説明

車両システム

【課題】車両の加速度を制限して、ハイレート放電による電池の劣化(ハイレート劣化)を防止する車両システムを提供する。
【解決手段】車両システムは、二次電池11と、二次電池からの電気エネルギによる力行を行うモータを含む動力源とを備える車両1の制御を行い、加速度検知手段で検知した増速方向の加速度Bと電池温度検知手段で検知した電池温度T(S2)とを用いて得られ、加速度Bの増加の影響と電池温度Tの増加の影響とが相反する関係に定めた制御値Cが、予め定めた範囲(A以下)を満たすように(S3)、増速方向の加速度の大きさを制限する加速度制限手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池と動力源とを備える車両について、その制御を行う車両システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、充放電可能な二次電池(以下、単に電池ともいう)を駆動用電源に用いた、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車等の車両が知られている。
このような車両について、例えば、特許文献1には、車両の動力性能の低下を抑制しつつ、ハイレート放電と呼ぶ、バッテリ容量に対して比較的大きな電流で行う放電による二次電池の劣化を抑制する二次電池の制御装置が開示されている。制御装置は、二次電池からの放電電流値を検出し、その放電電流値の履歴に基づいて、ハイレート放電による二次電池の劣化に関する評価値を算出する。そして、この評価値に基づいて、放電電力の値を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−123435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、後に詳述するが、本発明者らの研究によれば、通常よりも比較的大きな放電電流(例えば、10C以上)を流す大電流放電(以下、ハイレート放電ともいう)による電池の劣化(以下、ハイレート劣化ともいう)と、車両の加速度及び電池温度の関係との間に相関があることが判ってきた。
しかしながら、特許文献1の二次電池の制御装置には、車両の加速度や電池の電池温度の検知や、これらの利用についての記載はない。
【0005】
本発明は、かかる知見に鑑みてなされたものであって、車両の加速度を制限して、ハイレート放電による電池の劣化(ハイレート劣化)を防止する車両システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、車両に搭載された二次電池と、上記車両を駆動する動力源であって、上記二次電池からの電気エネルギによる力行を行うモータを含む動力源と、を備える車両について、その制御を行う車両システムであって、上記車両の増速方向の加速度を検知する加速度検知手段、上記二次電池の電池温度を検知する電池温度検知手段、及び、上記加速度検知手段で検知した上記増速方向の加速度と上記電池温度検知手段で検知した上記電池温度とを用いて得られ、上記加速度の増加の影響と上記電池温度の増加の影響とが相反する関係に定めた制御値が、予め定めた範囲を満たすように、上記増速方向の加速度の大きさを制限する加速度制限手段、を有する車両システムである。
【0007】
ところで、電池を放電させて車両の増速方向の加速度を得る場合、加速度を大きくしようとするほど、必要となる電池からの放電電力が大きくなり、ハイレート放電の状態となりやすく、電池のハイレート劣化が進行しやすい。
また、電池温度が低いほど、電池から取り出しうる放電電力が小さいため、電池温度について、同じ放電電力で考えた場合、電池温度が低いほど、ハイレート放電時に電池11にかかる負担が大きく、電池のハイレート劣化が進行しやすい。即ち、車両の加速度と電池温度は、電池の劣化に対して、相反する特性を有している(加速度が大きいほど、また、電池温度が低いほど、電池が劣化しやすい)。
【0008】
これに対し、上述の車両システムでは、加速度の増加の影響と電池温度の増加の影響とが相反する関係に定められた制御値を用い、この制御値が予め定められた範囲を満たすように、車両の加速度の大きさを制限する加速度制限手段を有している。例えば、電池のハイレート劣化が進行する方向である、増速方向の加速度を大きい値にする場合と、電池温度を低い値にする場合とで、制御値は同じ方向に変化するので、相反する2つのパラメータ(加速度と電池温度)を統合して、1つの制御値を用いて制御が可能となる。従って、制御が容易である。しかも、上述の車両システムによれば、電池温度に応じて、車両の急加速に伴う電池からの大きな放電電力の放出(ハイレート放電の発生)が制限され、電池のハイレート劣化が防止される。特に、劣化の生じやすい電池温度が低い場合に、加速度の大きさの制限がされやすくなるので、電池のハイレート劣化を適切に防止することができる。
