説明

車両の制御装置

【課題】ドライバビリティの低下の抑制とエンジンストールの発生の防止とを両立することができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ECUは、登坂路の傾斜角が所定値以上であり(ステップS11でYES)、アクセルOFFであり(ステップS12でYES)、指示レンジが示す車両の進行方向と逆方向への車速が増加していると判断すると(ステップS13でYES)、エンジン回転数を上昇させる(ステップS14)。次に、ECU10は、エンジンストール予測車速Vpredを取得し、現在のタービン回転数の単位時間当たりの上昇率から、エンスト直前判定条件に用いる所定値Bを算出する(ステップS15)。そして、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差が所定値Bより小さくなった場合にエンスト直前判定が成立したと判断し(ステップS16でYES)、エンスト防止制御を実行する(ステップS17)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源として内燃機関を搭載した車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動力源として内燃機関を搭載した車両は、一般に、内燃機関の駆動力により駆動されるオイルポンプを搭載し、このオイルポンプにより生成される油圧によりパワーステアリングやブレーキアシストなど運転者の操作をアシストするようになっている。このような車両において、走行時にエンジンストールが発生すると、オイルポンプが停止し、パワーステアリングやブレーキアシストなどのアシストが停止されるため、運転操作に影響が発生するという問題がある。そこで、内燃機関の駆動力により走行する車両においては、エンジンストールの発生を防止するエンジンストール防止制御を実行する制御装置を備えるようになっている。
【0003】
従来、この種の制御装置として、登降坂路においてアクセルペダルが踏み込まれていない状態で指示レンジと逆方向への車速が増加し、内燃機関の機関回転数が低下した場合には、変速機内部をインターロック状態に移行して、車両の移動を制限するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載された従来の制御装置は、内燃機関および自動変速機を搭載した車両に適用されるようになっている。そして、登降坂路において、アクセルペダルおよびブレーキペダルのいずれも踏み込まれていない場合に、指示レンジと逆方向への車速が増加することによりエンジン回転数が所定値以上の変化率で低下した場合には、エンジンストールが発生すると判断するようになっている。そして、自動変速機が有する複数の摩擦係合要素の係合状態を切替え、自動変速機の内部をインターロック状態にし、車両を停止させるようになっていた。
【0005】
また、車両が指示レンジと逆方向に走行した場合に、エンジンの出力を上昇させ、車速の変化を制限するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
この特許文献2に記載された従来の制御装置は、例えば、狭い登坂路を走行中に、対向車両とのすれ違いができず、退避所まで車両を後進させる際に、運転者が指示レンジを切り替えずブレーキペダルを開放することのみによって車両を意図的に指示レンジと逆方向に後退させるという状況下において、エンジントルクを上昇させ、逆方向の車速の増加率を制限するようになっていた。そして、逆方向の車速が所定値に達した場合には、エンジントルクをさらに上昇させ、車速を一定とするようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−180987号公報
【特許文献2】特開2010−96051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような特許文献1に記載の従来の制御装置にあっては、車両が指示レンジと逆方向に進行を開始したと判断すると、自動変速機の内部にインターロックを形成することにより、車両を停止させるようになっているものの、車両が指示レンジと逆方向へ走行することを許容するようなものではなかった。
【0009】
また、特許文献2に記載の従来の制御装置にあっては、車両が指示レンジと逆方向に走行を始めた場合に車速あるいはその増加率を規制するようになっているため、運転者による車速の調節の自由度が制約されていた。つまり、運転者が車両の逆方向への走行を素早く行いたい場合においても、車速あるいはその増加率が規制されるため、車両が所望の速度で後進しなかったり、所望の車速に達するまでに時間がかかるという可能性があった。さらには、この特許文献2に記載の制御装置は、ブレーキペダルが開放されたことを条件にエンジントルクを制御するようになっているため、例えば、運転者がブレーキペダルの踏み込み量を調節しながら車両を所望の速度で逆方向に走行させることができないという問題があった。結果として、運転者の意図する車速で車両を後進させられないという可能性があった。
【0010】
そのため、特許文献1および2のいずれに記載のものも、運転者が車両を意図的に指示レンジと逆方向へ進行させる場合に、登降坂路の幅や傾斜、曲率あるいは周辺の他車両の存在など、走行路の状況に応じて車速を自由に調節できるものではなかった。したがって、特許文献1および2のいずれに記載ものも、エンジンストールを防止するようにはなっているものの、運転者の意図する車両の挙動が実現されず、ドライバビリティが低下する可能性があった。