説明

車両用ステアリングダンパ装置及びステアリング装置

【課題】車両の走行速度に応じて操舵装置のねじり剛性を変えることができる車両用ステアリングダンパ装置を提供する。
【解決手段】ステアリングホイール側シャフト2と、このステアリングホイール側シャフト2と同軸上に配置されたステアリングギア側シャフト3と、ステアリングホイール側シャフト2とステアリングギア側シャフト3との間に設けられ弾性体4と、車両の走行速度に応じて前記ステアリングホイール側シャフト2と前記ステアリングギア側シャフト3とを相対的に移動させることで弾性体4に予圧を与えるアクチュエータ5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ステアリングダンパ装置及びこの車両用ステアリングダンパ装置を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるステアリング装置には、走行時に車輪から入力される振動を吸収するために、ステアリングダンパ装置が設けられている。ステアリングダンパ装置は、例えば特許文献1が示しているように、ステアリングホイールが取り付けられるステアリングシャフトと、ラックピニオン式等のステアリングギヤ機構との間に設けられている。
図10は従来のステアリングダンパ装置の説明図である。このステアリングダンパ装置は、筒状の部分(以下、筒状部42という)を有するステアリングホイール側シャフト41と、筒状部42に端部が挿入しているステアリングギア側シャフト43と、このステアリングギア側シャフト43の端部と筒状部42との間に介在している筒状の弾性体44と、ステアリングギア側シャフト43と一体回転するピン45とを有している。弾性体44の内周面はステアリングギア側シャフト43の外周面に固定され、弾性体44の外周面は筒状部42の内周面に固定されている。
【0003】
このように構成されたステアリングダンパ装置によれば、車輪側から入力され当該ステアリングダンパ装置に伝達した振動は、弾性体44が弾性変形することによって吸収され、振動がステアリングシャフト側へ伝わるのを抑制することができ、運転者の乗り心地を良くしている。
一方、ステアリングホールを回転操作することでステアリングホイール側シャフト41が回転すると、弾性体44には弾性的なねじれが与えられる。この弾性体44のねじれ力がステアリングギア側シャフト43に伝わることで当該ステアリングギア側シャフト43が同方向に回転し、ステアリングギヤ機構の入力軸を回転させ車輪の向きを変え、車両進行方向の変更を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−72347号公報(図7参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ステアリングダンパ装置が備えている弾性体44のねじれ剛性をある特性にひとたび決めてしまうと、車両の走行速度が変わったときに、運転者がステアリングホイールから感じるステアリング装置に期待する剛性と、実際のステアリング装置の剛性とに乖離が生じることがある。
これにより、ステアリング装置としては所望の剛性を保有しているにも関わらず、運転者はステアリング装置に期待する走行速度や操舵角度に応じた剛性を、ステアリングホイールを介して感じることができない。
この結果、運転者は走行速度に応じた操舵フィーリングを得ることができない。
しかしながら、ステアリングダンパ装置は前述の様に車両走行中での車輪、路面、車体等から発生する振動を運転者側へ伝達させないために、ステアリングダンパ装置(弾性体44)の剛性を低くして使用される傾向にある。
そのために、ステアリングダンパ装置の剛性を高くすると、操舵装置へ伝達される車両振動を十分に減衰することが困難になってしまい、操舵フィーリングを向上させることが難しくなる。
【0006】
そこで、本発明は、車両の走行速度に応じて操舵装置の剛性を変えることができる車両用ステアリングダンパ装置及びステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の車両用ステアリングダンパ装置は、第一シャフトと、前記第一シャフトと同軸上に配置された第二シャフトと、前記第一シャフトと前記第二シャフトとの間に設けられた弾性体と、車両の走行速度に応じて前記第一シャフトと前記第二シャフトとを相対的に移動させることで前記弾性体に予圧を与えるアクチュエータとを備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の車両用ステアリングダンパ装置が、例えばステアリングシャフトとステアリングギヤ機構の入力軸との間に設けられ、前記ステアリングシャフト側の第一シャフトと前記入力軸側の第二シャフトとの間におけるねじり荷重の伝達が、弾性体によって行われ、車輪が操舵される場合、アクチュエータは、車両の走行速度に応じて第一シャフトと第二シャフトとを相対的に移動させることで弾性体に予圧を与えるので、当該弾性体のシャフトがねじれる方向(以下、シャフトねじり方向という)の剛性を変化させることができ、車両の走行速度に応じて操舵フィーリングをステアリングダンパ装置において変えることが可能となる。
