説明

車両用シート構造

【課題】 表皮材に一定方向へのみに延びるライン状に形成されてクッション体側へ引込まれる1又は複数の引込ライン部を備えて、デザイン性を重視し、表皮材に生じた皺を確実に元に戻し、座り心地を良くすることができる、車両用シート構造を提供する。
【解決手段】 シートクッション2の表皮材7に3本の引込ライン部8,9が形成され、その内の第1の表皮材20が、表皮層30と、表皮層30の裏面に固着状態に配設される高密度の第1発泡材層31と、第1発泡材層31よりも低密度に構成されて第1発泡材層31の裏面に非固着状態に配設される第2発泡材層33とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用シート構造に関し、特に、表皮材を改良したものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートは、シートクッションとシートバックを備え、これらシートクッションとシートバックが、夫々、シートフレーム、シートフレームに支持されるクッション体、クッション体の表面を覆う表皮材を備えている。ここで、この表皮材として、表皮層と、表皮層の裏面に接着される一層構造の発泡材層と、発泡材層の裏面に接着される不織布からなる裏基布とを有するものが実用化されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
前記車両用シートでは、表皮材に本革や合成革(人工革)からなる表皮層を使用して、質感(高級感)を高めることができ、また、クッション体は比較的高密度(例えば、0.05g/cm3 )、高硬度に構成されているが、表皮材にクッション体よりも低密度(例えば、0.03g/cm3 )、低硬度の発泡材層を使用して、座り心地を良くすることができる。
【0004】
前記表皮材において、特に表皮層が本革からなる場合には、その表皮層は伸び易く縮みにくいため、主に乗員が座ることによって生じる表皮材(表皮層)の皺が元に戻らないことが起こる。そこで、この表皮材に複数の引込ライン部を形成し、これら引込ライン部をクッション体側へ引込むようにして、表皮材に張力を付与して皺を元に戻すようにした車両用シートが実用化されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−165717号公報
【特許文献2】実開平6−50556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記車両用シートでは、表皮材に複数の引込ライン部を形成し、これら引込ライン部をクッション体側へ引込むことで、表皮材に張力を付与して皺を元に戻すようにしているが、デザインの関係で、表皮材に1又は複数の引込ライン部を一定方向へのみに形成した場合(例えば、特許文献2参照)、その一定方向においては、引込ライン部によって表皮材に十分な張力を付与することが難しく、依って、表皮材に生じた皺を元に戻すことができないという課題が生じる。
【0007】
表皮層と1層構造の発泡材層とを有する表皮材では、表皮層の裏面に発泡材層が接着されて、表皮層と発泡材層とが一体化されているため、表皮材に皺が生じた場合、発泡材層の弾性により、表皮材の皺を元に戻そうとする復元力が発生する。しかし、この発泡材層は、座り心地を良くするために設けられ、低密度、低硬度のものが使用されているため弾性は小さく、この発泡材層により表皮材の皺を元に戻すことは期待できない。そこで、高密度、高硬度の弾性が大きい発泡材層の使用が考えられるが、座り心地が悪くなる。
【0008】
本発明の目的は、表皮材に一定方向へのみに延びるライン状に形成されてクッション体側へ引込まれる1又は複数の引込ライン部を備えて、デザイン性を重視し、表皮材に生じた皺を確実に元に戻すことができ、しかも、座り心地を良くすることができる、車両用シート構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の車両用シート構造は、シートフレームと、このシートフレームに支持されるクッション体と、このクッション体の表面を覆う表皮材と、この表皮材に一定方向へのみに延びるライン状に形成されてクッション体側へ引込まれる1又は複数の引込ライン部とを備えた車両用シート構造において、前記表皮材の内の少なくとも乗員から荷重が作用する部分は、表皮層と、この表皮層の裏面に固着状態に配設される高密度の第1発泡材層と、この第1発泡材層よりも低密度に構成されて第1発泡材層の裏面に非固着状態に配設される第2発泡材層とを有することを特徴とする。
