説明

車両用操舵装置

【課題】伝達比可変装置の機能に制約を加えることなく当該伝達比可変装置の作動時においても良好な操舵フィーリングを実現することのできる車両用操舵装置を提供すること。
【解決手段】EPSECU18側のマイコン41には、F/Bゲイン演算部50が設けられるとともに、同マイコン41は、このF/Bゲイン演算部50が演算するフィードバックゲイン(比例ゲインKp及び積分ゲインKi)を用いた電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号を生成する。また、このマイコン41には、IFSECU8側(のマイコン31)において検出(演算)された転舵角速度ωtが入力される。そして、上記F/Bゲイン演算部50は、その転舵角速度ωtに応じてフィードバックゲインを可変する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用操舵装置には、その操舵力補助装置として電動パワーステアリング装置(EPS)を備えたものがある。そして、このようなEPSにはレイアウト自由度が高く、且つエネルギー消費量が小さいという利点があることから、近年、車種や車格等を問わず、幅広い範囲において、その採用が進められている。
【0003】
また、車両用操舵装置には、ステアリング(の舵角:操舵角)と転舵輪(の舵角:転舵角)との間の伝達比(ギヤ比)を可変すべく操舵系の途中に設けられた伝達比可変装置を備えたものがある。例えば、特許文献1に記載の伝達比可変装置は、ステアリング操作に基づく第1の舵角にモータ駆動に基づく第2の舵角を上乗せすることにより任意に伝達比を変更することが可能となっている。そして、その伝達比可変制御の実行により、低車速時においてはステアリング操作に対する転舵角の変化量を大(所謂クイックなギヤ比)として運転者の負担を軽減し、高車速時にはその変化量を小(所謂スローなギヤ比)として高い操舵安定性を確保するといった、優れたステアリング特性を実現することができる。
【0004】
ところが、このように伝達比を可変することで、低速走行中の急操舵時等には、従来よりも速い速度で転舵角が変更されることになる。そして、その転舵角速度に操舵力補助装置が追従できなくなることによりアシスト力不足が生じ、ひいては、これが所謂引っ掛かり感となって操舵フィーリングの低下を招くおそれがある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献2には、こうした操舵力補助装置の追従遅れを防止すべく、その操舵速度に応じて伝達比を可変する構成が開示されている。即ち、操舵速度が速い場合には、伝達比(ギヤ比)をスローな値とすることで、その転舵角速度を抑制する。そして、これにより、伝達比可変装置の作動時における操舵フィーリングの改善を図る構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−211541号公報
【特許文献2】特許第3344474号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように転舵角速度を抑制することで、その伝達比可変装置の機能により得られる効果もまた、限定的なものとなってしまう。そのため、従来、伝達比可変装置の機能に制約を加えることなく、有効に操舵力補助装置の追従遅れを防止し得る新たな技術の創出が強く求められていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、伝達比可変装置の機能に制約を加えることなく当該伝達比可変装置の作動時においても良好な操舵フィーリングを実現することのできる車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ステアリングと転舵輪との間の伝達比を可変すべく操舵系の途中に設けられた伝達比可変装置と、モータを駆動源として操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、前記モータに対する駆動電力の供給を通じて前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、電流指令値に実電流値を追従させるべく電流フィードバック制御を実行することにより前記駆動電力を供給する車両用操舵装置において、前記転舵輪の舵角速度を検出する転舵角速度検出手段を備え、前記制御手段は、前記転舵輪の舵角速度に応じて前記フィードバック制御のゲインを変更すること、を要旨とする。
【0010】
即ち、操舵力補助装置の駆動源であるモータに対して駆動電力を供給するにあたり、その電流フィードバック制御のゲインを高くして応答性を高めることにより、当該操舵力補助装置の追従遅れを防止することができる。そして、そのフィードバックゲインの可変を、同操舵力補助装置に追従遅れが生じやすい状況、即ち転舵輪の舵角速度(転舵角速度)が速い場合について限定的に行うことで、そのフィードバックゲインを高くすることにより生ずる音や振動の問題を抑えることができる。その結果、伝達比可変装置の機能に制約を加えることなく良好な操舵フィーリングを実現することができるとともに、併せて、高い静粛性を確保することができる。
【0011】
