説明

車両用同期噛合装置

【課題】ギヤ抜けの発生が抑制された車両用同期噛合装置を提供する。
【解決手段】シンクロナイザリング24は、そのシンクロナイザリング24とハブ18との間を通して供給される潤滑油を内周歯33と外周歯28との間の隙間に向かって導く面取部60および環状溝62を備え、ハブ18は、外周歯28の歯面に軸心C方向に平行なテーパ状油溝64を備えていることから、スリーブ20とギヤピース26との噛合状態において、面取部60および環状溝62によって内周歯33と外周歯28との間の隙間に潤滑油が供給され、その供給された潤滑油がテーパ状油溝64によって保持されると共にそのテーパ状油溝64に沿ってハブ18の外周歯28の長手方向に流れて外周歯28の歯面全体に供給されるので、スリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との潤滑性が高まってギヤ抜けが好適に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用同期噛合装置に係り、特に、ギヤ抜けを防止するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転軸に固設されたハブと、そのハブの外周歯と噛み合う内周歯を有してそのハブに相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられたスリーブと、そのスリーブの内周歯と噛合可能なドグ歯を有して前記回転軸に相対回転可能に支持されたギヤピースと、そのギヤピースと前記ハブとの間に設けられ、前記スリーブとギヤピースとの回転非同期時にスリーブの内周歯と係合してスリーブの前記ドグ歯側への移動を阻止する同期歯を有するシンクロナイザリングとを備える車両用同期噛合装置が知られている。この車両用同期噛合装置において、前記スリーブに前記ギヤピースのドグ歯側への操作力が加えられたときには、それらスリーブとギヤピースとの回転が同期された時に前記シンクロナイザリングによりそのスリーブのドグ歯側への移動が許容され、そのスリーブの内周歯とギヤピースのドグ歯との噛み合いが行われるようになっている。このような車両用同期噛合装置は、車両に設けられたエンジン等の駆動源から駆動輪までの動力伝達経路において、例えば、変速段を切り換える、或いは2輪駆動と4輪駆動とを切り換える等のために手動変速機やトランスファ等に設けられる。例えば、特許文献1に記載された車両用手動変速機の同期噛合装置がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−2821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の車両用同期噛合装置では、例えば振動等に起因して、スリーブとギヤピースとの噛み合いが自然に解除される所謂ギヤ抜けが発生するという問題があった。これに対して、スリーブの内周歯およびギヤピースのドグ歯をそれらのピッチ円上の歯幅寸法が相互に向き合う先端側ほど大きくなるように逆テーパ状に形成することにより、スリーブとギヤピースとが噛合状態で軸心まわりに回転する際に内周歯がドグ歯から抜け出す方向とは反対側に向かう所謂すべり状態を発生させて前記ギヤ抜けの発生を抑制することが知られている。しかしながら、スリーブとギヤピースとの噛合状態において、スリーブの内周歯とハブの外周歯との潤滑性が悪くなると、それら内周歯および外周歯の歯面同士の摩擦が増加して上記すべり状態が悪くなり、ギヤ抜けが発生するおそれがあった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ギヤ抜けの発生が抑制された車両用同期噛合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、スリーブとギヤピースとの噛合状態において、スリーブの内周歯とハブの外周歯との潤滑性を高めてそれら内周歯および外周歯の歯面同士の摩擦を低減させると、ギヤ抜けが好適に抑制されることを見いだした。本発明はかかる知見に基づいて為されたものである。
【0007】
