。
【0026】
アッパ梁部27は、左右の上脚部32の上端部32bに架け渡されている。
具体的には、アッパ梁部27は、前述したように、左上脚部32の上端部32bに左端部27aが第1〜第2の上ボルト35〜36および横ボルト37で取り付けられ、右上脚部の上端部に右端部が第1〜第2のボルトおよび横ボルトで取り付けられている。
【0027】
図4は第1実施の形態に係る車両のフロント構造の要部を示す斜視図である。
バルクヘッド15には、図2に示す冷却系部品17を支える冷却系支持手段18が設けられている。
冷却系支持手段18は、アッパ梁部27の左右の端部27aに設けられた左右の上部支持ブラケット41(右上部支持ブラケットは図示せず)と、ロア梁部26の左右の端部26aに設けられた左右の下部支持ブラケット42(右下部支持ブラケットは図示せず)とを備える。
【0028】
冷却系支持手段18の車体前方側にはバンパービーム(図示せず)が設けられている。車両のフロント構造10が衝突した場合に、衝撃荷重はバンパービームを経て冷却系支持手段18に伝えられる。
【0029】
左上部支持ブラケット41は、アッパ梁部27の左端部27aのうち、前壁27bから車体前方に向けて突出させた部材である。
すなわち、左上部支持ブラケット41は、アッパ梁部27の前壁27bに後端部41aがボルト44で取り付けられ、後端部41aから車体前方に向けて水平支え部位41bが突出され、水平支え部位41bの先端から鉛直部位41cが下方に向けて延ばされ、鉛直部位41cの中央から車体中心に向けて取付フラップ41dが延ばされ、鉛直部位41cの下端から車体前方に向けて上荷重受部(荷重受部)41eが突出されている。
【0030】
取付フラップ41dの端部に取付孔46が形成されている。
図2に示すように、取付孔46にボルト47が差し込まれ、取付孔46から突出したボルト47が冷却系部品17の取付部48にねじ結合されている。これにより、冷却系部品17の左上端部(上部)17aが取付フラップ41dに支えられている。
【0031】
すなわち、冷却系部品17の左上端部17aが取付フラップ41dを介して、アッパ梁部27の左端部27aに支えられている。
この状態で、上荷重受部41eは、図1に示すように、冷却系部品17から車体前方に向けて突出されている。
【0032】
右上部支持ブラケットは、左上部支持ブラケットと左右対称の部材である。よって、左上部支持ブラケット41について説明して右上部支持ブラケットの説明を省略する。
【0033】
左下部支持ブラケット42は、ロア梁部26の左端部26aから車体前方に向けて突出させた部材である。
すなわち、左下部支持ブラケット42は、ロア梁部26の左端部26aに後端部42aが第1〜第3の下ボルト51〜53で着脱容易に取り付けられ、後端部42aから車体前方に向けて下荷重受部(荷重受部)42bが突出されている。
【0034】
下荷重受部42bには、略中央に支え孔43が形成されている。下荷重受部42bの支え孔43に冷却系部品17の係止突起19(図2参照)を嵌入することで、冷却系部品17の左下端部(下部)17bが下荷重受部42bに支えられている。
すなわち、冷却系部品17の左下端部17b(図2参照)が下荷重受部42bを介して、ロア梁部26の左端部26aに支えられている。
【0035】
図5は第1実施の形態に係る車両のフロント構造から左下部支持ブラケットを外した状態を示す斜視図である。
左下部支持ブラケット42は、後端部42aに下荷重受部42bから車幅方向に張り出された内外の側部55,56を備えている。
内側部55には、一対の下内スライド溝57,58が形成されている。一対の下内スライド溝57,58は、それぞれ車体前側に開口された溝である。
外側部56には、下外スライド溝59が形成されている。下外スライド溝59は、車体前側に開口された溝である。
【0036】
ここで、ロア梁部26の左端部26aに第1〜第3の下取付孔61〜63が形成されている。これらの取付孔61〜63と同軸上に第1〜第3の下ナット65〜67がそれぞれ配置され、これらの下ナット65〜67は左端部26aの裏面側に溶接されている。
ロア梁部26の右端部にも、左端部26aと同様に、第1〜第3の下取付孔(図示せず)が形成され、第1〜第3の下ナット(図示せず)が溶接されている。
【0037】
一対の下内スライド溝57,58および下外スライド溝59にそれぞれ第1〜第3の下ボルト51〜53が差し込まれ、各スライド溝57〜59から突出された第1〜第3の下ボルト51〜53が左端部26aの第1〜第3の下取付孔61〜63に差し込まれ、第1〜第3の下ナット65〜67にねじ結合される。
