説明

車両の自動走行制御装置

【課題】車両の自動走行制御装置に関し、動特性が変動した場合においても、目標走行ラインを安定して自動走行させる。
【解決手段】道路情報を検出するカメラ11と、目標走行ラインを設定する目標走行ライン設定部22と、目標走行ラインに対する車両の横方向相対位置を検出する相対位置検出部11,23と、車両重量を算出する車両重量演算部14,21と、車両を目標走行ラインに沿って走行させるための目標操舵角を算出する目標操舵角演算部25と、目標操舵角に基づいて自動操舵電流を算出する自動操舵電流演算部26と、自動操舵電流に応じてステアリング2を目標操舵角に回動させるアクュエータ15とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動走行制御装置に関し、特に車両を目標走行ラインに沿って自動操舵する自動走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動操舵制御に関する様々な技術が提案され、その実用化が進められている。例えば、特許文献1には、目標走行ラインの曲率に応じて車両に発生すべき平衡点操舵角を過去n個分の目標操舵角の平均値(時間移動平均値)から演算することで、曲線路走行を良好に行えるようにした車両の自動操舵装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−297521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、推定される曲率を用いる自動操舵制御の場合、制御性能は推定される曲率の精度に大きく依存することになる。そのため、このような自動操舵制御を、例えば荷物の積み下ろしによる荷重変動が大きい商用車等に適用した場合、積荷重心の変動により車両のピッチ、ロール、ヨー等を含むダイナミック特性も大きく変動するため、曲率の推定は極めて複雑で困難なものになる。また、変動するダイナミック特性を把握すべく、各状態量を検出するセンサ類を設けると、装置のコストアップを招く可能性がある。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなされたもので、その目的は、車両の動特性が変動した場合においても、目標走行ラインを安定して自動走行することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明の車両の自動走行制御装置は、車両前方の道路情報を検出する道路情報検出手段と、検出された前記道路情報とに基づいて、車両の目標走行ラインを設定する目標走行ライン設定手段と、検出された前記道路情報と、設定された前記目標走行ラインとに基づいて、該目標走行ラインに対する車両の横方向相対位置を検出する相対位置検出手段と、車両のサスペンションの変位量から車両重量を算出する車両重量演算手段と、検出された前記横方向相対位置と、算出された前記車両重量と、該車両重量に応じて設定される車両前輪のコーナリングパワーと基づいて、車両を前記目標走行ラインに沿って走行させるためのステアリングの操舵角を目標操舵角として算出する目標操舵角演算手段と、算出された前記目標操舵角に基づいて自動操舵電流を算出する自動操舵電流演算手段と、算出された前記自動操舵電流に応じて、前記ステアリングを前記目標操舵角に回動させるアクチュエータとを備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記目標操舵角演算手段は、前記コーナリングパワーを、車両の動特性及び重心変化を考慮しない時の前記車両重量に対する関係に基づいて算出されるリファレンスコーナリングパワーとして設定してもよい。
【0008】
また、前記目標操舵角演算手段は、前記横方向相対位置及び該横方向相対位置を時間微分した横方向相対速度を含む設計関数から、該設計関数のリファレンス拘束速度と実拘束速度との差で設計パラメータを調整することで、前記車両重量及び前記コーナリングパワーの変化の影響を低減して前記目標操舵角を算出してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両の自動走行制御装置によれば、車両の動特性が変動した場合においても、目標走行ラインを安定して自動走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動走行制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の自動走行制御装置を搭載する車両の入出力構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る自動走行制御装置の制御フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1〜3に基づいて、本発明の一実施形態に係る車両の自動走行制御装置について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の自動走行制御装置10は、カメラ11と、操舵角センサ12と、トルクセンサ13と、ストロークセンサ14と、アクチュエータ15と、ECU(電子制御ユニット)20とを備えている。
【0013】
カメラ11は、例えばCCDカメラであって、車両前方の路面を撮像する。このカメラ11により撮像された画像データは、電気的に接続されたECU20に出力される。なお、本実施形態のカメラ11は、本発明の道路情報検出手段を構成する。
