説明

車両用の繊維積層体及びその製造方法

【課題】米国自動車安全基準FMVSS302をより確実にクリアするため、裏基布を縦横にバランス良く燃焼させることにある。
【解決手段】表皮材4とクッション材6と裏基布8が積層されてなる車両用の繊維積層体2において、裏基布8が、複数の短繊維を交差状に積層したのち、前記短繊維同士を三次元的に交絡して構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材とクッション材と裏基布が積層されてなる車両用の繊維積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の繊維積層体は、専ら車両内装材として使用されることから、各種の難燃規制をクリアする必要がある。例えば一般的な難燃規制「米国自動車安全基準FMVSS302」では、一定条件下で繊維積層体にバーナ炎をあてた場合の燃焼速度(単位時間当たりの燃焼距離)が100mm/min以下であることが求められる。
【0003】
そこで繊維積層体の燃焼挙動の一つ(裏基布のみが燃焼する挙動)に着目して、繊維積層体の燃焼速度を制御する技術が公知である(特許文献1及び特許文献2)。これら公知技術では、裏基布のみが安定して燃焼し且つこの燃焼速度が基準を下回るような材質(裏基布の材質)を採用することで、繊維積層体の燃焼速度を基準値以下とするものである。
例えば特許文献1では、セルロース系繊維の裏基布(目付量60g/m以上)を使用することで、繊維積層体の燃焼速度を50〜60mm/minとすることができる。
【0004】
また特許文献2では、セルロース系短繊維(繊維長100mm以下)を物理的に交絡してなる裏基布を使用することで、繊維積層体の燃焼速度を70〜80mm/minとすることができる。そしてこの公知技術では、複数の短繊維をベルトコンベア上にランダムに集積したのち、ウォーターパンチ(高圧の水の噴流)によって三次元的に交絡させることで、比較的延び特性に優れる裏基布を製造することができる。
【特許文献1】特許第3419611号公報
【特許文献2】特開2001−341220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記公知技術の繊維積層体では、明確な原因は不明であるが、ときとして燃焼速度にムラが生じる(燃焼挙動がアンバランスとなる)ことがあった。
そこで図4(b)を参照して、上記特許文献2の繊維積層体より、ベルトコンベアの搬送方向に長尺な「縦長サンプル」と、これに直交する向きに長尺な「横長サンプル」を採取した。そして米国自動車安全基準に準拠して各サンプルの燃焼速度を測定したところ、明らかに縦長サンプルの燃焼速度が速いという結果が得られた([表2]の比較例を参照)。すなわち公知技術によると、裏基布の燃焼挙動が縦横でアンバランスとなり、縦方向(ベルトコンベアの搬送方向)の燃焼速度が速くなる傾向にあった。
このため公知技術の繊維積層体では、セルロース系繊維の裏基布を用いたとしても、他の構成(表皮材やクッション材)との組合せ次第によっては、米国自動車安全基準を満たさない可能性があることが示唆された。
【0006】
そこで本発明者らは鋭意検討した結果、燃焼挙動のアンバランス化の原因として、ベルトコンベアの搬送方向に対して裏基布の短繊維が平行に配置する(直行配置する)ことにより、同方向の燃焼が促進されることを見出した。なお短繊維が直行配置する明確な要因は不明であるが、例えばウォーターパンチの衝撃などにより、ベルトコンベアの搬送方向に短繊維が自然と配向するのではないかと考えられる。
而して本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、米国自動車安全基準FMVSS302をより確実にクリアするため、裏基布を縦横にバランス良く燃焼させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、第1発明に係る車両用の繊維積層体は、表皮材とクッション材と裏基布を積層して構成される。そしてこの種の繊維積層体は、専ら車両内装材に用いられることから、米国自動車安全基準FMVSS302をクリアすることが望まれる。
