説明

車両用カウルルーバ及びその製造方法

【課題】車両用カウルルーバ及びその製造方法において、車両衝突時にフードに荷重が加わった場合に、反力を殆ど発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できること。
【解決手段】車両用カウルルーバ1は、ポリプロピレンが中実に成形された中実部分4と発泡成形された発泡部分5とを具備し、エンジンルームから発せられた熱気や臭いが、空気導入口4aを介して車室内へ侵入することが防止される。車両の衝突時にフードパネル2に衝突エネルギーが掛かることによって、下方向に応力Fが掛かってフードパネル2の後端下部が下方に移動すると、多数の気泡5aを有するために強度的に中実部分4より遥かに劣る発泡部分5が容易に変形して破壊され、殆ど反力を生ずることがないため、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。同様に、車両の衝突時に車両用カウルルーバ1の上方突出部に下方向に応力Fが掛かると、発泡部分5が容易に変形して破壊される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のフロントウィンドウガラスの下端に嵌合してフードパネルの後端裏側まで延出する車両用カウルルーバに関するものであり、特に、車両の衝突時にフードパネルに加わる衝突エネルギーを効果的に吸収することができる有機合成樹脂からなる車両用カウルルーバ及びその製造方法に関するものである。
【0002】
なお、本明細書・特許請求の範囲・要約書において、「有機合成樹脂」とは、いわゆる熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を意味するが、必ずしもその100%が有機合成樹脂であるものに限られず、発泡剤・酸化防止剤・金属不活性剤・安定剤・紫外線吸収剤・可塑剤・充填剤等の添加剤を含有するものをも意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
従来の自動車の構造においては、エンジンルームを覆うフードパネルの後端とフロントウィンドウガラスの下端部分との間には空間が形成されており、この空間は、フロントウィンドウガラスの下端に嵌合してフードパネルの後端裏側まで延出する樹脂製のカウルルーバによって遮蔽されている。これによって、エンジンルーム内の熱気や臭いがカウルルーバに設けられた空気導入口を介して車室内へ侵入することが防止されるとともに、前記空間に溜まった枯葉や雪等の異物がエンジンルーム内に侵入することが防止され、またエンジンルームが被水する事態も防止される。
【0004】
このように、カウルルーバには気体と固体の両方を遮断する機能が要求されるため、全体的にある程度の剛性が必要で、かつ先端部分には相手方に密着する弾力性が必要であることから、合成樹脂製のカウルルーバが用いられてきた。しかし、合成樹脂製のカウルルーバは、あまり剛性が高過ぎると、車両の衝突時にフードへ下向きの大きな荷重が加わった際、フードが下方へ移動し難くなって、衝突エネルギーを十分に吸収できなくなる。
【0005】
そこで、このような問題を解決することを目的として、特許文献1には、フードの後端とカウルトップとの間の空間を遮蔽する自動車フードのシール構造の発明が開示されている。この自動車フードのシール構造においては、フードの後端から空間に向けて、形状保持可能な剛性を有し、かつ先端がカウルトップと上下方向で干渉しない位置関係にあるシール本体を形成し、シール本体の先端またはカウルトップのいずれか一方に、先端が他方側へ接触する弾性変形可能なリップを設けている。これによって、車両衝突時にフードに下向きの荷重が加わると、フードはシール本体ごと反力を発生させることなく下方へ移動し、衝突エネルギーを十分に吸収することができるとしている。
【0006】
また、特許文献2に記載されたカウルトップカバーの発明においては、硬質部材からなるカウルルーバ本体部の前端に、フードパネルからの衝撃を緩和する軟質部材からなる縦壁を一体に設けて、縦壁から本体部側に延長する延長部を設けるとともに、縦壁の本体側と延長部または本体側前端部とを接続する補強リブを設けている。これによって、平常時の自立性を十分に確保しつつ、フードパネルが衝撃を受けた際にはその衝撃を有効に緩和することができるとしている。
【特許文献1】特開2005−247186号公報
【特許文献2】特開2007−015609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、剛性を有するシール本体と弾性変形可能なリップとを異なる樹脂材料で成形する必要があり、構造が複雑になるばかりでなく、シール性が十分でなく、車両衝突時における衝突エネルギーの緩和性も不十分である。また、上記特許文献2に記載の技術においては、衝突時の反力を完全になくすことは不可能であり、やはりシール性が十分でなく、衝突エネルギーの緩和性も不十分であるという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、車両衝突時にフード等に下向きの荷重が加わった場合に、反力を殆ど発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、十分なシール性を有し、構造が簡単で低コストで製造することができ、かつ軽量な車両用カウルルーバを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る車両用カウルルーバは、車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられる有機合成樹脂からなる車両用カウルルーバであって、前記有機合成樹脂が中実に成形された中実部分と、前記有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分とを具備し、前記発泡部分において前記車両用カウルルーバは通気性を有さず、かつ、前記発泡部分は少なくとも前記車体の衝突時に屈曲力が掛かる部位に設けられたものである。
