説明

車両用ブレーキ装置

【課題】電動式倍力装置のモータを制御する装置の異常時に、他のモータを適正に駆動してブレーキを掛けることができるバックアップ機能を低コストで実現すること。
【解決手段】電動式倍力装置Aが正常時には、ブレーキペダルBPが踏み込まれると、主モータM1が回転部材を回転駆動し、この回転運動が直動変換されてマスタシリンダ30からホイールシリンダWCに液圧が供給され車輪Wに制動力が付与される。ブレーキ作動中に、アンチロック装置10が作動すると共用モータM2が正回転し、第1ワンウエイクラッチH1を介して液圧ポンプ21a,21bが駆動される。主モータM1の駆動異常時には共用モータM2が逆回転し、第2ワンウエイクラッチH2を介して電動式倍力装置Aの回転部材が回転駆動され、液圧がマスタシリンダ30からホイールシリンダWCに供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの駆動力を利用してマスタシリンダの作動液を加圧する電動式倍力装置を備える車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ブレーキ装置として例えば特許文献1に記載のブレーキ制御装置がある。この装置は、電動式倍力装置としてのマスタ圧制御機構と、このマスタ圧制御機構とは別に設けられ、ホイールシリンダ内の圧力を加圧可能なポンプを有する横滑り防止装置としてのホイール圧制御機構とを備える。マスタ圧制御機構が故障の場合に、マスタ圧制御機構への電力供給を遮断し、この時に検出されたブレーキ操作量に基づいてホイール圧制御機構を制御してブレーキを掛ける。即ち、マスタ圧制御機構によるブレーキ制御からホイール圧制御機構によるブレーキ制御に切り換えることで、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−40290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のブレーキ制御装置では、トラクションコントロールや横滑り防止制御を始めとする運転者のブレーキ操作によらない自動加圧機能を必要としないような車両においても、マスタ圧制御機構をバックアップするためだけに自動加圧機能を備えた高価なホイール圧制御機構を備えなければならない。また、本案の様な電動式のマスタ圧制御機構は、それ自体が電子制御による自動加圧機能を備えているのが一般的で、機能の重複により、ブレーキ装置全体のコストが高くなるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電動式倍力装置のモータ駆動の異常時に、他のモータを適正に駆動してブレーキを掛けることができるバックアップ機能を低コストで実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1に係る発明の構成上の特徴は、主モータによって回転される回転部材の回転運動を直動運動に変換しマスタピストンを押動してマスタシリンダの作動液を加圧する電動式倍力装置と、当該電動式倍力装置により加圧された作動液の供給により車輪に制動力を付与する制動機構と、当該制動機構が車輪に制動力を付与する際に、当該車輪のロックを防止するアンチロック装置とを備えた車両用ブレーキ装置において、正回転又は逆回転に切換え可能に駆動される共用モータと、当該共用モータの出力軸と連動して正回転又は逆回転する第1及び第2回転軸と、入力部材が前記第1回転軸に連結され、出力部材が前記アンチロック装置のポンプの入力軸に回転連結され、前記第1回転軸の前記正回転は前記ポンプの入力軸に伝達し、前記第1回転軸の前記逆回転は前記入力軸に伝達しない第1ワンウエイクラッチと、入力部材が前記第2回転軸に連結され、出力部材が前記電動式倍力装置の前記回転部材に回転連結され、前記第2回転軸の前記逆回転は前記回転部材に伝達し、前記第2回転軸の前記正回転は前記回転部材に伝達しない第2ワンウエイクラッチと、ブレーキ作動時に前記主モータを含む主モータ制御系に異常が検出されると、前記第2回転軸及び前記第2ワンウエイクラッチを介して前記電動式倍力装置の前記回転部材を回転するために、前記共用モータを逆回転で駆動する制御装置とを備えることにある。
