説明

車両の故障診断装置

【課題】モータ装置を作動させる必要が生じる前に、前記モータ装置の故障を検出することができる車両の故障診断装置を得ること。
【解決手段】本発明の車両の故障診断装置は、モータ装置に供給される駆動信号とモータ装置の回転数に基づいてモータ装置の故障診断を行う。例えば、駆動信号がONの場合にモータ装置の回転数が所定値以下のときは、モータ装置の故障ありと判定し、駆動信号がOFFの場合にモータ装置の回転数が所定値よりも高いときは、モータ装置の故障ありと判定する。これにより、自動停止・始動システムによって内燃機関を自動停止させる前に、スタータ100又はPSM112の故障の有無を判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたモータ装置の故障の有無を判定する車両の故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンを搭載した車両において、環境問題への意識の高まりや自動車排出ガス規制を受けて、エンジン自動停止・始動システム(いわゆるアイドルストップシステム)が広く採用されるようになっている。
【0003】
一般に、車両が市街地走行を行う時などにおいては、交差点や踏切などで停止する場合があり、このようなときにエンジンをアイドル運転させたままの状態では無駄な燃料を消費するため燃料消費量が増加してしまう。
【0004】
このため、エンジン停止の条件が整ったときに、運転中であっても車両のエンジンを自動停止させて燃料消費をカットさせ、その後、所定のエンジン再始動条件が整ったときには、エンジンを自動的に再始動させるものがエンジンの自動停止・始動システムである。
【0005】
このエンジン自動停止・始動システムでは、エンジンの自動停止後に、エンジンが再始動できなくなる事態を未然に回避するため、始動装置が故障した場合は、エンジンが自動停止される前にエンジン自動停止・始動システムの使用を禁止する必要がある。そのため、エンジンが自動停止される前に始動装置の故障を検知する診断装置が必要となる。
【0006】
従来、車両用エンジン、例えばガソリンエンジンを搭載した車両においては、前記の始動装置として、エンジンの始動時にエンジンのクランクシャフトを所定の回転数以上にクランク回転させる為のスタータ(モータ)が設けられている。
【0007】
特許文献1では、スタータへ通電するリレーをオンまたはオフした場合に、スタータに流れる電流に基づいてスタータの故障の有無を判定する故障診断装置の例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−243452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
エンジン自動停止・始動システムでは、車両の運転状態からアイドリングストップ動作(エンジンの自動停止)の可否を、エンジン制御モジュール(以下ECM)が判断している。
【0010】
しかし、上記特許文献1の技術のように、電流や電圧に基づいてスタータの故障を判定する故障診断装置の場合、ECMとの信号線や検出回路を新たに設ける必要があり、設置スペースの問題やコストアップの問題があり、不利になる。
【0011】
このような問題は、スタータに限られるものではなく、車両に搭載されるモータ装置全般についても存在するものである。
【0012】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、新たな信号線や検出回路を追加することなく、モータ装置を作動させる必要が生じる前に、モータ装置の故障を検出することができる車両の故障診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の車両故障診断装置は、駆動信号によって制御されるモータ装置が搭載された車両の故障診断装置において、モータ装置に供給される駆動信号とモータ装置の回転数に基づいてモータ装置の故障診断を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータ装置に供給される駆動信号とモータ装置の回転数に基づいてモータ装置の故障診断を行うので、簡単に故障を判断することができる。したがって、車両に搭載されたモータを作動させる必要が生じる前に、前記モータの故障を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係わるエンジン自動停止・始動システムのシステム構成図。
【図2】エンジン自動停止・始動システムに用いるスタータの構造を示す図。
【図3】エンジン自動停止動作の内容を説明するフローチャート。
【図4】モータ無通電診断処理の内容を説明するフローチャート。
【図5】モータ通電診断処理の内容を説明するフローチャート。
