説明

車両用樹脂製パネル

【課題】製造時のばらつきや熱膨張による車外側への張り出しを防止できるとともに、パネル全体の板厚を大きくすることなくインテグラルヒンジの強度を高めることができる車両用樹脂製パネルを提供する。
【解決手段】インテグラルヒンジ5pは、フランジ部5nのパネル本体5aに接続された根元部5n′に形成され、該パネル本体5aの一般板厚t1より大きい板厚t2からなる肉厚増大部5rと、該肉厚増大部5rの中途部に形成され、前記パネル本体5aの一般板厚t1と略同等の板厚t1からなる折り曲げ部5sとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフェンダパネル,バンパ,あるいはグローブボックス等の自動車の車体構成部材として採用される樹脂製パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車体の軽量化を図る観点から、例えばフェンダパネルやバンパを樹脂製とする場合がある。例えば、特許文献1には、樹脂製のフロントフェンダパネルの上,下縁部及び後縁部を車体部材に取り付けるようにした構造が提案されている。また、特許文献2には、樹脂製バンパのサイド部にインテグラルヒンジを介してエクステンション部を形成し、該エクステンション部を車体部材に取り付けるようにした構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−36479号公報
【特許文献2】特開平8−230587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1では、フェンダパネルのホイールアーチ部は車体部材に対して開放されていることから、製造時のばらつきや熱膨張によりホイールアーチ部が車幅方向外側に張り出す場合があり、車体の車幅寸法の規格に合わなくなるおそれがある。
【0005】
一方、前記特文献2では、樹脂製バンパにインテグラルヒンジを介して形成されたエクステンション部を車体部材に固定するので、前記熱膨張等による問題は回避できるものの、インテグラルヒンジの板厚をパネル本体の一般板厚より小さくする構造であることから、外力に対する強度が低く、亀裂や白化が生じ易いという懸念がある。
【0006】
ここで、インテグラルヒンジの強度を高めるには、パネル全体の板厚を大きくしてインテグラルヒンジの板厚を大きくすることが考えられるが、このようにすると材料コスト及びパネル重量が上昇するという問題がある。
【0007】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、製造時のばらつきや熱膨張による車外側への張り出しを防止できるとともに、パネル全体の板厚を大きくすることなくインテグラルヒンジの強度を高めることができる車両用樹脂製パネルを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、意匠面を有するパネル本体と、該パネル本体の外縁部に車両内側方向に延びるよう形成され、車体部材に取り付けられるフランジ部とを有する車両用樹脂製パネルであって、前記フランジ部は、インテグラルヒンジを介して前記パネル本体に一体に接続形成され、前記インテグラルヒンジは、前記フランジ部のパネル本体に接続された根元部分に形成され、該パネル本体の一般板厚より大きい板厚からなる肉厚増大部と、該肉厚増大部の中途部に形成され、前記パネル本体の一般板厚と略同等の板厚からなる折り曲げ部とを有することを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用樹脂製パネルにおいて、該樹脂製パネルは、車輪の上方を囲むように形成されたホイールアーチ部を有するフェンダパネルであり、前記フランジ部は、前記ホイールアーチ部の長手方向中途部に形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明に係る車両用樹脂製パネルによれば、インテグラルヒンジを、フランジ部の根元部分に形成されたパネル本体の一般板厚より大きい板厚の肉厚増大部と、該肉厚増大部の中途部に形成された一般板厚と略同等の板厚の折り曲げ部とを有するものとしたので、フランジ部の根元部分の板厚を大きくするだけで、パネル本体の一般板厚と同等の板厚からなるインテグラルヒンジを形成できる。その結果、パネル全体の板厚を大きくすることなく、インテグラルヒンジの外力に対する強度を高めることができ、亀裂や白化による劣化の問題を防止できる。
【0011】
また前記パネル本体のフランジ部を車体部材に取り付けるので、製造時のばらつきや熱膨張によるパネル本体の車外側への張り出しを防止でき、ひいては車体の寸法規格を確保できる。
【0012】
請求項2の発明では、樹脂製フェンダパネルのホイールアーチ部の長手方向中途部にフランジ部を形成したので、開放されているホイールアーチ部をフランジ部を介して車体部材に固定することができ、製造時のばらつきや熱膨張による車外側への張り出しを防止できるとともに、手押し等の外力に対する剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1による自動車の樹脂製フェンダパネルの側面図である。
