説明

車両の制御装置

【課題】アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた場合にエンジン出力を制限する出力制限制御を実行する車両において、両踏み回転合わせ操作(ブレーキを踏み込みながらアクセルを踏み込んでエンジン回転速度を合わせる操作)を行うことができるようにする。
【解決手段】アクセルセンサ31とブレーキスイッチ32の出力信号に基づいて、アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態になったと判断した場合に、アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態になってから所定期間内にエンジン回転速度の変化量ΔNe (例えば今回値と前回値との差)が所定の判定閾値を越えなければ、出力制限制御を実行するが、所定期間内にエンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値以上になった場合には、無負荷状態でのエンジン回転速度上昇であるため、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作であると判断して、出力制限制御を禁止又は制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセル操作とブレーキ操作の両方が検出された状態(アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態)になった場合にエンジンの出力を制限する機能を備えた車両の制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
運転者が間違えてアクセルペダルとブレーキペダルを同時に踏み込むことに起因する車両の暴走を防ぐことを目的として、例えば、特許文献1(特開2005−291030号公報)には、ブレーキペダルの踏み込み量が所定値(意図的なアクセルペダル及びブレーキペダルの同時踏み込みに対応した値)以上であるときに、エンジンを強制的にアイドル状態にすることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2(特開2006−233870号公報)には、アクセルペダルの操作とブレーキペダルの操作とを同時に検出すると、ブレーキペダルの操作に応じてエンジンの運転状態を所定出力内に制限し、クラッチペダルの操作を検出すると、その所定出力を増大させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−291030号公報
【特許文献2】特開2006−233870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、MT車(手動変速機を搭載した車両)においては、ダウンシフト時にブレーキを踏み込んで減速しながらアクセルを踏み込んでエンジン回転速度を変速後のギヤに対応した回転速度に合わせるように上昇させるヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の操作を行うことがある。
【0006】
しかし、上記特許文献1の技術では、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等のブレーキを踏み込みながらアクセルを踏み込んでエンジン回転速度を合わせる操作(以下「両踏み回転合わせ操作」という)を行うためにブレーキとアクセルの両方が踏み込まれた場合でも、エンジンの出力が抑制されてしまい、両踏み回転合わせ操作を適切に行うことができない可能性がある。
【0007】
この対策として、上記特許文献2の技術では、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作を行う際にはクラッチペダルを操作することに着目して、アクセルペダルの操作とブレーキペダルの操作とを同時に検出したときにエンジン出力を制限するシステムおいて、クラッチペダルの操作を検出したときにはエンジン出力の制限を緩めるようにしているが、この場合、クラッチペダルの操作を検出するためのセンサやスイッチを設ける必要があるため、近年の重要な技術的課題である低コスト化の要求を満たすことができないという欠点がある。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた場合にエンジンの出力を制限するシステムにおいて、低コストの要求を満たしながら両踏み回転合わせ操作を適切に行うことができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車両の駆動源としてエンジンを搭載した車両の制御装置において、アクセル操作を検出するアクセル操作検出手段と、ブレーキ操作を検出するブレーキ操作検出手段と、アクセル操作とブレーキ操作の両方が検出された状態になった場合にエンジンの出力を制限する出力制限制御を実行する出力制御手段とを備え、この出力制御手段は、アクセル操作とブレーキ操作の両方が検出された状態になってから所定期間内にエンジン回転速度の変化量が所定の判定閾値以上になった場合には、出力制限制御を禁止又は制限するようにしたものである。