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(1)回転軸に固設されたハブと、そのハブの外周歯と噛み合う内周歯を有してそのハブに相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられたスリーブと、そのスリーブの内周歯と噛合可能なドグ歯を有して前記回転軸に相対回転可能に支持されたギヤピースと、そのギヤピースと前記ハブとの間に設けられ、前記スリーブとギヤピースとの回転非同期時にスリーブの内周歯と係合してスリーブの前記ドグ歯側への移動を阻止する同期歯を有するシンクロナイザリングとを備える車両用同期噛合装置であって、(2)前記シンクロナイザリングは、内周側からそのシンクロナイザリングと前記ハブとの間を通して供給される潤滑油を前記スリーブの内周歯とハブの外周歯との間の隙間に向かって導く案内部を備え、(3)前記ハブは、その外周歯の歯面に軸心方向に平行な油溝を備えていることにある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1にかかる発明の車両用同期噛合装置によれば、シンクロナイザリングは、内周側からそのシンクロナイザリングとハブとの間を通して供給される潤滑油をスリーブの内周歯とハブの外周歯との間の隙間に向かって導く案内部を備え、上記ハブは、その外周歯の歯面に軸心方向に平行な油溝を備えていることから、スリーブとギヤピースとの噛合状態において、シンクロナイザリングの案内部によってスリーブの内周歯とハブの外周歯との間に潤滑油が供給され、その供給された潤滑油が油溝によって保持されるとともにその油溝に沿ってハブの外周歯の長手方向に流れてその外周歯の歯面全体に供給されるので、スリーブの内周歯とハブの外周歯との潤滑性が高まってギヤ抜けが好適に抑制される。
【0009】
ここで、好適には、前記案内部は、前記シンクロナイザリングの前記ハブ側の端面に設けられた周方向溝を有し、シンクロナイザリングとハブとの間を通してその周方向溝に向かって流れる潤滑油の流れ方向を、前記スリーブの内周歯とハブの外周歯との間の隙間に向かうように変えるものである。このようにすれば、スリーブとギヤピースとの噛合状態において、シンクロナイザリングの案内部の周方向溝によってスリーブの内周歯とハブの外周歯との間に潤滑油が供給され、その供給された潤滑油が油溝によって保持されるとともにその油溝に沿ってハブの外周歯の長手方向に流れてその外周歯の歯面全体に供給されるので、スリーブの内周歯とハブの外周歯との潤滑性が高まってギヤ抜けが好適に抑制される。
【0010】
また、好適には、前記油溝は、溝幅が前記案内部から離間するほど大きくなるようにテーパ状に形成される。すなわち、前記油溝は、溝幅が前記ハブの外周歯の前記シンクロナイザリング側の一端部から離間するほど大きくなるようにテーパ状に形成される。このようにすれば、前記案内部から供給される潤滑油が油溝に沿って外周歯の長手方向に流れ易くなる。さらに、好適には、外周側に位置する前記油溝の側面は、前記案内部から離間するほど前記ハブの軸心から離れるように形成される。このようにすれば、前記案内部から供給される潤滑油が遠心力により油溝の外周側側面に沿って外周歯の長手方向に流れ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用された車両用手動変速機を示す断面図である。
【図2】図1の同期噛合クラッチを含むII矢視部を拡大して示す断面図である。
【図3】図2に示すシンクロナイザリングを含むIII矢視部を拡大して示す図である。
【図4】図2に示すハブの外周歯の一端部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明が適用された車両用手動変速機2を示す断面図である。図1において、本実施例の車両用手動変速機2は、よく知られた傘歯車式の差動歯車装置3と共に共通のハウジング4内に配設されてトランスアクスルを構成しており、そのハウジング4内に所定量だけ貯溜された潤滑油に浸漬され、差動歯車装置3と共に潤滑されるようになっている。なお、図1では、後述の入力軸6、出力軸8、および差動歯車装置3の回転中心を共通の平面内に展開して示している。
【0014】
上記車両用手動変速機2は、ハウジング4により回転可能にそれぞれ支持されて互いに平行に設けられた入力軸(回転軸)6および出力軸8と、それら入力軸6および出力軸8の一方に固設された固定ギヤ10と他方に相対回転可能に支持された回転ギヤ12とで構成されるギヤ比が異なり且つ常時噛み合う複数対(本実施例では5対)のギヤ対14(14a〜14f)と、それら複数対のギヤ対14に対応してそれぞれ設けられ、回転ギヤ12とその回転ギヤ12を回転可能に支持する前記入力軸6および出力軸8の他方とを選択的に動力伝達状態とするための複数の同期噛合クラッチ(車両用同期噛合装置)16(16a〜16f)とを備えるよく知られた所謂常時噛合型平行軸式変速機である。この車両用手動変速機2では、複数の同期噛合クラッチ16の動力伝達状態が選択的に切り換えられて複数対のギヤ対14のいずれか1が動力伝達状態とされることにより、変速比の異なる前進6速の変速段間の変速が行われるようになっている。なお、上記複数の同期噛合クラッチ16a〜16fは基本的に同じ構成であり、以下では、それらのうちの同期噛合クラッチ16cに関して詳しく説明する。
【0015】
