説明

車両用後写鏡

【課題】ミラーに写る像とは別の像を明るく視認できるコンパクトな車両用後写鏡を提供することを目的とする。
【解決手段】車両後方を視認するためのミラー10を備えた車両用後写鏡(アウターミラー1)において、少なくともミラー10の一部を、透過状態とミラー状態とを切替可能なミラー液晶ディスプレイ30にて構成し、そのミラー液晶ディスプレイ30の背面側に、ミラー10に写る像とは別の像を表示する表示手段(第二ミラー40)を設け、ミラー液晶ディスプレイ30は、印加される電圧が切替閾値電圧以上のときに透過状態となり、印加される電圧が切替閾値電圧未満のときまたは電圧が印加されないときにミラー状態となるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両後方を視認するためのミラーを備えた車両用後写鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用後写鏡は、ミラーに写る像とは別の像を写す車載カメラの映像やテレビの映像等を表示する画像形成装置を内蔵したものが開発されており、例えば、画素を形成する電極を設けた液晶セルと、この液晶セルの裏側に配置されたハーフミラーと、このハーフミラーの裏側に配置されたバックライトと、液晶セルの電極駆動手段とを備えたミラーが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、車両の後側下部等のミラーに写る像とは別の像を写す車両用後写鏡として、車両後方を写す通常のミラーの下方に車両の後側下部等を写す補助ミラーを別途に設けたものがあった。
【特許文献1】特開平3−243914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のミラーは、ハーフミラーを用いているため、透過および反射のいずれであっても、光量が約二分の一になってしまい、画像を表示すると画面が暗くなってしまうという問題があった。
【0005】
また、補助ミラーを設けたミラーでは、ミラー全体が大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
このような観点から、本発明は、ミラーに写る像とは別の像を明るく視認できるコンパクトな車両用後写鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために創案された請求項1に係る発明は、車両後方を視認するためのミラーを備えた車両用後写鏡において、少なくとも前記ミラーの一部を、透過状態とミラー状態とを切替可能なミラー液晶ディスプレイにて構成し、そのミラー液晶ディスプレイの背面側に、前記ミラーに写る像とは別の像を表示する表示手段を設けたことを特徴とする車両用後写鏡である。
【0008】
このような構成によれば、ハーフミラーを有さないミラー液晶ディスプレイを用いてミラーの表示像を変更しているので、ミラーの反射率が低下することがなく、透過率も低下しないので表示手段に写るミラーに写る像とは別の像を明るく視認することができる。さらに、表示手段は、ミラーの背面側に設けられているので、車両用後写鏡の巨大化を防止でき、コンパクトな車両用後写鏡を提供できる。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記表示手段は、前記ミラーとは別角度で固定された第二ミラーにて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用後写鏡である。
【0010】
このような構成によれば、簡単な構成で、車両の後側下部等の死角部を写すことができ、車両用後写鏡のさらなるコンパクト化を達成できる。
【0011】
請求項3に係る発明は、車両後方を視認するためのミラーを備えた車両用後写鏡において、少なくとも前記ミラーの一部を、透過状態とミラー状態とを切替可能なミラー液晶ディスプレイにて構成し、そのミラー液晶ディスプレイの背面側のミラーカバーに、その前方を視認するための開口部を形成したことを特徴とする車両用後写鏡である。
【0012】
