説明

車両の駆動力制御装置

【課題】伝達トルク容量の大容量化と加速性能の向上を両立させるとともに、流体伝動機構による振動の増幅を防止することができる車両の駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】駆動力源と、駆動力源の出力軸の回転速度を変速する変速機構と、変速機構を介して入力部材に入力される前記出力トルクを流体を介して出力部材から駆動軸側へ伝達する流体伝動機構とを備えた車両の駆動力制御装置において、前記駆動力源の出力軸の回転速度を検出する駆動力源回転速度検出手段(ステップS11)と、前記駆動力源で発生する振動の振動数を検出する振動検出手段(ステップS11)と、前記出力軸の回転速度および前記振動の振動数に基づいて、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により減速もしくは増速する回転速度変速手段(ステップS12〜S15)とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トルクコンバータや流体継手などの流体伝動機構を介して駆動力源から出力部材側に伝達させる駆動力を制御する車両の駆動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータは、駆動力源の出力トルクを入力部材と出力部材との速度比に応じて増幅して出力することが可能な流体伝動機構の一種であって、発進を容易にすること、また低速時に駆動力を増大することができるので、従来、自動変速機を搭載した車両などに広く採用されている。近年注目されている無段変速機を搭載した車両やハイブリッド車などにおいても、発進性能や低速時の走行性能を確保するためにトルクコンバータが用いられている。その一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載された発明は、エンジンと、エンジンのクランクシャフトに接続された3軸式の動力分配統合機構と、動力分配統合機構に接続された第1のモータと、動力分配統合機構に接続された動力軸としてのリングギヤ軸と駆動輪にデファレンシャルギヤを介して連結された駆動軸とに接続されたロックアップ付きのトルクコンバータと、減速ギヤを介して駆動軸に動力を出力するよう取り付けられた第2のモータとを備えた車両であって、低車速高アクセル開度の領域でトルクコンバータのロックアップクラッチを解放するように構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、入力要素および反力要素ならびに出力要素を有する第1の遊星機構と、入力要素に連結されたエンジンと、反力要素に連結されたモータとを有するハイブリッド駆動装置であって、エンジンおよび入力要素が動力伝達可能に連結された第1回転部材と、出力要素が動力伝達可能に連結された第2回転要素との間に、それら第1回転要素と第2回転要素との間で流体の運動エネルギにより動力伝達を行うとともに、伝達するトルクを増幅することが可能なトルクコンバータが設けられた構成のハイブリッド駆動装置に関する発明が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、エンジンの出力側に設けられた遊星ギアユニットのリングギアおよびピニオンギアならびにサンギアのいずれかがこの遊星ギヤユニットの入力軸に接続され、かつそれ以外のギアのいずれかが出力軸に接続されるとともに、遊星ギアユニットに、遊星ギアを構成する3つのギアのうち少なくとも2つを連結可能に構成されたクラッチと、入力軸または出力軸が接続された2つのギアを除く第3のギアの回転を規制するためのブレーキとが設けられ、更に、この第3のギアに対して所定の慣性モーメントを生じさせる回転質量体が結合された構成の車両の動力伝達装置に関する発明が記載されている。
【0006】
そして、特許文献4には、エンジンと、モータジェネレータと、ロックアップ機構付きトルクコンバータとを備えたハイブリッド車両の制御装置であって、エンジンのクランクシャフトにモータジェネレータが連結され、モータジェネレータの出力軸と自動変速機のメインシャフトとの間にトルクコンバータが配置され、それらモータジェネレータの出力軸と自動変速機のメインシャフトとを選択的に締結するロックアップクラッチが設けられた構成のハイブリッド車両の制御装置に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−239063号公報
【特許文献2】特開2009−1125号公報
【特許文献3】特開2008−75688号公報
【特許文献4】特開2006−151306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の各特許文献に記載されているように、駆動力源の出力側にトルクコンバータを設けることにより、駆動力源の出力トルクがトルクコンバータにより増幅されて出力されるので、例えば車両の発進時などの低車速領域で大きな駆動力を得ることができ、その結果、車両の動力性能を向上させることができる。また、トルクコンバータは、その容量係数が大きいほど伝達トルク容量が大きくなり、したがって容量係数の大きなトルクコンバータを適用することにより高出力の駆動力源にも対応することができる。
【0009】
しかしながら、トルクコンバータは、その容量係数が大きいほど、反対にトルク増幅作用の応答性が低くなるといった容量係数特性を有している。そのため、従来のトルクコンバータを搭載した車両においては、伝達トルク容量を増大しようとすると、トルクコンバータの応答性が低くなって車両の加速性能が低下してしまうことになり、それら伝達トルク容量の大容量化と加速性能の向上とを両立させることが困難であった。
【0010】
さらに、トルクコンバータや流体継手は、ねじり振動を減衰させる作用があり、ねじり振動に対するいわゆるダンパとして機能している。その反面、例えば図4に示すように、所定の低周波数領域の振動に対してはそれを増幅して伝達するといった振動伝達特性を有している。これに対して、上記の各特許文献に記載されているようなトルクコンバータを備えた従来の車両では、そのようなトルクコンバータの振動伝達特性について考慮されておらず、例えば車両の発進時に、駆動力源で生じた低周波数の振動が増幅されて車両全体に伝播されてしまうおそれがある。
