車両の制御装置及び制御方法
【課題】
対地速度センサが異常と判定された場合に、車両挙動が不安定になることを抑制する。
【解決手段】
車輪速センサの出力信号から求めた車輪速に基づいて第1推定車体速を求める第1車体速推定部3と、対地速度センサの異常状態を検出する対地速度センサ異常検出部6と、対地速度センサの出力信号から求めた車体速、第1推定車体速、及び対地速度センサの異常状態に基づいて第2推定車体速を求める第2車体速推定部5と、車両制御において使用する推定車体速を選択する推定車体速選択部7と、対地速度センサの異常状態に基づいて、車体速と車輪速に基づいて車両を制御する第1の車両制御部8と、推定車体速選択部7により選択された推定車体速に基づいて車両を制御する第2の車両制御部9のいずれかを選択する車両制御選択部10とを有する車両の制御装置。
対地速度センサが異常と判定された場合に、車両挙動が不安定になることを抑制する。
【解決手段】
車輪速センサの出力信号から求めた車輪速に基づいて第1推定車体速を求める第1車体速推定部3と、対地速度センサの異常状態を検出する対地速度センサ異常検出部6と、対地速度センサの出力信号から求めた車体速、第1推定車体速、及び対地速度センサの異常状態に基づいて第2推定車体速を求める第2車体速推定部5と、車両制御において使用する推定車体速を選択する推定車体速選択部7と、対地速度センサの異常状態に基づいて、車体速と車輪速に基づいて車両を制御する第1の車両制御部8と、推定車体速選択部7により選択された推定車体速に基づいて車両を制御する第2の車両制御部9のいずれかを選択する車両制御選択部10とを有する車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対地速度センサを用いた車両の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両事故の増大を抑制するべく、車両衝突防止装置やABS(Anti-lock Brake System)、車両横滑り防止装置等の事故を未然に防ぐ予防安全技術の研究開発が各メーカーにおいて進められている。
【0003】
車両衝突防止装置やABS,車両横滑り防止装置等では、車両の対地速度(以後「車体速」と呼ぶ)と各車輪の回転速度(以後「車輪速」と呼ぶ)から求められる車輪のスリップ率を、車両状態に応じて適切な範囲に収まるように制御を行っている。この時、車体速は4つの車輪の車輪速から推定することにより求められているが、直接車体速を計測する対地速度センサ、及び対地速度センサを利用したABSや車両横滑り防止装置等の車両制御システムの開発も行われている。直接車体速を計測することから、従来の推定車体速に比べて車輪スリップ率や車体横すべり角の検出精度が向上するため、ABSや車両横滑り防止装置の性能が向上する。
【0004】
しかし、このような対地速度センサを利用した車両運動制御システムの場合、対地速度センサが正常に作動しなくなると、制動力が働かなくなる、車体がスピンする等、運転者が危険な状況に陥る可能性がある。そのため、対地速度センサ異常時の対策処理が非常に重要になる。
【0005】
そこで、車輪速度センサと、車輪速度センサの出力に基づいて車体速度を推定する車体速度推定手段と、対地速度センサと、対地速度センサで検出された車体速度および車体速度推定手段で求められた推定車体速度から対地速度センサの異常を検出する対地速度センサ異常検出手段と、対地速度センサで検出された車体速度および車輪速度センサの出力に基づいてABS制御を行う第1の制御手段と、車体速度推定手段で求められた推定車体速度および車輪速度センサの出力に基づいてABS制御を行う第2の制御手段と、対地速度センサ異常検出手段の出力に応じて第1の制御手段と第2の制御手段の一方を選択する選択手段を備え、対地速度センサの正常,異常状態に応じて対地速度センサおよび車輪速度センサの出力に基づく制御と車体速度推定手段および車輪速度センサに基づく制御を選択する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−46961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
対地速度センサの出力値と実際の車体速の間に計測誤差という異常が発生した場合、対地速度センサの出力値をそのまま車両制御に用いると、ABSや車両横滑り防止装置等の性能が低下してしまう。
【0008】
そこで、上記公知技術では、対地速度センサが正常に働かなくなった場合は、制御で利用する車体速として対地速度センサの出力値を利用することを禁止し、車輪速に基づく推定車体速に切り替え、更にABS制御手段を対地速度センサ出力値と車輪速に基づくABS制御手段から車輪速に基づく推定車体速と車輪速に基づくABS制御手段に切り替えている。
【0009】
しかし、対地速度センサ正常時の対地速度センサ出力値と車輪速に基づくABS制御中の車輪速に基づく推定車体速と対地速度センサ出力値の間にはかなりの乖離がある。そのため、上記公知技術の様に、対地速度センサが異常と判定された瞬間に制御用車体速を車輪速に基づく推定車体速へ直接切り替えると、制御用車体速はステップ的に変化して車両の挙動が不安定になるといった問題があった。
【0010】
本発明は上記の点を鑑みてなされたものであり、対地速度センサが異常と判定された場合に、車両挙動が不安定になることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
車輪速センサから車輪速、対地速度センサからの車体速に基づき、対地速度センサの異常状態を判定し、当該異常状態に応じて、センサ値に基づいて車両の制御を実行する第1の車両制御と、推定車体速に基づいて車両の制御を実行する第2の車両制御のいずれかを選択し、選択した前記車両制御により演算される制御指令値に基づいて各車輪の制動力を制御する。
【発明の効果】
【0012】
対地速度センサが異常と判定された場合に、車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する。本実施形態は、例えば自動車のブレーキ制御装置に係り、ABSや車両横滑り防止装置等の作動中に、車両の対地速度を計測するセンサが正常に動作しなくなった際のブレーキ制御方法に関する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態をなす車両の制御装置の機能ブロック図を示す。図2は、図1の制御装置による制御によるタイムチャートを示す。
【0015】
図1において、車輪速検出部1は、車輪の回転速度から車輪速を検出する。対地速度センサ2は、路面に対する車両の移動速度である車体速を検出する。
【0016】
第1車体速推定部3は、車輪速検出部1により求められる車輪速に基づいて、車両の前後方向の路面に対する車両の移動速度である車体速を推定する。
【0017】
車体速基準値演算部4は、対地速度センサ2により検出される車体速に基づいて車体速基準値を演算する。
【0018】
対地速度センサ異常検出部6は、対地速度センサ2により検出される車体速と、車体速基準値演算部4により演算される車体速基準値に基づき、対地速度センサ2の異常状態を検出する。
【0019】
第2車体速推定部5は、対地速度センサ2により検出される車体速と、車体速基準値演算部4により演算される車体速基準値と、第1車体速推定部3により推定される車輪速に基づく第1推定車体速と、対地速度センサ異常検出部6により検出される異常状態に基づいて車体速を推定する。
【0020】
推定車体速選択部7は、第1車体速推定部3により車輪速に基づいて推定される第1推定車体速と、第2車体速推定部5により推定される第2推定車体速と、車輪速検出部1により検出される車輪速より、車両制御において使用する推定車体速を選択する。
【0021】
車両制御部8は、対地速度センサ2により検出される車体速と車輪速検出部1により検出される車輪速に基づいて車両の制御を実行する。
【0022】
車両制御部9は、推定車体速選択部7により選択される第1車体速推定部3により推定される車輪速に基づく第1推定車体速、あるいは第2車体速推定部5により推定される第2推定車体速のどちらか一方の推定車体速と、車輪速検出部1により検出される車輪速に基づいて車両の制御を実行する。
【0023】
車両制御選択部10は、対地速度センサ値に基づく車両制御部8と推定車体速に基づく車両制御部9のうちで、対地速度センサ異常検出部6により検出される異常状態に基づいて車両制御部を選択する。
【0024】
制動力制御部11は、車両制御選択部10により選択される車両制御部により演算される指令値に基づいて各車輪の制動力を制御する。
【0025】
本実施形態の車両制御装置は、対地速度センサ値,車輪速に基づく第1推定車体,第2推定車体速という3つの車体速と、対地速度センサ値に基づく車両制御部8,推定車体速に基づく制御車両制御部9という2つの車両制御部を持ち、対地速度センサの正常・異常に応じて、図1に示す様に車体速と車両制御手段を切り替える。図2のタイムチャートについては、図12,図13で詳しく述べる。
【0026】
本実施形態によれば、対地速度センサが正常に働かなくなった際に、制御用の車体速を、第2推定車体速,第1推定車体速と切り替えて、制御用車体速の変動を抑制することにより、制御用車体速の切り替えに伴う車両挙動が不安定になるのを抑制することができる。
【0027】
以下、本発明の実施例をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
図3は、本発明の実施例1をなすABS制御装置のシステム構成図を示す。
【0029】