このような構成によれば、簡単な構成で、車両用後写鏡の前方の死角部を視認することができるとともに、車両用後写鏡のコンパクト化を達成できる。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記ミラー液晶ディスプレイが、透過状態とミラー状態との切替閾値電圧の印加・非印加で透過状態とミラー状態とが切り替えられ、前記ミラー液晶ディスプレイに印加される電圧が前記切替閾値電圧以上のときに透過状態となり、前記ミラー液晶ディスプレイに印加される電圧が前記切替閾値電圧未満のときまたは電圧が印加されないときにミラー状態となるように構成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両用後写鏡である。
【0014】
このような構成によれば、万一、ミラー液晶ディスプレイの電圧印加手段等が故障して、電圧を印加できない状態になったとしても、通常のミラー状態は確保できるので、走行に支障を与えることはない。
【0015】
請求項5に係る発明は、前記ミラー液晶ディスプレイが、走行状態を判定する判定手段に接続され、前記判定手段がリバース、停車または所定速度未満の走行であると判断したときに前記ミラー液晶ディスプレイは透過状態となり、前記判定手段が所定速度以上の走行であると判断したときに前記ミラー液晶ディスプレイはミラー状態となるように構成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の車両用後写鏡である。
【0016】
このような構成によれば、ミラーに写らない死角部の確認が必要なリバース、停車または所定速度未満の走行のときに、ミラー液晶ディスプレイが透過状態となり、死角部を視認することができる。また、所定速度以上の走行のときには、ミラーの面積が大きくなるので、走行しやすくなる。さらに、所定速度未満になったときに、ミラー液晶ディスプレイが自動的に透過状態に切り替えられるので、運転者にミラーに写らない死角部への注意喚起をすることができる。
【0017】
請求項6に係る発明は、前記ミラーが、外側端部に配置されフラット状表面を有する前記ミラー液晶ディスプレイと、その内側に配置され一定曲率の球面状表面を有する球面曲面鏡とを備えて構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の車両用後写鏡である。
【0018】
ミラーの外側端部にフラット状表面を有するミラー液晶ディスプレイを設けたことによって、車両後方の距離感を掴みやすくなるとともに、内側の球面曲面鏡によって広い範囲の車両後方の像を写すことができる。
【0019】
請求項7に係る発明は、前記ミラーが、前記球面曲面鏡または前記ミラー液晶ディスプレイの内側で内側端部まで延出して配置され、内側に向かうに連れて前記一定曲率よりも徐々に曲率が大きくなる非球面状表面を有する非球面曲面鏡を備えたことを特徴とする請求項6に記載の車両用後写鏡である。
【0020】
このような構成によれば、非球面曲面鏡によってさらに広い範囲の車両後方の像を写すことができる。通常、非球面曲面鏡を端部に設けると、像が端部で伸びるように変形しながら写るが、本発明に係る非球面曲面鏡はミラーの内側端部に設けられているため、端部には自車が写り、像が固定されている。したがって、非球面曲面鏡の端部で像が変形しながら写ることはなく、運転者に違和感を与えることはない。
【0021】
請求項8に係る発明は、車両後方を視認するためのミラーを備えた車両用後写鏡において、少なくとも前記ミラーの一部を、透過状態とミラー状態とを切替可能なミラー液晶ディスプレイにて構成し、そのミラー液晶ディスプレイの背面側に、ターンランプ、ストップランプの光源、または車両の開錠あるいは施錠時に点灯する照明ランプや足元灯の光源を設けたことを特徴とする車両用後写鏡である。
【0022】
このような構成によれば、各光源からの光をミラー液晶ディスプレイの透過状態下で点灯させることで、光源の明るさを低下させることなく、明るい状態で各ランプを使用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る車両用後写鏡によれば、ミラーに写る像とは別の像を明るく視認できるとともに、車両用後写鏡本体のコンパクト化を達成できるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明に係る車両用後写鏡を実施するための最良の第一の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態では、車両後方を視認するための車両用後写鏡として、車外に設けられるアウターミラーを例に挙げて説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る車両用後写鏡であるアウターミラー1は、自動車の車体のサイドドア(図示せず)に付設された所謂ドアミラーであり、車体の側面からその側方に向かって張り出して形成されている。なお、本明細書において、「表面」とは、ミラーの運転席側に向いた面をいい、「背面」とは、ミラーの裏側のミラーカバー側を言う。さらに、「前後」は、自動車の前後方向を示すこととする。