なお、アクチュエータによって変化させることができる弾性体のシャフトねじり方向の剛性には、弾性体そのもののシャフトねじり方向の剛性と、弾性体を含めた第一シャフトと第二シャフトとの間におけるシャフトねじり方向の剛性とが含まれる。
【0009】
また、前記車両用ステアリングダンパ装置は、更に、前記車両の走行速度と前記アクチュエータによる前記シャフトの送り量との相関情報を記憶する記憶部と、前記相関情報により定まる前記送り量で前記アクチュエータによって前記シャフトを移動させる制御部とを備えているのが好ましい。
この場合、制御部は、車両の走行速度についての情報を得ると、記憶部が記憶している相関情報を参照してアクチュエータによる前記シャフトの送り量を得ることができるので、制御部における制御のための演算の負担を軽減できる。そして、制御部が前記送り量に相当する信号をアクチュエータへ送信することができ、効率よくアクチュエータによって前記シャフトを移動させる処理が実行される。
【0010】
また、前記アクチュエータは、前記第一シャフトと前記第二シャフトとの間で同軸上に設けられたモータと、前記モータの回転によって前記シャフトと共に変位することで前記弾性体に予圧を与える押圧部材とを有している構成とすることができる。
この場合、モータ、第一シャフト及び第二シャフトを直線的に配置することができるので、ステアリングダンパ装置が径方向に大きくなることを防ぎ、コンパクト化することができる。
押圧部材は、モータの回転によって前記シャフトと共に変位することができるので、前記弾性体を圧縮変形させて予圧を与えることができる。
これにより、車両の走行速度に応じて、弾性体のシャフトねじれ方向の剛性を予め変化させることができるので、押圧部材又は弾性体の変位基準を任意に設定することができる。
この結果、押圧部材又は弾性体の変位基準からさらに弾性体は変形することができるので、車両の走行速度に応じたステアリングダンパ装置のねじり剛性を得ることができる。
【0011】
そして、本発明のステアリング装置は、ステアリングシャフトと、ステアリングギヤ機構と、前記ステアリングシャフトから前記ステアリングギヤ機構までの間に設けられた前記車両用ステアリングダンパ装置とを備えたことを特徴とする。
本発明によれば、ステアリングダンパ装置が備えている弾性体に予圧を与えることで、弾性体のシャフトねじれ方向の剛性を予め変化させることができるので、弾性体の変位基準を任意に設定することができる。そして、この変位基準からさらに弾性体は変形することができるので、車両の走行速度に応じたねじり剛性を備えたステアリング装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ステアリングダンパ装置の剛性を車両の走行速度に応じて変更できるので、運転者が感じるステアリング装置の剛性は、車両の走行速度に適した剛性として違和感なく感じる様にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のステアリング装置の実施の一形態を模式的に示した説明図である。
【図2】ステアリングダンパ装置の斜視図である。
【図3】ステアリングダンパ装置を分解した斜視図である。
【図4】ステアリングダンパ装置を部分的に断面で示した説明図である。
【図5】ステアリングギア側シャフトの説明図であり(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【図6】押圧部材の説明図であり(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【図7】変更されるねじれ剛性の説明図である。
【図8】他のステアリングダンパ装置を部分的に断面で示した説明図である。
【図9】図8のステアリングダンパ装置を分解した斜視図である。