そこで本発明では、上述の裏基布を、複数の短繊維(典型的にセルロース系短繊維)を交差状に積層したのち、短繊維同士を三次元的に交絡して構成することとした。このように複数の短繊維を交差状に積層して(積極的に交差配置して)、縦横のいずれかに短繊維が配向することを防止又は低減することにより、裏基布を縦横にバランス良く燃焼させることができる。
【0008】
第2発明に係る車両用の繊維積層体の製造方法は、第1発明の繊維積層体を製造する方法であって、以下の4工程(配置工程、重層工程、交絡工程、接合工程)を備える。
すなわち本発明の配置工程では、カーディングされた複数の短繊維からなる第一帯状ウェブ(ウェブの長さ方向に短繊維がほぼ平行に配置した第一帯状ウェブ)を、ベルトコンベア上でジグザグ状に折畳みつつ、ベルトコンベアの搬送方向に沿って交差配置する。
つぎに重層工程で、カーディングされた複数の短繊維からなる第二帯状ウェブを、ベルトコンベア上でジグザグ状に折畳みつつ、ベルトコンベアの搬送方向に沿って交差配置して、第一帯状ウェブと第二帯状ウェブを積層してなる積層ウェブを形成する。こうすることで、両ウェブの短繊維を交差状に積層してなる積層ウェブを比較的容易に形成することができる。
つぎに交絡工程では、上述の積層ウェブの短繊維同士を、(伸び特性を極力悪化させないように)物理的又は機械的に三次元的に交絡して裏基布とする。
そして接合工程で、表皮材とクッション材と裏基布を、この順で積層したのち接合することで、第1発明の繊維積層体を比較的容易に製造することができる。
【0009】
第3発明に係る車両用の繊維積層体の製造方法は、第1発明の繊維積層体を製造する方法であって、以下の3工程(配置工程、交絡工程、接合工程)を備える。
すなわち本発明の配置工程では、カーディングされた複数の短繊維からなる第一帯状ウェブを、ベルトコンベア上でジグザグ状に折畳みつつ四層に折重ねながら、ベルトコンベアの搬送方向に沿って交差配置する。そして交絡工程において、第一帯状ウェブの各層の短繊維同士を、物理的又は機械的に三次元的に交絡して、(上述の重層工程を省略しつつ)裏基布を製造する。そして接合工程において、表皮材とクッション材と裏基布を、この順で積層したのち接合して第1発明の繊維積層体とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1発明の繊維積層体によれば、米国自動車安全基準FMVSS302をより確実にクリアするため、裏基布を縦横にバランス良く燃焼させることができる。また第2発明によれば、第1発明に係る繊維積層体を比較的容易に製造することができる。そして第3発明によれば、第1発明に係る繊維積層体を更に容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図1〜図6を参照して説明する。
<実施形態1>
本実施形態に係る車両用の繊維積層体2は、図1を参照して、表皮材4とクッション材6と裏基布8が積層されて構成されている(各構成の詳細は後述する)。そしてこの種の繊維積層体2は専ら車両内装材に用いられることから、米国自動車安全基準FMVSS302を満たすことが望まれる。
そこで本実施形態では、上記基準をより確実にクリアするため、後述する裏基布8を縦横にバランス良く燃焼させることとしたものである。そして本実施形態の繊維積層体2は、後述する製造方法によって比較的簡単に製造することができる。
【0012】
[繊維積層体の製造方法]
本実施形態の繊維積層体2の製造方法は四工程(配置工程、重層工程、交絡工程、接合工程)を有する(図1〜図3を参照)。そして配置工程、重層工程及び交絡工程にて裏基布8を製造したのち、接合工程にて、表皮材4とクッション材6と裏基布8をこの順で積層して繊維積層体2とする。
そこでこれら各製造工程を、繊維積層体2の各構成とともに詳述することとする。