この車両12は、タイヤ13(Fはフロント=前輪、Rはリア=後輪、Lはレフト=左、Rはライト=右を示し、例えば13FLは左前輪タイヤを示す)、各輪にそれぞれ設けられたブレーキキャリパ21(FR,LFはタイヤ13と同様の定義)、ブレーキキャリパの制動力を制御する電磁制御弁19、及び車輪速センサ20が設けられている。運転者によって操作されるステアリング14の舵角は、舵角センサ31で検出される。運転者によるブレーキペダル15の操作は、ブレーキブースター16によって倍力され、ブレーキマスターシリンダ17の圧力となり、油圧配管を通じて電磁制御弁19を介して各ブレーキキャリパ21の制動力が制御される。
【0030】
ここで、ABS制御は、各輪の電磁制御弁19の開閉をコントロールユニット(以下C/U)18が制御することによって得られる。C/Uには、各輪の車輪速センサ20,舵角センサ出力31,車両の前後加速度を検出する前後加速度センサ22,車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ23、そして対地速度センサ2の検出値が入力される。入力した検出値を処理し、電磁制御弁19を制御することによって、ABS制御を行う。
【0031】
図4は、図3のC/U18のブロック構成図を示す。
【0032】
C/U18はCPU,ROM,RAM,I/O回路から構成されており、ROM内に格納されているプログラムによって制御を実行する。ここでは、対地速度センサ2からセンサ値Vgss、各車輪の車輪速センサ20から入力した車輪速Vwを入力し、各輪の電磁制御弁19への制御信号を出力する。
【0033】
図5は、図3のコントロールユニット18の制御フローチャートを示す。この制御フローは所定時間T毎に演算を行う。
【0034】
ステップ5−1(以下「ステップ」を「S」とする)では、対地速度センサ2,車輪速センサ20,前後加速度センサ22より対地速度センサ値Vgss,車輪速Vwを取得し、S5−2へ移る。
【0035】
S5−2では前記車輪速Vwより第1推定車体速V′_1を求め、S5−3へ移る。
【0036】
S5−3では前記対地速度センサ値Vgssより車体加速度Gx_dVを演算し、S5−4へ移る。ここで、車体加速度Gx_dVは車両が加速している時を正、減速している時を負とする。
【0037】
S5−4では、対地速度センサ値Vgssの前回値Vgss_z1と車体加速度Gx_dVより車体速基準値V_stdを演算する。この時、車体加速度Gx_dVはメモリに記憶させておいた車体加速度Gx_dVの過去値数点の平均値を利用してもよいし、前後加速度を検出するセンサの値を利用してもよい。S5−4で車体速基準値V_stdを演算したらS5−5へ移る。
【0038】
S5−5では、対地速度センサ値Vgss,車体速基準値V_stdより差分値ΔV
(=Vgss−V_std)を演算し、S5−6へ移る。
【0039】
S5−6では対地速度センサ値Vgss,第1推定車体速V′_1,車体速基準値V_std、差分値ΔVより第2推定車体速V′_2を推定し、S5−7へ移る。
【0040】
図6は、図5のS5−6での第2推定車体速V′_2の推定方法を示す。
【0041】
まず、S6−1において、対地速度センサ値Vgssと車体速基準値V_stdの差分値ΔVの絶対値と所定値ΔV_thr1の大小関係を判定する。ΔVの前回値ΔV_z1が所定値ΔV_thr1以下であり、尚且つΔVがΔV_thr1より大きいという条件を満たす場合はS6−2に移り、条件を満たさない場合はS6−3に移る。S6−2に移った場合は、第2推定車体速V′_2は車体速基準値V_stdとする。一方、S6−3に移った場合は、係数k、第2推定車体速V′_2の前回値をV′_2_z1として、第2推定車体速V′_2は以下の式(1)により推定する。
【0042】
V′_2=k×V′_2_z1+(1−k)×V′_1 ・・・(1)
ただし、係数kの取りうる範囲は0<k<1である。
【0043】
上式(1)により第2推定車体速V′_2を推定する場合、ΔVの符号により式(1)の係数kを変更する。ΔVが正の場合はS6−4に移りk=k1として、S6−5で式
(1)を演算する。一方、ΔVが負の場合はS6−6に移りk=k2としてS6−6で式(1)を演算する。なお、k1は第1推定車体速V′_1の値の影響を強く受けるような値を、k2は推定車体速V′_2_z1の影響を強く受けるような値に設定することが望ましい。以上が推定車体速V′_2の推定方法である。ただし、他の方式により第2推定車体速V′_2を推定してもよい。
【0044】
以上で推定車体速V′_2の推定が終わると、図5のS5−7に移り、推定車体速V′_1とV′_2の2つの推定車体速からの一つを選択する。
【0045】
図7は、図5のS5−7における選択方法を示す。
【0046】
S7−1で推定車体速V′_1とV′_2の差分値ΔV′を演算し、S7−2に移る。S7−2で差分値ΔV′の絶対値が所定値ΔV′_thr1より大きければS7−3に移り、推定車体速V′をV′_2とする。一方、ΔV′の絶対値が所定値ΔV′_thr1より小さければS7−4に移り、推定車体速V′をV′_1とする。以上が推定車体速
V′の選択方法である。
【0047】
上記の方法で推定車体速V′が選択されると、図5のS5−8に移る。S5−8では対地速度センサ値Vgssと車輪速Vwを入力として、車体速に基づくABS制御に従って、ABS制御周期T当たりの電磁制御弁駆動時間Te1を演算する。尚、車体速に基づくABS制御の詳細については後述する。電磁制御弁駆動時間Te1を演算後、S5−9に移る。
【0048】
S5−9では推定車体速V′と車輪速Vwを入力として、推定車体速に基づくABS制御に従って、ABS制御周期T当たりの電磁制御弁駆動時間Te2を演算し、S5−10に移る。
【0049】
S5−10ではS5−8,S5−9で演算された電磁制御弁駆動時間Te1,Te2から最終的な電磁制御弁駆動時間指令値Teを選択する。対地速度センサ値Vgssと車体速基準値V_stdの差分値ΔVが所定値ΔV_thr2より小さい場合は電磁制御弁駆動時間Te1を選択し、差分値ΔVが所定値ΔV_thr2より大きい場合は電磁制御弁駆動時間Te2を選択する。S5−10で最終的な電磁制御弁駆動時間指令値が決定されると、この指令値に基づいて電磁制御弁が駆動される。
【0050】
本実施例によれば、ABS制動中に対地速度センサに異常が発生した場合、制御で使用する車体速は、対地速度センサ値Vgss→車体速基準値V_std→第2推定車体速
V′_2→第1推定車体速V′_1と遷移していくことになる。
【0051】
次に、対地速度センサで検出した対地速度センサ値Vgssに基づく車両制御手段と推定車体速V′に基づく車両制御手段の制御例について説明する。
【0052】
図8は、図5のS5−8における、対地速度センサで検出した車対地速度センサ値
Vgssに基づく車両制御手段の制御の一例を示す。
【0053】
図8(a)は横軸が時間を、縦軸が速度をそれぞれ表しており、ABS作動中の車輪速の挙動を示したものである。また、図8(b)は横軸が時間を、縦軸が圧力をそれぞれ表しており、ABS作動中のホイール圧力の様子を示したものである。対地速度センサにより常に車体速を検出することができるため、一般的なABSのように車体速を推定しているために車輪速を細かく脈動させる必要がない。そのため、ホイール圧力の増減を繰り返す必要がなくなり、電磁制御弁の作動回数が大幅に削減でき、作動音を低減することができる。また、上述の通り、車輪速を細かく脈動させる必要がないため、車輪をある一定のスリップ率で制御することができる。よって、予め最適なスリップ率を求めることにより、このスリップ率を目標スリップ率として車輪速を制御することで、ABS制動距離を短縮することもできる。
【0054】
図9は、図5のS5−8における、対地速度センサで検出した車体速Vに基づくABS制御の制御フローチャートを示す。図9の制御フローは所定時間T毎に演算する。
【0055】
S9−1では、車体速Vと予め求めておいた目標スリップ率Slip_target1より、車輪速Vwの制御目標値である目標車輪速Vw_targetを演算する。目標車輪速Vw_target演算後、S9−2に移る。
【0056】
S9−2では車輪速Vwと上記で演算した目標車輪速Vw_targetの差分値
ΔVw(=Vw−Vw_target)を演算し、S9−3に移る。
【0057】
S9−3では車輪速Vwと目標車輪速Vw_targetの差分の絶対値|ΔVw|と所定値ΔVw_thr1との大小関係を判定する。|ΔVw|が所定値ΔVw_thr1よりも小さい場合はS9−4に移り、|ΔVw|が所定値ΔVw_thr1よりも大きい場合はS9−5に移る。
【0058】
S9−3からS9−4に移った場合、車輪速Vwは目標車輪速Vw_targetに制御されていると判断し、電磁制御弁の駆動時間はゼロとし、S9−5に移ってホイール圧力を保持する。
【0059】
また、S9−3からS9−6に移った場合は、S9−6で車輪速Vwと目標車輪速Vw_targetの大小関係を判定する。車輪速Vwが目標車輪速Vw_targetより小さい場合はS9−7に移り、車輪速Vwが目標車輪速Vw_targetより大きい場合はS9−9に移る。
【0060】
S9−6からS9−7に移った場合は、S9−7で目標車輪速Vw_targetと車輪速Vwの差分等に基づき電磁制御弁の駆動時間を演算し、S9−8に移る。
【0061】
S9−8では演算された駆動時間に基づいて電磁制御弁を駆動して、ホイール圧力を減少させる。
【0062】
一方、S9−6からS9−9に移った場合は、S9−9で車輪速Vwと目標車輪速Vw_targetの差分等に基づき電磁制御弁の駆動時間を演算し、S9−10に移る。
【0063】
S9−10では演算された駆動時間に基づいて電磁制御弁を駆動して、ホイール圧力を増加させる。
【0064】
