説明

車両システムの異常判断装置

【課題】トランスミッション30の駆動軸に回転速度センサが設けられていない車両であっても、車輪速センサ30の車速情報が正確であるか否かを判断するとともに、CAN200を含む車両システム1000の異常の有無を判断する。
【解決手段】車輪速センサ30が検出した車両の車輪の回転速度に基づく第1車速情報と、車両の駆動情報に基づいて第2車速情報とをCAN200を介して取得し、第1車速情報と第2車速情報との差が所定値以上である場合には、車両システム1000に異常があると判断する車両システムの異常判断装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車速情報に基づいて車両システムの異常を判断する異常判断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車速情報を取得する手段として、オートマティックトランスミッション車両(以下、AT車両ともいう)のトランスミッションの出力側駆動軸に回転速度センサを設け、出力側駆動軸の回転速度に基づいて車速を測定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−002405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の各車輪軸に設けられた車輪速センサを用いて車速情報を取得する場合に、CAN(Controller Area Network)などの通信ネットワークを含む車両システムに異常があると車速情報が不正確になることがある。従来の技術のように、車輪速センサとは別に、トランスミッション出力側駆動軸に回転速度センサを設けることができれば、車輪速センサが取得する信号が正確であるか否かを判断することができる。
【0005】
しかしながら、トランスミッション出力側駆動軸に回転速度センサが設けられていない車両では、トランスミッション出力側駆動軸の回転速度に基づいて車速を測定することができず、車輪速センサの車速情報が正確であるか否かを判断することができないという問題がある。このため、通信ネットワークを含む車両システムに異常が生じ、車速情報の正確性が担保されない場合においては、不正確な車速情報が車両システム内で利用されてしまうという場合がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、トランスミッション出力側駆動軸に回転速度センサが設けられていない車両であっても、車輪速センサの車速情報が正確であるか否かを判断することができるとともに、この判断に基づいて通信ネットワークを含む車両システムが正常であるか否かを判断することができる異常判断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、車輪速センサにより検出された第1車速情報を車載の通信ネットワークを介して取得し、この第1車速と車両の駆動情報に基づいて算出された第2車速情報との差が所定値以上である場合には、車両システムに異常があると判断することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車輪速センサとは異なる信号源から得た駆動情報に基づいて算出された第2車速情報を用いて第1車速情報が正確であるか否かを判断し、通信ネットワークを含む車両システムの異常の有無を判断することがきるので、トランスミッション出力側駆動軸に回転速度センサが設けられていない車両であっても車両システムの異常の発生を判断することができる。この結果、正確な車速に基づいて車両システムを動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の本実施形態に係る異常判断装置を備える車両システムのブロック図である。
【図2】本発明の本実施形態に係る異常判断装置の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、本発明に係る異常判断装置を、駐車支援装置400、低速時加速抑制装置500、ABS装置20、ECM装置40、車両コントローラ60などの各種演算処理装置とともに車載システム1000を構成する異常判断装置100に適用した場合を例にして説明する。
【0011】