【0007】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、前記第1及び第2回転軸が、前記共用モータの出力軸の両端部からなることにある。
【0008】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、前記電動式倍力装置とマスタシリンダ及び前記アンチロック装置とが一体的に固定され、前記アンチロック装置の前記ポンプの入力軸に回転連結された伝達軸と前記共用モータの出力軸と前記電動式倍力装置の非常用入力軸とを同軸線上に配置して、前記共用モータ及び前記2つのワンウエイクラッチが前記電動式倍力装置と前記アンチロック装置の間に間装されていることにある。
【0009】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、停車中でのブレーキ作動中において、前記電動式倍力装置の駆動力を前記主モータから前記共用モータに切り換えて、前記共用モータの異常を検出する異常検出装置を備えることにある。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、1つの共用モータと、この共用モータの出力軸に連動する第1及び第2回転軸に連結された第1及び第2ワンウエイクラッチとを備え、電動式倍力装置の正常時にはアンチロック装置が作動すると共用モータが正回転することにより、第1ワンウエイクラッチを介してアンチロック装置のポンプが駆動されホイールシリンダから排出された作動液がマスタシリンダ側に戻される。一方、電動式倍力装置の主モータによる駆動に異常が生じた時には、共用モータが逆回転することにより、第2ワンウエイクラッチを介して電動式倍力装置の回転部材が回転駆動されマスタシリンダの作動液が加圧される。即ち、2つのワンウエイクラッチを介して取り付けた1つのモータで、電動式倍力装置のバックアップ用モータ或いはアンチロック装置のポンプ用モータとして共用することが出来る。ワンウエイクラッチは簡素な構造で一般に流通しているもので構成できるので付加したとしてもそれ程のコスト高とはならず、電動式倍力装置にバックアップ専用モータを設定したり、アンチロック装置自体に自動加圧機能を付加する場合に比べ低コストで構成することができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、共用モータと第1及び第2ワンウエイクラッチとを接続する第1及び第2回転軸を、共用モータの出力軸の両端部とするので、更に低コスト化を図ることが出来る。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、電動式倍力装置とマスタシリンダのアッセンブリにアンチロック装置が一体的に固定され、前記共用モータと2つのワンウエイクラッチが前記ポンプ用入力軸と電動式倍力装置の非常用入力軸との間に同一軸上に配置、間装されるため、電動式倍力装置、マスタシリンダ、アンチロック装置、共用モータ、第1及び第2ワンウエイクラッチを一つのユニットに集約してコンパクトな構成とすることができるので、ブレーキ装置全体を小型軽量化することが出来るとともに車両への搭載、組付け、搬送等が容易になる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、停車中でのブレーキ作動中において、電動式倍力装置の駆動力を主モータから共用モータに切り換えることで、共用モータによるバックアップ機能に異常がないか事前に検知することができる。共用モータ駆動時のマスタシリンダ液圧が、主モータ駆動時のマスタシリンダ液圧に対し、所定値以上の差があれば異常と判定(異常検出)することができる。また、この異常判定は停車中に行われるので安全を確保しながら行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の車両用ブレーキ装置の構成図。
