説明

車両用ブレーキ制御装置

【課題】 リリース時に運転者に与える違和感を低減することができ、乗車フィーリングを向上させる。
【解決手段】 少なくとも一対のブレーキ操作子L1,L2にそれぞれ接続された一対のブレーキ系統と、一対のブレーキ操作子L1,L2のいずれか一方の操作により一対のブレーキ系統の制動力を所定の配分に従って連動制御する制御手段10とを備え、制御手段10は、所定の配分が一方の制動力の増加に伴い他方が低下する連動制御の状態にあっても、一対のブレーキ操作子L1,L2のリリース時に、制動力をともに低下させるように減少制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ制御装置に関する。特に、主として自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)などバーハンドルタイプの車両に搭載可能な車両用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のブレーキ液圧を電気的に制御してブレーキを作動させることが可能な車両用ブレーキ制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されているものは、自動二輪車の前輪と後輪との連動ブレーキにおける制動力配分を、理想制動力配分曲線に対応させて設定するように構成されている。通常、自動二輪車の理想制動力配分曲線は、制動力が小さい範囲では前輪の制動力が上がるにつれて後輪の制動力も上がるが、制動力が大きい範囲では前輪の制動力が上がるにつれて後輪の制動力が下がる傾向となる、山形状を呈する特性を有している。
【特許文献1】特許第3457190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の車両用ブレーキ制御装置では、制動時のみならずリリース時においても理想制動力配分曲線に対応する前輪と後輪との連動したブレーキ制動による減圧制御が行われるようになっていた。このため、例えば、理想制動力配分曲線の最大制動力付近で連動したブレーキ制動が行われている状況から前輪側のブレーキ操作子がリリースされると、後輪側の制動力は、理想制動力配分曲線に対応して前輪側の制動力が減少するにつれて逆に増加する傾向となり、その後、減少するという特性を生じることがある。このような特性の生じたリリースでは、前輪と後輪との制動力が減少していく過程で、後輪側の制動力が一時的に上がるという現象が生じるため、運転者に違和感を与える可能性があり、乗車フィーリングが損われるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、一対のブレーキ系統の制動力が所定の配分に従って連動制御される車両において、リリース時に運転者に与える違和感を低減することができ、乗車フィーリングを向上させることができる車両用ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために創案された本発明は、少なくとも一対のブレーキ操作子と、前記一対のブレーキ操作子にそれぞれ接続された一対のブレーキ系統と、前記一対のブレーキ操作子のいずれか一方の操作により前記一対のブレーキ系統の制動力を所定の配分に従って連動制御する制御手段と、を備えた車両用ブレーキ制御装置であって、前記制御手段は、前記所定の配分が一方の前記ブレーキ操作子の制動力の増加に伴い他方が低下する連動制御の状態にあっても前記一対のブレーキ操作子のいずれか一方が緩められる操作が行われたときは、前記一対のブレーキ系統の制動力を、ともに低下させるように減少制御することを特徴とする。
【0007】
