説明

車両の衝突対応構造

【課題】衝突時に燃料系が破損することを抑制できる車両の衝突対応構造を提供する。
【解決手段】車体の前部に形成されたエンジンルームにエンジン30が収容されている。エンジン30は、シリンダブロック35やシリンダヘッド36を有するエンジン本体37と、燃料系40とを含んでいる。エンジン本体37は、エンジンマウント50によって、車体に支持されている。エンジン本体37に衝突対応ブラケット70が取付けられている。衝突対応ブラケット70は、エンジンマウント50の前方に位置している。衝突対応ブラケット70の前壁部71は、燃料系40よりも車両前方に位置している。衝突時にエンジンルームの前方から衝突物が進入してくると、衝突荷重が衝突対応ブラケット70を介してエンジンマウント50付近に伝わり、エンジンマウント50が破壊されることにより、エンジン本体37が後方に移動可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンと燃料系を備えた車両の衝突対応構造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料を使用するエンジンが搭載された車両(自動車)の衝突を想定した場合、燃料系の損傷を最小限度に抑えることができるように、燃料系を保護する構造を採用することが望まれる。例えばトラック等の大形車両に後続の車両が追突した場合、車体の前部が変形することにより、シリンダヘッド付近に配置されている燃料系が衝突物によって破損する可能性がある。あるいはオフセット衝突(ラップ衝突)を想定した場合も、車両前方から進入してくる衝突物によってエンジンルームが変形することにより、シリンダヘッド付近に配置されている燃料系が破損することが考えられる。
【0003】
燃料系を保護する手段として、例えば下記の特許文献1に記載されているように、燃料噴射弁の近傍に突起等の保護部材を設けることにより、衝突物から燃料分配管を保護することが提案されている。あるいは特許文献2に記載されているように、衝突時にサージタンクの移動を抑制するために、サージタンクの近傍に移動抑制部材を配置することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4001848号公報
【特許文献2】特開2010−138866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
衝突の際に車両前方から入力する荷重によりエンジンルームが変形すると、衝突物がエンジンに向かって進入してくる。一方、シリンダブロックやシリンダヘッドなどからなるエンジン本体は実質的に剛体であり、エンジンマウントによって車体の所定位置に保持されているため、衝突物がエンジン本体に向かって移動してくると、シリンダヘッドの車両前側に取付けられている燃料分配管などの燃料系が、エンジン本体と衝突物との間に挟まれて変形し、燃料系が破損することが考えられる。
【0006】
衝突時に入力する荷重はかなり大きいことが予想されるため、特許文献1に記載されているような保護部材あるいは特許文献2に記載されているような移動抑制部材をエンジン本体に装着したとしても、衝突の際に入力する大荷重に保護部材や移動抑制部材が耐え切れずに変形し、燃料系が破損するおそれがある。
【0007】
従って本発明の目的は、衝突時に燃料系が破損することを抑制できる車両の衝突対応構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両の衝突対応構造は、車体の前部のエンジンルームに収容されかつエンジンマウントによって前記車体に支持されたエンジン本体と、前記エンジン本体に燃料を供給する燃料系と、前記エンジン本体に固定されかつ前記エンジンマウントの前方に位置するとともに少なくとも一部が前記燃料系よりも前記車体の前方に突き出る衝突対応ブラケットとを備えている。
【0009】
前記衝突対応ブラケットの一例は、前記燃料系よりも前記車体の前方に位置しかつ上下方向に延びる前壁部と、前記前壁部につながり前記エンジン本体または前記エンジンマウントに形成される固定部とを有している。また前記衝突対応ブラケットは、前記前壁部から該衝突対応ブラケットの前後方向中間部に向かって上下方向の幅が小さくなってゆく形状をなし、かつ、前記前壁部の上下方向の幅が前記固定部の上下方向の幅よりも大きくてもよい。さらに前記衝突対応ブラケットは、前記エンジンルーム内に配索されたハーネスを支持するための保持部材を取付けることが可能な取付部を有していてもよいし、前記エンジンに付設されるエンジン部品を取付けることが可能なボス部を有していてもよい。
【0010】
