説明

車両用パワースライドドアの制御装置

【課題】左右両側のパワースライドドアが互いに近いタイミングで開動作又は閉動作を開始した後、任意のタイミングで発生する消費電力のピークを抑制でき、しかも、できるだけユーザに違和感を与えることなくそのピークの抑制を実現する。
【解決手段】一方のパワースライドドア開閉スイッチの入力タイミングと、該入力タイミングより遅れて入力される他方のパワースライドドア開閉スイッチの入力タイミングとの時差t0を求め、その時差t0が第1時間t1より短い場合(ST3:YES)、他方のPSD_ECUは、第1時間t1から前記時差t0を差し引いて得られる第2時間t2経過後にパワースライドドアの作動を開始する(ST4)。さらに前記他方のPSD_ECUは、動作後半における減速開始タイミングを前記一方のドアの減速開始タイミングから第3時間t3だけ遅らせる(ST5、ST6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の左右に設けられたパワースライドドアの開閉を制御するための車両用パワースライドドアの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ワンボックスカーなどの車両では、後部座席用のドアとしてスライドドアが採用されている。スライドドアを採用することで、出入口の開口面積を拡大でき、乗降性を向上させることができる。また、ユーザがスライドアを開閉する負担をなくすために、スライドドアをモータにより開閉させるようにしたパワースライドドアが採用されることも多い。特に、最近は、左右両側にパワースライドドアを採用した車両も市販されている。
【0003】
パワースライドドアは、ドアの重量が大きいことから、その開閉動作に大電流を消費する。特に左右両側にパワースライドドアを備えた車両では、同時に左右両側のパワースライドドアを作動させると、消費電流が過大となり、バッテリーの電圧低下を引き起こす可能性がある。
【0004】
一般に、左右両側のパワースライドドアを駆動させる制御システムは左右で独立しており、互いに連携した制御を行わないようになっているが、特許文献1に開示されているパワースライドドアの制御装置では、電流消費が大きくなるクロージャ機能作動時に、左右のドアの全閉タイミングが一致しないよう、左右のドアの位置関係に応じて一方のドアの移動速度を補正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3850369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般にパワースライドの消費電流は、ドアが全閉する際に限らず、ドアの開動作の開始直後などでもピーク値を形成する。特許文献1に開示されているパワースライドドアの制御装置では、両側のドアが全閉する際の電流消費のピーク値を抑制することはできるものの、その他のタイミングで両側のドアの作動中に発生する電流消費のピーク値を抑制することはできない。また、ドアの移動速度を補正した場合、ユーザの左右のスイッチ操作のタイミング差以上に左右のドアの全閉タイミングがずれるため、ユーザに違和感を与えてしまう。
【0007】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、左右両側にパワースライドドアを備えた車両において、左右両側のドアが互いに近いタイミングで開動作又は閉動作を開始した後、任意のタイミングで発生する消費電力のピーク(少なくとも動作開始直後および動作終了直前に発生する消費電流のピーク値)を抑制でき、しかも、できるだけユーザに違和感を与えることなくそのピークの抑制を実現できる車両用スライドドアの制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の車両用パワースライドドアの制御装置は、車両の左右両側に設けられたドアの開閉を制御するものであって、作動要求スイッチの入力によりドアの開動作又は閉動作を開始し、動作後半の所定タイミングでドアを減速させた後、当該ドアを全閉又は全開させるものを前提とし、一方のドアに対する作動要求スイッチの入力タイミングと、該入力タイミングより遅れて入力される他方のドアに対する作動要求スイッチの入力タイミングとの時差を検出する時差検出手段と、前記時差が所定の時間以内である場合に、前記他方のドアの作動開始を、所定の第1時間から前記時差を差し引いて得られる第2時間だけ遅らせて実行する作動開始遅延手段と、前記他方のドアの動作後半における減速開始タイミングを前記一方のドアの動作後半における減速開始タイミングより所定の第3時間だけ遅らせる減速開始遅延手段と、を備えることを特徴としている。
