説明

車両用無段変速機

【課題】入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて車両用無段変速機の伝達効率を向上する。
【解決手段】入力軸部51A、出力軸部51B、軸方向に移動可能な遊星回転部材55を保持する遊星キャリアー56、ドライブ側伝達部材53、及び、ドリブン側伝達部材54を備える車両用無段変速機において、ドライブ側及びドリブン側のそれぞれに、その回転半径を略等しくなるようドライブ側及びドリブン側の軸支部近傍に入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星回転部材を備えた車両用無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用無段変速機において、入力軸と一体に回転するドライブ側伝達部材(サンローラ)と、出力軸と一体に回転するドリブン側伝達部材(アウタリング)と、ドライブ側伝達部材とドリブン側伝達部材との間に圧接され、ドライブ側伝達部材の回転をドリブン側伝達部材に伝達する複数の遊星回転部材(ダブルコーン)と、軸の回転トルクの一部を軸方向を向く推力に変換する調圧カム(サポートカム)とを備え、この調圧カムを入力軸側及び出力軸側の両方に設け、ドリブン側伝達部材及びドライブ側伝達部材を調圧カムによって遊星回転部材に圧接させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のように調圧カムを設けることで、ドリブン側伝達部材及びドライブ側伝達部材と遊星回転部材との間に大きな摩擦力を発生させることができ、無段変速機の伝達効率を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−372115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両では、車両の加減速等に伴って無段変速機の入出力トルクが変動し、入出力トルクの変動に追従させて適正な推力を発生させて無段変速機の伝達ロスを低減することが求められる。しかし、上記従来の無段変速機では、入力軸側の調圧カムは入力軸側の近傍に設けられ、一方、出力軸側の調圧カムは、遊星回転部材よりも外周側に位置し、出力軸からは離れた位置に設けられているため、定常回転動作時等に回転変動が生じる際には、出力軸側の調圧カムの動作に対する遠心力の影響が大きくなり、調圧カムの推力が不安定になる可能性がある。このため、入出力トルクの変動が生じた場合に、遊星回転部材に作用する摩擦力に差が生じて、無段変速機の伝達効率が変化してしまうという課題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて車両用無段変速機の伝達効率を向上できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、入力軸(51A)、出力軸(51B)、軸方向に移動可能な遊星回転部材(55)を保持する遊星キャリアー(56)、ドライブ側伝達部材(53,353)、及び、ドリブン側伝達部材(54,254)を備える車両用無段変速機において、ドライブ側及びドリブン側のそれぞれに、その回転半径を略等しくなるようドライブ側及びドリブン側の軸支部近傍に調圧カム(63,68,268,363)を配置したことを特徴とする。
この構成によれば、ドライブ側及びドリブン側にそれぞれ設けられた調圧カムが、その回転半径を略等しくなるようにドライブ側及びドリブン側の軸支部近傍に配置され、トルク変動に対し、両調圧カムが軸支部近傍において略等しい回転半径上で略等しく作用する。これにより、両調圧カムの動作に対する遠心力の影響が低減され、車両の加減速に伴うトルクの変動に対して、適正なカム推力を発生させることができるため、ドライブ側伝達部材及びドリブン側伝達部材と遊星回転部材との間の摩擦力が適正になり、車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
【0006】
また、上記構成において、前記両調圧カム(63,68,268)は、ボール(33,85,233)を対向するカム溝で挟む構造のカムであって、少なくとも一方のカム溝(31,84,231)を、前記ボール(33,85,233)の半径よりも大きいR溝で前記ボール(33,85,233)に1点で接触する形状とし、他方のカム溝(32,83,232)を、前記ボール(33,85,233)に2点で接触するV字溝としても良い。
この場合、調圧カムはボールを対向するカム溝で挟む構造で構成され、少なくとも一方のカム溝をボールの半径よりも大きい曲率半径を有するR溝でボールに1点で接触する形状としたため、調圧カムの作動時に、ボールがR溝に沿うように滑らかに移動することになる。これにより、ボールの挙動及び調圧カムが発生させる推力の変化が滑らかになるため、調圧カムの急な動作に起因するトルクの変動を低減でき、車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
【0007】
また、前記R溝は、高速側カム(63)におけるドライブフェース側のカム溝(84)であっても良い。
この場合、高速側カムにおけるドライブフェース側のカム溝をR溝とし、高速回転する部材の入力側がR溝であるため、ボールの振動に起因するトルク変動を効果的に低減でき、車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
また、前記調圧カム(63)には、前記ボール(85)をガイドするリテイナー(86)が設けられる構成としても良い。
この場合、ボールをガイドするリテイナーによってボールの動きが安定し、トルクの変動が低減されるため、車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
【0008】
さらに、前記車両用無段変速機は、単一の回転軸(51)上にドライブフェース(53)と該ドライブフェースに対して回転自在に支持されるドリブンフェース(54,254)とを有し、前記回転軸(51)に対して両フェース間の間隔がシム(76)により調整される構成としても良い。
この場合、ドライブ側及びドリブン側の両方に調圧カムが設けられたことにより、部品を組み立てた際の寸法のバラツキが生じ易くなるが、回転軸に対して両フェース間の間隔がシムにより調整され、軸方向のガタをシムによって低減できるため、軸方向のガタによるトルクの変動を低減でき、車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
また、前記調圧カム(63)には、潤滑オイル給油のための給油穴(44)が設けられる構成としても良い。
この場合、給油穴から給油される潤滑オイルによって調圧カムを効果的に潤滑できるため、適正なカム推力が得られ、車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
【0009】
また、ドリブン側の前記調圧カム(268)の動きに対してドライブ側の前記調圧カム(363)の動きが低下するように、ドリブン側の前記調圧カム(268)及びドライブ側の前記調圧カム(363)の回転力に対する摩擦力に差を設けた構成としても良い。
この場合、ドリブン側の調圧カムの動きに対してドライブ側の調圧カムの動きが低下するように、ドリブン側の調圧カム及びドライブ側の調圧カムの回転力に対する摩擦力に差を設けたため、ドライブ側の調圧カムの動きを減衰できる。このため、入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
【0010】
また、ドリブン側の前記調圧カム(268)は転がりカムであり、ドライブ側の前記調圧カム(363)は滑りカムである構成としても良い。
この場合、ドリブン側の調圧カムは転がりカムであり、ドライブ側の調圧カムは滑りカムであるため、ドライブ側の調圧カムの動きが低下するようにドリブン側の調圧カム及びドライブ側の調圧カムの回転力に対する摩擦力に差を設けることができる。このため、入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
さらに、ドライブ側の前記調圧カム(363)は、カム溝(383)をカム山(385)が滑る構造のカムであって、当該カム溝(383)の底部(383A)の曲率半径が当該カム山(385)の凸部(385A)の曲率半径に対して大きい構成であっても良い。