【図6】故障なしのときのピニオンギヤの回転数の挙動とエンジン回転数の変化と故障診断のタイミングを示した図。
【図7】故障ありのときのピニオンギヤの回転数の挙動とエンジン回転数の変化と故障診断のタイミングを示した図。
【図8】エンジン自動停止条件成立前に故障診断を実行する場合のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る車両の故障診断装置の代表的な最良の実施形態は次の通りである。
【0017】
図1は、本発明の実施形態であるエンジン自動停止・始動システムの構成について示したものである。
【0018】
内燃機関であるエンジン120のクランクシャフト122のフライホイール124には、リングギヤ(平歯車)126が形成されている。一方、エンジン120を初期始動および停止状態からの再始動をするための回転駆動力を発生するスタータ(モータ)100の出力軸102には、ピニオンギヤ(平歯車)104が設けられている。この出力軸102は、軸線方向に往復移動可能に構成されている。また、ピニオンギヤ104の回転数は、スタータ100のケーシングに取り付けられた回転センサ106によって検出される。
【0019】
このピニオンギヤ104が、前記リングギヤ126に噛み合うことによって、スタータ100の回転駆動力をエンジン120に伝達することができる。エンジン120のクランクシャフト122の外周部には、クランク角やエンジン回転数を検出するための、クランク角センサ128が取り付けられている。
【0020】
前記回転センサ106およびクランク角センサ128から出た信号は、エンジン制御モジュール(以下、ECM)140に入力される。このECM140は、マイクロコンピュータを主体として構成され、各種エンジン制御プログラムを実行することで、エンジン内の燃料噴射量や点火タイミングを制御する。
【0021】
スタータ100とバッテリ160などの電源との間には、モータ駆動回路であるパワースイッチングモジュール(以下PSM)112が設けられている。ECM140は、所定の条件を満たしたとき、PSM112にスタータ100の駆動信号を送る。PSM112は、ECM140から受けた駆動信号がONの場合は、バッテリ160からスタータ100への通電を開始し、ECM140から受けた駆動信号がOFFの場合は、バッテリ160からスタータ100への通電を停止するようになっている。
【0022】
このPSM112は、スタータ100と一体あるいは別体どちらで構成してもよい。PSM112とスタータ100によってモータ装置が構成される。
【0023】
図2は、本発明の実施形態であるエンジン自動停止・始動システムに用いるスタータの構造について示したものである。
【0024】
スタータ100は、マグネチックシフト式、またはリダクションギヤ式などのように、公知の構造を有する直流モータであり、内蔵するアーマチャ108がバッテリ160からの通電を受けて回転駆動力を発生する。アーマチャ108により発生した回転駆動力は、スタータ100の出力軸102に伝達される。
【0025】
出力軸102とピニオンギヤ104との間には、エンジン120が始動した後、そのエンジン120の回転駆動力がアーマチャ108に伝わらない様に、ワンウェイクラッチ110が配置されている。そのワンウェイクラッチ110の外周部径方向の外側から対向する位置に、ピニオンギヤ104の回転数検出用の回転センサ106が配置されている。
【0026】
ワンウェイクラッチ110は、半径方向に対向して同軸上にローラ110a、クラッチインナ110b、クラッチアウタ110cとクラッチカバー110dを有している。クラッチインナ110bはピニオンギヤ104と一体に構成されており、クラッチアウタ110cは出力軸102と一体に構成されている。エンジン120を始動する際、ピニオンギヤ104は、出力軸102を介して回転駆動される。
【0027】
次に、本発明の一実施形態によるエンジン自動停止・始動システムの基本動作を説明する。このエンジン自動停止・始動システムは、初期始動時は運転者によるイグニッションスイッチの操作に基づいてスタータ100でエンジン120を始動後、イグニッションスイッチの信号以外の条件に基づいて、運転状態にあるエンジン120を自動停止すなわちアイドルストップさせる。一方、アイドルストップしているエンジン120を、アクセル踏込みなどに応答して自動的に始動させる。これを再始動と称する。
【0028】
エンジン自動停止・始動システムにおいては、急な再始動要求を求められたとき、運転者の再始動要求に、俊敏にエンジンを再始動することが必要であり、たとえば、エンジン自動停止途中に再始動要求が発生した場合でも、俊敏にエンジンを再始動可能であることが求められる。
【0029】
