説明

車両用バッテリ冷却装置

【課題】この発明は、周辺部品の大幅な変更を防止し、乗員の着座位置を高くせず、リヤシート下方に吸気ダクトを設置できるようにすることを目的とする。
【解決手段】この発明は、フロントフロアパネルから段差状に車両上方へと立ち上がり、車両後方へと延びるリヤフロアパネルの上面にリヤシートを配置し、リヤフロアパネルの上面かつリヤシートの後方にバッテリパックを配置し、バッテリパックから車両前方向へ延び、車室内の空気をバッテリパック内に取り入れる吸気ダクトをリヤシートのクッション部とリヤフロアパネルとの間に配置した車両用バッテリ冷却装置において、クッション部の下面かつ車両幅方向中央部に車両前後方向に延びる凹部を形成し、吸気ダクトをバッテリパックから凹部を通して車両前方向へ延ばし、その前端に開口部を形成し、かつ吸気ダクトを乗員の重量を支持可能な強度に形成してクッション部の下面に接触させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両用バッテリ冷却装置に係り、特に、リヤシートの後方に配置したバッテリパックに冷却風を送る吸気ダクトを周辺部品の大幅な変更を要することなく設置できる車両用バッテリ冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車などの電気モータを駆動源として走行する形式の車両においては、車両を走行させるためのバッテリを収納したバッテリパックを搭載している。バッテリパックは、充放電が行われる際に、バッテリを構成するセルから熱が発生する。バッテリは、熱によるセルの性能劣化を防止するため、冷却によって発生する熱を除去する必要がある。
このようにバッテリを冷却するための手法の一つとして、従来、車室内の空気を吸気ダクトにより取り入れ、その空気を送風ファンなどにより冷却風としてバッテリに供給する冷却装置がある。
【0003】
従来の車両用バッテリ冷却装置には、リヤシートの後方のリヤフロアパネル上に配置したバッテリパックから車両幅方向一側に延びる吸気ダクトをリヤシートの背もたれ部横に位置する車体の側壁内に配置し、吸気ダクトの開口部をリヤシートの背もたれ部の横のサイドガーニッシュ上部に形成し、この開口部から吸気ダクト内に車室内の空気を取り入れ、送風ファンなどにより冷却風としてバッテリに供給するものがある。(特許第4114478号)
また、従来の車両用バッテリ冷却装置には、リヤシートの後方のリヤフロアパネル上に配置したバッテリパックから車両前方向に延びる吸気ダクトをリヤシートのクッション部とリヤフロアパネルとの間に配置し、車両前方向へ延ばした吸気ダクトの前端に開口部を形成し、この開口部から吸気ダクト内に車室内の空気を取り入れ、送風ファンなどにより冷却風としてバッテリに供給するものがある。(特開2007−294290号)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4114478号
【特許文献2】特開2007−294290号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示される冷却装置は、車室内のリヤシートの背もたれ部横のサイドガーニッシュ上部に、吸気ダクトに空気を取り入れる開口部を形成している。しかし、この構造では、車室内の比較的高い位置に開口部が配置されるため、車室内上部の温度の高い空気を取り入れることになり、バッテリから発生した熱を除去しにくい。また、開口部は、リヤシートに着座した乗員の耳に近い高さに配置されるため、開口部から取り入れられる空気の風きり音が耳に入りやすく、乗員に不快感を与えることになる。さらに、吸気ダクトは、サイドガーニッシュ上部に開口部を形成し、車体の側壁内に組み込むため、吸気ダクトの周辺に配置される部品類を大幅に変更する必要がある。
また、前記特許文献2に開示される冷却装置では、吸気ダクトをリヤシートのクッション部とリヤフロアパネルとの間に配置している。しかし、吸気ダクトとその上方のリヤシートのクッション部との間に隙間を設けているため、リヤシートのクッション部の下側にクッション部を支持する補強材が必要となるとともに、リヤシートのクッション部の高さが高くなって乗員の着座位置が高くなる問題があった。
【0006】
