説明

車両の制御装置

【課題】燃費の悪化を抑制しつつ、内燃機関の疲労強度の低下を抑制する。
【解決手段】ECU7は、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かを判定する疲労判定部75と、疲労判定部75によってエンジン1の疲労強度が低下していると判定された場合に、エンジン1における点火時期を遅角する遅角実行部76と、冷却水の温度TWが、予め設定された温度閾値TW0以下である場合に、エンジン1を経由して循環する冷却水の流量を制限する流量制御部78と、を備え、流量制御部78は、遅角実行部76によって点火時期が遅角されたときに、温度閾値TW0を高い値に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を経由して循環する冷却水の流量を制限可能に構成された冷却装置を備える車両の制御装置に関する。特に、内燃機関を経由して循環する冷却水を停止するバルブを備える車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の内燃機関における疲労強度の低下を抑制する種々の装置、及び、方法が提案されている。
【0003】
例えば、ノッキングセンサを用いてノッキングを検出し、点火時期の遅角制御によってノッキングを抑制すると共に、このノッキング抑制の制御にも拘わらずノッキングが所定期間に亘って継続するとき、これをプレイグニッションの発生として検出する内燃機関の制御装置が開示されている(特許文献1参照)。この内燃機関の制御装置では、更に、プレイグニッションの発生を検出したとき、プレイグニッションが発生している気筒に対する燃料噴射量又は吸入空気量を減少制御して該気筒の出力を低下させる。この内燃機関の制御装置によれば、内燃機関におけるプレイグニッションの発生を簡易に、且つ確実に検出してプレイグニッションを抑制して内燃機関を保護することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−93757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の内燃機関の制御装置では、ノッキングが検出された場合に点火時期の遅角制御が行われるため、燃費が悪化する虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、燃費の悪化を抑制しつつ、内燃機関の疲労強度の低下を抑制することの可能な車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両の制御装置は、以下のように構成されている。
【0008】
すなわち、本発明に係る車両の制御装置は、内燃機関を経由して循環する冷却水の流量を制限可能に構成された冷却装置を備える車両の制御装置であって、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを判定する疲労判定手段と、前記疲労判定手段によって前記内燃機関の疲労強度が低下していると判定された場合に、前記内燃機関における点火時期を遅角する遅角実行手段と、前記冷却水の温度が、予め設定された温度閾値以下である場合に、前記内燃機関を経由して循環する冷却水の流量を制限する流量制限手段と、を備え、前記流量制限手段は、前記遅角実行手段によって点火時期が遅角されたときに、前記温度閾値を高い値に変更することを特徴としている。
【0009】
かかる構成を備える車両の制御装置によれば、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かが判定され、前記内燃機関の疲労強度が低下していると判定された場合に、前記内燃機関における点火時期が遅角される。また、前記冷却水の温度が、予め設定された温度閾値以下である場合に、前記内燃機関を経由して循環する冷却水の流量が制限される。そして、前記内燃機関に疲労が蓄積していると判定されて、点火時期が遅角されたときに、前記温度閾値が高い値に変更されるため、燃費の悪化を抑制しつつ、内燃機関の疲労強度の低下を抑制することができる。
【0010】
ここで、「内燃機関の疲労強度」とは、内燃機関を構成する各部材の疲労強度を全体として評価する指標であって、例えば、ピストン、点火プラグ、吸気バルブ、排気バルブ、インジェクタ、シリンダブロック等の総合的な経年劣化の状態を示すものである。特に、内燃機関を構成する部材のうち、例えば、シリンダブロック、ピストン、吸気バルブ、排気バルブ等においては、金属疲労が蓄積するため、金属疲労の蓄積によって強度が低下することを「疲労強度の低下」と表現している。
【0011】
上述のように、前記内燃機関の疲労強度が低下していると判定された場合には、点火時期が遅角されるため、ノッキング(又は、プレイグニッション)の発生が抑制されるので、ノッキング(又は、プレイグニッション)の発生による前記内燃機関の疲労強度が低下を抑制することができるのである。また、前記内燃機関を経由して循環する冷却水の流量が制限される前記温度閾値が高い値に変更されるため、前記内燃機関を前記温度閾値以上の高温に維持することができるので、前記内燃機関内の潤滑性が向上することによって、燃費の悪化を抑制することができるのである。
【0012】
また、本発明に係る車両の制御装置は、前記疲労判定手段が、前記内燃機関の燃焼室内の圧力である燃焼圧に基づいて、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを判定することが好ましい。
【0013】
かかる構成を備える車両の制御装置によれば、前記内燃機関の燃焼室内の圧力である燃焼圧に基づいて、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かが判定されるため、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを適正に判定することができる。
【0014】