この場合、カム溝の底部の曲率半径がカム山の凸部の曲率半径に対して大きく、カム山がカム溝に対して滑らかに滑ることができるため、ドライブ側の調圧カムが安定して動作する。このため、入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車両用無段変速機では、調圧カムが、その回転半径を略等しくなるようにドライブ側及びドリブン側の軸支部近傍に配置され、トルク変動に対し、両調圧カムが軸支部近傍において略等しい回転半径上で略等しく作用する。これにより、両調圧カムの動作に対する遠心力の影響が低減され、車両の加減速に伴うトルクの変動に対して、適正なカム推力を発生させることができるため、ドライブ側伝達部材及びドリブン側伝達部材と遊星回転部材との間の摩擦力が適正になり、車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
また、調圧カムの作動時に、ボールがR溝に沿うように滑らかに移動するため、ボールの挙動及び調圧カムが発生させる推力の変化が滑らかになる。このため、調圧カムの急な動作に起因するトルクの変動を低減でき、車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
【0012】
また、高速側カムにおけるドライブフェース側のカム溝をR溝としたため、ボールの振動に起因するトルク変動を効果的に低減でき、伝達効率を向上できる。
さらに、リテイナーによってボールの動きが安定し、トルクの変動が低減されるため、伝達効率を向上できる。
また、両フェース間の間隔がシムにより調整され、軸方向のガタをシムによって低減できるため、軸方向のガタによるトルクの変動を低減でき、伝達効率を向上できる。
また、給油穴から給油される潤滑オイルによって調圧カムを効果的に潤滑できるため、適正なカム推力が得られ、伝達効率を向上できる。
【0013】
また、ドリブン側の調圧カムの動きに対してドライブ側の調圧カムの動きが低下するように、ドリブン側の調圧カム及びドライブ側の調圧カムの回転力に対する摩擦力に差を設けたため、ドライブ側の調圧カムの動きを減衰できる。このため、入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて車両用無段変速機の伝達効率を向上できる。
さらに、ドリブン側の調圧カムは転がりカムであり、ドライブ側の調圧カムは滑りカムであるため、ドライブ側の調圧カムの動きが低下するようにドリブン側の調圧カム及びドライブ側の調圧カムの回転力に対する摩擦力に差を設けることができる。
また、カム溝の底部の曲率半径がカム山の凸部の曲率半径に対して大きく、カム山がカム溝に対して滑らかに滑ることができるため、ドライブ側の調圧カムの動作が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両用無段変速機を備えたエンジンの断面図である。
【図2】無段変速機がロー変速比にある状態を示す断面図である。
【図3】無段変速機がトップ変速比にある状態を示す断面図である。
【図4】図2における変速部の拡大図である。
【図5】図4において入力側トルクカムを変速機軸に直交するZ方向から見た拡大断面図である。
【図6】入力側トルクカムに回転力が作用した状態を示す断面図である。
【図7】取付け角度とレシオ幅との関係を示す図である。
【図8】変速部を変速機軸の軸方向から見た断面図である。
【図9】第2の実施の形態における変速部の拡大図である。
【図10】第3の実施の形態における変速部の拡大図である。
【図11】図10において入力側トルクカムを変速機軸に直交するZ方向から見た拡大断面図である。
【図12】トルクハンチングの発生条件を示す図である。
【図13】トルクハンチングによる変位量を示す図である。
【図14】第4の実施の形態の入力側トルクカムを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る車両用無段変速機について図面を参照して説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る車両用無段変速機を備えたエンジンの断面図である。
図1に示すように、自動二輪車等の車両に搭載されるエンジン10は、クランクケース11を有し、クランクケース11内には、クランク軸12が収容されるクランク室13、及び、無段変速機50(車両用無段変速機)が収容される変速機室14が画成されている。クランク軸12は、クランク室13の左右の壁部にそれぞれ設けられたベアリング15に回転自在に軸支され、車幅方向に延びている。クランク軸12の一端側には発電機16が設けられ、クランク軸12の他端には自動遠心クラッチ17が設けられている。クランク軸12の中央部にはクランクウェブ18が設けられ、クランクウェブ18には、クランクピン19を介してコンロッド20が連結されている。
【0017】
自動遠心クラッチ17は、クランク軸12と一体に回転する切り替え部17Aと、クランク軸12上にクランク軸12に対して回転自在に軸支される出力歯車17Bとを有し、切り替え部17Aの回転数が所定値以上となったときに出力歯車17Bにクランク軸12の動力が伝達されるようになる自動式のクラッチである。自動遠心クラッチ17の側方はクラッチカバー21で覆われ、発電機16の側方は発電機カバー22で覆われている。
【0018】
変速機室14はクランク室13の後部に連なるケーシング23内に設けられている。無段変速機50は、ケーシング23の左右の側壁23A,23Bに跨ってクランク軸12と平行に延びる変速機軸51(回転軸)と、変速機軸51に設けられる変速部52とを有している。
変速機軸51は、左右の側壁23A,23Bに設けられたボールベアリング24A,24Bを介して回転自在に支持され、変速機軸51における自動遠心クラッチ17側の端はケーシング23の外側まで延び、この端には、自動遠心クラッチ17の出力歯車17Bに常時噛み合う入力歯車25が固定されている。
【0019】
変速機室14には、変速機軸51と平行に延びる減速軸26及び最終出力軸27が設けられている。減速軸26は、変速部52の出力側に噛み合う被動歯車26Aと、最終出力軸27に固定された被動歯車27Aに噛み合う駆動歯車26Bとを有している。最終出力軸27の端に形成された出力軸端部27Bはケーシング23の外側に延び、出力軸端部27Bには、ドライブスプロケット28が固定されている。ドライブスプロケット28と後輪(不図示)との間には駆動チェーン29が掛け渡される。
【0020】
図2は、無段変速機50がロー変速比にある状態を示す断面図である。図3は、無段変速機50がトップ変速比にある状態を示す断面図である。
図1〜図3に示すように、無段変速機50では、変速機軸51上で変速部52を操作することで、ロー変速比とトップ変速比との間で無段階に変速比を変更することができる。
変速機軸51は軸芯に中空部42を有し、中空部42には、オイルポンプ(不図示)から潤滑オイルが供給される。変速機軸51は、中空部42を外周面に連通させる油孔43を複数有し、油孔43を通った潤滑オイルは、無段変速機50の各部に供給される。
【0021】
変速部52は、変速機軸51と一体に回転するドライブ側伝達部材53(ドライブフェース)と、変速機軸51に相対回転自在に支承されるドリブン側伝達部材54(ドリブンフェース)と、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間に設けられ動力を伝達する複数の遊星回転部材55と、変速機軸51の軸方向に移動可能な遊星キャリアー56と、遊星キャリアー56に設けられ各遊星回転部材55を軸支する複数の遊星支持軸57とを備えて構成される。
ドライブ側伝達部材53は単一の軸である変速機軸51に一体に設けられ、ドリブン側伝達部材54は、変速機軸51に軸支されてドライブ側伝達部材53に対して回転自在である。
【0022】
ドライブ側伝達部材53は、変速機軸51の外周面から径方向に突出する円板状受け部60と、変速機軸51に嵌合されるリング状の駆動回転部材61とを有している。円板状受け部60と駆動回転部材61とは、円板状受け部60と駆動回転部材61との間に設けられる入力側トルクカム63(調圧カム)によって連結され、一体に回転する。駆動回転部材61の外周面には、遊星回転部材55に接触する摩擦接触面61Aが形成されている。
変速機軸51において、入力歯車25側からドライブ側伝達部材53近傍までの部分は、クランク軸12から動力が入力される入力軸部51A(入力軸)として機能する。
【0023】