【0010】
一般にヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作(ブレーキを踏み込みながらアクセルを踏み込んでエンジン回転速度を合わせる操作)を行う際には、クラッチ操作によりエンジンを無負荷状態(変速機をニュートラル状態)にしてアクセルを踏み込むため、エンジン回転速度が速やかに上昇する。
【0011】
この点に着目して、本発明は、アクセル操作とブレーキ操作の両方が検出された状態になってから所定期間内(ブレーキ操作の後にアクセル操作が検出された場合にはアクセル開度が変化してから所定期間内)にエンジン回転速度の変化量が所定の判定閾値以上になった場合には、無負荷状態でのエンジン回転速度上昇であるため、両踏み回転合わせ操作であると判断して、出力制限制御を禁止する又は出力制限制御を制限する(つまり出力制限制御による出力制限を緩和する)ことができるため、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作を適切に行うことができる。しかも、クラッチ操作を検出する(無負荷状態を判定する)ためのセンサやスイッチを設ける必要がないため、近年の重要な技術的課題である低コスト化の要求を満たすことができる。
【0012】
この場合、請求項2のように、少なくともアクセル開度の変化量に応じて判定閾値を設定するようにすると良い。このようにすれば、アクセル開度(アクセル操作量)の変化量に応じてトルク変化量が変化してエンジン回転速度の変化量が変化するのに対応して、判定閾値を変化させて、判定閾値を適正値に設定することができる。
【0013】
また、請求項3のように、所定期間内にエンジン回転速度の変化量が判定閾値以上になった場合には、エンジンの発生トルクを、無負荷状態でエンジン回転速度を最大許容回転速度まで上昇させるのに必要なトルクで制限するようにしても良い。このようにすれば、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作を可能にしながら、車両の不要な加速を防止することができる。
【0014】
或は、請求項4のように、所定期間内にエンジン回転速度の変化量が判定閾値以上になった場合には、エンジンの発生トルクを、アクセル操作検出時からの経過時間とエンジン回転速度に応じて低下させるようにしても良い。このようにしても、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作を可能にしながら、車両の不要な加速を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の一実施例におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2はエンジン出力制御を説明する図である。
【図3】図3は出力制限制御の実行例を説明するタイムチャートである。
【図4】図4は出力制限制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャート(その1)である。
【図5】図5は出力制限制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャート(その2)である。
【図6】図6は両踏み回転合わせ操作時の制御例を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態をMT車(手動変速機を搭載した車両)に適用して具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
車両には、駆動源として内燃機関であるエンジン11が搭載されている。このエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
【0017】
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられ、各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍に、それぞれ吸気ポートに向けて燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各気筒の点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0018】
一方、エンジン11の排気管23には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
【0019】
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、ノッキングを検出するノックセンサ27が取り付けられている。また、クランク軸28の外周側には、クランク軸28が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ29が取り付けられ、このクランク角センサ29の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0020】