この発明は、周辺部品の大幅な変更を防止するとともに乗員の着座位置を高くせず、リヤシート下方にバッテリパックに冷却風を送る吸気ダクトを設置できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、フロントフロアパネルから段差状に車両上方へと立ち上がるとともに水平に車両後方へと延びるリヤフロアパネルの上面にリヤシートを配置し、前記リヤフロアパネルの上面かつ前記リヤシートの後方にバッテリを収納したバッテリパックを配置し、前記バッテリパックから車両前方向へ延び、車室内の空気を前記バッテリパック内に取り入れる吸気ダクトを前記リヤシートのクッション部と前記リヤフロアパネルとの間に配置した車両用バッテリ冷却装置において、前記クッション部の下面かつ車両幅方向中央部に車両前後方向に延びる凹部を形成し、前記吸気ダクトを前記バッテリパックから前記凹部を通して車両前方向へ延ばし、その前端に開口部を形成し、かつ前記吸気ダクトを乗員の重量を支持可能な強度に形成して前記クッション部の下面に接触させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の車両用バッテリ冷却装置は、車室内の空気をバッテリパック内に取り入れる吸気ダクトをクッション部の下面に形成した凹部を通して車両前方に延ばし、かつ乗員の重量を支持可能な強度に形成してクッション部の下面に接触させた構造によって、周辺部品の大幅な変更を防止するとともに乗員の着座位置を高くせず、リヤシートのクッション部とリヤフロアパネルとの間にバッテリパックに冷却風を送る吸気ダクトを設置することができる。
また、この発明の車両用バッテリ冷却装置は、リヤシートのクッション部とリヤフロアパネルとの間に設置した吸気ダクトの先端に開口部を形成しているので、日射による空気の温度上昇が少なく、かつ乗員の耳に吸気音が届きにくい車室の下部に開口部を開口させることができる。
さらに、この発明の車両用バッテリ冷却装置は、リヤシートのクッション部の車両幅方向中央部に吸気ダクトを配置しているため、吸気ダクトの全長を短縮して通路抵抗を低減でき、バッテリパックを効率良く冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は車両用バッテリ冷却装置の斜視図である。(実施例)
【図2】図2は車両用バッテリ冷却装置の断面図である。(実施例)
【図3】図3は車両用バッテリ冷却装置の平面図である。(実施例)
【図4】図4(A)はリヤシートのクッション部の正面図、図4(B)はリヤシートのクッション部の底面図である。(実施例)
【図5】図5は吸気ダクトの斜視図である。(実施例)
【図6】図6(A)はリヤフロアパネルに取り付けた吸気ダクトの平面図、図6(B)はリヤフロアパネルに取り付けた吸気ダクトの正面図である。(実施例)
【図7】図7は吸気ダクトの開口部を示すリヤシートの前面図である。(実施例)
【図8】図8は乗員の臀部と吸気ダクトとの関係を示す車両用バッテリ冷却装置の断面図である。(実施例)
【図9】図9は車両用バッテリ冷却装置の断面図である。(変形例)
【図10】図10は車両用バッテリ冷却装置の平面図である。(変形例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
図1〜図8は、実施例を示すものである。図1〜図3において、1は車両の車室、2はフロントフロアパネル、3はリヤフロアパネルである。車両の車室1内には、フロントフロアパネル2に連続して車両後方向に延びるリヤフロアパネル3が設けられている。リヤフロアパネル3は、フロントフロアパネル2の車両後方向端部から車両上方向に立ち上がる縦壁部4を備えるとともに、縦壁部4の上端から水平に車両後方向に延びる上壁部5を備えている。
リヤフロアパネル3の上壁部5は、縦壁部4に連続する車両前後方向における前側部分6と、この前側部分6に連続する車両前後方向における後側部分7とからなる。前側部分6の上面には、リヤシート8を配置している。リヤシート8は、前側部分6に取り付けられるクッション部9と、クッション部9の後端に取り付けられた背もたれ部10とからなる。リヤシート8後方の後側部分7の車両幅方向中央部には、バッテリパック11を配置している。バッテリパック11は、四角箱形状のバッテリケース12内に複数個のバッテリ13を収納している。バッテリ13は、複数のセルを結合して一体化した四角柱形状で角型のモジュールに形成されている。
