説明

車両の前部構造

【課題】上下の板材を接合した中空状のサスペンションメンバと、スタビライザ固定部材によりサスペンションメンバの両端部に固定されるスタビライザと、支持ブラケットによりサスペンションメンバに支持されるロアアームとを備えた車両の前部構造を、車両軽量化、材料コストや生産性に影響を及ぼさずに剛性を増強可能な構成にする。
【解決手段】支持ブラケット12の一部をスタビライザ固定部材13の位置まで延設して固定し、サスペンションメンバ1の左右の横側部に縦壁面部2bを形成し、同縦壁面部2bの近傍部分にスタビライザ固定部材13を設け、スタビライザ固定部材13と支持ブラケット12の延設部12bとサスペンションメンバ1の板材とを、防錆鋼板からなる補強片19と重ね合わせて連結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右のサイドメンバに支持され、上側板材と下側板材とを接合して中空状に構成されたサスペンションメンバと、前記サスペンションメンバに取り付けたスタビライザ固定部材により、前記サスペンションメンバの上面又は下面の両端部に固定されるスタビライザと、前記サスペンションメンバに取り付けた支持ブラケットにより、前記サスペンションメンバに支持されるロアアームとを備えた車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の前部構造に関連する先行技術文献情報として下記に示す特許文献1がある。この特許文献1に記された車両の前部構造では、支持ブラケットの一部をサスペンションメンバの上側板材の上に重合させ、その上にスタビライザ固定部材の脚部を載置し、これら3つの部材を、各部材に形成された貫通孔に挿通したネジ手段によって共締めすることで、スタビライザ固定部付近の剛性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−1307号公報(0039段落、図17)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記された車両の前部構造では、スタビライザ固定部付近の剛性を更に高める必要が生じた場合は、補強部材を設けたり、材料板厚を大きくしたりする方法が考えられる。しかし、近年車両軽量化の要求が高まる中、新たな部材を設けることや板厚を大きくすることは車両軽量化に反するものであり、コストや生産性の面においても得策とは言い難い。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上に例示した従来技術による車両の前部構造が与える課題に鑑み、できるだけ車両軽量化を維持し、且つ、材料コストや生産性に影響を及ぼすことなく、スタビライザ固定部付近の剛性を増強することが可能な車両の前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による車両の前部構造の特徴構成は、
左右のサイドメンバに支持され、上側板材と下側板材とを接合して中空状に構成されたサスペンションメンバと、
前記サスペンションメンバに取り付けたスタビライザ固定部材により、前記サスペンションメンバの上面又は下面の両端部に固定されるスタビライザと、
前記サスペンションメンバに取り付けた支持ブラケットにより、前記サスペンションメンバに支持されるロアアームとを備えた車両の前部構造において、
前記支持ブラケットの一部を前記スタビライザ固定部材の位置まで延設して固定し、
前記サスペンションメンバの左右の横側部に縦壁面部を形成し、前記サスペンションメンバの上面又は下面における前記縦壁面部の近傍部分に、前記スタビライザ固定部材を設けており、
前記スタビライザ固定部材と前記支持ブラケットの延設部と前記サスペンションメンバとが、防錆鋼板からなる補強片と重ね合わせて連結されている点にある。
【0007】
上記の特徴構成による車両の前部構造では、先ず、サスペンションメンバの横側部に縦壁面部を設けているので、縦方向の剛性が高い縦壁面部の近傍部分にスタビライザ固定部材を取り付けることにより、スタビライザ固定部付近の取付剛性も、車両軽量化を阻害することなく適切に高められる。
【0008】
さらに、サスペンションメンバの一部、支持ブラケットの延長部、スタビライザ固定部材の脚部という三つの部材が、防錆鋼板からなる補強片と重ね合わせて連結されているので、採用する補強片の厚さを適宜選択することで、スタビライザ固定部付近の剛性を適切なレベルに自在に設定することが可能となった。
【0009】
尚、この種の車両の前部構造では、互いに重ね合わせて連結される部材どうしの境界面に電着塗装の塗装液が浸透し難い傾向が見られるが、上記の特徴構成による車両の前部構造では、補強片を防錆鋼板で構成することで、特にサスペンションメンバや支持ブラケットといった大型の部材を防錆鋼板で構成する必要性を抑制する効果が得られる。
【0010】
尚、スタビライザ固定部材と支持ブラケットの延設部とサスペンションメンバと補強片とを連結する際の重ね合わせの順序は、サスペンションメンバの上側板材または下側板材が最も内側で、スタビライザ固定部材が最も外側となるが、これらの間に介装される支持ブラケットの延設部と補強片とのいずれを内側に重ね合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両の前部構造を示した側面図である。
【図2】車両の前部構造を示した平面図である。
