説明

車両前部構造

【課題】車両の前突時に、ブレーキペダルの踏動部がシート上の運転者の脚部に接近することをより確実に防止して、運転者の保護をより向上させるようにする。
【解決手段】車両1前部は、シート9の前方の車体2前部の一部分53から後方に向けて突出するペダルブラケット54と、踏動部55を有してペダルブラケット54に枢支されるブレーキペダル57と、車体2前部の他部分68に取り付けられ、前突により車体2前部の一部分53と共にペダルブラケット54が後方移動するとき、このペダルブラケット54の突出端部を後下方に向けて案内する案内体63とを備える。ブレーキペダル57を車体2前部の他部分68に係合させる係合体69を設ける。前突時に、ペダルブラケット54の突出端部が案内体63により後下方に向かうよう案内されるとき、係合体69が、後方移動するブレーキペダル57を車体2の幅方向に変位させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前突時に、車体前部の変形により後方移動するブレーキペダルを車体の幅方向に変位させて、上記ブレーキペダルを運転者から離れさせるようにした車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両前部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両前部は、車体前部内に配置される運転者用のシートと、このシートの前方かつ車体の幅方向における車体前部の一部分から後方に向けて突出するペダルブラケットと、下端部に踏動部を有して上記ペダルブラケットに枢支されるブレーキペダルと、上記車体前部の上記一部分よりも後方に位置する車体前部の他部分であるピラーツーピラーチューブに取り付けられ、前突により上記車体前部の上記一部分と共に上記ペダルブラケットが後方移動するとき、このペダルブラケットの突出端部を後下方に向けて案内する案内体とを備えている。
【0003】
そして、車両の前突時の外力により、上記車体前部の一部分と共に、ペダルブラケットが後方移動するときには、このペダルブラケットは上記案内体により後下がり状に変形させられたり、後下がり状の姿勢にさせられたりする。このため、上記ペダルブラケットに枢支されたブレーキペダルの下端部の踏動部は、上記ペダルブラケットが後下がり状にさせられることにより、前方に回動する傾向となる。よって、上記踏動部は、上記シート上の運転者の脚部から前方に離れがちとなり、この運転者の脚部が上記踏動部に衝突するということが防止されて運転者が保護されるようになっている。
【特許文献1】特開平10−175492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、セミキャブやフルキャブタイプの車両では、車体の前後方向で、車体前部の前面を形成するフロントパネルから車体前部内の車室の前面を形成するダッシュパネルに至るまでの車体前端部の厚さ寸法は極めて短い。このため、この種の車両の前突時には、この前突時の外力に基づくエネルギーを吸収するための上記車体前端部の塑性変形量は小さくとどめられる。よって、その分、上記車体前部の一部分とペダルブラケットとが上記外力により後方移動させられるときの変位量は大きくなりがちである。
【0005】
上記の結果、前記したように、後方移動するペダルブラケットの突出端部を案内体により後下方に向かって案内するようにしたとしても、ブレーキペダルの踏動部はシート上の運転者の脚部に接近しがちとなって好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の前突時に、ブレーキペダルの踏動部がシート上の運転者の脚部に接近することをより確実に防止して、運転者の保護をより向上させるようにすることである。
【0007】
請求項1の発明は、車体2前部内に配置される運転者8用のシート9と、このシート9の前方かつ車体2の幅方向における車体2前部の一部分53から後方に向けて突出するペダルブラケット54と、下端部に踏動部55を有して上記ペダルブラケット54に枢支されるブレーキペダル57と、上記車体2前部の上記一部分53よりも後方に位置する車体2前部の他部分68に取り付けられ、前突により上記車体2前部の上記一部分53と共に上記ペダルブラケット54が後方移動するとき、このペダルブラケット54の突出端部を後下方に向けて案内する案内体63とを備えた車両前部構造において、
上記ブレーキペダル57に連結され、このブレーキペダル57を上記車体2前部の他部分68に係合させる係合体69を設け、前突時に、上記ペダルブラケット54の突出端部が上記案内体63により後下方に向かうよう案内されるとき、上記係合体69が、上記ペダルブラケット54と共に後方移動するブレーキペダル57を車体2の幅方向に変位させるようにしたことを特徴とする車両前部構造である。