車両には、アクセル操作量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ31(アクセル操作検出手段)と、ブレーキ操作/解除に応じてオン/オフするブレーキスイッチ32(ブレーキ操作検出手段)と、車速を検出する車速センサ33等が搭載されている。
【0021】
これら各種センサやスイッチの出力は、電子制御回路(以下「ECU」と表記する)30に入力される。このECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。その際、ECU30は、アクセルセンサ31で検出したアクセル開度(アクセル操作量)に基づいて制御用アクセル開度を設定し、この制御用アクセル開度に基づいてスロットル開度(吸入空気量)等を制御してエンジン11の出力を制御する。
【0022】
本実施例では、ECU30により後述する図4及び図5の出力制限制御ルーチンを実行することで、アクセルセンサ31とブレーキスイッチ32の出力信号に基づいて、アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態(アクセル操作とブレーキ操作の両方が検出された状態)になったと判断した場合に、エンジン11の出力を制限する出力制限制御を実行する。本実施例では、出力制限制御として、制御用アクセル開度(エンジン11の制御に使用するアクセル開度)を制限するアクセル開度制限制御を実行する。
【0023】
ところで、MT車(手動変速機を搭載した車両)においては、ダウンシフト時にブレーキを踏み込んで減速しながらアクセルを踏み込んでエンジン回転速度を変速後のギヤに対応した回転速度に合わせるように上昇させるヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の操作を行うことがある。
【0024】
しかし、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等のブレーキを踏み込みながらアクセルを踏み込んでエンジン回転速度を合わせる操作(以下「両踏み回転合わせ操作」という)を行うためにブレーキとアクセルの両方が踏み込まれた場合に、出力制限制御を実行すると、両踏み回転合わせ操作を適切に行うことができない可能性がある。
【0025】
この対策として、本実施例では、一般にヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作(ブレーキを踏み込みながらアクセルを踏み込んでエンジン回転速度を合わせる操作)を行う際には、クラッチ操作によりエンジン11を無負荷状態(変速機をニュートラル状態)にしてアクセルを踏み込むため、エンジン回転速度が速やかに上昇することに着目して、アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態になってから所定期間内(ブレーキが踏み込まれた後にアクセルが踏み込まれた場合にはアクセル開度が変化してから所定期間内)にエンジン回転速度の変化量が所定の判定閾値以上になった場合には、無負荷状態でのエンジン回転速度上昇であるため、両踏み回転合わせ操作であると判断して、出力制限制御を禁止することで、両踏み回転合わせ操作を適切に行うことができるようにする。
【0026】
以下、図2及び図3を用いて、本実施例のエンジン出力制御について具体的に説明する。尚、以下の説明で「ブレーキON」はブレーキスイッチ32の出力信号に基づいてブレーキが踏み込まれたと判定した状態(ブレーキ操作を検出した状態)を意味し、「ブレーキOFF」はブレーキスイッチ32の出力信号に基づいてブレーキの踏み込みが解除されたと判定した状態(ブレーキ解除を検出した状態)を意味する。
【0027】
図2及び図3に示すように、ECU30の起動直後は、まず、通常モード(Mode1)に設定される。
(1)通常モード(Mode1)では、実アクセル開度(アクセルセンサ31で検出したアクセル開度)を、そのまま制御用アクセル開度として採用し、この制御用アクセル開度(=実アクセル開度)を用いてエンジン11の出力を制御する。
【0028】
この通常モード(Mode1)の場合には、次の(a) と(b) の条件が成立しているか否かを判定する。
(a) 車速が所定値V1 以上であること
(b) 実アクセル開度が所定値A1 よりも大きいこと
ここで、上記(b) の条件の所定値A1 は、予め設定した固定値としても良いし、車速に応じて設定するようにしても良い。
【0029】
上記(a) と(b) の2つの条件が両方とも成立していると判定された場合、つまり、車速が所定値V1 以上であると判定され、且つ、実アクセル開度が所定値A1 よりも大きい(アクセルが踏み込まれている)と判定された場合には、その時点t1 (図3参照)で、スタンバイモード(Mode2)に移行する。
【0030】
(2)スタンバイモード(Mode2)では、通常モード(Mode1)と同じように、実アクセル開度(アクセルセンサ31で検出したアクセル開度)を、そのまま制御用アクセル開度として採用し、この制御用アクセル開度(=実アクセル開度)を用いてエンジン11の出力を制御する。