すなわち、前記燃焼圧が、ノッキング(又は、プレイグニッション)の発生によって極度に大きくなる(例えば、正常な燃焼圧の2倍以上になる)と、前記内燃機関の疲労強度が低下することになる。したがって、前記燃焼圧に基づいて前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを判定することによって、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを適正に判定することができるのである。
【0015】
また、本発明に係る車両の制御装置は、前記燃焼圧を検出する燃焼圧検出手段を更に備え、前記圧力判定手段が、前記燃焼圧検出手段によって検出された燃焼圧に基づいて、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを判定することが好ましい。
【0016】
かかる構成を備える車両の制御装置によれば、前記燃焼圧が検出され、検出された燃焼圧に基づいて、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かが判定されるため、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを更に適正に判定することができる。
【0017】
また、本発明に係る車両の制御装置は、前記燃焼圧が、予め設定された圧力閾値以上であるか否かを判定する圧力判定手段を更に備え、前記疲労判定手段が、前記圧力判定手段によって前記燃焼圧が前記圧力閾値以上であると判定された回数に基づいて、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを判定することが好ましい。
【0018】
かかる構成を備える車両の制御装置によれば、前記燃焼圧が、予め設定された圧力閾値以上であるか否かが判定され、前記燃焼圧が前記圧力閾値以上であると判定された回数に基づいて、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かが判定されるため、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを更に適正に判定することができる。
【0019】
また、本発明に係る車両の制御装置は、前記圧力判定手段によって前記燃焼圧が前記圧力閾値以上であると判定された回数が、予め設定された回数閾値以上であるか否かを判定する回数判定手段を更に備え、前記疲労判定手段が、前記回数判定手段によって前記燃焼圧が前記圧力閾値以上であると判定された回数が前記回数閾値以上であると判定された場合に、前記内燃機関の疲労強度が低下していると判定することが好ましい。
【0020】
かかる構成を備える車両の制御装置によれば、前記燃焼圧が前記圧力閾値以上であると判定された回数が、予め設定された回数閾値以上であるか否かが判定され、前記燃焼圧が前記圧力閾値以上であると判定された回数が前記回数閾値以上であると判定された場合に、前記内燃機関の疲労強度が低下していると判定されるため、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを更に適正に判定することができる。
【0021】
また、本発明に係る車両の制御装置は、前記内燃機関を経由して循環する冷却水を停止するバルブを更に備え、前記流量制限手段が、前記冷却水の温度が前記温度閾値以下である場合に、前記バルブを閉状態とすることによって、前記内燃機関を経由して循環する冷却水の流量を停止することが好ましい。
【0022】
かかる構成を備える車両の制御装置によれば、前記冷却水の温度が前記温度閾値以下である場合に、前記バルブを閉状態とすることによって、前記内燃機関を経由して循環する冷却水の流れが停止されるため、前記内燃機関を経由して循環する冷却水の流量を、簡素な構成で制限することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る車両の制御装置によれば、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かが判定され、前記内燃機関の疲労強度が低下していると判定された場合に、前記内燃機関における点火時期が遅角される。また、前記冷却水の温度が、予め設定された温度閾値以下である場合に、前記内燃機関を経由して循環する冷却水の流量が制限される。そして、前記内燃機関に疲労が蓄積していると判定されて、点火時期が遅角されたときに、前記温度閾値が高い値に変更されるため、燃費の悪化を抑制しつつ、内燃機関の疲労強度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る車両の制御装置が配設される車両に搭載されるエンジンの一例を示す構成図である。
【図2】図1に示すエンジンの構成の一例を示す構成図である。
【図3】図1に示すエンジン等を冷却する冷却装置の一例を示す構成図である。
【図4】図2に示す車両の制御装置(ECU)の構成の一例を示す機能構成図である。
【図5】図4に示す車両の制御装置(ECU)による点火時期制御動作の一例を示すフローチャートである。
【図6】図4に示す車両の制御装置(ECU)による冷却制御動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る「車両の制御装置」の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る「車両の制御装置」が配設される車両に搭載されるエンジン1の一例を示す構成図である。
【0026】
−吸排気系統−
まず、図1を参照してエンジン1の吸排気系統の全体構成について説明する。エンジン1は、例えば、4気筒(1番気筒〜4番気筒)のガソリンエンジンであって、シリンダヘッドに、各気筒に吸入空気を分配するためのインテークマニホールド40が接続されている。ここで、エンジン1は、特許請求の範囲に記載の「内燃機関」に相当する。本実施形態では、エンジン1が、ガソリンエンジンである場合について説明するが、エンジン1が、ディーゼルエンジンである形態でもよい。
【0027】
インテークマニホールド40の入口には、空気を大気中から取り込んでインテークマニホールド40に導く吸気通路4が接続されている。また、吸気通路4の入口にはエアクリーナ41が配設されている。また、インテークマニホールド40の上流側(吸気流れの上流側)には、エンジン1の吸入空気量を調整するスロットルバルブ43(図2参照)が配設されている。
