説明

車両の制駆動力制御装置

【課題】車両の制駆動力制御装置において、走行抵抗の大きな路面であっても、最適な制動力により車両を停止することで容易に再発進を可能とする。
【解決手段】車両11が走行する路面の走行抵抗を検出する走行抵抗検出部62と、駆動力の余剰分を検出する駆動力余剰分検出部63と、ドライバの要求制動力を算出する要求制動力算出部64と、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きいときに要求制動力から駆動力の余剰分を減算して目標制動力を算出する目標制動力算出部65とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が通常の舗装路よりも走行抵抗の大きい砂利路や砂地路では、ABS制御を用いて、車輪をロック傾向に制御することで、この車輪を砂利路や砂地路に潜り込ませて停止距離を短縮することが知られている。しかし、このような砂利路や砂地路にて、車輪をロック傾向に制御すると、車輪の路面への埋没量が多くなりすぎて発進時にスタックしたり、車体底面が接地して再発進ができなくなったりする場合がある。
【0003】
そこで、下記特許文献1に記載されたABS装置では、車両が走行抵抗の大きな路面を走行中であるときには、走行抵抗の大きくない路面の走行時よりも、ABS制御の目標スリップ率を大きく設定してABS制御を行い、車速が低速になるほど、この目標スリップ率を小さく設定してABS制御を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−159947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のABS装置にあっては、車両が走行抵抗の大きな路面(砂利路や砂地路)を走行しているときであっても、車速が低速であれば、目標スリップ率を小さく設定してABS制御が作動しやすいものとなっている。しかし、車両が走行抵抗の大きな路面を走行している場合、制駆動源により発生する車両の制駆動力と、実際に車両が前進・後退または停止するための制駆動力との間に大きな差がある。そのため、このような車両の走行状態で、ABS制御が作動すると、車両に対して不必要な制動力を付与してしまい、結果として、路面への車輪の埋没量が多くなり、車両の再発進が困難となってしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、走行抵抗の大きな路面であっても、最適な制動力により車両を停止することで容易に再発進を可能とする車両の制駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両の制駆動力制御装置は、車両が走行する路面の走行抵抗を検出する走行抵抗検出部と、ドライバの要求制動力を算出する要求制動力算出部と、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きいときに要求制動力から走行抵抗を減算して目標制動力を算出する目標制動力算出部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記車両の制駆動力制御装置にて、車両の走行速度を検出する車速検出部を設け、前記目標制動力算出部は、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きく、且つ、走行速度が予め設定された所定の走行速度以下のときに要求制動力から走行抵抗を減算して目標制動力を算出することが好ましい。
【0009】
上記車両の制駆動力制御装置にて、車両の急制動を検出する急制動検出部を設け、前記目標制動力算出部は、車両の急制動を検出したときには、要求制動力を目標制動力とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両の制駆動力制御装置は、走行抵抗が大きいときに要求制動力から走行抵抗を減算して目標制動力を算出するので、余分な制動力を与えることがなくなり、走行抵抗の大きな路面であっても、最適な制動力により車両を停止することで容易に再発進することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る車両の制駆動力制御装置を表す全体構成図である。
【図2】図2は、本実施形態の車両の制駆動力制御装置における制御ブロック図である。
