説明

車両のベルト式無段変速装置

【課題】車両の走行状態の如何に関わらず、オイルパン内の油面の低下が抑制され空気が混入したオイルによる変速比の制御性の悪化を未然に防止することができる車両のベルト式無段変速装置を提供すること。
【解決手段】プライマリプーリ52と、セカンダリプーリ54と、伝動ベルト55と、オイルパン56と、バルブボディ82およびストレーナ83を有するオイル供給手段57とを備え、オイル供給手段57が、供給油路91と、排出油路92とを有し、ストレーナ83の中間部に供給油路91にオイルを供給する吸込口83sが設けられ、ロワーバルブボディ82aの後方部82uにフロント油圧室67およびリア油圧室68内のオイルを排出油路92からオイルパン56内に排出させる後方排出口82gが設けられ、前方部82mにセカンダリ油圧室78内のオイルを排出油路92からオイルパン56に排出させる前方排出口82zが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧により変速比を無段階に変化させる車両のベルト式無段変速装置に関し、詳しくは、オイルパンから供給されるオイルに空気が混入するのを防止するようにした車両のベルト式無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のベルト式無段変速装置(CVT:Continuously Variable Transmission)として、油圧アクチュエータにより駆動されるプライマリプーリと、油圧アクチュエータにより駆動されるセカンダリプーリと、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに巻き掛けられて動力を伝達する伝動ベルトと、これらの各構成要素を収納するハウジングと、ハウジングの下部に設けられ、潤滑油および作動油として機能するオイルが貯留されるオイルパンとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来のベルト式無段変速装置においては、ハウジング内の被潤滑部材を潤滑するための潤滑油とベルト式無段変速装置を動作させるための作動油(ATF:Automatic Transmission Fluid)とからなるオイルが、オイルパンから所定の供給油路を経由して供給され、複数設けられた排出油路を経由して排出口からオイルパン内に還流されるようになっている。オイルパンの中央部には、オイルを所定の部材に供給するための吸込口としてのサクション口が設けられており、還流され貯留されたオイルパン内のオイルが、サクション口から吸い込まれて、プライマリプーリ、セカンダリプーリおよび被潤滑部材に供給されるようになっている。そして、オイルパンの内壁面部にオイルを整流するための整流壁が形成され、排出油路からオイルパンに還流されるオイルがオイルパン内で整流されるようになっている。このように、排出口からサクション口までの流路距離が長くなるよう整流壁を形成し、排出口近傍で生ずる泡をサクション口まで整流壁に沿って流通させることにより消滅させ、このサクション口から供給されるオイルに空気が混入しないようにしている。これにより、空気が混入したオイルによる変速比の制御性の悪化を未然に防止するようにしている。
【0004】
また、従来のベルト式無段変速装置においては、複数の排出油路の排出口からオイルパン内の油面までのそれぞれの距離が、油面が水平な状態において、略同一になるよう排出口を形成して、排出されるオイルがオイルパンに戻るそれぞれの還流経路を略同一の長さにしている。このことにより、各排出口からオイルがオイルパンに排出される際、油面が水平な状態を保つようにして、サクション口から供給されるオイルに空気が吸い込まれないようにしている。これにより、空気が混入したオイルによる変速比の制御性の悪化を未然に防止するようにしている。
【特許文献1】特開2000−46155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のベルト式無段変速装置にあっては、車両が平坦な路上で停止している状態や、低速で安定した走行状態においては、サクション口から空気が吸い込まれることはないものの、安定しない走行状態ではサクション口から空気が吸い込まれてしまうおそれがあるという問題があった。すなわち、車両が減速された場合や急制動された場合には、オイルパン内のオイルは、その慣性力によりオイルパンにおける車両の進行方向の前方に流動してその油面が偏ってしまい、サクション口近傍で油面が低下し、サクション口から空気が吸い込まれてしまうおそれがあった。他方、車両が加速された場合には、オイルパン内のオイルは、その慣性力によりオイルパンにおける車両の後進方向に流動してその油面が偏ってしまい、サクション口近傍で油面が低下し、サクション口から空気が吸い込まれてしまうおそれがあった。オイル内に空気が混入してしまうと、所定の油圧が得られず変速比の制御性が悪化してしまうおそれがあった。そのため、オイル内に空気が混入しないようオイル量を増大させていた。
【0006】
本発明は、前述の従来の問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、車両の走行状態の如何に関わらず、オイルパン内の油面の低下が抑制され、空気が混入したオイルによる変速比の制御性の悪化を未然に防止することができる車両のベルト式無段変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るベルト式無段変速装置は、上記目的を達成するため、(1)第1油圧室を有する第1油圧アクチュエータにより駆動されるプライマリプーリと、第2油圧室を有する第2油圧アクチュエータにより駆動されるセカンダリプーリと、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとに巻き掛けられた伝動ベルトと、前記第1油圧室および前記第2油圧室に供給されるオイルを貯留するオイルパンと、前記第1油圧室および前記第2油圧室に前記オイルを供給する供給部材を有するオイル供給手段と、を備えた車両のベルト式無段変速装置において、前記オイル供給手段が、前記オイルパン内のオイルを前記第1油圧室および前記第2油圧室に供給する供給油路と、前記第1油圧室内および前記第2油圧室内の前記オイルを前記オイルパン内に排出させる排出油路とを有し、前記供給部材が、前記車両の前進方向に位置する前方部と、前記車両の後進方向に位置する後方部と、前記前方部と前記後方部との間の中間部とを有し、前記中間部に前記供給油路に前記オイルを供給するよう前記オイルパン内のオイルを吸い込む吸込口が形成され、前記後方部に前記第1油圧室内の前記オイルを前記排出油路から前記オイルパン内に排出させるよう第1排出口が形成され、前記前方部に前記第2油圧室内の前記オイルを前記排出油路から前記オイルパン内に排出させるよう第2排出口が形成されたことを特徴とする。
【0008】
この構成により、車両が減速されたとき、第2油圧室にオイルが供給され、第2油圧アクチュエータが動作すると、伝動ベルトがセカンダリプーリの放射外方にスライドしセカンダリプーリ側のベルト半径が大きくなるとともに、伝動ベルトがプライマリプーリの放射内方にスライドしプライマリプーリ側のベルト半径が小さくなる。この動作と同時に、プライマリプーリの第1油圧室内のオイルが、排出油路に排出され、供給部材の第1排出口からオイルパン内に排出される。このとき、車両の減速により、オイルパン内のオイルが、その慣性力により車両の前方側に流動し、オイルパン内で偏った油面となっているが、第1排出口から油面が低下している車両の後方側に大量に排出される。排出されたオイルにより、車両の後方側の油面が上昇し、供給部材の吸込口がオイルで覆われることになるので、車両が減速されたときでも、吸込口から空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止される。
【0009】
また、車両が加速されたときは、第1油圧室にオイルが供給され、第1油圧アクチュエータが動作すると、伝動ベルトがプライマリプーリの放射外方にスライドしプライマリプーリ側のベルト半径が大きくなるとともに、伝動ベルトがセカンダリプーリの放射内方にスライドしセカンダリプーリ側のベルト半径が小さくなる。この動作と同時に、セカンダリプーリの第2油圧室内のオイルが排出油路に排出され、供給部材の第2排出口からオイルパン内に排出される。このとき、車両の加速により、オイルパン内のオイルが、その慣性力により車両の後方側に流動し、オイルパン内で偏った油面となっているが、第2排出口から油面が低下している車両の前方側に大量に排出される。排出されたオイルにより、車両の前方側の油面が上昇し、供給部材の吸込口がオイルで覆われることになるので、車両が加速されたときでも、吸込口から空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止される。
【0010】
ここで、車両が減速されたときとは、運転者のブレーキ操作や車両がシフトダウンされたときなどの車両が高速から低速になったときまたは停止したときをいう。具体的には、第2油圧室にオイルが供給され、第2油圧アクチュエータにより、伝動ベルトがセカンダリプーリの放射外方にスライドしセカンダリプーリ側のベルト半径が大きくなるとともに、伝動ベルトがプライマリプーリの放射内方にスライドしプライマリプーリ側のベルト半径が小さくなり、第1油圧室内のオイルが、排出油路に排出されるよう、車両が変速制御されたときを表す。
