車両のレーン走行支援装置
【課題】 ナビゲーション装置の検出情報に基づき車両進行方向の道路曲率を演算すると共に、走行レーン検出手段の検出情報等に基づき道路曲率を演算し、これらを照合して推定した道路曲率に基づき車両のレーン走行支援を行う安価な装置を提供する。
【解決手段】 操舵制御手段(電動パワーステアリングシステム)と、走行レーン検出手段(カメラ等)を備え、その検出結果と車両の操舵状態及び走行状態に応じて、修正操舵を行ない車両の走行レーン内の走行を支援する。特に、車両状態量演算手段の演算結果及び状態検出手段の検出結果に基づいて演算した第1の道路曲率と、ナビゲーション装置NAVが検出した車両の進行方向の所定距離分の位置座標に基づいて演算した第2の道路曲率に基づき、車両進行方向の道路曲率を推定し、この道路曲率並びに車両の操舵状態及び走行状態に基づき目標状態量を設定する。
【解決手段】 操舵制御手段(電動パワーステアリングシステム)と、走行レーン検出手段(カメラ等)を備え、その検出結果と車両の操舵状態及び走行状態に応じて、修正操舵を行ない車両の走行レーン内の走行を支援する。特に、車両状態量演算手段の演算結果及び状態検出手段の検出結果に基づいて演算した第1の道路曲率と、ナビゲーション装置NAVが検出した車両の進行方向の所定距離分の位置座標に基づいて演算した第2の道路曲率に基づき、車両進行方向の道路曲率を推定し、この道路曲率並びに車両の操舵状態及び走行状態に基づき目標状態量を設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のレーン走行支援装置に関し、特に、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から走行レーンを検出する走行レーン検出手段を備え、これらによって、走行レーン内を車両が走行するように支援する車両のレーン走行支援装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両のレーン走行支援装置としては、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段を備え、これを制御して車両が走行レーン内を走行するように支援するレーンキープアシストが基本であるが、更に、走行支援を越えて、運転者の操作とは無関係に自動的に操舵制御を行ない、車両が走行レーン内の走行を維持し得るように制御する装置も知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、自ら走行路を探索しながら、その走行路上に最適な目標経路を設定して、車両がその目標経路上を走行するように支援する車両の走行制御を行なわせることを目的とし、以下のように構成された自動走行装置が提案されている。即ち、撮像装置により車両の進行方向の領域を撮像した画像にもとづいて道路エッジを認識することにより自ら走行可能領域を探索しながら、その走行可能領域内に適切な目標経路を設定し、そのときの車両の走行状態にしたがって車両をその目標経路に合流させるための最適な制御目標量を求めて、その制御目標量に応じて車両の走行制御を行なわせる旨記載されている。
【0004】
あるいは、下記の特許文献2には、例えばプラント、工場等の床面に安全通路を表示するため前記通路両側に標記された白線を誘導帯として使用し、特に狭隘な場所でのコーナリングが容易になし得ることを目的として、安全通路の限界を示すために床面に設けられた白線等をそのまま誘導帯として使用し、走行車の現在の方位とコーナ部の角度とから操舵量を算出してコーナリングを行うように構成された走行車の誘導装置が提案されている。
【0005】
更に、下記の特許文献3には、運転者がハンドル操作しなくても前方の走行レーン上を外れることなく走行することができる自動車用自動操舵装置が提案されている。この特許文献3には、自動車の右側下方向の進路を撮影する撮影手段と、この撮影手段にて撮影した道路の中から隣接する走行レーンの境界を示すラインを認識する認識手段と、この認識手段にて認識したラインの基準位置からの距離を検出する距離検出手段と、この距離検出手段にて検出した距離に応じた舵角制御信号を発生する舵角制御手段と、この舵角制御手段からの舵角制御信号を受けて車両の進行方向を変化させる舵角駆動手段とを備え、前記舵角制御信号による舵角制御手段の作動にて前記距離検出手段にて検出される距離を所定値に保持せしめるようにする旨記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−48704号公報
【特許文献2】特開平2−27408号公報
【特許文献3】特開昭60−37011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献に記載の装置によれば、何れも画像によって検出した車両等の走行レーンに沿ってコーナリングを行なうことが可能とされている。この場合において、現実的な対応としては、必ずしも運転者の操作と無関係に自動的に操舵することは必要ではなく、例えば運転者によるステアリングホイールの操作に対し、車両が走行レーンの中央を維持するように操舵トルクを付加することによって、ステアリングホイールの操作負荷を軽減し、巡航運転を支援することができる。
【0008】
このようなレーン走行支援装置においては、カメラで撮像した画像から路面上の走行レーンを適切且つ安定的に検出することが重要となる。通常、路面上には、走行レーン(車線)の境界を識別するレーン境界線をはじめ種々の目的に応じて標示線(レーンマーク)が塗装されており、実線のみならず破線のレーンマークや、白色あるいは黄色というように異なる色彩のレーンマークが混在し、更には、これらが複合されたものも存在する。また、レーンマークは直線に限らず曲線も存在するが、この曲線のレーンマークを特定するための曲率を求めるには遠方までレーンマークを確実に検出する必要が生ずる。従って、レーン走行支援装置に供する撮像手段としては、遠方までレーンマークを高精度で検出し得る前方監視カメラが必要とされる。
【0009】
ところで、近時の車両には、車両前方あるいは後方の近傍の確認や駐車支援用に前方監視カメラや後方監視カメラが装着されているものがある。しかし、これら既設の前方監視カメラや後方監視カメラは近傍の画像を確保し得るに留まり、遠方の画像は不鮮明となるので、曲線のレーンマークに対し正確に進行方向の曲率を求めることはできない。従って、過去の走行軌跡から曲率を求め、これを代用せざるを得ないが、このようなレーンマークの検出に既設のカメラが転用されることはなく、別途、高性能の前方監視カメラが採用され高価な装置となっていた。
【0010】
一方、前掲の特許文献1にはナビゲーションシステムが開示されているが、近時のナビゲーション装置の進展は目覚しく、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)及び慣性航法を用いて車両の現在位置を高精度で特定し得るに至っている。従って、このようなナビゲーション装置によって車両の進行方向の道路形状情報を検出することが可能となり、道路形状情報として、車両の進行方向の所定位置での位置座標を検出し得るようになる。然し乍ら、ナビゲーション装置の検出情報のみを用いて車両の進行方向の位置座標を特定する場合には、ナビゲーション装置の精度に依存する所が大となり、高性能の装置が必要となり、高価となる。加えて、上述の高性能の前方監視カメラが必要とされる場合には非常に高価な装置となり、コスト的に到底見合うものではない。
【0011】
そこで、本発明は、操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像した画像から走行レーンを検出する走行レーン検出手段を備え、これらによって、車両が走行レーン内を走行するように支援する車両のレーン走行支援装置において、ナビゲーション装置の検出情報に基づき車両進行方向の道路曲率を演算すると共に、走行レーン検出手段の検出情報等に基づき車両の移動軌跡に沿った道路曲率を演算し、これらを照合して推定した車両進行方向の道路曲率に基づき車両のレーン走行支援を行い得る安価なレーン走行支援装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を達成するため、本発明は、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から、前記走行レーンを標示するレーンマークを検出する走行レーン検出手段と、前記車両の進行方向の所定距離分の位置座標を含む道路形状情報を検出するナビゲーション装置とを備え、前記車両の操舵状態及び走行状態を検出する状態検出手段と、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記車両の状態量を演算する車両状態量演算手段と、該車両状態量演算手段の演算結果及び前記状態検出手段の検出結果に基づき前記車両の進行方向の第1の道路曲率を演算する第1の道路曲率演算手段と、前記ナビゲーション装置が検出した前記車両の進行方向の所定距離分の位置座標に基づき前記車両の進行方向の第2の道路曲率を演算する第2の道路曲率演算手段と、該第2の道路曲率演算手段の演算結果と前記第1の道路曲率演算手段の演算結果に基づき前記車両の進行方向の道路曲率を推定する道路曲率推定手段と、該道路曲率推定手段が推定した道路曲率並びに前記状態検出手段が検出した車両の操舵状態及び走行状態に基づき前記車両に対する目標状態量を設定する目標状態量設定手段とを備え、該目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との比較結果に応じて前記車両の前記走行レーン内の走行を支援するように構成したものである。