【0009】
かかる構成を備える車両用パワースライドドアの制御装置によれば、左右両側のドアに対する作動要求が同時もしくは比較的近いタイミングで入力されても、前記作動時間遅延手段により、左右のパワースライドドアで、消費電流のピークが時間的にずれるようになるので、左右両側のパワースライドドアの消費電流の最大値が抑制される。また、前記減速開始遅延手段により、後行するドアの動作後半における減速開始タイミングが、先行するドアの動作後半における減速開始タイミングより所定の第3時間だけ遅れ、作動タイミングの左右差が縮小されるので、ユーザに与える違和感が緩和される。
【0010】
また、上記車両用パワースライドドアの制御装置において、バッテリーの電圧状態と、電流負荷状態とをモニタリングするモニタリング手段と、モニタリングされた前記電圧状態と前記電流負荷状態とに応じて、前記第2時間および前記第3時間の双方又は一方を補正する設定時間補正手段と、をさらに備えるものであってもよい。
【0011】
かかる構成を備える車両用パワースライドドアの制御装置によれば、バッテリー電圧状態とバッテリー消費電流状態がパワースライドドアの作動に不利な状態である場合に、パワースライドドアによる消費電流の最大値をさらに大きく抑制することができるので、左右両側のドアの作動を確実に確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、左右両側のドアが互いに近いタイミングで開動作又は閉動作を開始した際に発生する消費電流のピークがいずれのタイミングで発生するものであっても抑制可能であり、ドアの開閉動作全体に亘ってバッテリーの過大な電圧低下を防止することができる。また、作動要求スイッチの入力タイミングの左右差以上にドアの作動タイミングの左右差が生じることによりユーザが感じる違和感も抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用パワースライドドアの制御装置が適用されたシステム構成図である。
【図2】左右何れかのパワースライドドアを単独で全開から全閉まで作動させた際のドアの移動速度と、そのときのドアの作動に費やされる消費電流を示すタイムチャートである。
【図3】作動開始遅延制御を実行させた場合の左右のドアの移動速度と、そのときの各ドアの作動に費やされる消費電流を示すタイムチャートである。
【図4】作動開始遅延制御および減速開始遅延制御の双方を実行させた場合の左右のドアの移動速度と、そのときの各ドアの作動に費やされる消費電流を示すタイムチャートである。
【図5】ドアを全開から全閉(または全閉から全開)させる際に各パワースライドドア用ECUによって実行される処理動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る車両用パワースライドドアの制御装置について説明する。図1に、本発明の実施形態に係る車両用パワースライドドアの制御装置が適用されたシステムの構成例を示す。このシステムが適用される車両は、後部座席の左右両側にパワースライドドアが設けられたものであり、制御装置は、主に、左側パワースライドドア用制御ユニット10L(以下「左側PSD_ECU10L」という。)と右側パワースライドドア用制御ユニット10R(以下「右側PSD_ECU10R」という。)とから構成される。
【0015】
左側PSD_ECU10Lは、後部座席の左側に設けられたスライドドアの開閉制御を行い、右側PSD_ECU10Rは、後部座席の右側に設けられたスライドドアの開閉制御を行う。各PSD_ECU10L,10Rには、それぞれ、スライドドアモータユニット20L,20R、スライドドアロックユニット30L,30R、ラッチリリースアクチュエータ40L,40R、パワースライドドアメインスイッチ50、パワースライドドア開閉スイッチ60L,60R(以下左右を総括して「パワースライドドア開閉スイッチ60」ともいう。)などが接続されている。
【0016】