図2は、図1の同期噛合クラッチ16cを含むII矢視部を拡大して示す断面図である。図2において、同期噛合クラッチ16cは、ハブ18、スリーブ20、シンクロナイザリング24、およびギヤピース26を備えて構成されている。なお、上記ハブ18およびスリーブ20は、同期噛合クラッチ16dと共通して用いられる部材である。
【0016】
上記ハブ18は、入力軸6の外周に例えばスプライン嵌合により嵌め着けられることでその入力軸6に固設された短円筒状部材である。具体的には、ハブ18は、ギヤ対14d側の一端面が入力軸6に形成された鍔部25に当接するまで圧入され、ギヤ対14c側において入力軸6に嵌着されたスナップリング27により抜け止めされている。このハブ18の外周部には、周方向の所定の間隔で軸心Cに平行な方向に形成された複数の外周歯28が設けられている。また、ハブ18の軸心C方向の端面には、周方向に穿設された環状溝31が設けられるとともに、その環状溝31とハブ18の内周面とを連通させるように周方向の所定の間隔で放射状に穿設された油溝32が設けられている。
【0017】
前記スリーブ20は、内周面に周方向の所定の間隔で軸心C方向に平行に形成されてハブ18の外周歯28と噛み合わされた内周歯33を有し、ハブ18に軸心Cまわりの相対回転不能且つ軸心C方向の相対移動可能に装着された円筒状部材である。このスリーブ20は、そのスリーブ20の外周部に係合させられる図示しないシフター(シフトフォーク)を介して行われるシフト操作装置のシフト操作に応じて、図2のようにギヤピース26と噛み合うことで入力軸6と回転ギヤ12とを動力伝達状態とする動力伝達位置と、図1に示すようにギヤピース26との噛み合いが解除されることで入力軸6と回転ギヤ12とを動力遮断状態とする中立位置との間で軸心C方向に移動可能となっている。
【0018】
ここで、スリーブ20の内周面には、周方向の所定の間隔で軸心C方向の中間位置に凹部が形成されており、また、ハブ18の外周面には、上記凹部に対応して軸心C方向に貫設された複数の溝が設けられている。そして、上記ハブ18の複数の溝内には、スリーブ20に向けて突設された凸部を有する複数の直方体状のシフティングキー(図示しない)が収容されている。これらシフティングキーは、上記ハブ18の溝の底面に軸心Cに向けて穿設された止まり穴内に収容されているスプリング(図示しない)により半径方向外側に付勢されており、スリーブ20がギヤピース26と噛み合わされていない場合には、上記シフティングキーの凸部が前記スリーブ20の凹部に嵌り込むことによって、そのスリーブ20を軸心C方向における同期噛合クラッチ16cのギヤピース26と同期噛合クラッチ16dのギヤピース26との所定の中間位置に位置決めするようになっている。なお、上記シフティングキーは、スリーブ20に前記シフト操作装置により軸心C方向の操作力が加わることにより、そのスリーブ20とともに軸心C方向に移動するようになっている。
【0019】
前記ギヤピース26は、入力軸6にニードルベアリング42を介して回転可能に支持された回転ギヤ12のハブ18側の端部に例えばスプライン嵌合により嵌め着けられた短円筒状部材である。このギヤピース26の外周部には、スリーブ20が前記シフト操作装置のシフト操作により前記動力伝達位置に位置させられた場合にそのスリーブ20の内周歯33と噛み合うドグ歯46が設けられており、そのドグ歯46の内周側に位置するギヤピース26の内周部には、その内周部から軸心C方向のハブ18側に向けて突き出され、ハブ18に向かうほど外径が小さくなるテーパ状外周面48が形成された円筒状凸部50が設けられている。本実施例では、スリーブ20の内周歯33およびギヤピース26のドグ歯46は、それらのピッチ円上の歯幅寸法が相互に向き合う先端側ほど大きくなるように逆テーパ状に形成されており、スリーブ20とギヤピース26とが噛合状態で軸心Cまわりに回転する際に内周歯33がドグ歯46から抜け出す方向とは反対側に向かう所謂すべり状態が発生するようになっている。また、円筒状凸部50の先端部は、ハブ18の環状溝31の底面に対して所定の隙間を有した状態でその環状溝31の内周側に挿入されている。なお、上記回転ギヤ12は、ハブ18側の端面がそのハブ18に摺接可能な状態で設けられているが、その回転ギヤ12の内周面と入力軸6およびスナップリング27の外周面との間には、ハブ18の油溝32と連通された円環状の間隙が形成されている。
【0020】