【0010】
ここで、「有機合成樹脂」とは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を意味するものであり、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、等)・ポリスチレン・アクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)・ABS樹脂・塩化ビニル樹脂・ポリ酢酸ビニル・ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)・ポリアミド・ポリアセタール・ポリカーボネート・ポリエステル樹脂等があり、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂・エポキシ樹脂・メラミン樹脂・尿素樹脂・不飽和ポリエステル樹脂・アルキド樹脂・ポリウレタン・熱硬化性ポリイミド等がある。
【0011】
請求項2の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項1の構成において、前記発泡部分は、前記中実部分と一体に成形されるものである。ここで、「中実部分と一体に成形される」とは、発泡部分と中実部分とを別々に成形しておいて溶着等によって一体化させるのではなく、一体の成形体の一部分を発泡させて発泡部分とするという意味である。
【0012】
請求項3の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項1または請求項2の構成において、前記発泡部分は、コアバック成形またはショートショット成形によって前記中実部分と一体に成形されるものである。
【0013】
ここで、「コアバック成形」とは、有機合成樹脂中に発泡剤を混入しておいて、射出成形等により金型内に充填し、発泡させようとする部分の金型のコアを後退させてクリアランスを形成することによって、有機合成樹脂中の発泡剤を発泡させる成形法である。また、「ショートショット成形」とは、コアバック成形に用いるような特殊な金型を用いず、有機合成樹脂中に発泡剤を混入しておいて、射出成形等により金型内に充填する際に、充填量をフル充填に対して幾らか減らしておいて、発泡剤の発泡圧力によって金型内に樹脂を最終充填させる成形法である。
【0014】
請求項4の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項1の構成において、前記発泡部分は、前記中実部分と別々に成形された後に一体化されるものである。
【0015】
請求項5の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記車両用カウルルーバの前端部分には弾性素材からなるシール部材が固定されているものである。ここで、「弾性素材」としては、天然ゴム、合成ゴム、及びこれらを含んだエラストマーをいう。
【0016】
請求項6の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項1乃至請求項5のいずれか1つの構成において、前記車両用カウルルーバは、熱可塑性樹脂からなるものである。ここで、「熱可塑性樹脂」としては、ポリオレフィン樹脂・ポリスチレン・アクリル樹脂・ABS樹脂・塩化ビニル樹脂・ポリ酢酸ビニル・ポリアミド・ポリアセタール・ポリカーボネート・ポリエステル樹脂等を用いることができ、より具体的には、例えば、ポリオレフィン樹脂してポリプロピレン(PP)、ポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)、等を用いることができる。
【0017】
請求項7の発明に係る車両用カウルルーバの製造方法は、車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられ、有機合成樹脂からなり、前記有機合成樹脂が中実に成形された中実部分と、前記有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分とを具備する車両用カウルルーバの製造方法であって、前記発泡部分を、コアバック成形またはショートショット成形によって前記中実部分と一体に成形する一体成形工程を具備するものである。
【0018】
請求項8の発明に係る車両用カウルルーバの製造方法は、車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられ、有機合成樹脂からなり、前記有機合成樹脂が中実に成形された中実部分と、前記有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分とを具備する車両用カウルルーバの製造方法であって、前記発泡部分を成形する発泡成形工程と、前記中実部分を成形する中実成形工程と、前記発泡部分と前記中実部分とを接続する接続工程とを具備するものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明においては、有機合成樹脂からなる車両用カウルルーバが車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられるため、十分なシール性を有しており、エンジンルーム内の熱気や臭いが車両用カウルルーバに設けられた空気導入口を介して車室内へ侵入することが防止されるとともに、溜まった枯葉や雪等の異物がエンジンルーム内に侵入することが防止され、またエンジンルームが被水する事態も防止される。
【0020】
そして、有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分が、少なくとも車体の衝突時に屈曲力が掛かる部位に設けられており、かかる発泡部分は有機合成樹脂が中実成形された中実部分に比べて遥かに強度が小さいため、車体の衝突時に掛かる屈曲力によって容易に屈曲して破壊される。この結果、車両衝突時にフードに下向きの荷重が加わった場合に、反力を殆ど発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0021】