また、車両が加速されたときとは、運転者のアクセル操作や車両がシフトアップされたときなどの車両が発進したときまたは低速から高速になったときをいう。具体的には、第1油圧室にオイルが供給され、第1油圧アクチュエータにより、伝動ベルトがプライマリプーリの放射外方にスライドしプライマリプーリ側のベルト半径が大きくなるとともに、伝動ベルトがセカンダリプーリの放射内方にスライドしセカンダリプーリ側のベルト半径が小さくなり、第2油圧室内のオイルが、排出油路に排出されるよう、車両が変速制御されたときを表す。
【0011】
上記(1)に記載のベルト式無段変速装置において、好ましくは、(2)前記オイル供給手段が、前記オイルパン内のオイルを前記第1油圧室および前記第2油圧室に供給するオイルポンプを有し、前記供給部材が、前記供給油路と、前記排出油路とを有するバルブボディと、前記バルブボディの下部に支持され、前記供給油路を有するストレーナとを有し、前記バルブボディに前記第1排出口および前記第2排出口が形成されるとともに、前記ストレーナに前記吸込口が形成され、前記オイルポンプにより前記ストレーナおよび前記バルブボディを介して前記オイルを供給する。
【0012】
この構成により、供給油路および排出油路がバルブボディ内に形成され、ストレーナを介してバルブボディにオイルが供給されるので、第1油圧アクチュエータおよび第2油圧アクチュエータを含む油圧機構に、浄化されたオイルが供給されるとともに、比較的小さなスペースで、効率よく油圧が供給される。
【0013】
車両が減速されたときは、オイルがバルブボディの第1排出口からオイルパン内の油面が低下している車両の後方側に大量に排出され、車両の後方側の油面が上昇し、ストレーナの吸込口がオイルで覆われることになるので、車両が減速されたときでも、ストレーナの吸込口から空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止される。また、車両が加速されたときは、オイルがバルブボディの第2排出口からオイルパン内の油面が低下している車両の前方側に大量に排出され、車両の前方側の油面が上昇し、ストレーナの吸込口がオイルで覆われることになるので、車両が加速されたときでも、ストレーナの吸込口から空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止される。
【0014】
上記(1)または(2)に記載のベルト式無段変速装置において、好ましくは、(3)前記ストレーナが、前記第1排出口より前記車両の前進方向に位置する後方端部を有し、前記バルブボディが、前記第1排出口から排出される前記オイルを前記オイルパン内に導入させる第1導入板を有し、前記第1導入板が、前記第1排出口と前記後方端部との間に配置される。
【0015】
この構成により、第1排出口から排出されたオイルは、下方の油面に落下するとともに、第1導入板で下方に導かれるので、ストレーナとバルブボディとの間に形成されている隙間に流入することが防止され、オイルパンの下方の油面に落下するオイル量が減少することはない。
【0016】
上記(2)または(3)に記載のベルト式無段変速装置において、好ましくは、(4)前記ストレーナが、前記第2排出口より前記車両の後進方向に位置する前方端部を有し、前記バルブボディが、前記第2排出口から排出される前記オイルを前記オイルパン内に導入させる第2導入板を有し、前記第2導入板が、前記第2排出口と前記前方端部との間に配置される。
【0017】
この構成により、第2排出口から排出されたオイルは、下方の油面に落下するとともに、第2導入板で下方に導かれるので、ストレーナとバルブボディとの間に形成されている隙間に流入することが防止され、オイルパンの下方の油面に落下するオイル量が減少することはない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、車両の走行状態の如何に関わらず、オイルパン内の油面の低下が抑制され、空気が混入したオイルによる変速比の制御性の悪化を未然に防止することができる車両のベルト式無段変速装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るベルト式無段変速装置8を含む車両1のスケルトン図である。
【0021】
まず、構成について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る車両1は、前輪駆動車(FF:Front engine Front drive)として構成されており、エンジン2を備えている。本実施の形態においては、エンジン2を横置きに設置されたガソリンエンジンに適用したものとして説明するが、エンジン2を軽油、LPG、水素およびバイフューエルなどの液体やガス燃料を使用する内燃機関に適用することができ、縦置きや横置きなどの配置、直列、水平対向やV型などの気筒配置や気筒数などに特に制限はない。
【0022】
車両1は、エンジン2と、エンジン2の側方に配置され、エンジン2のクランクシャフト2aに連結されたトランスアクスル3と、エンジン2およびトランスアクスル3を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)4とを含んで構成されている。
【0023】
トランスアクスル3は、クランクシャフト2aに連結されたトルクコンバータ5と、トルクコンバータ5に入力軸6を介して連結された前後進切替機構7と、前後進切替機構7に連結されたベルト式無段変速装置8と、ベルト式無段変速装置8に連結されたカウンタドライブギヤ9と、カウンタドライブギヤ9と噛み合うカウンタドリブンギヤ11と、カウンタドリブンギヤ11を支持するインターメディエートシャフト12と、インターメディエートシャフト12に支持されたファイナルドライブギヤ13と、ファイナルドライブギヤ13と噛み合うリングギヤ14と、リングギヤ14に連結されたディファレンシャル15と、これらの各構成要素を収納するトランスアクスルハウジング16、トランスアクスルケース17およびトランスアクスルリヤカバー18と、ディファレンシャル15に連結された左右のフロントドライブシャフト21と、フロントドライブシャフト21にそれぞれ連結された左右の前輪22とを含んで構成されている。
【0024】
トルクコンバータ5は、ドライブプレート32と、ドライブプレート32を介してエンジン2のクランクシャフト2aに固定されたフロントカバー33と、フロントカバー33に取り付けられたポンプインペラ34と、クランクシャフト2aと略同軸に延びる入力軸6に固定され、ポンプインペラ34と対向する状態で回転可能なタービンランナ35と、ワンウェイクラッチ36によって一方向にのみ回転可能に設定されたステータ37と、ダンパ機構38と、ダンパ機構38に取り付けられたロックアップクラッチ39とを含んで構成されている。また、ステータ37には、ワンウェイクラッチ36を介して中空軸31が固定されており、入力軸6は、この中空軸31の内部に挿通されている。
【0025】
また、エンジン2が作動し、フロントカバー33およびポンプインペラ34が回転すると、オイルの流れによりタービンランナ35が引きずられるようにして回転し始めるようになっており、ステータ37は、ポンプインペラ34とタービンランナ35との回転速度差が大きい時に、オイルの流れをポンプインペラ34の回転を助ける方向に変換するようになっている。
【0026】
このトルクコンバータ5は、ポンプインペラ34との回転速度とタービンランナ35の回転速度の差が大きい時には、トルク増幅機として機能し、両者の回転速度差が小さくなると、流体継手として機能するよう構成されている。そして、車両1が発進した後、車速が所定速度に到達すると、ロックアップクラッチ39が作動し、エンジン2からフロントカバー33に伝達された動力が入力軸6に直接伝達されるようになっている。また、フロントカバー33から入力軸6に伝達されるトルクの変動は、ダンパ機構38によって吸収されるようになっている。
【0027】
前後進切替機構7は、ダブルピニオン形式の遊星歯車機構41を備えており、遊星歯車機構41は、入力軸6のベルト式無段変速装置8側の端部に取り付けられたサンギヤ42と、サンギヤ42の外周側に同心状に配置されたリングギヤ43と、サンギヤ42と噛み合う複数のピニオンギヤ44と、リングギヤ43およびピニオンギヤ44の双方と噛み合う複数のピニオンギヤ45と、各ピニオンギヤ44、45を自転可能に保持し、かつ、ピニオンギヤ44、45をサンギヤ42の周囲で一体的に公転可能な状態に保持するキャリヤ46とを含んで構成されている。
【0028】
前後進切替機構7のキャリヤ46は、ベルト式無段変速装置8に固定されており、このキャリヤ46と入力軸6との間の動力伝達経路は、フォワードクラッチCRを用いて接続または遮断されるようになっている。また、前後進切替機構7は、リングギヤ43の回転および固定を制御するリバースブレーキBRを有している。
【0029】
図2は、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置8の断面図であり、プライマリプーリ52のプーリ溝66の幅を大きくするとともにセカンダリプーリ54のプーリ溝74の幅を小さくした車両1の減速状態を示し、図3は、プライマリプーリ52のプーリ溝66の幅を小さくするとともにセカンダリプーリ54のプーリ溝74の幅を大きくした車両1の加速状態を示す。ここで、車両1の減速状態とは、前述の車両が減速されたときの車両の状態をいい、加速状態とは、前述の車両が加速されたときの車両の状態をいう。
【0030】
図2および図3に示すように、ベルト式無段変速装置8は、入力軸6と略同軸に延在するプライマリシャフト51と、プライマリシャフトに設けられたプライマリプーリ52と、プライマリシャフト51と平行に延在する出力軸としてのセカンダリシャフト53と、セカンダリシャフト53に設けられたセカンダリプーリ54と、伝動ベルト55と、オイルパン56と、オイル供給手段57とを含んで構成されている。
