説明

車両側部のエネルギ吸収装置

【課題】表皮材19が被装されてなるシート内の側部近傍部にエアバッグユニット21を備え、表皮材19に、エアバッグ24の展開圧を受けて開口可能な脆弱部19aが設けられた車両側部のエネルギ吸収装置に対して、上記展開圧により脆弱部19aをより確実に開口させる。
【解決手段】脆弱部19aの開口を、第1表皮材と第2表皮材とを縫製糸36により縫製することで閉塞し、第1表皮材において脆弱部開口側の端部を上記縫製糸36による縫製部分でシート内側に折り返してなる第1折返部を、該第1折返部よりもシート外側の第1表皮材に対し、樹脂板43を挟んだ状態で縫製し、第2表皮材において脆弱部開口側の端部を上記縫製糸36による縫製部分でシート内側に折り返してなる第2折返部を、該第2折返部よりもシート外側の第1表皮材に対し、樹脂板43を挟んだ状態で縫製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両側部のエネルギ吸収装置に関し、特に表皮材が被装されてなるシート内にエアバッグユニットが配設されているものの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグユニットを操舵ハンドルに配設して車体の正面衝突時に乗員の安全を図ることはよく知られている。一方、近年、例えば特許文献1に示されているように、シート内の側部にエアバッグユニットを配設し、車体側部への衝突時に乗員の側方でエアバッグを展開させ、その展開したエアバッグで側突のエネルギを吸収して乗員を保護するようにすることが提案されている。
【特許文献1】特開平6−64491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記提案例のように、シート内にエアバッグユニットを配設する場合、シートの最外側には、通常、表皮材が被装されているので、エアバッグユニットに対応する表皮材に、エアバッグ展開圧を受けたときに容易に開口する脆弱部を設け、その開口した脆弱部からエアバッグをシート外方に展開させるようにしている。
【0004】
しかし、表皮材には、通常、表面に皺が生じないように伸張率の高いものが使用されているので、表皮材は、エアバッグ展開圧を受けると、最初にシート外側に伸張され、その後、脆弱部が開口することになる。そのため、エアバッグの展開圧により脆弱部をより確実に開口させるためには改良の余地がある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エアバッグの展開圧により表皮材の脆弱部をより確実に開口させようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、脆弱部の開口を、第1表皮材と第2表皮材とを開口閉塞用縫製糸により縫製することで閉塞し、上記第1表皮材が、該第1表皮材の脆弱部開口側の端部を上記開口閉塞用縫製糸による縫製部分でシート内側に折り返してなる第1折返部を有し、上記第2表皮材が、該第2表皮材の脆弱部開口側の端部を上記開口閉塞用縫製糸による縫製部分でシート内側に折り返してなる第2折返部を有するようにし、上記第1折返部を、該第1折返部よりもシート外側の第1表皮材に対し、第1補強材を挟んだ状態で縫製し、上記第2折返部を、該第2折返部よりもシート外側の第2表皮材に対し、第2補強材を挟んだ状態で縫製するようにした。
【0007】
具体的には、請求項1の発明では、表皮材が被装されてなるシート内の側部近傍部に、所定方向に向けて配設されたエアバッグユニットを備え、上記表皮材に、エアバッグ展開圧を受けて開口可能な脆弱部が設けられ、該開口した脆弱部からエアバッグがシート外方に展開するように構成された車両側部のエネルギ吸収装置を前提とする。
【0008】
そして、上記表皮材は、シート後側からシート幅方向外側を通って上記脆弱部へ向かって延びる第1表皮材と、シート前側におけるシート幅方向中央側から上記脆弱部へ向かって延びる第2表皮材とからなり、上記脆弱部の開口は、上記第1表皮材と第2表皮材とを開口閉塞用縫製糸により縫製することで閉塞されており、上記第1表皮材は、該第1表皮材の脆弱部開口側の端部を上記開口閉塞用縫製糸による縫製部分でシート内側に折り返してなる第1折返部を有し、上記第2表皮材は、該第2表皮材の脆弱部開口側の端部を上記開口閉塞用縫製糸による縫製部分でシート内側に折り返してなる第2折返部を有し、上記第1折返部は、該第1折返部よりもシート外側の第1表皮材に対し、第1補強材を挟んだ状態で縫製され、上記第2折返部は、該第2折返部よりもシート外側の第2表皮材に対し、第2補強材を挟んだ状態で縫製されているものとする。