【0026】
アウターミラー1は、車両後方を視認するためのミラー10と、このミラー10の背面を覆うミラーカバー20とを備えて構成されている。
【0027】
ミラー10は、運転席から見て車両後方の領域A1(図3参照)が写る角度で配置され、ミラーカバー20の内側に設けられたミラー支持枠21(図2参照)に外周縁が固定されている。ミラー10はフラットな表面を有する平面鏡にて構成されている。本発明に係るアウターミラー1は、少なくともミラー10の一部が、透過状態とミラー状態とを切替可能なミラー液晶ディスプレイ30にて構成されている。本実施形態では、ミラー10の外側上部にミラー液晶ディスプレイ30が設けられている。ミラー液晶ディスプレイ30は、ミラー10を表面側から見て略三角形状に形成されている。
【0028】
図2に示すように、ミラー液晶ディスプレイ30は、板状に形成されており、ミラー10を固定するミラー支持枠21に外周縁が固定されている。ミラー液晶ディスプレイ30は、ミラー10と同一平面状に配置されており、ミラー状態のときに、他の部分のミラー10と連続的な像を写すように構成されている。
【0029】
ミラー液晶ディスプレイ30の背面側には、ミラー10に写る像とは別の像を表示する表示手段である第二ミラー40が設けられている。第二ミラー40は、ミラー10とは別角度で固定された曲面鏡にて構成されており、ミラー10およびミラー液晶ディスプレイ30を固定するミラー支持枠21に外周縁が固定されている。ミラー支持枠21には、ミラー液晶ディスプレイ30の固定部分(ミラー10の外側上部)に背面側にへこむ凹部21aが形成されており、この凹部21aの底部に第二ミラー40が係止され、凹部21aの頂部(表面部分)にミラー液晶ディスプレイ30が係止されている。第二ミラー40は、例えば、運転席から見て死角部となる車両側面後方下部の領域A2(図3参照)を写し出す角度に配置されて固定されている(図1の(b)参照)。なお、図1の(b)中、41aは、自車側面の後方下部の像を示し、41bは、道路のセンターラインの像を示す。
【0030】
なお、ミラー液晶ディスプレイ30の背面側に設けられる表示手段は、本実施形態のように配置角度を変えて固定された第二ミラー40に限られるものではない。例えば、車両の前方や後方を撮影する車載カメラ(図示せず)に接続された液晶モニター等の画像表示装置であってもよい。さらに、像を表示するものでなくても、例えば、ターンランプ、ストップランプ(ブレーキランプ)の光源や、車両の開錠あるいは施錠時に点灯する照明ランプ(ウェルカムランプ)や足元灯の光源等を設けてもよい。この場合、各光源の作動状態に応じて、ミラー液晶ディスプレイ30の透過状態とミラー状態とを切り替えるようにする。具体的には、光源の点灯時に、ミラー液晶ディスプレイ30は、スイッチがオンされて切替閾値電圧以上の電圧が印加されて透過状態となり、光源の消灯時に、スイッチがオフされて電圧が非印加となりミラー状態となるように構成される。このような構成によれば、光源の明るさを低下させることなく、明るい状態で各ランプを使用することができる。
【0031】
ミラー液晶ディスプレイ30は、図4に示すように、ミラー10の表面側から、偏光板30a、液晶セル30b、反射型偏光板30c、光透過部材30dを重ねて貼付した構造になっている。
【0032】
偏光板30aは、透過する光の偏光成分を選択するものであり、表面側から入射した入射光の特定の第一偏光成分を透過光として液晶セル30bに射出する。本実施形態では、第一偏光成分を、垂直偏光成分としている。また、偏光板30aは、液晶セル30bから入射する第一偏光成分の入射光をそのまま透過して透過光として、表面側に射出する。なお、運転者は、射出される透過光を網膜に結像することで、車両後方の状況を視認できる。
【0033】
液晶セル30bは、偏光板30aの背面に配置されたもので、光の透過のシャッターとして機能する。この液晶セル30bは、制御領域ごとに独立した図示しない透明電極が配線されている。透明電極はガラス基板30e,30fに形成され、ガラス基板30e,30f間に形成された空間に液晶30hが封入されている。なお、液晶30hは、TN(Twisted Nematic)液晶とする。
