説明

車両前照灯光源および車両前照灯

【課題】車両前照灯に適した配光パターンを実現しつつ明瞭なカットオフラインを得る。
【解決手段】車両前照灯光源10は、セラミック基板11の表面に実装された発光ダイオード素子14a−14kと、発光ダイオード素子14a−14kを覆うようにセラミック基板11の前面に配設された蛍光部材12とを備えている。セラミック基板11の表面に垂直な方向からみたとき、蛍光部材12はその周縁の一部に略中央12bで屈曲して略中央両側の直線部分12a、12cに段差をもたせた上端縁12a−12cをもち、発光ダイオード素子14a−14kは蛍光部材12の周縁に囲まれる領域内において上端縁寄りに偏在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード素子を用いた車両前照灯光源および車両前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LED(Light Emitting Diode)の高光束化が進み、車両前照灯への応用が期待されている。一般に車両前照灯では、前方の垂直平面を照らしたときに、水平方向に広がりをもち、かつ、ある高さを境に明部と暗部とが明瞭に区切られるような配光パターンが求められている。この明暗の区切り線はカットオフあるいはカットオフラインと称され、その高さは対向車への配慮等から、中央よりも対向車側が自車側に比べてやや低くなるように規定されている(道路運送車両法第3章/道路運送車両の保安基準第32条/道路運送車両の保安基準の細目を定める告示第42条/別添50および別添51参照)。また明部および暗部それぞれの必要光度についても上記保安基準に規定されている。
【0003】
発光ダイオード素子を用いた車両前照灯において上記車両用配光パターンを実現する技術としては、例えば、次のようなものが開示されている。
車両用配光パターンに適した配置関係で複数の白色LEDを基板に搭載する(特許文献1参照)。車両用配光パターンに適した輪郭をもつ遮光板をLEDの照射方向前方に配置する(特許文献2、3参照)。
【特許文献1】特開2005−85548号公報
【特許文献2】特開2005−63706号公報
【特許文献3】特開2005−93191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許公報1に開示された技術では、蛍光体層の具体的な形状やLEDと蛍光体の位置に関する具体的な関係は考慮されておらず、明瞭なカットオフラインを得ることができないという問題がある。また特許文献2、3に開示された技術では、明瞭なカットオフラインを得ることができるものの、遮光により光量の損失が生じるので光の利用効率が低いという問題がある。いずれにしても実用的な車両前照灯光源が得られるとは言いがたい。
【0005】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、車両前照灯に適した配光パターンを実現しつつ明瞭なカットオフラインを得ることができる、発光ダイオード素子を用いた車両前照灯光源および車両前照灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両前照灯光源は、基板の表面に実装された1または複数の発光ダイオード素子と、前記1または複数の発光ダイオード素子を覆うように前記基板の前面に配設された波長変換部材とを備え、前記基板の表面に垂直な方向からみたとき、前記波長変換部材はその周縁の一部に略中央で屈曲して略中央両側の直線部分に段差をもたせた端縁をもち、前記1または複数の発光ダイオード素子は前記波長変換部材の周縁に囲まれる領域内において前記端縁寄りに偏在している。
【0007】
本発明に係る車両前照灯は上記の車両前照灯光源を備える。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、発光ダイオード素子の光を受けて波長変換部材全体が発光するので、基板に垂直な方向からみたときの波長変換部材の周縁の形状が配光パターンを決することになる。波長変換部材の周縁には、略中央で屈曲して略中央両側の直線部分に段差をもたせた端縁が含まれているので、この端縁の形状によりカットオフラインの高さが対向車側では自車側に比べてやや低い車両前照灯用の配光パターンを実現することができる。また発光ダイオード素子がその端縁寄りに偏在しているので、端縁近辺の発光強度を高めることができ、その結果、カットオフラインを明瞭にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図であり、図2は、図1に示したA−A断面を示す断面図である。図3は、基板表面における蛍光部材および発光ダイオード素子の配置関係を示す図である。
【0010】