【0028】
一方、エキゾーストマニホールド50の出口には排気通路5が接続されている。また、排気ガス出口通路5の下流側には、三元触媒51が接続されている。三元触媒51は、エンジン1から排気ガス出口通路5に排出された排気ガス中のCO、HCの酸化及びNOxの還元を行うことによって、それらを無害なCO2、H2O、N2とすることで排気ガスの浄化するものである。
【0029】
更に、エンジン1には、ターボチャージャ20及びEGR装置10が装備されている。以下、これらの構成について、順次説明する。
【0030】
−ターボチャージャ−
ターボチャージャ20は、タービンホイール21、コンプレッサインペラ22、及び、連結シャフト23を備えている。タービンホイール21は、排気通路5に配設され、排気のエネルギによって回転駆動される。コンプレッサインペラ22は、吸気通路4に配設される。連結シャフト23は、タービンホイール21とコンプレッサインペラ22とを一体に連結するものである。
【0031】
排気通路5に配設されたタービンホイール21が排気のエネルギによって回転駆動され、これに伴って吸気通路4に配設されたコンプレッサインペラ22が回転駆動される。そして、コンプレッサインペラ22の回転によって、吸入空気が過給され、エンジン1の各気筒の燃焼室に過給空気が強制的に送り込まれる。なお、コンプレッサインペラ22の下流側(吸気流れの下流側)の吸気通路4には、コンプレッサインペラ22によって過給された空気を冷却するインタークーラ42が介設されている。
【0032】
−EGR装置−
EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置10は、EGR通路(排気還流通路)11を備えている。EGR通路11の一方側(ここでは、上側)の端部は、インテークマニホールド40とスロットルバルブ43との間の吸気通路4に接続されている。EGR通路11の他方側(ここでは、下側)の端部はエキゾーストマニホールド50に接続されており、排気ガス(EGRガス)の一部がEGR通路11を通って吸気通路4に導入される。EGR装置10は、EGRガス(空気に比較して比熱が高く酸素量の少ないガス)を吸気通路4に戻すことによって、燃焼温度を低下させてNOxの生成量を低減させることができる。
【0033】
EGR通路11の途中には、EGR通路11を開閉するEGRバルブ14が介設されている。また、EGR通路11におけるEGRバルブ14の上流側(排気側)には、EGR通路11内を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ12が介設されている。EGRガスは、EGRクーラ12によって冷却されて密度が高められ、吸入空気量を確保しながらEGR率を高めることが可能になる。
【0034】
また、EGR装置10には、EGRクーラ12をバイパスしてEGRガスを流すEGRバイパス通路111が配設されている。EGRバイパス通路111とEGR通路11との接続部(EGRガス流れの下流側の接続部)には、EGR通路11の開度、及び、EGRバイパス通路111の開度を調整する切替制御バルブ13が介設されている。
【0035】
−エンジン−
次に、図2を参照して、本実施形態に係るエンジン1について説明する。図2は、図1に示すエンジン1の構成の一例を示す構成図である。エンジン1は、例えば、多気筒ガソリンエンジンであって、燃焼室1aを形成するピストン1b、及び、出力軸であるクランクシャフト15を備えている。ピストン1bは、コネクティングロッド16を介して、クランクシャフト15に連結されている。また、ピストン1bの往復運動は、コネクティングロッド16によって、クランクシャフト15の回転運動へと変換される。
【0036】
クランクシャフト15には、シグナルロータ17が配設されている。シグナルロータ17の外周面には、複数の突起17aが等間隔で形成されている。シグナルロータ17の側方近傍には、エンジン回転数センサ124が配置されている。エンジン回転数センサ124は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト15が回転する際に、エンジン回転数センサ124に対向する位置を通過する突起17aの個数分のパルス状信号(出力パルス)を発生する。
【0037】
エンジン1の燃焼室1aには、点火プラグ103が配設されている。点火プラグ103の点火タイミングは、イグナイタ104によって調整される。イグナイタ104は、ECU7によって制御される。エンジン1のシリンダブロック1cには、エンジン水温(冷却水の水温)を検出する水温センサ121が配設されている。
【0038】
エンジン1の燃焼室1aには、吸気通路4と排気通路5とが接続されている。吸気通路4と燃焼室1aとの間には、吸気バルブ44が設けられている。吸気バルブ44を開閉駆動することによって、吸気通路4と燃焼室1aとが連通又は遮断される。また、排気通路5と燃焼室1aとの間には、排気バルブ52が設けられている。排気バルブ52を開閉駆動することによって、排気通路5と燃焼室1aとが連通又は遮断される。
【0039】
エンジン1の吸気通路4には、インタークーラ42、エアフローメータ122、吸気温センサ123、及び、スロットルバルブ43等が配設されている。ここで、スロットルバルブ43は、エンジン1の吸入空気量を調整する。また、エンジン1の排気通路5には、O2センサ127、三元触媒51(図1参照)等が配設されている。ここで、O2センサ127は、排気ガス中の酸素濃度を検出する。
【0040】
エンジン1の吸気通路4に配設されたスロットルバルブ43は、スロットルモータ106によって駆動される。スロットルバルブ43の開度は、スロットル開度センサ125によって検出され、検出結果はECU7へ出力される。また、スロットルバルブ43の開度は、ECU7によって制御される。
【0041】