このようにS9−5,S9−8,S9−10の何れかに進んでホイール圧力を制御した後、S9−11に移る。
【0065】
S9−11では、対地速度センサ値Vあるいはマスター圧に基づき、ABSの制御終了判定を行う。対地速度センサ値Vgssが所定値V_thr1以下、またはマスター圧
P_masterが所定値P_thr1以下のどちらかの条件を満たす場合ABSの制御を終了する。逆にどちらも満たさない場合はS9−1へ戻ってABSの制御を継続する。
【0066】
以上が対地速度センサ値Vgssに基づくABS制御の制御フローチャートであるが、要旨を逸脱しない限り、上述の制御フローに依らず他の形態での対地速度センサにより検出の車体速Vに基づくABS制御も可能である。
【0067】
図10は、図5のS5−9における、推定車体速V′に基づく車両制御手段の制御の一例を示す。
【0068】
図10(a)は横軸が時間を、縦軸が速度をそれぞれ表しており、ABS作動中の車輪の挙動を示したものである。また、図10(b)は横軸が時間を、縦軸が圧力をそれぞれ表しており、ABS作動中のホイール圧力の様子を示したものである。推定車体速に基づくABS制御では、車輪速に基づいて車体速を推定している。そのため、車体速の推定と制動力の確保を頻繁に繰り返している。具体的には、ホイール圧を減少させることで、車輪速を実際の車体速付近まで復帰(=スリップ率を減少)させ、車体速を推定する。車体速推定後は制動力を発生させるため、ホイール圧を増加させ、車輪速を低下(=スリップ率増加)させる。
【0069】
図11は、図5のS5−9における、推定車体速に基づくABS制御の制御フローチャートを示す。図11の制御フローは所定時間T毎に演算する。
【0070】
S11−1では、車輪速Vwの情報から推定車体速V′_1を推定する。推定方法として、4輪のうち最も高速な車輪速の値を車体速と見なすセレクトハイの手法を用いることが一般的である。S11−1で推定車体速V′_1を推定すると、S11−2へ移る。
【0071】
S11−2では、推定車体速V′_1や予め設定された目標スリップ率Slip_
target2より、ホイール圧を増加させる際の車輪速の目標値である増圧側目標車輪速Vw_target1、及びホイール圧を減少させる際の車輪速の目標値である減圧側目標車輪速Vw_target2を演算する。目標車輪速Vw_target1,Vw_target2の演算が終わると、S11−3へ移る。
【0072】
S11−3では車輪速Vwと増圧側目標車輪速Vw_target1との大小関係を判定する。車輪速Vwが増圧側目標車輪速Vw_target1より大きい場合はS11−4へ移り、小さい場合はS11−5へ移る。
【0073】
S11−3からS11−4に移った場合は、目標車輪速の前回値Vw_target_z1を参照する。前回値が増圧側目標車輪速Vw_target1_z1の場合は、S11−6に移り、目標車輪速Vw_targetを減圧側目標車輪速Vw_target2に切り替える。前回値が増圧側目標車輪速Vw_target1ではない場合は、S11−7に移り、目標車輪速Vw_targetの切り替えは行わない。
【0074】
一方、S11−3からS11−5に移った場合は、車輪速Vwと減圧側目標車輪速Vw_target2との大小関係を判定する。車輪速Vwが減圧側目標車輪速Vw_
target2より小さい場合はS11−8へ移り、大きい場合はS11−7に移る。
【0075】
S11−5からS11−8に移った場合は、目標車輪速の前回値Vw_target_z1を参照する。前回値が減圧側目標車輪速Vw_target2_z1の場合は、S11−9に移り、目標車輪速Vw_targetを増圧側目標車輪速Vw_target1に切り替える。前回値が減圧側目標車輪速Vw_target2_z1ではない場合は、
S11−7へ移り、目標車輪速Vw_targetの切り替えは行わない。
【0076】
一方、S11−5からS11−7へ移った場合も、目標車輪速Vw_targetの切り替えは行わない。
【0077】
以上のステップで目標車輪速Vw_targetが設定されると、S11−10へ移り、車輪速Vwと目標車輪速Vw_targetの差分値ΔV2を演算する。差分値ΔV2が演算されると、S11−11へ移り、ΔV2に基づいてABS制御周期T当たりの電磁制御弁の駆動時間Teを演算する。駆動時間Teが演算されると、S11−12に移り、電磁制御弁が駆動される。電磁制御弁駆動後、S11−13に移る。
【0078】
S11−13では、推定車体速V′あるいはマスター圧に基づき、ABSの制御終了判定を行う。推定車体速V′が所定値V_thr2以下、またはマスター圧P_masterが所定値P_thr1以下のどちらかの条件を満たす場合ABSの制御を終了する。逆にどちらも満たさない場合はS11−1へ戻ってABSの制御を継続する。
【0079】
以上が推定車体速V′に基づくABS制御の制御フローチャートであるが、要旨を逸脱しない限り、上述の制御フローに依らず他の形態での推定車体速V′に基づくABS制御も可能である。
【0080】
図12及び図13は、本実施形態による制御のタイムチャート例を示す。各図ともに
(a)は横軸が時間を、縦軸が速度をそれぞれ表しており、(b)は横軸が時間を、縦軸が圧力をそれぞれ表している。
【0081】
図12は、最初は対地速度センサが正常で、対地速度センサ値Vgssに基づくABS制御を行っていたが、途中で対地速度センサが実際の車体速より高く計測する異常を発生し、推定車体速V′に基づくABS制御に切り替えた場面での車輪速とホイール圧力の挙動を示している。実際の対地速度センサ異常発生とシステムによる対地速度センサ異常検出の間には僅かながらタイムラグがある。そのため、対地速度センサ値Vgssに基づいて演算される車体速基準値V_stdは、図12のような場合では、実際の車体速よりもやや高い値となる。そのため、推定車体速V′2の初期値も実際の車体速よりやや高い値となる。よって、システムが対地速度センサの異常を検出したら、ホイール圧を徐々に減少させて、車輪速を徐々に実際の車体速に近づけるような制御を行う。これにより、推定車体速V′_2の上ずりを抑制し、スリップ率の大幅な減少による制動力減少を抑制することができる。
【0082】
図13は、最初は対地速度センサが正常で、車体速Vに基づくABS制御を行っていたが、途中で対地速度センサが実際の車体速より低く計測する異常を発生し、推定車体速
V′に基づくABS制御に切り替えた場面での車輪速とホイール圧力の挙動を示している。この場合は車体速Vに基づいて演算される車体速基準値V_stdは、実際の車体速よりやや低い値となる。そのため、推定車体速V′2の初期値も実際の車体速よりやや低い値となる。よって、システムが対地速度センサの異常を検出したら、ホイール圧を急激に減少させて、車輪速を素早く実際の車体速に近づけるような制御を行う。これにより、推定車体速V′_2の不要な下ずりを抑制し、スリップ率の増加による車輪のロックを抑制することができる。
【0083】
図14は、図3の対地速度センサ2による車体速計測方法を示し、図15は、図3の対地使車速センサ2の設置図を示す。
【0084】
図14は車両を上から見たものである。対地速度センサ2は車両の前部中央に2台設置する。そして、図15は車両を横から見た図であるが、地面に対して入射角θで電波を照射するように、水平面に対して角度θ方向に電波照射面を向ける。図14において、車両の前後方向をx軸、左右方向(横方向)をy軸とする。対地速度センサaをx軸に対して角度a、対地速度センサbを角度bの方向に向ける。ただし、x軸より時計周りを角度の正に取ると、角度aはa<0となる。車両重心点から対地速度センサ設置点までの距離をLとする。このとき、車両は車両横滑り角β、ヨーレイトγを発生して速度Vcで走行して、2台の対地速度センサが速度Va,Vbを計測していたと仮定する。すると、下記2式の関係が成立する。
【0085】
【数1】
【0086】
式(2),(3)より
【0087】
【数2】
【0088】
これにより、車両前後方向の速度Vx,左右方向速度Vyは以下の通りとなる。
【0089】
【数3】
【0090】
これより、例えば直進している車両においてABSを作動させた場合、β=0,γ=0の時のVx が、本実施例中の対地速度センサ値Vgssとなる。
【実施例2】
【0091】
図16は、本発明の実施例2をなす制御フローチャートを示す。
【0092】
これは、実施例1の図7のフローチャートの他の実施例であり、その他の構成は実施例1と同様である。S16−1で推定車体速V′_1とV′_2の差分値ΔV′を演算し、S16−2に移る。S16−2で4つの車輪のうちで最も高速の車輪速について車輪速度dVwを演算し、S16−3に移る。S16−3ではΔV′の絶対値が所定値ΔV′_
thr1より小さく、尚且つ車輪速度dVwが所定値ΔVw_thr1より小さいという条件を満たす場合はS16−5に移り、推定車体速V′をV′_1とする。一方、S16−3の条件を満たさない場合はS16−4に移り、推定車体速V′をV′_2とする。
【実施例3】
【0093】
実施例1では対地速度センサが異常であると判断された瞬間は、第2推定車体速V′_2を車体速基準値V_stdとして、式(1)における第2推定車体速V′_2の初期値としていたが、対地速度センサ出力値Vgssを初期値として計算してもよい。
【0094】
また、式(2)において、第2推定車体速の過去値V′_2_z1を利用して演算していたが、下式(4)のように第2推定車体速の初期値V′_2_initを利用してもよい。
【0095】
V′_2=k×V′_2_init+(1−k)×V′_1 ・・・(4)
その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例4】
【0096】