【0031】
プライマリシャフト51は、トランスアクスルケース17に設けられた軸受24およびトランスアクスルリヤカバー18に設けられた軸受23によって回転自在に支持されており、セカンダリシャフト53は、トランスアクスルハウジング16に設けられた軸受26およびトランスアクスルリヤカバー18に設けられた軸受25によって回転自在に支持されている。
【0032】
プライマリプーリ52は、プライマリシャフト51と一体的に形成された固定シーブ61と、油圧によりプライマリシャフト51の軸線方向に移動自在に設けられた可動シーブ62と、可動シーブ62を駆動する第1油圧アクチュエータ58とを含んで構成されている。固定シーブ61と可動シーブ62とは互いに対向し、固定シーブ61と可動シーブ62との間には略V字形状のプーリ溝66が形成されている。可動シーブ62とプライマリシャフト51との間には、ボールスプライン62bが介装されており、軸線方向の移動を滑らかにして変速の応答性を良好にしている。
【0033】
第1油圧アクチュエータ58は、プライマリシャフト51に固定された円筒状のフロントシリンダ部材63と、フロントシリンダ部材63およびプライマリシャフト51に固定され、フロントシリンダ部材63の外周を囲みフロントシリンダ部材63を収容するリアシリンダ部材64と、フロントシリンダ部材63の外周部63aとリアシリンダ部材64の内周部64aとの間で摺動自在に介装され、可動シーブ62を押圧するピストン65とを含んで構成されている。また、第1油圧アクチュエータ58は、オイルが供給される第1油圧室としてのフロント油圧室67と、第1油圧室としてのリア油圧室68とを有している。
【0034】
また、可動シーブ62には、プーリ溝66と反対側の側面から円筒状に突出したシリンダ部62aが形成されており、このシリンダ部62aの内壁部とフロントシリンダ部材63の内周部63bとによりフロント油圧室67が画成されている。また、ピストン65のプーリ溝66と反対側の側面部65aと、リアシリンダ部材64の内周部64aとによりリア油圧室68が画成されている。
【0035】
プライマリシャフト51には、軸線方向に油路51aが形成され、油路51aと直交する方向に油路51aと連通した油路51b、51cが形成され、油路51bとフロント油圧室67とが連通するとともに、油路51cとリア油圧室68とが連通しており、油路51a、51bおよび51cを介してオイルがフロント油圧室67内およびリア油圧室68内に供給されるようになっている。また、フロント油圧室67内のオイルは、油路51bから排出され、リア油圧室68内のオイルは、油路51cから排出されるようになっている。フロントシリンダ部材63とシリンダ部62aとの接触部分およびピストン65とフロントシリンダ部材63およびリアシリンダ部材64との接触部分には、オイルシールが設けられ、フロント油圧室67およびリア油圧室68内の油圧が確保されるようになっており、フロント油圧室67と、リア油圧室68とにより、いわゆるダブルピストン型の油圧アクチュエータが構成されている。油路51a、51bおよび51cは、フロント油圧室67内およびリア油圧室68内にオイルを供給する供給油路91の一部を構成し、フロント油圧室67内およびリア油圧室68内のオイルを排出する排出油路92の一部を構成している。
【0036】
セカンダリプーリ54は、セカンダリシャフト53と一体的に形成された固定シーブ71と、油圧によりセカンダリシャフト53の軸線方向に移動自在に設けられた可動シーブ72と、第2油圧アクチュエータ59とを含んで構成されている。
【0037】
固定シーブ71と可動シーブ72とは互いに対向し、固定シーブ71と可動シーブ72との間には略V字形状のプーリ溝74が形成されている。可動シーブ72とセカンダリシャフト53との間には、プライマリプーリ52と同様に、ボールスプライン72bが介装されており、軸線方向の移動を滑らかにして変速の応答性を良好にしている。
【0038】
第2油圧アクチュエータ59は、セカンダリシャフト53に固定された円筒状のシリンダ部材73と、可動シーブ72とシリンダ部材73との間に介装された圧縮コイルばね77とを含んで構成されている。この圧縮コイルばね77は、可動シーブ72をプーリ溝74の方向に付勢することにより、伝動ベルト55に対して挟圧力を負荷し、例えば、被牽引時などのエンジンが駆動しておらず油圧による挟圧力が得られていない状況であっても、圧縮コイルばね77の付勢力によって挟圧力が得られ、これにより伝動ベルト55のスリップを回避できるようにしている。また、第2油圧アクチュエータ59は、オイルが供給される第2油圧室としてのセカンダリ油圧室78を有している。
【0039】
可動シーブ72には、プーリ溝74と反対側の側面から円筒状に突出したシリンダ部72aが形成されており、このシリンダ部72aの内壁部とシリンダ部材73の内周部73aとによりセカンダリ油圧室78が画成されている。
【0040】
セカンダリシャフト53には、軸線方向に油路53aが形成され、油路53aと直交する方向に油路53aと連通した油路53b、53cが形成され、油路53b、53cと、セカンダリ油圧室78とが連通しており、油路53a、53b、53cを介してオイルがセカンダリ油圧室78内に供給されるようになっている。また、セカンダリ油圧室78内のオイルは、油路53b、53cから排出されるようになっている。シリンダ部材73とシリンダ部72aとの接触部分には、オイルシールが設けられセカンダリ油圧室78内の油圧が確保されるようになっている。油路53a、53bおよび53cは、セカンダリ油圧室78内にオイルを供給する供給油路91の一部を構成し、セカンダリ油圧室78内のオイルを排出する排出油路92の一部を構成している。
【0041】
伝動ベルト55は、大きなトルクを伝達するよう多数の金属製の駒および複数本のスチールリングを有する無端ベルトで構成されている。この伝動ベルト55は、プライマリプーリ52のプーリ溝66およびセカンダリプーリ54のプーリ溝74に巻き掛けられており、トルクコンバータ5から前後進切替機構7およびプライマリシャフト51を介してプライマリプーリ52に入力されたトルクが、プライマリプーリ52からセカンダリプーリ54を介してセカンダリシャフト53に所定の変速比で出力されるようになっている。
出力されたトルクは、図1に示すように、このセカンダリシャフト53の外周部にスプライン嵌合によって連結されたカウンタドライブギヤ9を介してディファレンシャル15に伝達されるようになっている。
【0042】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係るベルト式無段変速装置8のオイルパン56の図5のA−A断面を示す断面図とオイル供給手段57の構成を示す模式図であり、図5は、オイルパン56をトランスアクスルケース17から取り外し、オイルパン56側からトランスアクスルケース17側を見たトランスアクスル3の底面図である。
【0043】
図4に示すように、オイルパン56は、金属またはプラスチックなどからなり、トルクコンバータ5やベルト式無段変速装置8などの油圧機構に使用されるオイルおよび遊星歯車機構41やベルト式無段変速装置8の伝動ベルト55などの被潤滑要素に使用される潤滑油からなるオイルを貯留する貯留部56aと、トランスアクスルケース17に取り付ける取付部56bとを含んで構成されている。この取付部56bには、図5に示すように、トランスアクスルケース17に形成されている複数の取付孔17hと同一に配置された取付孔が形成されており、この取付孔に図示しないフランジボルトなどの締結具が挿通され、トランスアクスルケース17に密着して取り付けられている。
【0044】
貯留部56aに貯留されたオイルは、オイル供給手段57により、ベルト式無段変速装置8のフロント油圧室67、リア油圧室68、セカンダリ油圧室78内に供給され、フロント油圧室に供給され油圧駆動の媒体として使用され、用済み後にオイルパン56内に還流されるようになっている。他方、オイル供給手段57を介して遊星歯車機構41やベルト式無段変速装置8の伝動ベルト55に供給され潤滑および冷却剤として使用され、用済み後にオイルパン56内に還流されるようになっている。
【0045】
オイル供給手段57は、オイルを第1油圧アクチュエータ58、第2油圧アクチュエータ59などの油圧駆動部に供給する供給部材としてのオイルポンプ81と、バルブボディ82と、ストレーナ83と、プライマリレギュレータバルブ84と、プライマリ変速バルブ85と、セカンダリ変速バルブ86とを含んで構成されている。プライマリレギュレータバルブ84、プライマリ変速バルブ85およびセカンダリ変速バルブ86は、それぞれ電子制御ユニット4に接続されており、車両1の運転者の操作や運転状況に応じて、電子制御ユニット4によりそれぞれが制御され、プライマリプーリ52の第1油圧アクチュエータ58およびセカンダリプーリ54の第2油圧アクチュエータ59に所定の油圧が供給されるようになっている。
【0046】
このオイル供給手段57には、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67、リア油圧室68および第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78にオイルパン56内のオイルを供給する供給油路91と、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67、リア油圧室68内および第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78内のオイルをオイルパン56内に排出させる排出油路92とを有している。
