説明

車両の振動低減システム

【課題】タイヤの回転による振動が加振源になった時にこの振動の伝達を低減する車両の振動低減システムを提供する。
【解決手段】加振力を発生するACM3aと、車両内の所定位置での振動を検出するセンサ9と、車輪の回転数を測定するセンサ7と、制御装置11とを備え、制御装置11は、センサ7からの回転パルス信号に基づいて、信号周波数が回転パルス信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、振動を検出するセンサ9から得た信号と参照信号とに基づいてACM3aに加振力を発生させて、車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内の所定位置での振動を低減する振動低減システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されたエンジンの所定方向の振動の、車両各部への伝搬を抑制するため、エンジンに加速度センサを固定し、エンジンを制振する能動型防振装置(アクティブコントロールマウント、以下ACMという)でエンジンを支持し、前記加速度センサからの加速度信号に基づいて、ACMの制振力を制御するエンジン制振システムが知られている。
【0003】
また、特許文献1には、制御のずれが最大の振動検出位置を対象として、適応制御により電磁アクチュエータを駆動することにより、振動検出位置での振動を抑制する能動型防振装置が提案されている。また、適応制御の手法については、種々のものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−155985号公報
【特許文献2】特開平8−44377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般には、ACMは、エンジン振動の車両各部への伝達を低減するために搭載される。しかし、自動車乗員が体感する振動には、エンジンからの振動のみならず、タイヤから発生する振動やサスペンションを介しての路面からの振動、シートの弾性による振動等、種々存在する。特に高速走行状態において、エンジンからの振動ではなく、タイヤの回転による振動が主として顕在化し、乗員に伝わる場合、乗員は、速度に応じた一定周波数の振動を定常的に感じ、大きな不快感を伴うため、エンジンからの振動を制御しただけでは制振性能は発揮されない。また、電気自動車等の普及により、より振動騒音性(静寂性)についての要求が高くなると、これら主として顕在化した振動が、より重要な課題となる可能性がある。
【0006】
また、タイヤの回転振動の高調波によって、車両各部の共振が励起される可能性も考えられる。例えば、回転振動の基本周波数(タイヤ回転1次振動)は一般的な乗用車で10〜15Hz(車速100km/h程度)近辺であり、例えば、ステアリングの共振が通常40Hz近辺にあるとすると、タイヤ回転振動の3次成分がその共振を励起させる可能性がある。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、タイヤの回転による振動が加振源になった時にこの振動の伝達を低減する車両の振動低減システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明は、加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、車両内の所定位置での振動を検出する装置と、車輪の回転数を測定する装置と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号(例えば、回転に応じたパルス信号)に基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記振動を検出した装置から得た信号と前記参照信号とに基づいて前記少なくとも1つの加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置とを備える車両の振動低減システムである。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記加振装置をサスペンション装置と車体との間に設けることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、制御装置は、車輪の回転数を測定する装置から出力された回転数信号から参照信号を生成し、振動を検出した装置から得た信号と参照信号とに基づいて加振装置に加振力を発生させて、車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御するので、タイヤの回転による振動が加振源になった時においても振動を低減することができる。
【0011】
第2の発明によれば、加振装置をサスペンション装置と車体との間に設けることによりタイヤの回転による振動をより効率良く低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る車両の振動低減システムの第1の実施例を示す模式図である。
【図2】車両の振動低減システムの第1の実施例に係る基本制御系を示すブロック線図である。
【図3】本発明に係る車両の振動低減システムの第2の実施例を示す模式図である。
【図4】車両の振動低減システムの第2の実施例に係る基本制御系を示すブロック線図である。
【図5】実車走行試験を行ったとき実測データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る車両の振動低減システムの第1の実施例を示す模式図である。図1において、エンジン12は、ボイスコイルなどのアクチュエータを内蔵させたアクティブコントロールマウント3a(以下、ACMという。)と複数個のエンジンマウント5によって支持されており、ACM3aは、エンジン12を支持する機能と共に、加振装置としての機能を有し、加振力を能動的にエンジン12に与えて、車両内の所定位置での振動を抑制するように機能する。また、車両10には、車輪の回転数を測定するセンサ(例えば車輪速センサ)7が設けられている。運転席のフロア部には振動を検出するセンサ9が取り付けられており、運転席の前部の位置(例えばインストルメントパネル内)には、ACM3aの制振力を制御する制御装置11が配置されている。
【0014】
振動を検出するセンサ9は、車両内の所定位置での振動(例えば加速度)をリアルタイムで検出するように機能するものであり、乗員が体感する場所や振動源(車体、加振装置近辺)に配設されるのが好ましい。第1の実施例では運転席のフロア部に配設したが、ステアリング4、シート13、車体14、前席のヘッドレスト部、後席のフロア部等に設けるようにしても良い。センサ9には、例えば加速度センサ、荷重センサ等を用いることができる。