【0009】
なお、加速度の増加の影響と電池温度の増加の影響とが相反する関係に定めた制御値としては、加速度をBとし、電池温度をTとしたとき、例えば、C=B/Tで与えられる制御値Cが挙げられる。その他、電池の特性に応じて、制御値Cを、C=mB−nT(m,nは正の定数)、C=B/T2等とすることもできる。
【0010】
また、車両を駆動する動力源としては、電池で駆動されるモータのほか、エンジン(内燃機関)を有していても良い。また、モータとしては、電池からの電気エネルギによる力行を行うモータであれば良いが、力行のほか、電池への電気エネルギの回生をも行い得る構成としたモータでも良い。
また、モータの駆動には、公知のインバータなどによる駆動制御、力行/回生制御を用いることができる。
【0011】
また、加速度検知手段としては、車両の増速方向の加速度を検知できれば良いが、減速方向の加速度も検知可能な加速度検知手段としても良い。また、加速度検知手段としては、車両の加速度を検知する加速度センサを用いた検知手段が挙げられる。このほか、車輪の回転(回転速度)や車速センサの出力から演算により加速度を算出する手段が挙げられる。
また、電池温度検知手段としては、車両に搭載した電池の電池温度を測定する、サーミスタ、赤外線放射温度センサなどの温度センサを用いた検知手段が挙げられる。
【0012】
また、加速度制限手段は、制御値が予め定めた範囲を超えた場合に、車両の駆動源の駆動条件に作用して、増速方向の加速度を低下させる方向、即ち、駆動源による駆動力を低下させる方向に駆動条件を変更する手段である。例えば、駆動源がモータである場合(HV,PHV,EVの場合)、電池からモータに供給される電力を制御しているインバータに対して、供給する電力を減少させるように指示するインバータの制御手段が挙げられる。また、駆動源としてエンジンをも有する場合(HV,PHVの場合)には、燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタに対し、噴射する燃料量を制限し、あるいは燃料カットを行うように指示するインジェクタの制御手段が挙げられる。
【0013】
さらに、上述の車両システムであって、前記加速度をBとし、前記電池温度をTとしたとき、前記加速度制限手段は、前記制御値Cを、C=B/Tで与え、上記制御値Cが、予め定めた閾値Aに対し、C<Aとなるように、上記加速度の大きさを制限する車両システムとすると良い。
【0014】
本発明者らの研究によれば、電池の劣化の速さの指標である、車載した二次電池における単位距離当たりの内部抵抗の増加率と、車両の加速度Bを電池温度Tで割った値(=B/T)との間に相関があることが判ってきた。これは、前述したように、車両の加速度B及び電池温度Tは、電池の劣化に対して相反する特性を有しているからである。そこで、B/Tを制御値Cとして、この制御値Cが閾値Aを超えない(C<A)ようにすることで、電池の劣化の進行、例えば、電池における単位距離当たりの内部抵抗の増加率を小さくできると考えられる。
これに基づき、上述の車両システムでは、加速度制限手段が、制御値CをC=B/Tで与え、制御値Cが、予め定めた閾値Aに対し、C<Aとなるように、加速度の大きさを制限する。かくして、電池のハイレート劣化を確実に防止することができる。
【0015】
さらに、上述の車両システムであって、前記閾値Aを設定する閾値設定手段であって、前記二次電池の劣化が進むほど、上記閾値Aを小さな値に設定する閾値設定手段を有する車両システムとすると良い。
【0016】
上述の車両システムでは、電池の劣化が進むほど閾値Aを小さな値に設定する閾値設定手段を有する。このため、電池の劣化が進むほど、制御値Cが小さく制御されるので、電池の劣化が進むほど、電池の劣化の進行速度をより小さく抑えることができる。
【0017】
さらに、上述の車両システムであって、前記二次電池の劣化の程度を検知する劣化検知手段を有し、前記閾値設定手段は、上記劣化検知手段で検知した上記劣化の程度が大きいほど、前記閾値Aを小さな値に設定する車両システムとすると良い。
【0018】
