説明

車両用ブレーキ装置の制御装置

【課題】倍力制動装置を小型化しつつ、倍力制動装置で発生できる制動力以上の制動力を得られるようにする。
【解決手段】ブレーキ操作量が増大する要求制動力の増大時に、要求制動力が、ポンプで制動用液圧を発生する車輪別制動手段によるポンプアップ許可制動力を超えたときに、該ポンプの駆動を開始し、要求制動力が倍力制動装置で発生される制動用液圧(マスタ圧)の上限値付近に設定された設定値に達したときに、マスタ圧を前記ポンプで昇圧した制動液圧をホイールシリンダに供給するポンプアップ制御を行う(S3,S4,S6,S7,S8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作力を倍力した制動力を車輪に付与する倍力制動装置と、ポンプで発生させた制動力を車輪毎に独立して付与して車両挙動安定化制御等を行う車輪別制動装置と、を備えた車両用ブレーキ装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、制動操作力を電力によって倍力した制動力を発生する電動式倍力制動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−274685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の電動式倍力制動装置は、緊急時等に要求される高制動力と応答性を単体で満たすように、駆動部の電気容量設計がなされている。そのため、駆動モータは大型化し、駆動段の電流容量も肥大化して放熱機構やシステム全体の容積が大きくなり、車両レイアウトの障害となり、製造コストも増大する。
【0005】
ブースト負圧を用いる真空倍力装置でも同様に、高制動力を単体で満たすためには、大型化が避けられない。
走行時のサービスブレーキ機能として、上記緊急時のように大きな制動力を必要とする頻度は低く、不合理な構成となっていた。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、別系統の車輪別制動装置を併用することにより、緊急時等に要求される高制動力を確保しつつ倍力制動装置を小型化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、以下のように構成した。
ブレーキ操作力を倍力して発生させた制動用液圧を車輪のホイールシリンダに供給して、少なくとも所定の車輪に制動力を付与する倍力制動手段と、ポンプで発生した制動用液圧を車輪のホイールシリンダに供給して、車輪毎に独立して制動力を付与する車輪別制動手段と、を含んで構成される車両用ブレーキ装置に適用される制御装置であって、以下の手段を含んで構成とした。
【0008】
ブレーキ操作に応じた所定の制動条件で、前記少なくとも所定の車輪のホイールシリンダに対し、前記倍力制動手段からの制動用液圧に、前記車輪別制動手段で発生させた制動用液圧を加えて増圧した制動用液圧を供給する制動制御手段
【発明の効果】
【0009】
少なくとも所定の車輪が、倍力制動手段で付与される制動力に車輪別制動手段で発生させた制動力を加えて制動することができるため、倍力制動手段単体での必要な制動力を緊急時等に必要な高制動力より少なくすることができる。このため、倍力制動手段およびこれに付随する機構を小型化でき、車両のレイアウト性が向上し、製造コストも低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の全体構成を示す図である。
【図2】同上実施形態のブレーキペダル操作時の制動制御を示すフローチャートである。
【図3】同上ブレーキペダル操作時の制動制御における各部状態の変化を示すタイムチャートである。
【図4】同上ブレーキペダル操作時の制動制御におけるマスタ圧制御機構とホイール圧制御機構の制御期間とブレーキ液圧との関係を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る車両用ブレーキ装置の制御装置の実施形態を、図に基づいて説明する。
実施形態の全体構成を示す図1において、ブレーキ制御システム1は、マスタ圧制御装置3、マスタ圧制御機構4、ホイール圧制御装置5、ホイール圧制御機構6、インプットロッド7、ブレーキペダルセンサ8、マスタシリンダ9、リザーバタンク10、及びホイールシリンダ11a〜11dとから構成される。
【0012】
第1の加減圧部は、ブレーキペダル100、インプットロッド7を含み、第2の加減圧部は、マスタ圧制御装置3、マスタ圧制御機構4、プライマリピストン40を含む。
