説明

車両用ブレーキ装置

【課題】中入力荷重領域から高入力荷重領域にかけて弾性体のばね定数を増加させ得るようにして,操作ストロークが適度に得られるストロークシミュレータを備えた車両用ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ガイド軸43に,小径軸部43aと,この小径軸部43aに第1の段部43cを介して連なる大径軸部43bとを設け,弾性体44を,小径軸部43aを囲繞する厚肉筒部44aと,それの前端に連なり,大径軸部43bを囲繞する薄肉筒部44bとで構成し,薄肉筒部44bの内周面を,厚肉筒部44aの内周面より大径に形成すると共に,両筒部44a,44bの両内周面間には,第1の段部43cと軸方向で対向する第2の段部44cを形成し,弾性体44の軸方向圧縮変形時,薄肉筒部44b及び厚肉筒部44aが,その順で制御ピストン21内周面とガイド軸43外周面との間に充填されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,マスタシリンダと,このマスタシリンダを倍力作動する液圧ブースタとよりなり,その液圧ブースタが,前記マスタシリンダを作動する倍力液圧を発生し得る倍力液圧発生室と,ブレーキ操作部材からの入力による前進により液圧源の液圧を倍力液圧発生室に導入すると共に,その倍力液圧発生室側から導入液圧に応じた後退方向への反力を受ける制御ピストンと,前記ブレーキ操作部材に操作ストロークを付与するストロークシミュレータとを備え,またそのストロークシミュレータが,前記ブレーキ操作部材に連なり,中空円筒状をなす前記制御ピストン内に摺動可能に嵌合される入力部材と,前記制御ピストン内で前端部が該制御ピストンに受け止められると共に,後端部が前記入力部材に摺動可能に支持されるガイド軸と,前記入力部材の前方で前記ガイド軸を囲繞するようにして前記制御ピストン内に収容され,前記制御ピストンに対する前記入力部材の前進に応じて軸方向に圧縮変形される筒状の弾性体とを備える車両用ブレーキ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる車両用ブレーキ装置は,特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−282012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かゝる車両用ブレーキ装置のストロークシミュレータでは,筒状の弾性体は,入力部材に対する入力荷重の増加時には,先ず拡径して制御ピストンの内周面に密着し,次いで内周面を縮径させながらガイド軸の外周面に密着させていくように圧縮変形することで,入力部材に操作ストロークを付与する。
【0005】
しかしながら,従来のストロークシミュレータの弾性体では,その内周面が全長に亙り等径になっているので,中,高入力荷重領域において,弾性体の内周面が縮径によりガイド軸の外周面に密着すると,圧縮変形が一挙に拘束されることになり,弾性体の反力が急激に増加して操作ストロークの増加が大きく抑制される。この点にブレーキ操作フィーリングを改善すべき余地がある。
【0006】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,中入力荷重領域から高入力荷重領域にかけて弾性体のばね定数を増加させ得るようにして,操作ストロークが適度に得られ,ドライバに良好なブレーキ操作フィーリングを与えることができるストロークシミュレータを備えた車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明は,マスタシリンダと,このマスタシリンダを倍力作動する液圧ブースタとよりなり,その液圧ブースタが,前記マスタシリンダを作動する倍力液圧を発生し得る倍力液圧発生室と,ブレーキ操作部材からの入力による前進により液圧源の液圧を倍力液圧発生室に導入すると共に,その倍力液圧発生室側から導入液圧に応じた後退方向への反力を受ける制御ピストンと,前記ブレーキ操作部材に操作ストロークを付与するストロークシミュレータとを備え,またそのストロークシミュレータが,前記ブレーキ操作部材に連なり,中空円筒状をなす前記制御ピストン内に摺動可能に嵌合される入力部材と,前記制御ピストン内で前端部が該制御ピストンに受け止められると共に,後端部が前記入力部材に摺動可能に支持されるガイド軸と,前記入力部材の前方で前記ガイド軸を囲繞するようにして前記制御ピストン内に収容され,前記制御ピストンに対する前記入力部材の前進に応じて軸方向に圧縮変形される筒状の弾性体とを備える車両用ブレーキ装置において,前記ガイド軸に,小径軸部と,この小径軸部に第1の段部を介して連なる,小径軸部より大径の大径軸部とを設ける一方,前記弾性体を,前記小径軸部を囲繞する厚肉筒部と,この厚肉筒部に連なって前記大径軸部を囲繞する薄肉筒部とより構成し,前記薄肉筒部の内周面を,前記厚肉筒部の内周面より大径に形成すると共に,厚肉筒部及び薄肉筒部の両内周面間には,第1の段部と軸方向で対向する第2の段部を形成し,前記薄肉筒部の断面積を厚肉筒部のそれより小さく設定して,前記弾性体の軸方向圧縮変形時,前記薄肉筒部及び厚肉筒部が,その順で前記制御ピストン内周面と前記ガイド軸外周面との間に充填されるようにしたことを第1の特徴とする。