【図2】前記フェンダパネルの断面平面図である。
【図3】前記フェンダパネルのフランジ部の断面図(図1のIII-III線断面図)である。
【図4】前記フランジ部のインテグラルヒンジの拡大断面図である。
【図5】前記フェンダパネルの断面図(図1のV-V線断面図)である。
【図6】前記フェンダパネルの断面図(図1のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記フェンダパネルの断面図(図1のVII-VII線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
図1ないし図7は、本発明の実施例1による自動車の樹脂製フェンダパネルを説明するための図である。なお、本実施例で前後,左右という場合は、車両の前進方向に見た場合の前後,左右を意味する。
【0015】
図において、1は自動車の前部車体を示しており、これは車両上下方向に延びる左,右のフロントピラー2,2と、該左,右のフロントピラー2の上下方向中途部から車両前方に延びるエプロンメンバ3,3とを有する。
【0016】
また前部車体1は、左,右のエプロンメンバ3を外側方から覆うように配設された樹脂製のフェンダパネル5,5と、該左,右のフェンダパネル5の間を上方から覆うように配設されたフード6と、該フード6と左,右のフェンダパネル5との前端開口を前方から覆うように配設された樹脂製のフロントバンパ7とを有する。前記左,右のフェンダパネル5の前端部にはヘッドランプ8,8が配設されている。
【0017】
前記フェンダパネル5は、塗装が施された意匠面を有するパネル本体5aと、該パネル本体5aの下縁に形成され、前輪(不図示)の上方を囲むように形成されたホイールアーチ部5bと、前記パネル本体5aの上縁部に車幅方向内側に段落ち形成された上フランジ部5cと、パネル本体5aの後縁部に後方に突出形成された上,下一対の後取付け部5d,5dと、該後縁部の下端部に形成された下フランジ部5e,5eと、前記パネル本体5aの前縁部に前方に突出形成された前取付け部5fとを有する。
【0018】
前記上フランジ部5cは、前記エプロンメンバ3の上面に接続された門形のブラケット10に複数のボルト11により締結固定されている(図5参照)。
【0019】
また前記後取付け部5d及び下フランジ部5eは、前記フロントピラー2の下端部にボルト12により締結固定されている(図7参照)。
【0020】
前記前取付け部5fには、前記フロントバンパ7のサイド部7aが外側方から覆うように配置されており、該サイド部7aの後縁は、前記ホイールアーチ5bと連続面をなすように円弧状に形成されている。
【0021】
前記前取付け部5fは、前記サイド部7aが連続面をなすように係合する複数の係合孔5hと、前記ヘッドランプ8が取り付けられる複数の取付け座5gとを有する(図1参照)。
【0022】
また前記前取付け部5fの前縁部には、車幅方向内側に屈曲して延び、リブ5iにより補強された横辺部5jが延長形成されている。該横辺部5jの内端部はボルト13により車体部材14に締結固定されている(図6参照)。
【0023】
前記パネル本体5aのホイールアーチ部5bには、車幅方向内側に屈曲する下フランジ部5kが形成されている。この下フランジ部5kは、パネル本体5aを車幅方向に型抜き成形する際に同時に形成されたものである。前記下フランジ部5kには、複数のライナ取付け孔5mが形成されている。
【0024】
前記フェンダパネル5内には、前輪の上方を覆うフェンダライナ17がホイールアーチ部5bに沿うように配置されている。このフェンダライナ17は、外縁部がクリップ部材(不図示)により前記下フェンダ部5kに取り付けられ、内縁部が車体部材(不図示)に取り付けられている。
【0025】
前記フェンダパネル5は、パネル本体5aのホイールアーチ部5bに車幅方向内側に延びるよう形成された帯板状のフランジ部5nを有する。
【0026】
このフランジ部5nは、前記ホイールアーチ部5bの長手方向中途部に形成され、インテグラルヒンジ5pを介して前記パネル本体5aに一体に接続形成されている。
【0027】
前記フランジ部5nは、パネル本体5aとともに、矢印a方向(車幅方向)への型抜きを可能とするために、下方に開いた状態で成形し、該成形後に上方に折り曲げることにより形成されたものである(図3の実線及び二点鎖線参照)。ここで、前記フランジ部5nを折り曲げることによりインテグラルヒンジ5pが白化して見栄えが悪化する懸念がある場合には、これを考慮してインテグラルヒンジ5pの曲げ癖を付けた後にパネル本体5aに塗装を施すこととなる。
【0028】
前記フランジ部5nは、パネル本体5aに接続された根元部5n′と、該根元部5n′に続いて車内側に斜め下方に傾斜して延びる車体取付け部5n′′とを有する。
【0029】
前記根元部5n′の外端部及び車体取付け部5n′′の内端部には、それぞれクリップ孔5q,5qが形成されている。前記根元部5n′には、クリップ孔5qに装着されたクリップ部材18を介して前記フェンダライナ17が取り付けられている。また前記車体取付け部5n′′は、クリップ孔5qに装着されたクリップ部材18を介して車体部材20に取り付けられている。この車体部材20は、前記エプロンメンバ3に結合されたフェンダエプロン,ブラケット等の車体フレームの構成部品である。