マスタ圧制御装置3とホイール圧制御装置5とは双方向の通信を行っており、制御指令、車両状態量(ヨーレート、前後加速度、横加速度、ハンドル舵角、車輪速、車体速、故障情報、作動状態等)を共有している。
【0013】
マスタ圧制御装置3は、ブレーキペダルセンサ8の信号、ホイール圧制御装置5からの制御指令等に基づいて駆動モータ20を制御する。
マスタ圧制御機構4は、マスタ圧制御装置3の制御指令に従って、プライマリピストン40を押圧するものであり、回転トルクを発生する駆動モータ20、この駆動モータの回転トルクを増幅する減速装置21と、回転動力を並進動力に変換する回転−並進変換装置25とからなる。
【0014】
ホイール圧制御装置5は、先行車との車間距離、道路情報、車両状態量に基づいて各輪で発生させるべき目標ブレーキ力を算出し、この結果に基づいてホイール圧制御機構6を制御する。
【0015】
ホイール圧制御機構は、ホイール圧制御装置5の制御指令に従って、マスタシリンダ9で加圧された作動液の各ホイールシリンダ11a〜11dへの供給を制御する。
ここで、本実施形態ではマスタ圧制御機構4とホイール圧制御機構6との併用によりブレーキ液圧を高めることができるため、その分、ブレーキ発生量の小さい小型・軽量化されたマスタ圧制御機構4を使用する。
【0016】
インプットロッド7は、ブレーキペダル100に連結され、その片端がプライマリ液室42に挿入されている。
ブレーキペダルセンサ8は、運転者のペダル操作量から要求制動力を検出するセンサであり、インプットロッド7の変位量(ブレーキ操作量)を検出する。
【0017】
マスタシリンダ9は、プライマリピストン40によって加圧されるプライマリ液室42と、セカンダリピストン41によって加圧されるセカンダリ液室43の二つの加圧室を有するタンデム式のものである。
【0018】
プライマリピストン40の推進によって各加圧室で加圧された作動液は、マスタ配管102a,102bを経由してホイール圧制御機構6に供給される。リザーバタンク10は、図示しない隔壁によって仕切られた少なくとも二つの液室を有するものであり、各液室はマスタシリンダ9の各加圧室と連通可能に接続されている。
【0019】
ホイールシリンダ11a〜11dは、図示しないシリンダ、ピストン、パッド等から構成されており、ホイール圧制御機構6から供給された作動液によってピストンが推進され、ピストンに連結されたパッドがディスクロータ101a〜101dに押圧される。ディスクロータは、車輪と一体に回転するため、ディスクロータに作用するブレーキトルクは、車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。なお、図示されたFL輪は左前輪、FR輪は右前輪、RL輪は左後輪、RR輪は右後輪を意味している。
【0020】
次に、マスタ圧制御機構4の構成と動作について説明する。駆動モータ20は、マスタ圧制御装置3の制御指令に基づいて供給される電力によって動作し、所望の回転トルクを発生する。駆動モータには、位置センサ(図示省略)が備わっており、この信号がマスタ圧制御装置3に入力されるように構成されている。これにより、マスタ圧制御装置3は、位置センサの信号に基づいて駆動モータ20の回転角を算出することができ、これに基づいて回転−並進変換装置25の推進量、すなわちプライマリピストン40の変位量を算出することができる。
【0021】
減速装置21は、駆動モータ20の回転トルクを、減速比分だけ増幅させるものである。
回転−並進変換装置25は、駆動モータ20の回転動力を並進動力に変換してプライマリピストン40を押圧するものである。変換の機構としては、ラックピニオン、ボールネジ等を用いることが適当であるが、図示された例では、ボールネジによる方式を採用している。
【0022】
ボールネジナット26の外側には、従動側プーリ23が嵌合されており、その回転によるボールネジナット26の回転によりボールネジ軸27が並進運動し、この推力によって可動部材28を介してプライマリピストン40が押圧される。
【0023】
可動部材28には、片端が固定部に接続された戻しバネ29の一端が係合されており、ボールネジ軸27の推力と逆方向の力が可動部材を介してボールネジ軸27に作用するように構成されている。
【0024】