尚,前記ブレーキ操作部材は,後述する本発明の実施形態中のブレーキペダル23に,前記入力部材は入力ピストン41に,第1の段部は後向き段部43cに,第2の段部は前向き段部44cにそれぞれ対応する。
【0008】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記大径軸部を前記小径軸部の前端に後向きである第1の段部を介して連ならせるとともに,前記厚肉筒部及び前記薄肉筒部の両内周面間に,前向きである第2の段部を形成し,前記弾性体の軸方向圧縮変形時,前記厚肉筒部が前記制御ピストン内周面と前記ガイド軸外周面との間に充填されるのに先行して第1の段部に第2の段部が密着するよう,第1の段部及び第2の段部を配置したことを第2の特徴とする。
【0009】
さらに本発明は,第2の特徴に加えて,第1の段部及び第2の段部を,それぞれ後方に向うにつれて小径となるテーパ状に形成すると共に,第2の段部のテーパ角度を第1の段部のテーパ角度より小さく設定したことを第3の特徴とする。
【0010】
さらにまた本発明は,第2または第3の特徴に加えて,前記制御ピストンの少なくとも一部を後方に向かって大径となるテーパ状に形成して,前記弾性体が,その軸方向圧縮変形に伴なう拡径により前記制御ピストンのテーパ状内周面にその前端から後端に向かって順次密着するようにしたことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば,弾性体の軸方向圧縮変形時,薄肉筒部及び厚肉筒部が,その順で制御ピストン内周面とガイド軸外周面との間に充填されることで,中入力荷重領域から高入力荷重領域にかけて弾性体のばね定数が増加することになり,これにより操作ストロークが適度に得られ,ドライバに良好なブレーキ操作フィーリングを与えることができる。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,弾性体の軸方向圧縮変形時,厚肉筒部が制御ピストン及びガイド軸間に充填されるのに先行して後向きである第1の段部に前向きである第2の段部が密着することで,厚肉筒部が薄肉筒部に先んじて制御ピストン及びガイド軸間に充填されることを防ぐことができ,したがって中入力荷重領域から高入力荷重領域にかけて弾性体のばね定数の増加を順序通り確実に生じさせることができる。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば,第1の段部及び第2の段部を,それぞれ後方に向うにつれて小径となるテーパ状に形成すると共に,第2の段部のテーパ角度を第1の段部のテーパ角度より小さく設定したことで,第1の段部への第2の段部の密着が前端から後端に向かって順次行われることになり,これにより中入力荷重領域から高入力荷重領域にかけて弾性体のばね定数の増加を滑らかにし,ブレーキ操作フィーリングを一層良好にすることができる。
【0014】
本発明の第4の特徴によれば,低入力荷重領域において,弾性体の内周面が制御ピストンの内周面に密着するとき,前記テーパ内周面では,その前端から後端に向かって弾性体が順次密着することになり,弾性体のばね定数を充分に下げて,操作ストロークを充分に得ることができ,これにより微妙なブレーキ操作を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る車両用ブレーキ装置の縦断側面図。
【図2】図1中のストロークシミュレータ部の拡大図。
【図3】上記ストロークシミュレータの作動説明図。
【図4】上記ストロークシミュレータの特性線図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を,添付図面に基づいて説明する。
【0017】