【0010】
この車両用シート構造では、表皮材の表皮層に本革や合成革(人工革)を適用して、質感(高級感)が高められる。しかし、表皮層が伸び易く縮みにくいものでは、主に乗員が座ることによって生じる表皮材(表皮層)の皺が元に戻らない虞がある。そこで、表皮材に形成された1又は複数の引込ライン部がクッション体側へ引込まれて、表皮材に張力が付与される。しかし、1又は複数の引込ライン部は表皮材に一定方向へのみに形成されるので、この一定方向においては、表皮材に十分な張力を付与することが難しい。
【0011】
ここで、高密度の第1発泡材層が表皮層の裏面に固着状態に配設されるので、第1発泡材層と表皮層とが一体化され、表皮材に皺が生じた場合、この第1発泡材層の弾性により、表皮材に生じた皺を元に戻す十分な復元力を発生させることができる。この場合、第1発泡材層だけでは、座り心地を良くするとはできないが、第1発泡材層よりも低密度に構成された第2発泡材層が第1発泡材層の裏面に非固着状態に配設されるので、この第2発泡材層により、乗員が表皮材を介してクッション体に当たる際の感覚がソフトになることを含めて、座り心地を良くすることができる。
【0012】
ここで、前記第1,第2発泡材層を夫々スラブウレタンで構成し、第1発泡材層の密度を0.04〜0.06g/cm3 とすることが好ましい(請求項2)。
【0013】
請求項2の車両用シート構造は、シートフレームと、このシートフレームに支持されるクッション体と、このクッション体の表面を覆う表皮材と、この表皮材に一定方向へのみに延びるライン状に形成されてクッション体側へ引込まれる1又は複数の引込ライン部とを備えた車両用シート構造において、前記表皮材の内の少なくとも乗員から荷重が作用する部分は、表皮層と、この表皮層の裏面に固着状態に配設される高硬度の第1発泡材層と、この第1発泡材層よりも低硬度に構成されて第1発泡材層の裏面に非固着状態に配設される第2発泡材層とを有することを特徴とする。
【0014】
高硬度の第1発泡材層が表皮層の裏面に固着状態に配設されるので、第1発泡材層と表皮層とが一体化され、表皮材に皺が生じた場合、この第1発泡材層の弾性により、表皮材に生じた皺を元に戻す十分な復元力を発生させることができる。この場合、第1発泡材層だけでは、座り心地を良くするとはできないが、第1発泡材層よりも低硬度に構成された第2発泡材層が第1発泡材層の裏面に非固着状態に配設されるので、この第2発泡材層により、乗員が表皮材を介してクッション体に当たる際の感覚がソフトになることを含めて、座り心地を良くすることができる。その他、請求項1と同様の作用を奏する。
【0015】
ここで、前記第1,第2発泡材層を夫々スラブウレタンで構成し、第1発泡材層の硬度を1.5 N/cm2程度としてもよい。
【0016】
また、請求項1,2の発明に次の構成を採用可能である。
前記表皮層を本革で構成する(請求項4)。前記シートフレームがシートクッションのフレームであり、前記表皮材がシートクッション内の前記クッション体の表面を覆うものである(請求項5)。前記第1発泡材層の層厚を第2発泡材層の層厚よりも薄くする(請求項6)。前記第1,第2発泡材層を前記引込ライン部において縫合する(請求項7)。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の車両用シート構造によれば、表皮材の表皮層に本革や合成革(人工革)を適用して、質感(高級感)を高めることができ、主に乗員が座ることによって生じる表皮材(表皮層)の皺が元に戻るように、表皮材に形成された1又は複数の引込ライン部をクッション体側へ引込んで、表皮材に張力を付与することができる。1又は複数の引込ライン部を表皮材に一定方向へのみに形成することで、デザイン性を重視することができ、その反面、この一定方向においては、表皮材に十分な張力を付与することが難しくなるが、表皮材に皺が生じた場合、表皮層の裏面に固着状態に配設される高密度の第1発泡材層の弾性により、表皮材の皺を元に戻す十分な復元力を発生させることができ、しかも、第1発泡材層の裏面に非固着状態に配設される、第1発泡材層よりも低密度に構成された第2発泡材層により、乗員が表皮材を介してクッション体に当たる際の感覚がソフトになることを含めて、座り心地を良くすることができる。