【0047】
オイルポンプ81は、ギヤポンプ、トロコイドポンプなどのオイルを吸入し吐出するポンプからなり、図1に示すように、トランスアクスルケース17に固定された本体81aと、ハブ81bを介してトルクコンバータ5のポンプインペラ34に接続されたロータ81cとを含んで構成されている。ハブ81bは、トルクコンバータ5の中空軸31に対してスプライン嵌合されており、エンジン2の動力が、ポンプインペラ34を介して中空軸31に伝達され中空軸31とともにロータ81cが回転することにより、オイルポンプ81が駆動されるようになっている。
【0048】
図4に示すように、バルブボディ82は、ロワーバルブボディ82aと、ロワーバルブボディ82aの上面部82jに図示しないボルトで取り付けられたアッパーバルブボディ82bとにより構成されており、ロワーバルブボディ82aの上面部82jでトランスアクスルケース17に設けられた取付部17a、17bに固定されている。また、ロワーバルブボディ82aの下面部82kには、ストレーナ83が固定されており、ストレーナ83から吸入されたオイルパン56内のオイルがロワーバルブボディ82aに供給されるようになっている。
【0049】
図4および図5に示すように、ロワーバルブボディ82aには、車両の前進方向に位置する前方部82mに、排出油路92と連通する第2排出口としての前方排出口82zが形成されており、オイル供給手段57の排出油路92を経由して前方排出口82zからオイルパン56内にオイルが排出されるようになっている。この前方排出口82zは、車両の前後方向において、ストレーナ83の吸込口83sの中心を通る線上であって、吸込口83sからなるべく前方に離隔する位置に形成されることが好ましいが、図5に示す点線で囲まれた領域Ezの範囲内またはその近傍に形成してもよい。
【0050】
また、ロワーバルブボディ82aには、車両の後進方向に位置する後方部82uに、排出油路92と連通する第1排出口としての後方排出口82gが形成されており、オイル供給手段57の排出油路92を経由して後方排出口82gからオイルパン56内にオイルが排出されるようになっている。この後方排出口82gも、前方排出口82zと同様、車両の前後方向において、ストレーナ83の吸込口83sの中心を通る線上であって、吸込口83sからなるべく後方に離隔する位置に形成されることが好ましいが、図5に示す点線で囲まれた領域Egの範囲内またはその近傍に形成してもよい。
【0051】
また、図4に示すように、ロワーバルブボディ82aの内部には、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67、リア油圧室68および第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78にオイルパン56内のオイルを供給する供給油路91の一部と、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67内、リア油圧室68内および第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78内のオイルをオイルパン56内に排出させる排出油路92の一部とが形成されている。
【0052】
また、トランスアクスルケース17の内部にも、ロワーバルブボディ82aと同様に、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67、リア油圧室68および第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78にオイルパン56内のオイルを供給する供給油路91の一部と、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67内、リア油圧室68内および第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78内のオイルをオイルパン56内に排出させる排出油路92の一部とが形成されている。
【0053】
ロワーバルブボディ82aに形成された供給油路91とトランスアクスルケース17に形成された供給油路91とが連通し、ロワーバルブボディ82aに形成された排出油路92と、トランスアクスルケース17に形成された排出油路92とが連通している。
【0054】
図4および図5に示すように、ストレーナ83は、本体83aと、本体83aに収容された図示しないフィルタとを備えており、本体83aの底面部83tの中間部としての中央部分には、吸込口83sが形成されている。また、本体83aの上面部83jには排出口hが形成されており、排出口hがロワーバルブボディ82aの供給油路91の一部と接続されている。
【0055】
この吸込口83sは、ロワーバルブボディ82aに形成された後方排出口82gと、前方排出口82zとの中間部に位置しており、この吸込口83sからオイルパン56内のオイルが吸い込まれ、フィルタを介して浄化されて、ロワーバルブボディ82aの供給油路91に供給されるようになっている。
【0056】
プライマリレギュレータバルブ84は、例えば、圧力を調整する調圧弁からなり、オイルポンプ81から供給されるライン圧を所定の圧力になるよう調圧している。このプライマリレギュレータバルブ84は、電子制御ユニット4により制御されるソレノイドバルブに接続されており、ソレノイドバルブから送られる信号圧により制御されるようになっている。
【0057】
プライマリ変速バルブ85は、プライマリレギュレータバルブ84と同様、圧力を調整する調圧弁からなり、プライマリプーリ52に変速をさせる変速圧をフロント油圧室67およびリア油圧室68に供給するようになっている。また、プライマリ変速バルブ85は、ドレイン85aを有しており、フロント油圧室67およびリア油圧室68から排出されるオイルがドレイン85aを介して排出油路92に排出され、ロワーバルブボディ82aの後方排出口82gからオイルパン56内に排出されるようになっている。
【0058】
セカンダリ変速バルブ86も、プライマリ変速バルブ85と同様、圧力を調整する調圧弁からなり、セカンダリプーリ54に変速をさせる変速圧をセカンダリ油圧室78に供給するようになっている。また、セカンダリ変速バルブ86は、ドレイン86aを有しており、セカンダリ油圧室78から排出されるオイルがドレイン86aを介して排出油路92に排出され、ロワーバルブボディ82aの前方排出口82zからオイルパン56内に排出されるようになっている。
【0059】
オイルポンプ81とプライマリレギュレータバルブ84、およびプライマリレギュレータバルブ84とプライマリ変速バルブ85は、供給油路91により接続され、プライマリ変速バルブ85と、フロント油圧室67およびリア油圧室68とは、供給油路91および排出油路92によって接続されている。また、オイルポンプ81とセカンダリ変速バルブ86とは、供給油路91により接続され、セカンダリ変速バルブ86とセカンダリ油圧室78とは、供給油路91および排出油路92によって接続されている。
【0060】
図1に示すように、ディファレンシャル15は、中空のディファレンシャルケース15aを備えており、ディファレンシャルケース15aは、トランスアクスルケース17に設けられた軸受27、トランスアクスルハウジング16に設けられた軸受28によって回転自在に支持されており、ディファレンシャルケース15aの外周部には、リングギヤ14が固定されている。
【0061】
ディファレンシャルケース15aには、ピニオンシャフト15pが支持されており、ピニオンシャフト15pには、一対のピニオンギヤ15gが回転自在に支持されている。
【0062】
この一対のピニオンギヤ15gと、一対のサイドギヤ15sとが噛み合っており、各サイドギヤ15sには左右のフロントドライブシャフト21がそれぞれ接続され、各フロントドライブシャフト21には、それぞれ左右の前輪22が接続されている。
【0063】
電子制御ユニット4は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、処理プログラムなどを記憶するROM(Read Only Memory)、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)、バッテリを電源として作動し書換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)、A/D変換器やバッファなどを含む入力インターフェース回路、および、駆動回路などを含む出力インターフェース回路を含んで構成されている。
【0064】
電子制御ユニット4の入力インターフェース回路には、エンジン2の運転状態を検出する各種のセンサが接続されており、これらのセンサから出力される情報は、入力インターフェース回路を介して電子制御ユニット4に取り込まれるようになっている。電子制御ユニット4は、これらの情報、ROMに記憶されているデータなどの情報に基づいて、エンジン2、トランスアクスル3の前後進切替機構7、ベルト式無段変速装置8を制御するように構成されている。
【0065】
次に、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置8の動作について説明する。
【0066】
図6は、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置8のオイルパン56の断面とオイル供給手段57の構成を示す模式図であり、車両1が減速したときのオイルパン56内の油面の状態を示す。図7は、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置8のオイルパン56の断面とオイル供給手段57の構成を示す模式図であり、車両1が加速したときのオイルパン56内の油面の状態を示す。