【図2】本実施形態の車両用ブレーキ装置におけるワンウエイクラッチの構成図。
【図3】本実施形態の車両用ブレーキ装置の組み付け構成図。
【図4】本実施形態の車両用ブレーキ装置における異常検出時の主モータと共用モータの切換動作を説明するためのモータ出力図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態の車両用ブレーキ装置は、図1に示すように、運転者が踏み込んだブレーキペダルBPへの荷重を検出する荷重センサLSと、液圧により作動し車輪Wに制動力を加える制動機構Cと、制動機構Cに伝達する液圧を制御するアンチロック装置10と、制動機構Cに作動液としてのブレーキ液を供給して液圧を生じさせるマスタシリンダ30と、マスタシリンダ30からアンチロック装置10を介して制動機構Cに伝達される液圧を検出する液圧センサPSと、マスタシリンダ30にブレーキ液を供給するマスタリザーバ32と、ブレーキペダルBPの操作に応じた主モータM1の回転駆動力で回転される回転部材の回転運動を直動運動に変換しマスタピストン31を押動してマスタシリンダ30の作動液を加圧する電動式倍力装置Aと、本発明の特徴であり、電動式倍力装置Aの主モータM1が故障した場合のバックアップとして使用される共用モータM2と第1及び第2ワンウエイクラッチH1,H2と、荷重センサLS及び液圧センサPSの検出結果に応じて主モータM1及び共用モータM2の回転駆動を制御する制御装置Bとを備えて構成されている。
【0016】
まず、制動機構Cは、各々の車輪W(右前車輪WFR,左前車輪WFL,右後車輪WRR,左後車輪WRL)に備えられたホイールシリンダWC(WCFR,WCFL,WCRR,WCRL)と、各々のホイールシリンダWCの作動力により各々の車輪に摩擦力による制動力を生じさせるブレーキパッド(図示せず)を備えている。
【0017】
マスタシリンダ30の内部には、第1及び第2マスタピストン31が前後移動可能に備えられており、その前後移動によりブレーキ液に液圧を発生させている。本例では、マスタシリンダ30はいわゆるタンデム型に構成されており、第1マスタピストン31の前進によって液圧が発生する第1液圧室30a及び第2マスタピストン31の前進によって液圧が発生する第2液圧室30bを有している。マスタリザーバ32は2つの流路を有しており、それぞれの流路は第1液圧室30a及び第2液圧室30bと連通されている。
【0018】
アンチロック装置10は、各車輪WがブレーキをかけたときにロックしないようにホイールシリンダWCへ供給するブレーキ液圧を自動的にコントロールして、車輪Wと路面間の摩擦力と車輪Wの回転を確保するアンチロックブレーキ制御を行うものであり、マスタシリンダ30と接続される第1アンチロック経路10a及び第2アンチロック経路10bにより構成されている。第1アンチロック経路10aは、第1液圧室30aと、右後ホイールシリンダWCRR及び左後ホイールシリンダWCRLとを連通している。第2アンチロック経路10bは、第2液圧室30bと、右前ホイールシリンダWCFR及び左前ホイールシリンダWCFLとを連通している。
【0019】
第1アンチロック経路10aはさらに第1分岐路11aと第2分岐路15aとに分岐し、それぞれが右後ホイールシリンダWCRRと左後ホイールシリンダWCRLに接続されている。第1分岐路11aには、連通位置と遮断位置との2位置に切換可能で常開の第1常開制御弁12aを設けている。また、第1常開制御弁12aに対して並列する位置に、右後ホイールシリンダWCRRから電動式倍力装置A側へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを禁止する第1逆止弁14aを設けている。一方、第2分岐路15aにも第1分岐路11aと同様に、連通位置と遮断位置との2位置に切換可能で常開の第2常開制御弁16a、第2常開制御弁16aに対して並列する位置に、左後ホイールシリンダWCRLから電動式倍力装置A側へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを禁止する第2逆止弁18aを設けている。