【図10】従来のステアリングダンパ装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明のステアリング装置10の実施の一形態を模式的に示した説明図である。このステアリング装置10は、ステアリングホイール11が取り付けられるステアリングシャフト12と、ステアリングシャフト12を回転自在に支持しているコラム13と、ステアリングシャフト12に第一の自在継手14を介して接続された中間シャフト15と、中間シャフト15と第二の自在継手16を介して接続された出力軸17と、ステアリングギヤ機構18とを備えている。ステアリングギヤ機構18は例えばラックピニオン式であり、その入力軸18aと前記出力軸17とが接続され、また、ステアリングギヤ機構18の出力軸(ラック軸)18bの左右両側に車輪19が取り付けられる。
【0015】
また、このステアリング装置10はステアリングダンパ装置1を備えていて、図1に示している実施形態では、中間シャフト15にステアリングダンパ装置1が設けられている。つまり、中間シャフト15は、第一の自在継手14に上端部が接続されたステアリングホイール側シャフト(第一シャフト)2と、第二の自在継手16に下端部が接続されたステアリングギア側シャフト(第二シャフト)3と、ステアリングホイール側シャフト2とステアリングギア側シャフト3との間に設けられた弾性体4とを備えている。
【0016】
図2はステアリングダンパ装置1の斜視図である。なお、図2ではステアリングホイール側シャフト2の上端部及びステアリングギア側シャフト3の下端部を省略して示している。図3はこのステアリングダンパ装置1を分解した斜視図である。図4はステアリングダンパ装置1を部分的に断面で示した説明図である。
図3において、ステアリングダンパ装置1は、前記ステアリングホイール側シャフト2、前記ステアリングギア側シャフト3及び前記弾性体4の他に、ステアリングホイール側シャフト2とステアリングギア側シャフト3とを軸方向に相対的に移動させることでこの弾性体4に予圧を与えるアクチュエータ5を更に備えている。弾性体4に予圧が与えられることで、弾性体4のシャフトねじり方向の剛性は変化する。なお、前記シャフトねじり方向の剛性は、ステアリングホイール側シャフト2及びステアリングギア側シャフト3の軸心C回りのねじり剛性であり、以下、シャフトねじり方向の剛性を、単にねじり剛性と呼ぶ。実施形態のアクチュエータ5は、電動モータ6aと、電動モータ6aの回転によって弾性体4に対してステアリングホイール側シャフト2と共に変位する押圧部材7とを有している。ステアリングギア側シャフト3を軸方向に拘束した状態とした場合、後にも説明するが、押圧部材7は弾性体4に対して軸方向にステアリングホイール側シャフト2と共に変位することで、当該弾性体4を軸方向に予圧して圧縮変形させておく。また、電動モータ6aが有している回転軸6bは軸方向に突出していて、電動モータ6aの駆動により回転軸6bが回転する。電動モータ6aと回転軸6bとは一体構造であり、回転軸6bの外周面に雄ねじ6cが形成されている。
【0017】
ステアリングホイール側シャフト2とステアリングギア側シャフト3とは同軸上(同じ軸心C上)に配置されている。さらに、電動モータ6a、回転軸6b、押圧部材7及び弾性体4も、シャフト2,3と同軸上に配置されている。このため、ステアリングダンパ装置1の各構成部材を軸心Cに沿って直線的に配置することができ、ステアリングダンパ装置1が径方向に大きくなるのを防ぎ、コンパクト化が可能となる。
【0018】
ステアリングホイール側シャフト2は、直線状の本体部2aと、この本体部2aの端部から二つに分岐した二股形状を有するブラケット部29とを有していて、このブラケット部29に押圧部材7がネジ22によって固定される(図2参照)。これにより、軸方向に拘束した状態としたステアリングギア側シャフト3に対して、ステアリングホイール側シャフト2は押圧部材7と一体となって変位可能となる。
図3において、ステアリングギア側シャフト3は、直線状の本体部3aと、この本体部3aの端部に形成された有底筒形状の筒状部23とを有していて、本体部3aと筒状部23とは同軸上の配置にある。
なお、本ステアリングダンパ装置1に組み付けられたステアリングホイール側シャフト2とステアリングギア側シャフト3とは、四輪車両に搭載されるステアリング装置へ搭載する際に、両シャフト2,3の取り付け関係を逆にしても、本ステアリングダンパ装置1の機能は達成可能であることは明らかである。
【0019】
図4において、ステアリングギア側シャフト3の本体部3aには、筒状部23内で開口しているねじ孔26が形成されている。このねじ孔26は軸方向に長く形成されていて、電動モータ6aの回転軸6bに形成された雄ねじ6cと螺合する。