【0013】
尚、前記車両状態量演算手段における車両の操舵状態及び走行状態を表す指標としては、例えば操舵角及びヨーレイトがあり、前記目標状態量設定手段における車両の操舵状態及び走行状態を表す指標としては、例えば操舵角及び車体速度がある。そして、前記状態量を表す指標としては、前記走行レーン内における前記車両の横方向位置たるレーン位置、その微分値であるレーン位置変動速度、前記車両のヨー角、及びヨーレイトがある。前記操舵制御手段は、例えば電動パワーステアリングシステムを備えたものとするとよい。
【0014】
上記車両のレーン走行支援装置において、請求項2に記載のように、前記道路曲率推定手段は、前記車両が走行する道路のクロソイド情報を適用して前記道路曲率を推定するように構成するとよい。
【0015】
上記請求項1に記載の車両のレーン走行支援装置において、請求項3に記載のように、前記状態検出手段は、前記車両のヨーレイト及び車体速度を含む前記車両の操舵状態及び走行状態を検出し、前記車両状態量演算手段は、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記車両の前記走行レーンに対する相対位置を表す相対位置指標を含む状態量を演算し、前記第1の道路曲率演算手段は、前記車両状態量演算手段が演算した前記車両の相対位置指標、並びに前記状態検出手段が検出したヨーレイト及び車体速度に基づき、前記第1の道路曲率を演算するように構成するとよい。
【0016】
上記の各請求項に記載の車両のレーン走行支援装置において、請求項4に記載のように、前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との差に応じたフィードバック制御量と、前記道路曲率推定手段が推定した道路曲率に応じたフィードフォワード制御量との和に基づき、前記操舵制御手段による操舵制御を修正する修正操舵手段を備えたものとするとよい。尚、上記修正操舵手段と共に、あるいはこれとは別に、前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との比較結果に応じて、運転者に対して警報する警報手段を備えたものとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載のように構成された車両のレーン走行支援装置においては、車両状態量演算手段の演算結果及び状態検出手段の検出結果に基づいて演算された車両の進行方向の第1の道路曲率と、ナビゲーション装置によって検出された車両の進行方向の所定距離分の位置座標に基づいて演算された車両の進行方向の第2の道路曲率に基づき、車両の進行方向の道路曲率が正確に推定されるので、適切にレーン走行支援を行うことができる。
【0018】
特に、道路曲率推定手段を請求項2に記載のように構成すれば、走行道路のクロソイド情報によって道路曲率を容易且つ適切に推定することができる。
【0019】
更に、請求項3に記載のように構成すれば、上記のように道路曲率推定手段によって推定された道路曲率並びに状態検出手段にて検出された車両の操舵状態及び走行状態に基づき、車両に対する目標状態量が設定されるので、撮像手段の精度に大きく依存することなく、ナビゲーション装置の検出情報を活用し、曲線のレーンマークに対しても適用することができ、車両のレーン走行支援を適切に行なうことができる。また、前方監視カメラに限らず後方監視カメラを用いることもでき、更には既設の安価なカメラを用いることもできる。更に、請求項4に記載のように構成すれば、修正操舵手段によって、ナビゲーション装置の検出情報に基づき、車両のレーン走行支援を円滑に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る車両のレーン走行支援装置の構成を示すもので、車両前方(図1の上方)に、撮像手段として例えばccdカメラで構成された前方監視用のカメラCMfが配置されると共に、車両後方にも後方監視用のカメラCMrが配置されているが、何れか一方のカメラが設けられておればよい。また、本実施形態の操舵制御手段として電動パワーステアリングシステムEPSを備えている。このような電動パワーステアリングシステムEPSは既に市販されており、運転者によるステアリングホイールSWの操作によってステアリングシャフトに作用する操舵トルクを、操舵トルクセンサTSによって検出し、この検出操舵トルクの値に応じてEPSモータ(図1では図示省略)を制御し、減速ギヤ及びラックアンドピニオン(図示せず)を介して車両前方の車輪(図1では全車輪を代表してWHで表す)を操舵し、運転者のステアリング操作力(ハンドル操作力)を軽減するものである。
【0021】
本実施形態では、図1に示すように、画像処理用の電子制御ユニットECU1及び操舵制御用の電子制御ユニットECU2を備え、両者が通信バスを介して接続されている。電子制御ユニットECU1にはカメラCMf(及びCMr)が接続されており、画像信号が電子制御ユニットECU1に入力されるように構成されている。また、電子制御ユニットECU1には、車両前方の車輪WHの操舵角を検出する操舵角センサSS、車体速度を検出する車体速度センサVS、及び車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサYSが接続されているが、後述するように電子制御ユニットECU1及びECU2は相互に信号を送受信し得るように構成されるので、これらは電子制御ユニットECU2に接続してもよい。尚、車体速度センサVSに代えて、各車輪の車輪速度を検出する車輪速度センサ(図示せず)を備えたものとし、検出車輪速度に基づき車体速度を推定することとしてもよい。一方、電子制御ユニットECU2には、入力側に上記の操舵トルクセンサTS、及びEPSモータの回転角を検出する回転角センサRSが接続されると共に、出力側にEPSモータが接続されている。
【0022】
更に、電子制御ユニットECU1(又はECU2)には、GPS及び慣性航法を備えたナビゲーション装置NAVが接続されており、これによって検出される車両進行方向の道路形状情報が電子制御ユニットECU1に入力される。このときの道路形状情報としては車両進行方向の所定位置での位置座標を含み、ナビゲーション装置NAVとしては、この車両進行方向の所定位置での位置座標を取り出せる構成であれば市販の装置をそのまま利用することができ、基本的な構成は市販の装置と同様でよいので、説明は省略する。
【0023】
図2は本発明のシステム構成を示すもので、画像処理システム(図2の上方)及び操舵制御システム(図2の下方)が通信バスを介して接続されている。本実施形態の画像処理システムは、画像処理用のCPU、フレームメモリ等を備えた電子制御ユニットECU1に、前方監視カメラCMf及び後方監視カメラCMr、ヨーレイトセンサYS、操舵角センサSS、車体速度センサVS及びナビゲーション装置NAVが接続されている。また、本実施形態の操舵制御システムは、電動パワーステアリング制御用のCPU、ROM及びRAMを備えた電子制御ユニットECU2に、操舵トルクセンサTS及び回転角センサRSが接続されると共に、モータ駆動回路AC2を介してEPSモータMTが接続されている。更に、本実施形態では、警報用の電子制御ユニットECU3(図1では図示省略)を介して、警報表示や音声警報を出力する警報装置WAが接続されている。
【0024】
これらの電子制御ユニットECU1乃至ECU3は夫々、通信用のCPU、ROM及びRAMを備えた通信ユニットを介して通信バスに接続されており、各制御システムに必要な情報を他の制御システムから送信することができる。更に、図示は省略するが、この通信バスに、アクティブステアリングシステム、ブレーキ制御システム、スロットル制御システム等を接続し、各システム間で互いのシステム情報を共有することができるように構成することとしてもよい。尚、図1に示すように、電子制御ユニットECU1(又はECU2)には操作スイッチOSが接続されており、走行支援制御は運転者による操作スイッチOSの操作によって開始されるように構成されている。
【0025】
上記のように構成されたレーン走行支援装置において、レーン走行支援(レーンキープアシスト)制御部は、図3の制御ブロック図に示すように構成されており、カメラCMf(又はCMr)によって撮像された画像情報が図2の電子制御ユニットECU1にて画像処理されて走行レーンが検出される。この電子制御ユニットECU1には、レーン検出手段たるレーン認識演算部M1が構成されており、ここで、走行レーン内における車両の横方向位置y(レーン位置)及び走行レーンに対するヨー角ψが演算される。尚、画像処理による走行レーンの検出については前掲の特許文献1に記載された方法のほか、公知の何れの方法でもよい。
