説明

車両制御システム

【課題】特定交差点から車両までの距離を高い精度で取得し、より正確な動力源の再始動時期を設定する車両制御システムを提供する。
【解決手段】車両の制御装置は、切り替え時間の長い特定交差点に車両が停車すると、信号機の切り替え残時間および特定交差点から車両までの距離を取得する。制御装置は、信号待ちの車列の後方など特定交差点から車両までの距離が長いとき、信号機の切り替え残時間に特定交差点からの距離に応じた時間を加えて車両のアイドリングストップ時間を延長する。一方、車列の先頭など特定交差点から車両までの距離が短いとき、信号機の切り替え残時間に応じて車両のアイドリングストップ時間を設定する。これにより、信号機の切り替え残時間だけでなく、特定交差点から車両までの距離に応じてアイドリングストップ時間を設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関し、特にナビゲーション装置の地図情報を利用して交通信号機(以下、「信号機」と省略する。)の切り替わり時間の長い交差点において動力源の停止および再始動を実施する車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
停車時間に応じて例えばエンジンなどの動力源を停止するいわゆるアイドリングストップを実施する車両が広く知られている。アイドリングストップは、例えば交差点などで交通信号機(以下、「信号機」と省略する。)の切り替えを待つ間に実施される。一方、すべての信号機が設けられた交差点をアイドリングストップの対象とすると、ナビゲーション装置などの位置情報を処理する装置に過大な負荷を加えることとなる。また、アイドリングストップを頻繁に実施すると、夏季には車両の室温の上昇、冬季には車両の室温の低下を招くとともに、バッテリや動力源の始動装置などの消耗を早めるという問題がある。
【0003】
そこで、交差点に設けられている信号機の切り替え時期や交差点から車両までの距離などを考慮してアイドリングストップの実施の可否を決定することが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2001−207883号公報
【特許文献2】特開2003−206781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の場合、交差点に設けられている信号機の切り替え情報と、信号機が設けられている交差点から自身の車両までの距離とから、アイドリングストップの可否およびエンジンの再始動時期を設定している。しかしながら、特許文献1の場合、ナビゲーション装置の距離情報は、例えばGPSなどのナビゲーション装置からの位置情報を利用している。そのため、距離精度が低く、アイドリングストップの開始時期およびエンジンの再始動時期を正確に設定することは困難である。
【0005】
一方、特許文献2の場合、特許文献1と同様に交差点に設けられている信号機の切り替え情報に加え、自身の車両の直前に停車している車両のエンジン再始動情報を取得している。そして、取得した信号機の切り替え情報およびエンジン再始動情報に基づいて、アイドリングストップの可否およびエンジンの再始動時期を設定することが開示されている。しかしながら、直前の車両がエンジンを再始動した時点では、自身の車両のエンジン再始動時期としては遅い場合が多い。そのため、車両の発進が遅れ、交通の妨げとなるおそれがある。また、すべての車両が再始動情報を発信するとは限らず、さらに周囲に複数の車両がある場合、どれが直前の車両から発信された再始動情報であるかを判別するのは困難である。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、特定交差点から車両までの距離を高い精度で取得し、より正確な動力源の再始動時期を設定する車両制御システムを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、特定交差点から車両までの高精度な距離を取得できない場合でも、前方の他車の有無からより正確な動力源の再始動時期を設定する車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明では、動力源制御手段は、特定交差点における信号機の切り替え残時間と動力源停止時間とに基づいて動力源の停止および再始動を実施する。