先ず,図1において,自動車の車両用ブレーキ装置は,マスタシリンダMと,このマスタシリンダMを倍力作動する液圧ブースタBとよりなっている。マスタシリンダM及び液圧ブースタBに共通なケーシング1は,前端を閉じた円筒状のシリンダ体2と,後端壁3eを有する円筒状をなしていて,シリンダ体2に同軸に結合されるブースタボディ3とで構成される。シリンダ体2の後端はブースタボディ3の前端に液密に嵌合され,シリンダ体2の後端及びブースタボディ3間には,ブースタボディ3に液密に嵌合されるセパレータ4,第1スリーブ5及び第2スリーブ6が,第1スリーブ5をセパレータ4及び第2スリーブ間に挟むようにして挟持される。
【0018】
シリンダ体2は,それぞれ後退方向へばね付勢される前部マスタピストン8及び,その後方に位置する後部マスタピストン9を摺動可能に収容してタンデム型に構成され,前部マスタピストン8とシリンダ体2の前端壁との間に前部出力液圧室10が画成され,また前部及び後部マスタピストン8,9間に後部出力液圧室11が画成され,前部及び後部マスタピストン8,9の各後退限を規制する前部及び後部ストッパピン12,13がシリンダ体2に固設される。
【0019】
前部出力液圧室10は,液圧モジュレータ14を介して左前輪ブレーキBfa及び右後輪ブレーキBrbに接続され,後部出力液圧室11は,液圧モジュレータ14を介して右前輪ブレーキBfb及び左後輪ブレーキBraに接続される。而して,後部及び前部マスタピストン8,9の前進作動により後部及び前部出力液圧室10,11にそれぞれ出力液圧が発生すると,液圧モジュレータ14がそれら出力液圧を制御して各ブレーキに伝達し,ブレーキ操作時にはアンチロック制御を行い,非ブレーキ操作時にはトラクション制御等の自動ブレーキ制御を行うことができる。
【0020】
マスタシリンダM及び液圧ブースタBはリザーバ15を共有する。このリザーバ15には,相互に区画される第1〜第3液溜め室15a〜15cが形成され,第1及び第2液溜め室15a,15bにそれぞれ連通する第1及び第2補給ポート16a,16bがシリンダ体2の上壁に設けられ,前部及び後部マスタピストン8,9の後退時,第1及び第2補給ポート16a,16bから前部及び後部出力液圧室10,11にそれぞれ作動液圧の不足分が補給されるようになっている。
【0021】
尚,上記マスタシリンダMの構成は,前記特許文献1記載のものと同様であるので,その詳細な説明は省略する。
【0022】
次に,液圧ブースタBは,前記後部マスタピストン9の後端面との間にブースタ室17を画成する隔壁ピストン18を前端部に有してブースタボディ3に摺動可能に収容される円筒状のバックアップピストン19と,このバックアップピストン19を,ブースタボディ3の後端壁3eに当接した後退限に保持するセットばね20と,前記後端壁3eに摺動可能に支持されながらバックアップピストン19内に摺動可能に嵌合される中空円筒状で前端壁21f付きの制御ピストン21と,この制御ピストン21の前方でバックアップピストン19内に配設される液圧制御弁装置22と,ブレーキペダル23に連動して前端を制御ピストン21内に臨ませるプッシュロッド24と,このプッシュロッド24及び制御ピストン21間に配設されるストロークシミュレータ25とを備える。ブレーキペダル23には,これを後退位置に付勢する戻しばね26が接続される。
【0023】
ブースタボディ3の上部には,入力ポート28と,その後方に位置する解放ポート29とが設けられており,入力ポート28には液圧源30が接続される。この液圧源30は,前記リザーバ15の第3液溜め室15cから作動液を汲み出すポンプ31と,このポンプ31の吐出側に接続されるアキュムレータ32と,このアキュムレータ32の液圧をを検出してポンプ31の作動を制御する液圧センサ33とよりなっていて,一定の液圧を入力ポート28に供給するようになっている。一方,解放ポート29は,前記ポンプ31の吸入側又は第3液溜め室15cに接続される。
【0024】
液圧制御弁装置22は,前記ブースタ室17に連通する倍力液圧発生室35と,この倍力液圧発生室35に前端を臨ませると共に後端を制御ピストン21の前端壁21fに当接させる,制御ピストン21より遥かに小径の反力ピストン36と,反力ピストン36の後退位置で閉弁し,その前進時に開弁して倍力液圧発生室35を入力ポート28に連通する増圧弁37と,反力ピストン36の後退位置で開弁して倍力液圧発生室35を前記解放ポート29に解放し,その前進時に閉弁する減圧弁38とよりなっている。
【0025】
尚,液圧制御弁装置22の構成は,前記特許文献1記載のものと同様であるので,その詳細な説明は省略する。
【0026】
次に,前記ストロークシミュレータ25について図2により説明する。
【0027】