本実施形態の車両システム1000は、マニュアルトランスミッション車両(以下「MT車両」ともいう)に搭載され、CAN(Controller Area Network)200などの通信ネットワークにより信号の送受信が可能なように接続された複数の車両制御に関する装置・機器を含む。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の車両システム1000は、異常判断装置100と、状態制御装置300と、駐車支援装置400及び/又は低速時加速抑制装置500と、ABS(Anti-locked braking system)装置20と、車輪速センサ30と、ECM(Engine control module)装置40と、エンジン回転速度センサ50と、車両コントローラ60と、変速段センサ70と、クラッチ状態センサ80と、エンジン(EG)と、トランスミッション(TM)と、車両システム1000内の各演算処理装置に接続されたCAN200とを備える。
【0013】
以下に本実施形態の車両システム1000を構成する各演算処理装置について説明する。本実施形態における状態制御装置300は、後に詳述する異常判断装置100の判断に基づいて、車両システム1000内の駐車支援装置400や低速時加速抑制装置500などの各演算処理装置の状態を制御する。例えば、車両システム1000に異常が発生したと判断された場合に、状態制御装置300は各演算処理装置の動作を一時的に停止させたり、判断を取り消させたりする。
【0014】
本実施形態の駐車支援装置400は、車両が駐車スペースに駐車する際の車両操作を支援する装置である。駐車支援装置400の態様は特に限定されないが、例えば、指定された駐車スペースに車両を駐車させるための移動経路を算出して自動操舵や操舵補助を行う態様であってもよいし、算出した移動経路をディスプレイに表示してドライバの操舵を支援する態様であってもよい。また、低速時加速抑制装置500は、低速走行時に車両を停止させようとしたときに、誤ってアクセルを踏んでしまった場合に車両の動作を制御する装置である。なお、本実施形態では、車両システム1000を構成し、車速情報を利用する車載装置の一例として駐車支援装置400と低速時加速抑制装置500とを例示するが、異常判断装置100の判断に基づいて動作が制御される装置は、これらに限定されない。
【0015】
本実施形態のABS装置20は、急ブレーキ又は低摩擦路でブレーキをかけた場合などにタイヤがロックされる(回転が停止する)ことを防止することにより、 車両の走行安全を保つとともに、ステアリング操舵により障害物を回避できる可能性を高める装置である。本実施形態のABS装置は各車輪軸に取り付けられた車輪速センサ30が検出した車輪速情報に基づいてブレーキを最適に制御する。特に限定されないが、本実施形態の車輪速センサ30は、車輪回転速度を検出し、車輪とともに回転するロータ(ギアロータ、磁気ロータ)による磁界の変化を検出する非接触型センサである。
【0016】
また、ABS装置20に代えて、ESC(Electronic Stability Control)装置を配置してもよい。ESC装置もまた、車輪速センサ30が検出した車輪回転速度を用いてブレーキやエンジンの制御を行うからである。本実施形態のESC装置も、車両の駆動を制御する装置である。通常、車両はドライバのステアリング操作に従って旋回するが、路面状態の急変や障害物回避のための急な操作によって、後輪の横滑り(オーバーステア)や前輪の横滑り(アンダーステア)が生じる場合がある。この場合に、検出した車両挙動に応じて自動加圧によるブレーキ制御及エンジントルクの制御により横滑りを防止して旋回時における車両の姿勢を安定させる装置である。
【0017】
本実施形態のECM装置40は、少なくとも、トランスミッションに設けられたエンジン回転速度センサ50により検出された情報に基づいて、エンジンを制御する装置である。エンジン回転速度センサ50は、クランクシャフト末端に取り付けられ、クランクシャフトタイミングローター(歯車)の回転に応じた信号を取得する。ECM装置40は、エンジン回転速度センサ50から機関回転と同期して出力されるクランク単位角信号を一定時間カウントすることで、又は、クランク基準角信号の周期を計測することで、エンジン回転速度(単位時間あたりの回転数:r.p.m.)を取得することができる。
【0018】
本実施形態の車両コントローラ60は、変速段センサ70により検出された、トランスミッション(TM)に入力された変速段数を取得する。変速段センサ70の態様は特に限定されず、ドライバが操作するシフトレバーの位置を検出することができるリミットスイッチなどを用いることができる。
【0019】
また、本実施形態の車両コントローラ60は、クラッチ状態センサ80によって検出されたトランスミッション(TM)のクラッチの締結状態(締結されているか、締結されていないか)を取得する。本実施形態のクラッチ状態センサ80は、ドライバによって踏圧されるクラッチペダルの踏み込み量を検出する。また、車両コントローラ60は、エンジンの出力側の回転速度と、トランスミッションの入力側の回転速度の比を求め、ゼロに近い所定値域内の値である場合には、クラッチは締結解除状態であり、1に近い所定値域内の値である場合には、クラッチは締結状態である旨の情報を得ることができる。