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、ドライバビリティの低下の抑制とエンジンストールの発生の防止とを両立することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、(1)内燃機関からトルクコンバータを有する変速機を介して駆動輪に駆動力を伝達する車両の制御装置であって、アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、前記内燃機関のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、前記変速機の入力軸回転数を検出する入力軸回転数検出手段と、路面の傾斜角を検出する傾斜角検出手段と、前記内燃機関のエンジン回転数を上昇させるエンジン回転数上昇手段と、前記内燃機関におけるエンジンストールの発生を予測するエンジンストール発生予測手段と、前記エンジンストール発生予測手段によりエンジンストールの発生が予測された場合にエンジンストールの発生防止制御を実行する防止制御手段と、を備え、前記エンジン回転数上昇手段は、前記アクセル開度検出手段によりアクセルペダルが開放されていることを表すアクセル開度が検出され、前記傾斜角検出手段により前記車両が傾斜した路面に位置することを検出され、かつ、前記車速検出手段により前記駆動力の伝達により進行する方向と逆方向への前記車両の進行が検出されたことを条件に、前記入力軸回転数検出手段により検出された入力軸回転数に応じてエンジン回転数を上昇させ、前記エンジンストール発生予測手段は、前記エンジン回転数上昇手段により上昇されたエンジン回転数と検出された前記入力軸回転数との回転数差に基づいてエンジンストールの発生を予測することを特徴とする。
【0013】
この構成により、エンジンストールの発生を予め定められたエンジン回転数と入力軸回転数との回転数差に基づいて予測するので、エンジンストールの発生予測を精度よく行える。そのため、エンジンストールが発生する可能性の低い状態で不必要に車両の車速が制限されることを防止できる。したがって、ドライバビリティの低下の抑制とエンジンストールの発生の防止とを両立することができる。
【0014】
また、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記エンジン回転数上昇手段は、アイドルスピードコントロールを実行することによりエンジン回転数を上昇させることを特徴とする。
【0015】
この構成により、アイドルスピードコントロールによりエンジン回転数が上昇されるので、運転者に対し車両の挙動に関する違和感を与えることなくエンジンストールの発生を抑制できる。
【0016】
また、上記(2)に記載の車両の制御装置において、(3)前記エンジン回転数上昇手段は、前記アイドルスピードコントロールにより上昇可能なエンジン回転数の最大値を上限値としてエンジン回転数を上昇させ、前記エンジンストール発生予測手段は、前記上限値と前記入力軸回転数との回転数差に基づいてエンジンストールの発生を予測することを特徴とする。
【0017】
この構成により、アイドルスピードコントロールにより上昇可能なエンジン回転数の上限値は予め算出可能であるため、エンジンストールが実際に発生するタイミングより十分前もってエンジンストールの発生を予測することが可能となる。
【0018】
また、上記(1)から(3)に記載の車両の制御装置において、(4)前記エンジン回転数上昇手段は、前記入力軸回転数と前記エンジン回転数との回転数差が予め定められた設定値を維持するよう前記エンジン回転数を上昇させることを特徴とする。
【0019】
この構成により、エンジンストールの発生を防止するとともに、不必要にエンジン回転数を上昇させ車速に与える影響を低減できるので、ドライバビリティが低下することを抑制できる。
【0020】
また、上記(4)に記載の車両の制御装置において、(5)前記エンジン回転数上昇手段は、前記傾斜角検出手段により検出された路面の傾斜角が大きいほど前記設定値を大きくすることを特徴とする。
【0021】
この構成により、エンジンストールの発生する可能性が高い傾斜角であるほど、エンジン回転数の上昇の立ち上がりを急峻にし、実エンジン回転数の上昇を目標エンジン回転数に追従させ、エンジンストールの発生を防止することができる。
【0022】
また、上記(1)から(5)に記載の車両の制御装置において、(6)前記防止制御手段は、運転者に対する警告を発することによりエンジンストールの発生を防止することを特徴とする。
【0023】
この構成により、エンジンストールの発生可能性が生じたことを運転者に警告するので、運転者はエンジンストールの発生前にブレーキ操作を開始することができる。したがって、エンジンストールの発生を防止することができる。
【0024】
また、上記(1)から(6)に記載の車両の制御装置において、(7)前記防止制御手段は、前記車両を制動するブレーキ装置を制御して車両を制動させることによりエンジンストールの発生を防止することを特徴とする。
【0025】
この構成により、エンジンストールの発生可能性が生じた場合には、車両の制動が実行されるので、エンジンストールの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ドライバビリティの低下の抑制とエンジンストールの発生の防止とを両立することができる車両の制御装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の構成を示す骨子図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るエンスト直前判定制御を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】従来のエンスト直前判定制御を説明するためのタイミングチャートである。
【図5】本発明の実施の形態に係るエンスト直前判定制御処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態に係る目標エンジン回転数の設定のその他の例を説明するためのグラフである。
【図7】本発明の実施の形態に係る目標エンジン回転数の設定のその他の例を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両を示す概略構成図である。図2は、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の構成を示す骨子図である。なお、本実施の形態においては、本発明に係る車両の制御装置をFR(Front engine Rear drive)車両に適用した場合について説明する。