【0013】
[配置工程]
配置工程では、図2及び図3を参照して、複数の短繊維(詳細は後述)からなる第一帯状ウェブ10を、第一ベルトコンベア38上でジグザグ状に折畳みつつ、ベルトコンベアの搬送方向Fに沿って交差配置する。この第一ベルトコンベア38は、ウェブ搬送用の第一ベルトコンベア38aと、ウェブ交絡用の第一ベルトコンベア38b(メッシュ状)を直線状に配置して構成されている。
そして図2(a)を参照して、短繊維である原料繊維を開綿機30に投入したのち、開繊して(第一ベルトコンベア38aに直交配置の)第二ベルトコンベア32上に供給する。そして第二ベルトコンベア32に積層の短繊維をカードローラ34により梳ることで(カーディングを行うことで)、薄いシート状の第一帯状ウェブ10(幅寸法W1)とする。このカーディング作業により、ウェブの長さ方向に短繊維がほぼ平行に配置した第一帯状ウェブ10を製造することができる。
そしてこの第一帯状ウェブ10を、第二ベルトコンベア32によって、第一ベルトコンベア38a上方に配置のクロスラッパー36内に導き入れる。
【0014】
つぎに図3(a)を参照して、第一ベルトコンベア38aの幅方向(搬送方向Fと直交する向き)にクロスラッパー36を逐次往復させつつ、第一帯状ウェブ10を、第一ベルトコンベア38a上にジグザグ状に折畳みつつ供給する。このとき第一ベルトコンベア38aの搬送速度に対するクロスラッパー36の往復速度を調節して、第一帯状ウェブ10を、第一ベルトコンベア38a上に角度θ1で折畳みつつ、搬送方向Fに沿って交差配置する(クロスレイヤー状とする)。なおこの第一帯状ウェブ10の折畳み状態は、後述する実施形態2にて詳細に説明する(図6を参照)。
【0015】
(短繊維)
ここで短繊維とは、典型的に繊維長が100mm以下の繊維(天然繊維又は合成繊維)であり、好ましくは30mm〜70mmの短繊維であり、さらに好ましくは38mm〜64mmの短繊維である。そして本実施形態では、セルロース系短繊維(例えばビスコースレーヨン繊維、キュプラレーヨン繊維又は綿繊維などの植物繊維)を用いる。このセルロース系短繊維は、一般に安定して燃焼するとともに、それ自身が炭化しながら燃焼するため、後述する表皮材4やクッション材6の燃焼を抑制することができる(燃焼抑制作用を奏する)。
また本実施形態では、上述のセルロース系短繊維とともに、合成繊維(例えばポリエチレンテレフタレート、アクリル、ポリアミド又はアセテート)からなる短繊維を混紡することもできる。なかでもポリエチレンテレフタレート(PET)は他の合成繊維と比較して耐久性に優れ、比較的燃えにくいため合成繊維として好適に用いることができる。
このとき典型的な材料混率は、全体重量を100とした場合、重量比でセルロース系短繊維:合成繊維=50:50〜80:20であり、好ましくはセルロース系短繊維:合成繊維=55:45〜75:25である。この混率範囲設定とすることで、セルロース系短繊維に由来する裏基布8の燃焼抑制作用を好適に奏することができる。
【0016】
[重層工程]
そして重層工程では、第二帯状ウェブ12を、第一ベルトコンベア38a上にジグザグ状に折畳みつつ交差状に配置して後述する積層ウェブ14を形成する。この第二帯状ウェブ12(幅寸法W1)は、カーディングされた複数の短繊維よりなり、ウェブの長さ方向に短繊維がほぼ平行に配置して構成されている。
そしてこの第二帯状ウェブ12を、図3(b)を参照して、第二ベルトコンベア32に平行配置の第三ベルトコンベア33によってクロスラッパー36内に導き入れる。
【0017】
そしてクロスラッパー36の往復運動にて(第一帯状ウェブ10の供給に同期して)、第二帯状ウェブ12を、第一ベルトコンベア38a上において角度θ2(本実施形態では角度θ1と同一角度)でジグザグ状に折畳みつつ、ベルトコンベアの搬送方向Fに沿って交差配置する。このようにして第一帯状ウェブ10と第二帯状ウェブ12を積層してなる積層ウェブ14を形成する(図3(c)を参照)。そして積層ウェブ14には、第一帯状ウェブ10の短繊維と、第二帯状ウェブ12の短繊維が積層することとなる。