また、吸気通路4には、インジェクタ(燃料噴射弁)102が配設されている。インジェクタ102には、燃料ポンプによって燃料タンクから燃料(ここでは、ガソリン)が供給され、インジェクタ102によって吸気通路4に燃料が噴射される。噴射された燃料は、吸入空気と混合されて混合気となって、エンジン1の燃焼室1aに導入される。燃焼室1aに導入された混合気(燃料+空気)は、点火プラグ103によって点火されて燃焼、爆発する。混合気が燃焼室1a内で燃焼、爆発することによって、ピストン1bが図の上下方向に往復運動して、クランクシャフト15が回転駆動される。
【0042】
シリンダブロック1cの上端には、燃焼室1a内の圧力である燃焼圧PFを検出する燃焼圧センサ130が配設されている。燃焼圧センサ130は、例えば、燃焼室の圧力に応じて変形するダイアフラムと、このダイアフラムの変形に応じた電気信号を発生する圧力センサとを備え、圧力センサから出力される電気信号に基づいて、燃焼圧PFを検出するセンサである。燃焼圧センサ130は、公知である(例えば、特開2009−150325号公報、特開2010−249675号公報等参照)ので、ここでは、その詳細な説明は省略する。燃焼圧センサ130によって検出された燃焼圧PFを示す信号は、ECU7へ出力される。ここで、燃焼圧センサ130は、特許請求の範囲に記載の「燃焼圧検出手段」の一部に相当する。
【0043】
−冷却装置の構成−
ここで、図3を参照して、エンジン1等の冷却装置について説明する。図3は、図1に示すエンジン1等を冷却する冷却装置の一例を示す構成図である。まず、冷却装置100における冷却水の循環経路について図3を参照して説明する。図3に示すように、冷却水の循環経路には、エンジン1、ウォータポンプ6、サーモスタット61、電動バルブ3、ヒータコア31、EGRクーラ12、排気熱回収器32、スロットルボディ431、EGRバルブ14、及び、ラジエータ33が配設されている。
【0044】
ウォータポンプ6は、冷却水の循環経路内において冷却水を循環させるポンプである。なお、ウォータポンプ6は、流量可変ポンプであっても、流量可変ポンプではないポンプ(例えば、一般的な機械式のポンプ)であってもよい。後者の場合には、装置を簡素化することができる。
【0045】
サーモスタット61は、ラジエータ33とウォータポンプ6との間の水路を遮断又は導通するものであって、例えば、冷却水の温度の高低に応じて膨張、収縮するサーモワックスを駆動源として弁体(バルブ)を駆動することができる。具体的には、冷却水温度が比較的低い(例えば、80℃未満である)場合には、サーモスタット61は、バルブを閉状態とすることによってラジエータ33とウォータポンプ6との間の水路を遮断し、ラジエータ33に冷却水を流さない状態とする。一方、冷却水温度が比較的高い(例えば、80℃以上である)場合には、サーモスタット61は、バルブを開状態とすることによってラジエータ33とウォータポンプ6との間の水路を導通し、ラジエータ33に冷却水の一部を流すことでその冷却水が回収した熱をラジエータ33によって大気に放出する。
【0046】
エンジン1は、シリンダブロック1c(図2参照)内に、それぞれ、ピストン1b(図2参照)が挿入され、燃焼室1a(図2参照)を形成する複数の(例えば、4個の)シリンダボアを備え、車両の駆動源として機能する。また、エンジン1は、シリンダボア壁を冷却するウォータジャケット22Wを備えている。ウォータジャケット22Wには、水路21Wを介して、ウォータポンプ6から冷却水が供給可能に構成されている。
【0047】
ウォータジャケット22Wの冷却水下流側には、2本の冷却水配管P11、P23が接続されている。冷却水配管P11は、ウォータジャケット22Wからの冷却水を、スロットルボディ431、EGRバルブ14、ヒータコア31、EGRクーラ12、及び、排気熱回収器32へ搬送する配管である。また、冷却水配管P11には、電動バルブ3が介設されている。冷却水配管P23は、ウォータジャケット22Wからの冷却水を、ラジエータ33へ搬送する配管である。
【0048】
また、エンジン1には、ウォータジャケット22から冷却水配管P11、P23に接続される水路23W、24W、25Wが形成されている。水路23Wは、ウォータジャケット22の冷却水下流側に形成され、水路23Wの冷却水下流側は分岐して、水路24W、25Wに接続されている。水路24W、25Wは、それぞれ、冷却水配管P23、P11に接続されている。また、水路23Wの近傍には、水温センサ121(図2参照)が配設されている。冷却水配管P11は、下流側で、冷却水配管P12、P19に分岐し、冷却水配管P12は、ヒータコア31に接続され、冷却水配管P19は、スロットルボディ431に接続されている。
【0049】
水温センサ121は、ウォータジャケット22の冷却水下流側(ここでは、水路23W)の冷却水の温度を検出するものである。検出した温度信号は、後述するECU7(図4を用いて後述する流量制御部78)へ出力される。本実施形態では、水温センサ121が、ウォータジャケット22の冷却水下流側の水路23Wに配設されている場合について説明するが、水温センサ121が、ウォータジャケット22等に配設されている形態でもよい。
【0050】
ヒータコア31は、ウォータジャケット22から排出された冷却水の熱を利用して、車室内を暖房するものであって、エアコンディショナの送風ダクトに臨んで配設されている。すなわち、車室内の暖房時には送風ダクト内を流れる空調風をヒータコア31に通過させて、温風として車室内に供給する一方、それ以外の場合(例えば、冷房時)には空調風がヒータコア31をバイパスするべく構成されている。ヒータコア31を通過した冷却水は、冷却水配管P13、P14、又は、冷却水配管P13、P15を介して、EGRクーラ12、及び、排気熱回収器32へ供給される。
【0051】
EGRクーラ12は、排気の一部を吸気系に還流させるEGR通路11(図1参照)に配設され、EGR通路11を通過(還流)する排気を冷却するものである。また、このEGR通路11には、電子制御によって開閉制御され、EGR通路11を開閉するEGRバルブ14が配設されている。
【0052】