【0018】
請求項2の車両用シート構造によれば、表皮材に皺が生じた場合、表皮層の裏面に固着状態に配設される高硬度の第1発泡材層の弾性により、表皮材の皺を元に戻す十分な復元力を発生させることができ、しかも、第1発泡材層の裏面に非固着状態に配設される、第1発泡材層よりも低硬度に構成された第2発泡材層により、乗員が表皮材を介してクッション体に当たる際の感覚がソフトになることを含めて、座り心地を良くすることができる。その他、請求項1と同様の効果を奏する。
【0019】
請求項3の車両用シート構造によれば、第1,第2発泡材層を夫々スラブウレタンで構成したので、第1,第2発泡材層を簡単に形成することができ、この場合、第1,第2発泡材層を所望の層厚に簡単にでき、また、第1発泡材層の密度を0.04〜0.06g/cm3 としたので、この第1発泡材層の弾性により、表皮材の皺を元に戻す十分な復元力を発生させることができ、第1発泡材層よりも低密度に構成された第2発泡材層により、座り心地を確実に良くすることができる。
【0020】
請求項4の車両用シート構造によれば、表皮層を本革で構成したので、質感を確実に高めることができ、この本革で構成された表皮層は伸び易く縮みにくく、表皮材に生じた皺も元に戻りにくいが、第1発泡材層により、この表皮材の皺を確実に元に戻すことができる。
【0021】
請求項5の車両用シート構造によれば、シートフレームがシートクッションのフレームであり、表皮材がシートクッション内のクッション体の表面を覆うものであるで、このシートクッションの表皮材には、乗員が着座することで大きな荷重が作用し、表皮材に大きなもの含めて皺が生じ易いが、第1発泡材層により、この表皮材の皺を確実に元に戻すことができ、第2発泡材層により、着座感を良くすることができる。
【0022】
請求項6の車両用シート構造によれば、第1発泡材層の層厚を第2発泡材層の層厚よりも薄くするので、乗員に対して第1発泡材層の硬さの影響を抑えることができ、第2発泡材層によるクッション作用を高めることができる。
【0023】
請求項7の車両用シート構造によれば、第1,第2発泡材層を引込ライン部において縫合するので、第1発泡材層の裏面に第2発泡材層を非固着状態に配設するが、第1発泡材層に対する第2発泡材層の相対的な位置ズレを抑制すると共に、第2発泡材層の浮き上がりを防止し、第1発泡材層の弾性による表皮材の復元性の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の車両用シート構造は、シートフレームと、シートフレームに支持されるクッション体と、クッション体の表面を覆う表皮材と、表皮材に一定方向へのみに延びるライン状に形成されてクッション体側へ引込まれる複数の引込ライン部とを備え、表皮材の内の少なくとも乗員から荷重が作用する部分は、表皮層と、この表皮層の裏面に固着状態に配設される高密度の第1発泡材層と、この第1発泡材層よりも低密度に構成されて第1発泡材層の裏面に非固着状態に配設される第2発泡材層とを有する。
【実施例】
【0025】
図1に示すように、車両用シート1は、シートクッション2とシートバック3とを備え、本実施例の場合、車両の前後方向にスライドするスライドシートであり、シートバック3はシートクッション2に回動可能に連結された傾動式のシートバックである。
【0026】
図1、図2に示すように、シートクッション2は、シートフレーム5と、シートフレーム5に支持されるクッション体6と、クッション体6の表面を覆う表皮材7と、表皮材7に前後方向へ一定方向へのみに延びるライン状に形成されてクッション体6側(下側)へ引込まれる3本の引込ライン部8,9を備えている。本発明の車両用シート構造の表皮材は、シートクッション2の表皮材7に適用されている。