車両前照灯光源10は、セラミック基板11、蛍光部材12、配線パターン13および発光ダイオード素子14a−14kを備える。発光ダイオード素子14a−14kは、配線パターン13に電気的に接続されるようにセラミック基板11の表面に実装されている。また蛍光部材12は、発光ダイオード素子14a−14kを覆うようにセラミック基板11の表面に形成されている。蛍光部材12は、蛍光体粒子を含有する透光性材料(例えばシリコーン)を用いて中実に成型したものであり、発光ダイオード素子14a−14kが発する青色光を一部吸収して黄色光を発する。車両前照灯光源10は、蛍光部材12が発する黄色光と発光ダイオード素子14a−14kが発する青色光とが適度に混色されることにより白色光源として機能する。
【0011】
蛍光部材12は、セラミック基板11の表面に垂直な方向からみたとき、略矩形形状をしており、略中央12bでクランク状に屈曲して略中央両側の直線部分12a、12cに約0.3mmの段差をもたせた上端縁をもつ(図1、図3参照)。すなわち直線部分12aは直線部分12cに対して約0.3mmの段差分だけ突出している。この上端縁の形状によりカットオフラインの高さが対向車側では自車側に比べてやや低くなる配光パターンを実現することができる。
【0012】
また発光ダイオード素子14a−14kは、セラミック基板11の表面に垂直な方向からみたとき、蛍光部材12の周縁12a−12fに囲まれる領域内において上端縁寄りに偏在している(図3参照)。これにより上端縁近辺の発光強度を高めることができ、カットオフラインを明瞭にすることができる。ここで「上端縁寄りに偏在している」とは、発光ダイオード素子の実装中心15が蛍光部材の中心16よりも上端縁12a−12c寄りにある場合をいうものとする。発光ダイオード素子の実装中心15は、発光ダイオード素子14a−14kをセラミック基板11の表面に投影したときにできる図形の図心を指し、蛍光部材の中心16は、蛍光部材12をセラミック基板11の表面に投影したときにできる図形の図心を指すものとする。
【0013】
さらに発光ダイオード素子14a−14kは、セラミック基板11の表面に垂直な方向からみたとき、蛍光部材12の上端縁12a−12cに平行な方向には、略中央両側の直線部分12a、12cのうち段差により突出している直線部分12a寄りに偏在している。これにより上端縁近辺の中でも特に直線部分12a付近の発光強度を高めることができ、配光パターンの明部において対向車側よりも自車側をより明るくすることができる。ここで「直線部分12a寄りに偏在している」とは、蛍光部材12の上端縁12a−12cに平行な方向に着目したとき、発光ダイオード素子の実装中心15が蛍光部材の中心16よりも直線部分12a寄りにある場合をいうものとする。
【0014】
また発光ダイオード素子14a−14kは、蛍光部材12の上端縁12a−12cに沿って2列に配されており、このうち上端縁12a−12cから数えて1列目に属する発光ダイオード素子14a−14gは、いずれも上端縁からの距離dが50μm以上発光ダイオード素子の実装ピッチpの平均値以下の範囲になるように配されるのが望ましい。発光ダイオード素子の実装ピッチpの平均値以下にすることで蛍光部材12に吸収される発光ダイオード素子14a−14gの光の割合を略均等にすることができ、その結果、カットオフライン近辺の明部における色むらを低減することができる。また50μm以上にすることで、一般的に利用される中心粒径が5−20μm程度の蛍光体粒子を用いて蛍光部材12を形成することができる。
【0015】
また発光ダイオード素子14a−14gは、いずれも上端縁からの距離dが蛍光部材12の上面から発光ダイオード素子の上面までの距離tよりも近くなるように配されている。このようにすることで蛍光部材12の上面の上端縁付近における発光強度を前記上面の上端縁以外の部分と比較して高めることができ、カットオフラインを明瞭にすることができる。なお発光ダイオード素子14a−14gの上端縁からの距離dおよび発光ダイオード素子の実装ピッチpは、図7および図8に定義されており、蛍光部材12の上面から発光ダイオード素子の上面までの距離tは図8に定義されている。
【0016】
また発光ダイオード素子14a−14kにより構成される2つの列のうち、上端縁12a−12cから数えて1列目は7個の発光ダイオード素子を擁し、2列目は4個の発光ダイオード素子を擁している(図3参照)。このように上端縁12a−12cに最も近い列が最も多くの発光ダイオード素子を擁することで、上端縁近辺の発光強度を高めることができ、カットオフラインをより明瞭にすることができる。
【0017】
なお図4に示すように、上端縁12a−12cから数えて1列目に属する発光ダイオード素子14a−14gは、いずれも上端縁からの距離dが略一定になるように配されていることとしてもよい。このようにすれば、上端縁近辺の発光強度および発光色を均一にすることができるので、カットオフライン近辺の明部における照度むらおよび色むらを低減することができる。
【0018】