【0026】
上記のレーン認識演算部M1による演算結果とヨーレイトセンサYS及び操舵角センサSSの検出信号に基づき、車両状態量演算手段たる状態量演算部M2にて、レーン位置y、レーン横方向移動速度dy(走行レーン内における車両の横方向移動速度でレーン位置yの時間微分値)、ヨー角ψ、及びヨーレイトγをファクターとする現在の車両の状態量Xが推定演算される。即ち、車両の状態量をX、状態量出力をY、道路モデルの入力をUとすると、X=[y,dy,ψ,γ]T、Y=[y,dy,ψ,γ]T、U=[δf,ρ]Tと表すことができる。尚、δfは操舵角センサSSで検出される操舵角で、ρは走行路の道路曲率で、ここでは例えば前述のカメラ画像から推定演算される。そして、状態量推定値をXeとし、オブザーバゲインをLとすると、以下の状態方程式が成り立ち、状態量出力YはY=C・Xeとなる。
dXe/dt=A・Xe+B・U+Rl・L・(X−Xe)
【0027】
尚、上記の状態方程式におけるモデル定数A、B及びCは以下に示すとおりである。
A=[a11 a12 a13 a14 ; a21 a22 a23 a24 ; a31 a32 a33 a34 ; a41 a42 a43 a44]
B=[b11 b12 ; b21 b22 ; b31 b32 ; b41 b42]
C=[1 0 0 0 ; 0 1 0 0 ; 0 0 1 0 ; 0 0 0 1]
また、Rlは画像認識結果のレーン検出状態を表すファクターで、例えば、走行レーンが検出された状態が「1」で、未検出の状態が「0」とされる。これにより、レーンマークの連続線部が検出されたときにのみ走行レーン内における車両の横方向位置を推定するように構成し、あるいは、レーンマークの連続線部が検出されたときにのみ走行レーン内における車両の横方向位置を推定結果に反映するように構成することができる。
【0028】
一方、状態量演算部M2において車両の走行レーンに対する相対位置を表す相対位置指標が演算され、この相対位置指標並びにヨーレイトセンサYSの検出ヨーレイト及び車体速度センサVSの検出車体速度(車速Vx)に基づき、第1の道路曲率演算部M3にて第1の道路曲率が演算される。図5は絶対座標上の走行レーン中央軌跡(実線)と車両VHの走行軌跡(破線)を示すもので、レーン中央の位置座標を(xlc, ylc)で表し、車両の位置座標を(xv, yv)で表す。図中、Caは走行レーン中央軌跡の円弧中心を示す。
【0029】
本実施形態における第1の道路曲率演算アルゴリズムは以下のようになる。即ち、前述のように画像上で求めた車両のレーン位置yに基づき、図5に示す平面レーン座標(絶対座標)を生成し、検出ヨーレイトγ及び車速Vxに基づき車両の位置座標を演算すると共に、この演算結果とレーン位置yに基づきレーン中央の位置座標を演算し、これを蓄積して最小自乗法によって曲率計算を行うものである。具体的には、先ず、制御周期毎に、検出ヨーレイトγ及び車速Vxに基づき車両の位置座標(xv, yv)を以下のように求める。
xv =∫∫Vx・cos(ψ+β)dt dt=ΣVx・Δt・cos(ψ+β)
yv =∫∫Vx・sin(ψ+β)dt dt=ΣVx・Δt・sin(ψ+β)
【0030】
尚、上記の式でのヨー角ψはヨーレイトγに基づきψ=∫γdtとして求めることができ、横すべり角(スリップ角)βは下記の式で求めることができる。
β= [{1-(Mv/2L)・Lf/(Lr・Cr)}/(1+K・Vx2)]・(Lr/L)・δf
ここで、Mvは車体質量、Lはホイールベース、Lf及びLrは車両の重心と前輪車軸中心及び後輪車軸中心との間の距離で(L=Lf+Lr)、Cr は後輪のコーナリングファクタ、Kはスタビリティファクタ、Vxは車速、δfは操舵角である。
【0031】
次に、レーン位置yの取得毎に、車両の位置座標からオフセットしたレーン中央の位置座標を求める。基本的には、車両進行方向に垂直で、ヨー角ψが0となるように演算し、誤差が大きければ実測ヨー角で補正する。即ち、レーン中央の位置座標(xlc, ylc)は、レーン位置yの計測時点で車両の位置座標(xv, yv)に対して垂直方向のオフセット分(計測時点のレーン位置をycとする)を加算し、以下のように求めることができる。
xlc =xv +(-yc)・cos(ψ+90deg)
ylc =yv +(-yc)・sin(ψ+90deg)
【0032】
而して、上記のレーン中央の位置座標(xlc, ylc)の過去の蓄積分から一部を取り出し、走行レーン中央軌跡を円弧と仮定して最小自乗法によって円のパラメータを求めれば、その半径が道路径となり、その曲率が第1の道路曲率(ρv(n))とされる。
【0033】
また、ナビゲーション装置NAVによって検出される道路形状情報のうち、車両(図6に破線で示したVH)の進行方向(前方)の所定距離分の位置座標が第2の道路曲率演算部M4に入力され、ここで車両VHの進行方向(前方)に所定距離離隔した位置での第2の道路曲率が演算される。具体的には、図6に示すように、ナビゲーション装置NAVにて検出される複数の道路座標点(図6に黒点で示す位置座標)のうち数点に対し円弧が当て嵌められ、その円弧の曲率が演算される。このときの道路の位置座標に対する円弧の当て嵌めには、例えば3点を通る円弧を求める方法や、4点以上の座標から最も自乗誤差が少なくなるように円弧を求める方法(最小自乗法)を適用すればよい。而して、車両進行方向の道路形状情報として、車両VHの進行方向(前方)の所定位置に対する第2の道路曲率が蓄積されて、図7に示すマップが形成される。尚、図7においては道路曲率(ρ)が用いられる。
【0034】
そして、自車位置特定部M5において、図8に示すように、上記の位置座標(自車軌跡座標)の計測毎に自車軌跡道路曲率データ列(第1の道路曲率データ列)(ρv(n),ρv(n-1),ρv(n-2),ρv(n),・・・,ρv(n-k))に対応するナビゲーション道路曲率データ列(第2の道路曲率データ列)との道路距離の偏差(x(n),x(n-1),x(n-2),x(n),・・・,x(n-k))が求められ、その平均値(=(1/k)・Σx(n-i)、但しΣはi=1〜k)が求められる。これにより、第1の道路曲率の第2の道路曲率に対するズレが明らかとなり、第2の道路曲率に対する車両VHの位置が特定される。従って、図9に示すように、破線で示す自車軌跡道路曲率データ列を平均値(=(1/k)・Σx(n-i))分シフトさせれば、そのときのナビゲーション道路曲率データ列に対応する点を推定することができる。而して、道路曲率推定部M6において、その時点でのクロソイド係数(A)が推定される。尚、道路曲率(ρ)とクロソイド係数(A)との関係はρ= L/A2であり(Lは走行距離を表す)、クロソイド係数(A)の推定は道路曲率(ρ)の推定を意味する。
【0035】
尚、上記の道路曲率推定部M6における道路曲率(ρ)の推定に際し、例えば道路距離でxdの遅れが存在する場合には、図10に示すように、道路曲率(ρ)を曲率認識遅れ距離(xd)分補正した道路曲率(ρ’)に置き換えるとよい。例えば、車両走行道路がクロソイドに沿って形成されている場合には、ρ’は(ρ+xd/A2)に置き換えられる(Aはクロソイド係数)。これとは逆に、道路曲率が減少する場合にはρ’は(ρ−xd/A2)に置き換えられる。
【0036】
上記のように推定された道路曲率(ρ)は目標状態量演算部M7に入力され、この道路曲率(ρ)に基づき、目標状態量演算部M7にて以下のように目標状態量が演算される。即ち、操舵角センサSSで検出された操舵角δf、及び車体速度センサVSで検出された車体速度(車速Vx)等に加え、道路曲率推定部M6で推定された道路曲率(ρ)に基づき、目標状態量演算部M7にて以下の4ファクターから成る目標状態量が演算される。
【0037】
先ず、走行レーン内における車両の横方向位置(レーン位置)に対する目標レーン位置ytが、走行レーンの中心(レーン境界線間の中心)を起点として、yt=0に設定される。そして、目標レーン横方向移動速度dytに関し、車両が横振れすることなく走行レーンの中心に沿って移動するように、dyt=0に設定される。また、目標ヨー角ψtがψt=C・ρに設定される。尚、このCは道路曲率(ρ)から目標ヨー角ψtへの変換定数である。そして、車体速度(車速)Vxと道路曲率(ρ)に基づき、目標ヨーレイトγtがγt=Vx・ρとして設定される。
【0038】
而して、目標状態量演算部M7の演算結果(目標状態量)と、状態量演算部M2の演算結果(現在の状態量)との差が演算され、この差に基づき、フィードバック制御演算部M8にてトルク指令値が演算される。即ち、フィードバック制御演算部M4においては、上記の目標状態量を表す4ファクターの目標値(tを付加)と推定値(eを付加)における各々の差に制御ゲインK1乃至K4によって重み付けがされて横変位の誤差フィードバック項が形成され、更にこれらの総和に、道路曲率(ρ)に対応するステアリング角フィードフォワード項δff(ρ)が加算されて、下記のように目標回転角(目標ステアリング角)δswtとして設定される。
