説明

車両の制御装置

【課題】急制動停止後の車両の再発進時でも、変速機とプロペラシャフトの連結部近傍におけるガタ打ち音等のノイズを抑え得る車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンから駆動車輪への動力伝達経路を形成する自動変速機およびプロペラシャフトの結合部近傍にスプライン嵌合部を有する車両にあって少なくとも自動変速機を制御する車両の制御装置において、車両の制動要求操作を検出する制動要求操作検出手段(S1)と、車両の減速度を検出する減速度検出手段(S2)と、車両の停止を検出する車両停止検出手段(S4)と、これら検出手段の検出情報に基づいて作動し、車両が閾値を超える急減速度で制動されて自動変速機の変速比が特定の変速比へと低速側に切り替わったとき(S2)、制動要求操作が検出される状態下でさらに低速側の変速比に切り替えることなく車両の停止まで特定の変速比を保持する変速比保持制御手段(S3)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、変速機およびプロペラシャフトを備える車両の制御装置、特にエンジンからの駆動トルクが変速機を介してプロペラシャフトに伝達され始めるときのショックやノイズの低減を図るのに好適な車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、乗用自動車等の車両においては、発進・加速時、減速時および変速時におけるショックやノイズの低減が高度に要求されており、エンジンの運転状態および車両の走行状態に応じた変速機の滑らかな変速特性のみならず、変速機からプロペラシャフトへの伝達トルクに応じたよりきめ細かなエンジン出力および変速の制御が要求されてきている。
【0003】
この種の制御を行う車両の制御装置としては、例えば車両が惰性で走行するコースト状態下にてアクセルペダルの踏込みに応じて内燃機関が非駆動状態から駆動状態に切り替えられるとき、変速機への入力トルク変動に起因するショックやノイズを抑えるべく、その内燃機関と共にハイブリッドエンジンを構成するモータジェネレータに負トルク(発電に要する負荷トルクと同様なトルク)を発生させることで、その内燃機関の駆動再開時に変速機からプロペラシャフトに作用するトルクを抑えるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ABS(Antilock Brake System)作動時、急減速時、低μ路での車輪速低下等により車輪のロックが予想されるときにシフトホールド制御を開始し、無段変速機(自動無段変速機)のプライマリ圧を高い状態に保持して急激なダウンシフトによるスリップを防止するようにし、ブレーキペダルの解放や車両停止を検出するとシフトホールド制御を終了するようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、従来、無段変速機を搭載した車両の急減速・急停止時に無段変速機を最大の変化速度で最減速側に制御し、再発進時の駆動力を確保するようにしたもの(例えば、特許文献3参照)、あるいは、フェイルセーフの観点から、車速検出手段の異常発生時に変速機を2速または3速の走行状態にロックし、エンジン回転数が所定回転数まで低下したときに変速機のマニュアルシフトを可能にするようにしたもの(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【特許文献1】特開2004−211605号公報
【特許文献2】特開平05−85231号公報
【特許文献3】特開平03−292449号公報
【特許文献4】特公平04−75428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来の車両の制御装置にあっては、車両の急減速・急停止時に変速機が最減速側に制御されることにより、次のような問題が生じていた。
【0007】
車両の急減速・急停止時には、変速機のアウトプットシャフトとプロペラシャフトの間の伝達トルクが大きくなるのと同時に、両シャフトの結合部あるいはその近傍に設けられるスプライン嵌合部での車両前後方向のスライド抵抗が急に大きくなる。そのため、変速機が、急制動時に車両前方側に移動した状態からプロペラシャフトとの通常のスプライン嵌合深さまで復帰することが、両シャフト間の大きなスライド抵抗によって阻害されてしまい、変速機がプロペラシャフトに対して車両前方にスライドしたままの状態で車両が停止することがあった。
【0008】