かかる車両用ブレーキ制御装置によると、一対のブレーキ操作子のいずれか一方の操作をすると、制御手段により一対のブレーキ系統の制動力が所定の配分に従って連動制御される。そして、連動制御の実行中に一対のブレーキ操作子のいずれか一方が緩められる操作が行われると、制御手段は、所定の配分が一方のブレーキ操作子の制動力の増加に伴い他方が低下する連動制御の状態にあっても、一対のブレーキ系統の制動力を、ともに低下させるように減少制御する。したがって、理想制動力配分曲線に基づく最大制動力付近で連動制動されている状況において、例えば、一方のブレーキ系統としての前輪側のブレーキ操作子がリリースされたときは、他方のブレーキ系統となる後輪側は、前輪側とともに制動力が漸次減少する状態に減少制御されるようになる。これにより、一対のブレーキ系統(前輪および後輪)の制動力が減少していく過程で、従来のように一方のブレーキ系統(後輪)の制動力が一時的に上がるという現象が生じなくなる。したがって、一対のブレーキ系統の制動力が所定の配分に従って連動制御されている状態からのリリース時に、運転者に違和感を与えることが低減されるようになり、乗車フィーリングが向上するようになる。
【0008】
また、前記制御手段による減少制御は、前記一対のブレーキ系統にかける制動力を同じ比率で低下させる構成とするのがよい。
【0009】
かかる車両用ブレーキ制御装置によると、制御手段による減少制御が、一対のブレーキ系統にかける制動力を同じ比率で低下させるので、一対のブレーキ系統における制動力のスムーズなリリースを実現することができる。したがって、より違和感を与えることが低減されるとともに、乗車フィーリングがより向上するようになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両用ブレーキ制御装置によると、一対のブレーキ系統の制動力が所定の配分に従って連動制御される車両において、リリース時に運転者に与える違和感を低減することができ、乗車フィーリングを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、説明において、同一の要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
参照する図面において、図1は本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置を示すブレーキ液圧回路図、図2は制御装置の主要構成を示すブロック図である。
【0012】
車両用ブレーキ制御装置1は、自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)などバーハンドルタイプの車両に好適に用いられるものであり、図示しない車両の前輪および後輪に付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御する。以下においては、車両用ブレーキ制御装置1を自動二輪車に適用した例について説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ制御装置1は、前輪側Fと後輪側Rとの二つのブレーキ系統を備えて構成され、この二つのブレーキ系統に設けられる各種部品を適宜制御するための制御装置10を備えている。前輪側Fのブレーキ系統には、ブレーキ操作子としてのブレーキレバーL1の操作に応じた液圧を出力するマスタシリンダM1と、図示しない自動二輪車の前輪に装着された前輪ブレーキB1との間に、前輪ブレーキB1のブレーキ液圧を調整可能なブレーキ液圧調整手段E1が設けられている。また、後輪側Rのブレーキ系統には、ブレーキ操作子としてのブレーキペダルL2の操作に応じた液圧を出力するマスタシリンダM2と、図示しない自動二輪車の後輪に装着された後輪ブレーキB2との間に、後輪ブレーキB2のブレーキ液圧を調整可能なブレーキ液圧調整手段E2が設けられている。このように、車両用ブレーキ制御装置1は、前輪ブレーキB1および後輪ブレーキB2の二系統から構成されるが、各系統は同一の構成からなるので、以下においては主として前輪ブレーキB1に係る系統について説明し、適宜後輪ブレーキB2に係る系統について説明する。
【0013】
マスタシリンダM1は、ブレーキ液を収容する図示しないブレーキ液タンク室が接続された図示しないシリンダを有しており、シリンダ内にはブレーキレバーL1の操作によりシリンダの軸方向へ摺動してブレーキ液を流出する図示しないロッドピストンが組み付けられている。ここで後輪側RのマスタシリンダM2には、ブレーキペダルL2が接続されている点が異なっている。これらマスタシリンダM1,M2からの液圧路には、ブレーキ液圧を検出する液圧検出センサ11a,22aが設けられている。液圧検出センサ11a,22aの計測結果は、制御装置10に随時取り込まれ、かかる制御装置10により、ブレーキレバーL1、ブレーキペダルL2が操作されているか否かが判定される。