【0034】
ミラー液晶ディスプレイ30は、透過状態とミラー状態との切替閾値電圧の印加・非印加で透過状態とミラー状態とが切り替えられ、ミラー液晶ディスプレイ30に印加される電圧が切替閾値電圧以上のときに透過状態となり、ミラー液晶ディスプレイ30に印加される電圧が前記切替閾値電圧未満のときまたは電圧が印加されないときにミラー状態となるように構成されている。本実施形態では、ミラー液晶ディスプレイ30は、電圧の印加・非印加、すなわちスイッチのオン・オフで透過状態とミラー状態とを切り替えるように構成されている。要するに、ガラス基板30e,30fの図示しない透明電極間に電圧を印加しないスイッチオフ(非印加)のときに、入射光に対して旋光性を発現してミラー状態となり、その透明電極間に切替閾値電圧以上の電圧を印加したスイッチオン(印加)のときに、発現していた旋光性が解消して透過状態となる液晶配列になっている。ガラス基板30e,30fの間には、シール材(スペーサ)30gが配置されている。
【0035】
反射型偏光板30cは、液晶セル30bの背面に配置され、かつ、直交する偏光成分の光のいずれか一方を透過させるとともに他方を反射するものである。なお、ここでは、反射型偏光板30cが、透過させる偏光成分を垂直偏光成分(第二偏光成分)とし、反射させる偏光成分を水平偏光成分(第三偏光成分)とする。つまり、第一偏光成分(垂直偏光成分)と第三偏光成分(水平偏光成分)とが直交し、かつ、第一偏光成分(垂直偏光成分)と第二偏光成分(垂直偏光成分)とが平行になっている。反射型偏光板30cは、背面側から入射する入射光をそのまま透過して透過光として、表面側に射出する。
【0036】
ここで、反射型偏光板30cの構造について説明する。図5は、図4に示す反射型偏光板30cの構造を示す斜視図である。この反射型偏光板30cは、樹脂層30c1,30c2,30c3,…,30cn−3,30cn−2,30cn−1,30cnの多層光学フィルム構造体によって形成されている。この反射型偏光板30cは、反射面に対し角度を持って反射した光が部分的に偏光することを利用し、多段階(各樹脂層30cn)の反射を用いて直線偏光を作り出す。
【0037】
また、本実施形態では、偏光板30aおよび反射型偏光板30cは、屈折率異方性を有する樹脂層によって形成されている。この屈折率異方性を有する樹脂層は、例えば、ポリビニルアルコール−ヨウ素系の材料を用いて形成される。例えば、ポリビニルアルコールを屈折率異方性が生じるように種々の方向に引き延ばして、そのポリビニルアルコールの分子のらせんが種々の方向に向くように並べた後、ヨウ素溶液に浸すことによって、そのらせん中にヨウ素を取り込ませて屈折率異方性と偏光性とを持たせて形成される。なお、さらに、セルロース系のプラスチックフィルムで挟んで耐久性と機械的強度を持たせることが望ましい。
【0038】
図4に戻って、光透過部材30dについて説明する。この光透過部材30dは、反射型偏光板30cの背面に配置され、ガラス等の透明物質によって形成される。また、空気層であってもよい。また、この光透過部材30dは、偏光板30aと同じ光透過特性を備え、或いは、反射型偏光板30cと同じ偏光成分の光透過特性を備えるものであってもよい。そのため、光透過部材30dは、反射型偏光板30cを厚く形成したものでもよい。この実施形態では、光透過部材30dは、垂直偏光成分を透過する。
【0039】
ミラー液晶ディスプレイ30には、車速や走行方向等の走行状態を検知する判定手段(図示せず)が接続されており、走行状態に応じて、透過状態とミラー状態とを切り替えるように構成されている。ミラー液晶ディスプレイ30は、判定手段がリバース、停車または所定速度未満の走行であると判断したとき透過状態となり、判定手段が所定速度以上の走行であると判断したときにミラー状態となる。具体的には、速度センサ(図示せず)やギヤポジション検知手段(図示せず)等の判定手段が、ガラス基板30e,30fの図示しない透明電極間に電圧を印加するスイッチに接続されており、例えば、時速10km以上になると、スイッチがオフで電圧が非印加になり、ミラー液晶ディスプレイ30がミラー状態となる。一方、リバース、停車或いは時速10km未満になると、スイッチがオンで切替閾値電圧以上の電圧が印加され、ミラー液晶ディスプレイ30が透過状態となる。
【0040】