例えば、プロペラシャフトがスプライン嵌合する前後一対の軸部材からなる場合、変速機のアウトプットシャフトとプロペラシャフトの間の伝達トルクが大きくなるときには、一対のうち変速機側の軸部材とリヤディファレンシャル装置側の軸部材とのスプライン嵌合部において、伝達トルクの増大に伴って車両前後方向へのスライド抵抗も大きくなる。そのため、変速機側の軸部材が、急制動時に変速機と共に車体に対して車両前方側に大きく移動し、その状態からリヤディファレンシャル装置側の軸部材との通常のスプライン嵌合深さまで復帰することが、両軸部材のスプライン嵌合部での大きなスライド抵抗によって阻害されてしまい、変速機がプロペラシャフトの主要部であるリヤディファレンシャル装置側の軸部材に対して車両前方側にスライドしたままの状態で、車両が停止することがあった。
【0009】
このような場合、車両が再度発進するときに、変速機のアウトプットシャフトとプロペラシャフトの結合部または/およびその近傍のスプライン嵌合部において、両シャフト内歯のスプラインと外歯のスプラインが通常のスプライン嵌合深さに戻るまで相対的に軸方向にスティック・スリップ運動(引っ掛かったりスライドしたりする状態を繰返す運動)しながら回転し始めるとともに、車両の急停止時にサポートマウント類に蓄積されたエネルギが、そのスティック・スリップ運動に対応して解放されることで、ガタ打ち音のようなノイズ(いわゆるクランクノイズ)が発生していた。
【0010】
そこで、本発明は、急制動により停止した後の車両の再発進時でも、変速機とプロペラシャフトの連結部近傍におけるガタ打ち音のようなノイズを抑えることができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、エンジンから駆動車輪への動力伝達経路を形成する自動変速機およびプロペラシャフトの結合部近傍にスプライン嵌合部を有する車両にあって少なくとも前記自動変速機を制御する車両の制御装置において、前記車両の制動を要求する制動要求操作を検出する制動要求操作検出手段と、前記車両の制動による減速度を検出する減速度検出手段と、前記車両の停止を検出する車両停止検出手段と、前記制動要求操作検出手段、前記減速度検出手段および前記車両停止検出手段の検出情報に基づいて作動し、前記車両が予め設定された閾値を超える急減速度で制動されて前記自動変速機の変速比が特定の変速比へと低速側に切り替わったとき、前記制動要求操作検出手段により前記制動要求操作が検出される状態下でさらに低速側の変速比に切り替えることなく前記車両の停止まで前記特定の変速比を保持する変速比保持制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この構成により、車両が閾値を超える急減速度で制動されて自動変速機の変速比が特定の変速比へと低速側に切り替わったときには、制動要求操作検出手段により制動要求操作が検出される状態下でさらに低速側の変速比に切り替えることなく車両の停止までその特定の変速比が保持されることになるから、変速機が最減速側の変速比にまで変速される場合に比べて、変速機とプロペラシャフトの間の伝達トルクおよびスプライン嵌合部におけるスライド抵抗が抑えられることになる。したがって、変速機が急制動時に車体に対し車両前方側に移動した状態からスプライン嵌合部の通常の嵌合深さとなる定位置まで復帰することがスプライン嵌合部でのスライド抵抗によって阻害されるのを防止できることになり、車両が再度発進するときの変速機の復帰に伴ってガタ打ち音のようなノイズが発生してしまうことが防止される。
【0013】
なお、ここにいう特定の変速比は、自動変速機が有段変速機の場合あるいは減速時に有段の自動変速を行う場合には、特定の変速段に対応し、急制動時に車体に対し車両前方側に移動する変速機の定位置への復帰を実質的に阻害しない伝達トルクおよびスライド抵抗になるように設定される。また、前記変速比保持制御手段は、前記閾値を超える急減速度が予め設定された継続時間以上継続した場合に、前記制動要求操作が検出される状態下で前記車両の停止まで前記特定の変速比を保持することが好ましい。
【0014】