排気熱回収器32は、エンジン1から排出される排気ガスの熱を回収して冷却水の昇温を促進させるものである。EGRクーラ12及び排気熱回収器32の冷却水下流側は、それぞれ、冷却水配管P16、P17が接続され、冷却水配管P16、P17は合流して、冷却水配管P18に接続されている。更に、冷却水配管P18と、EGRバルブ14の冷却水下流側に接続された冷却水配管P21とが合流して、冷却水配管P22に接続され、冷却水配管P22は、サーモスタット61を介して、ウォータポンプ6に接続されている。
【0053】
スロットルボディ431は、エンジン1の吸気通路におけるインタークーラ42の下流側に設けられ、吸入空気量を調整するものである。具体的には、スロットルボディ431は、バタフライバルブ等ならなるスロットルバルブ43(図1、図2参照)と、このスロットルバルブ43を開閉駆動するスロットルモータ106(図2参照)と、スロットルバルブ43の開度を検出するスロットル開度センサ125(図2参照)と、を備えている。
【0054】
スロットルボディ431の冷却水下流側は、冷却水配管P20を介して、EGRバルブ14が接続されている。また、EGRバルブ14の冷却水下流側は、冷却水配管P21が接続され、冷却水配管P21は、EGRクーラ12及び排気熱回収器32の冷却水下流側に接続された冷却水配管P18と合流して、冷却水配管P22に接続されている。
【0055】
このようにして、エンジン1及びヒータコア31(又は、スロットルボディ431)を経由して冷却水を循環可能に構成された第1循環経路が形成されている。すなわち、第1循環経路において、ウォータポンプ6から吐出された冷却水は、エンジン1、電動バルブ3、冷却水配管P11、P12、ヒータコア31、冷却水配管P13、P14(又は、冷却水配管P13、P15)、EGRクーラ12、冷却水配管P16、(又は、排気熱回収器32、冷却水配管P17)、及び、冷却水配管P18、P22を順次経由して、サーモスタット61を介して、ウォータポンプ6に戻る。また、第1循環経路において、ウォータポンプ6から吐出された冷却水は、エンジン1、電動バルブ3、冷却水配管P11、P19、スロットルボディ431、冷却水配管P20、EGRバルブ14、冷却水配管P21、及び、冷却水配管P22を順次経由して、サーモスタット61を介して、ウォータポンプ6に戻る。
【0056】
電動バルブ3は、冷却水配管P11内の冷却水を導通、遮断するバルブであって、ECU7(図4を用いて後述する流量制御部78)からの指示にしたがって開閉制御される。なお、電動バルブ3は、特許請求の範囲に記載の「バルブ」に相当する。具体的には、エンジン1が暖機運転状態である場合には、電動バルブ3が閉状態とされ、エンジン1及びヒータコア31(又は、スロットルボディ431)を経由して冷却水を循環可能に構成された第1循環経路における冷却水の循環が遮断される。一方、エンジン1が暖機運転状態ではない場合には、電動バルブ3が開状態とされ、エンジン1及びヒータコア31(又は、スロットルボディ431)を経由して冷却水を循環可能に構成された第1循環経路においても冷却水が循環される。
【0057】
このようにして、電動バルブ3を閉状態とすることによって、エンジン1及びヒータコア31(又は、スロットルボディ431)を経由する冷却水の循環経路である第1循環経路を循環する冷却水を遮断することができるため、暖機を促進することができる。
【0058】
本実施形態では、特許請求の範囲に記載の「バルブ」が電動バルブ3である場合について説明するが、「バルブ」がその他の種類の遮断弁(例えば、負圧によって駆動される負圧弁等)である形態でもよい。
【0059】
ラジエータ33は、冷却水と外気(走行風及び冷却ファンの駆動による送風)との間で熱交換を行い、外気に放熱することによって冷却水を冷却するものである。また、ラジエータ33の冷却水下流側は、冷却水配管P24を介して、サーモスタット61に接続されている。
【0060】
このようにして、エンジン1及びラジエータ33を経由して冷却水を循環可能に構成された第2循環経路が形成されている。すなわち、第2循環経路において、ウォータポンプ6から吐出された冷却水は、エンジン1、冷却水配管P23、ラジエータ33、及び、冷却水配管P24を順次経由して、サーモスタット61を介して、ウォータポンプ6に戻る。
【0061】
−ECU7−
次に、図4を参照して、ECU7の構成について説明する。図4は、図2に示す車両の制御装置(ECU)の構成の一例を示す機能構成図である。ECU7は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、バックアップRAMを備えている。
【0062】
ROMには、各種制御プログラム、及び、各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ、テーブルデータ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムを読み出して実行することによって種々の処理を行う。また、RAMは、CPUでの処理の結果、及び、各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、例えばエンジン1の停止時に、保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0063】
また、ECU7には、水温センサ121、エアフローメータ122、吸気温センサ123、エンジン回転数センサ124、スロットル開度センサ125、O2センサ127、車両に作用する加速度を検出する加速度センサ128、車速を検出するセンサである車速センサ129、燃焼圧センサ130等が通信可能に接続されている。
【0064】
更に、ECU7には、制御対象として、インジェクタ102、点火プラグ103のイグナイタ104等が通信可能に接続されている。そして、ECU7は、上記各種センサの出力に基づいて、インジェクタ102の燃料噴射制御、点火プラグ103の点火時期制御等を含むエンジン1の各種制御を実行する。
【0065】
また、CPUは、ROMに記憶された制御プログラムを読み出して実行することによって、機能的に、燃焼圧検出部71、圧力判定部72、回数記憶部73、回数判定部74、疲労判定部75、遅角実行部76、温度記憶部77、及び、流量制御部78等として機能する。ここで、燃焼圧検出部71、圧力判定部72、回数記憶部73、回数判定部74、疲労判定部75、遅角実行部76、温度記憶部77、及び、流量制御部78は、本発明に係る「車両の制御装置」を構成している。