ここで、発泡部分において車両用カウルルーバは通気性を有していないため、発泡部分が存在することによって車両用カウルルーバのシール性が損なわれる恐れもない。また、有機合成樹脂を射出成形法等を用いて成形してなるものであるため、材料コストも安く、しかも大量生産できることから、低コストで製造することができる。更に、発泡部分においては使用される有機合成樹脂はごく少なくて済むことから、原料コストを低減することができるとともに、車両用カウルルーバを軽量化することができる。
【0022】
このようにして、車両衝突時にフード等に下向きの荷重が加わった場合に、反力を殆ど発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、十分なシール性を有し、構造が簡単で低コストで製造することができ、かつ軽量な車両用カウルルーバとなる。
【0023】
請求項2に係る発明においては、発泡部分が中実部分と一体に成形されることから、請求項1に係る発明の効果に加えて、一回の成形工程で車両用カウルルーバがほぼ完成するため、製造コストをより一層低減することができる。また、発泡部分が中実部分と一体であることから、部品点数が減少して組立工程の工数も減らすことができ、更なる低コスト化につながる。
【0024】
請求項3に係る発明においては、発泡部分がコアバック成形またはショートショット成形によって中実部分と一体に成形されることから、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、量産性に優れた射出成形で車両用カウルルーバを一体に大量製造することができ、製造コストをより一層低減することができる。また、発泡部分が中実部分と一体であることから、部品点数が減少して組立工程の工数も減らすことができ、更なる低コスト化につながる。
【0025】
請求項4に係る発明においては、発泡部分が中実部分と別々に成形された後に一体化されることから、請求項1に係る発明の効果に加えて、成形に用いられる金型構造がより簡単なものとなり、イニシャルコストを低減することができる。
【0026】
請求項5に係る発明においては、車両用カウルルーバの前端部分には弾性素材からなるシール部材が固定されていることから、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに係る発明の効果に加えて、フードパネルの後端がこのシール部材の上に載せられることによって、フードパネルの重みで弾性素材からなるシール部材が撓んで、シール部材の上部がフードパネルの後端下部の形状に沿って変形するため、フードパネルの後端とシール部材とが隙間なく密着して、高度なシール性を容易に得ることができる。
【0027】
請求項6に係る発明においては、車両用カウルルーバが熱可塑性樹脂からなることから、請求項1乃至請求項5のいずれか1つに係る発明の効果に加えて、車両用カウルルーバに要求される剛性・耐候性・低コスト性・リサイクル性を容易に満たすことができるとともに、射出成形等によって車両用カウルルーバを一体成形することも可能であるため、部品点数がより少なくなって、組み立て効率をより向上させることができる。
【0028】
請求項7に係る発明においては、車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられ、有機合成樹脂からなり、有機合成樹脂が中実に成形された中実部分と、有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分とを具備する車両用カウルルーバの製造方法において、発泡部分をコアバック成形またはショートショット成形によって中実部分と一体に成形する一体成形工程を具備することから、量産性に優れた射出成形で車両用カウルルーバを一体に大量製造することができ、製造コストをより一層低減することができる。また、発泡部分が中実部分と一体であることから、部品点数が減少して組立工程の工数も減らすことができ、更なる低コスト化につながる。
【0029】
請求項8に係る発明においては、車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられ、有機合成樹脂からなり、有機合成樹脂が中実に成形された中実部分と、有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分とを具備する車両用カウルルーバの製造方法において、発泡部分を成形する発泡成形工程と、中実部分を成形する中実成形工程と、発泡部分と中実部分とを接続する接続工程とを具備することから、成形に用いられる金型の構造がより簡単なものとなり、イニシャルコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態に係る車両用カウルルーバ及びその製造方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、各実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味し、実施の形態相互の同一の記号及び同一の符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0031】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1に係る車両用カウルルーバ及びその製造方法について、図1及び図2を参照して説明する。
【0032】
図1(a)は本発明の実施の形態1に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)は車両衝突時にフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態1に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。図2(a)は本発明の実施の形態1に係る車両用カウルルーバの製造方法において、発泡剤が混入された有機合成樹脂が射出成形金型内に充填された状態を示す部分断面図、(b)は射出成形金型のコアが後退してクリアランスが形成された状態を示す部分断面図、(c)はクリアランスが形成された部分の発泡剤が発泡して発泡部分が形成された状態を示す部分断面図である。