【図3】サスペンションメンバの側端部を示した斜視図である。
【図4】サスペンションメンバの側端部を示した断面図である。
【図5】サスペンションメンバの横側部を示した平面図である
【図6】スタビライザ固定部を示した断面図である。
【図7】補強片の外観を示した斜視図である。
【図8】スタビライザを用いない場合の図6に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両の前部構造をFF(フロントエンジン・フロントドライブ方式)車に適用した実施形態について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、車両の前部に左右一対のサイドメンバ4が車両前後方向に延設されている。この左右のサイドメンバ4を橋渡しするように、サスペンションメンバ1は車幅方向に配設されている。サスペンションメンバ1の両端部は、ステー部材7及び連結部材10を介してサイドメンバ4とボルト結合されるとともに、サイドメンバ4から下方に突出した連結部4aとボルト16により結合される。
【0013】
図3に示すように、サスペンションメンバ1は、上面及び側面を構成するアッパメンバ2(上側板材)と、下面を構成するロアメンバ3(下側板材)とからなる。アッパメンバ2及びロアメンバ3は、いずれも板材をプレス加工して製造され、両者を溶接接合することにより中空状のサスペンションメンバ1が構成されている。
【0014】
図3に示すように、ステー部材7は断面コの字状の主部材7aと、主部材7a内に配置される副部材7bとから角筒状に構成されており、両部材7a,7b及び後述するロアアーム取付用ブラケット11によって閉空間を形成する。ステー部材7は上下方向に設けられており、主部材7a及び副部材7bの下端部はサスペンションメンバ1やロアアーム取付用ブラケット11と溶接接合され、主部材7aの上端部はサイドメンバ4とボルト結合される。連結部材10は車両前後方向に設けられており、その前端部はロアメンバ3の後端部とボルト結合され、その後端部はサイドメンバ4とボルト結合される。
【0015】
図1〜図3に示すように、前輪20を支持する二股状のロアアーム6は、前側連結部6a及び後側連結部6bにおいてサスペンションメンバ1に連結される。ロアアーム6の前側連結部6aが取り付けられるロアアーム取付用ブラケット11は略直方体形状であるが、車幅方向外側の側面と底面が開口しており、平面視でコの字状の断面形状を有する。
【0016】
図4に示すように、ロアアーム取付用ブラケット11は、その下端部にてサスペンションメンバ1のロアメンバ3と溶接接合される。ロアアーム取付用ブラケット11にウェルドナット14が取り付けられており、前後方向のボルト15により、アッパメンバ2に固定される。ロアアーム6の前側連結部6aは、ロアアーム取付用ブラケット11とロアメンバ3とによって形成される空間内に配置され、ボルト15によりロアアーム取付用ブラケット11に対して上下揺動自在に支持されている。
【0017】
次にロアアーム6の後側連結部6bの取付構成について説明する。図3に示すように、アッパメンバ2の後端角部に、概してL字型の断面を有する支持ブラケット12が配設される。この支持ブラケット12の上面は、アッパメンバ2から車幅方向外側に延出した取付部12a、及び、車両前方向(図3の紙面左方)に延設された延設部12bを有する。
【0018】
図4に示すように、支持ブラケット12の下端部はロアメンバ3に溶接接合される。ロアアーム6の後側連結部6bは、支持ブラケット12の取付部12aとロアメンバ3との間に形成される空間に配置され、支持ブラケット12及びロアメンバ3に対して上下方向のボルト16により固定される。このとき、支持ブラケット12は、連結部4aを介してサイドメンバ4に対してもボルト16により結合される。
【0019】
図2に示すように、スタビライザ5は、サスペンションメンバ1(アッパメンバ2)の左右両端部に一対配置されたスタビライザ固定部材13により回転自在に支持される。また、スタビライザ5の両端部はロアアーム6又はナックル(不図示)に接続される。図4に示すように、スタビライザ固定部材13は、アッパメンバ2の内面の2箇所に取り付けられたウェルドナット17とボルト18により、アッパメンバ2に固定される。このとき、スタビライザ固定部材13の位置まで延設された支持ブラケット12の延設部12b、及び、後述する板状の補強片19が、スタビライザ固定部材13と共にボルト18によりアッパメンバ2に共締めされる。
【0020】
図5及び図6に示すように、サスペンションメンバ1(アッパメンバ2)の横側部2aには縦壁面部2bをプレスによる曲げ加工で形成し、その縁部をロアメンバ3に溶接してある。尚、図5においては上記特徴を明確に図示するため、支持ブラケット12の表現を省略している。サスペンションメンバ1の横側部2aに縦壁面部2bを形成することにより、サスペンションメンバ1の横側部2aの縦方向の剛性が向上するとともに、車幅方向の剛性改善も期待できる。
【0021】
したがって、図5に示すように、スタビライザ固定部材13を縦壁面部2bの近傍に配置することで、スタビライザ固定部材13の取付剛性が強化され、スタビライザ5の固定部に集中する荷重に対してより耐久性のある構造となる。このような構成は、新たな補強部材や材料板厚の増大を必要としないため、車両軽量化に寄与すると同時に、コストや生産性等の観点からも望ましい構造となる。
【0022】