スライドドアモータユニット20L,20Rは、それぞれ、駆動用モータ21L,21R、電磁クラッチ22L,22R、ドアセンサ23L,23R等で構成されている。駆動用モータ21L,21Rは、スライドドアを開閉駆動するものであり、電磁クラッチ22L,22Rは、駆動用モータ21L,21Rからスライドドアへの開閉駆動力を断接するものであり、ドアセンサ23L,23Rは、ドア位置等の各種のドアの状態を検出するものである。
【0017】
スライドドアロックユニット30L,30Rは、クローザモータ31L,31R、フルラッチスイッチ32L,32R、ハーフラッチスイッチ33L,33R、ポールスイッチ34L,34R等で構成されている。クローザモータ31L,31Rは、半ドア状態から全閉状態までスライドドアを閉駆動させるものであり、フルラッチスイッチ32L,32Rは、スライドドアが全閉状態より開いているか(フルラッチ状態にあるか)否かを検出ものであり、ハーフラッチスイッチスイッチ33L,33Rは、スライドドアが半ドア状態より開いているか(ハーフラッチ状態にあるか)否かを検出するものである。また、ポールスイッチ34L,34Rは、ポールがラッチと係合しているか否かを検出するものである。
【0018】
ラッチリリースアクチュエータ40L,40Rは、電動モータからなり、スライドドアの全開位置および全閉位置でのロック状態を解除させるものである。パワースライドドアメインスイッチ50は、パワースライドドアを作動可状態(ON状態)又は作動不可状態(OFF状態)に切り替えるためのものであり、このスイッチ50L,50RをON状態にした上で、パワースライドドア開閉スイッチ60L,60Rを操作することで、パワースライドドアの開閉を行うことができる。
【0019】
左側PSD_ECU10Lと右側PSD_ECU10Rは通信線70を介して相互に接続されており、後述する各種の情報(ドアの減速を開始した旨の情報、パワースライドドア開閉スイッチの入力があった旨の情報など)を互いに授受するようになっている。
【0020】
以下、PSD_ECU10L,10Rが実行するパワースライドドアの開閉制御について説明する。
【0021】
図2は、左側のパワースライドドアを全開状態から全閉させるまでのドア移動速度Vと、左側のパワースライドアを作動させるために必要な消費電流iとを示したタイムチャートの一例である。このタイムチャートは、車両を勾配のない場所に駐車してドアに外力を一切加えない状態、つまり外乱のない状態でドアを全開状態から全閉状態まで作動させた場合を示している。右側のパワースライドドアを全開状態から全閉状態まで作動させた場合も上記と同様のタイムチャートを形成するものとする。
【0022】
図2のグラフにおいて、矢印A、矢印Bおよび矢印Cに示すタイミングで消費電流iがピークを形成している。矢印Aに示すピークは、ラッチリリースアクチュエータ(モータ)40L,40R、電磁クラッチ22L,22R、駆動用モータ21L,21Rの電流消費によるものである。一定の時間が過ぎると、消費電流iは主に駆動用モータ21L,21Rだけによるものとなるので小さくなる。その後、矢印Bに示すピークが現れる。このピークは、ドアの機械的な摺動抵抗の一時的な増加により駆動用モータ21L,21Rの消費電流が一時的に増加することによるものである。その後、矢印Cに示すピークが現れる。このピークは、クローザモータ31L,31Rの電流消費およびドア移動停止による駆動用モータ21L,21Rの拘束電流によるものである。
【0023】
一方、図示しないが、一方のパワースライドドアを全閉状態から全開させるまでのドア移動速度Vと、そのパワースライドアを作動させるために必要な消費電流iとをタイムチャートに表した場合でもドアの作動開始直後と作動終了直前に比較的大きなピークが現れる。この場合、ドアの作動開始直後に現れるピークは、ラッチリリースアクチュエータ40L,40R、電磁クラッチ22L,22R、駆動用モータ21L,21Rの電流消費により形成され、作動終了直前に現れるピークは、ドア移動停止による駆動用モータ21L,21Rの拘束電流により形成される。
【0024】
本実施形態では、左右両側のドアが互いに近いタイミングで全開状態(又は全閉状態)から閉動作(又は開動作)を開始し、全閉状態(又は全開状態)に至るまでに、比較的消費電流が大きい矢印A、Cのピークを形成するタイミングをずらすことで、左右両側のパワースライドドアによる消費電流iのピーク値の抑制を図る。
【0025】