【0030】
図1、2に示すように、車両1は、内燃機関を構成するエンジン2と、エンジン2により出力された回転トルクを増大させるトルクコンバータ3と、トルクコンバータ3の出力軸の回転速度を変速して出力する変速機構4と、を備えており、変速機構4の出力軸46から出力される回転トルクは、図示しないディファレンシャルギアを介して駆動輪に伝達されるようになっている。
【0031】
エンジン2は、後述するように、ガソリンあるいは軽油などの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置により構成されている。また、トルクコンバータ3および変速機構4は、自動変速機5を構成している。
【0032】
トルクコンバータ3は、図1、2に示すように、エンジン2と変速機構4との間に配置されており、エンジン2に入力軸34を介して連結されるポンプ翼車35と、変速機構4の入力軸の一部を構成する出力軸36を介して連結されるタービン翼車37と、一方向クラッチ38によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車39とを有している。ポンプ翼車35とタービン翼車37とは、流体を介して動力を伝達するようになっている。また、トルクコンバータ3の入力軸34および出力軸36は、ポンプ翼車35およびタービン翼車37とそれぞれ連結されている。
【0033】
さらに、トルクコンバータ3は、ポンプ翼車35とタービン翼車37との間を直結するためのロックアップクラッチ40を備えており、車両1の高速走行時において、作動油によりロックアップクラッチ40が図示しないフロントカバーを掴み、ポンプ翼車35とタービン翼車37とを機械的に直結する係合状態をとることにより、解放状態と比較してエンジン2から変速機構4への動力の伝達効率が上がるようになっている。また、トルクコンバータ3は、後述するように、車速、エンジン回転数あるいはタービン回転数などが所定の条件を満たす場合において、ロックアップクラッチ40が所定の滑り率でスリップするスリップ状態をとるようになっている。
【0034】
また、ポンプ翼車35には、変速機構4を変速制御するための油圧および各部に潤滑油を供給するための油圧を発生する機械式のオイルポンプ41が設けられている。
【0035】
変速機構4は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置42と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置43および第3遊星歯車装置44と、を備えている。第1遊星歯車装置42のサンギヤS1は、クラッチC3を介して入力軸に連結可能であるとともに、一方向クラッチF2およびブレーキB3を介してハウジング45に連結可能となっている。
【0036】
第1遊星歯車装置42のキャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジング45に連結可能となっている。また、キャリアCA1は、ブレーキB1と並列に設けられた一方向クラッチF1により、入力軸の回転方向と反対方向への回転が阻止されている。
【0037】
第1遊星歯車装置42のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置43のリングギヤR2と連結されており、ブレーキB2を介してハウジング45に連結可能となっている。第2遊星歯車装置43のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置44のサンギヤS3と連結されており、クラッチC4を介して入力軸に連結可能となっている。また、サンギヤS2は、一方向クラッチF4およびクラッチC1を介して入力軸に連結可能となっている。
【0038】
第2遊星歯車装置43のキャリアCA2は、第3遊星歯車装置44のリングギヤR3と連結されており、クラッチC2を介して入力軸に連結可能であるとともに、ブレーキB4を介してハウジング45に連結可能となっている。また、キャリアCA2は、ブレーキB4と並列に設けられた一方向クラッチF3により、入力軸の回転方向と反対方向への回転が阻止されるようになっている。また、第3遊星歯車装置44のキャリアCA3は、出力軸46に連結されている。
【0039】
クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置により構成されている。また、クラッチCおよびブレーキBは、後述する油圧制御回路6のトランスミッションソレノイドS1〜S4、およびリニアソレノイドSLT、SLUの励磁、非励磁や図示しないマニュアルバルブの作動状態によって切り替えられる油圧回路に応じて、係合状態および解放状態のいずれか一方の状態をとるようになっている。本実施の形態に係る変速機構4は、これらのクラッチCおよびブレーキBの係合状態および解放状態の組み合わせに応じた変速段をとるようになっている。
【0040】
車両1は、さらに、トルクコンバータ3によるトルクの増大比および変速機構4の変速段を油圧により制御するための油圧制御回路6を備えている。油圧制御回路6は、トランスミッションソレノイドS1〜S4、リニアソレノイドSLT、SLUおよび作動油の油温を測定するためのAT油温センサ32を有している。
【0041】
車両1は、さらに、車外の空気をエンジン2に導入するための吸気管71を備えており、この吸気管71は、空気の流量を調整するためのスロットル弁31と、エンジン2の運転状態がアイドル状態である場合にエンジン2に供給される空気の流量を調整するためのISC(Idle Speed Control)用バイパス通路73とを有している。
【0042】
ISC用バイパス通路73には、空気の流量を調整するためのISC用バルブが設けられている。ISC用バルブは、ECU10に制御されるISC用バルブアクチュエータによって駆動されることにより、ISC用バイパス通路73における流量を変更するようになっている。