また、操舵系の途中に伝達比可変装置が設けられている場合には、必ずしもステアリングに生じた操舵速度と転舵角速度とが比例関係にあるとは限らない。従って、上記のように、転舵角速度に応じてフィードバックゲインを可変することで、より適切に、その応答性の向上を図ることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、検出される前記転舵輪の舵角速度が正常であるか否かを判定する判定手段を備え、前記制御手段は、検出される前記転舵輪の舵角速度が正常ではない場合には、該転舵輪の舵角速度に応じた前記ゲインの変更を行わないこと、を要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、速やかに電流フィードバック制御の応答性を安定させてフェールセーフを図ることができる。
請求項3に記載の発明は、前記制御手段は、前記ゲインを予め設定された値に固定して前記フィードバック制御を実行すること、を要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、追従性と静粛性とのバランスを考慮した値にフィードバックゲインを固定して、そのフィードバックゲインの可変を停止したことによる影響を最小限に抑えることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記伝達比可変装置は、ステアリング操作に基づく第1の舵角にモータ駆動に基づく第2の舵角を上乗せすることにより前記伝達比を可変するものであって、前記ステアリングに生じた操舵速度を検出する操舵速度検出手段と、その検出される操舵速度が正常であるか否かを判定する第2の判定手段とを備え、前記制御手段は、検出される前記操舵速度が正常である場合には、該操舵速度に基づいて前記フィードバック制御のゲインを変更すること、を要旨とする。
【0016】
即ち、上記のように、必ずしも操舵速度と転舵角速度とが比例関係にあるとは限らない。しかしながら、操舵力補助装置の追従遅れは、基本的に操舵速度が速い場合に生じやすい。従って、上記構成によれば、その転舵角速度に応じたフィードバックゲインの可変を停止した後においても、伝達比可変装置の機能に制約を加えることなく良好な操舵フィーリングを実現することができる。また、併せて高い静粛性を確保することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、伝達比可変装置の機能に制約を加えることなく当該伝達比可変装置の作動時においても良好な操舵フィーリングを実現することが可能な車両用操舵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両用操舵装置の概略構成図。
【図2】伝達比可変装置の作用説明図。
【図3】伝達比可変装置の作用説明図。
【図4】車両用操舵装置の電気的構成を示すブロック図。
【図5】F/Bゲイン演算部の概略構成図。
【図6】フィードバックゲイン変更による応答性の変化を示す説明図。
【図7】伝達比可変装置に関する異常判定の処理手順を示すフローチャート。
【図8】フィードバックゲイン可変演算の処理手順を示すフローチャート。
【図9】別例のフィードバックゲイン可変演算の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を伝達比可変装置を備えた車両用操舵装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態の車両用操舵装置1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラック&ピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラック&ピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、ステアリング2側から順に、コラムシャフト、インターミディエイトシャフト、及びピニオンシャフトを連結してなる周知の構成を有している。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッドを介してナックル(図示略)に伝達されることにより、転舵輪6の舵角、即ち車両の進行方向が変更されるようになっている。
【0020】
また、本実施形態の車両用操舵装置1は、ステアリング2(の舵角)と転舵輪6(の舵角)との間の伝達比(ギヤ比)を可変すべく操舵系の途中に設けられた伝達比可変装置7と、該伝達比可変装置7の作動を制御するIFSECU8とを備えている。
【0021】
詳述すると、本実施形態では、伝達比可変装置7は、ステアリングシャフト3を構成するインターミディエイトシャフト3aに設けられている。具体的には、本実施形態のインターミディエイトシャフト3aは、ステアリング2側(同図中、上側)に位置する第1シャフト9とラック軸5側(同図中、下側)に位置する第2シャフト10とからなる。そして、伝達比可変装置7は、これら第1シャフト9及び第2シャフト10を連結する差動機構11と、該差動機構11を駆動するモータ12とを備えて構成されている。
【0022】
即ち、本実施形態の伝達比可変装置7は、ステアリング操作に伴う第1シャフト9の回転に、モータ駆動による回転を上乗せして第2シャフト10に伝達する。そして、そのラック&ピニオン機構4に入力されるステアリングシャフト3の回転を増速(又は減速)することにより、ステアリング2と転舵輪6との間の伝達比を任意に変更することが可能となっている。
【0023】