【0020】
本実施形態のCAN200は、車両システム1000を構成する各演算処理装置のECU(Electronic Control Unit)同士を所定の通信プロトコルで通信可能とする通信ネットワークである。各演算処理装置のECUはマイクロプロセッサと周辺装置(入出力機器など)と、通信モジュールにより構成されている。車両システム1000は、各演算処理装置のECU同士が協調して多様な機能を実現するために、CANなどの通信ネットワークを介して情報の授受を行う。通信ネットワークはCANに限定されず、LIN(Local Interconnect Network)などを用いることができる。
【0021】
続いて、発明の本実施形態に係る異常判断装置100について説明する。本実施形態に係る異常判断装置100は、上述の車両システム1000が正常に機能しているか、又は異常(故障・処理エラー)が発生し、正常に機能していないかを判断する。車両システム1000の異常には、CAN200及び各演算処理装置の故障のほか通信に係る信号の遅延を含む。信号の遅延は、CANバス上で発生する遅延、CANコントローラの処理の遅延、CANトランシーバでの信号変換時間、及び各演算処理装置の処理の遅延などの原因により生じる。
【0022】
異常判断装置100の制御装置10は、車速に基づいて車両システム1000の異常を判断するプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、このROMに格納されたプログラムを実行することで異常判断装置100として機能させる動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)と、を備えている。制御装置10の判断結果は、状態制御装置300に送出される。状態制御装置300は、車両システム1000に異常が発生したと判断された場合には、駐車支援装置400及び低速時加速抑制装置500の処理を中止させる。
【0023】
本実施形態に係る異常判断装置100の制御装置10は、車輪速取得機能と、車速算出機能と、異常判断機能とを備えている。本実施形態の制御装置10は、上記機能を実現するためのソフトウェアと、上述したハードウェアの協働により各機能を実行することができる。
【0024】
以下に、異常判断装置100の制御装置10が実現する各機能についてそれぞれ説明する。
【0025】
本発明の本実施形態に係る異常判断装置100は、車両の車輪の回転速度に基づく第1車速情報を、CAN200を介して取得し、少なくとも一時的に記憶する。
【0026】
また、第1車速情報の取得と並行して、本発明の本実施形態に係る異常判断装置100は、第1車速情報の基となる車速センサ30が検出する車輪の回転速度とは異なる信号源としての駆動情報に基づいて第2車速情報を算出する。
【0027】
特に限定されないが、本実施形態の異常判断装置100は、車両のエンジンの回転速度と、車両の変速段数と、車両のクラッチの締結状態とを含む駆動情報に基づいて、第2車速情報を算出する。具体的に、異常判断装置100は、各変速段数に対応する変速比(ギア比)を予め記憶し、車両のクラッチが締結状態となっている変速段数に応じた変速比(ギア比)を読み込み、この変速比で「エンジンEGの回転速度」を除することにより、第2車速情報を算出する。つまり、第2車速情報=エンジンの回転速度/締結している変速段数に応じた変速比(ギア比)となる。ちなみに、第2車速情報は、エンジンの回転速度に基づいて算出されたタイヤの回転速度に対応する。
【0028】
本実施形態の異常判断装置100は、取得した第1車速情報と算出した第2車速情報とを比較する。つまり、車輪速センサ30により検出され、ABS装置20から取得した車輪速である第1車速情報と、エンジンの回転速度を含む駆動情報に基づいて算出された車輪速である第2車速情報とを比較する。そして、異常判断装置100は、第1車速情報と第2車速情報との差が所定値以上である場合には、車両システム1000に異常があると判断する。
【0029】
車両システム1000異常を判断する閾値となる所定値は、実験により求められた第1車速情報と第2車速情報との間において許容される誤差に基づいて定義する。
【0030】
本実施形態の所定値は、変速段数の違いによる駆動力の伝達に差がある点を考慮し、第2車速情報を算出する際に締結されている変速段数に応じて所定値を設定することができる。この場合において、予め実験によって求めた変速段数ごとの第1車速情報と第2車速情報との差に応じて、変速段数ごとに異なる所定値を定義し、制御装置10のROM12に記憶しておくことができる。