ストロークシミュレータ25は,制御ピストン21の内周面にシール部材40を介して摺動可能に嵌合される入力ピストン41と,制御ピストン21内で前端部が制御ピストン21の前端壁21fに受け止められると共に,後端部が入力ピストン41中心部の有底のガイド孔42に摺動可能に支持されるガイド軸43と,入力ピストン41の前方でガイド軸43を囲繞するようにして制御ピストン21内に収容される筒状の弾性体44とよりなっている。入力ピストン41は,制御ピストン21の後端部に係止される止め環45により後退限が規制されようになっており,この入力ピストン41の後端部に前記プッシュロッド24がボールジョイント46を介して連結される。
【0028】
制御ピストン21は,ブースタボディ3の後端壁3eにシール部材47を介して摺動可能に支持される大径直筒部21aと,この大径直筒部21aの前端から前方に向かって内外の直径を漸減させつゝ延びるテーパ筒部21bと,このテーパ筒部21bの前端部から前方に延びて前端壁21fに一体に連結される小径直筒部21cとよりなっており,小径直筒部21cの外周面には,バックアップピストン19の内周面に摺動可能に支持される複数のガイド突起48が形成される。また大径直筒部21aの前端部外周には,ブースタボディ3の後端壁に当接して制御ピストン21の後退限を規制するストッパフランジ49が形成される。またこのストッパフランジ49は,制御ピストン21の一定の作動ストロークに対応する間隙を存してバックアップピストン19の後端にも対向していて,液圧ブースタBの液圧系の失陥時には,制御ピストン21の前進をバックアップピストン19を介して後部マスタピストン9に伝達して,これを機械的に駆動し得るようになっている。
【0029】
ガイド軸43は,入力ピストン41のガイド孔42に摺動可能に支持される小径軸部43aと,この小径軸部43aの前端に第1の段部である後向き段部43cを介して同軸状に連設される,小径軸部43aより大径の大径軸部43bと,この大径軸部43bの前端に連設されて前記小径直筒部21cの内周面に摺動可能に支持されるガイドフランジ43dと,このガイドフランジ43dの前端面に突設されて制御ピストン21の前端壁21fに対向する短軸43eとよりなっており,後向き段部43cは,前方に向かって拡径するテーパ状をなしている。
【0030】
弾性体44は,前記小径軸部43aを囲繞する厚肉筒部44aと,この厚肉筒部44aの前端に連なり,前記大径軸部43bを囲繞する薄肉筒部44bとよりなっている。両筒部44a,44bの外径は略等しくなっているが,薄肉筒部44bの内周面は,厚肉筒部44aの内周面より大径に形成されると共に,両筒部44a,44bの内周面間には,前記後向き段部43cと軸方向で対向する第2の段部である前向き段部44cが形成され,この前向き段部44cは前方に向かって拡径するテーパ状をなしている。こうして,薄肉筒部44bの断面積は,厚肉筒部44aのそれより小さく設定される。また前向き段部44cのテーパ角度βは,後向き段部43cのテーパ角度αより小さく設定される。
【0031】
この弾性体44の自由状態において,弾性体44と,制御ピストン21及びガイド軸43との各対向周面間には,弾性体44の拡径及び縮径方向への一定の変形を許容する間隙が設けられる。またガイドフランジ43dと,制御ピストン21の前端壁21fとの間には一定の遊び間隙が設けられると共に,その間に,ガイド軸43を後方へ付勢するばね50が縮設される。このばね50のセット荷重は,前記増圧弁37の開弁荷重より小さく設定される。
【0032】
前記解放ポート29は,セットばね20を収容するばね室54や,ストロークシミュレータ25内の各部にも連通し,バックアップピストン19及びストロークシミュレータ25に液圧ロックが生じないようになっている。
【0033】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0034】
ドライバのブレーキ操作時,ドライバがブレーキペダル23に与える踏力により入力ピストン41に対する入力荷重を増加させていくと,先ず,入力ピストン41の前進により弾性体44及びガイド軸43を前進し,ばね50を圧縮してガイド軸43の短軸43eを制御ピストン21の前端壁21fに当接させてから,制御ピストン21の前進が開始する。この制御ピストン21の前進によれば,反力ピストン36も前進して増圧弁37を開弁するので,入力ポート28から倍力液圧発生室35に液圧源30の液圧が導入されると共に,その液圧が反力ピストン36を介して制御ピストン21側にフィードバックされ,入力ピストン41から弾性体44を介して制御ピストン21に与える入力荷重と,倍力液圧発生室35の液圧による反力ピストン36の反力との釣り合いにより倍力液圧発生室35の液圧は,制御ピストン21に対する入力荷重に対応した液圧に制御されることになる。こうして制御される倍力液圧発生室35の液圧は,該室35に連通するブースタ室17へと伝達され,マスタシリンダMを倍力作動することができる。
【0035】