【0027】
尚、シートフレーム5は左右1対の被ガイド部(図示略)を介して左右1対のガイドレール1aに前後にスライド自在に支持され、これらガイドレール1aが脚部1b等を介して車体フロア(図示略)に固定され、このシートフレーム5のスライドを可能にするために操作するスライド操作部材1cがシートフレーム5に前方突出に連結されている。尚、1dはシートベルト(図示略)の端部を着脱可能なバックルである。
【0028】
図2に示すように、シートクッション2のシートフレーム5は、クッション体6を下側から支持可能な形状に形成され、その左右(車幅方向)両側部分に中央部分よりも上側に延びて外側に延びるサイドフレーム部5aが形成され、そのサイドフレーム部5aの左右両端部に下側へ少し延びる垂下部5bが形成されている。
【0029】
シートクッション2のクッション体6は、モールド加工により成形された、密度が0.050g/cm3程度のウレタン(所謂、モールドウレタン)からなる。クッション体6は、クッション本体部10と、クッション本体部10の左右両側に連なるサイドクッション部11とを有し、クッション本体部10の上面は略水平なフラット面に形成され、サイドクッション部11の上面は外側程高くなる傾斜面に形成されている。
【0030】
クッション体6には、そのクッション本体部10の左右方向中央部と、クッション本体部10と左右のサイドクッション部11との境界部分に、前後方向に延びる3本の引込用凹部12,13が形成されている。引込用凹部12の底面にはマジックテープ(登録商標である。)14が固着され、クッション体6の2本の引込用凹部13の下側部分には、前後方向に延びる2本のインサートワイヤ15が固定的に埋め込まれている。
【0031】
シートクッション2の表皮材7は、クッション体6の表面(上面、前面、左右両側面)を覆うものであり、クッション本体部10と左右のサイドクッション部11とに対応する、第1の表皮材20と左右1対の第2の表皮材25とを有し、これら第1,第2の表皮材20,25が左右の引込用凹部13において連結されている。
【0032】
第1の表皮材20はクッション本体部10の略水平なフラット面を覆い、この第1の表皮材20が表皮材7の内の少なくとも乗員から荷重が作用する部分に想到する。この第1の表皮材20は左右対称に分割された1対の分割表皮材21からなり、これら分割表皮材21が引込用凹部12において連結されている。
【0033】
図2〜図4に示すように、第1の表皮材20(各分割表皮材21)は、表皮層30と、表皮層30の裏面に固着状態に配設される高密度、高硬度の第1発泡材層31と、第1発泡材層31の裏面に固着された裏基布32と、第1発泡材層31よりも低密度、低硬度に構成されて第1発泡材層31の裏面に裏基布32を介して非固着状態に配設される第2発泡材層33と、第2発泡材層33の裏面に固着された裏基布34とを有する。
【0034】
尚、表皮層30と第1発泡材層31との固着、第1発泡材層31と裏基布32との固着、第2発泡材層33と裏基布34との固着については、熱溶着により行われる。この第1の表皮材20において、表皮層30と第1発泡材層31と裏基布32とで3層構造の上層20Aが構成され、第2発泡材層33と裏基布34とで2層構造の下層20Bが構成され、第1の表皮材20は全体で5層構造となっている。
【0035】
表皮層30が本革で構成され、第1,第2発泡材層31,33が、第1発泡材層31の層厚が第2発泡材層33の層厚よりも薄くなるように、夫々、モールド成形された所定形状のウレタンを層状にスライスして形成したスラブウレタンで構成されている。そして、上層20Aと下層20Bの左右両端部同士が、つまり、第1,第2発泡材層31,33の左右両端部同士が糸材40により縫合されている。
【0036】