δswt =K1・(yt−ye)+K2・(dyt−dye)+K3・(ψt−ψe)+K4・(γt−γe)+δff(ρ)
【0039】
上記のδff(ρ)は、2輪モデルから導出された道路曲率(ρ)におけるステアリング角理論値として、以下のように演算される(尚、Vxは車速、Lはホイールベース、Kはスタビリティファクタである)。
δff(ρ) = Vx・ρ/ Vx・L (1+K・Vx2)
【0040】
そして、上記の目標回転角(目標ステアリング角)δswtと、回転角センサRSで検出される実回転角(実ステアリング角)δswとの差、及び付加ステアリングトルクフィードフォワード項Tff(ρ)に応じて、付加ステアリングトルク指令値Taddが下記のように演算される(尚、K5は制御ゲインである)。
Tadd = K5・(δswt−δsw)+Tff(ρ)
上記付加ステアリングトルクフィードフォワード項Tff(ρ)は以下のように演算される。
Tff(ρ) =fatff(βff(ρ)+δff(ρ))
【0041】
上記の式において、fatff(α)はタイヤスリップ角(α)に対するセルフアライニングトルクを表す関数で、例えば図4に示す関係にある。また、βff(ρ)は道路曲率(ρ)における定常車体スリップ角であり、以下のように求められる。尚、定常車体スリップ角とは、一定車速で一定の道路曲率の道路を走行しているときの車体スリップ角である。
βff(ρ) =[{1−(Mv/2L)・(Lf/(Lr・Cr))・Vx2}/(1+K・Vx2)]・(Lr/L)・δff(ρ)
ここで、Mvは車体質量、Lはホイールベース、Lfは車両の重心から前輪車軸中心までの距離、Lrは車両の重心から後輪車軸中心までの距離、Cr は後輪のコーナリングファクタ、Vxは車速、Kはスタビリティファクタである。
【0042】
上記のように演算された付加ステアリングトルク指令値Taddは操舵制御用の電子制御ユニットECU2(図2)に送信され、電動パワーステアリング制御部M9(図3)にて、上記トルク指令値Taddが通常のパワーステアリング制御量に加算されて、電動パワーステアリングシステムEPSが制御され、本発明にいう修正操舵が行われる。更に、必要に応じ、上記トルク指令値Taddが警報出力部M10に供給され、トルク指令値Taddの大きさ、換言すれば走行レーンの中心からの車両の位置に応じて、走行レーンからの逸脱のおそれを表す警報が出力され、運転者への注意喚起が行われる。尚、トルク指令値Taddを用いることなく、走行レーン内における車両の横方向位置の推定結果(状態量演算部M2の演算結果)に応じて警報を行うこととしてもよい。
【0043】
更に、本発明の他の実施形態として、ナビゲーション装置NAVにて検出される道路形状情報のうち、車両(図11に破線で示したVH)の進行方向(前方)の所定位置での位置座標を用い、この位置座標を電子制御ユニットECU1に入力するように構成してもよい。具体的には、図11に示すように、ナビゲーション装置NAVにて検出される複数の道路座標点(図11に黒点で示す位置座標)のうち数点から、前述のように最小自乗法等により自車位置近傍での道路曲率(ρ)が推定され、車両VHの自車位置を原点とし、図11に二点鎖線で示す接線と平行な軸をx軸としたx−y座標が設定される。そして、車両進行方向の目標座標点(図11の交点×)のx座標値(xlt)が車両VHの車速Vxに基づいて設定され、更にこのx座標値(xlt)に基づきy座標値(ylt)が以下のように演算される(尚、下記のRはR=1/ρである)。
ylt = (yt−ye)+R・(1−cos(sin-1(xlt/R))
【0044】
而して、車両進行方向の目標座標点での横方向変位(ylt−xlt・tan(ψ+Vx・γ))に応じて以下のように目標ステアリング角(δswt)が設定される(尚、K6は制御ゲインである)。
δswt =K6・(ylt−xlt・tan(ψ+Vx・γ))
【0045】
以後、前述の実施形態と同様、付加ステアリングトルク指令値Taddが下記のように演算されて、車両横方向の変位に応じたフィードバックが行われ、以下、前述の実施形態と同様に処理される(尚、K7は制御ゲインである)。
Tadd = K7・(δswt−δsw)
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の車両のレーン走行支援制御装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における操舵制御手段を含むレーン走行支援制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態における制御態様を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態において、タイヤスリップ角に対するセルフアライニングトルクの特性の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態において自車軌跡道路曲率データ列(第1の道路曲率データ列)を説明するグラフである。
【図6】本発明の一実施形態においてナビゲーション道路曲率データ列(第2の道路曲率データ列)を説明するグラフである。
【図7】本発明の一実施形態において第2の道路曲率の演算結果を蓄積したデータを道路距離に対する道路曲率の変化を用いて示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態において自車軌跡道路曲率データ列とナビゲーション道路曲率データ列との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態において自車軌跡道路曲率データ列をシフトさせてナビゲーション道路曲率データ列に対応する点を推定する状況を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施形態において、道路曲率の推定に際し遅れが存在する場合の道路曲率の補正状況を示すグラフである。
【図11】本発明の他の実施形態における目標座標点の設定を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0047】
SW ステアリングホイール
VH 車両
WH 車輪
EPS 電動パワーステアリングシステム
NAV ナビゲーション装置
CMf 前方監視カメラ
CMr 後方監視カメラ
TS 操舵トルクセンサ
SS 車輪舵角センサ
RS 回転角センサ
YS ヨーレイトセンサ
VS 車体速度センサ
OS 操作スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のレーン走行支援装置に関し、特に、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から走行レーンを検出する走行レーン検出手段を備え、これらによって、走行レーン内を車両が走行するように支援する車両のレーン走行支援装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両のレーン走行支援装置としては、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段を備え、これを制御して車両が走行レーン内を走行するように支援するレーンキープアシストが基本であるが、更に、走行支援を越えて、運転者の操作とは無関係に自動的に操舵制御を行ない、車両が走行レーン内の走行を維持し得るように制御する装置も知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、自ら走行路を探索しながら、その走行路上に最適な目標経路を設定して、車両がその目標経路上を走行するように支援する車両の走行制御を行なわせることを目的とし、以下のように構成された自動走行装置が提案されている。即ち、撮像装置により車両の進行方向の領域を撮像した画像にもとづいて道路エッジを認識することにより自ら走行可能領域を探索しながら、その走行可能領域内に適切な目標経路を設定し、そのときの車両の走行状態にしたがって車両をその目標経路に合流させるための最適な制御目標量を求めて、その制御目標量に応じて車両の走行制御を行なわせる旨記載されている。
【0004】
あるいは、下記の特許文献2には、例えばプラント、工場等の床面に安全通路を表示するため前記通路両側に標記された白線を誘導帯として使用し、特に狭隘な場所でのコーナリングが容易になし得ることを目的として、安全通路の限界を示すために床面に設けられた白線等をそのまま誘導帯として使用し、走行車の現在の方位とコーナ部の角度とから操舵量を算出してコーナリングを行うように構成された走行車の誘導装置が提案されている。
【0005】