特定交差点は、特に信号の切り替え時間が長い交差点として地図情報とともにナビゲーション装置に記憶されている。そのため、動力源制御手段は、特定交差点以外の交差点ではアイドリングストップを実施しない。動力源停止時間は、特定交差点までの距離に応じて設定される。動力源制御手段は、車両が走行する道路に設けられている距離情報発信手段から特定交差点から車両までの距離を取得する。そのため、距離取得手段は特定交差点からの正確な距離を距離情報発信手段から取得し、動力源制御手段は取得した距離に基づいて動力源停止時間を設定している。このように、信号機の残時間だけでなく特定交差点からの距離に応じて設定した動力源停止時間を加味することにより、特定交差点から車両までの距離に応じて適切な時間のアイドリングストップが図られる。したがって、交差点から車両までの距離を高い精度で取得することができ、より正確な動力源の再始動時期を設定することができる。また、特定交差点以外ではアイドリングストップが実施されないので、車両の室温の過剰な上昇または降下、およびバッテリや始動装置などの消耗を低減することができる。
【0008】
請求項2記載の発明では、動力源制御手段は、特定交差点において信号機の残時間と前方の車両の有無に基づいて動力源の停止および再始動を実施する。特定交差点は、特に信号の切り替え時間が長い交差点として地図情報とともにナビゲーション装置に記憶されている。一方、特定交差点からの正確な距離を発信する距離情報発信手段は、すべての交差点に設けられているとは限らない。そこで、動力源制御手段は、信号機の残時間に加え、前方の車両の有無に基づいて動力源の停止および再始動時期を設定する。前方に他車があるとき、信号機が赤から青に切り替わっても、車両がすぐに移動を開始するとは限らない。そのため、前方の他車の有無に基づいて、自車の動力源の停止時期および再始動時期を設定することにより、特定交差点から車両までの距離に応じて適切な時間のアイドリングストップが図られる。したがって、特定交差点から車両までの高精度な距離を取得できない場合でも、前方の他車の有無から動力源の正確な再始動時期を設定することができる。また、特定交差点以外ではアイドリングストップが実施されないので、車両の室温の過剰な上昇または降下、およびバッテリや始動装置などの消耗を低減することができる。
【0009】
請求項3記載の発明では、動力源制御手段は、車両の前方に他車がないとき、すなわち車両が特定交差点に停車している車列の先頭にあるとき、信号機の残時間に応じて動力源の再始動時期を設定する。これにより、動力源制御手段は、信号機が赤から青に切り替わる所定時間前に車両の動力源を再始動する。したがって、信号機が切り替わると、車両は円滑に進行を開始することができる。
【0010】
請求項4記載の発明では、動力源制御手段は、車両の前方に他車が停車しているとき、前方の他車の発進時期を動力源の再始動時期に設定する。距離情報発信手段が設けられていない特定交差点では、特定交差点から車両までの位置の距離を正確に取得することは困難である。そのため、信号機の切り替え時間と特定交差点からの距離とを加味して再始動時期を設定するのは困難である。そこで、車両の前方に他車が停車しているとき、その他車、特に数台前方の他車の発進を検出することにより、車両の動力源の再始動時期を設定している。したがって、信号機が切り替わると、車両は円滑に進行を開始することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の一実施形態による車両制御システムの電気的な構成を図2に示す。車両制御システム10は、制御装置11、ナビゲーション装置20、動力源としてのエンジンユニット30、通信装置12、車間距離センサ13および前方車両移動検出装置14を備えている。制御装置11は、いわゆる電子制御ユニット(ECU)であり、ナビゲーション装置20、エンジンユニット30および通信装置12をはじめとする車両の全体を統合的に制御する。制御装置11は、CPU、ROMおよびRAMなどから構成されるマイクロコンピュータを有している。CPUは、ROMに格納されているコンピュータプログラムにしたがって車両の各部を制御する。制御装置11をはじめとする各部は、バッテリ15から供給された電力によって駆動される。
【0012】