つまり、図2及び図3に示すように、伝達比可変装置7は、ステアリング操作に基づく転舵輪6の舵角(ステア転舵角θts)にモータ駆動に基づく転舵輪の舵角(ACT角θta)を上乗せすることにより、ステアリング2に生じた操舵角θsに対する転舵輪6の転舵角θtの比率、即ち伝達比(ギヤ比)を可変させる。そして、IFSECU8は、モータ12に対する駆動電力の供給を通じて伝達比可変装置7の制御を制御することにより、操舵角θsと転舵角θtとの間の伝達比(ギヤ比)を制御する(伝達比可変制御)。
【0024】
尚、この場合における「上乗せ」とは、加算する場合のみならず減算する場合をも含むものと定義し、以下同様とする。また、「操舵角θsに対する転舵角θtのギヤ比」をオーバーオールギヤ比(操舵角θs/転舵角θt)で表した場合、ステア転舵角θtsと同方向のACT角θtaを上乗せすることによりオーバーオールギヤ比は小さくなる(転舵角θt大、図2参照)。そして、逆方向のACT角θtaを上乗せすることによりオーバーオールギヤ比は大きくなる(転舵角θt小、図3参照)。このように、本実施形態では、ステア転舵角θtsが第1の舵角を構成し、ACT角θtaが第2の舵角を構成する。
【0025】
また、図1に示すように、本実施形態の車両用操舵装置1は、操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ17と、該EPSアクチュエータ17の作動を制御する制御手段としてのEPSECU18とを備えている。
【0026】
本実施形態のEPSアクチュエータ17は、モータ22を駆動源としてラック軸5に軸方向の押圧力を付与する所謂ラックアシスト型のEPSアクチュエータであり、詳しくはラック軸5と同軸位置に設けられたモータ22の発生するアシストトルクをボール螺子機構(図示略)を介してラック軸5に伝達する所謂ラック同軸型の構成を有している。そして、EPSECU18は、このモータ22が発生するアシストトルクを制御することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
【0027】
また、本実施形態では、上記のように伝達比可変装置7を制御するIFSECU8、及びEPSアクチュエータ17を制御するEPSECU18は、それぞれ、車内ネットワーク(CAN:Controller Area Network)23に接続されている。そして、これらIFSECU8及びEPSアクチュエータ17は、この車内ネットワーク23を介して取得する各種状態量及び制御信号に基づいて、その伝達比可変制御及びパワーアシスト制御を実行する構成となっている。
【0028】
次に、本実施形態における車両用操舵装置の電気的構成及び制御態様について説明する。
図4は、車両用操舵装置の電気的構成を示すブロック図である。尚、同図に示す各制御ブロックは、IFSECU8及びEPSECU18に設けられた各マイコン(31,41)が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、各マイコン(31,41)は、所定のサンプリング周期(検出周期)で各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、その対応する各モータ12,22を駆動するためのモータ制御信号を生成する。
【0029】
図4に示すように、本実施形態では、IFSECU8には、ステアリングセンサ24(図1参照)の出力信号に基づき検出されるステアリング2の舵角(操舵角θs)、及び車速センサ25の出力信号に基づき検出される車速Vが入力されるようになっている。そして、本実施形態のIFSECU8は、これら車速V及び操舵角θs(並びに操舵速度ωs)に基づいてモータ制御信号を出力するマイコン31と、そのモータ制御信号に基づいてモータ12に駆動電力を供給する駆動回路32とを備えて構成されている。
【0030】
詳述すると、本実施形態のマイコン31には、ギヤ比可変制御演算部33及び微分ステア制御演算部34が設けられている。
本実施形態では、ギヤ比可変制御演算部33には、操舵角θs及び車速Vが入力される。そして、同ギヤ比可変制御演算部33は、これら操舵角θs及び車速Vに基づいて、その車速Vに応じてギヤ比(伝達比)を可変させるための制御目標成分としてギヤ比可変指令角θgr*を演算する。具体的には、低車速時においては、運転者の負担を軽減すべく、ステアリング操作に対する転舵角の変化量が大(クイックなギヤ比)となるような値を有したギヤ比可変指令角θgr*を演算し、高車速時においては、その高い操舵安定性を確保すべく、転舵角の変化量が小(所謂スローなギヤ比)となるような値を有したギヤ比可変指令角θgr*を演算する。
【0031】
また、微分ステア制御演算部34は、ステアリング2に生じた操舵角θsの単位時間当たりの変化量、即ち操舵速度ωsに基づいて、その伝達比可変制御の応答性を向上させるための制御目標成分として微分ステア指令角θls*を演算する。尚、本実施形態では、操舵速度検出手段としてのマイコン31は、ステアリングセンサ24により検出される操舵角θsを微分することにより操舵速度ωsを検出する。
【0032】
そして、本実施形態のマイコン31は、これらギヤ比可変指令角θgr*及び微分ステア指令角θls*を加算器35において重畳することにより、その伝達比可変制御の制御目標値となるACT指令角θta*を生成する構成となっている。
【0033】
更に、本実施形態のマイコン31は、モータ12に設けられた回転角センサ36が検出するモータ回転角θmに基づいて、モータ駆動に基づく第2の舵角としてのACT角θtaを検出する(図2及び図3参照)。そして、同マイコン31は、そのACT角θtaを上記ACT指令角θta*に追従させるべく、フィードバック制御を実行することにより、その駆動回路32に出力するモータ制御信号を生成する。