【0033】
図1(a)に示されるように、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1は、車体のフードパネル2の後端下部と、フロントウィンドウガラス3の下端との間に設けられるものであり、全体が有機合成樹脂のうちの熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(PP)を一体に射出成形してなる。車両用カウルルーバ1は、ポリプロピレンが中実に成形された中実部分4と、発泡成形された発泡部分5とを具備しており、後端側の中実部分4にはフロントウィンドウガラス3の下方において複数の空気導入口4aが設けられ、更に後端のガラスシール部4bにおいて、フロントウィンドウガラス3の下端に嵌合して密着しており、車両用カウルルーバ1とフロントウィンドウガラス3との間がシールされている。
【0034】
図1(a)に示されるように、二箇所の発泡部分5は、いずれも車両用カウルルーバ1の直立した部分、すなわち車体の衝突時に屈曲力が掛かる部位に設けられており、発泡部分5を構成する多数の気泡5aはその一部または全部が独立気泡であり、多数の気泡5aはその全てが連通してはおらず、したがって中実部分4におけるのと同様に、発泡部分5においても車両用カウルルーバ1は通気性を有していない。
【0035】
また、図1(a)に示されるように、車両用カウルルーバ1の前端上部には、弾性素材としての合成ゴムからなるシール部材6が、図示しないクリップによって固定されている。このシール部材6は、図1(a)の紙面垂直方向に棒状に伸びている。更に、二箇所の発泡部分5に挟まれた中実部分4の下面に設けられた係合部4cには、マルAカウル7の上端が係合している。
【0036】
ここで、発泡部分5を中実部分4と一体に成形する方法について、図2を参照して説明する。図2(a)に示されるように、コアバックによる発泡成形は、図2(a)の紙面垂直方向に伸びる金型(コア)8,9,10を用いて、ポリプロピレンと発泡剤を混練してなる発泡樹脂原料を射出成形することによって、実現することができる。ここで、「発泡剤」としては、射出発泡成形に通常使用される化学発泡剤・物理発泡剤等を用いることができ、より具体的には例えば、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )、炭酸アンモニウム((NH4 )2 CO3 )、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジアゾアミノベンゼン、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、等を用いることができる。
【0037】
すなわち、まず図2(a)に示されるように、コア金型8とコア金型9との間に板状金型10を挟んだ状態で、図示しないスプルー及びゲートを介して、キャビティ内に発泡樹脂原料を射出成形して充填する。続いて、板状金型10を矢印Aの方向へ移動させてコア金型8とコア金型9との間から抜き取り、図2(b)に示されるように、コア金型8とコア金型9を矢印B及び矢印Cの方向へ移動させて互いに密着させる。これによって、キャビティ内に充填された発泡樹脂原料と、コア金型8,コア金型9の間にクリアランスが形成される。
【0038】
このようにクリアランスが形成されることによって、発泡樹脂原料中の発泡剤が発泡して、図2(c)に示されるように、有機合成樹脂としてのポリプロピレンの内部に多数の気泡5aが発生して、二箇所の発泡部分5が形成され、車両用カウルルーバ1の主要部分が製造される。後は、車両用カウルルーバ1の前端に、図1(a)に示されるように合成ゴムからなるシール部材6を図示しないクリップで固定することによって、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1が完成する。
【0039】
したがって、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1は、車体のフードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間に設けられる有機合成樹脂からなる車両用カウルルーバであって、有機合成樹脂が中実に成形された中実部分4と、有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分5とを具備し、発泡部分5において車両用カウルルーバは通気性を有さず、かつ、発泡部分5は少なくとも車体の衝突時に屈曲力が掛かる部位に設けられたものである。
【0040】
これによって、車両のエンジンルームから発せられた熱気や臭いが、車両用カウルルーバ1の後端側に設けられた複数の空気導入口4aを介して車室内へ侵入することが、通気性を有しておらず、シール性の高いシール部材6や中実部分4及び発泡部分5によって防止される。また、フードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間に形成される空間に溜まった枯葉や雪等の異物が、エンジンルーム内に侵入することが防止され、エンジンルームが被水する事態も、車両用カウルルーバ1によって防止される。また、発泡部分5においては、使用されるポリプロピレンの量は中実部分4のポリプロピレンの量に比べてごく少ないことから、原料コストを低減することができるとともに、車両用カウルルーバ1を軽量化することができる。
【0041】