ナビゲーション装置20は、ナビ制御部21、地図情報格納部22、特定交差点情報格納部23および位置情報取得部24を有している。ナビ制御部21は、制御装置11と同様にマイクロコンピュータで構成され、地図情報格納部22、特定交差点情報格納部23および位置情報取得部24を統合して制御装置11とともに制御する。ナビ制御部21は、制御装置11と一体の構成としてもよい。
【0013】
地図情報格納部22は、HDD(Hard Disk Drive)やDVD(Digital Versatile Disk)などの記録メディアで構成されている。地図情報格納部22は、地図情報を含んでいる。特定交差点情報格納部23は、地図情報格納部22と同一または異なる記録メディアで構成されている。特定交差点情報は、地図情報に関連づけされて記録メディアに記録されている。特定交差点とは、信号機が設置されている交差点のうち、赤信号と青信号との相互間の切り替え時間の長い交差点を意味する。また、二本以上の道路が交差する場合、特に赤信号の待ち時間の長い側を特定交差点としてもよい。特定交差点情報格納部23には、この特定交差点情報が地図情報に関連づけされて特定交差点情報として格納されている。なお、地図情報格納部22および特定交差点情報格納部23は、上述のHDDやDVDに限らず、不揮発性のメモリカードなどであってもよく、それらを複数選択可能な構成であってもよい。
【0014】
位置情報取得部24は、例えばGPS(Global Positioning System)受信機、走行距離センサおよびジャイロなどを有する自立航法装置で構成されている。位置情報取得部24は、公知の検知方法により車両の現在位置および進行方向の方位を取得する。位置情報取得部24は、取得した車両の現在位置および進行方向の方位をナビ制御部21へ出力する。ナビ制御部21は、入力された車両の現在位置および進行方向の方位と、地図情報格納部22に格納されている地図情報とに基づいて、図示しないディスプレイに車両の現在位置を表示する。
【0015】
エンジンユニット30は、エンジン制御部31、スタータ32、イグナイタ33およびインジェクタ34などから構成されている。本実施形態の構成の場合、エンジンユニット40としてガソリンエンジンを例に説明している。エンジン制御部31は、制御装置11と同様にマイクロコンピュータで構成されている。エンジン制御部31は、例えば回転数センサ、アクセルセンサ、車速センサあるいは水温センサなど車両の各部に設けられた図示しない各種のセンサから車両の運転状態を取得する。回転数センサは、エンジンユニット40の図示しないエンジン本体の回転数を検出する。アクセルセンサは、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。車速センサは、車両の速度を検出する。水温センサは、エンジン本体の冷却水の温度を検出する。エンジン制御部31は、例示した各種のセンサおよびその他のセンサから車両の運転状態を検出し、検出した車両の運転状態および制御装置11から入力された情報などに基づいて、スタータ32、イグナイタ33およびインジェクタ34を駆動する。なお、エンジン制御部31は、制御装置11と一体の構成してもよい。
【0016】
スタータ32は、モータなどを有し、エンジン本体にクランキングのための動力を与えてエンジン本体を始動する。イグナイタ33は、点火コイルおよび点火プラグなどを有し、エンジン本体の燃焼室に吸入された混合気に点火する。なお、ディーゼルエンジンの場合、イグナイタは省略してもよい。インジェクタ34は、エンジン本体に吸入される空気またはエンジン本体の燃焼室に吸入された空気に燃料を噴射する。
【0017】
エンジン制御部31は、制御装置11からの指令にしたがってスタータ32に始動信号を出力する。また、エンジン制御部31は、制御装置11からの指令にしたがってイグナイタ33に点火信号を出力し、インジェクタ34に噴射信号を出力する。エンジン制御部31は、スタータ32、イグナイタ33およびインジェクタ34を制御することにより、エンジン本体の始動を実施するとともに、安定した運転状態を維持する。
【0018】
通信装置12は、車両が走行する道路や他車に設けられている各種情報提供手段から情報を取得する。ここで、通信装置12が情報を取得する各種の情報提供手段は、道路などに設けられた設備であって、本発明の車両制御システムを構成するものではない。本実施形態の場合、通信装置12は、距離情報発信装置41および信号情報発信装置42から情報を取得する。
【0019】