【0011】
このように、トルクコンバータや流体継手などの流体伝動機構を搭載した車両においては、伝達トルク容量の大容量化と加速性能の向上との相反する2つの技術を両立させるため、あるいは低周波数領域での流体伝動機構による振動の増幅を防止もしくは抑制して駆動力を適切に制御するためには、未だ改良の余地があった。
【0012】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、トルクコンバータや流体継手などの流体伝動機構を搭載した車両において、伝達トルク容量の大容量化と加速性能の向上との相反する2つの技術を両立させるとともに、低周波数領域での流体伝動機構による振動の増幅を防止もしくは抑制して駆動力を適切に制御することができる車両の駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、駆動力源と、その駆動力源の出力軸の回転速度を変速する変速機構と、その変速機構を介して入力部材に入力される前記駆動力源の出力トルクを流体を介して出力部材から駆動軸側へ伝達する流体伝動機構とを備えた車両の駆動力制御装置において、前記駆動力源の出力軸の回転速度を検出する駆動力源回転速度検出手段と、前記駆動力源で発生する振動の振動数を検出する振動検出手段と、前記駆動力源回転速度検出手段により検出された前記出力軸の回転速度および前記振動検出手段により検出された前記振動の振動数に基づいて、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により減速もしくは増速する回転速度変速手段とを備えていることを特徴とする装置である。
【0014】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記回転速度変速手段が、前記出力軸の回転速度と前記振動の振動数とから求まる前記出力軸1回転当たりの振動数が閾値として予め定めた第1所定値以下の場合に、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により減速する手段を含むことを特徴とする装置である。
【0015】
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記回転速度変速手段が、前記出力軸の回転速度と前記振動の振動数とから求まる前記出力軸1回転当たりの振動数が閾値として予め定めた前記第1所定値よりも大きな第2所定値以上の場合に、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により増速する手段を含むことを特徴とする装置である。
【0016】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記流体伝動機構が、前記入力部材と前記出力部材とを機械的に連結可能なロックアップクラッチを備えたトルクコンバータを含み、前記入力部材の回転速度および前記出力部材の回転速度を検出するトルクコンバータ回転速度検出手段を更に備え、前記回転速度変速手段が、前記ロックアップクラッチにより前記入力部材と前記出力部材とを連結する際に、前記トルクコンバータ回転速度検出手段により検出された前記入力部材の回転速度と前記出力部材の回転速度との差が閾値として予め定めた第3所定値以下の場合に、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により増速する手段を含むことを特徴とする装置である。
【0017】
また、請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記車両が、前記流体伝動機構と前記駆動軸との間に、前記流体伝動機構の出力部材の回転速度を変速して前記駆動軸側に出力する自動変速機を更に備え、前記回転速度変速手段が、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により減速するとともに前記出力部材の回転速度を前記自動変速機により増速するように、もしくは前記出力軸の回転速度を前記変速機構により増速するとともに前記出力部材の回転速度を前記自動変速機により減速するように、前記変速機構と前記自動変速機とを協調させて制御する手段を含むことを特徴とする装置である。
【0018】
そして、請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記回転速度変速手段が、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により減速する分前記出力部材の回転速度を前記自動変速機により増速するように、もしくは前記出力軸の回転速度を前記変速機構により増速する分前記出力部材の回転速度を前記自動変速機により減速するように、前記変速機構と前記自動変速機とを協調させて制御する手段を含むことを特徴とする装置である。
【発明の効果】
【0019】
したがって、請求項1の発明によれば、駆動力源の出力軸の回転速度と、駆動力源のねじり振動もしくはトルク変動による振動の振動数とが検出される。そして、それら検出された出力軸の回転速度および振動の振動数に基づいて、駆動力源と流体伝動機構との間に設けられた変速機構によって駆動力源の出力軸の回転速度が適宜に減速もしくは増速され、その出力軸から出力される出力トルクが流体伝動機構に入力される。したがって、例えば車両の走行状態や流体伝動機構の特性に応じた適切な回転速度もしくは回転速度領域で流体伝動機構を回転させることができる。そのため、駆動力源の出力トルクを駆動軸側へ適切に伝達することができ、車両の駆動力を適切に制御することができる。
【0020】