ここで、第1,第2発泡材層31,33の層厚と密度と硬度、及び、裏基布32,34の材質については、図5に示す通りである。即ち、第1の表皮材20の上層20Aの第1発泡材層31について、層厚が3mm、密度が0.050g/cm3、硬度が1.47N/cm2に設定され、裏基布32がクインズコート40Dで構成され、また、第1の表皮材20の下層20Bの第2発泡材層33について、層厚が10mm、密度が0.030g/cm3、硬度が117.6 N/314cm2 (0.375 N/cm2)に設定され、裏基布32がクインズコート40Dで構成されている。尚、スラブウレタン(発泡材層)の硬度は、JASOB408−89:自動車用シートのパッド材の性能試験方法の測定方法に基づくものです。また、高密度ウレタン(半硬質ウレタン)は、負荷板(100mm ×100mm )での25%圧縮時の負荷値である。
【0037】
第1の表皮材20において、左右の分割表皮材21の中央端部分同士が、それらの表皮層30を当接させて重ね合わせた状態で糸材41により縫合され連結されて、これら中央端部分が下側へ向く状態になって、引込ライン部8が形成され、この引込ライン部8にパイル35が糸材42により縫合されて取り付けられている。このパイル35がマジックテープ(登録商標である。)14に固着されて、引込ライン部8が引込用凹部12からクッション体6側へ引き込まれる。
【0038】
図2に示すように、各第2の表皮材25は上部表皮材26と側部表皮材27からなり、これら上部表皮材26と側部表皮材27をサイドクッション部11の上部外端部付近において連結して構成されている。上部表皮材26がサイドクッション部11の上面の傾斜面を覆い、側部表皮材27がサイドクッション部11の側面を覆う。
【0039】
上部表皮材26は、表皮層50と、表皮層50の裏面に固着状態に配設される発泡材層51と、発泡材層51の裏面に固着された裏基布52とを有する。表皮層50が本革で構成され、発泡材層51が、モールド成形された所定形状のウレタンを層状にスライスして形成したスラブウレタンで構成されている。そして、表皮層50と発泡材層51と裏基布52の内端部同士が糸材43により縫合されている。
【0040】
ここで、発泡材層51の層厚と密度と硬度、及び、裏基布52の材質については、図6に示す通りである。即ち、発泡材層51について、層厚が5mm、密度が0.030g/cm3、硬度が117.6 N/314cm2 に設定され、裏基布32がクインズコート40Dで構成されている。
【0041】
側部表皮材27は、表皮層55と、表皮層55の裏面に固着状態に配設される発泡材層又は裏基布からなる裏側層56とを有し、表皮層56が本革で構成されている。そして、表皮層55と裏側層56の外側端部同士が、帯状部材57と共に、サイドフレーム部5aの垂下部5bの内側において糸材44により縫合されている。
【0042】
第2の表皮材25において、上部表皮材26と側部表皮材27の端部同士が、それらの表皮層50,55を当接させて重ね合わせた状態で糸材45により縫合されて連結されている。また、第1の表皮材20と上部表皮材26の端部同士が、それらの表皮層30,50を当接させた状態で糸材46により縫合され連結されて、これら端部が下側へ向く状態になって、引込ライン部9が形成されている。尚、前記糸材40〜46としては、比較的強度が高い糸材が使用されている。
【0043】
この引込ライン部9において、ネットスタフナー60が前後方向適当間隔おきに糸材46等に絡ませて取り付けられて、その下端部に引込ライン部9に沿って前後方向に延びるステー61が設けられ、このステー61とクッション体6に設けられたインサートワイヤ15とが、前後方向適当間隔おきに設けられた複数のホックリング62により連結されて、引込ライン部9が引込用凹部13からクッション体6側へ引き込まれる。
【0044】
以上説明した車両用シート1によれば次の効果を奏する。
シートクッション2において、表皮材7の表皮層30,50,55に本革を適用して、質感(高級感)を高めることができ、主に乗員が座ることによって生じる表皮材7(表皮層30,50)の皺が元に戻るように、表皮材7に形成された3本の引込ライン部8,9をクッション体6側へ引込んで、表皮材7に張力を付与することができる。
【0045】
3本の引込ライン部8,9を表皮材7に一定方向(前後方向)へのみに形成することで、デザイン性を重視することができるが、その反面、この前後方向においては、表皮材7に十分な張力を付与することが難しくなる。そこで、第1の表皮材20に皺が生じた場合、表皮層30の裏面に固着状態に配設される高密度、高硬度の第1発泡材層31の弾性により、第1の表皮材20の皺を元に戻す十分な復元力を発生させることができる。