そして、図1(b)に示されるように、車両の衝突時にフードパネル2に衝突エネルギーが掛かることによって、図1(b)における下方向に応力Fが掛かってフードパネル2の後端下部が下方に移動すると、多数の気泡5aを有するために強度的に中実部分4より遥かに劣る発泡部分5が容易に変形して破壊され、殆ど反力を生ずることがない。これによって、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。同様に、車両の衝突時に車両用カウルルーバ1の上方突出部にも下方向に応力Fが掛かると、強度的に中実部分4より遥かに劣る発泡部分5が容易に変形して破壊され、殆ど反力を生ずることがない。
【0042】
このようにして、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1は、車両衝突時にフードに下向きの荷重が加わった場合に、反力を殆ど発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、十分なシール性を有し、構造が簡単、かつ軽量で、低コストで製造することができる。
【0043】
また、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1は、全体が熱可塑性樹脂であるポリプロピレンからなることによって、車両用カウルルーバ1に要求される剛性・耐候性・低コスト性・リサイクル性を容易に満たすことができるとともに、射出成形によって発泡部分5を中実部分4と一体に成形することができ、部品点数がより少なくなって、組み立て効率をより向上させることができる。
【0044】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2に係る車両用カウルルーバについて、図3を参照して説明する。図3(a)は本発明の実施の形態2に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)は車両衝突時にフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態2に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。
【0045】
図3(a)に示されるように、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11においては、上記実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1と異なり、中実部分12と発泡部分13とが別々に成形され、溶着部分14において溶着されて一体となり、これに上記実施の形態1と同様に、合成ゴムからなるシール部材6を図示しないクリップで固定することによって、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11が完成する。
【0046】
なお、図3(a)に示されるように、上記実施の形態1と同様に、後端側の中実部分12にはフロントウィンドウガラス3の下方において複数の空気導入口12aが設けられ、更に後端のガラスシール部12bにおいて、フロントウィンドウガラス3の下端に嵌合して密着しており、車両用カウルルーバ11とフロントウィンドウガラス3との間がシールされている。また、発泡部分13の下面に設けられた係合部13cには、マルAカウル7の上端が係合している。
【0047】
したがって、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11は、車体のフードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間に設けられる有機合成樹脂からなる車両用カウルルーバであって、有機合成樹脂が中実に成形された中実部分12と、有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分13とを具備し、発泡部分13において車両用カウルルーバは通気性を有さず、かつ、発泡部分13は車体の衝突時に屈曲力が掛かる部位を含む車両用カウルルーバ11の前半分に設けられたものである。
【0048】
これによって、車両のエンジンルームから発せられた熱気や臭いが、車両用カウルルーバ11の後端側に設けられた複数の空気導入口12aを介して車室内へ侵入することが、通気性を有しておらず、シール性の高いシール部材6や中実部分12及び発泡部分13によって防止される。また、フードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間に形成される空間に溜まった枯葉や雪等の異物が、エンジンルーム内に侵入することが防止され、エンジンルームが被水する事態も、車両用カウルルーバ11によって防止される。また、発泡部分13においては、使用されるポリプロピレンの量は中実部分12のポリプロピレンの量に比べてごく少ないことから、原料コストを低減することができるとともに、車両用カウルルーバ11を軽量化することができる。
【0049】
そして、図3(b)に示されるように、車両の衝突時にフードパネル2に衝突エネルギーが掛かることによって、図3(b)における下方向に応力Fが掛かってフードパネル2の後端下部が下方に移動すると、多数の気泡13aを有するために強度的に中実部分12より遥かに劣る発泡部分13が容易に変形して破壊され、殆ど反力を生ずることがない。これによって、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。同様に、車両の衝突時に車両用カウルルーバ11の上方突出部にも下方向に応力Fが掛かると、強度的に中実部分12より遥かに劣る発泡部分13が容易に変形して破壊され、殆ど反力を生ずることがない。
【0050】
更に、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11に特有の効果として、車両用カウルルーバ11の前半分全てが発泡部分13で構成されていることから、エンジンルームから発生する騒音を発泡部分13で吸収することができ、車室内が静かになるという作用効果も得ることができる。
【0051】