このような構成のアウターミラー1によれば、ミラー液晶ディスプレイ30は、ハーフミラーを用いていないので、ミラー状態における反射率が低下することなく、車両後方の視認性を高めることができるとともに、透過状態における光の透過率が高いので、ミラーに写る像とは別の像を明るく視認することができる。
【0041】
また、表示手段が、ミラー液晶ディスプレイ30の背面側に設けられているので、ミラー10の表面側から見た面積が大きくなることがなく、アウターミラー1の巨大化を防止できる。さらに、本実施形態では、表示手段は第二ミラー40にて構成されているので、簡単な構成で薄く形成することができる。これによって、アウターミラー1の前後方向の厚さを薄くでき、コンパクト化を達成できる。
【0042】
さらに、ミラー液晶ディスプレイ30は、ミラー10の外側上部に設けられているので、従来の補助ミラーを設けたものよりも、運転席から見やすい位置で視認できるとともに、ミラー液晶ディスプレイ30の面積を大きくすることができるので、視認性を向上させることができる。
【0043】
本実施形態では、ミラー液晶ディスプレイ30が、電圧の印加・非印加で透過状態とミラー状態とが切り替えられ、ミラー液晶ディスプレイ30に印加される電圧が切替閾値電圧以上のときに透過状態となり、ミラー液晶ディスプレイ30に印加される電圧が切替閾値電圧未満のときまたは電圧が印加されないときにミラー状態となるように構成されているので、万一、ミラー液晶ディスプレイに電圧を印加できない状態になったとしても、通常のミラー状態は確保できるので、走行に支障を与えることはない。なお、エンジン停止時には、スイッチがオフとなり電圧は印加されないので、ミラー状態となる。
【0044】
また、ミラー液晶ディスプレイ30が、リバース、停車または所定速度未満の走行でスイッチがオンされ切替閾値電圧以上の電圧が印加されて透過状態となり、所定速度以上の走行でスイッチがオフされ電圧が非印加となり、ミラー状態となるように構成されているので、ミラー10に写らない死角部の確認が必要なリバース、停車または所定速度未満の走行のときに、ミラー液晶ディスプレイ30が透過状態となり、死角部を視認することができる。透過状態では、図3の第二ミラー40で領域A2を写すようになっており、運転者は、図1の(b)に示すような像が見える。すなわち、ミラー10では、車両後方の領域A1(図3参照)を、ミラー液晶ディスプレイ30の部分では、車両側面後方下部の領域A2(図3参照)を、ともに視認できる。したがって、同一のアウターミラー1で、角度の異なる部分を同時に視認することができ、運転を行いやすくなる。このとき、車両側面後方下部の領域A2(図3参照)を明るく視認することができる。
【0045】
一方、所定速度以上の走行のときには、車両後方を写すミラー10の面積が大きくなるので、走行しやすくなる。ミラー状態では、図3の第二ミラー40で領域A1を写すようになっており、運転者は、図1の(a)に示すような像が見える。すなわち、ミラー10およびミラー液晶ディスプレイ30の両方で、車両後方の領域A1(図3参照)を連続的に視認できる。したがって、広い範囲を視認することができ、運転を行いやすくなる。このとき、ミラー液晶ディスプレイ30の部分でも反射率が低下していないので、他の部分のミラー10と同等の明るさの像で視認することができる。
【0046】
さらに、所定速度以下になったときに、ミラー液晶ディスプレイ30が自動的に透過状態に切り替えられて像が変化するので、運転者にミラー10に写らない死角部への注意喚起をすることができる。
【0047】
次に、本発明に係る車両用後写鏡を実施するための最良の第二の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0048】
図6および図7に示すように、本実施形態に係るアウターミラー1(車両用後写鏡)は、ミラー10の一部に設けられたミラー液晶ディスプレイ30の背面側のミラーカバー20に、その前方を視認するための開口部22を形成したことを特徴とする。
【0049】
開口部22は、運転席から見て、ミラー液晶ディスプレイ30と重なる部分に形成されており、開口部22の前方の像の光路を直線的に確保するように構成されている。開口部22には、ガラスあるいは透明樹脂等からなるカバー部材23が設けられており、ミラーカバー20の内部に雨や埃が浸入するのを防止している。
【0050】