本実施形態においては、エンジンを自動停止させる自動停止動作を開始して、エンジン自動停止途中のエンジン回転数降下中に、スタータ100へ通電してピニオンギヤ104を空転させ、ピニオンギヤ104とリングギヤ126の回転数を各々検出し、各々の回転が同期する時点でピニオンギヤ104を軸線方向に押し出してリングギヤ126に噛み込せることで、エンジン自動停止途中からでも、俊敏にエンジンの再始動を行う。
【0030】
この際、ピニオンギヤ104の回転数を検出する手段として、スタータ用ワンウェイクラッチ110のクラッチアウタ110cの筒形外周面に形成した凸凹状の信号出力部と、それに対向して設置した回転センサ106を用いて、ピニオンギヤ104の回転数を検出している。
【0031】
ECM140は、エンジン自動停止・始動ルーチンを所定の演算周期で繰り返し実行することで、エンジン自動停止・始動システムを実行する。このエンジン自動停止・始動システムでは、所定のエンジン自動停止条件が成立した場合に、エンジン120を自動的に停止させる。エンジン自動停止条件には、車速が所定の速度以下であることや、ブレーキペダルが踏み込まれていることなどがある。エンジン120の自動停止は、燃料噴射動作や点火動作の停止によって行われる。
【0032】
その後、エンジン再始動条件が成立した場合に、エンジン120をスタータ100によってクランキングして自動的に始動させる。エンジン再始動条件には、ブレーキペダルが踏み込まれていないこと、アクセルペダルが踏み込まれていることなどがある。
【0033】
ここで、エンジン120を自動停止させる条件の1つに、自動停止・始動システムがエンジン再始動不可能な故障状態にないことが挙げられる。ECM140は、エンジン120の自動停止後に、スタータ100、およびその駆動回路であるPSM112の故障により、エンジン120が再始動できなくなる事態を未然に回避するため、自動停止前に、後述するスタータ100、およびPSM112の故障診断を実行する。そして、故障状態にあるとの診断結果を得たときは、自動停止・始動システムを停止させ、該システムの使用を禁止する。
【0034】
エンジン自動停止条件の判定からエンジン120を停止させるまでのフローチャートを図3に示す。ECM140はこのルーチンを、自動停止条件が成立するまでの間、所定の周期で繰り返し実行する。
【0035】
ステップS101において、ECM140はエンジン自動停止条件が成立しているか否かを判定する。ここで、エンジン自動停止条件が成立していればステップS102の処理に移行し、エンジン自動停止条件が不成立であれば、ステップS101の前へ戻って再び判定を実行し、エンジン自動停止条件が成立するまで、繰り返し判定を実行する。エンジン自動停止条件としては、車両の走行中に運転者が車両の減速操作を行っていること、車速が所定値よりも小さいことなどがある。
【0036】
ステップS102において、ECM140はエンジン自動停止動作を開始し、燃料噴射動作や点火動作を停止させて、エンジン燃焼を停止させる。
【0037】
ステップS103において、ECM140はエンジン120の回転数が所定の診断可能回転数Ne1より高いか否かを判定する。この診断可能回転数Ne1は、エンジン120の回転数を、スタータ100によるクランキングをせずに燃料噴射と点火の再開だけで復帰させることが可能な下限の燃焼復帰可能回転数(下限回転数)Ne2よりも高い回転数であり、エンジン回転数が前記診断可能回転数Ne1から、前記燃焼復帰可能回転数Ne2に低下するまでの間で、スタータ100およびPSM112の故障診断とエンジン120の燃焼復帰が可能となるように設定される。エンジン回転数が、診断可能回転数Ne1より高ければステップS104へ処理を移行し、診断可能回転数Ne1以下であれば、ステップS107へ処理を移行する。
【0038】
ステップS104では、モータ無通電診断を実施し、スタータ100もしくはPSM112の故障の有無を判定する。モータ無通電診断では、駆動信号がOFFのときのスタータ100の回転数に基づいて判定される。モータ無通電診断の詳細な処理内容については後述する。ステップS104で故障なしと判定された場合はステップS105に処理を移行し、故障ありと判定された場合はステップS109へ処理を移行する。
【0039】
ステップS105では、モータ通電診断を実施し、スタータ100もしくはPSM112の故障の有無を判定する。モータ通電診断では、駆動信号がONのときのスタータ100の回転数に基づいて判定される。モータ通電診断の詳細な処理内容については後述する。ステップS105で故障なしと判定された場合はステップS106に処理を移行し、故障ありと判定された場合はステップS109へ処理を移行する。
【0040】
ステップS104およびS105において異常なしと判断され、ステップS106に処理が移行した場合、ECM140はスタータ100およびPSM112のいずれにも故障なしと判断し、ステップS102で開始したエンジン自動停止動作を継続し、エンジンを停止させてルーチンを終了させる。