次に、インプットロッド7の推力の増幅について説明する。運転者のブレーキ操作によるインプットロッド7の変位量に応じてプライマリピストン40を変位させることにより、インプットロッド7の推力が増幅される形でプライマリ液室42が加圧される。その増幅比(以下「倍力比」という。)は、インプットロッド7とプライマリピストン40の変位量の比、インプットロッド7とプライマリピストン40の断面積の比等によって任意の値に決定される。
【0025】
特に、インプットロッドの変位量と同量だけプライマリピストンを変位させる場合、インプットロッドの断面積を「AIR」とし、プライマリピストンの断面積を「APP」とすると、倍力比は、(AIR+APP)/AIRとして一意に定まる。すなわち、必要な倍力比に基づいて、AIRとAPPを設定し、その変位量がインプットロッドの変位量に等しくなるようにプライマリピストン40を制御することで、常に一定の倍力比を得ることができる。なお、プライマリピストンの変位量は、図示しない位置センサの信号に基づいてマスタ圧制御装置3によって算出される。
【0026】
以上述べたとおり、運転者のブレーキ要求に従うインプットロッド7の変位量に応じて制動用液圧(マスタ圧)が増減圧されるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0027】
次に、ホイール圧制御機構6の構成と動作について説明する。
ゲートOUT弁50a,50bは、マスタシリンダ9とIN弁52a〜52dとの間に備えられ、マスタシリンダで加圧された作動液をホイールシリンダ11a〜11dに供給する際に開弁される。
【0028】
IN弁52a〜52dは、ホイールシリンダ11a〜11dの上流に備えられ、マスタシリンダ9又は後述するポンプ54a,54bで加圧された作動液をホイールシリンダ11a〜11dに供給する際に開弁される。
【0029】
OUT弁53a〜53dは、ホイールシリンダの下流に備えられ、ホイール圧を減圧する際に開弁され、ホイールシリンダ11a〜11dの作動液を低圧源である補助リザーバ60a,60bにリリーフする。
【0030】
ポンプ54a,54bは、モータ55に連結されてホイール圧制御装置5の制御指令に基づき駆動され、通常は、例えば車両挙動安定化制御(VDC)等を行うために、作動液を昇圧する。
【0031】
マスタ圧センサ56,57は、プライマリ液室42、セカンダリ液室43出口直後の作動圧(制動用液圧,マスタ圧)を検出する。
なお、ゲートOUT弁、ゲートIN弁、IN弁、OUT弁は、いずれもソレノイド(図示省略)への通電によって弁の開閉が行われる電磁式であり、ホイール圧制御装置5が行う電流制御によって各弁の開閉量を独立に調節できるものである。
【0032】
本実施形態では、ゲートOUT弁50a,50bとIN弁52a〜52dが常開(非通電時開)弁、OUT弁53a〜53dが常閉(非通電時閉)弁である。
次に、上記基本的なシステム構成におけるブレーキ動作を説明する。
【0033】
運転者がブレーキペダル100を踏み込み操作すると、上述したようにマスタ圧制御装置3及びマスタ圧制御機構4によってブレーキ操作力を倍力されたマスタ圧が発生する。このとき、ホイール圧制御装置5及びホイール圧制御機構6により、ゲートOUT弁50a,50b及びIN弁52a〜52dが開弁され、OUT弁53a〜53dが閉弁される。これにより、マスタ圧が減圧されることなくゲートOUT弁50a,50b及びIN弁52a〜52dを介してホイールシリンダ11a〜11dに供給され、ブレーキ操作量に応じたブレーキ力が発生する。
【0034】
このように、マスタ圧制御装置3及びマスタ圧制御機構4と、ホイール圧制御装置5及びホイール圧制御機構6(ポンプ駆動系を除く)とにより、倍力制動手段が構成される。
一方、上述した車両状態量(ヨーレート、前後加速度、横加速度、ハンドル舵角、車輪速、車体速、故障情報、作動状態等)に基づき、ホイール圧制御装置5からの制御指令により、例えば横滑り抑制等の車両挙動安定化制御(VDC)を行うため、ホイール圧制御機構6は、各ホイールシリンダ11a〜11d毎にホイール圧を独立して制御する。
【0035】
即ち、ポンプ54a,54bを駆動させる一方、IN弁52a〜52dの開弁とOUT弁53a〜53dの閉弁とを制御する。
例えば、車輪毎の要求ホイール圧(要求制動力)に達するまでIN弁52a〜52dを開、OUT弁53a〜53dを閉とし、該ホイール圧を維持する場合は、IN弁52a〜52dを閉じる。
【0036】
さらに要求ホイール圧が増大したときは、該要求ホイール圧に増大するまでIN弁52a〜52dを開き、要求ホイール圧が減少したときは、IN弁52a〜52dを閉じた上で該要求ホイール圧に減少するまでOUT弁53a〜53dを開いて減圧するというように制御する。