図5はステアリングギア側シャフト3の説明図であり(a)は斜視図、(b)は正面図である。なお図5(b)には二点鎖線によって弾性体4(第一弾性部材4a及び第二弾性部材4b)も記載している。筒状部23の内部には、軸心C回りの周方向に直交する第一当接面24a及び第二当接面24bが形成され、また、軸方向に直交する第一挟み面27a及び第二挟み面27bが形成されている。筒状部23の内周壁面23aから軸心Cに向かって隆起する突出壁部25が設けられ、この突出壁部25の周方向両側面が第一当接面24a及び第二当接面24bとなる。第一挟み面27aと第二挟み面27bとの周方向の間であって、突出壁部25と異なる位置には、底面が第一挟み面27a及び第二挟み面27bよりも低くなった凹部28が形成されている。
【0020】
図6は押圧部材7の説明図であり(a)は斜視図、(b)は正面図である。なお図6(b)には二点鎖線によって弾性体4(第一弾性部材4a及び第二弾性部材4b)も記載している。押圧部材7は、中心に電動モータ6aの回転軸6b(図3参照)を挿通させる孔31aが形成された円環部31と、円環部31の側面から一段隆起している円弧部32a,32bと、さらに突出している柱部33とを有している。押圧部材7には、軸心C回りの周方向に直交する第三当接面34a及び第四当接面34bが形成され、軸方向に直交する第三挟み面37a及び第四挟み面37bが形成されている。柱部33の周方向両側面が、第三当接面34a及び第四当接面34bとなる。第三挟み面37aと第四挟み面37bとの周方向の間であって、柱部33と異なる位置には、第三挟み面37a及び第四挟み面37bよりも低くなった凹部35が形成されている。
【0021】
図3に示している弾性体4は、円弧状の第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bからなるゴム製のブッシュであり、その円弧の中心が軸心Cと一致してステアリングギア側シャフト3の筒状部23に取り付けられる。つまり、弾性体4もシャフト2,3と同軸上の配置となる。第一弾性部材4aと第二弾性部材4bとは同じ形状であり、横断面形状は円形である。
そして、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bを筒状部23に収容した状態とし、かつ、押圧部材7の柱部33(図6参照)の先端部を筒状部23の凹部28(図5参照)に周方向両側に隙間を有して挿入した状態として、押圧部材7を筒状部23に組み付ける。この際、筒状部23の突出壁部25の先端部が押圧部材7の凹部35に周方向両側に隙間を有して挿入した状態となる。さらに、図3において、押圧部材7の孔31aを貫通させた電動モータ6aの回転軸6bを、ステアリングギア側シャフト3のねじ孔26に螺合させ、かつ、電動モータ6aを押圧部材7にねじ38によって固定する。
【0022】
この際、図5(b)及び図6(b)に示しているように、第一弾性部材4aの周方向一端面20aは筒状部23の第一当接面24aに当接し、その反対側である周方向他端面20bは押圧部材7の第三当接面34aに当接する。一方、第二弾性部材4bの周方向一端面21aは筒状部23の第二当接面24bに当接し、その反対側である周方向他端面21bは押圧部材7の第四当接面34bに当接する。さらに、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bは、周方向に圧縮弾性変形した状態となって筒状部23内に取り付けられている。これにより、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bの周方向への拡大変形は規制された状態にある。
このため、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bによって、シャフト2,3間で軸心C回りのねじり荷重(回転トルク)を伝達可能となり、かつ、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bが周方向及び軸方向に弾性変形することによってシャフト2,3間の振動を吸収することができる。
【0023】
また、第一弾性部材4aは、筒状部23の第一挟み面27aと押圧部材7の第三挟み面37aとに軸方向に挟まれた状態となり、第二弾性部材4bは、筒状部23の第二挟み面27bと押圧部材7の第四挟み面37bとに軸方向に挟まれた状態となる。以上よりステアリングダンパ装置1の組み立て状態が得られる(図4参照)。