【図3】図3は、本実施形態の車両の制駆動力制御装置による処理の流れを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る車両の制駆動力制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
〔実施形態〕
図1は、本発明の実施形態に係る車両の制駆動力制御装置を表す全体構成図、図2は、本実施形態の車両の制駆動力制御装置における制御ブロック図、図3は、本実施形態の車両の制駆動力制御装置による処理の流れを表すフローチャートである。
【0014】
本実施形態の車両の制駆動力制御装置は、制動装置として、ブレーキペダルから入力されたブレーキ操作量などに対して、車両の制動力、つまり、制動力を発生させるホイールシリンダへ供給する油圧を電気的に制御する電子制御式制動装置である。具体的に、この電子制御式制動装置としては、ブレーキ操作量に応じて目標制動油圧を設定し、アキュムレータに蓄えられた油圧を調圧してから、ホイールシリンダへ供給することで、制動力を制御するECB(Electronically Controlled Brake)である。
【0015】
このECBでは、ドライバがブレーキペダルを踏み込むと、マスタシリンダがその操作量に応じた油圧を発生すると共に、作動油の一部がストロークシミュレータに流れ込み、ブレーキペダルストロークを吸収すると共に、ブレーキペダルにブレーキ反力を付与することで、ブレーキペダルの操作量が調整される。一方、制御部は、ブレーキ操作量に応じて車両の目標制動力、つまり、目標制動油圧を設定し、調圧機構によりアキュムレータの油圧を調圧して各ホイールシリンダに供給することで、乗員が所望する制動力が得られる。
【0016】
以下、本実施形態の車両の制駆動力制御装置について詳細に説明する。図1に示すように、車両11は、4つの駆動可能な車輪FL,FR,RL,RRを有している。ここで、車輪FRは運転席から見て前方右側、車輪FLは前方左側、車輪RRは後方右側、車輪RLは後方左側の車輪をそれぞれ表している。また、この車両11は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンである内燃機関12と、自動変速機または無段変速機である変速機13を含むトランスアクスル14と、図示されないトランスファとを有している。
【0017】
即ち、本実施形態の車両11は、4輪駆動車両として構成されており、前輪FL,FRに、トランスファ、図示されないフロントデファレンシャル、ドライブシャフト15L,15Rを介して、内燃機関12から動力が伝達される。また、トランスアクスル14のアウトプットシャフト16は、リヤデファレンシャル17に接続されており、このリヤデファレンシャル17に、ドライブシャフト18L,18Rを介して後輪RL,RRが連結されている。そのため、車両11は、後輪RL,RRに、アウトプットシャフト16、リヤデファレンシャル17、ドライブシャフト18L,18Rを介して、内燃機関12から動力が伝達される。
【0018】
なお、本実施形態の車両11は、4輪駆動車両に限定されるものではなく、2輪駆動車両であってもよく、また、内燃機関に代えて電気モータを搭載した電気自動車、内燃機関及び電気モータを搭載したハイブリッド車両であってもよい。
【0019】
また、車両11は、車輪FR〜RLごとに設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL,21RR,21RLを含む制動装置22を有している。この制動装置22は、所謂、EBD(Electronic Brake force Distribution:電子制動力分配制御)付きのABS(Antilock Brake System:アンチロックブレーキ装置)として構成されている。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク23とブレーキキャリパ24を有し、各ブレーキキャリパ24は、ホイールシリンダ25を内蔵している。そして、各ブレーキキャリパ24のホイールシリンダ25は、それぞれ独立の液圧ライン26を介してブレーキアクチュエータを有するブレーキ油圧回路27に接続されている。
【0020】