【0037】
このように、ホイール圧制御装置5及びホイール圧制御機構6により、車輪別制動手段が構成される。
かかる基本的なシステム構成に加えて、ブレーキ操作量が大きく、要求制動力がマスタ圧での制動力では不足する場合には、ポンプ54a,54bを駆動して得られたポンプアップ圧を不足圧分としてマスタ圧に加えた作動圧が、ホイールシリンダ11a〜11dに供給される構成とする。
【0038】
このため、マスタシリンダ9とポンプ54a,54bの吸入口との間に、常閉のゲートIN弁51a,51bを配設する。
マスタシリンダで加圧された作動液をポンプで昇圧してホイールシリンダ11a〜11dに供給するポンプアップ制御を行う際に、常閉のゲートIN弁51a,51bは開弁される。
【0039】
次に、上記追加された構成を併用して行われるブレーキペダル操作時の制動制御を、図2に示したフローチャート及び図3及び図4のタイムチャートに従って説明する。
ステップS1では、ブレーキペダルセンサ8の検出信号の前回値と最新値とが同一であるかを判定する。ここで、前回値±所定値の範囲(誤差範囲)内にあるときを、同一と設定してある。
【0040】
ブレーキペダルセンサ8の検出信号の前回値と最新値とが同一である、つまりブレーキ操作量が変化していないと判定された場合は、ステップS2へ進みホイール圧を保持する制御を行う。即ち、IN弁52a〜52d及びOUT弁53a〜53dを閉弁に維持する。これにより、ホイールシリンダ11a〜11dに対するホイール圧の給排が止められ、ホイール圧、つまり車輪の制動力が保持される。
【0041】
また、ホイール圧を検出するセンサを設け、検出されたホイール圧がブレーキ操作量に応じた要求ホイール圧に一致するまで、後述するホイール圧増減制御を継続し、実ホイール圧が要求ホイール圧に一致した後、上記ホイール圧保持制御を行う構成としてもよい。
【0042】
ステップS1で、ブレーキペダルセンサ8の検出信号の前回値と最新値とが同一でない、つまりブレーキ操作量が変化していると判定されたときは、ステップS3へ進み、ブレーキペダルセンサ8の検出信号の前回値より最新値の方が大きいとかを判定する。
【0043】
ブレーキペダルセンサ8の検出信号の前回値より最新値の方が大きい、つまり、ブレーキ操作量が増大し、要求制動力が増大していると判定されたときは、ホイール圧を増大する制御を行う。
【0044】
ステップS4では、運転者の要求制動力が、ポンプアップ許可制動力より大であるかを判定する。要求制動力は、例えば、ブレーキペダルセンサ8で検出されるブレーキペダル操作量で求められ、該操作量が、ポンプアップ許可制動力相当に設定された閾値より小であるかを判定する。ここで、ポンプアップ許可制動力相当の閾値とは、マスタ圧制御機構4の出力可能な液圧を上限に設定され(例えば、ブレーキ液圧8Mpa〜12Mpa)、ホイール圧制御機構4のポンプアップ制御の頻繁な作動を抑制するために、当該閾値に不感帯を設けても良い。不感帯を設けることにより、マスタ圧制御機構4とホイール圧制御機構6との切換が頻発することがなく、ブレーキ液圧の切換変動やブレーキ操作の違和感(カクカク感)を可及的に抑制でき運転フィーリングが向上する。また、ホイール圧制御機構6の信頼性(モータ熱によるホイール圧制御装置5への悪影響低減)を高めることができる。
【0045】
要求制動力がポンプアップ許可制動力以下と判定されたときは、ステップS5へ進み、マスタ圧でホイール圧を増大する制御を行う。
即ち、上述したように、ゲートOUT弁50a,50b及びIN弁52a〜52dを開弁し、OUT弁53a〜53dを閉弁して、マスタ圧をホイールシリンダ11a〜11dに供給し、ブレーキ操作量に応じたホイール圧でブレーキ力を発生させる。なお、ゲートIN弁51a,51bは閉弁される。
【0046】
一方、ステップS4で要求制動力が、ポンプアップ許可制動力より大と判定されたときは、ステップS6へ進み、マスタ圧にポンプアップ圧を加えた作動圧でホイール圧を増大する制御を開始する。即ち、ゲートIN弁51aを通電して開弁すると共に、モータ55を通電してポンプ54a,54bの駆動を開始する。
【0047】
これにより、ポンプ54a,54bの吸入口にマスタ圧が導かれ、ポンプ54a,54bによるマスタ圧の昇圧が開始される。しかし、ポンプ回転数(モータ55回転数)の上昇遅れに伴い、昇圧に遅れを生じる。
【0048】