例えば、左側のパワースライドドア開閉スイッチ60L(左側のドアに対する作動要求スイッチ)の入力タイミングと、この入力タイミングより遅れて入力される右側のパワースライドドア開閉スイッチ60R(右側のドアに対する作動要求スイッチ)の入力タイミングとの時差t0を検出し、その時差t0が矢印Aに示すピークを形成する時間t1(消費電流iの値が所定値以上を維持している時間:以下この時間を「第1時間t1」という。)以内である場合に、右側のドアの作動開始を第1時間t1から前記時差t0を差し引いて得られる第2時間t2(=t1−t0)だけ遅らせて実行させる(以下このような制御を「作動開始遅延制御」ともいう。)。ここで、第1時間t1は、図2のタイムチャートなどから本制御装置の設計者等により予め決定される時間であり、予め、PSD_ECU10L,PSD_ECU10L,10R内にそれぞれ記憶される。
【0026】
図3のグラフは、このような作動開始遅延制御を実行した場合における、ドア移動速度Vと消費電流iとを示すタイムチャートである。このグラフが示すように、作動開始遅延制御を実行することにより、消費電流iのピークが時間軸の前後にずれる。これにより、各パワースライドアを作動させるために必要な消費電流iの和で表される、左右両側のパワースライドドアに費やす消費電流のピーク値が抑制される。
【0027】
ところで、右側のドアの作動開始を第2時間t2だけ遅らせて実行させると、スライドドア開閉スイッチの入力タイミングの左右差以上にドアの作動タイミングの左右差が生じ、ユーザが違和感を感じ易くなる。本実施形態では、この違和感を抑制するために、遅らせた右側のドアの速度制御を本来のドアの速度制御(右側のドアのみ作動させたときの速度制御)と異なる速度制御を行うことで、左右のドアのタイミング差を緩和する。
【0028】
具体的には、右側のドアの動作後半の減速開始タイミングを左側のドアの動作後半における減速開始タイミングより第3時間t3だけ遅らせることで左右のタイミング差を緩和する(以下このような制御を「減速開始遅延制御」ともいう。)。例えば、図3に示すように、ドアの動作完了直前に矢印Cに示すような消費電流iのピーク値が発生する場合にあっては、第3時間t3は、左右のタイミング差が、第1時間t1から第4時間t4まで短縮されるような値とされる(図4参照)。ここで、第4時間t4は、矢印Cに示すピークを形成している時間(消費電流iの値が所定値以上を維持している時間)である。
【0029】
上記第3時間t3は、前記時差t0に基づいて決定することができる。つまり、前記時差t0と第3時間t3との関係を定めたマップが予めPSD_ECU10L,10Rに記憶されており、PSD_ECU10L,10Rは、このマップと時差t0とから第3時間t3を決定する。時差t0と第3時間t3との関係はシミュレーション、実験等により求めることができる。
【0030】
上記減速開始遅延制御により、左右のタイミング差が、第1時間t1から第4時間t4まで短縮されると、ユーザが違和感を感じ難くなるとともに、図4のタイミングチャートの矢印C、C´´に示すように、左右のドアの作動完了直前に現れる消費電流iのピークが重なることも回避され、両側のパワースライドドアを作動させるために必要な消費電流の最大値も抑制される。
【0031】
なお、上記作動開始遅延制御および減速開始遅延制御では、左側のドアが右側のドアに対して先行して作動する場合について説明したが、右側のドアが左側のドアに対して先行して作動する場合の作動開始遅延制御および減速開始遅延制御は、上記説明において左右を逆にしたものとなる。
【0032】
つぎに、左右両側のパワースライドドアが全開状態から全閉状態になるまでのPSD_ECU10L,10Rの処理動作について、図5のフローチャートに基づいて説明する。なお、第1時間t1と、第3時間t3に係るマップとは予めPSD_ECU10L,10R内に記憶されている。
【0033】
他方のパワースライドドア開閉スイッチの入力(閉動作要求スイッチの入力)があると(ステップST1:YES)、一方のPSD_ECU10は、他方のパワースライドドア開閉スイッチ60の入力(閉動作要求スイッチの入力)があった旨の情報(通知情報)を受信する(ステップST2)。一方のPSD_ECU10は、上記情報の通知を受信すると、当該受信時からの経過時間を一定の間だけ計時する。
【0034】