また本発明に係る衝突対応構造を備えた車両は、車高調整可能なフロントサスペンションと、前方車両を検出するモニタ装置と、前記前方車両との間の距離が所定値以下となって追突が予想された状態において前記衝突対応ブラケットの少なくとも一部が前方車両のリヤバンパの路面からの高さ以上となるように車体の前部を高くする方向に前記フロントサスペンションを駆動する制御手段を有していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の衝突対応ブラケットを備えた衝突対応構造によれば、車両の衝突時に車体前方からエンジンルームに進入してくる衝突物による荷重が衝突対応ブラケットを介してエンジンマウント付近に入力し、エンジンマウントが変形あるいは破壊されることにより、エンジン本体が後方に移動できるようになる。このため前方からエンジンルーム内に進入してくる衝突物によって燃料系が潰れるなどの破損を抑制できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る衝突対応構造を有する車両の前部の平面図。
【図2】図1に示された車両に搭載されたエンジンの一部の側面図。
【図3】図1に示された車両のエンジンの一部を前方から見た斜視図。
【図4】図1に示された車両のエンジンマウントを一部断面で示す平面図。
【図5】図1に示された車両に設ける衝突対応ブラケットの側面図。
【図6】図5に示された衝突対応ブラケットの斜視図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る衝突対応構造を有する車両と、前方車両の一部の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の第1の実施形態に係る車両の衝突対応構造について、図1から図6を参照して説明する。
図1は衝突対応構造を有する車両(自動車)の車体10の前部を示す平面図である。図1中の矢印Aが車両前方、矢印Bが車両後方、矢印Cが車体の幅方向を示している。
【0014】
車体10の前部は、車体骨格部材の一例である左右一対のサイドメンバ11,12と、フロントクロスメンバ13と、カウルトップ部材14と、ラジエータサポート15と、フェンダエプロン部を含むストラットハウス部材16などによって構成されている。車体10の内側にエンジンルーム20が形成されている。
【0015】
エンジンルーム20に、エンジン30とトランスミッション31が収容されている。図2等に示されるように、エンジン30は、シリンダブロック35およびシリンダヘッド36を含むエンジン本体37と、エンジン本体37の車両前側に配置された吸気マニホールド38と、エンジン本体37の車両後側に配置された排気マニホールド39と、燃料系40などを備えている。吸気マニホールド38は吸気系の一部をなしている。排気マニホールド39は排気系の一部をなしている。
【0016】
燃料系40は、エンジン本体37の各気筒内に燃料を噴射するインジェクタ41や燃料分配管42を含み、エンジン本体37の車両前側において、シリンダヘッド36と吸気マニホールド38との間に配置されている。またエンジンルーム20内には、エンジン30を運転するのに必要な補機類(例えば図2に示すオルタネータやプーリ等のエンジン部品45,46,47)およびハーネス(電線の束)48等も配置されている。
【0017】
図1に示すようにエンジン本体37は車体10の幅方向の中央を境に一方側に片寄った位置に配置されている。このため保護すべき燃料系40は、車体10の幅方向の一方側に片寄った位置に配置されている。これに対しトランスミッション31は、車体10の幅方向の他方側に片寄った位置に配置されている。トランスミッション31とエンジン本体37とは互いに結合されている。
【0018】
エンジン本体37は、エンジンマウント50によって、車体10の幅方向の一方側に位置する車体骨格部材(例えばサイドメンバ12)に支持されている。トランスミッション31は、トランスミッションマウント51によって、車体10の幅方向の他方側に位置する車体骨格部材(例えばサイドメンバ11)に支持されている。図2と図3に示すように、シリンダブロック35の側面に、エンジンマウント50を取付けるためのマウント取付部55が形成されている。マウント取付部55は、エンジン本体37と一体のものもあるし、エンジン本体37とは別体に形成されてボルト等によりエンジン本体37に取付けられているものもある。
【0019】
図4は、エンジンマウント50の一例を示している。エンジンマウント50は、円筒形のハウジング60の内側にゴム等の弾性体61が収容されたインシュレータ62と、ハウジング60に固定されたベース部材63,64と、インシュレータ62を軸線方向に貫通する軸部材65と、軸部材65の両端が固定された支持部材66などによって構成されている。ベース部材63,64は、ボルト67(図2に示す)によって、車体10に固定されている。支持部材66は、ボルト68によって、エンジン本体37のマウント取付部55に固定されている。インシュレータ62は、エンジン30の運転中に生じる振動等が車体10に伝わることを抑制する機能を有している。