その間,弾性体44は,入力ピストン41及び制御ピストン21間で軸方向に圧縮され,その軸方向の圧縮変形に応じて入力ピストン41,即ちブレーキペダル23に操作ストロークが付与される。以下,その作用の詳細を説明する。 〔低入力荷重領域前半(図3(A),図4の0〜A参照)〕
入力ピストン41からの入力荷重により弾性体44の軸方向の圧縮変形が始まると,最初に断面積が小さく剛性が低い薄肉筒部44bが拡径していき,制御ピストン21の小径直筒部21cの内周面に密着する。こうして,この間の弾性体44のばね定数は,薄肉筒部44bによって極めて小さく制御される。
〔低入力荷重領域後半(図3(B),図4のA〜B参照)〕
薄肉筒部44bが小径直筒部21cの内周面に密着すると,次に厚肉筒部44aが拡径し,制御ピストン21のテーパ筒部21bの内周面から大径直筒部21aの内周面へと密着していく。この間の弾性体44のばね定数は,厚肉筒部44aによって前記低入力荷重領域後半時よりやや大きく制御される。
【0036】
上記のように,弾性体44のばね定数は,低入力荷重領域の前半から後半にかけて緩やかに増加することになり,所定の操作ストロークの範囲で微妙なブレーキ操作を容易に行うことが可能となる。
〔中入力荷重領域(図3(C),図4のB〜C参照)〕
入力荷重が増加すると,制御ピストン21により拡径を拘束された薄肉筒部44bは,その圧縮変形に伴ない内周面を縮径させていき,その内周面をガイド軸43のガイド軸43の大径軸部43b外周面に密着させていく。つまり,薄肉筒部44bは,制御ピストン21及び大径軸部43b間に充填されていく。こうして,この間の弾性体44のばね定数は,薄肉筒部44bによって適度に増加制御され,入力ピストン41の入力荷重を制御ピストン21に効率よく伝達することができる。
〔ばね定数繋ぎ領域(図3(D),図4のC〜D参照)〕
入力荷重が更に増加すると,厚肉筒部44aの前進により,テーパ状の前向き段部44cがガイド軸43のテーパ状の後向き段部43cに密着していく。その際,前向き段部44cのテーパ角度βは,後向き段部43cのテーパ角度αより小さく設定されているので,両段部43c,44cは,それらの前端から後端に向かって順次密着していく。その結果,弾性体44のばね定数は比較的緩やかに増加していくことになる。
〔高入力荷重領域(図3(D),図4のC〜D参照)〕
両段部43c,44cの密着後,入力荷重がまた更に増加すると,厚肉筒部44aは,その軸方向の圧縮変形に伴ない内周面が縮径していく。このときの弾性体44のばね定数は,厚肉筒部44aによって大きく増加制御され,入力ピストン41の入力荷重を制御ピストン21に一層効率良く伝達することができ,急制動に対応し得る。
【0037】
しかも,中入力荷重領域と高入力荷重領域との間には,前述のようなばね定数繋ぎ領域が設けられるので,中入力荷重領域から高入力荷重領域へのばね定数の変化を滑らかにすることができ,良好なブレーキ操作フィーリングをドライバに与えることができる。
〔操作ストローク限界(図3(E),図4のE参照)〕
厚肉筒部44aの内周面の縮径は,その内周面がガイド軸43の小径軸部43a外周面に密着することで拘束される。即ち,厚肉筒部44aも制御ピストン21及びガイド軸43間に充填されることになり,結局,弾性体44全体が制御ピストン21及びガイド軸43間に充填されることになり,これによって操作ストロークの限界が規制される。
【0038】
ところで,厚肉筒部44aの制御ピストン21及びガイド軸43間への充填に先立ち,両段部43c,44cを密着させることは,厚肉筒部44aが薄肉筒部44bに先行して制御ピストン21及びガイド軸43間に充填されることを防ぐことになり,これにより中入力荷重領域から高入力荷重領域にかけて弾性体のばね定数の増加制御を順序通り確実に行うことができる。
【0039】
ブレーキ操作が解除されると,ブレーキペダル23が戻しばね26の付勢力で後退し,それに伴ないプッシュロッド24及び制御ピストン21も後退するので,増圧弁37が閉弁すると共に減圧弁38が開弁するので,倍力液圧発生室35の液圧は解放ポート29へ,ブースタ室17の液圧は倍力液圧発生室35へと解放されるので,マスタシリンダMを非作動状態に戻すことができる。
【0040】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,マスタシリンダMは,単一のマスタピストンを備えるシングル型に構成することもできる。またブレーキ操作部材としてブレーキレバーを備える自動二輪車用ブレーキ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
B・・・・液圧ブースタ
M・・・・マスタシリンダ
