説明

車両用ランプの内面防曇用レンズ及びこれの製造に用いる電極板

【課題】 レンズの表面を傷つきにくくしつつかつ極力コストアップを避けつつ防曇防止膜をプラズマ重合により形成した車両用ランプの内面防曇用レンズを提供する。
【解決手段】 本発明の車両用ランプの内面防曇用レンズは、車両用ランプのレンズ3の内面3bにイオン化ガスを衝突させてプラズマ処理を施すことにより内面3bを活性化して活性化層を形成し、活性化層にモノマーガス6を衝突させてプラズマ重合により撥水性のプラズマ重合層7を形成し、プラズマ重合層7にイオン化ガス8を衝突させてプラズマ処理を施すことにより親水層を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ重合、プラズマ処理を用いて防曇膜を形成した車両用ランプの内面防曇用レンズ及びこれの製造に用いる電極板に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、車両用ランプは、そのランプの中が見えるように素通し化タイプのものが普及しており、ランプ内に水分があるとレンズの内面が曇るため、従来から、ランプのレンズの内面に防曇膜を形成するようにしている。従来、この内面防曇用レンズの製造は、その内面に塗装、流し塗り等を行って親水性の防曇膜を形成している。
【0003】
なお、各種基板にプラズマ重合により防曇コーティングを行う技術も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−48543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の内面防曇用レンズの製造では、塵埃等の異物がレンズの内面に付着しないように、その塗装等をクリーンルーム内で行わなければならず、また、化学薬品としての溶剤を用いるために、作業環境の面で望ましくない面もあり、設備コストの観点からも高価になるという問題がある。
【0005】
その一方、レンズの内面にプラズマ処理を施して防曇膜を形成するには、レンズの面を傷つきにくくする必要がある。
【0006】
また、防曇膜の形成に時間をかけすぎるとコストアップとなるので、極力これを避けたいという課題もある。
【0007】
更に、レンズの内面に極力一様な膜厚の防曇膜を形成したいという課題もある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、その目的は、レンズの表面を傷つきにくくしつつかつ極力コストアップを避けつつ防曇膜をプラズマ重合及びプラズマ処理を用いて形成した車両用ランプの内面防曇用レンズ及びその製造に用いる電極板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の車両用ランプの内面防曇用レンズは、車両用ランプのレンズの内面にイオン化ガスを衝突させてプラズマ処理を施すことにより該内面を活性化して活性化層を形成し、該活性化層にモノマーガスを衝突させてプラズマ重合により撥水性のプラズマ重合層を形成し、該プラズマ重合層にイオン化ガスを衝突させてプラズマ処理を施すことにより親水層を形成したところにある。
【0010】
請求項2に記載の車両用ランプの内面防曇用レンズは、車両用ランプのレンズの内面にイオン化ガスを衝突させてプラズマ処理を施すことにより該内面を活性化して活性化層を形成し、該活性化層にモノマーガスとイオン化ガスとからなる混合ガスを衝突させて撥水性のプラズマ重合処理を施しつつプラズマ処理を施してプラズマ重合層に親水性を与えたところにある。
【0011】
請求項3に記載の車両用ランプの内面防曇用レンズは、前記モノマーガスと前記イオン化ガスとの混合比が8:2であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の車両用ランプの内面防曇用レンズは、前記イオン化ガスが空気であり、大気圧のもとでプラズマ処理及びプラズマ重合を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の電極板は、請求項1ないし請求項4に記載の車両用ランプの内面防曇用レンズの製造に用いられ、車両用ランプのレンズの内面の形状に沿った形状を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、レンズの内面にプラズマ処理を施して活性化層を形成し、プラズマ重合により撥水膜を形成することにより、その内面を硬質化させ、その撥水膜にプラズマ処理を施すことにより親水層を形成することにしたので、レンズの表面を傷つきにくくしつつ防曇膜を形成できるという効果を奏する。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、防曇膜の形成時間の短縮化を図ることができる。
【0016】
請求項3、4に記載の発明によれば、品質の良好な防曇膜を形成できるという効果を奏する。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、レンズの内面に一様な膜厚の防曇膜を形成できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係わる車両用ランプの内面防曇用レンズの実施例を図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0019】
図1は本発明に係わる車両ランプの内面防曇用レンズの製造過程の一例を示す説明図であって、1はレンズ受け用電極板治具、2は電圧印加用電極板、3は車両用ランプに用いられるレンズである。レンズ受け用電極板治具1の形状はレンズ3の外面3aの形状に沿うように形成され、電圧印加用電極板2はレンズ3の内面3bの形状に沿う形状に形成されている。これらのレンズ受け用電極板治具1、電圧印加用電極板2はステンレス等の金属製材料により形成されている。そのレンズ3は、ポリカーボネート、アクリル等の透明樹脂、ガラス等の透明体から構成される。
【0020】
このレンズ受け用電極板治具1、電圧印加用電極板2、レンズ3は真空蒸着室4内にセットされる。電圧印加用電極板2には、高周波、直流電圧、マイクロ波等の手段を用いて電圧が印加される。