前記自動変速機が無段の自動変速機である場合、前記変速比保持制御手段は、前記減速度検出手段により検出される減速度と該減速度が検出されるときの前記自動変速機の変速比とに基づいて前記スプライン嵌合部における前記自動変速機側の部材と該部材にスプライン嵌合する前記プロペラシャフトの主要部とのスライド量を検出するスライド量検出部と、前記スライド量が最小となるよう前記自動変速機の前記特定の変速比を選択する変速比選択部とを有するのが好ましい。また、前記車両は、4輪駆動可能な車両であっても好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両が急減速度で制動されて自動変速機の変速比が特定の変速比へと低速側に切り替わったとき、制動要求操作状態下でさらに低速側の変速比に切り替えることなく車両の停止までその特定の変速比を保持するようにしているので、変速機を最減速側の変速比にまで変速する場合に比べ、変速機とプロペラシャフトとの結合部近傍に配置されるスプライン嵌合部のスライド抵抗を抑えることができ、変速機が急制動時に車体に対し車両前方側に移動した状態からスプライン嵌合部の通常の嵌合深さとなる位置まで復帰することが前記スライド抵抗によって阻害されるのを防止することができ、車両が再度発進するときの変速機の復帰に伴ってガタ打ち音等のノイズが発生するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置を搭載した車両の駆動系全体を含む概略ブロック図である。
【0018】
まず、構成について説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の車両1(詳細図示せず)は、例えば多気筒内燃機関からなるエンジン11と、このエンジン11からの回転動力を入力し自動変速する主変速機12と、主変速機12の後段側に一体的に配置されたトランスファ13とを備えており、この車両1においては、エンジン11からの回転動力が主変速機12によって変速され、トランスファ13を介してリヤ側のプロペラシャフト14およびフロント側のプロペラシャフト17のうちリヤ側のプロペラシャフト14に、あるいは両プロペラシャフト14、17に出力されるようになっている。
【0020】
エンジン11、主変速機12およびトランスファ13は、ボルト締結によって一体に結合され、複数のマウント3(図示のばね記号はマウントの設置位置を示すものではない)により車体2に変位可能に弾性支持されたパワーユニットを構成している。
【0021】
主変速機12は、公知のものであり、特にその詳細な構成を図示しないが、複数の走行レンジ(複数の前進レンジ(例えば、D、L、2)、後進レンジ(例えば、R))およびニュートラルレンジ(例えば、N)のうち任意のレンジに選択操作されるようになっており、選択されたレンジに応じてそれに対応する車両の走行レンジで、自動変速制御を行うようになっている。
【0022】
トランスファ13は、公知のものであり、特にその詳細な構成を図示しないが、主変速機12からの回転動力を入力し、例えば速度比1:1で出力する高速出力モードと、入力した回転動力を減速して低速で出力する低速出力モードとに切り替えることができる副変速機と、副変速機の出力をリヤ側のアウトプットシャフト13aとフロント側のアウトプットシャフト13bとに対して少なくともリヤ側のプロペラシャフト14が駆動されるように選択的に、かつ、プロペラシャフト14、17の間での差動を許容するように出力することができる例えばプラネタリギヤタイプの差動制限機能付のセンターデフ(センターディファレンシャルギヤ装置)と、そのセンターデフの差動を規制するデフロック状態とその解除状態とに切り替え可能なデフロック機構と、副変速機のモード切り替え操作とデフロック機構の切り替え操作を行うシフトフォークおよび電動アクチュエータを有する切り替え操作機構とが、それぞれ内蔵されている。
【0023】
このトランスファ13は、主変速機12と共に本発明にいう自動変速機を構成している。なお、本実施形態では、車両1が4輪駆動可能な車両であるため、トランスファ13とリヤ側およびフロント側のプロペラシャフト14、17とが設けられているが、車両1が後輪駆動車である場合には、主変速機12と同様な変速機にリヤ側のプロペラシャフトが連結されることになる。
【0024】
リヤ側のプロペラシャフト14は、トランスファ13のリヤ側のアウトプットシャフト13aとリヤディファレンシャル装置15との間に介装されており、トランスファ13からの回転動力をリヤディファレンシャル装置15および左右のドライブシャフト16L、16Rを介して後輪22L、22Rに伝達するようになっている。また、フロント側のプロペラシャフト17は、トランスファ13のフロント側のアウトプットシャフト13bとフロントディファレンシャル装置18との間に介装されており、トランスファ13からの回転動力をフロントディファレンシャル装置18および左右のドライブシャフト19L、19Rを介して前輪21L、21Rに伝達するようになっている。
【0025】