これにより、左下部支持ブラケット42は、第1〜第3の下ボルト51〜53および第1〜第3の下ナット65〜67でロア梁部26の左端部26aに着脱容易に結合(締結)されている。
【0038】
ここで、一対の下内スライド溝57,58および下外スライド溝59は、それぞれ車体前側に開口されている。
よって、左下部支持ブラケット42は、第1〜第3の下ボルト51〜53で車体後方に向けてスライド可能に支持されている。
これにより、例えば、軽衝突時に、車体前方から後方に向けて左下部支持ブラケット42に作用する衝撃荷重が、第1〜第3の下ボルト51〜53のそれぞれの締結力を超えることで、左下部支持ブラケット42を車体後方に向けてスライド移動させることができる。
【0039】
右下部支持ブラケットは、左下部支持ブラケット42と左右対称の部材である。よって、左下部支持ブラケット42について説明して右下部支持ブラケットの説明を省略する。
【0040】
図6は第1実施の形態に係る車両のフロント構造を分解した状態を示す斜視図である。
左サイド脚部25の下脚部31は、断面略コ字状に形成され、一対の張出片71,72が左サブフレームブラケット14の内壁14aに溶接(例えば、スポット溶接)で着脱困難に強固に設けられている(接合されている)。
よって、多数本のボルトを用いることなく、下脚部31を左サブフレームブラケット14に取り付けることが可能になった。
【0041】
加えて、下脚部31の下端部31bおよび左サブフレームブラケット14の底部14b(図4参照)にロア梁部26の左端部26aが溶接(例えば、スポット溶接)で着脱困難に強固に接合されている。
このように、左サイド脚部25の下脚部31が左サブフレームブラケット14に溶接(例えば、スポット溶接)で接合されるとともに、下脚部31および左サブフレームブラケット14にロア梁部26が溶接(例えば、スポット溶接)で接合されることで、車両のフロント構造10(特に、車体前部)の剛性を確保することができる。
【0042】
この下脚部31は、上端部31aに複数の中間取付孔74が形成され、これらの中間取付孔74と同軸上に複数の中間ナット75がそれぞれ配置され、これらの中間ナット75は上端部31aの裏面側に溶接されている。
【0043】
左サイド脚部25の上脚部32は、断面略コ字状に形成され、下端部32aに複数の中間取付孔77が形成されている。
【0044】
上脚部32の複数の中間取付孔77に中間ボルト34がそれぞれ差し込まれ、複数の中間取付孔77から突出した中間ボルト34が下脚部31の複数の中間取付孔74から差し込まれて中間ナット75にそれぞれねじ結合されている。
これにより、上脚部32は、下端部32aが下脚部31の上端部31aに複数のボルト34で着脱容易に結合(締結)されている。
【0045】
上脚部32は、内側壁81の上端部81aに横取付孔82が形成され、横取付孔82と同軸上に配置された横ナット83が内側壁81の裏面に溶接されている。
また、上脚部32は、内側壁81の上端部81aから車体外側に向けて水平取付プレート85が折り曲げられている。
水平取付プレート85には、一対の上取付孔86,87が形成されて、一対の上取付孔86,87と同軸上に配置された第1、第2の上ナット88,89が水平取付プレート85の裏面に溶接されている。
【0046】
また、左アッパサイドフレーム13は、前端部13aに一対の取付孔91,92が形成されている。
一対の取付孔91,92は、水平取付プレート85の上取付孔86,87とそれぞれ同軸上に配置されている。
【0047】
アッパ梁部27の左端部27aには、一対の上スライド溝94,95が形成されている。一対の上スライド溝94,95は、それぞれ車体前側に開口された溝である。
一対の上スライド溝94,95には、それぞれの外周に略U字状の隆起部97,98が形成されている。一対の隆起部97,98を形成することで、一対の上スライド溝94,95の周囲が補強されている。
【0048】
また、アッパ梁部27の左端部27aから係止片99(図3も参照)が下方に向けて、上脚部32の内側壁81に対して対向するように延出されている。
係止片99には、横スライド溝101が形成されている。横スライド溝101は車体前側に開口された溝である。
横スライド溝101の下側近傍には、横隆起部102が形成されている。横隆起部102を形成することで、横スライド溝101の下側近傍が補強されている。
【0049】
一対の上スライド溝94,95にそれぞれ第1〜第2の上ボルト35〜36が差し込まれ、各スライド溝94,95から突出された第1〜第2の上ボルト35〜36が左アッパサイドフレーム13の取付孔91,92に差し込まれる。