【0021】
その真空蒸着室4内には、酸素、アルゴン、清浄空気等のガス分子5が図2に示すように導入される。これらのガス分子5はその電圧印加用電極板2、レンズ受け用電極板治具1によりイオン化され、プラズマ状態のイオン化ガスとされる。レンズ印加用電極板2、レンズ受け用電極板治具1の形状がレンズ3の内面3bの形状と同形状とされているので、プラズマがこれらの電極板間で安定して生じ、その分布が一様なものとされる。
【0022】
レンズ3の内面3bには、図2に示すように、イオン化されたガス分子5が衝突し、このプラズマ処理によりその表面が活性化され、図3に示すように改質されて活性化層3cが形成される。
【0023】
ついで、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)等のモノマーガス6を真空蒸着室4内に導入し、プラズマ重合を行う。すなわち、モノマーガス6をイオン化させ、プラズマ状態としつつレンズ3の内面3bに蒸着させることにより、モノマーガス6の重合が進み、プラズマ重合層7が図4に示すように形成される。
【0024】
このプラズマ重合層7は、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)の場合、図4に示すように、酸素OとシリコンSiとの結合からなる堅い膜7aとシリコンSiと炭化水素CHとの結合からなる柔らかい膜7bとからなる。このプラズマ重合層7は撥水性を有する。このプラズマ重合層7の層厚は約20nm〜50nm程度とする。曇り止めの層厚としては、この程度で十分だからである。このプラズマ重合層7によりレンズ3の表面が傷つきにくくされる。
【0025】
ついで、図5に示すように、酸素と窒素とが3対7からなるガス分子8又は亜酸化窒素ガス(NO)からなるガス分子8をプラズマ処理によりイオン化させてプラズマ重合層7の表面7cに衝突させる。これにより、シリコンSiと炭化水素CHとの結合が切られ、その断ち切られた箇所が活性化されることによりプラズマ重合層7の表面7cに親水層が形成され、防曇膜とされる。
【0026】
以上の実施例の場合には、プラズマ重合を行ってプラズマ重合層7を形成した後、ガス分子8をプラズマ重合層7に衝突させることによりプラズマ重合層7の表面7cに防曇膜を形成することにしたが、図6に示すように、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)等のモノマーガス6と酸素と窒素とが3対7からなるガス分子(清浄な空気分子)8との混合比を約8:2として、この混合ガス9をイオン化しつつレンズ3の内面3bに衝突させることにより、プラズマ重合層7をレンズ3の内面3bに形成しつつプラズマ処理を施すことによりシリコンSiと炭化水素CH3との結合を切ることにより、親水性を与えて防曇膜を形成することにしたものである。なお、清浄な空気を用いる場合、大気圧力の条件のもとで行うのが望ましい。
【0027】
このように、プラズマ重合を行いつつプラズマ処理を行うことにすると、プラズマ重合層7を形成しつつ同時にプラズマ重合層7に親水性を与えることができるので、レンズ3の内面3bへの防曇膜の形成時間の短縮化を図ることができる。
【0028】
また、プラズマ重合層7の内部にシリコンSiと炭化水素CH3との結合が断ち切られた活性化部分があたかも巣のように形成されるので、親水性の向上を期待できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係わる車両ランプの内面防曇用レンズの製造過程の一例を示す説明図である。
【図2】図1に示すレンズの内面の改質処理を行うための説明図である。
【図3】改質処理されたレンズの内面を示すための説明図である。
【図4】内面にプラズマ重合層が形成されたレンズの説明図である。
【図5】プラズマ重合層の表面の化学結合を断ち切って、親水層を形成した状態を示す説明図である。
【図6】プラズマ重合層を形成しつつこのプラズマ重合層に親水性を与えるための説明図である。
【符号の説明】
【0030】
3…レンズ
6…モノマーガス
7…プラズマ重合層
8…ガス分子(イオン化ガス)
3b…内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ランプのレンズの内面にイオン化ガスを衝突させてプラズマ処理を施すことにより該内面を活性化して活性化層を形成し、該活性化層にモノマーガスを衝突させてプラズマ重合により撥水性のプラズマ重合層を形成し、該プラズマ重合層にイオン化ガスを衝突させてプラズマ処理を施すことにより親水層を形成した車両用ランプの内面防曇用レンズ。
【請求項2】
車両用ランプのレンズの内面にイオン化ガスを衝突させてプラズマ処理を施すことにより該内面を活性化して活性化層を形成し、該活性化層にモノマーガスとイオン化ガスとからなる混合ガスを衝突させて撥水性のプラズマ重合を施しつつプラズマ処理を施してプラズマ重合層に親水性を与えた車両用ランプの内面防曇用レンズ。
【請求項3】
前記モノマーガスと前記イオン化ガスとの混合比が8:2であることを特徴とする請求項2に記載の車両用ランプの内面防曇用レンズ。
【請求項4】
前記イオン化ガスが空気であり、大気圧のもとでプラズマ処理及びプラズマ重合を行うことを特徴とする請求項3に記載の車両用ランプの内面防曇用レンズ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4に記載の車両用ランプの内面防曇用レンズの製造に用いられ、車両用ランプのレンズの内面の形状に沿った形状を有する電極板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2005−226098(P2005−226098A)
【公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−34407(P2004−34407)
【出願日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(000000136)市光工業株式会社 (774)
【Fターム(参考)】