また図5に示すように、上端縁12a−12cに平行な方向における発光ダイオード素子の実装ピッチpは、上端縁の略中央12bから離れるにしたがって広くなることとしてもよい。このようにすれば、上端縁に平行な方向における発光強度の変化を緩やかにすることができ、配光パターンの明部における水平方向の照度変化を緩やかにすることができる。
【0019】
また図6に示すように、発光ダイオード素子の数量は1個であってもよい。
また図9および図10に示すように、蛍光部材12が、上端縁に対応する側端面と蛍光部材12の上面とが外方に凸の曲面でつながるように、すなわち、上端縁に対応する側端面と蛍光部材12の上面との角部12gに曲率をもたせるように形成されていてもよい。このようにすれば、光の放射角による蛍光部材12内の光路長の変化を低減させることができ、カットオフライン近辺の明部における色むらをより低減することができる。さらに蛍光部材12が上端縁に対応する側端面とセラミック基板11の表面とが略垂直になるように、すなわち上端縁に対応する側端面とセラミック基板11の表面との角部12hが略直角になるように形成されていてもよい。このようにすれば、カットオフライン近辺の明部における照度むらを低減することができる。
【0020】
また図11に示すように、蛍光部材12は、上端縁に対応する側端面12iが上向きに傾くように形成されていることとしてもよい。このようにすれば、光の放射角による蛍光部材12内の光路長の変化を低減させることができ、カットオフライン近辺の明部における色むらをより低減することができる。
また図12および図13に示すように、蛍光部材12の厚みを、発光ダイオード素子からの距離が離れるにしたがって薄くすることとしてもよい。このようにすれば、光の放射角による蛍光部材12内の光路長の変化を低減させることができ、配光パターンの明部における色むらをより低減することができる。なおこの場合において、図12に示すように蛍光部材12の上面に傾斜12jを設けることで徐々に蛍光部材12の厚みを薄くすることとしてもよいし、図13に示すように蛍光部材12の上面に階段形状12kを設けることで段階的に蛍光部材12の厚みを薄くすることとしてもよい。なお図13は蛍光部材12の厚みの変化が1段階である場合について示しているが、複数段の厚みの変化があってもよく、上端縁に対応する側端面は基板表面に対し垂直に形成されていてもよいし、上向きに傾くように形成されてもよい。
【0021】
なお図14の例では蛍光部材12の上端縁に対応する側端面12mから下端縁に対応する側端面12nに向かうにつれて蛍光体濃度を低くしている。このようにすれば、光の放射角による蛍光部材12内の光の吸収量の変化を低減させることができ、配光パターンの明部における色むらをより低減することができる。なおこの場合において、蛍光体濃度を徐々に変化させることとしてもよいし、段階的に変化させることとしてもよい。蛍光体濃度を徐々に変化させた蛍光部材12を作成するには、例えば次のような方法がある。SiO2などの微粒子を添加して粘度を調整したシリコーンなどの樹脂に様々な粒径を持った蛍光体粒子を分散させると自重によって濃度勾配を持ちながら沈降する。その沈降の途中で硬化させることにより濃度勾配を持った蛍光体含有樹脂ができ、所定の寸法で成形することにより作成することが可能である。また蛍光体濃度を段階的に変化させた蛍光部材12を作成するには、数種類の蛍光体濃度をもつ蛍光部材を貼り合わせ、貼り合わせ面に対して垂直方向にカットして成形することにより作成が可能である。
(実施の形態2)
図15は、本発明の実施の形態2に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図であり、図16は、図15に示したA−A断面を示す断面図である。
【0022】
車両前照灯光源20は、セラミック基板11、蛍光部材12、配線パターン13、発光ダイオード素子14a−14kおよび遮光部材21を備える。実施の形態2の車両前照灯光源20は遮光部材21を備える点で実施の形態1の車両前照灯光源10と異なる。これ以外の構成については実施の形態1と同様なので説明を省略する。
遮光部材21は、アルミニウム等の金属材を加工して成型したものであり、蛍光部材12に隣接してセラミック基板11の表面に配設され、蛍光部材12の上端縁に対応する側端面に対向する面21aをもつ。これにより蛍光部材12の上端縁に対応する側端面からの光の漏洩を防止することができ、カットオフラインをより明瞭にすることができる。なお遮光部材21は蛍光部材12の上面を覆うことはないので(図15、図16参照)、車両用配光パターンを得るにあたり光の利用効率を低減させてしまうことはない。また面21aを鏡面仕上げにしたり拡散反射面にしたりすることで光を反射させ、光の利用効率を向上させることもできる。また図17および図18に示すように、面21aを上向きに傾けることで、光の反射方向をセラミック基板11の表面に垂直な方向に近づけることができ、より光の利用効率を向上させることができる。
【0023】