差し込まれた各上ボルト35〜36が、上脚部32の上取付孔86,87に差し込まれて第1、第2の上ナット88,89にねじ結合されている。
【0050】
さらに、横スライド溝101に横ボルト37が差し込まれ、横スライド溝101から突出された横ボルト37が上脚部32の横取付孔82に差し込まれて横ナット83にねじ結合されている。
【0051】
これにより、上脚部32の上端部32bには、左アッパサイドフレーム13の前端部13aが第1〜第2の上ボルト35〜36および第1、第2の上ナット88,89で着脱容易に結合(締結)されている。
さらに、上脚部32の上端部32bには、アッパ梁部27の左端部27aが第1〜第2の上ボルト35〜36および第1、第2の上ナット88,89と、横ボルト37および横ナット83で着脱容易に結合(締結)されている。
【0052】
このように、アッパ梁部27の左端部27aは、一対の上スライド溝94,95に差し込まれた第1〜第2の上ボルト35〜36、および横スライド溝101に差し込まれた横ボルト37で上脚部32の上端部32bに結合(締結)されている。
一対の上スライド溝94,95および横スライド溝101は、それぞれ車体前側に開口されている。
【0053】
よって、アッパ梁部27は、第1〜第2の上ボルト35〜36および横ボルト37で車体後方に向けてスライド可能に支持されている。
これにより、例えば、軽衝突時に、車体前方から後方に向けてアッパ梁部27に作用する衝撃荷重が、第1〜第2の上ボルト35〜36および横ボルト37のそれぞれの締結力を超えることで、アッパ梁部27を車体後方に向けてスライド移動させることができる。
【0054】
ここで、アッパ梁部27および左右の下部支持ブラケット42(図5参照)を一体的に(同時に)車体後方に向けてスライド移動させる後方移動荷重は、左右のフロントサイドフレーム11の座屈荷重より小さく設定されている。
よって、左右のフロントサイドフレーム11が座屈変形する前に、冷却系部品17(図1参照)の全体を車体後方に向けて確実に移動させることができる。
【0055】
つぎに、軽衝突でアッパ梁部27および左右の下部支持ブラケット42を車体後方に向けてスライド移動させる例を図7〜図9に基づいて説明する。
図7は第1実施の形態に係る車両のフロント構造に衝撃荷重が作用する例を説明する図である。
車両のフロント構造10が軽衝突した場合に、図示しないバンパービームに軽衝撃荷重が作用する。
バンパービームに作用した軽衝撃荷重が、左上部支持ブラケット41に備えた上荷重受部41eの前端41fに衝撃荷重F1として矢印の如く伝わるとともに、左下部支持ブラケット42に備えた下荷重受部42bの前端42cに衝撃荷重F2として矢印の如く伝わる。
【0056】
衝撃荷重F1および衝撃荷重F2の和、すなわち、衝撃荷重(F1+F2)を後方移動荷重とすると、衝撃荷重(F1+F2)は、左フロントサイドフレーム11の座屈荷重より小さい。
なお、本実施の形態では構成の理解を容易にするために、車両のフロント構造10の左側部位を例示するが、車両のフロント構造10の全体を考慮する場合は、左右のフロントサイドフレーム11のそれぞれの座屈荷重の和より後方移動荷重を小さくする。
【0057】
ここで、アッパ梁部27は、第1〜第2の上ボルト35〜36および横ボルト37(図8(a)参照)で車体後方に向けてスライド可能に支持されている。
アッパ梁部27に一対の上スライド溝94,95および横スライド溝101を備えることで、第1〜第2の上ボルト35〜36および横ボルト37を用いた簡単な構成でアッパ梁部27を車体後方に向けてスライドさせることが可能である。
【0058】
また、左下部支持ブラケット42は、第1〜第3の下ボルト51〜53(図8(b)参照)で車体後方に向けてスライド可能に支持されている。
左下部支持ブラケット42に一対の下内スライド溝57,58および下外スライド溝59を備えることで、第1〜第3の下ボルト51〜53を用いた簡単な構成で左下部支持ブラケット42を車体後方に向けてスライドさせることが可能である。
【0059】
図8(a),(b)は第1実施の形態に係る車両のフロント構造のアッパ梁部および左下部支持ブラケットを車体後方に向けてスライド移動させた状態を示す説明図である。
(a)において、図7に示すように、上荷重受部41eの前端41fに衝撃荷重F1が作用することで、アッパ梁部27は車体後方に向けて矢印Aの如くスライド移動する。
【0060】