【0034】
具体的には、マイコン31は、減算器37において、同ACT角θtaを上記ACT指令角θta*から減算することにより、ACT角偏差Δθtaを演算する。また、マイコン31には、位置制御演算部38が設けられており、同位置制御演算部38は、上記ACT角偏差Δθtaにフィードバックゲインを乗ずることにより得られる位置制御量εをモータ制御信号生成部39に出力する。そして、本実施形態では、このモータ制御信号生成部39において、その位置制御量εに基づいたモータ制御信号が生成される構成となっている。
【0035】
一方、EPSECU18もまた、上記IFSECU8と同様に、モータ制御信号を出力するマイコン41と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ17の駆動源であるモータ22に駆動電力を供給する駆動回路42とを備えている。
【0036】
詳述すると、本実施形態では、EPSECU18には、ステアリングシャフト3に設けられたトルクセンサ43(図1参照)の出力信号に基づき検出される操舵トルクτ、及び上記車速Vが入力されるようになっている。そして、マイコン41は、これら操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、モータ22に対する電力供給の目標値、即ち目標アシスト力に対応する電流指令値Im*を演算する電流指令値演算部44と、電流指令値演算部44により算出された電流指令値Im*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部45とを備えている。
【0037】
本実施形態の電流指令値演算部44は、その操舵トルクτ(の絶対値)が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きなアシスト力が操舵系に付与されるような大きな値(絶対値)を有した電流指令値Im*を演算する。また、モータ制御信号出力部45には、上記電流指令値演算部44の出力する電流指令値Im*とともに、電流センサ46により検出されたモータ22の実電流値Imが入力される。そして、同モータ制御信号出力部45は、その電流指令値Im*に実電流値Imを追従させるべくフィードバック制御を実行することにより、上記駆動回路42に出力するモータ制御信号を生成する構成となっている。
【0038】
さらに詳述すると、モータ制御信号出力部45に設けられたF/B制御部47には、減算器48に電流指令値Im*及び実電流値Imを入力することにより得られる電流偏差ΔImが入力される。そして、F/B制御部47は、この電流偏差ΔIm及びフィードバックゲインに基づいて、そのフィードバック制御(比例:P、積分:I)を実行する。
【0039】
具体的には、F/B制御部47は、電流偏差ΔImに比例ゲインKpを乗ずることにより得られる比例成分、及び電流偏差ΔImの積分値に積分ゲインKiを乗ずることにより得られる積分成分を加算することにより、電圧指令値Vm*を演算する(PI制御)。そして、本実施形態のモータ制御信号出力部45は、この電圧指令値Vm*をPWM変換部49に入力することにより、モータ制御信号を生成する構成となっている。
【0040】
本実施形態では、このようにして生成されたモータ制御信号が、マイコン41から駆動回路42へと出力される。そして、そのモータ制御信号に基づく駆動電力がモータ22に供給されることにより、その電流量に対応したモータトルクがアシスト力として操舵系に付与されるようになっている。
【0041】
(フィードバックゲイン可変制御)
次に、本実施形態の車両用操舵装置1において、そのEPSECU18側のマイコン41が実行するフィードバックゲイン可変制御の態様について説明する。
【0042】
図4に示すように、本実施形態では、上記EPSECU18(のマイコン41)側のモータ制御信号出力部45には、F/Bゲイン演算部50が設けられている。そして、上記F/B制御部47によるフィードバック制御は、このF/Bゲイン演算部50が演算する比例ゲインKp及び積分ゲインKiを用いて行なわれる。
【0043】
詳述すると、IFSECU8側のマイコン31には、上記ACT角θta及び操舵角θsに基づいて、転舵輪6の舵角速度、即ち転舵角速度ωtを演算(検出)する転舵角速度検出手段としての転舵角速度演算部51が設けられている。
【0044】
本実施形態の転舵角速度演算部51は、操舵角θsに基づき上記ステア転舵角θtsを演算するとともに、同ステア転舵角θtsに上記ACT角θtaを加算することにより転舵角θtを演算する(図2及び図3参照)。そして、その転舵角θtを時間で微分することにより、転舵角速度ωtを演算(検出)する。
【0045】
本実施形態では、EPSECU18側に設けられた上記F/Bゲイン演算部50には、この転舵角速度演算部51の演算する転舵角速度ωtが入力されるようになっている。そして、F/Bゲイン演算部50は、その転舵角速度ωtに基づいて上記比例ゲインKp及び積分ゲインKiを演算する。
【0046】