なお遮光部材21としては、上記の例に限らず、蛍光部材12の上端縁に対応する側端面に金属箔を貼着することとしてもよいし、金属蒸着膜を成膜することとしてもよい。また遮光機能さえあれば金属素材に限られることはない。
(実施の形態3)
図19は、本発明の実施の形態3に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図である。
【0024】
車両前照灯光源30は、セラミック基板11、蛍光部材12、配線パターン13、発光ダイオード素子14a−14kおよび低反射部材31を備える。実施の形態3の車両前照灯光源30は低反射部材31を備える点で実施の形態1の車両前照灯光源10と異なる。これ以外の構成については実施の形態1と同様なので説明を省略する。
低反射部材31は、セラミック基板11の表面の反射率よりも低い反射率をもち、セラミック基板11の表面における蛍光部材12の上端縁12a−12cの外縁領域を覆うように配設されている。これにより蛍光部材12の上端縁に対応する側端面から漏洩した光がセラミック基板11の表面で反射することを抑制することができ、カットオフラインをより明瞭にすることができる。低反射部材31は、例えば、カーボンブラックのように暗色かつ低反射率の顔料や、染料あるいは塗料の塗布により形成されたものでもよいし、レジストのように上記顔料、染料あるいは塗料を含有した樹脂、ゴムあるいはガラスにより成型されたものでもよい。また黒色ニッケルめっきや亜鉛めっきに黒クロメート処理したもののように各種金属や合金のめっき、またはそのめっきに化学的処理を施したもの、あるいはアルマイトのように酸化膜で被膜された金属材でもよい。また低反射部材31はセラミック基板11の表面に直接配置してもよいし、セラミック基板11の表面に形成された金属パターン上に配置してもよい。
(実施の形態4)
図20は、本発明の実施の形態4に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図であり、図21は、図20に示したA−A断面を示す断面図である。
【0025】
車両前照灯光源40は、セラミック基板11、蛍光部材41、配線パターン13、発光ダイオード素子14a−14kおよび透光性部材42を備える。実施の形態4の車両前照灯光源40は透光性部材42を備える点で実施の形態1の車両前照灯光源10と異なる。これ以外の構成については実施の形態1と同様なので説明を省略する。
透光性部材42は、蛍光体粒子を含有しない透光性材料(例えばシリコーン樹脂)を用いて中実に成型したものである。蛍光部材41は、透光性部材42を覆うようにセラミック基板11の表面に配設されている。このようにすれば蛍光部材41の外形寸法を適切な大きさに維持しつつ蛍光部材41の厚みを薄くすることができる。そのため発光ダイオード素子からの光の放射角度の相違による蛍光部材41における光路長の相違を低減させることができ、配光パターンの明部における色むらを低減することができる。
【0026】
また図22の透光性部材43は、拡散性をもたせるためにフィラーを含有している。このように拡散性をもたせることで、配光パターンの明部における色むらをより低減することができる。
また図23に示すように、蛍光部材41は発光ダイオード素子14a−14kを覆う天板部と天板部の周縁からセラミック基板11の表面に垂下した周壁部とにより構成され、蛍光部材41の天板部および周壁部ならびにセラミック基板11により囲まれる空間に気体44が密封されていることとしてもよい。このようにしても配光パターンの明部における色むらを低減することができる。
【0027】
また図24に示すように、セラミック基板11の表面における蛍光部材41の周縁に囲まれる領域内に、セラミック基板11の表面に垂直な方向に光を反射させるための凹凸状の部材45が面状、線状もしくは点状に配設されていることとしてもよい。このようにすることで光の利用効率を高めることができる。なお凹凸状の部材45は発光ダイオード素子からの距離が離れるにしたがって密に配されている(図24参照)。これにより配光パターンの明部における照度変化を緩やかにすることができる。
(実施の形態5)
図25は、本発明の実施の形態5に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図であり、図26は、図25に示したA−A断面を示す断面図である。
【0028】
車両前照灯光源50は、セラミック基板11、蛍光部材51、配線パターン13および発光ダイオード素子14a−14kを備える。実施の形態5の車両前照灯光源50はセラミック基板11の表面に発光ダイオード素子の厚みよりも深い凹陥部52をもち、凹陥部52に発光ダイオード素子14a−14kが実装されている点で実施の形態1の車両前照灯光源10と異なる。
【0029】