【0009】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、第1及び第2補強材は、樹脂板であるものとする。
【0010】
請求項3の発明では、請求項1の発明において、表皮材のシート内側に、パッドが設けられ、上記パッドにおけるエアバッグユニットに対応する部位に、エアバッグの展開圧を受けて該パッドが破断し始める起点となる破断起点部が設けられているものとする。
【0011】
請求項4の発明では、請求項3の発明において、パッドの破断起点部は、脆弱部を指向して切り込まれてなるものとする。
【0012】
請求項5の発明では、請求項1の発明において、第1折返部は、第1縫製糸により、該第1折返部よりもシート外側の第1表皮材に対し、第1補強材を挟んだ状態で縫製され、第2折返部は、第2縫製糸により、該第2折返部よりもシート外側の第2表皮材に対し、第2補強材を挟んだ状態で縫製されているものとする。
【0013】
これら請求項1〜5の発明により、第1及び第2補強材によって脆弱部の周囲の表皮材が補強されるので、エアバッグ展開圧により開口閉塞用縫製糸をより確実に切断させることができ、脆弱部をより確実に開口させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の車両側部のエネルギ吸収装置によると、脆弱部の開口を、第1表皮材と第2表皮材とを開口閉塞用縫製糸により縫製することで閉塞し、上記第1表皮材において脆弱部開口側の端部を上記開口閉塞用縫製糸による縫製部分でシート内側に折り返してなる第1折返部を、該第1折返部よりもシート外側の第1表皮材に対し、第1補強材を挟んだ状態で縫製し、上記第2表皮材において脆弱部開口側の端部を上記開口閉塞用縫製糸による縫製部分でシート内側に折り返してなる第2折返部を、該第2折返部よりもシート外側の第2表皮材に対し、第2補強材を挟んだ状態で縫製するようにしたことにより、エアバッグ展開圧により開口閉塞用縫製糸をより確実に切断して、脆弱部をより確実に開口させることができ、よって、該開口からのエアバッグの展開をより確実なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。但し、最初に本発明の実施形態と主要部以外の構成が類似した参考形態を説明し、その後に、本発明の実施形態についてその参考形態と異なる点を説明する。
【0016】
(参考形態)
図1〜図4は、本発明の参考形態に係る車両側部のエネルギ吸収装置における自動車の前席左側のシート1を示し(尚、以下の説明では、自動車の前後左右を単に前後左右という)、このシート1は、シートクッション2、シートバック3及びヘッドレスト4を有する。上記シートクッション2の左右両端部の下部には、前後方向に延びるスライダ7,7がそれぞれ設けられ、この各スライダ7は、前後部でレール取付部材10,10を介してフロアに固定した左右の各スライドレール8に係合されてシート1の前後位置を調節することができるようになっている。また、シートクッション2の後部には、ナックル部材9が左右方向に延びる回転軸11を中心として回転可能に設けられ、このナックル部材9を介してシートバック3がシートクッション2に対して上記回転軸11回りに回転可能に連結されて、シートバック3の角度調整を行うことができるようになっている。
【0017】
上記ヘッドレスト4は、その下端面から突出したフレーム5,5が上記シートバック3の上端面に形成した2つの穴にそれぞれ差し込まれてそのシートバック3に取り付けられている。
【0018】
上記シートバック3内の後部外周部には、鋼製パイプ材からなる上下部及び左右両側部を有する枠状のシートバックフレーム13(シートフレーム)が設けられ、このシートバックフレーム13の上部には、上記ヘッドレスト4の下端面から突出した各フレーム5とそれぞれ嵌合してヘッドレスト4の上下方向の位置を調節することができる2つのヘッドレスト調節部材14,14が取付固定されている。
【0019】
上記シートバックフレーム13の左右両側部間には、シートバックフレーム13よりも細い径の線材からなる左右方向に延びる複数本のワイヤフレーム18,18,…が設けられている。この各ワイヤフレーム18は、その両端部がシートバックフレーム13の左右両側部前側にそれぞれ溶接により取付固定されている。
【0020】
