説明

車両シート、車両、エアバッグモジュール

【課題】 事故発生の際に車両シート着座状態の車両乗員の車両前方への移動に抗してエアバッグがシートクッション下方から上方へと展開膨張する構成のエアバッグモジュールを搭載した車両シートにおいて、組み付け作業の作業性向上を図るのに有効な技術を提供する。
【解決手段】 本発明に係る車両シートは、シートパン20に設けた収容部21にエアバッグモジュール30を収容するとともに、この収容部21の収容開口を遮へいしエアバッグ31の収容開口側を覆うエアバッグカバー40を備え、またエアバッグカバー40の装着状態において、エアバッグカバー40及びシートパン20を互いに位置決めする位置決め機構を備える構成とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両シートに係り、詳しくは、事故発生の際に車両シート着座状態の車両乗員の車両前方への移動に抗してエアバッグがシートクッション下方から上方へと展開膨張する構成のエアバッグモジュールを搭載した車両シートの構築技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両シートに着座している車両乗員に対しシートベルトが装着されたシートベルト装着状態において、事故発生の際の当該車両乗員の腰部の前方移動に伴って当該車両乗員が座面に沿ってシートベルトを潜ろうとする現象、いわゆる「サブマリン現象」と称呼される現象の発生を阻止しようとする種々の技術が提案されている。例えば、下記特許文献1には、事故発生の際に車両乗員の車両前方への移動を阻止するべく、膨張したエアバッグがシートクッションを下方から圧縮する構成の車両シートが開示されているが、この種の車両シートの設計に際しては、組み付け作業の作業性向上を図る技術が要請される。
【特許文献1】特開平5−229378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明では、事故発生の際に車両シート着座状態の車両乗員の車両前方への移動に抗してエアバッグがシートクッション下方から上方へと展開膨張する構成のエアバッグモジュールを搭載した車両シートにおいて、組み付け作業の作業性向上を図るのに有効な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明が構成される。なお、本発明は、自動車車両をはじめ、トラック、バス、電車、船舶等の各種の車両に搭載される車両シートの構築技術に適用され得る。
【0005】
(本発明の第1発明)
前記課題を解決する本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの車両シートである。請求項1に記載のこの車両シートは、車両に装着される車両シートであって、左側サイドフレーム、右側サイドフレーム、ブラケット、シートパン、エアバッグモジュール、エアバッグカバー、位置決め機構を少なくとも備える構成とされる。
【0006】
本発明の左側サイドフレームは、シート骨格を形成するシートフレームのうち、シートクッション下方の左側を前後方向に延在するシートフレーム構成部材とされる。本発明の右側サイドフレームは、シート骨格を形成するシートフレームのうち、シートクッション下方の右側を前後方向に延在するシートフレーム構成部材とされる。本発明のブラケットは、シート骨格を形成するシートフレームのうち、シートクッション下方にて左側サイドフレームと右側サイドフレームを接続するシートフレーム構成部材とされる。このブラケットと左側サイドフレーム及び右側サイドフレームは、典型的には溶接、若しくはボルトナットによる締結などによって接続される。このシートフレームによって、車両シートの本体部分が構成される。
【0007】
本発明のシートパンは、シートクッション下方であって、左側サイドフレームと右側サイドフレームとの間にてブラケットの上方または後方に近接状に配設されるとともに、ブラケットと反対側に収容開口が形成されたエアバッグモジュール収容部を有する構成とされる。本発明でいう「シートパン(seat pan)」は、車両シートの座席底面を構成する部材であって、特にはシートクッションを受けるシートクッションパネル、シートクッションフレームないしシートクッションボードとしても定義され得る。このシートパンの配設態様に関しては、当該シートパンの全部または一部が左側サイドフレームと右側サイドフレームとの間にて配設されればよく、このシートパンが左側サイドフレーム及び右側サイドフレームに溶接、若しくはボルトナットによる締結などによって架設状に固定される構成や、左側サイドフレームと右側サイドフレームとの間に位置する部材に溶接、若しくはボルトナットによる締結などによって固定される構成を採り得る。また、本発明では、シートパンがブラケットの上方または後方に近接状に配設される部位を少なくとも有していれば足りる。ブラケットと反対側に収容開口が形成されたエアバッグモジュール収容部は、エアバッグモジュールを収容する部位として構成され、特にブラケットの上方または後方に近接状に配設されたシートパンのエアバッグモジュール収容部にあっては、当該シートパンの上方または後方に向けて収容開口が形成される。