蛍光部材51は、図26に示すように、樹脂材やセラミックス材により形成して自身の強度により凹陥部52を架け渡すこととしてもよいし、図27に示すように、凹陥部52に架け渡された透光性板材53上に形成されることとしてもよい。透光性板材53をアルミナなどの熱伝導率が良好な素材で形成すれば、蛍光部材51の熱を効率よく逃がすことができ、その結果、発光効率を高めることができる。なお透光性板材の材料としてはアルミナのほかにAlNやダイヤモンドなどの材料が考えられる。また比較的熱伝導率の低い材料、例えばシリカを主成分としたガラスなどを透光性板材として用いた場合でもダイヤモンドライクカーボンなどの薄膜を表面に配置することにより熱伝導率を向上させることができ、結果としてより発光効率を高めることができる。また図28に示すように、蛍光部材51を透光性板材53および55により挟むことで、放熱性能をより高めることができる。また透光性板材53および55はその表面に凹凸などの加工、光学薄膜の形成、フォトニック結晶などの周期構造を形成することが望ましい。また蛍光部材51と透光性板材53および55との界面は例えばシリコーン樹脂などの屈折率が1より大きな透光性部材などを介して面として接触していることが望ましい。これにより、光がこれらの材質中を伝播する際に隣の部材、特に空気との屈折率差による光の閉じ込めを少なくすることができ、より発光効率を高めることができる。また発光ダイオード素子からの光が空気から透光性板材に入射する側の面には誘電体蒸着膜などの反射防止膜を形成することが望ましい。これにより発光ダイオード素子の発光を異なる屈折率を有する部材の界面においてロスすることなく伝播させることができ、より発光効率を高めることができる。
(実施の形態6)
図29は、本発明の実施の形態6に係る車両前照灯の断面図である。
【0030】
車両前照灯60は、車両前照灯光源10、放熱フィンをもつ基台61、レンズ62およびレンズ支持部材63を備える。レンズ62の直径は60mmであり、車両前照灯光源10の表面からレンズ62の主点までの距離は35mmである。
発明者らは本発明の一実施例の車両前照灯を作成し、その配光パターンが規格に適合するかどうかを検証した。以下に検証結果を示す。
【0031】
図30は、本発明の一実施例の車両前照灯の配光パターンの写真に、規格に定められた補助線および代表測定点を重ねて表記した図であり、図31は、規格に定められた必要光度、本発明の一実施例の配光パターンにおける代表測定点の測定結果および参考例の配光パターンにおける代表測定点の測定結果を示す図である。また図32は、配光パターンの測定条件を説明するための図である。
【0032】
今回作成した車両前照灯光源は、図20に示した車両前照灯光源の外形構造に仕様変更を加えたものであり、図21に示した断面構造をもつとともに0.8mm角の発光ダイオード素子を24個搭載している。図20に示した車両前照灯光源は、直線部分41aが直線部分41cに対して段差分だけ突出した外形構造をもつものであるが、今回作成した車両前照灯光源は、仕様変更により、直線部分41cが直線部分41aに対して段差分だけ突出した外形構造をもつものとしている。図30に示した写真は、この車両前照灯光源を点灯させ、図29に示した光学系を用いて25m先のスクリーンに照射してできた配光パターンを撮影したものである。図29に示した光学系では配光が中心点対称となるので、上記仕様変更により、カットオフラインの高さが対向車側(右側)では自車側(左側)に比べてやや低くなる配光パターンを実現することができる。
【0033】
図31に示すように、保安基準別添50では、測定点1(0.6D−1.3L)における必要光度は8000cd以上、測定点2(0.5U−1.5R)における必要光度は840以下と規定されている。またJIS D 5500−1995では、測定点3(1.5D−2L)における必要光度は15000以上、測定点4(1U−1R)における必要光度は700以下と規定されている。
【0034】
なお測定点の位置を表す表記法は、図32に定義されているとおりである。図32には一例として(1D−0.5L)により表される点が示されている。
本発明の一実施例の車両前照灯光源で測定したところ、測定点1では16500cd、測定点2では300cd、測定点3では17700cd、測定点4では270cdが得られた。
【0035】
また参考例として市販のハロゲンランプで測定したところ、測定点1では15000cd、測定点2では500cd、測定点3では16750cd、測定点4では438cdが得られた。
上記測定結果から、本発明の一実施例の車両前照灯光源は、規格に適合した配光パターンを得ることができるとともに、明瞭なカットオフラインを得ることができるといえる。また、現行のハロゲンランプと比較しても、同等あるいはそれ以上の性能をもつといえる。
【0036】
なお保安基準別添50およびJIS D 5500−1995は現行の光源に関する規格であり、発光ダイオード素子の利用は想定されていない。しかしながら現状では発光ダイオード素子を利用した車両前照灯光源の規格が存在しないため、今回は便宜上、上記規格に適合するかどうかを検証することとしている。
