車両用動力伝達装置
【課題】 四節リンク機構を用いた無段変速機を備える車両用動力伝達装置の動力伝達効率を確保しながら最大変速比を小さく設定できるようにする。
【解決手段】 エンジンEのクランクシャフト32の回転を増速機構Iで増速して無段変速機Tの入力軸11に伝達するので、無段変速機T単体の最大変速比を大きくして変速比の小さな領域における動力伝達効率の低下を回避しながら、エンジンEおよび無段変速機Tを含む車両用動力伝達装置の最大変速比を小さく確保し、エンジンEの燃費を向上させることができる。また増速機構Iを多気筒エンジンEのクランクシャフト32の軸方向中央近傍に配置したので、増速機構Iから受ける反力荷重によるクランクシャフト32の捩じれ変形を最小限に抑えることができ、これによりクランクシャフト32の小型軽量化や、振動・騒音の低減が可能となる。
【解決手段】 エンジンEのクランクシャフト32の回転を増速機構Iで増速して無段変速機Tの入力軸11に伝達するので、無段変速機T単体の最大変速比を大きくして変速比の小さな領域における動力伝達効率の低下を回避しながら、エンジンEおよび無段変速機Tを含む車両用動力伝達装置の最大変速比を小さく確保し、エンジンEの燃費を向上させることができる。また増速機構Iを多気筒エンジンEのクランクシャフト32の軸方向中央近傍に配置したので、増速機構Iから受ける反力荷重によるクランクシャフト32の捩じれ変形を最小限に抑えることができ、これによりクランクシャフト32の小型軽量化や、振動・騒音の低減が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の回転軸に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する変速機が、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備える車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる車両用動力伝達装置は下記特許文献1により公知である。
【0003】
図9は特許文献1の車両用動力伝達装置の無段変速機の原理を示すもので、入力軸01および出力軸02が平行に配置されており、入力軸01に対する偏心量が可変な偏心ディスク03の外周にコネクティングロッド04の一端が支持され、コネクティングロッド04の他端が出力軸02の外周にワンウエイクラッチ05を介して支持される。
【0004】
入力軸01が回転すると、入力軸01に偏心ディスク03を介して支持されたコネクティングロッド04の一端が偏心回転し、コネクティングロッド04が前記偏心量に応じたストロークで往復運動する。その結果、コネクティングロッド04が一方向に移動したときにワンウエイクラッチ05が係合して出力軸02が一方向に回転し、コネクティングロッド04が他方向に移動したときにワンウエイクラッチ05が係合解除して出力軸02が回転を停止することで、出力軸02は一方向に間欠回転する。
【0005】
偏心ディスク03の偏心量を増加させるとコネクティングロッド04のストロークが増加して入力軸01の1回転当たりの出力軸02の間欠回転角が増加し、無段変速機の変速比がTOP側に変化する。逆に、偏心ディスク03の偏心量を減少させるとコネクティングロッド04のストロークが減少して入力軸01の1回転当たりの出力軸02の間欠回転角が減少し、無段変速機の変速比がLOW側に変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記無段変速機の変速比が減少してTOP側に近づくと、図10に示すように、出力軸02の間欠回転角、つまりワンウエイクラッチ05の間欠回転角が増加してフリクションが大きくなり、無段変速機の動力伝達効率が低下する問題がある。
【0008】
また無段変速機の最大変速比を小さく設定するには、コネクティングロッド04の往復ストロークを大きくする必要があるが、そのために偏心ディスク03の直径を増加したり、入力軸01に対する偏心ディスク03の偏心量を増加したりすると、無段変速機の寸法が大型化したり重量が増加したりする問題がある。しかも無段変速機の最大変速比を小さく設定すると、特に高速運転時にワンウエイクラッチ05のフリクションが増加するために、図11に示すように、変速比が小さい領域で動力伝達効率が著しく低下する問題がある。
【0009】
このように、無段変速機の最大変速比を小さく設定すると変速比が小さい領域で動力伝達効率が著しく低下してしまうが、以下のような理由で最大変速比を小さく設定する必要がある。
【0010】
図12は、横軸がエンジン回転数(無段変速機の入力軸回転数)、縦軸がエンジンの出力トルクであり、色の濃い領域ほどエンジンEの燃費が良いことを示している。例えば車両が車速80km/hで走行しているとき、変速比が小さいほど燃費が向上する。最小変速比が2.1の場合には領域Cの燃費が限界であるが(○参照)、最小変速比を2.1よりも更に小さくすると、燃費を領域Cから更に良好な領域Bに近づけることができる(●参照)。以上のことから、無段変速機の動力伝達効率を確保しながら最大変速比を小さくすることが望ましい。