【0043】
エンジン2がアイドル運転の状態である場合には、ECU10は、スロットル弁31を全閉とするとともに、後述するISC制御を実行しISC用バルブの開度を調節するようになっている。したがって、アイドル状態において燃焼に必要な空気は、ISC用バイパス通路73を経てエンジン2に供給されるようになっている。
【0044】
車両1は、さらに、エンジン2の機関回転数、すなわちエンジン回転数を測定するためのエンジン回転数センサ21と、エンジン2の吸入空気量を測定する吸入空気量センサ22と、タービン翼車37に接続されたトルクコンバータ3の出力軸36の回転数を測定するためのタービン回転数センサ23と、スロットル弁31の開度を測定するためのスロットル開度センサ24と、変速機構4の出力軸46の回転速度に基づいて車速を測定するための車速センサ25と、エンジン2の冷却水温度を測定するための冷却水温センサ26と、ブレーキペダル50に対する踏力を測定するブレーキセンサ27と、を備えている。車両1は、さらにシフトレバー28と、シフトレバー28のポジションを検出する操作位置センサ29と、アクセル開度を測定するためのアクセル開度センサ30と、車両1が走行している路面の傾斜角を検出する傾斜角センサ33と、エンジンストールの発生する可能性を運転者に警告するための警告装置48と、を備えている。
【0045】
エンジン回転数センサ21は、図示しないクランクシャフトの回転に基づいて、エンジン2の回転数を計測するようになっている。したがって、本実施の形態に係るエンジン回転数センサ21およびECU10の少なくともいずれか一方は、本発明に係るエンジン回転数検出手段を構成する。
【0046】
タービン回転数センサ23は、コンバータ3の出力軸36の回転数を測定し、タービン回転数を表す信号としてECU10に出力するようになっている。したがって、本実施の形態に係るタービン回転数センサ23およびECU10の少なくともいずれか一方は、本発明に係る入力軸回転数検出手段を構成する。スロットル開度センサ24は、例えば、スロットル弁31のスロットル開度に応じた出力電圧が得られるホール素子により構成されており、スロットル弁31のスロットル開度を表す信号を後述するECU10に出力するようになっている。
【0047】
車速センサ25は、自動変速機5の出力軸46に設置されたロータに形成されている複数の歯の回転を検出することによって車速を表す信号を生成し、後述するECU10に出力するようになっている。したがって、本実施の形態に係る車速センサ25およびECU10の少なくともいずれか一方は、本発明に係る車速検出手段を構成する。なお、車速センサ25は、ロータに形成された複数の欠歯の位置に基づいて、車両1が前進しているかあるいは後進しているかを区別することが可能となっている。
【0048】
ブレーキセンサ27は、ブレーキペダル50に対する運転者の操作踏力に応じたマスターシリンダ圧の変化あるいは操作ストロークを測定するようになっており、測定された踏力に応じた電気信号をブレーキ踏力信号として、後述するECU10に出力するようになっている。
【0049】
操作位置センサ29は、運転者により操作されたシフトレバー28の操作位置を検出するようになっている。
【0050】
アクセル開度センサ30は、例えば、ホール素子を用いた電子式のポジションセンサにより構成されており、車両1に搭載されたアクセルペダル19が運転者により操作されると、アクセルペダル19の位置が示すアクセル開度を表す信号を、後述するECU10に出力するようになっている。したがって、本実施の形態に係るアクセル開度センサ30およびECU10の少なくともいずれか一方は、本発明に係るアクセル開度検出手段を構成する。
【0051】
傾斜角センサ33は、例えば、Gセンサにより構成されており、車両1が走行している路面の勾配に応じた信号を、後述するECU10に出力するようになっている。したがって、本実施の形態に係る傾斜角センサ33およびECU10の少なくともいずれか一方は、本発明に係る傾斜角検出手段を構成する。
【0052】
警告装置48は、例えば、警告音を発することが可能なブザーにより構成されており、ECU10は、後述するエンスト直前判定制御によりエンジンストールが発生すると予測された場合には、警告装置48を介して運転者にエンジンストールの発生が予測されたことを警告音により知らせるようになっている。なお、警告装置48は、車両1に搭載されているオーディオシステムのスピーカにより構成されていてもよい。また、警告装置48は、車両1に搭載されているディスプレイに警告を表示するようにしてもよい。
【0053】
車両1は、さらに、電子制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)10を備えている。本実施の形態においては、ECU10は、エンジン2を電気的に制御するためのエンジンECU11と、自動変速機5を電気的に制御するためのトランスミッションECU12と、車両1の駆動輪および従動輪の回転を規制して車両1を制動するためのブレーキ機構47を制御するブレーキECU13と、によって構成されている。
【0054】
ECU10は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力インターフェースを有しており、アクセルペダル19の操作量に応じてエンジン2が制御されるよう、エンジン2に対してエンジン制御信号を出力するようになっている。
【0055】
また、ECU10は、エンジン回転数センサ21、吸入空気量センサ22、タービン回転数センサ23、スロットル開度センサ24、車速センサ25、冷却水温センサ26、ブレーキセンサ27、操作位置センサ29、アクセル開度センサ30および傾斜角センサ33と接続されており、これらのセンサからエンジン回転数、吸入空気量、タービン回転数、スロットル開度、車速、冷却水温、ブレーキ踏力、シフトレバー28の操作位置、アクセル開度および車両1が走行している道路の路面の傾斜角を表す信号をそれぞれ入力するようになっている。
【0056】