また、請求項2の発明によれば、駆動力源の出力軸の回転速度と、駆動力源のねじり振動もしくはトルク変動による振動の振動数とが検出され、それら検出された出力軸の回転速度と振動の振動数とから、駆動力源の出力軸1回転当たりの振動数が算出される。一般に、例えばトルクコンバータや流体継手などの流体伝動機構は、所定の低周波数領域の振動が入力されるとその低周波振動を増幅して出力するといった振動伝達特性を有している。したがって、求められた駆動力源の出力軸1回転当たりの振動数が、例えば出力軸で生じている振動が流体伝動機構で増幅される所定の低周波数領域内の振動であるか否かを判断するための閾値として設定した第1所定値以下であった場合には、出力軸の振動が流体伝動機構で増幅される可能性があると判断して、駆動力源の出力軸の回転速度が変速機構により減速され、その出力軸から出力される出力トルクが流体伝動機構に入力される。その結果、流体伝動機構の入力部材1回転当たりの振動数としては増大することになり、流体伝動機構に伝達される振動の振動数が、振動が増幅される可能性のある所定の低周波数領域外の値になる。そのため、流体伝動機構で振動が増幅されることを回避もしくは抑制し、駆動力源の出力トルクを駆動軸側へ適切に伝達することができる。また、駆動力源の出力トルクの回転速度が変速機構により減速されて流体伝動機構に入力されることにより、原動機側からみた流体伝動機構の容量係数が小さくなり、その結果、流体伝動機構における動力伝達の応答性が良くなり、車両の加速性能を向上させることができる。
【0021】
また、請求項3の発明によれば、駆動力源の出力軸の回転速度と、駆動力源のねじり振動もしくはトルク変動による振動の振動数とが検出され、それら検出された出力軸の回転速度と振動の振動数とから、駆動力源の出力軸1回転当たりの振動数が算出される。そして、求められた駆動力源の出力軸1回転当たりの振動数が、例えば流体伝動機構の回転が安定する定常回転状態であるか否か、あるいは車両が定常走行状態であるか否かを判断するための閾値として設定した第2所定値以上であった場合には、流体伝動機構が定常回転状態である、あるいは車両が定常走行状態であると判断して、駆動力源の出力軸の回転速度が変速機構により増速され、その出力軸から出力される出力トルクが流体伝動機構に入力される。すなわち、流体伝動機構には、変速機構により低下させられたトルクが入力されることになる。その結果、駆動力源側からみた流体伝動機構の容量係数すなわち伝達トルク容量が大きくなり、したがって流体伝動機構の体格を大型化することなく、伝達トルク容量の大容量化を図ることができる。なお、ここで閾値として設定される第2所定値は、制御の干渉を防止するために、上記の第1所定値よりも大きな値に設定される。
【0022】
また、請求項4の発明によれば、流体伝動機構がロックアップクラッチ付きのトルクコンバータにより構成される。そして、そのロックアップクラッチの係合制御が実行される際には、トルクコンバータの入力部材の回転速度と出力部材の回転速度との差が算出され、その回転速度差が、例えばロックアップクラッチにおける摩擦材の摩擦特性の不安定領域内に相当する値であるか否かを判断するための閾値として設定した第3所定値以下であった場合には、上記の回転速度差がロックアップクラッチにおける摩擦材の摩擦特性の不安定領域内に相当する値であると判断し、すなわち、ロックアップクラッチの係合がその摩擦材の摩擦特性の不安定領域内で実行されると判断して、駆動力源の出力軸の回転速度が変速機構により増速され、その出力軸から出力される出力トルクが流体伝動機構に入力される。その結果、上記の回転速度差が大きくなるので、ロックアップクラッチの係合がその摩擦材の摩擦特性の不安定領域外の安定領域で実行されることになり、ロックアップクラッチが係合される際に振動等が発生することを回避もしくは抑制することができる。また、駆動力源の出力軸の回転速度が変速機構により増速されることにより、トルクコンバータおよびロックアップクラッチには、変速機構により低下させられたトルクが入力されることになり、例えば油圧などのロックアップクラッチを係合させるための力も小さくて済む。そのため、駆動力源の出力トルクを駆動軸側へ安定して伝達することができる。
【0023】
また、請求項5の発明によれば、駆動力源の出力軸の回転速度が変速機構により減速もしくは増速される場合には、流体伝動機構の出力部材の回転速度が、自動変速機により増速もしくは減速される。すなわち、変速機構と自動変速機とが協調制御されて、駆動力源の出力軸の回転速度が変速機構により減速される場合には、流体伝動機構の出力部材の回転速度が、自動変速機により増速され、また、駆動力源の出力軸の回転速度が変速機構により増速される場合には、流体伝動機構の出力部材の回転速度が、自動変速機により減速される。そのため、変速機構により駆動力源の出力トルクの回転速度を変速する際に、自動変速機で設定される車両全体として要求される変速比を維持して、安定した車両の走行状態を確保することができる。
【0024】
そして、請求項6の発明によれば、変速機構と自動変速機とが協調制御されて、駆動力源の出力軸の回転速度が変速機構により減速される場合には、流体伝動機構の出力部材の回転速度が、駆動力源の出力軸の回転速度の減速分だけ自動変速機により増速され、また、駆動力源の出力軸の回転速度が変速機構により増速される場合には、流体伝動機構の出力部材の回転速度が、駆動力源の出力軸の回転速度の増速分だけ自動変速機により減速される。そのため、変速機構により駆動力源の出力トルクの回転速度を変速する際に、自動変速機で設定される車両全体として要求される変速比を確実に維持して、より安定した車両の走行状態を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の駆動力制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明の駆動力制御装置による他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【図3】この発明の制御装置を適用可能な車両の駆動系統および制御系統を模式的に示す概念図である。
【図4】この発明の駆動力制御装置で用いられるトルクコンバータの振動伝達特性を説明するための模式図である。