一方、プロペラシャフト14は、前後2つの公知のユニバーサルジョイントからなるジョイント部14a、14bと、両ジョイント部14a、14bの間に位置する中間軸部14cとを有しており、トランスファ13側のジョイント部14aはその前方側でトランスファ13のリヤ側のアウトプットシャフト13aにフランジ結合され、リヤディファレンシャル装置15側のジョイント部14bはその後方側でリヤディファレンシャル装置15のインプットシャフト15aにフランジ結合されている。
【0026】
プロペラシャフト14の中間軸部14cは、互いに軸方向にスライド可能にかつ回転方向には一体にスプライン嵌合する一対の軸部材14f、14gからなり、ジョイント部14a側の軸部材14fの後端側は、略円筒状でその内周部に内歯スプライン(符号なし)を有している。また、ジョイント部14b側の軸部材14gの前端側は、ジョイント部14a側の軸部材14fの内歯スプラインにスライド可能に嵌合する外歯のスプライン(符号なし)と、この外歯のスプラインおよびジョイント部14a側の軸部材14fの後端側を取り囲むように軸部材14fの本体部から前方側に向かって外歯のスプラインに対し同軸に突出する円筒チューブ(符号なし)とを有している。
【0027】
すなわち、プロペラシャフト14は、トランスファ13のリヤ側のアウトプットシャフト13aとの結合部近傍である中間軸部14cの前端側に、一対の軸部材14f、14gをスプライン嵌合させたスプライン嵌合部14hを有しており、このスプライン嵌合部14hによって主変速機12側とプロペラシャフト14の主要部であるジョイント部14b側の軸部材14gとの車両前後方向への相対変位を許容できるようになっている。
【0028】
なお、プロペラシャフトの軸方向に変位が一定範囲に制限される場合、トランスファ13のリヤ側のアウトプットシャフト13aは、その後端部の結合用フランジをアウトプットシャフト本体部にスプライン嵌合させて一定範囲内で軸方向にスライド可能にしたものであってもよいし、プロペラシャフト14のジョイント部14aの前端側に外歯スプラインを設けて、トランスファ13のリヤ側のアウトプットシャフト13aの後端部にスプライン嵌合させることもできる。
【0029】
本実施形態の車両の制御装置は、上述のようにエンジン11から駆動車輪である後輪22L、22Rへの動力伝達経路を形成する自動変速機、すなわち主変速機12および副変速機を内蔵するトランスファ13とプロペラシャフト14との結合部の近傍に、スプライン嵌合部14hを有する車両1にあって、少なくとも自動変速機である主変速機12およびトランスファ13を制御するようになっており、ECU(Electronic Control Unit;電子制御ユニット)30と、車載の加速度センサ(いわゆるGセンサ)31とを含んで構成されている。
【0030】
ECU30は、詳細なハードウェア構成を図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)および不揮発メモリ等からなるバックアップメモリを備え、さらに、A/D変換器等を含む入力インターフェース回路と、ドライバやリレースイッチを含む出力インターフェース回路とを含んで構成されている。
【0031】
このECU30は、ROM内に予め格納された制御プログラムに従い、例えばエンジン11のスロットル開度、エンジン回転数、主変速機12のライン油圧信号、ギヤ段信号およびアウトプットシャフト回転数、車両1のシフトポジション、加速度センサ31の検出加速度等のセンサ情報と、予めバックアップメモリに格納されている設定値情報等に基づいて、例えば主変速機12内の油圧コントローラ(図示せず)に設けられた複数のソレノイドバルブ等のバルブ切り替え位置を制御することにより、シフトポジション、車速、スロットル開度および車両の走行状態に応じて、例えば主変速機12の変速点制御や主変速機12に内蔵されたトルクコンバータのロックアップ制御、ロックアップクラッチに微妙な滑りを生じさせるフレックスロックアップ制御等を実行するようになっている。また、ECU30は、例えばスロットル開度信号に応じて主変速機12内のライン油圧制御バルブへの信号圧となるスロットル油圧の目標値を算出し、スロットル油圧制御用のソレノイドバルブをその信号圧にデュティー制御することで、エンジン発生トルクに応じた主変速機12のライン油圧が得られるように制御する。
【0032】