【0030】
そして前記インテグラルヒンジ5pは、図3,図4に示すように、前記フランジ部5nの根元部5n′にこれの全長に渡って形成された肉厚増大部5rと、該肉厚増大部5rの中途部に形成された折り曲げ部5sとを有する。
【0031】
前記折り曲げ部5sは、フランジ部5nのパネル本体5aとの接続部近傍に形成され、前記肉厚増大部5rは、フランジ部5nのパネル本体5aとの接続部を含めて形成されている。
【0032】
前記肉厚増大部5rは、パネル本体5aの一般板厚t1より大きい板厚t2に設定され、前記折り曲げ部5sは、前記パネル本体5aの一般板厚t1と同等の板厚t1に設定されている。詳細には、一般板厚t1は1.8mm程度に設定され、肉厚増大部5rの板厚t2は3mm程度に設定されている。また前記車体取付け部5n′′は一般板厚t1に設定されている。
【0033】
本実施例によれば、パネル本体5aに帯板状のフランジ部5nをインテグラルヒンジ5pを介して一体に接続形成し、該インテグラルヒンジ5pを、フランジ部5nの根元部5n′の全長に渡って形成され、パネル本体5aの一般板厚t1より大きい板厚t2からなる肉厚増大部5rと、該肉厚増大部5rの中途部に形成され、パネル本体5aの一般板厚t1と同等の板厚t1からなる折り曲げ部5sとを有するものとしたので、フランジ部2nの根元部2n′の板厚のみ大きくするだけで、パネル本体5aの一般板厚t1と同じ板厚からなるインテグラルヒンジ5pを形成できる。その結果、パネル本体5a全体の板厚を大きくすることなく、インテグラルヒンジ5pの外力に対する強度を高めることができ、亀裂や白化による劣化の問題を防止できる。
【0034】
また前記パネル本体5aのフランジ部5nを車体部材20に取り付けたので、製造時のばらつきや熱膨張によるパネル本体5aの車外側への張り出しを防止でき、ひいては車体の車幅寸法規格を確保できる。
【0035】
本実施例では、フェンダパネル5のホイールアーチ部5bの長手方向中途部にフランジ部5nを形成したので、開放されているホイールアーチ部5bを車体部材20に固定することができ、製造時のばらつきや熱膨張による車外側への張り出しを防止できるとともに、手押し等の外力に対する剛性を高めることができる。
【0036】
また前記肉厚増大部5rにフェンダライナ17を取り付けたので、該フェンダライナ17の取付け強度を高めることができるとともに、組み付け性を向上できる。
【0037】
なお、前記実施例では、樹脂製パネルとしてフロントフェンダパネルを例に説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、後輪の上方を囲むように配設されたクォータパネル、フロントバンパ、リヤバンパ、あるいはインストルメントパネルに配設されたグローブボックス等の樹脂製パネルにも適用可能である。要は、パネル本体にインテグラルヒンジを介して一体に形成されたフランジ部を車体部材に取り付けるようにした構造のものであれば適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
5 フェンダパネル(樹脂製パネル)
5a パネル本体
5b ホイールアーチ部
5n フランジ部
5n′ 根元部
5p インテグラルヒンジ
5r 肉厚増大部
5s 折り曲げ部
20 車体部材
t1 パネル本体の一般板厚
t2 肉厚増大部の板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
意匠面を有するパネル本体と、該パネル本体の外縁部に車両内側方向に延びるよう形成され、車体部材に取り付けられるフランジ部とを有する車両用樹脂製パネルであって、
前記フランジ部は、インテグラルヒンジを介して前記パネル本体に一体に接続形成され、
前記インテグラルヒンジは、前記フランジ部のパネル本体に接続された根元部分に形成され、該パネル本体の一般板厚より大きい板厚からなる肉厚増大部と、
該肉厚増大部の中途部に形成され、前記パネル本体の一般板厚と略同等の板厚からなる折り曲げ部とを有することを特徴とする車両用樹脂製パネル。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用樹脂製パネルにおいて、
該樹脂製パネルは、車輪の上方を囲むように形成されたホイールアーチ部を有するフェンダパネルであり、
前記フランジ部は、前記ホイールアーチ部の長手方向中途部に形成されていることを特徴とする車両用樹脂製パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−221846(P2010−221846A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71236(P2009−71236)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】