【0031】
特に限定されないが、車両の変速比が相対的に高い場合に設定される第1所定値は、前記変速比が相対的に低い変速比である場合に設定される第2所定値よりも高い値とすることが好ましい。これは、変速段数が小さくて(LOW側)変速比が大きい場合ほど、シャフトの捻じれが大きく、エンジンの駆動力がシャフトの捻じれに吸収されてしまうため、第2車速情報と実際の車輪速(第1車速情報)との差が大きくなる傾向があるからである。特に、発進時におけるシャフトの捻じれは大きいため、車両の変速段数が一速である場合に設定される第1所定値は、車両の変速段数が二速である場合に設定される第2所定値よりも高い値とすることが好ましい。ここで、一速は最も高い変速比の変速段数であり、二速は一速の次の変速比の高い変速段数である。なお、本実施形態における変速比は、ギア比に相当し、トランスミッションTMの出力軸の回転速度に対するトランスミッションTMの入力軸の回転速度である。
【0032】
なお、エンジンの駆動力がタイヤに伝達される際のシャフトの捻じれを考慮する観点によれば、変速段数を変更した直後はシャフトの捻じれ量が大きくなるので、クラッチ締結の信号を取得してから所定時間後のエンジン回転速度に基づいて第2車速情報を算出することが好ましい。
【0033】
ところで、オートマティックトランスミッション車両(以下、「AT車両」ということもある)では、車速及びエンジン回転速度に応じて変速比(ギア比)を自動的に切り替えるため、AT車両は、トランスミッションに設けられたアウトプット回転センサを備える必要がある。
【0034】
また、AT車両のトランスミッション制御装置は、アウトプット回転センサの出力情報に基づいて、オートマティックトランスミッションの制御を行うが、一般的にトランスミッション制御装置のECUはABS装置20のECUとは一つのチップ(CPU)で形成されている。このため、AT車両の車輪速センサにより検出された車速情報は、他の演算処理装置の故障やCANバス上における信号の遅延などによる影響を受けることが無い。しかも、ABS装置20が取得する第1車速情報は、トランスミッションに設けられたアウトプット回転センサにより検出された車速情報と比較されることにより、その正確性が担保される。
【0035】
これに対し、本実施形態では、異常判断装置100のECUと、ABS装置20のECUとは別体のチップ(CPU)で構成されているため、異常判断装置100のECUがCAN200に接続する位置と、ABS装置20のECUがCAN200に接続する位置とが異なる。このため、ABS装置20のECUから出力された第1車速情報は、CANバス上で発生する遅延、CANコントローラの処理の遅延、CANトランシーバでの信号変換時間、及び各演算処理装置の処理の遅延などの信号の遅延やCAN及び各演算処理装置の故障の影響を受けるため、不正確な車速として異常判断装置100に取得される可能性がある。しかも、本実施形態の異常判断装置100が搭載されている車両のトランスミッションには、アウトプット回転センサが設けられていないため、ABS装置20が取得する第1車速情報とアウトプット回転センサにより検出された車速情報と比較して第1車速情報の正確性を担保することもできない。
【0036】
しかし、本実施形態の異常判断装置100は、ABS装置20のECUから出力された第1車速情報の確からしさを、別の信号源から取得した駆動情報に基づいて算出された第2車速情報により判断できるので、第1車速情報の正確性を監視することができる。つまり、本実施形態の異常判断装置100は、図1に示すように、CAN200との接続ポイントが互いに異なるABS装置20を含むユニットS1とECM装置40及び車両コントローラ60を含むユニットS2から取得した情報に基づいて第1車速情報の正確性を評価する。具体的に、本実施形態の異常判断装置100は、ユニットS1のABS装置20から取得した第1車速情報と、ユニットS2のECM装置40及び車両コントローラ60から取得した駆動情報(エンジン回転速度、クラッチ締結状態、変速段)に基づいて算出した第2車速情報とを比較することにより、第1車速情報の正確性を判断する。
【0037】
第1車速情報と第2車速情報との差が所定値以上であり、第1車速情報が正確でないと判断される場合には、ユニットS1から異常判断装置100までの間、又はユニットS2から異常判断装置100までの間に、何かしらの障害が生じている可能性が高いので、ユニットS1、ユニットS2及びCAN200を含む車両システムに異常が生じていると判断することができる。
【0038】
続いて、図2のフローチャートに基づいて、本実施形態の異常判断装置100の制御手順を説明する。
【0039】