このようにして、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11は、車両衝突時にフードに下向きの荷重が加わった場合に、反力を殆ど発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、十分なシール性を有し、構造が簡単かつ軽量で、低コストで製造することができる。更に、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11においては、発泡部分13が中実部分12と別々に成形された後に一体化されることから、成形に用いられる金型構造がより簡単なものとなり、イニシャルコストを低減することができる。
【0052】
また、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11においては、中実部分12及び発泡部分13が熱可塑性樹脂であるポリプロピレンからなることから、車両用カウルルーバ11に要求される剛性・耐候性・低コスト性・リサイクル性を容易に満たすことができる。
【0053】
実施の形態3
次に、本発明の実施の形態3に係る車両用カウルルーバについて、図4を参照して説明する。図4(a)は本発明の実施の形態3に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)は車両衝突時にフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態3に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。
【0054】
図4(a)に示されるように、本実施の形態3に係る車両用カウルルーバ16は、断面形状において中間部分が上方に突出している上記実施の形態1と異なり、中間部分が平坦である点を除けば、本質的には上記実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1と同じく、発泡部分18がコアバック成形によって中実部分17と一体に成形されてなるものである。また、後端側の中実部分17にはフロントウィンドウガラス3の下方において複数の空気導入口17aが設けられ、更に後端のガラスシール部17bにおいて、フロントウィンドウガラス3の下端に嵌合して密着しており、車両用カウルルーバ16とフロントウィンドウガラス3との間がシールされている。
【0055】
図4(a)に示されるように、発泡部分18は車両用カウルルーバ16の直立した部分、すなわち車体の衝突時に屈曲力が掛かる部位に設けられており、発泡部分18を構成する多数の気泡18aはその一部または全部が独立気泡であり、多数の気泡18aはその全てが連通してはおらず、したがって中実部分17におけるのと同様に、発泡部分18においても車両用カウルルーバ16は通気性を有していない。
【0056】
また、本実施の形態3に係る車両用カウルルーバ16が上記実施の形態1と異なるもう1つの点は、図4(a)に示されるように、車両用カウルルーバ16の前端上部には、シール部材19として、フェライト磁石を粉砕して合成ゴムに練り込んだ柔軟性を有するゴム磁石を用いている点である。車両用カウルルーバ16の前端上部には、接着剤(熱硬化性樹脂)によってシール部材としてのゴム磁石19が接着されている。更に、中実部分17の下面に設けられた係合部17cには、マルAカウル7の上端が係合している。
【0057】
したがって、本実施の形態3に係る車両用カウルルーバ16は、車体のフードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間に設けられる有機合成樹脂からなる車両用カウルルーバであって、有機合成樹脂が中実に成形された中実部分4と、有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分5とを具備し、発泡部分5において車両用カウルルーバは通気性を有さず、かつ、発泡部分5は車体の衝突時に屈曲力が掛かる部位に設けられたものである。
【0058】
これによって、車両のエンジンルームから発せられた熱気や臭いが、車両用カウルルーバ16の後端側に設けられた複数の空気導入口17aを介して車室内へ侵入することが、通気性を有しておらず、シール性の高いシール部材19や中実部分17及び発泡部分18によって防止される。また、フードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間に形成される空間に溜まった枯葉や雪等の異物が、エンジンルーム内に侵入することが防止され、エンジンルームが被水する事態も、車両用カウルルーバ16によって防止される。また、発泡部分18においては、使用されるポリプロピレンの量は中実部分17のポリプロピレンの量に比べてごく少ないことから、原料コストを低減することができるとともに、車両用カウルルーバ16を軽量化することができる。
【0059】
そして、図4(b)に示されるように、車両の衝突時にフードパネル2に衝突エネルギーが掛かることによって、図4(b)における下方向に応力Fが掛かってフードパネル2の後端下部が下方に移動すると、多数の気泡18aを有するために強度的に中実部分17より遥かに劣る発泡部分18が容易に変形して破壊され、殆ど反力を生ずることがない。これによって、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0060】
このようにして、本実施の形態3に係る車両用カウルルーバ16は、車両衝突時にフードに下向きの荷重が加わった場合に、反力を殆ど発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、十分なシール性を有し、構造が簡単かつ軽量で、しかも低コストで製造することができる。
【0061】
また、本実施の形態3に係る車両用カウルルーバ16は、シール部材19を除く全体が、熱可塑性樹脂であるポリプロピレンからなることによって、車両用カウルルーバ16に要求される剛性・耐候性・低コスト性・リサイクル性を容易に満たすことができるとともに、射出成形によって発泡部分18を中実部分17と一体に成形することができ、部品点数がより少なくなって、組み立て効率をより向上させることができる