(b)において、図7に示すように、下荷重受部42bの前端42cに衝撃荷重F2が作用することで、左下部支持ブラケット42は車体後方に向けて矢印Bの如くスライド移動する。
【0061】
図9は第1実施の形態に係る車両のフロント構造で支持した冷却系部品を車体後方に向けて移動した状態を説明する図である。
アッパ梁部27には左上部支持ブラケット41を介して冷却系部品17の左上端部17aが支えられている。さらに、左下部支持ブラケット42には、冷却系部品17の左下端部17bが支えられている。
よって、アッパ梁部27および左下部支持ブラケット42に冷却系部品17が支えられている
【0062】
よって、アッパ梁部27が車体後方に向けて距離Sだけスライド移動するとともに、左下部支持ブラケット42が車体後方に向けて距離Sだけスライド移動することで、冷却系部品17は全体が車体後方に向けて距離Sだけ略水平に移動する。
このように、冷却系部品17の全体を車体後方に向けて略水平に移動させて、冷却系部品17の全体が衝撃荷重で損傷しないように保護することができる。
【0063】
ここで、アッパ梁部27は冷却系部品17の上部(上部全体)17cの上方に配置されている。このアッパ梁部27が冷却系部品17の上部17cと一体的に車体後方のエンジンルームに向けて移動する。
これにより、冷却系部品17の上部17cがエンジンなどの駆動源(図示せず)に直接干渉することをアッパ梁部27で防いで、冷却系部品17の上部17cが損傷しないように保護できる。
【0064】
このように、冷却系部品17の全体を車体後方に向けて移動させ、かつ、アッパ梁部27を冷却系部品17の上部17cと一体的に車体後方に向けてスライド移動させることで、軽衝突の場合に、冷却系部品17の損傷を一層良好に防止することができる。
【0065】
さらに、左上部支持ブラケット41に車体前方に向けて突出する上荷重受部41eを設け、左下部支持ブラケット42に車体前方に向けて突出する下荷重受部42bを設けた。
よって、軽衝突時の衝撃荷重を上下の荷重受部41e,42bで早期に受けることができる。これにより、冷却系部品17(図1参照)の全体を車体後方に向けて早期に移動させて冷却系部品17の損傷を一層良好に防止することができる。
【0066】
加えて、アッパ梁部27および左下部支持ブラケット42を共に車体後方に向けてスライド移動させる後方移動荷重(F1+F2)は、左フロントサイドフレーム11の座屈荷重より小さい。
よって、左フロントサイドフレーム11が座屈変形する前に、冷却系部品17の全体を車体後方に向けて確実に移動させることができる。
これにより、冷却系部品17(図1参照)の全体を車体後方に向けて良好に移動させて冷却系部品17の損傷を一層良好に防止することができる。
【0067】
つぎに、図6に戻って、左サイド脚部25を下脚部31および上脚部32に2分割した理由について説明する。
ここで、例えば、車両のフロント構造10の軽衝突時に、左サイド脚部25の略上半部が変形することが知られている。よって、左サイド脚部25の略上半部を着脱容易に取り付けることが好ましい。
【0068】
そこで、左サイド脚部25を下脚部31および上脚部32に2分割した。そして、軽衝突時に変形しない下脚部31を左サブフレームブラケット14に溶接(例えば、スポット溶接)で接合することで着脱困難に強固に設けた。
加えて、下脚部31の下端部31bおよび左サブフレームブラケット14の底部14b(図4参照)にロア梁部26の左端部26aを溶接(例えば、スポット溶接)で接合することで着脱困難に強固に設けた。
これにより、車両のフロント構造10(特に、車体前部)の剛性を確保することができる。
【0069】
さらに、下脚部31を着脱困難に強固に設けることで、多数本のボルトを用いることなく、下脚部31を左サブフレームブラケット14に取り付けることが可能になった。
これにより、下脚部31を左サブフレームブラケット14に簡単な作業で強固に取り付けることができる。
【0070】
一方、軽衝突時に変形する上脚部32を下脚部31に複数のボルト34で着脱容易に結合(締結)した。そして、上脚部32の上端部32bに、アッパサイドフレーム13およびアッパ梁部27を第1〜第2の上ボルト35〜36や横ボルト37で着脱容易に結合(締結)した。
これにより、軽衝突で上脚部32が変形した場合に、ボルト34〜37を外すだけの簡単な作業で、変形した上脚部32を新たな部材に交換することができ、修理の容易化を図ることができる。
【0071】