さらに詳述すると、図5に示すように、本実施形態のF/Bゲイン演算部50は、比例ゲイン演算部53及び積分ゲイン演算部54を備えており、これら比例ゲイン演算部53及び積分ゲイン演算部54は、それぞれ上記転舵角速度ωt(の絶対値)とその対応する各フィードバックゲイン(Kp,Ki)とが関連付けられたマップ53a,54aを備えている。そして、比例ゲイン演算部53及び積分ゲイン演算部54は、入力される転舵角速度ωtを、そのマップ53a,54aに参照することにより、当該転舵角速度ωtに応じた比例ゲインKp及び積分ゲインKiを演算する(マップ演算)。
【0047】
具体的には、比例ゲイン演算部53に設けられたマップ53aにおいて、比例ゲインKpは、転舵角速度ωt(の絶対値)が所定値ω1以下である場合(|ωt|≦ω1)には、所定値Kplとなるように設定されている(Kp=Kpl)。また、転舵角速度ωtが所定値ω2以上である場合(|ωt|≧ω2)には、比例ゲインKpは、上記所定値Kplよりも大きな所定値Kphとなるように設定されている(Kp=Kph、Kph>Kpl)。そして、転舵角速度ωtが上記所定値ω1よりも大きく所定値ω2よりも小さい領域(ω1<|ωt|<ω2)においては、比例ゲインKpは、上記所定値Kplと所定値Kphとの間で線形補間されるように、詳しくは当該所定値Kplから所定値Kphまで、転舵角速度ωtの増大に従って、その値が大となるように設定されている。
【0048】
同様に、積分ゲイン演算部54に設けられたマップ54aにおいて、積分ゲインKiは、転舵角速度ωt(の絶対値)が所定値ω1以下である場合(|ωt|≦ω1)には、所定値Kilとなるように設定されている(Ki=Kil)。また、転舵角速度ωtが所定値ω2以上である場合(|ωt|≧ω2)には、積分ゲインKiは、上記所定値Kilよりも大きな所定値Kihとなるように設定されている(Ki=Kih、Kih>Kil)。そして、転舵角速度ωtが上記所定値ω1よりも大きく所定値ω2よりも小さい領域(ω1<|ωt|<ω2)においては、積分ゲインKiは、上記所定値Kilと所定値Kihとの間で線形補間されるように、詳しくは当該所定値Kilから所定値Kihまで、転舵角速度ωtの増大に従って、その値が大となるように設定されている。
【0049】
このように比例ゲインKp及び積分ゲインKiを変更することにより、F/B制御部47の実行するフィードバック制御の応答性は、図6に示されるように変化する。即ち、転舵角速度ωtが小さな領域では(|ωt|≦ω1)、比例ゲインKp及び積分ゲインKiが低くなることで(Kp=Kpl,Ki=Kil)、同図中、実線に示される波形L1のように、その応答性が低くなる。そして、転舵角速度ωtが大きな領域では(|ωt|≧ω2)、比例ゲインKp及び積分ゲインKiが低くなることで(Kp=P1,Ki=I1)、同図中、一点鎖線に示される波形L2のように、その応答性が高くなる。
【0050】
つまり、本実施形態では、EPSECU18側のマイコン41は、転舵角速度ωtに応じてフィードバックゲインを可変し、その電流フィードバック制御の応答性を高めることにより、EPSアクチュエータ17の追従遅れを防止する。そして、本実施形態では、これにより、伝達比可変装置7の機能に制約を加えることなく良好な操舵フィーリングを実現することが可能となっている。
【0051】
また、本実施形態のF/Bゲイン演算部50は、上記のような転舵角速度ωtに基づくフィードバックゲイン演算に先立って、先ず、その基礎となるIFSECU8側から取得した転舵角速度ωtが正常であるか否かを判定する。そして、その転舵角速度ωtが正常であると判定した場合に、上記のような当該転舵角速度ωtに基づくフィードバックゲインの演算を実行する(図5参照)。
【0052】
詳述すると、図4に示すように、IFSECU8側のマイコン31には、その制御対象である伝達比可変装置7が正常に作動しているか否かを判定するACT異常判定部55が設けられている。
【0053】
図7のフローチャートに示すように、本実施形態のACT異常判定部55は、先ず、上記ACT角θtaに関する位置制御において演算されるACT角偏差Δθtaの絶対値を所定の閾値δthと比較することにより、その伝達比可変装置7が正常に作動している場合には起こりえない偏差過大が発生しているか否かを判定する(ステップ101)。
【0054】
次に、ACT異常判定部55は、このステップ101において、偏差過大が生じていると判定した場合(|Δθta|>δth、ステップ101:YES)、続いてカウンタをインクリメントし(n=n+1、ステップ102)、更に、そのカウンタ値nが所定値n0を超えるか否かを判定する(ステップ103)。そして、当該カウンタ値nが所定値n0を超える場合(n>n0、ステップ103:YES)に、伝達比可変装置7に異常が発生したと判定する(ACT異常:異常フラグセット、ステップ104)。
【0055】
尚、上記ステップ103において、カウンタ値nが所定値n0以下である場合(n≦n0、ステップ103:NO)には、このステップ104の処理は実行されない。
一方、上記ステップ101において、偏差過大は生じていないと判定した場合(|Δθta|≦δth、ステップ101:NO)、ACT異常判定部55は、カウンタをクリアして(n=0、ステップ105)、伝達比可変装置7は正常であると判定する(ACT正常:異常フラグリセット、ステップ106)。
【0056】
図4に示すように、本実施形態のF/Bゲイン演算部50には、上記転舵角速度ωtとともに、このようなACT異常判定部55による異常判定の結果が、状態信号Strとして入力されるようになっている。そして、判定手段としてのF/Bゲイン演算部50は、その状態信号Strが正常である旨を示す場合には、上記転舵角速度ωtが正常であると判定して、当該転舵角速度ωtに基づくフィードバックゲインの演算を実行する。