更に、下記の特許文献3には、運転者がハンドル操作しなくても前方の走行レーン上を外れることなく走行することができる自動車用自動操舵装置が提案されている。この特許文献3には、自動車の右側下方向の進路を撮影する撮影手段と、この撮影手段にて撮影した道路の中から隣接する走行レーンの境界を示すラインを認識する認識手段と、この認識手段にて認識したラインの基準位置からの距離を検出する距離検出手段と、この距離検出手段にて検出した距離に応じた舵角制御信号を発生する舵角制御手段と、この舵角制御手段からの舵角制御信号を受けて車両の進行方向を変化させる舵角駆動手段とを備え、前記舵角制御信号による舵角制御手段の作動にて前記距離検出手段にて検出される距離を所定値に保持せしめるようにする旨記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−48704号公報
【特許文献2】特開平2−27408号公報
【特許文献3】特開昭60−37011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献に記載の装置によれば、何れも画像によって検出した車両等の走行レーンに沿ってコーナリングを行なうことが可能とされている。この場合において、現実的な対応としては、必ずしも運転者の操作と無関係に自動的に操舵することは必要ではなく、例えば運転者によるステアリングホイールの操作に対し、車両が走行レーンの中央を維持するように操舵トルクを付加することによって、ステアリングホイールの操作負荷を軽減し、巡航運転を支援することができる。
【0008】
このようなレーン走行支援装置においては、カメラで撮像した画像から路面上の走行レーンを適切且つ安定的に検出することが重要となる。通常、路面上には、走行レーン(車線)の境界を識別するレーン境界線をはじめ種々の目的に応じて標示線(レーンマーク)が塗装されており、実線のみならず破線のレーンマークや、白色あるいは黄色というように異なる色彩のレーンマークが混在し、更には、これらが複合されたものも存在する。また、レーンマークは直線に限らず曲線も存在するが、この曲線のレーンマークを特定するための曲率を求めるには遠方までレーンマークを確実に検出する必要が生ずる。従って、レーン走行支援装置に供する撮像手段としては、遠方までレーンマークを高精度で検出し得る前方監視カメラが必要とされる。
【0009】
ところで、近時の車両には、車両前方あるいは後方の近傍の確認や駐車支援用に前方監視カメラや後方監視カメラが装着されているものがある。しかし、これら既設の前方監視カメラや後方監視カメラは近傍の画像を確保し得るに留まり、遠方の画像は不鮮明となるので、曲線のレーンマークに対し正確に進行方向の曲率を求めることはできない。従って、過去の走行軌跡から曲率を求め、これを代用せざるを得ないが、このようなレーンマークの検出に既設のカメラが転用されることはなく、別途、高性能の前方監視カメラが採用され高価な装置となっていた。
【0010】
一方、前掲の特許文献1にはナビゲーションシステムが開示されているが、近時のナビゲーション装置の進展は目覚しく、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)及び慣性航法を用いて車両の現在位置を高精度で特定し得るに至っている。従って、このようなナビゲーション装置によって車両の進行方向の道路形状情報を検出することが可能となり、道路形状情報として、車両の進行方向の所定位置での位置座標を検出し得るようになる。然し乍ら、ナビゲーション装置の検出情報のみを用いて車両の進行方向の位置座標を特定する場合には、ナビゲーション装置の精度に依存する所が大となり、高性能の装置が必要となり、高価となる。加えて、上述の高性能の前方監視カメラが必要とされる場合には非常に高価な装置となり、コスト的に到底見合うものではない。
【0011】
そこで、本発明は、操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像した画像から走行レーンを検出する走行レーン検出手段を備え、これらによって、車両が走行レーン内を走行するように支援する車両のレーン走行支援装置において、ナビゲーション装置の検出情報に基づき車両進行方向の道路曲率を演算すると共に、走行レーン検出手段の検出情報等に基づき車両の移動軌跡に沿った道路曲率を演算し、これらを照合して推定した車両進行方向の道路曲率に基づき車両のレーン走行支援を行い得る安価なレーン走行支援装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を達成するため、本発明は、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から、前記走行レーンを標示するレーンマークを検出する走行レーン検出手段と、前記車両の進行方向の所定距離分の位置座標を含む道路形状情報を検出するナビゲーション装置とを備え、前記車両の操舵状態及び走行状態を検出する状態検出手段と、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記車両の状態量を演算する車両状態量演算手段と、該車両状態量演算手段の演算結果及び前記状態検出手段の検出結果に基づき前記車両の進行方向の第1の道路曲率を演算する第1の道路曲率演算手段と、前記ナビゲーション装置が検出した前記車両の進行方向の所定距離分の位置座標に基づき前記車両の進行方向の第2の道路曲率を演算する第2の道路曲率演算手段と、該第2の道路曲率演算手段の演算結果と前記第1の道路曲率演算手段の演算結果に基づき前記車両の進行方向の道路曲率を推定する道路曲率推定手段と、該道路曲率推定手段が推定した道路曲率並びに前記状態検出手段が検出した車両の操舵状態及び走行状態に基づき前記車両に対する目標状態量を設定する目標状態量設定手段とを備え、該目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との比較結果に応じて前記車両の前記走行レーン内の走行を支援するように構成したものである。
【0013】
尚、前記車両状態量演算手段における車両の操舵状態及び走行状態を表す指標としては、例えば操舵角及びヨーレイトがあり、前記目標状態量設定手段における車両の操舵状態及び走行状態を表す指標としては、例えば操舵角及び車体速度がある。そして、前記状態量を表す指標としては、前記走行レーン内における前記車両の横方向位置たるレーン位置、その微分値であるレーン位置変動速度、前記車両のヨー角、及びヨーレイトがある。前記操舵制御手段は、例えば電動パワーステアリングシステムを備えたものとするとよい。
【0014】
上記車両のレーン走行支援装置において、請求項2に記載のように、前記道路曲率推定手段は、前記車両が走行する道路のクロソイド情報を適用して前記道路曲率を推定するように構成するとよい。
【0015】
上記請求項1に記載の車両のレーン走行支援装置において、請求項3に記載のように、前記状態検出手段は、前記車両のヨーレイト及び車体速度を含む前記車両の操舵状態及び走行状態を検出し、前記車両状態量演算手段は、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記車両の前記走行レーンに対する相対位置を表す相対位置指標を含む状態量を演算し、前記第1の道路曲率演算手段は、前記車両状態量演算手段が演算した前記車両の相対位置指標、並びに前記状態検出手段が検出したヨーレイト及び車体速度に基づき、前記第1の道路曲率を演算するように構成するとよい。
【0016】
上記の各請求項に記載の車両のレーン走行支援装置において、請求項4に記載のように、前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との差に応じたフィードバック制御量と、前記道路曲率推定手段が推定した道路曲率に応じたフィードフォワード制御量との和に基づき、前記操舵制御手段による操舵制御を修正する修正操舵手段を備えたものとするとよい。尚、上記修正操舵手段と共に、あるいはこれとは別に、前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との比較結果に応じて、運転者に対して警報する警報手段を備えたものとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載のように構成された車両のレーン走行支援装置においては、車両状態量演算手段の演算結果及び状態検出手段の検出結果に基づいて演算された車両の進行方向の第1の道路曲率と、ナビゲーション装置によって検出された車両の進行方向の所定距離分の位置座標に基づいて演算された車両の進行方向の第2の道路曲率に基づき、車両の進行方向の道路曲率が正確に推定されるので、適切にレーン走行支援を行うことができる。
【0018】
特に、道路曲率推定手段を請求項2に記載のように構成すれば、走行道路のクロソイド情報によって道路曲率を容易且つ適切に推定することができる。
【0019】