前記バッテリパック11には、バッテリケース12に収納されたバッテリ13を冷却する車両用バッテリ冷却装置14を設けている。車両用バッテリ冷却装置14は、バッテリパック11のバッテリケース12から車両前方向へ延び、車室1内の空気をバッテリパック11内に取り入れる吸気ダクト15を備えている。吸気ダクト15は、後端をバッテリケース12の前壁16に接続し、中間を車両前方向に延ばしてリヤシート8のクッション部9とリヤフロアパネル3の前側部分6との間に配置し、前端に車両前方向に向けて開口する開口部17を備えている。
また、車両用バッテリ冷却装置14は、バッテリパック11のバッテリケース12内の空気を車両後方向に排出する排気ダクト18を備えている。排気ダクト18は、前端をバッテリケース12の後壁19に接続し、後端に冷却ファン20を接続している。車両用バッテリ冷却装置14は、冷却ファン20の吸引力で吸気ダクト15からバッテリケース12内に空気を取り入れてバッテリ13を冷却し、昇温した空気を排気ダクト18により車両後方向に排出する。
【0012】
前記車両用バッテリ冷却装置14は、図4に示すように、リヤシート8のクッション部9の下面であって、かつクッション部9の車両幅方向中央部に、車両前後方向に延びる上下方向に扁平な凹部21を形成している。吸気ダクト15は、図5に示すように、凹部21に嵌合するように上下方向に扁平な略四角筒形状であって、材質、断面形状を選定することで乗員の重量を支持可能な強度に形成している。吸気ダクト15は、長手方向前側に前側取付部22を備え、長手方向後側に後側取付部23を備えている。
吸気ダクト15は、図6に示すように、長手方向を車両前後方向に向けてリヤフロアパネル3の前側部分6上面の車両幅方向中央部に配置し、前側取付部22をリヤフロアパネル3に固定したブラケット24に取り付け、長手方向後側の後側取付部23をリヤフロアパネル3の前側部分6に取り付けている。これにより、吸気ダクト15は、図1、図2に示すように、バッテリパック11からクッション部9の凹部21を通して、長手方向を車両前方向へ延ばして配置している。リヤフロアパネル3とクッション部9との間を車両前方向へ延ばした吸気ダクト15の前端には、図7に示すように、車室内1内の空気を取り入れる開口部17を形成している。また、吸気ダクト15は、乗員の重量を支持可能な強度に形成して、クッション部9の凹部21内の下面に接触させている。
【0013】
このように、車両用バッテリ冷却装置14は、車室1内の空気をバッテリパック11内に取り入れる吸気ダクト15をクッション部9の下面に形成した凹部21を通して車両前方に延ばし、かつ乗員の重量を支持可能な強度に形成してクッション部9の下面に接触させた構造によって、周辺部品の大幅な変更を防止するとともに乗員の着座位置を高くせず、リヤシート8のクッション部9とリヤフロアパネル3との間にバッテリパック11に冷却風を送る吸気ダクト15を設置することができる。
また、車両用バッテリ冷却装置14は、リヤシート8のクッション部9とリヤフロアパネル3との間に設置した吸気ダクト15の先端に開口部17を形成しているので、日射による空気の温度上昇が少なく、かつ乗員の耳に吸気音が届きにくい車室の下部に開口部24を開口させることができ、バッテリ13から発生した熱を除去しやすくなり、また、乗員に不快感を与えることがなくなる。
さらに、車両用バッテリ冷却装置14は、リヤシート8のクッション部9の車両幅方向中央部に吸気ダクト15を配置しているため、吸気ダクト15の全長を短縮して通路抵抗を低減でき、バッテリパック11を効率良く冷却できる。
【0014】
この車両用バッテリ冷却装置14は、図8に示すように、吸気ダクト15の高さ寸法を、リヤシート8のクッション部9の車両幅方向中央部に着座する乗員25の臀部26の下方から車両後方の部分は一定の高さh1とする一方、着座する乗員25の臀部26よりも車両前方の開口部17に近い部分はクッション部9の高さ増加に応じてh1から次第に高くし、開口部17において最高の高さh2とするようにしている。
このように、車両用バッテリ冷却装置14は、吸気ダクト15の高さ寸法を、リヤシート8のクッション部9に着座する乗員25の臀部26の下方から車両後方の部分は一定の高さh1とした構造により、乗員25の臀部26を支持するクッション部9の厚さが薄くなることを防止でき、乗員26の快適性を確保できる。