【0008】
本発明のエアバッグモジュールは、エアバッグ及びガス発生器を有し、エアバッグモジュール収容部に収容されるとともに、ガス発生器の作動により発生したエアバッグ膨張用ガスの供給によってエアバッグがシートクッション下方から上方へと展開膨張して、事故発生の際に車両シート着座状態の車両乗員の車両前方への移動に抗するように設定された構成とされる。このエアバッグモジュールは、「エアバッグ装置」或いは「乗員拘束装置」を称呼することもできる。
【0009】
本発明のエアバッグカバーは、シートパンの各部位のうち、ブラケットと反対側に形成された収容開口を遮へいするべく当該シートパンに装着され、その装着状態においてエアバッグモジュール収容部に収容されたエアバッグの収容開口側を覆うカバー体として構成される。このエアバッグカバーを、エアバッグモジュールの一構成要素とすることもできる。
【0010】
本発明の車両シートのように、シートクッション下方にエアバッグモジュール(エアバッグ)が配設される構造においては、エアバッグ収容状態にて着座乗員からの荷重がシートクッションを介してエアバッグ側に及ぶことが想定される。エアバッグカバーが、エアバッグモジュール収容部に収容されたエアバッグの収容開口側を覆うことで、着座乗員からの荷重がシートクッションを介してエアバッグに及ぼす影響を抑えるようにしたため、収容状態のエアバッグが外部から受ける荷重を抑えることが可能となる。これによって、事故発生の際のエアバッグの作動正常化を図ることが可能となる。
【0011】
本発明の位置決め機構は、エアバッグカバーの装着状態において、当該エアバッグカバー及びシートパンを互いに位置決めする機能を有する。これにより、これらシートパン及びエアバッグカバーが互いに係止されることとなる。この位置決め機構の具体的な構成に関しては、エアバッグカバー及びシートパンの一方に凸部を設け、エアバッグカバー及びシートパンの他方に凸部に係合する凹部を設ける構成を採用することができる。
請求項1に記載の発明のこのような構成によれば、組み付けのためのエアバッグカバーの仮置きが容易となり、組み付け時の作業性向上を図ることが可能となる。
【0012】
(本発明の第2発明)
前記課題を解決する本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの車両シートである。請求項2に記載のこの車両シートでは、請求項1に記載の位置決め機構は、シートパンに設けられた凹部と、エアバッグカバーに設けられて凹部に係合可能な凸部とによって構成される。本構成によれば、エアバッグカバーの凸部を、シートパンの凹部に係合させることによって、これらシートパン及びエアバッグカバーが互いに係止されることとなる。この場合の凹部に関しては、貫通状の孔、非貫通状の穴や溝などを適宜用いることができる。また、この場合の凸部に関しては、棒状のピン、爪状部材などを適宜用いることができる。
請求項2に記載の発明のこのような構成によれば、エアバッグカバーをシートパンに装着する際の組み付け操作に関し、エアバッグカバーの凸部をシートパンの凹部に係合させるころで、組み付けのためのエアバッグカバーの仮置きが容易とされる。
【0013】
(本発明の第3発明)
前記課題を解決する本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの車両シートである。請求項3に記載のこの車両シートは、請求項1または請求項2に記載の構成において、更に固定部材を備える。この固定部材は、エアバッグカバーの装着状態において、位置決め機構によって互いに位置決めされたエアバッグカバー及びシートパンを締結固定する機能を有する。この固定部材の具体的な構成に関しては、リベットやボルトナット等を適宜用いることができる。
請求項3に記載の発明のこのような構成によれば、位置決めされた状態のシートパン及びエアバッグカバーを、固定部材を用いて確実に固定することが可能となる。
【0014】
(本発明の第4発明)
