説明

車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造

【課題】成形性の低下を招くことなく、カウル本体の衝撃力吸収機能を高めることができる車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造を提供する。
【解決手段】遮蔽壁13は、カウル本体12の後壁部12bに結合されて前方に延びる第1遮蔽部13aと、前壁部12aに結合されて後方に延び、前記第1遮蔽部13aに対して車幅方向にオフセット配置された第2遮蔽部13bと、底壁部12cに結合され、前記第1遮蔽部13aと第2遮蔽部13bとを車幅方向に結合する第3遮蔽部13cとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上方に開口する溝形状のカウル本体と、該カウル本体内を車幅方向に遮蔽する遮蔽壁とを一体に形成した車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のカウルルーバは、雨水等を車外に排出する溝形状のカウル本体と、エンジン室内の熱がカウル本体に入り込むのを抑制するために該カウル本体内を遮蔽する遮蔽壁とを一体形成し、該遮蔽壁とカウル本体との間に排水孔を形成する場合がある。
【0003】
ところで、前記カウル本体の遮蔽壁部分は、3壁面が合わさった構造となることから剛性が高く、車両上方から被衝突物が落下したときに変形しにくく、被衝突物への影響が懸念される。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、カウル本体内に蛇腹形状,あるいはジグザク形状の連結部材を一体に設け、荷重入力時に前記連結部材が前後方向に延びることにより、前記被衝突物への衝撃力を吸収するようにした構造が提案されている。
【特許文献1】特開2006−62520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来構造では、蛇腹形状,ジグザク形状の連結部材をカウル本体の前壁,後壁及び底壁に一体に形成する構造である。この場合、上下方向に型抜き成形するには、連結部材とカウル本体との接続部の肉厚を大きくする必要があり、それだけ剛性が高くなって荷重入力時の変形がスムーズに行えなくなるという懸念がある。一方、前記接続部の肉厚を小さくするには、上下型と共に別途スライド型を用いることとなるが、このようにすると生産性が低下するとともにコストが上昇するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、生産性の低下及びコストの上昇を招くことなく、カウル本体の衝撃力吸収機能を高めることができる車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車幅方向に延び、前壁部と後壁部と該前壁部及び後壁部の下縁部同士を結合する底壁部とを有する溝形状のカウル本体と、該カウル本体内を車幅方向に遮蔽する遮蔽壁とを一体に備えた車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造であって、前記遮蔽壁は、前記後壁部に結合されて前方に延びる第1遮蔽部と、前記前壁部に結合されて後方に延び、かつ前記第1遮蔽部に対して車幅方向にオフセット配置された第2遮蔽部と、前記底壁部に結合され、前記第1遮蔽部と第2遮蔽部とを車幅方向に結合する第3遮蔽部とを有することを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造において、前記第1遮蔽部には、前記カウル本体内に流入した水を車外に排出する排水孔が形成されており、該排水孔の下縁は前記底壁部により形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係る衝撃力吸収構造によれば、遮蔽壁を、カウル本体の後壁部に結合された第1遮蔽部と、前壁部に結合され、第1遮蔽部に対して車幅方向にオフセット配置された第2遮蔽部と、底壁部に結合され、第1,第2遮蔽部を車幅方向に結合する第3遮蔽部とを備えたものとしたので、上方からの荷重入力によって第2,第3遮蔽部が前方に延びるように変位し、これに伴ってカウル本体の前壁部が前方に倒れるように変形し、よって衝撃力が吸収されることとなる。これにより、カウル本体の衝撃力吸収性能を高めることができ、ひいては被衝突物への影響を抑制できる。
【0010】
前記遮蔽壁の第1〜第3遮蔽部は、大略クランク形状をなす構造であるので、従来の蛇腹,ジグザク形状に比べて成形が容易であり、上下方向の型抜きによる成形が可能となり、生産性の低下,コストの上昇を抑制できる。
【0011】