上述の車両システムでは、電池の劣化の程度を検知する劣化検知手段を有し、閾値設定手段が検知した電池の劣化の程度が大きいほど、閾値Aを小さな値に設定する。このため、車両システム自身で、電池の劣化の程度に応じて、適切に電池の劣化の進行速度を小さく抑えると共に、電池の特性を十分に引き出すことができる。
【0019】
なお、劣化検知手段としては、例えば、使用中の電池における、電流値及び電圧値を用いて、直流抵抗(DC−IR)測定法(或いは、DC−IR測定法に準ずる手法)で測定した電池の内部抵抗値を、この電池の内部抵抗の初期値で割った数値を算出して電池の劣化の程度を検知するものが挙げられる。
【0020】
さらに、上述のいずれかの車両システムであって、前記二次電池は、非水電解質型二次電池である車両システムとすると良い。
【0021】
ところで、リチウムイオン二次電池等の非水系電解質型二次電池では、Ni−MH電池等の水系電解質型二次電池に比して、拡散律速が生じやすいので、前述したハイレート劣化の問題が発生しやすい。
これに基づいて、上述の車両システムでは、二次電池が拡散律速が生じやすい非水電解質型二次電池であるので、この非水電解質型二次電池に生じるハイレート劣化を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1,変形形態1にかかる車両システムを備えた車両を示す説明図である。
【図2】制御値Cと、電池の単位距離当たりの内部抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【図3】実施形態1にかかる車両システムの制御内容を示すフローチャートである。
【図4】変形形態1にかかる車両システムの制御内容を示すフローチャートである。
【図5】変形形態1にかかる車両システムの制御内容を示すフローチャートである。
【0023】
(実施形態1)
次に、本発明の実施形態1にかかる車両システムについて、図1〜3を参照しつつ説明する。
まず、本実施形態1にかかる車両システムVS1を適用する車両1について図1を参照しつつ説明する。
この車両1は、複数(本実施形態1では60個)のリチウムイオン二次電池(以下、単に電池ともいう)11,11から構成された組電池10、モータ20、エンジン30、加速度センサ40、温度センサ50及びECU(Electronic Control Unit)60を有するハイブリッド車である。また、この車両1は、発電機70、PCU(Power Control Unit)80、エンジン30が発生する動力を分配する動力分配機構90、その動力の回転速度を減じて出力する減速機100、この減速機100を通じて出力された動力により回転する車輪110を有する。
なお、車両システムVS1は、ECU60が実行するプログラムにより実現される。
【0024】
車両1のうち、PCU80は、発電機70で発電した交流電力を直流電力に変換するインバータ81と、電圧を調整するコンバータ82とを有する。
また、エンジン30は、いずれも図示しない、複数の燃料室と、各燃料室内に燃料を噴射するインジェクタとを有する内燃機関である。なお、インジェクタが噴射する燃料の噴射量は、上述したECU60によって制御される。また、エンジン30が発生する動力は、動力分配機構90により、減速機100を経由して車輪110を駆動する経路と、発電機70を駆動して発電する経路とに分配される。
このうち、発電機70で発電された電気エネルギは、車両1の運転状態や電池11(組電池10)の充電状態に応じて、モータ20で使用されたり、電池11(組電池10)に蓄えられる。
【0025】
また、モータ20は、三相交流モータであり、電池11(組電池10)に蓄えられた電気エネルギのほか、発電機70による発電された電気エネルギにより駆動する。具体的には、このモータ20で発生した駆動力は、減速機100を経由して車輪110に伝えられる。これにより、モータ20は、エンジン30をアシストして車両1を走行(力行)させたり、モータ20からの駆動力のみにより車両1を走行(力行)させたりする。
【0026】
また、加速度センサ40は、公知の半導体式の加速度センサであり、車両1の車室内(運転席付近)に配置され、車速の変化(加速度B)を計測する。また、温度センサ50は、その測温部が組電池10のうちの1つの電池11の電池ケースの外側に接触して配置され、当該電池11の電池温度Tを計測する。
【0027】