以上、本発明に係る車両前照灯光源および車両前照灯について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限られない。例えば、以下のような変形例が考えられる。
(1)実施の形態では青色発光ダイオードと黄色蛍光体との組み合わせにより白色光を得ることとしているが、これに限らず、色温度の自由度を高めたり演色性を改善したり発光効率を高める目的で青色発光ダイオードと黄色および赤色の発光をする蛍光体の組み合わせとしてもよいし、紫外線発光ダイオードと三原色(赤色、緑色、青色)を発光する各蛍光体との組み合わせとしてもよく、橙色の発光をする蛍光体も組み合わせに含めるなどして白色光を得ることとしてもよい。
(2)実施の形態では蛍光部材は略矩形形状として説明しているが、上端縁以外の端縁(図1における12d、12e、12f)はどのような形状でも構わない。例えば、円弧状あるいは多角形形状としても構わない。
(3)実施の形態では波長変換材料として蛍光体を用いているが一般的な蛍光体の他にも、半導体、金属錯体、有機染料、顔料など、ある波長の光を吸収し吸収した光とは異なる波長の光を発する物質を含んでいる材料であれば特に限定することなく本発明に用いることが可能である。これらはシリコーンなどの樹脂やガラスなどの透光性部材と混合して用いても構わない。一般的な発光体としては珪酸塩蛍光体(Ba,Sr)SiO4:Eu2+や酸窒化物蛍光体、ガーネット蛍光体、硫化物蛍光体、α-サイアロン蛍光体などが考えられる。これらの蛍光体は粉末状の粒子でも良いし、透光性蛍光セラミックスなどの透光性を有する焼結体でも良い。
(4)実施の形態では発光ダイオード素子は基板表面に垂直な方向から見た形状は正方形になっているが、この形状は長方形でもよく、また四角形以外の形状であっても構わない。また青色もしくは紫外光を発する発光ダイオード素子の材料はGaNやAlNを主体としたものが知られているが、ZnSやZnSeなど他のどのような材料であっても構わない。また発光ダイオード素子を基板に実装する方式としては金バンプを使用したフリップチップ実装のほか、Au-Snなどの金属共晶接合やAgペーストでの接合や一般的なダイボンド剤を用いてAuなどのワイヤボンドを施す方法やこれら実装方法を組合せたもの、また給電端子を備えたSiやセラミックのサブマウントに事前にフリップチップ実装したものを前記の方法で基板に実装する方式が考えられるが、本発明はこれらのどの実装方式によっても実現が可能である。また発光ダイオード素子は光の取出し効率を向上させる目的や、素子からの配光を変化させる目的のためにその発光出射表面にエッチングやフォトリソなどの方法で凹凸加工やフォトニック結晶を作成してもよく、また樹脂や無機材料の微小光学部材を配置したものでも良い。微小光学部材とは発光ダイオード素子と同等程度以下のレンズ・偏光・拡散などの機能を持った光学部材であり、無機フィラーを含有していてもよい。
(5)実施の形態では基板はセラミック基板としているが、セラミック材料としてはAlN、Al2O3、BN、MgO、ZnO、SiC、Cやこれらの混合物などが考えられる。また基板の材質はセラミックに限定するものではなく、Al、Cu、Fe、Auやこれらを含む合金を用いたメタルベース基板や、ガラスエポキシ基板などでも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は例えば自動車前照灯に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態1に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図
【図2】A−A断面を示す断面図
【図3】基板表面における蛍光部材および発光ダイオード素子の配置関係を示す図
【図4】基板表面における蛍光部材および発光ダイオード素子の配置関係を示す図
【図5】基板表面における蛍光部材および発光ダイオード素子の配置関係を示す図
【図6】基板表面における蛍光部材および発光ダイオード素子の配置関係を示す図
【図7】実装ピッチおよび距離の定義を説明するための図
【図8】実装ピッチおよび距離の定義を説明するための図
【図9】A−A断面を示す断面図
【図10】A−A断面を示す断面図
【図11】A−A断面を示す断面図
【図12】A−A断面を示す断面図
【図13】A−A断面を示す断面図
【図14】A−A断面を示す断面図
【図15】本発明の実施の形態2に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図
【図16】A−A断面を示す断面図
【図17】A−A断面を示す断面図
【図18】A−A断面を示す断面図
【図19】本発明の実施の形態3に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図