【0018】
[交絡工程]
そして交絡工程では、図2(b)を参照して、積層ウェブ14の短繊維同士を三次元的に交絡して裏基布8とする。
より詳しくは積層ウェブ14を、第一ベルトコンベア38a(搬送用)上から第一ベルトコンベア38b(交絡用)上に搬送する。そしてこの積層ウェブ14を、ウォーターパンチ40などの物理的交絡法又はニードルパンチなどの機械的交絡法によって、三次元的に交絡して裏基布8とする。こうすることで短繊維同士が互いに密に絡み合い、接着剤や熱融着によらずとも繊維の絡み合いだけで安定した裏基布8(不織布状)とすることができる。特に本実施形態のように、ウォーターパンチ40(高圧の水の噴流)によって積層ウェブ14の短繊維同士を三次元的に交絡することで、機械油などの不純物(燃焼を促進する不純物)の混入を極力排除することができる。
そしてこの裏基布8を、加熱ローラ(42a,42b,42c)間に通して余分な水分を除去したのち、巻取りローラ44にて巻き取る。
【0019】
[接合工程]
そして接合工程では、図1を参照して、表皮材4とクッション材6と裏基布8をこの順で配置したのち、縫着、接着又は溶着(ラミネート加工)などの手法で接合する。
(表皮材)
ここで表皮材4は、繊維積層体2の意匠面を構成する部材であり、例えば、ジャージ、織物、モケット、トリコット、天然皮革、人工皮革又は合成樹脂シートにて構成される。
表皮材4の材質や目付量は特に限定しないが、例えばPET製の典型的な表皮材4では、目付量が250g/m〜650g/mである。なお表皮材4は、別途難燃処理が施されることもあるが、コスト面等から難燃処理を施さないことが好ましい。
【0020】
(クッション材)
またクッション材6は、乗員の着座性を確保するクッション性を備えておればよく、例えば、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム又はポリエステルフォームにて構成される。このクッション材6として、耐へたり性に優れるポリウレタンフォーム(密度:10Kg/m〜30Kg/m)を用いることが望ましい。なおポリウレタンフォームは、別途難燃処理が施されることもあるが、コスト面等から難燃処理を施さないことが好ましい。
【0021】
(裏基布)
そして裏基布8は、上述の通り、複数のセルロース系短繊維を交差状に積層したのち、短繊維同士を三次元的に交絡して構成される。そしてこの裏基布8は、複数の短繊維を積極的に交差配置して、縦横のいずれかに短繊維が配向することが防止又は低減されているため、縦横にバランス良く燃焼することができる。
また本実施形態の裏基布8は、短繊維同士が絡合しているものの互いの動きは拘束されていないため、しなやかで軽量であるとともに、好適な伸び特性を備えることとなる。
そして本実施形態の裏基布8は、セルロース系短繊維の配置状態により難燃効果を奏するものであり、別途難燃処理剤を配合する必要がない。なお一般的な難燃処理材(塩素化有機燐化合物等)は、自動車のウィンドウの曇り現象(いわゆるFogging現象)を誘発するため、裏基布8に使用しないことが望ましいものである。
【0022】
そして裏基布8の目付量は典型的に20g/m〜60g/mであり、好ましくは30g/m〜60g/mである。ここで裏基布8の目付量が20g/mより少ないと、他の材料(表皮材4及びクッション材6)に対する燃焼抑制作用を奏しにくくなる。なお裏基布8の目付量は60g/mより多くてもよいが、コスト高となるとともに、繊維積層体2の重量が必要以上に増加する。そして裏基布8の目付量を40g/m以上60g/m以下の範囲設定とすることで、裏基布8を安定して燃焼させることができる。
【0023】
[繊維積層体]
上記製造方法により製造された車両用の繊維積層体2は、複数の短繊維を積極的に交差配置した裏基布8(クロスレイヤー状の裏基布8)を備える。そして繊維積層体2は、この裏基布8を縦横にバランス良く燃焼させることにより、米国自動車安全基準をより確実にクリアすることができるものとなる([表2]を参照)。