また、ECU60は、図示しないCPU、ROM及びRAMを含み、所定のプログラムによって作動するマイクロコンピュータ(以下、マイコンともいう)61を有している。 このECU60は、組電池10、モータ20、エンジン30、加速度センサ40、温度センサ50、発電機70及びPCU80と接続しており、車両1の運転状態や、加速度センサ40により測定された加速度Bや、温度センサ50により測定された、電池11の電池温度T等に基づいて、車両1に搭載された機器類を制御する。
【0028】
ところで、本発明者らは、車載した電池の劣化に対する、車両の増速方向の加速度Bと電池温度Tとの関係について検討した。具体的には、上述した電池11(組電池10)と同様の電池11を搭載した車両VH1を用いて走行実験を行い、この走行実験の前後での電池11の劣化の進行を確認した。なお、この車両VH1は、前述した車両1のうち、後述する加速度制限手段(ステップS3〜S6)を有しない車両である。
【0029】
まず、車両VH1による走行試験前に、電池11(組電池10)の内部抵抗を測定した。具体的には、車載前に、図示しない直流電源装置、電圧計及び電流計を用い、公知の直流抵抗(DC−IR)測定法によって、電池11の内部抵抗Rxを25℃の温度環境下で測定する。
測定後、複数の電池11,11を組電池10に組み、車両VH1に搭載し、走行試験を実施した。具体的には、平坦な車道において、急加速(10秒間の間に、車速が0km/hから100km/hに上昇する程度)及び急減速を各1回ずつ行って停止する走行を1回の走行として、これを繰り返した。各回の走行において急加速の際には、電池11の放電電流が最大30Cとなり、ハイレート放電になっている。なお、1回の走行(急加速)における最大加速度を、その回の加速度BP1とし、各回の加速度BP1の平均を平均加速度AB1とする。また、走行試験中の電池温度Tの平均値を平均電池温度AT1とする。そして、車両VH1について、平均加速度AB1を平均電池温度AT1で除した値AC1(=AB1/AT1)を算出した。
さらに、走行試験を実施した後、再度、電池11の内部抵抗を測定した。具体的には、車両VH1から降ろした電池11について、走行試験前と同様にして、内部抵抗を測定した。
【0030】
また、車両VH1と同様の車両VH2、VH3を用意した。これら車両VH2、VH3は、車両VH1と同様、前述した車両1のうち、後述する加速度制限手段(ステップS3〜S6)を有しない車両である。
これら車両VH2,VH3についても、走行試験を実施した。但し、車両VH2については、この車両VH2の最大加速度BP2が、上述の車両VH1の最大加速度BP1よりも小さくなる条件で、急加速(具体的には、30秒間の間に、車速が0km/hから80km/hに上昇する程度)で行っている点で、車両VH1とは異なる。なお、この車両VH2の各回の走行においても、急加速の際には、電池11には最大20Cの放電電流が流れるハイレート放電となっている。
また、車両VH3については、車両VH2と同様の走行を繰り返したが、車両VH2に比して、電池温度Tが比較的高いときに走行試験を行った点で、車両VH2と異なる。例えば、車両VH3の走行試験は、車両VH1,VH2の走行試験を行った地域よりも、全体的に外気気温の高い地域で行った。なお、この車両VH3の各回の走行においても、急加速の際には、電池11には最大20Cの放電電流が流れるハイレート放電となっている。
【0031】
車両VH2,VH3についても、車両VH1と同様にして、走行試験前後で内部抵抗をそれぞれ測定した。そして、走行試験前後での各車両VH1,VH2,VH3における電池11の内部抵抗の変化について調べた。具体的には、各車両VH1,VH2,VH3の各電池11の、走行試験後の内部抵抗Ryの値から走行試験前の内部抵抗Rxを引いた差を、走行試験前の内部抵抗Rxで除した内部抵抗増加率((Ry−Rx)/Rx)を算出し、さらにこの内部抵抗増加率について走行試験の総走行距離Mで除した、単位距離当たりの内部抵抗増加率Rm(=(Ry−Rx)/Rx/M)を算出した。なお、車両VH1、車両VH2及び車両VH3の単位距離当たりの内部抵抗増加率RmをそれぞれRm1、Rm2及びRm3とする。
また、各車両VH2,VH3の各電池11について、車両VH1と同様にして、平均加速度AB2,AB3を平均電池温度AT2,AT3で除した値AC2(=AB2/AT2),AC3(=AB3/AT3)をそれぞれ算出した。
【0032】