【0008】
請求項2の発明は、車体2前部内の車室4の前面を形成するダッシュパネル24と、上記シート9の足元部の外側方に形成され、フロントサスペンション6のストラット32を収容して支持するストラットタワー25とを備えた車両前部構造において、
上記車体2前部の一部分53を上記ダッシュパネル24とし、上記車体2前部の他部分68を上記ストラットタワー25とし、
上記係合体69の少なくとも一部分を上記ダッシュパネル24とストラットタワー25とで挟まれた空間73に配設したことを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造である。
【0009】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0010】
本発明による効果は、次の如くである。
【0011】
請求項1の発明は、車体前部内に配置される運転者用のシートと、このシートの前方かつ車体の幅方向における車体前部の一部分から後方に向けて突出するペダルブラケットと、下端部に踏動部を有して上記ペダルブラケットに枢支されるブレーキペダルと、上記車体前部の上記一部分よりも後方に位置する車体前部の他部分に取り付けられ、前突により上記車体前部の上記一部分と共に上記ペダルブラケットが後方移動するとき、このペダルブラケットの突出端部を後下方に向けて案内する案内体とを備えた車両前部構造において、
上記ブレーキペダルに連結され、このブレーキペダルを上記車体前部の他部分に係合させる係合体を設け、前突時に、上記ペダルブラケットの突出端部が上記案内体により後下方に向かうよう案内されるとき、上記係合体が、上記ペダルブラケットと共に後方移動するブレーキペダルを車体の幅方向に変位させるようにしている。
【0012】
このため、車両の前突時には、ブレーキペダルは車体の幅方向に変位させられることから、上記ブレーキペダルはシート上の運転者の脚部からその外側方に離れがちとなる。よって、前突時に、ブレーキペダルの踏動部がシート上の運転者の脚部に接近することがより確実に防止されて、この運転者の脚部が上記踏動部に衝突するということがより確実に防止され、運転者の保護がより向上する。
【0013】
請求項2の発明は、車体前部内の車室の前面を形成するダッシュパネルと、上記シートの足元部の外側方に形成され、フロントサスペンションのストラットを収容して支持するストラットタワーとを備えた車両前部構造において、
上記車体前部の一部分を上記ダッシュパネルとし、上記車体前部の他部分を上記ストラットタワーとしている。
【0014】
ここで、上記ストラットタワーはフロントサスペンションのストラットを支持するものであって、十分の強度と剛性とを備えている。そして、上記したように、車体前部の他部分を上記ストラットタワーとし、このストラットタワーに対し上記係合体によりブレーキペダルを係合させたため、この係合は強固になされる。よって、前突時に、上記ペダルブラケットと共にブレーキペダルが後方移動するとき、上記係合体は上記ブレーキペダルを上記ストラットタワー側により確実に係合して引張するため、上記ブレーキペダルは車体の幅方向により確実に変位させられる。この結果、運転者の保護が更に向上する。
【0015】
また、上記係合体の少なくとも一部分を上記ダッシュパネルとストラットタワーとで挟まれた空間に配設している。
【0016】
このため、車体前部内において余剰空間となりがちな上記空間が上記係合体の配置に有効利用されることとなる。よって、運転者の保護の向上のために上記係合体を設けた場合でも、車室をより広く維持できて居住性が良好に保たれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の車両前部構造に関し、車両の前突時に、ブレーキペダルの踏動部がシート上の運転者の脚部に接近することをより確実に防止して、運転者の保護をより向上させるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0018】
即ち、車両前部は、車体前部内に配置される運転者用のシートと、このシートの前方かつ車体の幅方向における車体前部の一部分から後方に向けて突出するペダルブラケットと、下端部に踏動部を有して上記ペダルブラケットに枢支されるブレーキペダルと、上記車体前部の上記一部分よりも後方に位置する車体前部の他部分に取り付けられ、前突により上記車体前部の上記一部分と共に上記ペダルブラケットが後方移動するとき、このペダルブラケットの突出端部を後下方に向けて案内する案内体とを備えている。
【0019】