【0020】
第1分岐路11aの第1常開制御弁12aよりも右後ホイールシリンダWCRR側から分岐された流路部分と、第2分岐路15aの第2常開制御弁16aよりも左後ホイールシリンダWCRL側から分岐された流路部分とが合流し、第1分岐路11aと第2分岐路15aとの分岐点に接続する分岐合流路19aを設けている。また、分岐合流路19aの第1分岐路11aから分岐された部分には、連通位置と遮断位置とが切換可能で常閉の第1常閉制御弁13aを設けている。同様に、分岐合流路19aの第2分岐路15aから分岐された部分には、連通位置と遮断位置とが切換可能で常閉の第2常閉制御弁17aを設けている。分岐合流路19aにおける、第1常閉制御弁13aからの流路と、第2常閉制御弁17aからの流路との合流点から第1分岐路11aと第2分岐路15aとの分岐点までの流路には、第3逆止弁20a、液圧ポンプ21a、第4逆止弁22aを順に設けている。
【0021】
液圧ポンプ21aは、後述する共用モータM2の正回転駆動によってポンプ入力部Piを介して駆動され、ブレーキ液を吐出するように構成されている。また、分岐合流路19aにおける、第1常閉制御弁13a及び第2常閉制御弁17aと第3逆止弁20aとの間にリザーバ23aを設けている。
【0022】
また、共用モータM2の正回転駆動力が伝達されるポンプ入力部Piは、第1アンチロック経路10aの液圧ポンプ21aと第2アンチロック経路10bの液圧ポンプ21bとを回転駆動するように構成されている。
【0023】
以上、アンチロック装置10における第1アンチロック経路10aの構成を説明したが、第1アンチロック経路10aと第2アンチロック経路10bとは同様の構成となっている。したがって、第2アンチロック経路10bにも第1アンチロック経路10aと同様の部材を設けている。そのため、図面において第1液圧回路に設けた部材と同様の部材には、第1アンチロック経路10aにおける符号のうち「a」を「b」に置き換えたものを付しており、第2液圧回路の詳細な説明は省略する。以下、特に区別する必要があるときを除き、符号中の「a」または「b」を省略するものとする。
【0024】
次に、共用モータM2は、正回転又は逆回転を行う出力軸Axの一端に第1ワンウエイクラッチH1が取り付けられ、出力軸Axの他端に第2ワンウエイクラッチH2が取り付けられている。出力軸Axの一端及び他端は、共用モータM2の出力軸Axと連動して正回転又は逆回転する第1及び第2回転軸として機能する。第1及び第2ワンウエイクラッチH1,H2は構成が同じであり、図2の第1ワンウエイクラッチH1により説明を行う。出力軸Axの一端には円筒形の入力部材Hiが嵌着され、この入力部材Hiの周回面に一定間隔で複数のローラーHrが圧縮スプリングHsによって摺動自在に取り付けられている。入力部材Hiの外周には、一定間隔を介して円筒形の出力部材Hoが遊嵌され、出力部材Hoの内周面には複数のローラーHrが等間隔で配置されている。各ローラーHrは入力部材Hiの外周に半径方向に対して傾斜して形成された保持穴Hhに収容され、圧縮スプリングHsのばね力によって出力部材Hoの内周面に押圧されている。
【0025】
共用モータM2の出力軸Axが矢印Y1で示す正回転方向に回転している場合は、入力部材Hiも同じ正回転方向に回転し、これによってローラーHrが出力部材Hoの内周面に押付けられて出力部材Hoを正回転方向に押圧駆動し、矢印Y1方向に回転(正回転)させるようになっている。一方、共用モータM2の出力軸Axが矢印Y2で示す逆回転方向に回転すると、入力部材Hiも同じ逆回転方向に回転するが、この場合、ローラーHrは出力部材Hoの内周面を回転移動するため、出力部材Hoへは回転駆動力を伝達しない空回り状態となる。なお、出力部材Hoへ回転駆動力を伝達する場合を動力伝達状態とも言う。
【0026】
第2ワンウエイクラッチH2は、各ローラーHrを収容する保持穴Hh及びスプリングHsが第1ワンウエイクラッチH1の保持穴Hhと回転方向に対して逆方向に傾斜して形成された構成となっており、出力軸Axの正回転時に出力部材Hoへ回転駆動力を伝達しない空回り状態となり、逆回転時にローラーHrが出力部材Hoの内周面に押付けられて出力部材Hoを逆回転方向に回転(Y2方向)させるようになっている。