図2は、平均加速度ABを平均電池温度ATで除した値AC(=AB/AT)と、電池11の単位距離当たりの内部抵抗増加率Rmとの関係を示すグラフである。このグラフ上には、各車両VH1,VH2,VH3に対応するプロット点を示している。そして、これらのプロット点から近似曲線をグラフ上に作成した。この結果から、値ACが大きくなるほど、単位距離当たりの内部抵抗増加率Rmが大きくなっていることが判る。
【0033】
ところで、リチウムイオン二次電池である電池11を車載した車両1において、この車両1の増速方向の加速度Bを得る場合、加速度Bを大きくしようとするほど、必要となる電池11からの放電電力が大きくなり、ハイレート放電の状態となりやすい。このため、車両1の電池11のハイレート劣化が進行しやすい。これは、図2において、車両VH2よりも相対的に平均加速度AB1が大きい車両VH1では、車両VH2における単位距離当たりの内部抵抗増加率Rm2に比して、内部抵抗増加率Rm1が大きい、即ち劣化が大きいことから裏付けられる。
また、電池温度Tが低いほど、電池11から取り出しうる放電電力が小さいため、電池温度について、同じ放電電力で考えた場合、電池温度Tが低いほど、ハイレート放電時に電池11にかかる負担が大きく、電池11のハイレート劣化が進行しやすい。これは、車両VH3よりも相対的に平均電池温度AT1が低い車両VH1では、車両VH3における単位距離あたりの内部抵抗増加率Rm3に比して、内部抵抗増加率Rm1が大きい、即ち劣化が大きいことから裏付けられる。
従って、値ACが大きいほど、つまり、平均加速度ABが大きな値になるほど、あるいは、平均電池温度ATが低い値になるほど、電池11の劣化を示す、単位距離当たりの内部抵抗増加率Rmが大きくなることが判る。
【0034】
上記知見に基づき、本実施形態1では、車両1の走行中の各時点における加速度Bを電池温度Tで除した値を、相反する2つのパラメータ(加速度B及び電池温度T)を統合した制御値Cとして用い、この制御値Cが予め定めた範囲を満たすように制御する。これにより各時点での車両1の加速度Bの大きさを電池温度Tに応じて制限する。
そこで、ECU60で実行する本実施形態1の車両システムVS1の制御について、図3のフローチャート(メインルーチンMR1)を参照しつつ、以下に詳述する。
なお、ECU60のマイコン61内のROM(図示しない)には、制御値Cの閾値Aを予め記憶している。この閾値Aは、例えば、前述した走行試験の結果や、車両1における電池11の目標寿命を考慮して設定した値である。
【0035】
まず、メインルーチンMR1において、車両1の作動が開始(キーオン)されると(ステップS1でYES)、ステップS2に進む。
このステップS2では、温度センサ50及び加速度センサ40を用いて、当該時点での電池11の電池温度T、及び、車両1の増速方向の加速度Bをそれぞれ測定する。なお、車両1がキーオフされるまで、所定のサイクル時間TC(例えば、0.1秒毎)で、ステップS2からステップS8を繰り返す。
【0036】
続いて、ステップS3では、C=加速度B/電池温度Tで与えられる制御値Cが閾値A以上か否かを判別する。なお、閾値Aには、マイコン61に予め記憶している値を用いる。
ここで、YES、即ち制御値Cが閾値A以上の場合(C≧A)には、ステップS4に進み、電池11(組電池10)が放電中であるか否かを判別する。一方、NO、即ち制御値Cが閾値Aよりも小さい場合(C<A)には、ステップS4〜S6をスキップしてステップS7に進む。
【0037】
車両1は、前述したようにハイブリッド車であるので、車両1が加速して、この車両1に増速方向の加速度Bが生じて、制御値Cが閾値A以上になる場合としては、エンジン30が減速機100を経由して車輪110を駆動している場合と、電池11(組電池10)が放電した放電電力によりモータ20が車輪110を駆動している場合と、エンジン30及び電池11(モータ20)で車輪110を駆動している場合とがある。
このステップS4において、YES、即ち電池11が放電している場合、車両1は、少なくとも電池11(組電池10)が放電する電気エネルギによるモータ20の駆動で加速していると考えられるので、電池11の放電電力を制限する(ステップS5)。具体的には、放電電力値を電池温度Tに応じた上限値にまで制限する。このように電池11の放電電力を制限することで、モータ20の出力を低下させて、制御値Cが閾値Aよりも小さくなるように、加速度Bを制限する。
【0038】
一方、ステップS4において、NO、即ち車両1は加速しているのに、電池11が放電していない場合には、車両1はエンジン30の駆動によって加速していると考えられる。そこで、エンジン30のインジェクタから噴射される燃料の噴射量を制限する(ステップS6)。このように噴射量を制限することで、エンジン30の出力を低下させて、制御値Cが閾値Aよりも小さくなるように、加速度Bを制限する。