上記ブレーキペダルに連結され、このブレーキペダルを上記車体前部の他部分に係合させる係合体を設け、前突時に、上記ペダルブラケットの突出端部が上記案内体により後下方に向かうよう案内されるとき、上記係合体が、上記ペダルブラケットと共に後方移動するブレーキペダルを車体の幅方向に変位させるようにしている。
【実施例】
【0020】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0021】
図1〜5において、符号1はセミキャブタイプの自動車で例示される車両であり、矢印Frはこの車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、車両1の前方に向かっての車体2の幅方向をいうものとする。
【0022】
上記車体2は、この車体2の下端部を構成して骨格部材をなす車体フレーム3と、内部が車室4とされて上記車体フレーム3上に支持される車体本体5と、上記車体2前部にフロントサスペンション6により操向可能に懸架される左右一対の前車輪7,7と、上記車体2前部の一側部2a(右側部)の車室4内に配置される運転者8用のシート9と、上記前車輪7と連結され、上記シート9上の運転者8により操向操作が可能とされるステアリング操作装置10と、不図示の車輪用ブレーキと連結され、上記シート9上の運転者8により上記ブレーキの制動操作が可能とされるブレーキ操作装置11とを備えている。なお、符号12は、車体2の幅方向の中心線を示している。車体2の平面視で、上記中心線12を基準として、上記車体2は左右対称形状とされている。
【0023】
上記車体フレーム3は車体2の長手方向である前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ14と、これら左右サイドメンバ14を互いに結合させる前後方向で複数の不図示のクロスメンバとを備えている。
【0024】
上記車体本体5は、上下方向に延び、下端部が上記車体フレーム3の各側部に支持され、その前部にドア開口15が形成された左右一対の側壁16と、これら左右側壁16の上端部に架設されて上記車室4の天井面を形成するルーフパネル17と、上記左右側壁16の前端下部に架設されるフロントパネル18と、上記左右側壁16の前端上部の間に設けられるフロントウインド19と、上記フロントパネル18の下端部に連設されるフロントバンパ20とを備えている。
【0025】
また、上記車体本体5は、上記車体2前部の上記各側壁16における上記ドア開口15の前縁部を形成し、車体本体5の骨格部材とされる左右一対のフロントピラー22と、上記車体フレーム3上に設置され、車室4の下面を形成する板金製のフロアパネル23と、このフロアパネル23の前端部から上方に向かって延出し、その上端部が上記フロントパネル18の上端部と結合されて上記車室4の下部前面を形成する板金製のダッシュパネル24とを備えている。
【0026】
更に、上記車体本体5は、上記ダッシュパネル24よりも後方かつ上記シート9の足元部の外側方における車体2前部の各側部に形成される板金製のストラットタワー25と、上記ダッシュパネル24よりも後方で上記左右フロントピラー22に架設され、車体本体5の骨格部材とされて上記各フロントピラー22を補強する円形パイプ製のピラーツーピラーメンバ26とを備えている。上記ストラットタワー25は、上記フロアパネル23に一体的に接合され上方に向かって膨出する形状とされ、十分の強度と剛性とを備えている。このストラットタワー25の基部における車体2の幅方向の内端部は、その下方から上記サイドメンバ14により支持されている。
【0027】
前記フロントサスペンション6は、上記前車輪7に車軸を介し連結されるステアリングナックル29と、一端部が上記サイドメンバ14に枢支軸30により枢支され、他端部の揺動端部に上記ステアリングナックル29を枢支させるロアアーム31と、上記ストラットタワー25に収容されて上下方向に延び、その上端部が上記ストラットタワー25の上端部に強固に支持され、下端部に上記ステアリングナックル29を枢支させる緩衝器であるストラット32とを備えている。
【0028】
前記ステアリング操作装置10は、上記シート9の前方、かつ、ピラーツーピラーメンバ26後下方に位置して車体2前部がわから後上方に向かって突出するステアリングコラム35と、上記ピラーツーピラーメンバ26に固着され、上記ステアリングコラム35を支持するステアリングコラムブラケット36と、上記ステアリングコラム35の軸心37上でこのステアリングコラム35に内嵌されて支持されるステアリングシャフト38と、上記軸心37上で、上記ステアリングコラム35の後上方に配置され、このステアリングコラム35に上記ステアリングシャフト38を介し支持されるステアリングハンドル39と、上記軸心37上で、上記ステアリングハンドル39の後上面がわに支持される運転者8の保護装置40とを備えている。