ドリブン側伝達部材54は、ドライブ側伝達部材53側に開放した椀状に形成される従動回転部材64と、減速軸26の被動歯車26Aに噛み合う出力歯車部65とを有している。従動回転部材64は、変速機軸51の外周に設けられるニードルベアリング66を介して変速機軸51に対して相対回転可能に設けられている。出力歯車部65は、変速機軸51の外周に設けられるアンギュラーコンタクトベアリング67を介して変速機軸51に対して相対回転可能に設けられている。従動回転部材64と出力歯車部65とは、従動回転部材64と出力歯車部65との間に設けられる出力側トルクカム68(調圧カム)によって連結され、一体に回転する。
変速機軸51において、ドリブン側伝達部材54側から側壁23Aまでの部分は、クランク軸12からの動力を減速軸26に出力する出力軸部51B(出力軸)として機能する。
【0024】
従動回転部材64は、ニードルベアリング66に支持される円筒状の基部69と、基部69から径方向に延びる円板部70と、円板部70からドライブ側伝達部材53側へ延びる円筒状の筒部71とを有している。筒部71の内周面には、遊星回転部材55に接触する摩擦接触面71Aが形成されている。
【0025】
出力歯車部65は円筒状に形成され、出力歯車部65における側壁23A側の端の内周には、アンギュラーコンタクトベアリング67が収容されるベアリング収容部72が形成されている。ベアリング収容部72は段状に形成されており、アンギュラーコンタクトベアリング67は、その外周面67A及び側面67Bがベアリング収容部72に当接した状態で配置されている。
出力歯車部65は、従動回転部材64の基部69の外周面に沿うように基部69の外側を延びる押圧片73を有している。押圧片73の先端と円板部70との間には、従動回転部材64をドライブ側伝達部材53側に付勢する皿ばね74が介装されている。従動回転部材64は皿ばね74によって常にドライブ側伝達部材53側に押し付けられている。
【0026】
変速機軸51上においてボールベアリング24Aとアンギュラーコンタクトベアリング67との間には、エンジン10の各部にオイルを送出するオイルポンプ(不図示)を駆動するポンプ駆動歯車75が固定されている。
ポンプ駆動歯車75とアンギュラーコンタクトベアリング67との間には、リング状のシム76が固定されている。シム76は、変速機軸51に嵌め込まれるコッタ(不図示)によって軸方向に固定されている。
【0027】
遊星キャリアー56は、従動回転部材64側に向かって小径になる円錐状の第1キャリア半体77と、円板状に形成され第1キャリア半体77を支持する第2キャリア半体78とを備えて構成されている。遊星キャリアー56は、第1キャリア半体77の先端側の内周面、及び、第2キャリア半体78の内周面にニードルベアリング79をそれぞれ有し、ニードルベアリング79を介して変速機軸51に対し回転可能かつ軸方向に摺動可能となっている。
【0028】
ケーシング23の右の側壁23Bには、側壁23Bを貫通して変速機軸51と略平行に延びるガイド軸30が設けられている。第2キャリア半体78は、ガイド軸30が挿通されるガイド孔部78Bを有し、ガイド軸30によって変速機軸51の軸方向への移動をガイドされるとともに、変速機軸51に対する相対回転を規制されている。すなわち、遊星キャリアー56は、変速機軸51の軸方向に移動可能であるが、変速機軸51の軸回りには回転しない。また、遊星キャリアー56がガイド軸30に規制されて回転しないため、遊星キャリアー56に支持されている遊星支持軸57も、ケーシング23に対して変速機軸51の軸回りに回り止めされていることになる。
また、第2キャリア半体78の後面には、変速機軸51の軸方向に延びる被動ねじ部78Aが設けられている。
【0029】
第1キャリア半体77の外周面には、その周方向に等間隔をあけて複数の窓孔が形成されている。各遊星支持軸57は変速機軸51の軸線を中心線とする円錐母線に沿って上記窓孔に重なるように配置され、遊星回転部材55は外周側の一部が上記窓孔から露出するように遊星支持軸57に支持される。すなわち、遊星回転部材55は、従動回転部材64の側に頂点を有し変速機軸51の軸線を中心線とする円錐の円錐母線に沿うように傾斜しており、ドライブ側伝達部材53側に行くほど径方向に広がるように傾斜して配置されている。
【0030】
第1キャリア半体77には、遊星支持軸57の従動回転部材64側の端を支持する止まり穴の先端側支持穴80と、遊星支持軸57のドライブ側伝達部材53側の端を支持する基端側支持孔81とが形成されている。遊星支持軸57は基端側支持孔81側から挿入され、基端側支持孔81及び先端側支持穴80の両方の嵌合部に隙間嵌合により固定される。遊星支持軸57は隙間嵌合によって所定の隙間を有して嵌合されているため、遊星支持軸57に作用する力に応じて基端側支持孔81及び先端側支持穴80内でわずかに移動することができる。ここで、一例として、遊星支持軸57の直径は6mmであり、この場合、基端側支持孔81及び先端側支持穴80の内径は、遊星支持軸57の直径よりも1μm〜16μmだけ大きく設定される。
第1キャリア半体77及び遊星支持軸57は、遊星支持軸57が隙間嵌合することで、遊星支持軸57が移動可能な調整機構を構成している。
【0031】
遊星回転部材55は、その軸方向の中央部が大径で両端部が小径となるテーパ状に形成された筒状部材であり、駆動回転部材61の摩擦接触面61Aに接触する第1テーパ面55Aと、従動回転部材64の摩擦接触面71Aに接触する第2テーパ面55Bと、遊星回転部材55中央部をその軸方向に貫通する支持孔55Cとを有している。図2に示すように、遊星支持軸57の中心を通る側方断面視では、第1テーパ面55A及び第2テーパ面55Bにおいて互いに対向する辺は、平行となっている。
支持孔55Cの両端部には、一対のニードルベアリング82,82が設けられ、駆動回転部材61はニードルベアリング82,82を介して遊星支持軸57に相対回転可能かつ軸方向に摺動可能に設けられている。
【0032】
遊星キャリアー56とボールベアリング24Bとの間には、変速機軸51上で回転自在な駆動ねじ部40が設けられている。駆動ねじ部40は、ボールベアリング41を介して回転自在に設けられ、遊星キャリアー56の被動ねじ部78Aに螺合されている。駆動ねじ部40は、不図示の駆動モータによって減速機構を介して回転駆動され、駆動ねじ部40が回転することで被動ねじ部78Aに軸方向へ移動する力が作用し、遊星キャリアー56が変速機軸51の軸方向に移動される。すなわち、無段変速機50では、遊星回転部材55を支持する遊星キャリアー56を、上記駆動モータの駆動によって変速機軸51の軸方向に移動させることができ、これにより、変速比の変更が行われる。
【0033】
図2及び図3に示すように、駆動回転部材61の摩擦接触面61Aと遊星回転部材55の第1テーパ面55Aとの接触点から変速機軸51の軸線まで距離をA、摩擦接触面61Aと第1テーパ面55Aとの接触点から遊星支持軸57の軸線までの距離をB、従動回転部材64の摩擦接触面71Aと遊星回転部材55の第2テーパ面55Bとの接触点から遊星支持軸57の軸線までの距離をC、従動回転部材64の摩擦接触面71Aと遊星回転部材55の第2テーパ面55Bとの接触点から変速機軸51の軸線まで距離をDとし、駆動回転部材61の回転数をNI、従動回転部材64の回転数をNOとし、変速比RをR=NI/NOとしたときに、
R=NI/NO=(B/A)×(D/C)となる。
ここで、第1の実施の形態では、遊星キャリアー56が変速機軸51の軸方向に移動したとしても距離A、Dは一定であり変化しない。従って、変速比Rは次式となる。
R=B/C
【0034】
そして、上記駆動モータの駆動によって、図2に示すように、遊星キャリアー56が従動回転部材64に近接する方向に移動されると、距離Bが大きくなるとともに距離Cが小さくなり、変速比Rは大きくなる。すなわち、距離Bが最大かつ距離Cが最小となる図2の状態がロー変速比である。
また、上記駆動モータの駆動によって、図3に示すように、遊星キャリアー56が従動回転部材64から離れる方向に移動されると、距離Bが小さくなるとともに距離Cが大きくなり、変速比Rは小さくなる。すなわち、距離Bが最小かつ距離Cが最大となる図3の状態がトップ変速比である。
【0035】
変速機軸51は、クランク軸12からの動力により回転し、変速機軸51と一体に回転するドライブ側伝達部材53が各遊星回転部材55を回転させ、変速比Rに応じて変速された回転が各遊星回転部材55を介してドリブン側伝達部材54に伝達され、ドリブン側伝達部材54の回転は、出力歯車部65を介して減速軸26に伝達され、減速軸26は、最終出力軸27を駆動する。