【0031】
このスタンバイモード(Mode2)の場合には、次の(c) と(d) の条件が成立しているか否かを判定する。
(c) ブレーキON
(d) 両踏み状態(アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態)になった後にエンジン回転速度の変化量ΔNe (例えば今回値と前回値との差)が所定の判定閾値を越えない状態の継続時間が所定時間以上であること
【0032】
ここで、上記(d) の条件の判定閾値は、アクセル開度の変化量に応じて設定する。これにより、アクセル開度の変化量に応じてトルク変化量が変化してエンジン回転速度の変化量が変化するのに対応して、判定閾値を変化させて、判定閾値を適正値に設定することができる。
【0033】
上記(c) と(d) の2つの条件が両方とも成立していると判定された場合、つまり、ブレーキON(ブレーキが踏み込まれた状態)で且つ両踏み状態になった後にエンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値を越えない状態の継続時間が所定時間以上であると判定された場合には、両踏み回転合わせ操作ではないと判断して、その時点t2 (図3参照)で、制限制御モード(Mode3)に移行する。
【0034】
一方、上記(c) が成立していると判定されても、上記(d) の条件が不成立であると判定された場合、つまり、両踏み状態になってから所定時間内にエンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値以上になった場合(図6参照)には、無負荷状態でのエンジン回転速度上昇であるため、両踏み回転合わせ操作であると判断して、制限制御モード(Mode3)には移行せずに、出力制限制御を禁止する。
【0035】
上記(c) 又は(d) の条件が不成立であると判定された場合には、次の(e) 又は(f) の条件が成立しているか否かを判定する。つまり、上記(c) と(d) の条件よりも次の(e) と(f) の条件の方が優先度が低い。
(e) 実アクセル開度が所定値A2 以下であること
(f) 車速が所定値V2 よりも低いこと
【0036】
ここで、上記(e) の条件の所定値A2 は、上記(b) の条件の所定値A1 よりも小さい値に設定されている。また、上記(f) の条件の所定値V2 は、上記(a) の条件の所定値V1 よりも小さい値に設定されている。
【0037】
上記(e) 又は(f) の条件が成立していると判定された場合、つまり、実アクセル開度が所定値A2 以下であると判定された場合、又は、車速が所定値V2 よりも低いと判定された場合には、その時点で、通常モード(Mode1)に戻る。
【0038】
(3)制限制御モード(Mode3)では、制御用アクセル開度を制限値(例えばアイドル運転時よりも少し大きいアクセル開度)まで減少させて、制御用アクセル開度を制限値で制限するアクセル開度制限制御を実行し、この制御用アクセル開度を用いてエンジン11の出力を制御することで、エンジン11の出力を制限する出力制限制御を実行する。ここで、制限値は、予め設定した固定値としても良いし、出力制限制御開始時(アクセル開度制限制御開始時)の車速に応じて設定するようにしても良い。
【0039】
更に、出力制限制御(アクセル開度制限制御)を実行する際には、出力制限制御開始時(アクセル開度制限制御開始時)の車速に応じた減算量をマップ等により算出する。ここで、減算量のマップは、例えば、出力制限制御開始時の車速が高くなるほど減算量が大きくなって制御用アクセル開度の変化速度(減少速度)が速くなるように設定されている。そして、制御用アクセル開度が制限値に減少するまで、所定の演算周期毎に前回の制御用アクセル開度(初期値は実アクセル開度)から減算量だけ減算して今回の制御用アクセル開度を求める処理を繰り返すことで、出力制限制御開始時の車速に応じた変化速度(減少速度)で制御用アクセル開度を制限値まで減少させる。
【0040】
この制限制御モード(Mode3)の場合には、次の(g) 又は(h) の条件が成立しているか否かを判定する。
(g) 実アクセル開度の所定時間当りの増加量が所定値ΔA3 よりも大きいこと
(h) ブレーキOFF且つブレーキOFFの継続時間が所定時間T3 以上であること
【0041】
上記(g) の条件が成立していると判定された場合、つまり、出力制限制御の実行中に実アクセル開度の所定時間当りの増加量が所定値ΔA3 よりも大きいと判定された場合には、運転者が意図的にアクセル開度を増加させた(アクセルを踏み込んだ)ため、エンジン出力を抑制する必要はないと判断して、その時点で、復帰制御モード(Mode4)に移行する。
【0042】
また、上記(h) の条件が成立していると判定された場合、つまり、出力制限制御の実行中にブレーキOFF(ブレーキの踏み込みが解除された状態)で且つブレーキOFFの継続時間が所定時間T3 以上である(ブレーキの踏み込みが解除されたと判定してから所定時間T3 以上が経過した)と判定された場合には、運転者が意図的にブレーキの踏み込みを解除したため、エンジン出力を抑制する必要はないと判断して、その時点t3 (図3参照)で、復帰制御モード(Mode4)に移行する。