一方、マスタ圧制御機構4は、運転者のブレーキ制御に基づき駆動モータ20を駆動させてプライマリピストン40を変位させて作動圧(ブレーキ圧)を発生させるものであるから、ホイール圧制御機構6と比較してブレーキ液圧の立上り(昇圧)が早い(ブレーキ液圧の応答性が高い)。しかし、上述したように本実施形態ではブレーキ発生量の小さい小型・軽量化されたマスタ圧制御機構4を使用するため、マスタ圧制御機構4だけのブレーキ液圧では、急ブレーキ等で要求されるブレーキ液圧に対して不足する。
【0049】
そこで、後述するように、ブレーキ操作の初期では、マスタ圧制御機構4により、迅速にブレーキ液圧を発生させ、マスタ圧制御機構4にて不足する、もしくは不足すると予測する場合には、ホイール液圧機構6を作動させ、ブレーキ液圧を追加的に昇圧させる。
【0050】
ステップS7では、要求制動力が設定値に達したかを判定する。ここで、設定値はマスタ圧制御機構4により発生しうるマスタ圧の上限値若しくは上限値より少し低い値に設定されている。
【0051】
そして、運転者がブレーキペダル100を踏み込んでブレーキ操作量が増大し、要求制動力がポンプアップ許可制動力から前記設定値に達するまでの間に、ポンプ54a,54bの回転数(モータ55の回転数)が上昇して十分な昇圧機能を確保できる。
【0052】
換言すれば、急ブレーキ操作時に予測されるブレーキ操作量の変化速度に基づいて、要求制動力がポンプアップ許可制動力から前記設定値に達するまでの間に、ポンプ54a,54bの昇圧機能が確保されるように、ポンプアップ許可制動力を設定しておく。
【0053】
ステップS7で要求制動力が設定値に達したと判定されると、ステップS8に進んでゲートOUT弁50a,50bを閉弁する。
これにより、マスタ圧をポンプ54a,54bによって昇圧された作動圧がIN弁52a〜52dを介してホイールシリンダ11a〜11dに供給され、ポンプアップ制御が開始される。
【0054】
このように、マスタ圧の上限値を超えてホイール圧を増圧して急ブレーキ操作時などの要求制動力に応じた大制動力を得ることができる。
ここで、上記のようにポンプ駆動開始後の昇圧遅れを考慮して、マスタ圧制御機構4で発生しうるブレーキ液圧の上限値に達する前にポンプの駆動を開始してポンプ54a,54bの昇圧機能を確保しておくことにより、図3及び図4に示すようにマスタ圧が上限値に達したときには、該昇圧されたポンプ圧が上限値に保持されたマスタ圧に加わる。この結果、要求制動力がマスタ圧相当値を通過する際に、実制動力を段差なくスムーズに増大させることができ、良好な制動フィーリングを確保できる。
【0055】
一方、ゲートOUT弁50a,50bは閉弁されるので、マスタ圧制御機構4にマスタ圧を昇圧した作動圧が反力となって加わることはなく、ブレーキ操作力の反力が増大することを抑制できる。ただし、簡易的には、ステップS8,S9を省略してもよい。
【0056】
図2に戻って、ステップS3の判定がNOであるとき、即ち、ブレーキペダルセンサ8の検出信号の前回値より最新値の方が小さく、ブレーキ操作量が減少していると判定されたときは、ホイール圧を減少する制御を行う。
【0057】
ステップS9では要求制動力が前記設定値以上であるかを判定する。
要求制動力が設定値以上のときは、ポンプアップ制御が行われてホイール圧はマスタ圧より高圧に制御されている。
【0058】
この状態でステップS10では、IN弁52a〜52dを通電により閉弁し、同じくOUT弁53a〜53dを通電により開弁させる。これにより、ホイールシリンダ11a〜11d内の作動液が低圧源にリリーフされてホイール圧が減少して制動力が減少する。
【0059】
ステップS9で要求制動力が設定値より小と判定されたときは、ステップS11へ進んでポンプアップ制御を停止する。即ち、ゲートIN弁51a,51bを閉弁すると共に、ゲートOUT弁50a,50bを開弁する。ステップS10での動作は継続され、引き続きホイール圧は減少される。
【0060】
ステップS12では、要求制動力がポンプアップ許可制動力以下に低下したかを判定し、低下したと判定されたときに、ステップS13でポンプの駆動を停止する。既に、ポンプアップ制御は停止されているが、要求制動力がポンプアップ許可制動力以下に低下するまでの間、ポンプ54a,54bの駆動を停止しておくことにより、ブレーキペダル100を再度踏み込み操作したときに、速やかにポンプアップ制御に切り換えて大制動力を確保することができる。
【0061】
以上のように、本実施形態によれば、急ブレーキ操作時など大制動力を必要とするときに、マスタ圧にポンプアップ圧を加えた作動圧で制動を行う構成としたため、マスタ圧制御機構4を小型化することができる。詳細には、駆動モータ20を小型化でき、駆動段の電気容量、放熱機構やシステム全体の容積を低減でき、車両のレイアウト性向上、製造コスト低減を図れる。
