説明

車両のフードロックストライカ

【課題】エンジンフードの前部に上方からだけでなく他の方向から衝突荷重を受けた場合にも、衝突荷重をエンジンフード部分で充分に吸収することのできる車両のフードロックストライカを提供する。
【解決手段】ロックアーム11と係合される略コ字状のロッド部材12を複数の分割片13によって構成し、これらの分割片13にワイヤ14を通す。エンジンフード1にアクチュエータ17を設け、アクチュエータ17に係止ブロック15を連結する。係止ブロック15にワイヤ14の端部を係止させ、ワイヤ14に張力を付与する。ワイヤ14に張力を付与することでロッド部材12を剛体状態とし、アクチュエータ17によってワイヤ14に対する張力付与を解除することでロッド部材12を非剛体状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンフードを車体に固定する車両のフードロックストライカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンルームの上部に設置されるエンジンフードは、ヒンジによって開閉可能にされるとともに、エンジンルームの前部に設置されたロック機構によって閉状態が保持される。具体的には、エンジンフードの前端部裏面に略コ字状のロッド部材から成るフードロックストライカが固定され、エンジンフードを閉じたときにフードロックストライカがエンジルーム側のロック機構と係合されるようになっている。
【0003】
ところで、近年、車両の前部が歩行者等に接触したときに、エンジンフード部分で衝突荷重を吸収できるフードロックストライカの構造が案出されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
特許文献1に記載のフードロックストライカは、エンジンフードの前部裏面に断面略U字状の変形容易なストライカ支持部材を固定設置し、ストライカ本体をこのストライカ支持部材に取り付けたものであり、衝突時に、エンジンフードの前部が上面側から押圧されたときに、ストライカ支持部材がエンジンフードとともに変形することによって衝突荷重を吸収するようになっている。
【0005】
特許文献2に記載のフードロックストライカは、上部からの入力荷重を受けて容易に変形する変形容易部をストライカ本体に設けたものであり、衝突時に上部からの荷重を受けると、ストライカ本体が容易に変形し、このときエンジンフードが柔軟に変形して衝突荷重を吸収するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−148886号公報
【特許文献2】特開2004−067006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のフードロックストライカの場合、ストライカ本体自体は容易に変形しない剛体であるため、ストライカ支持部材が変形した後にストライカ本体が底付きすると、荷重吸収性能が急激に低下してしまう。
【0008】
また、特許文献2に記載のフードロックストライカにおいては、衝突時にストライカ本体が容易に変形してエンジンフードの柔軟な変形によって衝突荷重を吸収するものであるが、ストライカ本体は上部から荷重を受けたときにのみ容易に変形する構造となっているため、例えば、フード高の高い車両において、前方から衝突荷重が入力されたときにはストライカ本体が容易に変形せず、エンジンフードの柔軟な変形による荷重吸収が難しくなる。
【0009】
そこでこの発明は、エンジンフードの前部に上方からだけでなく他の方向から衝突荷重を受けた場合にも、衝突荷重をエンジンフード部分で充分に吸収することのできる車両のフードロックストライカを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、エンジンフード(例えば、後述の実施形態におけるエンジーフード1)の前端部裏面に取り付けられ、前記エンジフードを閉じたときに、エンジンルームの前部に設置されたロック機構(例えば、後述の実施形態におけるロックアーム11)と係合される車両のフードロックストライカ(例えば、後述の実施形態におけるフードロックストライカ10)であって、ロック機構と係合される略コ字状のロッド部材(例えば、後述の実施形態におけるロッド部材12)を複数の分割片(例えば、後述の実施形態における分割片13)によって構成し、この複数の分割片に紐状部材(例えば、後述の実施形態におけるワイヤ14)を挿通するとともに、前記エンジンフードに、前記紐状部材に張力を付与し外力の入力によって前記紐状部材に対する付与張力を解除する張力制御手段(例えば、後述の実施形態におけるアクチュエータ17)を設けたことを特徴とする。