【0046】
本革からなる表皮層30は伸び易く縮みにくく、また、シートクッション2の第2の表皮材20には、乗員が着座することで大きな荷重が作用し、第2の表皮材20に大きなもの含めて皺が生じ易いが、第1発泡材層31により、この第1の表皮材20の皺を確実に元に戻すことができ、第2発泡材層33により、着座感を良くすることができる。
【0047】
しかし、高密度、高硬度の第1発泡材層31だけでは、座り心地が悪くなる。そこで、第1発泡材層31の裏面に裏基布32を介して非固着状態に配設される、第1発泡材層31よりも低密度、低硬度に構成された第2発泡材層33により、乗員が第1の表皮材20を介してクッション体6に当たる際の感覚がソフトになることを含めて、座り心地を良くすることができる。
【0048】
ここで、第1発泡材層31の裏面に第2発泡材層33を非固着状態に配設することにより、第1発泡材層31と第2発泡材層33とを固着しなくてもよいため、製作負荷を軽減でき、また、仮に第1発泡材層31と第2発泡材層33とを固着した場合には、第1,第2発泡材層31,33の全体的な層厚が厚くなり、第1発泡材層31による皺復元機能、第2発泡材層33によるクッション機能が低下する虞があるが、この改善を期待できる。
【0049】
第1,第2発泡材層31,33を夫々スラブウレタンで構成したので、第1,第2発泡材層31,33を簡単に形成することができ、この場合、第1,第2発泡材層31,33を所望の層厚に簡単にでき、また、第1発泡材層31の密度を0.050g/cm3としたので、この第1発泡材層31の弾性により、第1の表皮材20の皺を元に戻す十分な復元力を発生させることができ、第1発泡材層31よりも低密度の0.030g/cm3の密度に構成された第2発泡材層33により、座り心地を確実に良くすることができる。
【0050】
第1発泡材層31の層厚(3mm)を第2発泡材層33の層厚(10mm)よりも薄くするので、乗員に対して第1発泡材層31の硬さの影響を抑えることができ、第2発泡材層33によるクッション作用を高めることができる。
【0051】
第1,第2発泡材層31,33の左右両端部同士を引込ライン部12,13において縫合するので、第1発泡材層31の裏面に第2発泡材層33を非固着状態に配設するが、これによる作用を損なうことなく、第1発泡材層31に対する第2発泡材層33の相対的な位置ズレを抑制すると共に、第2発泡材層33の浮き上がりを防止し、第1発泡材層31の弾性による第1の表皮材20の復元性の悪化を抑制することができる。
【0052】
次に前記実施例の変更形態について説明する。
1]引込ライン部8,9の数については、3本に限らず、1本或いは2本或いは4本以上としてもよいし、引込ライン部8,9の方向については、前後方向に限らず、左右方向等、種々方向としてもよい。
【0053】
2]第1の表皮材20の構造を、第2の表皮材25(上部表皮材26、側部表皮材27)に適用する等、シートクッション2の表皮材7の全部や適当な部位に適用してもよい。また、同構造を、シートバック3のクッション体を覆う表皮材に適用してもよい。この場合、この表皮材には一定方向へのみに延びる1又は複数の引込ライン部が形成され、その引込ライン部がクッション体側へ引込まれるものとする。
【0054】
3]表皮層30として、本革の代わりに、合成革(人工革)を適用してもよい。或いは、その他の材質で構成された表皮層を使用してもよい。
4]表皮層30と第1発泡材層31との固着、第1発泡材層31と裏基布32との固着、第2発泡材層33と裏基布34との固着については、所定の接着剤を用いて行ってもよい。また、裏基布32,34を省略してもよい。
【0055】
5]第1発泡材層31、第2発泡材層32の材質、層厚、密度、硬度については、適宜変更可能である。例えば、第1発泡材層31の密度については、0.04〜0.06g/cm3 内の何れかに設定し、また、第1発泡材層31の硬度についは、1.0 〜2.0 N/cm2内の何れかに設定してもよい。ここで、第1発泡材層31よりも第2発泡材層33が底密度であることと、第1発泡材層31よりも第2発泡材層33が底硬度であることの何れか一方のみの条件を満たすようにも構成することができる。