【0014】
ブレーキ液圧調整手段E1には、リザーバ2、ポンプ3、ダンパ4、オリフィス5、レギュレータ6および吸入弁7が設けられており、さらに、前輪ブレーキB1および後輪ブレーキB2のそれぞれのポンプ3を駆動するための共通のモータ8を備えている。また、ブレーキ液圧調整手段E1は、前輪ブレーキB1にかかるブレーキ液圧を制御する制御弁手段Vを備えている。
【0015】
なお、以下では、マスタシリンダM1(M2)を通じてレギュレータ6に至るまでの油路を「出力液圧路D1」と称し、レギュレータ6から前輪ブレーキB1に至る油路を「車輪液圧路E」と称する。また、出力液圧路D1からポンプ3に至る油路を「吸入液圧路J」と称し、ポンプ3から車輪液圧路Eに至る油路を「吐出液圧路G」と称し、さらに、車輪液圧路Eからリザーバ2に至る油路を「開放路H」と称する。
【0016】
制御弁手段Vは、車輪液圧路Eを開放しつつ開放路Hを遮断する状態、車輪液圧路Eを遮断しつつ開放路Hを開放する状態および車輪液圧路Eを遮断しつつ開放路Hを遮断する状態を切り換える機能を有しており、入口弁12、出口弁13、チェック弁14を備えて構成されている。
【0017】
入口弁12は、車輪液圧路Eに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁12は、通常時に開いていることで、マスタシリンダM1から出力液圧路D1を通じて前輪ブレーキB1へブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁12は、前輪がロックしそうになったときに制御装置10により閉塞される(アンチロックブレーキ制御)ことで、マスタシリンダM1から前輪ブレーキB1に伝達されるブレーキ液圧を遮断する。
【0018】
出口弁13は、車輪液圧路Eと開放路Hとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁13は、通常時に閉塞されているが、車輪がロックしそうになったときに制御装置10により開放される(アンチロックブレーキ制御)ことで、前輪ブレーキB1に作用するブレーキ液圧をリザーバ2に逃がす。
【0019】
チェック弁14は、入口弁12に並列に接続されている。このチェック弁14は、前輪ブレーキB1側からレギュレータ6側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、ブレーキレバーL1からの入力が解除された場合に、入口弁12を閉じた状態にしたときにおいても、前輪ブレーキB1側からレギュレータ6側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0020】
リザーバ2は、開放路Hに設けられており、出口弁13が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ2と吸入液圧路Jとの間には、リザーバ2側からポンプ3側へのブレーキ液の流入のみを許容するチェック弁2aが介設されている。
【0021】
ポンプ3は、出力液圧路D1に通じる吸入液圧路Jと車輪液圧路Eに通じる吐出液圧路Gとの間に介設されており、前記のように、リザーバ2で貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Gに吐出する機能を有している。このようなポンプ3の作動により、車輪液圧路Eに対してブレーキ液圧が伝達される。また、リザーバ2に吸収されたブレーキ液が、吐出液圧路Gを介してマスタシリンダM1に戻されたり、車輪液圧路Eを経由して前輪ブレーキB1に供給される。なお、ブレーキレバーL1によるブレーキ操作終了後には、後記するカット弁6aが車輪液圧路Eから出力液圧路D1へのブレーキ液の流入を許容することで、車輪液圧路Eに流入したブレーキ液が出力液圧路D1を通じてマスタシリンダM1に戻されるようになっている。
【0022】