なお、ステップS5及びステップS6の後は、ステップS7に進む。
【0039】
ステップS7では、車両1がキーオフされたか否かを判定する。ここで、NOであれば、ステップS8に進む一方、YESであれば終了する。
また、ステップS8では、ステップS2で行った、電池11の電池温度T、及び、車両1の加速度Bの測定から所定のサイクル時間TC(0.1秒)経過したか否かを判別する。
ここで、NO、即ち先の測定から所定のサイクル時間TC経過していない場合、ステップS7に戻り、ステップS7とステップS8とを繰り返す(即ち、サイクル時間TCが経過するまで待つ)。一方、YES、即ちステップS2の測定からサイクル時間TC経過した場合には、ステップS2に戻り、ステップS2からステップS8までを繰り返す。
【0040】
なお、本実施形態1では、モータ20及びエンジン30が動力源に、加速度センサ40が加速度検知手段に、温度センサ50が電池温度検知手段に、ステップS3〜S6が加速度制限手段に、それぞれ対応する。
【0041】
本実施形態1にかかる車両システムVS1では、車両1における加速度Bの増加の影響と、電池11(組電池10)における電池温度Tの増加の影響とが相反する関係に定められた制御値Cを用い、この制御値Cが予め定められた範囲(本実施形態1では、閾値A以下)を満たすように、車両1の加速度Bの大きさを制限するステップS3〜S6を有している。例えば、電池11のハイレート劣化が進行する方向である、増速方向の加速度Bを大きい値にする場合と、電池温度Tを低い値にする場合とで、制御値Cは同じ方向に変化するので、相反する2つのパラメータ(加速度Bと電池温度T)を統合して、1つの制御値Cを用いて制御が可能となる。従って、制御が容易である。
しかも、この車両システムVS1によれば、電池温度Tに応じて、車両1の急加速に伴う電池11(組電池10)からの大きな放電電力の放出(ハイレート放電の発生)が制限され、電池11(組電池10)のハイレート劣化が防止される。特に、劣化の生じやすい電池温度Tが低い場合に、加速度Bの大きさの制限がされやすくなるので、電池11のハイレート劣化を適切に防止することができる。
【0042】
また、ステップS3〜S6が制御値CをC=B/Tで与え、制御値Cが、予め定めた閾値Aに対しC<Aとなるように、加速度Bの大きさを制限する。かくして、電池11のハイレート劣化を確実に防止することができる。
【0043】
また、電池11が拡散律速が生じやすい非水電解質型二次電池のリチウムイオン二次電池であるので、電池11に生じるハイレート劣化を確実に防止することができる。
【0044】
(変形形態1)
次に、本発明の変形形態1について、図面を参照しつつ説明する。
なお、前述の実施形態1では、閾値Aを一定の値としていた。これに対し、本変形形態1にかかる車両システムVS2では、電池の劣化が進むほど閾値Aを小さな値に設定する閾値設定手段、及び、電池の劣化の程度を検知する劣化検知手段を有している点で、上述した実施形態1とは異なる。
そこで、実施形態1と異なる点を中心に説明し、実施形態1と同様の部分の説明は省略または簡略化する。なお、実施形態1と同様の部分については同様の作用効果を生じる。また、同内容のものには同番号を付して説明する。
【0045】
まず、本変形形態1にかかる車両システムVS2を適用する車両201について図1を参照しつつ説明する。
この車両201は、実施形態1の車両1と同様、複数(60個)のリチウムイオン二次電池11,11から構成された組電池10、モータ20、エンジン30、加速度センサ40及び温度センサ50のほか、ECU260、電圧センサ210及び電流センサ220を有する。
なお、車両システムVS2は、ECU260が実行するプログラムにより実現される。
【0046】
上述の車両201のうち、電圧センサ210は、電池11の正極,負極間の端子間電圧Vを測定可能に設置された、公知の電圧計である。また、電流センサ220は、電池11(組電池10)を流れる直流電流の大きさを測定可能に設置された、公知の直流電流センサである。
また、ECU260は、図示しないCPU、ROM及びRAMを含み、所定のプログラムによって作動するマイコン261を有している。
【0047】
このマイコン261のROMは、閾値Aとして用いる複数の閾値(第1閾値A1、第2閾値A2及び第3閾値A3)、及び、複数の閾値を選択するために用いる、第1内部抵抗閾値R1及び第2内部抵抗閾値R2を予め記憶している。