【0036】
図4は、図2における変速部52の拡大図である。
次に、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68について説明する。
入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68は、変速機軸51側から伝達される回転力(トルク)の一部を変速機軸51の軸方向の推力に変換し、ドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材54を、遊星回転部材55に押し付けるために設けられている。この推力により、摩擦接触面61Aと第1テーパ面55Aとの間の接触圧、及び、摩擦接触面71Aと第2テーパ面55Bとの間の接触圧を得ることができ、接触圧に生じる摩擦力によって、遊星回転部材55、ドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材54との間で回転が伝達される。
ここで、無段変速機50を減速機として使用する場合、出力側トルクカム68は低速側のトルクカムとなり、出力側トルクカム68よりも高速で回転する入力側トルクカム63は高速側のトルクカムとなる。
【0037】
図4に示すように、駆動回転部材61は、変速機軸51に形成された円板状受け部60の軸方向の端面60Aに対向する対向面61Bを有している。入力側トルクカム63は、端面60A及び対向面61Bにそれぞれ複数設けられたカム溝83及びカム溝84間にボール85が狭持されて構成されている。カム溝83及びカム溝84は、端面60A及び対向面61Bの周方向に略等間隔をあけて円環状の並びとなるように複数並べて配置され、各カム溝31,32間にボール85がそれぞれ狭持されている。
【0038】
図5は、図4において入力側トルクカム63を変速機軸51に直交するZ方向から見た拡大断面図である。ここで、図5では、入力側トルクカム63に回転力が作用していない状態が示されている。
図4及び図5に示すように、端面60Aと対向面61Bとの間には、ボール85が狭持された状態で隙間Sが設けられており、この隙間Sには、変速機軸51に挿通されるリング状のリテイナー86が配置されている。リテイナー86は、各ボール85の位置に対応して周方向に略等間隔をあけて形成された円形のボール支持孔87を複数有し、ボール支持孔87にはボール85が収容されている。リテイナー86の中央には、変速機軸51が挿通される挿通孔86Aが形成されている。
【0039】
対向面61Bに形成されるカム溝83は、V字状に形成されたV字溝であり、V字を構成する2つの平面83A,83Aでボール85に接触している。カム溝83では、V字溝の底部83Bよりも対向面61B側に位置する2点でボール85に接触しており、ボール85は、底部83Bに接触しない。
【0040】
端面60Aに形成されるカム溝84は、略V字状に形成された溝であるが、ボール85の半径よりも大きい曲率半径を有する曲面部84Aを底部に備えたR溝である。すなわち、カム溝84は、曲面部84Aと、曲面部84Aと端面60Aとを繋ぐ直線状に延びる2つの平面部84B,84Bとを有している。入力側トルクカム63にほとんどトルクが作用していない状態では、ボール85は曲面部84Aに1点で接触しており、平面部84B,84Bには接触していない。
【0041】
図2に示すように、変速機軸51には、中空部42を隙間Sに連通させる給油穴44が形成されており、潤滑オイルは給油穴44を介して入力側トルクカム63に直接供給される。このため、入力側トルクカム63を効果的に潤滑でき、入力側トルクカム63の追従性を向上できる。
【0042】
図6は、入力側トルクカム63に回転力が作用した状態を示す断面図である。
入力側トルクカム63に回転力が作用すると、円板状受け部60と駆動回転部材61との間で相対回転が生じ、円板状受け部60と駆動回転部材61との相対位置は、ボール85によって規制され、駆動回転部材61は、ボール85を介して円板状受け部60の回転動力を受けて回転する。この状態では、ボール85は、一方の平面83Aと、この平面83Aに対向する平面部84B側の曲面部84Aに接触し、各接触点では、駆動回転部材61を回転させるトルクT1、及び、トルクT1の大きさに応じて発生する軸方向の推力F1が生じている。この推力F1によって、駆動回転部材61は軸方向に変形するようにしてわずかに変位し、駆動回転部材61が遊星回転部材55に押し付けられるとともに、遊星回転部材55がドリブン側伝達部材54に押し付けられるため、摩擦接触面61Aと第1テーパ面55Aとの間の接触圧、及び、摩擦接触面71Aと第2テーパ面55Bとの間の接触圧を十分に確保できる。
【0043】
カム溝84では、ボール85は、曲面部84Aの中央に1点接触で底付いた状態(図5)から、ボール85の半径よりも大きい曲率半径を有する曲面部84A(図6)に沿って滑らかに移動するため、カム溝83において平面83Aに沿ってボール85が移動する場合に比して、カム溝84の部分では推力F1の増加が緩やかになる。このため、入力側トルクカム63では、トルク変動に対する推力F1の変動が緩和されることになる。ここで、トルク変動は、車両の運転状態の変化によって生じるものであり、変速比Rの変更等によって生じる。
また、リテイナー86は、ボール85の中心に略一致する位置に配置され、ボール85の移動を許容しつつボール85を保持しており、トルク変動に対してボール85が過度に移動することを抑制している。このため、リテイナー86を用いることで、トルク変動に対する推力F1の変動を緩和することができる。
【0044】
無段変速機50においては、摩擦接触面61A及び摩擦接触面71Aの接触圧が高ければ、摩擦接触面61A及び摩擦接触面71Aと遊星回転部材55との間の滑りを抑制でき、動力の伝達効率を向上できる。しかし、上記接触圧が過大である場合、動力損失が低下するとともに、接触面の負荷が増加することになるため、変速部52に作用するトルクに応じて接触圧が設定されることが望ましい。第1の実施の形態では、入力側トルクカム63を用いることで、推力F1は、トルクT1が大きいほど大きくなり、負荷トルクに応じた推力F1を発生させることができるため、例えばばねによって一定の推力を作用させる構成に比して、特に低負荷時の接触圧を低く設定でき、低負荷時の伝達効率の向上及び接触面の負荷の低減を図ることができる。
【0045】
図4に示すように、出力歯車部65は、ドリブン側伝達部材54における基部69の軸方向の端面69Aに対向する対向面65Aを有している。出力側トルクカム68は、端面69A及び対向面65Aにそれぞれ複数設けられたカム溝31とカム溝32との間にボール33が狭持されて構成されている。詳細には、カム溝31及びカム溝32は、端面69A及び対向面65Aの周方向に略等間隔をあけて複数並べて円環状に配置され、各カム溝31,32間にボール33がそれぞれ狭持されている。ここで、カム溝31は、図5に示した曲面部84Aを有するカム溝84と同様のR溝であり、カム溝32は、カム溝83と同様のV字溝である。
【0046】
出力側トルクカム68に回転力が作用すると、ドリブン側伝達部材54と出力歯車部65との間で相対回転が生じ、ドリブン側伝達部材54と出力歯車部65との回転方向の相対位置は、ボール33によって規制され、出力歯車部65は、ボール33を介してドリブン側伝達部材54の回転動力を受けて回転する。この状態では、出力側トルクカム68では、駆動回転部材61を回転させるトルク、及び、このトルクの大きさに応じて発生する軸方向の推力F2(図4)が生じている。この推力F2によって、ドリブン側伝達部材54が軸方向にわずかに変位して遊星回転部材55に押し付けられるとともに、遊星回転部材55が駆動回転部材61に押し付けられるため、摩擦接触面71Aと第2テーパ面55Bとの間の接触圧、及び、摩擦接触面61Aと第1テーパ面55Aとの間の接触圧を十分に確保できる。
また、ドリブン側伝達部材54は、皿ばね74によっても遊星回転部材55側に押し付けられている。
【0047】