また、制御装置11は、車両内のいずれの場所に配置しても良い。
【0015】
図2は、車両の振動低減システムの第1の実施例に係る基本制御系を示すブロック線図である。第1の実施例は、制御装置11が、1つのACMと1つの振動を検出するセンサでタイヤ回転振動の伝達を低減するものである。
本実施例では、制御装置11は、図2に示すように、車輪の回転数を測定するセンサ7から出力された車輪の回転数信号(例えば回転パルス信号)から参照信号(基本周波数信号と、その高調波信号)を生成するシンセサイザ16と、シンセサイザ16から出力された参照信号x(t)の位相とゲイン等を調節してACM3aの制御信号y(t)を出力する適応フィルタ17と、シンセサイザ16からの参照信号と、センサ9で検出した加速度信号(誤差信号)e(t)とを読み込んで適応フィルタ17のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部18とを備えている。
なお、図2において、CはACM3aからセンサ9までの実際の伝達特性を示し、C’は推定伝達特性(測定したインパルス応答)を示す。
【0016】
制御装置11は、センサ7から回転パルス信号を受けると、シンセサイザ16により、回転パルス信号に基づいて、信号周波数が回転パルス信号の周波数(基本周波数)の実数倍の参照信号を生成する。LMS演算部18は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9から誤差信号e(t)を読み込んで、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムを用いて適応フィルタ17のフィルタ係数の更新処理を行う。適応フィルタ17は、更新されたフィルタ係数に基づいて制御信号y(t)をACM3aに出力する。
タイヤが回転すると、例えば、タイヤのウェイトのアンバランスなどが1箇所であれば、回転パルス信号の基本周波数の1倍(自然数倍)の周波数の振動が大きくなり、タイヤのウェイトのアンバランスなどが等間隔で2箇所あれば、回転パルス信号の基本周波数の2倍(自然数倍)の周波数の振動が大きくなり、タイヤのウェイトのアンバランスなどが等間隔で3箇所あれば、回転パルス信号の基本周波数の3倍(自然数倍)の周波数の振動が大きくなる。さらに、タイヤ4本では、タイヤ4本が回転すると様々な位相の回転パルス信号が出力されるので、発生した振動は様々な位相で合成され、0.5倍や1.5倍の周波数の振動も大きくなる可能性がある。そこで、本発明では、シンセサイザにより、回転パルス信号の基本周波数の実数倍の参照信号を生成し、合成している。
【0017】
図3は、本発明に係る車両の振動低減システムの第2の実施例を示す模式図である。図3において、エンジン12は、2個のACM3a、3bと複数個のエンジンマウント(図示せず)によって支持されており、ACM3a、3bは、エンジン12を支持する機能と共に、加振装置としての機能を有し、加振力を能動的にエンジン12に与えて、車両内の所定位置での振動を抑制するように機能する。また、車両10には、車輪の回転数を測定するセンサ(例えば車輪速センサ)7が設けられている。車両10のステアリング4には、振動を検出するセンサ9aが取り付けられており、運転席のフロア部には振動を検出するセンサ9bが取り付けられている。なお、以下でセンサ9a、9bを特に区別しない場合には、センサ9と記す。また、運転席の前部の位置(例えばインストルメントパネル内)には、ACM3a、3bの制振力を制御する制御装置11が配置されている。
【0018】
振動を検出するセンサ9は、車両内の所定位置での振動(例えば加速度)をリアルタイムで検出するように機能するものであり、乗員が体感する場所や振動源(車体、加振装置近辺)に配設されるのが好ましい。第2の実施例ではステアリング4や運転席のフロア部に配設したが、シート13、車体14、前席のヘッドレスト部、後席のフロア部等に設けるようにしても良い。センサ9には、例えば加速度センサ、荷重センサ等を用いることができる。
また、制御装置11は、車両内のいずれの場所に配置しても良い。
【0019】
図4は、車両の振動低減システムの第2の実施例に係る基本制御系を示すブロック線図である。第2の実施例は、制御装置11が、2つのACMと2つの振動を検出するセンサでタイヤ回転振動の伝達を低減するものである。
本実施例では、制御装置11は、図4に示すように、車輪の回転数を測定するセンサ7から出力された車輪の回転数信号(例えば回転パルス信号)から参照信号(基本周波数の信号と、その高調波信号)を生成するシンセサイザ21と、シンセサイザ21から出力された参照信号x(t)の位相とゲイン等を調節してACM3aの制御信号y1(t)を出力する適応フィルタ22と、シンセサイザ21からの参照信号と、センサ9aで検出した加速度信号(誤差信号)e1(t)とを読み込んで適応フィルタ22のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部23と、シンセサイザ21からの参照信号と、センサ9bで検出した加速度信号(誤差信号)e2(t)とを読み込んで適応フィルタ22のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部24と、シンセサイザ21から出力された参照信号x(t)の位相とゲイン等を調節してACM3bの制御信号y2(t)を出力する適応フィルタ25と、シンセサイザ21からの参照信号と、センサ9aで検出した加速度信号(誤差信号)e1(t)とを読み込んで適応フィルタ25のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部26と、シンセサイザ21からの参照信号と、センサ9bで検出した加速度信号(誤差信号)e2(t)とを読み込んで適応フィルタ25のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部27とを備えている。
なお、図4において、C11はACM3aからセンサ9aまでの実際の伝達特性、C12はACM3aからセンサ9bまでの実際の伝達特性、C21はACM3bからセンサ9aまでの実際の伝達特性、C22はACM3bからセンサ9bまでの実際の伝達特性を示し、C11’、C12’、C21’、C22’は推定伝達特性を示す。
【0020】