また本実施形態の繊維積層体2は、裏基布8の短繊維を物理的に交絡したことで、車両内装材として好適な伸び特性を備えるものとなる。特に繊維積層体2は、裏基布8の短繊維が交差状に積層しているため、縦横にバランスの良い伸び特性を備え、例えば車両用シートなどの立体構造体を被覆する表皮カバー材として好適に使用することができる([表2]を参照)。
【0024】
<実施形態2>
本実施形態の繊維積層体の製造方法は、上述の実施形態1とほぼ同一の基本構成を備えるため、共通の構造等は対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
そして本実施形態に係る繊維積層体の製造方法は、以下の三工程(配置工程、交絡工程、接合工程)を備える。
すなわち本実施形態の配置工程では、図6を参照して、第一帯状ウェブ10を、第一ベルトコンベア38a上でジグザグ状に折畳みつつ四層に折重ねながら、ベルトコンベアFの搬送方向Fに沿って交差配置する。このとき第一帯状ウェブ10の幅寸法W1と、折畳み幅寸法(クロスレイヤー振り幅)W2を適宜考慮しつつ、第一帯状ウェブ10の折畳み角度θ1を16°〜22°に設定することで、第一帯状ウェブ10を四層に折重ねることができる。そして本実施形態においても、第一帯状ウェブ10の各層の短繊維が交差状に積層することとなる。
【0025】
そして第一帯状ウェブ10の各層の短繊維同士を、交絡工程において物理的又は機械的に三次元的に交絡して裏基布8とする。そして接合工程において、表皮材4とクッション材6と裏基布8を、この順で積層したのち接合して繊維積層体とする。
本実施形態によれば、上記重層工程及びその構成(第二帯状ウェブ12、第三ベルトコンベア33)を省略した比較的シンプルな構成によって、本実施形態に係る繊維積層体を製造することができる。
【0026】
[試験例]
以下、本実施の形態を試験例に基づいて説明するが、本発明は試験例に限定されない。
本試験では、下記[表1]の構成及び製造法に係る実施例1の裏基布8と、比較例1の裏基布9を使用することとした(図4を参照)。
【表1】

【0027】
(実施例1の繊維積層体)
そして実施例1の繊維積層体2を、表皮材4とクッション材6と裏基布8をこの順で積層及び接合して製造した(図4及び図5を参照)。
そして本実施例では、表皮材4としてPET製ジャージ(目付量:400g/m)を用いた。またクッション材6としてポリウレタンフォーム(密度:20Kg/m、板厚:1.3mm)を用いた。なお表皮材4とクッション材6と裏基布8は、いずれも難燃処理材が混入されていないものを使用した。
【0028】
(比較例1の繊維積層体)
また比較例1の繊維積層体20を、表皮材4とクッション材6と裏基布9をこの順で積層及び接合して製造した(図4及び図5を参照)。表皮材4とクッション材6の詳細構成は実施例1と同一である。
【0029】
(試験方法)
そして実施例1の繊維積層体2から、ベルトコンベアの搬送方向Fに長尺な「縦長サンプルSh1」(縦350mm×横100mm)を採取した。また同方向Fに直交する向きに長尺な「横長サンプルSw1」(縦100mm×横350mm)を採取した(図4(a)を参照)。
そしてこれら「縦長サンプルSh1」と「横長サンプルSw1」の最大燃焼速度を、米国自動車安全基準FMVSS302に準拠して測定した(図5を参照)。
また「縦長サンプルSh1の裏基布」と「横長サンプルSw1の裏基布」の破断伸度及び引張強度を、「JIS L1018 8.13 引張強さ及び伸び率」に準拠して測定した。
【0030】
そして同様に比較例1の繊維積層体20から、実施例1と同様に「縦長サンプルSh2」と「横長サンプルSw2」を採取した(図4(b)を参照)。そしてこれら「縦長サンプルSh2」と「横長サンプルSw2」の各々の最大燃焼速度を、米国自動車安全基準FMVSS302に準拠して測定した。