距離情報発信装置41は、例えば図3に示すように自身の車両50が走行する道路60の路側部に設けられている。距離情報発信装置41は、特定交差点61からの距離を距離情報として発信している。図2に示す通信装置12は、取得した距離情報を制御装置11へ出力する。制御装置11は、この距離情報に基づいて特定交差点61から自身の車両50までの距離を取得する。信号情報発信装置42は、図3に示すように特定交差点61の信号機62またはその近傍に設けられている。信号情報発信装置42は、特定交差点61における信号機62が赤から青に切り替わるまでの残り時間を切り替え残時間情報として発信している。図2に示す通信装置12は、取得した切り替え残時間情報を制御装置11へ出力する。制御装置11は、この切り替え残時間情報に基づいて特定交差点61に設置されている信号機62の切り替え残時間を取得する。
【0020】
制御装置11および通信装置12は、信号情報発信装置42から切り替え残時間情報を取得する特許請求の範囲の信号機残時間取得手段を構成している。また、制御装置11および通信装置12は、距離情報発信手段41から距離情報を取得する特許請求の範囲の距離情報取得手段を構成している。さらに、制御装置11は、エンジンユニット40を制御する特許請求の範囲の動力源制御手段を構成している。
【0021】
車間距離センサ13は、車両50の前方に設けられている。車間距離センサ13は、例えばレーザ測距部などを有しており、図3に示すように車両50の前方に位置している他車51の有無、および他車51までの距離を検出する。車間距離センサ13は、検出した他車51の有無、および他車51までの距離を検出信号として制御装置11へ出力する。前方車両移動検出装置14は、例えばレーザ送受信機を有しており、車両50の前方に停車している他車51の移動を検出する。前方車両移動検出装置14は、車両50の下方から前方の他車51のタイヤにレーザ光を照射し、その反射光から前方の他車51の移動を検出する。このとき、前方車両移動検出装置14は、例えば直近から所定の数のタイヤを検出することにより、直前の他車51の移動だけでなく、数台前方の他車51の移動も検出可能である。
【0022】
次に、上記の構成による車両制御システム10の作動について説明する。
(アイドリングストップの第1実施形態)
まず、上記の構成による車両制御システム10の作動の第1実施形態を図1に基づいて説明する。作動の第1実施形態の場合、図3に示すように道路60の特定交差点61に距離情報発信装置41が設けられている。
【0023】
制御装置11は、車両50が交差点で停車すると、この交差点が特定交差点61であるか否かを判断する(S101)。制御装置11は、ナビゲーション装置20から車両50が停車している交差点の位置を取得する。そして、制御装置11は、取得した交差点が特定交差点情報に含まれている特定交差点61に該当するか否かを判断する。車両50が停車した交差点が特定交差点61でない場合、信号機の切り替え時間、すなわち信号機が赤から青へ切り替わるまでの時間は比較的短い。信号機の切り替え時間が短いとき、車両50のアイドリングストップを実施すると、バッテリ15やスタータ32の消耗を早めることとなる。したがって、制御装置11は、車両50が特定交差点61でない交差点に停車したとき、処理を終了する。
【0024】
制御装置11は、ステップS101において車両50が特定交差点61で停車したと判断すると、切り替え残時間を取得する(S102)。制御装置11は、信号情報発信装置42から通信装置12を経由して切り替え残時間を取得する。
制御装置11は、ステップS102において切り替え残時間を取得すると、自身の車両50が先頭か否かを判断する(S103)。具体的には、制御装置11は、車間距離センサ13からの出力信号などに基づいて自身の車両50の前方における他車51の存在を検出する。自身の車両50の前方に他車51が存在するか否かによって、エンジンを停止する時間すなわちアイドリングストップの時間は変化する。すなわち、車両50が特定交差点61で停車したとき、特定交差点61に停車している複数の車両からなる車列のうち自身の車両50が先頭か後方かによって、発進までに要する時間およびアイドリングストップの時間は変化する。例えば車両50の前方に他車51があるとき、信号機62が赤から青に切り替わっても車両50が発進するまでには比較的時間を要する。一方、車両50が車列の先頭にあるとき、信号機62が赤から青に切り替わってから車両50が発進するまでの時間は短くなる。したがって、制御装置11は、自身の車両50が車列の先頭にあるか否かを判断する。