【0011】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、四節リンク機構を用いた無段変速機を備える車両用動力伝達装置の動力伝達効率を確保しながら最大変速比を小さく設定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源の回転軸に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する変速機が、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備える車両用動力伝達装置であって、前記駆動源の回転軸の回転を増速して前記入力軸に伝達する増速機構を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0013】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記駆動源の回転軸と前記変速機の入力軸とは相互に平行に配置され、前記軸線に直交する方向に見て前記回転軸および前記入力軸は少なくとも一部で相互にオーバーラップすることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0014】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記駆動源の回転軸と前記変速機の入力軸とは同軸上で直列に配置され、前記増速機構は遊星歯車機構により構成されることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0015】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記駆動源は多気筒のエンジンであり、前記増速機構は前記エンジンのクランクシャフトの軸方向中央近傍に配置されることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0016】
尚、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態の無段変速機Tは本発明の変速機に対応し、実施の形態の偏心ディスク18は本発明の入力側支点に対応し、実施の形態のピン19cは本発明の出力側支点に対応し、実施の形態のアウター部材22は本発明の入力部材に対応し、実施の形態のクランクシャフト32は本発明の回転軸に対応する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の構成によれば、変速機は、入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、入力側支点および出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備えるので、入力軸の回転を変速して出力軸に出力することができる。駆動源の回転軸の回転を増速機構で増速して入力軸に伝達するので、変速機単体の最大変速比を大きくして変速比の小さな領域における動力伝達効率の低下を回避しながら、駆動源および変速機を含む車両用動力伝達装置の最大変速比を小さく確保し、駆動源のエネルギー消費効率を高めることができる。
【0018】
また請求項2の構成によれば、相互に平行に配置された駆動源の回転軸と変速機の入力軸とが、軸線に直交する方向に見て少なくとも一部で相互にオーバーラップするので、車両用動力伝達装置の軸方向の寸法を小型化することができる。
【0019】
また請求項3の構成によれば、駆動源の回転軸と変速機の入力軸とは同軸上で直列に配置され、増速機構は遊星歯車機構により構成されので、車両用動力伝達装置の軸直角方向の寸法を小型化することができる。
【0020】
また請求項4の構成によれば、増速機構を多気筒エンジンのクランクシャフトの軸方向中央近傍に配置したので、増速機構から受ける反力荷重によるクランクシャフトの捩じれ変形を最小限に抑えることができ、これによりクランクシャフトの小型軽量化や、振動・騒音の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】車両用動力伝達装置のスケルトン図。(第1の実施の形態)
【図2】無段変速機の縦断面図。(第1の実施の形態)
【図3】図2の3−3線断面図(TOP状態)。(第1の実施の形態)
【図4】図2の3−3線断面図(LOW状態)。(第1の実施の形態)
【図5】TOP状態での作用説明図。(第1の実施の形態)
【図6】LOW状態での作用説明図。(第1の実施の形態)
【図7】車両用動力伝達装置の斜視図。(第1の実施の形態)
【図8】車両用動力伝達装置のスケルトン図。(第2の実施の形態)
【図9】従来の無段変速機の構造を示す図。
【図10】変速比に対する出力軸の回転角および動力伝達効率の関係を示すグラフ。
【図11】最大変速比の大小に応じた変速比および動力伝達子効率の関係を示すグラフ。
【図12】エンジンの回転数および出力トルクと燃費との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0023】
図1および図7に示すように、車両の左右の駆動輪W,Wを駆動する車両用動力伝達装置は、エンジンEと、増速機構Iと、無段変速機Tと、クラッチCと、ディファレンシャルギヤDと、左右のドライブシャフトS,Sとを備える。
【0024】
エンジンEは例えば直列4気筒のもので、4個のピストン31…に接続されたクランクシャフト32の軸方向中間位置に固設された駆動スプロケット33と、クランクシャフト32と平行に配置された無段変速機Tの入力軸11に固設された従動スプロケット34とに無端チェーン35が巻き掛けられる。よって、エンジンEを駆動すると、クランクシャフト32の回転が駆動スプロケット33、無端チェーン35および従動スプロケット34を介して無段変速機Tの入力軸11に伝達される。このとき、駆動スプロケット33の直径は従動スプロケット34の直径よりも大きいため、クランクシャフト32の回転数に対して無段変速機Tの入力軸11の回転数は増速される。駆動スプロケット33、従動スプロケット34および無端チェーン35は第1の実施の形態の増速機構Iを構成する。
【0025】
次に、図2〜図6に基づいて無段変速機Tの構造を説明する。
【0026】