ブレーキペダル28は、ドライバが踏み込み可能に支持され、ブレーキブースタ29が接続され、このブレーキブースタ29にマスタシリンダ30が固定されている。ブレーキブースタ29は、ドライバによるブレーキペダル28の踏み込み操作に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生することができる。マスタシリンダ30は、内部に図示しないピストンが移動自在に支持されることで、2つの油圧室を有しており、各油圧室には、ブレーキ踏力とアシスト力を合わせたマスタシリンダ圧を発生させることができる。マスタシリンダ30の上部には、リザーバタンク31が設けられており、このマスタシリンダ30とリザーバタンク31とは、ブレーキペダル28が踏み込まれていない状態で連通し、ブレーキペダル28が踏み込まれると閉鎖され、マスタシリンダ30の油圧室が加圧される。マスタシリンダ30は、各油圧室がそれぞれ油圧供給通路32を介してブレーキ油圧回路27に接続されている。
【0021】
ブレーキ油圧回路27は、ドライバによるブレーキペダル28の踏み込み量に応じてブレーキ油圧を生成し、このブレーキ油圧を各液圧ライン26からホイールシリンダ25に供給し、この各ホイールシリンダ25を作動させることで、制動装置22により車輪FR〜RLに対してブレーキ力を付与し、車両11に制動力を作用させることができる。
【0022】
車両11には、電子制御ユニット(ECU)41が搭載されており、このECU41は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポート及び通信ポートを有している。従って、このECU41は、内燃機関12、変速機13、ブレーキ油圧回路27などを制御可能となっている。
【0023】
即ち、ECU41には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ42、アクセルペダル操作によるアクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ43、スロットル操作によるスロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ44、内燃機関12の回転数を検出する回転数センサ45、変速機13における変速位置(変速段)を検出する変速位置センサ46が接続されている。
【0024】
従って、ECU41は、検出された吸入空気量、アクセル開度、スロットル開度、内燃機関回転数、変速位置などに基づいてインジェクタによる燃料噴射量や燃料噴射時期、点火プラグによる点火時期を設定し、内燃機関12及び変速機13を制御している。
【0025】
また、ECU41には、ブレーキペダル28の踏み込み量(ブレーキペダルストローク)を検出するブレーキストロークセンサ47、マスタシリンダ30から供給される油圧(マスタシリンダ圧)を検出するマスタシリンダ圧センサ48が接続されている。従って、ECU41は、検出されたブレーキペダルストローク、マスタシリンダ圧などに基づいてブレーキ油圧回路27により生成されるブレーキ油圧を制御している。
【0026】
また、ECU41は、車両11に作用する前後加速度及び左右加速度を検出する加速度センサ49が接続されており、検出した前後加速度及び左右加速度をECU41に送信する。更に、ECU41は、各車輪FR〜RLの回転速度を検出する車輪速センサ50が接続されており、検出した各車輪FR〜RLの回転速度をECU41に送信する。
【0027】
本実施形態の車両の制駆動力制御装置にて、図2に示すように、ECU41は、車速検出部61と、走行抵抗検出部62と、駆動力余剰分検出部63と、要求制動力算出部64と、目標制動力算出部65とを有している。
【0028】
車速検出部61は、車両11の走行速度を検出する。走行抵抗検出部62は、車両11が走行する路面の走行抵抗を検出する。駆動力余剰分検出部63は、車両11における駆動力の余剰分を検出する。要求制動力算出部64は、ドライバの要求制動力を算出する。目標制動力算出部65は、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きいときに要求制動力から駆動力の余剰分を減算して目標制動力を算出する。具体的に、目標制動力算出部65は、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きく、且つ、走行速度が予め設定された所定の走行速度以下のときに要求制動力から駆動力の余剰分を減算して目標制動力を算出する。
【0029】
ここで、駆動力余剰分検出部63は、車両11に搭載された駆動源としての内燃機関12の現在の出力に基づいて求めた推定駆動力と、現在の車両11の走行状態に基づいて求めた実駆動力との偏差から車両11における駆動力の余剰分を検出する。
【0030】
以下、ECU41によるブレーキ油圧回路27の具体的な制御について説明する。
【0031】