前記課題を解決する本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの車両である。請求項4に記載のこの車両は、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の車両シートと、車両シートに着座した車両乗員を拘束するシートベルトを少なくとも備える。そして、車両シートに着座している車両乗員に対しシートベルトが装着されたシートベルト装着状態において、事故発生の際の当該車両乗員の腰部の前方移動に伴って当該車両乗員が座面に沿ってシートベルトを潜ろうとする動作、いわゆる「サブマリン現象」と称呼される現象の発生を、車両シートに搭載されたエアバッグモジュールによって阻止する構成とされる。
従って、請求項4に記載の発明によれば、組み付けのためのエアバッグカバーの仮置きが容易となり、組み付け時の作業性向上を図ることが可能な車両シートを備える車両が提供される。
【0015】
(本発明の第5発明)
前記課題を解決する本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりのエアバッグモジュールである。請求項5に記載のこのエアバッグモジュールは、請求項1に記載の車両シートの構成要素であるエアバッグモジュールと実質的に同様の構成を有する。
従って、請求項5に記載の発明によれば、組み付けのためのエアバッグカバーの仮置きが容易となり、組み付け時の作業性向上を図ることが可能なエアバッグモジュールが提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、事故発生の際に車両シート着座状態の車両乗員の車両前方への移動に抗してエアバッグがシートクッション下方から上方へと展開膨張する構成のエアバッグモジュールを搭載した車両シートにおいて、特にエアバッグモジュールを収容するエアバッグモジュール収容部の収容開口を遮へいしエアバッグの収容開口側を覆うエアバッグカバーを設けるとともに、エアバッグカバーの装着状態において、当該エアバッグカバー及びシートパンを互いに位置決めする位置決め機構を採用することによって、組み付け作業の作業性向上を図ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、図1〜図3を参照しながら、本発明の「車両シート」の一実施の形態である車両シート100の構成を説明する。ここで、図1は、本実施の形態の車両シート100の内部構造を示す図であって、車両斜め後方からみた斜視図である。また、図2は、図1中のA−A線における断面図である。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態の車両シート100は、車両に装着される車両シートであって、シートフレーム10、シートパン20、エアバッグモジュール30を主体に構成されている。この車両シート100は、運転者が着座する運転席シートや、助手席シートとして構成される。また、この車両シート100が搭載された車両には、更に、車両シート100に着座した乗員に対し装着されるシートベルト(本発明における「シートベルト」に相当する)が搭載されている。なお、図1中の「FR」の方向が車両前方であり、「UP」の方向が車両上方である。
【0019】
シートフレーム10は、車両シート100の骨格部分を形成するフレームとして構成され、ベースフレーム12及びバックフレーム14を少なくとも備える。このシートフレーム10が、本発明における「シートフレーム」に相当する。ベースフレーム12には、ウレタン材料等の柔軟性を有する素材によって形成されたシートクッション(図示省略)が装着され、このシートクッションが車両シート100の座面を構成する。また、バックフレーム14には、ウレタン材料等の柔軟性を有する素材によって形成されたシートバック(図示省略)が装着され、このシートバックが車両シート100の背面を構成する。更に、シートクッション及びシートバックの外表面は、革や布等からなる表皮(図示省略)によって覆われている。
【0020】
ベースフレーム12は、シートクッション下方に配設されるフレームであり、車両シート100の前後方向(車両の前後方向に合致する)に延在する左右一対のサイドフレーム12a,12b(左側サイドフレーム12a及び右側サイドフレーム12b)を有する。ここでいう左側サイドフレーム12aが、本発明における「左側サイドフレーム」に相当し、右側サイドフレーム12bが、本発明における「右側サイドフレーム」に相当する。
また、ベースフレーム12の上部側には、サイドフレーム12a,12b間に補強用のブラケット13が架設される。このブラケット13は、所定の板厚を有する板状(図1では湾曲板状)に構成され、サイドフレーム12a,12bに対し溶接、若しくはボルトナットによる締結などによって接続される。このブラケット13は、シートパン20を支持する支持部材であり、且つサイドフレーム12a,12bを連結保持する保持部材として構成される。また、このブラケット13は、サイドフレーム12a,12bを連結する際の位置決めを兼ねており組み付け性がよい。このブラケット13が、本発明における「ブラケット」に相当する。