また、ECU10は、これらの信号に基づいて、トルクコンバータ3におけるロックアップクラッチ40の係合状態や変速機構4における変速段が制御されるよう油圧制御回路6を制御するようになっている。また、ECU10のROMは、車速およびスロットル開度に基づいた変速線図を表すマップや、変速制御を実行するためのプログラムなどを記憶している。
【0057】
なお、ECU10は、車両1の走行状態に応じて変速段を選択する自動変速モードと、手動操作に応じて変速段を選択する手動変速モードとを有するようになっていてもよい。ここで、車両1の走行状態とは、車両1の速度、スロットル開度、冷却水温およびAT油温などの状態を意味する。
【0058】
なお、ECU10は、後述するように、本発明に係る車両の制御装置、エンジン回転数上昇手段、エンジンストール発生予測手段、防止制御手段を構成する。
【0059】
以下、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を構成するECU10の特徴的な構成について、図1ないし図5を参照して説明する。
【0060】
運転者によりDレンジが選択されている状態において、例えば車両1がすれ違いの難しい登坂路を走行中に、前方から対向車が接近してきたとする。この場合、運転者は、シフトレバー28を操作せず、Dレンジの状態でブレーキペダル50の開放を行い、車両1を自重で後進させる、所謂ずり下がりによりすれ違いの可能な場所まで移動することが考えられる。
【0061】
同様に、運転者によりRレンジが選択されている状態において、車両1が降坂路を後進中に、運転者が車両1の位置を調節するためにRレンジの状態を維持したまま車両1の自重を利用して車両1を前進させることが考えられる。
【0062】
このとき、エンジン2のクランクシャフトと接続されたトルクコンバータ3の入力軸34と、変速機構4の入力軸と接続されたトルクコンバータ3の出力軸36とは、互いに逆方向に回転する。
【0063】
この入力軸34と出力軸36との逆向きのトルクは、トルクコンバータ3の内部のオイルを介して打ち消し合うことになるが、入力軸34の回転数に対する出力軸36の回転数の比が絶対値で1を超えると、ポンプ翼車35にかかる負荷が急激に上昇し、エンジン2の回転が不安定になり、エンジンストールを発生させる可能性が生じる。
【0064】
そこで、本発明に係る車両の制御装置を構成するECU10は、Dレンジが選択された状態で車両1が登坂路を後進したり、Rレンジが選択された状態で車両1が降坂路を前進していると判断した場合、すなわち、指示レンジと逆方向に車両1が進行している場合には、タービン回転数センサ23から入力された信号に基づいてタービン回転数を検出すると、ISC制御を実行することによりエンジン回転数を上昇させ、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差A[rpm]を一定に維持することにより、入力軸34の回転数に対する出力軸36の回転数の比が絶対値で1を超えないようにしている。具体的には、ECU10は、ISC用バルブアクチュエータを制御することによって、エンジン2のアイドル状態における吸入空気量を増加させエンジン回転数を上昇させることにより、ポンプ翼車35にかかる負荷の急激な上昇を抑制し、エンジン2の出力を安定させエンジンストールが発生することを防止するようになっている。つまり、本実施の形態に係るECU10は、本発明に係るエンジン回転数上昇手段を構成する。また、回転数差Aは、本発明に係る予め定められた設定値を意味する。
【0065】
また、ECU10は、ISC制御の実行によるエンジン回転数の上限値を予めROMに記憶している。この上限値は、エンジン2のアイドル状態において、ISC用バルブアクチュエータの制御により上昇可能なエンジン回転数として予め実験的な測定により定められている。
【0066】
また、ECU10は、ISC制御により上限値に達したエンジン回転数と、タービン回転数との差が所定値B[rpm]より小さくなった場合には、エンジンストールが発生する可能性が生じたものとして、エンスト直前判定成立フラグをONにする。つまり、本実施の形態に係るECU10は、本発明に係るエンジンストール発生予測手段を構成する。所定値Bとしては、ECU10が運転者に警告装置48を介して警告を行ってから、運転者がブレーキペダル50を操作することにより車両1が制動するまでにかかる時間を考慮して設定される。
【0067】
また、ECU10は、エンスト直前判定成立フラグがONになると、警告装置48を制御して警告音を発生させ、運転者にエンストが発生する可能性が生じたことを警告するようになっている。つまり、本実施の形態に係るECU10は、本発明に係る防止制御手段を構成する。
【0068】
なお、ECU10は、警告装置48に警告音を発生させる代わりに、車両1に搭載されているブレーキ機構47を制御して、車両1を制動するようにしてもよい。また、ECU10は、警告装置48により警告音を発生させた後も所定時間以内にブレーキペダル50が踏み込まれていないと判断した場合には、ブレーキ機構47を制御して車両1を制動するようにしてもよい。
【0069】
図3は、本発明の実施の形態に係るエンスト直前判定制御を説明するためのタイミングチャートである。また、図4は、本実施の形態に係るエンスト直前判定制御を実行しない場合におけるエンジン回転数等の変化を表したタイミングチャートである。
【0070】
図3において、車両1は、まず、登坂路に停車しており、Dレンジの状態で運転者によりブレーキペダル50が踏み込まれている。そして、時刻t1において、運転者によりブレーキペダル50が開放されると、車両1が後進を始める(実線51参照)。
【0071】
このとき、ECU10は、傾斜角センサ33から入力される信号に基づき、車両1が登坂路に停車していると判断している。また、アクセル開度センサ30から入力される信号に基づき、運転者によりアクセルペダル19が踏み込まれていないと判断している。
【0072】