ミラー液晶ディスプレイ30の背面側で、開口部22との間には、開口部22の前方の像を透過させるレンズ24が設けられている。レンズ24は、開口部22の前方の広い範囲の像を集約してミラー液晶ディスプレイ30の背面に表示するように構成されており、例えば、プリズムレンズや凹レンズが用いられている。凹レンズは、具体的には、両面が凹状に形成された両面凹レンズや、一方の面が凹状に形成され他方の面が凸条に形成された凸凹レンズが用いられる。特に、後者の凸凹レンズは、凸面をドアミラーの外形に沿わせることで、一体的に取り付けることが可能となるので好ましい。このようにレンズ24を設けることによって、開口部22は、ミラー液晶ディスプレイ30の表面積よりも大きくでき、広い範囲の像を視認することができる。
【0051】
なお、ミラー10とミラー液晶ディスプレイ30は、前記した第一の実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態でも、ミラー10とミラー液晶ディスプレイ30はミラー支持枠(図示せず)に固定されているが、ミラー支持枠のミラー液晶ディスプレイ30の背面には、開口部(図示せず)が形成されており、ミラー液晶ディスプレイ30から、開口部22からの光路を確保できるように構成されている。
【0052】
また、ミラー液晶ディスプレイ30は、前記した第一の実施形態と同様に、電圧の印加・非印加(スイッチのオン・オフ)で透過状態とミラー状態とが切り替えられ、スイッチがオンで切替閾値電圧以上の電圧が印加されて透過状態となり、スイッチがオフで電圧が非印加となりミラー状態となるように構成されている。さらに、ミラー液晶ディスプレイ30は、リバース、停車または所定速度未満の走行で透過状態となり、所定速度以上の走行でミラー状態となるように構成されている。
【0053】
このような構成のアウターミラー1によれば、図8に示すように、アウターミラー1とピラー2によって死角となっていた前方の領域A3,A4を視認できるようになり、高さの低い対象物の視認性が向上する。
【0054】
図6の(a)は、ミラー液晶ディスプレイ30がミラー状態の場合を示し、図示しないが、ミラー液晶ディスプレイ30には、ミラー10に写る像と一体的に車両後方が写っている。図6の(b)は、ミラー液晶ディスプレイ30が透過状態の場合を示し、ミラー液晶ディスプレイ30には、アウターミラー1の前方にいる高さの低い対象物(例えば、犬等)が写っている。このとき、ミラー液晶ディスプレイ30と開口部22との間にレンズ24が設けられているので、アウターミラー1の前方の広い領域A3を視認することが可能となる。
【0055】
次に、本発明に係る車両用後写鏡を実施するための最良の第三の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0056】
図9に示すように、本実施形態に係るアウターミラー1は、ミラー10が、外側端部に配置されフラット状表面を有するミラー液晶ディスプレイ30と、その内側(車体側)に配置され一定曲率の球面状表面を有する球面曲面鏡11と、さらにその内側で内側端部に延出するように配置され、内側に向かうに連れて前記一定曲率よりも徐々に曲率が大きくなる非球面状表面を有する非球面曲面鏡12とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0057】
ミラー液晶ディスプレイ30は、ミラー10の外側端部の全高に亘って形成されており、ミラー10の全幅の略1/5の幅を有している。なお、ミラー液晶ディスプレイ30のフラット状表面と、球面曲面鏡11の球面状表面とを連続的に接続するのは困難であるので、ミラー液晶ディスプレイ30と球面曲面鏡11との境界部分には、ミラー支持枠21が露出しており、その露出部分の両側でミラー液晶ディスプレイ30と球面曲面鏡11とがそれぞれ係止されている。
【0058】
球面曲面鏡11は、ミラー10の幅方向中央で全幅の略3/5の幅を有している。
【0059】
非球面曲面鏡12は、ミラー10の内側端部の全高に亘って形成されており、ミラー10の全幅の略1/5の幅を有している。非球面曲面鏡12は、球面曲面鏡11との境界部分では、球面曲面鏡11と同等の曲率を有しており、曲率が内側に向かうに連れて前記一定曲率よりも徐々に大きくなる、すなわち、車体に近づくに連れて、曲率半径が小さくなるように構成されている。球面曲面鏡11と非球面曲面鏡12とは、その境界部分で連続的に接続されている。
【0060】
ミラー液晶ディスプレイ30の背面側には、第一の実施形態と同様に第二ミラー40が設けられており、ミラー液晶ディスプレイ30が透過状態のときに、車両側面後方下部を写すように構成されている。