また、車両の急制動時には、リヤシート8のクッション部9の車両幅方向中央部に着座する乗員26に車両前方へ貫性力が作用する。しかし、この車両用バッテリ冷却装置14は、吸気ダクト15の高さ寸法を、リヤシート8のクッション部9に着座する乗員25の臀部26よりも車両前方の開口部24に近い部分はクッション部9の高さ増加に応じて高くするようにした構造により、吸気ダクト15によって乗員25の臀部26より車両前方のクッション部9の変形が抑制でき、乗員26が前方へ移動することを防止できる。
【0015】
さらに、この車両用バッテリ冷却装置14は、図2、図3に示すように、バッテリパック11内のバッテリ13の配列を規定している。バッテリパック11は、バッテリケース12内に、四角柱形状で角型のモジュールに形成した複数個のバッテリ13を収納している。複数個のバッテリ13は、長手方向を車両前後方向に向け、且つ相互に隙間を設けて、バッテリケース12内に配置している。
これにより、この車両用バッテリ冷却装置14は、リヤシート8下の吸気ダクト15からバッテリケース12内に直線的に冷却風を導入することができ、バッテリケース12内の冷却風が流れる経路を最短とし、圧力損失が小さくなり、バッテリ13を高率良く冷却することができる。
【0016】
なお、図9、図10は、バッテリパック11内のバッテリ13の配列構造の変形例を示すものである。バッテリパック11は、バッテリケース12内に円柱形状で円筒型のモジュールに形成した複数個のバッテリ13を収納している。複数個のバッテリ13は、長手方向を車両幅方向に向け、且つ相互に隙間を設けて、バッテリケース12内に配置している。
これにより、この車両用バッテリ冷却装置14は、リヤシート8下の吸気ダクト15からバッテリケース12内に直線的に冷却風を導入することができ、バッテリケース12内の冷却風が流れる経路を最短とし、圧力損失が小さくなり、バッテリ13を高率良く冷却することができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明は、周辺部品の大幅な変更を防止するとともに乗員の着座位置を高くせず、リヤシート下方にバッテリパックに冷却風を送る吸気ダクトを設置できるようにすることができるものであり、バッテリの冷却装置にかぎらず、リヤシートの後方に配置した機器の冷却に応用可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 車室
2 フロントフロアパネル
3 リヤフロアパネル
4 縦壁部
5 上壁部
8 リヤシート
9 クッション部
10 背もたれ部
11 バッテリパック
13 バッテリ
14 車両用バッテリ冷却装置
15 吸気ダクト
17 開口部
18 排気ダクト
20 冷却ファン
21 凹部
25 乗員
26 臀部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフロアパネルから段差状に車両上方へと立ち上がるとともに水平に車両後方へと延びるリヤフロアパネルの上面にリヤシートを配置し、前記リヤフロアパネルの上面かつ前記リヤシートの後方にバッテリを収納したバッテリパックを配置し、前記バッテリパックから車両前方向へ延び、車室内の空気を前記バッテリパック内に取り入れる吸気ダクトを前記リヤシートのクッション部と前記リヤフロアパネルとの間に配置した車両用バッテリ冷却装置において、前記クッション部の下面かつ車両幅方向中央部に車両前後方向に延びる凹部を形成し、前記吸気ダクトを前記バッテリパックから前記凹部を通して車両前方向へ延ばし、その前端に開口部を形成し、かつ前記吸気ダクトを乗員の重量を支持可能な強度に形成して前記クッション部の下面に接触させたことを特徴とする車両用バッテリ冷却装置。
【請求項2】
前記吸気ダクトの高さ寸法を、前記リヤシートのクッション部の車両幅方向中央部に着座する乗員の臀部の下方から車両後方の部分は一定の高さとする一方、前記着座する乗員の臀部よりも車両前方の前記開口部に近い部分は前記クッション部の高さ増加に応じて高くするようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両用バッテリ冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−86539(P2013−86539A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225920(P2011−225920)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】