図2および図3に示すように、本実施の形態の無段変速機Tは同一構造を有する複数個(実施の形態では4個)の変速ユニット10…を軸方向に重ね合わせたもので、それらの変速ユニット10…は平行に配置された共通の入力軸11および共通の出力軸12を備えており、入力軸11の回転が減速または増速されて出力軸12に伝達される。
【0027】
以下、代表として一つの変速ユニット10の構造を説明する。エンジンEに接続されて回転する入力軸11は、電動モータのような変速アクチュエータ14の中空の回転軸14aの内部を相対回転自在に貫通する。変速アクチュエータ14のロータ14bは回転軸14aに固定されており、ステータ14cはケーシングに固定される。変速アクチュエータ14の回転軸14aは、入力軸11と同速度で回転可能であり、かつ入力軸11に対して異なる速度で相対回転可能である。
【0028】
変速アクチュエータ14の回転軸14aを貫通した入力軸11には第1ピニオン15が固定されており、この第1ピニオン15を跨ぐように変速アクチュエータ14の回転軸14aにクランク状のキャリヤ16が接続される。第1ピニオン15と同径の2個の第2ピニオン17,17が、第1ピニオン15と協働して正三角形を構成する位置にそれぞれピニオンピン16a,16aを介して支持されており、これら第1ピニオン15および第2ピニオン17,17に、円板形の偏心ディスク18の内部に偏心して形成されたリングギヤ18aが噛合する。偏心ディスク18の外周面に、コネクティングロッド19のロッド部19aの一端に設けたリング部19bがボールベアリング20を介して相対回転自在に嵌合する。
【0029】
出力軸12の外周に設けられたワンウェイクラッチ21は、コネクティングロッド19のロッド部19aにピン19cを介して枢支されたリング状のアウター部材22と、アウター部材22の内部に配置されて出力軸12に固定されたインナー部材23と、アウター部材22の内周の円弧面とインナー部材23の外周の平面との間に形成された楔状の空間に配置されてスプリング24…で付勢されたローラ25…とを備える。
【0030】
図2から明らかなように、4個の変速ユニット10…はクランク状のキャリヤ16を共有しているが、キャリヤ16に第2ピニオン17,17を介して支持される偏心ディスク18の位相は各々の変速ユニット10で90°ずつ異なっている。例えば、図2において、左端の変速ユニット10の偏心ディスク18は入力軸11に対して図中上方に変位し、左から3番目の変速ユニット10の偏心ディスク18は入力軸11に対して図中下方に変位し、左から2番目および4番目の変速ユニット10,10の偏心ディスク18,18は上下方向中間に位置している。
【0031】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0032】
先ず、無段変速機Tの一つの変速ユニット10の作用を説明する。変速アクチュエータ14の回転軸14aを入力軸11に対して相対回転させると、入力軸11の軸線L1まわりにキャリヤ16が回転する。このとき、キャリヤ16の中心O、つまり第1ピニオン15および2個の第2ピニオン17,17が成す正三角形の中心は入力軸11の軸線L1まわりに回転する。
【0033】
図3および図5は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と反対側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量が最大になって無段変速機TのレシオはTOP状態になる。図4および図6は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と同じ側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量が最小になって無段変速機TのレシオはLOW状態になる。
【0034】
図5に示すTOP状態で、エンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(A)から図5(B)を経て図5(C)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を反時計方向(矢印B参照)に回転させる。図5(A)および図5(C)は、アウター部材22の前記矢印B方向の回転の両端を示している。
【0035】
このようにしてアウター部材22が矢印B方向に回転すると、ワンウェイクラッチ21のアウター部材22およびインナー部材23間の楔状の空間にローラ25…が噛み込み、アウター部材22の回転がインナー部材23を介して出力軸12に伝達されるため、出力軸12は反時計方向(矢印C参照)に回転する。
【0036】
入力軸11および第1ピニオン15が更に回転すると、第1ピニオン15および第2ピニオン17,17にリングギヤ18aを噛合させた偏心ディスク18が反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(C)から図5(D)を経て図5(A)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を時計方向(矢印B′参照)に回転させる。図5(C)および図5(A)は、アウター部材22の前記矢印B′方向の回転の両端を示している。
【0037】
このようにしてアウター部材22が矢印B′方向に回転すると、アウター部材22とインナー部材23との間の楔状の空間からローラ25…がスプリング24…を圧縮しながら押し出されることで、アウター部材22がインナー部材23に対してスリップして出力軸12は回転しない。
【0038】
以上のように、アウター部材22が往復回転したとき、アウター部材22の回転方向が反時計方向(矢印B参照)のときだけ出力軸12が反時計方向(矢印C参照)に回転するため、出力軸12は間欠回転することになる。
【0039】