上記各ワイヤフレーム18よりも前側にはパッド15が設けられ、このパッド15は、乗員がシートバック3に凭れたときに後方に逃げないように各ワイヤフレーム18によって支持されている。また、このパッド15は、その端部がシートバックフレーム13の外側から後方に回り込むようにされてそのシートバックフレーム13に支持されている。このパッド15のシート外側表面は、布地からなる表皮材19で覆われている。つまり、シート1の最外側には表皮材19が被装されている。
【0021】
上記シートクッション2の左右両端部には上方に膨らんだサイドサポート部2a,2aが、またシートバック3の左右両端部には前方に膨らんだサイドサポート部3a,3aがそれぞれ設けられ、乗員が左右方向に動かないようにサポートする役目をしている。
【0022】
上記シートバック3内においてそのシート1に近いサイドドア側の側部近傍部つまり左側のサイドサポート部3a内にエアバッグユニット21が配設されている。このエアバッグユニット21は、断面略U字状のモジュールカン22を有し、このモジュールカン22内には、奥側に点火部と爆薬とを内蔵した円筒缶状のインフレータ23が、また開口側に折り畳まれたエアバッグ24がそれぞれ収容されている。上記インフレータ23の点火部には、図示しないが、自動車の左側部への側突を検知する加速度センサから点火信号が供給されるようになっており、その点火信号により点火部が点火して爆薬が高速燃焼し、そのとき発生する多量のガスによりエアバッグ24が膨脹展開する。
【0023】
上記エアバッグユニット21は、その長手方向がシートバック3の上下方向と略一致するように配置され、そのモジュールカン22の側面にて上下2組のボルト27,27及びナット28,28で取付部材26の一端部に締結されている。この取付部材26の他端部はシートバックフレーム13に溶接により取付固定されている。このことで、エアバッグユニット21は取付部材26を介してシートバックフレーム13に固定されている。また、このエアバッグユニット21は、そのモジュールカン22の開口方向つまりエアバッグ24が展開する方向が前方に対して左側に傾くように配置されている。
【0024】
上記パッド15のシート内側表面部におけるエアバッグユニット21に対応した部位つまりエアバッグユニット21におけるモジュールカン22開口の略前方部位には、エアバッグ24の展開圧を受けて上記パッド15が破断し始める起点部となる切込溝部33が設けられ、この切込溝部33が他の部分よりも脆弱となるようにされている。この切込溝部33は、エアバッグユニット21のモジュールカン22とシートバック3の上下方向において略同じ高さの位置でかつ略同じ長さに亘って設けられている。そして、エアバッグ24が展開するとき、その展開圧によってパッド15がその切込溝部33から破断し始め、その切込溝部33の延長線上の箇所が破断するようになっている。
【0025】
上記エアバッグユニット21に対応する表皮材19つまり上記切込溝部33の略延長線上の表皮材19には、エアバッグ24の展開圧を受けて開口するように脆弱部19aが設けられている。すなわち、この脆弱部19aは、図1及び図4に示すように、上記切込溝部33とシートバック3の上下方向において略同じ高さの位置でかつ略同じ長さに亘って略直線状にその表皮材19の開口部を縫製により閉塞してなり、エアバッグ24の展開圧を受けたときにその閉塞された脆弱部19aが開口し、その開口した脆弱部19a及び上記パッド15の破断部から、エアバッグ24がシートバック3の外方でかつこのシート1の乗員と左側サイドドアとの間に展開するようになっている。
【0026】
この脆弱部19aの縫製部は、その開口部両端の表皮材19がそれぞれ折り返されて第1の縫製糸35,35により縫い合わされていて、その表皮材19の両折返部の先端同士が第2の縫製糸36により縫い合わされているダブルステッチとされている。そして、この縫製部の第1及び第2縫製糸35,36の強度は、表皮材19において他の縫製部よりも低く設定されている。
【0027】
上記表皮材19には、エアバッグユニット21のエアバッグ24の展開圧により上記脆弱部19aが開口する前に表皮材19が伸張するのを制限する伸張制限手段が設けられている。すなわち、この伸張制限手段は、表皮材19よりも伸張率の低い複数枚の低伸張シート状部材38,38,…からなり、この各低伸張シート状部材38が脆弱部19a近傍の表皮材19裏面にその表皮材19と一体に接着により接合されている。そして、その複数枚の低伸張シート状部材38,38,…が、脆弱部19aを挟んでその脆弱部19aの対向方向両側に、直線状とされた脆弱部19aの長手方向に略沿って所定間隔を空けて配置されている。この脆弱部19aの一方の側の各低伸張シート状部材38は、その脆弱部19a近傍からシートバック3の座面側(前側)における左側サイドサポート部3a基部近傍まで延び、他の側の各低伸張シート状部材38は、脆弱部19a近傍から左側サイドサポート部3aの後側近傍まで延びている。