この組み立て状態では、押圧部材7の円環部31と筒状部23との間には、軸方向の隙間eが形成される。この隙間eは、電動モータ6aが回転した際の押圧部材7の軸方向への移動代となる。
【0024】
そして、電動モータ6aの駆動によって回転軸6bが回転してねじ孔26を進む方向(図4では右方向)に軸方向移動すると、この回転軸6bと共に電動モータ6a、押圧部材7及びステアリングホイール側シャフト2は、筒状部23の底面となる第一挟み面27a及び第二挟み面27bに向かって軸方向に前進する。これにより、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bは軸方向に圧縮弾性変形する。一方、回転軸6bが反対方向に回転すると、電動モータ6a、押圧部材7及びステアリングホイール側シャフト2は前記第一挟み面27a及び第二挟み面27bから離れるように軸方向に後退する。
このように電動モータ6a(回転軸6b)の回転方向及び回転数を制御することにより、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bの軸方向の弾性変形量(弾性圧縮量)を増減することができる。
【0025】
第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bはその周方向への拡大変形が規制された状態にあるため、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bを軸方向に弾性圧縮し、その圧縮変形量を大きくすると、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bのねじり剛性が高まる。さらに、軸方向の圧縮変形量が大きくなるにしたがってねじり剛性は高くなる。
すなわち、アクチュエータ5の動作量、つまり、ステアリングホイール側シャフト2及び押圧部材7の軸方向の送り量に応じて、第一弾性部材4a及び第二弾性部材4bのねじり剛性を予め変化させて所定の値にしておくことが可能となる。
【0026】
以上のように構成されたステアリングダンパ装置1において、弾性体4のねじり剛性を変化させる制御について説明する。
電動モータ6aは、車両に搭載された制御装置8(図1参照)によって制御される。このために、電動モータ6aは制御装置8からの信号が入力されるケーブル9を有している。操舵操舵の際、ステアリングホイール側シャフト2は軸心C回りに回転することから、図2に示しているように、ケーブル9はステアリングホイール側シャフト2の本体部2aに螺旋状に巻かれて設けられている。
【0027】
制御装置8によって電動モータ6aの回転方向と回転数とが制御され、制御装置8から電動モータ6aへ信号が出力され、この信号に基づいて電動モータ6aは回転する。これにより、回転軸6bは所定の回転方向に所定の回転数だけ回転する。また、回転軸6bには一定のねじピッチで雄ねじ6cが形成されているので、回転軸6bの回転数と、回転軸6bの軸方向の送り量との関係は比例となる。このため、回転軸6bの回転数と、電動モータ6a及びこの電動モータ6aに固定された押圧部材7及びステアリングホイール側シャフト2の軸方向の送り量との関係も比例となる。そして、弾性体4は一定のねじり弾性係数を有しているので、押圧部材7の軸方向の送り量に応じて、弾性体4のねじり剛性を比例して増減させることが可能となる。
なお、制御装置8は、ステアリングダンパ装置1が備えているが、例えば車両に搭載された電動式ステアリング装置のECU(エレクトリック・コントロールユニット)にその機能部として備えさせることができる(図1参照)。
【0028】
そして、車両に搭載された車速センサ39から当該車両の走行速度についての情報(以下、速度情報という)が、制御装置8に入力される。制御装置8と共に設けられている記憶部8aには、速度情報とアクチュエータ5の動作量との相関情報(ルックアップテーブル)が記憶されている。具体的には、記憶部8aには、速度情報と押圧部材7及びステアリングホイール側シャフト2の軸方向の送り量との相関情報が記憶されている。
【0029】
そして、記憶部8aが記憶している前記相関情報により定まる送り量に相当する信号を制御装置8がアクチュエータ5に発信し、この信号によりアクチュエータ5が有する電動モータ6aは動作する。つまり、制御装置8は速度情報を取得すると、前記相関情報から押圧部材7の軸方向の送り量を取得することができる。制御装置8は、この取得された送り量に相当する信号を電動モータ6aへ出力すると、この信号に基づいて電動モータ6aは動作する。このように、速度情報に応じて電動モータ6aを所定の回転方向へ所定の回転数だけ回転させ、押圧部材7を軸方向に所定の値だけ変位させる。これにより、車両の走行速度に応じて、弾性体4のねじり剛性を変更して予め所定の値としておく。