図6は、LOW状態で無段変速機Tを運転するときの作用を示すものである。このとき、入力軸11の位置は偏心ディスク18の中心に一致しているので、入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量はゼロになる。この状態でエンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。しかしながら、偏心ディスク18の偏心量がゼロであるため、コネクティングロッド19の往復運動のストロークもゼロになり、出力軸12は回転しない。
【0040】
従って、変速アクチュエータ14を駆動してキャリヤ16の位置を図3のTOP状態と図4のLOW状態との間に設定すれば、ゼロレシオおよび所定レシオ間の任意のレシオでの運転が可能になる。
【0041】
無段変速機Tは、並置された4個の変速ユニット10…の偏心ディスク18…の位相が相互に90°ずつずれているため、4個の変速ユニット10…が交互に駆動力を伝達することで、つまり4個のワンウェイクラッチ21…の何れかが必ず係合状態にあることで、出力軸12を連続回転させることができる。このようにしてエンジンEの駆動力が無段変速機Tで変速されて出力軸12に出力される。
【0042】
さて、本実施の形態によれば、エンジンEのクランクシャフト32の回転が増速機構Iを介して増速されて無段変速機Tの入力軸11に伝達されるため、無段変速機Tの入力軸11および出力軸12間の変速比を大きく設定しても、つまり入力軸11の回転数を充分に減速して出力軸12に伝達しても、クランクシャフト32および出力軸12間の変速比を充分に小さく確保することができる。その結果、無段変速機Tを変速比が小さくて動力伝達効率が低い領域(図10の右側の領域)で運転する必要をなくしながら、必要な変速比幅を確保することができる。
【0043】
またエンジンEのクランクシャフト32と無段変速機Tの入力軸11とが、軸線に直交する方向に見て少なくとも一部で相互にオーバーラップするので、車両用動力伝達装置の軸方向寸法を小型化することができる。しかも増速機構Iの駆動スプロケット33をエンジンEのクランクシャフト32の軸方向中央近傍、つまり4個のピストン31…の内側の2個のピストン31,31の間に配置したので、増速機構Iから受ける反力荷重によるクランクシャフト32の捩じれ変形を最小限に抑えることができ、これによりクランクシャフト32の小型軽量化や、振動・騒音の低減が可能となる。
【0044】
次に、図8に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0045】
第1の実施の形態ではエンジンEのクランクシャフト32の軸線および無段変速機Tの入力軸11の軸線が平行に配置されているが、第2の実施の形態ではエンジンEのクランクシャフト32および無段変速機Tの入力軸11が同軸かつ直列に接続される。エンジンEのクランクシャフト32および無段変速機Tの入力軸11の間には増速機構Iとしての遊星歯車機構41が配置される。
【0046】
遊星歯車機構41は、入力軸11に固定されたサンギヤ42と、クランクシャフト32に固定されたリングギヤ43と、ケーシング44に固定されたキャリヤ45と、キャリヤ45に回転自在に支持されてサンギヤ42およびリングギヤ43に噛合する複数のピニオン46…とで構成される。よって、クランクシャフト32の回転はリングギヤ43、ピニオン46…およびサンギヤ42を介して入力軸11に増速されて伝達される。
【0047】
この第2の実施の形態によれば、エンジンEおよび無段変速機Tを含む車両用動力伝達装置の軸直角方向(クランクシャフト32、入力軸11および出力軸12の軸線に直交する方向)の寸法を小型化することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0049】
例えば、実施の形態では駆動源をエンジンEで構成しているが、それを電動モータで構成しても良い。
【0050】
また増速機構Iは無端チェーン35や遊星歯車機構41を用いたものに限定されず、ギヤ列等の他の手段を採用することができる。
【符号の説明】
【0051】
11 入力軸
12 出力軸
18 偏心ディスク(入力側支点)
19 コネクティングロッド
19c ピン(出力側支点)
21 ワンウェイクラッチ
22 入力部材
32 クランクシャフト(回転軸)
E エンジン(駆動源)
I 増速機構
T 無段変速機(変速機)
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の回転軸に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する変速機が、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備える車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる車両用動力伝達装置は下記特許文献1により公知である。
【0003】
図9は特許文献1の車両用動力伝達装置の無段変速機の原理を示すもので、入力軸01および出力軸02が平行に配置されており、入力軸01に対する偏心量が可変な偏心ディスク03の外周にコネクティングロッド04の一端が支持され、コネクティングロッド04の他端が出力軸02の外周にワンウエイクラッチ05を介して支持される。
【0004】
入力軸01が回転すると、入力軸01に偏心ディスク03を介して支持されたコネクティングロッド04の一端が偏心回転し、コネクティングロッド04が前記偏心量に応じたストロークで往復運動する。その結果、コネクティングロッド04が一方向に移動したときにワンウエイクラッチ05が係合して出力軸02が一方向に回転し、コネクティングロッド04が他方向に移動したときにワンウエイクラッチ05が係合解除して出力軸02が回転を停止することで、出力軸02は一方向に間欠回転する。