また「縦長サンプルSh2の裏基布」と「横長サンプルSw2の裏基布」の破断伸度及び引張強度を、「JIS L1018 8.13 引張強さ及び伸び率」に準拠して測定した。
【0031】
各試験の測定結果を下記[表2]に示す。
【表2】

【0032】
(最大燃焼速度の試験結果)
実施例1の繊維積層体2では、「縦長サンプルSh1」の最大燃焼速度と、「横長サンプルSw1」の最大燃焼速度の差が極めて小さいものであった。そして両サンプルともに、米国自動車安全基準FMVSS302の基準をクリアする燃焼速度(30mm/min〜40mm/min)であった。
このことから実施例1の繊維積層体2によれば、裏基布8が縦横でバランス良く燃焼することにより、より確実に米国自動車安全基準をクリアできることがわかった。
【0033】
これに対して比較例1の繊維積層体20では、「縦長サンプルSh2」の最大燃焼速度と、「横長サンプルSw2」の最大燃焼速度の差が極めて大きいものであった(縦横の燃焼挙動がアンバランスであった)。特に縦長サンプルSh2の最大燃焼速度は、米国自動車安全基準の上限値(100mm/min)であった。
そして比較例1における燃焼速度のアンバランス化は、ベルトコンベアの搬送方向Fに対して裏基布9の短繊維が直行配置することにより同方向の燃焼が促進されたためと推測される。このことから比較例1の繊維積層体20(裏基布9)は、他の構成(表皮材4やクッション材6)との組合せ次第で、米国自動車安全基準を満たさない可能性があることが強く示唆された。
【0034】
(破断伸度及び引張強度の試験結果)
実施例1の繊維積層体2では、「縦長サンプルSh1の裏基布」の破断伸度と、「横長サンプルSw1の裏基布」の破断伸度の差が小さく、いずれも好適な値(50%〜70%)であった。また同様に「縦長サンプルSh1の裏基布」の引張強度と、「横長サンプルSw1の裏基布」の引張強度の差が小さく、いずれも好適な値(40N/25mm程度)であった。
このことから実施例1の繊維積層体2(裏基布8)は、縦横の延び特性のバランスが良く、車両内装材として好適に使用可能な伸び特性を備えることがわかった。
【0035】
すなわち実施例1の繊維積層体2では、裏基布8の破断伸度が比較的高く、伸び易いものである。このため繊維積層体2を、例えば車両用シートの表皮カバー材として使用した場合、皺や撚れを極力生じさせることなくシート外形に対応してきれいに張設することができる(見栄えや着座感の良い仕上がりとなる)。
また繊維積層体2は、裏基布8の引張強度が適度に低いため、安定して引張可能である。例えば表皮カバー材の製造時には縫製作業を伴うが、このとき表皮カバー材(繊維積層体2)が安定して引張可能であると、その縫製作業が容易となるとともに、きれいな縫製ラインを形成することができる(見栄えの良い仕上がりとなる)。
このため本実施例の繊維積層体2(裏基布8)は、車両用シートなどの立体構造体を被覆する表皮カバー材などに好適に使用できることがわかった。
【0036】
これに対して比較例1の繊維積層体20では、「縦長サンプルSh2の裏基布」の破断伸度と、「横長サンプルSw2の裏基布」の破断伸度の差が極めて大きいものであった。また同様に「縦長サンプルSh2の裏基布」の引張強度と、「横長サンプルSw2の裏基布」の引張強度の差も極めて大きいものであった。
特に「縦長サンプルSh2の裏基布」の破断伸度は35.01%と極めて低い(伸び難い)ものであった。さらに「縦長サンプルSh2の裏基布」の引張強度は65.9N/25mmと極めて高い(引張し難い)ものであった。このため繊維積層体20(裏基布9)は、車両内装材として用いるにはやや不向きであることがわかった。
このことから本比較例の繊維積層体2(裏基布9)では、車両内装材(特に表皮カバー材)として使用した場合、その仕上がり性に悪影響を与えることが懸念される。
【0037】