【図20】本発明の実施の形態4に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図
【図21】A−A断面を示す断面図
【図22】A−A断面を示す断面図
【図23】A−A断面を示す断面図
【図24】A−A断面を示す断面図
【図25】本発明の実施の形態5に係る車両前照灯光源の外形を示す三面図
【図26】A−A断面を示す断面図
【図27】A−A断面を示す断面図
【図28】A−A断面を示す断面図
【図29】本発明の実施の形態6に係る車両前照灯の断面図
【図30】本発明の一実施例の車両前照灯の配光パターンの写真に、規格に定められた補助線および代表測定点を重ねて表記した図
【図31】規格に定められた必要光度、本発明の一実施例の配光パターンにおける代表測定点の測定結果および参考例の配光パターンにおける代表測定点の測定結果を示す図
【図32】配光パターンの測定条件を説明するための図
【符号の説明】
【0039】
10、20、30、40、50 車両前照灯光源
11 セラミック基板
12、41、51 蛍光部材
12a 上端縁のうちの突出した直線部分
12b 上端縁の略中央
12c 上端縁のうちの凹入した直線部分
12d 右端縁
12e 下端縁
12f 左端縁
12g 上端縁に対応する側端面と上面との角部
12h 上端縁に対応する側端面とセラミック基板表面との角部
12i 上端縁に対応する側端面
12j 傾斜した上面
12k 階段形状の上面
12m 上端縁に対応する側端面
12n 下端縁に対応する側端面
13 配線パターン
14a−14k 発光ダイオード素子
15 発光ダイオード素子の実装中心
16 蛍光部材の中心
21 遮光部材
21a 上端縁に対応する側端面に対向する面
31 低反射部材
42 透光性部材
43 フィラーを含有した透光性部材
44 気体
45 凹凸状をした反射部材
52 凹陥部
53、55 透光性板材
54、56 支持部材
60 車両前照灯
61 基台
62 レンズ
63 レンズ支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に実装された1または複数の発光ダイオード素子と、
前記1または複数の発光ダイオード素子を覆うように前記基板の前面に配設された波長変換部材とを備え、
前記基板の表面に垂直な方向からみたとき、前記波長変換部材はその周縁の一部に略中央で屈曲して略中央両側の直線部分に段差をもたせた端縁をもち、前記1または複数の発光ダイオード素子は前記波長変換部材の周縁に囲まれる領域内において前記端縁寄りに偏在していること
を特徴とする車両前照灯光源。
【請求項2】
前記複数の発光ダイオード素子は、前記波長変換部材の周縁に囲まれる領域内において前記端縁に沿って1または複数の列を成しており、
前記端縁に最も近い列に属する発光ダイオード素子は、いずれも前記端縁からの距離が略一定になるように配されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項3】
前記複数の発光ダイオード素子は、前記波長変換部材の周縁に囲まれる領域内において前記端縁に沿って1または複数の列を成しており、
前記端縁に最も近い列に属する発光ダイオード素子は、いずれも前記端縁からの距離が50μm以上発光ダイオード素子の実装ピッチの平均値以下の範囲になるように配されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項4】
前記複数の発光ダイオード素子は、前記波長変換部材の周縁に囲まれる領域内において前記端縁に沿って1または複数の列を成しており、
前記端縁に最も近い列に属する発光ダイオード素子は、いずれも前記端縁からの距離が前記波長変換部材の上面から発光ダイオード素子の上面までの距離よりも近くなるように配されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項5】
前記複数の発光ダイオード素子は、前記波長変換部材の周縁に囲まれる領域内において前記端縁に沿って1または複数の列を成しており、
前記端縁に平行な方向における発光ダイオード素子の実装ピッチは、前記端縁の略中央から離れるにしたがって広くなること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項6】
前記複数の発光ダイオード素子は、前記波長変換部材の周縁に囲まれる領域内において複数の列を成しており、
前記端縁に最も近い列は、全ての列の中で最も多くの発光ダイオード素子を擁していること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項7】
前記1または複数の発光ダイオード素子は、さらに、前記基板の表面に垂直な方向からみたとき、前記端縁に平行な方向には前記端縁の略中央両側の直線部分のうち前記段差により突出している方の直線部分寄りに偏在していること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項8】