【0014】
操舵角センサ12は、図2に示すように、ステアリングシャフト3に組み付けられており、ステアリングシャフト3の回転量を検出する。この操舵角センサ12により検出された回転量は、電気的に接続されたECU20に操舵角θとして出力される。
【0015】
トルクセンサ13は、図2に示すように、ステアリングシャフト3に組み付けられており、ステアリングホイール2に入力された操舵トルクを検出する。このトルクセンサ13により検出された操舵トルクは、電気的に接続されたECU20に操舵トルクThとして出力される。
【0016】
ストロークセンサ14は、車両の図示しない各サスペンション装置にそれぞれ組み付けられており、サスペンション装置の変位量を検出する。このストロークセンサ14より検出された各サスペンション装置の変位量は、電気的に接続されたECU20に変位量Dとして出力される。
【0017】
アクチュエータ15は、ステアリングシャフト3に設けられた駆動部15aと、この駆動部15aに作動油を供給する油圧ポンプ15bと、駆動部15aに供給される作動油の油圧を調整するコントロールバルブ15cとを備えている。また、コントロールバルブ15cはECU20と電気的に接続されており、ECU20から入力される指示電流iautoに応じてバルブ開度が調整される。すなわち、ECU20からの指示電流iautoに応じて駆動部15aに供給される作動油の油圧が調整され、この油圧に応じた駆動部15aの駆動によりステアリングシャフト3が回動することで、車両の操舵輪は自動で転舵、すなわち自動操舵されるように構成されている。
【0018】
ECU20は、自動走行制御装置10の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備え構成されている。この各種制御を行うために、ECU20には、操舵角センサ12、トルクセンサ13、ストロークセンサ14等の各種センサの出力信号がA/D変換された後に入力される。また、ECU20は、車両重量演算部21と、目標走行ライン設定部22と、偏差演算部23と、偏差微分演算部24と、目標操舵角演算部25と、指示電流演算出力部26とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアであるECU20に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0019】
車両重量演算部21は、ストロークセンサ14から出力される各サスペンション装置の変位量Dに、既知のサスペンションバネ定数を乗算して得られる各サスペンション装置の荷重を合計することで、空荷時や積載時における車両重量Mを演算する。なお、本実施形態のストロークセンサ14とECU20の車両重量演算部21とは、本発明の車両重量演算手段を構成する。
【0020】
目標走行ライン設定部22は、カメラ11から出力される撮像画像に基づいて路面両端の白線を認識し、これら白線間を車両の走行レーンに設定すると共に、片側の白線(例えば、左側の白線)から所定の距離に位置するラインを目標走行ラインとして設定する。例えば、片側の白線から50%の距離を目標走行ラインに設定した場合、両端の白線の中央に位置するラインが目標走行ラインとなる。
【0021】
偏差演算部23は、目標走行ライン設定部22により設定された目標走行ラインに対する車両の現在位置である横方向相対位置(以下、横位置ともいう)を演算する。具体的には、カメラ11から出力される撮像画像に基づいて、片側の白線から車両までの距離と、片側の白線から目標走行ラインまでの距離との差が偏差y(目標偏差)として算出される。
【0022】
偏差微分演算部24は、偏差演算部23が算出した偏差yを所定時間毎に時間微分することにより偏差微分y’(以下、横速度ともいう)を算出する。
【0023】
目標操舵角演算部25は、車両重量演算部21により算出された車両重量M、偏差演算部23により演算された偏差y、偏差微分演算部24により算出された偏差微分y’、操舵角センサ12から出力される操舵角θ、前輪コーナリングパワーKf、後輪コーナリングパワーKrに基づいて、車両を目標走行ラインに沿って走行させるための操舵角を目標操舵角度δとして算出する。
【0024】
指示電流演算出力部26は、目標操舵角演算部25により算出された目標操舵角度δに基づいて、車両を目標走行ラインに沿って走行させるためのアクチュエータ15を駆動させる電流を指示電流iautoとして演算するとともに、この指示電流iautoをアクチュエータ15のコントロールバルブ15cに出力する。
【0025】
次に、本実施形態に係る自動走行制御装置10による制御フローを図3に基づいて説明する。
【0026】
ステップC101では、カメラ11、操舵角センサ12、トルクセンサ13、ストロークセンサ14からECU20に必要なパラメータが読み込まれる。
【0027】
ステップC102では、ECU20の目標走行ライン設定部22により、カメラ11から出力される撮像画像に基づいて目標走行ラインが設定される。
【0028】
ステップC103では、ECU20の偏差演算部23により、目標走行ラインに対する車両の現在位置(横位置)としての偏差yが算出される。
【0029】
ステップC104では、ECU20の目標操舵角演算部25により目標操舵角δが算出される。
【0030】
ここで、操舵系の状態方程式は、以下の式(1)で表される。
【0031】
【数1】