【0056】
6]その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記開示した事項以外の種々の変更を付加して実施可能であり、また、本発明は、種々の車両に装備される車両用シート構造に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例に係る車両用シートの斜視図である。
【図2】シートクッションの縦断面図である。
【図3】図2の要部の拡大図である。
【図4】図2の要部の拡大図である。
【図5】第1の表皮材の構成を示す図表である。
【図6】第2の表皮材の構成を示す図表である。
【符号の説明】
【0058】
1 車両用シート
2 シートクッション
3 シートバック
5 シートフレーム
6 クッション体
7 表皮材
8,9 引込ライン部
20 第1の表皮材
30 表皮層
31 第1発泡材層
33 第2発泡材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートフレームと、このシートフレームに支持されるクッション体と、このクッション体の表面を覆う表皮材と、この表皮材に一定方向へのみに延びるライン状に形成されてクッション体側へ引込まれる1又は複数の引込ライン部とを備えた車両用シート構造において、
前記表皮材の内の少なくとも乗員から荷重が作用する部分は、表皮層と、この表皮層の裏面に固着状態に配設される高密度の第1発泡材層と、この第1発泡材層よりも低密度に構成されて第1発泡材層の裏面に非固着状態に配設される第2発泡材層とを有することを特徴とする車両用シート構造。
【請求項2】
シートフレームと、このシートフレームに支持されるクッション体と、このクッション体の表面を覆う表皮材と、この表皮材に一定方向へのみに延びるライン状に形成されてクッション体側へ引込まれる1又は複数の引込ライン部とを備えた車両用シート構造において、
前記表皮材の内の少なくとも乗員から荷重が作用する部分は、表皮層と、この表皮層の裏面に固着状態に配設される高硬度の第1発泡材層と、この第1発泡材層よりも低硬度に構成されて第1発泡材層の裏面に非固着状態に配設される第2発泡材層とを有することを特徴とする車両用シート構造。
【請求項3】
前記第1,第2発泡材層が夫々スラブウレタンで構成されると共に、第1発泡材層の密度が0.04〜0.06g/cm3 であることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート構造。
【請求項4】
前記表皮層が本革で構成されたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の車両用シート構造。
【請求項5】
前記シートフレームがシートクッションのフレームであり、前記表皮材がシートクッション内の前記クッション体の表面を覆うものであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の車両用シート構造。
【請求項6】
前記第1発泡材層の層厚が第2発泡材層の層厚よりも薄いことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の車両用シート構造。
【請求項7】
前記第1,第2発泡材層が前記引込ライン部において縫合されることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の車両用シート構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−159628(P2007−159628A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356249(P2005−356249)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(000151760)株式会社東洋シート (142)
【Fターム(参考)】