【0027】
このような第1ワンウエイクラッチH1の出力部材Hoが、伝達軸H1oに同軸に固定され、伝達軸H1oがアンチロック装置10のポンプ21a、21bにポンプ入力部Piを介して回転連結されている。第2ワンウエイクラッチH2の出力部材Hoが伝達軸H2oを介して電動式倍力装置Aの異常時入力部としての小平歯車40bに取り付けられている。共用モータM2の出力軸Axが正回転する場合は、この正回転が第1ワンウエイクラッチH1によってポンプ入力部Piに伝達され、ポンプ入力部Piを介して液圧ポンプ21a,21bを駆動する。この正回転時には、第2ワンウエイクラッチH2は空回り状態となる。
【0028】
一方、共用モータM2の出力軸Axが逆回転する場合は、この逆回転が第2ワンウエイクラッチH2によって電動式倍力装置Aの小平歯車40bに伝達され、後述するようにマスタシリンダ30のブレーキ液の加圧動作が行われる。この逆回転時には、第1ワンウエイクラッチH1は空回り状態となる。
【0029】
次に、制御装置Bは、マイクロコンピュータを中核部材とするECU(electronic control unit)25と、電動式倍力装置Aの主モータM1に電流を供給して回転駆動を制御するモータドライバMD1と、共用モータM2に電流を供給して回転駆動を制御するモータドライバMD2とを備えている。
【0030】
また、ECU25及びモータドライバMD1,MD2には電力を供給するバッテリBTが接続されている。制御装置Bは、後述するように車輪Wに加える制動力を制御する際に、電動式倍力装置Aの主モータM1と、共用モータM2と、アンチロック装置10の各種制御弁の制御等を行っている。また、制御装置BはブレーキペダルBPの操作量を計測する荷重センサLSの検出値と液圧センサPSの検出値とを受け、ブレーキペダルBPの操作量に対応する電流を主モータM1及び共用モータM2へ供給する。
【0031】
電動式倍力装置Aの主モータM1が正常に動作している場合は、ブレーキペダルBPが操作されると、モータドライバMD1により主モータM1が駆動される。このとき、アンチロック装置10が作動して共用モータM2が正回転しても、第2ワンウエイクラッチH2は空回り状態となるので、この正回転は電動式倍力装置Aの異常時入力部に伝達されない。なお、共用モータM2の正回転駆動力は、ポンプ入力部Piを介してアンチロック装置10の液圧ポンプ21a,21bを回転駆動するように伝達される。
【0032】
主モータM1を含む主モータ制御系、即ち主モータM1及びモータドライバMD1等に異常が生じたとECU25により判断された場合は、ブレーキペダルBPが操作されると、主モータM1は駆動されず、モータドライバMD2により共用モータM2が逆回転で駆動される。これによって、第1ワンウエイクラッチH1は空回り状態となり、第2ワンウエイクラッチH2は動力伝達状態となるので、共用モータM2の逆回転駆動力が、電動式倍力装置Aの小平歯車40bに伝達される。
【0033】
電動式倍力装置Aは、ハウジング100に固定され、モータドライバMD1からの供給電流に応じて回転する主モータM1と、主モータM1の出力軸と一体回転するよう構成されている小平歯車40aと、小平歯車40aの歯数よりも多い歯数を有して小平歯車40aと噛合され、ハウジング100に回転可能に支承されている大平歯車41と、大平歯車41と同一軸線上に設けられ、大平歯車41の回転をマスタピストン31の前後方向の直動に変換する例えばボールネジ機構からなる直動変換機構50と、直動変換機構50の内部に挿入され、荷重センサLS及びシャフト27を介してブレーキペダルBPと接続され、ブレーキペダルBPの操作量に応じてマスタピストン31の前後方向に移動可能な入力ロッド44と、直動変換機構50のボールネジ軸52をマスタピストン31の後退方向に付勢する弾性部材としての圧縮スプリング46とを備えている。更に、電動式倍力装置Aは、上述したように異常時入力部としての小平歯車40bを備えており、この小平歯車40bは、小平歯車40aと同じ歯数を有して大平歯車41と噛合しており、共用モータM2の出力軸に第2ワンウエイクラッチH2を介して連結されており、共用モータM2が逆回転駆動時にのみ回転するようになっている。なお、後述の説明では、ブレーキ液を加圧する際のマスタピストン31の移動方向を前方、減圧する方向を後方とする。