また、ECU30は、アクセル開度センサ32および車速センサ33等の検出情報に基づいてエンジン11の出力すべき要求トルクを算出し、主変速機12およびトランスファ13をその要求トルクと車速とに応じた変速段(自動無段変速機の場合は変速比)に制御するように、変速制御用のクラッチやブレーキ等の係合状態を切り替え操作するためのソレノイドバルブをON/OFF制御するようになっている。さらに、ECU30は、車両1に装備された図示しない走行モード選択スイッチやセンタデフロックスイッチへの操作入力をそのスイッチの切り替え位置情報として入力し、副変速制御およびデフロック切り替え制御を行うようになっている。
【0033】
本実施形態のECU30は、エンジン制御用のECUとトランスミッション制御用のECUを統合したものであり、上述のような公知の制御と後述する急減速時の2速ホールド制御(特定の変速段を保持する制御)を実行するためのプログラムおよびデータ等を装備しており、前記プログラムを所定の周期で繰り返し実行するようになっている。
【0034】
このECU30は、ブレーキスイッチ34と協働して車両1の制動を要求するブレーキペダル操作(制動要求操作)を検出する制動要求操作検出手段と、加速度センサ31と協働して車両1の制動による減速度g(図1参照)を検出する減速度検出手段と、車速センサ33と協働して車両の停止を検出する車両停止検出手段との各機能を有している。
【0035】
さらに、ECU30は、ブレーキスイッチ34(制動要求操作検出手段)、加速度センサ31(減速度検出手段)および車速センサ33(車両停止検出手段)の検出情報に基づいて作動し、車両1が予め設定された閾値を超える急減速度で制動されて主変速機12の変速比(トランスファ13は副変速比1の状態)が特定の変速比へと低速側に切り替わったとき、例えば3速から2速の変速段に切り替わったとき、制動要求操作検出手段により制動要求操作が検出される制動要求操作状態下で、さらに低速側の変速比、例えば最減速側の変速比となる1速の変速段に切り替えることなく、車両1の停止まで特定の変速比である2速の変速段(セカンドギヤ)を保持させる変速比保持制御手段としての機能を併有している。
【0036】
ここにいう特定の変速比は、主変速機12およびトランスファ13内の副変速機が有段変速機を構成する本実施形態においては、特定の変速段、例えば最減速側の変速段である1速の変速段より高速側の変速段であって、その特定の変速段で車両1を再発進させることができる程度の低速側の変速段である2速の変速段である。この2速の変速段は、主変速機12およびトランスファ13が閾値を超える減速度での急制動により車体2に対し車両前方側に移動した後に、プロペラシャフト14のスプライン嵌合部14hの通常の嵌合深さに対応する定位置に復帰するとき、その主変速機12およびトランスファ13の復帰がプロペラシャフト14のスプライン嵌合部14hのスライド抵抗によっては実質的に阻害されることがない程度の伝達トルクの範囲となる変速段となっている。
【0037】
変速比保持制御手段としてのECU30は、さらに、前記閾値を超える急減速度が予め設定された継続時間以上継続した場合に、制動要求操作が検出される状態下で、車両1の停止まで前記特定の変速比を保持するようになっている(詳細は後述する)。
【0038】
次に、作用について説明する。
【0039】
上述のように構成された本実施形態の車両の制御装置においては、ECU30により、アクセル開度センサ32および車速センサ33等の信号に基づいて、エンジン11の出力すべき要求トルクが算出され、主変速機12およびトランスファ13をその要求トルクと車速とに応じた変速段(自動無段変速機の場合は変速比)に制御するように、変速制御がなされる。
【0040】
また、ECU30において、図2に示すような2速ホールド制御が短周期で繰り返し実行される。
【0041】
まず、ブレーキスイッチ34からのブレーキON/OFF信号に基づいて、ブレーキペダル操作(制動要求操作)の有無が判定され(ステップS1)、ブレーキペダル操作がなされると(ステップS1でYESの場合)、次ステップに進み、車載の加速度センサ31の検出情報に基づく検出減速度が、予め設定された閾値減速度、例えば0.3G、0.6Gまたは0.9G(Gは、重力加速度と同じ加速度の大きさを1Gとする単位であり、ここでは減速度の大きさの単位とする)を超える急減速状態が、急減速判定のために要する時間として予め設定された一定時間、例えば閾値減速度0.3Gに対して1000[msec]、0.6Gに対して500[msec]、0.9Gに対して250[msec]だけ連続したか否かが判定される。
【0042】
したがって、検出減速度が閾値減速度以下である場合、あるいは、検出減速度が急制動判定に要する一定時間だけ続かない場合には(ステップS2でNOの場合)、通常の変速制御がなされる(ステップS5)。