まず、ステップ10において、異常判断装置100は、ABS装置からCAN200を介して第1車速情報を取得する。第1車速情報は車輪速センサ30により検出される。
【0040】
次に、ステップ11において、異常判断装置100は、クラッチの締結状態をクラッチ状態センサ80からCAN200を介して取得するとともに、変速段数を変速段センサ70からCAN200を介して取得する。
【0041】
続くステップ12において、異常判断装置100は、変速段数が1速であるか否かを判断し、1速であればステップ13へ進み、1速でなければステップ20に進む。
【0042】
ステップ13において、異常判断装置100は、クラッチが締結されているか否かを判断する。クラッチが締結されていなければ処理を終了し、クラッチが締結されている場合にはステップ14に進む。
【0043】
ステップ14において、異常判断装置100は、ECM装置40からCAN200を介してエンジン回転速度を取得する。さらに、異常判断装置100は、ROM12に記憶されている変速段数と変速比(ギア比)との対応関係を参照し、1速に対応づけられた変速比(ギア比)を取得する。ここで、変速比とは、トランスミッションの出力軸の回転速度に対するトランスミッションの入力軸の回転速度である。変速比の値はトランスミッションごとに異なるが、1速(LOW)の変速比が最も高く、変速段数の数が高くなるにつれて変速比は低下し、最高速(TOP)の変速比が最も低い。そして、異常判断装置100は、エンジン回転速度と、クラッチ締結オン情報が得られた変速段数に応じた変速比とに基づいて、第2車速情報を算出する。
【0044】
ステップ20に戻り、変速段数が2速である場合にはステップ21に進み、異常判断装置100は、クラッチが締結されているか否かを判断する。クラッチが締結されていなければ処理を終了し、クラッチが締結されている場合にはステップ22に進む。
【0045】
ステップ22の処理は、先述したステップ14の処理と共通する。異常判断装置100は、ECM装置40からCAN200を介してエンジン回転速度を取得し、変速段数と変速比(ギア比)との対応関係を参照して1速に対応づけられた変速比(ギア比)を取得し、エンジン回転速度と、クラッチ締結オン情報が得られた変速段数に応じた変速比とに基づいて、第2速における第2車速情報を算出する。
【0046】
なお、本実施形態では、ステップ20において変速段数が2速でない場合は終了しているが、変速段数が3速であるかを判断し、ステップ14、22と同じ手法により3速における第2車速情報を算出するようにすることができる。もちろん、3速に限らず、TOPの変速段数まで同じ手法を適用し、各変速段数における第2車速情報を算出することができる。
【0047】
続くステップ15において、異常判断装置100は、第1車速情報と第2車速情報を比較し、その差が所定値α以上であるか否かを判断する。差が所定値α以上である場合には、ステップ16に進んで車両システム1000に異常があると判断し、差が所定値α未満である場合には、ステップ17に進んで車両システム1000に異常は無いと判断する。
【0048】
ステップ18において、異常判断装置100は、ステップ16、17の判断結果を状態制御装置300に出力する。
【0049】
ステップ19において、状態制御装置300は、異常判断装置100の判断結果に基づいて、車両システム1000の各演算処理装置の動作を制御する。具体的に、車両システム1000に異常があり、正確な車速情報が得られないと異常判断装置100が判断した場合には、状態制御装置200は、駐車支援装置400の動作を停止させ及び/又は低速時加速抑制装置500の動作を停止させる。これにより、不正確な車速情報に基づいて駐車支援が実行されることや低速時の加速抑制処理が実行されることを防止することができる。
【0050】
本発明の本実施形態に係る異常判断装置100は、以下の効果を奏する。
【0051】
本発明は、車輪速センサ30により検出された第1車速情報を車載のCAN200を介して取得し、この第1車速情報と車両の駆動情報に基づいて算出された第2車速情報との差が所定値以上である場合には、車両システム1000に異常があると判断するので、トランスミッション出力側駆動軸に回転速度センサが設けられていない車両であっても、車輪速センサの検出する車速に基づいて車両システムの異常の発生を監視し、正確な車速に基づいて車両システムを動作させることができる。
【0052】