つぎに、第2実施の形態の車両のフロント構造を図10に基づいて説明する。なお、第2実施の形態において第1実施の形態の車両のフロント構造10と同一類似の構成部材については同じ符号を付して説明を省略する。
【0072】
(第2の実施の形態)
図10(a),(b)は本発明に係る車両のフロント構造(第2実施の形態)の要部を示す断面図である。
(a)は上脚部32にアッパサイドフレーム13およびアッパ梁部27を結合(締結)した状態を示し、(b)はアッパ梁部27がアッパ梁部27を車体後方に向けてスライド移動した状態を示す。
【0073】
第2実施の形態の車両のフロント構造110は、上脚部32にアッパサイドフレーム13およびアッパ梁部27を圧縮ばね(ばね部材)112を用いて結合(締結)し、図4に示すロア梁部26に左下部支持ブラケット42を圧縮ばね112を用いて結合(締結)したもので、その他の構成は第1実施の形態の車両のフロント構造10と同じである。
以下、圧縮ばね112を用いた結合(締結)する代表例として、上脚部32にアッパサイドフレーム13およびアッパ梁部27を結合(締結)する構成について説明する。
【0074】
(a)に示すように、車両のフロント構造110は、段付きボルト114に圧縮ばね112が嵌め込まれ、段付きボルト114のねじ部114aが左アッパサイドフレーム13の取付孔92および水平取付プレート85の上取付孔87に差し込まれてナット89にねじ結合されている。
【0075】
段付きボルト114の段部114bが左アッパサイドフレーム13の前端部13aに当接して、段付きボルト114が水平取付プレート85および左アッパサイドフレーム13に取り付けられている。
この状態で、圧縮ばね112が、アッパ梁部27および段付きボルト114の頭部114cで圧縮されている。圧縮ばね112のばね力で上脚部32にアッパサイドフレーム13およびアッパ梁部27が支持されている。
【0076】
アッパ梁部27を圧縮ばね112のばね力で支持することで、アッパ梁部27の支持力を一層適正に保つ(調整する)ことができる。
これにより、車両のフロント構造110が軽衝突して、アッパ梁部27に衝撃荷重が作用した場合、(b)に示すように、圧縮ばね112のばね力に抗してアッパ梁部27を車体後方に向けて一層円滑にスライド移動させることができる。
【0077】
ここで、左下部支持ブラケット42も、アッパ梁部27と同様に、ロア梁部26に圧縮ばね112のばね力で支持されている。
よって、左下部支持ブラケット42に衝撃荷重が作用した場合、圧縮ばね112のばね力に抗して左下部支持ブラケット42を車体後方に向けて一層円滑にスライド移動させることができる。
【0078】
このように、アッパ梁部27および左下部支持ブラケット42を一層円滑に車体後方に向けてスライド移動させることが可能になり、図1に示す冷却系部品17の全体を車体後方に向けて一層円滑に移動させることができる。
【0079】
ところで、圧縮ばね112のばね力は、段付きボルト114の段部長さL((a)参照)を変えることで調整が可能である。
よって、アッパ梁部27や左下部支持ブラケット42を円滑にスライド移動させることができるように、圧縮ばね112のばね力を容易に調整(設定)することができる。
【0080】
なお、前記第1、第2の実施の形態では、アッパ梁部27および左右の下部支持ブラケット42を車体後方に向けてスライド可能に支持した例について説明したが、これに限らないで、アッパ梁部27および左右の下部支持ブラケット42を車体後方に向けて変形可能に支持しても同様の効果が得られる。
【0081】
この構成は、例えば、アッパ梁部27および左アッパサイドフレーム13をそれぞれの左端部27aおよび前端部13aで連結して一体の部材として、一体の部材(アッパ梁部27および左アッパサイドフレーム13)が車体前部に交換可能(交換容易)にボルトや溶接(スポット溶接)で取り付けられている。
軽衝突の場合には、一体の部材(アッパ梁部27および左アッパサイドフレーム13)を一体で変形させてアッパ梁部27を車体後方に向けて移動させ、冷却系部品17の損傷を良好に防止することができる。
軽衝突後は、一体の部材(アッパ梁部27および左アッパサイドフレーム13)を新たな部材と簡単に交換することができる。
【0082】
また、前記第2実施の形態を示す図10の構成は、ばね部材112を用いてアッパ梁部27や左下部支持ブラケット42を結合(締結)する一例を例示したもので、ばね部材112を用いて結合(締結)する構成はこれに限定するものではない。
【0083】
さらに、前記第2実施の形態では、ばね部材として圧縮ばね112を例示したが、これに限定しないで、ばね弾性を備えた硬質ゴムなどの他の部材を使用することも可能である。