【0043】
一方、上記(g) と(h) の条件が両方とも不成立であると判定された場合には、次の条件(i) が成立しているか否かを判定する。つまり、上記(g) と(h) の条件よりも次の(i) の条件の方が優先度が低い。
【0044】
(i) 実アクセル開度が所定値A3 よりも小さいこと
ここで、上記(i) の条件の所定値A3 は、上記(b) の条件の所定値A1 よりも小さい値に設定されている。上記(i) の条件が成立していると判定された場合、つまり、実アクセル開度が所定値A3 よりも小さいと判定された場合には、その時点で、通常モード(Mode1)に戻る。
【0045】
(4)復帰制御モード(Mode4)では、制御用アクセル開度を実アクセル開度に戻すアクセル開度復帰制御を実行し、この制御用アクセル開度を用いてエンジン11の出力を制御する。
【0046】
更に、アクセル開度復帰制御を実行する際には、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又は出力制限制御開始時の車速)に応じた加算量をマップ等により算出する。ここで、加算量のマップは、例えば、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又は出力制限制御開始時の車速)が低くなるほど加算量が小さくなって制御用アクセル開度の変化速度(増加速度)が遅くなるように設定されている。そして、制御用アクセル開度が実スロットル開度に増加するまで、所定の演算周期毎に前回の制御用アクセル開度に加算量だけ加算して今回の制御用アクセル開度を求める処理を繰り返すことで、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又は出力制限制御開始時の車速)に応じた変化速度(増加速度)で制御用アクセル開度を実アクセル開度まで増加させる。その際、制御用アクセル開度を実アクセル開度まで増加させるときの変化速度を所定の上限値で制限する。
【0047】
この復帰制御モード(Mode4)の場合には、次の(j) の条件が成立しているか否かを判定する。
(j) ブレーキON且つブレーキONの継続時間が所定時間T4 以上であること
上記(j) の条件が成立していると判定された場合、つまり、アクセル開度復帰制御の実行中にブレーキON(ブレーキが踏み込まれた状態)で且つブレーキONの継続時間が所定時間T4 以上である(ブレーキが踏み込まれたと判定してから所定時間T4 以上が経過した)と判定された場合には、その時点で、制限制御モード(Mode3)に戻って、出力制限制御を実行する。
【0048】
一方、上記(j) の条件が不成立であると判定された場合には、次の条件(k) が成立しているか否かを判定する。つまり、上記(j) の条件よりも次の(k) の条件の方が優先度が低い。
(k) 制御用アクセル開度が実アクセル開度以上であること
上記(k) の条件が成立していると判定された場合、つまり、制御用アクセル開度が実アクセル開度以上であると判定された場合には、制御用アクセル開度が実アクセル開度まで増加したと判断して、その時点t4 (図3参照)で、アクセル開度復帰制御を終了して、スタンバイモード(Mode2)に戻る。
【0049】
更に、上記(k) の条件が不成立であると判定された場合には、次の(l) の条件が成立しているか否かを判定する。つまり上記(k) の条件よりも次の(l) の条件の方が優先度が低い。
(l) 実アクセル開度が所定値A4 よりも小さいこと
【0050】
ここで、上記(l) の条件の所定値A4 は、上記(b) の条件の所定値A1 よりも小さい値に設定されている。上記(l) の条件が成立していると判定された場合、つまり、実アクセル開度が所定値A4 よりも小さいと判定された場合には、その時点で、アクセル開度復帰制御を終了して、通常モード(Mode1)に戻る。
【0051】
以上の処理により、上記(a) 〜(d) の4つ条件を出力制限制御の実行条件とし、アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態になった場合に、制御用アクセル開度を制限するアクセル開度制限制御を実行することで、エンジン11の出力を制限する出力制限制御を実行する。
【0052】
以上説明した本実施例の出力制限制御に関する処理は、ECU30によって図4及び図5の出力制限制御ルーチンに従って実行される。以下、この出力制限制御ルーチンの処理内容を説明する。
【0053】
[出力制限制御ルーチン]
図4及び図5に示す出力制限制御ルーチンは、ECU30の電源オン期間中(イグニッションスイッチのオン期間中)に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう出力制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、車速が所定値V1 以上であるか否かを判定する。
【0054】