第1の実施の形態では、遊星回転部材55に対し、変速機軸51の軸方向の両側に入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68を設け、推力F1,F2によって駆動回転部材61及びドリブン側伝達部材54を入力側及び出力側の両側から押し付けるため、片側のみにトルクカムを設けて片側から推力を発生させる場合に比して、推力の追従性を向上できる。すなわち、入力側及び出力側の両側から推力F1,F2を発生させることで、要求される接触圧が得られる推力を得やすくなり、遊星回転部材55の滑りを低減して、無段変速機50の伝達効率を向上できる。また、トルクカムの追従性が低い場合、要求される接触圧よりも余裕を見たより高い接触圧が得られるようにトルクカムの推力の設定値を大きくする必要があるが、第1の実施の形態では両側にトルクカムを設けることで推力の追従性が高くなっているため、トルクカム63,68の推力の設定値を小さくして接触圧を小さくできる。このため、伝達効率を向上できるとともに、接触面の負荷を低減できる。
さらに、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68が分散して設けられることで、トルクカム63,68を小型化して配置できるとともに、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68に作用する反力が小さくなり、無段変速機50の振動を低減できる。
【0048】
ところで、変速部52で発生するトルク変動は、車両の加減速等の変動に伴って入力側及び出力側の両方から発生し、このトルク変動に伴って推力F1,F2の大きさは変化する。このため、トルク変動が断続的に発生すると推力F1,F2が不安定になり、その結果、遊星回転部材55に対する接触圧が変動したり、変速部52に振動が発生したりしてしまうことがあり、ここでは、この現象をトルクハンチングと呼ぶ。
しかし、無段変速機50においては、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68が曲面部84Aを有し、ボール85、33が曲面部84Aに沿って緩やかに移動することで推力F1,F2の増減を緩やかにできる。このため、トルク変動に伴うトルクハンチングを抑制でき、伝達効率を向上できるとともに、振動を低減できる。
また、曲面部84Aは、入力側トルクカム63の円板状受け部60に設けられており、高速回転して高負荷がかかる部分に設けられているため、ボール85の振動に起因するトルク変動を効果的に低減でき、伝達効率を向上できる。
さらに、リテイナー86がトルク変動に対する推力F1の変動を緩和するため、トルクハンチングを抑制できる。ここで、リテイナー86は出力側トルクカム68にも設けられても良い。
【0049】
また、変速部52を構成する各部材間において、寸法公差等の誤差に起因する変速機軸51の軸方向のクリアランス(間隔)が大きい場合、これら各部材が軸方向に移動してガタツキが生じ、トルクハンチングが発生する要因となる。第1の実施の形態では、変速機軸51にシム76を固定することでアンギュラーコンタクトベアリング67をドリブン側伝達部材54側に押圧するため、上記各部材間のクリアランスを詰めることができる。詳細には、シム76は板厚違いで複数設けられており、変速部52を組み付ける際には上記クリアランスが実測され、このクリアランスを最適にできる板厚のシム76が選択されて変速機軸51に固定される。これにより、トルクハンチングの発生を抑制できる。
【0050】
さらに、遊星支持軸57が第1キャリア半体77に隙間嵌合により固定されるため、遊星支持軸57は第1キャリア半体77内で隙間に対応する分だけ動くことができる。これにより、遊星支持軸57に支持される遊星回転部材55も動くことができ、変速部52の歪みや寸法バラツキによる寸法誤差を遊星回転部材55が動くことで吸収できる。これにより、変速部52を構成する各部材のガタツキを低減できるため、トルクハンチングの発生を抑制できる。
【0051】
図4に示すように、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68は、変速機軸51が入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68を支持する軸支部の近傍に設けられており、その回転半径が略等しくなるように設けられている。詳細には、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68は、変速機軸51の径方向において、ボール85及びボール33の位置が、遊星回転部材55の中心Oよりも内側で、変速機軸51の外周面の近傍において略等しくなるように構成されている。これにより、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68が、変速機軸51の回転中心の近傍で回転するため、両トルクカム63,68の動作に対する遠心力の影響が低減され、車両の加減速に伴うトルクの変動に対して、適正なカム推力を発生させることができる。その結果、トルクの変動による伝達効率の変化を抑制できる。
また、両トルクカム63,68が略等しい回転半径で略同一に作用するため、入力側及び出力側で発生する推力の大きさを略均一化でき、トルクの変動に対して、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68を略等しく追従させることができる。
【0052】
変速部52は、単一の軸である変速機軸51に、ドライブ側伝達部材53、遊星回転部材55及びドリブン側伝達部材54を設けているため、変速部52の組み付け精度及び組付性を向上できる。また、変速機軸51が単一の軸であるため、変速機軸51を介してクランク軸12側と最終出力軸27側との間で振動が伝達され易くなることが考えられるが、変速部52に入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68が設けられており、この2個所のトルクカム63,68で振動を緩和させることができるため、エンジン10の振動を全体的に低減できる。
【0053】
図4に示すように、遊星回転部材55は、変速機軸51に対して傾斜して設けられている。ここでは、変速機軸51の軸線と遊星支持軸57の軸線とが交差する角度を取付け角度Xとする。また、摩擦接触面61Aと第1テーパ面55Aとの接触部Pにおいて、第1テーパ面55Aに対して略垂直に作用する接触圧を接触圧P1とし、摩擦接触面71Aと第2テーパ面55Bとの接触部Qにおいて、第2テーパ面55Bに対して略垂直に作用する接触圧を接触圧Q1とする。また、接触圧P1の作用する方向の延長線と接触圧Q1の作用する方向の延長線との間の距離をオフセットUとする。
【0054】
図7は、取付け角度Xとレシオ幅との関係を示す図である。ここで、レシオ幅Wは、ロー変速比とトップ変速比との比であり、このレシオ幅Wが大きいほど、変速比の範囲が大きくなる。
変速部52においては、図7に示すように、遊星回転部材55の取付け角度Xが大きくなると、摩擦接触面61A,71A内部における遊星回転部材55とドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材54との間での滑りが大きくなる。一方、取付け角度Xが小さくなる程、遊星回転部材55とドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材54との間での滑りが減少し、伝達効率は高くなる。
レシオ幅Wは、41度付近までは取付け角度Xが大きくなるほど増加し、それ以上の角度では小さくなる。
また、取付け角度Xが小さくなる程、遊星支持軸57が占める変速機軸51の軸方向のスペースが大きくなるため、変速部52が軸方向に大型化することになる。
【0055】
第1の実施の形態では、取付け角度Xを41°に設定している。これにより、高い伝達効率と大きなレシオ幅Wを両立できるとともに、変速部52の軸方向の大きさを小型化することができる。取付け角度Xは、伝達効率、レシオ幅W及び変速部52の軸方向の小スペース性を向上できる30°〜41°の範囲に設定することが望ましい。
さらに、取付け角度Xを45°より小さい鋭角に設定することで、オフセットUを小さくすることができる。オフセットUが大きい場合、図4に示すように、遊星回転部材55を遊星支持軸57対してこじるように回転させる回転モーメントMの大きさが大きくなり、フリクションが大きくなる。第1の実施の形態では、取付け角度Xを45°より小さい鋭角にすることで、オフセットUを小さくして回転モーメントMを小さくでき、フリクションが低下するため、伝達効率を向上できる。
さらに、変速部52がトルク変動等によって微小に変形した場合、変速レシオも変化するが、取付け角度Xを45°より小さくすることで、変速部52の変形が変速レシオに与える影響を低減でき、変速レシオの制御が容易になる。
【0056】