【0005】
偏心ディスク03の偏心量を増加させるとコネクティングロッド04のストロークが増加して入力軸01の1回転当たりの出力軸02の間欠回転角が増加し、無段変速機の変速比がTOP側に変化する。逆に、偏心ディスク03の偏心量を減少させるとコネクティングロッド04のストロークが減少して入力軸01の1回転当たりの出力軸02の間欠回転角が減少し、無段変速機の変速比がLOW側に変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記無段変速機の変速比が減少してTOP側に近づくと、図10に示すように、出力軸02の間欠回転角、つまりワンウエイクラッチ05の間欠回転角が増加してフリクションが大きくなり、無段変速機の動力伝達効率が低下する問題がある。
【0008】
また無段変速機の最大変速比を小さく設定するには、コネクティングロッド04の往復ストロークを大きくする必要があるが、そのために偏心ディスク03の直径を増加したり、入力軸01に対する偏心ディスク03の偏心量を増加したりすると、無段変速機の寸法が大型化したり重量が増加したりする問題がある。しかも無段変速機の最大変速比を小さく設定すると、特に高速運転時にワンウエイクラッチ05のフリクションが増加するために、図11に示すように、変速比が小さい領域で動力伝達効率が著しく低下する問題がある。
【0009】
このように、無段変速機の最大変速比を小さく設定すると変速比が小さい領域で動力伝達効率が著しく低下してしまうが、以下のような理由で最大変速比を小さく設定する必要がある。
【0010】
図12は、横軸がエンジン回転数(無段変速機の入力軸回転数)、縦軸がエンジンの出力トルクであり、色の濃い領域ほどエンジンEの燃費が良いことを示している。例えば車両が車速80km/hで走行しているとき、変速比が小さいほど燃費が向上する。最小変速比が2.1の場合には領域Cの燃費が限界であるが(○参照)、最小変速比を2.1よりも更に小さくすると、燃費を領域Cから更に良好な領域Bに近づけることができる(●参照)。以上のことから、無段変速機の動力伝達効率を確保しながら最大変速比を小さくすることが望ましい。
【0011】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、四節リンク機構を用いた無段変速機を備える車両用動力伝達装置の動力伝達効率を確保しながら最大変速比を小さく設定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源の回転軸に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する変速機が、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備える車両用動力伝達装置であって、前記駆動源の回転軸の回転を増速して前記入力軸に伝達する増速機構を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0013】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記駆動源の回転軸と前記変速機の入力軸とは相互に平行に配置され、前記軸線に直交する方向に見て前記回転軸および前記入力軸は少なくとも一部で相互にオーバーラップすることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0014】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記駆動源の回転軸と前記変速機の入力軸とは同軸上で直列に配置され、前記増速機構は遊星歯車機構により構成されることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0015】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記駆動源は多気筒のエンジンであり、前記増速機構は前記エンジンのクランクシャフトの軸方向中央近傍に配置されることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0016】
尚、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態の無段変速機Tは本発明の変速機に対応し、実施の形態の偏心ディスク18は本発明の入力側支点に対応し、実施の形態のピン19cは本発明の出力側支点に対応し、実施の形態のアウター部材22は本発明の入力部材に対応し、実施の形態のクランクシャフト32は本発明の回転軸に対応する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の構成によれば、変速機は、入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、入力側支点および出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備えるので、入力軸の回転を変速して出力軸に出力することができる。駆動源の回転軸の回転を増速機構で増速して入力軸に伝達するので、変速機単体の最大変速比を大きくして変速比の小さな領域における動力伝達効率の低下を回避しながら、駆動源および変速機を含む車両用動力伝達装置の最大変速比を小さく確保し、駆動源のエネルギー消費効率を高めることができる。
【0018】
また請求項2の構成によれば、相互に平行に配置された駆動源の回転軸と変速機の入力軸とが、軸線に直交する方向に見て少なくとも一部で相互にオーバーラップするので、車両用動力伝達装置の軸方向の寸法を小型化することができる。