式(1)や式(4)の第2推定車体速の初期値として、対地速度センサが異常と判定される直前の対地速度センサ値を利用しても良い。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例5】
【0097】
式(1)や式(4)を用いて第2推定車体速を推定する際に、推定路面摩擦係数に応じて、係数kを変更するようにしても良い。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例6】
【0098】
第2推定車体速を式(1)により推定していたが、車体速基準値を第2推定車体速としても良い。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例7】
【0099】
実施例1では制御用車体速を計測する手段として、対地速度センサを用いているが、
GPS(Global Positioning System) を用いて、所定時間毎の車両の移動距離から制御用車体速Vを計測しても良い。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例8】
【0100】
図17は、本発明の実施例8をなす対地速度センサ2の設置図を示す。
【0101】
実施例1では、2台の対地速度センサを図14のように車両前部中央に隣接するように設置していたが、図17のように2台の対地速度センサを離して設置しても良い。図17は車両を上から見た図である。この場合、2台の対地速度センサは、x軸からの角度がa,bとなるように、尚且つ、2台の対地速度センサの向きが車両重心点上で交わるように設置する。このように設定すると、横方向速度のヨーレイト成分を考慮する必要がなくなり、以下の式(5),(6)の連立方程式を解くにより、
【0102】
【数4】
【0103】
前後方向速度Vx,左右方向速度Vyは以下の通り求めることができる。
【0104】
【数5】
【0105】
その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例9】
【0106】
図18は、本発明の実施例9をなす対地速度センサ2の構成概略図を示す。
【0107】
実施例1では、対地速度センサの異常判定として、対地速度センサ値と車体速基準値の差分値、対地速度センサ値の時間微分値を利用していたが、以下のように、対地速度センサの電源電圧を利用することもできる。図18のように、電波の送受信を行う電波送受信部,信号処理部,信号出力部からなる対地速度センサに、電源電圧をモニタする電源電圧モニタ部を追加し、電源基板から対地速度センサに供給される電圧を計測する。そして、計測電圧が定格電圧より所定の範囲より離れた場合、対地速度センサが異常と判断する。その他の構成は実施例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の一実施形態をなす車両の制御装置の機能ブロック図を示す。
【図2】図1の制御装置による制御によるタイムチャートを示す。
【図3】本発明の実施例1をなすABS制御装置のシステム構成図を示す。
【図4】図3のC/U18のブロック構成図を示す。
【図5】図3のコントロールユニット18の制御フローチャートを示す。
【図6】図5のS5−6での第2推定車体速V′_2の推定方法を示す。
【図7】図5のS5−7における選択方法を示す。
【図8】図5のS5−8における、対地速度センサで検出した車対地速度センサ値 Vgssに基づく車両制御手段の制御の一例を示す。
【図9】図5のS5−8における、対地速度センサで検出した車体速Vに基づくABS制御の制御フローチャートを示す。
【図10】図5のS5−9における、推定車体速V′に基づく車両制御手段の制御の一例を示す。
【図11】図5のS5−9における、推定車体速に基づくABS制御の制御フローチャートを示す。
【図12】本実施形態による制御のタイムチャート例を示す。
【図13】本実施形態による制御のタイムチャート例を示す。
【図14】図3の対地速度センサ2による車体速計測方法を示す。
【図15】図3の対地速度センサ2の設置図を示す。
【図16】本発明の実施例2をなす制御フローチャートを示す。
【図17】本発明の実施例8をなす対地速度センサ2の設置図を示す。
【図18】本発明の実施例9をなす対地速度センサ2の構成概略図を示す。
【符号の説明】
【0109】
2 対地速度センサ
12 車両
13 タイヤ
14 ステアリング
15 ブレーキベダル
16 ブレーキブースター
17 ブレーキマスターシリンダ
18 コントロールユニット(C/U)
19 電磁制御弁
20 車輪速センサ
21 ブレーキキャリパ
22 前後加速度センサ
23 ヨーレイトセンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、対地速度センサを用いた車両の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両事故の増大を抑制するべく、車両衝突防止装置やABS(Anti-lock Brake System)、車両横滑り防止装置等の事故を未然に防ぐ予防安全技術の研究開発が各メーカーにおいて進められている。
【0003】
車両衝突防止装置やABS,車両横滑り防止装置等では、車両の対地速度(以後「車体速」と呼ぶ)と各車輪の回転速度(以後「車輪速」と呼ぶ)から求められる車輪のスリップ率を、車両状態に応じて適切な範囲に収まるように制御を行っている。この時、車体速は4つの車輪の車輪速から推定することにより求められているが、直接車体速を計測する対地速度センサ、及び対地速度センサを利用したABSや車両横滑り防止装置等の車両制御システムの開発も行われている。直接車体速を計測することから、従来の推定車体速に比べて車輪スリップ率や車体横すべり角の検出精度が向上するため、ABSや車両横滑り防止装置の性能が向上する。
【0004】
しかし、このような対地速度センサを利用した車両運動制御システムの場合、対地速度センサが正常に作動しなくなると、制動力が働かなくなる、車体がスピンする等、運転者が危険な状況に陥る可能性がある。そのため、対地速度センサ異常時の対策処理が非常に重要になる。
【0005】
そこで、車輪速度センサと、車輪速度センサの出力に基づいて車体速度を推定する車体速度推定手段と、対地速度センサと、対地速度センサで検出された車体速度および車体速度推定手段で求められた推定車体速度から対地速度センサの異常を検出する対地速度センサ異常検出手段と、対地速度センサで検出された車体速度および車輪速度センサの出力に基づいてABS制御を行う第1の制御手段と、車体速度推定手段で求められた推定車体速度および車輪速度センサの出力に基づいてABS制御を行う第2の制御手段と、対地速度センサ異常検出手段の出力に応じて第1の制御手段と第2の制御手段の一方を選択する選択手段を備え、対地速度センサの正常,異常状態に応じて対地速度センサおよび車輪速度センサの出力に基づく制御と車体速度推定手段および車輪速度センサに基づく制御を選択する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−46961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
対地速度センサの出力値と実際の車体速の間に計測誤差という異常が発生した場合、対地速度センサの出力値をそのまま車両制御に用いると、ABSや車両横滑り防止装置等の性能が低下してしまう。
【0008】
そこで、上記公知技術では、対地速度センサが正常に働かなくなった場合は、制御で利用する車体速として対地速度センサの出力値を利用することを禁止し、車輪速に基づく推定車体速に切り替え、更にABS制御手段を対地速度センサ出力値と車輪速に基づくABS制御手段から車輪速に基づく推定車体速と車輪速に基づくABS制御手段に切り替えている。
【0009】
しかし、対地速度センサ正常時の対地速度センサ出力値と車輪速に基づくABS制御中の車輪速に基づく推定車体速と対地速度センサ出力値の間にはかなりの乖離がある。そのため、上記公知技術の様に、対地速度センサが異常と判定された瞬間に制御用車体速を車輪速に基づく推定車体速へ直接切り替えると、制御用車体速はステップ的に変化して車両の挙動が不安定になるといった問題があった。
【0010】
本発明は上記の点を鑑みてなされたものであり、対地速度センサが異常と判定された場合に、車両挙動が不安定になることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
車輪速センサから車輪速、対地速度センサからの車体速に基づき、対地速度センサの異常状態を判定し、当該異常状態に応じて、センサ値に基づいて車両の制御を実行する第1の車両制御と、推定車体速に基づいて車両の制御を実行する第2の車両制御のいずれかを選択し、選択した前記車両制御により演算される制御指令値に基づいて各車輪の制動力を制御する。
【発明の効果】
【0012】
対地速度センサが異常と判定された場合に、車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する。本実施形態は、例えば自動車のブレーキ制御装置に係り、ABSや車両横滑り防止装置等の作動中に、車両の対地速度を計測するセンサが正常に動作しなくなった際のブレーキ制御方法に関する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態をなす車両の制御装置の機能ブロック図を示す。図2は、図1の制御装置による制御によるタイムチャートを示す。
【0015】
図1において、車輪速検出部1は、車輪の回転速度から車輪速を検出する。対地速度センサ2は、路面に対する車両の移動速度である車体速を検出する。
【0016】