【0043】
一方、検出減速度が閾値減速度を超える状態が急制動判定に要する一定時間だけ続いた場合には(ステップS2でYESの場合)、急制動での制動要求操作状態にあると判定され、2速ホールド指示のための制御信号出力がなされる(ステップS3)。
【0044】
次いで、車両の停止に至ったか否かにより変速終了判断がなされ、未だ停止前であれば、変速制御が必要であることを示し、上述の一連の2速ホールド制御を再度要求するためのフラグを設定して(ステップS4)、今回の処理を終了する。
【0045】
このような制御がなされるとき、ステップS5の通常の変速制御では、図3に破線で示す従来の制御と同様に、制動要求状態下では、主変速機12が例えば制動開始時の変速段、例えば3速(図3(b)中の3rd)の変速段から最大の変化速度で最減速側の変速段である1速(図3(b)中の1st)の変速段まで順次低速側に制御され、再発進時の駆動トルクを確保するような制御がなされる。
【0046】
このような制御がなされるときには、スプライン嵌合部14hにおけるスライド抵抗が図3(c)に示すように変化する。すなわち、ブレーキONによって車両1の制動が開始されると、駆動輪22L、22R側の制動トルク発生に伴ってスプライン嵌合部14hでのスライド抵抗はまず静スライド抵抗(静止摩擦状態)から動スライド抵抗(動摩擦状態)に変化し、3速から2速への変速が完了すると、そこで2速の変速段における静スライド抵抗となり、同図中に破線で示すように、最減速側の1速の変速段にまで切り替えられるとすると、スライド抵抗は急に増大することになる。
【0047】
本実施形態では、ステップS3の2速ホールド指示の制御出力がなされるときには、図3(b)〜図3(d)にそれぞれ実線で示すように、車両1が閾値を超える急減速度で制動されて主変速機12の変速比が特定の変速段、例えば3速から2速の変速段(図3(b)中の2nd)へと低速側に切り替わったときに、ブレーキスイッチ34により制動要求操作が検出される状態下であっても(図3(a)参照)、さらに低速側の変速比、例えば最減速側の1側の変速段に切り替えることなく、車両1の停止まで2速の変速段が保持されることになる。したがって、車両1が停止するまで、1速の変速段でのスライド抵抗に対して十分に小さい2速の変速段でのスライド抵抗が維持されることになり、1速の変速段で急停止するときのような残留スライド状態がなくなる(図3(d)参照)。なお、車両1の停止時に一時的に動スライド抵抗となる。
【0048】
図2に示す本実施形態の2速ホールド制御では、2速の変速段を超える高速段のうちいずれかの変速段から閾値減速度を超える一定時間以上の急制動がなされると、通常の変速制御によって2速または3速に切り替わるものとして、一定時間以上に達した段階から2速の変速段が保持される。
【0049】
勿論、図2中のステップS1とS2の間に、高速段側から2速へと低速側に切り替わったか否かの判定を行うステップを入れ、2速に切り替わった段階から2速の変速段を保持することができるし、一定時間の経過後に2速への切り替えを行って、その変速段を保持することもできる。
【0050】
このように急減速度での制動・停止時に特定の変速比が保持される本実施形態においては、主変速機12が最減速側の変速比である1速の変速段にまで変速される場合に比べ、主変速機12とプロペラシャフト14の間の伝達トルクおよびスプライン嵌合部14hにおけるスライド抵抗が抑えられることになる。したがって、主変速機12が急制動時に車体2に対し車両前方側に移動した状態からスプライン嵌合部14hの通常の嵌合深さとなる定位置まで復帰することが、スプライン嵌合部14hでのスライド抵抗によって阻害されるのを防止できることになる。その結果、急停止後に車両1が再度発進するとき、残留スライド分の復帰(図3(d)参照)に伴ってガタ打ち音のようなノイズが発生してしまうといった従来の問題を解消することができる。
【0051】
なお、上述の実施形態においては、主変速機12およびトランスファ13が有段の多段変速機を構成するものとしたが、本発明は無段の自動変速機であっても適用できる。その場合、変速比保持制御手段としてのECU30は、加速度センサ31により検出される減速度とその減速度が検出されるときの無段変速機の変速比とに基づいて、スプライン嵌合部14hにおける無段変速機側の軸部材とその部材にスプライン嵌合するプロペラシャフトの主要部とのスライド量を、予めメモリに格納されたスライド量検出用のマップ(減速度と無段変速機の変速比を変化させるときのスプライン嵌合部14hの平均または最大のスライド量を予め実験により求めたデータ)に基づいて検出するスライド量検出部と、復帰時の残留スライド量が最小となるように無段変速機の特定の変速比を予めメモリに格納された保持変速比選択用のマップ(急減速時の変速機の最大スライド量に対して残留スライド量を最小にすることのできる変速比を予め実験により求めたデータ)から選択する変速比選択部とを有するのがよい。