【0032】
なお、式(1)におけるA11、A12、A13、A31、A32、A33、B11、B31は、以下のように表される。
【0033】
【数2】

【0034】
また、曲率rは、以下の式(2)で表される。なお、式(2)において、λrは曲率rの近似一次系の係数である。
【0035】
【数3】

【0036】
また、スライディングモードの超平面は、以下の式(3)で表される。
【0037】
【数4】

【0038】
この式(3)において、hは正の任意の定数であり、実験により値を決定する。ここで、システムを安定化することができる制御入力として、以下に示す式(4)がある。
【0039】
【数5】

【0040】
式(4)において、μ>0は設計パラメータである。SCBを式(4)に代入すると、以下に示す式(5)となる。
【0041】
【数6】

【0042】
式(5)に示すように、荷重変動により前輪コーナリングパワーKfと車両重量Mとの比が変動しても、設計パラメータμを所定値以上に設定すれば、制御システムの追従ロバスト性を保証できる。しかし、車両重量Mと前輪コーナリングパワーKfとが変動すると、σ(0)が0(ゼロ)に拘束される速度に相違が生じ、追従ロバスト性は落ちないものの、操舵系に振動現象(車両の蛇行)を引き起こすため、最適な操舵角度を得ることができない。すなわち、車両重量Mと前輪コーナリングパワーKfとの変動が把握できればよいが、前輪コーナリングパワーKfの変動は車両の動特性の影響を受けるため、把握することはきわめて困難である。
【0043】
そこで、本実施形態では、車両の動特性及び重心変化を考慮しない場合の車両重量Mと前輪コーナリングパワーKfとの関係を求める。例えば、車両が水平状態の静的状態(Static)における、各タイヤへの荷重配分とタイヤ構造とに基づいて、リファレンスとしてのリファレンスコーナリングパワーKfrefを算出する。また、リファレンスコーナリングパワーKfrefは、車両のロール、ピッチ、積載荷重による重心位置の変動により変化するため、この変化の影響を以下に示す式(6)で設計パラメータμを調整することにより低減する。
【0044】
【数7】

【0045】
なお、式(6)において、μTは調整後ECU20に入力するパラメータである。また、μSは車両重量MとリファレンスコーナリングパワーKfrefにより設定したパラメータであってシミュレーションにより求める。また、Δμは、実拘束速度とリファレンス拘束速度との誤差を低減する調整量である。
【0046】
次に、式(5)に式(6)を代入する。すなわち、目標操舵角δは以下に示す式(7)で演算される。
【0047】
【数8】

【0048】
目標操舵角演算部25は、式(7)から求めた目標操舵角δを指示電流演算出力部26に入力する。
【0049】
ステップC105では、指示電流演算出力部26により指示電流iautoが算出される。ここで、目標操舵角δは、以下の式(8)に示すように、指示電流iautoと二次遅れ系の関係がある。指示電流演算出力部26は、この式(8)に基づいて指示電流iautoを算出する。
【0050】
【数9】