第1車体速推定部3は、車輪速検出部1により求められる車輪速に基づいて、車両の前後方向の路面に対する車両の移動速度である車体速を推定する。
【0017】
車体速基準値演算部4は、対地速度センサ2により検出される車体速に基づいて車体速基準値を演算する。
【0018】
対地速度センサ異常検出部6は、対地速度センサ2により検出される車体速と、車体速基準値演算部4により演算される車体速基準値に基づき、対地速度センサ2の異常状態を検出する。
【0019】
第2車体速推定部5は、対地速度センサ2により検出される車体速と、車体速基準値演算部4により演算される車体速基準値と、第1車体速推定部3により推定される車輪速に基づく第1推定車体速と、対地速度センサ異常検出部6により検出される異常状態に基づいて車体速を推定する。
【0020】
推定車体速選択部7は、第1車体速推定部3により車輪速に基づいて推定される第1推定車体速と、第2車体速推定部5により推定される第2推定車体速と、車輪速検出部1により検出される車輪速より、車両制御において使用する推定車体速を選択する。
【0021】
車両制御部8は、対地速度センサ2により検出される車体速と車輪速検出部1により検出される車輪速に基づいて車両の制御を実行する。
【0022】
車両制御部9は、推定車体速選択部7により選択される第1車体速推定部3により推定される車輪速に基づく第1推定車体速、あるいは第2車体速推定部5により推定される第2推定車体速のどちらか一方の推定車体速と、車輪速検出部1により検出される車輪速に基づいて車両の制御を実行する。
【0023】
車両制御選択部10は、対地速度センサ値に基づく車両制御部8と推定車体速に基づく車両制御部9のうちで、対地速度センサ異常検出部6により検出される異常状態に基づいて車両制御部を選択する。
【0024】
制動力制御部11は、車両制御選択部10により選択される車両制御部により演算される指令値に基づいて各車輪の制動力を制御する。
【0025】
本実施形態の車両制御装置は、対地速度センサ値,車輪速に基づく第1推定車体,第2推定車体速という3つの車体速と、対地速度センサ値に基づく車両制御部8,推定車体速に基づく制御車両制御部9という2つの車両制御部を持ち、対地速度センサの正常・異常に応じて、図1に示す様に車体速と車両制御手段を切り替える。図2のタイムチャートについては、図12,図13で詳しく述べる。
【0026】
本実施形態によれば、対地速度センサが正常に働かなくなった際に、制御用の車体速を、第2推定車体速,第1推定車体速と切り替えて、制御用車体速の変動を抑制することにより、制御用車体速の切り替えに伴う車両挙動が不安定になるのを抑制することができる。
【0027】
以下、本発明の実施例をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
図3は、本発明の実施例1をなすABS制御装置のシステム構成図を示す。
【0029】
この車両12は、タイヤ13(Fはフロント=前輪、Rはリア=後輪、Lはレフト=左、Rはライト=右を示し、例えば13FLは左前輪タイヤを示す)、各輪にそれぞれ設けられたブレーキキャリパ21(FR,LFはタイヤ13と同様の定義)、ブレーキキャリパの制動力を制御する電磁制御弁19、及び車輪速センサ20が設けられている。運転者によって操作されるステアリング14の舵角は、舵角センサ31で検出される。運転者によるブレーキペダル15の操作は、ブレーキブースター16によって倍力され、ブレーキマスターシリンダ17の圧力となり、油圧配管を通じて電磁制御弁19を介して各ブレーキキャリパ21の制動力が制御される。
【0030】
ここで、ABS制御は、各輪の電磁制御弁19の開閉をコントロールユニット(以下C/U)18が制御することによって得られる。C/Uには、各輪の車輪速センサ20,舵角センサ出力31,車両の前後加速度を検出する前後加速度センサ22,車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ23、そして対地速度センサ2の検出値が入力される。入力した検出値を処理し、電磁制御弁19を制御することによって、ABS制御を行う。
【0031】
図4は、図3のC/U18のブロック構成図を示す。
【0032】
C/U18はCPU,ROM,RAM,I/O回路から構成されており、ROM内に格納されているプログラムによって制御を実行する。ここでは、対地速度センサ2からセンサ値Vgss、各車輪の車輪速センサ20から入力した車輪速Vwを入力し、各輪の電磁制御弁19への制御信号を出力する。
【0033】
図5は、図3のコントロールユニット18の制御フローチャートを示す。この制御フローは所定時間T毎に演算を行う。
【0034】
ステップ5−1(以下「ステップ」を「S」とする)では、対地速度センサ2,車輪速センサ20,前後加速度センサ22より対地速度センサ値Vgss,車輪速Vwを取得し、S5−2へ移る。
【0035】
S5−2では前記車輪速Vwより第1推定車体速V′_1を求め、S5−3へ移る。
【0036】
S5−3では前記対地速度センサ値Vgssより車体加速度Gx_dVを演算し、S5−4へ移る。ここで、車体加速度Gx_dVは車両が加速している時を正、減速している時を負とする。
【0037】
S5−4では、対地速度センサ値Vgssの前回値Vgss_z1と車体加速度Gx_dVより車体速基準値V_stdを演算する。この時、車体加速度Gx_dVはメモリに記憶させておいた車体加速度Gx_dVの過去値数点の平均値を利用してもよいし、前後加速度を検出するセンサの値を利用してもよい。S5−4で車体速基準値V_stdを演算したらS5−5へ移る。
【0038】
S5−5では、対地速度センサ値Vgss,車体速基準値V_stdより差分値ΔV
(=Vgss−V_std)を演算し、S5−6へ移る。
【0039】
S5−6では対地速度センサ値Vgss,第1推定車体速V′_1,車体速基準値V_std、差分値ΔVより第2推定車体速V′_2を推定し、S5−7へ移る。
【0040】
図6は、図5のS5−6での第2推定車体速V′_2の推定方法を示す。
【0041】
まず、S6−1において、対地速度センサ値Vgssと車体速基準値V_stdの差分値ΔVの絶対値と所定値ΔV_thr1の大小関係を判定する。ΔVの前回値ΔV_z1が所定値ΔV_thr1以下であり、尚且つΔVがΔV_thr1より大きいという条件を満たす場合はS6−2に移り、条件を満たさない場合はS6−3に移る。S6−2に移った場合は、第2推定車体速V′_2は車体速基準値V_stdとする。一方、S6−3に移った場合は、係数k、第2推定車体速V′_2の前回値をV′_2_z1として、第2推定車体速V′_2は以下の式(1)により推定する。
【0042】
V′_2=k×V′_2_z1+(1−k)×V′_1 ・・・(1)
ただし、係数kの取りうる範囲は0<k<1である。
【0043】
上式(1)により第2推定車体速V′_2を推定する場合、ΔVの符号により式(1)の係数kを変更する。ΔVが正の場合はS6−4に移りk=k1として、S6−5で式
(1)を演算する。一方、ΔVが負の場合はS6−6に移りk=k2としてS6−6で式(1)を演算する。なお、k1は第1推定車体速V′_1の値の影響を強く受けるような値を、k2は推定車体速V′_2_z1の影響を強く受けるような値に設定することが望ましい。以上が推定車体速V′_2の推定方法である。ただし、他の方式により第2推定車体速V′_2を推定してもよい。
【0044】
以上で推定車体速V′_2の推定が終わると、図5のS5−7に移り、推定車体速V′_1とV′_2の2つの推定車体速からの一つを選択する。
【0045】
図7は、図5のS5−7における選択方法を示す。
【0046】
S7−1で推定車体速V′_1とV′_2の差分値ΔV′を演算し、S7−2に移る。S7−2で差分値ΔV′の絶対値が所定値ΔV′_thr1より大きければS7−3に移り、推定車体速V′をV′_2とする。一方、ΔV′の絶対値が所定値ΔV′_thr1より小さければS7−4に移り、推定車体速V′をV′_1とする。以上が推定車体速
V′の選択方法である。
【0047】
上記の方法で推定車体速V′が選択されると、図5のS5−8に移る。S5−8では対地速度センサ値Vgssと車輪速Vwを入力として、車体速に基づくABS制御に従って、ABS制御周期T当たりの電磁制御弁駆動時間Te1を演算する。尚、車体速に基づくABS制御の詳細については後述する。電磁制御弁駆動時間Te1を演算後、S5−9に移る。
【0048】
S5−9では推定車体速V′と車輪速Vwを入力として、推定車体速に基づくABS制御に従って、ABS制御周期T当たりの電磁制御弁駆動時間Te2を演算し、S5−10に移る。
【0049】
S5−10ではS5−8,S5−9で演算された電磁制御弁駆動時間Te1,Te2から最終的な電磁制御弁駆動時間指令値Teを選択する。対地速度センサ値Vgssと車体速基準値V_stdの差分値ΔVが所定値ΔV_thr2より小さい場合は電磁制御弁駆動時間Te1を選択し、差分値ΔVが所定値ΔV_thr2より大きい場合は電磁制御弁駆動時間Te2を選択する。S5−10で最終的な電磁制御弁駆動時間指令値が決定されると、この指令値に基づいて電磁制御弁が駆動される。
【0050】
本実施例によれば、ABS制動中に対地速度センサに異常が発生した場合、制御で使用する車体速は、対地速度センサ値Vgss→車体速基準値V_std→第2推定車体速
V′_2→第1推定車体速V′_1と遷移していくことになる。
【0051】
次に、対地速度センサで検出した対地速度センサ値Vgssに基づく車両制御手段と推定車体速V′に基づく車両制御手段の制御例について説明する。
【0052】
図8は、図5のS5−8における、対地速度センサで検出した車対地速度センサ値