【0067】
本実施の形態に係るベルト式無段変速装置8においては、図1に示すように、エンジン2が駆動されると、クランクシャフト2aを介してトルクコンバータ5のドライブプレート32、フロントカバー33、ポンプインペラ34が回転する。このとき、トルクコンバータ5の内部に発生するオイルの循環流速により、タービンランナ35が引きずられるようにして回転すると同時に入力軸6が回転する。
【0068】
入力軸6が回転すると、前後進切替機構7の遊星歯車機構41のサンギヤ42が回転し、各ピニオンギヤ44、45がそれぞれ回転し、キャリヤ46が回転する。このとき、運転者の操作または運転状態に応じて、電子制御ユニット4により、フォワードクラッチCRが接続または遮断され、リバースブレーキBRが回転または固定されるよう適宜制御され、前進または後進に適宜切り替えられる。
【0069】
そして、キャリヤ46の回転がプライマリシャフト51を介してプライマリプーリ52に伝達され、プライマリプーリ52が回転すると、伝動ベルト55を介してセカンダリプーリ54が回転し、セカンダリシャフト53が回転する。同時に、カウンタドライブギヤ9が回転し、カウンタドリブンギヤ11およびファイナルドライブギヤ13が回転し、リングギヤ14が回転する。そして、ディファレンシャル15が動作し、各フロントドライブシャフト21が回転し、最終的に各前輪22に回転が伝達される。
【0070】
他方、ポンプインペラ34の回転により中空軸31とともにオイルポンプ81のロータ81cが回転し、図4に示すように、オイルパン56内のオイルがストレーナ83の吸込口83sから吸い込まれ、供給油路91を通りストレーナ83により浄化され、ロワーバルブボディ82aの供給油路91、トランスアクスルケース17の供給油路91を通ってオイルポンプ81内に流入し、オイルポンプ81から吐出されライン圧として、プライマリレギュレータバルブ84、プライマリ変速バルブ85およびセカンダリ変速バルブ86に供給される。
【0071】
プライマリレギュレータバルブ84、プライマリ変速バルブ85およびセカンダリ変速バルブ86にライン圧が供給された状態で、車両1の運転者の操作や運転状況に応じて、それぞれ電子制御ユニット4によりそれぞれ制御され、プライマリプーリ52の第1油圧アクチュエータ58およびセカンダリプーリ54の第2油圧アクチュエータ59に調圧後の所定の変速圧が供給され、運転状況に応じた変速比で、入力軸6のトルクがセカンダリシャフト53に出力される。
【0072】
例えば、車両1が減速されたときは、図2および図6に示すように、電子制御ユニット4により、セカンダリ変速バルブ86の変速圧が高められ、太実線の矢印で示すように、供給油路91を介して、油路53a、53bおよび53cを通ってセカンダリ油圧室78にオイルが供給され、セカンダリ油圧室78内の油圧が高まる。このとき、可動シーブ72が固定シーブ71の方向に移動し、プーリ溝74が狭められ、伝動ベルト55が放射外方にスライドし出力側ベルト半径が大きくなる。他方、プライマリ変速バルブ85のドレイン85aが開放され、フロント油圧室67およびリア油圧室68内の油圧が低下し、伝動ベルト55が放射内方にスライドし入力側ベルト半径が小さくなる。
【0073】
その結果、出力側ベルト半径/入力側ベルト半径で表される変速比が、無段階で徐徐にロー変速比となり車両1が減速される。
【0074】
プライマリ変速バルブ85のドレイン85aが開放されると、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67およびリア油圧室68内のオイルが油路51b、51cを通り、油路51aから排出油路92に排出され、太実線の矢印で示すように、ドレイン85aを経由してトランスアクスルケース17の排出油路92を通り、ロワーバルブボディ82aの後方排出口82gからオイルパン56内に排出される。
【0075】
このとき、車両1が減速されているので、オイルパン56内のオイルは、その慣性力により車両の前方側に流動し、オイルパン56内で偏った油面となっている。この状態で、後方排出口82gから油面が低下している車両の後方側に、フロント油圧室67およびリア油圧室68内のオイルが大量に排出されるので、車両の後方側の油面が上昇し、ストレーナ83の吸込口83sがオイルで覆われることになる。その結果、車両1が減速されたときでも、ストレーナ83の吸込口83sから空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止される。
【0076】
また、車両1が加速されたときは、アクセル操作完了により、ハイ変速比になるよう電子制御ユニット4により、制御される。すなわち、図3および図7に示すように、プライマリ変速バルブ85の変速圧が高められ、太実線の矢印で示すように、供給油路91を介して、油路51aおよび油路51b、51cを通り、フロント油圧室67およびリア油圧室68にオイルが供給され、フロント油圧室67およびリア油圧室68の油圧が高められる。
【0077】
このとき、まず、フロント油圧室67内の油圧により可動シーブ62が固定シーブ61の方向に移動し、同時に、リア油圧室68内の油圧により、ピストン65が押圧されることにより、可動シーブ62のシリンダ部62aがピストン65により押圧され、さらに加速して可動シーブ62が固定シーブ61の方向に移動しプーリ溝66が狭められ、伝動ベルト55が放射外方にスライドし入力側ベルト半径が大きくなる。他方、セカンダリ変速バルブ86のドレイン86aが開放され、セカンダリ油圧室78内の油圧が低下し、伝動ベルト55が放射内方にスライドし入力側ベルト半径が小さくなる。
【0078】
その結果、出力側ベルト半径/入力側ベルト半径で表される変速比が、無段階で徐徐にハイ変速比となり車両1が加速される。
【0079】
セカンダリ変速バルブ86のドレイン86aが開放されると、第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78内のオイルが油路53b、53cを通り、油路53aから排出油路92に排出され、太実線の矢印で示すように、ドレイン86aを経由してトランスアクスルケース17の排出油路92を通り、ロワーバルブボディ82aの前方排出口82zからオイルパン56内に排出される。
【0080】
このとき、車両1が加速されているので、オイルパン56内のオイルは、その慣性力により車両の後方側に流動し、オイルパン56内で偏った油面となっている。この状態で、前方排出口82zから油面が低下している車両の前方側に、セカンダリ油圧室78内のオイルが大量に排出されるので、車両の前方側の油面が上昇し、ストレーナ83の吸込口83sがオイルで覆われることになる。その結果、車両1が加速されたときでも、ストレーナ83の吸込口83sから空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止される。
【0081】
このように、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置8においては、以上説明したように構成されているので、次の効果が得られる。
【0082】
すなわち、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置8は、プライマリプーリ52と、セカンダリプーリ54と、伝動ベルト55と、オイルパン56と、バルブボディ82およびストレーナ83を有するオイル供給手段57とを備え、オイル供給手段57が、オイルパン56内のオイルをフロント油圧室67、リア油圧室68およびセカンダリ油圧室78に供給する供給油路91と、フロント油圧室67、リア油圧室68内およびセカンダリ油圧室78内のオイルをオイルパン56内に排出させる排出油路92とを有し、ロワーバルブボディ82aが、車両1の前進方向に位置する前方部82mと、車両1の後進方向に位置する後方部82uとを有し、ストレーナ83が、前方部82mと後方部82uとの間の中間部とを有し、中間部に供給油路91にオイルを供給するようオイルパン56内のオイルを吸い込む吸込口83sが形成され、後方部82uにフロント油圧室67、リア油圧室68内のオイルを排出油路92からオイルパン56内に排出させるよう後方排出口82gが形成され、前方部82mにセカンダリ油圧室78内のオイルを排出油路92からオイルパン56内に排出させるよう前方排出口82zが形成されたことを特徴としている。
【0083】
その結果、車両1が減速されたときは、プライマリ変速バルブ85のドレイン85aが開放され、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67およびリア油圧室68内のオイルが排出油路92に排出され、ドレイン85aを経由してトランスアクスルケース17の排出油路92を通り、ロワーバルブボディ82aの後方排出口82gからオイルパン56内に排出される。
【0084】
このとき、車両1の減速により、オイルパン56内のオイルが、その慣性力により車両の前方側に流動し、オイルパン56内で偏った油面となっているが、後方排出口82gから油面が低下している車両の後方側に、フロント油圧室67およびリア油圧室68内のオイルが大量に排出されるので、車両の後方側の油面が、図6の点線位置で示す従来の油面から太線位置にまで上昇し、ストレーナ83の吸込口83sがオイルで覆われることになる。したがって、車両1が減速されたときでも、ストレーナ83の吸込口83sから空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止され、空気の混入したオイルによる変速比の制御性の悪化を未然に防止できるという効果が得られる。