【図5】この発明の駆動力制御装置で用いられるトルクコンバータに備え付けられるロックアップクラッチの摩擦係数特性を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図3は、この発明で制御の対象とする車両Veの駆動系統および制御系統の構成を説明する図である。図3において、符号1はこの発明における駆動力源であり、この発明においては、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関あるいは電動機などが用いられる。なお、以下の説明では、駆動力源1をエンジン(ENG)1と記す。
【0027】
エンジン1の出力側に、この発明における変速機構に相当する変速機2が連結されていて、変速機2の出力側には、この発明における流体伝動機構に相当するトルクコンバータ3が連結されている。そしてトルクコンバータ3の出力側に、自動変速機(AT)4が連結されている。すなわち、エンジン1の出力軸1oと変速機2の入力軸(図示せず)とが動力伝達可能に連結されていて、変速機2の出力軸2oとトルクコンバータ3の入力部材(具体的には入力軸3iおよびポンプインペラー3p)とが動力伝達可能に連結されている。そしてトルクコンバータ3の出力部材(具体的には出力軸3oおよびタービンランナー3t)と自動変速機4の入力軸(図示せず)とが動力伝達可能に連結されている。
【0028】
そして、自動変速機4の出力側には、例えばプロペラシャフトやデファレンシャルなど(図示せず)を介して駆動軸5および駆動輪(図示せず)が連結されている。したがって、エンジン1の出力トルクが、変速機2およびトルクコンバータ3などを介して自動変速機4に入力され、その自動変速機4において設定される変速比に応じて増減されて、駆動トルクとして駆動軸5側へ伝達されるようになっている。
【0029】
変速機2は、エンジン1の出力トルクを変速してトルクコンバータ3へ伝達する伝動装置であり、少なくとも、エンジン1の出力トルクの回転速度を減速して出力する減速段と、エンジン1の出力トルクの回転速度を増速して出力する増速段との2段の変速段を設定できる構成となっている。この変速機2は、例えば、2組のプラネタリギヤと、プラネタリギヤの各回転要素同士を連結するクラッチおよびプラネタリギヤのいずれかの回転要素を固定するブレーキなどの締結装置とから構成することができる。あるいは、減速段を設定するギヤ比のギヤ対および増速段を設定するギヤ比のギヤ対の少なくとも2組のギヤ対と、それら各ギヤ対のいずれかを選択的に動力伝達可能な状態に設定する切り替えクラッチとから構成することもできる。
【0030】
トルクコンバータ3は、従来知られているものと同様の構成であって、入力軸3iに動力伝達可能に連結されたポンプインペラー3pと、これに対向して配置されているタービンランナー3tとを有しており、そのタービンランナー3tは出力軸3oに動力伝達可能に連結されている。そして、タービンランナー3tからポンプインペラー3pに向かうオイルの流れを制御するステータ3sが、それらポンプインペラー3pとタービンランナー3tとの間に配置されており、そのステータ3sは、ワンウェイクラッチ(図示せず)によって所定の固定部3fに連結されている。
【0031】
また、このトルクコンバータ3は、出力部材であるタービンランナー3tと入力部材であるポンプインペラー3pとを直接連結するロックアップクラッチ6を備えている。すなわち、このロックアップクラッチ6は、タービンランナー3t側にピストン(図示せず)が取り付けてあり、油圧によってこのピストンをポンプインペラー3pと一体のフロントカバー(図示せず)に押し付け、このとき発生する摩擦力により、フロントカバーすなわちポンプインペラー3pとタービンランナー3tとを機械的に締結させるものである。なお、このロックアップクラッチ6は、完全係合状態およびトルクを伝達しない完全解放状態との2つの状態以外に、滑りを伴ってトルクを伝達するスリップ係合状態にも設定できるように構成されている。
【0032】
さらに、このトルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ6が係合する際の緩衝を行うため、例えばコイルスプリングなどの弾性体からなるダンパ7を備えている。すなわち、トルクコンバータ3の入力軸3iとロックアップクラッチ6との間に、コイルスプリングなどの緩衝部材から構成されるダンパ7が設けられている。
【0033】
なお、図3に示す構成例では、トルクコンバータ3の入力軸3iとロックアップクラッチ6との間に、すなわちトルクコンバータ3の入力側に、ダンパ7が設けられた例を示しているが、トルクコンバータ3の出力側に、すなわちトルクコンバータ3の出力軸3oとロックアップクラッチ6との間に、ダンパ7が設けられた構成であってもよい。また、この発明においては、トルクコンバータ3をトルクの増幅作用のない流体継手に置き換えることもでき、その場合であってもロックアップクラッチ6を備えていることが好ましい。
【0034】
自動変速機4は、外部から指令信号により、あるいは手動操作されて変速比を大小に変化させる伝動機構であって、従来の一般的な車両に搭載されている有段式の自動変速機である。この種の自動変速機4の最も一般的な例は、複数の遊星歯車機構を備え、それらのサンギヤやキャリヤあるいはリングギヤなどの回転要素をクラッチによって選択的に連結し、あるいはその連結を解除し、またブレーキによって選択的に固定することによりトルクの伝達経路を変更して変速比(変速段)を切り替えるように構成された自動変速機である。その変速制御は、動力性能および燃費効率が可及的に良好になるように実行され、例えば、アクセル開度やエンジン出力あるいはスロットル開度などの駆動状態と、車速やタービン回転数などの走行状態とに基づいて変速比もしくは変速段を定めたマップ(変速線図)に基づいて行うように構成されている。
【0035】