第1閾値A1、第2閾値A2及び第3閾値A3は、A3<A2<A1という関係とされている。これら第1閾値A1、第2閾値A2及び第3閾値A3は、電池11の内部抵抗Rの大きさに応じて、制御値Cの閾値Aとして選択される。具体的には、電池11の内部抵抗Rが第1内部抵抗閾値R1以下の場合(R≦R1)には、制御値Cの閾値Aとして第1閾値A1を選択する。また、内部抵抗Rが、第1内部抵抗閾値R1より大きく第2内部抵抗閾値R2以下の場合(R1<R≦R2)には、第2閾値A2を選択する。さらに、内部抵抗Rが、第2内部抵抗閾値R2よりも大きい場合(R>R2)には、第3閾値A3を選択する。これにより、電池11の内部抵抗Rが大きくなるほど(劣化が進むほど)、閾値Aが小さな値とされるので、制御値Cがより小さな値に制限される。なお、第1閾値A1が、閾値Aの初期値として予め代入されている。
【0048】
次いで、本変形形態1の車両システムVS2の制御について、図4,5のフローチャート(メインルーチンMR2及びR検知サブルーチンS30)を参照しつつ、以下に詳述する。
まず、メインルーチンMR2において、車両201の作動が開始(キーオン)されると(ステップS1でYES)、ステップS21に進む。
このステップS21では、温度センサ50、加速度センサ40、電流センサ220及び電圧センサ210を用いて、当該時点での電池11の電池温度T、車両201の増速方向の加速度B、電池11の電流値I及び端子間電圧Vをそれぞれ測定する。
【0049】
続いて、ステップS22では、電池11の内部抵抗Rを検知するタイミングを迎えたかどうかを判別する。具体的には、例えば、組電池10(電池11)を車両201に搭載してから3ヶ月以上、または、前回、内部抵抗Rを検知してマイコン261に記憶したときから3ヶ月以上経過したタイミングを、内部抵抗Rを検知するタイミングとする。
ここで、YES、即ち内部抵抗Rを検知するタイミングを迎えた場合、ステップS30のR検知サブルーチンに進む。一方、NO、即ち内部抵抗Rを検知するタイミングを迎えていない場合には、ステップS3に進む。
【0050】
次いで、R検知サブルーチンS30について図5を参照して説明する。
まず、ステップS31では、車両201が内部抵抗Rを検知できる条件にあるか否かを判別する。具体的には、例えば、車両201が停止中で、かつ、電池11(組電池10)に充放電が行われていない状態等が挙げられる。
ここで、YES、即ち車両201が内部抵抗Rを検知できる条件にある場合、ステップS32に進む。一方、NO、即ち車両201が内部抵抗Rを検知できる条件にない場合には、R検知サブルーチンS30を終了して、メインルーチンMR2に戻り、ステップS3に進む。
【0051】
ステップS32では、電池11の内部抵抗Rを検知する。具体的には、例えば、公知の直流抵抗(DC−IR)測定法(或いはそれを擬似した手法)を用いて、電池11の内部抵抗Rを検知する。なお、検知した内部抵抗Rは、マイコン261のRAMに記憶させる。
【0052】
次いで、ステップS33では、検知した電池11の内部抵抗Rが、前述した第1内部抵抗閾値R1以下か否かを判別する。
ここで、YES、即ち内部抵抗Rが第1内部抵抗閾値R1以下の場合には、ステップS34に進み、制御値Cの閾値Aに第1閾値A1を代入する。一方、NO、即ち内部抵抗Rが第1内部抵抗閾値R1よりも大きい場合、ステップS35に進む。
【0053】
ステップS35では、電池11の内部抵抗Rが、前述した第2内部抵抗閾値R2以下か否かを判別する。
ここで、YES、即ち内部抵抗Rが第1内部抵抗閾値R1より大きく第2内部抵抗閾値R2以下の場合には、ステップS36に進み、制御値Cの閾値Aに第2閾値A2を代入する。一方、NO、即ち内部抵抗Rが第2内部抵抗閾値R2よりも大きい場合、ステップS37に進み、制御値Cの閾値Aに第3閾値A3を代入する。
なお、ステップS34、ステップS36及びステップS37の後は、メインルーチンMR2に戻り、ステップS3に進む。
【0054】
ステップS3〜S8については、実施形態1と同様であるので、説明を省略する。但し、閾値Aに代入された値に応じて、制御値Cが制御される。例えば、閾値Aに第1閾値A1が代入(ステップS34)されている場合、制御値Cが第1閾値A1よりも小さくなるように、加速度Bが制限される。
閾値Aに、第1閾値A1よりも小さい値の第2閾値A2が代入されている場合、制御値Cが第2閾値A2よりも小さくなるように、第1閾値A1を用いる場合よりも加速度Bがさらに制限される。