Vgssに基づく車両制御手段の制御の一例を示す。
【0053】
図8(a)は横軸が時間を、縦軸が速度をそれぞれ表しており、ABS作動中の車輪速の挙動を示したものである。また、図8(b)は横軸が時間を、縦軸が圧力をそれぞれ表しており、ABS作動中のホイール圧力の様子を示したものである。対地速度センサにより常に車体速を検出することができるため、一般的なABSのように車体速を推定しているために車輪速を細かく脈動させる必要がない。そのため、ホイール圧力の増減を繰り返す必要がなくなり、電磁制御弁の作動回数が大幅に削減でき、作動音を低減することができる。また、上述の通り、車輪速を細かく脈動させる必要がないため、車輪をある一定のスリップ率で制御することができる。よって、予め最適なスリップ率を求めることにより、このスリップ率を目標スリップ率として車輪速を制御することで、ABS制動距離を短縮することもできる。
【0054】
図9は、図5のS5−8における、対地速度センサで検出した車体速Vに基づくABS制御の制御フローチャートを示す。図9の制御フローは所定時間T毎に演算する。
【0055】
S9−1では、車体速Vと予め求めておいた目標スリップ率Slip_target1より、車輪速Vwの制御目標値である目標車輪速Vw_targetを演算する。目標車輪速Vw_target演算後、S9−2に移る。
【0056】
S9−2では車輪速Vwと上記で演算した目標車輪速Vw_targetの差分値
ΔVw(=Vw−Vw_target)を演算し、S9−3に移る。
【0057】
S9−3では車輪速Vwと目標車輪速Vw_targetの差分の絶対値|ΔVw|と所定値ΔVw_thr1との大小関係を判定する。|ΔVw|が所定値ΔVw_thr1よりも小さい場合はS9−4に移り、|ΔVw|が所定値ΔVw_thr1よりも大きい場合はS9−5に移る。
【0058】
S9−3からS9−4に移った場合、車輪速Vwは目標車輪速Vw_targetに制御されていると判断し、電磁制御弁の駆動時間はゼロとし、S9−5に移ってホイール圧力を保持する。
【0059】
また、S9−3からS9−6に移った場合は、S9−6で車輪速Vwと目標車輪速Vw_targetの大小関係を判定する。車輪速Vwが目標車輪速Vw_targetより小さい場合はS9−7に移り、車輪速Vwが目標車輪速Vw_targetより大きい場合はS9−9に移る。
【0060】
S9−6からS9−7に移った場合は、S9−7で目標車輪速Vw_targetと車輪速Vwの差分等に基づき電磁制御弁の駆動時間を演算し、S9−8に移る。
【0061】
S9−8では演算された駆動時間に基づいて電磁制御弁を駆動して、ホイール圧力を減少させる。
【0062】
一方、S9−6からS9−9に移った場合は、S9−9で車輪速Vwと目標車輪速Vw_targetの差分等に基づき電磁制御弁の駆動時間を演算し、S9−10に移る。
【0063】
S9−10では演算された駆動時間に基づいて電磁制御弁を駆動して、ホイール圧力を増加させる。
【0064】
このようにS9−5,S9−8,S9−10の何れかに進んでホイール圧力を制御した後、S9−11に移る。
【0065】
S9−11では、対地速度センサ値Vあるいはマスター圧に基づき、ABSの制御終了判定を行う。対地速度センサ値Vgssが所定値V_thr1以下、またはマスター圧
P_masterが所定値P_thr1以下のどちらかの条件を満たす場合ABSの制御を終了する。逆にどちらも満たさない場合はS9−1へ戻ってABSの制御を継続する。
【0066】
以上が対地速度センサ値Vgssに基づくABS制御の制御フローチャートであるが、要旨を逸脱しない限り、上述の制御フローに依らず他の形態での対地速度センサにより検出の車体速Vに基づくABS制御も可能である。
【0067】
図10は、図5のS5−9における、推定車体速V′に基づく車両制御手段の制御の一例を示す。
【0068】
図10(a)は横軸が時間を、縦軸が速度をそれぞれ表しており、ABS作動中の車輪の挙動を示したものである。また、図10(b)は横軸が時間を、縦軸が圧力をそれぞれ表しており、ABS作動中のホイール圧力の様子を示したものである。推定車体速に基づくABS制御では、車輪速に基づいて車体速を推定している。そのため、車体速の推定と制動力の確保を頻繁に繰り返している。具体的には、ホイール圧を減少させることで、車輪速を実際の車体速付近まで復帰(=スリップ率を減少)させ、車体速を推定する。車体速推定後は制動力を発生させるため、ホイール圧を増加させ、車輪速を低下(=スリップ率増加)させる。
【0069】
図11は、図5のS5−9における、推定車体速に基づくABS制御の制御フローチャートを示す。図11の制御フローは所定時間T毎に演算する。
【0070】
S11−1では、車輪速Vwの情報から推定車体速V′_1を推定する。推定方法として、4輪のうち最も高速な車輪速の値を車体速と見なすセレクトハイの手法を用いることが一般的である。S11−1で推定車体速V′_1を推定すると、S11−2へ移る。
【0071】
S11−2では、推定車体速V′_1や予め設定された目標スリップ率Slip_
target2より、ホイール圧を増加させる際の車輪速の目標値である増圧側目標車輪速Vw_target1、及びホイール圧を減少させる際の車輪速の目標値である減圧側目標車輪速Vw_target2を演算する。目標車輪速Vw_target1,Vw_target2の演算が終わると、S11−3へ移る。
【0072】
S11−3では車輪速Vwと増圧側目標車輪速Vw_target1との大小関係を判定する。車輪速Vwが増圧側目標車輪速Vw_target1より大きい場合はS11−4へ移り、小さい場合はS11−5へ移る。
【0073】
S11−3からS11−4に移った場合は、目標車輪速の前回値Vw_target_z1を参照する。前回値が増圧側目標車輪速Vw_target1_z1の場合は、S11−6に移り、目標車輪速Vw_targetを減圧側目標車輪速Vw_target2に切り替える。前回値が増圧側目標車輪速Vw_target1ではない場合は、S11−7に移り、目標車輪速Vw_targetの切り替えは行わない。
【0074】
一方、S11−3からS11−5に移った場合は、車輪速Vwと減圧側目標車輪速Vw_target2との大小関係を判定する。車輪速Vwが減圧側目標車輪速Vw_
target2より小さい場合はS11−8へ移り、大きい場合はS11−7に移る。
【0075】
S11−5からS11−8に移った場合は、目標車輪速の前回値Vw_target_z1を参照する。前回値が減圧側目標車輪速Vw_target2_z1の場合は、S11−9に移り、目標車輪速Vw_targetを増圧側目標車輪速Vw_target1に切り替える。前回値が減圧側目標車輪速Vw_target2_z1ではない場合は、
S11−7へ移り、目標車輪速Vw_targetの切り替えは行わない。
【0076】
一方、S11−5からS11−7へ移った場合も、目標車輪速Vw_targetの切り替えは行わない。
【0077】
以上のステップで目標車輪速Vw_targetが設定されると、S11−10へ移り、車輪速Vwと目標車輪速Vw_targetの差分値ΔV2を演算する。差分値ΔV2が演算されると、S11−11へ移り、ΔV2に基づいてABS制御周期T当たりの電磁制御弁の駆動時間Teを演算する。駆動時間Teが演算されると、S11−12に移り、電磁制御弁が駆動される。電磁制御弁駆動後、S11−13に移る。
【0078】
S11−13では、推定車体速V′あるいはマスター圧に基づき、ABSの制御終了判定を行う。推定車体速V′が所定値V_thr2以下、またはマスター圧P_masterが所定値P_thr1以下のどちらかの条件を満たす場合ABSの制御を終了する。逆にどちらも満たさない場合はS11−1へ戻ってABSの制御を継続する。
【0079】
以上が推定車体速V′に基づくABS制御の制御フローチャートであるが、要旨を逸脱しない限り、上述の制御フローに依らず他の形態での推定車体速V′に基づくABS制御も可能である。
【0080】
図12及び図13は、本実施形態による制御のタイムチャート例を示す。各図ともに
(a)は横軸が時間を、縦軸が速度をそれぞれ表しており、(b)は横軸が時間を、縦軸が圧力をそれぞれ表している。
【0081】
図12は、最初は対地速度センサが正常で、対地速度センサ値Vgssに基づくABS制御を行っていたが、途中で対地速度センサが実際の車体速より高く計測する異常を発生し、推定車体速V′に基づくABS制御に切り替えた場面での車輪速とホイール圧力の挙動を示している。実際の対地速度センサ異常発生とシステムによる対地速度センサ異常検出の間には僅かながらタイムラグがある。そのため、対地速度センサ値Vgssに基づいて演算される車体速基準値V_stdは、図12のような場合では、実際の車体速よりもやや高い値となる。そのため、推定車体速V′2の初期値も実際の車体速よりやや高い値となる。よって、システムが対地速度センサの異常を検出したら、ホイール圧を徐々に減少させて、車輪速を徐々に実際の車体速に近づけるような制御を行う。これにより、推定車体速V′_2の上ずりを抑制し、スリップ率の大幅な減少による制動力減少を抑制することができる。
【0082】
図13は、最初は対地速度センサが正常で、車体速Vに基づくABS制御を行っていたが、途中で対地速度センサが実際の車体速より低く計測する異常を発生し、推定車体速
V′に基づくABS制御に切り替えた場面での車輪速とホイール圧力の挙動を示している。この場合は車体速Vに基づいて演算される車体速基準値V_stdは、実際の車体速よりやや低い値となる。そのため、推定車体速V′2の初期値も実際の車体速よりやや低い値となる。よって、システムが対地速度センサの異常を検出したら、ホイール圧を急激に減少させて、車輪速を素早く実際の車体速に近づけるような制御を行う。これにより、推定車体速V′_2の不要な下ずりを抑制し、スリップ率の増加による車輪のロックを抑制することができる。