【0019】
また請求項3の構成によれば、駆動源の回転軸と変速機の入力軸とは同軸上で直列に配置され、増速機構は遊星歯車機構により構成されので、車両用動力伝達装置の軸直角方向の寸法を小型化することができる。
【0020】
また請求項4の構成によれば、増速機構を多気筒エンジンのクランクシャフトの軸方向中央近傍に配置したので、増速機構から受ける反力荷重によるクランクシャフトの捩じれ変形を最小限に抑えることができ、これによりクランクシャフトの小型軽量化や、振動・騒音の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】車両用動力伝達装置のスケルトン図。(第1の実施の形態)
【図2】無段変速機の縦断面図。(第1の実施の形態)
【図3】図2の3−3線断面図(TOP状態)。(第1の実施の形態)
【図4】図2の3−3線断面図(LOW状態)。(第1の実施の形態)
【図5】TOP状態での作用説明図。(第1の実施の形態)
【図6】LOW状態での作用説明図。(第1の実施の形態)
【図7】車両用動力伝達装置の斜視図。(第1の実施の形態)
【図8】車両用動力伝達装置のスケルトン図。(第2の実施の形態)
【図9】従来の無段変速機の構造を示す図。
【図10】変速比に対する出力軸の回転角および動力伝達効率の関係を示すグラフ。
【図11】最大変速比の大小に応じた変速比および動力伝達子効率の関係を示すグラフ。
【図12】エンジンの回転数および出力トルクと燃費との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0023】
図1および図7に示すように、車両の左右の駆動輪W,Wを駆動する車両用動力伝達装置は、エンジンEと、増速機構Iと、無段変速機Tと、クラッチCと、ディファレンシャルギヤDと、左右のドライブシャフトS,Sとを備える。
【0024】
エンジンEは例えば直列4気筒のもので、4個のピストン31…に接続されたクランクシャフト32の軸方向中間位置に固設された駆動スプロケット33と、クランクシャフト32と平行に配置された無段変速機Tの入力軸11に固設された従動スプロケット34とに無端チェーン35が巻き掛けられる。よって、エンジンEを駆動すると、クランクシャフト32の回転が駆動スプロケット33、無端チェーン35および従動スプロケット34を介して無段変速機Tの入力軸11に伝達される。このとき、駆動スプロケット33の直径は従動スプロケット34の直径よりも大きいため、クランクシャフト32の回転数に対して無段変速機Tの入力軸11の回転数は増速される。駆動スプロケット33、従動スプロケット34および無端チェーン35は第1の実施の形態の増速機構Iを構成する。
【0025】
次に、図2〜図6に基づいて無段変速機Tの構造を説明する。
【0026】
図2および図3に示すように、本実施の形態の無段変速機Tは同一構造を有する複数個(実施の形態では4個)の変速ユニット10…を軸方向に重ね合わせたもので、それらの変速ユニット10…は平行に配置された共通の入力軸11および共通の出力軸12を備えており、入力軸11の回転が減速または増速されて出力軸12に伝達される。
【0027】
以下、代表として一つの変速ユニット10の構造を説明する。エンジンEに接続されて回転する入力軸11は、電動モータのような変速アクチュエータ14の中空の回転軸14aの内部を相対回転自在に貫通する。変速アクチュエータ14のロータ14bは回転軸14aに固定されており、ステータ14cはケーシングに固定される。変速アクチュエータ14の回転軸14aは、入力軸11と同速度で回転可能であり、かつ入力軸11に対して異なる速度で相対回転可能である。
【0028】
変速アクチュエータ14の回転軸14aを貫通した入力軸11には第1ピニオン15が固定されており、この第1ピニオン15を跨ぐように変速アクチュエータ14の回転軸14aにクランク状のキャリヤ16が接続される。第1ピニオン15と同径の2個の第2ピニオン17,17が、第1ピニオン15と協働して正三角形を構成する位置にそれぞれピニオンピン16a,16aを介して支持されており、これら第1ピニオン15および第2ピニオン17,17に、円板形の偏心ディスク18の内部に偏心して形成されたリングギヤ18aが噛合する。偏心ディスク18の外周面に、コネクティングロッド19のロッド部19aの一端に設けたリング部19bがボールベアリング20を介して相対回転自在に嵌合する。
【0029】
出力軸12の外周に設けられたワンウェイクラッチ21は、コネクティングロッド19のロッド部19aにピン19cを介して枢支されたリング状のアウター部材22と、アウター部材22の内部に配置されて出力軸12に固定されたインナー部材23と、アウター部材22の内周の円弧面とインナー部材23の外周の平面との間に形成された楔状の空間に配置されてスプリング24…で付勢されたローラ25…とを備える。
【0030】
図2から明らかなように、4個の変速ユニット10…はクランク状のキャリヤ16を共有しているが、キャリヤ16に第2ピニオン17,17を介して支持される偏心ディスク18の位相は各々の変速ユニット10で90°ずつ異なっている。例えば、図2において、左端の変速ユニット10の偏心ディスク18は入力軸11に対して図中上方に変位し、左から3番目の変速ユニット10の偏心ディスク18は入力軸11に対して図中下方に変位し、左から2番目および4番目の変速ユニット10,10の偏心ディスク18,18は上下方向中間に位置している。
【0031】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0032】
先ず、無段変速機Tの一つの変速ユニット10の作用を説明する。変速アクチュエータ14の回転軸14aを入力軸11に対して相対回転させると、入力軸11の軸線L1まわりにキャリヤ16が回転する。このとき、キャリヤ16の中心O、つまり第1ピニオン15および2個の第2ピニオン17,17が成す正三角形の中心は入力軸11の軸線L1まわりに回転する。