更に、請求項3に記載のように構成すれば、上記のように道路曲率推定手段によって推定された道路曲率並びに状態検出手段にて検出された車両の操舵状態及び走行状態に基づき、車両に対する目標状態量が設定されるので、撮像手段の精度に大きく依存することなく、ナビゲーション装置の検出情報を活用し、曲線のレーンマークに対しても適用することができ、車両のレーン走行支援を適切に行なうことができる。また、前方監視カメラに限らず後方監視カメラを用いることもでき、更には既設の安価なカメラを用いることもできる。更に、請求項4に記載のように構成すれば、修正操舵手段によって、ナビゲーション装置の検出情報に基づき、車両のレーン走行支援を円滑に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る車両のレーン走行支援装置の構成を示すもので、車両前方(図1の上方)に、撮像手段として例えばccdカメラで構成された前方監視用のカメラCMfが配置されると共に、車両後方にも後方監視用のカメラCMrが配置されているが、何れか一方のカメラが設けられておればよい。また、本実施形態の操舵制御手段として電動パワーステアリングシステムEPSを備えている。このような電動パワーステアリングシステムEPSは既に市販されており、運転者によるステアリングホイールSWの操作によってステアリングシャフトに作用する操舵トルクを、操舵トルクセンサTSによって検出し、この検出操舵トルクの値に応じてEPSモータ(図1では図示省略)を制御し、減速ギヤ及びラックアンドピニオン(図示せず)を介して車両前方の車輪(図1では全車輪を代表してWHで表す)を操舵し、運転者のステアリング操作力(ハンドル操作力)を軽減するものである。
【0021】
本実施形態では、図1に示すように、画像処理用の電子制御ユニットECU1及び操舵制御用の電子制御ユニットECU2を備え、両者が通信バスを介して接続されている。電子制御ユニットECU1にはカメラCMf(及びCMr)が接続されており、画像信号が電子制御ユニットECU1に入力されるように構成されている。また、電子制御ユニットECU1には、車両前方の車輪WHの操舵角を検出する操舵角センサSS、車体速度を検出する車体速度センサVS、及び車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサYSが接続されているが、後述するように電子制御ユニットECU1及びECU2は相互に信号を送受信し得るように構成されるので、これらは電子制御ユニットECU2に接続してもよい。尚、車体速度センサVSに代えて、各車輪の車輪速度を検出する車輪速度センサ(図示せず)を備えたものとし、検出車輪速度に基づき車体速度を推定することとしてもよい。一方、電子制御ユニットECU2には、入力側に上記の操舵トルクセンサTS、及びEPSモータの回転角を検出する回転角センサRSが接続されると共に、出力側にEPSモータが接続されている。
【0022】
更に、電子制御ユニットECU1(又はECU2)には、GPS及び慣性航法を備えたナビゲーション装置NAVが接続されており、これによって検出される車両進行方向の道路形状情報が電子制御ユニットECU1に入力される。このときの道路形状情報としては車両進行方向の所定位置での位置座標を含み、ナビゲーション装置NAVとしては、この車両進行方向の所定位置での位置座標を取り出せる構成であれば市販の装置をそのまま利用することができ、基本的な構成は市販の装置と同様でよいので、説明は省略する。
【0023】
図2は本発明のシステム構成を示すもので、画像処理システム(図2の上方)及び操舵制御システム(図2の下方)が通信バスを介して接続されている。本実施形態の画像処理システムは、画像処理用のCPU、フレームメモリ等を備えた電子制御ユニットECU1に、前方監視カメラCMf及び後方監視カメラCMr、ヨーレイトセンサYS、操舵角センサSS、車体速度センサVS及びナビゲーション装置NAVが接続されている。また、本実施形態の操舵制御システムは、電動パワーステアリング制御用のCPU、ROM及びRAMを備えた電子制御ユニットECU2に、操舵トルクセンサTS及び回転角センサRSが接続されると共に、モータ駆動回路AC2を介してEPSモータMTが接続されている。更に、本実施形態では、警報用の電子制御ユニットECU3(図1では図示省略)を介して、警報表示や音声警報を出力する警報装置WAが接続されている。
【0024】
これらの電子制御ユニットECU1乃至ECU3は夫々、通信用のCPU、ROM及びRAMを備えた通信ユニットを介して通信バスに接続されており、各制御システムに必要な情報を他の制御システムから送信することができる。更に、図示は省略するが、この通信バスに、アクティブステアリングシステム、ブレーキ制御システム、スロットル制御システム等を接続し、各システム間で互いのシステム情報を共有することができるように構成することとしてもよい。尚、図1に示すように、電子制御ユニットECU1(又はECU2)には操作スイッチOSが接続されており、走行支援制御は運転者による操作スイッチOSの操作によって開始されるように構成されている。
【0025】
上記のように構成されたレーン走行支援装置において、レーン走行支援(レーンキープアシスト)制御部は、図3の制御ブロック図に示すように構成されており、カメラCMf(又はCMr)によって撮像された画像情報が図2の電子制御ユニットECU1にて画像処理されて走行レーンが検出される。この電子制御ユニットECU1には、レーン検出手段たるレーン認識演算部M1が構成されており、ここで、走行レーン内における車両の横方向位置y(レーン位置)及び走行レーンに対するヨー角ψが演算される。尚、画像処理による走行レーンの検出については前掲の特許文献1に記載された方法のほか、公知の何れの方法でもよい。
【0026】
上記のレーン認識演算部M1による演算結果とヨーレイトセンサYS及び操舵角センサSSの検出信号に基づき、車両状態量演算手段たる状態量演算部M2にて、レーン位置y、レーン横方向移動速度dy(走行レーン内における車両の横方向移動速度でレーン位置yの時間微分値)、ヨー角ψ、及びヨーレイトγをファクターとする現在の車両の状態量Xが推定演算される。即ち、車両の状態量をX、状態量出力をY、道路モデルの入力をUとすると、X=[y,dy,ψ,γ]T、Y=[y,dy,ψ,γ]T、U=[δf,ρ]Tと表すことができる。尚、δfは操舵角センサSSで検出される操舵角で、ρは走行路の道路曲率で、ここでは例えば前述のカメラ画像から推定演算される。そして、状態量推定値をXeとし、オブザーバゲインをLとすると、以下の状態方程式が成り立ち、状態量出力YはY=C・Xeとなる。
dXe/dt=A・Xe+B・U+Rl・L・(X−Xe)
【0027】
尚、上記の状態方程式におけるモデル定数A、B及びCは以下に示すとおりである。
A=[a11 a12 a13 a14 ; a21 a22 a23 a24 ; a31 a32 a33 a34 ; a41 a42 a43 a44]
B=[b11 b12 ; b21 b22 ; b31 b32 ; b41 b42]
C=[1 0 0 0 ; 0 1 0 0 ; 0 0 1 0 ; 0 0 0 1]
また、Rlは画像認識結果のレーン検出状態を表すファクターで、例えば、走行レーンが検出された状態が「1」で、未検出の状態が「0」とされる。これにより、レーンマークの連続線部が検出されたときにのみ走行レーン内における車両の横方向位置を推定するように構成し、あるいは、レーンマークの連続線部が検出されたときにのみ走行レーン内における車両の横方向位置を推定結果に反映するように構成することができる。
【0028】
一方、状態量演算部M2において車両の走行レーンに対する相対位置を表す相対位置指標が演算され、この相対位置指標並びにヨーレイトセンサYSの検出ヨーレイト及び車体速度センサVSの検出車体速度(車速Vx)に基づき、第1の道路曲率演算部M3にて第1の道路曲率が演算される。図5は絶対座標上の走行レーン中央軌跡(実線)と車両VHの走行軌跡(破線)を示すもので、レーン中央の位置座標を(xlc, ylc)で表し、車両の位置座標を(xv, yv)で表す。図中、Caは走行レーン中央軌跡の円弧中心を示す。
【0029】
本実施形態における第1の道路曲率演算アルゴリズムは以下のようになる。即ち、前述のように画像上で求めた車両のレーン位置yに基づき、図5に示す平面レーン座標(絶対座標)を生成し、検出ヨーレイトγ及び車速Vxに基づき車両の位置座標を演算すると共に、この演算結果とレーン位置yに基づきレーン中央の位置座標を演算し、これを蓄積して最小自乗法によって曲率計算を行うものである。具体的には、先ず、制御周期毎に、検出ヨーレイトγ及び車速Vxに基づき車両の位置座標(xv, yv)を以下のように求める。
xv =∫∫Vx・cos(ψ+β)dt dt=ΣVx・Δt・cos(ψ+β)
yv =∫∫Vx・sin(ψ+β)dt dt=ΣVx・Δt・sin(ψ+β)
【0030】
尚、上記の式でのヨー角ψはヨーレイトγに基づきψ=∫γdtとして求めることができ、横すべり角(スリップ角)βは下記の式で求めることができる。
β= [{1-(Mv/2L)・Lf/(Lr・Cr)}/(1+K・Vx2)]・(Lr/L)・δf
ここで、Mvは車体質量、Lはホイールベース、Lf及びLrは車両の重心と前輪車軸中心及び後輪車軸中心との間の距離で(L=Lf+Lr)、Cr は後輪のコーナリングファクタ、Kはスタビリティファクタ、Vxは車速、δfは操舵角である。