【0021】
バックフレーム14は、ベースフレーム12に対し、支軸15及びリクライニングデバイス(図示省略)を介して回動可能に連結されたフレームである。このバックフレーム14の上部には、車両乗員の頭部に対応した位置にヘッドレスト16が取り付けられる。
【0022】
シートパン(seat pan)20は、ブラケット13の上方であって且つシートクッション下方にて、左右一対のサイドフレーム12a,12bを上方から覆うように、且つブラケット13の上方及び後方に近接状に架設される。このシートパン20は、車両シート100の座席底面を構成する部材であって、特にはシートクッションを受けるシートクッションパネル、シートクッションフレームないしシートクッションボードとしても定義され得る。詳細については後述するが、このシートパン20は、ボルトナットによる2箇所の締結によってブラケット13に取り付けられている。このシートパン20を、サイドフレーム12a,12bに対し溶接、若しくはボルトナットによる締結などによって接合することもできる。このシートパン20は、シートクッションからの荷重を受ける機能を有する。このシートパン20が、本発明における「シートパン」に相当する。本発明において、このシートパン20は、ブラケット13の上方または後方に近接状に配設される部位を少なくとも有していれば足りる。
【0023】
図2に示すように、シートパン20には、エアバッグモジュール30を収容する収容部21が設けられている。この収容部21は、ブラケット13と反対側に収容開口を有し、この収容開口が後ろ側斜め上方に向かうようになっている。収容部21のこの収容開口が、本発明における「収容開口」に相当する。
従って、エアバッグモジュール30のエアバッグ(後述するエアバッグ31)の展開方向(「突出方向」ともいう)は、図2中の矢印50方向で示すような後ろ側斜め上方とされる。本実施の形態では、この収容部21は、下方へと窪んだ窪み部23(「凹み部」、「凹部」或いは「凹み領域」ともいう)を有する構成とされる。この窪み部23は、当該窪み部23にエアバッグモジュール30を保持することが可能な部位とされる。下方へと窪んだ窪み部23によるエアバッグモジュール30の保持機能(或いは位置決め機能)によって、エアバッグモジュール30を収容部21に収容する作業、及びエアバッグモジュール30をシートパン20側に取り付け固定する作業の円滑化が図られる。この収容部21が、本発明における「エアバッグモジュール収容部」に相当する。
【0024】
また、本実施の形態では、シートパン20の各部位のうち、ブラケット13と反対側に形成された収容開口を遮へいするべく当該シートパン20にエアバッグカバー40が装着される。このエアバッグカバー40は、その装着状態において収容部21に収容されたエアバッグモジュール30のエアバッグ(後述するエアバッグ31)の収容開口側(後ろ側斜め上方)を覆うカバー体として構成される。また、このエアバッグカバー40は、エアバッグモジュール30の非作動時においては、収容部21に収容されたエアバッグを保護する一方、エアバッグモジュール30の作動時においては、エアバッグの展開膨張によって当該エアバッグがシートクッションに対し上方へと押し上げる押圧力を付与するのを許容する。このエアバッグカバー40が、本発明における「エアバッグカバー」に相当する。なお、このエアバッグカバー40を、エアバッグモジュール30の一構成要素とすることもできる。
【0025】
このような構成によれば、収容部21に収容されたエアバッグの収容開口側をエアバッグカバー40によって覆うことで、着座乗員からの荷重がシートクッションを介してエアバッグに及ぼす影響を抑えるようにしたため、収容状態のエアバッグが外部から受ける荷重を抑えることが可能となる。これによって、事故発生の際のエアバッグの作動正常化を図ることが可能となる。
【0026】
また、このエアバッグカバー40の装着に関連して、シートパン20は、装着状態のエアバッグカバー40の前端部41(図2中の左側端部)に対応する第1領域20aに、平坦部24及び段差部25を備える構成とされる。同様に、このシートパン20は、装着状態のエアバッグカバー40の後端部42(図2中の右側端部)に対応する第2領域20bに、平坦部27及び段差部28を備える構成とされる。
【0027】