【0057】
一方、その状態信号Strが異常である旨を示す場合、F/Bゲイン演算部50は、上記転舵角速度ωtは正常ではないと判定して、当該転舵角速度ωtに基づくフィードバックゲインの演算を実行しない。そして、同転舵角速度ωtに依らず、その演算する比例ゲインKp及び積分ゲインKiを予め設定された所定値(Kp=α,Ki=β)に固定する。
【0058】
具体的には、図8のフローチャートに示すように、F/Bゲイン演算部50は、先ずIFSECU8側から取得した転舵角速度ωtが正常であるか否かを判定する(ステップ201)。そして、当該転舵角速度ωtが正常であると判定した場合(ステップ201:YES)には、上記マップ演算の実行により(図5参照)、その転舵角速度ωtに応じた比例ゲインKp及び積分ゲインKiを演算する(ステップ202)。
【0059】
一方、上記ステップ201において、転舵角速度ωtが正常であると判定できない場合(ステップ201:NO)、F/Bゲイン演算部50は、比例ゲインKp及び積分ゲインKiとして固定値(所定値:Kp=α,Ki=β)を演算する(ステップ203)。そして、F/Bゲイン演算部50は、上記ステップ202又はステップ203において演算した比例ゲインKp及び積分ゲインKiを上記F/B制御部47に出力する(ステップ204)。
【0060】
即ち、本実施形態のEPSECU18において、マイコン41に設けられたモータ制御信号出力部45は、IFSECU8側から取得した転舵角速度ωtが正常ではない場合には、フィードバックゲインを固定した電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号を生成する。そして、本実施形態では、これにより、速やかにその応答性を安定させてフェールセーフを図る構成となっている。
【0061】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)EPSECU18側のマイコン41には、F/Bゲイン演算部50が設けられるとともに、同マイコン41は、このF/Bゲイン演算部50が演算するフィードバックゲイン(比例ゲインKp及び積分ゲインKi)を用いた電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号を生成する。また、このマイコン41には、IFSECU8側(のマイコン31)において検出(演算)された転舵角速度ωtが入力される。そして、上記F/Bゲイン演算部50は、その転舵角速度ωtに応じてフィードバックゲインを可変する。
【0062】
即ち、伝達比可変装置7の作動に伴い操舵フィーリングが低下する要因としては、その操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ17に追従遅れが生ずることが挙げられる。従って、当該EPSアクチュエータ17の駆動源であるモータ22に対して駆動電力を供給するにあたり、その電流フィードバック制御のゲイン(Kp,Ki)を高くして応答性を高めることにより、同EPSアクチュエータ17の追従遅れを防止することができる。そして、そのフィードバックゲインの可変を、EPSアクチュエータ17に追従遅れが生じやすい状況、即ち転舵角速度ωtが速い場合について限定的に行うことで、そのフィードバックゲインを高くすることにより生ずる音や振動の問題を抑えることができる。その結果、伝達比可変装置7の機能に制約を加えることなく良好な操舵フィーリングを実現することができるとともに、併せて、高い静粛性を確保することができる。
【0063】
また、操舵系の途中に伝達比可変装置7が設けられている場合には、必ずしも操舵速度ωsと転舵角速度ωtとが比例関係にあるとは限らない。従って、当該転舵角速度ωtに応じてフィードバックゲインを可変することで、より適切に、その応答性の向上を図ることができる。
【0064】
(2)F/Bゲイン演算部50は、上記転舵角速度ωtに基づくフィードバックゲイン演算に先立って、その基礎となる転舵角速度ωtが正常であるか否かを判定する。そして、同転舵角速度ωtが正常ではない場合には、当該転舵角速度ωtに応じたフィードバックゲインの可変を行わない。
【0065】
上記構成によれば、速やかに電流フィードバック制御の応答性を安定させてフェールセーフを図ることができる。
(3)F/Bゲイン演算部50は、転舵角速度ωtが正常ではない場合には、転舵角速度ωtに依らず、その演算するフィードバックゲイン(比例ゲインKp及び積分ゲインKi)を予め設定された所定値(Kp=α,Ki=β)に固定する。
【0066】
上記構成によれば、追従性と静粛性とのバランスを考慮した値にフィードバックゲインを固定して、そのフィードバックゲインの可変を停止したことによる影響を最小限に抑えることができる。
【0067】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、ラック軸5と同軸位置に設けられたモータ22を駆動源として同ラック軸5に軸方向の押圧力を付与する所謂ラックアシスト型のEPSアクチュエータ17を用いることとした。しかし、これに限らず、所謂ピニオン型やコラム型のEPSアクチュエータを備えるものに具体化してもよい。また、ラックアシスト型の類型についても、そのモータの軸線がラック軸と平行となるように配置された所謂ラックパラレル型や、ラック軸と斜交するように配置されたラッククロス型のものに具体化してもよい。
【0068】