【0066】
燃焼圧検出部71は、燃焼圧センサ130を介して、エンジン1の燃焼室1a(図2参照)内の圧力である燃焼圧PFを検出する機能部である。ここで、燃焼圧検出部71は、特許請求の範囲に記載の「燃焼圧検出手段」の一部に相当する。
【0067】
圧力判定部72は、燃焼圧検出部71によって検出された燃焼圧PFが、予め設定された圧力閾値PF0(例えば、10MPa)以上であるか否かを判定する機能部である。ここで、圧力判定部72は、特許請求の範囲に記載の「圧力判定手段」に相当する。また、圧力判定部72は、燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された場合に、燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFを回数記憶部73から読み出して、「1」だけ増加させて更新して、更新後の回数NFを回数記憶部73に書き込む。
【0068】
回数記憶部73は、回数判定部74によって燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFを記憶する機能部である。ここで、回数記憶部73は、特許請求の範囲に記載の「回数判定手段」の一部に相当する。
【0069】
回数判定部74は、圧力判定部72によって燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFが、予め設定された回数閾値NF0(例えば、2000回)以上であるか否かを判定する機能部である。ここで、回数判定部74は、特許請求の範囲に記載の「回数判定手段」の一部に相当する。具体的には、回数判定部74は、燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFを回数記憶部73から読み出して、回数閾値NF0以上であるか否かを判定する。
【0070】
疲労判定部75は、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かを判定する機能部である。ここで、疲労判定部75は、特許請求の範囲に記載の「疲労判定手段」に相当する。具体的には、疲労判定部75は、回数判定部74によって燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFが回数閾値NF0以上であると判定された場合に、エンジン1の疲労強度が低下していると判定する。
【0071】
ここで、「エンジン1の疲労強度」とは、エンジン1を構成する各部材の疲労強度を全体として評価する指標であって、例えば、図2等に示す、ピストン1b、点火プラグ103、吸気バルブ44、排気バルブ52、インジェクタ102、シリンダブロック1c等の総合的な経年劣化の状態を示すものである。特に、エンジン1を構成する部材のうち、例えば、シリンダブロック1c、ピストン1b、吸気バルブ44、排気バルブ52等においては、金属疲労が蓄積するため、金属疲労の蓄積によって強度が低下することを「疲労強度の低下」と表現している。
【0072】
このようにして、燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFが回数閾値NF0以上であると判定された場合に、エンジン1の疲労強度が低下していると判定されるため、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かを適正に判定することができる。
【0073】
本実施形態では、疲労判定部75が、燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFが回数閾値NF0以上である場合に、エンジン1の疲労強度が低下していると判定する場合について説明するが、疲労判定部75が、燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFに基づいて、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かを判定する形態でもよい。例えば、疲労判定部75が、燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFが急激に増加した場合(例えば、1日に50回以上増加した場合)に、エンジン1の疲労強度が低下していると判定する形態でもよい。
【0074】
また、疲労判定部75が燃焼圧PFに基づいて、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かを判定する形態でもよい。例えば、疲労判定部75が、燃焼圧PFが急激に増加した場合(例えば、1時間に50MPa以上増加した場合)にエンジン1の疲労強度が低下していると判定する形態でもよい。
【0075】
また、上述のように、燃焼圧センサ130を介して、燃焼圧PFが検出され、検出された燃焼圧PFに基づいて、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かが判定されるため、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かを更に適正に判定することができる。
【0076】
本実施形態では、疲労判定部75が、燃焼圧センサ130を介して検出された燃焼圧PFに基づいて、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かを判定する場合について説明するが、疲労判定部75が、何らかの方法によって推定された燃焼圧PFに基づいて、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かを判定する形態でもよい。この場合には、燃焼圧センサ130を配設する必要がないため、構成が簡略化される。燃焼圧PFは、例えば、エンジン1の燃焼室1aの近傍に配設され、エンジン1のシリンダブロック1cの振動を検出する振動センサの検出結果等から推定することができる。