【0062】
上記各実施の形態においては、車両用カウルルーバ1,11,16の大部分を構成する有機合成樹脂として、熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(PP)を使用した場合についてのみ説明したが、熱可塑性樹脂としては他にも、ポリエチレン・ポリスチレン・アクリル樹脂・ABS樹脂・塩化ビニル樹脂・ポリ酢酸ビニル・ポリアミド・ポリアセタール・ポリカーボネート・ポリエステル樹脂等を用いることができる。また、成形方法は射出成形法に限られるものではなく、更に材質も熱可塑性樹脂に限られるものではない。
【0063】
本発明を実施するに際しては、車両用カウルルーバのその他の部分の構成、材質、形状、数量、大きさ、製造方法等についても、車両用カウルルーバの製造方法のその他の工程についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態1に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)は車両衝突時にフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態1に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施の形態1に係る車両用カウルルーバの製造方法において、発泡剤が混入された有機合成樹脂が射出成形金型内に充填された状態を示す部分断面図、(b)は射出成形金型のコアが後退してクリアランスが形成された状態を示す部分断面図、(c)はクリアランスが形成された部分の発泡剤が発泡して発泡部分が形成された状態を示す部分断面図である。
【図3】図3(a)は本発明の実施の形態2に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)は車両衝突時にフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態2に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。
【図4】図4(a)は本発明の実施の形態3に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)は車両衝突時にフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態3に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1,11,16 車両用カウルルーバ
2 フードパネル
3 フロントウィンドウガラス
4,12,17 中実部分
5,13,18 発泡部分
6,19 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられる有機合成樹脂からなる車両用カウルルーバであって、
前記有機合成樹脂が中実に成形された中実部分と、前記有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分とを具備し、前記発泡部分において前記車両用カウルルーバは通気性を有さず、かつ、前記発泡部分は少なくとも前記車体の衝突時に屈曲力が掛かる部位に設けられたことを特徴とする車両用カウルルーバ。
【請求項2】
前記発泡部分は、前記中実部分と一体に成形されることを特徴とする請求項1に記載の車両用カウルルーバ。
【請求項3】
前記発泡部分は、コアバック成形またはショートショット成形によって前記中実部分と一体に成形されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用カウルルーバ。
【請求項4】
前記発泡部分は、前記中実部分と別々に成形された後に一体化されることを特徴とする請求項1に記載の車両用カウルルーバ。
【請求項5】
前記車両用カウルルーバの前端部分には弾性素材からなるシール部材が固定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の車両用カウルルーバ。
【請求項6】
前記車両用カウルルーバは、熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の車両用カウルルーバ。
【請求項7】
車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられ、有機合成樹脂からなり、前記有機合成樹脂が中実に成形された中実部分と、前記有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分とを具備する車両用カウルルーバの製造方法であって、
前記発泡部分を、コアバック成形またはショートショット成形によって前記中実部分と一体に成形する一体成形工程を具備することを特徴とする車両用カウルルーバの製造方法。
【請求項8】
車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられ、有機合成樹脂からなり、前記有機合成樹脂が中実に成形された中実部分と、前記有機合成樹脂が発泡成形された発泡部分とを具備する車両用カウルルーバの製造方法であって、
前記発泡部分を成形する発泡成形工程と、前記中実部分を成形する中実成形工程と、前記発泡部分と前記中実部分とを接続する接続工程とを具備することを特徴とする車両用カウルルーバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−137694(P2010−137694A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315427(P2008−315427)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】