【0083】
図14は、図3の対地速度センサ2による車体速計測方法を示し、図15は、図3の対地使車速センサ2の設置図を示す。
【0084】
図14は車両を上から見たものである。対地速度センサ2は車両の前部中央に2台設置する。そして、図15は車両を横から見た図であるが、地面に対して入射角θで電波を照射するように、水平面に対して角度θ方向に電波照射面を向ける。図14において、車両の前後方向をx軸、左右方向(横方向)をy軸とする。対地速度センサaをx軸に対して角度a、対地速度センサbを角度bの方向に向ける。ただし、x軸より時計周りを角度の正に取ると、角度aはa<0となる。車両重心点から対地速度センサ設置点までの距離をLとする。このとき、車両は車両横滑り角β、ヨーレイトγを発生して速度Vcで走行して、2台の対地速度センサが速度Va,Vbを計測していたと仮定する。すると、下記2式の関係が成立する。
【0085】
【数1】
【0086】
式(2),(3)より
【0087】
【数2】
【0088】
これにより、車両前後方向の速度Vx,左右方向速度Vyは以下の通りとなる。
【0089】
【数3】
【0090】
これより、例えば直進している車両においてABSを作動させた場合、β=0,γ=0の時のVx が、本実施例中の対地速度センサ値Vgssとなる。
【実施例2】
【0091】
図16は、本発明の実施例2をなす制御フローチャートを示す。
【0092】
これは、実施例1の図7のフローチャートの他の実施例であり、その他の構成は実施例1と同様である。S16−1で推定車体速V′_1とV′_2の差分値ΔV′を演算し、S16−2に移る。S16−2で4つの車輪のうちで最も高速の車輪速について車輪速度dVwを演算し、S16−3に移る。S16−3ではΔV′の絶対値が所定値ΔV′_
thr1より小さく、尚且つ車輪速度dVwが所定値ΔVw_thr1より小さいという条件を満たす場合はS16−5に移り、推定車体速V′をV′_1とする。一方、S16−3の条件を満たさない場合はS16−4に移り、推定車体速V′をV′_2とする。
【実施例3】
【0093】
実施例1では対地速度センサが異常であると判断された瞬間は、第2推定車体速V′_2を車体速基準値V_stdとして、式(1)における第2推定車体速V′_2の初期値としていたが、対地速度センサ出力値Vgssを初期値として計算してもよい。
【0094】
また、式(2)において、第2推定車体速の過去値V′_2_z1を利用して演算していたが、下式(4)のように第2推定車体速の初期値V′_2_initを利用してもよい。
【0095】
V′_2=k×V′_2_init+(1−k)×V′_1 ・・・(4)
その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例4】
【0096】
式(1)や式(4)の第2推定車体速の初期値として、対地速度センサが異常と判定される直前の対地速度センサ値を利用しても良い。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例5】
【0097】
式(1)や式(4)を用いて第2推定車体速を推定する際に、推定路面摩擦係数に応じて、係数kを変更するようにしても良い。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例6】
【0098】
第2推定車体速を式(1)により推定していたが、車体速基準値を第2推定車体速としても良い。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例7】
【0099】
実施例1では制御用車体速を計測する手段として、対地速度センサを用いているが、
GPS(Global Positioning System) を用いて、所定時間毎の車両の移動距離から制御用車体速Vを計測しても良い。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例8】
【0100】
図17は、本発明の実施例8をなす対地速度センサ2の設置図を示す。
【0101】
実施例1では、2台の対地速度センサを図14のように車両前部中央に隣接するように設置していたが、図17のように2台の対地速度センサを離して設置しても良い。図17は車両を上から見た図である。この場合、2台の対地速度センサは、x軸からの角度がa,bとなるように、尚且つ、2台の対地速度センサの向きが車両重心点上で交わるように設置する。このように設定すると、横方向速度のヨーレイト成分を考慮する必要がなくなり、以下の式(5),(6)の連立方程式を解くにより、
【0102】
【数4】
【0103】
前後方向速度Vx,左右方向速度Vyは以下の通り求めることができる。
【0104】
【数5】
【0105】
その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例9】
【0106】
図18は、本発明の実施例9をなす対地速度センサ2の構成概略図を示す。
【0107】
実施例1では、対地速度センサの異常判定として、対地速度センサ値と車体速基準値の差分値、対地速度センサ値の時間微分値を利用していたが、以下のように、対地速度センサの電源電圧を利用することもできる。図18のように、電波の送受信を行う電波送受信部,信号処理部,信号出力部からなる対地速度センサに、電源電圧をモニタする電源電圧モニタ部を追加し、電源基板から対地速度センサに供給される電圧を計測する。そして、計測電圧が定格電圧より所定の範囲より離れた場合、対地速度センサが異常と判断する。その他の構成は実施例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の一実施形態をなす車両の制御装置の機能ブロック図を示す。
【図2】図1の制御装置による制御によるタイムチャートを示す。
【図3】本発明の実施例1をなすABS制御装置のシステム構成図を示す。
【図4】図3のC/U18のブロック構成図を示す。
【図5】図3のコントロールユニット18の制御フローチャートを示す。
【図6】図5のS5−6での第2推定車体速V′_2の推定方法を示す。
【図7】図5のS5−7における選択方法を示す。
【図8】図5のS5−8における、対地速度センサで検出した車対地速度センサ値 Vgssに基づく車両制御手段の制御の一例を示す。
【図9】図5のS5−8における、対地速度センサで検出した車体速Vに基づくABS制御の制御フローチャートを示す。
【図10】図5のS5−9における、推定車体速V′に基づく車両制御手段の制御の一例を示す。
【図11】図5のS5−9における、推定車体速に基づくABS制御の制御フローチャートを示す。
【図12】本実施形態による制御のタイムチャート例を示す。
【図13】本実施形態による制御のタイムチャート例を示す。
【図14】図3の対地速度センサ2による車体速計測方法を示す。
【図15】図3の対地速度センサ2の設置図を示す。
【図16】本発明の実施例2をなす制御フローチャートを示す。
【図17】本発明の実施例8をなす対地速度センサ2の設置図を示す。
【図18】本発明の実施例9をなす対地速度センサ2の構成概略図を示す。
【符号の説明】
【0109】
2 対地速度センサ
12 車両
13 タイヤ
14 ステアリング
15 ブレーキベダル
16 ブレーキブースター
17 ブレーキマスターシリンダ
18 コントロールユニット(C/U)
19 電磁制御弁
20 車輪速センサ
21 ブレーキキャリパ
22 前後加速度センサ
23 ヨーレイトセンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪速センサの出力信号から求めた車輪速に基づいて第1推定車体速を求める第1車体速推定部と、
対地速度センサの異常状態を検出する対地速度センサ異常検出部と、
前記対地速度センサの出力信号から求めた車体速,前記第1推定車体速、及び前記対地速度センサの異常状態とに基づいて第2推定車体速を求める第2車体速推定部と、
前記第1推定車体速,前記第2推定車体速、及び前記車輪速のうち、車両制御において使用する推定車体速を選択する推定車体速選択部と、
前記対地速度センサの異常状態に基づいて、前記車体速と前記車輪速に基づいて車両を制御する第1の車両制御部と、前記推定車体速選択部により選択された前記推定車体速に基づいて車両を制御する第2の車両制御部のいずれかを選択する車両制御選択部と、
前記車両制御選択部により選択された車両制御部により演算される制御指令値に基づいて各車輪の制動力を制御する信号を出力する制動力制御部と、
を有する車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記対地速度センサ異常検出部は、前記車体速に基づいて車体速基準値を演算する車体速基準値演算部と、前記車体速及び前記車体速基準値に基づき前記対地速度センサの異常状態を検出する車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両の制御装置であって、
前記対地速度センサ異常検出部は、前記対地速度センサにより検出される前記車体速と前記車体速基準値演算部により演算される車体速基準値との差分値を演算し、前記差分値が所定の範囲を超えた場合に、前記対地速度センサの車体速誤計測異常を検出する車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記対地速度センサ異常検出部は、前記対地速度センサにより検出される前記車体速の時間変化率を演算し、前記時間変化率が所定の範囲を超えた場合に、前記対地速度センサの異常を検出する車両の制御装置。