【0052】
以上説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、車両が急減速度で制動されて自動変速機の変速比が特定の変速比へと低速側に切り替わったとき、制動要求操作状態下でさらに低速側の変速比に切り替えることなく車両の停止までその特定の変速比を保持するようにしているので、変速機を最減速側の変速比にまで変速する場合に比べて、変速機とプロペラシャフトとの結合部近傍に配置されるスプライン嵌合部のスライド抵抗を抑えることができ、変速機が急制動時に車体に対し車両前方側に移動した状態からスプライン嵌合部の通常の嵌合深さとなる位置まで復帰することが前記スライド抵抗によって阻害されるのを防止することができ、車両が再度発進するときの変速機の復帰に伴ってガタ打ち音等のノイズが発生するのを防止することができるという効果を奏するものであり、エンジン、変速機およびプロペラシャフトを備える車両に装備される車両の制御装置、特にエンジンからの駆動トルクが変速機を介してプロペラシャフトに伝達され始めるときのショックやノイズの低減を図る車両の制御装置全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置を搭載した車両の駆動系全体を含む概略ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置における2速ホールド制御の概略の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置における急制動時の2速ホールド制御を従来の変速制御と比較して示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0054】
1 車両
2 車体
3 マウント
11 エンジン
12 主変速機(自動変速機)
13 トランスファ(自動変速機)
13a リヤ側のアウトプットシャフト
13b フロント側のアウトプットシャフト
14 リヤ側のプロペラシャフト
14a、14b ジョイント部
14c 中間軸部
14f、14g 軸部材
14h スプライン嵌合部
15 リヤディファレンシャル装置
15a インプットシャフト
16L、16R、19L、19R ドライブシャフト
17 フロント側のプロペラシャフト
18 フロントディファレンシャル装置
21L、21R 前輪
22L、22R 後輪
30 ECU(電子制御ユニット、制動要求操作検出手段、減速度検出手段、車両停止検出手段、変速比保持制御手段)
31 加速度センサ(Gセンサ、減速度検出手段)
32 アクセル開度センサ(アクセル開度検出手段)
33 車速センサ(車両停止検出手段)
34 ブレーキスイッチ(制動要求操作検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから駆動車輪への動力伝達経路を形成する自動変速機およびプロペラシャフトの結合部近傍にスプライン嵌合部を有する車両にあって少なくとも前記自動変速機を制御する車両の制御装置において、
前記車両の制動を要求する制動要求操作を検出する制動要求操作検出手段と、
前記車両の制動による減速度を検出する減速度検出手段と、
前記車両の停止を検出する車両停止検出手段と、
前記制動要求操作検出手段、前記減速度検出手段および前記車両停止検出手段の検出情報に基づいて作動し、前記車両が予め設定された閾値を超える急減速度で制動されて前記自動変速機の変速比が特定の変速比へと低速側に切り替わったとき、前記制動要求操作検出手段により前記制動要求操作が検出される状態下でさらに低速側の変速比に切り替えることなく前記車両の停止まで前記特定の変速比を保持する変速比保持制御手段と、を備えることを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−144867(P2010−144867A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324022(P2008−324022)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】