そして、上記のエンジン1の運転状態、変速機2での変速状態、トルクコンバータ3に備えられたロックアップクラッチアップクラッチ6の係合・解放状態、ならびに自動変速機4の変速状態等を制御するための電子制御装置(ECU)8が設けられている。この電子制御装置8は、一例として中央演算処理装置および記憶装置ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。
【0036】
この電子制御装置7には、例えば、エンジン1の出力軸1oの回転速度を検出するエンジン回転速度センサ9、エンジン1の出力軸1oに生じるねじり振動もしくはトルク変動による振動の振動数を検出する振動センサ10、変速機2の出力軸2oの回転速度すなわちトルクコンバータ3の入力部材の回転速度を検出するトルクコンバータ回転速度センサ11、同様にトルクコンバータ3の出力部材の回転速度を検出するトルクコンバータ回転速度センサ12などの出力信号が、制御データとして入力されるようになっている。
【0037】
一方、電子制御装置8からは、上述したエンジン1の運転状態を制御するためにそのスロットル開度や燃料噴射量あるいは吸排気弁の開閉動作や点火時期などを変更する制御信号、および変速機2の変速比を変更する制御信号、およびロックアップクラッチ6の係合・解放状態を切り替える制御信号、ならびに自動変速機4の変速比を変更する制御信号などを出力するように構成されている。
【0038】
前述したように、トルクコンバータや流体継手などの流体を介して動力(トルク)を伝達する流体伝動機構を搭載した従来の車両においては、伝達トルク容量の大容量化と加速性能の向上とを両立させることが難しい、あるいは低周波数領域での振動が流体伝動機構で増幅されてしまう、といった技術的課題があった。そこで、この発明の車両の駆動力制御装置では、上記の図3に示すような駆動系統および制御系統の車両Veを対象にして、以下の制御を実行するように構成されている。
【0039】
(第1の制御例)
図1は、この発明の制御装置による第1の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1のフローチャートにおいて、先ず、エンジン1の出力軸1oの回転速度N、およびエンジン1の出力軸1oのねじれ振動もしくは出力軸1oに現れるトルク変動による振動の振動数fが検出される(ステップS11)。
【0040】
次いで、ステップS11で検出された回転速度Nと振動数fとから、エンジン1の出力軸1回転当たりの振動数Fが、
=f/N
として算出されるとともに、その振動数Fが閾値α以下であるか否かが判断される(ステップS12)。
【0041】
前述したように、トルクコンバータや流体継手などの流体伝動機構では、例えば図4に示すように、1回転当たりの振動数が小さい領域、すなわち所定の低周波数領域内では、振動の伝達率が1よりも大きくなる。すなわち、トルクコンバータ3に伝達された所定の低周波数領域内の振動は、そのトルクコンバータ3で増幅されることになる。
【0042】
それに対して、この発明では、エンジン1とトルクコンバータ3との間に、エンジン1の出力トルクの回転速度Nを減速もしくは増速してトルクコンバータ3へ伝達することができる変速機2が設けられているので、増幅される可能性がある所定の低周波数領域内の振動がトルクコンバータ3に伝達される場合であっても、その振動がトルクコンバータ3で増幅されてしまうことを回避もしくは抑制することができる。
【0043】
具体的には、上記のようにエンジン1の出力軸1oに、その出力軸1回転当たりの振動数Fの振動が生じている場合に、変速機2で設定される減速比をi(この場合、i>1)とすると、エンジン1から変速機2を介してトルクコンバータ3へ伝達される振動のトルクコンバータ(具体的には入力軸3iおよびポンプインペラー3p)1回転当たりの振動数Fは、
=i・f/N ・・・・・・・・・・(1)
として求められる。
【0044】
したがって、エンジン1で発生した振動数F(=f/N)の振動が、トルクコンバータ3で増幅される可能性がある所定の低周波数領域内の振動であったとしても、変速機2の減速比iを大きくすることにより、トルクコンバータ3へ伝達される振動数F(=i・f/N)の振動を、トルクコンバータ3で増幅される可能性がある所定の低周波数領域外の振動にすることができる。その結果、上記の低周波数領域外の振動伝達率が小さい領域でトルクコンバータ3を作動させることができ、そのトルクコンバータ3で振動が増幅されてしまうことを回避もしくは抑制することができる。
【0045】
そのために、このステップS12では、エンジン1で発生した振動数Fの振動が、トルクコンバータ3で増幅される可能性がある所定の低周波数領域内の振動であるか否かを判断するために、その振動数Fと閾値αとの大小関係を比較している。したがって、この場合に予め設定される閾値αが、この発明における第1所定値に相当している。
【0046】
このように、エンジン1の振動の振動数Fが閾値α以下であることにより、このステップS12で肯定的に判断された場合は、ステップS13へ進み、変速機2の変速比が、エンジン1の出力トルクの回転速度Nを減速させる大きさの変速比に設定される。具体的には、トルクコンバータ3に伝達される振動の振動数Fが上記の低周波数領域外となるように、変速機2の減速比iが1よりも大きな値に増大させられる、すなわち、変速機2において、その減速比iが1よりも大きくなる変速段もしくは変速比が設定される。
【0047】
ここで、トルクコンバータ3の容量係数をC、トルクコンバータ3の入力部材、すなわち入力軸3iおよびポンプインペラー3pの回転速度をNinとすると、それら入力軸3iおよびポンプインペラー3pに伝達させることが可能な入力トルクTinは、
in=C・Nin ・・・・・・・・・・(2)
となる。そして、この場合のエンジン1の出力トルクをT、エンジン1の出力軸1oの回転速度をNとすると、減速比iの変速機2を介してトルクコンバータ3に入力される上記の入力トルクTin、およびトルクコンバータ3の回転速度Ninは、それぞれ、
in=i・T ・・・・・・・・・・(3)
in=N/i ・・・・・・・・・・(4)
となる。
【0048】
上記の(2)式,(3)式,(4)式から、エンジン1の出力トルクTは、