なお、ダンパ4およびオリフィス5は、その協働作用によってポンプ3から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動を減衰させている。これにより、当該脈動に起因する作動音も小さくなる。
【0023】
レギュレータ6は、出力液圧路D1から車輪液圧路Eへのブレーキ液の流入を許容する状態および遮断する状態を切り換える機能と、出力液圧路D1から車輪液圧路Eへのブレーキ液の流入が遮断されているときに車輪液圧路Eおよび吐出液圧路Gのブレーキ液圧を設定値以下に調節する機能とを有しており、カット弁6a、チェック弁6bおよびリリーフ弁6cを備えて構成されている。
【0024】
カット弁6aは、マスタシリンダM1に通じる出力液圧路D1と前輪ブレーキB1に通じる車輪液圧路Eとの間に介設された常開型の電磁弁であり、出力液圧路D1から車輪液圧路Eへのブレーキ液の流入を許容する状態および遮断する状態を切り換えるものである。このカット弁6aは、ポンプ3の作動時に遮断(閉弁)されるように、制御装置10により制御されるようになっており、マスタシリンダM1からのブレーキ液圧が、出力液圧路D1から車輪液圧路Eに直接伝達されるのを遮断するようになっている。これにより、ブレーキ液は、後記するように出力液圧路D1から吸入液圧路J(吸入弁7)を通じてポンプ3に吸入される。また、カット弁6aは、ポンプ3の停止に伴って消磁され、連通(開弁)される。これにより、車輪液圧路Eからカット弁6aを通じてブレーキ液が出力液圧路D1に戻される。
【0025】
チェック弁6bは、カット弁6aに並列に接続されている。このチェック弁6bは、出力液圧路D1から車輪液圧路Eへのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、失陥等により、仮に、カット弁6aが閉じられた状態でロックした場合でも、出力液圧路D1から車輪液圧路Eへのブレーキ液の流入を許容する。
【0026】
リリーフ弁6cは、カット弁6aに機能として付加されており、カット弁6aの電磁コイル(図示せず)に与える電流値を制御することで開弁圧を制御し、車輪液圧路Eおよび吐出液圧路Gのブレーキ液圧が設定値以上になるのに応じて開弁する。
【0027】
吸入弁7は、吸入液圧路Jに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Jを開放する状態および遮断する状態を切り換えるものである。吸入弁7は、ポンプ3の作動に伴って制御装置10により開放(開弁)され、また、ポンプ3の停止に伴って遮断(閉弁)される。また、吸入液圧路Jには、ブレーキ液を貯留する貯留室7aが設けられている。
【0028】
制御装置10は、主として前記した制御弁手段Vの入口弁12、出口弁13、レギュレータ6、吸入弁7およびモータ8の作動を制御するようになっており、二つのブレーキ系統における制動力を主として連動して調整制御する。つまり、ブレーキレバーL1、ブレーキペダルL2のいずれか一方が操作されたときに、操作された側と異なる側のブレーキ系統における前輪ブレーキB1または後輪ブレーキB2に対して制動力を付与する連動制御を行う。
【0029】
次に、制御装置10において制動力の連動制御に関連する部分の構成について図2および図1を参照して説明する。制御装置10は、前輪側Fのブレーキ液圧調整手段E1に対応して前輪目標圧演算手段15a、前輪液圧偏差演算手段16aおよび前輪側制御部17aを備えるとともに、後輪側Rのブレーキ液圧調整手段E2に対応して後輪目標圧演算手段15b、後輪液圧偏差演算手段16bおよび後輪側制御部17bを備えている。この制御装置10においても前輪側Fと後輪側Rに対応する構成が同一であるので、以下では、ブレーキレバーL1が操作されることにより制動力の付与された前輪ブレーキB1に連動して、後輪側Rの後輪ブレーキB2が連動制御される場合について説明する。
【0030】
後輪目標圧演算手段15bは、液圧検出センサ(前輪用)11aの出力信号を受けて後輪目標圧を演算するものである。ここで、後輪目標圧演算手段15bは、後記するように、後輪側制御部17bの制御を受けてブレーキ液圧の状態に応じた後輪目標圧を演算するようになっている。
【0031】