【0028】
上記エアバッグ24は、図3に示すように、シートバック3から前方にかつこのシート1に座っている乗員とサイドドア40との間でその乗員の腹部から頭部に亘って展開するようになっており、乗員の胸部に対応する胸部保護部24aと、その胸部保護部24aの略上方に連続してその乗員の頭部に対応する頭部保護部24bとを備えている。上記胸部保護部24aはエアバッグユニット21のインフレータ23に直接接続され、このインフレータ23から略前方に延びるようにされている。そして、上記頭部保護部24bは、エアバッグ展開気体としての上記ガスが上記胸部保護部24aを経由して流入するように該胸部保護部24aに接続され、略上方に延びるようにされている。
【0029】
以上の構成からなる車両側部のエネルギ吸収装置において、側突によりエアバッグ24が展開するときの動作について説明する。先ず、自動車の左側部への側突を加速度センサが検知すると、展開信号がインフレータ23の点火部に供給されて点火部が点火する。このことで、インフレータ23内の爆薬が高速燃焼してエアバッグ24に多量のガスが供給され、エアバッグ24が膨脹展開しようとする。そして、このエアバッグ24は、モジュールカン22の開口方向である略前方に展開しようとし、パッド15のシート内側表面に当接してその展開圧によりパッド15をシート内側から外側に押す。このため、パッド15はその脆弱な部分すなわち切込溝部33から破断し始め、切込溝部33の延長線上に略沿ってパッド15が破断される。
【0030】
次に、表皮材19の脆弱部19aが開口されるが、その前に脆弱部19a近傍の表皮材19がエアバッグ24の展開圧を受けてシート外側に伸張され、その伸張される時間だけその開口が遅くなる。しかし、この参考形態では、表皮材19自体の伸張が各低伸張シート状部材38によって制限されているので、表皮材19の伸張量は小さくなり、開口までの時間は短い。そして、その脆弱部19aにおけるダブルステッチとされた縫製部の第1及び第2縫製糸35,36の強度が表皮材19において他の縫製部よりも低く設定され、しかも、第1縫製糸35よりも第2縫製糸36にエアバッグ24の展開圧が大きく加わるので、第2縫製糸36のみが切断して脆弱部19aが開口する。さらに、第1縫製糸35によりその脆弱部19a周囲の表皮材19が補強されていることになるので、脆弱部19a周囲の表皮材19自体が破断することにより表皮材19がその縫製前の開口部からずれて開口するということはなく、その縫製前の開口部からエアバッグ24を確実にかつ早期に展開させることができる。
【0031】
続いて、その開口した脆弱部19a及び上記パッド15の破断部からエアバッグ24がシートバック3の外側前方に展開する。このとき、エアバッグユニット21のインフレータ23に接続されている胸部保護部24aが最初に展開し、続いて頭部保護部24bにガスが流れてその頭部保護部24bが展開する。このことで、頭部保護部24bの展開が僅かに遅くなるが、表皮材19の脆弱部19aが開口するまでの時間が短いので、頭部保護部24bが完全に展開するまでの時間も短くて済む。この結果、このような頭部保護部24bを有する容量の大きいエアバッグ24を備えていても、そのエアバッグ24を短時間で展開させることができ、このシート1に座っている乗員の胸部及び頭部が左側サイドドアに衝突するのを防止することができる。よって、この車両側部のエネルギ吸収装置の有効な利用を図ることができると共に、乗員の安全性を向上させることができる。
【0032】
したがって、上記参考形態では、エアバッグユニット21のエアバッグ24の展開圧により脆弱部19aが開口する前に表皮材19が伸張するのを制限する伸張制限手段として、脆弱部19a近傍の表皮材19裏面に表皮材19よりも伸張率の低い複数枚の低伸張シート状部材38,38,…が設けられ、その低伸張シート状部材38,38,…は、脆弱部19aを挟んでその脆弱部19aの対向方向両側にその表皮材19と一体に接着により接合されているので、簡単な構成で表皮材19自体の伸張を有効に制限することができ、その伸張量を小さくすることができる。このため、エアバッグ24の展開圧による脆弱部19aの開口作用が促進され、その脆弱部19aが開口するまでの時間が短くなり、その開口した脆弱部19aからエアバッグ24はスムーズにシートバック3の外方に展開する。よって、エアバッグ24のシートバック3外方への展開を容易に短時間で行わせることができる。