【0034】
直動変換機構50は、回転部材をなす大平歯車41に同軸線上に一体的に設けられて、ハウジング100に軸線方向の移動を規制され、回転可能に支承されたボールねじナット51と、ボールねじナット51とボールを介して螺合されハウジング100に回転を規制され軸線方向に移動可能に支承されたボールネジ軸52とを備えている。即ち、ボールねじナット51の内壁とボールネジ軸52の外壁とには、循環する多数のボールを介して互いに螺合するボールネジ溝が形成されており、ボールねじナット51の回転に伴い、ハウジング100との係合で回転を規制されたボールネジ軸52が前後方向に移動するようになっている。
【0035】
ボールネジ軸52の内側には入力ロッド44が挿通され、この入力ロッド44の先端には大径部43が形成され、この大径部43の前端面と第2マスタピストン31の後端面が同軸線上で対向している。この第2マスタピストン31は、ハウジング100の開口からハウジング100内に挿入されている。
【0036】
このような構成の車両用ブレーキ装置において、ECU25により主モータM1を含む主モータ系が正常と判断されている場合は、運転者によりブレーキペダルBPが踏み込み操作されると、荷重センサLSでその踏力に応じた荷重が検出されるとともに、液圧センサPSでマスタシリンダ30の液圧も検出され、これら検出値がECU25へ送信される。
【0037】
ECU25は、荷重センサLSの検出値に応じた制動力を生じさせるために、モータドライバMD1に対して荷重センサLSの検出値及び液圧センサPSからフィードバックされた検出値に応じた電流を電動式倍力装置Aの主モータM1に供給する制御を行う。この制御により主モータM1が要求されたブレーキ力を発生させるのに適した回転トルクを生ずる。
【0038】
即ち、通常のブレーキ操作時には、ブレーキペダルBPの踏み込み操作量に応じて入力ロッド44がマスタシリンダ30側に前進し、入力ロッド44の先端の大径部43が第2マスタピストン31の後端部を押動することにより、第1及び第2マスタピストン31によってマスタシリンダ30内のブレーキ液が加圧される。
【0039】
同時に、荷重センサLSでブレーキ操作量に応じた荷重が検出され、その検出値に応じてECU25の制御によりモータドライバMD1が主モータM1を制御し、これによって主モータM1が回転する。この回転に応じて小平歯車40a及び大平歯車41を介してボールねじナット51が回転し、この回転がボールネジ機構で直進動作に変換される。これによりボールネジ軸52がマスタピストン31側へ前進し、大径部43を介して第2マスタピストン31を押動してマスタシリンダ30内のブレーキ液の加圧を助勢する。そして、マスタシリンダ30に生じた液圧がアンチロック装置10を介してホイールシリンダWCに供給され、その液圧により車輪Wに制動力が付与される。
【0040】
また、この制動中に車輪Wがロックすると、アンチロック装置10が作動し、モータドライバMD2によって共用モータM2が正回転駆動され、この駆動力が第1ワンウエイクラッチH1を介してポンプ入力部Piに伝達され液圧ポンプ21a,21bが駆動される。この共用モータM2の正回転は、第2ワンウエイクラッチH2の空回りにより、電動式倍力装置Aに伝達されない。
【0041】
次に、ECU25により主モータM1を含む主モータ制御系が異常と判断された場合、モータドライバMD1は作動されず、モータドライバMD2が共用モータM2を逆回転させ、この逆回転駆動力で小平歯車40bが回転して大平歯車41が回転する。この回転がボールネジ機構で直進動作に変換され、ボールネジ軸52がマスタピストン31側へ前進して、入力ロッド44の大径部43の後面を押圧し、マスタシリンダ30内のブレーキ液の加圧が助勢される。マスタシリンダ30に生じた液圧がアンチロック装置10を介してホイールシリンダWCに供給され、その液圧により車輪Wに制動力が付与される。この共用モータM2の逆回転は、第1ワンウエイクラッチH1の空回りにより、液圧ポンプ21a,21bに伝達されない。