前記シンクロナイザリング24は、ハブ18とギヤピース20との間におけるテーパ状外周面48の外方においてギヤピース26に対して相対回転可能且つ軸心C方向の移動可能に配設され、ハブ18側の一端部がギヤピース20側の他端部に比較して小径となるように形成された段付き短円筒状部材である。このシンクロナイザリング24は、その他端部の外周面に形成され、スリーブ20とギヤピース26との回転非同期時にスリーブ20の内周歯33と係合してそのスリーブ20のドグ歯46側への移動を阻止する同期歯52と、軸心C方向のギヤピース26側に付勢されることでそのギヤピース26のテーパ状外周面48に面接触可能なテーパ状内周面54とを有している。このシンクロナイザリング24の小径側の一端部は、ハブ18の環状溝31の底面に対して所定の隙間を有した状態でその環状溝31の外周側に挿入されている。また、シンクロナイザリング24の一端部の外周部には、前記シフティングキーの一端部が嵌め入れられるキー溝(図示しない)が設けられており、シンクロナイザリング24は、前記シフティングキー、ハブ18、およびスリーブ20に対して周方向に所定角度の相対回転可能に設けられている。具体的には、シンクロナイザリング24は、シンクロナイザリング24とギヤピース26との回転が非同期状態である場合に同期歯52が内周歯33に当接することでスリーブ20のドグ歯46側への移動を阻止する阻止位置と、シンクロナイザリング24とギヤピース26との回転が同期状態である場合にスリーブ20のドグ歯46側への移動を許容する許容位置との間で相対回転可能に設けられている。
【0021】
また、シンクロナイザリング24は、スリーブ20が前記シフト操作装置により軸心C方向のドグ歯46側に移動させられることによって、そのスリーブ20と共に軸心C方向に移動させられる前記シフティングキーにより軸心C方向のギヤピース26側へ付勢されるようになっている。そして、シンクロナイザリング24のテーパ状内周面54は、上記シフティングキーの付勢によってギヤピース26のテーパ状外周面48にテーパ嵌合されるようになっている。このとき、シンクロナイザリング24とギヤピース26との回転が非同期状態である場合には、テーパ状内周面54とテーパ状外周面48とが摩擦係合することでスリーブ20とギヤピース26の相互の回転速度差が減少させられるようになっている。
【0022】
このように構成された同期噛合クラッチ16cにおいて、スリーブ20に軸心C方向の操作力が加えられたときには、そのスリーブ20とギヤピース26との回転が同期したときにシンクロナイザリング24によりそのスリーブ20の軸心C方向の移動が許容され、スリーブ20の内周歯33とギヤピース26のドグ歯46との噛み合いが行われるようになっている。これにより、入力軸6の回転がハブ18、スリーブ20、ギヤピース26、およびギヤ対14cを介して出力軸8に伝達されるようになっている。
【0023】
具体的には、シフト操作にしたがってスリーブ20が軸心C方向のドグ歯46側に移動させられると、先ず、シンクロナイザリング24が前記シフティングキーによりギヤピース26側へ押圧されることによって、シンクロナイザリング24とギヤピース26とがテーパ嵌合させられる。このとき、スリーブ20とギヤピース26との相対回転速度差がある場合には、シンクロナイザリング24のテーパ状内周面54とギヤピース26のテーパ状外周面48との間に発生する摩擦力によってシンクロナイザリング24とギヤピース26との回転が次第に同期させられる。この同期までの期間は、シンクロナイザリング24の同期歯52がスリーブ20の内周歯33に当接することによって、スリーブ20の更なる軸心C方向の移動が阻止される。
【0024】
そして、上記スリーブ20とギヤピース26との相対回転速度差がなくなると、前記摩擦力が減少して内周歯33に対する同期歯52の阻止力が弱くなり、スリーブ20のギヤピース26側への更なる軸心C方向への移動が許容される。そして、スリーブ20に加えられるドグ歯46側への操作力に従って、前記スプリングの付勢力に抗して前記シフティングキーの凸部がスリーブ20の凹部から抜け出すと、スリーブ20がドグ歯46に向けて移動させられてスリーブ20の内周歯33とギヤピース26のドグ歯46とが互いに噛み合わされ、同期噛合クラッチ16cが係合状態(動力伝達状態)とされる。
【0025】
ここで、上記係合状態とされた同期噛合クラッチ16cには、図2に一点鎖線の矢印で示すように、内周側から潤滑油が供給されるようになっている。以下では、同期噛合クラッチ16cの潤滑に関して説明する。
【0026】
図1および図2に示すように、入力軸14には、一端部の端面から軸心C方向に穿設された潤滑油路56と、その潤滑油路56からニードルベアリング42に向かって周方向の所定間隔で半径方向外側に貫通する複数の潤滑油供給路58とが設けられている。上記潤滑油路56への潤滑油の供給は、例えば、潤滑油路56の入り口側にオイルポンプが設けられてそのオイルポンプによりハウジング4等に貯溜される潤滑油が吸い上げられて圧送されたり、或いはハウジング4等に貯溜される潤滑油が固定ギヤ10および回転ギヤ12により掻き上げられて例えば潤滑油路56の入り口側に設けられるオイル導入部材等により案内されることにより為されるようになっている。潤滑油路56へ供給される潤滑油は、入力軸6の回転で生じる遠心力により、潤滑油供給路58を通して回転ギヤ12の内周面と入力軸6の外周面との間に供給されるようになっている。