=(C/i)・N ・・・・・・・・・・(5)
として表すことができる。この(5)式における「C/i」は、いわゆるエンジン1側からみたトルクコンバータ3の容量係数を示している。したがって、変速機2の減速比iを増大させることにより、エンジン1側からみたトルクコンバータ3の容量係数C/iが減速比iの3乗分の1に減少することになり、その結果、トルクコンバータ3のトルク増幅作用の応答性が良くなるので、車両Veの加速性能を向上させることができる。
【0049】
そして、上記のように変速機2で減速比iが増大させられるのに伴い、自動変速機4においては、変速機2で大きな減速比iが設定されてエンジン1の出力トルクTの回転速度Nが減速させられる分だけ自動変速機4に入力されるトルクの回転速度が増速するように、自動変速機4の変速比が設定される。そのため、上記のようにして変速機2によりエンジン1の出力トルクTの回転速度Nを減速する際に、走行のために自動変速機4で設定される車両Ve全体として変速比を維持することができる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0050】
一方、エンジン1の振動の振動数Fが閾値αよりも大きいことにより、前述のステップS12で否定的に判断された場合には、ステップS14へ進み、エンジン1の出力軸1回転当たりの振動数Fが閾値β以上であるか否かが判断される。この閾値βは、例えばトルクコンバータ3の回転が安定する定常回転状態であるか否か、あるいは車両Veが定常走行状態であるか否かを判断するための閾値として予め設定されたものであり、したがってこの発明における第2所定値に相当している。
【0051】
エンジン1の出力軸1回転当たりの振動数Fが閾値βよりも小さいことにより、このステップS14で否定的に判断された場合は、未だトルクコンバータ3の回転が安定する定常回転状態ではない、あるいは車両Veが定常走行状態ではないと判断されて、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
【0052】
これに対して、エンジン1の出力軸1回転当たりの振動数Fが閾値β以上であることにより、ステップS14で肯定的に判断された場合には、トルクコンバータ3の回転が安定する定常回転状態である、あるいは車両Veが定常走行状態であると判断されて、ステップS15へ進み、変速機2の変速比が、エンジン1の出力トルクTの回転速度Nを増速させる大きさの変速比に設定される。具体的には、変速機2の減速比iが1よりも小さい値に減少させられる、すなわち、変速機2において、その減速比iが1よりも小さくなる変速段もしくは変速比が設定される。
【0053】
なお、上記のステップS14では、例えばトルクコンバータ3の回転が安定する定常回転状態であるか否か、あるいは車両Veが定常走行状態であるか否かを判断するために、エンジン1の出力軸1回転当たりの振動数Fに対して閾値βを設定しているが、例えば車両Veの車速や、アクセル開度もしくはスロットル開度などの要求駆動量などの変数に対して閾値βを設定し、それらの比較結果に基づいて、上記の定常回転状態あるいは定常走行状態に関する判断を実行することもできる。
【0054】
ここで、前述の(5)式に示したように、エンジン1側からみたトルクコンバータ3の容量係数C/iは、変速機2の減速比iが小さくなるほど増大する。したがって、変速機2の減速比iを1以下に減少すること、すなわち変速機2で増速段を設定することにより、エンジン1側からみたトルクコンバータ3の容量係数C/iが減速比iの3乗倍に増大することになり、その結果、トルクコンバータ3の体格を大型化することなく、その容量係数C/i、すなわちエンジン1側からみたトルクコンバータ3の伝達トルク容量を大容量化することができる。
【0055】
そして、上記のように変速機2で減速比iが減少させられるのに伴い、自動変速機4においては、変速機2で1より小さな減速比iが設定されてエンジン1の出力トルクTの回転速度Nが増速させられる分だけ自動変速機4に入力されるトルクの回転速度が減速するように、自動変速機4の変速比が設定される。そのため、上記のようにして変速機2によりエンジン1の出力トルクTの回転速度Nを増速する際に、走行のために自動変速機4で設定される車両Ve全体として変速比を維持することができる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0056】
(第2の制御例)
図2は、この発明の制御装置による第2の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図2のフローチャートにおいて、先ず、トルクコンバータ3の入力部材すなわち入力軸3iおよびポンプインペラー3pのトルクコンバータ入力回転速度Nin、トルクコンバータ3の出力部材すなわち出力軸3oおよびタービンランナー3tのトルクコンバータ出力回転速度Nout、が検出される(ステップS21)。
【0057】
次いで、ステップS21で検出されたトルクコンバータ入力回転速度Ninとトルクコンバータ出力回転速度Noutとの偏差の絶対値が、ロックアップクラッチ6の回転速度差D(すなわち、ロックアップクラッチ6の摩擦材すべり速度)Dとして算出されるとともに、その回転速度差Dが閾値δ以下であるか否かが判断される(ステップS22)。
【0058】
前述のように、この発明におけるトルクコンバータ3は、その入力軸3iおよびポンプインペラー3pと出力軸3oおよびタービンランナー3tとを機械的に直接連結するロックアップクラッチ6が設けられている。一般に、この種トルクコンバータ3に備え付けられるロックアップクラッチ6は、例えば図5に示すように、ロックアップクラッチ6の摩擦材すべり速度Dの大小に応じて、ロックアップクラッチ6を係合させる際の入力側の摩擦材と出力側の摩擦材との間の摩擦係数がほぼ一定となる安定領域と、その摩擦係数が変動する不安定領域とに分かれて異なる挙動を示す特性がある。したがって、ロックアップクラッチ6を係合させる際には、摩擦材すべり速度Dが図5で示すような安定領域内にある状態で実行することにより、その係合を安定して実行させることができる。