各車輪速センサ50は、それぞれの車輪FR〜RLの回転速度を検出しており、検出した各車輪FR〜RLの回転速度をECU41に送信している。ECU41を構成する車速検出部61は、受信した車輪FR〜RLの回転速度に基づいて車両11の速度としての推定車体速度Vaを算出する。また、加速度センサ49は、車両11に作用する前後加速度及び左右加速度を検出しており、検出した前後加速度及び左右加速度をECU41に送信している。車速検出部61は、受信した車両11に作用する前後加速度に基づいて車両11の速度としての実車体速度Vbを算出する。
【0032】
回転数センサ45は、内燃機関12の回転数を検出しており、検出した各車輪FR〜RLの回転速度をECU41に送信している。また、変速位置センサ46は、変速機13における変速位置(変速段)を検出している。ECU41を構成する走行抵抗検出部62は、内燃機関12の回転数と、変速機13における変速位置に基づいて得られる変速機13のギヤ比(変速比)とに基づいて、駆動輪である各車輪FR〜RLの推定車輪速度を算出し、所定期間ごとに算出した推定車輪速度に基づいて推定車輪加速度を算出する。走行抵抗検出部62は、この推定車輪加速度を利用して車両11の推定加速度Gaを算出する。
【0033】
また、走行抵抗検出部62は、加速度センサ49が検出した実際の車両11に作用する前後加速度を利用して車両11の実加速度Gbを算出する。そして、走行抵抗検出部62は、算出された推定加速度Gaと実加速度Gbに基づいて、つまり、推定加速度Gaから実加速度Gbを減算することで、車両11が走行する路面の走行抵抗Rを検出する。
【0034】
なお、路面の走行抵抗Rを算出する方法としては、上述した方法に限定されるものではない。例えば、各車輪速センサ50が検出した各車輪FR〜RLの回転速度に基づいて推定車輪加速度を算出し、この推定車輪加速度を利用して車両11の推定加速度Gaを算出してもよい。また、道路の勾配、車両重量、車両前面投影面積、車速などから路面の走行抵抗Rを算出してもよい。更に、走行抵抗Rを求めるための他の要素として、この道路の勾配、車両重量、横加速度などを加味してもよい。この場合、カーナビゲーションシステム、サスペンションシステム(ストロークセンサ)、積載量センサ、シートベルトセンサの検出結果を利用すればよい。
【0035】
アクセルポジションセンサ43は、アクセルペダル操作によるアクセル開度を検出し、スロットルポジションセンサ44は、スロットル操作によるスロットル開度を検出しており、検出したアクセル開度とスロットル開度をECU41に送信している。ECU41を構成する駆動力余剰分検出部63は、アクセル開度とスロットル開度と内燃機関12の回転数などに基づいて内燃機関12の推定駆動トルクを算出し、この推定駆動トルクに、トランスアクスル14を構成するトルクコンバータのトルク比、変速機13のギヤ比、変速機13の効率、デファレンシャル比、各車輪FR〜RLのタイヤ有効半径などに基づいて車両11の推定駆動力Faを算出する。
【0036】
また、駆動力余剰分検出部63は、加速度センサ49が検出した実際の車両11に作用する前後加速度を利用して車両11の実加速度Gbを算出し、この実加速度Gbと車両重量に基づいて車両11の実駆動力Fbを算出する。そして、駆動力余剰分検出部63は、推定駆動力Faと実駆動力Fbに基づいてその偏差から、つまり、推定駆動力Faから実駆動力Fbを減算することで、駆動力の余剰分Fsを算出する。
【0037】
なお、ここで、駆動力とは、駆動輪FR〜RLにおける車両駆動力やその駆動力に1対1で対応する駆動力関連値(相当値)であって、上述のように算出した駆動力Fa,Fbだけでなく、車体加速度、駆動軸トルク、車両の出力(パワー)、内燃機関の出力トルク、変速機の入力トルク、トルクコンバータの出力トルクなどを用いてもよいものである。
【0038】
ブレーキストロークセンサ47は、ブレーキペダル28の踏み込み量(ブレーキペダルストローク)を検出しており、検出したブレーキペダルストロークをECU41に送信している。ECU41を構成する要求制動力算出部64は、このブレーキペダルストロークに基づいてドライバの要求制動力Brを算出する。
【0039】
そして、ECU41を構成する目標制動力算出部65は、通常、ドライバの要求制動力Brに基づいて目標制動力Btを算出する。但し、本実施形態にて、目標制動力算出部65は、路面の走行抵抗Rが予め設定された所定の走行抵抗Rdより大きく、且つ、走行速度としての実車体速度Vb(または、推定車体速度Va)が予め設定された所定の走行速度Vd以下のときには、要求制動力Brから駆動力の余剰分Fsを減算して目標制動力Btを算出する。
【0040】