【0062】
特に、マスタ圧制御機構を、所定圧、例えば8MPaを超えるマスタ圧を出力可能として高制動力が満たされるように設計する場合、駆動モータ等を含め、マスタ圧制御機構の大型化が進む傾向がある。
【0063】
このため、前記ステップS8,S10での要求制動力の設定値を前記所定値(例えば8MPa)未満に設定し、要求制動力が該設定値以上の高制動力要求時にポンプアップ制御を行うようにすればよい。これにより、マスタ圧制御機構は、前記高制動力相当値未満のマスタ圧を出力するもので足り小型化を促進できる。
【0064】
本実施形態では、要求駆動力設定用のブレーキ操作量としてブレーキペダルセンサ8で検出されるブレーキペダル100の変位(ストローク)を用いたが、該変位の速度ないし加速度を算出して、変位に代えて、若しくは変位と速度ないし加速度とに基づいてブレーキ操作量として用いてもよい。
【0065】
また、本実施形態では、マスタ圧制御機構4として、電動式の倍力装置を適用したものを示したが、ブースト負圧を用いた真空倍力装置を適用したものにも適用でき、倍力装置の小型化、車両のレイアウト性向上、製造コスト低減を図れる。
【0066】
また、本実施形態では、マスタ圧制御機構(倍力制動手段)により全車輪(前輪および後輪)を制動制御するものに適用したが、相対的に大きな制動力を要求される車輪(例えば、前輪)のみをマスタ圧制御機構(倍力制動手段)で制動し、他の車輪(例えば、後輪)を車輪別制動手段(ポンプアップ圧)で制動するようなものにも適用できる。この場合、マスタ圧制御機構(倍力制動手段)で制動される車輪(例えば、前輪)に対して、車輪別制動手段(ポンプアップ圧)の制動力を付加した制御が行われる。
【符号の説明】
【0067】
1…ブレーキ制御システム、3…マスタ圧制御装置、4…マスタ圧制御機構、5…ホイール圧制御装置、6…ホイール圧制御機構、8…ブレーキペダルセンサ、9…マスタシリンダ、11a〜11d…ホイールシリンダ、25…回転−並進変換装置、42…プライマリ液室、43…セカンダリ液室、50a〜50b…ゲートOUT弁、51a〜51b…ゲートIN弁、52a〜52d…IN弁、53a〜53d…OUT弁、54a,54b…ポンプ、55…モータ、56,57…マスタ圧センサ、60a,60b…補助リザーバ、100…ブレーキペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作力を倍力して発生させた制動用液圧を車輪のホイールシリンダに供給して、少なくとも所定の車輪に制動力を付与する倍力制動手段と、
ポンプで発生した制動用液圧を車輪のホイールシリンダに供給して、車輪毎に独立して制動力を付与する車輪別制動手段と、を含んで構成される車両用ブレーキ装置に適用される制御装置であって、
ブレーキ操作に応じた所定の制動条件で、前記少なくとも所定の車輪のホイールシリンダに対し、前記倍力制動手段からの制動用液圧に、前記車輪別制動機構で発生させた制動用液圧を加えて増圧した制動用液圧を供給する制動制御手段を含んで構成したことを特徴とする車両用ブレーキ装置の制御装置。
【請求項2】
前記所定の制動条件は、要求制動力が設定値以上の高制動力要求時である請求項1に記載の車両用ブレーキ装置の制御装置。
【請求項3】
前記制動制御手段は、ブレーキ操作量に応じた要求制動力が、前記倍力制動手段により発生する制動用液圧の上限値相当の制動力に達する前に、前記ポンプの駆動を開始するように制御する請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ装置の制御装置。
【請求項4】
前記制動制御手段は、前記倍力制動機構で発生した制動用液圧を前記ポンプの吸入口に導いて該ポンプにより昇圧させることにより、該昇圧分を前記車輪別制動機構の制動用液圧として加える請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の車両用ブレーキ装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−56588(P2013−56588A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195249(P2011−195249)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】