後輪液圧偏差演算手段16bは、後輪目標圧演算手段15bで得られた後輪目標圧と後輪側Rのキャリパ液圧検出センサ22bの出力信号を受けて後輪液圧の偏差を得るものである。
【0032】
後輪側制御部17bは、液圧検出センサ(前輪用)11aの出力信号を受けて、前輪側Fのブレーキ系統のブレーキ液圧が上昇の状態にあるのか、下降の状態にあるのか、あるいは保持の状態にあるのかを検知し、その検知に基づいた後輪目標圧の演算が行われるように、後輪目標圧演算手段15bを制御するとともに、後輪側Rの制御弁手段V等の駆動制御を行うようになっている。
つまり、前輪側Fのブレーキ系統のブレーキ液圧が上昇の状態にあると検知したときは、前輪と後輪との制動力の連動制御が、図3(a)の理想制動力配分曲線(イ)に極めて近似した所定の配分としての配分線(ロ)に基づいて行われるように、後輪目標圧演算手段15bを制御するようになっている。ここで、図3(a)において、横軸が前輪制動力、縦軸が後輪制動力を示している。また、配分線(ロ)において、点線で示した部分が、ブレーキレバーL1の制動力の増加に伴い後輪側Rが保持および低下する連動制御の状態を含む部分である(図3(b),図4(a)(b)において同様)。
【0033】
また、後輪側制御部17bは、液圧検出センサ(前輪用)11aの出力信号により、ブレーキ液圧が下降の状態にあると検知したとき、つまり、ブレーキレバーL1がリリースされたと検知したときに、他方の前輪側制御部17aと協働して、前輪と後輪とにかけられている制動力を、同じ比率でともに低下させるように減少制御する。例えば、図3(b)に示すように、配分線(ロ)上の座標A(X1,Y1)で制動力の連動制御が実行されている状態(ブレーキレバーL1の制動力の増加に伴い後輪側Rが低下する連動制御の状態)で、ブレーキレバーL1が緩められたとすると、後輪側制御部17bおよび前輪側制御部17aは、座標A(X1,Y1)から原点0に向けて前輪と後輪との制動力がともに漸次減少していくように減少制御するようになっている。すなわち、後輪側制御部17bおよび前輪側制御部17aは、原点0と座標A(X1,Y1)とを通る直線(ハ)の関数に基づいて後輪の目標圧が設定されるように、後輪目標圧演算手段15bを制御する。
【0034】
また、例えば、図3(b)に示すように、配分線(ロ)上の座標B(X2,Y2)で制動力の連動制御が実行されている状態で、ブレーキレバーL1が緩められたとすると、後輪側制御部17bおよび前輪側制御部17aは、座標B(X2,Y2)から原点0に向けて前輪と後輪との制動力がともに漸次減少していくように減少制御する。すなわち、後輪側制御部17bおよび前輪側制御部17aは、原点0と座標B(X2,Y2)とを通る直線(ハ’)の関数に基づいて後輪の目標圧が設定されるように、後輪目標圧演算手段15bを制御する。
【0035】
なお、後輪側制御部17bおよび前輪側制御部17aによるこのような制御は、直線(ハ)の関数に基づいて行われるものに限られず、前輪と後輪との制動力をともに低下させるように減少制御するものであればよい。例えば、図4(a)に示すように、原点0と座標A(X1,Y1)とを通る曲線(ニ)の関数(ただし、0<Y<Y1)に基づいて行われるようにしてもよいし、また、同じく原点0と座標A(X1,Y1)とを通る曲線(ホ)の関数(ただし、0<Y<Y1)に基づいて行われるようにしてもよい。このうち、どの関数に基づいた減少制御を行うかについては、車両の速度や路面摩擦等の状況を入力して制御装置10が適宜選択するように構成することもできる。
【0036】
さらに、後輪側制御部17bは、液圧検出センサ(前輪用)11aの出力信号により、ブレーキ液圧が保持の状態にあると検知したとき、今までと同じ特性で後輪目標圧が設定されるように、後輪目標圧演算手段15bを制御する。つまり、ブレーキ液圧が上昇の状態のあとに保持の状態にされたときには、図3(a)の配分線(ロ)に基づいて連動制御が継続されるように後輪目標圧演算手段15bを制御し、また、ブレーキ液圧が下降の状態のあとに保持の状態にされたときには、例えば、図3(b)の直線(ハ)の関数に基づいて制動力の減少制御が行われるように後輪目標圧演算手段15bを制御する。
【0037】