【0025】
制御装置11は、ステップS103において自身の車両50が特定交差点61に停車している車列の先頭にあると判断したとき、ステップS102で取得した切り替え残時間が所定時間以上であるか否かを判断する(S104)。上述のように頻繁なアイドリングストップの実施は、バッテリ15やスタータ32などの消耗の原因になる。そこで、制御装置11は、特定交差点61における信号機62の切り替え残時間がアイドリングストップを実施するのに十分な時間(例えば、1分以上)あるか否かを判断する。制御装置11は、切り替え残時間が所定時間に満たないとき、アイドリングストップの実施は不要と判断し、処理を終了する。
【0026】
制御装置11は、ステップS104において切り替え残時間が所定時間以上であると判断すると、車両50の停車している位置が特定交差点61から所定距離以上あるか否かを判断する(S105)。また、ステップS103において自身の車両50が特定交差点61に停車している車列の先頭でないと判断したときも、ステップS105において車両50が停車している位置が特定交差点61から所定距離以上あるか否かを判断する。
【0027】
制御装置11は、通信装置12を経由して距離情報発信装置41から距離情報を取得する。制御装置11は、取得した距離情報から特定交差点61から車両50までの距離を検出する。そして、制御装置11は、検出した距離が予め設定されている所定距離以上であるか否かを判断する。ここで、特定交差点61から車両までの距離は、起点が特定交差点61の中心または停止線であり、終点が車両50の中心、前端あるいは通信装置12の受信器の位置など任意に設定される。ここで距離の判断に用いる所定距離とは、例えば車両数台分に相当する距離、すなわち数m〜数十m程度の任意の値に設定することが望ましい。
【0028】
特定交差点61から車両50までの距離によってアイドリングストップを実施する時間は変化する。例えば車両50が特定交差点61に停車している車列の先頭ではないとき、前方に停車している他車51の台数や他車51の全長などによって特定交差点61から車両50までの距離は変化する。そのため、車両50がアイドリングストップを実施する時間は、信号機62の切り替え残時間だけでなく特定交差点61から車両50までの距離にも依存する。制御装置11は、距離情報発信装置41から距離情報を取得することにより、特定交差点61から車両50までの正確な距離を検出することができる。
【0029】
制御装置11は、ステップS105において特定交差点61からの距離が所定距離以上と判断すると、検出した距離に応じてアイドリングストップの時間を延長する(S106)。前方に複数の他車51が停車し特定交差点61から車両50までの距離が所定距離以上のとき、信号機62が赤から青に切り替わっても、車両50の発進までには時間的な余裕がある。そこで、制御装置11は、特定交差点61からの距離が所定距離以上と判断したとき、ステップS102で取得した信号機62の切り替え残時間に、特定交差点61から車両50までの距離に応じた時間(特許請求の範囲の「動力源停止時間」に相当)を加え、アイドリングストップを実施する時間を延長する。制御装置11は、延長したアイドリングストップ時間を設定すると、イグナイタ33による点火の停止、およびインジェクタ34からの燃料の噴射を停止して、エンジン本体の運転を停止させる。
【0030】
一方、制御装置11は、ステップS105において特定交差点61からの距離が所定距離以上でないと判断すると、ステップS102で取得した信号機62の切り替え残時間に応じてアイドリングストップ時間を設定する(S107)。自身の車両50が特定交差点61において車列の先頭あるとき、あるいは先頭でなくても前方の他車51の数が少ないとき、特定交差点61から車両50までの距離は短くなる。この場合、信号機62が赤から青に切り替わると、車両50は速やかに発進する必要がある。そこで、制御装置11は、信号機62の切り替え残時間に応じてアイドリングストップ時間を設定し、信号機62が赤から青に切り替わるまでにエンジンの再始動を可能にする。すなわち、制御装置11は、信号機62が赤から青に切り替わる前にエンジンを再始動可能なアイドリングストップ時間を設定する。制御装置11は、切り替え残時間に応じてアイドリングストップ時間を設定すると、イグナイタ33による点火の停止、およびインジェクタ34からの燃料の噴射を停止して、エンジン本体の運転を停止させる。