【0051】
ステップC106では、C105で算出された指示電流iautoが、指示電流演算出力部26からアクチュエータ15のコントロールバルブ15cに出力されて、本制御はリターンされる。
【0052】
次に、本実施形態の自動走行制御装置10による作用について説明する。
【0053】
車両が曲線路を走行する場合、カメラ11により撮像された車両前方の路面の撮像画像に基づいて、目標走行ラインが設定されると共に、目標走行ラインに対する車両の現在の距離である偏差y(横位置)と、この偏差yを時間微分した偏差微分y’(横速度)が算出される。さらに、ストロークセンサ14の検出値(変位量D)に基づいて、車両の重量としての車両重量Mが算出される。
【0054】
その後、これら偏差y、偏差微分y’、車両重量M、操舵角θ、前輪コーナリングパワーKfに基づいて、車両を目標走行ラインに沿って安定して走行させるための目標操舵角δが算出される。この時、本実施形態の自動走行制御装置10によれば、車両の動特性及び重心変化を考慮しない場合のリファレンスコーナリングパワーKfrefが算出されると共に、車両の動特性の変化の影響を低減すべく、設計パラメータμが調整される。
【0055】
すなわち、車両重量M及び、この車両重量Mに対するリファレンスコーナリングパワーKfrefに応じて、設計関数のリファレンス拘束速度と実拘束速度との差により設計パラメータμを調整することで、車両を目標走行ラインに沿って走行させるための最適な目標操舵角δが算出されることになる。
【0056】
したがって、曲率推定等を行うことなく、動特性が大きく変化した場合においても目標操舵角δを精度良く算出することが可能となり、車両を目標走行ラインに沿って安定して自動走行させることができる。
【0057】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0058】
例えば、上述の実施形態において、目標走行ラインと偏差y(横位置)とは、カメラ11の撮像画像に基づいて設定もしくは算出されるものとして説明したが、GPS衛星から送信される位置情報を受信して、この位置情報に基づいて設定もしくは算出してもよい。
【0059】
この場合も上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 自動走行制御装置
11 カメラ(道路情報検出手段)
12 操舵角センサ
13 トルクセンサ
14 ストロークセンサ(車両重量演算手段)
20 ECU
21 車両重量演算部(車両重量演算手段)
22 目標走行ライン設定部
23 偏差演算部
24 偏差微分演算部
25 目標操舵角演算部(目標操舵角演算手段)
26 指示電流演算出力部(自動操舵電流演算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方の道路情報を検出する道路情報検出手段と、
検出された前記道路情報に基づいて、車両の目標走行ラインを設定する目標走行ライン設定手段と、
検出された前記道路情報と、設定された前記目標走行ラインとに基づいて、該目標走行ラインに対する車両の横方向相対位置を検出する相対位置検出手段と、
車両のサスペンションの変位量から車両重量を算出する車両重量演算手段と、
検出された前記横方向相対位置と、算出された前記車両重量と、該車両重量に応じて設定される車両前輪のコーナリングパワーとに基づいて、車両を前記目標走行ラインに沿って走行させるためのステアリングの操舵角を目標操舵角として算出する目標操舵角演算手段と、
算出された前記目標操舵角に基づいて自動操舵電流を算出する自動操舵電流演算手段と、
算出された前記自動操舵電流に応じて、前記ステアリングを前記目標操舵角に回動させるアクチュエータと、を備える
ことを特徴とする車両の自動走行制御装置。
【請求項2】
前記目標操舵角演算手段は、
前記コーナリングパワーを、車両の動特性及び重心変化を考慮しない時の前記車両重量に対する関係に基づいて算出されるリファレンスコーナリングパワーとして設定する請求項1に記載の車両の自動走行制御装置。
【請求項3】
前記目標操舵角演算手段は、
前記横方向相対位置及び該横方向相対位置を時間微分した横方向相対速度を含む設計関数から、該設計関数のリファレンス拘束速度と実拘束速度との差で設計パラメータを調整することで、前記車両重量及び前記コーナリングパワーの変化の影響を低減して前記目標操舵角を算出する請求項1又は2に記載の車両の自動走行制御装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−23051(P2013−23051A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158916(P2011−158916)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】