【0033】
また、複数枚の低伸張シート状部材38,38,…が、直線状とされた脆弱部19aの長手方向に略沿って所定間隔を空けて配置されているので、表皮材19の表面に皺が発生するのを有効に抑えることができると共に、表皮材19が有する柔らかい感触を維持することもできる。よって、外観上の見映えや座り心地性を向上させることができる。
【0034】
さらに、エアバッグユニット21がシートバック3の左側サイドサポート部3a内に配設されているので、自動車の左側部への側突により乗員と左側サイドドアとの間にエアバッグ24を容易に展開させることができ、乗員の左側サイドドアへの衝突を確実に防ぐことができる。しかも、シートバック3のサイドサポート部3aには、比較的大きな空間を設けることができる。よって、乗員の座り心地性を阻害することなくエアバッグユニット21をシート1内に収容することができ、側突時の乗員のより一層の安全化を図ることができる。
【0035】
尚、上記参考形態では、脆弱部19aの縫製部をダブルステッチとしたが、上記第2縫製糸36のみで縫製したシングルステッチであっても本発明を適用することができる。その場合、その脆弱部19aの縫製部の糸の強度をさらに低くしたり、表皮材19のシート内側面に通常接合されているラミネートの基布の強度を高くしたりすることによって、脆弱部19a周囲の表皮材19を破断させることなくその縫製部の糸のみを切断させることができ、脆弱部19aにおける縫製前の開口部から確実にエアバッグ24をシートバック3外方に展開させることができる。
【0036】
(実施形態)
ここで、本発明の実施形態について説明する。図5は、本発明の実施形態を示し(尚、以下の実施形態では、図1と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略し、他の異なる箇所のみを説明する)、脆弱部19aにおけるダブルステッチとされた縫製部の構成を上記参考形態と異ならせたものである。
【0037】
すなわち、この実施形態では、脆弱部19aにおける表皮材19の各折返部間に樹脂板43がそれぞれ介在され、その樹脂板43を挟んで各折返部が第1の縫製糸35により縫い合わされ、その表皮材19の両折返部の先端同士が第2の縫製糸36により縫い合わされている。
【0038】
上記脆弱部19aのシート幅方向外側の表皮材19が第1表皮材に相当し、脆弱部19aのシート幅方向中央側の表皮材19が第2表皮材に相当する。また、上記第2の縫製糸36が開口閉塞用縫製糸に相当し、脆弱部19aの開口は、上記第1表皮材と第2表皮材とを開口閉塞用縫製糸により縫製することで閉塞されていることになる。さらに、第1表皮材側の折返部が第1折返部に相当し、第2表皮材側の折返部が第2折返部に相当する。また、上記第1の縫製糸35が本発明の第1及び第2縫製糸に相当する。さらにまた、第1表皮材側の樹脂板43が第1補強材に相当し、第2表皮材側の樹脂板43が第2補強材に相当する。
【0039】
したがって、上記実施形態では、各樹脂板43によって脆弱部19aの周囲の表皮材19がより一層補強されるので、より確実に第2縫製糸36を切断させることができ、脆弱部19aにおける縫製前の開口部からのエアバッグ24の展開をより確実なものとすることができる。
【0040】
尚、上記参考形態及び実施形態では、複数枚の低伸張シート状部材38,38,…を接着により表皮材19に接合したが、各低伸張シート状部材38を縫製により接合してもよく、脆弱部19a周囲全体の表皮材19に1つの低伸張シート状部材を接合しても、本発明を適用することができる。
【0041】
また、上記参考形態及び実施形態では、パッド15が破断し易いようにパッド15のシート内側表面部に切込溝部33を設けたが、パッド15がその切込溝部33の延長線上に確実に破断するように、その延長線上にスリットを設けてパッド15を切離しておくようにしてもよい。
【0042】
さらに、上記参考形態及び実施形態では、エアバッグユニット21をシートバック3の左側サイドサポート部3a内に配設するようにしたが、シートバック3の右側サイドサポート部3a内に配設する場合も本発明を適用することができ、乗員同士の衝突を防止することができる。そして、シートクッション2のサイドサポート部2a内に、エアバッグユニット21をそのモジュールカン22の開口が略上方を向くようにして、エアバッグ24が該シートクッション2の略上方側に展開するように配設する場合も、シートバック3のサイドサポート部3a内に配設する場合と同様に、本発明を適用することができる。また、ヘッドレスト4の左右両側部にサイドサポート部を設け、そのサイドサポート部に、エアバッグが略前方に展開するように小型のエアバッグユニットを配設して乗員の頭部等を保護する場合にも、本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、表皮材が被装されてなるシート内にエアバッグユニットが配設された車両側部のエネルギ吸収装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図2のI−I線断面図である。