【0041】
ステップS103において、エンジン回転数が診断可能回転数Ne1以下であると判定され、ステップS107へ移行した場合、ECM140はステップS102で開始したエンジン自動停止動作を中断し、エンジン回転数が燃焼復帰可能回転数Ne2まで低下する前に、スタータ100によるクランキングなしで、燃焼復帰によりエンジン120の回転数を復帰させる。
【0042】
ステップS108では、ステップS101で成立したエンジン自動停止条件が不成立となったかを判定する。エンジン自動停止条件が不成立(ステップS108でYES)と判定された場合、ステップS101に処理を移行する。エンジン自動停止条件が成立(ステップS108でNO)と判定された場合は、ステップS108の前へ戻って再びステップS108の判定を実行し、エンジン自動停止条件が不成立となるまで、繰り返し判定を実行する。
【0043】
ステップS104もしくはステップS105において故障ありと判定され、ステップS109に処理が移行した場合、ECM140はステップS102で開始したエンジン自動停止動作を中断し、エンジン回転数が燃焼復帰可能回転数Ne2まで低下する前に、スタータ100によるクランキングなしでエンジン120の回転数を復帰させる。
【0044】
ステップS110において、ECM140はエンジン自動停止・始動システムを停止させ、該システムの使用を禁止する処理を行う。そして、ステップS111において、運転者に対し警告ランプなどを用いてエンジン自動停止・始動システムの故障を告知してルーチンを終了させる。
【0045】
次に、ステップS104のモータ無通電診断について図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0046】
ステップS201において、ECM140はPSM112へ送る駆動信号をOFFとする。ステップS202において、ECM140は回転センサ106からの信号でピニオンギヤ104の回転数を検出する。ステップS203において、ECM140はステップS202で検出されたピニオンギヤ回転数が所定の停止判定回転数Np1より低いか否かを判定する。ピニオンギヤ回転数が、停止判定回転数Np1より低ければ、故障なしと判定し、停止判定回転数Np1以上であれば、スタータ100もしくはPSM112のグランドへのショートであると判断し、故障ありと判定する。本実施の形態では、停止判定回転数Np1は、燃焼復帰可能回転数Ne2よりも低い回転数に設定されている。
【0047】
次に、ステップS105のモータ通電診断について図5に示すフローチャートを用いて説明する。
【0048】
ステップS301において、ECM140はPSM112へ送る駆動信号をONとする。ステップS302において、ECM140は回転センサからの信号でピニオンギヤの回転数を検出する。ステップS303において、ECM140はステップS302で検出されたピニオンギヤ回転数が所定の駆動判定回転数Np2より高いか否かを判定する。ピニオンギヤ回転数が、駆動判定回転数Np2より高ければ、故障なしと判定し、駆動判定回転数Np2以下であれば、スタータ100もしくはPSM112のオープン故障、もしくはバッテリへのショート、またはスタータ100の異常負荷であると判断し、故障ありと判定する。本実施の形態では、駆動判定回転数Np2は、診断可能回転数Ne1と燃焼復帰可能回転数Ne2との間の回転数に設定されている。
【0049】
本実施形態における車両の故障診断装置によれば、スタータ100およびPSM112の故障診断を、エンジン120を再始動させる際に、スタータ100によるクランキングが不要な下限の回転数、すなわち燃焼復帰可能回転数Ne2まで低下する前に実行するようにしたため、スタータ100もしくはPSM112が故障と判定された場合に、エンジン120の燃料噴射および点火のみでエンジン120を燃焼復帰させることができ、エンジン自動停止後に、エンジン120が再始動できなくなる事態を未然に回避することができる。
【0050】
また、本実施形態では、スタータ100およびPSM112が故障と判定された場合、運転者に故障を早期に警告し、さらに以後はエンジン自動停止・始動システムの使用を停止するため、運転者はそのまま修理可能な場所(ディーラなど)まで、安全に移動することができる。また、このとき、カーナビゲーションシステムと連動して、車室内のモニターに周辺の修理可能な場所の位置や、そこまでの移動経路を表示するようにしてもよい。
【0051】
更に本実施形態では、駆動信号とピニオンギヤ回転数に基づいて故障原因が特定できるため、容易に故障したスタータ100を修理できる。
【0052】
図6および図7にエンジン120およびピニオンギヤ104の回転数と故障診断タイミングの図を示す。図6は、スタータ100およびPSM112に故障無しと判定された場合の例であり、図7は、スタータ100もしくはPSM112に故障有りと判定された場合の一例である。