【0029】
上記車体2の幅方向で、上記シート9の中心とステアリングコラム35の軸心37とは互いにほぼ同じところに位置している。また、上記保護装置40は具体的にはエアバッグである。
【0030】
上記ステアリングコラムブラケット36は、上記ピラーツーピラーメンバ26の後下方に位置してこのピラーツーピラーメンバ26に固着され、上記ステアリングコラム35とほぼ平行かつ、車体2の幅方向に平坦に延びる支持基板43と、上記ステアリングコラム35の長手方向の中途部に固着され、上記支持基板43の後下面にそれぞれ複数(2つ)の締結具44,45により締結により固着される上、下ブラケット46,47とを備えている。これら各ブラケット46,47は、上記支持基板43および上、下ブラケット46,47に貫設されるボルト孔49と、このボルト孔49に挿通されてナットと螺合されるボルト50とを備えている。また、上記下ブラケット47の外側方(右側方)がわの端縁部は、上記支持基板43がわから後下方に向かうに従い、内側方に向かって延びる傾斜端縁部51とされている。
【0031】
前記ブレーキ操作装置11は、上記車体2の幅方向におけるこの車体2前部の一部分53である前記ダッシュパネル24の一部分から後方に向けて突出する板金製のペダルブラケット54と、上下方向に延び、下端部に踏動部55を有し、この踏動部55を含む下部側が前方に向かって往、復回動A,B可能となるよう枢支具56により上記ペダルブラケット54に枢支されるブレーキペダル57とを備えている。上記ブレーキペダル57はその下部側が復回動Bするよう不図示のばねで付勢されている。また、上記ブレーキペダル57が図示以上に復回動Bすることは、不図示のストッパにより阻止されている。
【0032】
上記ブレーキペダル57の上部の前方におけるダッシュパネル24の部分にはブレーキブースター58が取り付けられている。上記ブレーキペダル57の長手方向の中途部と上記ブレーキブースター58とはプッシュロッド59により互いに連動連結されている。上記ブレーキペダル57の踏動部55の外側方(右側方)近傍にはアクセルペダル61が並設されている。
【0033】
上記ストラットタワー25の上端部には案内体63が溶接により支持されている。この案内体63は、上記ストラットタワー25の上端部から内側方(左側方)に向かって突出している。上記案内体63の下面は後方に向かうに従い下方に傾斜する円弧凹形状の案内面64とされている。この案内面64に上記ペダルブラケット54の突出端の上縁部が当接している。このペダルブラケット54の突出端部は、上記案内体63に締結具65により締結されて仮止めされている。
【0034】
上記ブレーキペダル57の回動端部を上記車体2の他部分68である上記ストラットタワー25に係合させる係合体69が設けられている。この係合体69はフラットバーにより形成されている。この係合体69の一端部70は上記ブレーキペダル57の回動端部に締結具などにより連結されている。一方、上記係合体69の他端部71は、車体2の平面視でL字形状となるよう後方に向かって屈曲され、その屈曲端が上記ストラットタワー25の基部前面に形成された係合凹部72に嵌入させられて、上記ストラットタワー25に係合されている。
【0035】
上記ブレーキペダル57が往、復回動A,Bさせられるとき、これと共に回動する上記係合体69の他端部71の上記係合凹部72に対する嵌入状態は維持されるが、この際、上記ストラットタワー25は係合体69の回動には干渉しないこととされている。また、上記係合体69の少なくとも一部分であるその他端部71側は、車体2の前後方向で上記ダッシュパネル24とストラットタワー25とで挟まれた空間73に配設されている。
【0036】
図3、5,6において、車両1の前進走行中に、その前方の何らかの物体Cに衝突(前突)したとし、上記車体2前部にその前方から外力Dが与えられたとする。この場合、この外力Dにより、上記各サイドメンバ14の前端部は、その長手方向で座屈して塑性変形させられると共に、上記サイドメンバ14の前部の長手方向の中途部である一部分は、上方に向かって円弧形状に屈曲するよう塑性変形させられるようになっている。
【0037】
また、上記サイドメンバ14の前部の一部分は、車体2の前後方向で上記ストラットタワー25と同じところに位置している。このため、上記したようにサイドメンバ14の一部分が上方に向かって屈曲させられると、これに連動することにより、上記ストラットタワー25の上端部が上方に変位するようこのストラットタワー25が塑性変形させられる。
【0038】