23・・・ブレーキ操作部材(ブレーキペダル)
25・・・ストロークシミュレータ
35・・・倍力液圧発生室
41・・・入力部材(入力ピストン)
43・・・ガイド軸
43a・・小径軸部
43b・・大径軸部
43c・・第1の段部である後向き段部
44・・・弾性体
44a・・厚肉筒部
44b・・薄肉筒部
44c・・第2の段部である前向き段部
α・・・・第1の段部である後向き段部のテーパ角度
β・・・・第2の段部である前向き段部のテーパ角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ(M)と,このマスタシリンダ(M)を倍力作動する液圧ブースタ(B)とよりなり,その液圧ブースタ(B)が,前記マスタシリンダ(M)を作動する倍力液圧を発生し得る倍力液圧発生室(35)と,ブレーキ操作部材(23)からの入力による前進により液圧源(30)の液圧を倍力液圧発生室(35)に導入すると共に,その倍力液圧発生室(35)側から導入液圧に応じた後退方向への反力を受ける制御ピストン(21)と,前記ブレーキ操作部材(23)に操作ストロークを付与するストロークシミュレータ(25)とを備え,またそのストロークシミュレータ(25)が,前記ブレーキ操作部材(23)に連なり,中空円筒状をなす前記制御ピストン(21)内に摺動可能に嵌合される入力部材(41)と,前記制御ピストン(21)内で前端部が該制御ピストン(21)に受け止められると共に,後端部が前記入力部材(41)に摺動可能に支持されるガイド軸(43)と,前記入力部材(41)の前方で前記ガイド軸(43)を囲繞するようにして前記制御ピストン(21)内に収容され,前記制御ピストン(21)に対する前記入力部材(41)の前進に応じて軸方向に圧縮変形される筒状の弾性体(44)とを備える車両用ブレーキ装置において,
前記ガイド軸(43)に,小径軸部(43a)と,この小径軸部(43a)に第1の段部(43c)を介して連なる,小径軸部(43a)より大径の大径軸部(43b)とを設ける一方,前記弾性体(44)を,前記小径軸部(43a)を囲繞する厚肉筒部(44a)と,この厚肉筒部(44a)に連なって前記大径軸部(43b)を囲繞する薄肉筒部(44b)とより構成し,前記薄肉筒部(44b)の内周面を,前記厚肉筒部(44a)の内周面より大径に形成すると共に,厚肉筒部(44a)及び薄肉筒部(44b)の両内周面間には,第1の段部(43c)と軸方向で対向する第2の段部(44c)を形成し,前記薄肉筒部(44b)の断面積を厚肉筒部(44a)のそれより小さく設定して,前記弾性体(44)の軸方向圧縮変形時,前記薄肉筒部(44b)及び厚肉筒部(44a)が,その順で前記制御ピストン(21)内周面と前記ガイド軸(43)外周面との間に充填されるようにしたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用ブレーキ装置において,
前記大径軸部(43b)を前記小径軸部(43a)の前端に後向きである第1の段部(43c)を介して連ならせるとともに,前記厚肉筒部(44a)及び前記薄肉筒部(44b)の両内周面間に,前向きである第2の段部(44c)を形成し,前記弾性体(44)の軸方向圧縮変形時,前記厚肉筒部(44a)が前記制御ピストン(21)内周面と前記ガイド軸(43)外周面との間に充填されるのに先行して第1の段部(43c)に第2の段部(44c)が密着するよう,第1の段部(43c)及び第2の段部(44c)を配置したことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用ブレーキ装置において,
第1の段部(43c)及び第2の段部(44c)を,それぞれ後方に向うにつれて小径となるテーパ状に形成すると共に,第2の段部(44c)のテーパ角度(β)を第1の段部(43c)のテーパ角度(α)より小さく設定したことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の車両用ブレーキ装置において,
前記制御ピストン(21)の少なくとも一部を後方に向かって大径となるテーパ状に形成して,前記弾性体(44)が,その軸方向圧縮変形に伴なう拡径により前記制御ピストン(21)のテーパ状内周面にその前端から後端に向かって順次密着するようにしたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−76687(P2012−76687A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225792(P2010−225792)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】