このように、電池11の劣化が進行して、その内部抵抗Rが大きくなった場合に、制御値Cの閾値Aをより小さく制御して、電池11のハイレート劣化の進行速度をより小さく抑えることができる。
【0055】
なお、本変形形態1では、ステップS33〜S37が閾値設定手段に、S32が劣化検知手段に、それぞれ対応する。
【0056】
以上より、本変形形態1にかかる車両システムVS2では、電池11の劣化が進むほど閾値Aを小さな値に設定するステップS33〜S37を有する。このため、電池11の劣化が進むほど、制御値Cが小さく制御されるので、電池11の劣化が進むほど、電池11の劣化の進行速度をより小さく抑えることができる。
【0057】
また、電池11の劣化の程度を検知するステップS32を有し、このステップS32が検知した電池11の内部抵抗Rが大きいほど、閾値Aを小さな値に設定する。このため、この車両システムVS2自身で電池11の劣化の程度を検知して、閾値Aを設定できる。従って、車両システムVS2自身で、電池11の劣化の程度に応じて、適切に電池11の劣化の進行速度を小さく抑えると共に、電池11の特性を十分に引き出すことができる。
【0058】
以上において、本発明を実施形態1及び変形形態1に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態1等では、車両としてハイブリッド車を用いたが、例えば、モータのみで駆動する電気自動車(EV)に適用しても良い。
また、実施形態1等では、車両の加速度B及び電池温度Tを用いて、制限値CをC=B/Tで算出した。しかし、例えば、制御値Cとして、C=mB−nT(m,nは正の定数)、C=B/T2等を用いることもできる。
【符号の説明】
【0059】
1,201 車両
11 二次電池
20 モータ(駆動源)
30 エンジン(駆動源)
40 加速度センサ(加速度検知手段)
50 温度センサ(電池温度検知手段)
A 閾値
B 加速度
C 制御値
T 電池温度
VS1,VS2 車両システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された二次電池と、
上記車両を駆動する動力源であって、
上記二次電池からの電気エネルギによる力行を行うモータを含む
動力源と、を備える
車両について、その制御を行う車両システムであって、
上記車両の増速方向の加速度を検知する加速度検知手段、
上記二次電池の電池温度を検知する電池温度検知手段、及び、
上記加速度検知手段で検知した上記増速方向の加速度と上記電池温度検知手段で検知した上記電池温度とを用いて得られ、上記加速度の増加の影響と上記電池温度の増加の影響とが相反する関係に定めた制御値が、予め定めた範囲を満たすように、上記増速方向の加速度の大きさを制限する加速度制限手段、を有する
車両システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両システムであって、
前記加速度をBとし、
前記電池温度をTとしたとき、
前記加速度制限手段は、
前記制御値Cを、C=B/Tで与え、
上記制御値Cが、予め定めた閾値Aに対し、C<Aとなるように、上記加速度の大きさを制限する
車両システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両システムであって、
前記閾値Aを設定する閾値設定手段であって、
前記二次電池の劣化が進むほど、上記閾値Aを小さな値に設定する
閾値設定手段を有する
車両システム。
【請求項4】
請求項3に記載の車両システムであって、
前記二次電池の劣化の程度を検知する劣化検知手段を有し、
前記閾値設定手段は、
上記劣化検知手段で検知した上記劣化の程度が大きいほど、前記閾値Aを小さな値に設定する
車両システム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車両システムであって、
前記二次電池は、非水電解質型二次電池である
車両システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−70568(P2012−70568A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214386(P2010−214386)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】