ECU10は、エンジン回転数に対するタービン回転数の比の絶対値が1を超えないよう、エンジン回転数をタービン回転数より所定値A[rpm]だけ上昇させる。この場合、ECU10は、エンジン回転数より所定値A[rpm]だけ高いタービン回転数を目標エンジン回転数として設定し、公知のフィードバック制御により実エンジン回転数を当該目標エンジン回転数に追従させるようになっている。
【0073】
なお、エンジン回転数がアイドル運転を安定的に維持するための最低エンジン回転数になっている状態において、エンジン回転数とタービン回転数との差がA[rpm]より大きい場合、すなわち図3における時刻t1とt2との間においては、ECU10は、目標エンジン回転数を最低エンジン回転数に維持するようになっている。
【0074】
そして、タービン回転数と最低エンジン回転数との回転数差が所定値Aより小さくなった場合、すなわち時刻t2を超えると、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差が所定値A[rpm]となるよう目標エンジン回転数を設定し、ISC制御を実行して実エンジン回転数を目標エンジン回転数に追従させる。
【0075】
また、本実施の形態においては、この目標エンジン回転数は、ISC制御により上昇可能なエンジン回転数を目標エンジン回転数の上限値としているので、ECU10は、図3における時刻t3を超えると、目標エンジン回転数を当該上限値に維持する(破線52参照)。
【0076】
また、ECU10は、時刻t1において、車両1が指示レンジと逆方向に進行を始めていると判断した場合には、エンスト直前判定を開始している。このエンスト直前判定は、予め実験的に求められているエンスト予測車速Vpredおよびその時のエンジン回転数およびタービン回転数の回転数差αに基づいて、エンジンストールが発生すると判断するための判定条件であるエンジン回転数とタービン回転数との回転数差B[rpm]を算出する。したがって、ECU10は、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差が、この回転数差Bより小さくなった場合に、エンスト直前判定が成立したと判断するようになっている。
【0077】
そして、ECU10は、時刻t4において、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差がBより小さくなったと判断すると、エンスト直前判定が成立したことを示すフラグをONにし(実線55参照)、運転者に対する警告を実行する(実線56参照)。
【0078】
これに対し、図4に示すように、エンスト直前判定制御を実行しない従来の車両においては、Dレンジで登坂路に停車している状態で、時刻t1に運転者によりアクセルペダル19およびブレーキペダル50のいずれもが開放されると、後進を始める(実線61参照)。これに伴い、タービン回転数も上昇する(実線64参照)。
【0079】
このとき、ECUは、ISC制御によるエンジン回転数の上昇を実行しないため、目標エンジン回転数は変化しない(実線62参照)。
【0080】
そして、時刻t2において、エンジン回転数に対するタービン回転数の比の絶対値が1を超える(実線63、64参照)。このため、ポンプ翼車35にかかる負荷が上昇しエンジン2の回転が不安定になり、エンジン回転数が低下を始め、時刻t3においてエンジンストールが発生することとなる(実線63参照)。
【0081】
次に、本実施の形態に係るエンスト直前判定制御処理について図5を参照して説明する。
【0082】
なお、以下の処理は、ECU10を構成するCPUによって所定の時間間隔で実行されるとともに、CPUによって処理可能なプログラムを実現する。
【0083】
まず、ECU10は、傾斜角センサ33から入力される信号に基づいて、車両1が停車している登坂路あるいは降坂路の傾斜角が所定値以上であるか否かを判断する(ステップS11)。傾斜角の所定値は、運転者によりアクセルペダル19およびブレーキペダル50が開放された際に、車両1が自重で指示レンジと逆方向に走行する可能性のある路面の角度として予め設定されている。
【0084】
ECU10は、傾斜角が所定値以上であると判断した場合には(ステップS11でYES)、ステップS12に移行し、所定値未満であると判断した場合には(ステップS11でNO)、ENDに移行する。
【0085】
次に、ECU10は、アクセル開度センサ30から入力される信号に基づいて、アクセルOFFか否かを判断する(ステップS12)。ECU10は、アクセルOFFと判断すると(ステップS12でYES)、ステップS13に移行し、アクセルOFFでないと判断すると(ステップS12でNO)、ENDに移行する。
【0086】
次に、ECU10は、車速センサ25および操作位置センサ29から入力される信号に基づいて、指示レンジが示す車両1の進行方向と逆方向の車速が増加しているか否かを判断する(ステップS13)。ECU10は、Dレンジが選択されている状態で車両1の後進を示す車速を表す信号を取得したり、あるいはRレンジが選択されている状態で車両1の前進を示す車速を表す信号を取得した場合には、指示レンジが示す車両1の進行方向と逆方向への車速が増加していると判断し(ステップS13でYES)、ステップS14に移行する。一方、指示レンジが示す車両1の進行方向と同方向への車速が増加していると判断すると(ステップS13でNO)、ENDに移行する。
【0087】
次に、ECU10は、エンジン回転数を上昇させる(ステップS14)。具体的には、ECU10は、タービン回転数センサ23からタービン回転数を表す信号を入力すると、このタービン回転数に所定値A[rpm]だけ高い回転数を目標エンジン回転数として設定する。そして、ECU10は、ISC用バルブアクチュエータをフィードバック制御により制御することによって、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に追従させる。
【0088】
なお、この所定値A[rpm]は、ECU10がISC用バルブアクチュエータの制御を開始してから、エンジン2の各気筒内に吸入される空気量が実際に増加するまでの時間遅れを考慮し、目標エンジン回転数の上昇に対する実エンジン回転数の上昇が遅れたとしても、実エンジン回転数がタービン回転数より高い値を維持できるよう、予め実験的な測定により定められている。