そして、後輪側制御部17bは、前記の各状態に応じた制御を行うべく、後輪液圧偏差演算手段16bで演算した後輪液圧の偏差に基づいて後輪ブレーキB2のブレーキ液圧制御量を定める。そして、後輪側制御部17bは、定めたブレーキ液圧制御量に基づいて後輪側Rの制御弁手段Vおよびレギュレータ6を駆動制御するとともにモータ8を所定量作動制御するようになっている。
【0038】
なお、後輪側制御部17bは、図示はしないが、液圧検出センサ(前輪用)11aの出力信号を受け、かつ、液圧検出センサ(後輪用)22aの出力信号を受けたとき、つまり、ブレーキレバーL1が操作されるとともにブレーキペダルL2が操作されて、後輪側Rのブレーキ系統にも操作力に起因する制動力がかけられたことを検知したときに、入力された後輪ブレーキB2のブレーキ液圧を差し引いた分のブレーキ液圧制御量を定め、前記配分線(ロ)に沿った制動力の連動制御が行われるように、後輪側Rの制御弁手段Vおよびレギュレータ6を駆動制御するとともにモータ8を作動制御する。
【0039】
なお、後輪側制御部17bは、液圧検出センサ(前輪用)11aからの出力信号が所定の値を超えたとき、つまり、前輪側Fのブレーキ系統にかけられた制動力が所定の制動力となったときにはじめて、後輪側Rのブレーキ系統に制動力を付与すべく連動制御を行うように構成することもできる。
【0040】
また、制御装置10は、前輪または後輪がロック状態に陥りそうになる状況が生じたときに、アンチロックブレーキ制御を行う。例えば、制御装置10は、制動力の連動制御の実行中に、前輪のブレーキ液圧が上昇して、前輪制動力が図示しないロック領域に入りそうになることをスリップ率などにより検出すると、前輪側Fの制御弁手段Vおよびモータ8を作動させて前輪ブレーキB1へのブレーキ液圧を増減圧させて、アンチロックブレーキ制御に入る。なお、アンチロックブレーキ制御は、前輪と後輪とで独立して行われるようになっている。
【0041】
次に、このような構成よりなる車両用ブレーキ制御装置1の動作を、図5のフローチャートを参照して説明する。以下では、ブレーキレバーL1の操作により、後輪側Rが連動制御される場合について説明する。
この車両用ブレーキ制御装置1では、ブレーキレバーL1、ブレーキペダルL2の操作された側の液圧を検出して、その液圧の状態が今までの状態から上昇の状態にあるのか、下降の状態にあるのか、あるいは保持の状態にあるのかを検出して、その状態にあった制御を行うようになっており、ブレーキレバーL1、ブレーキペダルL2の操作された側の液圧により、運転者の要求している制御を判断して前記した連動制御や減少制御を行うようになっている。
【0042】
はじめに、走行中にブレーキレバーL1の操作がなされると、マスタシリンダM1から出力液圧路D1を通じて前輪ブレーキB1に油圧が供給されて、前輪がブレーキ制動される。このとき、液圧検出センサ11aによりブレーキ液圧が検出され(ステップS1)、その検出信号が後輪目標圧演算手段15bおよび後輪側制御部17bに送られる。
【0043】
ここで、後輪側制御部17bは、液圧検出センサ11aの検出信号を受けて、前輪側Fのブレーキ系統のブレーキ液圧が今までの状態より上昇の状態にあるのか、下降の状態にあるのか、あるいは保持の状態にあるのかを判定する(ステップS2)。なお、今までの状態のブレーキ液圧が抽出されていない場合には、所定の時間を置いて連続抽出した二つのデータにより、ブレーキ液圧がどの状態にあるのかを判定する。
【0044】
まず、ステップS2でブレーキ液圧が上昇の状態、つまり、ブレーキレバーL1が引かれて制動要求がある状態であると判定されると、後輪側制御部17bは、図3(a)に示した配分線(ロ)に基づいて前輪と後輪との制動力の連動制御が行われるよう、配分特性に従った後輪目標圧が設定されるように後輪目標圧演算手段15bを制御する(ステップS3)。これにより、後輪目標圧演算手段15bは、液圧検出センサ11aにより入力された検出信号から後輪目標圧を演算し、演算した後輪目標圧を後輪液圧偏差演算手段16bに出力する。このとき、キャリパ液圧検出センサ22b(後輪側)により後輪側Rのブレーキ液圧が検出され(ステップS4)、その検出信号が後輪液圧偏差演算手段16bに出力される。
【0045】