本実施形態の車両用の繊維積層体及びその製造方法は、上述した実施例に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施例の配置工程では、原料繊維(短繊維)を開綿機30にかけてほぐしたのちベルトコンベア上に供給する乾式法(より確実に短繊維の配向を揃えることが可能な構成)を説明した。これとは異なり、原料繊維(短繊維)を液中に分散させたのち抄紙機を利用してシート状とする(湿式法)であっても、短繊維の配向を揃えることが可能であれば採用することができる。
【0038】
(2)また本実施例の重層工程では、第一帯状ウェブ10と第二帯状ウェブ12を同一のクロスラッパー36内に収納配置する構成(両ウェブを同期して供給する合理的な構成)を説明したが、これら両ウェブの配置関係を限定する趣旨ではない。例えば第一帯状ウェブと第二帯状ウェブを、各々別のクロスラッパー内に収納配置してもよく、こうすることで両ウェブを、第一ベルトコンベアを挟んで対向状に配置することもできる。
また本実施例では、第一ベルトコンベア38を、ウェブ搬送用の第一ベルトコンベア38aと、ウェブ交絡用の第一ベルトコンベア38b(メッシュ状)の二基で構成した。これとは異なり、第一ベルトコンベア38(一基)全体をメッシュ状としてもよい。
【0039】
(3)また本実施例における帯状ウェブの折畳み角度θ1及び折畳み角度θ2は、各帯状ウェブの短繊維を交差状に配置可能であれば、各々独立に0°より大きく45°より小さい範囲で任意に設定することができる。折畳み角度θ1及び折畳み角度θ2は同一角度設定でもよく、また各々異なる角度設定でもよい。
なお本実施例では、第一帯状ウェブ10の寸法(W1,W2)と第二帯状ウェブ12の寸法(W1,W2)を同一に設定したが、各帯状ウェブの寸法が異なっていてもよい。
【0040】
(4)また本実施例の交絡工程では、物理的又は機械的に積層ウェブ14を交絡させる構成(裏基布8に好適な伸び特性を与える構成)を説明したが、接着剤やバインダー繊維を使用しない趣旨ではない。すなわち、裏基布8の難燃性や伸び特性に悪影響を与えない程度の分量の接着剤等を使用することもできる。
(5)また本実施例では、表皮材4とクッション材6と裏基布8のみからなる繊維積層体2を説明したが、これら各構成は主構成であり、この他に別の構成(樹脂板やコーティング層など)を有していてもよい。
【0041】
(6)また本実施例では、専らセルロース系短繊維からなる裏基布8を例示した。本実施例では、短繊維の配置状態により難燃効果を奏するものであることから、セルロース系短繊維とは異なる他種の短繊維を使用することができる可能性が示唆される。例えば他種の短繊維として、ポリエステル系短繊維、ポリアミド系短繊維、ポリアクリロニトリル系短繊維、ポリオレフィン系短繊維、ポリ乳酸などのタンパク質系短繊維及びPTFEなどのポリフルオロエチレン系短繊維を例示することができる。
また本実施例の裏基布は、その全面において短繊維が交差状に積層することが望ましいが、裏基布の延び特性に悪影響を及ぼさない限り、一部に短繊維が交差状に積層しない部分を有していてもよい。
【0042】
(7)また本実施例では、第一帯状ウェブ10又は第二帯状ウェブ12にて積層ウェブ14を形成する構成を説明した。これとは異なり、第一ベルトコンベアの搬送方向Fに長尺な他の帯状ウェブを、少なくとも積層ウェブ14の上下いずれかに重層する構成(クリスクロス方式の一例)としてもよい。この他のウェブは、その長さ方向(搬送方向F)に短繊維がほぼ平行に配置して構成される。このような構成であると、より確実に裏基布の短繊維を交差状態で積層することができる。
また第一帯状ウェブ10と第二帯状ウェブ12の間に上記他の帯状ウェブを挿設する構成としてもよい。
(8)また実施例2において、少なくとも第一帯状ウェブの上下いずれかに上記他の帯状ウェブを重層する構成(クリスクロス方式の他例)としてもよい。このような構成であると、第二帯状ウェブ(第三ベルトコンベア)を省略しつつ、各帯状ウェブの短繊維を交差状態で積層することができる。
なお他の帯状ウェブの重層又は挿設作業は、交絡工程前の各工程時又はそれら各工程に前後して行うことができる。