【0030】
以上のように、ステアリングダンパ装置1が備えているアクチュエータ5は、車両の走行速度に応じて動作量が制御されることにより、弾性体4のたわみ量(圧縮量)を予め変化させて当該弾性体4のねじり剛性を所定の値に変化させておく。これにより、車両の走行速度に応じて、ステアリング装置における操舵フィーリングを変えることが可能となる。例えば、図7において、走行速度が高い場合(図7の「高速」の場合)、押圧部材7の前方への送り量を大きくして弾性体4の軸方向の変形量を多くし、図7の直線Aに示しているように、弾性体4のねじり剛性を「低速」の場合よりも予め高くしておくことで、鋭敏な操舵フィーリングが得られ、ステアリングホイール11の操舵角度の僅かな変更により、車両進行方向の変更が可能となる。
【0031】
逆に走行速度が低い場合(図7の「低速」の場合)、押圧部材7の前方への送り量を小さくして弾性体4の軸方向の変形量を少なくし、図7の直線Bに示しているように、弾性体4のねじり剛性を「高速」の場合よりも予め低くしておくことで、柔らかい操舵フィーリングが得られる。
そして、高速時及び低速時共に、車輪側からステアリングダンパ装置1に入力された振動は、弾性体4が弾性変形することによって吸収され、振動がステアリングシャフト12へ伝達されることを防止することができる。また、走行速度に応じて弾性体4の剛性が変化することで、振動を吸収する際の減衰性能も変化し、乗り心地を変化させることができる。
なお、図7の二点鎖線で示している直線Cは、弾性体4及び押圧部材7の変位が最大の場合でありねじり剛性が最大となる状態を示し、直線Dは、弾性体4及び押圧部材7が基準変位にある状態を示し、直線Eは、弾性体4及び押圧部材7の変位が最小の場合でありねじり剛性が最小となる状態を示している。
【0032】
他の構成を有するステアリングダンパ装置101を説明する。
図8は、ステアリングダンパ装置101を部分的に断面で示した説明図である。図9は、このステアリングダンパ装置101を分解した斜視図である。このステアリングダンパ装置101も前記形態と同様に、ステアリングホイール側シャフト102と下103との間に設けられた弾性体104と、この弾性体104に予圧を与えてねじり剛性を変化させるアクチュエータ105とを備えている。さらに、制御装置8(図1参照)によって車両の走行速度に応じてアクチュエータ105が制御されることにより、弾性体104のねじり剛性を変化させる構成となっている。
【0033】
なお、図2に示したステアリングダンパ装置1の場合、アクチュエータ5によって変化させる弾性体4のねじり剛性は、弾性体4そのもののねじれ剛性である。一方、図8に示しているステアリングダンパ装置101の場合、弾性体104を含めたステアリングホイール側シャフト102とステアリングギア側シャフト103との間におけるねじれ剛性、すなわち、弾性体104の見かけ上のねじれ剛性を、アクチュエータ105によって変化させる構成である。
【0034】
具体的構成を説明する。弾性体104は円筒形状であり、弾性体104の内周面は、ステアリングギア側シャフト103の外周面に加硫接着によって固定され、弾性体104の外周面は、ステアリングホイール側シャフト102が有している筒状部110の内周面に加硫接着によって固定されている。このため、弾性体104は、両シャフト102,103間でねじり荷重を伝達可能でありかつ両シャフト102,103間の振動を吸収することができる。
アクチュエータ105は電動モータ106aからなり、電動モータ106aの回転によって回転軸106bが回転する。回転軸106bにはセレーション106dが形成されていて、ステアリングギア側シャフト103とセレーション結合されている。電動モータ106aは筒状部110にねじ122によって固定される。このため、電動モータ106aが回転すると、ステアリングホイール側シャフト102に対してステアリングギア側シャフト103を軸心C回りに強制的に正逆回転させることができる。
【0035】
このステアリングダンパ装置101において、弾性体104のねじり剛性を変化させる制御について説明する。図1に示しているように、ステアリングシャフト12(又はステアリングホイール側シャフト102)の回転角を検知する角度センサ40をステアリング装置は備えている。角度センサ40の検知結果は制御装置8に入力される。