【0031】
ステップS106で延長されたアイドリングストップ時間、およびステップS107で設定されたアイドリングストップ時間に達すると、制御装置11はエンジン本体の運転を再始動させる(S108)。制御装置11は、エンジン制御部31を経由してスタータ32を駆動するとともに、適切なタイミングでイグナイタ33による点火およびインジェクタ34による燃料の噴射を実施する。これにより、エンジン本体は再始動する。
制御装置11は、交差点で車両50が停車するごとに、上述の手順を繰り返して実行する。
【0032】
以上説明した第1実施形態では、制御装置11は距離情報発信装置41により特定交差点61から車両50までの距離を取得する。そのため、制御装置11は特定交差点61から車両50までの正確な距離を取得することができる。そして、制御装置11は、取得した正確な距離と、信号情報発信装置42から入手した信号機62の切り替え残時間とから、アイドリングストップの実施の可否およびアイドリングストップ時間を設定する。したがって、特定交差点61から車両50までの距離に応じて、正確なエンジン本体の再始動時期を設定することができる。また、特定交差点61以外ではエンジン本体のアイドリングストップが実施されないので、車両50の室温の過剰な上昇または降下、およびバッテリ15やスタータ32などの機器の消耗を低減することができる。
【0033】
なお、第1実施形態では、ステップS106またはステップS107においてアイドリングストップ時間を設定した後、エンジン本体の運転を停止する例について説明した。しかし、例えばステップS104で切り替え残時間が所定時間以上であることが判断されれば、制御装置11はすぐにエンジン本体の運転を停止し、アイドリングストップを実施してもよい。そして、制御装置11は、エンジン本体の運転を停止した後、ステップS105以降の処理を実施してもよい。このように、制御装置11がエンジン本体の運転を停止する時期は、アイドリングストップを実施するために合理的な範囲で任意の時期に設定することができる。
【0034】
(アイドリングストップの第2実施形態)
第2実施形態の場合、道路60に距離情報発信装置41が設置されていない。信号機62の切り替え時間が長い特定交差点61は、数多く存在している。そのため、すべての特定交差点61に距離情報発信装置41が設置されているとは限らない。そこで、第2実施形態では、特定交差点61に距離情報発信装置41が設置されていない場合の処理の流れを図4に基づいて説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の処理は簡単に説明する。
【0035】
制御装置11は、車両50が交差点で停車すると、この交差点が特定交差点61であるか否かを判断する(S201)。制御装置11は、ステップS201において車両50が特定交差点61で停車したと判断すると、信号機62の切り替え残時間を取得する(S202)。制御装置11は、切り替え残時間を取得すると、ステップS202で取得した切り替え残時間が所定時間以上であるか否かを判断する(S203)。制御装置11は、切り替え残時間が所定時間に満たないとき、アイドリングストップの実施は不要と判断し、処理を終了する。
【0036】
制御装置11は、ステップS203において切り替え残時間が所定時間以上であると判断すると、特定交差点61に停車している自身の車両50の前方に他車51が存在するか否かを判断する(S204)。特定交差点61の信号待ちで車両50が停車しているとき、特定交差点61から自身の車両50までの距離は前方に停車している他車51の有無および他車51の台数などによって変化する。一方、車両50が走行する道路60に距離情報発信装置41が設置されていない場合、制御装置11は特定交差点61から車両50までの正確な距離を取得することができない。そこで、制御装置11は、特定交差点61で停止している自身の車両50の前方に、他車51が停車しているか否かを判断する。
【0037】