後輪液圧偏差演算手段16bは、後輪目標圧演算手段15bから入力した後輪目標圧と後輪側Rのキャリパ液圧検出センサ22bで検出された出力信号を受けて、後輪液圧の偏差を演算し(ステップS5)、演算した後輪液圧の偏差を後輪側制御部17bに出力する。
【0046】
後輪側制御部17bは、後輪液圧偏差演算手段16bで演算された後輪液圧の偏差に基づいて後輪ブレーキB2のブレーキ液圧制御量を決定し(ステップS6)、これに基づいて制御弁手段V等の作動制御を行う(ステップS7)。
このようにして、ブレーキレバーL1が引かれて制動要求がある場合の制御が行われる。
【0047】
次に、ステップS2でブレーキ液圧が下降の状態、つまり、ブレーキレバーL1がリリースされたと判定されると、ステップS9に移行し、後輪側制御部17bは、減圧特性を演算してこれに対応した後輪目標圧が設定されるように後輪目標圧演算手段15bを制御する。具体的には、後輪側制御部17bは、前輪側制御部17aと協働して、例えば、図3(b)に示した直線(ハ)の関数に基づいて前輪と後輪とにかけられている制動力が、同じ比率でともに低下する状態となるように、後輪目標圧演算手段15bを制御する。その後、ステップS4からステップS7の制御が行われ、ブレーキレバーL1がリリースされた場合の制御が行われる。
【0048】
また、ステップS2でブレーキ液圧が保持の状態であると判定されると、ステップS8に移行し、後輪側制御部17bは、今までと同じ特性で後輪目標圧が設定されるように、後輪目標圧演算手段15bを制御する。つまり、ブレーキ液圧が上昇の状態のあとに保持の状態とされたときには、図3(a)の配分線(ロ)に基づいて連動制御が継続されるように後輪目標圧演算手段15bを制御し、また、ブレーキ液圧が下降の状態のあとに保持の状態とされたときには、例えば、図3(b)の直線(ハ)の関数に基づいて制動力の減少制御が行われるように後輪目標圧演算手段15bを制御する。
【0049】
ここで、リリースの途中でブレーキレバーL1が再び握られる操作が行われたときには、ステップS2でブレーキ液圧が上昇の状態にあると判定され、ステップS3〜ステップS7の制御が行われる。このとき、例えば、図4(b)に示すように、原点0と座標A(X1,Y1)とを通る直線(ハ)の関数に基づいてリリースが行われているときに、座標C(X3,Y3)の時点でブレーキレバーL1が再び握られる操作が行われたとすると、後輪目標圧は、この座標C(X3,Y3)に対応する配分線(ロ)上の座標C1(X13,Y13)から座標C2(X23,Y23)の間において、適宜設定される。そして、この設定された後輪目標圧に基づいて、後輪側制御部17bが後輪側Rのブレーキを連動制御する。
また、図4(b)に示すように、前記と同様の直線(ハ)の関数に基づいてリリースが行われているときに、原点0に近づいた座標D(X4,Y4)の時点でブレーキレバーL1が再び握られる操作が行われたとすると、後輪目標圧は、この座標D(X4,Y4)に対応する配分線(ロ)上の座標D1(X14,Y14)から座標D2(X24,Y24)の間において、適宜設定される。
【0050】
なお、後輪側RのブレーキペダルL2が操作されたときも前記と同様に制御が行われるようになっており、液圧検出センサ(後輪用)22aの出力信号に基づいて、前輪側制御部17aが前記の各状態を判定し、その判定に基づいて前輪目標圧演算手段15aを制御する。そして、前輪目標圧演算手段15aで演算された目標液圧と前輪側Fのキャリパ液圧検出センサ11bからの出力信号により前輪液圧偏差演算手段16aが前輪液圧の偏差を演算し、この演算された前輪液圧の偏差により前輪側制御部17aが前輪ブレーキB1のブレーキ液圧制御量を定めて、この定めたブレーキ液圧制御量に基づき前輪側制御部17aが制御弁手段Vおよびレギュレータ6を駆動制御するとともにモータ8を所定量作動制御する。
【0051】
また、ブレーキレバーL1、ブレーキペダルL2の双方が同時に操作されて、各ブレーキ系統に接続された前輪ブレーキB1,後輪ブレーキB2による前輪と後輪との双方のブレーキ制動が行われたときには、例えば、前輪側FのブレーキレバーL1の入力を基準として、後輪目標圧演算手段15bで後輪目標圧が演算され、さらに後輪液圧偏差演算手段16bで演算された後輪液圧の偏差に応じて後輪のブレーキ液圧制御量が演算され、そのブレーキ液圧制御量に基づいて、後輪側Rの制御弁手段Vが駆動制御されるとともにモータ8が駆動制御される。