【0042】
ブレーキペダルBPを踏んだ状態からその踏み込みを戻した場合は、主モータM1の戻し側回転力とスプリング46の反力により大平歯車41が逆回転される。このとき大平歯車41から小平歯車40bを介して伝達軸H2oに伝達される回転力に対しては、第2ワンウエイクラッチH2及び第1ワンウエイクラッチH1は共に動力伝達状態となる。このため、共用モータM2の出力軸Ax及びポンプ入力部Piを介して液圧ポンプ21a,21bの入力軸が駆動される。しかし、この場合、アンチロック装置の各制御弁は非制御の状態にあり、ポンプ21a,21bによるブレーキ液の汲み上げは生じることはなく、電動式倍力装置Aの戻り抵抗増加やブレーキ液圧の変動といった問題が発生することは無い。
【0043】
このように、本実施形態の車両用ブレーキ装置によれば、1つの共用モータM2と、この共用モータM2の出力軸に連動する第1及び第2回転軸に連結された第1及び第2ワンウエイクラッチH1,H2とを備え、電動式倍力装置Aの正常時にはアンチロック装置10が作動すると共用モータM2が正回転することにより、第1ワンウエイクラッチH1を介してアンチロック装置10の液圧ポンプ21a,21bが駆動されホイールシリンダWCから排出されたブレーキ液がマスタシリンダ側に戻される。一方、電動式倍力装置Aの主モータM1の駆動異常時には共用モータM2が逆回転することにより、第2ワンウエイクラッチH2を介して電動式倍力装置Aの大平歯車41が回転駆動されマスタシリンダ30のブレーキ液が加圧される。即ち、第1及び第2ワンウエイクラッチH1,H2を第1及び第2回転軸を介して取り付けた1つの共用モータM2で、電動式倍力装置Aの異常時バックアップ用モータと、アンチロック装置10のポンプ用モータとして共用することが出来る。第1及び第2ワンウエイクラッチH1,H2は簡素で安価なものを採用することでそれ程のコスト高とはならず、電動式倍力装置Aの異常時バックアップ機能を低コストで実現することができる。
【0044】
なお、本実施形態の車両用ブレーキ装置は、図3に示す組み付け構成にするとよい。この構成では、電動式倍力装置Aとマスタシリンダ30のアッセンブリに、アンチロック装置10が一体的に固定されている。更に、アンチロック装置10のポンプ入力部Piに回転連結された伝達軸H1oと、共用モータM2の出力軸Ax及び電動式倍力装置Aの非常用入力軸であるH2oとを同軸線上に配置して、2つのワンウエイクラッチH1,H2及び共用モータM2が電動式倍力装置Aとアンチロック装置10の間に間装されている。
【0045】
このような構成とすることで、電動式倍力装置A、マスタシリンダ30、アンチロック装置10、共用モータM2、第1及び第2ワンウエイクラッチH1,H2を一つのユニットに集約してコンパクトな構成とすることができるので、ブレーキ装置全体を小型化することが出来るとともに車両への搭載、組付け、搬送等が容易になると共に、ハウジング100の一体化等によるコスト低減も図ることができる。
【0046】
また、停車時のブレーキ作動中において、電動式倍力装置Aの駆動力を主モータM1から共用モータM2に切り換えて、共用モータM2の異常を検出する異常検出装置16を本実施形態の車両用ブレーキ装置に付加してもよい。
【0047】
異常検出装置16は、ECU25による異常検出制御及び液圧センサPSによって構成される。ECU25は、停車時のブレーキ作動中において、図4に線分M1pで示すように主モータM1の出力(W)を時刻t1から徐々に弱めながら、その一方で線分M2Pに示すように共用モータM2を駆動させてトータルのブレーキ力が一定に保たれるように制御を行う。
【0048】