【0089】
次に、ECU10は、エンスト直前判定条件を算出する(ステップS15)。このステップにおいて、ECU10は、エンジンストールが発生する予測車速Vpredおよびその時のタービン回転数とエンジン回転数との回転数差α[rpm]とをROMから取得する。この予測車速Vpredおよび回転数差α[rpm]は、車両1の車輪の直径やギヤ比、ISC制御におけるエンジン回転数の上限値などの諸元値から予め算出されている。
【0090】
そして、ECU10は、現在のタービン回転数の単位時間当たりの上昇率を求め、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差がエンスト直前判定条件において用いられる所定値より小さくなったことにより、運転者に警告を発した後にブレーキ操作が実行された場合においても、エンジンストールが発生することを防止できる十分な値を確保できるよう、当該エンスト直前判定条件を設定する。
【0091】
ここで、タービン回転数の単位時間当たりの上昇率と、エンスト直前判定条件において使用される判定回転数差B[rpm]とは、互いに対応付けられた判定回転数差算出マップとして予めROMに記憶されていると好適である。
【0092】
次に、ECU10は、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差が、ステップS15において算出した判定回転数差B[rpm]より小さくなったか否かを判定する(ステップS16)。
【0093】
ECU10は、回転数差が所定値B[rpm]より小さくなったと判定した場合には、エンジンストールの発生可能性が生じた、すなわちエンスト直前判定が成立したと判断し(ステップS16でYES)、ステップS17に移行する。一方、ECU10は、エンスト直前判定が成立していないと判断した場合には(ステップS16でNO)、ENDに移行する。
【0094】
そして、ECU10は、ステップS17に移行すると、エンスト防止制御を実行する。本実施の形態においては、ECU10は、エンスト防止制御として、警告装置48を制御して警告音を発し、運転者にエンジンストールが発生することを警告する。
【0095】
以上のように、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジンストールの発生を予め定められたエンジン回転数と入力軸回転数との回転数差に基づいて予測するので、エンジンストールの発生予測を精度よく行える。そのため、エンジンストールが発生する可能性の低い状態で不必要に車両1の車速が制限されることを防止できる。したがって、ドライバビリティの低下の抑制とエンジンストールの発生の防止とを両立することができる。
【0096】
また、アイドルスピードコントロールによりエンジン回転数が上昇されるので、運転者に対し車両1の挙動に関する違和感を与えることなくエンジンストールの発生を抑制できる。
【0097】
また、アイドルスピードコントロールにより上昇可能なエンジン回転数の上限値は予め算出可能であるため、エンジンストールが実際に発生するタイミングより十分前もってエンジンストールの発生を予測することが可能となる。
【0098】
また、エンジンストールの発生可能性が生じたことを運転者に警告するので、運転者はエンジンストールの発生前にブレーキ操作を開始することができる。したがって、エンジンストールの発生を防止することができる。
【0099】
なお、以上の説明においては、ECU10が、運転者により選択されているレンジ、すなわち指示レンジを表す信号を取得する場合について説明した。しかしながら、ECU10は、指示レンジを表す信号の代わりに、運転者により選択された指示変速段を表す信号を取得するようにしてもよい。
【0100】
また、変速機構4が本発明の変速機を構成する場合について説明したが、これに限定されず、ベルト式無段変速機など変速比を無段で設定可能な無段変速機が本発明の変速機を構成してもよい。
【0101】
また、以上の説明においては、ECU10は、エンジンストールが発生する予測車速Vpredなどに基づいて所定値B[rpm]を算出し、この所定値Bを用いてエンスト直前判定を実行する場合について説明したが、これに限定されず、ECU10は、車両1の車速が予測車速Vpredより所定値だけ低い車速に達した場合に、エンスト直前判定が成立したと判断してもよい。また、ECU10は、車両1が後進する加速度に基づいて予測車速Vpredに到達する予想到達時間を算出し、この予想到達時間より所定時間前になった時点でエンスト直前判定が成立したと判断してもよい。
【0102】
また、以上の説明においては、ECU10が、Dレンジが選択されている状態で車両1が登坂路を後進している場合、およびRレンジが選択されている状態で車両1が降坂路を前進していると判断した場合、目標エンジン回転数をタービン回転数から所定値A[rpm]だけ高くなるよう設定する場合について説明したが、これに限定されず、以下に説明するように、ECU10は、所定値Aを路面の傾斜角に応じた可変の値として設定するようにしてもよい。この場合、ECU10は、所定値Aを以下のように設定する。なお、以下の説明では、指示レンジがDレンジであり、運転者が車両1を自重により後進させる場合を例に説明する。
【0103】
車両1が勾配を有する路面に停車している場合、この車両1に対する勾配抵抗fslは次式(1)で表される。
【0104】
勾配抵抗fsl = W × g × sinθ (1)
ここで、Wは車両1の重量、gは重力加速度、θは路面の傾斜角を表している。
【0105】
この勾配抵抗が増加するに従って、車両1の後進加速度が増加するため、タービン回転数の増加に対するISC制御によるエンジン回転数の上昇の追従が遅れることになる。そこで、ECU10は、図6に示すように、勾配抵抗fslが大きいほど所定値A[rpm]を大きい値に設定することにより、実エンジン回転数の立ち上がりを急峻にし、エンジンストールの発生をより確実に防止するようになっている。