ここで、本実施形態の車両の制駆動力制御装置による処理の流れを図3のフローチャートに用いて説明する。
【0041】
本実施形態の車両の制駆動力制御装置において、図1乃至図3に示すように、ステップS11にて、ECU41は、車両11が発進状態であるかどうかを判定する。この場合、ECU41は、実車体速度Vb(または、推定車体速度Va)が0より大きくなったかどうかにより車両11の発進状態を判定する。ここで、車両11が発進状態であると判定(Yes)されたら、ステップS12にて、ECU41は、車両11の走行抵抗Rが大きい状態であるかどうかを判定する。一方、車両11が発進状態にないと判定(No)されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。
【0042】
ECU41を構成する走行抵抗検出部62は、推定加速度Gaから実加速度Gbを減算することで車両11に対する路面の走行抵抗Rを検出しており、ステップS12では、この走行抵抗Rが予め設定された所定の走行抵抗Rdより大きいかどうかを判定する。この所定の走行抵抗Rdとは、例えば、車両11が砂利路、砂地路、雪路などの悪路を走行するときに、この車両11に対して発生する走行抵抗であって、事前に実験などにより求めておく。
【0043】
このステップS12にて、ECU41により、車両11の走行抵抗Rが大きい状態(R>Rd)であると判定(Yes)されたら、ステップS13にて、ECU41は、車両11が低速走行状態であるかどうかを判定する。一方、車両11の走行抵抗Rが大きい状態(R≦Rd)でないと判定(No)されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。
【0044】
ECU41を構成する車速検出部61は、実車体速度Vb(及び、推定車体速度Va)を算出しており、ステップS13では、この実車体速度Vb(または、推定車体速度Va)が予め設定された所定の走行速度Vd以下であるかどうかを判定する。この所定の走行速度Vdとは、例えば、10km/hであるが、この数値に限定されるものではない。
【0045】
このステップS13にて、ECU41により、車両11が低速走行状態(Vb≦Vd)であると判定(Yes)されたら、ステップS14にて、ECU41は、車両11の駆動力が余剰状態にあるかどうかを判定する。一方、車両11が低速走行状態(Vb>Vd)にないと判定(No)されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。
【0046】
ECU41を構成する駆動力余剰分検出部63は、推定駆動力Faから実駆動力Fbを減算することで駆動力の余剰分Fsを算出しており、ステップS14では、この駆動力の余剰分Fsが予め設定された所定の駆動力の余剰分Fdより大きいかどうかを判定する。この所定の駆動力の余剰分Fdとは、車両11が砂利路、砂地路、雪路などの悪路を走行するときに、この車両11に対して発生する駆動力の余剰分であって、事前に実験などにより求めておく。
【0047】
このステップS14にて、ECU41により、駆動力の余剰分Fsが所定の駆動力の余剰分Fdより大きい(Fs>Fd)と判定(Yes)されたら、ステップS15に移行する。一方、駆動力の余剰分Fsが所定の駆動力の余剰分Fdより大きくない(Fs≦Fd)と判定(No)されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。
【0048】
そして、ステップS15にて、ECU41は、車両11の走行状態が、低速状態で、且つ、走行抵抗大状態であると認識し、ステップS16に移行する。このステップS16にて、ECU41は、目標制動力を算出する。ECU41を構成する目標制動力算出部65は、通常、ドライバの要求制動力Brに基づいて目標制動力Btを算出するが、ステップS15にて、車両11が低速時に走行抵抗大状態にあると認識したことから、ここでは、要求制動力Brから駆動力の余剰分Fsを減算して目標制動力Btを算出する。
Bt=Br−Fs
【0049】
その後、ECU41は、この目標制動力Btに基づいてブレーキ油圧回路27を制御し、ドライバによるブレーキペダル28の踏み込み量に応じると共に、車両11の走行状態に応じたブレーキ油圧を生成し、このブレーキ油圧を供給してホイールシリンダ25を作動させることで、車輪FR〜RLに対してブレーキ力を付与し、車両11に適正な制動力が作用する。
【0050】