【0084】
また、前記第1、第2の実施の形態で例示した左フロントサイドフレーム11、バルクヘッド15、冷却系部品17、ロア梁部26、アッパ梁部27、左上部支持ブラケット41、上荷重受部41e、左下部支持ブラケット42、下荷重受部42b、圧縮ばね112などの形状等は適用する車両に応じて適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の車両のフロント構造は、フロントサイドフレームにバルクヘッドを設け、このバルクヘッドに冷却系部品を設けた自動車への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る車両のフロント構造(第1実施の形態)を前方から見た状態を示す斜視図である。
【図2】図1のフロント構造から冷却系部品を外した状態を示す斜視図である。
【図3】第1実施の形態に係る車両のフロント構造を後方から見た状態を示す斜視図である。
【図4】第1実施の形態に係る車両のフロント構造の要部を示す斜視図である。
【図5】第1実施の形態に係る車両のフロント構造から左下部支持ブラケットを外した状態を示す斜視図である。
【図6】第1実施の形態に係る車両のフロント構造を分解した状態を示す斜視図である。
【図7】第1実施の形態に係る車両のフロント構造に衝撃荷重が作用する例を説明する図である。
【図8】第1実施の形態に係る車両のフロント構造のアッパ梁部および左下部支持ブラケットを車体後方に向けてスライド移動させた状態を示す説明図である。
【図9】第1実施の形態に係る車両のフロント構造で支持した冷却系部品を車体後方に向けて移動した状態を説明する図である。
【図10】本発明に係る車両のフロント構造(第2実施の形態)の要部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0087】
10,110…車両のフロント構造、11…左フロントサイドフレーム(フロントサイドフレーム)、15…バルクヘッド、17…冷却系部品、18…冷却系支持手段、17a…冷却系部品の左上端部(上部)、17b…冷却系部品の左下端部(下部)、17c…冷却系部品の上部(上部全体)、26…ロア梁部、27…アッパ梁部、41…左上部支持ブラケット(上部支持ブラケット)、41e…上荷重受部(荷重受部)、42…左下部支持ブラケット(下部支持ブラケット)、42b…下荷重受部(荷重受部)、112…圧縮ばね(ばね部材)、F1+F2…後方移動荷重。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントサイドフレームにバルクヘッドが設けられ、前記バルクヘッドに冷却系部品が設けられた車両のフロント構造において、
前記冷却系部品の上部が上部支持ブラケットを介して前記バルクヘッドのアッパ梁部に支えられるとともに、前記アッパ梁部が車体後方に向けてスライド可能または変形可能に支持され、
前記冷却系部品の下部が下部支持ブラケットを介して前記バルクヘッドのロア梁部に支えられるとともに、前記下部支持ブラケットが車体後方に向けてスライド可能または変形可能に支持され、
軽衝突時に、前記アッパ梁部および前記下部支持ブラケットを車体後方に向けてそれぞれ移動させることを特徴とする車両のフロント構造。
【請求項2】
前記上下の支持ブラケットは、車体前方に向けて突出する荷重受部をそれぞれ備えたことを特徴とする請求項1記載の車両のフロント構造。
【請求項3】
前記アッパ梁部および前記下部支持ブラケットを共に車体後方に向けて前記スライドまたは前記変形させる後方移動荷重を、前記左右のフロントサイドフレームの座屈荷重より小さくしたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両のフロント構造。
【請求項4】
前記アッパ梁部および前記下部支持ブラケットを車体後方に向けてスライド可能に支持するばね部材をそれぞれ備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の車両のフロント構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−137482(P2009−137482A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316966(P2007−316966)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】