【0031】
次に、レーン位置yの取得毎に、車両の位置座標からオフセットしたレーン中央の位置座標を求める。基本的には、車両進行方向に垂直で、ヨー角ψが0となるように演算し、誤差が大きければ実測ヨー角で補正する。即ち、レーン中央の位置座標(xlc, ylc)は、レーン位置yの計測時点で車両の位置座標(xv, yv)に対して垂直方向のオフセット分(計測時点のレーン位置をycとする)を加算し、以下のように求めることができる。
xlc =xv +(-yc)・cos(ψ+90deg)
ylc =yv +(-yc)・sin(ψ+90deg)
【0032】
而して、上記のレーン中央の位置座標(xlc, ylc)の過去の蓄積分から一部を取り出し、走行レーン中央軌跡を円弧と仮定して最小自乗法によって円のパラメータを求めれば、その半径が道路径となり、その曲率が第1の道路曲率(ρv(n))とされる。
【0033】
また、ナビゲーション装置NAVによって検出される道路形状情報のうち、車両(図6に破線で示したVH)の進行方向(前方)の所定距離分の位置座標が第2の道路曲率演算部M4に入力され、ここで車両VHの進行方向(前方)に所定距離離隔した位置での第2の道路曲率が演算される。具体的には、図6に示すように、ナビゲーション装置NAVにて検出される複数の道路座標点(図6に黒点で示す位置座標)のうち数点に対し円弧が当て嵌められ、その円弧の曲率が演算される。このときの道路の位置座標に対する円弧の当て嵌めには、例えば3点を通る円弧を求める方法や、4点以上の座標から最も自乗誤差が少なくなるように円弧を求める方法(最小自乗法)を適用すればよい。而して、車両進行方向の道路形状情報として、車両VHの進行方向(前方)の所定位置に対する第2の道路曲率が蓄積されて、図7に示すマップが形成される。尚、図7においては道路曲率(ρ)が用いられる。
【0034】
そして、自車位置特定部M5において、図8に示すように、上記の位置座標(自車軌跡座標)の計測毎に自車軌跡道路曲率データ列(第1の道路曲率データ列)(ρv(n),ρv(n-1),ρv(n-2),ρv(n),・・・,ρv(n-k))に対応するナビゲーション道路曲率データ列(第2の道路曲率データ列)との道路距離の偏差(x(n),x(n-1),x(n-2),x(n),・・・,x(n-k))が求められ、その平均値(=(1/k)・Σx(n-i)、但しΣはi=1〜k)が求められる。これにより、第1の道路曲率の第2の道路曲率に対するズレが明らかとなり、第2の道路曲率に対する車両VHの位置が特定される。従って、図9に示すように、破線で示す自車軌跡道路曲率データ列を平均値(=(1/k)・Σx(n-i))分シフトさせれば、そのときのナビゲーション道路曲率データ列に対応する点を推定することができる。而して、道路曲率推定部M6において、その時点でのクロソイド係数(A)が推定される。尚、道路曲率(ρ)とクロソイド係数(A)との関係はρ= L/A2であり(Lは走行距離を表す)、クロソイド係数(A)の推定は道路曲率(ρ)の推定を意味する。
【0035】
尚、上記の道路曲率推定部M6における道路曲率(ρ)の推定に際し、例えば道路距離でxdの遅れが存在する場合には、図10に示すように、道路曲率(ρ)を曲率認識遅れ距離(xd)分補正した道路曲率(ρ’)に置き換えるとよい。例えば、車両走行道路がクロソイドに沿って形成されている場合には、ρ’は(ρ+xd/A2)に置き換えられる(Aはクロソイド係数)。これとは逆に、道路曲率が減少する場合にはρ’は(ρ−xd/A2)に置き換えられる。
【0036】
上記のように推定された道路曲率(ρ)は目標状態量演算部M7に入力され、この道路曲率(ρ)に基づき、目標状態量演算部M7にて以下のように目標状態量が演算される。即ち、操舵角センサSSで検出された操舵角δf、及び車体速度センサVSで検出された車体速度(車速Vx)等に加え、道路曲率推定部M6で推定された道路曲率(ρ)に基づき、目標状態量演算部M7にて以下の4ファクターから成る目標状態量が演算される。
【0037】
先ず、走行レーン内における車両の横方向位置(レーン位置)に対する目標レーン位置ytが、走行レーンの中心(レーン境界線間の中心)を起点として、yt=0に設定される。そして、目標レーン横方向移動速度dytに関し、車両が横振れすることなく走行レーンの中心に沿って移動するように、dyt=0に設定される。また、目標ヨー角ψtがψt=C・ρに設定される。尚、このCは道路曲率(ρ)から目標ヨー角ψtへの変換定数である。そして、車体速度(車速)Vxと道路曲率(ρ)に基づき、目標ヨーレイトγtがγt=Vx・ρとして設定される。
【0038】
而して、目標状態量演算部M7の演算結果(目標状態量)と、状態量演算部M2の演算結果(現在の状態量)との差が演算され、この差に基づき、フィードバック制御演算部M8にてトルク指令値が演算される。即ち、フィードバック制御演算部M4においては、上記の目標状態量を表す4ファクターの目標値(tを付加)と推定値(eを付加)における各々の差に制御ゲインK1乃至K4によって重み付けがされて横変位の誤差フィードバック項が形成され、更にこれらの総和に、道路曲率(ρ)に対応するステアリング角フィードフォワード項δff(ρ)が加算されて、下記のように目標回転角(目標ステアリング角)δswtとして設定される。
δswt =K1・(yt−ye)+K2・(dyt−dye)+K3・(ψt−ψe)+K4・(γt−γe)+δff(ρ)
【0039】
上記のδff(ρ)は、2輪モデルから導出された道路曲率(ρ)におけるステアリング角理論値として、以下のように演算される(尚、Vxは車速、Lはホイールベース、Kはスタビリティファクタである)。
δff(ρ) = Vx・ρ/ Vx・L (1+K・Vx2)
【0040】
そして、上記の目標回転角(目標ステアリング角)δswtと、回転角センサRSで検出される実回転角(実ステアリング角)δswとの差、及び付加ステアリングトルクフィードフォワード項Tff(ρ)に応じて、付加ステアリングトルク指令値Taddが下記のように演算される(尚、K5は制御ゲインである)。
Tadd = K5・(δswt−δsw)+Tff(ρ)
上記付加ステアリングトルクフィードフォワード項Tff(ρ)は以下のように演算される。
Tff(ρ) =fatff(βff(ρ)+δff(ρ))
【0041】
上記の式において、fatff(α)はタイヤスリップ角(α)に対するセルフアライニングトルクを表す関数で、例えば図4に示す関係にある。また、βff(ρ)は道路曲率(ρ)における定常車体スリップ角であり、以下のように求められる。尚、定常車体スリップ角とは、一定車速で一定の道路曲率の道路を走行しているときの車体スリップ角である。
βff(ρ) =[{1−(Mv/2L)・(Lf/(Lr・Cr))・Vx2}/(1+K・Vx2)]・(Lr/L)・δff(ρ)
ここで、Mvは車体質量、Lはホイールベース、Lfは車両の重心から前輪車軸中心までの距離、Lrは車両の重心から後輪車軸中心までの距離、Cr は後輪のコーナリングファクタ、Vxは車速、Kはスタビリティファクタである。
【0042】
上記のように演算された付加ステアリングトルク指令値Taddは操舵制御用の電子制御ユニットECU2(図2)に送信され、電動パワーステアリング制御部M9(図3)にて、上記トルク指令値Taddが通常のパワーステアリング制御量に加算されて、電動パワーステアリングシステムEPSが制御され、本発明にいう修正操舵が行われる。更に、必要に応じ、上記トルク指令値Taddが警報出力部M10に供給され、トルク指令値Taddの大きさ、換言すれば走行レーンの中心からの車両の位置に応じて、走行レーンからの逸脱のおそれを表す警報が出力され、運転者への注意喚起が行われる。尚、トルク指令値Taddを用いることなく、走行レーン内における車両の横方向位置の推定結果(状態量演算部M2の演算結果)に応じて警報を行うこととしてもよい。
【0043】
更に、本発明の他の実施形態として、ナビゲーション装置NAVにて検出される道路形状情報のうち、車両(図11に破線で示したVH)の進行方向(前方)の所定位置での位置座標を用い、この位置座標を電子制御ユニットECU1に入力するように構成してもよい。具体的には、図11に示すように、ナビゲーション装置NAVにて検出される複数の道路座標点(図11に黒点で示す位置座標)のうち数点から、前述のように最小自乗法等により自車位置近傍での道路曲率(ρ)が推定され、車両VHの自車位置を原点とし、図11に二点鎖線で示す接線と平行な軸をx軸としたx−y座標が設定される。そして、車両進行方向の目標座標点(図11の交点×)のx座標値(xlt)が車両VHの車速Vxに基づいて設定され、更にこのx座標値(xlt)に基づきy座標値(ylt)が以下のように演算される(尚、下記のRはR=1/ρである)。
ylt = (yt−ye)+R・(1−cos(sin-1(xlt/R))
【0044】
而して、車両進行方向の目標座標点での横方向変位(ylt−xlt・tan(ψ+Vx・γ))に応じて以下のように目標ステアリング角(δswt)が設定される(尚、K6は制御ゲインである)。