そして、ステアリングホイール11(図1参照)を回転させることでステアリングシャフト12及びステアリングホイール側シャフト102が一方向に回転すると、弾性体104には弾性的なねじれが与えられ、当該弾性体104のねじれ力がステアリングギア側シャフト103に伝わり当該ステアリングギア側シャフト103も同方向に回転し、ステアリングギヤ機構の入力軸18aを回転させ、車輪19の向きを変えることができる。
【0036】
弾性体104本来のねじり弾性係数が高くねじり剛性が高い場合、高速走行時、ステアリングホイール側シャフト102の一方向の回転に対して弾性体104がねじれ、鋭敏にステアリングギア側シャフト103も同方向に回転する。この際、制御装置8は、弾性体104のこのねじれを阻害しないように、電動モータ106aを回転制御する。
このために、制御装置8の記憶部8aには、ステアリングシャフト12(又はステアリングホイール側シャフト102)の回転角とその際に生じる弾性体104のねじれ角度との相関についての第一情報が記憶されている。
【0037】
そして、車速センサ39によって制御装置8は車両が高速走行状態であると判定すると、角度センサ40がステアリングシャフト12(又はステアリングホイール側シャフト102)の回転角を検知し、この回転角の情報を制御装置8が取得すると、制御装置8は前記第一情報に基づいて弾性体104のねじれ角度を取得し、制御装置8はこのねじれ角度に相当する信号を電動モータ106aへ出力し、電動モータ106aは回転軸106bを当該ねじれ角度回転させる。これにより弾性体104のねじれに追従するようにして電動モータ106aの回転制御がされ、鋭敏な操舵フィーリングが得られる。
【0038】
これに対し、低速走行時では、ステアリングホイール11を回転させることでステアリングシャフト12及びステアリングホイール側シャフト102が一方向に回転すると、この回転にステアリングギア側シャフト103が鋭敏に追従しないように電動モータ106aを制御する。
つまり、車速センサ39によって制御装置8は車両が低速走行状態であると判定すると、角度センサ40がステアリングシャフト12(又はステアリングホイール側シャフト102)の一方向の回転角を検知し、この回転角の情報を制御装置8が取得すると、制御装置8は前記第一情報に基づいて前記一方向の回転角に応じて、前記一方向とは逆の方向のトルクをステアリングギア側シャフト103に生じさせるように回転軸106bを回転させる。これにより、弾性体104のねじり剛性が見かけ上低くなった挙動を示す。
【0039】
このように、図8及び図9のステアリングダンパ装置101の場合、ステアリングシャフト12の回転角及び車両の走行速度の両者の情報に基づいて、アクチュエータ105の動作量を制御している。
これに対して、図2のステアリングダンパ装置1の場合では、車両の走行速度の情報に基づいてアクチュエータ105の動作量を制御すればよく、制御が容易となる。
【0040】
また、図8及び図9のステアリングダンパ装置101の場合では、弾性体104に過大なねじり荷重が作用した場合や、弾性体104が破損してねじり荷重の伝達が十分に行えない非常時のために、筒状部110に周方向に長い切り欠き部110aが形成され、ステアリングギア側シャフト103にピン111が固定されている。ピン111は切り欠き部110aの周方向の端面に当接することによって、ステアリングホイール側シャフト102とステアリングギア側シャフト103との回転角度差が大きくなりすぎるのを防止している。
これに対し、図2のステアリングダンパ装置1の場合では、図5と図6とに示しているように、ステアリングギア側シャフト3が有する筒状部23の突出壁部25の先端が、ステアリングホイール側シャフト2に固定された押圧部材7の凹部35に周方向両側に隙間を有して挿入した状態にあり、また、押圧部材7の柱部33の先端が、ステアリングギア側シャフト3の筒状部23の凹部28に周方向両側に隙間を有して挿入した状態にある。このため、前記ピン111(図8参照)を用いることなく、ステアリングホイール側シャフト2とステアリングギア側シャフト3との過大な回転角度差が生じることを防止している。
【0041】
以上のように構成された各形態のステアリングダンパ装置1,101によれば、ステアリングダンパ装置1,101の剛性を、車両の走行速度に応じて変更できるので、運転者が感じるステアリング装置10の剛性は、車両の走行速度に適した剛性として違和感なく感じる様にすることができ、かつ、走行速度に応じた路面情報等のステアリング・インフォメーションを、運転者が必要とする分のみ与えることができる。