【0077】
遅角実行部76は、疲労判定部75によってエンジン1の疲労強度が低下していると判定された場合に、エンジン1における点火時期を遅角する機能部である。ここで、遅角実行部76は、特許請求の範囲に記載の「遅角実行手段」に相当する。具体的には、遅角実行部76は、疲労判定部75によってエンジン1の疲労強度が低下していると判定された場合に、イグナイタ104に対して点火プラグ103の点火タイミングを遅らせることによって、エンジン1における点火時期を遅角する。
【0078】
温度記憶部77は、流量制御部78によって用いられる温度閾値TW0を記憶する機能部である。温度記憶部77は、特許請求の範囲に記載の「流量制限手段」の一部に相当する。具体的には、温度記憶部77は、通常時の温度閾値TW1(例えば、80℃)と、疲労判定部75によってエンジン1の疲労強度が低下していると判定された場合に使用される温度閾値TW2(例えば、90℃)とを記憶している。
【0079】
流量制御部78は、冷却水の温度TWが、予め設定された温度閾値TW0以下である場合に、エンジン1を経由して循環する冷却水の流量を制限する機能部である。ここで、流量制御部78は、特許請求の範囲に記載の「流量制限手段」の一部に相当する。具体的には、流量制御部78は、水温センサ121によって検出された冷却水の温度TWが、温度閾値TW0以下である場合に、電動バルブ3を閉状態とすることによって、エンジン1を経由して循環する冷却水の流れを停止する(流量を「0」にする)。また、流量制御部78は、遅角実行部76によって点火時期が遅角されたときに、温度閾値TW0を高い値に変更する。具体的には、流量制御部78は、遅角実行部76によって点火時期が遅角されたときに、温度閾値TW0を温度記憶部77に記憶された温度閾値TW1から温度閾値TW2に変更する。
【0080】
このようにして、エンジン1を経由して循環する冷却水の流れが停止される温度閾値TW0が高い値に変更されるため、エンジン1を温度閾値TW0以上の高温に維持することができるので、エンジン1内の潤滑性が向上することによって、点火時期が遅角されることに伴う燃費の悪化を抑制することができる。
【0081】
また、冷却水の温度TWが温度閾値TW0以下である場合に、電動バルブ3を閉状態とすることによって、エンジン1を経由して循環する冷却水の流れが停止されるため、エンジン1を経由して循環する冷却水の流量を、簡素な構成で制限することができる。
【0082】
本実施形態では、流量制御部78が、冷却水の温度TWが温度閾値TW0以下である場合にエンジン1を経由して循環する冷却水の流れを停止する場合について説明するが、流量制御部78が、冷却水の温度TWが温度閾値TW0以下である場合にエンジン1を経由して循環する冷却水の流量を制限する形態であればよい。例えば、図3に示すウォータポンプ6が流量制御可能に構成されており、流量制御部78が、冷却水の温度TWが温度閾値TW0以下である場合に、ウォータポンプ6の吐出流量を低下させる形態でもよい。この場合には、冷却水の温度TWに応じて、エンジン1を経由して循環する冷却水の流量を適正な流量に制御することができる。
【0083】
−遅角制御−
次に、図5、図6を参照して、本発明に係る車両の制御装置(主に、ECU7)の動作について説明する。図5は、図4に示す車両の制御装置(主に、ECU7)による点火時期制御動作の一例を示すフローチャートである。図6は、図4に示す車両の制御装置(主に、ECU7)による冷却制御動作の一例を示すフローチャートである。まず、図5を参照して、ECU7によって実行される点火時期制御動作について説明する。
【0084】
まず、燃焼圧検出部71によって、燃焼圧PFが検出される(ステップS101)。そして、圧力判定部72によって、ステップS101において検出された燃焼圧PFが、圧力閾値PF0以上であるか否かの判定が行われる(ステップS103)。ステップS103でNOの場合には、処理がステップS101へリターンされ、ステップS101以降の処理が繰り返し実行される。ステップS103でYESの場合には、処理がステップS105へ進められる。
【0085】
そして、圧力判定部72によって、燃焼圧PFが圧力閾値PF0以上であると判定された回数NFが、回数記憶部73から読み出されて、「1」だけインクリメントされて更新される(ステップS105)。次に、回数判定部74によって、ステップS105で更新された回数NFが、回数閾値NF0以上であるか否かの判定が行われる(ステップS107)。ステップS107でNOの場合には、処理がステップS101へリターンされ、ステップS101以降の処理が繰り返し実行される。ステップS107でYESの場合には、処理がステップS109へ進められる。
【0086】
そして、疲労判定部75によって、エンジン1の疲労強度が低下していると判定されて、遅角実行部76によって、エンジン1における点火時期が遅角される(ステップS109)。次いで、流量制御部78によって、温度閾値TW0が温度記憶部77に記憶された温度閾値TW1から温度閾値TW2に変更されて(ステップS111)、処理が終了される。
【0087】
−冷却制御−
次に、図6を参照して、ECU7によって実行される冷却制御動作について説明する。なお、以下の動作は、全て図4に示す流量制御部78によって実行される。まず、水温センサ121を介して、冷却水の温度TWが検出される(ステップS201)。そして、ステップS201において検出された冷却水の温度TWが温度閾値TW0以下であるか否かの判定が行われる(ステップS203)。
【0088】
ステップS203でYESの場合には、処理がステップS205に進められ、電動バルブ3が閉状態とされて、処理がステップS201に戻され、ステップS201以降の処理が繰り返し実行される。ステップS203でNOの場合には、処理がステップS207に進められ、電動バルブ3が開状態とされて、処理がステップS201に戻され、ステップS201以降の処理が繰り返し実行される。
【0089】