【0027】
図2に示すように、回転ギヤ12の内周面と入力軸6およびスナップリング27の外周面との間には、ハブ18の油溝32と連通された円環状の間隙が形成されている。前述のように潤滑油供給路58を通して回転ギヤ12の内周面と入力軸6の外周面との間に供給される潤滑油は、ニードルベアリング42の潤滑に用いられた後に遠心力により油溝32を通してハブ18の環状溝31内に供給されるようになっている。
【0028】
ハブ18の環状溝31の底面とギヤピース26の円筒状凸部50の先端面およびシンクロナイザリング24の小径側の一端部の先端面との間には、円環状の間隙が形成されている。前述のように油溝32を通してハブ18の環状溝31内に供給される潤滑油は、その一部がシンクロナイザリング24のテーパ状内周面とギヤピース26のテーパ状外周面との間に供給され、その他が遠心力によりハブ18の環状溝31の外周側側面とシンクロナイザリング24の一端部の外周面との間に供給されるようになっている。
【0029】
図3は、図2に示すシンクロナイザリング24を含むIII矢視部を拡大して示す図である。本実施例では、ハブ18の環状溝31の外周側の縁には、面取部60が形成されている。また、シンクロナイザリング24の大径側の他端部のハブ18との対向面には、環状溝62が形成されている。これら面取部60および環状溝62は、内周側からシンクロナイザリング24とハブ18との間を通してハブ18の環状溝31の外周側側面とシンクロナイザリング24の一端部の外周面との間に供給される潤滑油を、スリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との間の隙間に向かって導く案内部として機能するものである。すなわち、面取部60および環状溝62は、本発明における案内部に相当するものである。具体的には、上記環状溝62は、その内周側の側面がシンクロナイザリング24の小径側の一端部の外周面に対して段差なく連続して形成され、底面がその断面が半円状になるように形成され、外周側の側面がハブ18の外周歯28に向かうように形成されている。そして、環状溝62は、ハブ18の環状溝31の外周側側面とシンクロナイザリング24の一端部の外周面との間から環状溝62に向かって流れる潤滑油の流れ方向を、スリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との間の隙間に向かうように変えるようになっている。
【0030】
図4は、ハブ18の外周歯28のシンクロナイザリング24側の一端部を示す斜視図である。図3および図4に示すように、本実施例では、ハブ18の外周歯28の歯面には、軸心C方向に略平行であって、シンクロナイザリング24から離間するほどすなわち外周歯28の一端部および他端部から中間部に向かうほど溝幅が大きくなるように形成されたテーパ状油溝(油溝)64が形成されている。また、上記テーパ状油溝64の外周側側面は、外周歯28の中間部に向かうほど軸心Cから離れるように形成されている。環状溝62からスリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との間の隙間に供給される潤滑油は、そのテーパ状油溝64内に保持されるとともにそのテーパ状油溝64に沿って外周歯28の長手方向に流れてその外周歯28の全体に行き渡るようになっている。
【0031】
上述のように、本実施例の同期噛合クラッチ(車両用同期噛合装置)16によれば、シンクロナイザリング24は、入力軸6の潤滑油供給路58からシンクロナイザリング24とハブ18との間を通して供給される潤滑油をスリーブ18の内周歯33とハブ18の外周歯28との間の隙間に向かって導く案内部としての面取部60および環状溝62を備え、上記ハブ18は、その外周歯28の歯面に軸心C方向に平行なテーパ状油溝64を備えていることから、スリーブ20とギヤピース26との噛合状態において、面取部60および環状溝62によってスリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との間の隙間(テーパ状油溝64)に潤滑油が供給され、その供給された潤滑油がテーパ状油溝64によって保持されるとともにそのテーパ状油溝64に沿ってハブ18の外周歯28の長手方向に流れてその外周歯28の歯面全体に供給されるので、スリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との潤滑性が高まってギヤ抜けが好適に抑制される。本実施例では、スリーブ20とギヤピース26とが噛合状態で軸心Cまわりに回転する際に内周歯33がドグ歯46から抜け出す方向とは反対側に向かう所謂すべり状態が発生するようになっているが、スリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との潤滑性が高まることで、上記すべり状態を継続して発生させることが可能となる。