【0106】
ここで、傾斜角が小さい場合には、車両1の車速はほとんど増加しない。また、路面の傾斜角は一般に30°より小さい値をとる。
【0107】
したがって、実際には、図7に示すように、傾斜角の最大値を30°とし、傾斜角に対し所定値Aが線形の関係で表されるマップを予めROMに記憶しておくと好適である。
【0108】
このように所定値Aを設定することにより、ECU10は、エンジンストールの発生する可能性が高い傾斜角であるほど、エンジン回転数の上昇の立ち上がりを急峻にし、実エンジン回転数の上昇を目標エンジン回転数に追従させ、エンジンストールの発生を防止することができる。
【0109】
以上のように、本発明に係る車両の制御装置は、ドライバビリティの低下の抑制とエンジンストールの発生の防止とを両立することができるという効果を奏するものであり、駆動力源として内燃機関を搭載した車両の制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0110】
1 車両
2 エンジン
3 トルクコンバータ
4 変速機構
5 自動変速機
10 ECU(制御装置、エンジン回転数検出手段、入力軸回転数検出手段、車速検出手段、アクセル開度検出手段、傾斜角検出手段、エンジン回転数上昇手段、エンジンストール発生予測手段、防止制御手段)
19 アクセルペダル
21 エンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)
22 吸入空気量センサ
23 タービン回転数センサ(入力軸回転数検出手段)
24 スロットル開度センサ
25 車速センサ(車速検出手段)
26 冷却水温センサ
27 ブレーキセンサ
28 シフトレバー
29 操作位置センサ
30 アクセル開度センサ(アクセル開度検出手段)
31 スロットル弁
33 傾斜角センサ(傾斜角検出手段)
34 入力軸
35 ポンプ翼車
36 出力軸
37 タービン翼車
39 ステータ翼車
40 ロックアップクラッチ
46 出力軸
47 ブレーキ機構
48 警告装置
50 ブレーキペダル
73 ISC用バイパス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からトルクコンバータを有する変速機を介して駆動輪に駆動力を伝達する車両の制御装置であって、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
前記内燃機関のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記変速機の入力軸回転数を検出する入力軸回転数検出手段と、
路面の傾斜角を検出する傾斜角検出手段と、
前記内燃機関のエンジン回転数を上昇させるエンジン回転数上昇手段と、
前記内燃機関におけるエンジンストールの発生を予測するエンジンストール発生予測手段と、
前記エンジンストール発生予測手段によりエンジンストールの発生が予測された場合にエンジンストールの発生防止制御を実行する防止制御手段と、を備え、
前記エンジン回転数上昇手段は、前記アクセル開度検出手段によりアクセルペダルが開放されていることを表すアクセル開度が検出され、前記傾斜角検出手段により前記車両が傾斜した路面に位置することを検出され、かつ、前記車速検出手段により前記駆動力の伝達により進行する方向と逆方向への前記車両の進行が検出されたことを条件に、前記入力軸回転数検出手段により検出された入力軸回転数に応じてエンジン回転数を上昇させ、
前記エンジンストール発生予測手段は、前記エンジン回転数上昇手段により上昇されたエンジン回転数と検出された前記入力軸回転数との回転数差に基づいてエンジンストールの発生を予測することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記エンジン回転数上昇手段は、アイドルスピードコントロールを実行することによりエンジン回転数を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記エンジン回転数上昇手段は、前記アイドルスピードコントロールにより上昇可能なエンジン回転数の最大値を上限値としてエンジン回転数を上昇させ、
前記エンジンストール発生予測手段は、前記上限値と前記入力軸回転数との回転数差に基づいてエンジンストールの発生を予測することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記エンジン回転数上昇手段は、前記入力軸回転数と前記エンジン回転数との回転数差が予め定められた設定値を維持するよう前記エンジン回転数を上昇させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記エンジン回転数上昇手段は、前記傾斜角検出手段により検出された路面の傾斜角が大きいほど前記設定値を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記防止制御手段は、運転者に対する警告を発することによりエンジンストールの発生を防止することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1の請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記防止制御手段は、前記車両を制動するブレーキ装置を制御して車両を制動させることによりエンジンストールの発生を防止することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1の請求項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104448(P2013−104448A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246609(P2011−246609)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】