このステップ101で、車速が所定値V1 以上であると判定された場合には、ステップ102に進み、実アクセル開度が所定値A1 よりも大きい(アクセルが踏み込まれている)か否かを判定する。ここで、所定値A1 は、予め設定した固定値としても良いし、車速に応じて設定するようにしても良い。
【0055】
このステップ102で、実アクセル開度が所定値A1 よりも大きい(アクセルが踏み込まれている)と判定された場合には、ステップ103に進み、ブレーキON(ブレーキが踏み込まれた状態)であるか否かを判定する。
【0056】
上記ステップ101〜103のいずれかで「No」と判定された場合には、上記ステップ101に戻る。一方、上記ステップ101〜103で全て「Yes」と判定された場合には、ステップ104に進み、制御実行条件フラグをON(オン)にセットした後、ステップ105に進み、制御実行条件フラグがOFF(オフ)からONに切り換わってから所定時間以内であるか否かを判定する。
【0057】
このステップ105で、制御実行条件フラグがOFFからONに切り換わってから所定時間以内であると判定された場合には、ステップ106に進み、車速が所定値V2 以上であるか否かを判定し、車速が所定値V2 以上であると判定された場合には、ステップ107に進み、実アクセル開度が所定値A2 よりも大きいか否かを判定する。ここで、所定値A2 は、所定値V1 よりも小さい値に設定する。
【0058】
上記ステップ106,107のいずれかで「No」と判定された場合には、上記ステップ101に戻る。一方、上記ステップ106,107の両方で「Yes」と判定された場合には、ステップ108に進み、エンジン回転速度の変化量ΔNe (例えば今回値と前回値との差)が所定の判定閾値以上であるか否かを判定する。ここで、判定閾値は、アクセル開度の変化量に応じて設定する。これにより、アクセル開度の変化量に応じてトルク変化量が変化してエンジン回転速度の変化量が変化するのに対応して、判定閾値を変化させて、判定閾値を適正値に設定することができる。
【0059】
このステップ108で、エンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値よりも小さいと判定された場合には、上記ステップ104に戻り、ステップ104〜108の処理を繰り返す。その後、ステップ108で、エンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値以上と判定されることなく、ステップ105で、制御実行条件フラグがOFFからONに切り換わってから所定時間以上であると判定された場合、つまり、両踏み状態になった後にエンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値を越えない状態の継続時間が所定時間以上であると判定された場合には、両踏み回転合わせ操作(ブレーキを踏み込みながらアクセルを踏み込んでエンジン回転速度を合わせる操作)ではないと判断して、図5のステップ110に進み、アクセル開度制限制御(出力制限制御)を実行する。
【0060】
これに対して、上記ステップ108で、エンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値以上であると判定された場合、つまり、両踏み状態になってから所定時間内にエンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値以上になった場合には、無負荷状態でのエンジン回転速度上昇であるため、両踏み回転合わせ操作であると判断して、ステップ109に進み、制御実行条件フラグをOFFにリセットした後、上記ステップ104に戻り、ステップ104〜109の処理を繰り返す。これにより、その後、ステップ108で、エンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値よりも小さいと判定されるまで、制御実行条件フラグのOFF/ONが繰り返されるため、エンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値よりも小さいと判定されてから所定時間が経過するまでは、ステップ105で「Yes」と判定されて、アクセル開度制限制御(出力制限制御)が禁止され、この間に、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作を適切に実施できる。
【0061】
尚、両踏み状態になってから所定時間内にエンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値以上になった場合には、エンジン11の発生トルクを所定値(例えば無負荷状態でエンジン回転速度を最大許容回転速度まで上昇させるのに必要なトルク)で制限するようにしても良く、これにより、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作を可能にしながら、車両の不要な加速を防止することができる。
【0062】