【0020】
図1および図3に示されるように、エンジンルーム20内の車体幅方向の一方側、すなわちエンジンマウント50側に衝突対応ブラケット70が設けられている。この衝突対応ブラケット70は、本実施形態では、後述するようにエンジン本体37に取付けられている。図5と図6とは、それぞれ衝突対応ブラケット70の側面図と斜視図である。衝突対応ブラケット70は、例えばアルミニウム合金からなるダイキャスト成形品であり、上下方向に延びる前壁部71と、ボス部72,73,74を含む後壁部(固定部)75と、取付部80,81を含む上壁部82と、ボス部85,86を含む下壁部87などを含んでいる。固定部として機能する後壁部75は前壁部71につながっている。
【0021】
衝突対応ブラケット70の後壁部75は、ボス部72,73の孔72a,73aに挿入されるボルト90,91(図3に示す)によって、エンジン本体37のシリンダブロック35に固定されている。なお、衝突対応ブラケット70は、ボルト90又は91でマウント取付部55に固定されていても良い。
【0022】
後壁部75の下端付近のボス部74には、ボルト92(図2に示す)によって、エンジン本体37に付設されるエンジン部品47が取付けられている。上壁部82に設けられた取付部80,81には、クリップ等の保持部材96,97(図2に示す)を介して、エンジンルーム20内に配索されたハーネス48が支持されている。下壁部87に形成されたボス部85,86には、ボルト98,99によって、エンジン部品45,46が取付けられている。
【0023】
衝突対応ブラケット70がエンジン本体37に取付けられた状態において、衝突対応ブラケット70の一部である前壁部71は、燃料系40よりも車両前方に突き出ている。言い換えると、衝突対応ブラケット70の前壁部71の後側に、燃料系40が配置されている。しかも衝突対応ブラケット70の後壁部75は、エンジンマウント50の近傍において、エンジン本体37のシリンダブロック35に固定されている。
【0024】
このように、エンジンマウント50の前方に衝突対応ブラケット70が配置され、かつ、衝突対応ブラケット70の前壁部71とシリンダヘッド36との間に燃料系40が配置されている。車体10の上方から見て、車体10の幅方向の一方側(エンジン30側)が潰れるオフセット衝突を想定した場合に、エンジンルーム20内に進入してくる衝突物が衝突対応ブラケット70の前壁部71に衝突することにより、その衝突荷重が衝突対応ブラケット70を介して、エンジン本体37のエンジンマウント50付近に伝達されることになる。
【0025】
図5に示すように衝突対応ブラケット70は、車両の側面方向から見て、前壁部71が最も広く、前後方向の中間部70aがくびれた形状となっている。すなわちこの衝突対応ブラケット70は、前壁部71から前後方向中間部70aに向かって上下方向の幅Wが小さくなってゆく形状をなし、かつ、中間部70aから後壁部75に向かって上下方向の幅Wが漸増する形状となっている。前壁部71の上下方向の幅は後壁部75の上下方向の幅よりも大きい。しかも衝突対応ブラケット70の側面には、衝突時に入力する前後方向の荷重に対する剛性を高めるために、リブ状の補強部70bが形成されている。
【0026】
このような形状をなす衝突対応ブラケット70は、面積の広い前壁部71に入力した衝突荷重を、中間部70aと後壁部75とを介してマウント取付部55付近に効率良く伝達することができ、衝突荷重をエンジンマウント50付近に集中させることができる。
【0027】
ここで、衝突対応ブラケット70を備えた車両が、例えばトラック等の大形車両に追突した場合を想定する。追突によって車体10の前面が変形すると、追突相手の前方車両のリヤバンパ等の衝突物がエンジンルーム20内に進入してくることにより、衝突対応ブラケット70の前壁部71に衝突荷重が入力する。衝突対応ブラケット70に入力した衝突荷重は、後壁部75を介してエンジン本体37のエンジンマウント50付近に伝わるため、エンジン本体37と比較して剛性の小さいエンジンマウント50が破壊される。
【0028】
エンジンマウント50が破壊されると、エンジン本体37が車両後方に移動することができるようになる。このため、エンジン本体37に取付けられている燃料系40も車両後側に移動する。このためエンジンルーム20内に進入してきた衝突物によって燃料系40が破壊されることが抑制され、燃料漏れの発生を回避できる。
【0029】
しかも本実施形態の衝突対応構造では、燃料系40の近傍に配索されるハーネス48が衝突対応ブラケット70の取付部80,81に設けた保持部材96,97によって支持されている。このため、衝突時にハーネス48が衝突対応ブラケット70と共に車両後方に移動することが許容され、ハーネス48が過度に引っ張れて引きちぎられるなどの破損を抑制できるものである。
【0030】