【請求項5】
請求項2記載の車両の制御装置であって、
前記第2車体速推定部は、前記対地速度センサ異常検出部において車体速の計測誤差発生の異常を検出した瞬間は、前記車体速基準値演算部により演算される車体速基準値を車体速と推定する車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記第2車体速推定部は、前記対地速度センサ異常検出部において実際の車体速より高く計測する誤差発生の異常を検出した際の車体速を推定する機能と、前記対地速度センサ異常検出部において実際の車体速より低く計測する誤差発生の異常を検出した際の車体速を推定する機能とを有する車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記車体速選択部は、所定の条件を満たすまでは常に前記第2車体速推定部により推定される推定車体速を選択する車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記車体速選択部は、前記第1車体速推定部により推定される車輪速に基づく推定車体速と、前記第2車体速推定部により推定される推定車体速の差分値が所定値以内になった場合は、前記第1車体速推定部により推定される車輪速に基づく推定車体速を選択する車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記車体速選択部は、前記第1車体速推定部により推定される車輪速に基づく推定車体速と、前記第2車体速推定部により推定される推定車体速の差分値が所定値以内になった場合、尚且つ前記車輪速検出部により検出される車輪速のうちで最高速の車輪速の時間変化率が所定値以内になった場合に、前記第1車体速推定部により推定される車輪速に基づく推定車体速を選択する車両の制御装置。
【請求項10】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記第2の車両制御部は、前記対地速度センサ異常検出部により異常を検出した際に、前記制動力制御部の制御指令値を減少させる車両の制御装置。
【請求項11】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記第2の車両制御部は、前記推定車体速選択部において前記第2車体速推定部により推定される推定車体速が選択された場合は、前記車輪速の制御目標値を前記第2車体速推定部により推定される推定車体速にする車両の制御装置。
【請求項12】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記対地速度センサ異常検出部は、前記対地速度センサにおいて計測される電源電圧情報を入力し、入力した当該電源電圧が所定の範囲をはずれた場合に前記対地速度センサが異常であると判断する車両の制御装置。
【請求項13】
車輪速センサの出力信号から求めた車輪速に基づいて第1推定車体速を求め、
対地速度センサの出力信号から求めた車体速と、前記第1推定車体速と、前記対地速度センサの異常状態に基づいて第2推定車体速を求め、
前記第1推定車体速,前記第2推定車体速、及び前記車輪速のうち、車両制御において使用する推定車体速を選択し、
前記対地速度センサの異常状態に基づいて、前記車体速と前記車輪速に基づいて車両を制御する第1の車両制御と、選択された前記推定車体速に基づいて車両を制御する第2の車両制御のいずれかを選択し、
選択した前記車両制御により演算される制御指令値に基づいて各車輪の制動力を制御する車両の制御方法。
【請求項1】
車輪速センサの出力信号から求めた車輪速に基づいて第1推定車体速を求める第1車体速推定部と、
対地速度センサの異常状態を検出する対地速度センサ異常検出部と、
前記対地速度センサの出力信号から求めた車体速,前記第1推定車体速、及び前記対地速度センサの異常状態とに基づいて第2推定車体速を求める第2車体速推定部と、
前記第1推定車体速,前記第2推定車体速、及び前記車輪速のうち、車両制御において使用する推定車体速を選択する推定車体速選択部と、
前記対地速度センサの異常状態に基づいて、前記車体速と前記車輪速に基づいて車両を制御する第1の車両制御部と、前記推定車体速選択部により選択された前記推定車体速に基づいて車両を制御する第2の車両制御部のいずれかを選択する車両制御選択部と、
前記車両制御選択部により選択された車両制御部により演算される制御指令値に基づいて各車輪の制動力を制御する信号を出力する制動力制御部と、
を有する車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記対地速度センサ異常検出部は、前記車体速に基づいて車体速基準値を演算する車体速基準値演算部と、前記車体速及び前記車体速基準値に基づき前記対地速度センサの異常状態を検出する車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両の制御装置であって、
前記対地速度センサ異常検出部は、前記対地速度センサにより検出される前記車体速と前記車体速基準値演算部により演算される車体速基準値との差分値を演算し、前記差分値が所定の範囲を超えた場合に、前記対地速度センサの車体速誤計測異常を検出する車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記対地速度センサ異常検出部は、前記対地速度センサにより検出される前記車体速の時間変化率を演算し、前記時間変化率が所定の範囲を超えた場合に、前記対地速度センサの異常を検出する車両の制御装置。
【請求項5】
請求項2記載の車両の制御装置であって、
前記第2車体速推定部は、前記対地速度センサ異常検出部において車体速の計測誤差発生の異常を検出した瞬間は、前記車体速基準値演算部により演算される車体速基準値を車体速と推定する車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記第2車体速推定部は、前記対地速度センサ異常検出部において実際の車体速より高く計測する誤差発生の異常を検出した際の車体速を推定する機能と、前記対地速度センサ異常検出部において実際の車体速より低く計測する誤差発生の異常を検出した際の車体速を推定する機能とを有する車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記車体速選択部は、所定の条件を満たすまでは常に前記第2車体速推定部により推定される推定車体速を選択する車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記車体速選択部は、前記第1車体速推定部により推定される車輪速に基づく推定車体速と、前記第2車体速推定部により推定される推定車体速の差分値が所定値以内になった場合は、前記第1車体速推定部により推定される車輪速に基づく推定車体速を選択する車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記車体速選択部は、前記第1車体速推定部により推定される車輪速に基づく推定車体速と、前記第2車体速推定部により推定される推定車体速の差分値が所定値以内になった場合、尚且つ前記車輪速検出部により検出される車輪速のうちで最高速の車輪速の時間変化率が所定値以内になった場合に、前記第1車体速推定部により推定される車輪速に基づく推定車体速を選択する車両の制御装置。
【請求項10】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記第2の車両制御部は、前記対地速度センサ異常検出部により異常を検出した際に、前記制動力制御部の制御指令値を減少させる車両の制御装置。
【請求項11】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記第2の車両制御部は、前記推定車体速選択部において前記第2車体速推定部により推定される推定車体速が選択された場合は、前記車輪速の制御目標値を前記第2車体速推定部により推定される推定車体速にする車両の制御装置。
【請求項12】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記対地速度センサ異常検出部は、前記対地速度センサにおいて計測される電源電圧情報を入力し、入力した当該電源電圧が所定の範囲をはずれた場合に前記対地速度センサが異常であると判断する車両の制御装置。
【請求項13】
車輪速センサの出力信号から求めた車輪速に基づいて第1推定車体速を求め、
対地速度センサの出力信号から求めた車体速と、前記第1推定車体速と、前記対地速度センサの異常状態に基づいて第2推定車体速を求め、
前記第1推定車体速,前記第2推定車体速、及び前記車輪速のうち、車両制御において使用する推定車体速を選択し、
前記対地速度センサの異常状態に基づいて、前記車体速と前記車輪速に基づいて車両を制御する第1の車両制御と、選択された前記推定車体速に基づいて車両を制御する第2の車両制御のいずれかを選択し、
選択した前記車両制御により演算される制御指令値に基づいて各車輪の制動力を制御する車両の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−207678(P2008−207678A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46367(P2007−46367)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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