・上記実施形態では、伝達比可変装置7は、インターミディエイトシャフト3aの途中に設けられることとした。しかし、これに限らず、コラムシャフトやピニオンシャフトの途中に設けられるものであってもよい。
【0069】
・上記実施形態では、F/B制御部47は、そのフィードバック制御として、比例制御及び成分制御(PI制御)を実行し、F/Bゲイン演算部50は、その比例ゲインKp及び積分ゲインKiについて、転舵角速度ωtに基づく変更を行なうこととした。しかし、これに限らず、そのフィードバック制御として、さらに微分制御を加えた所謂PID制御を実行する態様に具体化してもよい。そして、そのフィードバックゲインの変更については、比例ゲインKp及び積分ゲインKi(上記微分制御を行う場合には、並びにその微分ゲイン)の少なくとも何れか一つについて行なう構成であればよい。
【0070】
・上記実施形態では、IFSECU8側のマイコン31に、転舵角速度演算部51を設けることとした。しかし、これに限らず、EPSECU18側のマイコン41において、転舵角速度ωtを検出する構成としてもよい。
【0071】
・また、上記実施形態では、転舵角速度演算部51は、ACT角θta及び操舵角θsに基づいて、転舵輪6の舵角速度、即ち転舵角速度ωtを演算(検出)することとした。しかし、例えば、ラック軸5の軸方向位置等から直接的に転舵角速度ωtを検出可能な転舵角速度手段を備える構成等、転舵角速度ωtの検出方法については、特に限定するものではない。
【0072】
・上記実施形態では、その転舵角速度ωtが所定値ω1を超える場合(ω1<|ωt|<ω2)において、当該転舵角速度ωtの増大に従って大となるようにフィードバックゲインを変更することとした。しかし、これに限らず、転舵角速度ωtの増大に応じて、連続的又はステップ的にフィードバックゲインを大とする構成としてもよい。
【0073】
・更に、上記転舵角速度ωtに応じたフィードバックゲインの変更と、車速V或いは操舵速度ωに応じたフィードバックゲインの変更とを併用する構成としてもよい。具体的には、例えば、転舵角速度感応ゲインと車速感応ゲインとを掛け合わせることにより、そのフィードバックゲインを演算する等とすればよい。尚、車速感応型については、特許第3231932号明細書等、また、操舵速度感応型については、特開2001−239947号公報等を参照されたい。
【0074】
・上記実施形態では、転舵角速度ωtが正常であると判定できない場合(図8参照、ステップ201:NO)には、転舵角速度ωtに依らず、その演算する比例ゲインKp及び積分ゲインKiを所定値(Kp=α,Ki=β)に固定することとした(ステップ203)。しかし、これに限らず、ゲインを固定して電流フィードバック制御を行う構成であれば、例えば、前回の演算周期において「正常であると判定された時点の値」に固定する等、その固定値については、必ずしも予め設定された値でなくともよい。
【0075】
・さらに、上記のようにフィードバックゲインを固定値に切り替えた場合には、その値にフィルタ処理を施す構成としてもよい。これにより、その応答性の変化に伴うアシストトルクの変動を緩和して、良好な操舵フィーリングを確保することができる。
【0076】
・上記実施形態では、IFSECU8側のマイコン31に、その制御対象である伝達比可変装置7が正常に作動しているか否かを判定するACT異常判定部55を設ける。そして、判定手段としてのF/Bゲイン演算部50は、このACT異常判定部55による異常判定の結果を示す状態信号Strに基づいて、転舵角速度ωtが正常であるか否かを判定することとした。しかし、これに限らず、EPSECU18側のマイコン41において、伝達比可変装置7が正常に作動しているか否かを判定する構成であってもよい。
【0077】
・また、転舵角速度ωtが正常であるか否かの判定については、IFSECU8側のマイコン31についての異常判定、或いはステアリングセンサ24の異常判定を実行し、その判定結果を用いる等、適宜変更してもよい。
【0078】
・更に、ステアリングセンサ24の異常判定機能を有する場合等、その検出される操舵速度ωsが正常であるか否かを判定可能な第2の判定手段を備える構成では、その転舵角速度ωtが正常ではないと判定された場合であっても、操舵速度ωsが正常である場合には、その転舵角速度ωtに代えて、操舵速度ωsに応じたフィードバックゲインの可変を実行してもよい。
【0079】
具体的には、例えば、図9のフローチャートに示すように、先ず、上記実施形態と同様、転舵角速度ωtが正常であるか否かを判定する(ステップ301)。そして、当該転舵角速度ωtが正常であると判定した場合(ステップ301:YES)には、その転舵角速度ωtに応じたフィードバックゲイン(比例ゲインKp及び積分ゲインKi)を演算する(通常演算、ステップ302)。
【0080】
一方、上記ステップ301において、転舵角速度ωtが正常であると判定できない場合(ステップ301:NO)には、続いて操舵速度ωsが正常であるか否かを判定する(ステップ303)。そして、当該操舵速度ωsが正常であると判定した場合(ステップ303:YES)には、その操舵速度ωsに応じたフィードバックゲイン(Kp,Ki)を演算する(代替演算、ステップ304)。
【0081】
尚、この操舵速度ωsに応じたフィードバックゲインの演算については、例えば、上記転舵角速度ωtを用いる場合と同様、予め操舵速度ωs(の絶対値)とその対応する各フィードバックゲイン(Kp,Ki)とが関連付けられたマップを用意することにより、マップ演算を行うとよい。そして、上記ステップ303において、操舵速度ωsが正常であると判定できない場合(ステップ303:NO)には、そのフィードバックゲインとして予め設定された所定値(Kp=α,Ki=β)を演算する(固定演算、ステップ305)。