或は、両踏み状態になってから所定時間内にエンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値以上になった場合には、エンジン11の発生トルクをアクセル操作検出時からの経過時間(両踏み状態になってからの経過時間)とエンジン回転速度に応じて低下させるようにしても良く、このようにしても、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作を可能にしながら、車両の不要な加速を防止することができる。
【0063】
一方、上記ステップ105で、制御実行条件フラグがOFFからONに切り換わってから所定時間以上であると判定された場合、つまり、両踏み状態になった後にエンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値を越えない状態の継続時間が所定時間以上であると判定された場合には、図5のステップ110に進み、アクセル開度制限制御(出力制限制御)を次のようにして実行する。まず、ステップ110で、アクセル開度制限制御開始時の車速に応じた減算量をマップ等により算出する。ここで、減算量のマップは、例えば、アクセル開度制限制御開始時の車速が低くなるほど減算量が小さくなって制御用アクセル開度の変化速度(減少速度)が遅くなるように設定されている。
【0064】
この後、ステップ111に進み、本ルーチンの演算周期毎に前回の制御用アクセル開度(初期値は実アクセル開度)から減算量だけ減算して今回の制御用アクセル開度を求める。
今回の制御用アクセル開度=前回の制御用アクセル開度−減算量
【0065】
この後、ステップ112に進み、制御用アクセル開度が制限値以下であるか否かを判定する。ここで、制限値は、予め設定した固定値としても良いし、アクセル開度制限制御開始時の車速に応じて設定するようにしても良い。
【0066】
このステップ112で、制御用アクセル開度が制限値よりも大きいと判定されれば、上記ステップ110に戻り、前回の制御用アクセル開度から減算量だけ減算して今回の制御用アクセル開度を求める処理を繰り返す。
【0067】
その後、上記ステップ112で、制御用アクセル開度が制限値以下であると判定されたときに、ステップ113に進み、制御用アクセル開度を制限値に設定する。以上の処理により、アクセル開度制限制御開始時の車速に応じた変化速度(減少速度)で制御用アクセル開度を制限値まで減少させて、制御用アクセル開度を制限値で制限するアクセル開度制限制御を実行することで、エンジン11の出力を制限する出力制限制御を実行する。
【0068】
この後、ステップ114に進み、ブレーキOFF(ブレーキの踏み込みが解除された状態)で且つブレーキOFFの継続時間が所定時間T3 以上である(ブレーキの踏み込みが解除されたと判定してから所定時間T3 以上が経過した)か否かを判定する。
【0069】
このステップ114で「No」と判定された場合(つまりブレーキON又はブレーキOFFの継続時間が所定時間T3 よりも短いと判定された場合)には、上記ステップ110に戻る。
【0070】
その後、上記ステップ114で、ブレーキOFFで且つブレーキOFFの継続時間が所定時間T3 以上であると判定された時点で、ステップ115に進み、アクセル開度復帰制御を次のようにして実行する。まず、ステップ115で、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又はアクセル開度制限制御開始時の車速)に応じた加算量をマップ等により算出する。ここで、加算量のマップは、例えば、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又はアクセル開度制限制御開始時の車速)が低くなるほど加算量が小さくなって制御用アクセル開度の変化速度(増加速度)が遅くなるように設定されている。
【0071】
この後、ステップ116に進み、本ルーチンの演算周期毎に前回の制御用アクセル開度に加算量だけ加算して今回の制御用アクセル開度を求める。
今回の制御用アクセル開度=前回の制御用アクセル開度+加算量
【0072】
この後、ステップ117に進み、制御用アクセル開度が実アクセル開度以上であるか否かを判定し、制御用アクセル開度が実アクセル開度よりも小さいと判定されれば、上記ステップ115に戻り、前回の制御用アクセル開度に加算量だけ加算して今回の制御用アクセル開度を求める処理を繰り返す。これにより、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又はアクセル開度制限制御開始時の車速)に応じた変化速度(増加速度)で制御用アクセル開度を増加させて、制御用アクセル開度を実アクセル開度まで戻すアクセル開度復帰制御を実行する。
【0073】
その後、上記ステップ117で、制御用アクセル開度が実アクセル開度以上であると判定されたときに、アクセル開度復帰制御を終了して、本ルーチンを終了する。
【0074】
次に、図6を用いて、両踏み回転合わせ操作時の制御例を説明する。