シートパン20の第1領域20aに設けられた平坦部24は、架設状態のエアバッグカバー40の前端部41が載置される部位であり、この前端部41と重なり合う連続した当接面(「接触面」、「架設面」、「重なり面」或いは「ラップ面」ともいう)を形成している。同様に、シートパン20の第2領域20bに設けられた平坦部27は、架設状態のエアバッグカバー40の後端部42が載置される部位であり、この前端部42と重なり合う連続した当接面(「接触面」、「架設面」、「重なり面」或いは「ラップ面」ともいう)を形成している。
【0028】
このような構成によれば、エアバッグカバー40の装着状態(被着状態)にて、シートパン20のこれら平坦部24,27に対しエアバッグカバー40の各端部41,42が面接触にて重なり合うことによって、エアバッグカバー40がシートパン20に密着することとなり、エアバッグモジュール30の非作動時における密着性を向上させることが可能となるとともに、エアバッグカバー40の外力に対する脱落防止に効果的である。なお、これら平坦部24,27のエアバッグカバー40側との重なり部の長さ(重なり幅)に関しては、エアバッグカバー40との密着性や脱落防止性を考慮した場合、例えば3mm以上とされるのが好ましい。また、シートパン20及びエアバッグカバー40の密着性をより向上させるためには、これら平坦部24,27を収容部21の収容開口の全周にわたって設けるのが好ましい。
【0029】
更に、シートパン20の第1領域20aに設けられた平坦部24には、上下方向に貫通する孔部24aが設けられており、この孔部24aに、エアバッグカバー40の前端部41から下方に向けて突出する突出片43が挿設される構成になっている。同様に、シートパン20の第2領域20bに設けられた平坦部27には、上下方向に貫通する孔部27aが設けられており、この孔部27aに、エアバッグカバー40の後端部42から下方に向けて突出する突出片44が挿設される構成になっている。孔部24aに突出片43が挿設され、また、孔部27aに突出片44が挿設されることによって、シートパン20に対するエアバッグカバー40の位置決めがなされることとなる。これら孔部24a,孔部27a及び突出片43,突出片44は、エアバッグカバー40の装着状態において、エアバッグカバー40及びシートパン20を互いに位置決めする機能を有し、本発明における「位置決め機構」を構成する。また、シートパン20の孔部24a,孔部27aが、本発明における「凹部」に相当し、エアバッグカバー40の突出片43,突出片44が、本発明における「凸部」に相当する。
【0030】
また、特に図示しないものの、本実施の形態では、位置決めされた状態のシートパン20及びエアバッグカバー40は、更にリベットやボルトナット等の締結手段によって互いに固定される。これにより、位置決めされた状態のシートパン20及びエアバッグカバー40を確実に固定することが可能となる。これらリベットやボルトナット等の締結手段は、エアバッグカバー40の装着状態において、前記の位置決め機構によって互いに位置決めされたエアバッグカバー40及びシートパン20を締結固定する固定部材であり、本発明における「固定部材」に相当する。
【0031】
このような構成によれば、シートパン20の孔部24a及び孔部27aが、エアバッグカバー40の位置決めを兼ねることによって、組み付けのためのエアバッグカバー40の仮置きが容易となり、組み付け時の作業性向上を図ることが可能となる。本実施の形態では孔部24a及び孔部27aを貫通状としたが、本発明では非貫通状の穴や溝とすることもできる。また、突出片43,突出片44に関しては、棒状のピン、爪状部材などを適宜用いることができる。
【0032】
また、本発明においては、エアバッグカバー40の突出片43及び突出片44を、シートパン20の孔部24a及び孔部27aに挿設する第1の構成に加えて、更にリベットやボルトナット等の締結手段によってエアバッグカバー40及びシートパン20を互いに固定する第2の構成を用いる場合について記載したが、本発明では、これら第1の構成及び第2の構成のうちの少なくとも一方を採用することができる。
【0033】
シートパン20の第1領域20aに設けられた段差部25は、(図2中の)上下方向に関しエアバッグカバー40の前端部41の板厚に相当する高低差が設けられた段差部(段差形状)として構成される。具体的には、この段差部25によって、シートパン20の第1領域20aの各部位のうち、後方側が前方側よりも前端部41の板厚分だけ低くなるように構成されている。同様に、シートパン20の第2領域20bに設けられた段差部28は、(図2中の)上下方向に関しエアバッグカバー40の後端部42の板厚に相当する高低差が設けられた段差部(段差形状)として構成される。具体的には、この段差部28によって、シートパン20の第2領域20bの各部位のうち、前方側が後方側よりも後端部42の板厚分だけ低くなるように構成されている。これら段差部25及び段差部28を設けることによって、エアバッグカバー40の装着状態において、これらシートパン20及びエアバッグカバー40が段差部25及び段差部28を介して互いに係止される。また、段差部25によってエアバッグカバー40の前端部41の前方への移動が規制され、段差部28によってエアバッグカバー40の後端部42の後方への移動が規制されるとともに、シートパン20及びエアバッグカバー40の表面によって、面一形状或いは円滑面形状が形成されることとなる。