特に、図5に示すように、縦壁面部2bが、スタビライザ固定部材13を固定している前後2つのボルト18(ウェルドナット17)と平行に延設されるように構成しているので、ボルト18が縦壁面部2bに一層近接することとなり、スタビライザ固定部材13の取付剛性の向上に寄与する。
【0023】
また、図6に示すように、スタビライザ固定部材13の位置まで延設された支持ブラケット12の延設部12bを、補強片19及びスタビライザ固定部材13と共にアッパメンバ2に共締めしているため、スタビライザ固定部材13の取付剛性のさらなる向上が図られる。この構成についても、新たな部材を必要としないので、車両軽量化、コスト上昇抑制、生産性向上等の課題が解決可能である。
【0024】
尚、支持ブラケット12の延設部12bには、平面視において概して長円形などの隆起部位12cが上方に向けて突出形成されている。隆起部位12cの裏面側は補強片19を収納するための空間となっている。補強片19にもボルト18を受け入れる一対の貫通孔19aが設けられており、サスペンションメンバ1(アッパメンバ2)の上に、補強片19、支持ブラケット12の延設部12b、スタビライザ固定部材13の3部材をこの順に重ねて設置し、ウェルドナット17とボルト18によって締結すると、これら4部材が強固に固定される。このとき、用いる補強片19の厚さによってスタビライザ固定部付近の剛性を適宜調整することが可能となる。
【0025】
ところで、スタビライザ固定部付近における、アッパメンバ2の上面と支持ブラケット12の延設部12bの下面とは補強片19の上下面に密着しているために、これらの3部材間の境界には電着塗装の塗装液が浸透し難い領域が生じるが、補強片19が防錆鋼材で形成してあるため、アッパメンバ2や支持ブラケット12などの大型の部品を防錆鋼材で構成しておく必要がない。
【0026】
〔別実施形態〕
〈1〉サスペンションメンバ1(アッパメンバ2)の上面に、支持ブラケット12の延設部12b、補強片19、スタビライザ固定部材13の順に重ねて設置して締結しても、同様の剛性増大および剛性調整の効果が得られるが、この場合は延設部12bに隆起部位12cを形成する必要はない。
【0027】
〈2〉スタビライザ5をサスペンションメンバ1の下面に設けた実施形態としてもよく、この場合は、サスペンションメンバ1を構成するロアメンバ3の下面に対して、補強片19、支持ブラケット12の延設部12b、スタビライザ固定部材13の順序で、或いは、支持ブラケット12の延設部12b、補強片19、スタビライザ固定部材13の順序で重ね、ロアメンバ3の内面の2箇所に取り付けられたウェルドナット17とボルト18により締結すればよい。
【0028】
〈3〉前部構造にスタビライザ5を設けない車両形態で実施する場合は、図8に示すように、支持ブラケット12の延設部12bの裏面には補強片19を挿入することなく、延設部12bの外周部をアッパメンバ2の上面に溶接する。このような形態で実施することで、本来ボルト18を挿通させるために延設部12bに設けられた貫通孔や、支持ブラケット12の延設部12bの外側とアッパメンバ2との隙間から、隆起部位12cの裏面の空間内に電着塗装の塗装液が進入し易いので、容易に防錆処理がなされる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、サスペンションメンバにスタビライザが取り付けられているFF車の前部構造だけでなく、同様の構造を有するFR(フロントエンジン・リアドライブ方式)車の前部構造に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 サスペンションメンバ
2 アッパメンバ(上側板材)
2b 縦壁面部
3 ロアメンバ(下側板材)
4 サイドメンバ
5 スタビライザ
6 ロアアーム
7 ステー部材
12 支持ブラケット
12b 延設部
12c 隆起部位
13 スタビライザ固定部材
19 補強片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のサイドメンバに支持され、上側板材と下側板材とを接合して中空状に構成されたサスペンションメンバと、
前記サスペンションメンバに取り付けたスタビライザ固定部材により、前記サスペンションメンバの上面又は下面の両端部に固定されるスタビライザと、
前記サスペンションメンバに取り付けた支持ブラケットにより、前記サスペンションメンバに支持されるロアアームとを備えた車両の前部構造において、
前記支持ブラケットの一部を前記スタビライザ固定部材の位置まで延設して固定し、
前記サスペンションメンバの左右の横側部に縦壁面部を形成し、前記サスペンションメンバの上面又は下面における前記縦壁面部の近傍部分に、前記スタビライザ固定部材を設けており、
前記スタビライザ固定部材と前記支持ブラケットの延設部と前記サスペンションメンバとが、防錆鋼板からなる補強片と重ね合わせて連結されていることを特徴とする車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−46070(P2012−46070A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189803(P2010−189803)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(597044391)ナミコー株式會社 (7)
【Fターム(参考)】