図5、図6を用いて上述のように、エンジン1の疲労強度が低下しているか否かが判定され、エンジン1の疲労強度が低下していると判定された場合に、エンジン1における点火時期が遅角される。また、冷却水の温度TWが、予め設定された温度閾値TW0以下である場合に、エンジン1を経由して循環する冷却水の流量が制限される(ここでは、流れが停止される)。そして、エンジン1に疲労が蓄積していると判定されて、点火時期が遅角されたときに、温度閾値TW0が高い値に(温度閾値TW1から温度閾値TW2に)変更されるため、燃費の悪化を抑制しつつ、エンジン1の疲労強度の低下を抑制することができる。
【0090】
すなわち、エンジン1の疲労強度が低下していると判定された場合には、点火時期が遅角されるため、ノッキング(又は、プレイグニッション)の発生が抑制されるので、ノッキング(又は、プレイグニッション)の発生によるエンジン1の疲労強度が低下を抑制することができるのである。また、エンジン1を経由して循環する冷却水の流量が制限される(ここでは、流れが停止される)温度閾値TW0が高い値に変更されるため、エンジン1を温度閾値TW0以上の高温に維持することができるので、エンジン1内の潤滑性が向上することによって、燃費の悪化を抑制することができるのである。
【0091】
−他の実施形態−
本実施形態では、燃焼圧検出部71、圧力判定部72、回数記憶部73、回数判定部74、疲労判定部75、遅角実行部76、温度記憶部77、及び、流量制御部78が、ECU7の機能部として構成されている場合について説明したが、燃焼圧検出部71、圧力判定部72、回数記憶部73、回数判定部74、疲労判定部75、遅角実行部76、温度記憶部77、及び、流量制御部78の少なくとも1つが、電子回路等のハードウェアで構成されている形態でもよい。
【0092】
本実施形態では、内燃機関が、ガソリンエンジン1である場合について説明したが、その他の種類の内燃機関(例えば、ディーゼルエンジン等)である形態でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、内燃機関を経由して循環する冷却水の流量を制限可能に構成された冷却装置を備える車両の制御装置に利用可能である。特に、内燃機関を経由して循環する冷却水を停止するバルブを備える車両の制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 エンジン
1a 燃焼室
1b ピストン
1c シリンダブロック
103 点火プラグ
104 イグナイタ
130 燃焼圧センサ(燃焼圧検出手段の一部)
100 冷却装置
3 電動バルブ(バルブ)
121 水温センサ
7 ECU(車両の制御装置)
71 燃焼圧検出部(燃焼圧検出手段の一部)
72 圧力判定部(圧力判定手段)
73 回数記憶部(回数判定手段の一部)
74 回数判定部(回数判定手段の一部)
75 疲労判定部(疲労判定手段)
76 遅角実行部(遅角実行手段)
77 温度記憶部(流量制限手段の一部)
78 流量制御部(流量制限手段の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を経由して循環する冷却水の流量を制限可能に構成された冷却装置を備える車両の制御装置であって、
前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを判定する疲労判定手段と、
前記疲労判定手段によって前記内燃機関の疲労強度が低下していると判定された場合に、前記内燃機関における点火時期を遅角する遅角実行手段と、
前記冷却水の温度が、予め設定された温度閾値以下である場合に、前記内燃機関を経由して循環する冷却水の流量を制限する流量制限手段と、を備え、
前記流量制限手段は、前記遅角実行手段によって点火時期が遅角されたときに、前記温度閾値を高い値に変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記疲労判定手段は、前記内燃機関の燃焼室内の圧力である燃焼圧に基づいて、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを判定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の制御装置において、
前記燃焼圧を検出する燃焼圧検出手段を更に備え、
前記圧力判定手段は、前記燃焼圧検出手段によって検出された燃焼圧に基づいて、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを判定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の車両の制御装置において、
前記燃焼圧が、予め設定された圧力閾値以上であるか否かを判定する圧力判定手段を更に備え、
前記疲労判定手段は、前記圧力判定手段によって前記燃焼圧が前記圧力閾値以上であると判定された回数に基づいて、前記内燃機関の疲労強度が低下しているか否かを判定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の制御装置において、
前記圧力判定手段によって前記燃焼圧が前記圧力閾値以上であると判定された回数が、予め設定された回数閾値以上であるか否かを判定する回数判定手段を更に備え、
前記疲労判定手段は、前記回数判定手段によって前記燃焼圧が前記圧力閾値以上であると判定された回数が前記回数閾値以上であると判定された場合に、前記内燃機関の疲労強度が低下していると判定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
前記内燃機関を経由して循環する冷却水を停止するバルブを更に備え、
前記流量制限手段は、前記冷却水の温度が前記温度閾値以下である場合に、前記バルブを閉状態とすることによって、前記内燃機関を経由して循環する冷却水の流れを停止することを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−108354(P2013−108354A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251391(P2011−251391)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】