【0043】
(9)本実施例では、専ら第一帯状ウェブ10と第二帯状ウェブ12を、各々4層に折重ねる構成を説明した。これら第一帯状ウェブ10と第二帯状ウェブ12は、第一ベルトコンベア38aの搬送速度に対するクロスラッパー36の往復速度を調節するなどして、各々2n層(nは正の整数)に折重ねて構成することができる。そして典型的には、第一帯状ウェブ10(第二帯状ウェブ12)を2層〜12層程度に折重ねて所望の目付量とする。なお第一帯状ウェブ10と第二帯状ウェブ12の折重ね数は同一でもよく、また異なっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】車両用の繊維積層体の縦断面図である。
【図2】(a)及び(b)は、車両用の繊維積層体の製造工程を示す図である。
【図3】(a)〜(c)は、積層ウェブ(裏基布)の製造工程を順次示す上方正面図である。
【図4】(a)は、本実施例に係る車両用の繊維積層体の斜視図であり、(b)は、従来例に係る車両用の繊維積層体の斜視図である。
【図5】燃焼速度の測定方法を示す繊維積層体の縦断面図である。
【図6】(a)は、第一帯状ウェブの上方正面図であり、(b)は、(a)の一部縦断面図である。
【符号の説明】
【0045】
2 繊維積層体
4 表皮材
6 クッション材
8 裏基布
10 第一帯状ウェブ
12 第二帯状ウェブ
14 積層ウェブ
30 開綿機
32 第二ベルトコンベア
33 第三ベルトコンベア
34 カードローラ
36 クロスラッパー
38 第一ベルトコンベア
40 ウォーターパンチ
44 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮材とクッション材と裏基布が積層されてなる車両用の繊維積層体において、
前記裏基布が、複数の短繊維を交差状に積層したのち、前記短繊維同士を三次元的に交絡してなることを特徴とする車両用の繊維積層体。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用の繊維積層体の製造方法であって、
カーディングされた複数の短繊維からなる第一帯状ウェブを、ベルトコンベア上でジグザグ状に折畳みつつ、前記ベルトコンベアの搬送方向に沿って交差配置する配置工程と、
カーディングされた複数の短繊維からなる第二帯状ウェブを、ベルトコンベア上でジグザグ状に折畳みつつ、前記ベルトコンベアの搬送方向に沿って交差配置して、前記第一帯状ウェブと前記第二帯状ウェブを積層してなる積層ウェブを形成する積層工程と、
前記積層ウェブの短繊維同士を、物理的又は機械的に三次元的に交絡して前記裏基布とする交絡工程と、
前記表皮材と前記クッション材と前記裏基布を、この順で積層したのち接合して繊維積層体とする接合工程を備える繊維積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載した車両用の繊維積層体の製造方法であって、
カーディングされた複数の短繊維からなる第一帯状ウェブを、ベルトコンベア上でジグザグ状に折畳みつつ四層に折重ねながら、前記ベルトコンベアの搬送方向に沿って交差配置する配置工程と、
前記第一帯状ウェブの各層の短繊維同士を、物理的又は機械的に三次元的に交絡して前記裏基布とする交絡工程と、
前記表皮材と前記クッション材と前記裏基布を、この順で積層したのち接合して繊維積層体とする接合工程を備える繊維積層体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−36389(P2010−36389A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199596(P2008−199596)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(595031775)シンワ株式会社 (12)
【出願人】(592184393)株式会社アサダユウ (2)
【Fターム(参考)】