即ち、車両11が路面の走行抵抗の大きい砂利路、砂地路、雪路などを走行中に制動操作したとき、ABS制御により車輪FR〜RLをロックしやすい傾向に制御することで、車輪FR〜RLを砂利路、砂地路、雪路などに潜り込ませて停止距離を短縮することができる。しかし、車両11が低速で走行しているときに、上記制御を実行すると、車輪FR〜RLの路面への埋没量が多くなりすぎて発進時にスタックしたり、車体底面が接地して再発進ができなくなったりする場合がある。
【0051】
本実施形態では、車両11が路面の走行抵抗が大きい砂利路、砂地路、雪路などを走行しているとき、この車両11の走行速度が低速であるときには、ドライバの要求制動力から駆動力の余剰分を減算して目標制動力を算出し、通常より小さい制動力により車両11を停止させている。車両11が走行抵抗の大きい砂利路、砂地路、雪路などを走行しているときには、車輪FR〜RLが空転することで駆動力を損失しながら走行している。そのため、この車両11を停止させる場合には、この損失している駆動力、つまり、駆動力の余剰分に対応する制動力は不要となる。
【0052】
例えば、車両11が駆動力100Nで砂利路を走行し、路面の抵抗により駆動力の余剰分60Nが発生しているとき、ドライバから要求制動力100Nがあったとしても、路面の抵抗として駆動力の余剰分60Nがあることから、車両11を停止するために必要な制動力(目標制動力)は40N(100N−60N)でよいこととなる。
【0053】
そのため、制動装置22による不必要な制動力の付与がなくなり、車両11を適正に停止することができると共に、制動装置22の耐久性を向上することができる。
【0054】
このように本実施形態の車両の制駆動力制御装置にあっては、車両11が走行する路面の走行抵抗を検出する走行抵抗検出部62と、駆動力の余剰分を検出する駆動力余剰分検出部63と、ドライバの要求制動力を算出する要求制動力算出部64と、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きいときに要求制動力から駆動力の余剰分を減算して目標制動力を算出する目標制動力算出部65とを設けている。
【0055】
従って、車両11が走行抵抗の大きい路面を走行中に制動操作されたときに、制動装置22により余分な制動力を与えることがなくなり、走行抵抗の大きな路面であっても、最適な制動力により車両11を停止することができ、その結果、車両11を容易に再発進することができる。
【0056】
また、本実施形態の車両の制駆動力制御装置では、車両11の走行速度を検出する車速検出部61を設け、目標制動力算出部65は、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きく、且つ、走行速度が予め設定された所定の走行速度以下のときに要求制動力から駆動力の余剰分を減算して目標制動力を算出している。従って、車両11が低速で走行しているときだけ、上述した制御を実行することで、車両11の走行安全性を確保することができる。
【0057】
また、本実施形態の車両の制駆動力制御装置では、駆動力余剰分検出部63は、車両11に搭載された駆動源としての内燃機関12の現在の出力に基づいて求めた推定駆動力と、車両11の現在の走行状態に基づいて求めた実駆動力との偏差から、駆動力の余剰分を算出している。従って、駆動力の余剰分を高精度に算出することができる。
【0058】
なお、上述した実施形態にて、目標制動力算出部65は、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きく、且つ、走行速度が予め設定された所定の走行速度以下のときに要求制動力から駆動力の余剰分を減算して目標制動力を算出している。しかし、車両11の走行安全性を考慮し、車両11の急制動時には、この制御を実行しないようにしてもよい。
【0059】
即ち、車両11の急制動を検出する急制動検出部を設ける。この急制動検出部は、ブレーキストロークセンサ47が検出したブレーキペダルストロークの変化率が、予め設定された所定の変化率より大きいときに車両11の急制動を判定する。そして、目標制動力算出部65は、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きく、且つ、走行速度が予め設定された所定の走行速度以下であっても、急制動検出部が車両11の急制動を検出したときには、要求制動力を目標制動力とする。
【0060】
即ち、目標制動力算出部65は、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きく、走行速度が予め設定された所定の走行速度以下で、車両11が急制動でないときに、要求制動力から駆動力の余剰分を減算して目標制動力を算出する。