制御装置11は、ステップS204において自身の車両50の前方に他車51が停車していると判断すると、前方の他車51が発進するまでアイドリングストップ時間を延長する(S205)。前方に他車51が停車しているとき、その台数および全長によって特定交差点61から車両50までの距離は変化する。そのため、信号機62が赤から青に切り替わってから自身の車両50が発進するまでの時間およびアイドリングストップを実施する時間は変化する。そこで、制御装置11は、車間距離センサ13で前方の他車51の存在を検出するとともに、前方車両移動検出装置14で前方に停車している他車51の移動を検出する。
【0038】
前方車両移動検出装置14は、上述のように例えばレーザ光送受信機により前方に停車している他車51のタイヤの動きを検出する。このとき、車両50に近い側からレーザ光が照射されるタイヤの数をカウントすることにより、直前の他車51に限らず、数台前方の他車51のタイヤの動きを検出することができる。また、車両50の近い側からレーザ光が照射されるタイヤの数をカウントすることにより、前方に停車している他車51の台数の概略を検出することもできる。
【0039】
制御装置11は、ステップS204において前方に他車51が停車していることを検出すると、前方の他車51が発進するまでアイドリングストップ時間を延長する。このとき、前方車両移動検出装置14では車両50の直前の他車51よりも、車両50から数台前方の車両51の移動を検出することが望ましい。これは、直前の他車51の移動を検出した後、車両50のエンジン本体を始動すると、始動時期および車両50の発進に遅れが生じやすいからである。
【0040】
制御装置11は、アイドリングストップの条件が満たされたと判断すると、エンジン本体の運転を停止する。そして、制御装置11は、ステップS202で取得した信号機62の切り替え残時間に、前方の他車51が発進するまでの時間を加え、アイドリングストップを実施する時間を延長する。このとき、制御装置11は、前方に停車している他車51の台数に応じてアイドリングストップ時間を延長する。例えば前方に停車している他車51の台数が1から2台程度であるとき、最前の他車51の移動を検出してから車両50のエンジン本体を再始動すると、発進に遅れが生じるおそれがある。そのため、制御装置11は、前方に停車している他車51の台数が少なくなるほどアイドリングストップを延長する時間を短縮する。
【0041】
一方、制御装置11は、ステップS204において前方に他車51が停車していないとき、すなわち自身の車両50が車列の先頭にあると判断すると、ステップS202において取得した信号機62の切り替え残時間に応じてアイドリングストップ時間を設定する(S206)。すなわち、制御装置11は、信号機62が赤から青に切り替わる前にエンジン本体を再始動可能なアイドリングストップ時間を設定する。制御装置11は、アイドリングストップ時間を設定すると、エンジン本体の運転を停止させる。
ステップS205で延長されたアイドリングストップ時間、およびステップS206で設定されたアイドリングストップ時間に達すると、制御装置11はエンジン本体を再始動させる(S207)。
制御装置11は、交差点で車両50が停車するごとに、上述の手順を繰り返して実行する。
【0042】
第2実施形態では、制御装置11は前方に停車している他車51の有無によってアイドリングストップ時間を設定している。制御装置11は、車両50の前方に他車51が停車しているとき、信号機62の切り替え残時間に前方の車両50の移動を検出するまでの期間を加えてアイドリングストップ時間を設定している。また、制御装置11は、車両50の前方に他車51が停車していないとき、信号機62の切り替え残時間に応じてアイドリングストップ時間を設定している。これにより、道路60に距離情報発信装置41が設置されておらず、特定交差点61から車両50までの正確な距離を検出できない場合でも、前方の他車51の有無および他車51の移動に基づいてアイドリングストップ時間が設定される。したがって、特定交差点61から車両50までの高精度な距離を取得できない場合でも、より正確なエンジン本体の再始動時期を設定することができる。
【0043】
上述の複数の実施形態では、動力源としてガソリンエンジンを例に説明した。しかし、動力源は、ディーゼルエンジンであってもよく、例えばモータとガソリンエンジンとのハイブリッドシステムなど、ガソリンエンジンに限らず適用することができる。