請求項2の発明では、第1遮蔽部に形成された排水孔の下縁を底壁部により形成したので、第1遮蔽部の剛性が小さくなり、それだけ荷重入力時の第2,第3遮蔽部の前方への変形が容易となり、衝撃力吸収性能をより一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1ないし図8は、本発明の一実施形態による車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造を説明するための図であり、図1はカウルルーバの斜視図、図2,図3はカウルルーバの断面図(図1のII-II線断面図,III-III線断面図)、図4はカウルルーバの遮蔽壁の斜視図、図5〜図7は遮蔽壁の平面図,側面図,正面図、図8(a),(b)は遮蔽壁の変形状態を示す模式図である。
【0014】
図において、1は自動車のフロントガラス2とフード3との間を覆うように配設されたカウルルーバを示しており、該カウルルーバ1は、エンジン室Aと車室Bとを画成するよう配設された車幅方向に延びるカウルパネル4に取り付けられている。
【0015】
前記カウルパネル4の左,右側端部には、車両前後方向に延びるエプロンメンバ8,8が結合されている。この左,右のエプロンメンバ8の後端部には、フロントピラー(不図示)が結合されている。該左,右のフロントピラーにより前記フロントガラス2の左,右縁部が支持されている。
【0016】
前記カウルパネル4は、カウルアッパ5とカウルロア6との後フランジ5a,6a同士を溶接により結合した構造を有する。
【0017】
前記カウルアッパ5は、後フランジ5aから上方に延びた後、前斜め下方に延びており、前記フロントガラス2の下縁部2aを支持している。
【0018】
前記カウルロア6は、前記後フランジ6aから下方に延びた後、前記カウルアッパ5より前方に位置するよう前斜め上方に湾曲して延びている。該カウルパネル4内には、前記フロントガラス2に付着した雨水等を払拭するワイパユニット10が配設されている。
【0019】
前記フード3は、前記エンジン室Aの上端開口を開閉可能に配設されており、前記カウルパネル4の左,右側端部に配設されたフードヒンジ(不図示)により上下回動可能に支持されている。
【0020】
前記カウルルーバ1は、車幅方向に延びる樹脂製のものであり、車両上下方向の型抜きにより成形されたものであり、上方に開口する溝形状のカウル本体12と、該カウル本体12の左,右端部に配置され、カウル本体12内を車幅方向に遮蔽する遮蔽壁13,13とを一体に形成した構造を有する。
【0021】
また前記カウルルーバ1は、前記カウル本体12に続いてカウルパネル4の開口を覆うように後方に延びる上壁部14と、該上壁部14の左,右縁から下方に延びる左,右側壁部15,15とを一体に形成した構造を有する。
【0022】
前記上壁部14の後縁部14aにより前記フロントガラス2の下縁部2aが覆われている。また上壁部14には、走行風を車室B内に導入する空気導入口14bと、前記ワイパユニット10のピボット軸10aが挿入されたピボット孔14cとが形成されている。前記空気導入口14bから導入した空気は、ヒータユニット又はエアコンディショナ(不図示)により所定温度に調整されて車室B内に供給される。
【0023】
前記カウル本体12は、前壁部12aと、前記上壁部14の前縁14dに続いて下方に延びる後壁部12bと、該前壁部12a及び後壁部12bの下縁同士を前後方向に結合する底壁部12cとを有する。これによりフロントガラス2,上壁部14を伝ってカウル本体12内に流入した雨水,洗浄水を車外に排出するようになっている。
【0024】
前記前壁部12aの上縁には、前方に突出するフランジ部12dが形成されている。該フランジ部12dには、全閉時のフード3の下面に弾性変形して圧接することにより、該フード3とカウル本体12との間をシールするシール部材17が装着されている。このフード3は、前記カウル本体12を上方から覆うとともに、フード前縁3aが前記上壁部14の前縁14dに近接し、かつ該上壁部14と略連続面をなすよう配置されている。
【0025】
前記カウル本体12の底壁部12cの両端部及び中央部には、それぞれ取付け部12e,12eが形成されている。この各取付け部12eは、クリップ部材18により前記カウルロア6の前フランジ6bに取り付けられている。
【0026】
前記左,右の遮蔽壁13は、前記カウル本体12の後壁部12bに結合され、該後壁部12bに続いて前方に延びる第1遮蔽部13aと、前記前壁部12aに結合され、該前壁部12aに続いて後方に延びる第2遮蔽部13bとを有する。この第2遮蔽部13bは、前記第1遮蔽部13aに対して車幅方向内側にオフセット配置されている。
【0027】
さらに前記左,右の遮蔽壁13は、前記底壁部12cに結合され、前記第1遮蔽部13aと第2遮蔽部13bとを車幅方向に結合する第3遮蔽部13cを有する。これにより前記遮蔽壁13は、上方から見ると、大略クランク形状をなしている。