ステップST3において、一方のPSD_ECU10は、一方のパワースライドドア開閉スイッチ60の入力時(閉動作要求スイッチの入力時)と先行する他方のパワースライドドア開閉スイッチ60の入力時(閉動作要求スイッチの入力時)との時差t0を求め、その時差t0が所定の第1時間t1より短いか否かを判定する。ここで、時差t0は、上記通知情報の受信時からの経過時間に基づき算出する。本ステップST3で肯定判定をした場合は、ステップST4に移り、否定判定した場合は、ステップST9に移る。
【0035】
ステップST4において、一方のPSD_ECU10は、一方のパワースライドドア開閉スイッチ60の入力があった後、第1時間t1から前記時差t0を差し引いて得られる第2時間t2経過後にパワースライドドアの作動を開始する。
【0036】
ステップST5において、一方のPSD_ECU10は、他方のPSD_ECU10からパワースライドドアの減速を開始した旨の情報を受信する。一方のPSD_ECU10は、上記減速制御を開始した旨の情報を受信すると、当該受信時からの経過時間を一定の間だけ計時する。
【0037】
ステップST6において、一方のPSD_ECU10は、他方のドアの閉動作後半における減速開始タイミング(ST5における情報の受信時)から第3時間t3経過したか否かを判定する。この第3時間t3は、既述したように、時差t0と第3時間t3との関係を設定したマップから読み出される。
【0038】
ステップST7において、一方のPSD_ECU10は、ドアの減速制御を開始し、ドアが全閉状態になったところで(ステップST8:YES)、閉動作を終了する。
【0039】
一方、ステップST9において、一方のPSD_ECU10は、ただちに、パワースライドドアの作動をする。
【0040】
ステップST10において、一方のPSD_ECU10は、あらかじめ設定された通常のパワースライドドアの減速開始タイミングであるか否かを判定する。ここで、肯定判定した場合はステップST11に移り、否定判定した場合は本ステップを繰り返し判定する。
【0041】
ステップST11において、一方のPSD_ECU10は、ドアの減速制御を開始し、
ドアが全閉状態になったところで(ステップST8:YES)、閉動作を終了する。
【0042】
以上では全開状態から全閉状態に至るまでのドアの作動について説明したが全閉状態から全開状態に至るまでのドアの作動についても上記と同様の手順により実行される。すなわち、他方のパワースライドドア開閉スイッチの入力(開動作要求スイッチの入力)があると(ステップST1:YES)、一方のPSD_ECU10は、他方のパワースライドドア開閉スイッチ60の入力(開動作要求スイッチの入力)があった旨の情報(通知情報)を受信する(ステップST2)。ステップST3においては、一方のPSD_ECU10は、一方のパワースライドドア開閉スイッチ60の入力時(開動作要求スイッチの入力時)と先行する他方のパワースライドドア開閉スイッチ60の入力時(開動作要求スイッチの入力時)との時差t0を求め、その時差t0が所定の第1時間t1より短いか否かを判定する。ステップST4においては、一方のPSD_ECU10は、一方のパワースライドドア開閉スイッチ60の入力があった後、第2時間t2経過後にパワースライドドアの作動を開始する。ステップST5において、一方のPSD_ECU10は、他方のPSD_ECU10からパワースライドドアの減速を開始した旨の情報を受信する。ステップST6において、一方のPSD_ECU10は、他方のドアの開動作後半における減速開始タイミングから第3時間t3経過したか否かを判定する。ステップST7において、一方のPSD_ECU10は、ドアの減速制御を開始し、ドアが全開状態になったところで(ステップST8:YES)、開動作を終了する。
【0043】
一方、ステップST9においては、一方のPSD_ECU10は、ただちに、パワースライドドアの作動を開始し、ステップST10において、一方のPSD_ECU10は、あらかじめ設定された通常のパワースライドドアの減速開始タイミングであるか否かを判定する。ステップST10において、一方のPSD_ECU10は、ドアの減速制御を開始し、その後、ドアが全開状態になったところで(ステップST8:YES)、開動作を終了する。
【0044】
なお、第1時間t1および第3時間t3については、パワースライドドアが閉動作するときと開動作するときとで、相違させることが望ましく、開動作および閉動作に関してそれぞれ実験等により求められた適切な時間を設定することが望ましい。