また衝突対応ブラケット70の一部であるボス部74,85,86を利用して、オルタネータやプーリ等のエンジン部品45,46,47を組付けることができるため、エンジンルーム20内に設ける補機類のためのブラケット類の数を減らすことが可能である。
【0031】
図7は本発明の第2の実施形態に係る衝突対応構造を備えた車両100を示している。この車両100は、衝突対応ブラケット70と、前方を監視するモニタ装置101と、車高を変えることができるフロントサスペンション102およびリヤサスペンション103と、これらサスペンション102,103の高さを制御するコントローラ(制御手段)104などを有している。衝突対応ブラケット70の構成は第1の実施形態(図1〜図6)と共通である。
【0032】
この車両100は、モニタ装置101によって前方車両110のバンパ付近を監視し、前方車両110までの距離が所定値以下になったことが検出されたとき、すなわち追突が予想された状態において、衝突対応ブラケット70の前壁部71の少なくとも一部の路面Gからの高さH1が、前方車両110のリヤバンパ111の路面Gからの高さH2(例えば50cm)よりも大きくなるように、コントローラ104から出力する信号によってフロントサスペンション102を伸び側(図7に矢印Fで示す)に駆動する。
【0033】
すなわち第2の実施形態の車両100は、通常の走行時に衝突対応ブラケット70の地上からの高さが前方車両110のリヤバンパ111の高さよりも小さい場合に、追突直前に車両100の前部の高さを大きくすることにより、万一の衝突の直前に衝突対応ブラケット70の高さを前方車両110のリヤバンパ111の高さに合わせるようしている。
【0034】
こうすることにより、衝突荷重をエンジンマウント50付近に集中させ、エンジンマウント50を破壊させるとともに、エンジン本体37を車両後方に退避させることができる。このため大形車両のリヤバンパ111の下側に車両100の前部が潜り込むことによる燃料系40の損傷を抑制することが可能である。なお、フロントサスペンション102の車高を変化させる機構として、例えば流体式の可変ストラット以外に、電動アクチュエータあるいは火薬式アクチュエータが採用されてもよい。
【0035】
本発明を実施するに当たり、車体やエンジンをはじめとして、エンジンマウントや衝突対応ブラケット等の発明の構成要素の具体的な形状や配置を種々に変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0036】
10…車体
20…エンジンルーム
30…エンジン
37…エンジン本体
40…燃料系
50…エンジンマウント
70…衝突対応ブラケット
71…前壁部
75…後壁部(固定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部のエンジンルームに収容されかつエンジンマウントによって前記車体に支持されたエンジン本体と、
前記エンジン本体に燃料を供給する燃料系と、
前記エンジン本体に固定されかつ前記エンジンマウントの前方に位置するとともに、少なくとも一部が前記燃料系よりも前記車体の前方に突き出る衝突対応ブラケットと、
を具備したことを特徴とする車両の衝突対応構造。
【請求項2】
前記衝突対応ブラケットは、前記燃料系よりも前記車体の前方に位置しかつ上下方向に延びる前壁部と、
前記前壁部につながり前記エンジン本体または前記エンジンマウントに固定される固定部とを有していることを特徴とする請求項1に記載の車両の衝突対応構造。
【請求項3】
前記衝突対応ブラケットは、前記前壁部から該衝突対応ブラケットの前後方向中間部に向かって上下方向の幅が小さくなってゆく形状をなし、かつ、前記前壁部の上下方向の幅が前記固定部の上下方向の幅よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の衝突対応構造。
【請求項4】
前記衝突対応ブラケットは、前記エンジンルーム内に配索されたハーネスを支持するための保持部材を取付けることが可能な取付部を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両の衝突対応構造。
【請求項5】
前記衝突対応ブラケットは、前記エンジン本体に付設されるエンジン部品を取付けることが可能なボス部を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両の衝突対応構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−131262(P2012−131262A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283100(P2010−283100)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】