図8は、変速部52を変速機軸51の軸方向から見た断面図である。
図8に示すように、遊星回転部材55は、変速機軸51の周方向に等間隔に5個が並べて設けられている。従動回転部材64の摩擦接触面71Aと遊星回転部材55の第2テーパ面55Bとの間には、寸法公差等の誤差によって、隙間が生じることが考えられる。変速部52では、負荷が増加するに伴い遊星回転部材55と従動回転部材64との接触圧が増加し、略真円形状であった従動回転部材64は、図8に示すように、全ての遊星回転部材55に接触するように略楕円形状に弾性変形することになる。すなわち、遊星回転部材55が等間隔に5個配置されているため、略真円形状であった従動回転部材64は、バランスの良い3点当たりで遊星回転部材55に接触するように自然に弾性変形し、その結果、残りの2個の遊星回転部材55にも接触することになる。これにより、寸法公差等の誤差があったとしても、遊星回転部材55が従動回転部材64に5点で接触するため、高い伝達効率を得られる。
【0057】
以上説明したように、本発明を適用した第1の実施の形態によれば、ドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材54にそれぞれ設けられた入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68が、その回転半径を略等しくなるようにドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材54の軸支部近傍に配置され、トルク変動に対し、両トルクカム63,68が軸支部近傍において略等しい回転半径上で略等しく作用する。これにより、両トルクカム63,68の動作に対する遠心力の影響が低減され、車両の加減速に伴うトルクの変動に対して、安定的、かつ、適正なカム推力を発生させることができるため、ドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材54と遊星回転部材55との間の摩擦力が適正になり、無段変速機50の伝達効率を向上できる。また、両トルクカム63,68が略等しい回転半径で略同一に作用し、入力側及び出力側で発生する推力の大きさを略均一化でき、トルクの変動に対して、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68を略等しく追従させることができるため、無段変速機50の伝達効率を向上できる。
【0058】
また、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68はボール85,33を対向するカム溝84,83、及び、カム溝31,32で挟む構造で構成され、少なくとも一方のカム溝84,31をボール85,33の半径よりも大きい曲率半径を有するR溝でボール85,33に1点で接触する形状としたため、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68の作動時に、ボール85,33がR溝に沿うように滑らかに移動することになる。これにより、ボール85,33の挙動及びトルクカム63,68が発生させる推力F1,F2の変化が滑らかになるため、トルクカム63,68の急な動作に起因するトルクの変動を低減でき、無段変速機50の伝達効率を向上できる。
【0059】
また、高速側のトルクカムである入力側トルクカム63におけるドライブフェース側のカム溝84をR溝とし、高速回転する部材の入力側がR溝であるため、ボール85の振動に起因するトルク変動を効果的に低減でき、無段変速機50の伝達効率を向上できる。
さらに、ボール85をガイドするリテイナー86によってボール85の動きが安定し、トルクの変動が低減されるため、無段変速機50の伝達効率を向上できる。
【0060】
また、ドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材54の両方にトルクカム63,68が設けられたことにより、部品を組み立てた際の寸法のバラツキが生じ易くなるが、変速機軸51に対してドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間隔がシム76により調整され、軸方向のガタをシム76によって低減できるため、軸方向のガタによって生じるトルクの変動を低減でき、無段変速機50の伝達効率を向上できる。
また、給油穴44から給油される潤滑オイルによって入力側トルクカム63を効果的に潤滑できるため、入力側トルクカム63の適正なカム推力が得られ、無段変速機50の伝達効率を向上できる。
【0061】
なお、上記第1の実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記第1の実施の形態に限定されるものではない。
上記第1の実施の形態では、入力側トルクカム63及び出力側トルクカム68において、少なくとも一方のカム溝84,31がR溝で構成されるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、カム溝83,32もR溝で構成しても良い。或いは、カム溝84,31をV字溝とし、カム溝83,32のみをR溝で構成しても良い。
また、上記第1の実施の形態では、R溝は、曲面部84Aを底部に備えた溝であるものとして説明したが、これに限らず、例えば、R溝は、略V字状の溝において、両斜面部を曲面状の曲面部とし、平面状の底部をこの曲面部に滑らかに連続させて形成されたものでも良い。
また、上記第1の実施の形態では、調整機構として隙間嵌合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、遊星支持軸57を偏心軸で構成することで調整機構を設けても良い。
また、上記第1の実施の形態では、遊星回転部材55は、変速機軸51の周方向に等間隔に5個が並べて設けられるものとして説明したが、これに限らず、遊星回転部材55は複数個が周方向に等間隔に並べて設けられれば良い。特に、遊星回転部材55を5個以上設けることで、バランスの良い3点接触の状態を得ることができる。
【0062】
[第2の実施の形態]
以下、図9を参照して、本発明を適用した第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
第2の実施の形態では、ドリブン側伝達部材254(ドリブンフェース)の一部構成が、第1の実施の形態のドリブン側伝達部材54と異なっている。
【0063】
図9は、第2の実施の形態における変速部52の拡大図である。
ドリブン側伝達部材254は、椀状の従動回転部材264と、被動歯車26Aに噛み合う出力歯車部265とを有している。
出力歯車部265は軸方向に延在しており、ドリブン側伝達部材254側の一端に小径の段部265Aを有し、段部265Aの内周面に設けられるニードルベアリング66と、他端に設けられるアンギュラーコンタクトベアリング67とを介して変速機軸51に対して相対回転可能に設けられている。
従動回転部材264は、段部265Aの外周面に嵌合する円板部270と円板部270からドライブ側伝達部材53側へ延びる円筒状の筒部271とを有している。
従動回転部材264と出力歯車部265とは、従動回転部材264と出力歯車部265との間に設けられる出力側トルクカム268(調圧カム、ドリブン側の調圧カム)によって連結され、一体に回転する。従動回転部材264は、皿ばね274によって常にドライブ側伝達部材53側に押し付けられている。
【0064】
出力歯車部265には、円板部270の軸方向の端面270Aに対向する対向面265Bが段部265Aに連続して形成されている。
出力側トルクカム268は、端面270Aに設けられたカム溝231と、対向面265Bに設けられたカム溝232との間にボール233が狭持されて構成されている。カム溝231はR溝であり、カム溝232はV字溝である。出力側トルクカム268にトルクが作用すると、このトルクの大きさに応じて軸方向の推力F2が発生する。
【0065】
第2の実施の形態では、ドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材254にそれぞれ設けられた入力側トルクカム63及び出力側トルクカム268が、その回転半径を略等しくなるようにドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材254の軸支部近傍に配置されているため、トルク変動に対し、両トルクカム63,268が軸支部近傍において略等しい回転半径上で略等しく作用する。これにより、両トルクカム63,268の動作に対する遠心力の影響が低減され、車両の加減速に伴うトルクの変動に対して、適正なカム推力を発生させることができるため、ドライブ側伝達部材53及びドリブン側伝達部材254と遊星回転部材55との間の摩擦力が適正になり、無段変速機50の伝達効率を向上できる。