【図2】参考形態に係る車両側部のエネルギ吸収装置におけるシートを示す斜視図である。
【図3】エアバッグの展開状態を示すシートの左側面図である。
【図4】シートバックにおける表皮材の脆弱部を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態における図1相当図である。
【符号の説明】
【0045】
1 シート
2 シートクッション
3 シートバック
13 シートバックフレーム(シートフレーム)
15 パッド
19 表皮材
19a 脆弱部
21 エアバッグユニット
24 エアバッグ
33 切込溝部(破断起点部)
35 第1の縫製糸(第1及び第2縫製糸)
36 第2の縫製糸(開口閉塞用縫製糸)
43 樹脂板(第1及び第2補強材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮材が被装されてなるシート内の側部近傍部に、所定方向に向けて配設されたエアバッグユニットを備え、
上記表皮材に、エアバッグ展開圧を受けて開口可能な脆弱部が設けられ、該開口した脆弱部からエアバッグがシート外方に展開するように構成された車両側部のエネルギ吸収装置において、
上記表皮材は、シート後側からシート幅方向外側を通って上記脆弱部へ向かって延びる第1表皮材と、シート前側におけるシート幅方向中央側から上記脆弱部へ向かって延びる第2表皮材とからなり、
上記脆弱部の開口は、上記第1表皮材と第2表皮材とを開口閉塞用縫製糸により縫製することで閉塞されており、
上記第1表皮材は、該第1表皮材の脆弱部開口側の端部を上記開口閉塞用縫製糸による縫製部分でシート内側に折り返してなる第1折返部を有し、
上記第2表皮材は、該第2表皮材の脆弱部開口側の端部を上記開口閉塞用縫製糸による縫製部分でシート内側に折り返してなる第2折返部を有し、
上記第1折返部は、該第1折返部よりもシート外側の第1表皮材に対し、第1補強材を挟んだ状態で縫製され、
上記第2折返部は、該第2折返部よりもシート外側の第2表皮材に対し、第2補強材を挟んだ状態で縫製されていることを特徴とする車両側部のエネルギ吸収装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両側部のエネルギ吸収装置において、
第1及び第2補強材は、樹脂板であることを特徴とする車両側部のエネルギ吸収装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両側部のエネルギ吸収装置において、
表皮材のシート内側に、パッドが設けられ、
上記パッドにおけるエアバッグユニットに対応する部位に、エアバッグの展開圧を受けて該パッドが破断し始める起点となる破断起点部が設けられていることを特徴とする車両側部のエネルギ吸収装置。
【請求項4】
請求項3記載の車両側部のエネルギ吸収装置において、
パッドの破断起点部は、脆弱部を指向して切り込まれてなることを特徴とする車両側部のエネルギ吸収装置。
【請求項5】
請求項1記載の車両側部のエネルギ吸収装置において、
第1折返部は、第1縫製糸により、該第1折返部よりもシート外側の第1表皮材に対し、第1補強材を挟んだ状態で縫製され、
第2折返部は、第2縫製糸により、該第2折返部よりもシート外側の第2表皮材に対し、第2補強材を挟んだ状態で縫製されていることを特徴とする車両側部のエネルギ吸収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−199287(P2006−199287A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42121(P2006−42121)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【分割の表示】特願平9−15040の分割
【原出願日】平成9年1月29日(1997.1.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】