【0061】
また、ミラー液晶ディスプレイ30は、前記した第一および第二の実施形態と同様に、電圧の印加・非印加(スイッチのオン・オフ)で透過状態とミラー状態とが切り替えられ、スイッチがオンで切替閾値電圧以上の電圧が印加されて透過状態となり、スイッチがオフで電圧が非印加となりミラー状態となるように構成されている。さらに、ミラー液晶ディスプレイ30は、リバース、停車または所定速度未満の走行で透過状態となり、所定速度以上の走行でミラー状態となるように構成されている。
【0062】
このような構成のアウターミラー1によれば、前記した第一の実施形態と同様の作用効果の他に以下のような作用効果を得ることができる。
【0063】
要するに、ミラー10の外側端部にフラット状表面を有するミラー液晶ディスプレイ30を設けたことによって、そこに写る像は実物と1:1の比率で表示されるため、その部分の車両後方の像が歪まないので、距離感を掴みやすくなる。また、内側には、球面曲面鏡11が設けられているので、広い範囲の車両後方の像を写すことができ、広い範囲を視認することができる。また、ミラー液晶ディスプレイ30をフラット状表面としているので、液晶が角度依存することなく、精度の高いミラー液晶ディスプレイ30を、容易に提供することができる。
【0064】
さらに、非球面曲面鏡12をミラー10の内側端部に設けているので、より一層広い範囲の車両後方の像を写すことができる。通常、非球面曲面鏡12を端部に設けると、像が端部で伸びるように変形しながら写るが、かかる非球面曲面鏡12はミラーの内側の端部に設けられているため、端部には自車が写り、像が固定されて移動することはない。したがって、非球面曲面鏡12の端部で像が変形しながら写ることはなく、運転者にちらつき感や違和感を与えることはない。また、ミラー液晶ディスプレイ30、球面曲面鏡11および非球面曲面鏡12を前記のような割合で配置したことによって、広い範囲を写せるとともに、距離感を掴みやすく、写りこむ像のバランスが良好なアウターミラー1を提供することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、ミラー10の外側から内側に向かって、ミラー液晶ディスプレイ30、球面曲面鏡11、非球面曲面鏡12の順で配置されているが、外側端部にミラー液晶ディスプレイ30を配置して、内側端部に非球面曲面鏡12を配置していれば、これに限られるものではない。球面曲面鏡11は設けずに、外側端部にミラー液晶ディスプレイ30を設けて、その内側に非球面曲面鏡12を内側端部まで延出するように設けてもよい。
【0066】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施の形態では、ドアミラータイプのアウターミラー1を例に挙げて説明したが、これに限られるものではなく、インナーミラーやフェンダーミラーであっても適用できるのは勿論である。そして、アウターミラー1やインナーミラーにそれぞれ適用して、各部を表示可能にすることによって、死角を大幅に低減することができる。
【0067】
また、本実施形態では、ミラー10の一部にミラー液晶ディスプレイ30を設けているが、ミラー全体をミラー液晶ディスプレイで構成するようにしてもよい。この場合、ブロックごとにミラー液晶ディスプレイの切替を制御して、種々の場所を表示する表示手段をそれぞれ設けるようにすれば、車両側面後方下部以外の所望の場所を状況に応じて視認することが可能となる。
【0068】
さらに、本実施形態では、車両の走行速度に応じて、ミラー液晶ディスプレイ30のミラー状態と透過状態とを切り替えるようにしているが、手動で切替を行うようにしてもよいのは勿論である。
【0069】
また、ミラー液晶ディスプレイ30の透過状態への切替に応じて、視認対象物を照らすように足元照明装置を連動するように設けてもよい。この場合、夜間における視認性が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る車両用後写鏡を実施するための最良の第一の形態を示した図であって、(a)はミラー状態を示した斜視図、(b)は透過状態を示した斜視図である。
【図2】第一実施形態に係る車両用後写鏡を示した断面図である。
【図3】第一実施形態に係る車両用後写鏡の反射領域を示した側面図である。
【図4】ミラー液晶ディスプレイの構成を説明するための構成図である。