【0066】
[第3の実施の形態]
以下、図10〜図13を参照して、本発明を適用した第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態は、上記第2の実施の形態のドライブ側伝達部材53の構造を変更したものであり、この第3の実施の形態において、上記第2の実施の形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
【0067】
図10は、第3の実施の形態における変速部352の拡大図である。
変速部352は、変速機軸51と一体に回転するドライブ側伝達部材353と、ドリブン側伝達部材254と、ドライブ側伝達部材353とドリブン側伝達部材254との間に設けられる複数の遊星回転部材55と、遊星キャリアー56と、複数の遊星支持軸57とを備えて構成される。
【0068】
ドライブ側伝達部材353は、変速機軸51の外周面から径方向に突出する円板状受け部360と、変速機軸51に回転可能に嵌合されるリング状の駆動回転部材361とを有している。円板状受け部360と駆動回転部材361とは、円板状受け部360と駆動回転部材361との間に設けられる入力側トルクカム363(調圧カム、ドライブ側の調圧カム)によって連結され、一体に回転する。駆動回転部材361の外周面には、遊星回転部材55の第1テーパ面55Aに接触する摩擦接触面361Aが形成されている。
変速機軸51において、入力歯車25側からドライブ側伝達部材353近傍までの部分は、クランク軸12から動力が入力される入力軸部51Aとして機能する。
【0069】
図11は、図10において入力側トルクカム363を変速機軸51に直交するZ方向から見た拡大断面図である。
図10及び図11に示すように、円板状受け部360は、変速機軸51に直交する端面360Aを有し、端面360Aには、V字状に形成されたカム溝383が形成されている。駆動回転部材361は、端面360Aに対向する対向面361Bを有し、対向面361Bには、端面360A側に突出するカム山385が形成されている。カム溝383及びカム山385は、端面360A及び対向面361Bの周方向に略等間隔(本実施の形態では90°間隔)をあけて円環状の並びとなるように複数並べて配置されている。入力側トルクカム363は、各カム溝383に各カム山385が係合することで構成されている。
【0070】
カム山385は、断面円弧状の凸状曲面部385A(カム山の凸部)を先端部に有するカム山であり、凸状曲面部385Aがカム山385内で摺動する。
カム溝383は、カム山385の凸状曲面部385Aの曲率半径よりも大きい曲率半径を有する底部曲面部383A(カム溝の底部)を底部に備えたR溝であり、カム山385は底部曲面部383Aに底付き可能である。また、カム溝383は、底部曲面部383Aと、底部曲面部383Aと端面360Aとを繋ぐ直線状に延びる2つの平面部383B,383Bとを有している。
入力側トルクカム363にほとんどトルクが作用していない状態では、凸状曲面部385Aは、底部曲面部383Aに1点で接触しており、トルクが増加すると移動して凸状曲面部385A及び平面部383B上を摺動する。入力側トルクカム363は、カム山385が底部曲面部383Aに底付きしている状態であっても、端面360Aと対向面361Bとの間に隙間が空くように設定されている。
【0071】
入力側トルクカム363に回転力が作用すると、円板状受け部360と駆動回転部材361との間で相対回転が生じ、円板状受け部360と駆動回転部材361との相対位置は、カム溝383とカム山385との接触によって規制され、駆動回転部材361は、カム山385を介して円板状受け部360の回転動力を受けて回転する。この状態では、カム溝383とカム山385との接触点では、駆動回転部材361を回転させるトルクT3、及び、トルクT3の大きさに応じて発生する軸方向の推力F3が生じている。この推力F3によって、駆動回転部材361及び円板状受け部360は軸方向に変形するようにしてわずかに変位し、駆動回転部材361が遊星回転部材55に押し付けられるとともに、遊星回転部材55がドリブン側伝達部材254に押し付けられるため、摩擦接触面361Aと第1テーパ面55Aとの間の接触圧、及び、摩擦接触面71Aと第2テーパ面55Bとの間の接触圧を十分に確保できる。
【0072】
カム溝383では、カム山385は、底部曲面部383Aの中央に1点接触で底付いた状態(図11の2点鎖線)から、凸状曲面部385Aの曲率半径よりも大きい曲率半径を有する底部曲面部383Aに沿って滑り、滑らかに移動するため、底部曲面部383Aの部分では推力F3の増加が緩やかになる。このため、入力側トルクカム363では、トルク変動に対する推力F3の変動が緩和され、トルクハンチングを抑制できる。また、カム山385が底部曲面部383Aに底付き可能であるため、軸方向の推力による入力側トルクカム363及び出力側トルクカム268の双方の弾性変形を低減でき、トルクハンチングを抑制できる。
【0073】
図12は、トルクハンチングの発生条件を示す図である。
図12では、変速機軸51に入力される入力トルクに対する入力側トルクカム363及び出力側トルクカム268の軸方向の推力が示されており、横軸に変速機軸51の入力トルクが示され、縦軸に軸方向の推力が示されている。
詳細には、図12では、入力側トルクカム363の推力F3と共に、変速比に応じて変化する出力側トルクカム268の推力が示され、出力側トルクカム268の推力F2(図10参照)としては、ロー変速比の際の推力FL、トップ変速比の際の推力FT、及び、ロー変速比とトップ変速比との間の変速比の推力FMが示されている。ここで、推力FL,FM,FTは、それぞれ異なる変速比における出力側トルクカム268の推力F2であるため、以下の説明では、推力FL,FM,FTを推力F2と呼ぶことがある。
【0074】
入力側トルクカム363では、推力F3は変速機軸51の入力トルクの増加に比例して増加している。
ロー変速比の際の推力FLは、変速機軸51の入力トルクの全域において、入力側トルクカム363の推力F3よりも大きくなっている。
トップ変速比の際の推力FTを示す直線は、変速機軸51の入力トルクが低トルク域にある所定トルクX1において、推力F3を示す直線に交差している。トップ変速比の際の推力FTは、所定トルクX1より小さい入力トルク域では推力F3よりも大きいが、所定トルクX1よりも大きいトルク域では、推力F3よりも小さくなっている。
ロー変速比とトップ変速比との間の変速比の推力FMを示す直線は、変速機軸51の入力トルクが高トルク域にある所定トルクX2において、推力F3を示す直線に交差している。推力FMは、所定トルクX2までは推力F3よりも大きいが、所定トルクX2よりも大きいトルク域では、推力F3よりも小さくなっている。
【0075】
すなわち、無段変速機50においては、ロー変速比側では、出力側トルクカム268の推力は、入力側トルクカム363の推力を常に上回っているが、トップ変速比側では、出力側トルクカム268の推力は、入力側トルクカム363の推力よりも下回ることになる。詳細には、所定トルクX1及び所定トルクX2は、出力側トルクカム268の推力と入力側トルクカム363の推力との大小が切り替わる切り替わりポイントである。この切り替わりポイントは、所定トルクX1と所定トルクX2との間の推力F3の直線上に連続して存在していることになる。
【0076】
図13は、トルクハンチングによる変位量Dを示す図である。図13の一方の縦軸には、入力側トルクカム363の出力軸部51B側への変位量Dが示されている。
図10を参照し、入力側トルクカム363の推力F3と出力側トルクカム268の推力F2とは、互いに対向する方向に作用しているが、上記切り替わりポイントでは、推力F3と推力F2との大小関係が変化する。具体的には、例えば、ロー変速比側で運転している状態では、推力FLで示すように、出力側トルクカム268の推力F2が推力F3よりも常に大きいため、入力側トルクカム363は、出力側トルクカム268によって押圧されており、寸法公差によるクリアランスや弾性変形の分だけ入力軸部51A側に寄っている。そして、入力側の推力F3が出力側の推力F2の大きさに近づくに伴って入力側トルクカム363の出力軸部51B側への変位量Dは徐々に増加し、トップ変速段に変速した際に切り替わりポイントである所定トルクX1に達すると、推力F3が推力F2(推力FT)よりも大きくなり、入力側トルクカム363は出力側トルクカム268を押圧して移動させ、寸法公差によるクリアランスや弾性変形の分だけ出力軸部51B側へ一度に変位する。この切り替わりポイントの近傍でトルクが変動すると、推力F3及び推力F2の大小関係が交互に入れ替わることになり、トルクハンチングが生じ易くなる。高トルク領域では、変速機軸51の入力トルクの増加に比例して、変位量Dも増加する。