【0059】
そのために、このステップS22では、ロックアップクラッチ6の回転速度差(摩擦材すべり速度)Dが、ロックアップクラッチ6の入力側の摩擦材と出力側の摩擦材との間の摩擦係数が安定する安定領域内の値であるか、もしくは摩擦係数が変動する不安定領域内の値であるかを判断するために、その回転速度差Dと閾値δとの大小関係を比較している。したがって、この場合に予め設定される閾値δが、この発明における第3所定値に相当している。
【0060】
このように、ロックアップクラッチ6の回転速度差Dが閾値δよりも大きいことにより、このステップS22で否定的に判断された場合は、未だロックアップクラッチ6の回転速度差Dが、例えば図5における不安定領域内の値であると判断されて、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
【0061】
これに対して、ロックアップクラッチ6の回転速度差Dが閾値δ以下であることにより、ステップS22で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ6の回転速度差Dが、例えば図5における安定領域内の値であると判断されて、すなわちロックアップクラッチ6の係合を安定して実行可能な状態であると判断されて、ステップS23へ進み、変速機2の変速比が、エンジン1の出力トルクTの回転速度Nを増速させる大きさの変速比に設定される。具体的には、変速機2の減速比iが1よりも小さい値に減少させられる、すなわち、変速機2において、その減速比iが1よりも小さくなる変速段もしくは変速比が設定される。
【0062】
ここで、前述の(3)式,(4)式に示したように、トルクコンバータ3の入力トルクTin、およびトルクコンバータ入力回転速度Ninは、それぞれ、「Tin=i・T」、および「Nin=N/i」である。したがって、変速機2の減速比iを1以下に減少すること、すなわち変速機2で増速段を設定することにより、トルクコンバータ3の入力トルクTinは減速比i分の1に減少し、一方、トルクコンバータ入力回転速度Ninは減速比i倍に増大する。その結果、入力トルクTinが小さくなることから、例えばロックアップクラッチ6を係合させるために必要な油圧を通常よりも低下させることができるとともに、トルクコンバータ入力回転速度Ninが大きくなることから、ロックアップクラッチ6の回転速度差Dを増大させて、ロックアップクラッチ6を、例えば図5に示す安定領域内で、安定して係合させることができる。
【0063】
そして、上記のように変速機2で減速比iが減少させられるのに伴い、自動変速機4においては、変速機2で1より小さな減速比iが設定されてエンジン1の出力トルクTの回転速度Nが増速させられる分だけ自動変速機4に入力されるトルクの回転速度が減速するように、自動変速機4の変速比が設定される。そのため、上記のようにして変速機2によりエンジン1の出力トルクTの回転速度Nを増速する際に、走行のために自動変速機4で設定される車両Ve全体として変速比を維持することができる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0064】
以上のように、この発明に係る制御装置によれば、エンジン1の出力軸1oの回転速度Nと、エンジン1のねじり振動もしくはトルク変動による振動の振動数fとが検出され、それら回転速度Nと振動数fとから、エンジン1の出力軸1回転当たりの振動数Fが算出される。そして、求められたエンジン1の出力軸1回転当たりの振動数Fが、例えば出力軸1oで生じている振動がトルクコンバータ3で増幅される所定の低周波数領域内の振動であるか否かを判断するために設定した閾値α以下であった場合には、出力軸1oの振動がトルクコンバータ3で増幅される可能性があると判断して、エンジン1の出力軸1oから出力される出力トルクTの回転速度Nが、変速機2により減速されてトルクコンバータ3に入力される。その結果、トルクコンバータ3の入力部材1回転当たりの振動数Fとしては増大することになり、トルクコンバータ3に伝達される振動の振動数が、振動が増幅される可能性のある所定の低周波数領域外の値になる。
【0065】
そのため、トルクコンバータ3で振動が増幅されることを回避もしくは抑制し、エンジン1の出力トルクTを駆動軸5側へ適切に伝達することができる。また、エンジン1の出力トルクTの回転速度Nが変速機2により減速されてトルクコンバータ3に入力されることにより、エンジン1側からみたトルクコンバータ3の容量係数C/iが小さくなり、その結果、トルクコンバータ3における動力伝達の応答性が良くなり、車両Veの加速性能を向上させることができる。
【0066】
また、求められたエンジン1の出力軸1回転当たりの振動数Fが、例えばトルクコンバータ3の回転が安定する定常回転状態であるか否か、あるいは車両Veが定常走行状態であるか否かを判断するために設定した閾値β以上であった場合には、トルクコンバータ3が定常回転状態である、あるいは車両Veが定常走行状態であると判断して、エンジン1の出力軸1oから出力される出力トルクTの回転速度Nが、変速機2により増速されてトルクコンバータ3に入力される。すなわち、トルクコンバータ3には、変速機2により低下させられたトルクが入力されることになる。
【0067】
そのため、エンジン1側からみたトルクコンバータ3の容量係数C/iすなわち伝達トルク容量が大きくなり、したがってトルクコンバータ3の体格を大型化することなく、伝達トルク容量の大容量化を図ることができる。
【0068】
そして、トルクコンバータ3がロックアップクラッチ6を備える場合に、そのロックアップクラッチ6の係合制御が実行される際には、トルクコンバータ6のトルクコンバータ入力回転速度Ninとトルクコンバータ出力回転速度Noutとの偏差が算出され、その回転速度差(摩擦材すべり速度)Dが、例えばロックアップクラッチ6における摩擦材の摩擦特性の不安定領域内に相当する値であるか否かを判断するために設定した閾値δ以下であった場合には、ロックアップクラッチ6の係合がその摩擦材の摩擦特性の不安定領域内で実行されると判断して、エンジン1の出力軸1oから出力される出力トルクTの回転速度Nが、変速機2により増速されてトルクコンバータ3に入力される。