【0028】
前記第1遮蔽部13aには、前記カウル本体12内に流入した水を車外に排出する排水孔13dが形成されている。
【0029】
該排水孔13dは、第1遮蔽部13aの後側部分を切り欠くことにより形成されている。詳細には、排水孔13dは、上縁及び前縁が前記第1遮蔽部13aにより形成され、後縁がカウル本体12の後壁部12bにより形成され、下縁が底壁部12cにより形成されている。前記排水孔13dは、上下方向の型抜き時にスライド型を用いて形成されたものである。
【0030】
本実施形態によれば、カウル本体12に一体形成された左,右の遮蔽壁13を、カウル本体12の後壁部12bに続いて前方に延びる第1遮蔽部13aと、前壁部12aに続いて後方に延び、かつ第1遮蔽部13aに対して車幅方向内側にオフセット配置された第2遮蔽部13bと、底壁部12cに続いて上方に延び、第1,第2遮蔽部13a,13bを車幅方向に接続する第3遮蔽部13cとを有する構成とした。これにより、車両上方からの荷重入力によって、第2,第3遮蔽部13b,13cが前方に延びるように変位し、これに伴ってカウル本体12の前壁部12aが底壁部12cとの接続線aを起点にして前方に倒れるように変形し、よって衝撃力が吸収される(図8参照)。これにより、カウル本体12の衝撃力吸収性能を高めることができ、ひいては被衝突物への影響を抑制できる。
【0031】
ここで、前記遮蔽部13の外側近傍には、カウルパネル4に固定された取付け部12eが位置しており、該取付け部12eが遮蔽部13及び前壁部12aの変形を阻害する懸念がある。しかし、この取付け部12eは、遮蔽部13及び前壁部12aと直接つながっていないことから、取付け部12eによって前記変形が拘束されることはない。
【0032】
本実施形態では、前記遮蔽壁13を、第1〜第3遮蔽部13a〜13cが大略クランク形状をなすよう形成したので、従来の蛇腹,ジグザク形状に比べて成形が容易であり、生産性の低下,コストの上昇を抑制できる。
【0033】
本実施形態では、第1遮蔽部13aに排水孔13dを形成し、該排水孔13dの下縁を底壁部12cにより形成するとともに、後縁を後壁部12bにより形成したので、第1遮蔽部13aの剛性を小さくすることができ、荷重入力時の第2,第3遮蔽部13b,13cの前方への変位が容易となり、衝撃力吸収性能をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態による自動車のカウルルーバの斜視図である。
【図2】前記カウルルーバの断面図(図1のII-II線断面図)である。
【図3】前記カウルルーバの断面図(図1のIII-III線断面図)である。
【図4】前記カウルルーバの遮蔽壁の斜視図である。
【図5】前記遮蔽壁の平面図である。
【図6】前記遮蔽壁の側面図である。
【図7】前記遮蔽壁の正面図である。
【図8】前記遮蔽壁の変形状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0035】
1 カウルルーバ
12 カウル本体
12a 前壁部
12b 後壁部
12c 底壁部
13 遮蔽壁
13a 第1遮蔽部
13b 第2遮蔽部
13c 第3遮蔽部
13d 排水孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延び、前壁部と後壁部と該前壁部及び後壁部の下縁部同士を結合する底壁部とを有する溝形状のカウル本体と、該カウル本体内を車幅方向に遮蔽する遮蔽壁とを一体に備えた車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造であって、
前記遮蔽壁は、前記後壁部に結合されて前方に延びる第1遮蔽部と、前記前壁部に結合されて後方に延び、かつ前記第1遮蔽部に対して車幅方向にオフセット配置された第2遮蔽部と、前記底壁部に結合され、前記第1遮蔽部と第2遮蔽部とを車幅方向に結合する第3遮蔽部とを有することを特徴とする車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造において、
前記第1遮蔽部には、前記カウル本体内に流入した水を車外に排出する排水孔が形成されており、該排水孔の下縁は前記底壁部により形成されていることを特徴とする車両用カウルルーバの衝撃力吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−95166(P2010−95166A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268170(P2008−268170)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(390033112)積水テクノ成型株式会社 (48)
【Fターム(参考)】