【0045】
以上に説明した本実施形態に係る車両用パワースライドドアの制御装置によれば、左右両側のドアに対する作動要求が同時もしくは比較的近いタイミングで入力されても、左右のパワースライドドアで、消費電流のピークが形成されるタイミングがずらされるので、左右両側のパワースライドドアの消費電流の最大値が抑制される。併せて、スイッチ入力タイミングの左右差以上にドアの作動タイミングの左右差が生じることによってユーザが感じる違和感も、減速開始遅延制御が実行されることにより抑制される。
【0046】
<他の実施形態>
既述のシステム構成(図1参照)において、バッテリーの電圧状態と、電流負荷状態とをモニタリングするモニタリング手段としてバッテリー電圧検出装置と、バッテリー消費電流検出装置と、をさらに設け、PSD_ECU10L,10Rが、モニタリングされるバッテリー電圧状態とバッテリー消費電流状態に応じて、第2時間t2および第3時間t3の双方又は一方を補正するようにしてもよい。すなわち、バッテリーの電圧が低いほど、また、電流負荷状態が高いほど、各スライドドアの作動による消費電流iのピーク値のずれを大きくするように、第2時間t2を長くし、第3時間t3を短くする。あるいは、第2時間t2のみを長くし、第3時間t3に対する補正を行わない。あるいは、第2時間t2に対する補正を行わず、第3時間t3を短くする。
【0047】
このような、車両用パワースライドドアの制御装置によれば、バッテリー電圧状態とバッテリー消費電流状態がパワースライドドアの作動に不利な状態にある場合に、両側のパワースライドドアによる消費電流の最大値を比較的大きく抑制することができる。一方、バッテリー電圧状態とバッテリー消費電流状態がパワースライドドアの作動に有利な状態である場合には、両側のパワースライドドアによる消費電流の最大値を比較的小さく抑えながら、ユーザに与える既述の違和感を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、左右両側にパワースライドドアが設けられた車両のパワースライドドア制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
10L 左側PSD_ECU
10R 右側PSD_ECU
60L パワースライドドア開閉スイッチ
60R パワースライドドア開閉スイッチ
70 通信線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右両側に設けられたドアの開閉を制御するものであって、作動要求スイッチの入力によりドアの開動作又は閉動作を開始し、動作後半の所定タイミングでドアを減速させた後、当該ドアを全閉又は全開させる車両用パワースライドドアの制御装置において、
一方のドアに対する作動要求スイッチの入力タイミングと、該入力タイミングより遅れて入力される他方のドアに対する作動要求スイッチの入力タイミングとの時差を検出する時差検出手段と、
前記時差が所定の時間以内である場合に、前記他方のドアの作動開始を、所定の第1時間から前記時差を差し引いて得られる第2時間だけ遅らせて実行する作動開始遅延手段と、
前記他方のドアの開閉動作後半における減速開始タイミングを前記一方のドアの動作後半における減速開始タイミングより所定の第3時間だけ遅らせる減速開始遅延手段と、
を備えることを特徴とする車両用パワースライドドアの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用パワースライドドアの制御装置において、
バッテリーの電圧状態と、電流負荷状態とをモニタリングするモニタリング手段と、
モニタリングされた前記電圧状態と前記電流負荷状態とに応じて、前記第2時間および前記第3時間の双方又は一方を補正する設定時間補正手段と、
をさらに備えることを特徴とする車両用パワースライドドアの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−72216(P2013−72216A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211964(P2011−211964)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】