そして、このステアリングダンパ装置1,101を備えたステアリング装置10によれば、走行速度の増減に伴い車両等の振動による周波数が増減するが、このような走行速度に応じて周波数が増減する振動については、弾性体4,104によって遮断できる。そして、運転者にとって必要とされる路面情報を含む車両の振動の周波数については、車両の走行速度に応じて減衰させることなくステアリング装置10に伝達させることができる。
この結果、車両の走行速度に応じたステアリング装置10の剛性を運転者に感じさせることができ、かつ、実際のステアリング装置10の剛性との乖離を生じさせることなく、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0042】
また、本発明のステアリング装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。中間シャフト15がステアリングダンパ装置を有している構成としたが、このステアリングダンパ装置は、ステアリングシャフト12からステアリングギヤ機構18の入力軸18aまでの間の他の部位に用いられてもよい。このために、適用部位に応じて、ステアリングホイール側シャフト2の本体部2a及びステアリングギア側シャフト3の本体部3aの形状を、他の形態としてもよい。
なお、ステアリングダンパ装置を中間シャフト15に設けた場合、そのシャフト両端部に自在継手が接続されている。このような自在継手及び中間シャフト15を含むシャフト構造体の全体としての剛性を高めるために、自在継手におけるジョイント剛性を高めることも有効であるが、ステアリングダンパ装置の弾性体の剛性を高めることにより、シャフト構造体の全体剛性を効率よく高めることができる。
【0043】
また、本発明のステアリング機構は、電動パワーステアリング装置と共に用いられてもよく、この場合、電動パワーステアリング装置が備えている制御装置が、前記制御装置8の機能を有していてもよい。
また、本発明のステアリング装置10は、ステアリングギヤ機構18が油圧シリンダーを備えて構成されたラックアンドピニオン式ステアリング装置や、電動モータにより駆動されるポンプを備えたステアリング装置等の各種四輪自動車用パワーステアリング装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1,101:ステアリングダンパ装置、 2,102:ステアリングホイール側シャフト(第一シャフト)、 3,103:ステアリングギア側シャフト(第二シャフト)、 4,104:弾性体、 5,105:アクチュエータ、 6a,106a:電動モータ、 7:押圧部材、 8:制御装置(制御部)、 12:ステアリングシャフト、 18:ステアリングギヤ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一シャフトと、
前記第一シャフトと同軸上に配置された第二シャフトと、
前記第一シャフトと前記第二シャフトとの間に設けられた弾性体と、
車両の走行速度に応じて前記第一シャフトと前記第二シャフトとを相対的に移動させることで前記弾性体に予圧を与えるアクチュエータと、を備えていることを特徴とする車両用ステアリングダンパ装置。
【請求項2】
前記車両の走行速度と前記アクチュエータによる前記シャフトの送り量との相関情報を記憶する記憶部と、前記相関情報により定まる前記送り量で前記アクチュエータによって前記シャフトを移動させる制御部と、を備えている請求項1に記載の車両用ステアリングダンパ装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、前記第一シャフトと前記第二シャフトとの間で同軸上に設けられたモータと、前記モータの回転によって前記シャフトと共に変位することで前記弾性体に予圧を与える押圧部材と、を有している請求項1又は2に記載の車両用ステアリングダンパ装置。
【請求項4】
ステアリングシャフトと、ステアリングギヤ機構と、前記ステアリングシャフトから前記ステアリングギヤ機構までの間に設けられた請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用ステアリングダンパ装置とを備えたことを特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−264822(P2010−264822A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116567(P2009−116567)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】