紐状部材に張力が付与されている間は複数の分割片が紐状部材によって相互に押し付けられている。このとき、ロッド部材は剛体状態となる。また、張力制御手段によって紐状部材に対する張力付与が解除されると、複数の分割片が容易に分離し得るようになる。このとき、ロッド部材は非剛体の状態となる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両のフードロックストライカにおいて、前記分割片同士の当接面(例えば、後述の実施形態における当接面18)を、軸直交面に対して傾斜する傾斜面によって構成したことを特徴とする。
この場合、ロッド部材に軸直角方向から荷重が加わったときだけでなく、軸方向に沿って荷重が加わったときにも隣接する分割片の当接面同士で滑りを生じ易くなる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の車両のフードロックストライカにおいて、前記張力制御手段は、前記紐状部材に張力を付与する張力付与部(例えば、後述の実施形態における係止ブロック15)と、この張力付与部による張力付与を解除する解除アクチュエータ(例えば、後述の実施形態におけるアクチュエータ17)と、前記エンジンフードに加わる衝撃を検出する衝撃検知部と、この衝撃検知部が衝撃を検知したときに前記解除アクチュエータを解除作動させる制御部と、を備えていることを特徴とする。
通常時には、解除アクチュエータを作動させずに張力付与部によって紐状部材に張力を付与し、ロッド部材を剛体の状態にしておく。走行時に衝突等による衝撃が衝撃検知部によって検知されると、制御部が解除アクチュエータに解除指令を出し、解除アクチュエータが紐状部材に対する張力付与を解除する。これにより、ロッド部材は非剛体の状態となる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、ロック機構に係合される略コ字状のロッド部材を、紐状部材を挿通した複数の分割片によって構成し、紐状部材の張力を張力制御手段で制御することによってロッド部材を剛体と非剛体に任意に換えられるようにしたため、通常時のエンジンフードのロック操作性の低下を招くことなく、必要時には、張力制御手段による張力解除作動によってロッド部材を非剛体状態にすることで、エンジフード部分の柔軟な変形を許容することができる。そして、衝突時にはロッド部材のほぼ全域を容易に変形させることができるため、いずれの方向からの衝突荷重の入力でもエンジフード部分で衝撃を充分に吸収することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、分割片同士の当接面を、軸直交面に対して傾斜する傾斜面によって構成したため、ロッド部材に軸直角方向に荷重が入力されたときだけでなく、軸方向に沿って荷重が入力されたときにも、当接面の滑りによって複数の分割片を容易に分離させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、通常時にはロッド部材を剛体状態にしておき、衝撃の入力があったときにだけ解除アクチュエータの作動によってロッド部材を非剛体状態にすることができるため、通常時におけるエンジンフードのロック部分の剛性を高く維持し、かつ衝突時には衝突荷重を確実に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の第1の実施形態のフードロックストライカを採用した車両の非衝突時の模式的な断面図である。
【図2】この発明の第1の実施形態のフードロックストライカを採用した車両の衝突時の模式的な断面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態のフードロックストライカの分解時の挙動を模式的に示す図である。
【図4】この発明の第2の実施形態のフードロックストライカの分解時の挙動を模式的に示す図である。
【図5】この発明の第3の実施形態のフードロックストライカを採用した車両の非衝突時の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態においては、同一部分に同一符号を付し、重複する説明を省略するものとする。
最初に、図1〜図3に示す第1の実施形態について説明する。
図1は、非衝突時における車両前部の縦断面を示すものである。同図において、1は、車両のエンジンルームの上部に開閉可能に取り付けられたエンジンフードであり、10は、エンジーフード1の前端部側の裏面に設置固定されたフードロックストライカ、11は、エンジンルーム内のラジエータコアサポート(図示せず)等に固定設置されたロック機構のロックアームである。