【0032】
また、本実施例の同期噛合クラッチ16によれば、環状溝62は、シンクロナイザリング24の大径側の他端部におけるハブ18との対向面に形成され、ハブ18の環状溝31の外周側側面とシンクロナイザリング24の一端部の外周面との間から環状溝62に向かって流れる潤滑油の流れ方向を、スリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との間の隙間に向かうように変えるものであることから、スリーブ20とギヤピース26との噛合状態において、シンクロナイザリング24の面取部60および環状溝62によってスリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との間の隙間(テーパ状油溝64)に潤滑油が供給され、その供給された潤滑油がテーパ状油溝64によって保持されるとともにそのテーパ状油溝64に沿ってハブ18の外周歯28の長手方向に流れてその外周歯28の歯面全体に供給されるので、スリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との潤滑性が高まってギヤ抜けが好適に抑制される。
【0033】
また、本実施例の同期噛合クラッチ16によれば、テーパ状油溝64は、溝幅が外周歯28の一端部および他端部から中間部に向かうほど大きくなるように且つ外周側側面が外周歯28の中間部に向かうほど軸心Cから離れるように形成されていることから、環状溝62から供給される潤滑油が遠心力によりそのテーパ状油溝64に沿って外周歯28の長手方向に流れ易くなるので、スリーブ20の内周歯33とハブ18の外周歯28との潤滑性が一層高まってギヤ抜けが好適に抑制される。
【0034】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0035】
たとえば、前述の実施例において、同期噛合クラッチ16は、シンクロナイザリング24にキー溝が形成され、そのキー溝にシフティングキーが係合させられる所謂キーインデックスタイプの同期装置であったが、例えば所謂ハブインデックスタイプの同期装置であってもよい。また、同期のための摩擦力がテーパ状外周面48とテーパ状内周面54との間の摩擦により得られるシングルコーンタイプのシンクロ機構を備えた同期装置であったが、例えばダブルコーンタイプやトリプルコーンタイプなどシンクロナイザリングが重ねられた所謂マルチコーンタイプのシンクロ機構を備えたものであっても、本発明は適用可能である。
【0036】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
6:入力軸(回転軸)
16(16a〜16f):同期噛合クラッチ(車両用同期噛合装置)
18:ハブ
20:スリーブ
24:シンクロナイザリング
26:ギヤピース
28:外周歯
33:内周歯
46:ドグ歯
52:同期歯
60:面取部(案内部)
62:環状溝(案内部)
64:テーパ状油溝(油溝)
C:軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固設されたハブと、該ハブの外周歯と噛み合う内周歯を有して該ハブに相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられたスリーブと、該スリーブの内周歯と噛合可能なドグ歯を有して前記回転軸に相対回転可能に支持されたギヤピースと、該ギヤピースと前記ハブとの間に設けられ、前記スリーブとギヤピースとの回転非同期時に該スリーブの内周歯と係合して該スリーブの前記ドグ歯側への移動を阻止する同期歯を有するシンクロナイザリングとを備える車両用同期噛合装置であって、
前記シンクロナイザリングは、内周側から該シンクロナイザリングと前記ハブとの間を通して供給される潤滑油を前記スリーブの内周歯とハブの外周歯との間の隙間に向かって導く案内部を備え、
前記ハブの外周歯は、その歯面に軸心方向に平行な油溝を備えていることを特徴とする車両用同期噛合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255762(P2010−255762A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107176(P2009−107176)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】