この際、ECU25は、時刻t1時点のマスタシリンダ液圧を記憶しておく。そして、t1以後、t2に至るまでのマスタシリンダ液圧の変動が所定値以上であれば異常と判定(異常検出)する。この異常/正常の判定は、停車中に行われるので安全性を確保しながら行うことができる。
【0049】
以上説明した本実施形態の車両用ブレーキ装置は、例えば、本特許出願人の特許出願である特願2009−224325の明細書に記載された所謂ブレーキバイワイヤ方式のブレーキ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
A…電動式倍力装置、B…制御装置、BP…ブレーキペダル、C…制動機構、M1…主モータ、M2…共用モータ、Ax…出力軸(両端は第1及び第2回転軸)、H1,H2…ワンウエイクラッチ、H1o,H2o…伝達軸、MD1,MD2…モータドライバ、LS…荷重センサ、PS…液圧センサ、W…車輪、WC…ホイールシリンダ、10…アンチロック装置、25…ECU、26…異常検出装置、27…シャフト、30…マスタシリンダ、31…マスタピストン、40a,40b…小平歯車、41…大平歯車、43…出力ピストン、44…入力ロッド、50…直動変換機構、51…ボールねじナット、52…ボールネジ軸、100…ハウジング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主モータによって回転される回転部材の回転運動を直動運動に変換しマスタピストンを押動してマスタシリンダの作動液を加圧する電動式倍力装置と、当該電動式倍力装置により加圧された作動液の供給により車輪に制動力を付与する制動機構と、当該制動機構が車輪に制動力を付与する際に、当該車輪のロックを防止するアンチロック装置とを備えた車両用ブレーキ装置において、
正回転又は逆回転に切換え可能に駆動される共用モータと、
当該共用モータの出力軸と連動して正回転又は逆回転する第1及び第2回転軸と、
入力部材が前記第1回転軸に連結され、出力部材が前記アンチロック装置のポンプの入力軸に回転連結され、前記第1回転軸の前記正回転は前記ポンプの入力軸に伝達し、前記第1回転軸の前記逆回転は前記入力軸に伝達しない第1ワンウエイクラッチと、
入力部材が前記第2回転軸に連結され、出力部材が前記電動式倍力装置の前記回転部材に回転連結され、前記第2回転軸の前記逆回転は前記回転部材に伝達し、前記第2回転軸の前記正回転は前記回転部材に伝達しない第2ワンウエイクラッチと、
ブレーキ作動時に前記主モータを含む主モータ制御系に異常が検出されると、前記第2回転軸及び前記第2ワンウエイクラッチを介して前記電動式倍力装置の前記回転部材を回転するために、前記共用モータを逆回転で駆動する制御装置と
を備える車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1及び第2回転軸が、前記共用モータの出力軸の両端部からなる車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記電動式倍力装置とマスタシリンダ及び前記アンチロック装置とが一体的に固定され、
前記アンチロック装置の前記ポンプの入力軸に回転連結された伝達軸と前記共用モータの出力軸と前記電動式倍力装置の非常用入力軸とを同軸線上に配置して、前記共用モータ及び前記2つのワンウエイクラッチが前記電動式倍力装置と前記アンチロック装置の間に間装されている車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
停車中でのブレーキ作動中において、前記電動式倍力装置の駆動力を前記主モータから前記共用モータに切り換えて、前記共用モータの異常を検出する異常検出装置を備える車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−245826(P2012−245826A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117158(P2011−117158)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】