ロックアーム11は、エンジンフード1の閉操作時にフードロックストライカ10の進入を許容してフードロックストライカ10をロックし、車室内からの解除操作によってフードロックストライカ10に対するロックを解除する。
【0018】
エンジンフード1は、フードアウタパネル2の下面側にフードインナパネル3の周縁部がヘミング加工等によって接合されて成り、フードインナパネル3の前部寄りの下面にフードロックストライカ10の略コ字状のロッド部材12が突設されている。
【0019】
ロッド部材12は、軸心部が中空に形成された短軸円柱状の複数の分割片13…によって構成され、これらの分割片13…の軸心部には紐状部材であるワイヤ14が挿通されている。ワイヤ14の両端部はフードインナパネル3を貫通し、フードインナパネル3の上面側に設置された係止ブロック15(張力付与部)に係止し得るようになっている。フードインナパネル3を貫通したワイヤ14の両端部にはストッパ16が設けられ、各係止ブロック15にはワイヤ14の挿通が可能なスリット15aが設けられている。ワイヤ14の各端部はスリット15aに挿通され、その状態で各端部のストッパ16がスリット15aの上縁に係止されるようになっている。
ロッド部材12を構成する複数の分割片13は、ワイヤ14の両端部が係止ブロック15に係止されると、ワイヤ14に作用する大きな張力によって軸方向の端面同士が相互に圧接される。このとき、ロッド部材12は外力に対して充分な剛性を持つ剛体状態となる。
【0020】
また、各係止ブロック15は、モータを含むボールネジ機構等のアクチュエータ17に連結され、アクチュエータ17によって進退操作される。係止ブロック15は、アクチュエータ17が初期状態にあるときにワイヤ14の端部を係止しており、アクチュエータ17が後退作動することによってワイヤ14の端部に対する係止を解除する。アクチュエータ17は、ワイヤ14に対する張力付与を解除する張力制御手段を構成している。
なお、ここでは図示しないがアクチュエータ17を制御するコントローラには、エンジンフード1に加わる衝撃を検知する衝撃検知センサが接続されている。衝撃検知センサで規定値以上の衝撃が検知されたときには、コントローラがアクチュエータ17に対して作動指令を出力する。こうして、アクチュエータ17が作動すると、ワイヤ14の張力が解除され、ロッド部材12を構成する複数の分割片13…が、図2に示すように分離可能となり、このときロッド部材12は外力に対して大きな剛性を持たない非剛体状態となる。
【0021】
また、この実施形態の場合、ロッド部材12のコーナ部では分割片13,13同士の当接面18が軸方向と直交する面によって構成されているが、コーナ部以外においては、図3に一部を抜き出して模式的に示すように分割片13,13同士の当接面18が軸直交面に対して所定角度を持って傾斜する傾斜面となっている。
【0022】
ここで、図4に示す第2の実施形態のように、全ての分割片13の当接面118を軸方向と直交する面によって構成することも可能であるが、この第1の実施形態のようにコーナ部以外の当接面18を傾斜面とした方が分割片13…がより容易に分離されるようになる。
すなわち、図4に示すように、全ての当接面118を軸方向と直交する面によって構成した場合には、例えば、エンジフードの上部から荷重が入力されたときに、ロッド部材12の垂直部分で分割片13,13同士の突っ張りが生じ(図4(A)参照)全体として変形し難くなるが、図3に示すように、コーナ部以外の当接面18を傾斜面とした場合には、エンジフードの上部から荷重が入力されたときに、各部の当接面18で滑りが生じて全体として変形が易となる。なお、図3,図4において、(A)は、ロッド部材12の垂直部分を模式的に示すものであり、(B)はロッド部材12の水平部分を模式的に示すもの
【0023】
このフードロックストライカ10は、以上のような構成であるため、停車時や衝突のない通常の走行時には、アクチュエータ17が初期状態に維持され、係止ブロック15がワイヤ14の端部を係止してワイヤ14に対して大きな張力を付与している。これにより、フードロックストライカ10のロッド部材12は図1に示すように剛体状態に維持されている。したがって、エンジンフード1の閉時にはロッド部材12が変形することなく、ロックアーム11に確実に係止される。
【0024】
また、車両の前部が歩行者等に衝突した場合には、コントローラによる制御によって図2に示すようにアクチュエータ17が係止ブロック15を後退させ、係止ブロック15によるワイヤ14の係止を解除する。こうしてワイヤ14の係止が解除されると、ワイヤ14に弛みが生じ、フードロックストライカ10のロッド部材12が非剛体状態となる。この状態では、衝突によってエンジンフード1の上部から荷重が加わったときだけでなく、前方等側から荷重が加わったときにも、フードロックストライカ10のロッド部材12が容易に変形する。したがって、このとき衝突荷重を受けたエンジンフード1の前部が柔軟に変形する。