【図5】ミラー液晶ディスプレイの反射型偏光板の構成を説明するための構成図である。
【図6】本発明に係る車両用後写鏡を実施するための最良の第二の形態を示した図であって、(a)はミラー状態を示した斜視図、(b)は透過状態を示した斜視図である。
【図7】第二実施形態に係る車両用後写鏡を示した断面図である。
【図8】運転席からの死角を示した平面図である。
【図9】本発明に係る車両用後写鏡を実施するための最良の第三の形態を示した図であって、(a)はミラー状態を示した斜視図、(b)は透過状態を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
1 アウターミラー(車両用後写鏡)
10 ミラー
11 球面曲面鏡
12 非球面曲面鏡
20 ミラーカバー
22 開口部
30 ミラー液晶ディスプレイ
40 第二ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後方を視認するためのミラーを備えた車両用後写鏡において、
少なくとも前記ミラーの一部を、透過状態とミラー状態とを切替可能なミラー液晶ディスプレイにて構成し、
そのミラー液晶ディスプレイの背面側に、前記ミラーに写る像とは別の像を表示する表示手段を設けた
ことを特徴とする車両用後写鏡。
【請求項2】
前記表示手段は、前記ミラーとは別角度で固定された第二ミラーにて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用後写鏡。
【請求項3】
車両後方を視認するためのミラーを備えた車両用後写鏡において、
少なくとも前記ミラーの一部を、透過状態とミラー状態とを切替可能なミラー液晶ディスプレイにて構成し、
そのミラー液晶ディスプレイの背面側のミラーカバーに、その前方を視認するための開口部を形成した
ことを特徴とする車両用後写鏡。
【請求項4】
前記ミラー液晶ディスプレイは、透過状態とミラー状態との切替閾値電圧の印加・非印加で透過状態とミラー状態とが切り替えられ、
前記ミラー液晶ディスプレイに印加される電圧が前記切替閾値電圧以上のときに透過状態となり、前記ミラー液晶ディスプレイに印加される電圧が前記切替閾値電圧未満のときまたは電圧が印加されないときにミラー状態となるように構成された
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両用後写鏡。
【請求項5】
前記ミラー液晶ディスプレイは、走行状態を判定する判定手段に接続され、
前記判定手段がリバース、停車または所定速度未満の走行であると判断したときに前記ミラー液晶ディスプレイは透過状態となり、
前記判定手段が所定速度以上の走行であると判断したときに前記ミラー液晶ディスプレイはミラー状態となるように構成された
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の車両用後写鏡。
【請求項6】
前記ミラーは、外側端部に配置されフラット状表面を有する前記ミラー液晶ディスプレイと、その内側に配置され一定曲率の球面状表面を有する球面曲面鏡とを備えて構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の車両用後写鏡。
【請求項7】
前記ミラーは、前記球面曲面鏡または前記ミラー液晶ディスプレイの内側で内側端部まで延出して配置され、内側に向かうに連れて前記一定曲率よりも徐々に曲率が大きくなる非球面状表面を有する非球面曲面鏡を備えた
ことを特徴とする請求項6に記載の車両用後写鏡。
【請求項8】
車両後方を視認するためのミラーを備えた車両用後写鏡において、
少なくとも前記ミラーの一部を、透過状態とミラー状態とを切替可能なミラー液晶ディスプレイにて構成し、
そのミラー液晶ディスプレイの背面側に、ターンランプ、ストップランプの光源、または車両の開錠あるいは施錠時に点灯する照明ランプや足元灯の光源を設けた
ことを特徴とする車両用後写鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−56932(P2009−56932A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225777(P2007−225777)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000148689)株式会社村上開明堂 (185)
【Fターム(参考)】