そして、上記各塑性変形により、上記外力Dに基くエネルギーが吸収されて、車体2に与えられる衝撃力が緩和される。なお、上記したように、前突時に、車体2前部に上記外力Dが与えられたとしても、上記サイドメンバ14の一部分、ストラットタワー25、および車体2前部の骨格部材をなす上記ピラーツーピラーメンバ26は、車体2の後部を基準としてみたとき、この車体2の後方がわに向かってほとんど変位しないこととされている。
【0039】
また、上記前突時に、上記外力Dにより上記車体2前部の上記一部分53と共にペダルブラケット54が後方移動するときには、まず、上記締結具65が剪断破壊されて、上記案内体63に対する上記ペダルブラケット54の突出端部の仮止めが解除される。次に、このペダルブラケット54の突出端部は上記案内体63の案内面64を摺動して後下方に向けて案内される。
【0040】
このため、上記したように、車両1の前突時の外力Dにより、上記車体2前部の一部分53と共にペダルブラケット54が後方移動するときには、このペダルブラケット54は上記案内体63により後下がり状に変形させられたり、後下がり状の姿勢にさせられたりする。よって、上記ペダルブラケット54に枢支されたブレーキペダル57の下端部の踏動部55は、上記ペダルブラケット54が後下がり状にさせられることにより、前方に回動する傾向となる。この結果、上記踏動部55は、上記シート9上の運転者8の脚部から前方に離れがちとなり、この運転者8の脚部が上記踏動部55に衝突するということが防止されて運転者8が保護される。
【0041】
また、上記前突時に、上記案内体63によりペダルブラケット54の突出端部が後下方に向かうよう案内されるとき、このペダルブラケット54と共に後方移動する上記ブレーキペダル57は上記車体2前部の他部分68であるストラットタワー25に対し上記係合体69により係合させられる。すると、上記係合体69が上記ブレーキペダル57を上記ストラットタワー25側に引張して、上記ブレーキペダル57の踏動部55を含む回動端部が車体2の幅方向の外側方(右側方)に変位させられる(図7)。
【0042】
また、特に、上記ペダルブラケット54の後方への移動量が大きいときには、このペダルブラケット54の突出端部は上記ブレーキペダル57を介し上記係合体69に引張される。これにより、上記ペダルブラケット54は上記ブレーキペダル57と共に車体2の幅方向の外側方(右側方)に変位させられる。
【0043】
上記構成によれば、車両1の前突時には、ブレーキペダル57は車体2の幅方向に変位させられることから、上記ブレーキペダル57はシート9上の運転者8の脚部からその外側方に離れがちとなる。よって、前突時に、ブレーキペダル57の踏動部55がシート9上の運転者8の脚部に接近することがより確実に防止されて、この運転者8の脚部が上記踏動部55に衝突するということがより確実に防止され、運転者8の保護がより向上する。
【0044】
ここで、セミキャブやフルキャブタイプの車両1では、車体2の前後方向で、車体2前部の前面を形成するフロントパネル18から車体2前部内の車室4の前面を形成するダッシュパネル24に至るまでの車体2前端部の厚さ寸法は極めて短い。このため、この種の車両1の前突時には、この前突時の外力Dに基づくエネルギーを吸収するための上記車体2前端部の塑性変形量は小さくとどめられる。よって、その分、上記車体2前部の一部分53とペダルブラケット54とが上記外力Dにより後方移動させられるときの変位量は大きくなりがちである。
【0045】
しかし、上記構成によれば、車両1の前突時には、ブレーキペダル57は車体2の幅方向に変位させられて、運転者8の保護が向上するため、前突時における車体2前端部の塑性変形量を大きくはし難いセミキャブ、フルキャブタイプの車両1にとって、上記構成は特に有益である。
【0046】
また、前記したように、車体2前部内の車室4の前面を形成するダッシュパネル24と、上記シート9の足元部の外側方に形成され、フロントサスペンション6のストラット32を収容して支持するストラットタワー25とを備えた車両前部構造において、
上記車体2前部の一部分53を上記ダッシュパネル24とし、上記車体2前部の他部分68を上記ストラットタワー25としている。
【0047】
ここで、上記ストラットタワー25はフロントサスペンション6のストラット32を支持するものであって、十分の強度と剛性とを備えている。そして、上記したように、車体2前部の他部分68を上記ストラットタワー25とし、このストラットタワー25に対し上記係合体69によりブレーキペダル57を係合させたため、この係合は強固になされる。よって、前突時に、上記ペダルブラケット54と共にブレーキペダル57が後方移動するとき、上記係合体69は上記ブレーキペダル57を上記ストラットタワー25側により確実に係合して引張するため、上記ブレーキペダル57は車体2の幅方向により確実に変位させられる。この結果、運転者8の保護が更に向上する。
【0048】