図6の例では、減速運転中のダウンシフト時に、まず時刻t1 で、運転者がブレーキを踏み込んでブレーキスイッチがONされ、その後、車速が所定値V1 以上の状態で運転者がアクセルを踏み込んで実アクセル開度が所定値A1 よりも大きいと判定された時点t2 で、通常モード(Mode1)からスタンバイモード(Mode2)に移行する。その後、両踏み状態(アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態)になってから所定時間内にエンジン回転速度の変化量ΔNe が判定閾値以上と判定された時点t3 で、無負荷状態でのエンジン回転速度上昇であるため、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作であると判断して、制限制御モード(Mode3)には移行せずに、出力制限制御を禁止する。その後、運転者がアクセル操作を解除して実アクセル開度が所定値A2 以下であると判定された時点t4 で、通常モード(Mode1)に戻る。
【0075】
以上説明した本実施例では、両踏み状態になってから所定時間内にエンジン回転速度の変化量が所定の判定閾値以上になった場合には、無負荷状態でのエンジン回転速度上昇であるため、両踏み回転合わせ操作であると判断して、出力制限制御を禁止するようにしたので、ヒール・アンド・トゥやダブルクラッチ等の両踏み回転合わせ操作を適切に行うことができる。しかも、クラッチ操作を検出する(無負荷状態を判定する)ためのセンサやスイッチを設ける必要がないため、近年の重要な技術的課題である低コスト化の要求を満たすことができる。
【0076】
尚、上記実施例では、両踏み状態になってから所定時間内にエンジン回転速度の変化量が所定の判定閾値以上になった場合に、出力制限制御を禁止することで両踏み回転合わせ操作を適切に行うことができるようにしたが、これに限定されず、出力制限制御を制限する(つまり出力制限制御による出力制限を緩和する)ことで両踏み回転合わせ操作を適切に行うことができるようにしても良い。ここで、出力制限制御を制限する(つまり出力制限制御による出力制限を緩和する)方法としては、例えば、出力制限制御(アクセル開度制限制御)の減算量を小さくしたり、制限値を大きくしたりする。
【0077】
また、上記実施例では、モータ等のスロットルアクチュエータでスロットルバルブの開度を制御する電子スロットルを備えたシステムに本発明を適用したが、これに限定されず、アクセルペダルとスロットルバルブを機械的に連結したメカスロットルを備えたシステムに本発明を適用しても良く、この場合、出力制限制御の際には、例えば、燃料噴射量や点火時期等によりエンジン11の出力を制限すると良い。
【0078】
また、上記実施例では、ブレーキ操作検出手段として、ブレーキスイッチを備えたシステムに本発明を適用したが、これに限定されず、ブレーキスイッチに代えて、ブレーキ操作量を検出するブレーキセンサを備えたシステムに本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0079】
11…エンジン(駆動源)、12…吸気管、16…スロットルバルブ、21…燃料噴射弁、22…点火プラグ、23…排気管、30…ECU(出力制御手段)、31…アクセルセンサ(アクセル操作検出手段)、32…ブレーキスイッチ(ブレーキ操作検出手段)、33…車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源としてエンジンを搭載した車両の制御装置において、
アクセル操作を検出するアクセル操作検出手段と、
ブレーキ操作を検出するブレーキ操作検出手段と、
前記アクセル操作と前記ブレーキ操作の両方が検出された状態になった場合に前記エンジンの出力を制限する出力制限制御を実行する出力制御手段とを備え、
前記出力制御手段は、前記アクセル操作と前記ブレーキ操作の両方が検出された状態になってから所定期間内にエンジン回転速度の変化量が所定の判定閾値以上になった場合には、前記出力制限制御を禁止又は制限することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記出力制御手段は、少なくともアクセル開度の変化量に応じて前記判定閾値を設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記出力制御手段は、前記所定期間内にエンジン回転速度の変化量が前記判定閾値以上になった場合には、前記エンジンの発生トルクを、無負荷状態でエンジン回転速度を最大許容回転速度まで上昇させるのに必要なトルクで制限することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記出力制御手段は、前記所定期間内にエンジン回転速度の変化量が前記判定閾値以上になった場合には、前記エンジンの発生トルクを、アクセル操作検出時からの経過時間とエンジン回転速度に応じて低下させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−158306(P2012−158306A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21129(P2011−21129)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】