【0034】
このような構成によれば、シートパン20に段差部25及び段差部28を設けることによって、エアバッグカバー40をシートパン20に装着する際の組み付け操作が容易となる。また、エアバッグカバー40をシートパン20に装着した後においては、シートクッション下方に位置するこれらシートパン20及びエアバッグカバー40による平滑面が、エアバッグカバー40周辺部位に凹凸面が形成されるのを防止することとなり、当該周辺部位の上方にシートクッションを介して着座する車両乗員の座り心地を阻害しない構造を実現することが可能となる。
【0035】
また、このシートパン20には、収容部21の開口縁部(収容開口の縁部領域)の全周にわたって溝部26が設けられている。この溝部26は、シートパン20の各部位のうち平坦部24,27よりも外方にて当該平坦部24,27よりも低い位置に形成されている。更に、この溝部26には、溝部26から下方へと貫通状に形成された貫通孔26aが設けられている。なお、必要に応じては、溝部26を収容部21の開口縁部において部分的に設けることもできる。
【0036】
このような構成によれば、エアバッグカバー40の装着状態において、このエアバッグカバー40とシートパン20の隙間から侵入した水等の液体を溝部26に沿って排出し、またこの溝部26を流れる液体を、貫通孔26aを通じて積極的に下方へと排出することで、収容部21に水等の液体が侵入するのを防止することが可能となる。特に、溝部26を設けた上で更に貫通孔26aを設けることによって、収容部21がフロアに対して水平に近い状態であっても、貫通孔26aを通じてより積極的な排水を行うことでき、排水効果を高めることが可能となる。
【0037】
図2に示すように、本実施の形態のエアバッグモジュール30は、エアバッグ31、ガス発生器(「インフレータ」ともいう)32、リテーナー33、ハーネス(図示省略)を少なくとも備える。このエアバッグモジュール30が、本発明における「エアバッグモジュール」に相当する。
【0038】
エアバッグ31は、所定の折り畳み態様にて折り畳まれて収容されるとともに、事故発生の際にガス発生器32の作動により発生したエアバッグ膨張用ガスが供給されることによって展開膨張するエアバッグ体として構成される。具体的には、エアバッグ31は、事故発生の際に車両シート着座状態の車両乗員の車両前方への移動に抗してシートクッション下方から上方へと展開膨張する。これによって、車両シート100に着座している車両乗員に対しシートベルトが装着されたシートベルト装着状態において、事故発生の際の当該車両乗員の腰部の前方移動に伴って当該車両乗員が座面に沿ってシートベルトを潜ろうとする現象、いわゆる「サブマリン現象」が阻止され、或いは抑制される。ここでいうエアバッグ31が、本発明における「エアバッグ」に相当し、ガス発生器32が、本発明における「ガス発生器」に相当する。
【0039】
リテーナー33は、ガス発生器32を収容する部材として構成される。このリテーナー33が、本発明における「リテーナー」に相当する。このリテーナー33には、エアバッグモジュール30をベースフレーム12側に取り付け固定するための固定用ボルト34が設けられている。この固定用ボルト34によって、エアバッグモジュール30がベースフレーム12側に取り付け固定されている。具体的には、シートパン20の収容部21にエアバッグモジュール30を収容した状態において、シートパン20、ブラケット13及びエアバッグ31を貫通する貫通孔22に固定用ボルト34が挿設可能とされている。従って、貫通孔22に挿設された固定用ボルト34とナット36とを互いに締結(螺合)させることによって、リテーナー33、シートパン20及びブラケット13の三つの部材が互いに共締めによって固定(「共締め固定」ともいう)されて一体化されることとなる。この場合、ナット36はブラケット13とは別体の構成であってもよいし、或いはブラケット13に一体状に接合された構成であってもよい。また、貫通孔22としては、丸孔、長孔、スリット等の形状を適宜選択することができる。
【0040】