δswt =K6・(ylt−xlt・tan(ψ+Vx・γ))
【0045】
以後、前述の実施形態と同様、付加ステアリングトルク指令値Taddが下記のように演算されて、車両横方向の変位に応じたフィードバックが行われ、以下、前述の実施形態と同様に処理される(尚、K7は制御ゲインである)。
Tadd = K7・(δswt−δsw)
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の車両のレーン走行支援制御装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における操舵制御手段を含むレーン走行支援制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態における制御態様を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態において、タイヤスリップ角に対するセルフアライニングトルクの特性の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態において自車軌跡道路曲率データ列(第1の道路曲率データ列)を説明するグラフである。
【図6】本発明の一実施形態においてナビゲーション道路曲率データ列(第2の道路曲率データ列)を説明するグラフである。
【図7】本発明の一実施形態において第2の道路曲率の演算結果を蓄積したデータを道路距離に対する道路曲率の変化を用いて示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態において自車軌跡道路曲率データ列とナビゲーション道路曲率データ列との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態において自車軌跡道路曲率データ列をシフトさせてナビゲーション道路曲率データ列に対応する点を推定する状況を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施形態において、道路曲率の推定に際し遅れが存在する場合の道路曲率の補正状況を示すグラフである。
【図11】本発明の他の実施形態における目標座標点の設定を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0047】
SW ステアリングホイール
VH 車両
WH 車輪
EPS 電動パワーステアリングシステム
NAV ナビゲーション装置
CMf 前方監視カメラ
CMr 後方監視カメラ
TS 操舵トルクセンサ
SS 車輪舵角センサ
RS 回転角センサ
YS ヨーレイトセンサ
VS 車体速度センサ
OS 操作スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から、前記走行レーンを標示するレーンマークを検出する走行レーン検出手段と、前記車両の進行方向の所定距離分の位置座標を含む道路形状情報を検出するナビゲーション装置とを備え、前記車両の操舵状態及び走行状態を検出する状態検出手段と、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記車両の状態量を演算する車両状態量演算手段と、該車両状態量演算手段の演算結果及び前記状態検出手段の検出結果に基づき前記車両の進行方向の第1の道路曲率を演算する第1の道路曲率演算手段と、前記ナビゲーション装置が検出した前記車両の進行方向の所定距離分の位置座標に基づき前記車両の進行方向の第2の道路曲率を演算する第2の道路曲率演算手段と、該第2の道路曲率演算手段の演算結果と前記第1の道路曲率演算手段の演算結果に基づき前記車両の進行方向の道路曲率を推定する道路曲率推定手段と、該道路曲率推定手段が推定した道路曲率並びに前記状態検出手段が検出した車両の操舵状態及び走行状態に基づき前記車両に対する目標状態量を設定する目標状態量設定手段とを備え、該目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との比較結果に応じて前記車両の前記走行レーン内の走行を支援することを特徴とする車両のレーン走行支援装置。
【請求項2】
前記道路曲率推定手段は、前記車両が走行する道路のクロソイド情報を適用して前記道路曲率を推定するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のレーン走行支援装置。
【請求項3】
前記状態検出手段は、前記車両のヨーレイト及び車体速度を含む前記車両の操舵状態及び走行状態を検出し、前記車両状態量演算手段は、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記車両の前記走行レーンに対する相対位置を表す相対位置指標を含む状態量を演算し、前記第1の道路曲率演算手段は、前記車両状態量演算手段が演算した前記車両の相対位置指標、並びに前記状態検出手段が検出したヨーレイト及び車体速度に基づき、前記第1の道路曲率を演算するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のレーン走行支援装置。
【請求項4】
前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との差に応じたフィードバック制御量と、前記道路曲率推定手段が推定した道路曲率に応じたフィードフォワード制御量との和に基づき、前記操舵制御手段による操舵制御を修正する修正操舵手段を備えたことを特徴とする請求項1、2又は3の何れかに記載の車両のレーン走行支援装置。
【請求項1】
運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から、前記走行レーンを標示するレーンマークを検出する走行レーン検出手段と、前記車両の進行方向の所定距離分の位置座標を含む道路形状情報を検出するナビゲーション装置とを備え、前記車両の操舵状態及び走行状態を検出する状態検出手段と、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記車両の状態量を演算する車両状態量演算手段と、該車両状態量演算手段の演算結果及び前記状態検出手段の検出結果に基づき前記車両の進行方向の第1の道路曲率を演算する第1の道路曲率演算手段と、前記ナビゲーション装置が検出した前記車両の進行方向の所定距離分の位置座標に基づき前記車両の進行方向の第2の道路曲率を演算する第2の道路曲率演算手段と、該第2の道路曲率演算手段の演算結果と前記第1の道路曲率演算手段の演算結果に基づき前記車両の進行方向の道路曲率を推定する道路曲率推定手段と、該道路曲率推定手段が推定した道路曲率並びに前記状態検出手段が検出した車両の操舵状態及び走行状態に基づき前記車両に対する目標状態量を設定する目標状態量設定手段とを備え、該目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との比較結果に応じて前記車両の前記走行レーン内の走行を支援することを特徴とする車両のレーン走行支援装置。
【請求項2】
前記道路曲率推定手段は、前記車両が走行する道路のクロソイド情報を適用して前記道路曲率を推定するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のレーン走行支援装置。
【請求項3】
前記状態検出手段は、前記車両のヨーレイト及び車体速度を含む前記車両の操舵状態及び走行状態を検出し、前記車両状態量演算手段は、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記車両の前記走行レーンに対する相対位置を表す相対位置指標を含む状態量を演算し、前記第1の道路曲率演算手段は、前記車両状態量演算手段が演算した前記車両の相対位置指標、並びに前記状態検出手段が検出したヨーレイト及び車体速度に基づき、前記第1の道路曲率を演算するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のレーン走行支援装置。
【請求項4】
前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態量演算手段が演算した状態量との差に応じたフィードバック制御量と、前記道路曲率推定手段が推定した道路曲率に応じたフィードフォワード制御量との和に基づき、前記操舵制御手段による操舵制御を修正する修正操舵手段を備えたことを特徴とする請求項1、2又は3の何れかに記載の車両のレーン走行支援装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−27532(P2006−27532A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212044(P2004−212044)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]