本発明は、マニュアルトランスミッション車両に適用された場合において、車両のエンジンの回転速度と、車両のトランスミッションの変速比と、車両のクラッチの締結状態とを含む駆動情報に基づいて第2車速情報を算出するので、車輪速センサ30とは異なる信号源から得た情報に基づいて第2車速情報を取得することができる。これにより、トランスミッション出力側駆動軸に回転速度センサが設けられていない、本実施形態のマニュアルトランスミッション車両であっても、第1車速情報が正確であるか否かを判断することができるとともに、この判断に基づいてCAN200及び各演算処理装置を含む車両システム1000が正常であるか否かを判断することができる。
【0053】
本発明では、第1車速情報と第2車速情報の差の閾値となる所定値を変速比に応じて設定することにより、シャフトの捻じれなどによる駆動力の伝達の遅れが変速比によって異なる点を考慮して、第2車速情報に基づき第1車速情報を適切に評価することができる。この結果、第1車速情報の確からしさ及び車両システム100の異常の有無を高い精度で判断することができる。
【0054】
変速段数が低く(LOW)変速比が相対的に高い場合には、シャフトの捻じれなどによって駆動力の伝達の遅れが大きく、正常時であっても第1車速情報と第2車速情報との差が大きくなる傾向があるが、本発明では、変速比が相対的に高い場合に設定される第1所定値を、変速比が相対的に低い変速比である場合に設定される第2所定値よりも高い値とするので、駆動力の伝達特性による影響を考慮して、第2車速情報に基づき第1車速情報を適切に評価することができる。この結果、第1車速情報の確からしさ及び車両システム100の異常の有無を高い精度で判断することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0056】
なお、本明細書では、本発明に係る異常判断装置の一例として、CAN200で他の装置と接続されて車両システム1000を構成する異常判断装置100を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
また、本明細書では、本発明に係る車輪速取得手段と、車速算出手段と、異常判断手段とを備える異常判断装置の一例として、車輪速取得機能と、車速算出機能と、異常判断機能とを実行する制御装置10を備える異常判断装置100を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
1000…車両システム
100…異常判断装置(演算処理装置)
200…CAN(Controller Area Network)
300…状態制御装置(演算処理装置)
400…駐車支援装置(演算処理装置)
500…低速時加速抑制装置(演算処理装置)
20…ABS装置(演算処理装置)
30…車輪速センサ
40…ECM装置(演算処理装置)
50…エンジン回転速度センサ
60…車両コントローラ
70…変速段センサ(演算処理装置)
80…クラッチ状態センサ
TM…トランスミッション
EG…エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された演算処理装置が通信ネットワークによって接続された車両システムの異常を判断する異常判断装置であって、
前記車両の車輪の回転速度に基づく第1車速情報を、前記通信ネットワークを介して取得する車輪速取得手段と、
前記車両の駆動情報に基づいて第2車速情報を算出する車速算出手段と、
前記取得した第1車速情報と前記算出した第2車速情報とを比較し、前記第1車速情報と前記第2車速情報との差が所定値以上である場合には、前記車両システムに異常があると判断する異常判断手段と、を備える車両システムの異常判断装置。
【請求項2】
前記車両はマニュアルトランスミッション車両であって、
前記車速算出手段は、前記車両のエンジンの回転速度と、前記車両のトランスミッションの変速比と、前記車両のクラッチの締結状態とを含む前記駆動情報に基づいて、前記第2車速情報を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両システムの異常判断装置。
【請求項3】
前記所定値は、前記変速比に応じて設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両システムの異常判断装置。
【請求項4】
前記変速比が相対的に高い場合に設定される第1所定値は、前記変速比が相対的に低い変速比である場合に設定される第2所定値よりも高い値であることを特徴とする請求項3に記載の車両システムの異常判断装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−43575(P2013−43575A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183240(P2011−183240)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】