【0025】
以上のように、このフードロックストライカ10においては、車両の衝突時に、アクチュエータ17の作動によってロッド部材12を剛体から非剛体に変化させることができるため、通常時のエンジンフード1のロック操作性の低下を招くことなく、衝突時には、エンジンフード1に入力される荷重がいずれの方向であっても、エンジンフード1を柔軟に変形させて衝突荷重を充分に吸収することができる。
特に、前方から荷重が入力された場合においても、ロッド部材12を非剛体に変化させることでエンジンフード1を柔軟に変形させて、衝突物に対する衝突荷重をも緩和すことができる。
【0026】
また、第1の実施形態のフードロックストライカ10では、ロッド部材12を構成する分割片13の当接面18が軸直角面に対して傾斜する傾斜面とされているため、分割片13の軸方向に沿って衝突荷重が入力されたときにおいても当接面18の滑りによって分割片13,13同士を容易に分離させ、より柔軟に衝突荷重をエンジンフード1部分に吸収させることができる。
【0027】
図5は、この発明の第3の実施形態を示すものである。
この実施形態のフードロックストライカ210は、フードインナパネル3の裏面に当接する分割片213に倒れ防止フランジ20を設ける一方で、フードインナパネル3の上面側に支持プレート21を配置し、フードインナパネル3を間に挟み込んだ状態で支持プレート21と倒れ防止フランジ20を締結するようにしたものである。
【0028】
非衝突時には、係止ブロック15によってワイヤ14に大きな張力が付与されているため、分割片13、特に、フードインナパネル3の下面に当接する分割片213に倒れが生じ易くなるが、このフードロックストライカ210においては、支持プレート21と倒れ防止フランジ20によってフードインナパネル3を挟み込むかたちで両者を締結しているため、分割片213の倒れを確実に防止することができる。したがって、この実施形態においては、非衝突時におけるロッド部材12の剛性を確実に高めることができる。
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態においては、ワイヤ14の両端部に係止ブロック15とアクチュエータ17を設けたが、ワイヤ14の片側の端部にのみに係止ブロック15とアクチュエータ17を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0029】
1…エンジーフード
10,210…フードロックストライカ
11…ロックアーム
12…ロッド部材
13…分割片
14…ワイヤ(紐状部材)
15…係止ブロック(張力付与手段)
17…アクチュエータ(張力制御手段)
18,118…当接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンフードの前端部裏面に取り付けられ、前記エンジフードを閉じたときに、エンジンルームの前部に設置されたロック機構と係合される車両のフードロックストライカであって、
ロック機構と係合される略コ字状のロッド部材を複数の分割片によって構成し、
この複数の分割片に紐状部材を挿通するとともに、
前記エンジンフードに、前記紐状部材に張力を付与し外力の入力によって前記紐状部材に対する付与張力を解除する張力制御手段を設けたことを特徴とする車両のフードロックストライカ。
【請求項2】
前記分割片同士の当接面を、軸直交面に対して傾斜する傾斜面によって構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両のフードロックストライカ。
【請求項3】
前記張力制御手段は、前記紐状部材に張力を付与する張力付与部と、この張力付与部による張力付与を解除する解除アクチュエータと、前記エンジンフードに加わる衝撃を検出する衝撃検知部と、この衝撃検知部が衝撃を検知したときに前記解除アクチュエータを解除作動させる制御部と、を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両のフードロックストライカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−208553(P2010−208553A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58215(P2009−58215)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】