【0085】
また、車両1が加速されたときは、セカンダリ変速バルブ86のドレイン86aが開放され、第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78内のオイルが排出油路92に排出され、ドレイン86aを経由してトランスアクスルケース17の排出油路92を通り、ロワーバルブボディ82aの前方排出口82zからオイルパン56内に排出される。
【0086】
このとき、車両1の加速により、オイルパン56内のオイルが、その慣性力により車両の後方側に流動し、オイルパン56内で偏った油面となっているが、前方排出口82zから油面が低下している車両の前方側に、セカンダリ油圧室78内のオイルが大量に排出されるので、車両の前方側の油面が、図7の点線位置で示す従来の油面から太線位置にまで上昇し、ストレーナ83の吸込口83sがオイルで覆われることになる。したがって、車両1が加速されたときでも、ストレーナ83の吸込口83sから空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止され、空気の混入したオイルによる変速比の制御性の悪化を未然に防止できるという効果が得られる。
【0087】
本実施の形態に係る車両のベルト式無段変速装置8においては、オイル供給手段57がオイルポンプ81と接続されたプライマリレギュレータバルブ84と、プライマリレギュレータバルブ84と接続されたプライマリ変速バルブ85と、オイルポンプ81と接続されたセカンダリ変速バルブ86とを含んで構成し、全変速域において、プライマリプーリ油圧を変速圧とし、セカンダリプーリ油圧をライン圧として制御した場合について説明したが、本発明に係るベルト式無段変速装置においては、オイル供給手段を他の構成要素により構成してもよい。
【0088】
例えば、オイル供給手段を、オイルポンプと接続されたプライマリレギュレータバルブと、プライマリレギュレータバルブに接続されたプライマリ変速バルブと、プライマリレギュレータバルブに接続されたセカンダリ変速バルブとを含んで構成した、いわゆる両調圧方式であってもよい。この場合、ロー変速比側の変速域においては、プライマリプーリ油圧を変速圧とし、セカンダリプーリ油圧をライン圧とし、ハイ変速比側の変速域においては、プライマリプーリ油圧をライン圧とし、セカンダリプーリ油を変速圧として制御するようにしてもよい。
【0089】
本実施の形態に係る車両のベルト式無段変速装置8においては、第1油圧アクチュエータ58が、フロント油圧室67とリア油圧室68により構成されるいわゆるダブルピストン型のアクチュエータで構成した場合について説明したが、本発明に係るベルト式無段変速装置においては、第1油圧アクチュエータは、ダブルピストン型のアクチュエータ以外のもので構成してもよい。例えば、油圧室が単一の、いわゆるシングルピストン型のアクチュエータで構成してもよい。
【0090】
(第2の実施の形態)
図8は、本発明の第2の実施の形態に係るベルト式無段変速装置108のオイルパン56の図9のB−B断面を示す断面図とオイル供給手段157の構成を示す模式図であり、図9は、オイルパン56をトランスアクスルケース17から取り外し、オイルパン56側からトランスアクスルケース17側を見たトランスアクスル103の底面図である。図10は、オイル供給手段157の一部断面図であり、(a)は、車両の前方側の一部断面図を示し、(b)は、車両の後方側の一部断面図を示す。
【0091】
なお、第2の実施の形態に係るベルト式無段変速装置108においては、第1の実施の形態におけるロワーバルブボディ82aに後方導入板111および前方導入板112が設けられている点が異なっているが、他の構成は、同様に構成されている。したがって、同一の構成については、図1から図7に示した第1の実施の形態と同一の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0092】
まず、構成について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る車両100は、第1の実施の形態に係る車両1と同様に構成されており、車両100は、エンジン2と、トランスアクスル103と、電子制御ユニット4とを含んで構成されている。トランスアクスル103は、第1の実施の形態と同様、トルクコンバータ5と、前後進切替機構7と、ベルト式無段変速装置108とを含んで構成されており、他の構成要素は第1の実施の形態と同様に構成されている。
【0093】
図2および図3に示すように、ベルト式無段変速装置108は、オイル供給手段157を含んで構成されており、他の構成要素は第1の実施の形態と同様に構成されている。また、オイル供給手段157は、バルブボディ182を含んで構成されており、他の構成要素は第1の実施の形態と同様に構成されている。
【0094】
図8に示すように、バルブボディ182は、ロワーバルブボディ182aと、第1導入板としての後方導入板111と、第2導入板としての前方導入板112と、ロワーバルブボディ182aの上面部182jに図示しないボルトで取り付けられたアッパーバルブボディ182bとにより構成されており、ロワーバルブボディ182aの上面部182jでトランスアクスルケース17に設けられた取付部17a、17bに固定されている。また、ロワーバルブボディ182aの下面部182kには、第1の実施の形態と同様に、ストレーナ83が固定されており、ストレーナ83から吸入させたオイルパン56内のオイルがロワーバルブボディ182aに供給されるようになっている。
【0095】
図8に示すように、ロワーバルブボディ182aには、車両の前進方向に位置する前方部182mに、排出油路92と連通する第2排出口としての前方排出口182zが形成されており、オイル供給手段157の排出油路92からオイルパン56内にオイルが排出されるようになっている。また、ロワーバルブボディ182aには、車両の後進方向に位置する後方部182uに、排出油路92と連通する第1排出口としての後方排出口182gが形成されており、オイル供給手段157の排出油路92からオイルパン56内にオイルが排出されるようになっている。
【0096】
また、図8ないし図10(a)、(b)に示すように、ロワーバルブボディ182aの内部には、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67、リア油圧室68および第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78にオイルパン56内のオイルを供給する供給油路91の一部と、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67内、リア油圧室68内および第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78内のオイルをオイルパン56内に排出させる排出油路92の一部とが形成されている。
【0097】
ロワーバルブボディ182aに形成された供給油路91とトランスアクスルケース17に形成された供給油路91とが連通し、ロワーバルブボディ182aに形成された排出油路92と、トランスアクスルケース17に形成された排出油路92とが連通している。
【0098】
ストレーナ83の吸込口83sは、ロワーバルブボディ182aに形成された後方排出口182gと、前方排出口182zとの中間部に位置しており、この吸込口83sからオイルパン56内のオイルが吸い込まれ、フィルタを介して浄化されて、ロワーバルブボディ182aの供給油路91に供給されるようになっている。
【0099】
図8ないし図10(b)に示すように、後方導入板111は、金属またはプラスチックからなり、図9に示すように、長さL、幅Lを有しており、図10(b)に示すように、その断面が、くの字状になるよう折り曲げられて形成されている。また、後方導入板111は、ロワーバルブボディ182aの下面部182kに当接する上面部111jと、オイルパン56内に突出した側面部111sとを有しており、上面部111jには、図示しない取付孔が形成されている。
【0100】
この取付孔に、フランジボルトなどの締結具111aが挿通され、ロワーバルブボディ182aの下面部182kに設けられたねじ穴に、固定されるようになっている。この後方導入板111は、ロワーバルブボディ182aの後方排出口182gとストレーナ83の後方端部83gとの間に、側面部111sが位置するよう配置されており、後方排出口182gから排出されるオイルが、図10(b)に示す、ストレーナ83の上面部83jとロワーバルブボディ182aの下面部182kとの間に形成されている隙間Sに流入しないよう、オイルをオイルパン56の下部に導いている。
【0101】
前方導入板112も、後方導入板111と同様に、金属またはプラスチックからなり、図9に示すように、長さL、幅Lを有しており、図10(a)に示すように、その断面が、くの字状になるよう折り曲げられて形成されている。また、前方導入板112は、ロワーバルブボディ182aの下面部182kに当接する上面部112jと、オイルパン56内に突出した側面部112sとを有しており、上面部112jには、図示しない取付孔が形成されている。
【0102】
この取付孔に、フランジボルトなどの締結具112aが挿通され、ロワーバルブボディ182aの下面部182kに設けられたねじ穴に、固定されるようになっている。この前方導入板112は、ロワーバルブボディ182aの前方排出口182zとストレーナ83の前方端部83zとの間に、側面部112sが位置するよう配置されており、前方排出口182zから排出されるオイルが、図10(a)に示す、ストレーナ83の上面部83jとロワーバルブボディ182aの下面部182kとの間に形成されている隙間Sに流入しないよう、オイルをオイルパン56の下部に導いている。