【0082】
そして、このようにして、上記ステップ302、ステップ304、又はステップ305の何れかにおいて演算されたフィードバックゲインを上記F/B制御部47に出力する構成とすればよい(ステップ306)。
【0083】
即ち、上記のように、必ずしも操舵速度ωsと転舵角速度ωtとが比例関係にあるとは限らない。しかしながら、EPSアクチュエータ17の追従遅れは、基本的に操舵速度ωsが速い場合に生じやすい。従って、上記構成によれば、その転舵角速度ωtに応じたフィードバックゲインの可変を停止した後においても、伝達比可変装置7の機能に制約を加えることなく良好な操舵フィーリングを実現することができる。また、併せて高い静粛性を確保することもできる。
【0084】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果ともに記載する。
(イ)請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の車両用操舵装置において、前記制御手段は、前記転舵輪の舵角速度が所定値を超える場合に、前記ゲインを変更すること、を特徴とする車両用操舵装置。
【0085】
上記構成によれば、操舵力補助装置に追従遅れが生じやすい領域に限定して、そのフィードバックゲインを可変することができる。その結果、静粛性との両立を図りつつ、より効果的に、伝達比可変装置の作動時における操舵フィーリングの改善を図ることができる。
【符号の説明】
【0086】
1…車両用操舵装置、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、6…転舵輪、7…伝達比可変装置、8…IFSECU、12…モータ、17…EPSアクチュエータ、18…EPSECU、22…モータ、24…ステアリングセンサ、31…マイコン、32…駆動回路、33…ギヤ比可変制御演算部、34…微分ステア制御演算部、36…回転角センサ、37…減算器、38…位置制御演算部、39…モータ制御信号出力部、41…マイコン、42…駆動回路、44…電流指令値演算部、45…モータ制御信号出力部、46…電流センサ、47…F/B制御部、48…減算器、50…F/Bゲイン演算部、51…転舵角速度演算部、53…比例ゲイン演算部、53a…マップ、54…積分ゲイン演算部、54a…マップ、55…ACT異常判定部、Im…実電流値、Im*…電流指令値、ΔIm…偏差、θs…操舵角、ωs…操舵速度、θts…ステア転舵角、θm…モータ回転角、θta…ACT角、θta*…ACT指令角、Δθta…ACT角偏差、θt…転舵角、ωt…転舵角速度、Kp…比例ゲイン、Kpl,Kph…所定値、Ki…積分ゲイン、Kil,Kih…所定値、Str…状態信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングと転舵輪との間の伝達比を可変すべく操舵系の途中に設けられた伝達比可変装置と、モータを駆動源として操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、前記モータに対する駆動電力の供給を通じて前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、電流指令値に実電流値を追従させるべく電流フィードバック制御を実行することにより前記駆動電力を供給する車両用操舵装置において、
前記転舵輪の舵角速度を検出する転舵角速度検出手段を備え、
前記制御手段は、前記転舵輪の舵角速度に応じて前記フィードバック制御のゲインを変更すること、を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
検出される前記転舵輪の舵角速度が正常であるか否かを判定する判定手段を備え、
前記制御手段は、検出される前記転舵輪の舵角速度が正常ではない場合には、該転舵輪の舵角速度に応じた前記ゲインの変更を行わないこと、を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用操舵装置において、
前記制御手段は、前記ゲインを予め設定された値に固定して前記フィードバック制御を実行すること、を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の車両用操舵装置において、
前記伝達比可変装置は、ステアリング操作に基づく第1の舵角にモータ駆動に基づく第2の舵角を上乗せすることにより前記伝達比を可変するものであって、
前記ステアリングに生じた操舵速度を検出する操舵速度検出手段と、その検出される操舵速度が正常であるか否かを判定する第2の判定手段とを備え、
前記制御手段は、検出される前記操舵速度が正常である場合には、該操舵速度に基づいて前記フィードバック制御のゲインを変更すること、を特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−189792(P2011−189792A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56119(P2010−56119)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】