【0052】
以上説明した車両用ブレーキ制御装置1によれば、ブレーキレバーL1、ブレーキペダルL2のいずれか一方の操作をすると、制御装置10(前輪側制御部17a,後輪側制御部17b)により制動力が所定の配分に従って連動制御される。そして、連動制御の実行中に、例えば、ブレーキレバーL1が緩められる操作が行われると、制御装置10(前輪側制御部17a,後輪側制御部17b)は、所定の配分がブレーキレバーL1の制動力の増加に伴い後輪側Rの制動力が低下する連動制御の状態にあっても、前輪側Fおよび後輪側Rのブレーキ系統の制動力を、ともに低下させるように減少制御する。したがって、リリース時に、従来のように後輪側Rのブレーキ系統の制動力が一時的に上がるという不具合が生じることがない。したがって、前輪側Fと後輪側Rとの制動力が所定の配分に従って連動制御されている状態からのリリース時に、運転者に違和感を与えることが低減されるようになり、乗車フィーリングが向上するようになる。
【0053】
また、制御装置10による減少制御が、前輪側Fおよび後輪側Rにかける制動力を同じ比率で低下させるので、制動力のスムーズなリリースを実現することができる。したがって、より違和感を与えることが低減されるとともに、乗車フィーリングがより向上するようになる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することが可能である。
例えば、ブレーキレバーL1から前輪ブレーキB1に通じる出力液圧路D1が分離弁により連通あるいは遮断され、この分離弁の連通あるいは遮断のいずれの状態においても、前輪ブレーキB1側においてブレーキ液の液圧による制動動作が可能な車両に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置を示すブレーキ液圧回路図である。
【図2】制御装置の主要構成を示すブロック図である。
【図3】(a)(b)は前輪と後輪との制動力特性を示す図である。
【図4】(a)(b)は前輪と後輪との制動力特性を示す図である。
【図5】連動制御を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1 車両用ブレーキ制御装置
2 リザーバ
3 ポンプ
6 レギュレータ
7 吸入弁
8 モータ
10 制御装置
12 入口弁
13 出口弁
17a 前輪側制御部
17b 後輪側制御部
B1 前輪ブレーキ
B2 後輪ブレーキ
E1,E2 ブレーキ液圧調整手段
L1 ブレーキレバー
L2 ブレーキペダル
M1,M2 マスタシリンダ
V 制御弁手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対のブレーキ操作子と、
前記一対のブレーキ操作子にそれぞれ接続された一対のブレーキ系統と、
前記一対のブレーキ操作子のいずれか一方の操作により前記一対のブレーキ系統の制動力を所定の配分に従って連動制御する制御手段と、を備えた車両用ブレーキ制御装置であって、
前記制御手段は、前記所定の配分が一方の前記ブレーキ操作子の制動力の増加に伴い他方が低下する連動制御の状態にあっても前記一対のブレーキ操作子のいずれか一方が緩められる操作が行われたときは、前記一対のブレーキ系統の制動力を、ともに低下させるように減少制御することを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御手段による減少制御は、前記一対のブレーキ系統にかける制動力を同じ比率で低下させることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−312372(P2006−312372A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135657(P2005−135657)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】