【0103】
後方導入板111の長さL、幅L、および前方導入板112の長さL、幅L、後方導入板111および前方導入板112のロワーバルブボディ182aにおける配置は、車種やベルト式無段変速装置108の構造、大きさなどの設定条件に基づいて適宜選択される。
【0104】
次に、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置108の動作について説明する。
【0105】
図11は、本発明の第2の実施の形態に係るベルト式無段変速装置108のオイルパン56の断面とオイル供給手段157の構成を示す模式図であり、車両100が減速したときのオイルパン56内の油面の状態を示す。図12は、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置108のオイルパン56の断面とオイル供給手段157の構成を示す模式図であり、車両100が加速したときのオイルパン56内の油面の状態を示す。
【0106】
本実施の形態に係るベルト式無段変速装置108においては、エンジン2が駆動し、最終的に各前輪22に動力が伝達されるまでの動作は、第1の実施の形態と同様に行われる。
【0107】
本実施の形態に係るベルト式無段変速装置108においては、第1の実施の形態と同様に、車両100が減速されたときは、図2および図11に示すように、電子制御ユニット4により、セカンダリ変速バルブ86の変速圧が高められ、太実線の矢印で示すように、供給油路91を介して、油路53a、53bおよび53cを通ってセカンダリ油圧室78にオイルが供給され、セカンダリ油圧室78内の油圧が高められる。このとき、可動シーブ72が固定シーブ71の方向に移動し、プーリ溝74が狭められ、伝動ベルト55が放射外方にスライドし出力側ベルト半径が大きくなる。他方、プライマリ変速バルブ85のドレイン85aが開放され、フロント油圧室67およびリア油圧室68内の油圧が低下し、伝動ベルト55が放射内方にスライドし入力側ベルト半径が小さくなる。
【0108】
その結果、出力側ベルト半径/入力側ベルト半径で表される変速比が、無段階で徐徐にロー変速比となり車両100が減速される。
【0109】
プライマリ変速バルブ85のドレイン85aが開放されると、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67およびリア油圧室68内のオイルが油路51b、51cを通り、油路51aから排出油路92に排出され、太実線の矢印で示すように、ドレイン85aを経由してトランスアクスルケース17の排出油路92を通り、ロワーバルブボディ182aの後方排出口182gからオイルパン56内に排出される。
【0110】
このとき、車両100が減速されているので、オイルパン56内のオイルは、その慣性力により車両の前方側に流動し、オイルパン56内で偏った油面となっている。この状態で、後方排出口182gから油面が低下している車両の後方側に、フロント油圧室67およびリア油圧室68内のオイルが大量に排出される。
【0111】
後方排出口182gから排出されたオイルは、下方の油面に落下するとともに、後方導入板111の側面部111sで下方に導かれるので、ストレーナ83の上面部83jとロワーバルブボディ182aの下面部182kとの間に形成されている隙間Sに流入することが防止される。排出されたオイルにより、車両の後方側の油面が、図11の点線位置で示す従来の油面から太線位置にまで上昇し、ストレーナ83の吸込口83sがオイルで覆われることになる。その結果、車両100が減速されたときでも、ストレーナ83の吸込口83sから空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止される。
【0112】
また、車両100が加速されたときは、アクセル操作完了により、ハイ変速比になるよう電子制御ユニット4により、制御される。すなわち、図3および図12に示すように、プライマリ変速バルブ85の変速圧が高められ、太実線の矢印で示すように、供給油路91を介して、油路51aおよび油路51b、51cを通り、フロント油圧室67およびリア油圧室68にオイルが供給され、フロント油圧室67およびリア油圧室68の油圧が高まる。
【0113】
このとき、まず、フロント油圧室67内の油圧により可動シーブ62が固定シーブ61の方向に移動し、同時に、リア油圧室68内の油圧により、ピストン65が押圧されることにより、可動シーブ62のシリンダ部62aがピストン65により押圧され、さらに加速して可動シーブ62が固定シーブ61の方向に移動しプーリ溝66が狭められ、伝動ベルト55が放射外方にスライドし入力側ベルト半径が大きくなる。他方、セカンダリ変速バルブ86のドレイン86aが開放され、セカンダリ油圧室78内の油圧が低下し、伝動ベルト55が放射内方にスライドし入力側ベルト半径が小さくなる。
【0114】
その結果、出力側ベルト半径/入力側ベルト半径で表される変速比が、無段階で徐徐にハイ変速比となり車両1が加速される。
【0115】
セカンダリ変速バルブ86のドレイン86aが開放されると、第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78内のオイルが油路53b、53cを通り、油路53aから排出油路92に排出され、太実線の矢印で示すように、ドレイン86aを経由してトランスアクスルケース17の排出油路92を通り、ロワーバルブボディ182aの前方排出口182zからオイルパン56内に排出される。
【0116】
このとき、車両100が加速されているので、オイルパン56内のオイルは、その慣性力により車両の後方側に流動し、オイルパン56内で偏った油面となっている。この状態で、前方排出口182zから油面が低下している車両の前方側に、セカンダリ油圧室78内のオイルが大量に排出される。
【0117】
前方排出口182zから排出されたオイルは、下方の油面に落下するとともに、前方導入板112の側面部112sで下方に導かれるので、ストレーナ83の上面部83jとロワーバルブボディ182aの下面部182kとの間に形成されている隙間Sに流入することが防止される。排出されたオイルにより、車両の前方側の油面が、図12の点線位置で示す従来の油面から太線位置にまで上昇し、ストレーナ83の吸込口83sがオイルで覆われることになる。その結果、車両1が加速されたときでも、ストレーナ83の吸込口83sから空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止される。
【0118】
このように、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置108においては、以上説明したように構成されているので、次の効果が得られる。
【0119】
すなわち、本実施の形態に係るベルト式無段変速装置108は、プライマリプーリ52と、セカンダリプーリ54と、伝動ベルト55と、オイルパン56と、バルブボディ182およびストレーナ83を有するオイル供給手段157とを備え、オイル供給手段157が、オイルパン56内のオイルをフロント油圧室67、リア油圧室68およびセカンダリ油圧室78に供給する供給油路91と、フロント油圧室67、リア油圧室68内およびセカンダリ油圧室78内のオイルをオイルパン56内に排出させる排出油路92とを有し、ロワーバルブボディ182aが、車両100の前進方向に位置する前方部182mと、車両100の後進方向に位置する後方部182uとを有し、ストレーナ83が、前方部182mと後方部182uとの間の中間部とを有し、中間部に供給油路91にオイルを供給するようオイルパン56内のオイルを吸い込む吸込口83sが形成され、後方部182uにフロント油圧室67、リア油圧室68内のオイルを排出油路92からオイルパン56内に排出させるよう後方排出口182gが形成され、前方部182mにセカンダリ油圧室78内のオイルを排出油路92からオイルパン56内に排出させるよう前方排出口182zが形成され、さらに、ロワーバルブボディ182aの下面部182kに後方導入板111および前方導入板112が設けられたことを特徴としている。
【0120】
その結果、車両100が減速されたときは、プライマリ変速バルブ85のドレイン85aが開放され、第1油圧アクチュエータ58のフロント油圧室67およびリア油圧室68内のオイルが排出油路92に排出され、ドレイン85aを経由してトランスアクスルケース17の排出油路92を通り、ロワーバルブボディ182aの後方排出口182gからオイルパン56内に排出される。このとき、車両1の減速により、オイルパン56内のオイルが、その慣性力により車両の前方側に流動し、オイルパン56内で偏った油面となっているが、後方排出口182gから油面が低下している車両の後方側に、フロント油圧室67およびリア油圧室68内のオイルが大量に排出される。
【0121】
後方排出口182gから排出されたオイルは、下方の油面に落下するとともに、後方導入板111の側面部111sで下方に導かれるので、ストレーナ83の上面部83jとロワーバルブボディ182aの下面部182kとの間に形成されている隙間Sに流入することが防止され、オイルパン56の下方の油面に落下するオイル量が減少することはないという効果がある。
【0122】
排出されたオイルにより、車両の後方側の油面が上昇し、ストレーナ83の吸込口83sがオイルで覆われることになる。したがって、車両100が減速されたときでも、ストレーナ83の吸込口83sから空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止され、空気の混入したオイルによる変速比の制御性の悪化を未然に防止できるという効果が得られる。