【0053】
まず、図6について説明する。エンジン自動停止条件が成立し、そのときのエンジン回転数が診断可能回転数Ne1以上であるので、エンジン燃焼を停止し、故障診断を開始する。通常、エンジンが燃焼している間は、スタータは駆動させないので、本図では駆動信号は故障診断前からOFFのままである。
【0054】
このときピニオンギヤ104の回転数を検出し、ピニオンギヤ104の回転数が停止判定回転数Np1を超えなかったので、ステップS104のモータ無通電診断では故障無しと判定し、駆動信号をONにして、再びピニオンギヤ104の回転数を検出する。ここで駆動判定回転数Np2を超えたため、ステップS105のモータ通電診断でもスタータ100およびPSM112に故障無しと判定し、故障診断は終了する。その後、ピニオンギヤ104は、エンジン停止前にリングギヤ126に噛み込まされ、エンジン再始動可能な状態となる。
【0055】
次に、図7について説明する。エンジン自動停止条件が成立し、そのときのエンジン回転数が診断可能回転数Ne1以上であるので、エンジン燃焼を停止し、故障診断を開始する。駆動信号がOFFの状態で、ピニオンギヤ104の回転数を検出し、ピニオンギヤ104の回転数が停止判定回転数Np1を超えなかったので、ステップS104のモータ無通電診断では故障無しと判定し、駆動信号をONにして、再びピニオンギヤ104の回転数を検出する。
【0056】
ここで駆動判定回転数Np2を超えないため、ステップS105のモータ通電診断ではスタータ100もしくはPSM112に故障有りと判定し、故障診断は終了する。その後、エンジン回転数が燃焼復帰可能回転数Ne2まで低下する前に、エンジン120を燃焼復帰し、エンジン自動停止・始動システムの使用を停止させる。
【0057】
本実施形態では、駆動信号ON時の故障判定条件を、ピニオンギヤ回転数>駆動判定回転数Np1、としているが、この駆動判定回転数速度Np1に対して、Np11≧Np1≧Np12という関係になるような回転数Np11およびNp12を定義し、駆動信号ON時の故障判定条件を、回転数Np11>ピニオンギヤ回転数>回転数Np12、というようにしてもよい。
【0058】
本実施形態では、エンジン120の自動停止条件成立後にスタータ100およびPSM112の故障診断を実行したが、エンジン120の自動停止条件成立前に前記故障診断を実行してもよい。
【0059】
エンジン自動停止条件成立前に故障診断を実行する場合のフローチャートを図8に示す。エンジン自動停止条件成立前に故障診断を実行する場合、車両の状態に関わらず任意のタイミングで、以下のルーチンを実行する。
【0060】
ステップS401では、前述のモータ無通電診断(ステップS104の処理を参照)を実施し、スタータ100もしくはPSM112の故障の有無を判定する。故障なしと判定された場合はステップS402に処理を移行し、故障ありと判定された場合はステップS403へ処理を移行する。
【0061】
ステップS402では、前述のモータ通電診断(ステップS105の処理を参照)を実施し、スタータ100もしくはPSM112の故障の有無を判定する。故障なしと判定された場合、ECM140はスタータ100およびPSM112のいずれにも故障なしと判断し、エンジンを停止させてルーチンを終了させる。
【0062】
ステップS401もしくはステップS402において異常ありと判断され、ステップS403に処理が移行した場合、ECM140はエンジン自動停止・始動システムの使用を停止させる。そして、ステップS404において、運転者に対し警告ランプなどを用いてエンジン自動停止・始動システムの故障を告知してルーチンを終了させる。
【0063】
以上のルーチンにより、エンジン自動停止条件成立前に故障診断を実行することができる。
【0064】
なお、図3のルーチンではOFF判定、ON判定ともに(ステップS104とS105の両方)、エンジン自動停止条件成立後に実施しているが、OFF判定(ステップS104の判定)をエンジン自動停止条件成立前に実施しておくようにしても良い。この場合、エンジン自動停止条件成立後の故障判定の時間を短縮させることができる。
【0065】
本実施の形態における車両の故障診断装置では、スタータ100に設けられた回転センサ106でピニオンギヤ104の回転数を検出し、その検出したピニオンギヤ104の回転数と、スタータ100の駆動信号とに基づいて、スタータ100とPSM112の故障の有無を判定するので、スタータ100とPSM112の故障の有無を簡単に診断することができる。