また、上述の複数の実施形態では、アイドリングストップの時間を信号機62の切り替え残時間および特定交差点61から距離などに応じて設定している。しかし、例えば真夏の炎天下などのように車両50の室内の温度上昇が大きいときのように気象条件あるいはその他の環境的な条件によっては、アイドリングストップの時間を適宜短縮してもよい。さらに、例えば車両50が特定交差点61に連続して停車する場合など、道路の走行状態によっては頻繁にアイドリングストップが実施されるような場合、制御装置11は適宜アイドリングストップを省略したり短縮してもよい。
【0044】
さらに、第2実施形態では、前方の他車51の移動を検出する前方車両移動検出装置14として、レーザ送受信機を例に説明した。しかし、前方車両移動検出装置14は、時間的な影響を無視可能であれば、例えばカメラや車間距離センサ13から直前の他車51の発進を検出してもよい。この場合、カメラや車間距離センサ13を用いることにより、前方車両移動検出装置14を安価に構成することができる。
【0045】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態による車両制御システムにおいて作動の第1実施形態の流れを示す概略図
【図2】本発明の一実施形態による車両制御システムの電気的な構成を示すブロック図
【図3】特定交差点を示す模式図
【図4】本発明の一実施形態による車両制御システムにおいて作動の第2実施形態の流れを示す概略図
【符号の説明】
【0047】
図面中、10は車両制御システム、11は制御装置(信号機残時間取得手段、距離取得手段、動力源制御手段)、12は通信装置(信号機残時間取得手段、距離取得手段)、20はナビゲーション装置、22は地図情報格納部、23は特定交差点情報格納部、30はエンジンユニット(動力源)、41は距離情報発信装置、50は車両、51は他車、60は道路、61は特定交差点、62は信号機を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図情報、および前記地図情報に信号機の切り替え時間が長い交差点を特定交差点として記憶しているナビゲーション装置と、
前記特定交差点の信号機が切り替わる残時間を取得する信号機残時間取得手段と、
前記ナビゲーション装置を搭載する車両に設けられ、前記特定交差点から前記車両までの距離を、前記車両が走行する道路に設けられている距離情報発信手段から取得する距離取得手段と、
前記車両が前記特定交差点付近で停車したとき、前記信号機残時間取得手段で取得した前記残時間と、前記特定交差点までの距離に応じて設定される動力源停止時間とに基づいて、前記車両に搭載されている動力源の停止および再始動を実施する動力源制御手段と、
を備えることを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
地図情報、および前記地図情報に信号機の切り替え時間が長い交差点を特定交差点として記憶しているナビゲーション装置と、
前記特定交差点の信号機が切り替わる残時間を取得する信号機残時間取得手段と、
前記ナビゲーション装置を搭載している車両に設けられ、前記車両の前方に停車している他車の有無を検出する車両検出手段と、
前記車両が前記特定交差点付近で停車したとき、前記信号機残時間取得手段で取得した前記残時間と、前記車両検出手段で検出した前記他車の有無とに基づいて、前記車両に搭載されている動力源の停止および再始動を実施する動力源制御手段と、
を備えることを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
前記動力源制御手段は、前記車両の前方に停車している他車の不存在を検出すると、前記残時間に応じて前記動力源の再始動時期を設定することを特徴とする請求項2記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記動力源制御手段は、前記車両の前方に停車している他車の存在を検出すると、前記他車の発進時期を、前記動力源の再始動時期に設定することを特徴とする請求項2記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−30571(P2009−30571A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197451(P2007−197451)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】