また、上記係合体69の少なくとも一部分を上記ダッシュパネル24とストラットタワー25とで挟まれた空間73に配設している。
【0049】
このため、車体2前部内において余剰空間となりがちな上記空間73が上記係合体69の配置に有効利用されることとなる。よって、運転者8の保護の向上のために上記係合体69を設けた場合でも、車室4をより広く維持できて居住性が良好に保たれる。
【0050】
なお、図4中一点鎖線に示すように、上記係合体69の他端部71は、上記ストラットタワー25の係合凹部72に嵌入させることに代え、もしくは、これと共にピラーツーピラーメンバ26に突設したブラケット75の係合凹部72に嵌入させて、上記ピラーツーピラーメンバ26に係合させてもよい。
【0051】
また、以上は図示の例によるが、車両1はフルキャブタイプの自動車であってもよい。また、上記係合体69の一端部70は上記ブレーキペダル57に溶接することにより連結してもよい。
【0052】
また、上記係合体69をワイヤやピアノ線などの索条体とし、その一端部70をブレーキペダル57に連結し、他端部71を上記車体2の他部分68に連結することにより係合させてもよい。また、上記係合凹部72は係合孔であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】車両前部の簡略側面部分断面図である。
【図2】図1の部分拡大部分破断図である。
【図3】図2で示したものの平面部分破断図である。
【図4】図2で示したものの背面部分断面図である。
【図5】図3の部分拡大部分断面図である。
【図6】車両衝突時の作用説明図で、図2に相当する図である。
【図7】車両衝突時の作用説明図で、図5に相当する図である。
【符号の説明】
【0054】
1 車両
2 車体
2a 一側部
3 車体フレーム
4 車室
5 車体本体
6 フロントサスペンション
7 前車輪
8 運転者
9 シート
10 ステアリング操作装置
11 ブレーキ操作装置
12 中心線
14 サイドメンバ
15 ドア開口
16 側壁
22 フロントピラー
23 フロアパネル
24 ダッシュパネル
25 ストラットタワー
26 ピラーツーピラーメンバ
32 ストラット
35 ステアリングコラム
36 ステアリングコラムブラケット
37 軸心
38 ステアリングシャフト
39 ステアリングハンドル
40 保護装置
43 支持基板
44 締結具
45 締結具
46 ブラケット
47 ブラケット
49 ボルト孔
50 ボルト
51 傾斜端縁部
53 一部分
54 ペダルブラケット
55 踏動部
57 ブレーキペダル
63 案内体
64 案内面
65 締結具
68 他部分
69 係合体
70 一端部
71 他端部
72 係合凹部
73 空間
A 往回動
B 復回動
C 物体
D 外力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部内に配置される運転者用のシートと、このシートの前方かつ車体の幅方向における車体前部の一部分から後方に向けて突出するペダルブラケットと、下端部に踏動部を有して上記ペダルブラケットに枢支されるブレーキペダルと、上記車体前部の上記一部分よりも後方に位置する車体前部の他部分に取り付けられ、前突により上記車体前部の上記一部分と共に上記ペダルブラケットが後方移動するとき、このペダルブラケットの突出端部を後下方に向けて案内する案内体とを備えた車両前部構造において、
上記ブレーキペダルに連結され、このブレーキペダルを上記車体前部の他部分に係合させる係合体を設け、前突時に、上記ペダルブラケットの突出端部が上記案内体により後下方に向かうよう案内されるとき、上記係合体が、上記ペダルブラケットと共に後方移動するブレーキペダルを車体の幅方向に変位させるようにしたことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
車体前部内の車室の前面を形成するダッシュパネルと、上記シートの足元部の外側方に形成され、フロントサスペンションのストラットを収容して支持するストラットタワーとを備えた車両前部構造において、
上記車体前部の一部分を上記ダッシュパネルとし、上記車体前部の他部分を上記ストラットタワーとし、
上記係合体の少なくとも一部分を上記ダッシュパネルとストラットタワーとで挟まれた空間に配設したことを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−6806(P2009−6806A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169060(P2007−169060)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】