【0033】
図3および図5は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と反対側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量が最大になって無段変速機TのレシオはTOP状態になる。図4および図6は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と同じ側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量が最小になって無段変速機TのレシオはLOW状態になる。
【0034】
図5に示すTOP状態で、エンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(A)から図5(B)を経て図5(C)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を反時計方向(矢印B参照)に回転させる。図5(A)および図5(C)は、アウター部材22の前記矢印B方向の回転の両端を示している。
【0035】
このようにしてアウター部材22が矢印B方向に回転すると、ワンウェイクラッチ21のアウター部材22およびインナー部材23間の楔状の空間にローラ25…が噛み込み、アウター部材22の回転がインナー部材23を介して出力軸12に伝達されるため、出力軸12は反時計方向(矢印C参照)に回転する。
【0036】
入力軸11および第1ピニオン15が更に回転すると、第1ピニオン15および第2ピニオン17,17にリングギヤ18aを噛合させた偏心ディスク18が反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(C)から図5(D)を経て図5(A)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を時計方向(矢印B′参照)に回転させる。図5(C)および図5(A)は、アウター部材22の前記矢印B′方向の回転の両端を示している。
【0037】
このようにしてアウター部材22が矢印B′方向に回転すると、アウター部材22とインナー部材23との間の楔状の空間からローラ25…がスプリング24…を圧縮しながら押し出されることで、アウター部材22がインナー部材23に対してスリップして出力軸12は回転しない。
【0038】
以上のように、アウター部材22が往復回転したとき、アウター部材22の回転方向が反時計方向(矢印B参照)のときだけ出力軸12が反時計方向(矢印C参照)に回転するため、出力軸12は間欠回転することになる。
【0039】
図6は、LOW状態で無段変速機Tを運転するときの作用を示すものである。このとき、入力軸11の位置は偏心ディスク18の中心に一致しているので、入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量はゼロになる。この状態でエンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。しかしながら、偏心ディスク18の偏心量がゼロであるため、コネクティングロッド19の往復運動のストロークもゼロになり、出力軸12は回転しない。
【0040】
従って、変速アクチュエータ14を駆動してキャリヤ16の位置を図3のTOP状態と図4のLOW状態との間に設定すれば、ゼロレシオおよび所定レシオ間の任意のレシオでの運転が可能になる。
【0041】
無段変速機Tは、並置された4個の変速ユニット10…の偏心ディスク18…の位相が相互に90°ずつずれているため、4個の変速ユニット10…が交互に駆動力を伝達することで、つまり4個のワンウェイクラッチ21…の何れかが必ず係合状態にあることで、出力軸12を連続回転させることができる。このようにしてエンジンEの駆動力が無段変速機Tで変速されて出力軸12に出力される。
【0042】
さて、本実施の形態によれば、エンジンEのクランクシャフト32の回転が増速機構Iを介して増速されて無段変速機Tの入力軸11に伝達されるため、無段変速機Tの入力軸11および出力軸12間の変速比を大きく設定しても、つまり入力軸11の回転数を充分に減速して出力軸12に伝達しても、クランクシャフト32および出力軸12間の変速比を充分に小さく確保することができる。その結果、無段変速機Tを変速比が小さくて動力伝達効率が低い領域(図10の右側の領域)で運転する必要をなくしながら、必要な変速比幅を確保することができる。
【0043】
またエンジンEのクランクシャフト32と無段変速機Tの入力軸11とが、軸線に直交する方向に見て少なくとも一部で相互にオーバーラップするので、車両用動力伝達装置の軸方向寸法を小型化することができる。しかも増速機構Iの駆動スプロケット33をエンジンEのクランクシャフト32の軸方向中央近傍、つまり4個のピストン31…の内側の2個のピストン31,31の間に配置したので、増速機構Iから受ける反力荷重によるクランクシャフト32の捩じれ変形を最小限に抑えることができ、これによりクランクシャフト32の小型軽量化や、振動・騒音の低減が可能となる。
【0044】
次に、図8に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0045】
第1の実施の形態ではエンジンEのクランクシャフト32の軸線および無段変速機Tの入力軸11の軸線が平行に配置されているが、第2の実施の形態ではエンジンEのクランクシャフト32および無段変速機Tの入力軸11が同軸かつ直列に接続される。エンジンEのクランクシャフト32および無段変速機Tの入力軸11の間には増速機構Iとしての遊星歯車機構41が配置される。