【0061】
また、車両11が走行抵抗の大きい路面を走行しているときや、駆動力が余剰している状態になったときに、ECU41がこの状態をドライバに報知するようにしてもよい。この報知の方法としては、ディスプレイに表示したり、ランプを点灯したり、音声を出したりすればよい。
【0062】
また、上述した実施形態では、ステップS14にて、ECU41が、車両11の駆動力が余剰状態にあるかどうかを判定するとき、推定駆動力Faから実駆動力Fbを減算した駆動力の余剰分Fsが所定の駆動力の余剰分Fdより大きいかどうかで判定したが、この方法に限定されるものではない。即ち、推定駆動力Faから実駆動力Fbを減算した駆動力の余剰分Fsが0より大きいときに車両11の駆動力が余剰状態にあると判定してもよい。
【0063】
更に、上述した実施形態にて、走行抵抗検出部62は、内燃機関12の回転数と変速機13のギヤ比に基づいて各車輪FR〜RLの推定車輪速度を算出して車両11の推定加速度Gaを算出する一方、車両11に作用する前後加速度を利用して実加速度Gbを算出し、推定加速度Gaから実加速度Gbを減算して路面の走行抵抗Rを求めている。また、駆動力余剰分検出部63は、アクセル開度とスロットル開度と内燃機関12の回転数などに基づいて内燃機関12の推定駆動トルクを算出して車両11の推定駆動力Faを算出する一方、車両11に作用する前後加速度を利用して車両11の実加速度Gbを算出して実駆動力Fbを算出し、推定駆動力Faから実駆動力Fbを減算して駆動力の余剰分Fsを求めている。
【0064】
この場合、走行抵抗検出部62と駆動力余剰分検出部63の処理方法は、これらの方法に限定されるものではない。即ち、走行抵抗検出部62が、推定駆動力Faと実駆動力Fbに基づいて路面の走行抵抗Rを求めたり、駆動力余剰分検出部63が、推定加速度Gaと実加速度Gbに基づいて駆動力の余剰分Fsを求めたりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明にかかる車両の制駆動力制御装置は、走行抵抗が大きいときに要求制動力から駆動力の余剰分を減算して目標制動力を算出することで、走行抵抗の大きな路面であっても、最適な制動力により車両を停止することで容易に再発進を可能とするものであり、車両の駆動力及び制動力を制御する装置に有用である。
【符号の説明】
【0066】
11 車両
12 内燃機関
13 変速機
21FR,21FL,21RR,21RL ディスクブレーキユニット
22 制動装置
25 ホイールシリンダ
27 ブレーキ油圧回路
28 ブレーキペダル
41 電子制御ユニット(ECU)
43 アクセルポジションセンサ
44 スロットルポジションセンサ
45 回転数センサ
46 変速位置センサ
47 ブレーキストロークセンサ
49 加速度センサ
50 車輪速センサ
61 車速検出部
62 走行抵抗検出部
63 駆動力余剰分検出部
64 要求制動力算出部
65 目標制動力算出部
FL,FR,RL,RR 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する路面の走行抵抗を検出する走行抵抗検出部と、
ドライバの要求制動力を算出する要求制動力算出部と、
路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きいときに要求制動力から走行抵抗を減算して目標制動力を算出する目標制動力算出部と、
を備えることを特徴とする車両の制駆動力制御装置。
【請求項2】
車両の走行速度を検出する車速検出部を設け、前記目標制動力算出部は、路面の走行抵抗が予め設定された所定の走行抵抗より大きく、且つ、走行速度が予め設定された所定の走行速度以下のときに要求制動力から走行抵抗を減算して目標制動力を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両の制駆動力制御装置。
【請求項3】
車両の急制動を検出する急制動検出部を設け、前記目標制動力算出部は、車両の急制動を検出したときには、要求制動力を目標制動力とすることを特徴とする請求項2に記載の車両の制駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−157038(P2011−157038A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22329(P2010−22329)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】