【0123】
また、車両100が加速されたときは、セカンダリ変速バルブ86のドレイン86aが開放され、第2油圧アクチュエータ59のセカンダリ油圧室78内のオイルが排出油路92に排出され、ドレイン86aを経由してトランスアクスルケース17の排出油路92を通り、ロワーバルブボディ182aの前方排出口182zからオイルパン56内に排出される。
【0124】
このとき、車両1の加速により、オイルパン56内のオイルが、その慣性力により車両の後方側に流動し、オイルパン56内で偏った油面となっているが、前方排出口182zから油面が低下している車両の前方側に、セカンダリ油圧室78内のオイルが大量に排出される。
【0125】
前方排出口182zから排出されたオイルは、下方の油面に落下するとともに、前方導入板112の側面部112sで下方に導かれるので、ストレーナ83の上面部83jとロワーバルブボディ182aの下面部182kとの間に形成されている隙間Sに流入することが防止され、オイルパン56の下方の油面に落下するオイル量が減少することはないという効果がある。排出されたオイルにより、車両の前方側の油面が上昇し、ストレーナ83の吸込口83sがオイルで覆われることになる。したがって、車両1が加速されたときでも、ストレーナ83の吸込口83sから空気が吸い込まれることはなく、未然に空気の吸い込みが防止され、空気の混入したオイルによる変速比の制御性の悪化を未然に防止できるという効果が得られる。
【0126】
本第1および第2の実施の形態に係る車両のベルト式無段変速装置8、108においては、トランスアクスル3、103を構成するものとして説明したが、本発明に係るベルト式無段変速装置においては、トランスアクスル以外の変速機を構成するものに適用してもよい。例えば、トランスミッションを構成するものであってもよい。
【0127】
以上説明したように、本発明は、車両の走行状態の如何に関わらず、オイルパン内の油面の低下が抑制され変速比の制御性の悪化を未然に防止することができる車両のベルト式無段変速装置を提供することができるものであり、特に油圧により変速比を変更する無段変速装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るベルト式無段変速装置を含む車両の一部を示すスケルトン図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るベルト式無段変速装置の断面図であり、プライマリプーリのプーリ溝の幅を小さくするとともにセカンダリプーリのプーリ溝の幅を大きくした車両の減速状態を示す。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るベルト式無段変速装置の断面図であり、プライマリプーリのプーリ溝の幅を大きくするとともにセカンダリプーリのプーリ溝の幅を小さくした車両の加速状態を示す。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るベルト式無段変速装置のオイルパンの図5のA−A断面を示す断面図とオイル供給手段の構成を示す模式図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るベルト式無段変速装置のオイルパンをトランスアクスルケースから取り外し、オイルパン側からトランスアクスルケース側を見たトランスアクスルの底面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るベルト式無段変速装置のオイルパンの断面とオイル供給手段の構成を示す模式図であり、車両が減速したときのオイルパン内の油面の状態を示す。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るベルト式無段変速装置のオイルパンの断面とオイル供給手段の構成を示す模式図であり、車両が加速したときのオイルパン内の油面の状態を示す。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るベルト式無段変速装置のオイルパンの図9のB−B断面を示す断面図とオイル供給手段の構成を示す模式図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るベルト式無段変速装置のオイルパンをトランスアクスルケースから取り外し、オイルパン側からトランスアクスルケース側を見たトランスアクスルの底面図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係るベルト式無段変速装置のオイル供給手段の一部断面図であり、(a)は、車両の前方側の一部断面図を示し、(b)は、車両の後方側の一部断面図を示す。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係るベルト式無段変速装置のオイルパンの断面とオイル供給手段の構成を示す模式図であり、車両が減速したときのオイルパン内の油面の状態を示す。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係るベルト式無段変速装置のオイルパンの断面とオイル供給手段の構成を示す模式図であり、車両が加速したときのオイルパン内の油面の状態を示す。
【符号の説明】
【0129】
1、100 車両
8、108 ベルト式無段変速装置
51a、51b、51c 油路(供給油路、排出油路)
52 プライマリプーリ
53a、53b、53c 油路(供給油路、排出油路)
54 セカンダリプーリ
55 伝動ベルト
56 オイルパン
57、157 オイル供給手段
58 第1油圧アクチュエータ
59 第2油圧アクチュエータ
67 フロント油圧室(第1油圧室)
68 リア油圧室(第1油圧室)
78 セカンダリ油圧室(第2油圧室)
81 オイルポンプ
82、182 バルブボディ
82g、182g 後方排出口(第1排出口)
82m、182m 前方部
82u、182u 後方部
82z、182z 前方排出口(第2排出口)
83 ストレーナ
83g 後方端部
83z 前方端部
91 供給油路
92 排出油路
111 後方導入板(第1導入板)
112 前方導入板(第2導入板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1油圧室を有する第1油圧アクチュエータにより駆動されるプライマリプーリと、
第2油圧室を有する第2油圧アクチュエータにより駆動されるセカンダリプーリと、
前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとに巻き掛けられた伝動ベルトと、
前記第1油圧室および前記第2油圧室に供給されるオイルを貯留するオイルパンと、
前記第1油圧室および前記第2油圧室に前記オイルを供給する供給部材を有するオイル供給手段と、を備えた車両のベルト式無段変速装置において、
前記オイル供給手段が、前記オイルパン内のオイルを前記第1油圧室および前記第2油圧室に供給する供給油路と、前記第1油圧室内および前記第2油圧室内の前記オイルを前記オイルパン内に排出させる排出油路とを有し、
前記供給部材が、前記車両の前進方向に位置する前方部と、前記車両の後進方向に位置する後方部と、前記前方部と前記後方部との間の中間部とを有し、
前記中間部に前記供給油路に前記オイルを供給するよう前記オイルパン内のオイルを吸い込む吸込口が形成され、
前記後方部に前記第1油圧室内の前記オイルを前記排出油路から前記オイルパン内に排出させるよう第1排出口が形成され、
前記前方部に前記第2油圧室内の前記オイルを前記排出油路から前記オイルパン内に排出させるよう第2排出口が形成されたことを特徴とする車両のベルト式無段変速装置。
【請求項2】
前記オイル供給手段が、前記オイルパン内のオイルを前記第1油圧室および前記第2油圧室に供給するオイルポンプを有し、
前記供給部材が、前記供給油路と、前記排出油路とを有するバルブボディと、前記バルブボディの下部に支持され、前記供給油路を有するストレーナとを有し、前記バルブボディに前記第1排出口および前記第2排出口が形成されるとともに、前記ストレーナに前記吸込口が形成され、前記オイルポンプにより前記ストレーナおよび前記バルブボディを介して前記オイルを供給することを特徴とする請求項1に記載の車両のベルト式無段変速装置。
【請求項3】
前記ストレーナが、前記第1排出口より前記車両の前進方向に位置する後方端部を有し、
前記バルブボディが、前記第1排出口から排出される前記オイルを前記オイルパン内に導入させる第1導入板を有し、前記第1導入板が、前記第1排出口と前記後方端部との間に配置されたことを特徴とする請求項2に記載の車両のベルト式無段変速装置。
【請求項4】
前記ストレーナが、前記第2排出口より前記車両の後進方向に位置する前方端部を有し、
前記バルブボディが、前記第2排出口から排出される前記オイルを前記オイルパン内に導入させる第2導入板を有し、前記第2導入板が、前記第2排出口と前記前方端部との間に配置されたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両のベルト式無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−25287(P2010−25287A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189795(P2008−189795)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】