【0046】
遊星歯車機構41は、入力軸11に固定されたサンギヤ42と、クランクシャフト32に固定されたリングギヤ43と、ケーシング44に固定されたキャリヤ45と、キャリヤ45に回転自在に支持されてサンギヤ42およびリングギヤ43に噛合する複数のピニオン46…とで構成される。よって、クランクシャフト32の回転はリングギヤ43、ピニオン46…およびサンギヤ42を介して入力軸11に増速されて伝達される。
【0047】
この第2の実施の形態によれば、エンジンEおよび無段変速機Tを含む車両用動力伝達装置の軸直角方向(クランクシャフト32、入力軸11および出力軸12の軸線に直交する方向)の寸法を小型化することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0049】
例えば、実施の形態では駆動源をエンジンEで構成しているが、それを電動モータで構成しても良い。
【0050】
また増速機構Iは無端チェーン35や遊星歯車機構41を用いたものに限定されず、ギヤ列等の他の手段を採用することができる。
【符号の説明】
【0051】
11 入力軸
12 出力軸
18 偏心ディスク(入力側支点)
19 コネクティングロッド
19c ピン(出力側支点)
21 ワンウェイクラッチ
22 入力部材
32 クランクシャフト(回転軸)
E エンジン(駆動源)
I 増速機構
T 無段変速機(変速機)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(E)の回転軸(32)に接続された入力軸(11)の回転を変速して出力軸(12)に伝達する変速機(T)が、
前記入力軸(11)の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸(11)と共に回転する入力側支点(18)と、
前記出力軸(12)に接続されたワンウェイクラッチ(21)と、
前記ワンウェイクラッチ(21)の入力部材(22)に設けられた出力側支点(19c)と、
前記入力側支点(18)および前記出力側支点(19c)に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッド(19)とを備える車両用動力伝達装置であって、
前記駆動源(E)の回転軸(32)の回転を増速して前記入力軸(11)に伝達する増速機構(I)を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記駆動源(E)の回転軸(32)と前記変速機(T)の入力軸(11)とは相互に平行に配置され、軸直角方向に見て前記回転軸(32)および前記入力軸(11)は少なくとも一部で相互にオーバーラップすることを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記駆動源(E)の回転軸(32)と前記変速機(T)の入力軸(11)とは同軸上で直列に配置され、前記増速機構(I)は遊星歯車機構により構成されることを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記駆動源は多気筒のエンジン(E)であり、前記増速機構(I)は前記エンジン(E)のクランクシャフト(32)の軸方向中央近傍に配置されることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項1】
駆動源(E)の回転軸(32)に接続された入力軸(11)の回転を変速して出力軸(12)に伝達する変速機(T)が、
前記入力軸(11)の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸(11)と共に回転する入力側支点(18)と、
前記出力軸(12)に接続されたワンウェイクラッチ(21)と、
前記ワンウェイクラッチ(21)の入力部材(22)に設けられた出力側支点(19c)と、
前記入力側支点(18)および前記出力側支点(19c)に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッド(19)とを備える車両用動力伝達装置であって、
前記駆動源(E)の回転軸(32)の回転を増速して前記入力軸(11)に伝達する増速機構(I)を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記駆動源(E)の回転軸(32)と前記変速機(T)の入力軸(11)とは相互に平行に配置され、軸直角方向に見て前記回転軸(32)および前記入力軸(11)は少なくとも一部で相互にオーバーラップすることを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記駆動源(E)の回転軸(32)と前記変速機(T)の入力軸(11)とは同軸上で直列に配置され、前記増速機構(I)は遊星歯車機構により構成されることを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記駆動源は多気筒のエンジン(E)であり、前記増速機構(I)は前記エンジン(E)のクランクシャフト(32)の軸方向中央近傍に配置されることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−21592(P2012−21592A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160013(P2010−160013)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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