前記波長変換部材の上面は、前記基板の表面に略平行であり、前記波長変換部材は、前記端縁に対応する側端面と前記上面とが外方に凸の曲面でつながるように形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項9】
前記波長変換部材は、前記端縁に対応する側端面が前記基板の表面に略垂直になるように形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項10】
前記波長変換部材は、前記端縁に対応する側端面が上向きに傾くように形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項11】
前記波長変換部材の厚みは、前記1または複数の発光ダイオード素子からの距離が離れるにしたがって薄くなること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項12】
前記波長変換部材の波長変換材料の濃度は、前記1または複数の発光ダイオード素子からの距離が離れるにしたがって低くなること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項13】
前記基板の表面における前記波長変換部材の周縁に囲まれる領域内に、反射機能を有する凹凸状の部材が配設されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項14】
前記車両前照灯光源は、さらに、前記波長変換部材に隣接して配設された遮光部材を備え、当該遮光部材は、前記波長変換部材の前記端縁に対応する側端面に対向する面をもち前記波長変換部材の上面に対向する面をもたないこと
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項15】
前記遮光部材の前記端縁に対応する側端面に対向する面は反射面であること
を特徴とする請求項14に記載の車両前照灯光源。
【請求項16】
前記車両前照灯光源は、さらに、前記基板の表面の反射率よりも低い反射率をもつ低反射部材を備え、当該低反射部材は、前記基板の表面における前記波長変換部材の前記端縁の外縁領域を覆うように配設されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項17】
前記波長変換部材は、波長変換材料の粒子を含有する透光性材料からなり、前記1または複数の発光ダイオード素子を覆うように前記基板の表面に中実に形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項18】
前記車両前照灯光源は、さらに、波長変換材料の粒子を含有しない透光性材料からなり、前記1または複数の発光ダイオード素子を覆うように前記基板の表面に中実に形成された透光性部材を備え、
前記波長変換部材は、前記透光性部材を覆うように前記基板の表面に形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項19】
前記波長変換部材は、波長変換材料の粒子を含有する透光性材料からなり、前記1または複数の発光ダイオード素子を覆う天板部と当該天板部の周縁から前記基板の表面に垂下した周壁部とにより構成され、
前記波長変換部材の天板部および周壁部ならびに前記基板により囲まれる空間に気体が密封されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項20】
前記基板の表面は、発光ダイオード素子の厚みよりも深い凹陥部をもち、
前記1または複数の発光ダイオード素子は、前記凹陥部に実装され、
前記波長変換部材は、波長変換材料の粒子を含有する透光性材料からなり、前記凹陥部を覆うように前記基板の表面に配されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両前照灯光源。
【請求項21】
請求項1に記載の車両前照灯光源を用いた車両前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図31】
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【図32】
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【図30】
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【公開番号】特開2009−87681(P2009−87681A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255137(P2007−255137)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】