【0066】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、本実施形態では、エンジン120のみを備えた車両においてエンジン120を始動させるためのスタータ100およびPSM112の故障診断について説明したが、エンジンとモータ動力源とするハイブリッド車においてエンジンを始動させるためのモータおよびモータ駆動回路に対しても本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0067】
100…スタータ(モータ)
102…出力軸
104…ピニオンギヤ
106…回転センサ
108…アーマチャ
110…ワンウェイクラッチ
110a…ローラ
110b…クラッチインナ
110c…クラッチアウタ
110d…クラッチカバー
112…パワースイッチングモジュール(PSM)
120…エンジン
122…クランクシャフト
124…フライホイール
126…リングギヤ
128…クランク角センサ
140…エンジン制御モジュール(ECM)
160…バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号によって制御されるモータ装置が搭載された車両の故障診断装置において、
該モータ装置に供給される駆動信号と前記モータ装置の回転数に基づいて前記モータ装置の故障の有無を判定する故障判定手段を有することを特徴とする車両の故障診断装置。
【請求項2】
前記故障判定手段は、前記駆動信号がONの場合に前記モータ装置の回転数が所定値以下のときは、前記モータ装置の故障ありと判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の故障診断装置。
【請求項3】
前記故障は、前記モータもしくはモータ駆動回路のオープン故障、バッテリへのショート、またはモータの異常負荷のいずれかであると判定することを特徴とする請求項2に記載の車両の故障診断装置。
【請求項4】
前記故障判定手段は、前記駆動信号がOFFの場合に前記モータ装置の回転数が所定値よりも高いときは、前記モータ装置の故障ありと判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両の故障診断装置。
【請求項5】
前記故障は、グランドへのショートであると判定することを特徴とする請求項4に記載の車両の故障診断装置。
【請求項6】
前記モータ装置は、クランキングによって前記内燃機関を再始動可能なスタータと、該スタータの駆動回路であるパワースイッチングモジュールを有し、
前記故障判定手段は、自動停止条件が成立したときに内燃機関を自動停止させ該自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに前記内燃機関を自動的に再始動させる自動停止・始動システムに組み込まれており、該自動停止・始動システムによって前記内燃機関が自動停止される前に前記モータ装置の故障の有無を判定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車両の故障診断装置。
【請求項7】
前記故障判定手段は、前記自動停止・始動システムによって前記内燃機関を自動停止させる自動停止動作が開始されてから前記内燃機関の回転数が前記スタータによるクランキングを行わなくても前記内燃機関を再始動可能な下限回転数に低下するまでの期間に前記モータ装置の故障の有無の判定を行い、
前記自動停止・始動システムは、前記故障判定手段によって前記モータ装置の故障有りと判定された場合に、前記自動停止動作を中止して前記内燃機関を再始動させ、前記モータ装置の故障なしと判定された場合に、前記自動停止動作を継続させて前記内燃機関を自動停止させることを特徴とする請求項6に記載の車両の故障診断装置。
【請求項8】
前記故障判定手段により前記モータ装置の故障有りと判定された場合に、前記自動停止・始動システムの使用を禁止するシステム使用禁止手段を備えていることを特徴とする請求項6又は7に記載の車両の故障診断装置。
【請求項9】
前記故障判定手段により前記モータ装置の故障有りと判定された場合に、該故障を前記車両の運転者に警告する警告手段を備えていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の車両の故障診断装置。
【請求項10】
前記故障判定手段は、アイドルストップシステム用であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の車両の故障診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−23813(P2012−23813A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158025(P2010−158025)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】