なお、本実施の形態では、固定用ボルト34のボルト軸の延在方向と、図2中の矢印50方向に沿ったエアバッグ31の展開方向とが概ね合致する構成とされる。このような構成によれば、固定用ボルト34の締結力をエアバッグ展開膨張時におけるエアバッグ荷重に抗する力として効率的に使用することが可能となる。
【0041】
特に図示しないものの、ハーネスは、事故発生の際にガス発生器32に作動信号(「制御信号」ともいう)を伝送するためのハーネスとして構成される。
【0042】
ここで、本実施の形態のエアバッグモジュール30の組み付け作業、具体的にはエアバッグモジュール30をシートパン20の収容部21に収容する作業、及びエアバッグカバー40をシートパン20に取り付ける作業につき、図3及び図4を参照しつつ説明する。
【0043】
図3は、本実施の形態のエアバッグモジュール30をシートパン20の収容部21に収容する作業の概要を示す斜視図である。図3に示すように、エアバッグモジュール30の収容作業においては、まず、エアバッグモジュール30側の固定用ボルト34が、シートパン20の収容部21に向かうようにして、当該エアバッグモジュール30を収容部21へと移動させる。そして、エアバッグモジュール30をガス発生器32側が下側になるように向けた状態で、シートパン20の上方から窪み部23に収容したのち、当該エアバッグモジュール30の固定用ボルト34を貫通孔22に挿設し、固定用ボルト34とナット36とを互いに締結する。これによって、リテーナー33、シートパン20及びブラケット13が互いに共締め固定され一体化された状態(図2に示す状態)が形成される。このとき、固定用ボルト34によりエアバッグモジュール30、シートパン20及びブラケット13が共締め固定されることで、事故発生の際のエアバッグ展開膨張時の圧力、すなわちエアバッグモジュール作動時の荷重を、共締め固定によって一体化されたシートパン20及びブラケット13が受けることとなる。
【0044】
図4は、本実施の形態のエアバッグカバー40をシートパン20に取り付ける作業の概要を示す斜視図である。図4に示すように、エアバッグカバー40の取り付け作業においては、当該エアバッグカバー40を、エアバッグモジュール30が収容された状態のシートパン20に向けて移動させる。そして、エアバッグカバー40の前端部41の下面に設けられた突出片43を、シートパン20の平坦部24に設けられた孔部24aに挿設し、またエアバッグカバー40の後端部42の下面に設けられた突出片44を、シートパン20の平坦部27に設けられた孔部27aに挿設する。これによって、シートパン20の平坦部24,27に対しエアバッグカバー40が重なり合うことによって、エアバッグカバー40がシートパン20に密着するとともに、孔部24a,27aと突出片43,44との係合作用によって、シートパン20に対しエアバッグカバー40の位置決めを行うことが可能となる。その後、位置決めされた状態のシートパン20及びエアバッグカバー40を、更にリベットやボルトナット等の締結手段(図示省略)によって互いに固定する。
【0045】
(他の実施の形態)
なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0046】
また、上記実施の形態では、運転者が着座する運転席シートや、助手席シートとして構成される車両シート100の構成について説明したが、運転席シートや助手席シートを含む種々の車両シート、例えば後部席シートの構成に本発明の特徴部分を適用することもできる。この場合の車両には、自動車、飛行機、船舶、電車、バス、トラック等、車両乗員を乗せて移動する各種の車両が包含される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施の形態の車両シート100の内部構造を示す図であって、車両斜め後方からみた斜視図である。
【図2】図1中のA−A線における断面図である。
【図3】本実施の形態のエアバッグモジュール30をシートパン20の収容部21に収容する作業の概要を示す斜視図である。
【図4】本実施の形態のエアバッグカバー40をシートパン20に取り付ける作業の概要を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
10 シートフレーム
12 ベースフレーム
12a 左側サイドフレーム
12b 右側サイドフレーム
13 ブラケット
14 バックフレーム
15 支軸
16 ヘッドレスト
20 シートパン
20a 第1領域
20b 第2領域
21 収容部
22 貫通孔
23 窪み部
24,27 平坦部
24a,27a 孔部
25,28 段差部
26 溝部
26a 貫通孔
30 エアバッグモジュール
31 エアバッグ
32 ガス発生器
33 リテーナー
34 固定用ボルト
36 ナット
40 エアバッグカバー
41 前端部
42 後端部