【0069】
そのため、ロックアップクラッチ6の回転速度差Dが大きくなるので、そのロックアップクラッチ6の係合が摩擦特性の不安定領域外の安定領域で実行されることになる。その結果、ロックアップクラッチ6が係合される際に振動等が発生することを回避もしくは抑制することができる。さらに、エンジン1の出力トルクTの回転速度Nが変速機2により増速されことにより、トルクコンバータ3およびロックアップクラッチ6には、変速機2により低下させられたトルクが入力されることになり、例えば油圧などのロックアップクラッチ6を係合させるための力も低下させることができる。そのため、エンジン1の出力トルクTを駆動軸5側へ安定して伝達することができる。
【0070】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS11の機能的手段が、この発明の駆動力源回転速度検出手段および振動検出手段に相当し、ステップS21の機能的手段が、この発明のトルクコンバータ回転速度検出手段に相当する。そして、ステップS12〜S15の機能的手段、およびステップS22,S23の機能的手段が、この発明の回転速度変速手段に相当する。
【符号の説明】
【0071】
1…エンジン(駆動力源)、 1o…出力軸、 2…変速機(変速機構)、 3…トルクコンバータ(流体伝動機構)、 3i…入力軸(入力部材)、 3p…ポンプインペラー(入力部材)、 3o…出力軸(出力部材)、 3t…タービンランナー(出力部材)、 4…自動変速機、 5…駆動軸、 6…ロックアップクラッチ、 8…電子制御装置、 9…エンジン回転速度センサ、 10…振動センサ、 11,12…トルクコンバータ回転速度センサ、 Ve…車両Ve。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源と、その駆動力源の出力軸の回転速度を変速する変速機構と、その変速機構を介して入力部材に入力される前記駆動力源の出力トルクを流体を介して出力部材から駆動軸側へ伝達する流体伝動機構とを備えた車両の駆動力制御装置において、
前記駆動力源の出力軸の回転速度を検出する駆動力源回転速度検出手段と、
前記駆動力源で発生する振動の振動数を検出する振動検出手段と、
前記駆動力源回転速度検出手段により検出された前記出力軸の回転速度および前記振動検出手段により検出された前記振動の振動数に基づいて、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により減速もしくは増速する回転速度変速手段と
を備えていることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記回転速度変速手段は、前記出力軸の回転速度と前記振動の振動数とから求まる前記出力軸1回転当たりの振動数が閾値として予め定めた第1所定値以下の場合に、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により減速する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記回転速度変速手段は、前記出力軸の回転速度と前記振動の振動数とから求まる前記出力軸1回転当たりの振動数が閾値として予め定めた前記第1所定値よりも大きな第2所定値以上の場合に、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により増速する手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記流体伝動機構は、前記入力部材と前記出力部材とを機械的に連結可能なロックアップクラッチを備えたトルクコンバータを含み、
前記入力部材の回転速度および前記出力部材の回転速度を検出するトルクコンバータ回転速度検出手段を更に備え、
前記回転速度変速手段は、前記ロックアップクラッチにより前記入力部材と前記出力部材とを連結する際に、前記トルクコンバータ回転速度検出手段により検出された前記入力部材の回転速度と前記出力部材の回転速度との差が閾値として予め定めた第3所定値以下の場合に、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により増速する手段を含む
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記車両は、前記流体伝動機構と前記駆動軸との間に、前記流体伝動機構の出力部材の回転速度を変速して前記駆動軸側に出力する自動変速機を更に備え、
前記回転速度変速手段は、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により減速するとともに前記出力部材の回転速度を前記自動変速機により増速するように、もしくは前記出力軸の回転速度を前記変速機構により増速するとともに前記出力部材の回転速度を前記自動変速機により減速するように、前記変速機構と前記自動変速機とを協調させて制御する手段を含む
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記回転速度変速手段は、前記出力軸の回転速度を前記変速機構により減速する分前記出力部材の回転速度を前記自動変速機により増速するように、もしくは前記出力軸の回転速度を前記変速機構により増速する分前記出力部材の回転速度を前記自動変速機により減速するように、前記変速機構と前記自動変速機とを協調させて制御する手段を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−169453(P2011−169453A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36571(P2010−36571)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】