制御装置11は、車輪の回転数を測定するセンサ7から回転パルス信号を受けると、シンセサイザ21により、回転パルス信号に基づいて、信号周波数が回転パルス信号の周波数(基本周波数)の実数倍の参照信号を生成する。LMS演算部23は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9aから誤差信号e1(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ22のフィルタ係数の更新処理を行う。LMS演算部24は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9bから誤差信号e2(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ22のフィルタ係数の更新処理を行う。適応フィルタ22は、更新されたフィルタ係数に基づいて制御信号y1(t)をACM3aに出力する。
【0021】
また、LMS演算部26は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9aから誤差信号e1(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ25のフィルタ係数の更新処理を行う。LMS演算部27は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9bから誤差信号e2(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ25のフィルタ係数の更新処理を行う。適応フィルタ25は、更新されたフィルタ係数に基づいて制御信号y2(t)をACM3bに出力する。
【0022】
第2の実施例では、振動を検出するセンサを2つにして別々に使用したが、振動を検出するセンサを1つとして共通で使用しても良い。振動を検出するセンサを1つにした場合は、伝達特性C12、C21を考慮しなくても良い。
【0023】
図5は、第1の実施例の振動低減システムで実車走行試験を行ったとき実測データを示す図である。横軸が振動周波数(Hz)であり、縦軸が加速度を周波数解析した結果(dB)を示している。一般的なセダンタイプの車両を、純正タイヤ(225/50R17)使用し、振動が分かり易いように(回転振動が発生しやすいように)タイヤにバランサ(20g×2)を貼り付けて時速105kmで走行させて試験を行った。点線が制御をONにしたときの加速度データを示し、実線が制御をOFFにしたときの加速度データを示している。図5を見て明らかなように、タイヤ回転1次の周波数付近(14Hz付近)で、振動が低減していることが分かる。
【0024】
上述のように、本発明は、車輪の回転数を測定する装置から出力された回転数信号から参照信号を生成し、振動を検出した装置から得た信号と参照信号とに基づいて加振装置に加振力を発生させて、車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御するので、タイヤの回転による振動が加振源になった時においても振動を低減することができる。
【0025】
なお、上述した実施例では、加振力を与える加振装置としてACMを1つまたは2つ設けたが、3つ以上設けるようにしても良い。また、加振装置は、ACMに限らず、アクティブマスダンパー(Active Mass Damper)やトルクロッドタイプのものでも良い。加振装置を設ける箇所はエンジン下部に限らず、サスペンション装置と車体との間に設けるようにしても良い。加振装置をサスペンション装置と車体との間に設けることによりタイヤの回転による振動をより効率良く低減することができる。
また、上述した実施例では、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタのフィルタ係数の更新処理を行ったが、フィルタ係数の更新処理には、複素LMSアルゴリズム(Complex Least Mean Square Algorithm)、Normalized LMSアルゴリズム(Normalized Least Mean Square Algorithm)、射影アルゴリズム(Projection Algorithm)、SHARFアルゴリズム(Simple Hyperstable Adaptive Recursive Filter Algorithm)、RLSアルゴリズム(Recursive Least Square Algorithm)、FLMSアルゴリズム(Fast Least Mean Square Algorithm)、DCTを用いた適法フィルタ(Adaptive Filter using Discrete Cosine Transform)、SANフィルタ(Single Frequency Adaptive Notch Filter)、ニューラルネットワーク(Neural Network)、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)等、種々のアルゴリズムを用いることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0026】
3a、3b ACM
4 ステアリング
5 エンジンマウント
7 センサ
9、9a、9b センサ
10 車両
11 制御装置
12 エンジン
13 シート
14 車体
16、21 シンセサイザ
17、22、25 適応フィルタ
18、23、24、26、27 LMS演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、
車両内の所定位置での振動を検出する装置と、
車輪の回転数を測定する装置と、
前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号に基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記振動を検出した装置から得た信号と前記参照信号とに基づいて前記少なくとも1つの加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする車両の振動低減システム。
【請求項2】
前記加振装置を、サスペンション装置と車体との間に設けることを特徴とする請求項1に記載の車両の振動低減システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−179553(P2011−179553A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42686(P2010−42686)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】