43,44 突出片
100 車両シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着される車両シートであって、
シート骨格を形成するシートフレームのうち、シートクッション下方の左側を前後方向に延在する左側サイドフレームと、シートクッション下方の右側を前後方向に延在する右側サイドフレームと、シートクッション下方にて前記左側サイドフレームと前記右側サイドフレームを接続するブラケットと、
前記シートクッション下方であって、前記左側サイドフレームと前記右側サイドフレームとの間にて前記ブラケットの上方または後方に近接状に配設されるとともに、前記ブラケットと反対側に収容開口が形成されたエアバッグモジュール収容部を有するシートパンと、
エアバッグ及びガス発生器を有し、前記エアバッグモジュール収容部に収容されるとともに、前記ガス発生器の作動により発生したエアバッグ膨張用ガスの供給によって前記エアバッグがシートクッション下方から上方へと展開膨張して、事故発生の際に車両シート着座状態の車両乗員の車両前方への移動に抗するように設定されたエアバッグモジュールと、
前記シートパンの各部位のうち、前記ブラケットと反対側に形成された前記収容開口を遮へいするべく当該シートパンに装着され、その装着状態において前記エアバッグモジュール収容部に収容された前記エアバッグの収容開口側を覆うエアバッグカバーと、
前記エアバッグカバーの装着状態において、当該エアバッグカバー及び前記シートパンを互いに位置決めする位置決め機構を備えることを特徴とする車両シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両シートであって、
前記位置決め機構は、前記シートパンに設けられた凹部と、前記エアバッグカバーに設けられて前記凹部に係合可能な凸部とによって構成されることを特徴とする車両シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両シートであって、
更に、前記エアバッグカバーの装着状態において、前記位置決め機構によって互いに位置決めされた前記エアバッグカバー及び前記シートパンを締結固定する固定部材を備える構成であることを特徴とする車両シート。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の車両シートと、
前記車両シートに着座した車両乗員を拘束するシートベルトと、
を備え、
前記車両シートに着座している車両乗員に対し前記シートベルトが装着されたシートベルト装着状態において、事故発生の際の当該車両乗員の腰部の前方移動に伴って当該車両乗員が座面に沿って前記シートベルトを潜ろうとする動作を、前記車両シートに搭載された前記エアバッグモジュールによって阻止する構成であることを特徴とする車両。
【請求項5】
シート骨格を形成するシートフレームのうち、シートクッション下方の左側を前後方向に延在する左側サイドフレームと、シートクッション下方の右側を前後方向に延在する右側サイドフレームと、シートクッション下方にて前記左側サイドフレームと前記右側サイドフレームを接続するブラケットと、
前記シートクッション下方であって、前記左側サイドフレームと前記右側サイドフレームとの間にて前記ブラケットの上方または後方に近接状に配設されるとともに、記ブラケットと反対側に収容開口が形成されたエアバッグモジュール収容部を有するシートパンと、
を備える車両シートにおいて、
エアバッグ及びガス発生器を有し、前記エアバッグモジュール収容部に収容されるとともに、前記ガス発生器の作動により発生したエアバッグ膨張用ガスの供給によって前記エアバッグがシートクッション下方から上方へと展開膨張して、事故発生の際に車両シート着座状態の車両乗員の車両前方への移動に抗するように設定されたエアバッグモジュールであって、
前記シートパンの各部位のうち、前記ブラケットと反対側に形成された前記収容開口を遮へいするべく当該シートパンに装着され、前記エアバッグモジュール収容部に収容された状態の前記エアバッグの収容開口側を覆うエアバッグカバーと、
前記エアバッグカバーの装着状態において、当該エアバッグカバー及び前記シートパンを互いに位置決めする位置決め機構を備えることを特徴とする車両シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−276600(P2007−276600A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104698(P2006−104698)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】