【0077】
本第3の実施の形態では、図10及び図11に示すように、入力側トルクカム363にカム山385が滑る滑りカムを用い、出力側トルクカム268にボール233が転がる転がりカムを用いたため、入力側トルクカム363の方が出力側トルクカム268よりも、回転に対する摩擦力(摩擦抵抗)が大きくなっている。
これにより、出力側トルクカム268の動きに対して入力側トルクカム363の動きが低下し、トルク変動に対してドライブ側の調圧カムの動きが減衰されるため、入力側トルクカム363の変動を抑えることができ、トルクハンチングの発生を抑制できる。このため、変速機軸51への入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて無段変速機50の伝達効率を向上できる。
【0078】
以上説明したように、本発明を適用した第3の実施の形態によれば、入力側トルクカム363及び出力側トルクカム268を略等しい回転半径上で略等しく作用するように設け、出力側トルクカム268の動きに対して入力側トルクカム363の動きが低下するように、出力側トルクカム268及び入力側トルクカム363の回転力に対する摩擦力に差を設けたため、入力側トルクカム363の動作を減衰できる。このため、変速機軸51への入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて無段変速機50の伝達効率を向上できる。また、伝達効率が向上するため、変速比Rの幅を、より高速側に拡大できる。
【0079】
また、出力側トルクカム268は転がりカムであり、入力側トルクカム363は滑りカムであるため、入力側トルクカム363の動きが低下するように出力側トルクカム268及び入力側トルクカム363の回転力に対する摩擦力に差を設けることができる。このため、変速機軸51への入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて無段変速機50の伝達効率を向上できる。
また、入力側トルクカム363のカム溝383の底部の曲率半径がカム山385の凸状曲面部385Aの曲率半径に対して大きく、カム山385がカム溝383に対して滑らかに滑ることができるため、入力側トルクカム363が安定して動作する。このため、変速機軸51への入出力トルクの変動に対して適正なカム推力を発生させて無段変速機50の伝達効率を向上できる。
【0080】
[第4の実施の形態]
以下、図14を参照して、本発明を適用した第4の実施の形態について説明する。第4の実施の形態は、上記第3の実施の形態の入力側トルクカム363の構造を変更したものであり、この第4の実施の形態において、上記第3の実施の形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
【0081】
図14は、第4の実施の形態の入力側トルクカム463を示す断面図である。
入力側トルクカム463では、カム山385は円板状受け部460の端面460Aに形成されたV字状のカム溝483に係合する。カム溝483は、V字を構成する2つの平面483A,483Aを有し、カム溝483の底部483Bは、凸状曲面部385Aの曲率半径よりも小さい曲率半径の曲面状に形成されている。カム山385がカム溝483の底に位置する状態では、凸状曲面部385Aは平面483A,483Aに2点で接触し、凸状曲面部385Aと底部483Bとの間には隙間が形成される。第4の実施の形態では、カム山385がカム溝483の底から移動を開始する際には、曲面部ではなく平面483Aに沿って摺動するため、駆動回転部材361と円板状受け部460との相対回転に対する摩擦力が高くなっている。このため、カム山385の移動を抑制してトルクハンチングを低減でき、無段変速機50の伝達効率を向上できる。
【符号の説明】
【0082】
31,84,231 カム溝(R溝)
32,83,232 カム溝(V字溝)
33,85,233 ボール
44 給油穴
50 無段変速機(車両用無段変速機)
51 変速機軸(回転軸)
51A 入力軸部(入力軸)
51B 出力軸部(出力軸)
53 ドライブ側伝達部材(ドライブフェース)
54,254 ドリブン側伝達部材(ドリブンフェース)
55 遊星回転部材
56 遊星キャリアー
63 入力側トルクカム(調圧カム、高速側カム)
68,268 出力側トルクカム(調圧カム)
76 シム
86 リテイナー
268 出力側トルクカム(調圧カム、ドリブン側の調圧カム)
353 ドライブ側伝達部材
363 入力側トルクカム(調圧カム、ドライブ側の調圧カム)
383 カム溝
385 カム山
383A 底部曲面部(カム溝の底部)
385A 凸状曲面部(カム山の凸部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸(51A)、出力軸(51B)、軸方向に移動可能な遊星回転部材(55)を保持する遊星キャリアー(56)、ドライブ側伝達部材(53,353)、及び、ドリブン側伝達部材(54,254)を備える車両用無段変速機において、
ドライブ側及びドリブン側のそれぞれに、その回転半径を略等しくなるようドライブ側及びドリブン側の軸支部近傍に調圧カム(63,68,268,363)を配置したことを特徴とする車両用無段変速機。
【請求項2】
前記両調圧カム(63,68,268)は、ボール(33,85,233)を対向するカム溝で挟む構造のカムであって、少なくとも一方のカム溝(31,84,231)を、前記ボール(33,85,233)の半径よりも大きいR溝で前記ボール(33,85,233)に1点で接触する形状とし、
他方のカム溝(32,83,232)を、前記ボール(33,85,233)に2点で接触するV字溝としたことを特徴とする請求項1記載の車両用無段変速機。
【請求項3】
前記R溝は、高速側カム(63)におけるドライブフェース側のカム溝(84)であることを特徴とする請求項2記載の車両用無段変速機。
【請求項4】
前記調圧カム(63)には、前記ボール(85)をガイドするリテイナー(86)が設けられることを特徴とする請求項3記載の車両用無段変速機。
【請求項5】
前記車両用無段変速機は、単一の回転軸(51)上にドライブフェース(53)と該ドライブフェースに対して回転自在に支持されるドリブンフェース(54,254)とを有し、前記回転軸(51)に対して両フェース間の間隔がシム(76)により調整されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両用無段変速機。
【請求項6】
前記調圧カム(63)には、潤滑オイル給油のための給油穴(44)が設けられることを特徴とする請求項4記載の車両用無段変速機。
【請求項7】
ドリブン側の前記調圧カム(268)の動きに対してドライブ側の前記調圧カム(363)の動きが低下するように、ドリブン側の前記調圧カム(268)及びドライブ側の前記調圧カム(363)の回転力に対する摩擦力に差を設けたことを特徴とする請求項1記載の車両用無段変速機。
【請求項8】
ドリブン側の前記調圧カム(268)は転がりカムであり、ドライブ側の前記調圧カム(363)は滑りカムであることを特徴とする請求項7記載の車両用無段変速機。
【請求項9】
ドライブ側の前記調圧カム(363)は、カム溝(383)をカム山(385)が滑る構造のカムであって、当該カム溝(383)の底部(383A)の曲率半径が当該カム山(385)の凸部(385A)の曲率半径に対して大きいことを特徴とする請求項8記載の車両用無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−167810(P2012−167810A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198393(P2011−198393)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】